説明

航空機用空気入りバイアスタイヤ及びその製造方法

【課題】耐カット性及び耐ピールオフ性に優れ、繰り返し更生された後でも高い耐久性を有する航空機用空気入りバイアスタイヤを提供する。
【解決手段】トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス2、クッションゴム3、及び有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層4と、該保護層の外周上に配した更生ゴム7とを備えた更生ゴム層6を有する航空機用空気入りバイアスタイヤにおいて、前記保護層4を構成する有機繊維コードにポリケトン繊維のコードを適用し、(1)更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度を0.75〜1.60質量%としたり、(2)クッションゴム3中の硫黄濃度Cと更生回数Nとが、次式:C ≦ −0.025×N2+0.5×N+1.6[式中、Cはクッションゴム中の硫黄濃度(質量%)であり、Nは更生回数である]の関係を満たすようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用空気入りバイアスタイヤ及び該航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法に関し、特に耐カット性及び耐ピールオフ性に優れ、繰り返し更生しても耐久性の低下が小さいタイヤ、並びに耐カット性及び耐ピールオフ性に優れ、高い耐久性を有するタイヤ、並びに該タイヤの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機用タイヤは、高内圧、高荷重条件下で使用されるため、高内圧や高速回転中の遠心力作用によりトレッド面の径方向への迫り出しが大きくなり、これに伴ってトレッドゴムがタイヤ周方向に引き伸ばされた状態になる。特に、離着陸時に滑走路上の石や金属片のような鈍い又は鋭利な異物の上を通過する際、トレッドの異物に対する抵抗力が弱くなり、踏みつけた異物によりトレッドゴムにカット傷が生じ、該異物がトレッド内部に容易に侵入してタイヤの損傷をもたらす問題がある。特に、ベルト保護層にアラミドコードを使用している従来の航空機用バイアスタイヤにおいては、離着陸等の高速高荷重走行時に高い遠心力等により上記損傷部を起点としたトレッド剥がれ(所謂ピールオフ)が生ずる恐れがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、一般に更生して使用される航空機用タイヤの寿命の長期化を実現するためには、台タイヤと更生ゴムとの界面での剥離強力を向上させる必要がある。
【0004】
【特許文献1】特開平3−16806号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、耐カット性及び耐ピールオフ性に優れ、繰り返し更生された後でも高い耐久性を有する航空機用空気入りバイアスタイヤ並びに該タイヤの製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、繰り返し更生しても耐久性の低下が小さい航空機用空気入りバイアスタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、(1)クッションゴム中の硫黄濃度を所定の範囲に制御したり、(2)貼付される更生ゴム層の更生界面から所定範囲内の硫黄濃度を所定の範囲に制御することで、クッションゴム中の硫黄濃度を低いレベルに抑え、或いはクッションゴム中の硫黄濃度の上昇を抑制することができ、それにより、更生界面近傍のゴムの熱劣化が抑制され、更生界面での剥離強力の低下を抑制できることを見出した。また、本発明者は、更に検討を進めた結果、クッションゴムの径方向外側に位置する保護層にポリケトン繊維コードを適用することで、タイヤの耐カット性及び耐ピールオフ性が向上し、タイヤの耐久性を更に向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の第1の航空機用空気入りバイアスタイヤは、トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層、及びトレッドゴムを有し、前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、かつ、前記クッションゴム中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第2の航空機用空気入りバイアスタイヤは、トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、及び有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層と、該保護層の外周上に配した更生ゴムとを備えた更生ゴム層を有し、前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、かつ、前記更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする。なお、上記更生界面は、上記クッションゴムのトレッド部のタイヤ半径方向最外面でもあるし、上記更生ゴム層のタイヤ半径方向最内面でもある。
【0009】
本発明の第3の航空機用空気入りバイアスタイヤは、トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、及び有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層と、該保護層の外周上に配した更生ゴムとを備えた更生ゴム層を有し、前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、かつ、前記クッションゴム中の硫黄濃度Cと更生回数Nとが、下記式(I):
C ≦ −0.025×N2+0.5×N+1.6 ・・・(I)
[式中、Cはクッションゴム中の硫黄濃度(質量%)であり、Nは更生回数である]の関係を満たすことを特徴とする。ここで、前記更生回数Nは、10以下の自然数であることが好ましく、この場合、航空機用空気入りバイアスタイヤが十分に高い耐久性を有する。
【0010】
本発明の航空機用空気入りバイアスタイヤの好適例においては、前記保護層を構成する有機繊維コードが、下記式(II)及び式(III):
σ ≧ −0.01E+1.2 ・・・(II)
σ ≧ 0.02 ・・・(III)
[式中、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)であり、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)である]の関係を満たすポリケトン繊維コードである。
【0011】
本発明の航空機用空気入りバイアスタイヤの好適例においては、前記ポリケトン繊維が、下記の一般式(IV):
【化1】

[式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分で、各繰り返し単位において同一でも異なってもよい]で表される繰り返し単位から実質的になるポリケトン繊維である。ここで、前記式(IV)中のAとしては、エチレンが好ましい。
【0012】
本発明の第2〜3の航空機用空気入りバイアスタイヤの好適例においては、未更生時(新品時)の前記クッションゴム中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%である。この場合、更生後のクッションゴム中の硫黄濃度を更に低減して、更生界面での剥離強力の低下及びタイヤの耐久性の低下を更に抑制することができる。
【0013】
本発明の第2〜3の航空機用空気入りバイアスタイヤの好適例においては、前記バイアスカーカスが、複数のコードをコーティングゴムで被覆してなるカーカスプライの一枚以上から構成され、該カーカスのタイヤ半径方向最外側のカーカスプライを構成するコードと前記更生界面との距離が5mm以下である。
【0014】
また、本発明の航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法は、トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス及びクッションゴムを有する台タイヤのトレッド部のタイヤ半径方向外側に、有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層と、該保護層の外周上に配した更生ゴムとを備えた更生ゴム層を貼り付ける工程を含み、前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、かつ、前記更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明の航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法の好適例においては、未更生時(新品時)の前記クッションゴム中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%である。
【0016】
本発明の航空機用空気入りバイアスタイヤの他の好適例においては、前記バイアスカーカスが複数のコードをコーティングゴムで被覆してなるカーカスプライの一枚以上から構成され、該カーカスのタイヤ半径方向最外側のカーカスプライを構成するコードと前記更生界面との距離が5mm以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、保護層を構成する有機繊維コードにポリケトン繊維コードを適用し、新品時のクッションゴム中の硫黄濃度を0.75〜1.60質量%の範囲に制御することで、耐カット性及び耐ピールオフ性に優れ、繰り返し更生しても耐久性の低下が小さい航空機用空気入りバイアスタイヤを提供することができる。また、更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度を0.75〜1.60質量%の範囲に制御することで、繰り返し更生された後でも高い耐久性を有する航空機用空気入りバイアスタイヤ及び該タイヤの製造方法を提供することができる。更に、クッションゴム中の硫黄濃度Cと更生回数Nとが上記式(I)の関係式を満たし、繰り返し更生された後でも高い耐久性を有する航空機用空気入りバイアスタイヤを提供することができる。なお、本発明によれば、従来よりもタイヤの更生可能回数が増え、更に、タイヤを更生するまでの期間が長期化するため、タイヤのトータルライフを延ばすことができる。この場合、ユーザー側の費用は削減され、また、省資源化が実現し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、図を参照して本発明の航空機用空気入りバイアスタイヤ(以下、タイヤと略記することがある)を詳細に説明する。図1は、本発明のタイヤのトレッドセンター部の一例の断面図であり、図2は、図1に示すタイヤからトレッドゴム、保護層及びクッションゴムの一部を除去して形成した台タイヤのトレッドセンター部の一例の断面図であり、図3は、図2に示す台タイヤのトレッド部のタイヤ半径方向外側に更生ゴム層を貼り付けて形成された本発明のタイヤのトレッドセンター部の他の例の断面図である。
【0019】
図1に示すタイヤ(新品タイヤ)は、トレッドセンター部がタイヤ半径方向内側からインナーライナー1、バイアスカーカス2、クッションゴム3、保護層4及びトレッドゴム5を有する。上記バイアスカーカス2は、一枚以上のカーカスプライから構成され、各カーカスプライは、コード2Aをコーティングゴム2Bで被覆してなる。また、上記保護層4は、クッションゴム3の径方向外周上で平行に配列した有機繊維コード4Aのゴム引き層よりなる。この場合、保護層4は、一本又は複数の有機繊維コード4Aをコーティングゴム4Bで被覆してなるストリップをタイヤ幅方向にスパイラル状に巻回することにより形成してもよく、又はタイヤ周方向に波状に延びる複数本の有機繊維コード4Aをコーティングゴム5Bで被覆することにより形成してもよい。なお、図示例のタイヤのカーカスプライ及び保護層5は、それぞれ四層及び二層であるが、本発明のカーカスプライ及び保護層の層数は、これに限られるものではない。ここで、本発明の第1のタイヤは、クッションゴム3中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする。
【0020】
一般に、航空機用タイヤは、加硫ゴムを主とする台タイヤに未加硫ゴムを主とする更生ゴムを貼り付けた更生タイヤとして更生される。そのため、更生タイヤの台タイヤのゴム部分は繰り返し加硫されることとなり、該ゴム部分が熱劣化して、そのゴム物性が低下し、更には更生界面での剥離強力が低下し、結果として、更生タイヤの耐久性が低下してしまう。ここで、本発明者は、更生タイヤの更生界面近傍のゴム、特に繰り返し加硫されることとなるクッションゴムの組成変化及び物性変化について詳細に検討したところ、更生を繰り返すことで、更生界面近傍のクッションゴム中に更生ゴム(未加硫ゴム)から移行した硫黄が蓄積し、例えば、新品時に1.5質量%程度であった硫黄濃度が、2〜4回の更生で2〜3質量%と増加し、この硫黄の蓄積が物性低下の一因となっていることを発見した。この知見から、更生使用されるタイヤは、新品の時点での台タイヤ側の硫黄濃度及び/又は更生ゴム側の硫黄濃度の最適化が必要と考えられる。そして、本発明の第1のタイヤは、クッションゴム3中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であり、通常のタイヤのクッションゴムより新品時の硫黄濃度が低いため、更生後でも、従来のタイヤのクッションゴムよりも硫黄濃度が低い。そのため、本発明の第1のタイヤは、繰り返し更生しても耐久性の低下が小さい。なお、クッションゴム3中の硫黄濃度が1.60質量%を超えると、更生ゴム側の硫黄濃度を低減しない限り、更生後のクッションゴムの硫黄濃度が高くなるため、更生界面での剥離強力が小さくなり、タイヤの耐久性が大きく低下する。一方、クッションゴム3中の硫黄濃度が0.75質量%未満では、クッションゴムの引張強さ(Tb)等の破壊特性が低下してしまう。
【0021】
図2に示す台タイヤは、図1に示すタイヤからトレッドゴム5、保護層4及びクッションゴム3の一部を除去して形成されたものであり、トレッドセンター部がタイヤ半径方向内側からインナーライナー1、バイアスカーカス2及びクッションゴム3を有する。なお、本発明においては、未更生タイヤから形成した台タイヤ及び更生タイヤから形成した台タイヤのいずれも用いることができる。ここで、未更生タイヤから形成した台タイヤは、未更生タイヤからトレッドゴム5と共に保護層4が除去されていればよく、更に、クッションゴム3の一部が除去されていてもよい。また、1回以上の更生を受けた更生タイヤから形成した台タイヤは、少なくとも前回の更生で貼付された更生ゴム層が除去されていればよく、更生ゴム層と共にクッションゴム3の一部が除去されていてもよい。
【0022】
図3に示すタイヤは、図2に示す台タイヤのトレッド部のタイヤ半径方向外側に更生ゴム層6を貼り付けて形成されたものであり、トレッドセンター部がタイヤ半径方向内側からインナーライナー1、バイアスカーカス2、クッションゴム3及び更生ゴム層6を有する。なお、更生ゴム層6は、保護層4と、該保護層の外周上に配した更生ゴム7とを備える。また、図1と同じ符号は同じ部材であることを示す。ここで、本発明の第2のタイヤは、更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする。
【0023】
上述のように、更生界面近傍のゴム、即ち、クッションゴム3中の硫黄濃度を更生後も低く抑える手段としては、新品時のクッションゴム3中の硫黄濃度を低く抑えることが有効であるが、更生によってクッションゴム3に移行してくる硫黄は、更生ゴム層6の更生界面S近傍から移行してくるため、更生ゴム層6の更生界面S近傍、特に更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度を低減しておくことも有効である。そして、本発明の第2のタイヤは、更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であり、通常の更生ゴムの硫黄濃度よりも低いため、更生によってクッションゴム3に移行する硫黄の量が少ない。そのため、本発明の第2のタイヤは、繰り返し更生を行った後でも高い耐久性を有する。なお、更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度が1.60質量%を超えると、更生ゴム層6側からクッションゴム3側に移行する硫黄量が多くなり、クッションゴム3中の新品時の硫黄濃度を低減しておかない限り、更生後のクッションゴム3中の硫黄濃度が高くなるため、更生界面での剥離強力が小さくなり、タイヤの耐久性が大きく低下する。一方、更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度が0.75質量%未満では、更生ゴム層6を構成するゴムの引張強さ(Tb)等の破壊特性が低下してしまう。
【0024】
本発明の第2のタイヤは、更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であればよく、未更生時(新品時)のクッションゴム3中の硫黄濃度に特に制限はないが、未更生時のクッションゴム3中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることが好ましい。更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度を0.75〜1.60質量%とすることに加えて、未更生時のクッションゴム3中の硫黄濃度を0.75〜1.60質量%とすることで、更生後のクッションゴム3中の硫黄濃度を更に低減して、更生界面での剥離強力の低下並びにタイヤの耐久性の低下を更に抑制することができる。
【0025】
一方、本発明の第3のタイヤは、図3に示すタイヤにおいて、上記クッションゴム3中の硫黄濃度Cと更生回数Nとが、下記式(I):
C ≦ −0.025×N2+0.5×N+1.6 ・・・(I)
[式中、Cはクッションゴム中の硫黄濃度(質量%)であり、Nは更生回数である]の関係を満たすことを特徴とする。
【0026】
上述のように、台タイヤ側の更生界面近傍のゴム、即ち、クッションゴム3中の硫黄濃度を更生後も低く抑える手段としては、(1)新品時のクッションゴム3中の硫黄濃度を低く抑えること、並びに、(2)更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度を低く抑えることが有効であるが、更生後のタイヤのクッションゴム3中の硫黄濃度Cと更生回数Nとの関係に着目して更に検討したところ、上記式(I)の関係を満たすタイヤが、高い耐久性を有することを見出した。そして、上記式(I)の関係を満たすタイヤは、仮に新品時のクッションゴム3中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%の範囲から外れ、更生ゴム層6の更生界面Sから5mm以内の部分6の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%の範囲から外れても、更生界面での剥離強力が大きく、高い耐久性を有する。なお、クッションゴム3中の硫黄濃度Cが式(I)の右辺より大きいと、クッションゴム3の物性の低下が大きく、また、更生界面での剥離強力の低下が大きくなる。上記式(I)において、更生回数Nは10以下の自然数であることが好ましく、この場合、更生タイヤが十分に高い耐久性を有する。
【0027】
本発明の第3のタイヤにおいては、新品時のクッションゴムの硫黄濃度や更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度に特に制限はないが、新品時のクッションゴムの硫黄濃度は0.75〜1.60質量%の範囲が好ましく、また、更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度は0.75〜1.60質量%の範囲が好ましい。
【0028】
本発明の第2〜3のタイヤにおいては、上記バイアスカーカス2のタイヤ半径方向最外側のカーカスプライ2を構成するコード2Aと上記更生界面Sとの距離Dが5mm以下であることが好ましい。ここで、距離Dは、タイヤのトレッドセンター部の横断面図において、タイヤ半径方向最外側のカーカスプライ2を構成するコード2Aのタイヤ半径方向最外側の点から更生界面Sまでの最短距離である。
【0029】
また、本発明の第1〜3のタイヤは、上記保護層を構成する有機繊維コード4Aがポリケトン繊維コードであることを特徴とする。ポリケトン繊維コードを保護層に用いることにより、タイヤの耐カット性を従来のアラミドコードを用いた場合と同等又はそれ以上に保持しつつ、該ポリケトン繊維コードがそのコーティングゴムに対して高い高温接着性を有するので、保護層とトレッドゴム又は更生ゴム間の耐ピールオフ性を大幅に向上させることができ、その結果、タイヤを更生するまでの期間を長期化させることもできる。ここで、ポリケトン繊維コードとしては、下記の一般式(IV):
【化2】

[式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分で、各繰り返し単位において同一でも異なってもよい]で表される繰り返し単位から実質的になるポリケトンの繊維コードを用いることができる。また、該ポリケトンの中でも、繰り返し単位の97モル%以上が1-オキソトリメチレン[-CH2-CH2-CO-]であるポリケトンが好ましく、99モル%以上が1-オキソトリメチレンであるポリケトンが更に好ましく、100モル%が1-オキソトリメチレンであるポリケトンが最も好ましい。
【0030】
上記ポリケトン繊維コードの原料のポリケトンは、部分的にケトン基同士、不飽和化合物由来の部分同士が結合していてもよいが、不飽和化合物由来の部分とケトン基が交互に配列している部分の割合が90質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0031】
また、上記式(IV)において、Aを形成する不飽和化合物としては、エチレンが最も好ましいが、プロピレン,ブテン,ペンテン,シクロペンテン,ヘキセン,シクロヘキセン,ヘプテン,オクテン,ノネン,デセン,ドデセン,スチレン,アセチレン,アレン等のエチレン以外の不飽和炭化水素や、メチルアクリレート,メチルメタクリレート,ビニルアセテート,アクリルアミド,ヒドロキシエチルメタクリレート,ウンデセン酸,ウンデセノール,6-クロロヘキセン,N-ビニルピロリドン,スルニルホスホン酸のジエチルエステル,スチレンスルホン酸ナトリウム,アリルスルホン酸ナトリウム,ビニルピロリドン及び塩化ビニル等の不飽和結合を含む化合物等であってもよい。
【0032】
更に、上記ポリケトンの重合度としては、下記式:
【数1】

[式中、t及びTは、純度98%以上のヘキサフルオロイソプロパノール及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間であり;mは、上記希釈溶液100mL中の溶質の質量(g)である]で定義される極限粘度[η]が1〜20dL/gの範囲にあることが好ましく、2〜10dL/gの範囲にあることが更に好ましく、3〜8dL/gの範囲にあることがより一層好ましい。極限粘度が1dL/g未満では、分子量が小さ過ぎて、高強度のポリケトン繊維コードを得ることが難しくなる上、紡糸時、乾燥時及び延伸時に毛羽や糸切れ等の工程上のトラブルが多発することがあり、一方、極限粘度が20dL/gを超えると、ポリマーの合成に時間及びコストがかかる上、ポリマーを均一に溶解させることが難しくなり、紡糸性及び物性に悪影響が出ることがある。
【0033】
上記ポリケトンの繊維化方法としては、(1)未延伸糸の紡糸を行った後、多段熱延伸を行い、該多段熱延伸の最終延伸工程で特定の温度及び倍率で延伸する方法や、(2)未延伸糸の紡糸を行った後、熱延伸を行い、該熱延伸終了後の繊維に高い張力をかけたまま急冷却する方法が好ましい。上記(1)又は(2)の方法でポリケトンの繊維化を行うことで、上記ポリケトン繊維コードの作製に好適な所望のフィラメントを得ることができる。
【0034】
ここで、上記ポリケトンの未延伸糸の紡糸方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、特開平2−112413号、特開平4−228613号、特表平4−505344号に記載のようなヘキサフルオロイソプロパノールやm-クレゾール等の有機溶剤を用いる湿式紡糸法、国際公開第99/18143号、国際公開第00/09611号、特開2001−164422号、特開2004−218189号、特開2004−285221号に記載のような亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液を用いる湿式紡糸法が挙げられ、これらの中でも、上記塩の水溶液を用いる湿式紡糸法が好ましい。
【0035】
例えば、有機溶剤を用いる湿式紡糸法では、ポリケトンポリマーをヘキサフルオロイソプロパノールやm-クレゾール等に0.25〜20質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン,エタノール,イソプロパノール,n-ヘキサン,イソオクタン,アセトン,メチルエチルケトン等の非溶剤浴中で溶剤を除去、洗浄してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。
【0036】
一方、水溶液を用いる湿式紡糸法では、例えば、亜鉛塩、カルシウム塩、チオシアン酸塩、鉄塩等の水溶液に、ポリケトンポリマーを2〜30質量%の濃度で溶解させ、50〜130℃で紡糸ノズルから凝固浴に押し出してゲル紡糸を行い、更に脱塩、乾燥等してポリケトンの未延伸糸を得ることができる。ここで、ポリケトンポリマーを溶解させる水溶液には、ハロゲン化亜鉛と、ハロゲン化アルカリ金属塩又はハロゲン化アルカリ土類金属塩とを混合して用いることが好ましく、凝固浴には、水、金属塩の水溶液、アセトン、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
【0037】
また、得られた未延伸糸の延伸法としては、未延伸糸を該未延伸糸のガラス転移温度よりも高い温度に加熱して引き伸ばす熱延伸法が好ましく、更に、該未延伸糸の延伸は、上記(2)の方法では一段で行ってもよいが、多段で行うことが好ましい。該熱延伸の方法としては、特に制限はなく、例えば、加熱ロール上や加熱プレート上に糸を走行させる方法等を採用することができる。ここで、熱延伸温度は、110℃〜(ポリケトンの融点)の範囲が好ましく、総延伸倍率は、10倍以上であることが好ましい。
【0038】
上記(1)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、上記多段熱延伸の最終延伸工程における温度は、110℃〜(最終延伸工程の一段前の延伸工程の延伸温度−3℃)の範囲が好ましく、また、多段熱延伸の最終延伸工程における延伸倍率は、1.01〜1.5倍の範囲が好ましい。一方、上記(2)の方法でポリケトンの繊維化を行う場合、熱延伸終了後の繊維にかける張力は、0.5〜4cN/dtexの範囲が好ましく、また、急冷却における冷却速度は、30℃/秒以上であることが好ましく、更に、急冷却における冷却終了温度は、50℃以下であることが好ましい。ここで、熱延伸されたポリケトン繊維の急冷却方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができ、具体的には、ロールを用いた冷却方法が好ましい。なお、こうして得られるポリケトン繊維は、弾性歪みの残留が大きいため、通常、緩和熱処理を施し、熱延伸後の繊維長よりも繊維長を短くすることが好ましい。ここで、緩和熱処理の温度は、50〜100℃の範囲が好ましく、また、緩和倍率は、0.980〜0.999倍の範囲が好ましい。
【0039】
上記ポリケトン繊維を用いて保護層用コードを形成する場合、該コードは、引張破断強度が5.0cN/dtex以上、初期弾性率が21cN/dtex以上、3%伸長時応力が1.0cN/dtex以上であることが好ましい。引張破断強度、初期弾性率及び3%伸長時応力が上記範囲内にあると、アラミドコード使用時と同等の耐カット性を発揮することができる。しかし、引張破断強度が上記範囲を下回ると、保護層としての強度が不足し、アラミドコードと同等の耐カット性を実現することが困難になる。また、初期弾性率及び3%伸長時応力が上記範囲を下回ると、保護層としての剛性が不足し、異物に対する抵抗力が弱まり、その結果、アラミドコードと同等の耐カット性を実現することが困難になると同時に、トレッドの耐カット性が劣化することになる。
【0040】
更に、本発明のタイヤにおいては、上記保護層を構成する有機繊維コードが、下記式(II)及び式(III):
σ ≧ −0.01E+1.2 ・・・(II)
σ ≧ 0.02 ・・・(III)
[式中、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)であり、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)である]の関係を満たすポリケトン繊維コードであることが好ましい。なお、熱収縮応力σは、一般的なディップ処理を施した加硫前のポリケトン繊維コードをサンプル長25cmで固定して、5℃/分の昇温速度で加熱し、177℃時にコードに発生する応力であり、また、上記ポリケトン繊維コードの25℃における49N荷重時の弾性率Eは、JISのコード引張り試験によるS-Sカーブ(応力−歪み曲線)を測定し、25℃における49N荷重時の接線から算出した弾性率である。ここで、式(II)及び式(III)の関係を満たすポリケトン繊維コードは、高温時に高い熱収縮応力を持つため、離着陸等の高速走行(高温)時に遠心力の作用によるトレッド面の径方向外方への迫り出しが大きくならず、高い剛性を発揮してタイヤ耐久性能(特に耐カット性)を保持し、一方滑走路上の異物により損傷を受けた後の高速回転(高温)時でも高い接着性および剛性を発揮して保護層とトレッド間でピールオフの発生をより確実に抑制することができる。
【0041】
式(II)及び式(III)におけるσおよびEは、ポリケトンの種類によっても変わるが、同じポリケトンを使用する場合でも、コード作成時の撚り数やディップ処理条件を変えることによりσおよびEの値を変えることができる。なお、上記式(II)及び式(III)においては、σ値がσ≦1.5の関係を満たすことが更に好ましく、0.4≦σ≦1.5の関係を満たすことが一層好ましい。σ値が1.5cN/dtexを超えると、加硫時の収縮力が高くなり過ぎ、タイヤ内部のコードとゴム間に歪みが生じ、タイヤの耐久性及びユニフォーミティーの悪化をもたらす恐れがある。一方、σ値が0.4cN/dtex未満では、本発明の効果が十分に確保できないことがある。
【0042】
上述した本発明の第1のタイヤは、保護層を構成する有機繊維コードに上記諸物性を満たすポリケトン繊維コードを適用し、硫黄濃度が0.75〜1.60質量%のゴム組成物をクッションゴムに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。なお、該クッションゴムに用いるゴム組成物は、ゴム成分に、硫黄と共に各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。図1に示すタイヤのインナーライナー1としては、一般に空気透過性の低いゴムを用いることが好ましい。また、トレッドゴム5としては、耐摩耗性、破壊特性等に優れたゴムを用いることが好ましく、該トレッドゴム5は、キャップ/ベース構造のような複層構造であってもよい。
【0043】
また、本発明の第2のタイヤは、トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、並びに保護層及びトレッドゴムを有するタイヤ又は保護層及び更生ゴムを備えた更生ゴム層を有するタイヤから少なくとも保護層及びトレッドゴム又は更生ゴム層を除去して台タイヤを形成し、該台タイヤのトレッド部のタイヤ半径方向外側に、更生界面(即ち、台タイヤと更生ゴム層との界面)から5mm以内の部分の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%である更生ゴム層を貼り付け、常法に従って製造することができる。この場合、保護層を構成する有機繊維コードとして、上記諸物性を満たすポリケトン繊維コードが適用される。ここで、台タイヤの形成においては、保護層及びトレッドゴム又は更生ゴム層を除去した後に、バフを行っておくことが好ましい。なお、図3に示すタイヤのインナーライナーは、図1に示すタイヤのインナーライナーと同様であり、また、本発明のタイヤの更生ゴムは、新品時のタイヤのトレッドゴムと同様であり、キャップ/ベース構造のような複層構造であってもよい。また、更生ゴムに用いるゴム組成物は、ゴム成分に、硫黄と共に各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0044】
更に、本発明の第3のタイヤは、保護層を構成する有機繊維コードに上記諸物性を満たすポリケトン繊維コードを適用し、加えて、新品時のクッションゴムの硫黄濃度や、更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度や、加硫条件等をコントロールして、式(I)の関係を満たすようにして製造することができる。なお、台タイヤの形成方法及び更生ゴム層の貼り付け方法に特に制限はない。
【0045】
なお、本発明の航空機用空気入りラジアルタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
表1に示す配合処方に従ってクッションゴム用ゴム組成物を調製した。また、表2に示す配合処方に従って更生ゴム層(保護層を含む)用ゴム組成物を調製した。
【0048】
【表1】

【0049】
* 1 N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン.
* 2 N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド.
* 3 ジベンゾチアジルジスルフィド.
【0050】
【表2】

【0051】
*1 表1に同じ.
*4 N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド.
【0052】
次に、表3に示す組み合わせで、クッションゴム用ゴム組成物及び更生ゴム層用ゴム組成物を用い、更に、表3に示すような物性を有するアラミドコード又はポリケトン繊維コードを保護層に用いて、クッションゴムのタイヤ半径方向外側に保護層及び更生ゴム(トレッドゴム)を貼り付け加硫して、図1に示す構造でサイズ:H49×19の航空機用空気入りバイアスタイヤ(新品タイヤ、更生回数0回)を作製した。また、新品タイヤから更生ゴム、保護層及びクッションゴムの一部を除去し、バフ掛けした後、更生ゴム層を貼り付け加硫して図3に示す構造の航空機用空気入りラジアルタイヤを作成し、更に、同様に更生を行い更生回数2回の更生タイヤ、更生回数4回の更生タイヤ、更生回数6回の更生タイヤをそれぞれ準備した。
【0053】
なお、ポリケトン繊維コードは、ほぼ100%が式(IV)で表される繰り返し単位からなり、繰り返し単位の97モル%以上が1-オキソトリメチレンである。
【0054】
【表3】

【0055】
上述のようにして準備した新品タイヤ及び更生タイヤに対し、下記の方法により、耐カット性及び耐ピールオフ性を測定した。結果を表4に示す。
【0056】
また、新品タイヤ及び更生タイヤに対し、トレッドセンター部において、トレッド踏面側からインナーライナー方向に幅1cm×長さ10cmの寸法のサンプルを切り出し、バイアスカーカス、保護層及びトレッドゴムを切り捨て、残ったクッションゴムについて、トレッド踏面側から厚さ0.5mm間隔でスライスして試験サンプルとした。なお、採取した試験サンプルは、更生界面近傍のクッションゴム及び更生時に貼り付けた更生ゴム層である。採取した試験サンプルに対して、下記の方法で、引張強さ(Tb)、硫黄濃度及び剥離強力を測定した。結果を表4に示す。
【0057】
(1)引張強さ(Tb)
試験サンプルに対して、JIS K6251「加硫ゴムの引張試験方法」に準拠して引張試験を行い、引張強さ(Tb)を測定し、比較例3(従来例)の新品タイヤから採取した試験サンプルの引張強さを100として指数表示した。指数値が大きい程、引張強さが大きいことを示す。
【0058】
(2)硫黄濃度
試験サンプル200mgに対して、東洋精機製比重測定機を用いて比重を測定すると共に、LECO社製SC-432を用いて硫黄含有量を測定し、硫黄濃度(質量%)を算出した。
【0059】
(3)剥離強力
試験サンプルに対して、JIS K6256「加硫ゴムの接着試験方法」に準拠して剥離試験を行い、剥離強力を測定し、比較例3(従来例)の新品タイヤから採取した試験サンプルの剥離強力を100として指数表示した。指数値が大きい程、剥離強力が大きいことを示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表4の結果から、実施例1のタイヤは、硫黄濃度が0.75〜1.60質量%のゴム組成物をクッションゴムに用いているため、更生後の硫黄濃度が比較例3(従来例)のタイヤよりも低く、剥離強力の低下も抑制されていることが分かる。また、実施例3のタイヤは、硫黄濃度が0.75〜1.60質量%のゴム組成物を更生ゴム層に用いているため、更生によるクッションゴム中の硫黄濃度の上昇が抑制されており、更生後の硫黄濃度が比較例3(従来例)のタイヤよりも低く、剥離強力の低下も抑制されていることが分かる。更に、実施例2のタイヤは、硫黄濃度が0.75〜1.60質量%のゴム組成物をクッションゴムに用いていることに加え、硫黄濃度が0.75〜1.60質量%のゴム組成物を更生ゴム層に用いて、更生によるクッションゴム中の硫黄濃度の上昇が抑制されているため、更生後の硫黄濃度が比較例3(従来例)のタイヤよりも大幅に低く、剥離強力の低下も大幅に抑制されていることが分かる。
【0062】
ここで、実施例1〜3の更生タイヤは、クッションゴム中の硫黄濃度Cと更生回数Nとが式(I)の関係式を満たしており、このことから、式(I)の関係を満たすタイヤは、クッションゴムと更生ゴム層との剥離強力が大きいことが分かる。
【0063】
なお、表4中、比較例1のタイヤは、新品時のクッションゴムの引張強さが非常に低かったため、また、比較例2のタイヤは、新品時の更生ゴム層の引張強さが非常に低かったため、タイヤとしての検討及び更生を実施しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のタイヤのトレッドセンター部の一例の断面図である。
【図2】図1に示すタイヤからトレッドゴム、保護層及びクッションゴムの一部を除去して形成した台タイヤのトレッドセンター部の一例の断面図である。
【図3】図2に示す台タイヤのトレッド部のタイヤ半径方向外側に更生ゴム層を貼り付けて形成された本発明のタイヤのトレッドセンター部の他の例の断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1 インナーライナー
2 バイアスカーカス
タイヤ半径方向最外側のカーカスプライ
2A コード
2B コーティングゴム
3 クッションゴム
4 保護層
4A 有機繊維コード
4B コーティングゴム
5 トレッドゴム
6 更生ゴム層
更生ゴム層の更生界面から5mm以内の部分
7 更生ゴム
S 更生界面
D タイヤ半径方向最外側のカーカスプライを構成するコードと更生界面との距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層、及びトレッドゴムを有する航空機用空気入りバイアスタイヤにおいて、
前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、
前記クッションゴム中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項2】
トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、及び有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層と、該保護層の外周上に配した更生ゴムとを備えた更生ゴム層を有する航空機用空気入りバイアスタイヤにおいて、
前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、
前記更生ゴム層は、更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項3】
トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス、クッションゴム、及び有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層と、該保護層の外周上に配した更生ゴムとを備えた更生ゴム層を有する航空機用空気入りバイアスタイヤにおいて、
前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、
前記クッションゴム中の硫黄濃度Cと更生回数Nとが、下記式(I):
C ≦ −0.025×N2+0.5×N+1.6 ・・・(I)
[式中、Cはクッションゴム中の硫黄濃度(質量%)であり、Nは更生回数である]の関係を満たすことを特徴とする航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項4】
前記保護層を構成する有機繊維コードが、下記式(II)及び式(III):
σ ≧ −0.01E+1.2 ・・・(II)
σ ≧ 0.02 ・・・(III)
[式中、σは177℃における熱収縮応力(cN/dtex)であり、Eは25℃における49N荷重時の弾性率(cN/dtex)である]の関係を満たすポリケトン繊維コードであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項5】
前記ポリケトン繊維が、下記の一般式(IV):
【化1】

[式中、Aは不飽和結合によって重合された不飽和化合物由来の部分で、各繰り返し単位において同一でも異なってもよい]で表される繰り返し単位から実質的になるポリケトン繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項6】
前記式(IV)中のAがエチレンであることを特徴とする請求項5に記載の航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項7】
未更生時の前記クッションゴム中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項8】
前記バイアスカーカスが、複数のコードをコーティングゴムで被覆してなるカーカスプライの一枚以上から構成され、
該カーカスのタイヤ半径方向最外側のカーカスプライを構成するコードと前記更生界面との距離が5mm以下であることを特徴とする請求項2又は3に記載の航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項9】
前記更生回数Nが10以下の自然数であることを特徴とする請求項3に記載の航空機用空気入りバイアスタイヤ。
【請求項10】
トレッドセンター部が少なくともタイヤ半径方向内側からバイアスカーカス及びクッションゴムを有する台タイヤのトレッド部のタイヤ半径方向外側に、有機繊維コードのゴム引き層よりなる少なくとも一層の保護層と、該保護層の外周上に配した更生ゴムとを備えた更生ゴム層を貼り付ける工程を含む航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法において、
前記保護層を構成する有機繊維コードがポリケトン繊維のコードであり、
前記更生ゴム層は、更生界面から5mm以内の部分の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法。
【請求項11】
未更生時の前記クッションゴム中の硫黄濃度が0.75〜1.60質量%であることを特徴とする請求項10に記載の航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法。
【請求項12】
前記バイアスカーカスが、複数のコードをコーティングゴムで被覆してなるカーカスプライの一枚以上から構成され、
該カーカスのタイヤ半径方向最外側のカーカスプライを構成するコードと前記更生界面との距離が5mm以下であることを特徴とする請求項10に記載の航空機用空気入りバイアスタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−189238(P2008−189238A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27977(P2007−27977)
【出願日】平成19年2月7日(2007.2.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】