説明

色素増感型太陽電池およびそれに用いられる配線付電極基板

【課題】非通電状態および通電状態における集電配線の腐食を防止して耐久性を高め、長期間に渡って安定した発電を行えるようにする。
【解決手段】色素増感型太陽電池1は、透明基板2aの片面に透明導電膜2bが形成されている透明電極基板2と、透明電極基板2と対向している対向電極基板3とを有し、透明電極基板2と対向電極基板3との間に電解質層4が形成されている。色素増感型太陽電池1は、透明導電膜2b上に形成された集電配線5と、集電配線5の表面上に形成されている配線保護膜6と、配線保護膜6の表面を覆い集電配線5および配線保護膜6を化学的かつ電気的にシールドするシールド膜7とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池およびそれに用いられる配線付電極基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽光等の光エネルギーを電気エネルギーに変換する素子として太陽電池が知られている。太陽電池は、単結晶シリコンや多結晶シリコン、アモルファスシリコンを用いたシリコン型太陽電池が知られている。シリコン型太陽電池は光電変換効率が高いものの、製造過程で多大なエネルギーが消費される、製造コストが高い、形状や色の自由度が低いといった課題を有していることから、近年、このようなシリコン型太陽電池の課題を解決し得る太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されている。
【0003】
色素増感型太陽電池は、スイスのミカエル・グレッツェル等によって考案されたもので、色素を吸着させた酸化物半導体微粒子でできた薄膜電極と、白金等からなる対向電極とを有し、双方の電極の間にヨウ素イオンを含む電解質層を形成した構造を有している。色素増感型太陽電池は、半導体製造装置のような大掛りの設備を必要としない、安価に製造できる、量産しやすい、色や形状の自由度が高いといった特徴を有している。
【0004】
ところで、色素増感型太陽電池を構成する薄膜電極はガラス板等の透明板の上にITO(スズ添加酸化インジウム)等からなる透明導電膜を積層して形成されているが、透明導電膜は金属からなる膜に比べて抵抗値が高い。そのため色素増感型太陽電池の光電変換効率を高めることが困難であったため、従来、透明導電膜上に金、銀、銅といった金属からなる集電用の配線(集電配線)を形成して抵抗値を下げようとする考えがあった。
【0005】
ところが、集電配線を透明導電膜上に形成すると、その集電配線が電解質層に常時さらされる格好になるため、集電配線が電解質層中のヨウ素と化学反応を起こして腐食し、集電機能が低下してしまうという課題があった。
【0006】
そこで、従来、集電配線の表面にガラス膜や酸化被膜といった物理的な膜を形成することによって集電配線と電解質層との直接的な接触を無くし、そうすることによって集電配線の腐食を防止するという技術が知られていた(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−192427号公報
【特許文献2】特開2003−297158号公報
【特許文献3】特開2006−286434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
集電配線を例えばガラス膜で被覆した場合において、そのような構造を備えた色素増感型太陽電池を暗室に置くなどして発電が行われない非通電状態にしておけば長期間にわたって集電配線の腐食を防止することができる。
【0009】
しかし、太陽光等を照射して発電している通電状態にしておくと、ある程度の期間が経過した段階で集電配線に腐食による断線部分が現われてしまうという課題があった。これは、次のようなことによるものと考えられる。
【0010】
集電配線を例えばガラス膜で被覆した場合、そのガラス膜の成分と電解質層中のヨウ素イオンとによる化学反応が起きているが、非通電状態では反応のスピードは極めて遅い。そのため、非通電状態にしておけば長期間にわたって集電配線の腐食を防止することができる。
【0011】
ところが、発電している通電状態になると、電解質層中におけるヨウ素イオンの酸化還元反応が繰り返されるため、ガラス膜の成分と電解質層中のヨウ素イオンとによる化学反応のスピードが加速されてしまい、化学反応が非通電状態よりも格段に速い速度で進行する。そのため、通電状態にしておくと、ある程度の期間が経過した段階でガラス膜にピンホールやクラックが発生してしまい、その結果、集電配線が腐食してしまう、と考えられる。
【0012】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、色素増感型太陽電池およびそれに用いられる配線付電極基板において、非通電状態および通電状態における集電配線の腐食を防止して耐久性を高め、長期間に渡って安定した発電を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は、透明基板の片面に透明導電膜が形成されている透明電極基板と、その透明電極基板と対向している対向電極基板とを有し、透明電極基板と対向電極基板との間に電解質層が形成されている色素増感型太陽電池であって、透明導電膜上に形成された集電配線と、その集電配線の表面上に形成されている配線保護膜と、その配線保護膜の表面を覆い集電配線および配線保護膜を化学的かつ電気的にシールドするシールド膜とを有する色素増感型太陽電池を特徴とする。
【0014】
この色素増感型太陽電池では、集電配線および配線保護膜が電解質層との化学反応を起こさないように、シールド膜によって集電配線および配線保護膜を化学的かつ電気的にシールドしている。
【0015】
また、上記色素増感型太陽電池の場合、色素が吸着された酸化物半導体微粒子からなる酸化物半導体多孔膜を更に有することが好ましい。この色素増感型太陽電池では、このような酸化物半導体多孔膜によって発電を行える。
【0016】
さらに、上記色素増感型太陽電池の場合、シールド膜は、色素が吸着された酸化物半導体によって構成され、その色素が酸化物半導体の対向電極基板側の表層部に緻密にかつ酸化物半導体多孔膜の対向電極基板側の表層部よりも多く吸着された色素吸着構造を有することが好ましい。
【0017】
シールド膜がこのような色素吸着構造を有する場合、シールド膜によって集電配線および配線保護膜を化学的かつ電気的にシールドできるようになる。
【0018】
さらに、上記色素増感型太陽電池の場合、シールド膜は、透明導電膜の全体を覆うように形成されていることが好ましい。
このような構造にすることによって、色素増感型太陽電池を簡易に製造できるようになる。
【0019】
そして、上記色素増感型太陽電池の場合、シールド膜を構成する酸化物半導体は、内部に空隙を略有しない非晶質構造を有するようにすることができる。
【0020】
さらに、シールド膜は、色素が吸着され、かつ酸化物半導体多孔膜よりも平均粒径の小さい酸化物半導体微粒子からなる緻密構造を有するようにすることができる。
【0021】
上記いずれの色素増感型太陽電池についても、シールド膜は、集電配線および配線保護膜よりも厚さが薄く形成されていることが好ましい。
【0022】
このようにすることで、配線保護膜とシールド膜との密着性が低下する事態を回避することができる。
【0023】
さらに、上記いずれの色素増感型太陽電池についても、配線保護膜は、アルカリ金属を含まない無アルカリのガラスを用いて形成されていることが好ましい。このようにすることで、配線保護膜について、電解質層との化学反応を起こり難くすることができる。
【0024】
そして、本発明は、透明基板の片面に透明導電膜が形成されている透明電極基板と、その透明電極基板と対向している対向電極基板とを有し、透明電極基板と対向電極基板との間に電解質層が形成されている色素増感型太陽電池に用いられる配線付電極基板であって、透明電極基板と、透明導電膜上に形成された集電配線と、その集電配線の表面上に形成されている配線保護膜と、その配線保護膜の表面を覆い集電配線および配線保護膜を化学的かつ電気的にシールドするシールド膜とを有する配線付電極基板を提供する。
【0025】
上記配線付電極基板の場合、色素が吸着された酸化物半導体微粒子からなる酸化物半導体多孔膜を更に有することが好ましい。
【0026】
また、シールド膜は、色素が吸着された酸化物半導体によって構成され、その色素が酸化物半導体の対向電極基板側の表層部に緻密にかつ酸化物半導体多孔膜の対向電極基板側の表層部よりも多く吸着された色素吸着構造を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
以上詳述したように、本発明によれば、色素増感型太陽電池およびそれに用いられる配線付電極基板において、非通電状態および通電状態における集電配線の腐食を防止して耐久性を高め、長期間に渡って安定した発電を行えるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る色素増感型太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】同じく、配線保護膜およびシールド膜を示す断面図である。
【図3】同じく、酸化物半導体多孔膜を示す断面図である。
【図4】同じく、電解質層における化学反応を電子やホールの挙動とともに模式的に示す断面図である。
【図5】シールド膜が形成されていない集電配線および配線保護膜を示す断面図である。
【図6】(a)は縞状パターンで形成された集電配線を示す平面図、(b)は格子状パターンで形成された集電配線を示す平面図である。
【図7】図1とは膜厚の異なるシールド膜を形成したときの集電配線、配線保護膜およびシールド膜を示す断面図である。
【図8】比較例で用いた光照射装置の概略構成を示した図である。
【図9】シールド膜付き太陽電池の結果を示し、初期状態を示す図である。
【図10】シールド膜付き太陽電池の結果を示し、31日目を示す図である。
【図11】シールド膜無し太陽電池の結果を示し、初期状態を示す図である。
【図12】シールド膜無し太陽電池の結果を示し、31日目を示す図である。
【図13】変形例に係る色素増感型太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図14】別の変形例に係る色素増感型太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る色素増感型太陽電池1の構成を示す断面図である。図1に示すとおり、色素増感型太陽電池1は、透明電極基板2と、透明電極基板2と対向している対向電極基板3とを有し、透明電極基板2と対向電極基板3との間に電解質層4が形成されている。また、色素増感型太陽電池1は、集電配線5と、配線保護膜6と、シールド膜7と、酸化物半導体多孔膜8を有している。
【0031】
このうち、透明電極基板2と、集電配線5、配線保護膜6およびシールド膜7とによって配線付電極基板9が構成されている。配線付電極基板9は色素増感型太陽電池1に用いられ、色素増感型太陽電池1を製造することができる。
【0032】
透明電極基板2は、透明基板2aと、透明基板2aの対向電極基板3側の表面に形成されている透明導電膜2bとを有している。
【0033】
透明基板2aはガラスやPETフィルム等プラスチックといった透明な材料を用いた板材であって、0.7mm〜3.0mm程度の厚さを有している。透明導電膜2bはITO(スズ添加酸化インジウム),FTO(フッ素添加酸化スズ)、ITOとATO(酸化アンチモン)の混合物等からなり、0.1μm〜1μm程度の厚さを有している。
【0034】
対向電極基板3は、電極基板3aと、電極基板3aの透明電極基板2側の表面に形成されている触媒膜3bとを有している。電極基板3aは、チタンやニッケルといった導電性材料を用いた板材であって、0.3mm〜1.5mm程度の厚さを有している。触媒膜3bは白金(Pt)、カーボン、ロジウム、ルテニウム等を蒸着させて得られる薄膜であり、0.1μm〜10μm程度の厚さを有している。なお、対向電極基板3は上記のほか、透明導電膜を形成したガラス基板を用いることもできる。
【0035】
電解質層4は、透明電極基板2と対向電極基板3との間に確保されている空間に電解質溶液を封入することによって形成されている。電解質溶液は、溶媒、酸化還元対および添加剤からなっている。溶媒は、ニトリル系溶媒(例えばアセトニトリル、プロピオニトリル等)、カーボネート系溶媒(例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、イオン性液体(例えば、ジメチルプロピルイミダゾリウムアイオダイド等)を用いることができる。また、酸化還元対はヨウ素/ヨウ化金属化合物、ヨウ素/メチルプロピルイミダゾリウムアイオダイド等のカチオン性化合物、ヨウ素/4級アンモニウム塩化合物を用いることができる。さらに、添加剤はN(窒素)原子を含む複素環化合物(例えば、ピリジン、ターシャルブチルピリジン、キノリン、アクリジン等)を用いることができる。
【0036】
集電配線5は金、銀、銅、プラチナといった導電性の良好な金属からなり、透明導電膜2b上に形成されている。集電配線5は図6(a)に示すように、直線上に形成された集電ライン5aがほぼ等間隔で規則的に並んだ縞状パターンを有している。図1には、集電配線5を構成する集電ライン5aのうちの隣接する2本が示されている。なお、集電配線5は図6(b)に示すように、集電ライン5aと直行状に交差する集電ライン5bを形成して格子状パターンで形成することもできる。
【0037】
集電ライン5aは、断面が概ね矩形状に形成されていて、厚さが10μm〜20μm程度、幅が0.1mm〜2mm程度であり、隣接するもの同士の間隔(配線ピッチ)は3mm〜10mm程度となっている。
【0038】
配線保護膜6は、アルカリ金属を一切含まない無アルカリのガラスからなっていて、5μm〜30μm程度の厚さを有している。配線保護膜6は、集電配線5を構成する各集電ライン5aの表面(上面5bおよび側面5c)の全体を覆って集電配線5の表面が露出しないように集電ライン5aの表面上に形成されている。こうして、配線保護膜6は集電配線5と電解質層4との物理的な接触を無くして保護している。
【0039】
シールド膜7は透明導電膜2bの表面全体を覆うように形成され、配線保護膜6の存在する部分だけでなく、配線保護膜6の存在しない部分にも形成されて一つにつながった1枚の膜状になっている。シールド膜7は配線保護膜6の表面が露出しないように配線保護膜6の表面全体を覆うように形成され、配線保護膜6の表面全体に密着している。このシールド膜7は配線保護膜6の表面全体を覆うことによって、集電配線5および配線保護膜6を物理的にシールド(密閉)しており、また、集電配線5および配線保護膜6と電解質層4とが化学反応を起こさないよう、後述する色素12の作用によって集電配線5および配線保護膜6を化学的かつ電気的にシールドしている。
【0040】
そして、シールド膜7は、図2に詳しく示すように酸化物半導体層11と色素12とを有し、集電配線5および配線保護膜6よりも厚さが薄く、厚さは1μm〜5μm程度となっている(図1では、シールド膜7の太線部分が色素12を示している)。
【0041】
酸化物半導体層11は非晶質の酸化チタン等酸化物半導体からなり、層の内部に空隙がほとんどなく、色素12が吸着された酸化物半導体によって内部がほぼ占められている緻密な構造を有している。色素12は、ルテニウム錯体(N3等)を用いることができ、酸化物半導体層11における電解質層4(対向電極基板3)側の表面全体に緻密に吸着されている。
【0042】
そして、酸化物半導体層11は酸化物半導体からなる緻密な構造を有しているので、色素12が内部に進入し難くなっている。そのため、色素12は酸化物半導体層11の電解質層4(対向電極基板3)側の表層部11cには満遍なくしかも緻密に吸着されているものの、酸化物半導体層11の内部では、酸化物半導体の一部にだけ吸着されている。表層部11cは、酸化物半導体層11における表面7a付近の表面7aに沿った薄い層状部分を意味している。
【0043】
このようなシールド膜7について、色素12が酸化物半導体の単位体積あたりに吸着されている割合(吸着率)をみると、電解質層4(対向電極基板3)側の表層部11cでは、酸化物半導体多孔膜8の電解質層4(対向電極基板3)側の表層部8c(酸化物半導体多孔膜8における表面8a付近の表面8aに沿った薄い層状部分をいう。図3参照)よりも高くなっている。このように、シールド膜7は、電解質層4(対向電極基板3)側の表層部11cにおいて、色素12が酸化物半導体多孔膜8の電解質層4(対向電極基板3)側の表層部8cよりも多く吸着された色素吸着構造を有している。これは、酸化物半導体層11は酸化物半導体からなる緻密な構造を有しているので、色素12の吸着し得る領域が表層部11cの全体に渡って満遍なく確保されるが、酸化物半導体多孔膜8は、後述するようにその内部に多数の空隙14が存在しているので、色素15の吸着し得る領域が表層部8cの部分部分になっていることに起因している。
【0044】
次に、図3に示すように酸化物半導体多孔膜8は色素15が吸着されている酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)等の酸化物半導体の微粒子13からなり、シールド膜7上における隣接する集電ライン5aの間の部分に形成されて断続的に配置されている。酸化物半導体多孔膜8の厚さは5μm〜50μm程度となっている。
【0045】
また、酸化物半導体多孔膜8はシールド膜7のように緻密な構造を有していないので、その内部に多数の空隙14が存在している。さらに、酸化物半導体多孔膜8を構成する各微粒子13の表面に色素15が吸着されているが、色素15の吸着率は、内部であるか表面付近であるかを問わず概ね一様になっている。
【0046】
以上のような構成を有する色素増感型太陽電池1は、発電するときは図1に示すように、透明電極基板2の外側から太陽光等の光Lを照射する。そうすると、図4(図示の都合上、ハッチングを省略している)に示すように、酸化物半導体多孔膜8に含まれている色素15が光Lを吸収することによって励起され、電子15aを放出する。電子15aは透明電極基板2側に移動して透明導電膜2b内に進み、集電配線5を通って外部に取り出され、図示しない配線を通って対向電極基板3に移動する。
【0047】
一方、電子15aを放出した色素15はホール(h)15bとなるが、電解質層4中に存在しているヨウ素イオン(I)から電子を奪う酸化反応によって再生される。このとき、ヨウ素イオン(I)は電子を奪われたことによってヨウ化物イオン(I)となるが、対向電極基板3から電子16を受け取る還元反応によって再生される。
【0048】
このように、色素増感型太陽電池1は、透明電極基板2の外側から太陽光等の光Lを照射することによって酸化還元反応が繰り返し行われ、それによって発電が行われる。
【0049】
そして、色素増感型太陽電池1では、色素吸着構造を有するシールド膜7が形成されており、その表面7aに色素12が緻密に吸着されている。色素12も光Lを吸収することによって励起され、電子12aを放出するため、シールド膜7の表面7aは電子12aが多数存在することになり、負に帯電している。したがって、シールド膜7の表面7aと、ヨウ素イオン(I)とは、双方の極性がともにマイナスとなることによって双方の間に互いに反発し合うクーロン力が働き、シールド膜7が集電配線5および配線保護膜6からヨウ素イオン(I)を遠ざけるように作用する。
【0050】
ここで、図5に示すように、配線保護膜6がシールド膜7で覆われていない場合を考える(図示の都合上、ハッチングを省略している)。発電している通電状態のままにしておくことによって前述の酸化還元反応が繰り返される。そのため、配線保護膜6の成分とヨウ素イオン(I)とによる化学反応が加速され、ある程度の期間が経過した段階で配線保護膜6にピンホールやクラックが発生してしまう。
【0051】
そうすると、集電配線5が例えば銀(Ag)で形成されていたとすると、集電配線5を構成する銀(Ag)が銀イオン(Ag)となって電解質層4の中に溶け出し、銀イオン(Ag)とヨウ素イオン(I)とからヨウ化銀(AgI)が生成されるようになる。しかも、通電状態にしておくと、前述の酸化還元反応によってヨウ素イオン(I)が繰り返し生成されるため、ヨウ化銀(AgI)も繰り返し生成されることとなり、したがって、集電配線5の腐食を進行させてしまう。
【0052】
ところが、配線保護膜6をシールド膜7で覆った場合、そのシールド膜7の表面7aには色素12が緻密に吸着されている。そのため、ホール(h)12bが多数生成され、そのそれぞれのホール(h)12bがヨウ素イオン(I)から電子を奪うため、ヨウ化物イオン(I)が多数生成されることとなる。ヨウ化物イオン(I)とヨウ化銀(AgI)とが反応すると、銀(Ag)とヨウ素(I)とを生成するため、集電配線5の腐食を抑制することができる。
【0053】
このように、シールド膜7は、緻密に吸着されている色素12がホール(h)12bを多数生成することにより、前述した酸化還元反応と共通する化学反応を積極的に引き起こし、それにより、集電配線5の腐食を進行させるヨウ素イオン(I)をヨウ化物イオン(I)に変化させている。このようにして、シールド膜7は、集電配線5および配線保護膜6を化学反応を起こさないように化学的にシールドしている。
【0054】
また、シールド膜7は、ヨウ素イオン(I)をヨウ化物イオン(I)に変化させるだけでなく、負に帯電することでヨウ素イオン(I)を集電配線5および配線保護膜6から遠ざけており、このようにして、集電配線5および配線保護膜6を電気的にシールドしている。
【0055】
以上のように、本実施の形態に係る色素増感型太陽電池1は、シールド膜7によって集電配線5と配線保護膜6とを化学的かつ電気的にシールドしているため、非通電状態はもとより通電状態においても集電配線5が腐食することを防止することができる。したがって、色素増感型太陽電池1は耐久性が高く長期間に渡って安定した発電を行えるようになっている。
【0056】
また、色素増感型太陽電池1は、配線保護膜6が無アルカリのガラスで構成されているので、電解質層4との化学反応が起こり難く、したがって、集電配線5の腐食が起こり難くなっている。
【0057】
さらに、色素増感型太陽電池1では、シールド膜7が集電配線5および配線保護膜6よりも厚さが薄く形成されている。シールド膜7の厚さを配線保護膜6よりも厚くした場合は、例えば図7に示すように、配線保護膜6における透明導電膜2bとの接続部分20に空隙21が形成されやすく、したがって配線保護膜6の表面にシールド膜7が直に接触しない個所が現れる。このようなシールド膜7でも、集電配線5および配線保護膜6を化学的かつ電気的にシールドできるので、通電状態における集電配線5の腐食を防止することができるが、空隙21が存在することによって配線保護膜6とシールド膜7との密着性が低下する。そのため、シールド膜7は集電配線5および配線保護膜6よりも厚さが薄く形成されていることが好ましい。
【0058】
なお、シールド膜7は後述するシールド膜37のように断続的に形成するよりも簡易に製造することができる。
【0059】
(比較例についての説明)
次に、以上の構成を有する色素増感型太陽電池1について行った比較例について説明する。図8は、比較例で用いた光照射装置50の概略構成を示した図である。
【0060】
光照射装置50は、ランプボックス51と、ランプボックス51内に配置された試料台52および蛍光灯53とを有している。試料台52と蛍光灯53の距離はhに設定されている。
【0061】
この光照射装置50では、ランプボックス51上に色素増感型太陽電池1を載置し、その上側から蛍光灯53により光Lを照射して、色素増感型太陽電池1による発電を行うようになっている。
【0062】
下記の比較例では、前述した色素増感型太陽電池1(シールド膜付き太陽電池)と、シールド膜7を有しない点が異なり、他は色素増感型太陽電池1と同じ構成を備えた色素増感型太陽電池(シールド膜無太陽電池)とについて、この光照射装置50を用いた発電を行い、双方における集電配線5の腐食の程度を比較している。
【0063】
そして、光照射装置50は内部を温度を30℃、湿度を45%に設定しており、このような環境下で蛍光灯53によって光Lを24時間照射し続けた。この場合において、光Lの照射前と照射開始から数日を経過したときとで腐食箇所の個数を計測し、照射開始から31日目になったときに腐食部分の面積を概算で求めた。
【0064】
すると、シールド膜付き太陽電池では、照射前は腐食箇所の個数が0個であった。30日目になると腐食箇所が3個になったが、31日目になっても腐食箇所の個数は変化しなかった。
【0065】
これに対し、シールド膜無し太陽電池では、腐食箇所の個数が照射前は0個であったものの、照射開始から3日目で9個も現れた。また、5日目には腐食箇所の個数が19個になり、31日目になると腐食箇所が32個にまで増加した。また、腐食部分の面積は、シールド膜付き太陽電池では0.0035cmであるのに対し、シールド膜無し太陽電池では0.0968cmにまで拡大した。
【0066】
図9、図10はシールド膜付き太陽電池を上側から撮影した写真であって、図9が初期状態、図10が31日目を示している。また、図11、図12はシールド膜無し太陽電池を上側から撮影した写真であって、図11が初期状態、図12が31日目を示している。各図において丸印を付したところに集電配線5の腐食が現れている。
【0067】
以上のとおり、シールド膜無し太陽電池では、31日目に腐食箇所が32個にまで増加して腐食部分の面積が0.0968cmにまで拡大してしまうのに対し、シールド膜付き太陽電池では、31日目になっても腐食箇所は3個に留まり、腐食部分の面積も0.0035cmに抑えられる。この比較例からも、シールド膜付き太陽電池とすることによって、通電状態における集電配線5の腐食を防止して耐久性を高めることができる、ということが明らかである。
【0068】
(変形例1)
図13は、変形例にかかる色素増感型太陽電池31の構成を示す断面図である。色素増感型太陽電池31は、前述した色素増感型太陽電池1と比較して配線付電極基板39を有する点で相違し、他は共通した構成を有している。配線付電極基板39は、配線付電極基板9と比較してシールド膜37を有する点で相違し、他は共通した構成を有している。
【0069】
そして、シールド膜37はシールド膜7と比較して、材質が同じ組成を有する点で共通するが、配線保護膜6の存在する部分にだけ形成され、配線保護膜6の存在しない部分には形成されてなく、したがって断続的に形成されている点で相違している。
【0070】
このようなシールド膜37も、シールド膜7と同様に配線保護膜6の表面全体を覆って配線保護膜6の表面が露出しないようにしているので、集電配線5および配線保護膜6を化学的かつ電気的にシールドしている。そのため、色素増感型太陽電池31も色素増感型太陽電池1と同様に通電状態における集電配線5の腐食を防止して耐久性を高めることができるようになっている。
【0071】
(変形例2)
図14は、別の変形例にかかる色素増感型太陽電池41の構成を示す断面図である。色素増感型太陽電池41は、前述した色素増感型太陽電池1と比較して配線付電極基板49を有する点で相違し、他は共通した構成を有している。配線付電極基板49は、配線付電極基板9と比較して、シールド膜47と酸化物半導体多孔膜48を有する点で相違し、他は共通した構成を有している。
【0072】
シールド膜47は酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)等の酸化物半導体からなり、かつ微細な構造の微粒子が多数寄り集まり蓄積して構成されている。各微粒子は、平均粒径が大きくても40nm以下、好ましくは15nm以下に形成されることによって緻密に寄り集まって蓄積されており、こうすることで酸化物半導体多孔膜8とは異なった緻密な構造を有している。また、各微粒子はその表面に色素が吸着されているが、緻密に寄り集まっている。そのため、シールド膜47は、シールド膜7と同様、電解質層4(対向電極基板3)側の表層部に酸化物半導体多孔膜48の電解質層4(対向電極基板3)側の表層部よりも多く色素が吸着された色素吸着構造を有している。
【0073】
そして、酸化物半導体多孔膜48は酸化物半導体多孔膜8と比較して、透明導電膜2bの全体を覆うように形成されている点で相違している。
【0074】
このようなシールド膜47を有する色素増感型太陽電池41も、配線保護膜6の表面全体を覆って配線保護膜6の表面が露出しないようにしているので、集電配線5および配線保護膜6を化学的かつ電気的にシールドしている。そのため、色素増感型太陽電池41も色素増感型太陽電池1と同様に通電状態における集電配線5の腐食を防止して耐久性を高めることができるようになっている。また、酸化物半導体多孔膜48は透明導電膜2bの全体を覆うように形成されているので、色素増感型太陽電池1よりも簡易に製造することができる。
【0075】
上記の実施の形態では、色素吸着構造を備えたシールド膜7,37,47を有する色素増感型太陽電池1,31,41を例にとって説明しているが、集電配線5および配線保護膜6を化学的かつ電気的にシールドする構造であれば、他の構造を備えたシールド膜を有していてもよい。
【0076】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明を適用することにより、色素増感型太陽電池およびそれに用いられる配線付電極基板について集電配線の腐食を防止して耐久性を高めることができ、そのような色素増感型太陽電池によって、長期間に渡って安定した発電を行えるようになる。
【符号の説明】
【0078】
1,31,41…色素増感型太陽電池、2…透明電極基板、3…対向電極基板、4…電解質層、5…集電配線、6…配線保護膜、7,37,47…シールド膜、8、48…酸化物半導体多孔膜、9,39,49…配線付電極基板、11…酸化物半導体層、12、15…色素、13…微粒子、2a…透明基板、2b…透明導電膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板の片面に透明導電膜が形成されている透明電極基板と、該透明電極基板と対向している対向電極基板とを有し、前記透明電極基板と前記対向電極基板との間に電解質層が形成されている色素増感型太陽電池であって、
前記透明導電膜上に形成された集電配線と、
該集電配線の表面上に形成されている配線保護膜と、
該配線保護膜の表面を覆い前記集電配線および前記配線保護膜を化学的かつ電気的にシールドするシールド膜とを有することを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
色素が吸着された酸化物半導体微粒子からなる酸化物半導体多孔膜を更に有することを特徴とする請求項1記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記シールド膜は、色素が吸着された酸化物半導体によって構成され、該色素が前記酸化物半導体の前記対向電極基板側の表層部に緻密にかつ前記酸化物半導体多孔膜の前記対向電極基板側の表層部よりも多く吸着された色素吸着構造を有することを特徴とする請求項2記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記シールド膜は、前記透明導電膜の全体を覆うように形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
前記シールド膜を構成する前記酸化物半導体は、内部に空隙を略有しない非晶質構造を有することを特徴とする請求項3または4記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
前記シールド膜は、色素が吸着され、かつ前記酸化物半導体多孔膜よりも平均粒径の小さい酸化物半導体微粒子からなる緻密構造を有することを特徴とする請求項3または4記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
前記シールド膜は、前記集電配線および前記配線保護膜よりも厚さが薄く形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の色素増感型太陽電池。
【請求項8】
前記配線保護膜は、アルカリ金属を含まない無アルカリのガラスを用いて形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の色素増感型太陽電池。
【請求項9】
透明基板の片面に透明導電膜が形成されている透明電極基板と、該透明電極基板と対向している対向電極基板とを有し、前記透明電極基板と前記対向電極基板との間に電解質層が形成されている色素増感型太陽電池に用いられる配線付電極基板であって、
前記透明電極基板と、
前記透明導電膜上に形成された集電配線と、
該集電配線の表面上に形成されている配線保護膜と、
該配線保護膜の表面を覆い前記集電配線および前記配線保護膜を化学的かつ電気的にシールドするシールド膜とを有することを特徴とする配線付電極基板。
【請求項10】
色素が吸着された酸化物半導体微粒子からなる酸化物半導体多孔膜を更に有することを特徴とする請求項9記載の配線付電極基板。
【請求項11】
前記シールド膜は、色素が吸着された酸化物半導体によって構成され、該色素が前記酸化物半導体の前記対向電極基板側の表層部に緻密にかつ前記酸化物半導体多孔膜の前記対向電極基板側の表層部よりも多く吸着された色素吸着構造を有することを特徴とする請求項10記載の配線付電極基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−198758(P2010−198758A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38992(P2009−38992)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】