説明

色素増感型太陽電池

【課題】電解液の膨張による封止部の剥離、損傷を防止するとともに、内部空間の電解液の減少を防止して長期間に渡って光電変換効率を良好に保つ色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】調圧手段21は、電解液14を収容可能な貯留部26を備えたタンク25からなる。タンク25は、例えば、伸縮自在な蛇腹状の筒部材からなる。こうしたタンク25は、例えば電解液14の温度変化による体積変動に応じて、方向Lに沿って蛇腹部分が伸縮し、貯留部26に収容可能な電解液14の量が変化する。。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、太陽光などの光エネルギーを有効に利用する手段の1つとして、光エネルギーを電気エネルギーに直接変換する太陽電池が広く用いられている。この太陽電池は、シリコンの多結晶、または単結晶を用いたシリコン型太陽電池が良く知られており、すでに住宅用の電力供給用から電卓等の微弱電力用電源として利用されている。
【0003】
しかしながら、こうしたシリコン型太陽電池の製造にあたって必須となるシリコンの単結晶や多結晶、あるいはアモルファスシリコンを製造するためには、シリコン高純度化でのプロセスや高温での溶融プロセスを必要とするために多大なエネルギーを消費する。このため、シリコン型太陽電池を製造するために費やしたエネルギー量の総和が、この太陽電池の発電可能期間に発電できる総発電エネルギー量よりも大きいという危惧が出ている。
【0004】
このようなシリコン型太陽電池の課題を解決する太陽電池として、近年、色素増感型太陽電池が注目されている。色素増感型太陽電池は、スイスのミカエル・グレツェルらがその基礎となる構造を開発したもので、光電変換効率が高く、かつ、シリコン型太陽電池のように単結晶シリコンなどの製造に多大なエネルギーを消費する材料が必要ではないため、太陽電池を作製するためのエネルギーも桁違いに少なく、且つ低コストで量産が可能なものであり、その普及が期待される。
【0005】
従来の色素増感型太陽電池は、例えば以下の作製方法によって得られる。即ち、例えばガラスからなる基板の一面に透明導電膜を形成する。そして、この透明導電膜に重ねて、Ag,Cu,Ni等の金属からなる集電用配線を所定の配線パターンで形成する。さらに、この集電用配線を覆う絶縁性の被覆層と酸化チタン膜とを形成し、酸化チタン膜に色素を吸着させる。そして、逆電子移動防止用にカルボン酸や有機金属塩等で処理することにより、負極(電極)が得られる。一方、透明導電膜を形成したガラス基板に、蒸着法、熱分解法、電界メッキ等などの方法でPt膜を形成することで正極(電極)が得られる。この負極と正極とを対面させて、周縁部に封止部を形成する。そして、この封止部によって負極と正極とを周縁部で接着、封止する。その後、負極と正極との間の内部空間に電解液を充填することで、色素増感型太陽電池が得られる。
【0006】
こうした色素増感型太陽電池は、その性質上、屋外に設置されることが殆どであり、長期間に渡る耐久性が求められている。特に、色素増感型太陽電池は炎天下など高温環境に晒されることが多いため、負極と正極との間の内部空間に充填された電解液は、夏季などには60℃〜70℃にも昇温する場合がある。このように色素増感型太陽電池が高温になると、電解液の体積膨張などによって内部空間の内圧が高まり、封止部に剥離、割れ等が生じる虞がある。封止部にこうした剥離、割れ等が生じると、腐食性の強い電解液が漏出し、周辺の腐食、光電変換効率の大幅な低下等の不具合を生じる。
【0007】
例えば、封止部にアイオノマー樹脂を用いて正極と負極とを接着した色素増感型太陽電池では、内部空間に封止された電解液が温度上昇によって膨張し、アイオノマー樹脂と電極を構成するガラス基板との接着界面に電解液が浸透し、剥離するという問題が生じている。このため、封止部の材料として、アイオノマー樹脂以外の材料を用いることも検討されているが、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、アクリル系の紫外線効果型接着剤などを用いても、熱膨張した電解液が接着界面に浸透し、封止部が剥離するという課題を解決するには至っていない。
【0008】
一方、封止部の材質を変える方法以外にも、例えば、電解液として分子量が大きく蒸気圧の小さいものを選択し、電解液の沸点を高めることによって、電解液の漏出を防止することも知られている(例えば、特許文献1参照)。また、電解液としてイミダゾリウム系ないしビリジニウム系のイオン液体を用いることによって、電解液の漏出を防止することも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、上述したように電解液を蒸発しにくいものに変えたとしても、色素増感型太陽電池が長期間屋外に晒されるという特性上、寒暖の繰り返しによって電解液または高分子ゲル電解質も膨張と収縮とを繰り返すため、正極電極と負極電極とを接着する封止部の劣化、剥離による電解液の漏出、減少を阻止することは困難である。
【特許文献1】特願2005−255547号公報
【特許文献2】特願2004−539485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、電解液の膨張による封止部の剥離、損傷を防止するとともに、内部空間の電解液の減少を防止して長期間に渡って光電変換効率を良好に保つ色素増感型太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本発明においては、互いに対面する負極および正極、およびこの負極と正極とを周縁部で接着し、負極と正極との間の内部空間に電解液を封止する封止部を有する色素増感型太陽電池であって、
前記電解液を前記内部空間に出入させることによって、前記内部空間を所定の圧力に保つ調圧手段を備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池が提供される。
【0012】
前記調圧手段は、前記内部空間に接続され、前記電解液を貯留可能な貯留部を備えたタンクであればよい。
【0013】
前記タンクは伸縮自在な弾性部材からなり、前記内部空間の圧力に応じて前記貯留部の容積を可変とすればよい。また、前記タンクは伸縮自在な蛇腹状の筒部材からなり、前記内部空間の圧力に応じて前記貯留部の容積を可変とすればよい。また、前記タンクには調圧用のガスが封入され、前記内部空間の圧力に応じた前記ガスの膨張、または収縮によって前記貯留部から電解液を出入させればよい。また、前記タンクと前記内部空間との間には圧力センサおよび開閉弁が設けられ、前記圧力センサによって検出された圧力に応じて前記開閉弁を操作すればよい。
【0014】
更に、前記タンク、または前記タンクと前記内部空間との間には、前記電解液を補充する注入口が形成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の色素増感型太陽電池によれば、高温環境によって電解液が膨張して体積が増加しても、負極と正極との間に広がる内部空間の容積以上に増加した分の電解液は、調圧手段に向けて流出する。電解液が膨張しても、内部空間の内圧が高まることなく一定に保たれる。よって、色素増感型太陽電池を高温環境おいても、内部空間の内圧が高まって封止部が劣化、剥離し、電解液が漏出、減少することを確実に防止できる。このような調圧手段によって、例えば、内部空間と外部環境との圧力差を0.01MPa以下に抑えることができる。
【0016】
一方、色素増感型太陽電池の製造工程で、電解液の充填時に内部空間だけでなく調圧手段のタンクにも電解液が残留する程度に電解液を満たしておくことが好ましい。これによって、例えば、電解液が自然蒸発などよって減少した場合、内部空間の内圧低下に伴ってタンクの貯留部に貯留されている電解液が内部空間に流入し、内部空間の電解液の減少を補償する。これにより、色素増感型太陽電池を長期間に渡って安定した光電変換効率を維持することが可能になる。
【0017】
さらに、タンクに注入口が形成されることにより、電解液の減少に応じて電解液を随時、容易に補充、または入替えることも可能になる。これにより、色素増感型太陽電池を長期間に渡って安定した光電変換効率を維持することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る色素増感型太陽電池の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明はこのような実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の色素増感型太陽電池の一例を模式的に示す断面図である。
色素増感型太陽電池10は、大別して、互いに対向して配された負極(電極)11及び正極12と、この負極11と正極12とを所定の間隔を開けて周縁で接着する封止部13、および調圧手段21を備えている。また、所定の間隔を開けて対面している負極11と正極12との間には内部空間29が形成され、この内部空間29には電解液14が充填されている。
【0020】
負極(電極)11は、例えばガラスからなる基板15と、この基板15の一面に成膜された透明導電膜16、更にこの透明導電膜16を覆う多孔質層17などから構成される。正極(電極)12は、例えばガラスからなる基板18と、この基板18の一面に成膜された透明導電膜19とを備えている。更にこの透明導電膜19に重ねて、例えば、Ptなどからなる導電層20が形成されている。
【0021】
調圧手段21は、電解液14を収容可能な貯留部26を備えたタンク25からなる。タンク25は、例えば、伸縮自在な蛇腹状の筒部材からなる。こうしたタンク25は、例えば電解液14の温度変化による体積変動に応じて、方向Lに沿って蛇腹部分が伸縮し、貯留部26に収容可能な電解液14の量が変化する。
【0022】
このような調圧手段21は、基板15に融着されたジョイント22を介して負極11に接続され、貯留部26と内部空間29とが連通されている。更に、調圧手段21の一端には電解液14を注入、補充するための注入口23が形成されている。
【0023】
以上のような構成の、本発明の色素増感型太陽電池10によれば、高温環境によって電解液14が膨張して体積が増加しても、負極11と正極12との間に広がる内部空間29の容積以上に増加した分の電解液14は、内部空間29に連通するタンク25の蛇腹部分を押し広げて貯留部26に流入する。これによって、電解液14が膨張しても、内部空間29の内圧が高まることなく一定に保たれる。よって、色素増感型太陽電池10を高温環境おいても、内部空間29の内圧が高まって封止部13が劣化、剥離し、電解液14が漏出、減少することを確実に防止できる。このような調圧手段21によって、例えば、内部空間29と外部環境との圧力差を0.01MPa以下に抑えることができる。
【0024】
一方、色素増感型太陽電池10の製造工程で、電解液14の充填時に内部空間29だけでなくタンク25にも電解液14が残留する程度に電解液14を満たしておくことが好ましい。これによって、例えば、電解液14が自然蒸発などよって減少した場合、内部空間29の内圧低下に伴ってタンク25の貯留部26に貯留されている電解液14が内部空間29に流入し、内部空間29の電解液の減少を補償する。これにより、色素増感型太陽電池10を長期間に渡って安定した光電変換効率を維持することが可能になる。
【0025】
さらに、タンク25に注入口23が形成されることにより、電解液14の減少に応じて電解液14を随時、容易に補充、または入替えることも可能になる。これにより、色素増感型太陽電池10を長期間に渡って安定した光電変換効率を維持することが可能になる。
【0026】
封止部13は、負極11、正極12をそれぞれ構成する基板15,18がガラス製基板である場合には、低融点ガラスを用いることができる。低融点ガラスのガラス成分としては、例えばSiO−Bi−MO系、またはB−Bi−MO系、SiO−CaO−Na(K)O−MO系、P−MgO−MO系(但し、Mは一種以上の金属元素を示す)などがあり、基本的にはSiO骨格、B骨格、P骨格に、融点の制御及び化学的な安定性のために他の金属酸化物が含有されたものである。
【0027】
各ガラス系の主成分であるB、P、Bi、SiOに加えられるアルカリ金属等は、融点を下げるものである。熱膨張率の制御には、例えば酸化物フィラーとしてアルミナ,チタニア,ジルコン,シリカ,コーディエライト,ムライト,β−ユークリプタイト,スポジューメン,アノーサイト,セルシアン,フォルステライト及びチタン酸アルミニウムなどが挙げられる。本発明が対象とする基板を構成するガラスとしては、例えばソーダライムガラス、石英ガラスやホウ酸ガラス、鉛ガラス等が挙げられ、特にガラスの種類や組成に限定されるものではない。
【0028】
封止部13に用いる低融点ガラスのペーストとしては、ガラス粉の粒径は100μm以下が好ましい。特に、粒径が大きいとボイドを生じやすいため、望ましくは10μm以下が良い。ペーストの副成分である樹脂や溶媒は、例えば、500〜600℃程度までに完全に燃焼され、残物が残らないようなものがよく、例えば通常のポリビニルアルコールやポリエチレングリコール、エチルセルロース(EC)、アクリル樹脂等が挙げられる。ペーストの粘度としては、測定条件20℃、20rpmで80〜100Pa・sであればよい。
【0029】
基板15,18としては、例えばガラス基板が好適である。ガラス基板の材質としては、例えば、ソーダライムガラス系の材料よりなり、Si,Ca,Na,K,Mg,Alの酸化物を主成分に含んだものより構成される。より具体的には、ソーダガラスとしては、SiOを70〜73%前後含有し、Na,Kの酸化物が10〜15%程度、CaOが7〜12%程度含有されていればよい。こうしたガラス基板は、軟化温度が720〜730℃、線膨張率として85〜90×10−7/℃前後のものである
【0030】
一方、基板15,18として樹脂基板を用いることもできる。樹脂基板を用いた際の封止部13の材料としては、一般的にはアイオノマー樹脂フィルムを用いて熱融着させればよい。この際、硬化性の樹脂や熱可塑性樹脂でも良く、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、アニリン樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステル樹脂等が熱硬化性樹脂の代表的なものとして挙げられ、また光硬化性樹脂としては、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエーテル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が代表的である。また、熱可塑性樹脂を用いても良く、例えばABS樹脂、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、PMMA(アクリル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PPE(ポリフェニレンエーテル) 、PA(ナイロン/ポリアミド)、PC(ポリカーボネイト)、POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂を用いてガラス製の基板を接着してもよい。
【0031】
透明導電膜16,19としては、例えば、弗素ドープの酸化錫やITOなどを成膜し、シート抵抗として10〜100Ωcm程度であればよい。
【0032】
多孔質層17としては、アナターゼ型結晶構造の酸化チタン以外にSn,Znの酸化物を含ませても良く、また酸化チタンもルチル型結晶構造を持つものが含まれたものでも良い。酸化チタンからなる半導体電極としては、酸化チタンがネット構造を形成し、多孔質膜となっているものが好ましく、望ましくは貫通型の多孔質体、空隙がつながったような多孔質体である方が良い。
【0033】
多孔質層17に吸着させる色素としては、例えばルテニウムビピリジン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポリフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられる。
【0034】
色素の吸着方法としては、例えば、負極11を色素が溶解された溶液(色素吸着用溶液)に浸漬する方法が挙げられる。色素を溶解させる溶剤としては、色素を溶解するものであればよく、具体的には、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの窒素化合物類、クロロホルムなどのハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルなどのエステル類が挙げられる。これらの溶剤は2種類以上を混合して用いることもできる。
【0035】
溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶剤の種類により適宜調整することができるが、吸着機能を向上させるためにはできるだけ高濃度である方が好ましいが、高濃度であると多孔質層の表面に過剰に吸着した層が形成されるので、低濃度が好ましく3×10−4モル/リットル以上であればよい。
【0036】
電解液14を構成する酸化還元対としては、I3−/I系の電解質、Br3−/Br系の電解質などのレドックス電解質等が挙げられるが、酸化還元対を構成する酸化体がI3−であり、かつ、前記酸化還元対を構成する還元体がIであるI3−/I系の電解質が好ましく、LiI、NaI、KI、CsI、CaIなどの金属ヨウ化物、およびテトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩などのヨウ化物と、Iとの組み合わせが挙げられる。このような電解液14において、特にヨウ素系レドックス溶液からなる電解質が用いられる場合には、正極電極10の導電層13は白金又は導電性炭素材料からなること、及び触媒粒子が白金又は導電性炭素材料からなることが好ましい。
【0037】
電解液14を構成する溶剤としては、例えば、
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物,3−メチル−2−オキサゾリジノンなどの複素環化合物,
ジオキサン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物,
エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルなどのエーテル類,
メタノール、エタノールなどのアルコール類,
エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類,
アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル化合物,
ジメチルスルフォキシド、スルフォランなど非プロトン極性物質
などが好ましく挙げられる。
【0038】
電解液14の濃度は、電解質や溶剤の種類などにより適宜設定すればよく、例えば、0.01〜1.5モル/リットル、好ましくは0.01〜0.7モル/リットルである。具体的な電解液の一例としては、リチウムアイオダイド0.06モル/リットル、ヨウ素0.06モル/リットル、ターシャルブチルピリジン0.3モル/リットルの濃度となるようにそれぞれをアセトニトリルに溶解させたものが挙げられる。
【0039】
色素増感型太陽電池10の形成方法としては、正極12と、負極11とを対面させ、アイオノマー等の有機材料を用いてこれら正極12と負極11とを熱融着させて封止固定し、更に外周部をガスバリヤー性のある材料で封止する方法などが挙げられる。そして、調圧手段21を設ける方法としては、予め正極12ないし負極11に内部空間29に繋がる開口を形成しておき、正極12と負極11との融着前、または融着後に調圧手段21を接着すればよい。また、電解液14は、正極12、負極11、封止部13などに形成した開口から注入して、その後、この開口を封止する方法、または、調圧手段21に形成された注入口23から電解液14を注入しても良い。
【0040】
更に色素増感型太陽電池10の周端部をアクリル樹脂やエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の接着剤で固定したり、また外周部にブチルゴムやシリコンゴム系等の弾性的な材質により保護し、アルミフレームやSUSフレームにより周端部の補強を行うことが望ましい。
【0041】
以下、本発明の色素増感型太陽電池における、調圧手段の様々な実施形態を列記する。 図2に示す色素増感型太陽電池30では、調圧手段31として、伸縮自在な弾性部材でタンク32を形成し、色素増感型太陽電池30の内部空間の圧力に応じて、このタンク32の貯留部33の容積を可変としたものである。タンク32は、例えば、ブチルゴムで作製し、構造は一枚のブチルゴム板の厚み方向の真ん中で面に平行に(面に沿って)切り込み、薄い板状のタンクにしたものである。
【0042】
図3に示す色素増感型太陽電池40では、調圧手段41として、ブチルからなるゴム栓42ガラス容器43を連結してタンク44とし、ゴム栓42の中心に貫通口を形成して電解液をガラス容器に流動できるようにしたものである。この際、ゴム栓42と色素増感型太陽電池40はシリコン樹脂よりなる連結管45で繋がれている。また、ガラス容器43は、電解液が色素増感型太陽電池40の内部空間に戻るように、色素増感型太陽電池40の設置位置よりも高い位置に設置される。更に、ガラス容器43の中に調圧用のガスを一部充填し、このガスの収縮、膨張により、色素増感型太陽電池40の内部空間の圧力変動を緩和する。
【0043】
図4に示す色素増感型太陽電池50では、調圧手段51として、ブチルからなるゴム管52に弗素樹脂からなる容器53を連結し、ゴム管52を色素増感型太陽電池50の開口55に接続したものである。電解液はゴム管52を介して弗素樹脂からなる容器53に流動可能にされている。弗素樹脂からなる容器43は、電解液が色素増感型太陽電池50の内部空間に戻るように、色素増感型太陽電池50の設置位置よりも高い位置に設置される。更に、弗素樹脂からなる容器53の中に調圧用のガスを一部充填し、このガスの収縮、膨張により、色素増感型太陽電池50の内部空間の圧力変動を緩和する。
【0044】
図5に示す色素増感型太陽電池60では、調圧手段61として、シリコンからなる接続管62を用いて色素増感型太陽電池60の開口65とポリエチレンからなるタンク63に接続したものである。タンク63は蛇腹構造の筒部材を成し、この蛇腹構造の伸縮によって、色素増感型太陽電池60の内部空間の圧力の増減を緩和させるものである。
【0045】
図6に示す色素増感型太陽電池70では、電解液を注入する開口72をフッ素樹脂で作製された栓73によって閉塞し、更に、調圧手段71を設けたものである。調圧手段71は、ブチルゴムからなる薄い板状のタンク75と、このタンク75と圧力制御用の開口74とを接続するブチルゴムからなる接続管76を備えている。また、タンク75と、内部空間に繋がる開口74とを繋ぐ接続管76には、圧力センサ77および開閉弁78が形成されている。このような調圧手段71では、圧力センサ77で検出された圧力(内圧)に応じて、開閉弁78をシーケンサーで制御することによって、色素増感型太陽電池70の内部空間の圧力の増減を緩和させるものである。
【実施例】
【0046】
(実験1)
以下、本発明の効果を検証した結果を示す。検証に用いた色素増感型太陽電池は以下の通りである。正極および負極の基板であるガラス板はセントラル硝子製の建材ガラス(ソーダライムガラス:厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板の熱膨張率は89×10−7/℃であった。この基板上にITOからなる透明導電膜を形成した(シート抵抗値が8Ω)。
【0047】
正極は、この基板上にスパッタリング法によりPtを100nm成膜し、ドリルにより1mmΦの径の穴を角の位置の2箇所に形成した。負極は、基板上にスクリーン印刷法により酸化チタン(P25)のペーストを20μmの厚みで塗布した。この際、基板の周端部から6mmの部分には酸化チタンペーストが付かないように印刷を行った。酸化チタンのペーストは、テルピオーネに固形分濃度として70重量パーセント加えたものを用いた。次にこの酸化チタン膜が塗布されたガラス基板を大気中で120℃にて乾燥し、500℃にて1時間焼成した。この後、ルテニウム錯体系の色素ルテニウム535(SOLARONIX 製品名: ルテニウム535)を濃度5×10−4モル/リットルにした溶液に浸漬して8時間保持した。そして、無水エタノールに浸漬して過剰の色素を取り除き、100℃にて乾燥した。
【0048】
そして、正極の基板の方に、外側から3mmより内側に厚み60μmのアイオノマー樹脂を幅3mmで付着させ、この上に100gf/cmの荷重を掛けた。この状態において120℃でアイオノマー樹脂により熱融着させた。更に外側をエポキシ樹脂接着剤で覆って補強した。
【0049】
この後、正極に形成した開口からLiIとI2とを溶かしたアセトニトリル電解液を、注入口より入れて、セル全体に均一になるように注入した。そして、この開口に図7に示す構造の調圧手段を接続、固定したものを本発明例1とした。調圧手段を構成するタンクの大きさは15mmΦ、長さ50mmの弗素樹脂製の蛇腹構造の筒部材とした。
また、従来例として、こうした調圧手段(蛇腹構造のタンクなど)を接続せず、開口を単に封止栓で封止したものを比較例1とした。こうした本発明例と比較例の色素増感型太陽電池を80℃の恒温槽で保持して、電解液の封止状況の変化を調べた。この結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(実験2)
次に、調圧手段を構成するタンクとして、蛇腹構造のタンクに窒素ガスをタンクの半分の量で入れた弗素樹脂製のタンクを設けた。タンクの大きさは10mmΦ,長さ10〜100mmのものとした。このタンクにガス圧力センサーを取り付けた。こうした構造のサンプルを49個作製し、各サンプルの温度を変えて圧力を調節し、それぞれの保持圧力で200時間一定に保持し、電解液の漏れ等による変化を調べた。同一圧力のサンプル数はそれぞれ7個づつとした。サンプルはタンクの形状以外は上述した実験1と同一の作製条件とした。この結果を表2に示す。なお、表中の差圧とは、内部空間の圧力と、外部環境の圧力との差を示すものである。また、漏れの個数は、それぞれの圧力でのサンプル7個中の漏れ個数を示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示す結果から、圧力差としては0.021MPa以下に制御することが良く、更に好ましくは0.012MPa以下であるのが良い。
【0054】
(実験3)
正極および負極の基板であるメタクリル樹脂板は、三菱レイヨン製のメタクリル樹脂(アクリライト(商品名):厚み3mm,幅5cm,長さ10cm)を用いた。この基板にスパッタリング法でSiO膜を100nmの厚みで両面に成膜した。この基板上にITOからなる透明導電膜を形成した(シート抵抗値が8Ω)。
【0055】
正極は、この基板上にスパッタリング法によりPtを100nm成膜し、ドリルにより1mmΦの径の穴を角の位置の2箇所に形成した。負極は、基板上にスクリーン印刷法により酸化チタン(P25)のペーストを20μmの厚みで塗布した。この際、基板の周端部から6mmの部分には酸化チタンの水系スラリーが付かないように印刷を行った。酸化チタンの水系スラリーは、水に固形分濃度として10重量%の酸化チタン(P25)を加えたものを用いた。次にこの酸化チタン膜が塗布されたガラス基板を大気中で120℃にて乾燥し。この後、ルテニウム錯体系の色素ルテニウム535(SOLARONIX 製品名: ルテニウム535)を濃度5×10−4モル/リットルにした溶液に浸漬した。そして、無水エタノールに浸漬して過剰の色素を取り除き、100℃にて乾燥した。
【0056】
そして、正極の基板の方に、外側から3mmより内側に厚み60μmのアイオノマー樹脂を幅3mmで付着させ、この上に10gf/cmの荷重を掛けた。この状態において120℃でアイオノマー樹脂により熱融着させた。更に外側をエポキシ樹脂接着剤で覆い、周囲をSUS製フレームで補強した。
【0057】
この後、正極に形成した開口からLiIとI2とを溶かしたアセトニトリル電解液を、注入口より入れて、セル全体に均一になるように注入した。そして、この開口に図2に示す構造の調圧手段を接続、固定したものを本発明例2とした。調圧手段を構成するタンクは、40mm角、厚さ1〜5mmのブチルゴム製の袋とした。この際、ブチルゴムの袋に電解液を導入する管に液体の圧力センサーを付けた。こうした構造のサンプルを49個作製し、各サンプルの温度を変えて圧力を調節し、それぞれの保持圧力で200時間一定に保持し、電解液の漏れ等による変化を調べた。同一圧力のサンプル数はそれぞれ7個づつとした。
また、従来例として、こうした調圧手段(蛇腹構造のタンクなど)を接続せず、開口を単に封止栓で封止したものを比較例2とした。比較例2はサンプルを80℃で200時間一定に保持し、電解液の漏れ等による変化を調べた。この結果を表3に示す。
また、圧差による電解液の漏れ等を調べた。この結果を表4に示す。
なお、表4中の差圧とは、内部空間の圧力と、外部環境の圧力との差を示すものである。また、漏れの個数は、それぞれの圧力でのサンプル7個中の漏れ個数を示す。
【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
表4に示す結果から、圧力差としては0.023MPa以下に制御することが良く、更に好ましくは0.012MPa以下であるのが良い。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の色素増感型太陽電池の一例を示す斜視図、および断面図である。
【図2】集電用配線の形成例を示す模式図である。
【図3】注入口を封止する栓の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の色素増感型太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明の色素増感型太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】注入口を封止する栓の他の実施形態を示す断面図である。
【図7】注入口を封止する栓の他の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
10 色素増感型太陽電池、11 負極(電極)、12 正極(電極)、13 封止部、14 電解液、21 調圧手段。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対面する負極および正極、およびこの負極と正極とを周縁部で接着し、負極と正極との間の内部空間に電解液を封止する封止部を有する色素増感型太陽電池であって、
前記電解液を前記内部空間に出入させることによって、前記内部空間を所定の圧力に保つ調圧手段を備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池。
【請求項2】
前記調圧手段は、前記内部空間に接続され、前記電解液を貯留可能な貯留部を備えたタンクであることを特徴とする請求項1記載の色素増感型太陽電池。
【請求項3】
前記タンクは伸縮自在な弾性部材からなり、前記内部空間の圧力に応じて前記貯留部の容積を可変としたことを特徴とする請求項2記載の色素増感型太陽電池。
【請求項4】
前記タンクは伸縮自在な蛇腹状の筒部材からなり、前記内部空間の圧力に応じて前記貯留部の容積を可変としたことを特徴とする請求項2記載の色素増感型太陽電池。
【請求項5】
前記タンクには調圧用のガスが封入され、前記内部空間の圧力に応じた前記ガスの膨張、または収縮によって前記貯留部から電解液を出入させることを特徴とする請求項2記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
前記タンクと前記内部空間との間には圧力センサおよび開閉弁が設けられ、前記圧力センサによって検出された圧力に応じて前記開閉弁を操作することを特徴とする請求項2記載の色素増感型太陽電池。
【請求項7】
前記タンク、または前記タンクと前記内部空間との間には、前記電解液を補充する注入口が形成されていることを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−99409(P2009−99409A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270431(P2007−270431)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】