説明

花粉荷を含有する酵素阻害剤

【課題】花粉荷(蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもの)を有効成分として含有し、医薬品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能な酵素阻害剤の提供。
【解決手段】花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有し、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びテストステロン−5α−リダクターゼ阻害剤から選ばれる少なくとも一種として用いられる酵素阻害剤。該酵素阻害剤はヒアルロニダーゼ阻害剤であり、且つ抗浮腫剤として用いられることも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とする酵素阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、花粉荷は、蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、良質なタンパク質、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から「パーフェクトフード」とも呼ばれている。花粉荷は、採集器等により蜜蜂から容易に回収され、主に栄養補助食品等として摂取されている。
【0003】
従来より、花粉荷は、いくつかの薬理効果を有することが知られている。花粉荷の薬理効果を利用した発明として、例えば特許文献1,2に開示される組成物が知られている。特許文献1は、花粉荷を有効成分として含有する骨量増進組成物について開示する。特許文献2は、花粉荷を有効成分として含有する糖尿病性疾患の予防・治療用組成物について開示する。
【特許文献1】特開2007−016014号公報
【特許文献2】特開2008−105982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、花粉荷の新たな生理作用を模索した。その結果、花粉荷にヒアルロニダーゼ又はテストステロン−5α−リダクターゼを阻害する作用を有することを発見するに至った。
【0005】
本発明の目的とするところは、医薬品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能な花粉荷を有効成分として含有する酵素阻害剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明の酵素阻害剤において、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有し、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びテストステロン−5α−リダクターゼ阻害剤から選ばれる少なくとも一種として用いられることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の酵素阻害剤において、前記酵素阻害剤は、ヒアルロニダーゼ阻害剤であり、且つ抗浮腫剤として用いられることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の酵素阻害剤において、前記溶媒は、有機溶媒、又は水/有機溶媒の混合液であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、医薬品、化粧品等の様々な用途に利用することが可能な花粉荷を有効成分として含有する酵素阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下、本発明の酵素阻害剤をヒアルロニダーゼ阻害剤に具体化した第1の実施形態を説明する。
【0010】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、花粉荷又は花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として含有する。花粉荷は、上述したように蜜蜂が植物の雄しべから花粉を得、蜂蜜や唾液で丸めて団子状に固めたもので、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる。花粉荷の原産地は、特に限定されず、例えば日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、及びアメリカ等のいずれであってもよい。また、花粉荷の原料となる花粉の起源植物としては、特に限定されず、蜜蜂が採取したものであればいずれも使用することができる。花粉の起源植物としては、例えば、ハンニチバナ科、ツツジ科、シソ科、ムラサキ科、ブナ科、キク科、モクセイ科、アブラナ科、マメ科、バラ科、及びヤナギ科が挙げられる。これらの中で、ハンニチバナ科、及びアブラナ科が入手容易性の観点から好ましい。ハンニチバナ科としては、例えばシスタス属ジャラが挙げられる。アブラナ科としては、例えばアブラナ属ナタネ、及びダイコン属ダイコンが挙げられる。花粉荷の採集方法としては、特に限定されず公知の方法を適宜採用することができる。例えば、巣箱の出入り口に取り付けられ、格子状の剥取多孔板を備えてなる花粉採集器を用いる方法、巣板又は蜜蜂に付着した花粉荷を直接採集する方法等が挙げられる。
【0011】
本実施形態において、有効成分として花粉荷自体の他、花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として使用してもよい。抽出処理に使用される溶媒としては、例えば有機溶媒、水、及び水/有機溶媒の混合物が挙げられ、これらを複数組み合わせてもよい。これらの中で、ヒアルロニダーゼ阻害活性のより高い有機溶媒、又は水/有機溶媒の混合物が好ましい。有機溶媒としては、親水性溶媒と疎水性溶媒のいずれであってもよい。例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、及びイソプロパノール等のアルコール類、エーテル、クロロホルム、塩化メチレン、グリセリン、氷酢酸、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、並びに酢酸エチルが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの有機溶媒の中でも、溶媒抽出物中のヒアルロニダーゼ阻害活性のより高いアルコール類が好ましく、アルコール類の中でもメタノールが活性成分の抽出効率が高いためより好ましい。また、抽出処理に使用される溶媒として、有機溶媒、水、及び水/有機溶媒の混合物を複数組み合わせて使用する場合、水抽出処理後の不溶性残渣を用いて、さらに有機溶媒(例えばヘキサン及びメタノール)で抽出処理することが、ヒアルロニダーゼ阻害活性を高めることができるため好ましい。また、抽出処理に使用される溶媒として、有機溶媒を複数種類組み合わせて使用する場合、ヘキサン抽出処理後の不溶性残渣を用いて、さらにメタノール抽出処理することが、ヒアルロニダーゼ阻害活性を高めることができるため好ましい。
【0012】
溶媒として水/有機溶媒の混合物が使用される場合、溶媒中における有機溶媒の濃度は、溶媒の種類等に応じ適宜設定されるが、有効成分の抽出効率の観点から50〜99容量%が好ましく、60〜90容量%がより好ましい。溶媒の添加量は、抽出効率の点から、花粉荷の1質量部に対して1〜10質量部が好ましく、2〜8質量部がより好ましく、2〜4質量部が最も好ましい。これらの抽出溶媒は、花粉荷とともに混合及び撹拌される。
【0013】
抽出温度は溶媒の種類等により適宜設定されるが、有効成分の抽出効率の観点から5〜50℃であることが好ましい。抽出温度が5℃未満の場合には、溶解成分と不溶性成分の分離効率が低下するため好ましくない。逆に抽出温度が50℃を超える場合には、抽出溶媒が蒸発するため抽出効率の低下を招く。抽出の時間は、溶媒の種類、抽出温度等により適宜設定されるが、例えば4〜48時間程度が好ましく、5〜20時間程度がより好ましい。得られた抽出物は、溶媒に可溶性の画分と沈殿物からなる不溶性の画分から構成される。これらの可溶性画分と不溶性画分は、公知の方法、例えば濾過処理、及び遠心分離を用いることにより、容易に分離することができる。このうち可溶性画分を溶媒抽出物として使用することができる。
【0014】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、ヒアルロン酸を分解する酵素であるヒアルロニダーゼの活性を阻害する作用を有する。ヒアルロニダーゼが関連する生理作用として例えば浮腫が挙げられる。本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、抗浮腫作用を得ることを目的とした抗浮腫剤として好ましく適用することができる。
【0015】
また、ヒアルロニダーゼは、病原菌、寄生生物の進入及び拡散の際に使用される因子(毒性因子)であることが知られている。病原菌又は寄生生物としては、例えば、Streptococcus属、Staphylococcus属、Clostridium属、Treponema属、Candida属、Ancyclostroma属(アメリカ十二指腸虫)、及びHirudo属(ヒル)が挙げられる。したがって、本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、病原菌の感染抑制又は寄生生物の寄生抑制作用を得ることを目的とした病原菌の抗感染剤又は寄生生物の抗寄生剤として適用できることが期待される。
【0016】
また、ヒアルロニダーゼは、癌細胞が浸潤し、転移拡散していく機構に関与していると考えられている。ヒアルロニダーゼは、一部の癌細胞、例えば前立腺癌において活性の強さと癌の進行速度に相関があるとの報告がなされている。したがって、本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、抗癌作用を得ることを目的とした抗癌剤として適用できることが期待される。
【0017】
また、ヒアルロニダーゼは、ハチ、スズメバチ、クモ、サンショウオ、ヘビ、及びトカゲ等の生物の毒液の成分の一部を構成することが知られている。ヒアルロニダーゼは、他の毒性因子の拡散を促進する拡散因子として使われているものと考えられている。したがって、本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、上記生物由来の毒素の拡散を抑制する作用を得ることを目的とした生物由来毒素の拡散抑制剤として適用できることが期待される。
【0018】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした医薬品、研究用試薬、化粧品及び飲食品等として適用することができる。
【0019】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤を医薬品として使用する場合は、目的等に応じ公知の投与方法を適宜採用することができる。例えば、患部への塗布、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、阻害剤の目的等に応じ公知の剤形を適宜採用することができる。例えば、軟膏、液剤、スプレー剤、シート剤、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0020】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤を阻害試薬の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。上記ヒアルロニダーゼが関係する生理作用のメカニズムの解明又は各種症状の治療法等の研究・開発等の分野において、好適に用いられる。
【0021】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、抗浮腫作用等の効果を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
【0022】
本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤を飲食品に適用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
【0023】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態において、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物は、高いヒアルロニダーゼ阻害作用を有している。したがって、ヒアルロニダーゼ阻害剤としてヒアルロニダーゼ阻害作用を目的とした医薬品、研究用試薬、化粧品、及び飲食品に好ましく適用することができる。
【0024】
(2)本実施形態において、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物は、高い抗浮腫作用を有している。したがって、抗浮腫剤として抗浮腫作用を目的とした医薬品、化粧品等に好ましく適用することができる。
【0025】
(3)本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤において、花粉荷の溶媒抽出物を得るために用いられる溶媒は、好ましくは有機溶媒、又は水/有機溶媒の混合液である。したがって、有効成分として花粉荷自体を用いるよりも不純物の含有量が減少するため、より効果の高いヒアルロニダーゼ阻害作用を得ることができる。
【0026】
(4)本実施形態では、ヒアルロニダーゼ阻害剤の有効成分として、天然素材である花粉荷が用いられる。したがって、安全に各種用途に適用することができる。
(5)本実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、有効成分として花粉荷が含有される。したがって、花粉荷には、ビタミン及びミネラル等の多種多様な栄養素を含んでいる事から、摂取により各種栄養成分の補給も行うことができる。
【0027】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、ヒトに適用される医薬品、化粧品及び飲食品のみならず、家畜等の飼養動物に対する医薬品等に適用してもよい。
【0028】
・上記実施形態のヒアルロニダーゼ阻害剤は、好ましくはヒアルロニダーゼが関係する症状の治療又は症状の軽減の為の用途のみならず、ヒアルロニダーゼが関係する症状の発症予防のために適用してもよい。
【0029】
(第2の実施形態)
以下、本発明の酵素阻害剤をテストステロン−5α−リダクターゼ阻害剤(以下、「5α−リダクターゼ阻害剤」という)に具体化した第2の実施形態を説明する。
【0030】
本実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤は、花粉荷又は花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として含有する。花粉荷は、上記第1の実施形態に記載のものを適宜採用することができる。
【0031】
本実施形態において、有効成分として花粉荷自体を使用する他、花粉荷から溶媒により抽出処理することにより得られる溶媒抽出物を有効成分として使用してもよい。抽出処理に使用される溶媒としては、上記第1の実施形態に記載のものを適宜採用することができる。これらの中でも有機溶媒、又は水/有機溶媒の混合物を使用した場合、5α−リダクターゼ阻害活性の高い溶媒抽出物が得られるため好ましい。さらに有機溶媒の中でもヘキサン及びアルコール類を使用した場合、活性成分の抽出効率が高いため好ましい。さらにアルコール類の中でもメタノールを用いた場合、活性成分の抽出効率がより高いためより好ましい。また、抽出処理に使用される溶媒として、有機溶媒、水、及び水/有機溶媒の混合物を複数組み合わせて使用する場合、水抽出処理後の不溶性残渣を用いて、さらに有機溶媒(例えばヘキサン及びメタノール)で抽出処理することが、5α−リダクターゼ阻害活性を高めることができるため好ましい。また、抽出処理に使用される溶媒として、有機溶媒を複数種類組み合わせて使用する場合、例えばヘキサン抽出処理後の不溶性残渣を用いて、さらにメタノール抽出処理することが、5α−リダクターゼ阻害活性を高めることができるため好ましい。花粉荷から溶媒抽出物を得るための溶媒抽出条件及び方法としては、上記第1の実施形態に記載の溶媒抽出条件及び方法を適宜採用することができる。
【0032】
本実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤は、男性ホルモンの一種であるテストステロンをジヒドロテストステロン(DHT)に変換する反応を触媒する酵素である5α−リダクターゼの活性を阻害する作用を有する。したがって、テストステロンが減少することにより生じる各種疾患又はジヒドロテストステロンが蓄積されることにより生ずる各種症状の治療剤又は予防剤として好適に適用される。ジヒドロテストステロンが蓄積されることにより生ずる症状として、例えば、男性型脱毛症、アクネの発生又は増悪、脂漏、及び前立腺肥大症等が挙げられる。本実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤は、それらの症状の治療剤、予防剤、又は症状の軽減剤等として好ましく適用できることが期待される。
【0033】
本実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした医薬品、化粧品及び飲食品等として適用することができる。医薬品、化粧品及び飲食品の使用形態としては、上記第1の実施形態に記載のものを適宜採用することができる。また、本実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤を阻害試薬の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。上記5α−リダクターゼが関係する生理作用のメカニズムの解明又は各種症状の治療法等の研究・開発等の分野において、好適に用いられる。
【0034】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。尚、第1の実施形態と共通する効果の記載は省略する。
(1)本実施形態において、花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物は、高い5α−リダクターゼ阻害作用を有している。したがって、5α−リダクターゼ阻害剤として5α−リダクターゼ阻害作用を目的とした医薬品、研究用試薬、化粧品、及び飲食品に好ましく適用することができる。
【0035】
(2)本実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤において、花粉荷の溶媒抽出物を得るために用いられる溶媒は、好ましくは有機溶媒、又は水/有機溶媒の混合液である。したがって、有効成分として花粉荷自体を用いるよりも不純物の含有量が減少するため、より効果の高い5α−リダクターゼ阻害作用を得ることができる。
【0036】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態の5α−リダクターゼ阻害剤は、ヒトに適用される医薬品、化粧品及び飲食品のみならず、家畜等の飼養動物に対する医薬品等に適用してもよい。
【実施例】
【0037】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(試験例1)
半径数キロ以内の周辺植物としてシスタス属ジャラ又はアブラナ属ナタネ等が存在するセイヨウミツバチの巣箱から花粉荷を得た。その花粉荷を乳鉢を用いて粉砕処理した。この粉砕処理物2kgに、抽出溶媒としての水6kgを加えて室温で7時間攪拌して抽出した。そして、前記花粉荷の粉砕物の攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、水に不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、試験例1の抽出液5.5kg(固形分12質量%)を得た。
【0038】
(試験例2)
試験例1において、水に不溶性の残渣を凍結乾燥後、抽出原料として使用した。該残渣723.3gに、抽出溶媒としてのヘキサン2.17kgを加えて室温で17時間攪拌して抽出した。そして、前記攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、ヘキサンに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、試験例2の抽出液1785g(固形分4.6質量%)を得た。
【0039】
(試験例3)
試験例2において、ヘキサンに不溶性の残渣を蒸発乾固後、抽出原料として使用した。該残渣615.8gに、抽出溶媒としてのメタノール1.8kgを加えて室温で20時間攪拌して抽出した。そして、前記攪拌抽出液を濾紙(アドバンテック東洋株式会社製のNo.2)で濾過して、メタノールに不溶性の残渣と上澄み(抽出液)を分離することによって、試験例3の抽出液1210g(固形分3.4質量%)を得た。
【0040】
(実験例1:ヒアルロニダーゼ阻害試験)
花粉荷の生理活性作用の一つであるヒアルロニダーゼ阻害作用を測定した。試料として上記試験例1,3のものを使用した。各濃度に調整した試料0.125mLにヒアルロニダーゼ(1590U/mL)0.125mLを添加し、37℃20分間放置後、0.1%酵素活性化液(Compound48/80)を0.05mL加え、さらに37℃20分間放置した。その後、基質である0.15%ヒアルロン酸カリウム0.2mLを加え37℃40分間反応させた。反応を停止させた後、発色させ575nmにおける吸光度を測定し酵素活性の指標とした。尚、対照(コントロール)には、試料溶液の代わりに試料を希釈した溶媒のみを用いた。ヒアルロニダーゼ阻害活性率は以下の式より求め、検量線を作成し、50%阻害濃度を算出した(試験はN=3で測定)。結果を表1に示す。
【0041】
ヒアルロニダーゼ阻害活性率(%)={ ( Ac - As ) / Ac }× 100
Ac:コントロールの吸光度
As:ヒアルロニダーゼ添加時の吸光度−試料ブランクの吸光度
【0042】
【表1】

表1に示されるように、花粉荷のメタノール抽出物に優れたヒアルロニダーゼ阻害活性が認められた。一方、花粉荷の水抽出物にはヒアルロニダーゼの阻害活性は認められなかった。これらの結果から、花粉荷中のヒアルロニダーゼ阻害活性成分は脂溶性成分である事が示唆された。
【0043】
(実験例2:抗浮腫作用試験)
抗浮腫作用を検討するために急性炎症モデルラットを作製し、その抗炎症作用について試験を行った。ラットの足の裏の皮膚の中に炎症を惹起させる物質(カラゲニン)を注射すると、しばらくラットの足の裏で炎症が起こり足浮腫となる。そこで、カラゲニン注射前に花粉荷を投与する事により花粉荷の浮腫抑制率を求め、抗浮腫作用を検証した。まず、一日絶食させたWistar系ラット(体重220g前後)に、カラゲニン投与の1時間前に、各試験試料を1回経口投与した。試料としては、ナタネ花粉が原料であるナタネ花粉荷及びジャラ花粉が原料であるジャラ花粉荷を使用した。各試料をそれぞれ300mg/kgになるように経口投与した。また、対照(コントロール)としては滅菌水を用いた。また、陽性対照としてインドメタシン(30mg/kg)を使用した。次に、右後足肢に1%λ−カラゲニン溶液0.1mLを皮下注射し、浮腫を惹起させた。λ−カラゲニン注射後、1時間ごとに(最大5時間)右足の体積を測定した。そして、コントロールと各試料のラットの足の体積の比較結果からカラゲニン浮腫抑制率(%)を求めた。足浮腫が最大となった皮下注射4時間後の結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

表2に示されるように、全ての投与群において、カラゲニン投与後に浮腫抑制作用が観察された。皮下注射4時間後の浮腫抑制率は、ナタネ花粉300mg/kg投与群で37.0%、ジャラ花粉300mg/kg投与群で42.0%、インドメタシン30mg/kg投与群で55.6%であった。本試験結果より、カラゲニン足浮腫試験においてナタネ花粉荷及びジャラ花粉荷の抗浮腫作用が確認された。
【0045】
(実験例3:5α−リダクターゼ阻害試験)
花粉荷の生理活性作用の一つである5α−リダクターゼ阻害作用を測定した。試料として上記試験例1〜3のものを使用した。また、対照(コントロール)としては滅菌水を用いた。また、陽性対照としてノコギリヤシオイルを使用した。まず、テストステロン20μL、NADPH825μL、5α−リダクターゼ(ラット肝ミクロソーム)(1590U/mL)75μL、及び各試料80μLを混合し、37℃60分間反応後、酢酸エチルを添加により反応を停止した。その後、遠心分離処理(2500rpm、10分)により、上層の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル層を蒸発乾固後、メタノールを添加し、これをHPLC分析試料とした。HPLCの条件は、カラムがODSカラム、カラム移動相がメタノール/水=30/70、流量が0.8mL/分、カラム温度が40℃、検出波長が238nmである。HPLCの分析結果により、テストステロンの添加量に対する酵素反応後の残存する割合(テストステロン変換率%)を求めた。5α−リダクターゼ阻害活性率は以下の式より求め、検量線を作成し、50%阻害濃度を算出した(試験はN=3で測定)。結果を表3に示す。
【0046】
5α−リダクターゼ阻害活性率(%)={ ( Bc - Bs ) / Bc }× 100
Bc:コントロールのテストステロン変換率
Bs:試料のテストステロン変換率
【0047】
【表3】

全ての試料について5α-リダクターゼ阻害活性が確認された。これらの中でも、試験例2のヘキサン抽出物及び試験例3のメタノール抽出物において強い5α-リダクターゼ阻害活性が確認された。つまり、花粉荷中に含まれる5α-リダクターゼ阻害活性成分は、脂溶性である事が示唆された。
【0048】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)医薬品、研究用試薬、化粧品、及び飲食品に適用される前記酵素阻害剤。
【0049】
(b)前記花粉荷は、ハンニチバナ科及びアブラナ科から選ばれる少なくとも一種の花粉を含有する前記酵素阻害剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花粉荷、又は花粉荷の溶媒抽出物を有効成分として含有し、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びテストステロン−5α−リダクターゼ阻害剤から選ばれる少なくとも一種として用いられることを特徴とする酵素阻害剤。
【請求項2】
前記酵素阻害剤は、ヒアルロニダーゼ阻害剤であり、且つ抗浮腫剤として用いられることを特徴とする請求項1に記載の酵素阻害剤。
【請求項3】
前記溶媒は、有機溶媒、又は水/有機溶媒の混合液であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酵素阻害剤。

【公開番号】特開2010−43015(P2010−43015A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206870(P2008−206870)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(591045471)アピ株式会社 (59)
【Fターム(参考)】