説明

芳香族コポリアミド防弾材料

【課題】防弾性能に優れた芳香族コポリアミド防弾材料を提供する。
【解決手段】防弾材料となる織物を、特定の構造反復単位を有する少なくとも2種の芳香族コポリアミドの組成物から得られた繊維を用いて構成する。すなわち、芳香族コポリアミド組成物の成分となる芳香族コポリアミドを、(i)下記式(1)で表される構造反復単位(1)と下記式(2)で表される構造反復単位(2)とを含む芳香族コポリアミドとし、(ii)98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した固有粘度が、3.5〜6.5であり、(iii)前記固有粘度の差が、0.5〜2.0であるものとし、芳香族コポリアミド組成物の固有粘度が、4.5〜6.0であるものとする。
【化1】


【化2】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防弾性能に優れた防弾材料に関する。さらに詳しくは、特定の芳香族コポリアミド組成物からなる繊維を用いた防弾材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなるアラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)、特にパラ系のアラミド繊維は、その強度、高弾性率、高耐熱性といった特性を活かして、防弾衣料用途に好適に用いられている。
【0003】
防弾材料として代表的なアラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)繊維がある。この繊維は多くの利点を有するが、現行のプロセスでは更なる防弾性能の向上が困難であり、より高性能な防弾衣料を作ることが困難であった。
そこで、防弾材料として必要な要件である高い引張強度値と高い初期モジュラスを同時に有する芳香族コポリアラミドを開発する試みがなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、式1および式2の構造反復単位を含む芳香族コポリアミドであって、アミド溶媒に対して等方性溶液を形成するような芳香族コポリアミドが提案されている。
【0005】
【化1】

【化2】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0006】
特許文献1に開示された芳香族コポリアミド繊維は、PPTA繊維に比べて優れた引張強度を発現する。しかしながら、防弾性能については大きな向上が見られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−207064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたもので、その目的は、防弾性能に優れた芳香族ポリアミド繊維を用いた防弾材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、防弾材料となる織物を、特定の構造反復単位を有する少なくとも2種の芳香族コポリアミドの組成物から得られた繊維を用いて構成することにより、防弾性能に優れた防弾材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、芳香族コポリアミド組成物繊維の織物からなる防弾材料であって、前記コポリアミド組成物繊維は、少なくとも2種の芳香族コポリアミドを含む芳香族コポリアミド組成物からなる繊維であり、芳香族コポリアミド組成物の成分となる芳香族コポリアミドは、(i)下記式(1)で表される構造反復単位(1)と下記式(2)で表される構造反復単位(2)とを含み、(ii)98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した固有粘度が、3.5〜6.5であり、(iii)前記固有粘度の差が、0.5〜2.0であり、芳香族コポリアミド組成物の固有粘度が、4.5〜6.0である芳香族コポリアミド防弾材料である。
【0011】
【化3】

【化4】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の芳香族コポリアミド防弾材料は、弾丸衝突時に破断した繊維の破断面がフィブリル化するため、防弾性能に優れた材料となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<芳香族コポリアミド防弾材料>
本発明の芳香族コポリアミド防弾材料は、特定の構造反復単位を有する少なくとも2種の芳香族コポリアミドの組成物から得られた繊維を用いて構成された織物である。特定の特定の構造反復単位を有する少なくとも2種の芳香族コポリアミドの組成物から得られた繊維を用いることにより、弾丸衝突時に破断した繊維の破断面がフィブリル化するため、防弾性能に優れた織物となる。
【0014】
芳香族コポリアミド防弾材料となる布帛の形態は、特に限定されるものではなく、編物、織物、不織布などのようないずれの形態であってもよい。なかでも、たて、よこの織密度が同一となる平織物は、それぞれの繊維が経緯一方向に配列するため繊維の性能が発揮されやすく、織り組織の形態を維持しやすく織り目が開き難くなることから、着弾時の繊維性能のロスが少なくなり、高い耐弾性能を示すため、好ましい。
【0015】
<芳香族コポリアミド>
本発明の防弾材料を構成する繊維の材料となる2種の芳香族コポリアミドは、いずれも、下記式(1)で表される構造反復単位(1)、および下記式(2)で表される(2)の構造反復単位(2)を含み、1種類または2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応によって得ることができる。このとき、前記芳香族基は2個の芳香族環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基などの低級アルキル基や、メトキシ基、また塩素基などのハロゲン基で置換されていても差し支えは無く、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0016】
【化5】

【化6】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0017】
<芳香族コポリアミドの製造方法>
[芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド)
前記式(1)あるいは式(2)の構造反復単位に用いられる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えばテレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライドなどが挙げられる。これらの中では、汎用性や繊維の機械的物性などの面から、テレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。また、これら芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。
【0018】
(第1のジアミン)
また、前記式(1)で表される構造反復単位(1)に用いられるジアミン(以下「第1のジアミン」ともいう)としては、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができ、第1のジアミンとしては、これらを単独または2種以上用いることができるが、これらに限定されるものではない。
第1のジアミン成分としては、なかでも、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンおよび3,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれるジアミンを、単独あるいは2種以上使用することが好ましい。
【0019】
(第2のジアミン)
また、前記式(2)で表される構造反復単位(2)に用いられるジアミン(以下「第2のジアミン」ともいう)としては、置換または非置換のフェニルベンジミダゾール基を有する芳香族ジアミンが挙げられ、中でも入手のし易さ、得られる繊維の引張強度および初期モジュラスなどの点から、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールが特に好ましい。
【0020】
(ジアミンの組成)
式(1)および式(2)の構造反復単位を構成するためには、少なくとも1種類ずつの「第1のジアミン」と「第2のジアミン」とを用いる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性などの面から、第1のジアミンとしてパラフェニレンジアミン、第2のジアミンとして5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを用いる組み合わせが最も好ましい。
【0021】
本発明に用いられる芳香族コポリアミドにおいて、「第1のジアミン」と「第2のジアミン」とのモル比、換言するならば、構造反復単位(1)と構造反復単位(2)とのモル比は、10:90〜70:30、好ましくは30:70〜50:50の範囲である。構造反復単位(2)、すなわち、第2のジアミンの割合が70モル%を超える場合には、重縮合反応の際に反応液が濁るばかりでなく、製糸作業性や得られる繊維の機械的物性が低下する問題がある。一方、構造反復単位(2)、すなわち、第2のジアミンの割合が30モル%未満の場合には、重合反応において反応溶液が濁るという問題が生じ、このような濁ったドープでは製糸することが困難となる。
【0022】
(ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドとの組成)
また、本発明に用いられる芳香族コポリアミドを製造する際には、前記のジアミンと芳香族ジカルボン酸ジクロライドのモル比を、ジアミン成分対酸クロライド成分のモル比として、好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05とする。
【0023】
[溶媒]
芳香族コポリアミドを重合する際の溶媒としては、特に制限されるものではないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒が挙げられる。特に、芳香族コポリアミドの重合からドープ調製、湿式紡糸工程に至るまでの取扱い性や安定性、および該溶媒の有害性などの観点から、N−メチル−2−ピロリドンが最も好ましい。
これらの溶媒は、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、前記溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0024】
[無機塩]
また、芳香族コポリアミドを製造する際には、得られる芳香族コポリアミドのアミド系極性溶媒に対する溶解性を上げるために、重合の前、途中、終了時などに一般に公知の無機塩を適当量添加してもよい。このような塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。前記塩類の添加量としては、3〜10重量%とすることが好ましい。添加量が10重量%を超えるとアミド系極性溶媒に対し、全量溶解させることが困難となるため好ましくない。一方、3重量%未満の場合には、溶解性向上の効果が不十分となり好ましくない。
【0025】
[濃度]
芳香族コポリアミド溶液のポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。ポリマー濃度が0.5重量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30重量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり、安定的に紡糸することが困難となる。特に、均質な高重合度のポリマーを得るためには、生成したポリマー濃度として、10重量%以下とすることが好ましい。とりわけ3〜8重量%の範囲が、安定したポリマーを得るのに好都合である。
【0026】
[その他]
本発明に用いられる芳香族コポリアミドは、その末端が封止されたものであってもよい。末端封止剤を用いて封止する場合には、その末端封止剤としては、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
また、芳香族コポリアミドの製造にあたっては、酸クロライドとジアミンの反応において一般的に用いられる、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するための脂肪族や芳香族アミン、第4級アンモニウム塩などを併用することができる。
【0027】
反応の終了後、必要に応じて塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し中和反応を実施する。
反応条件は、特別な制限を必要としない。酸クロライドとジアミンとの反応は、一般に急速であり、反応温度は例えば−25℃〜100℃好ましくは−10℃〜80℃である。
【0028】
このようにして得られる本発明に用いられる芳香族コポリアミドは、アルコール、水といった非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すこともできる。これを再度他の溶媒に溶解して成形に供することもできるが、芳香族コポリアミドの重合反応によって得た溶媒を含むポリマー溶液を、そのまま成形用溶液(ドープ)として用いることもできる。再度溶解させる際に用いる溶媒としては、芳香族コポリアミドを溶解するものであれば特に限定はされないが、前記芳香族コポリアミドの重合に使用されるアミド系溶媒が好ましい。
【0029】
<芳香族コポリアミド組成物>
本発明の防弾材料を構成する繊維は、少なくとも2種の前記した芳香族コポリアミドを含む組成物から構成される。少なくとも2種の前記構造反復単位(1)と構造反復単位(2)とを含む芳香族コポリアミドを含んでいればよく、3種以上の前記した芳香族コポリアミド、あるいは、前記した芳香族コポリアミド以外のポリアミド、その他樹脂、添加剤などを含んでいてもよい。
【0030】
[芳香族コポリアミドの固有粘度]
芳香族コポリアミド組成物の成分となる前記した芳香族コポリアミドの固有粘度(IV)(98%濃度の硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した値)は重要であり、3.5〜6.5の範囲とする。3.5未満の場合には、ポリマーの重合度が低く、優れた防弾性能が得られない。一方で、6.5を超える場合には、ポリマーの重合度が高く、アミド系溶液への溶解性が低下するため好ましくない。得られる芳香族コポリアミドが前記固有粘度の記範囲内にあると、防弾性能に優れた芳香族コポリアミド組成物繊維が得られる。
【0031】
[固有粘度の差]
本発明においては、組成物を構成する芳香族コポリアミドの固有粘度の差を、0.5〜2.0とする。好ましくは、1.0〜1.5の範囲である。固有粘度の差が0.5未満の場合には、重合度の差が重合により生じる固有粘度斑と近くなり、本発明の効果を得ることが困難となる。一方で、2.0を超える場合には、組成物溶液中での固有粘度斑が生じ、均一な溶液を得ることが困難となる。なお、前記の芳香族コポリアミドを3種類以上用いる場合には、その最も大きい固有粘度と最も小さい固有粘度の差を、前記範囲内とすればよい。
【0032】
[芳香族コポリアミド組成物の固有粘度]
2種以上の前記した芳香族コポリアミドの組成物の固有粘度は、4.5〜6.0、好ましくは5.0〜6.0の範囲とする。4.5未満の場合には、ポリマーの重合度が低く、優れた引張強度などの機械的物性を得ることが困難となる。一方で、6.0を超える場合には、ポリマー溶液の粘度が高く、流動性が低下するため好ましくない。ブレンド後の固有粘度が前記範囲内にあると、防弾性能に優れた芳香族コポリアミド繊維が得られる。
【0033】
<芳香族コポリアミド組成物繊維の製造方法>
芳香族コポリアミド組成物繊維の具体的な製造方法としては、従来公知の方法を採用することができ、例えば、前記で得られた芳香族コポリアミド組成物、およびアミド系溶媒からなる紡糸用溶液(ドープ)を調製し、得られたドープをノズルより吐出し、貧溶媒からなる凝固浴中で凝固、脱溶媒し、延伸、乾燥、熱処理させることにより製造することができる。
紡糸用ドープのポリマー濃度は、好ましくは0.5〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0034】
なお、本芳香族コポリアミド組成物から繊維を得る場合に、芳香族コポリアミド組成物を紡糸した後、300℃〜550℃の範囲で熱処理を行なうことが好ましく、特に好ましくは400℃〜500℃の範囲で熱処理を実施する。この温度範囲で熱処理を行えば、得られる繊維の配向結晶化が十分に進み、また、熱劣化を抑制できることから、防弾性能に優れたコポリアミド繊維を得ることができる。
【0035】
<芳香族コポリアミド組成物繊維の物性>
[総繊度]
芳香族コポリアミド組成物繊維の総繊度は、特に限定されるものではないが、20〜5,500dtexの範囲が好ましく、特に40〜3,300dtexの範囲が好ましい。
【0036】
[単糸繊度]
芳香族コポリアミド組成物繊維の単繊維の繊度は、特に限定されるものではないが、0.55〜5.5dtexの範囲が好ましく、特に0.8〜3.3dtexの範囲が好ましい。
【0037】
[引張強度]
芳香族コポリアミド組成物繊維の引張強度は、25cN/dtex以上であることが好ましく、特に好ましくは27cN/dtex以上である。強度が25cN/dtex未満の場合には、長期間の使用に対して強度が十分でないために、優れた耐久性を得ることが困難とある。
【0038】
[初期モジュラス]
芳香族コポリアミド組成物繊維の初期モジュラスは、700cN/dtex以上であることが好ましく、特に好ましくは800cN/dtex以上である。初期モジュラスが700cN/dtex未満の場合には、強い力に対して変形するなど、優れた寸法安定性を得ることが困難となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、これらの例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0040】
<測定・評価>
実施例および比較例中の各特性値は、下記の方法により、測定・評価を行った。
【0041】
(1)固有粘度(IV)
98%濃度の硫酸に、ポリマー濃度0.5g/dLとなるようポリマーを溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0042】
(2)繊度
JIS−L−1015 B法に準じ、測定した。
【0043】
(3)引張強度、破断伸度、初期モジュラス
引張試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン万能試験機、型式:RTC−1210A)を用いて、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、糸試験用チャックを用いて、以下の条件の引張試験を行い、引張強度、破断伸度、初期モジュラスをそれぞれ測定した。
(測定条件)
温度 :室温
測定試料長 :500mm
チャック引張速度 :250mm/min
初荷重 :0.2cN/dtex
チャック間距離 :500mm
試験スタート法 :スラックスタート法
【0044】
(4)防弾性能
防弾性能の確認として、耐弾試験を行った。NIJ−STD(米国司法省標準規格)−0108.02に従い、9mmFMJ弾(弾丸速度424±15m/s)による区分IIIAの性能試験を実施した。
【0045】
(5)繊維破断面フィブリル化の有無
光学顕微鏡により、弾丸衝突時に破断した繊維の破断面を倍率100倍で観察し、単糸径の1/10以下の繊維の有無を評価した。
【0046】
<実施例1>
[芳香族コポリアミドの製造]
窒素を内部にフローしている攪拌翼を有する攪拌槽を2つ用意し、それぞれの容器にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)1.940Lを投入した後、十分に乾燥させた塩化カルシウム60.0g投入し、溶解させた。次いで、パラフェニレンジアミン(PPD)11.0g(30mol%)と、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール(DAPBI)53.0g(70mol%)とを秤量して投入し、溶解させた。続いて、テレフタル酸クロライド(TPC)68.6g(100mol%)を投入し、反応させることにより、ポリマー溶液を得た。なお、2つの攪拌槽においては、反応時間、および、反応液の温度を異ならせて反応を実施した。得られた生成物に、それぞれ22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMP分散液110.0gを添加し、中和反応を行った。
得られたポリマー溶液から析出させたポリマーについて、それぞれ固有粘度(IV)を測定したところ、6.0および4.5であり、その差は、1.5であった。
得られたドープをプラネタリーミキサーでブレンドし、均一なポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液から析出させたポリマーの固有粘度(IV)を測定したところ、5.4であった。
【0047】
[芳香族コポリアミド組成物繊維の製造]
ブレンドしたポリマー溶液を用いて、孔径0.15mm、孔数25ホールの紡糸口金から、毎分3.5ccの割合で吐出し、エアーギャップと呼ばれる空隙部分を介して、NMP濃度30重量%、温度50℃の水溶液中に紡出し、凝固糸を得た。
次いで、温度30℃、濃度70%のNMP水溶液中で、2.0倍の延伸倍率で延伸を行った。
延伸後、水洗、乾燥し、次いで、温度450℃下で熱処理を行い、30.0m/分の速度で巻き取って、42dtex/25filの糸条を得た。
得られた芳香族コポリアミド組成物繊維の機械的物性は、引張強度26.9cN/dtex、初期モジュラス870cN/dtex、破断伸度3.1.%であった。
【0048】
[防弾評価用織物の製造]
得られた芳香族コポリアミド組成物繊維を用いて、たて、よこの織密度を45本/インチとして平織物を作成し、平織物を目付が2700±100g/m2となるよう積層し防弾性能評価用織物を作成した。
得られた防弾評価用織物について防弾性能を評価した結果を、表1に示す。
【0049】
<比較例1>
実施例1と同様の原料を用いて、反応時間、反応温度を異ならせて2種類のポリマーを重合した。得られたポリマー溶液から析出させたポリマーの固有粘度(IV)を、表1に示す。ポリマーの固有粘度(IV)の差は、0.2であった。
得られたドープをプラネタリーミキサーでブレンドし、均一なポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液から析出させたポリマーの固有粘度(IV)は、5.2であった。
引き続きブレンドしたポリマー溶液を用いて、実施例1と同様にして芳香族コポリアミド組成物繊維を作成し、その後に、実施例1と同様にして防弾評価用織物を作成した。
得られた芳香族コポリアミド組成物繊維の物性および防弾評価用織物の防弾性能を、表1に示す。
【0050】
<比較例2>
実施例1と同様の原料を用いて、反応時間、反応温度を異ならせて2種類のポリマーを重合した。得られたポリマー溶液から析出させたポリマーの固有粘度(IV)を、表1に示す。ポリマーの固有粘度(IV)の差は、1.1であった。
得られたドープをプラネタリーミキサーでブレンドし、均一なポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液から析出させたポリマーの固有粘度(IV)は、4.2であった。
引き続きブレンドしたポリマー溶液を用いて、実施例1と同様にして芳香族コポリアミド組成物繊維を作成し、その後に、実施例1と同様にして防弾評価用織物を作成した。
得られた芳香族コポリアミド組成物繊維の物性および防弾評価用織物の防弾性能を、表1に示す。
【0051】
<比較例3>
実施例1と同様の原料を用いて、1種類のみのポリマーを重合した。得られたポリマー溶液から析出させたポリマーの固有粘度(IV)は、5.1であった。得られたドープをブレンドせず用いて、実施例1と同様にして芳香族コポリアミド組成物繊維を作成し、その後に、実施例1と同様にして防弾評価用織物を作成した。
得られた芳香族コポリアミド繊維の物性および防弾評価用織物の防弾性能を、表1に示す。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により得られる芳香族コポリアミド防弾材料は、高い防弾性能が求められる用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族コポリアミド組成物繊維の織物からなる防弾材料であって、
前記コポリアミド組成物繊維は、少なくとも2種の芳香族コポリアミドを含む芳香族コポリアミド組成物からなる繊維であり、
芳香族コポリアミド組成物の成分となる芳香族コポリアミドは、
(i)下記式(1)で表される構造反復単位(1)と下記式(2)で表される構造反復単位(2)とを含み、
(ii)98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した固有粘度が、3.5〜6.5であり、
(iii)前記固有粘度の差が、0.5〜2.0であり、
芳香族コポリアミド組成物の固有粘度が、4.5〜6.0である芳香族コポリアミド防弾材料。
【化1】

【化2】

(式(1)および式(2)中、ArおよびArは各々独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【請求項2】
前記構造反復単位(1)と前記構造反復単位(2)とのモル比が、10:90〜70:30である請求項1記載の芳香族コポリアミド防弾材料。

【公開番号】特開2011−202293(P2011−202293A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68115(P2010−68115)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】