説明

芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを射出成形してなる成形体

【課題】電子・電気機器部品で要求される熱伝導性及び絶縁性に優れるとともに、意匠部材として適用可能な着色性を付与することができる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを射出成形してなる成形体を提供する。
【解決手段】(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B−1)ポリオールで被覆された酸化チタン40〜220質量部、(B−2)タルク0〜70質量部及び(C)アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンを3〜10質量部を配合してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、(B−1)成分と(B−2)成分との合計量が70〜220質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを射出成形してなる成形体に関し、より詳しくは、特に、電子または電気機器(液晶プロジェクター、パソコン、通信機器、デジタルカメラ、ビデオカメラ、テレビ、電磁誘導コイルなど)向け放熱部品、熱伝達部品、放熱機能を有する筐体、LED応用製品(LED照明、LED表示板、イメージセンサーなど)向け放熱部品、熱伝達部品、放熱機能を有する筐体として好適に用いることのできる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを射出成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂、特に芳香族ポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性に優れており、電子・電気機器の筐体等に用いられているが、電子または電気機器分野の製品開発においては、デジタルカメラ・デジタルビデオカメラなどでの高画素化・高速処理化、プロジェクターの小型化、パソコン・モバイル機器での高速処理化、各種光源のLED化により内部から発生する熱からの悪影響を避けるために、熱対策に重点がおかれるようになっている。そこで熱伝導性に優れたポリカーボネート樹脂材料が求められているが、熱伝導性の他に、絶縁性が求められる場合が多い。熱伝導率が高く、絶縁性を有する熱伝導フィラーとして窒化ホウ素や窒化アルミニウム等の金属窒化物を芳香族ポリカーボネート樹脂に配合することが知られているが、このような金属窒化物は、高価であり、樹脂コストが高くなり、普及しづらい一面を有している。
【0003】
そこで、芳香族ポリカーボネート樹脂に、より安価な無機充填材としてタルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン等を配合することにより熱伝導性を向上させることが特許文献1及び特許文献2等にて知られている。
特許文献1には、光線反射性樹脂層(A)と無機充填材を30質量%以上含有し、曲げ弾性率が5GPa以上である樹脂基材層(B)とで構成される光線反射用多層シートが記載されている。その樹脂基材層(B)の熱伝導率について、1W/m・℃以上であることを規定し、その樹脂基材層(B)に含まれる無機充填材として、タルク、マイカ、ワラストナイト、カオリン、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、グラファイト、窒化ホウ素、酸化チタン、ガラス繊維及び炭素繊維等が用いられることが記載され、無機充填材を高含有させることにより、熱伝導率を向上させることが記載されている。しかし、この樹脂基材層(B)は、シート成形して得られるものであり、無機充填材についても、具体的にはタルクとマイカ、タルクとグラファイトとの組み合わせが開示されているだけである。
さらに、特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂、酸化チタンを含む白色顔料、タルクからなる難燃性樹脂組成物が記載され、さらにアルコキシシリコーンを添加することが記載されている。この樹脂組成物は、光線反射性、遮光性、熱伝導性、機械特性(剛性)、寸法安定性が良好な成形品が得られることが記載されている。
しかし、芳香族ポリカーボネート樹脂に酸化チタン及びタルクを高含有量で含有させた場合、熱伝導性は向上するものの、耐衝撃性等の機械特性が低下するという問題点があった。また、この組成物はLCD等の照明装置に使用されるバックライトの反射板に好適な組成物を提供するものであり、大型化、薄肉化、軽量化目的のため、使用される芳香族ポリカーボネート樹脂としては成形時の金型内での流動性を向上させるため、特定の共重合モノマーを用いて共重合させることにより得られる高流動共重合PCを用いたり、また、流動性を確保するために比較的低い分子量を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いるために、耐衝撃性を向上させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−3254号公報
【特許文献2】特開2009−280725号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安価な特定の無機質充填剤とシリコーン添加剤を併用することにより、電子または電気機器部品で要求される熱伝導性、絶縁性、耐衝撃性、耐熱変形性および流動性等のバランスに優れるとともに、意匠部材として適用可能な着色性を付与することができる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを射出成形してなる成形体を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に酸化チタン又は酸化チタンとタルクとの混合物に、さらにアルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンとを特定量配合することにより得られた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物及びそれを射出成形して得られる成形体は、熱伝導性及び絶縁性に優れるとともに、意匠部材として適用可能な着色性を付与することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B−1)ポリオールで被覆された酸化チタン40〜220質量部、(B−2)タルク0〜70質量部及び(C)アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサン3〜15質量部を配合してなり、(B−1)成分と(B−2)成分との合計量が70〜220質量部であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(2)さらに、(D)ポリテトラフロオロエチレン1〜7質量部を配合してなる上記(1)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(3)さらに、(E)リン系安定剤0.1〜1質量部を配合してなる上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(4)さらに、(F)難燃剤0.01〜30質量部を配合してなる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(5)ポリオールが、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも一つである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(6)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂が粘度平均分子量16,500〜30,000である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(7)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂がポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体であるか又はポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体とそれ以外の芳香族ポリカーボネート樹脂との混合物である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物、
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体および
(9)成形体が、電気機器、電子機器又は照明機器の放熱部品又は熱伝達部品である上記(8)に記載の成形体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形体は、電気部品で要求される熱伝導性及び絶縁性熱、耐衝撃性、耐熱変形性および流動性等のバランスに優れるとともに、得られる成形体は白色であることから、好みの着色剤を添加することにより意匠性にも優れた成形体を得ることができる。特に、射出成形することにより電気・電子機器又は照明機器の放熱部品又は熱伝達部品として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B−1)ポリオールで被覆された酸化チタン又は、(B−1)ポリオールで被覆された酸化チタンと(B−2)タルク及び(C)アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンを必須成分とするものである。
【0010】
<成分(A)>
本発明における(A)成分として用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂(以下、単にポリカーボネート樹脂と記載することがある)としては、特に制限はなく種々のものが挙げられ、通常、2価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造されるポリカーボネート樹脂を用いることができる。例えば、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法、具体的には、2価フェノールとホスゲンの反応、2価フェノールとジフェニルカーボネートなどとのエステル交換反応により製造されたものを使用することができる。
【0011】
2価フェノールとしては、様々なものが挙げられるが、例えば、この二価フェノールとしては、種々のものが用いられるが、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4'−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコールなどが好適なものとして挙げられる。これら二価フェノールの中でも、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕が好ましい。そして、これらの二価フェノールは、それぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、又はハロホルメートなどであり、具体的にはホスゲン、2価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。
【0012】
そして、このポリカーボネート樹脂の化学構造は、その分子鎖が線状構造または環状構造もしくは分岐構造を有しているものを用いることができる。このうち、分岐構造を有するポリカーボネート樹脂としては、分岐剤として、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α',α"−トリス(4−ビドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)などを用いて製造したものが好ましく用いられる。また、このポリカーボネート樹脂として、テレフタル酸などの2官能性カルボン酸、またはそのエステル形成誘導体などのエステル前駆体を用いて製造されたポリエステル−カーボネート樹脂を用いることもできる。さらに、これら種々の化学構造を有するポリカーボネート樹脂の混合物を用いることもできる。
また、これらポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10,000〜50,000であるが、本発明においては、16,500〜30,000、好ましくは19,000〜25,000である。粘度平均分子量を19000以上とすることにより十分な強度が得られ、30,000以下とすることにより生産性が低下するのを防止する。
この粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、[η]=1.23×10-5Mv0.83の式により算出した値である。
このようなポリカーボネート樹脂の分子量の調節には、フェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−ドデシルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノールなどの公知の分子量調節剤が用いられる。
【0013】
さらに、このポリカーボネート樹脂として、ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体(以下、PC-POS共重合体と記載することがある)を用いることもできる。この共重合体は、例えば、ポリカーボネートオリゴマーと、末端に反応性基を有するポリオルガノシロキサンとを、塩化メチレンなどの溶媒に溶解させ、これに二価フェノールの水酸化ナトリウム水溶液を加え、トリエチルアミンなどの触媒を用いて界面重縮合反応することにより製造することができる。この場合のポリオルガノシロキサン構造部分としては、ポリジメチルシロキサン構造、ポリジエチレンシロキサン構造、ポリメチルフェニルシロキサン構造、ポリジフェニルシロキサン構造を有するものが好適に用いられる。
また、このPC-POS共重合体としては、そのポリカーボネート部分の重合度が3〜100であり、ポリオルガノシロキサン部分の重合度が2〜500程度であるものが好適に用いられる。また、このPC-POS共重合体におけるポリオルガノシロキサン部分の含有割合としては、0.5〜30質量%、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。ポリオルガノシロキサンブロック部分の含有量を0.5質量%以上とすることにより、耐衝撃性の向上を図ることができることとなり、30質量%以下とすることにより耐熱性の低下を防ぐことができる。このPC-POS共重合体を使用することにより、樹脂組成物に難燃性が付与される。
さらに、このPC-POS共重合体の粘度平均分子量は、通常は5,000〜100,000であるが、本発明においては、好ましくは16,500〜30,000である。PC-POS共重合体の粘度平均分子量を16,500以上とすることにより、成形品の強度が十分に保たれ、30,000以下とすることにより生産性が低下するのを防止する。
PC-POS共重合体としては、耐熱性、耐衝撃性及び難燃性の観点からポリオルガノシロキサンがポリジメチルシロキサン構造であるポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体(PC−PDMS共重合体)が好ましい。
PC-POS共重合体をこれ以外の芳香族ポリカーボネート樹脂(PCとする)とを混合して用いる場合、PC-POS共重合体/PC(質量比)は、混合されたポリカーボネート樹脂中においてポリオルガノシロキサンブロック部分の含有割合が0.5〜30質量%、好ましくは1〜20質量%、さらに好ましくは1〜10質量%となるように混合することが前述した理由から好ましい。
【0014】
<成分(B)>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、主に熱伝導性を付与させるために、(B−1)成分として表面がポリオールで被覆された酸化チタンを配合する。
本発明で用いられる酸化チタンとしては、特に好ましくは二酸化チタンである。酸化チタンの1次粒径は好ましくは0.05〜0.5μmであり、より好ましくは0.1〜0.4μmであり、さらに好ましくは0.15〜0.3μmである。
本発明で使用される酸化チタンは、その表面がポリオールで被覆されており、芳香族ポリカーボネート組成物中における酸化チタンの分散性を向上させ、ポリカーボネートの分子量低下を防止することができる。
酸化チタンの有機化合物による表面処理には、ポリオールの他に有機珪素化合物、アルカノールアミン類、高級脂肪酸類等により表面を被覆することが知られているが、本願発明ではポリオール被覆が特に好ましいことを見出し、ポリオールで被覆された酸化チタンを用いることが必要である。
本発明で使用される酸化チタンは、ポリオールで表面を被覆する前に、その酸化チタン表面をアルミニウム、珪素、マグネシウム、ジルコニアチタン、錫等の元素を含む少なくとも一種の元素の含水酸化物及び/又は酸化物が被覆されていてもよい。
【0015】
酸化チタンをポリオールで被覆する際に使用するポリオールとしては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトール等が挙げられ、これらの中でもトリメチロールプロパンとトリメチロールエタンが好ましい。
ポリオールで表面を被覆する方法としては湿式法と乾式法が挙げられる。湿式法はポリオールと低沸点溶媒の混合液に酸化チタンを加え、攪拌後、低沸点溶媒を除去する方法で行う。乾式法はポリオールと酸化チタンをヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合機中で混合するか、あるいはポリオールを溶媒に溶解させるか、あるいは分散させた混合溶液を酸化チタンに噴霧する方法で行う。このようなポリオールによる表面を被覆することにより、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の物性低下を抑制し、酸化チタンの樹脂組成物中での分散性を向上させ、シルバー等の成形不良を抑制することができる。
酸化チタンの製造方法は、塩素法、硫酸法のどちらで製造されたものも使用可能である。また、酸化チタンの結晶構造は、ルチル型、アナターゼ型のどちらでも使用可能であるが、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の熱安定性、耐光性等の観点からルチル型がより好ましい。
本発明における(B−1)成分の酸化チタンの配合量は、(A)成分100質量部に対して40〜220質量部、好ましくは50〜180質量部である。
【0016】
本発明では、(B−1)成分の酸化チタンと共に、(B−2)成分としてタルクを0〜70質量部、好ましくは0〜60質量部併用することにより、得られる成形体の熱伝導率をより高めることができ、さらに成形体の耐熱性を向上させることができる。
但し、(B−1)成分と(B−2)成分との合計量は70〜220質量部、好ましくは80〜180質量部である。
この合計量を70質量部以上とすることにより、熱伝導率が小さくなるのを防止し、また、220質量部以下とすることにより成形加工性が悪くなるのを防止する。
また、タルクを用いる場合、タルクを70質量部以下とすることにより、混練の際の均一な混練ができなくなるのを防止する。
この際に使用される(B−2)成分のタルクとしては、熱可塑性樹脂の添加剤として市販されているものを任意に用いることができる。タルクは、マグネシウムの含水ケイ酸塩であり、主成分であるケイ酸と酸化マグネシウムの他に、微量の酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化鉄を含むことがあるが、本発明の樹脂組成物に用いるものは、これらを含んでいてもかまわない。また、平均粒径は0.5〜50μm、好ましくは1〜20μmの範囲である。また、アスペクト比は通常2〜20の範囲である。これらの平均粒子径、アスペクト比は成形時の流動性、成形品に要求される耐衝撃性、剛性などにより他の含有成分などを総合的に考慮して決定される。また、タルクとしては、脂肪酸などにより、表面処理されたものや、脂肪酸などの存在下に粉砕されたタルクなども用いることができる。
【0017】
<成分(C)>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、(C)成分として、アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンが配合される。
本発明においては、(C)成分のアルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサン(以下、単に、オルガノポリシロキサンという)を配合することにより、(B−1)成分の酸化チタンを高濃度で配合した際の(A)成分であるポリカーボネート樹脂の分子量低下を抑制するとともに、得られる成形体表面の平滑性を改善する効果を有する。
このオルガノポリシロキサンとしては、種々のものがあり、具体的には、アルコキシ基が直接又は二価炭化水素基を介してケイ素原子に結合したオルガノキシシリル基を含有し、直鎖状,環状,網状及び一部分岐を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンが挙げられる。特に直鎖状オルガノポリシロキサンが好ましい。このようなアルコキシ基が直接又は二価炭化水素基を介してケイ素原子に結合したオルガノキシシリル基を含有するオルガノポリシロキサンとしては、例えば一般式(IV)
【0018】
【化1】

【0019】
式中、R1は一価炭化水素基を示し、Aは一価炭化水素基、アルコキシ基(−OR4)又は下記一般式(V)を表わす。
【0020】
【化2】

【0021】
一般式(V)中、R2は二価炭化水素基を示し、R3及びR4は一価炭化水素基を示す。又、Xは0〜2の整数である)で示されるオルガノキシシリル基含有一価炭化水素基を示す。但し、一分子中のAのうち、少なくとも1個はアルコキシ基又はオルガノキシシリル基含有一価炭化水素基である。また、mは1〜300の整数であり、nは0〜300の整数であり、かつm+nは1〜300の整数である〕で表される直鎖状オルガノポリシロキサンを挙げることができる。
ここで、一般式(V)において、R1で示される一価炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が例示される。そして、Aで示される一価炭化水素基の具体例は、上記R1の場合と同じである。
一方、一般式(V)において、R2で示される二価炭化水素基としては、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基が例示される。また、R3及びR4で示される一価炭化水素基は、上記と同じであり、オルガノキシシリル基含有一価炭化水素基としては、具体的には、トリメトキシシリルエチレン基、トリエトキシシリルエチレン基、ジメトキシフェノキシシリルフロピレン基、トリメトキシシリルプロピレン基、トリメトキシシリルブチレン基、メチルジメトキシシリルプロピレン基、ジメチルメトキシシリルプロピレン基等が例示される。この(C)成分のオルガノポリシロキサンは一種用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。アルコキシ基を有していないオルガノポリシロキサンでは分子量の低下を抑制できないため、十分な衝撃強度が得られない。
この(C)成分のオルガノポリシロキサンの配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、3〜15質量部を配合することを要し、好ましくは4〜10質量部の範囲である。配合量を3質量部以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の分子量低下が大きくなって耐衝撃性に劣るものとなるのを防止し、また、15質量部以下とすることにより、成形時の成形品の金型への付着が発生するのを防止し、また、ペレツト及び成形品の製造時の均一な混練が得られなくなるのを防止する。
【0022】
<成分(D)>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、(D)成分としてポリテトラフルオロエチレンを必要に応じて、配合することができる。
任意成分である(D)成分のポリテトラフロオロエチレン(PTFE)〔以下、単に「(D)成分」ということがある〕は、フィブリル形成能を有するものが好ましい。ここで、「フィブリル形成能」とは、せん断力等の外的作用により、樹脂同士が結合して繊維状になる傾向を示すことをいう。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物における(D)成分としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)等を挙げることができる。
フィブリル形成能を有するPTFEは、極めて高い分子量を有し、標準比重から求められる数平均分子量で、通常50万以上、好ましくは50万〜1500万、より好ましく100万〜1000万である。具体的には、テトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウムあるいはアンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、7〜700kPa程度の圧力下、温度0〜200℃程度、好ましくは20〜100℃で重合することによって得ることができる。
また、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能であり、ASTM規格によりタイプ3に分類されるものを用いることができる。このタイプ3に分類される市販品としては、例えば、「テフロン6−J」[商品名、三井デュポンフロロケミカル(株)製]、「ポリフロンD−1」及び「ポリフロンF−103」[商品名、ダイキン工業(株)製]等が挙げられる。また、タイプ3以外では、「アルゴフロンF5」[商品名、ソルベイ ソレクシス社製]、及び「ポリフロンMPAFA−100」[商品名、ダイキン工業(株)製]等が挙げられる。そして、さらに環境規制によりパーフルオロオクタン酸などの不純物を除去したポリテトラフロオロエチレンも問題なく用いることができる。
上記PTFEは、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
この(D)成分のポリテトラフロオロエチレンは、7質量部までの範囲で添加することが好ましく、この範囲で添加することにより衝撃特性を向上させることができるが、7質量部より多くなるとペレツト製造時の混練安定性が低下し、混練不良を招くおそれがあるとともに衝撃特性が低下するので好ましくない。
【0023】
<成分(E)>
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、(E)成分として、リン系安定剤を添加することができる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、酸化チタン及びタルクが使用されるが、これらの無機質化合物はポリカーボネート樹脂に添加した場合、ポリカーボネート樹脂を分解させ、その分子量を低下させる好ましくない作用を有する。
本願発明で用いられる酸化チタンは、その表面をポリオールで処理することによりこのような好ましくない作用を防止するものであるが、これらの好ましくない作用をできる限り抑制させるため、さらにリン系安定剤を配合することが好ましい。
本発明に用いられるリン系安定剤としては、芳香族ホスフィン化合物及び/又はリン酸系化合物が挙げられる。
芳香族ホスフィン化合物は、(B−1)成分の酸化チタンを使用した際に、ポリカーボネート樹脂に対する安定剤として作用するものであり、またリン酸系化合物は、(B−2)成分のタルクを使用した際に、ポリカーボネート樹脂に対する安定剤として作用するものである。
【0024】
芳香族ホスフィン化合物としては、例えば、下記式(P)
P−(X)3.........(P)
(式中、Xは炭化水素基であり、少なくともその1つは置換基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基である)で表わされるアリールホスフィン化合物が挙げられる。
式(P)のアリールホスフィン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン、ジフェニルオクタデシルホスフィン、トリス−(p−トリル)ホスフィン、トリス−(p−ノニルフェニル)ホスフィン、トリス−(ナフチル)ホスフィン、ジフェニル−(ヒドロキシメチル)−ホスフィン、ジフェニル−(アセトキシメチル)−ホスフィン、ジフェニル−(β−エチルカルボキシエチル)−ホスフィン、トリス−(p−クロロフェニル)ホスフィン、トリス−(p−フルオロフェニル)ホスフィン、ジフェニルベンジルホスフィン、ジフェニル−β−シアノエチルホスフィン、ジフェニル−(p−ヒドロキシフェニル)−ホスフィン、ジフェニル−1,4−ジヒドロキシフェニル−2−ホスフィン、フェニルナフチルベンジルホスフィン等が挙げられる。なかでも、特にトリフェニルホスフィンを好適に用いることができる。
【0025】
また、リン酸系化合物としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニル−n−オクチルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4'−ビフェニレンジホスホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニル−n−オクチルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましい。
上記のリン系安定剤のうち、芳香族ホスフィン化合物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.1〜1質量部を配合することが好ましく、リン酸系化合物は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.2〜1質量部を配合することが好ましい。
【0026】
<成分(F)>
さらに、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、(F)成分として、難燃剤を添加することができる。
(F)難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤、窒素系難燃剤、金属水酸化物、リン系難燃剤、有機金属塩系難燃剤(有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩)、シリコーン系難燃剤、膨張性黒鉛等、公知のものを目的に応じて用いることができる。
【0027】
ハロゲン系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA(TBA)、ハロゲン化ポリカーボネート及びハロゲン化ポリカーボネートの(共)重合体、これらのオリゴマー(TBAカーボネートオリゴマー)、デカブロモジフェニルエーテル、TBAエポキシオリゴマー、ハロゲン化ポリスチレン、ハロゲン化ポリオレフィン等を例示できる。これらのハロゲン系難燃剤は、難燃化効率や耐熱性維持の観点から効果的である。
【0028】
窒素系難燃剤としては、メラミン、アルキル基又は芳香族基置換メラミン等が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
リン系難燃剤としては、ハロゲン非含有有機リン系難燃剤等が挙げられる。ハロゲン非含有機リン系難燃剤としては、リン原子を有し、ハロゲンを含まない有機化合物であれば、特に制限なく用いることができる。中でも、リン原子に直接結合するエステル性酸素原子を1つ以上有するリン酸エステル化合物が好適に用いられる。リン酸エステル化合物は、モノマー、ダイマー、オリゴマー、ポリマー又はこれらの混合物であってもよい。
【0029】
具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、又はこれらの置換体、縮合物等が挙げられる。
有機リン系難燃剤以外のハロゲン非含有リン系難燃剤としては、赤リン等が挙げられる。
【0030】
有機金属塩系難燃剤である有機アルカリ金属塩及び有機アルカリ土類金属塩としては、各種のものが挙げられるが、少なくとも一つの炭素原子を有する有機酸又は有機酸エステルのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好適に用いられる。
ここで、有機酸又は有機酸エステルとしては、有機スルホン酸、有機カルボン酸等が挙げられる。
アルカリ金属塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム等の塩が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の塩が挙げられる。これらの中で、ナトリウム、カリウム、セシウムの塩が好適に挙げられる。また、その有機酸の塩は、フッ素、塩素、臭素のようなハロゲンが置換されていてもよい。例えば、パーフルオロメタンスルホン酸、パーフルオロエタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸のカリウム塩等が挙げられる。これらの有機金属塩系難燃剤を添加することで、臭素系難燃剤、リン系難燃剤の添加量を少なくしても難燃性が得られるようになる。また、有機金属塩系難燃剤の添加により衝撃強度は向上するが、添加しすぎると、難燃性を低下させる。有機金属塩系難燃剤を添加する場合は、0.01〜0.5質量部の範囲が好ましい。また、これらの有機金属塩系難燃剤を添加することにより臭素系難燃剤のみを添加した場合より、わずかではあるが、熱変形温度の向上が観察される。
【0031】
シリコーン系難燃剤としては、シリコーン油、シリコーン樹脂等が挙げられる。
シリコーン系難燃剤としては、例えば、官能基を有する(ポリ)オルガノシロキサン類が挙げられる。この官能基としては、アルコキシ基、アリールオキシ、ポリオキシアルキレン基、水素基、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、メルカプト基、エポキシ基等が挙げられる。上記の難燃剤は一種単独でもよく、また二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
本発明において、(F)難燃剤の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜30質量部、好ましくは0.05〜30質量部の範囲である。この範囲内にあれば、得られる成形体の他の物性を損なわずに十分な難燃性が得られる。
【0033】
<成分(G)>
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物においては、成分(G)として、必要に応じて通常使用される離型剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、難燃剤、着色剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤等の各種添加剤等を使用することができる。
上記の任意成分の配合量は、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の特性が維持される範囲であれば特に制限はない。
【0034】
次に、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体の製造方法について説明する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体は、前記の各成分(A)〜(C)、必要に応じて(D)〜(G)成分を上記割合で、さらに必要に応じて用いられる各種任意成分を適当な割合で配合し、混練して得られる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物をペレット化させ、射出成形することにより得られる。
配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラーなどで予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。混練の際の加熱温度は、通常240〜330℃、好ましくは、250〜320℃の範囲で適宜選択される。この溶融混練成形としては、押出成形機、特に、ベント式の押出成形機の使用が好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂以外の含有成分は、あらかじめ、ポリカーボネート樹脂又は他の熱可塑性樹脂と溶融混練、即ち、マスターバッチとして添加することもできる。
このようにして得られたペレットを原料として射出成形する方法は、一般的な射出成形法又は射出圧縮成形法、そしてガスアシスト成形法などの特殊成形法を用いることができ、各種成形品を製造することができる。
本願発明の成形体は熱伝導率が3〜6W/m/Kと優れるため、熱源を内部に有する電気電子機器の筐体やLED照明装置における放熱部品として有用である。特に、成形体の厚みが1.0mm以上の射出成形体を製造しても、放熱性に優れるため内部温度を大きく上昇させる恐れが低い。
さらに、本願発明の樹脂組成物からなる成形体は金属部材からなる成形体に比べ、他の樹脂部品との接合により密閉構造が形成されやすいため、屋外や水中で使用する製品の防塵性、防水性を向上させることができる点で有用である。
【0035】
また、本願発明の成形体を外観部材として使用する場合には、ヒートサイクル成形法、高温金型、断熱金型などの外観を向上させる成形技術を用いることが好ましい。
また、部品に難燃化が求められる場合は、難燃性を有する樹脂材料との積層成形、二色成形などの成形技術を用いることが好ましい。
金属部品のインサート成形、アウトサート成形を行うことにより発熱源からの熱伝達効率を高めることができるので、高発熱源を有する場合には有効な方法となる。
大型薄肉の射出成形品を得るためには、射出圧縮成形や高圧又は超高圧の射出成形を用いることが好ましく、部分的な薄肉部を有する成形品の成形には、部分圧縮成形などを用いることもできる。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体は、酸化チタン及び必要に応じてタルクを高含有量にて含有させてなるものであることから、その色調は白色度が高く、任意の着色剤を添加することにより意匠性の高い成形体を得ることができる。従って、電子機器または電気機器の各種部品である筐体やシャーシ、反射部材等に好適に用いることができる。
また、本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形以外の成形方法を用いて成形品とすることもでき、例えば、押出成形することにより光線反射率の高いシート成形体を得ることができ、液晶ディスプレイバックライト等の部品として用いることもできる。そして、シート成形体を真空成形等の圧空成形等により成形品とすることもできる。シート成形体としては、単層のほか難燃性を有する材料との積層シート、透明性を有する材料との積層シート等、一般的に用いられるシートへの適用が可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらによって、何ら制限されるものではない。
性能評価方法及び用いた成形材料を次に示す。
〔性能評価方法〕
(1)熱伝導率(W/m・K)
熱伝導率測定装置「TPA−501」[京都電子工業(株)製]を用いてホットディスク法にて測定した。射出成形機[日精樹脂工業株式会社製、ES1000]で作製した試験片60mm×60mm×2mmの平板を用いた。
(2)体積固有抵抗(Ω・m)
JISK6911に準拠し、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS−100EN、成形温度320℃、金型温度80℃)で作製した試験片80mm×80mm×2mmの平板を用いた。
(3)反射率Y(%)
原料ペレットを120℃で5時間熱風乾燥した後、射出成形機[日精樹脂工業株式会社製、ES1000]を用いて、320℃の成形温度、80℃の金型温度で、80mm×80mm×2mmの反射率測定用の平板サンプルを作製した。作製したサンプルの反射率は、LCM分光光度計MS2020プラス(Macbeth社製)によるY値で評価した。
(4)流動特性(流れ値)
高化式フローテスターを用い、原料ペレットをJIS−K7210に準拠し、320℃の温度で、荷重160kgにて測定した。
(5)アイゾット衝撃強度(kJ/m2
試験片は射出成形機(東芝機械株式会社製、IS−100EN、成形温度320℃、金型温度80℃)で作製した。120℃×5時間の乾燥を行った原料ペレットを使用。 ASTM D256に準拠し23℃でノッチ付、ノッチ無について測定した。肉厚1/8インチの5本で試験を行い、その平均値を示した(単位:kJ/m2
(6)熱変形温度(℃)
ASTM D648に準拠し、肉厚1/8インチの試験片にて試験を実施した。なお、試験片は、120℃で5時間の乾燥を行った原料ペレットを使用し、射出成形機(東芝機械株式会社製、IS−100EN)を用いて、成形温度320℃、金型温度80℃の成形条件にて製作した。
(7)難燃性
UL規格94に準じて作製した、試験片(長さ12.7mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm、1.5mm)の試験片を用いて垂直燃焼試験を行った。なお、UL規格94とは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間から難燃性を評価する方法である。
【0037】
〔成形材料〕
(A)成分:芳香族ポリカーボネート樹脂
A−1:ビスフェノールAポリカーボネート[出光興産(株)製、「FN2600A」、Mv=25,500]
A−2:ビスフェノールAポリカーボネート[出光興産(株)製、「FN2500A」、Mv=24,500]
A−3:ビスフェノールAポリカーボネート[出光興産(株)製、「FN2200A」、Mv=21,500]
A−4:ポリカーボネート−ポリジメチルシロキサン共重合体(Mv=17,500、表中ではPC-PDMS共重合体と記載)
【0038】
<PC-PDMS共重合体の調製>
(1)ポリカーボネートオリゴマーの合成例
5.6質量%水酸化ナトリウム水溶液に、後から溶解するビスフェノールAに対して2000質量ppmの亜二チオン酸ナトリウムを加え、これにビスフェノールA濃度が13.5質量%になるようにビスフェノールAを溶解し、ビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
このビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液40リットル/時、塩化メチレン15リットル/時の流量で、ホスゲンを4.0kg/時の流量で内径6mm、管長30mの管型反応器に連続的に通した。管型反応器はジャケット部分を有しており、ジャケットに冷却水を通して反応液の温度を40℃以下に保った。
管型反応器を出た反応液は後退翼を備えた内容積40リットルのバッフル付き槽型反応器へ連続的に導入され、ここにさらにビスフェノールAの水酸化ナトリウム水溶液2.8リットル/時、25質量%水酸化ナトリウム水溶液0.07リットル/時、水17リットル/時、1質量%トリエチルアミン水溶液を0.64リットル/時添加して反応を行った。槽型反応器から溢れ出る反応液を連続的に抜き出し、静置することで水相を分離除去し、塩化メチレン相を採取した。
このようにして得られたポリカーボネートオリゴマーは濃度318g/リットル、クロロホーメート基濃度0.75モル/リットルであった。また、その重量平均分子量(Mw)は、1190であった。なお、重量平均分子量(Mw)は、展開溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)を用い、GPC〔カラム:TOSOH TSK−GEL MULTIPORE HXL−M(2本)+Shodex KF801(1本)、温度40℃、流速1.0ml/分、検出器:RI〕にて、標準ポリスチレン換算分子量(重量平均分子量:Mw)として測定した。
【0039】
(2)PC-PDMS共重合の合成例
邪魔板、パドル型攪拌翼及び冷却用ジャケットを備えた50リットル槽型反応器に上記で製造したポリカーボネートオリゴマー溶液15リットル、塩化メチレン9.0リットル、ジメチルシロキサン単位の繰返し数が90であるアリルフェノール末端変性ポリジメチルシロキサン(PDMS)324g及びトリエチルアミン8.8ミリリットルを仕込み、攪拌下でここに6.4質量%水酸化ナトリウム水溶液1389gを加え、10分間ポリカーボネートオリゴマーとアリルフェノール末端変性PDMSの反応を行った。
この重合液に、p−t−ブチルフェノール(PTBP)の塩化メチレン溶液(PTBP140gを塩化メチレン2.0リットルに溶解したもの)、BPAの水酸化ナトリウム水溶液(NaOHの577gと亜二チオン酸ナトリウムの2.0gを水8.4リットルに溶解した水溶液にBPA1012gを溶解させたもの)を添加し50分間重合反応を行った。
希釈のため塩化メチレン10リットルを加え10分間攪拌した後、PC-PDMS共重合体を含む有機相と過剰のBPA及びNaOHを含む水相に分離し、有機相を単離した。
こうして得られたPC-PDMS共重合体の塩化メチレン溶液を、その溶液に対して順次、15容積%の0.03モル/リットルのNaOH水溶液、0.2モル/リットルの塩酸で洗浄し、次いで洗浄後の水相中の電気伝導度が0.01μS/m以下になるまで純水で洗浄を繰り返した。
洗浄により得られたPC-PDMS共重合体の塩化メチレン溶液を濃縮・粉砕し、得られたフレークを減圧下120℃で乾燥した。
得られたPC-PDMS共重合体の核磁気共鳴(NMR)により求めたPDMS残基量(PDMS共重合量)は5.4質量%、ISO1628−4(1999)に準拠して測定した粘度数は47.0、粘度平均分子量Mvは17,500であった。このPC-PDMS共重合体をA−4とした。
【0040】
(B)成分:酸化チタン及びタルク
B−1−1:ポリオールにより被覆された酸化チタン〔石原産業(株)製、「CR−60−2」、平均粒子径0.21μm〕
B−1−2:ポリオールにより被覆された酸化チタン
表面がアルミナで被覆された平均粒径0.21μmの酸化チタン〔石原産業(株)CR−60〕に対して、トリメチルールプロパンを1質量部添加し、ヘンシェルミキサーにて30分間混合した後、200℃で3時間熱処理することにより表面がトリメチルールプロパンで被覆された酸化チタン(B−1−2)を得た。
B−1−3:ポリオールにより被覆された酸化チタン(表中、「調整品」と記載)
平均粒子径が0.2μmのルチル型二酸化チタン粒子を200g/リットルの水性スラリーとし、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムを添加することにより、二酸化チタン表面に含水酸化アルミニウムを被覆した。なお、表面処理量は、Al23換算で二酸化チタンに対して5.0質量%とした。その後、スラリーを濾過、洗浄して得られた洗浄ケーキを120℃で一昼夜乾燥し、ジェットミルにて粉砕した。これを電気炉にて800℃で2時間焼成させ、二酸化チタン表面の含水酸化アルミニウムをアルミナに変性した。得られたアルミナで表面被覆された二酸化チタン粉末に対して、トリメチロールエタンを1.5質量部添加し、ヘンシェルミキサーにて30分間混合した後、200℃で3時間熱処理することにより得られた表面がトリメチルールエタンで被覆された酸化チタン(B−1−3)を得た。得られた平均粒子径は0.21μmであった。
【0041】
比較用酸化チタン(ポリオール被覆されていない酸化チタン)
(1)表面がシリカ・アルミナで被覆された酸化チタン〔石原産業(株)製、「PF726」平均粒子径0.21μm〕
(2)表面がアルミナで被覆された酸化チタン〔石原産業(株)製、「CR−60」、平均粒子径0.21μm〕
(3)CR−60をジメチルポリシロキサンにより被覆した酸化チタン
酸化チタンB−1−2の調整方法において、トリメチロールプロパンに変えて、ジメチルポリシロキサンを用いて製造したもの
(4)CR−60をトリエタノールアミンにより被覆した酸化チタン
酸化チタンB−1−2の調整方法において、トリメチロールプロパンに変えて、トリエタノールアミンを用いて製造したもの
B−2−1:タルク〔富士タルク工業(株)製、「TP−A25」、平均粒子径4.9μm〕
【0042】
(C)成分:アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサン
C−1:メトキシ変性シリコーン〔東レ・ダウコーニング(株)製、「BY16−161」、25℃での粘度27mm2/s〕
C−2:メトキシ変性シリコーン〔信越化学(株)製、「KR−511」〕
その他のオルガノポリシロキサン:ジメチルポリシロキサン〔東レ・ダウコーニング(株)製、「SH−200」〕
【0043】
(D)成分:ポリテトラフロオロエチレン
(D−1)ポリテトラフロオロエチレン〔旭硝子(株)製、「CD076」〕
(D−2)ポリテトラフロオロエチレン〔ソルベイソレクシス(株)製、「アルゴフロンF5」〕
【0044】
(E)成分:リン系安定剤(酸化防止剤)
(E−1)リン系酸化防止剤:トリフェニルホスフィン〔城北化学工業(株)製、「JC263」〕
(E−2)リン系酸化防止剤:ジフェニルイソオクチルホスファイト〔株式会社ADEKA製、「ADK Stab C」〕
(E−3)リン系酸化防止剤:2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト〔株式会社ADEKA製、「PEP−36〕〕
(E−4)リン系酸化防止剤:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト〔チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、「イルガフォス168」〕
【0045】
(F)成分:難燃剤
(F−1)臭素系難燃剤:ポリ[オキシカルボニルオキシ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレン)(1−メチルエチリデン)(3,5−ジブロモー1,4−フェニレン)] 〔 帝人化成(株)製、「ファイヤーガード FG−7500」〕
(F−2)リン系難燃剤:芳香族縮合リン酸エステル〔大八化学株工業(株)製、「PX−200」〕
(F−3)リン系難燃剤:芳香族縮合リン酸エステル〔大八化学株工業(株)製、「CR−741」〕
(F−4)金属塩系難燃剤:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム 〔大日本インキ(株)製、「メガファックF−114」〕
(F−5)金属塩系難燃剤:パーフルオロブタンスルホン酸カリウム〔三菱マテリアル電子化成(株)製、「KFBS」〕
(F−6)金属塩系難燃剤:パラトルエンスルホン酸ナトリウム〔DAH DIING CHEMICAL INDUSTRY(株)製、「PTS」〕
【0046】
(G)成分:その他添加剤
G−1:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〔チバ・ジャパン株式会社製、「Irganox1076」〕
G−2:グリセリンモノステアレート〔理研ビタミン株式会社製、「S−100A」〕
G−3:ペンタエリストールテトラステアレート〔理研ビタミン株式会社製、「EW−440A」〕
【0047】
[実施例1〜37及び比較例1〜10]
高速浮上混合機〔株式会社カワタ製、SFC−50〕を用いて表1〜表4に示す割合で、各成分を混合し、ベント式二軸押出成形機〔東芝機械社製、TEM35〕に供給し、バレル温度260〜300℃、スクリュー回転数150〜250rpm、吐出量10〜25kg/時にて溶融混練し、評価用ペレットサンプルを得た。
この評価用ペレットサンプルを用いて、射出成形機〔東芝機械株式会社製:IS−100EN、日精樹脂工業株式会社製:ES1000〕にて、各試験を行うための試験片を作成し、各試験を行った。その結果を表1〜表4に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表1〜表4より下記のことが判明した。
実施例1〜37では、評価項目のバランスの点で優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および成形体が得られている。
比較例1では、(B)成分のポリオール被覆された酸化チタンの配合量が本発明の範囲より少ないので実施例1に比べて、熱伝導率が低下している。
比較例2では、(B)成分のポリオール被覆された酸化チタンの配合量が本発明の範囲の上限値(220質量部)より多いので実施例4に比べて、耐衝撃性が低下している。
比較例3では、(C)成分のアルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンの配合量が本発明の範囲の下限値(3質量部)より少ないので実施例9に比べて、耐衝撃性が低下している。
比較例4では、(C)成分のアルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンの配合量が本願発明の範囲の上限値(15質量部)より多いので実施例10に比べて、耐衝撃性が低下している。
比較例5では、(B)成分としてジメチルポリシロキサンで被覆した酸化チタンを使用しているため、ポリオールで被覆された酸化チタンを使用した実施例13に比べて、耐衝撃性及び熱変形温度が低下している。
比較例6では、(C)成分としてジメチルポリシロキサンを使用しているため、アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサンを使用した実施例2に比べて、耐衝撃性が低下している。
比較例7〜10では、(B)成分としてポリオールで被覆された酸化チタンを用いていないため、実施例2に比べて、耐衝撃性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体は、電子または電気機器向け放熱部品、熱伝達部品、放熱機能を有する筐体、特に、LED応用製品向け放熱部品、熱伝達部品、放熱機能を有する筐体等の分野で極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、(B−1)ポリオールで被覆された酸化チタン40〜220質量部、(B−2)タルク0〜70質量部及び(C)アルコキシ基を含有するオルガノポリシロキサン3〜15質量部を配合してなり、(B−1)成分と(B−2)成分との合計量が70〜220質量部であることを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、(D)ポリテトラフロオロエチレン1〜7質量部を配合してなる請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(E)リン系安定剤0.1〜1質量部を配合してなる請求項1または2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(F)難燃剤0.01〜30質量部を配合してなる請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
ポリオールが、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンエトキシレート、ペンタエリスリトールから選ばれる少なくとも一つである請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂が粘度平均分子量16,500〜30,000である請求項1〜5のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂がポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体であるか又はポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体とそれ以外の芳香族ポリカーボネート樹脂との混合物である請求項1〜6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を射出成形してなる成形体。
【請求項9】
成形体が、電気機器、電子機器又は照明機器の放熱部品又は熱伝達部品である請求項8に記載の成形体。

【公開番号】特開2012−107173(P2012−107173A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27659(P2011−27659)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】