説明

苗植機

【課題】本発明では、畦越えの走行速度を気にすることなく任意のスピードで畦越えをしても走行車体が不安定になることなく圃場の畦際まで適正な植付深さで苗を植付けられるようにすることが課題である。
【解決手段】走行車体の後側に苗植付部を装着した苗植機において、走行車体の前後傾斜検出手段と走行速度検出手段を設け、前後傾斜検出手段による走行車体の上向き傾斜の検出で畦越え植付昇降制御モードに移行し、この畦越え植付昇降制御モードでは走行速度検出手段が検出する走行速度の高低に応じて苗植付部の上昇速度を高低に変更制御するように苗植機の苗植昇降制御装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗植機において苗の植付時に苗植装置の地上植付面に対する高さを一定に保つ苗植昇降制御装置に関する
【背景技術】
【0002】
苗植機において苗植昇降制御装置は、特開2006−217865号公報に記載されている。この公報に記載の苗植昇降制御装置は、圃場面を走行しながら苗植付を行う植付昇降制御モードと、畦越えを行いながら畦際まで苗を植え付ける畦越え植付昇降制御モードが設けられている。そして、植付昇降制御モード時には、走行車体の上向き傾斜を検出するとすなわち走行車体が畦を登り始めると機体後部の苗植付装置を上昇させて圃場面に対する高さを一定に保持し苗の植付深さを適正にするようにしている。
【特許文献1】特開2006−217865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の苗植昇降制御装置の畦越え植付昇降制御モードは、走行車体の走行速度を考慮していないために、標準の走行速度より速い速度で畦越えを行うと苗植付装置の上昇が間に合わず走行車体の傾きによって苗植付装置が圃場面に押し込まれ、標準の走行速より遅い速度で畦越えを行うと苗植付装置の上昇が早過ぎて苗植付装置が圃場面から浮き上がったり苗植付装置の重みで走行車体の前側が浮き上がって走行が不安定になるなどの問題点がある。
【0004】
そこで、本発明では、畦越えの走行速度を気にすることなく任意のスピードで畦越えをしても走行車体が不安定になることなく圃場の畦際まで適正な植付深さで苗を植付けられるようにすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、走行車体(2)の後側に苗植付部(4)を装着した苗植機において、走行車体(2)の前後傾斜検出手段(7)と走行速度検出手段(8)を設け、前後傾斜検出手段(7)による走行車体(2)の前上がり傾斜の検出で畦越え植付昇降制御モードに移行し、この畦越え植付昇降制御モードでは走行速度検出手段(8)が検出する走行速度の高低に応じて苗植付部(4)の上昇速度を高低に変更して制御する苗植昇降制御装置を設けたことを特徴とする苗植機とした。
【0006】
この構成で、走行車体2が畦に乗り上がると走行車体2が前上がり傾斜となって畦越え植付昇降制御モードになり、走行速度に応じて苗植付部4が適正な上昇速度で上昇して苗植付部4の圃場面に対する高さを一定に保つなどの走行速度による苗植機の位置調整を適正に出来る。
【0007】
請求項2に記載の発明は、畦越え植付昇降制御モードでは、走行速度が零では苗植付部(4)の上昇を停止する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の苗植機とした。
この構成では、走行停止時に走行車体2を傾けても苗植付部4が突然上昇したりすることがないので、安全である。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明では、苗植機で畦際に苗を植え付ける際に苗植機を畦に向かって速度を気にせずに走行させれば、苗植昇降制御装置が畦越え植付昇降制御モードに移行すると共に走行車体2の走行速度に応じた上昇速度で苗植付部4を上昇して圃場面に対する高さを一定に保持して苗を畦際まで適正な植付深さで植付けられるので、苗の植付作業が圃場の畦際まで楽に行える。
【0009】
また、請求項2に記載の発明では、走行を停止している場合に、例えば運搬のためなどに機体が前上がり傾斜にするようなことがあっても苗植付部4が動かないので、安全である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の実施例を、図面を参照しながら以下に説明する。
図1及び図2は、施肥装置を装着した乗用型田植機の側面図と平面図である。この施肥装置付き乗用型田植機1は、走行車体2の後側に昇降リンク装置3を介して苗植付部4が昇降可能に装着され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0011】
走行車体2は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12が配置され、そのミッションケース12の左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、該左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能な各々の前輪支持部から外向きに突出する左右前輪車軸に左右前輪10,10が各々取り付けられている。また、ミッションケース12の背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、そのメインフレーム15の後端左右中央部に前後水平に設けた後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース18,18がローリング自在に支持され、その後輪ギヤケース18,18から外向きに突出する後輪車軸に後輪11,11が取り付けられている。
【0012】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、該エンジン20の回転動力が、ベルト伝動装置21及びHST23を介してミッションケース12に伝達される。ミッションケース12に伝達された回転動力は、該ケース12内のトランスミッションにより変速された後、走行動力と外部取出動力に分岐して取り出される。そして、走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13に伝達されて前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ギヤケース18,18に伝達されて後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた植付クラッチケース25に伝達され、それから植付伝動ケース68によって苗植付部4へ伝動されるとともに、施肥伝動機構28によって施肥装置5へ伝動される。
【0013】
エンジン20の上部はエンジンカバー30で覆われており、その上に座席31が設置されている。座席31の前方には各種操作機構を内蔵するフロントカバー32があり、その上方に前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられている。エンジンカバー30及びフロントカバー32の下端左右両側は水平状のフロアステップ35になっている。
【0014】
フロアステップ35は一部格子状になっており(図2参照)、座席31に着座して機体を操縦する操縦者が前輪10及び後輪11を見通せることができて操縦が容易な構成となっていると共に、該ステップ35を歩く作業者の靴についた泥が圃場に落下するようになっている。フロアステップ35の後部は、後輪フェンダを兼ねるリヤステップ36となっている。
【0015】
また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく予備苗載台38,38が機体よりも側方に張り出す位置と内側に収納した位置とに回動可能に設けられている。
苗植付部4を昇降する昇降リンク装置3は平行リンク構成であって、1本の上リンク40と左右一対の下リンク41,41を備えている。これらリンク40,41,41は、その基部側がメインフレーム15の後端部に立設した背面視で門形のリンクベースフレーム42に回動自在に取り付けられ、先端側には縦リンク43が連結されている。そして、縦リンク43の下端部に苗植付部4を構成する苗植付部フレーム29に回転自在に支承された連結軸44が挿入連結され、連結軸44を中心として苗植付部4がローリング自在に連結されている。メインフレーム15に固着した支持部材と上リンク40に一体形成したスイングアーム(図示せず)の先端部との間に昇降油圧シリンダ46が設けられており、該昇降油圧シリンダ46を油圧で伸縮させることにより、上リンク40が上下に回動し、苗植付部4がほぼ一定姿勢のままで昇降する。
【0016】
苗植付部4は6条植の構成で、苗植付部フレーム29、マット苗を載せて左右往復動し苗を一株分つつ各条の苗取出口51a・・・に供給するとともに横一列分の苗を全て苗取出口51a・・・に供給すると苗送りベルト51b・・・により苗を下方に移送する苗載台51、苗取出口51a・・・に供給された苗を圃場に植付ける苗植付装置52・・・、次行程における機体進路を表土面に線引きする左右一対の線引きマーカ(図示せず)等を備えている。
【0017】
苗植付部4の下部には中央にセンターフロート55、その左右両側にサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。これらフロート55,56,56を圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ滑走し、その整地跡に苗植付装置52・・・により苗が植付けられる。各フロート55,56,56は圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動が迎角センサ19(図10参照)により検出され、その検出結果に応じてコントローラ17(図10参照)が前記昇降油圧シリンダ46を制御する植付部昇降用電磁バルブ16を切り替えて苗植付部4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0018】
苗植付部4には圃場の乱れた泥土面を整地して均す整地ロータ27(左右サイドフロート56,56の各々の前方に配置された左右整地ロータ27a,27a,センターフロート55の前方に配置された中央整地ロータ27b)が取り付けられている。
【0019】
前記苗植付部フレーム29は、図4に示すごとく、苗載台51の下方左右中央部に配置されたセンターケース67と、該センターケース67の後方に左右並列に配置された3個の植付伝動ケース68(1〜3)と、センターケース67の左右側面と植付伝動ケース68(1〜3)の前端部を互いに連結する連結パイプ69(1,2)とで構成され、左右中央の植付伝動ケース68(2)の前端部はセンターケース67の背面に固着されている。
【0020】
そして、植付伝動ケース68(1〜3)の後端部から左右両側に突出する植付装置取付軸91(1〜3)の各突出部に苗植付装置52,・・・がそれぞれ装着されている。また、センターケース67の左右中央部から回転自在に支承された前記連結軸44が前方に突出しており、この連結軸44を前記縦リンク43に連結することで苗植付部フレーム29を昇降リンク装置3に装着するようになっている。
【0021】
走行車体2のミッションケース12から伝達される外部取出動力が、センターケース67に回転自在に支承された前後方向の第一入力軸70に入力される。そして、この第一入力軸70から横送り変速装置70aを介して、左右方向のリードカム軸71へ動力が伝達される。リードカム軸71は外周部に螺旋状の溝が形成された軸で、前記溝に係合する爪を備えた横移動体72がリードカム軸71に左右移動されるように外嵌されて設けられている。横移動体72は連結部材72aを介して苗載台51に連結されている。リードカム軸71が回転すると、横移動体72と一体に苗載台51が左右に往復動させられる。これにより、苗載台51上の苗が、苗載台51の下側で苗を支える苗受板83bに形成された苗取出口90,・・・に順次供給される。前記横送り変速装置70aを切り替えて、苗載台51の横移動速度を変更することにより、1行程あたりの苗取り数を調節することができる。
【0022】
図6に示す如く、各植付クラッチケース25(1〜3)内には、植付装置取付軸91(1〜3)の駆動を入・切するための植付畦クラッチ77(1〜3)がそれぞれ設けられている。各植付畦クラッチ77(1〜3)は、3つの畦クラッチレバー78(1〜3)で各々操作するようになっており、植付装置52の駆動を2条単位で任意に入・切することができる。即ち、畦クラッチレバー78(1〜3)を切り方向に操作すると、操作ワイヤ79(1〜3)が緩み、各操作ワイヤ79(1〜3)の先端に設けられたクラッチ操作ピン79a(1〜3)が圧縮ばね79b(1〜3)にて突出作動し、各植付畦クラッチ77(1〜3)のカム面に接当して、各植付畦クラッチ77(1〜3)を切り操作するようになっており、植付装置52の駆動を2条単位で任意に入・切することができる。
【0023】
苗載台51は苗植付部4の上部レール87が苗植付部フレーム29に基部が固定された矩形状の支持枠体65bに固着の支持ローラ65aに受けられて左右方向にスライドする構成である。
【0024】
この苗載台51は、前側が上位となるよう傾斜して設けられており、フェンス部81によって各植付条ごとの苗載部80−1〜6に区分されている。苗載台51は苗載面の裏側で左右動自在に支持されている。その支持構造は、図5に示すごとく、苗載面の裏面側下部に左右方向に設けた横枠82に係合摺接部材84を固着し、該係合摺接部材84を植付伝動ケース68(1〜3)の上に設けた左右に長い支持レール83に左右に摺動自在に係合させていると共に、左右植付伝動ケース68(1〜3)に基部が固着された支持枠体65bの上端部に取り付けた支持ローラ65aを苗載面の裏面上部に固着した左右方向の断面コ字状の上部レール87に係合させている。そして、前記横移動体72が連結部材72aを介して横枠82に連結され、横移動体72が左右往復動することにより苗載台51も支持レール83に沿って左右往復動するようにしている。なお、各苗載面80の上端部には、延長苗載せ部89が苗載面側へ回動可能に取り付けられている。
【0025】
前記支持レール83は、係合摺接部材84が係合する断面長方形の部位83aと、苗載面上にある苗の下端面を受け止める断面L字状の部位(苗受板)83bとを一体成形したものであり、苗受板83bには各苗載面に対応させて6箇所にコ字状に切り欠かれた苗取出口90が形成されている。苗載台51が左右往復動することにより、苗載面下端部に位置する苗が1株分づつこの苗取出口90に順次供給される。植付装置52の植付具162がこの苗取出口90を通過し、苗を1株分に分割して取り出す。
【0026】
支持レール83は次のように支持されている。すなわち、植付伝動ケース68に固着のブラケット94に取り付けたガイドプレートに対し上下に摺動自在に支持レール取付部材96を設け、さらに該取付部材96に支持レール83を取り付けている。また、ブラケット94には左右方向の苗取り量調節パイプ97が回転自在に嵌合しており、該苗取り量調節パイプ97に固着したアーム98の先端部が支持レール取付部材96にピン99にて連結されている。図示を省略した苗取り量調節レバーを用いて苗取り量調節パイプ97を回転させると、支持レール取付部材96とそれに一体な支持レール83とが苗載台51と平行に上下移動し、それにより植付具162による苗取り量が調節される。
【0027】
各苗載部80−1〜6の裏面側下部には、苗載部の苗を苗取出口90側へ移送する苗送り手段である左右一対で1組の苗送りベルト51bが各条ごとに設けられている。苗送りベルト51bは外周部に小突起が形成された無端ベルトであって、駆動ローラ103と従動ローラ104とに張架されている。駆動ローラ103は左右方向の苗送り駆動軸105の外周部に回転自在に嵌合しており、苗送り駆動軸105と駆動ローラ103とが苗送り畦クラッチ106(1〜3)を介して入・切可能に伝動連結されている。
【0028】
苗送りベルト51bの駆動機構は,図5の構成となっている。すなわち、前記リードカム軸71には、先端部に苗送りカム108が取り付けられている。また、苗送り駆動軸105の上側には左右方向の中継軸109が設けられ、それに苗送り駆動アーム110が取り付けられている。中継軸109と苗送り駆動軸105とは、アーム111a,111b及びリンク111cとからなるリンク機構111と苗送り方向にのみ回転が伝達されるワンウエイクラッチ111dにより伝動連結されている。
【0029】
苗載台51が左右行程の端部に到達すると、苗送りカム108が苗送り駆動アーム110に当接して、中継軸109を所定角度回転させる。その回転がリンク機構111とワンウエイクラッチ111dを介して苗送り駆動軸105に伝達される。これにより、苗送り畦クラッチ106が入りの状態にあるときには、苗送りベルト51bが所定量だけ作動する。苗送りカム108が苗送り駆動アーム110から離れると、スプリング112の張力によって中継軸109及び苗送り駆動軸105は駆動前の位置に戻る。
【0030】
前記3つの畦クラッチレバー78(1〜3)を各々操作することにより、各植付畦クラッチ77(1〜3)による植付装置52の駆動の入・切に対応して、苗送り駆動も隣接する2条づつ1ユニットで苗送り畦クラッチ106(1〜3)によって伝動が入・切されるようになっている。
【0031】
即ち、例えば、畦クラッチレバー78(1)を切り操作すると、操作ワイヤ79(1)が緩み、操作ワイヤ79(1)の先端に設けられたクラッチ操作ピン79a(1)が圧縮ばね79b(1)にて突出作動し、植付畦クラッチ77(1)のカム面に接当して、植付畦クラッチ77(1)が切り操作されて対応する2条の植付装置52の駆動が切れる。
【0032】
同時に、操作ワイヤ107(1)が緩み、操作ワイヤ107(1)の先端に連係された苗送り畦クラッチ作動アーム107a(1)が巻きばね107b(1)にてクラッチ切り方向に作動し、植付畦クラッチ77(1)が切られた2条の植付装置52に対応する苗載部80−1,80−2の苗送り畦クラッチ106(1)が切りになり、その苗送りベルト51bの作動が停止する。同様に、畦クラッチレバー78(2)を切り操作すると、操作ワイヤ79(2)が緩み、植付畦クラッチ77(2)が切り操作されて対応する2条の植付装置52の駆動が切れ、同時に、操作ワイヤ107(2)が緩み、植付畦クラッチ77(2)が切られた2条の植付装置52に対応する苗載部80−3,80−4の苗送り畦クラッチ106(2)が切りになり、その苗送りベルト51bの作動が停止する。
【0033】
そして、畦クラッチレバー78(3)を切り操作すると、操作ワイヤ79(3)が緩み、植付畦クラッチ77(3)が切り操作されて対応する2条の植付装置52の駆動が切れ、同時に、操作ワイヤ107(3)が緩み、植付畦クラッチ77(3)が切られた2条の植付装置52に対応する苗載部80−5,80−6の苗送り畦クラッチ106(3)が切りになり、その苗送りベルト51bの作動が停止する。
【0034】
従って、畦クラッチレバー78(1〜3)の切り操作にて、操作ワイヤ79(1〜3)と操作ワイヤ107(1〜3)が緩む方向で、植付畦クラッチ77(1〜3)及び苗送り畦クラッチ106(1〜3)が共に切り操作される。
【0035】
植付装置52は、前記植付装置取付軸91に連結された回転ケース161と、該回転ケースの両端側部に取り付けられた一対の植付具162,162とからなる。回転ケース161内の伝動機構により植付具162,162が回転ケース161の回転方向と逆方向に回転し、植付具162,162に固定したフォーク状の苗分離具の先端が上下に変形楕円状の閉軌跡を描くよう作動する。これにより、植付具162の苗分離具が、苗取出口90に供給された苗載台51上の苗を分離して保持し、それを圃場面に植え付ける。
【0036】
図7は、植付畦クラッチ77を内装した植付クラッチケース25の断面図で、常時回転する駆動軸125に畝間隔調整用のシフトギア128がスプライン嵌合して軸方向へスライド可能に装着され、この駆動軸125と平行に設けたシフト軸126に固着のシフタ127で該シフトギア128をスライドして変速する。変速ギアは、駆動軸125と出力軸135とにそれぞれ装着したギア129とギア131、ギア130とギア132、ギア129とギア132、ギア133とギア134が噛み合うことで、4段階に変速される。
【0037】
出力軸135側のギアに伝動された回転は、ギア142からギア141へ伝動され、さらにギア141の回転が偏心ギア139から偏心ギア140へ伝動され、不等速切換クラッチ138を介して出力軸135に伝動される。さらに、出力軸135の片側に植付畦クラッチ77を介して苗植付装置52に連結する植付伝動ケース68の伝動軸100が装着されている。不等速切換クラッチ138は操作具137でスライドして偏心ギア140かギア142と噛み合って出力軸135に回転が伝わる。出力軸135の他方軸端には発電機136を取付けて偏心ギア139と偏心ギア140の最大偏心時にこの発電機136に抵抗を負荷することで駆動負荷を与えてトルク変動を軽減し軸のシャクリ現象を改善している。
【0038】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61・・・によって一定量づつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62・・・でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド62a・・・まで導き、施肥ガイド62a・・・の前側に設けた作溝体62b・・・によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。電動モータ66で駆動するブロア58で発生させたエアが、左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62・・・に吹き込まれ、施肥ホース62・・・内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。なお、ブロア58は、ミッションケース12に設ける出力軸から伝動するベルト伝動機構で駆動するようにしても良く、走行停止時や後進時にはブロア58を駆動しないようにする。
【0039】
図8,9は、苗送りベルト102の駆動を電動にした実施例で、苗載台51の裏面に取り付けたブラケット115に苗送り量設定モータ116と苗送り駆動量センサ117及び苗送り量設定船さ14を取り付け、苗送り駆動モータ116の出力軸118に駆動ローラ103を固着しコントローラ17の駆動指令により苗送りベルト51bを回動して苗を苗取出口51aへ送り出す。
【0040】
苗送り駆動量センサ117は、苗載台51に向けて直角に回動するよう付勢してブラケット115にピン123で枢支したアーム122に取り付け、該アーム122の先端に枢着した苗当接ギア121の回転をピニオンギア119とセンサギア120で増速回転させて、この苗送り駆動量センサ117で苗送り駆動量を検出するようにしている。
【0041】
図10は、苗植付部4の昇降を自動制御する苗植昇降制御装置のコントローラ17への制御信号入出力を示す制御ブロック図である。入力信号は、ハンドル34の近傍に設けた畦越え植付スイッチ6から苗植昇降制御装置を作動させるためのオン・オフ信号、走行車体2に設けた前後傾斜角センサ7からの傾斜角度信号、後輪11の回転数を検出する後輪回転数センサ8からの回転数信号、昇降リンク装置3に設ける昇降リンクセンサ14からの苗植付部4の走行車体2に対する位置信号、センターフロート55に設けた迎角センサ19からのセンターフロート55の傾き信号、植付スイッチ22から苗植付部4を作動させるためのオン・オフ信号である。出力信号は、昇降油圧シリンダ46の伸縮を制御する植付部昇降用電磁バルブ16への伸縮指令信号と植付クラッチモータ24への植付駆動信号である。
【0042】
図11は、畦越え植付昇降制御モードの制御フローチャートで、ステップS1で各入力データ信号を読込み、ステップS2で後輪回転数センサ8からの回転数信号から算出した車速が0であるかの判定を行い、0であればステップS10で昇降動作を停止する。0以外であればステップS3の迎角センサ19からのセンターフロート55の迎角判定に移行する。迎角が一定角度α以上であればステップS5車速判定に移行し一定角度α以下であればステップS4の植付制御に移行する。
【0043】
ステップS5で車速が一定速度A以上であればステップS6で苗植付部4の上昇速度を速くする。車速が一定速度A未満であればステップS7の車速判定を行う。このステップS7の車速判定で車速が一定速度B以下であればステップS8で苗植付部4の上昇速度を遅くする。車速が上下一定速度A,Bの間であればステップS9で標準速度で苗植付部4を上昇させる。
【0044】
なお、上記の制御では走行速度が速く、標準、遅くの三段階で苗植付部4の上昇速度を変えているが、車速に応じて細かく上昇速度を変える方が追従性が良い。また、センターフロート55の迎角が大きくなるに従って苗植付部4の上昇速度を速くするのも良い。
【0045】
図12は、畦際から圃場の中央に向かって植え始める場合に畦際に植えるための制御で、ステップS10の後進判定で50センチ後進していれば、ステップS11で昇降リンクセンサ14が下降位置であるかすなわち苗植付部4が植付位置にあるかを判定し、植付位置であればステップS12で植付スイッチ22の入を判定し、入であればステップS13で植付クラッチモータ24を入にして一列すなわち六条分の植付を行う。
【0046】
図13は、図8,9の実施例における苗送り制御のフローチャートで、ステップS20で苗送り量検出センサ117で非苗送り時の苗移動量すなわちずれ落ち量Aを検出し、ステップS21でずれ落ち量Aと苗送り駆動量センサ値Dから補正基準値Eを演算し、ステップS22で苗送り目標値Bを所定の演算式(苗送り量設定値C−補正基準値E×苗送り量調節ダイヤル値K)で演算し、ステップS23で苗送り量設定センサ値が苗送り目標値Bとなるように苗送り駆動モータ116へ出力する。これにより、非苗送り時に機体の振動等により苗が自ずと送られた量を加味して適正な苗送り量の制御が行えると共に、苗送り量調節値となる苗送り量調節ダイヤル値Kを手動で調節できる苗送り量調節ダイヤル(苗送り量調節具)により、脆弱度等の苗の状況に応じて適正な苗送り量に設定することができる。例えば、脆弱な苗において、非苗送り時のずれ落ち量Aがあっても苗自身が縮みやすいため、苗が概ね圧縮されただけで実質的な苗移動量が小さい場合は、苗送り量調節値を小さく変更して、ずれ落ち量Aひいては補正基準値Eによる補正度合を小さくするのである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】乗用型田植機の側面図である。
【図2】乗用型田植機の平面図である。
【図3】苗植付部の背面図である。
【図4】苗植付部の駆動力伝動展開図である。
【図5】苗載台下部の側断面図である。
【図6】畦クラッチと苗送り畝クラッチの切換作用説明図である。
【図7】植付クラッチケースの断面図である。
【図8】苗載台の拡大側面図である。
【図9】苗載台の拡大側面図である。
【図10】制御ブロック図である。
【図11】制御フローチャート図である。
【図12】制御フローチャート図である。
【図13】制御フローチャート図である。
【符号の説明】
【0048】
2 走行車体
4 苗植付部
7 前後傾斜検出手段(前後傾斜角センサ)
8 走行速度検出手段(後輪回転数センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の後側に苗植付部(4)を装着した苗植機において、走行車体(2)の前後傾斜検出手段(7)と走行速度検出手段(8)を設け、前後傾斜検出手段(7)による走行車体(2)の前上がり傾斜の検出で畦越え植付昇降制御モードに移行し、この畦越え植付昇降制御モードでは走行速度検出手段(8)が検出する走行速度の高低に応じて苗植付部(4)の上昇速度を高低に変更して制御する苗植昇降制御装置を設けたことを特徴とする苗植機。
【請求項2】
畦越え植付昇降制御モードでは、走行速度が零では苗植付部(4)の上昇を停止する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の苗植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−201483(P2009−201483A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50201(P2008−50201)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】