説明

荷電粒子ビーム系用の単段式荷電粒子ビームエネルギー幅低減系

本発明は、荷電粒子ビーム装置を提供する。この装置は、クロスオーバを生成する第1のレンズ(101、510)と、このクロスオーバの後に位置決めされた第2のレンズ(102、512)と、中心がクロスオーバと本質的に同じz位置にあり、x−z面内で集束的かつ分散的に作用する要素とを備える。さらに、x−z面内およびy−z面内で作用する多極子要素が設けられる。第1の荷電粒子選択要素および第2の荷電粒子選択要素を使用して、荷電粒子の一部を選択する。それによって、例えば、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭めることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、検査システム、試験システム、リソグラフィシステムなどに応用する荷電粒子ビーム装置に関する。本発明は、荷電粒子ビーム装置を動作させる方法にも関する。本発明はさらに、荷電粒子選択系に関する。詳細には、本発明は、荷電粒子ビーム装置および荷電粒子ビームエネルギー幅低減系を使用する方法に関する。
【発明の背景】
【0002】
荷電粒子ビーム機器は、いくつかの産業分野で用いられる多くの機能を有する。これらの産業分野には、製造中の半導体デバイスの検査、リソグラフィ用の露光システム、検出装置、および試験システムが含まれるが、これらに限定されるものではない。そのため、マイクロメートルおよびナノメートルの尺度で試料を構築し検査することが強く求められている。
【0003】
マイクロメートルおよびナノメートルの尺度のプロセス制御、検査、または構築はしばしば、電子ビームなどの荷電粒子ビームによって行われる。これらの荷電粒子ビームは、電子顕微鏡または電子ビームパターン生成器などの荷電粒子ビーム装置内で生成され集束される。荷電粒子ビームでは、それらの波長が短いために、例えば光子ビームよりも優れた空間分解能が得られる。
【0004】
しかし、最新の低電圧電子顕微鏡では、収差により、実現可能な分解能が、1keVの電子エネルギーでは約3nmに制限される。したがって、特に低エネルギーの応用例では、色収差を低減することが望ましい。対物レンズのガウス像面内での色収差の収差ディスクの直径は、荷電粒子ビームの相対エネルギー幅ΔE/Eに比例する。
【0005】
電子ビームコラム内の電子は、放出プロセスおよびベルシュ(Boersch)効果、すなわち、確率的なクーロン相互作用によるエネルギー分布の広がりのために単色ではなく、そのため、相対エネルギー幅が広がる。上記を考慮すると、エネルギー幅ΔEは、ビーム電流に応じて約0.5〜1eVになる。
【0006】
例えば対物レンズの集束特性に基づいて色収差を最小限に抑える度合いをさらに高めることは難しい。この理由から、分解能をさらに向上させるために、モノクロメータを使用することが既に知られている。それによって、後で下流の電子−光学結像系によって処理する電子ビームのエネルギー幅ΔEを狭めることができる。
【0007】
荷電粒子用のモノクロメータとして、静電気双極子場と磁気双極子場を互いに直交させて重ね合わせるウィーンフィルタが知られている。
【0008】
例として、(Frosien他の)米国特許公開第6489621号は、粒子のエネルギーに応じて粒子ビームを分散させる第1および第2のウィーンフィルタによって粒子ビームのエネルギー幅を狭める装置と、エネルギー幅がある範囲に狭められた粒子を選択する開口とを示している。
【0009】
しかし、依然として、荷電粒子ビームエネルギー幅低減系の分散を大きくするのに適した系が求められている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、改良型荷電粒子系を提供する。それによって、系の分解能を改善することを意図している。本発明の態様によれば、独立請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置、および独立請求項29に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法が提供される。
【0011】
本発明のさらなる利点、特徴、態様、および細部は、従属請求項、説明、および添付の図面から明らかになる。
【0012】
本発明の一態様によれば、荷電粒子ビーム装置が提供される。この荷電粒子ビーム装置は、クロスオーバを生成する第1のレンズと、このクロスオーバの後に位置決めされた第2のレンズと、x−z面内で集束的かつ分散的に作用するウィーンフィルタ要素とを備える。このウィーンフィルタ要素は、クロスオーバが本質的にウィーンフィルタ要素の中央面内に配置されるように、z位置に関して位置決めされる。さらに、この荷電粒子ビーム装置は、x−z面およびy−z面内で作用する多極子要素を備える。この多極子要素は、クロスオーバが本質的に多極子要素の中央面内に配置されるように、z位置に関して位置決めされる。この荷電粒子ビーム装置はさらに、ビーム方向にウィーンフィルタ要素の前で位置決めされた第1の電子選択要素と、ビーム方向にウィーンフィルタ要素の後で位置決めされた第2の電子選択要素とを備える。
【0013】
そのため、静電気の場と磁気の場を組み合わせた集束効果は互いに相殺され、この静電気の場および磁気の場の励磁を強めることができる。そのため、荷電粒子の偏向角も、励磁の増加とともに大きくなる。この系の分散は、原理的に制限されない。
【0014】
本願では、用語は、好ましくは、z方向に多極子要素の長さの±5%の公差を含むと理解されたい。
【0015】
本願では、ウィーンフィルタ要素の代わりに、1つの面内で集束的かつ分散的に作用する他の要素も使用し得る。
【0016】
本願では、ここで開示するエネルギー幅低減要素をモノクロメータとしても示す。本願におけるモノクロメータという用語は、荷電粒子の単一のエネルギーを選択するものと理解すべきではなく、荷電粒子ビームをフィルタリングして、所望のエネルギー幅を得るものと理解すべきである。
【0017】
上記の態様によれば、異なるエネルギーを有する荷電粒子は、導入される分散のために分離する。しかし、より細部に立ち入ると、荷電粒子の速度に基づいて選択が行われることがわかる。この速度は、式(1)で与えられる。
(1)v=sqrt(2E/m)
【0018】
ただし、vは(絶対)速度であり、sqrtは平方根を示し、Eは荷電粒子のエネルギーであり、mは荷電粒子の質量である。あるいは、式(1)は、次のように記述し得る。
(2)v=sqrt(2qU/m)
【0019】
ただし、qは粒子の電荷であり、Uは加速電位である。ここで述べた態様は、例えば電子などの一定質量の粒子についてのエネルギー依存性選択に関係するものである。
【0020】
そうではあるが、本発明の一態様による機器は、荷電粒子の質量分析に使用することもできる。速度vが変化すると、異なる質量の異なる元素または1つの元素の異なる同位体が分離する。この変化は、例えば1keVのエネルギーでの、例えば1eVのエネルギー変化(これは、1e−3の相対エネルギー幅に相当する)を無視するのに十分に大きいものとする。
【0021】
上記を考慮すると、ここで説明するエネルギー幅の低減は一般に、速度分布幅の低減に適用し得る。式1によれば、速度分布幅の低減は、エネルギー幅の低減または質量分布幅の低減のいずれかである。質量分布は一般に離散値を有するので、質量分布幅の低減を質量の選択とみなすこともできる。
【0022】
質量の選択に関して、本発明の別の利点を説明することができる。例えばウィーンフィルタを利用する現況技術の質量分析計には、ウィーンフィルタの集束効果に基づいて、質量選択の後でビームが楕円形状になるという問題がある。本発明では、このビームフィルタの集束効果は完全に補償されるか、またはほぼ補償される。そのため、質量選択の後に楕円ビームになるという欠点を回避し得る。
【0023】
上記で説明したように、速度分布幅の低減は、エネルギー幅の低減または質量の選択のいずれかとし得る。その結果、本発明の態様に関して、速度分布幅低減系は、エネルギー幅低減系または質量選択系のいずれかとし得る。さらに、速度依存性選択要素は、エネルギー依存性選択要素または質量依存性選択要素のいずれかとし得る。
【0024】
ある態様によれば、各荷電粒子が同じ質量を有する系を提供し得る。この荷電粒子ビーム速度分布幅低減系は、荷電粒子ビームエネルギー幅低減系として使用される。別の態様によれば、各荷電粒子が異なる質量を有する系を提供し得る。この荷電粒子ビーム速度分布幅低減系は、荷電粒子ビーム質量選択系として使用される。
【0025】
以下では、説明をより簡単にするために、エネルギー幅の低減に言及する。ただし、ここで説明する態様、細部、および実施形態は、荷電粒子の質量の選択に利用することもできる。そのため、ここで説明する態様、細部、および実施形態は一般に、速度分布幅の低減に利用することができる。
【0026】
別の態様によれば、第1の荷電粒子選択要素は、荷電粒子角度依存性選択要素であり、第2の荷電粒子選択要素は、荷電粒子エネルギー依存性選択要素である。そのため、第1の荷電粒子によりビーム形状が生成される。この整形されたビームが、荷電粒子のエネルギーに応じて偏向された後で、第2の荷電粒子選択要素は、公称エネルギーからずれた荷電粒子または公称エネルギーからのずれが許容範囲外である荷電粒子を遮蔽する。
【0027】
別の態様によれば、第1の荷電粒子選択要素および第2の荷電粒子選択要素の形状は、それぞれ対応している。すなわち、第2の荷電粒子選択要素の形状は、第1の荷電粒子ビーム選択要素によって生成される荷電粒子ビームの形状に適合される。
【0028】
第2の荷電粒子選択要素はクロスオーバのところに位置決めされていないので、これを、荷電粒子のエネルギーに依存し、かつ角度に依存する選択要素とみなすこともできる。
【0029】
別の態様によれば、ウィーンフィルタ要素の場の領域の長さと多極子要素の場の領域の長さは本質的に同等である。そのため、すべてのz位置で、ウィーンフィルタ要素の集束特性を補償することができる。
【0030】
本願では、ビームの方向はz軸に相当する。特にことわらない限り、「場(領域)の長さ」または「構成要素の長さ」という用語は、z方向の寸法を指す。
【0031】
別の態様によれば、荷電粒子ビームエネルギー幅低減系およびそれを動作させる方法が提供される。そのため、5よりも大きい励磁glを実現し得る。集束効果に基づく制限なしに系の分散が連続的に増加するので、励磁の増加を分散の増加に利用することができ、それによって系が改善される。
【0032】
別の態様によれば、エネルギー幅低減系の構成要素は、この系の正規化した分散x/lと励磁glの関係が厳密に、典型的には線形に増加するように配置かつ/または動作される。別の態様によれば、この厳密な増加は、離散値によって実現される。
【0033】
別の態様によれば、第1のレンズは拡大レンズであり、第2のレンズは縮小レンズである。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。さらに、別の態様によれば、第1および第2のレンズは液浸レンズである。第1レンズを使用して、荷電粒子ビームを減速してウィーンフィルタ要素を通過させ、第2レンズは、その後で荷電粒子ビームを加速する。それによって、一方では、荷電粒子が選択され、荷電粒子ビームは拡大される。他方では、分散型ウィーンフィルタによる偏向が増加する。両方の態様を利用して、荷電粒子ビームエネルギー幅の低減を簡略化することができる。
【0034】
別の態様によれば、多極子要素およびウィーンフィルタ要素は、単一の多極子コンポーネントによって提供され、好ましくは、この多極子コンポーネントを使用して、例えばビーム位置合わせ、収差補正などのための別の場を生成することができる。それによって、相互に調整しなければならないコンポーネントの数が少なくなる。
【0035】
別の態様によれば、この多極子要素は、磁気4極子要素および/または静電気4極子要素を備える。
【0036】
別の態様によれば、荷電粒子ビームエネルギー幅低減系を使用する方法が提供される。この方法は、ウィーンフィルタ要素、4極子要素、第1の荷電粒子選択要素、および第2の荷電粒子選択要素を提供するステップを含む。この方法はさらに、第1の荷電粒子選択要素によって荷電粒子を選択するステップと、ウィーンフィルタ要素および4極子要素を励磁するステップと、x−z面内で集束効果がなく、y−z面内で実質的に集束効果がないようにウィーンフィルタ要素および4極子要素の場の強さを調整するステップと、第2の荷電粒子選択要素によって荷電粒子を選択するステップとを含む。
【0037】
x−z面内で集束効果が補償されるので、ウィーンフィルタ要素の励磁を強くすることができる。それによって、荷電粒子ビームのエネルギー幅を狭めることができる。
【0038】
別の態様によれば、ウィーンフィルタ要素および4極子要素の場の強さを、複数の離散値から選択される値に調整する。それによって、y−z面内で実質的に集束効果がない結像が実現される。
【0039】
実質的に集束効果がないという用語は、粒子光学系の後で、粒子ビームが、ウィーンフィルタ要素のx−y中央面から発するように見えることを意味する。
【0040】
別の態様によれば、ウィーンフィルタ要素および4極子要素は、ウィーンフィルタ要素および4極子要素の場の領域のそれぞれのx−y中央面のz位置と本質的に同等のz位置を伴うクロスオーバが生成されるように照明される。
【0041】
別の態様によれば、荷電粒子ビームは、荷電粒子ビームエネルギー幅低減系内で位置合わせされる。それによって、選択すべき荷電粒子エネルギーを選択することができる。
【0042】
本発明は、ここで説明する各方法ステップを実施する機器部分を含めて、ここで開示する方法を実施する機器も対象とする。これらの方法ステップは、ハードウエアコンポーネント、適切なソフトウエアによってプログラムされたコンピュータ、これら2つの任意の組合せ、または他の任意のやり方によって実施し得る。さらに、本発明は、ここで説明する機器を動作または製作する方法も対象とする。この方法は、この機器のあらゆる機能を実施する方法ステップを含む。
【0043】
以下の説明では、本発明の上記で示した態様および他のより詳細な態様の一部を説明し、図を参照して部分的に例示する。
【図面の詳細な説明】
【0044】
本願の保護範囲を限定することなく、以下では、荷電粒子ビーム装置またはその構成要素を、例えば、電子ビーム装置またはその構成要素と称する。この場合、電子ビームは、特に検査またはリソグラフィに利用することができる。本発明は依然として、荷電粒子、および/または他の2次および/または後方散乱による荷電粒子の他の放出源を使用して試料の像を取得する機器および構成要素に適用し得る。
【0045】
例えばx−z面またはy−z面に関係する本明細書でのすべての考察では、これらの面は本質的に互いに直交すると理解されることも当業者には理解されよう。本願での理論的な考察では数学的な意味での座標について言及するが、それぞれの構成要素は、x−z面およびy−z面が、約80°〜100°、好ましくは87°〜93°、より好ましくは約89°〜91°の角度をなすように実際に相互に位置決めすることができる。
【0046】
さらに、本願の保護範囲を限定することなく、以下では、荷電粒子ビームは、1次荷電粒子ビームと称する。本発明は依然として、2次荷電粒子および/または後方散乱荷電粒子に用いることができる。それによって、例えば、結像光学系内で荷電粒子のエネルギー分布を制御することができる。
【0047】
以下の図面の説明では、同じ参照数字は、同じ構成要素を指す。概ね、個々の実施形態に関する差異のみを説明する。
【0048】
次に図12および図13を参照して、ウィーンフィルタのいくつかの原理を説明する。図12aに、ウィーンフィルタ要素122と、このウィーンフィルタ要素が荷電粒子121に及ぼす影響とを示す。この双極子ウィーンフィルタは、静電界Eおよび磁界Bを含む。これらの電磁界は互いに直交している。矢印121で示す荷電粒子のエネルギーは公称値からずれている。公称エネルギーを有する荷電粒子だけが、ウィーンフィルタを真っ直ぐに通過することができる。そのため、非ウィーン公称エネルギーの荷電粒子121は、光軸から偏向し、その結果、荷電粒子ビーム20になる。
【0049】
図12aに示すものに類似の図は多くの教科書で見ることができる。実際に適切には、ウィーンフィルタの励磁をさらに強くする。図12aおよび図12bに、そのための例を示す。励磁を強くし始めると、それによって、荷電粒子ビーム21で示すように偏向角が大きくなる。しかし、ウィーンフィルタ122の励磁をさらに強くすると、荷電粒子ビームは、制限偏向角に達する。励磁をさらに強くすると、偏向角は小さくなり(図12b参照)、荷電粒子は光軸に向かって偏向される。このように、励磁をさらに強くしても、偏向角はある種の制限よりも大きくならない。この偏向角は、エネルギー依存性荷電粒子選択に必要なものである。
【0050】
このことは、図13aを参照するとよりよく理解されよう。図13aには、光軸(z軸)に沿った長さがLのウィーンフィルタ132を示す。入射荷電粒子131は、静電界および磁界のために結像される。ウィーンフィルタは、その分散特性に加えて、結像特性を有する。下の図に、偏向角とz位置の関係を示す。位置zおよび位置ziiでは、角度はほぼ同じである。このように、全励磁を用いなくても、異なるエネルギーの荷電粒子間の分離を大きくすることができるはずである。
【0051】
励磁という用語は、図13aと図13bを比較するとよりよく理解されよう。図13bのウィーンフィルタの長さLはより短い。しかし、ビーム経路32は、ビーム経路30に類似している。これは、ウィーンフィルタ134内の場の強さをより大きくすることによって実現される。このことを、場の記号をより大きくすることによって示す。この励磁は、ウィーンフィルタの長さと場の強さの積とみなし得る。
【0052】
図1に、ウィーンフィルタ110のx−z面での図を示す。荷電粒子、例えば電子は、ウィーンフィルタ110にある角度で入射し、ビーム経路10をたどる。図2に、同じ系を示す。光軸に平行に、かつ光軸に対してあるオフセットでウィーンフィルタ110に入射する別の電子は、例えばビーム経路11をたどる。上記のビーム経路10および11はともに、ウィーンフィルタ110のx−z面での集束作用のために生じる。上記で説明したように、x−z面内でのこの集束作用により、励磁を増加させる場合の偏向角の上限が生じる。
【0053】
図3に、このウィーンフィルタの場と4極子要素310の場を重ねた系を示す。この4極子要素は、x−z面で非集束効果を示すように配置される。4極子要素310の励磁は、その非集束効果とウィーンフィルタ110の集束効果とが互いに相殺されるように選択する。こうすると、光学系110/310に入射する電子は、x−z面で集束作用を受けない。図3に示すように、粒子は、ビーム経路13aおよび13bで示すようにこの系を真っ直ぐに通過する。
【0054】
図4を参照して、ウィーンフィルタ−4極子要素の組合せ光学系のy−z面での効果を説明する。ウィーンフィルタ110aは点線で描いてある。この点線は、この双極子ウィーンフィルタがy−z面では電子に何の影響も及ぼさないことを示している。そのため、y−z面では、電子は4極子要素の影響しか受けない。x−z面で非集束効果を示す4極子要素310は、y−z面では集束作用を示す。図4では、ビーム経路の例13aおよび13bを見ることができる。
【0055】
上記で説明したように、ウィーンフィルタ110と4極子310の組合せは、組合せの結果、x−z面で集束効果がなくなるように配置し得る。そのため、例えば図13aに示すような結像様式が生じることなく、励磁をさらに強めることができる。そうではあるが、公称エネルギーからずれた電子については、ウィーンフィルタ要素110により分散が導入される。そのため、ウィーンフィルタの集束効果によってもたらされる制限を越えて励磁を強めることができる(図12a〜図13b参照)。
【0056】
次に、図5aおよび図5bを参照して、上記で説明した効果を利用する実施形態を説明する。図5aに、単段式電子エネルギー幅低減系をx−z面で示し、図5bに、同じ系をy−z面で示す。この系は、電子ビーム15を集束させる第1のレンズ510を備える。この第1レンズは縮小レンズとし得る。ただし、これに限定されることなく、第1レンズとして拡大レンズを用いることがより一般的である。電子選択手段514は、電子ビームの一部を遮蔽する。こうすると、規定の形状の電子ビームが生成される。このビーム整形開口手段514は、電子ビームの角度の広がりが制限されるので、電子角度依存性選択要素とみなし得る。
【0057】
整形された電子ビームは、ウィーンフィルタ−4極子要素合成系500に入射する。結像上の理由から、系500は、この系の中心501が、本質的に電子ビーム15のクロスオーバのところに位置するように位置決めされる。ウィーンフィルタ−4極子要素の系500は、x方向には電子に結像効果をもたらさない。したがって、公称エネルギーEを有する電子は、偏向されずにこの系を通過する。しかし、公称エネルギーEからずれたエネルギーを有する電子は、ウィーンフィルタによって導入される分散の影響を受ける。これらの電子のエネルギーが公称エネルギーEよりも小さいか、または大きいかに応じて、これらの電子は、ビーム15aまたは15bに従って偏向される。光学系500の下には、第2の電子選択手段516がある。この選択手段の開口は、公称エネルギーを有する電子またはエネルギーのずれが許容範囲である電子が、この電子選択手段によって遮蔽されず、それを通過することができるように形成される。公称エネルギーEからずれたエネルギーを有する電子の一部(15aおよび15b参照)は、この電子選択手段によって遮蔽される。光学系500の後に配置された開口手段516は、Eからずれたエネルギーの電子を遮蔽することができるので、電子エネルギー依存性選択手段とみなし得る。電子エネルギー依存性選択手段516の開口を通過する電子は、レンズ512によって結像される。
【0058】
次に、y−z面内で光学系500を通過するビーム経路を説明する。第1のレンズ510、第1の電子選択要素514、ウィーンフィルタ−4極子要素合成系500、第2の電子選択要素516、および第2のレンズ512は、図5aに関して既に説明した。図5aと異なり、y−z面内の図(図5b参照)では、電子ビーム15は、4極子要素のy方向の集束作用のために結像される。ただし、実質的に集束効果がないようにy−z面で電子ビーム15を結像させる複数の規定励磁レベルが存在する。
【0059】
この電子ビームは、系500のx−y中央面から発するように見える。この電子ビームの仮想起点は、系500内に場が存在しない場合にレンズ510によって生成されるクロスオーバである。
【0060】
図6bに、このような離散励磁レベルについての別の例を示す。4極子要素を、y−z面内で3つのクロスオーバが存在するように励磁する。図5bと図6bを比較すると、4極子要素を励磁する方法の原理を理解することができる。y−z面内で結像全体が影響を受けないように見えるように離散励磁レベルを定義する。これらの離散値により、4極子要素の可能な励磁が規定される。x−z面内ではウィーンフィルタ要素および4極子要素の集束効果が互いに相殺されるように選択すべきであり、かつ、4極子要素の励磁はこれらの離散値の1つになるように選択しなければならないので、ウィーンフィルタの励磁は4極子要素の励磁に適合させなければならない。図6aに、図6bに対応するx−z面内での図を示す。図5bよりも図6bの4極子の励磁を強くするには、ウィーンフィルタの励磁も強くすることを必要とする。公称エネルギーEを有する電子は、ビーム経路16をたどり、x方向には偏向されない。しかし、図6aでは、ウィーンフィルタの励磁を強めるために、公称エネルギーからずれたエネルギーを有する電子は、図5aよりも大きく偏向する。このことは、ビーム経路16a、16bと、ビーム経路15a、15bとをそれぞれ比較することによって理解することができる。
【0061】
本発明は、図14aおよび図14bに関して理解することもできる。図14aには、先行技術の系および本発明についての正規化した分散x/lを示す。正規化係数lは、分散領域の長さである。ここで検討した先行技術の系は、一般の双極子ウィーンフィルタである。曲線142からわかるように、先行技術の系の正規化した分散の値は、0.36よりも大きくなることができない。一般に、双極子ウィーンフィルタを備えたすべての先行技術の系について、正規化した分散x/lの原理的な最大値は約0.4であると計算することができる。
【0062】
本発明のエネルギー幅低減系はx方向には集束的に作用しないので、励磁glがさらに増加するとともに、正規化した分散はさらに増加する(曲線141参照)。この励磁は、双極子電位と、励磁領域の長さを2で割ったものと、荷電粒子電位との積で与えられる。
【0063】
概ね妥当な正規化した分散から、特別な例を計算することができる。図14bに一例を示す。ここでは、長さが100mmでビームエネルギーが1keVの双極子ウィーンフィルタである先行技術の系の最大分散値は、励磁glが約2.3のときに生じ、約36μm/eVである(曲線144参照)。同じ長さ、同じ双極子電位、および同じ電子エネルギーを用いて、本発明で得られる分散は、約1.6倍、すなわち58μm/eVになる。励磁glがより大きいと、本発明の可能な改善はさらに大きくなる(曲線143参照)。
【0064】
図7aおよび図7bに、電子選択要素514/516の実施形態についての異なる例を示す。ここでは、第1の電子選択要素と第2の電子選択要素を同じものとして示す。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。好ましくは、電子角度依存性選択要素と電子エネルギー依存性選択要素の間では、少なくとも開口706、705、または704のサイズを異なるものとする。
【0065】
本発明を限定することなく、典型的な実施形態によれば、第1の電子選択要素および第2の電子選択要素は円形の開口を有する。
【0066】
本発明を限定することなく、第1の電子選択要素が円形開口を有し、第2の電子選択要素がスリット開口を有することがさらに可能である。あるいは、第1の電子選択要素は円形開口を有し、第2の電子選択要素は、図7dまたは図7eによる選択用エッジ、すなわちナイフエッジを備える。
【0067】
さらに、例えば、電子ビームが拡大する可能性を考慮に入れることができる。収差などのために電子ビームの形状が変形する場合、第2の電子選択要素の開口の形状をこの変形に適合させることがさらに可能である。
【0068】
図7aに、円形開口706を有する円板要素703を示す。円板要素702に当たるビームの部分を遮蔽することによってビームが整形される。第2の電子選択要素に関して、x方向にエネルギーに依存して偏向される電子は、第2のエネルギー依存性選択要素の円板要素702によって部分的に遮蔽される。それによって、電子ビームのエネルギー幅を狭めることができる。
【0069】
図7bに、スリット開口704を有する円形円板要素702を示す。モノクロメータ内では、このスリットはy方向に延びることになる。そのため、公称エネルギーを有する電子は、光軸からのy方向変位と無関係に、このスリットの中心を通過することができる。公称エネルギーからずれた電子は、x方向に偏向され、そのため、円板要素702によって遮蔽されることになる。
【0070】
このスリット開口を使用して、例えば、スリットの汚染された領域を避けることができる。スリットのある領域が汚染されている場合、この電子選択要素をy方向にずらすことができる。それによって、スリット開口704の汚染されていない異なる領域を使用し得る。
【0071】
図7cに、円板要素702および短いスリット705を備えた電子選択要素514/516を示す。スリット705のy方向の長さはより短い。したがって、このスリットを通過する電子は、光軸からy方向にそれほどずれないはずである。上記を考慮すると、図7cの電子選択要素514/516は、電子エネルギー依存性かつ角度依存性の選択要素とみなし得る。開口手段514/516は、x方向にはエネルギーに依存して、y方向には角度に依存して電子を選択する。
【0072】
図7dおよび図7eに関して別の実施形態を説明する。上記で説明した実施形態はすべて、少なくともxの正負の方向に電子を選択するものであった。しかし、公称ビーム経路からxの正または負の方向のいずれか一方にずれた電子のみを遮蔽する電子選択手段、すなわち選択用エッジを提供することも可能である。それによって、電子ビームを制限するエッジが1つだけ提供される。その2つの例が、要素514a/516aおよび514b/516bである。これらの要素はそれぞれ、中実部分708aまたは708bを有する。中実部分708aの右側を通過する電子はどれも遮蔽されず、中実部分708bの左側を通過する電子はどれも遮蔽されない。
【0073】
図7dおよび図7eのコンポーネントは様々な実施形態で使用し得る。これらのコンポーネントは別々に使用することもできるし、組み合わせて使用することもできる。次に、図7dまたは図7eのコンポーネントの一方を利用する第1の実施形態を説明する。いずれの側の電子エネルギースペクトルを遮蔽すべきかに応じて、514/516aまたは516bのいずれかの電子選択要素を使用し得る。電子選択用エッジは、電子エネルギースペクトルの低エネルギー部分または高エネルギー部分しか遮蔽し得ないが、以下で説明するように、これで十分なことがある。
【0074】
現況技術に関して説明したように、例えば、1次電子ビームのエネルギー幅を狭めることが望ましい。この場合、このエネルギー幅は、主に放出器特性の影響を受ける。そのため、所望のエネルギー選択は、放出器特性によって決まる。ショットキ型放出器または冷電界型放出器などの一部の放出器の放出スペクトルは非対称である。すなわち、放出される電子のエネルギースペクトルは、放出ピークの一方の側が急峻に変化し、このピークの他方の側では、スペクトルの形状はテール状に延びている。放出スペクトルの一方の側のテール状の形状により、エネルギー幅ΔEが左右される。そのため、このスペクトルのテール部を遮蔽すれば、エネルギー幅ΔEを十分に狭めることができる。上記を考慮すると、電子を選択するのにエッジのみを使用することで十分なことがある。
【0075】
次に、図7dおよび図7eの両方のコンポーネントを利用する第2の実施形態を説明する。これら2つの電子選択要素は、z方向に互いに隣接するように位置決めされる。そのため、各要素を使用して、公称エネルギーからのずれに応じて電子が選択される。これら2つの要素を組み合わせることによって、スリット704と同等のスリットが形成される。しかし、維持するのがより簡単であり、汚染される傾向が小さいなどの理由から、2つの別々のコンポーネントを設けるほうを用いることになろう。
【0076】
次に、図7dおよび図7eの両方のコンポーネントを利用する第3の実施形態を説明する。上記で説明した第2の実施形態を、以下のように発展させることができる。2つの別々の電子選択要素514/516aおよび514/516bを使用する場合、各要素を互いに独立に調整することができる。
【0077】
先に述べた電子エネルギー依存性選択要素の説明では、エネルギー幅ΔEの調整には触れなかった。図5a〜図6bに関して説明した系では、電子選択要素416の幅をx方向に調整することによって、電子エネルギー幅ΔEを調整する可能性が得られる。上記で説明した実施形態はすべて、開口幅変更手段を備えることができる。あるいは、それぞれ開口幅が固定の電子選択要素を、電子エネルギー幅を選択するために交換可能とし得る。
【0078】
あるいは、またはそれに加えて、(図示しない)別の実施形態によれば、電子選択要素を移動可能とし得る。
【0079】
図7dおよび図7eを参照して現在説明している実施形態では、電子選択要素のエッジをより容易に調整する可能性が得られる。さらに、互いに独立に選択要素を容易に調整する可能性が得られる。
【0080】
図8aに、それぞれの方法の流れ図を示す。方法ステップ801は、荷電粒子の生成を指す。荷電粒子が放出され、公称エネルギーEに加速される。ここで、電子ビームのエネルギー幅はΔEである。これらの電子は光学コラムを通過し、電子ビームエネルギー幅低減系の一部である多極子コンポーネントは、レンズによって照明される(ステップ802参照)。方法ステップ803によれば、これらの電子は、多極子コンポーネント内で偏向される。偏向角は、電子のエネルギーα(E)の関数である。このエネルギー依存性の偏向は、正のx方向に行われる。公称エネルギーEを有する電子は、x−z面内では集束されず、y−z面では実質的に集束されない。それぞれのエネルギーに応じて偏向された電子は、電子エネルギー依存性選択コンポーネントによって選択される(ステップ804参照)。
【0081】
図8aの点線の矢印で示すように、上記で説明した方法をさらに拡張することができる。第1の測定モードに対応する第1の偏向α(E)および対応する荷電粒子選択の後で、偏向をα(E)に改変することができる。この偏向の改変を利用して、荷電粒子ビームの電流またはエネルギー幅(それぞれの分解能)を制御することができる。このように、この装置を、第2の測定モード、または荷電粒子の偏向の改変によるさらに別の測定モードで動作させることができる。そのため、荷電粒子選択要素を機械的に調整する必要がない。
【0082】
図8bで、この偏向を実現するために多極子を動作させる方法を説明する。方法ステップ803は、本質的に以下の2つのステップを含む。一方では、方法ステップ805によれば、ウィーンフィルタ要素を励磁する。他方では、方法ステップ806によれば、x方向にウィーンフィルタ要素の集束効果が相殺され、y方向に実質的に集束効果がないように4極子要素を励磁する。実質的に集束効果をなくすることは、複数の離散励磁値の1つを選択することによって実現し得る。
【0083】
上記の方法を利用して、ガウス集束特性を有するウィーンフィルタ要素よりも励磁をさらに強め、それによって、分散をさらに強めることができる。
【0084】
図9a〜図9cに、ウィーンフィルタ要素と4極子要素の組合せの異なる実施形態を示す。これらの図は、z軸方向から見たものである。図9aでは、静電極902および903がある。これらの極を使用してx方向に電界を生成する。一般にコイルによって励磁する磁極912および913を使用してy方向に磁界を生成する。これらの極902、903、912、および913により、双極子ウィーンフィルタ要素が形成される。
【0085】
さらに、静電極922および923が設けられる。静電極902および903と合わせて、これらの静電極922および923により、ウィーンフィルタ要素のx方向の集束を補償するのに使用し得る静電気4極子が形成される。ウィーンフィルタ要素および4極子要素は極を共有する。そのため、これら2つの要素は、1つのコンポーネントとして提供される。それによって、構成および調整をさらに簡略化することができる。
【0086】
(図示しない)代替実施形態では、ウィーンフィルタ要素の静電極と静電気4極子要素の静電極を分離することができる。ウィーンフィルタ要素の極と4極子要素の極を分離する可能なやり方は、図9bを参照してより容易に理解されよう。
【0087】
図9bに、双極子ウィーンフィルタ要素(902、903、912、913)および磁気4極子932〜935を備えた実施形態を示す。磁気4極子要素によってx方向では集束せず、y方向では集束するように、ウィーンフィルタ要素の極に対して磁気4極子の極を45°回転させる。図9bの場合、ウィーンフィルタ要素および4極子要素を含む1つの多極子を設けるか、2つのコンポーネントを設けるかの2つの可能性があり得る。
【0088】
図9cに、静電気−磁気組合せ型多極子の実施形態を示す。それによって、2つの静電極および2つの磁極により、双極子ウィーンフィルタが形成される。さらに、静電気および/または磁気による4極子場を生成し得る。さらに、荷電粒子ビームを試料に結像する際に導入される収差を補償するために、高次の多極子場を生成し得る。このビームを位置合わせするために追加の双極子場を生成することができる。
【0089】
例えば、追加の双極子場を導入することによって荷電粒子ビームを位置合わせするために追加の多極子を使用することが可能である。図5aおよび図6aに関して説明したように、電子のx方向の位置により、電子選択要素516のところで電子が遮蔽されるか否かが決まる。そのため、電子ビームと追加の双極子要素の位置合わせを利用して、電子エネルギー幅低減系によって遮蔽されるエネルギーを選択することができる。
【0090】
図10a〜図11bで、電子ビームエネルギー幅低減系を使用する電子ビームコラムの実施形態を説明する。これらの実施形態はすべて、電子ビームが放出器6から放出される電子ビームコラム1を示す。このコラムは、ハウジング2および試料チャンバ3を備え、これらはいずれも排気することができる。ほぼ光軸5に沿って進む電子ビームは試料4に当たる。
【0091】
図10aでは、放出された電子は、陽極レンズ7によって加速され、この陽極レンズの下に第1のクロスオーバを形成する。照明レンズ101は、多極子コンポーネント100を照明する。電子ビームの一部は、この多極子コンポーネントに入射する前に電子選択要素103によって遮蔽される。それによって、規定されたビーム形状が得られる。レンズ101は、生成されたクロスオーバが多極子コンポーネントの中央に位置するように多極子コンポーネント100を照明する。多極子コンポーネント100は、x−z面内では集束効果を示さず、y−z面では実質的に集束効果を示さない。したがって、励磁を強めて所望の分散を実現し得る。この分散のために偏向される電子は、電子エネルギー依存性選択要素104によって選択することができる。対物レンズ102を使用して、電子ビームを試料上に集束させる。特定の実施形態に無関係に、多極子コンポーネント100は、双極ウィーンフィルタおよび静電4極子、双極ウィーンフィルタおよび磁気4極子、あるいは、少なくとも双極ウィーンフィルタの場および4極子の場を生成し得る他の任意の高次多極子コンポーネントを備える。さらに特定の実施形態に無関係に、ウィーンフィルタの場および4極子の場を生成する別々のコンポーネントを提供することもできるし、あるいは、ウィーンフィルタの場および4極子の場を生成する1つのコンポーネントを提供することもできる。
【0092】
図10aの実施形態と異なり、図10bの実施形態は、照明レンズ101の上に位置決めされた電子角度依存性選択要素103を備える。図10bにはさらに、対物レンズ102の下に位置決めされた電子エネルギー依存性選択要素104を示す。
【0093】
しかし、(図示しない)別の実施形態によれば、照明レンズ101の上に、開口のように働く電子選択要素103を備え、対物レンズ102の上に電子エネルギー依存性選択要素104を備えることも可能である。
【0094】
図11aおよび図11bに示す実施形態は、多極子要素100の上に第1の拡大照明レンズ101を有し、第2の縮小レンズ102を有し、対物レンズ107を有する。
【0095】
図11aに、多極子要素100のすぐ隣にある電子選択要素103および104を示す。上に位置決めされた電子選択要素103は、電子角度依存性選択要素である。下に位置決めされた電子選択要素104は、電子エネルギー依存性選択要素である。
【0096】
図11bでは、第1の電子選択要素103は、第1のレンズ101の上に位置決めされ、第2の電子選択要素104は、第2のレンズ102の下に位置決めされる。この場合も、(図示しない)別の実施形態によれば、これらの電子選択要素はともに、それぞれのレンズの上に位置決めすることもできるし、それぞれのレンズの下に位置決めすることもできる。
【0097】
図10a、図10b、図11a、および図11bの実施形態では、第1および第2の電子選択要素を詳細に指定しなかった。図7a〜図7eに関して説明した実施形態および態様はすべて、エネルギーに依存性して、または角度に依存性して電子を選択するのに使用し得る。
【0098】
図10a〜図11bを参照した上記の説明および本願で説明した他の実施形態からわかるように、エネルギー幅低減系は直線的な視覚系である。そのため、光軸とz軸は一致する。好ましくは、本願で開示する荷電粒子ビームエネルギー幅低減系は直線的な視覚系であるが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、この系に入射し、この系から出射するビームは、共通の真っ直ぐな光軸を共有する。そうではあるが、この系は、非直線的な視覚系とすることもできる。
【0099】
このような系の例を以下に示す。例えば、イオン化分子の存在下では、これらのイオンは放出器の方向に加速され、放出器に衝突して放出器に損傷を与える恐れがある。非直線的な視覚系を使用すると、ビームの可能な曲がり方が、例えば電子とイオンで異なるので、これらのイオンが放出器に衝突しなくなる。例えば図11cで、このような系を説明する。
【0100】
図11cは、概ね図11aに関連する。ただし、光軸5は真っ直ぐではない。集束的かつ分散的に作用する要素の場合、光軸を湾曲させることができる。放出器6から放出される電子は、多極子コンポーネント100内でさらに偏向される。そのため、簡略化した考察によれば、光軸は、相互にわずかに傾いた2つの部分を有する。ウィーンフィルタ要素の場合、偏向角は、典型的には、0°よりも大きく、約30°よりも小さくし得るはずである。電子ビームコラム内を放出器6に向かって加速されるイオン化された分子は、1次電子と同じビーム経路をたどらない。そのため、放出器の損傷を低減することができる。非直線的な視覚系を参照するこの態様は、上記で説明した実施形態のいずれかと組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】ウィーンフィルタおよびこのウィーンフィルタに入射する電子ビームのビーム経路の例をx−z面内で示す概略側面図である。
【図2】ウィーンフィルタおよびこのウィーンフィルタに入射する電子ビームのビーム経路の別の例をx−z面内で示す概略側面図である。
【図3】ウィーンフィルタ要素および4極子要素ならびにこの系に入射する電子ビームのビーム経路の2つの例をx−z面内で示す概略側面図である。
【図4】図3に対応するy−z面での概略側面図である。
【図5a】本発明による実施形態をx−z面内で示す概略側面図である。
【図5b】本発明による実施形態をy−z面内で示す概略側面図である。
【図6a】ある実施形態をx−z面内で示す概略側面図である。
【図6b】ある実施形態をy−z面内で示す概略側面図である。
【図7a】電子選択要素の実施形態の概略図である。
【図7b】電子選択要素の実施形態の概略図である。
【図7c】電子選択要素の実施形態の概略図である。
【図7d】電子選択要素の実施形態の概略図である。
【図7e】電子選択要素の実施形態の概略図である。
【図8a】荷電粒子ビームエネルギー幅を低減する方法を示す図である。
【図8b】荷電粒子ビームエネルギー幅低減系のコンポーネントを動作させて分散を生成する方法を示す図である。
【図9a】ウィーンフィルタ要素および4極子要素をz軸方向から見た概略図である。
【図9b】ウィーンフィルタ要素および4極子要素をz軸方向から見た概略図である。
【図9c】ウィーンフィルタ要素および4極子要素をz軸方向から見た概略図である。
【図10a】本発明による荷電粒子ビームエネルギー低減系を備えた荷電粒子ビームコラムの実施形態の例の概略側面図である。
【図10b】本発明による荷電粒子ビームエネルギー低減系を備えた荷電粒子ビームコラムの実施形態の例の概略側面図である。
【図11a】本発明による荷電粒子ビームエネルギー低減系を備えた荷電粒子ビームコラムの実施形態の例の概略側面図である。
【図11b】本発明による荷電粒子ビームエネルギー低減系を備えた荷電粒子ビームコラムの実施形態の例の概略側面図である。
【図11c】荷電粒子ビームエネルギー幅低減系を備えた荷電粒子ビームコラムの実施形態の別の例の概略側面図である。
【図12a】ウィーンフィルタおよび励磁条件の概略側面図である。
【図12b】ウィーンフィルタおよび励磁条件の概略側面図である。
【図13a】ウィーンフィルタおよび励磁条件の概略側面図である。
【図13b】ウィーンフィルタおよび励磁条件の概略側面図である。
【図14a】分散の計算結果を先行技術の系と本発明を比較して示す図である。
【図14b】分散の計算結果を先行技術の系と本発明を比較して示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に沿ったz軸を伴う荷電粒子ビーム装置であって、
z位置がzであるクロスオーバを生成する第1のレンズ(101、510)と、
前記クロスオーバの後に位置決めされた第2のレンズ(102、512)と、
第1の面内で集束的かつ分散的に作用する要素(110、100、500)であり、その中心が本質的にz位置zにある、前記集束的かつ分散的に作用する要素と、
前記第1の面および第2の面内で作用する多極子要素(310、100、500)であり、その中心がz位置zにある、前記多極子要素と、
ビーム方向に前記集束的かつ分散的に作用する要素の前で位置決めされた第1の荷電粒子選択要素(103、514)と、
ビーム方向に前記集束的かつ分散的に作用する要素の後で位置決めされた第2の荷電粒子選択要素(104、516)と
を備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
前記集束的かつ分散的に作用する要素はウィーンフィルタ要素である、請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記第1の面はx−z面である、請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記第2の面はy−z面である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
前記第2の面は前記第1の面にほぼ直交する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
前記第1の荷電粒子選択要素は、荷電粒子角度依存性選択要素であり、前記第2の荷電粒子選択要素は、速度依存性選択要素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
前記速度依存性選択要素は、エネルギー依存性選択要素として使用される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記速度依存性選択要素は、質量依存性選択要素として使用される、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の荷電粒子選択要素は、荷電粒子角度依存性選択要素であり、前記第2の荷電粒子選択要素は、速度および角度に依存する選択要素である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項10】
前記速度および角度に依存する選択要素は、エネルギーおよび角度に依存する選択要素として使用される、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記速度および角度に依存する選択要素は、質量および角度に依存する選択要素として使用される、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記集束的かつ分散的に作用する要素の場の領域の長さと前記多極子要素の場の領域の長さは本質的に同等である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項13】
前記集束的かつ分散的に作用する要素(110、100、500)および前記多極子要素(310、100、500)は、前記第1の面内で、励磁glの関数として厳密に増加する正規化された分散をもたらすのに適している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項14】
前記集束的かつ分散的に作用する要素および前記多極子要素は、前記第1の面内で、少なくとも0.5である正規化された分散x/lをもたらすのに適している、請求項1〜13のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
前記第1のレンズ(101、510)は拡大レンズであり、前記第2のレンズ(102、512)は縮小レンズである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
前記第1および第2のレンズは液浸レンズであり、前記第1のレンズは、前記荷電粒子ビームを減速して前記集束的かつ分散的に作用する要素を通過させ、前記第2のレンズは、その後で前記荷電粒子ビームを加速する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
前記多極子要素および前記集束的かつ分散的に作用する要素は、1つの多極子コンポーネント(100、500)を構成する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
前記多極子要素は、磁気4極子要素(932、933、934、935)を備える、請求項1〜17のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項19】
前記磁気4極子要素の極は、前記集束的かつ分散的に作用する要素の極に関して45°回転している、請求項18に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項20】
前記多極子要素は、静電気4極子要素(902、903、922、923)を備える、請求項1〜19のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項21】
前記静電気4極子要素の極は、前記集束的かつ分散的に作用する要素の極に関して0°回転している、請求項20に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項22】
前記多極子コンポーネント内で、偏向または収差補正用の追加の要素が重ねられる、請求項17〜21のいずれかに記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項23】
前記第1の荷電粒子選択要素は円形開口を有し、前記第2の荷電粒子選択要素はスリット開口を有する、請求項1〜22のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項24】
前記第1の荷電粒子選択要素および前記第2の荷電粒子選択要素は円形開口を有する、請求項1〜22のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項25】
前記第1のレンズ、前記第2のレンズ、前記集束的かつ分散的に作用する要素、および前記多極子要素は、直線的な視覚系または非直線的な視覚系を形成する、請求項1〜24のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項26】
前記第1のレンズ、前記第2のレンズ、前記集束的かつ分散的に作用する要素、および前記多極子要素は、1次荷電粒子ビームの速度分布幅を低減するのに適している、請求項1〜25のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項27】
前記第1のレンズ、前記第2のレンズ、前記集束的かつ分散的に作用する要素、および前記多極子要素は、1次荷電粒子ビームのエネルギー幅を低減するのに適している、請求項26に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項28】
前記第1のレンズ、前記第2のレンズ、前記集束的かつ分散的に作用する要素、および前記多極子要素は、荷電粒子をそれらの質量に応じて選択するのに適している、請求項26に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項29】
光軸に沿ったz軸、集束的かつ分散的に作用する要素、4極子要素、第1の荷電粒子選択要素、および第2の荷電粒子選択要素を備える荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法であって、
前記第1の荷電粒子選択要素によって荷電粒子を選択するステップと、
前記集束的かつ分散的に作用する要素および前記4極子要素を励磁するステップと、
第1の面内で集束効果がなく、第2の面内で実質的に集束効果がないように前記集束的かつ分散的に作用する要素および前記4極子要素の場の強さを調整するステップと、
前記第2の荷電粒子選択要素によって荷電粒子を選択するステップとを含む、方法。
【請求項30】
前記荷電粒子ビーム速度分布幅低減系は、荷電粒子ビームエネルギー幅低減系として使用される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記荷電粒子ビーム速度分布幅低減系は、荷電粒子ビーム質量選択系として使用される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記集束的かつ分散的に作用する要素はウィーンフィルタ要素である、請求項29〜31のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を動作させる方法。
【請求項33】
前記第1の面はx−z面である、請求項29〜32のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項34】
前記第2の面はy−z面である、請求項29〜33のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項35】
前記第2の面は前記第1の面にほぼ直交する、請求項29〜34のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項36】
前記調整ステップで、前記4極子要素の集束全体が前記荷電粒子ビームに実質的に影響を及ぼさないように、前記集束的かつ分散的に作用する要素の前記第1の面内での集束効果を補償し、前記4極子要素の前記第2の面内での集束効果を調整する、請求項29〜35のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項37】
前記集束的かつ分散的に作用する要素および前記4極子要素の前記場の強さを、複数の離散値から選択される値に調整する、請求項29〜36のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項38】
前記場の強さを強めて、少なくとも0.5の正規化された分散x/lを実現するステップをさらに含む、請求項29〜37のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項39】
前記集束的かつ分散的に作用する要素の場の領域の中心および前記4極子要素の場合の領域の中心のz位置に本質的に同等であるz位置を伴うクロスオーバが生成されるように、前記集束的かつ分散的に作用する要素および前記4極子要素を照明するステップをさらに含む、請求項29〜38のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。
【請求項40】
選択すべき前記荷電粒子の速度を選択し得るように、前記荷電粒子ビーム速度分布幅低減系内で前記荷電粒子ビームを位置合わせするステップをさらに含む、請求項29〜39のいずれか一項に記載の荷電粒子ビーム速度分布幅低減系を使用する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図7d】
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【図7e】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14a】
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【図14b】
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【公表番号】特表2007−505452(P2007−505452A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525709(P2006−525709)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009796
【国際公開番号】WO2005/024889
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(501493587)アイシーティー インテグレーテッド サーキット テスティング ゲゼルシャフト フィーア ハルプライタープリーフテヒニック エム ベー ハー (25)
【Fターム(参考)】