説明

蒸気弁および軸シール装置

【課題】蒸気弁において、弁棒とガイドブッシュとの隙間から漏れ出る蒸気が急膨張するのを抑制し、漏洩蒸気により弁棒浸食を防止できるようにする。
【解決手段】ガイドブッシュ30の内周面には、周方向のラビリンス溝32a乃至32eを複数形成し、各ラビリンス溝32a乃至32eは、排出室18に近づくにしたがって段階的に拡がっていくように配列する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービン等に用いられる蒸気弁および流体機械の軸シール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所の発電プラントにおいて、蒸気タービンに設置される蒸気弁は、蒸気タービンに供給する蒸気量を調節したり、あるいは遮断する弁で、蒸気タービンの運転を安全にコントロールする上で非常に重要な役割を担っており、十分な信頼性が要求される。
【0003】
図8は、蒸気弁の設置位置を示す図である。ボイラー1で発生した蒸気は、主蒸気管2を通って蒸気タービン3に導かれ、この蒸気タービン3で熱エネルギーから運動エネルギーに転換される。主蒸気管2には、蒸気弁として、主蒸気止め弁4と蒸気加減弁5が設置されている。主蒸気止め弁4は、蒸気タービン3に供給される蒸気の流れを遮断し、蒸気加減弁5は、蒸気タービン3に流入する蒸気流量を調整している。
【0004】
図9は、一般的な蒸気弁の構成を模式的に示す図である。
蒸気弁は、蒸気流路を開閉する弁体6を有する蒸気弁部7と、弁体6を駆動する駆動装置8とに分かれ、蒸気弁部7と駆動装置8は、カップリング9を介して連結されている。駆動装置8は、タービン制御信号にしたがって、弁体6の位置を制御することで、蒸気流路の開度を調整し、あるいは遮断する。
【0005】
次に、図10は、蒸気弁部7の内部構造を示す。図10おいて、参照番号15は、蒸気弁部本体(ケーシング)を構成するケーシング本体を示し、参照番号12は、ケーシング本体15の内部に形成した蒸気室を示す。蒸気室12の出口には弁座13が設けられている。弁体6には弁棒14が連結されている。弁体6が弁座13から離れて弁が開くと、蒸気は弁座13の開口部から流れ出る。
【0006】
ケーシング本体15には、弁棒14を案内する上部ガイドブッシュ16と下部ガイドブッシュ17が組み込まれている。この弁棒14は、下部ガイドブッシュ17、上部ガイドブッシュ16に摺動可能に嵌合し、弁棒14の先端はケーシング本体15から外に突き出ており、図9のカップリング9と連結されるようになっている。なお、蒸気弁部本体は、蒸気室12を形成するケーシング本体15と、ケーシング本体15にボルトで締結されるなどして取り付けられる弁蓋(図示せず)から構成されることが多いが、ここではこれらを総称して蒸気弁本体(ケーシング)という。
【0007】
従来、この種の蒸気弁では、蒸気室12には、高温・高圧の蒸気が流れており、安全確保のため、蒸気が蒸気弁本体15から外部に漏れないような構造にしておかなければならない。そこで、図10の蒸気弁では、弁棒14の貫通する部分の途中、例えば、下部ガイドブッシュ17と上部ガイドブッシュ16との間には、弁棒14と下部ガイドブッシュ17の間の微小な隙間から漏れた蒸気を集める排出室18(以下、リークオフ室という)18が形成されている。従来、下部ガイドブッシュ17や、上部ガイドブッシュ16では、弁棒14が摺動するその内周面には、蒸気の漏洩を抑制するために複数のラビランス溝20を形成した上で、下部ガイドブッシュ17の内周面と弁棒14の外周面との間の隙間から漏れ出た蒸気をリークオフ室18に集め、リーク蒸気出口19から排出させている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、CO2排出量削減を主体とする地球環境問題への取り組みを通じて、火力発電プラントでは、効率化の手段として、使用する蒸気の高温化、高圧下が図られている。
【0009】
ところが、蒸気弁においては、蒸気がますます高温下、高圧下すると、下部ガイドブッシュ17や、上部ガイドブッシュ16ではラビリンス溝20による漏洩抑制の効果が弱くなり、ラビリンス溝20を越えてリークオフ室18に漏れ出る水蒸気により弁棒14の表面が浸食されるという新たな問題が生起している。
【0010】
これは、高温・高圧の蒸気は、下部ガイドブッシュ17の内周面と弁棒14の外周面のごく狭い隙間からリークオフ室18に急に漏れ出るため、蒸気通路面積の急拡大により蒸気が急膨張し、蒸気の流速が急激に増大するためである。
【0011】
そして、蒸気の高温・高圧化がさらに進む現状では、リークオフ室18に漏出する蒸気の急膨張の度合いはさらに大きくなることが予想され、有効な弁棒浸食防止対策を講じることが喫緊の課題になっている。
【0012】
ところで、蒸気弁に限らず、圧縮性の大きな流体を扱う流体機械においては、回転軸のような可動部分から圧力流体の漏洩を防止するため軸シール装置が設けられている。この種の軸シール装置には、例えば、内径の異なる複数段のシールリングを設け、軸の軸心が多少変位しても、シール機能を維持できるようにした軸シール装置がある。
【0013】
この種の軸シールでは、軸が嵌合する部分の微小な隙間を通って低圧室から高圧室に漏れ出た圧力流体が急減に膨張するときに膨張音を発生させ、騒音の原因になることがある。近年の高圧下の趨勢の下では、従来の軸シールでは、かかる騒音を効果的に防止することができず、その解決が課題とされてきた。
【0014】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、蒸気弁において、ガイドブッシュと弁棒の間の微小な隙間から排出室に漏れ出る蒸気が急膨張するのを抑制し、漏洩蒸気により弁棒浸食を防止できるようにする蒸気弁を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の目的は、圧縮性の大きな流体を扱う流体機械の軸をシールする軸シール装置において、軸の嵌合部を介して高圧室から低圧室に漏れ出た圧力流体が急膨張するときに発生する騒音を低減できる低騒音の軸シール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するために、第1の発明は、内部に蒸気室と弁座を備えるケーシングと、前記蒸気室内の弁座に当接可能に配置された弁体と、前記弁体に連結され、前記ケーシングを貫通して外部に延びる弁棒と、前記ケーシング内部の前記弁棒の貫通する途中部分に設けられ、前記弁棒と前記ケーシングの間を介して前記蒸気室から漏洩する蒸気を回収する排出室と、前記蒸気室と前記排出室の間に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第1のガイドブッシュと、前記ケーシング内部で前記排出室の外側に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第2のガイドブッシュを備える蒸気弁において、前記第1のガイドブッシュの内周面には、周方向のラビリンス溝を複数形成し、前記各ラビリンス溝は、前記排出室に近づくにしたがって段階的に拡がっていくように配列されていることを特徴とするものである。
【0017】
この第1の発明では、さらに、前記ラビリンス溝の下流では、前記第1のガイドブッシュの内径を下流に向かって徐々に拡げられて、前記ガイドブッシュの内周面と弁棒の外周面の間に前記排出室と連通する膨張室を形成するようにしてもよい。
【0018】
また、第1の発明では、内部に蒸気室と弁座を備えるケーシングと、前記蒸気室内の弁座に当接可能に配置された弁体と、前記弁体に連結され、前記ケーシングを貫通して外部に延びる弁棒と、前記ケーシング内部の前記弁棒の貫通する途中部分に設けられ、前記弁棒と前記ケーシングの間を介して前記蒸気室から漏洩する蒸気を回収する排出室と、前記蒸気室と前記排出室の間に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第1のガイドブッシュと、前記ケーシング内部で前記排出室の外側に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第2のガイドブッシュを備える蒸気弁において、前記第1ガイドブッシュの内径が、下流前記蒸気室から前記排出室に向かう側に徐々に拡げられて、前記第1のガイドブッシュの内周面と前記弁棒の外周面の間に前記排出室と連通する膨張室を形成するようにしてもよい。
【0019】
第2の発明は、高圧室と低圧室の間に設けられた孔部と、前記孔部を貫通する軸と、前記軸の外周部に嵌合する複数の固定シールリングと前記孔部の内周部に嵌合する複数の可動シールリングとを前記軸の軸方向に交互に積み重ねて構成したリングシールとを備え、当該リングシールにより前記孔部と前記軸との間隙を介して前記高圧室から前記低圧室へ漏洩する流体をシールする軸シール装置において、前記可動シールリングは、その内径が前記高圧室の側から前記低圧室の側に向かって段階的に大きく構成され、前記可動シールリングの夫々と前記軸との間に、前記高圧室の側から前記低圧室の側に段階的に拡がっていく膨張室が形成されることを特徴とする。
【0020】
また、第2の発明は、高圧室と低圧室の間に設けられた孔部と、前記孔部に対し前記軸が摺動自在に嵌合するシールブッシュとを備え、当該シールブッシュにより前記孔部と前記軸との間隙を介して前記高圧室から前記低圧室へ漏洩する流体をシールする軸シール装置において、前記シールブッシュの内周面に、周方向のラビリンス溝を複数形成し、前記各ラビリンス溝は、前記低圧室の側に向かって段階的に拡がっていくように配列されていることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、さらに、前記ラビリンス溝の下流では、前記シールブッシュの内径が低圧側に向かって徐々に拡げられて、前記シールブッシュの内周面と前記軸の外周面の間に前記排気室に連通する膨張室を形成するようにしてもよい。
【0022】
また、上記発明では、高圧室と低圧室の間に設けられた孔部と、前記孔部に対し前記軸が摺動自在に嵌合するシールブッシュとを備え、当該シールブッシュにより前記孔部と前記軸との間隙を介して前記高圧室から前記低圧室へ漏洩する流体をシールする軸シール装置において、前記シールブッシュの内径が低圧側に向かって徐々に拡げられて、前記シールブッシュの内周面と前記軸の外周面の間に前記低圧室に連通する膨張室を形成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、蒸気弁において、弁棒と第1ガイドブッシュとの隙間から漏れ出る蒸気は急膨張することなく、緩やかに膨張しながら排出室に回収されていくので、漏洩蒸気による弁棒の浸食を効果的に防止できる
また、第2の発明によれば、圧縮性の大きな流体を扱う流体機械の軸をシールするシールリングや、シールブッシュと軸との隙間から漏れ出た圧力流体は緩やかに徐々に膨張してくので、膨張するときに発生する騒音を効果的に低減することができる
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態による蒸気弁の弁棒回りの要部を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態による蒸気弁の弁棒回りの要部を示す断面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施形態による蒸気弁の弁棒回りの要部を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態による軸シール装置を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態による軸シール装置を示す断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態による軸シール装置を示す断面図である。
【図7】本発明のさらに他の実施形態による軸シール装置を示す断面図である。
【図8】従来の蒸気タービン用蒸気弁の配置位置を示す模式図である。
【図9】従来の蒸気タービン用蒸気弁の構成を説明する模式図である。
【図10】従来の蒸気弁における弁棒回りの従来構造を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明による蒸気弁および軸シール装置の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1の発明の実施形態
図1は、本発明の第1実施形態による蒸気弁の弁棒回りの要部を示す。この図1において、図10の従来の蒸気タービンに用いられる蒸気弁の構成要素と同一の要素には、同一の参照番号を付して説明する。
【0026】
図1において、参照番号12は、ケーシング本体15の内部に形成された蒸気室を示す。蒸気室12の蒸気出口には弁座13が設けられている。弁体6には弁棒14が連結されている。弁体6が弁座13から離れて弁が開き、蒸気は弁座13の開口部から流れ出る。
【0027】
蒸気弁部(ケーシング)の本体を構成するケーシング本体15には、弁棒14を案内するガイドブッシュとして、下部ガイドブッシュ(第1のガイドブッシュ)30と上部ガイドブッシュ(第2のガイドブッシュ)16が組み込まれている。この弁棒14は、下部ガイドブッシュ30、上部ガイドブッシュ17に摺動可能に嵌合し、弁棒14の先端はケーシング本体15から外に突き出ており、図示しないカップリングを介して、弁の駆動装置と連結されるようになっている。
【0028】
下部ガイドブッシュ30は、弁棒14と下部ガイドブッシュ30の間の微小隙間31から漏れた蒸気を集めるリークオフ室(排出室)18と、蒸気室12との間に配置されており、回収された蒸気はリーク蒸気出口19から排出される。
【0029】
この実施形態では、下部ガイドブッシュ30の内周面には、軸方向に一定の間隔をおいて複数条のラビリンス溝32a乃至32eが周方向に形成されている。これらラビリンス溝32a乃至32dは、蒸気の流れる方向に向かって、順次、溝の深さが徐々に段階的に深くなっている。すなわち、蒸気室12からリークオフ室18に向かってラビリンス溝32a、32b、32c、32d、32eの順により深い溝になっている。なお図1では、5条のラビリンス溝を示しているがこれは例示である。また、溝の深さとともに幅を拡げるようにしてもよく、溝が拡がるとは、深くなること、あるいは幅員が拡がること若しくはその双方を意味する。さらに、隣り合う溝32a乃至32eの大きさが同じであっても、全体として蒸気の流れる方向に向かって溝部分の容積が減少する部分を有さず、かつ最上流側のラビリンス溝32aよりも最下流のラビリンス溝32eの容積が大きくなつているものであれば段階的に拡がっているものとする。
【0030】
また、この実施形態では、下部ガイドブッシュ30の先端部は、リークオフ室18に突き出しており、ラビリンス溝32eの下流では、徐々に内径が拡がっていることによって、膨張室34が形成されている。この膨張室34は、下部ガイドブッシュ30の外周面に開口する蒸気穴35を介してリークオフ室18に連通するようになっている。
【0031】
なお、上部ガイドブッシュ30は、ケーシング本体15においてリークオフ室18よりも外側に配置されるガイドブッシュであるが、この実施形態では、その内周面には、同じ深さのラビリンス溝20が複数条形成され、蒸気の外部への漏洩防止としている。
【0032】
本実施形態による蒸気弁は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
【0033】
図1において高温・高圧の蒸気は、弁体6が弁座13から離れて弁が開いている状態では、白抜きの矢印で示すように、蒸気タービン側へと流れる。弁体6が弁座13に着座して弁が閉じていると、実線の矢印で示すように、高温・高圧の蒸気の一部は、弁棒14と下部ガイドブッシュ30の間の微小間隙31を通ってリークオフ室18に流出することがある。
【0034】
このとき、下部ガイドブッシュ30と弁棒14の間を流れるリーク蒸気は、順次ラビリンス溝32a、32b、32c、32d、32eを流れていく過程で、徐々に膨張していく。そして、徐々に膨張していったリーク蒸気は、さらに膨張室34に導かれ、この膨張室34で緩やかに膨張しながら、蒸気穴35からリークオフ室18に導出される。
【0035】
このようにして、下部ガイドブッシュ30と弁棒14の間を流れる過程で、リーク蒸気は、ラビリンス溝32a、32b、32c、32d、32eの徐々に大きくなっていく溝を通り、さらには、徐々に拡がっていく膨張室34を通るというように、二段構えで緩やかに膨張しながらリークオフ室18に排出される。これにより、リークオフ室18で急激に膨張することなく、リーク蒸気はリークオフ室18に排出されることになるので、リーク蒸気による弁棒14の浸食を防止し、弁棒14の信頼性を確保することができる。
【0036】
以上は、特に、高圧の蒸気が流入する蒸気弁において、下部ガイドブッシュ30に徐々に段階的に拡がっていくラビリンス溝32a乃至32eと、徐々に拡がっていく膨張室34との双方を設けた実施形態であるが、比較的低圧用の蒸気弁では、図2あるいは図3に示すように、ラビリンス溝32a乃至32eと膨張室34のうち、一方だけを単独で設けるようにしてもよい。
【0037】
このうち、図2に示す実施形態は、下部ガイドブッシュ30の内周面にラビリンス溝32a乃至32eを形成し、ラビリンス溝32a、32b、32c、32d、32eの順に下流に向かって徐々に深い溝になっている。このような下部ガイドブッシュ30は、構造的に大きさに制限がある場合に、リーク蒸気を徐々に膨張させるのに好適である。
【0038】
図3は、下部ガイドブッシュ30の下流側の内周面は、先端に向かって徐々に拡径することで、膨張室34だけが形成されている。下部ガイドブッシュ30と弁棒14の間の微小隙間31を通って膨張室34に導入されたリーク蒸気は、この膨張室34で緩やかに膨張してから蒸気穴35を介しリークオフ室18に排出される。蒸気が比較的低圧であれば、弁棒14の浸食防止は膨張室34だけで対応することが可能である。
【0039】
第2の発明に係る実施形態
次に、第2の発明に係る軸シール装置の実施形態について、図4乃至図7を参照して説明する。
この軸シール装置は、タービンなどの圧縮性の大きな流体を扱う流体機械において、回転軸、あるいは軸方向に動く可動な軸の貫通部をシールするのに用いられる。
【0040】
第1実施形態
図4において、参照番号40は、回転あるいは軸方向に動く可動軸を示す。ケーシング本体41には、孔部43が形成されている。可動軸41は、この孔部43を貫通するように伸びている。また、圧縮性のある高圧流体が流れる高圧室42と、低圧室45とは孔部43を介して連通している。可動軸40は、次のような多層シールリングにより軸芯の変位が許容されるように、かつ高圧流体が高圧室42から低圧室45へ漏洩しないようにシールされている。
【0041】
この多層シールリングは、孔部43の内周部に嵌合している複数の固定リング44a乃至44dと、可動軸41の外周部に嵌合している可動シールリング46a乃至46cとを交互に積み重ねて挟んだ構造をもっている。この場合、高圧室42に最も近い順から固定リング44a、44b、44c、44dとして区別すると、固定リング44a、44bの間に可動シールリング46aが半径方向に変位可能に挟持されている。同様に固定リング44b、44c間には可動シールリング46bが、固定リング44c、44dの間に可動シールリング46cがそれぞれ半径方向に変位可能に挟持されている。これら可動シールリング46a、46b、46cには、可動軸40が嵌合している
これに対して、固定リング44a乃至44dの内径は、高圧室42側から低圧室18側に向かって、固定リング44a、44b、44c、44dの順に段階的に大きくなっている。
【0042】
このような内径の違いによって、各固定リング44a、44b、44c、44dと可動軸40の間には、高圧室42側から低圧室18側に向かって徐々に容積が大きくなる膨張室50a、50b、50c、50dが形成されている。
【0043】
なお、低圧室45側に導出された流体は、排出口52から排出される。
以上のような軸シール装置によれば、可動軸40と可動シールリング46a乃至46cの間の微小隙間53を通って、高圧の流体が高圧室42から低圧室45側に漏洩すると、高圧流体は徐々に容積が大きくなっている膨張室50a、50b、50c、50dを順次通るにしたがって徐々に膨張していくことになる。このため、従来のように、高圧流体が急激に膨張して膨張音を発生させ、騒音を生じることを防止することができる。
【0044】
第2実施形態
次に、図5乃至図7を参照しながら、軸シール構造の第2の実施形態について説明する。なお、図4に示した軸シール装置と同一の構成要素には、同一の参照符合を付してその詳細な説明は省略する。
【0045】
図4に示した本発明の第1実施形態は、可動軸40の軸心の変位を許容できる軸シール装置に本発明を適用したものであるのに対して、この第2実施形態は、可動軸40の軸心は固定されている軸シール装置である。そして、図1乃至図3に示した第1の発明のガイドブッシュ30の構造を可動軸をシールする構造に応用した実施の形態である。
【0046】
まず、図5は、シールブッシュ60を可動軸40の貫通する孔部43に設けるようにした実施の形態である。
【0047】
このシールブッシュ60には、ラビリンス溝62a乃至62dが一定の間隔をおいて形成され、低圧室45側に向かって、順次、溝の深さが徐々に段階的に深くなっている。なお、溝の深さとともに幅を拡げるようにしてもよく、溝を拡げるとは、深くすること、あるいは幅員を拡げることの一方若しくは双方を意味する。
【0048】
さらに、シールブッシュ60は、徐々に内径が拡がっていることによって、ラビリンス溝62eの下流側に膨張室64が形成されている。
【0049】
以上のようなシールブッシュ60を利用した軸シール装置によれば、シールブッシュ60と可動軸42の間の微小隙間65から漏れる圧力流体は、順次ラビリンス溝62a、62b、62c、62d、62eを通り、さらには、徐々に拡がっていく膨張室64を通って蒸気穴66から導出されるというように、二段構えで緩やかに膨張しながら、低圧室45側に排出させることができる。このように緩やかな膨張により、高圧流体の漏洩時の騒音発生を効果的に防止することができる。
【0050】
次に、図6は、シールブッシュ60にラビリンス溝62a乃至62eだけを形成した実施形態である。これらラビリンス溝62a、62b、62c、62d、62eは順に下流に向かって徐々に深い溝になっている点は図5と同様である。このようなシールブッシュ60は、構造的に軸方向の大ききに制限がある場合に、圧力流体を徐々に膨張させるのに好適である。
【0051】
次に、図7は、シールブッシュ60の下流側の内周面は、先端に向かって徐々に拡径することで、膨張室64だけが形成されている。シールブッシュ60と可動軸40の間の微小隙間65を通って膨張室64に導入された圧力流体は、この膨張室64で緩やかに膨張しながら低圧室45側に排出される。流体が比較的低圧であれば、騒音防止は膨張室64による緩やかな膨張作用だけで対応することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
6…弁体、12…蒸気室、13…弁座、14…弁棒、15…ケーシング本体、16…上部ガイドブッシュ(第2ガイドブッシュ)、18…リークオフ室(排出室)、30…下部ガイドブッシュ(第1ガイドブッシュ)、32a乃至32e…ラビリンス溝、34…膨張室、40…可動軸、44a乃至44d…固定リング、46a乃至46c…可動子シールリング、50a乃至50d…膨張室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に蒸気室と弁座を備えるケーシングと、
前記蒸気室内の弁座に当接可能に配置された弁体と、
前記弁体に連結され、前記ケーシングを貫通して外部に延びる弁棒と、
前記ケーシング内部の前記弁棒の貫通する途中部分に設けられ、前記弁棒と前記ケーシングの間を介して前記蒸気室から漏洩する蒸気を回収する排出室と、
前記蒸気室と前記排出室の間に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第1のガイドブッシュと、
前記ケーシング内部で前記排出室の外側に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第2のガイドブッシュを備える蒸気弁において、
前記第1のガイドブッシュの内周面には、周方向のラビリンス溝を複数形成し、前記各ラビリンス溝は、前記排出室に近づくにしたがって段階的に拡がっていくように配列されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項2】
さらに、前記ラビリンス溝の下流では、前記第1のガイドブッシュの内径を下流に向かって徐々に拡げられて、前記ガイドブッシュの内周面と前記弁棒の外周面の間に前記排出室と連通する膨張室を形成したことを特徴とする請求項1に記載の蒸気弁。
【請求項3】
内部に蒸気室と弁座を備えるケーシングと、
前記蒸気室内の弁座に当接可能に配置された弁体と、
前記弁体に連結され、前記ケーシングを貫通して外部に延びる弁棒と、
前記ケーシング内部の前記弁棒の貫通する途中部分に設けられ、前記弁棒と前記ケーシングの間を介して前記蒸気室から漏洩する蒸気を回収する排出室と、
前記蒸気室と前記排出室の間に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第1のガイドブッシュと、
前記ケーシング内部で前記排出室の外側に配置され、前記弁棒が摺動自在に嵌合する第2のガイドブッシュを備える蒸気弁において、
前記第1ガイドブッシュの内径が、下流前記蒸気室から前記排出室に向かう側に徐々に拡げられて、前記第1のガイドブッシュの内周面と前記弁棒の外周面の間に前記排出室と連通する膨張室を形成したことを特徴とする蒸気弁。
【請求項4】
高圧室と低圧室の間に設けられた孔部と、前記孔部を貫通する軸と、前記軸の外周部に嵌合する複数の固定シールリングと前記孔部の内周部に嵌合する複数の可動シールリングとを前記軸の軸方向に交互に積み重ねて構成したリングシールとを備え、当該リングシールにより前記孔部と前記軸との間隙を介して前記高圧室から前記低圧室へ漏洩する流体をシールする軸シール装置において、
前記可動シールリングは、その内径が前記高圧室の側から前記低圧室の側に向かって段階的に大きく構成され、前記可動シールリングの夫々と前記軸との間に、前記高圧室の側から前記低圧室の側に段階的に拡がっていく膨張室が形成されることを特徴とする軸シール装置。
【請求項5】
高圧室と低圧室の間に設けられた孔部と、前記孔部に対し前記軸が摺動自在に嵌合するシールブッシュとを備え、当該シールブッシュにより前記孔部と前記軸との間隙を介して前記高圧室から前記低圧室へ漏洩する流体をシールする軸シール装置において、
前記シールブッシュの内周面に、周方向のラビリンス溝を複数形成し、前記各ラビリンス溝は、前記低圧室の側に向かって段階的に拡がっていくように配列されていることを特徴とする軸シール装置。
【請求項6】
さらに、前記ラビリンス溝の下流では、前記シールブッシュの内径が低圧側に向かって徐々に拡げられて、前記シールブッシュの内周面と前記軸の外周面の間に排気室に連通する膨張室を形成したことを特徴とする請求項5に記載の軸シール装置。
【請求項7】
高圧室と低圧室の間に設けられた孔部と、前記孔部に対し前記軸が摺動自在に嵌合するシールブッシュとを備え、当該シールブッシュにより前記孔部と前記軸との間隙を介して前記高圧室から前記低圧室へ漏洩する流体をシールする軸シール装置において、
前記シールブッシュの内径が低圧側に向かって徐々に拡げられて、前記シールブッシュの内周面と前記軸の外周面の間に前記低圧室に連通する膨張室を形成したことを特徴とする軸シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−122503(P2011−122503A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280320(P2009−280320)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】