説明

蒸気弁装置および蒸気タービン発電設備

【課題】開閉過程において、弁体および弁座の間に形成される流路における蒸気流れの安定性の確保および維持が可能な蒸気弁装置および蒸気タービン発電設備を提供する。
【解決手段】蒸気弁装置40は、弁室を形成する内周面を有する弁ケーシングと、弁室内に設けられた弁座45と、弁室に収容されて弁座45に接離自在な球形状の弁体46と、弁座45と弁体46との隙間53を流れる蒸気の一部をプラズマ化させて隙間53に誘起気流Fを発生させる気流発生装置55と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気弁装置およびこの蒸気弁装置を備えた蒸気タービン発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、火力発電所、原子力発電所等の発電設備は、負荷変化に応じて蒸気タービンに供給される蒸気の流量を制御しあるいは突発時事故の発生に伴って蒸気タービンへの蒸気の供給を遮断するために、数多くの蒸気弁装置を備える。
この蒸気弁装置は、例えば、高温、高圧、大流量の蒸気を取扱うとともに頻繁に開閉される蒸気加減弁として用いられる。このため、蒸気弁装置は、弁体の開き始めの過程および弁体の着座に至る絞り過程において、蒸気流れに偏流や渦流等の流れの乱れを生じ、これにともなう騒音、振動および浸食、これらに起因する弁棒の破損に至る虞がある。
【0003】
そこで、弁体と弁座との曲率を適宜の範囲に定めるとともに弁体の底部側に凹陥部を形成して弁体回りの蒸気流れを安定化させる蒸気弁装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭56−109955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、火力発電所、原子力発電所等の発電設備は、超々臨界圧発電技術への取組みによってより一層高い蒸気条件(温度、圧力)のもと蒸気タービンの高効率化が進められている。このような超々臨界圧発電への取り組みにともなって蒸気弁装置における騒音や振動が深刻な問題として再びクローズアップされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る蒸気弁装置は、圧力16.6MPaA(169ata)、温度538℃の亜臨界圧発電や、圧力24.1MPaA(246ata)、温度538℃の超臨界圧発電における騒音や振動の抑制に対処できるものの、超々臨界圧発電においても十分な効果が得られるとは言い難い。
【0007】
蒸気条件が如何に高くなっても、蒸気の安定流れの確保、維持が可能な蒸気弁装置の構造(例えば、弁体の形状など)を決定し、騒音や振動をより一層低下させることは、蒸気タービン発電施設における共通的な課題である。
【0008】
そこで、本発明は、その開閉過程において、弁体および弁座の間に形成される流路における蒸気流れの安定性の確保および維持が可能な蒸気弁装置および蒸気タービン発電設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため本発明に係る蒸気弁装置は、弁室を形成する内周面を有する弁ケーシングと、前記弁室内に設けられた弁座と、前記弁室に収容されて前記弁座に接離自在な弁体と、前記弁座と前記弁体との隙間を流れる蒸気の一部をプラズマ化させて前記隙間に誘起気流を発生させる気流発生装置と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る蒸気タービン発電設備は、本発明に係る蒸気弁装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、その開閉過程において、弁体および弁座の間に形成される流路における蒸気流れの安定性の確保および維持が可能な蒸気弁装置および蒸気タービン発電設備を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る蒸気タービン発電設備の第1実施形態の概略構成を示した系統図。
【図2】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の概略構成を示した断面図。
【図3】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の要部を示した断面図。
【図4】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の要部を示した断面図。
【図5】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の要部を拡大して示した断面図。
【図6】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の開弁過程または閉弁過程における弁体と弁座との開度の関係を示した概念図。
【図7】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の開弁過程または閉弁過程において流路をラバール管に置き換えたときの理想状態における等エントロピー流れの圧力分布線図を示した図。
【図8】本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の開弁過程または閉弁過程において流路をラバール管に置き換えたときの理想状態における等エントロピー流れの圧力分布線図を部分的に拡大して示した図。
【図9】本発明に係る蒸気弁装置の第2実施形態の要部を示した断面図。
【図10】本発明に係る蒸気弁装置の第2実施形態の要部を拡大して示した断面図。
【図11】本発明に係る蒸気弁装置の第3実施形態の要部を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る蒸気弁装置および蒸気タービン発電設備の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
本発明に係る蒸気弁装置および蒸気タービン発電設備の第1実施形態について図1から図8を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る蒸気タービン発電設備の第1実施形態の概略構成を示した系統図である。
図1に示すように、蒸気タービン発電設備1は、例えば、火力発電施設であり、ボイラ3と、蒸気タービン部4と、主蒸気系5と、再熱蒸気系6と、復水給水系7と、を備える。
【0016】
ボイラ3は、蒸気発生器11および再熱器12を収容する。また、ボイラ3は、投入された燃料と空気とを燃焼させた燃焼ガスの熱によって蒸気発生器11から主蒸気を発生させるとともに再熱器12から再熱蒸気を発生させる。
【0017】
蒸気タービン部4は、互いを軸直結させた高圧タービン14と、中圧タービン15と、低圧タービン16と、を備える。蒸気タービン部4は、高圧タービン14で主蒸気系5から供給される主蒸気に膨張仕事をさせ、中圧タービン15で再熱蒸気系6から供給される再熱蒸気に膨張仕事をさせ、低圧タービン16で中圧タービン15から供給される中圧タービン排気に膨張仕事をさせ、その際に発生する動力で発電機(図示省略)を駆動させる。
【0018】
高圧タービン14は、低温再熱蒸気系18を介して膨張仕事を終えた高圧タービン排気をボイラ3の再熱器12に供給する。この高圧タービン排気は再熱器12で再熱蒸気となり中圧タービン15に供給される。低温再熱蒸気系18は、低温再熱蒸気系18の下流側から高圧タービン14側に向かう流れを止める逆止弁19を備える。
【0019】
主蒸気系5は、ボイラ3の蒸気発生器11が発生させた主蒸気を高圧タービン14に導く主蒸気止弁21および蒸気加減弁22と、高圧タービンバイパス系23と、を備える。高圧タービンバイパス系23は、主蒸気止弁21の上流側から分岐し、高圧タービンバイパス弁24を介して低温再熱蒸気系18(より詳しくは逆止弁19の下流側)に接続される。
【0020】
再熱蒸気系6は、ボイラ3の再熱器12が発生させた再熱蒸気を中圧タービン15に導く再熱蒸気止弁26およびインターセプト弁27と、低圧タービンバイパス系28と、を備える。低圧タービンバイパス系28は、再熱蒸気止弁26の上流側から分岐し、低圧タービンバイパス弁29を介して復水給水系7に接続される。
【0021】
復水給水系7は、低圧タービン16で膨張仕事を終えた低圧タービン排気を凝縮させる復水器31と、復水をボイラ3の蒸気発生器11に圧送する給水ポンプ32と、を備える。また、復水器31は低圧タービンバイパス系28に接続され、例えば再熱器12が発生させた再熱蒸気の圧力、温度が予め定められた値に達していないとき、この再熱蒸気を受け入れる。
【0022】
また、蒸気タービン発電設備1は、例えば主蒸気の圧力、温度が予め定められた値に達していないとき、あるいは負荷遮断等の異常事態が発生し主蒸気量が過剰になったときなどの場合、ボイラ3(より詳しくは蒸気発生器11)から供給される主蒸気を高圧タービンバイパス系23、低温再熱蒸気系18、低圧タービンバイパス系28を順次に介して復水器31に導く。
【0023】
さらに、蒸気タービン発電設備1は、高圧タービンバイパス系23および低圧タービンバイパス系28によって高圧タービン14、中圧タービン15および低圧タービン16の起動運転時などにおけるボイラ3の単独運転が可能であり、発電設備としての運用性が高められている。
【0024】
ここで、主蒸気止弁21、蒸気加減弁22、再熱蒸気止弁26およびインターセプト弁27などの蒸気が通過する部分に用いられる弁装置は、蒸気弁装置である。この蒸気弁装置について詳述する。
【0025】
図2は、本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の概略構成を示した断面図である。
図2に示すように、蒸気弁装置40は、弁室41を形成する内周面42を有する弁ケーシング43と、弁室41内に設けられた弁座45と、弁室41に収容されて弁座45に接離自在な球形状の弁体46と、弁体46に接続された弁棒47と、弁体46および弁棒47を一体的に固定するピン48と、弁棒47に接続されたリンク51と、リンク51および弁棒47を介して弁体46を弁座45に接離させる油圧シリンダなどの駆動装置52と、を備える。
【0026】
蒸気弁装置40は、駆動装置52に作動油を給排してリンク51を支点51aまわりに揺動(図2中、実線矢AR)させ、このリンク51の揺動によって弁棒47および弁体46を弁座45に対して着座または離間させて流路を開閉し、その内部を通過する蒸気の流量を制御する。
【0027】
弁ケーシング43は、弁室41に連通された蒸気入口(図示省略)と蒸気出口43aとを有する。
【0028】
弁座45は、弁室41において蒸気入口と蒸気出口43aとの間に配置される。
【0029】
図3および図4は、本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の要部を示した断面図である。図5は、本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の要部を拡大して示した断面図である。
なお、図3は弁体46の非断面視を示しており、図4は弁体46の断面視を示している。
【0030】
図3から図5に示すように、蒸気弁装置40は、弁座45と弁体46との隙間53を流れる蒸気の一部をプラズマ化させて隙間53に誘起気流Fを発生させる気流発生装置55を備える。この弁座45と弁体46との隙間53は蒸気の流路である。
【0031】
気流発生装置55は、第1の電極56および第2の電極57を有する一対の電極56、57と、第1の電極56を包囲する誘電体58と、電極56、57の間に電圧を印加可能な放電用電源61(電圧印加機構)と、第1の電極56および第2の電極57のそれぞれを放電用電源61に電気的に接続させる電線62a、62bを備える。
【0032】
第1の電極56は弁体46に設けられてその一部を構成し、弁体46における弁座45との当たり面に配置される。また、第1の電極56は弁体46の表面に沿って環状に形成された電極である。なお、第1の電極56を弁体46における弁座45との当たり面に近接する下流側に配置しても良い。これによって弁体46の急閉動作などにおける衝撃力から第1の電極56を保護できる。また、環状の第1の電極56は全周に亘って連続的に形成されることが望ましいが、これに限られるものではない。
【0033】
また、第1の電極56は、蒸気弁装置40の蒸気条件や使用環境に応じて適宜に選択された公知の導電性の材料から形成される。具体的には、第1の電極56は、例えば、ステンレス、インコネル(商品名)、ハステロイ(商品名)、チタン、白金、タングステン、モリブデン、ニッケル、銅、金、銀、クロムなどの金属、これらの金属元素を主成分とする合金、導電性セラミックス等の無機良導電体などの材料を用いて形成される。特に、インコネル、ハステロイ、チタン等の耐熱または耐腐食性金属を電極56、57に用いた場合、高温多湿、酸化性等の高腐食雰囲気においても長期間使用することができる電極56、57を提供できる。
【0034】
第2の電極57は弁座45からなる電極である。第2の電極57は、例えば、クロム−モリブデン−バナジウム鋼、9%クロム鋼、12%クロム鋼、インコロイ(ニッケル−クロム−鉄が主成分)等の耐熱合金鋼からなる導電性金属を用いて形成される。
【0035】
誘電体58は、弁体46に設けられてその一部を構成し、弁体46に対して第1の電極56を電気的に絶縁して包囲する。また、誘電体58は球状の弁体46の表面に沿って環状に形成される。さらに、誘電体58は周方向断面視において外周側を凹没させた凹形状断面を有し、弁体46に形成された溝部63に嵌設されるとともに凹所64に第1の電極56を保持する。誘電体58は、蒸気弁装置40の蒸気条件や使用環境に応じて適宜に選択された公知の誘電材料から形成される。具体的には、誘電体58は、例えば、窒化アルミ、アルミナ、ジルコニア、ハフニア、チタニア、シリカなどを主成分としたセラミックス材料などの誘電材料を用いて形成される。
【0036】
第1の電極56および誘電体58の外表面は弁体46の外表面と同一面となるように形成される。なお、第1の電極56を誘電体58に埋設させても良い。
【0037】
放電用電源61は、第1の電極56と第2の電極57との間に、例えば、正極性および負極性のいずれかもしくは両方を断続的に出力するパルス状の出力電圧、正極性および負極性のパルス状の電圧を交互に出力する交番電圧、交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧などを出力する。また、放電用電源61は、例えば、出力電圧に強弱をつけて出力するなど電圧値を調整しながら第1の電極56と第2の電極57との間に電圧を印加することもできる。具体的には、放電用電源61は、例えば、所定のデューティー比で正極性および負極性の電圧を交互に断続的に出力するとき、初めから2パルスは高出力とし、それに続く2パルスをその半分の出力とし、この高出力の2パルスとその半分の出力の2パルスの組み合わせを繰り返し印加することができる。なお、放電用電源61による印加電圧の制御方法は、これらに限られるものではなく、蒸気弁装置40の蒸気条件や使用環境、用途などに応じて適宜に設定できる。
【0038】
このような構成によって蒸気弁装置40は、弁座45から弁体46を離間させて流路(隙間53)を形成し、放電用電源61から第1の電極56および第2の電極57に電圧を印加する。このとき、流路(隙間53)は蒸気流れによって満たされる。この蒸気流れは第1の電極56と第2の電極57との間に介在する誘電体66である。そして、第1の電極56と第2の電極57との間の電位差が一定の閾値以上の電位差になると、第1の電極56と第2の電極57との隙間53に誘電バリア放電が生じる。この放電にともなって蒸気流れの一部に放電プラズマが生成される。この放電プラズマは弁体46と弁座45との隙間53に第1の電極56側から第2の電極57側へまたは第2の電極57側から第1の電極56側へ(換言すると、弁体46側から弁座45側へまたは弁座45側から弁体46側へ)向かって気流F(誘起気流F)を発生させる。
【0039】
ここで、先ず、弁体46と弁座45との隙間53にプラズマを生成させずに蒸気弁装置40を開いたとき、弁座45と弁体46との隙間53に生じる蒸気流れの挙動や圧力分布について説明する。
【0040】
このとき蒸気弁装置40は、放電用電源61を機能させておらず、従来の蒸気弁装置におけるそれと同様の蒸気流れを発生させる。そして、この蒸気流れには、弁体46、弁棒47、弁ケーシング43、あるいは蒸気弁装置40そのものやこれに隣接する配管などの加振源となる大きな圧力変動をともなう不安定な衝撃波が発生する。この不安定な衝撃波の回避、防止によって安定な蒸気流れが確保、維持される。
【0041】
以下、弁座45と弁体46との隙間53に生じる蒸気流れの挙動や圧力分布についてさらに詳述する。
【0042】
図6は、本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の開弁過程または閉弁過程における弁体と弁座との開度の関係を示した概念図である。
【0043】
図6に示すように、蒸気弁装置40の弁体46の曲率半径R、その中心O1、弁座45の曲率半径r、その中心O2、中心O1と中心O2とを結ぶ枢軸線を一点鎖線B、一点鎖線Bに平行で流路(隙間53)の開始を示す弁座45の位置A1を通る線分を実線A、一点鎖線Bに平行で流路(隙間53)の終了を示す弁座45の位置C1を通る線分を実線C、実線Aと実線Cとの距離X、弁座45と弁体46との離間距離(すなわちバルブリフト)La、弁体46の上流側における蒸気圧力P1(以下、「弁体前圧力P1」と呼ぶ。)、弁体46の下流側における蒸気圧力P2(以下、「弁体後圧力P2」と呼ぶ。)、とする。
【0044】
また、一点鎖線Bが貫く円弧は、弁座45と弁体46との任意の開度位置における流路(隙間53)の最小通路面積Athを模式的に示したものである。実際の最小通路面積Athは、円錐台の側面のような形状をした環状な面の面積である。
【0045】
図7は、本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の開弁過程または閉弁過程において流路をラバール管に置き換えたときの理想状態における等エントロピー流れの圧力分布線図を示した図である。
【0046】
図8は、本発明に係る蒸気弁装置の第1実施形態の開弁過程または閉弁過程において流路をラバール管に置き換えたときの理想状態における等エントロピー流れの圧力分布線図を部分的に拡大して示した図である。
【0047】
図7は、弁体46の上流側における弁体前圧力P1と流路内における圧力Pとの圧力比(P/P1)を縦軸に示し、横軸に距離Xを示す。距離Xにおける点A2、点B2、点C2は、それぞれ線分A、一点鎖線B、線分Cに対応する。
【0048】
図7および図8に示すように、蒸気弁装置40の弁座45と弁体46との任意の開度位置における流路(隙間53)をラバール管に置き換えたときの理想状態における等エントロピー流れの圧力分布線図(以下、単に「圧力分布線図」という。)の作図に当たり、先ず、弁体46の上流側における弁体前圧力P1を一定にし、弁体46の下流側における弁体後圧力P2を降下させると、圧力比(P/P1)は破線LBで示すように点a(P/P1=1.0)から点jを通り点kに至る。点a、点j、点kを通る破線LBのような圧力分布を有する蒸気流れは、亜臨界流れ(亜音速流れ)である。
【0049】
次に、弁体後圧力P2を降下させると、圧力分布線図は、実線LS1で示すように点aから始まり流路(隙間53)の最小通路面積Athを通過する位置(B2)において点b(臨界圧)に至る。点a、点bを通る実線LS1のような圧力分布を有する蒸気流れも、亜臨界流れ(亜音速流れ)である。さらに、弁体後圧力P2を降下させると、圧力分布線図は、点bから点c3、点dを通り点eに至る。点b、点c3、点d、点eを通る実線LS2のような圧力分布を有する蒸気流れは、超臨界流れ(超音速流れ)である。
【0050】
蒸気流れが超臨界流れになると、点b(臨界圧)から点eに至る実線LS2のうち、例えば点c3および点dで蒸気流れに対して垂直方向に衝撃波が発生し、圧力比(P/P1)がそれぞれ点f、点hまで上昇、すなわち静圧が回復する。このときの圧力分布は、点b(臨界点)から、点f、点g(最高圧力上昇点)、点h、点iを通る一点鎖線RHのように表され、Rankine−Hugoniotの関係となる。
【0051】
それぞれの点f、点hまで圧力上昇した蒸気流れは、点fから点mに、また点hから点oに向かって圧力上昇し、亜臨界流れ(亜音速流れ)になる。
【0052】
このような圧力分布線図は、等エントロピー流れによる理想的な圧力分布線図であり、発明者は、実際には、例えば、それぞれの点c3および点dで発生する衝撃波が一点鎖線RH上の点f、点hを超え、それぞれ点l、点nまで圧力上昇をしていることを見出した。
【0053】
衝撃波の発生によってそれぞれ点l、点nまで圧力上昇した蒸気流れは、自身では安定状態に維持できない不安定な状態になっている。このため、衝撃波の発生によってそれぞれの点l、点nまで圧力上昇した蒸気流れは、それぞれの点l、点nから一点鎖線RH(Rankine−Hugoniotの関係)上における上流側のそれぞれの点l1、点n1に移動して安定状態を維持する。そして、衝撃波の発生によってそれぞれ点l、点nまで圧力上昇した蒸気流れは、見掛け上、あたかも一点鎖線RH上の上流側の点l1、点n1からそれぞれ点m1、点o1に向って圧力上昇し、亜臨界流れ(亜音速流れ)になる。
【0054】
蒸気流れは、このような点lから点l1に移動する領域△1、点nから点n1に移動する領域△2における圧力変動の影響を受けて騒音や振動を発生させると考えられる。しかも、衝撃波の発生にともなうこのような圧力上昇は、一点鎖線RHを上流側に向って順次に点b(臨界圧)まで遡って続けられる。
【0055】
すなわち、発明者は、流路(隙間53)を通過する蒸気流れが超臨界流れ(超音速流れ)になる領域(点bから点eに至る実線LS2)において衝撃波が連続的に発生し、その都度、衝撃波による圧力上昇が一点鎖線RH(Rankine−Hugoniotの関係)を超え、あたかも一点鎖線RH上を点bに向かって上流側へ遡って移動することを確認した。このような現象は、弁体46、弁棒47、弁ケーシング43、あるいは蒸気弁装置40そのものやこれに隣接する配管などの加振源となる大きな圧力変動となることが認められる。
【0056】
そこで、本実施形態は、蒸気弁装置40の弁座45と弁体46との隙間53における蒸気流れの挙動(衝撃波の発生によってRankine−Hugoniotの関係を飛び越えるような圧力上昇をともなう挙動)を踏まえて隙間53を流れる蒸気の一部に放電プラズマを生成し、これにともなう誘起気流Fを発生させる。そして、本実施形態は、誘起気流Fによって形成される薄い層状の流れを前述の蒸気流れの挙動(衝撃波の発生によってRankine−Hugoniotの関係を飛び越えるような圧力上昇をともなう挙動)の緩衝材として作用させて、衝撃波にともなう圧力上昇がRankine−Hugoniotの関係を飛び越すことなく安定状態を維持できる。
【0057】
換言すれば、本実施形態は、弁体46が弁座45との隙間53に発生させた誘起気流Fによって下流側から上流側に向かって隙間53を移動してくる衝撃波の移動を妨げる。
【0058】
また、本実施形態は、弁体46および弁座45の表面に誘起気流Fを発生させるので、弁体46および弁座45の表面の静圧を回復させてそれぞれの境界層の速度分布を変化させる。これによって、本実施形態は、弁体46または弁座45の表面における蒸気流れの剥離を抑制することが可能となり、衝撃波の発生そのものを抑制または消滅させる。
【0059】
このように、本実施形態は、その開閉過程において流路(隙間53)に誘起気流Fを発生させて衝撃波の発生や下流側から上流側に向かう衝撃波の伝播を抑制することによって、蒸気流れの安定性を確実に確保し、維持して流路(隙間53)における蒸気流れが発生させる騒音や振動を抑制できる。
【0060】
なお、本実施形態に係る蒸気弁装置40は、弁体46に設けられた第1の電極56と、弁体46に対して第1の電極56を電気的に絶縁して包囲する誘電体58と、を備えるが、弁体46そのものを第1の電極56にしても良い。この場合、第1の電極56は、例えば、クロム−モリブデン−バナジウム鋼、9%クロム鋼、12%クロム鋼、インコロイ(ニッケル−クロム−鉄が主成分)等の耐熱合金鋼からなる導電性金属を用いて形成される。
【0061】
また、蒸気弁装置40は、弁体46に設けられた第1の電極56と、弁座45からなる第2の電極57と、を備えるが、それぞれの組み合わせを交換して第1の電極56を弁座45に設け、弁体46を第2の電極57にしても良い。
【0062】
[第2の実施形態]
本発明に係る蒸気弁装置の第2実施形態について図9を参照して説明する。
図9は、本発明に係る蒸気弁装置の第2実施形態の要部を示した断面図である。図10は、本発明に係る蒸気弁装置の第2実施形態の要部を拡大して示した断面図である。
なお、本実施形態において、第1実施形態と共通する構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0063】
図9および図10に示すように、蒸気弁装置40Aの弁体46は、その移動方向に複数段に構成された第1の電極56Aと、第1の電極56Aを包囲する誘電体58Aと、を備える。
【0064】
第1の電極56Aは、弁体46に設けられてその一部を構成し、弁体46における弁座45との当たり面およびその下流側に複数段に配置される。ここで、弁体46における当たり面の下流側とは、弁体46が弁座45に着座した状態においては、当たり面よりも弁室41の蒸気出口43a側に位置する部分である。また、第1の電極56Aは球状の弁体46の表面に沿って環状に形成された複数の電極群である。具体的には、第1の電極56Aは、複数の電極、例えば3つの第1の電極56Aa、第1の電極56Abおよび第1の電極56Acからなる。
【0065】
誘電体58Aは、弁体46に設けられてその一部を構成し、弁体46に対して第1の電極56Aのそれぞれの第1の電極56Aa、51Ab、51Acを電気的に絶縁して包囲する複数の誘電体58Aa、53Ab、53Acを備える。各誘電体58Aa、53Ab、53Acは、球状の弁体46の表面に沿って環状に形成される。さらに、各誘電体58Aa、53Ab、53Acは、周方向断面視において外周側を凹没させた凹形状断面を有し、弁体46に形成された溝部63a、63b、63cに嵌設されるとともに凹所64a、64b、64cに各々第1の電極56Aa、51Ab、51Acを保持する。
【0066】
このように構成された蒸気弁装置40Aによれば、バルブリフトLaが大きくなるにつれて一点鎖線B(中心O1と中心O2とを結ぶ枢軸線)の傾きが変化し、隙間53の最小通路面積Athの位置が弁体46における当たり面から離れていくものの、複数段に構成された第1の電極56Aa、51Ab、51Ac、………のいずれかが最小通路面積Athの近傍に配置される。したがって、蒸気弁装置40Aは、弁体46が最大開度に向かって大きく移動しても流路(隙間53)における最小通路面積Athの近傍に適宜の誘電バリア放電を生じて放電プラズマを生成し誘起気流Fを発生できる。
【0067】
このように、本実施形態は、その開閉過程の広い開度範囲において流路(隙間53)に誘起気流Fを発生させて衝撃波の発生や下流から上流に向かう伝播を抑制することによって、蒸気流れの安定性を確実に確保し、維持して流路(隙間53)における蒸気流れが発生させる騒音や振動を抑制できる。
【0068】
[第3の実施形態]
本発明に係る蒸気弁装置の第3実施形態について図11を参照して説明する。
図11は、本発明に係る第3実施形態の蒸気弁装置の要部を示した断面図である。
なお、本実施形態において、第1実施形態と共通する構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0069】
図11に示すように、蒸気弁装置40Bは、弁座45と弁体46との隙間53に発生する騒音を計測する計測器68を備え、気流発生装置55の放電用電源61Aは、計測器68から入力される計測情報に基づき電極56、57間に印加する電流電圧特性を制御する。
【0070】
また、蒸気弁装置40Bは、弁体46に発生する振動を計測する計測器69を備え、気流発生装置55の放電用電源61Aは、計測器69から入力される計測情報に基づき電極56、57間に印加する電流電圧特性を制御するよう構成することもできる。
【0071】
蒸気弁装置40Bは、計測器68および計測器69のいずれかまたは両方を備える。
計測器68は、例えば音圧もしくは圧力を計測するセンサを用いて構成される。
計測器69は、加速度センサや変位計を用いて構成される。
【0072】
放電用電源61Aは、計測器68または計測器69から入力される計測情報に基づき演算処理を行い電極56、57間に印加する電流電圧特性を決定するとともに電圧を印加する。
【0073】
このように構成された蒸気弁装置40Bは、弁座45と弁体46との隙間53に発生した衝撃波に応じて電極56、57間に印加する電流電圧特性を制御し、流路(隙間53)に発生する誘起気流Fを適宜に制御することができる。
【0074】
本実施形態は、その開閉過程において流路(隙間53)に発生した衝撃波に応じて誘起気流Fを発生させて衝撃波の伝播を抑制することによって、蒸気流れの安定性を確実に確保し、維持して流路(隙間53)における蒸気流れが発生させる騒音や振動を抑制できる。
【0075】
したがって、本発明の実施形態に係る蒸気弁装置40、40A、40Bおよび蒸気タービン発電設備1によれば、開閉過程において、弁体45および弁座46の間に形成される流路(隙間53)における蒸気流れの安定性の確保および維持できる。
【符号の説明】
【0076】
1 蒸気タービン発電設備
3 ボイラ
4 蒸気タービン部
5 主蒸気系
6 再熱蒸気系
7 復水給水系
11 蒸気発生器
12 再熱器
14 高圧タービン
15 中圧タービン
16 低圧タービン
18 低温再熱系
19 逆止弁
21 主蒸気止弁
22 蒸気加減弁
23 高圧タービンバイパス系
24 高圧タービンバイパス弁
26 再熱蒸気止弁
27 インターセプト弁
28 低圧タービンバイパス系
29 低圧タービンバイパス弁
31 復水器
32 給水ポンプ
40、40A、40B 蒸気弁装置
41 弁室
42 内周面
43 弁ケーシング
43a 蒸気出口
45 弁座
46 弁体
47 弁棒
48 ピン
51 リンク
51a 支点
52 駆動装置
53 隙間
55 気流発生装置
56、56A、56Aa、56Ab、56Ac 第1の電極
57 第2の電極
58、58A、58Aa、58Ab、58Ac 誘電体
61、61A 放電用電源
62a 電線
63、63a、63b、63c 溝部
64、64a、64b、64c 凹所
66 誘電体
68、69 計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁室を形成する内周面を有する弁ケーシングと、
前記弁室内に設けられた弁座と、
前記弁室に収容されて前記弁座に接離自在な弁体と、
前記弁座と前記弁体との隙間を流れる蒸気の一部をプラズマ化させて前記隙間に誘起気流を発生させる気流発生装置と、を備えたことを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
前記気流発生装置は、一対の電極と、前記電極間に電圧を印加可能な電圧印加機構と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の蒸気弁装置。
【請求項3】
前記一対の電極は、前記弁体に設けられた第1の電極と、前記前座からなる第2の電極と、を備えたことを特徴とする請求項2に記載の蒸気弁装置。
【請求項4】
前記第1の電極は、前記弁体における前記弁座との当たり面に配置されたことを特徴とする請求項3に記載の蒸気弁装置。
【請求項5】
前記第1の電極は、前記弁体の移動方向に複数段設けられたことを特徴とする請求項3に記載の蒸気弁装置。
【請求項6】
前記弁座と前記弁体との隙間に発生する騒音を計測する計測器を備え、
前記電圧印加機構は、前記計測器から入力される計測情報に基づき前記電極間に印加する電流電圧特性を制御することを特徴とする請求項2に記載の蒸気弁装置。
【請求項7】
前記弁体に発生する振動を計測する計測器を備え、
前記電圧印加機構は、前記計測器から入力される計測情報に基づき前記電極間に印加する電流電圧特性を制御することを特徴とする請求項2に記載の蒸気弁装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の蒸気弁装置を備えたことを特徴とする蒸気タービン発電設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−169383(P2011−169383A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32874(P2010−32874)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(395009938)東芝アイテック株式会社 (82)
【Fターム(参考)】