説明

蒸留粕を原料として用いる飲食品又は飼料の製造方法

【課題】梅スピリッツの製造方法において産出される蒸留粕を飲食品又は飼料の原料として有効利用する。
【解決手段】梅を発酵させることにより梅スピリッツを製造し、これにより産生される蒸留粕を原料として飲食品又は飼料を製造する方法であって、
(1)水、米麹及び酵母を含む一次原料から一次もろみを調製する第1工程、
(2)穀物類又はそのデンプンを含む二次原料を一次もろみに配合することにより、二次もろみを調製する第2工程、
(3)アルコール濃度が15重量%未満の二次もろみに対して梅を含む三次原料を配合し、二次もろみ中で梅を発酵させることにより三次もろみを調製する第3工程、
(4)三次もろみを蒸留する第4工程
(5)第4工程で得られる蒸留粕を原料として用いることにより、梅の発酵エキスを含有する飲食品又は飼料を得る第5工程、
を含む飲食品又は飼料の製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梅スピリッツの製造方法において産出される蒸留粕を原料として用いる飲食品又は飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
梅は、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸を豊富に含むため、整腸、食欲増進、抗菌、疲労回復、老化防止等の目的で古くから食されている材料である。また、梅を加工して食品、調味料、飲料等に幅広く利用されている。
【0003】
特に、最近では、アルコール飲料の分野において、消費者の嗜好の多様性、商品の競争力強化等を背景として、梅を用いた焼酎、発泡酒等の開発・実用化が次々と進められている。
【0004】
例えば、梅果実をエチルアルコールおよび糖類を含有する液に浸漬し、生成した梅酒から漬梅を分取し、この漬梅を熱水に浸漬して蒸発したアルコール含有の粗留液を回収し、この粗留液を蒸留し、得られた留液を熟成させることからなる梅ブランデーの製造方法が知られている(特許文献1)。
【0005】
また例えば、梅の種、梅の果肉および梅の加工品からなる梅風味付加用原料のうち少なくとも梅の種を含む梅風味付加用原料を、もろみのアルコール濃度が15重量%以上になった時点でもろみに添加してさらに発酵を行って得られる熟成もろみを梅風味付加用原料とともに蒸留することを特徴とする梅焼酎の製造方法が知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11−89552号公報
【特許文献2】特開2006−20508号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの従来技術は、基本的には発酵完了後の工程において梅あるいは梅エキス等を添加するものであり、梅そのものを発酵させようとするものではない。これに対し、本発明者は、梅そのものを発酵して得られる梅スピリッツの製造方法を開発し、出願している(特願2006−315963)。
【0007】
本発明の主な目的は、上記の梅スピリッツの製造方法において産出される蒸留粕を飲食品又は飼料の原料として有効利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、梅を発酵させる工程を含む特定プロセスを採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の飲食品又は飼料の製造方法に係る。
1. 梅を発酵させることにより梅スピリッツを製造し、これにより産生される蒸留粕を原料として飲食品又は飼料を製造する方法であって、
(1)水、米麹及び酵母を含む一次原料から一次もろみを調製する第1工程、
(2)穀物類又はそのデンプンを含む二次原料を一次もろみに配合することにより、二次もろみを調製する第2工程、
(3)アルコール濃度が15重量%未満の二次もろみに対して梅を含む三次原料を配合し、二次もろみ中で梅を発酵させることにより三次もろみを調製する第3工程、
(4)三次もろみを蒸留する第4工程
(5)第4工程で得られる蒸留粕を原料として用いることにより、梅の発酵エキスを含有する飲食品又は飼料を得る第5工程、
を含む飲食品又は飼料の製造方法。
2. 二次もろみのアルコール濃度が5〜13重量%である、前記項1に記載の製造方法。
3. 第3工程をpH3.5〜4.5の範囲内で実施する、前記項1又は2に記載の製造方法。
4. 前記蒸留粕に糖類、有機酸及び水の少なくとも1種を加える添加工程をさらに含む、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 前記蒸留粕の固液分離を行う固液分離工程をさらに含む、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6. 前記蒸留粕がアルコール濃度1重量%未満である、前記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7. 前記蒸留粕に少なくとも糖類を添加した上で発酵させる発酵工程をさらに含む、前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の飲食品又は飼料の製造方法によれば、梅の風味を有するとともに、梅の発酵エキスを含む飲食品又は飼料を得ることができる。これにより、嗜好面、健康面等でこれまでにない新たな製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、梅を発酵させることにより梅スピリッツを製造し、これにより産生される蒸留粕を原料として飲食品又は飼料を製造する方法であって、
(1)水、米麹及び酵母を含む一次原料から一次もろみを調製する第1工程、
(2)穀物類又はそのデンプンを含む二次原料を一次もろみに配合することにより、二次もろみを調製する第2工程、
(3)アルコール濃度が15重量%未満の二次もろみに対して梅を含む三次原料を配合し、二次もろみ中で梅を発酵させることにより三次もろみを調製する第3工程、
(4)三次もろみを蒸留する第4工程
(5)第4工程で得られる蒸留粕を原料として用いることにより、梅の発酵エキスを含有する飲食品又は飼料を得る第5工程、
を含むことを特徴とする。
【0012】
第1工程
第1工程では、水、米麹及び酵母を含む一次原料から一次もろみを調製する。
【0013】
米麹は、常法に従って製造すれば良い。例えば、米(原料米)を洗浄した後、水を配合して蒸すことにより蒸し米を製造し、これに麹菌を添加し、32〜40℃で1〜3日間静置することにより、米麹をつくることができる。原料米は、白米、破砕米、うるち米、インディカ米等のいずれであっても良い。また、麹菌の種類は特に限定されず、例えばAspergillus awamori、Aspergillus kawachii、Aspergillus oryzae等を挙げることができる。
【0014】
酵母は、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、焼酎用酵母、清酒酵母、ワイン用酵母等を好適に用いることができる。酵母の使用量は、用いる酵母の種類等により適宜設定すれば良い。
【0015】
また、水は、米麹1kg当たり1〜2kg程度、好ましくは1〜1.5kg配合すれば良い。
【0016】
一次原料から一次もろみを調製する場合は、一般的には23〜30℃で5〜7日間にわたり一次原料を静置し、糖化・発酵させれば良い。
【0017】
第2工程
第2工程では、穀物類又はそのデンプンを含む二次原料を一次もろみに配合することにより、二次もろみを調製する。
【0018】
穀物類又はそのデンプンとしては、例えば米、小麦、大麦、そば、コーンスターチ等が挙げられる。本発明では、特に、米を好適に用いることができる。米を配合する場合は、通常は蒸し米の状態で配合すれば良い。
【0019】
穀物類又はそのデンプンの配合量としては、配合する穀物類等の種類により適宜設定することができるが、通常は米麹1kgに対して1〜2kg程度とすれば良い。
【0020】
第2工程では、二次もろみが第3工程で使用できるように、アルコール濃度5〜12重量%となるまで発酵させることが好ましい。
【0021】
第3工程
第3工程では、アルコール濃度が15重量%未満の二次もろみに対して梅を含む三次原料を配合し、二次もろみ中で梅を発酵させることにより三次もろみを調製する。
【0022】
第3工程では、第2工程で得られた二次もろみがアルコール濃度15重量%に達する前に三次原料を配合する。二次もろみのアルコール濃度15重量%以上になった状態で三次原料を配合しても梅の発酵が不十分になるため、所望の梅スピリッツを得ることができない。
【0023】
特に、アルコール濃度5重量%未満の二次もろみに対して三次原料を配合する場合には、梅に含まれるクエン酸等の成分の影響により発酵が不十分になるか又は進行しなくなるおそれがある。このため、本発明では、二次もろみのアルコール濃度が5重量%以上15重量%未満の状態(特に5重量%以上13重量%以下)の状態で三次原料を配合することがより望ましい。このような範囲内で発酵した状態で三次原料(梅)を配合することによって、梅をより効率良く発酵させることが可能となる。
【0024】
この場合、二次もろみのpHは、3.5〜4.5の範囲内に制御することが好ましい。このような範囲内に制御することにより、雑菌の繁殖等を防止しつつ、梅の発酵をより効率的に進行させることができる。
【0025】
三次原料で使用される梅は、その品種、産地等の制限は特にない。また、梅は、好ましくは種を除去した果肉を使用することができる。さらに、生梅を使用しても良く、あるいは冷凍梅を解凍した状態で使用することもできる。必要に応じて、梅以外の材料が三次原料に含まれていても良い。例えば、ぶどう、桃、ゆず、梨、李、ベリー等の果物類のほか、ハーブ等の香草等が挙げられる。
【0026】
三次原料(好ましくは梅)の配合量は、所望の風味等に応じて適宜設定することができるが、通常は米麹1kg当たり0.5〜1.5kg程度とすることが好ましい。
【0027】
また、第3工程では、必要に応じて糖類を添加しても良い。糖類としては、例えば砂糖等を配合することができる。
【0028】
発酵条件は、梅に含まれる糖分(約7〜10%)等が発酵代謝されるのに十分な条件とすれば良い。一般的には20〜33℃で7〜15日間かけて静置すれば良い。
【0029】
第4工程
第4工程では、三次もろみを蒸留する。蒸留は、例えば三次もろみを蒸留缶(蒸留塔)に投入し、40〜100℃で加熱しながら蒸留することにより原酒(通常はエチルアルコール濃度35〜40重量%程度)を得ることができる。蒸留時の圧力は、減圧又は常圧のいずれでも良い。蒸留方式は限定されないが、単式蒸留とすることが望ましい。第4工程で得られる蒸留粕は、クエン酸等の有機酸のほか、梅エキスを豊富に含むので、後記に示すように、これを原料としてもろみ酢等の製造に利用することができる。
【0030】
本発明では、第4工程を実施した後、必要に応じてろ過、割り水添加等の公知の工程を適宜実施することもできる。
【0031】
第5工程
第5工程では、第4工程で得られる蒸留粕(以下「本発明蒸留粕」ともいう。)を原料として用いることにより、梅の発酵エキスを含有する飲食品又は飼料を得る。第1工程から第5工程までの工程図の一例を図2に示す。
【0032】
本発明蒸留粕は、通常はアルコール濃度1重量%未満(特に0.5重量%以下)であるが、さらにアルコール濃度を低く又は実質的にノンアルコールとするために、必要に応じてアルコール分を留去しても良い。また、本発明蒸留粕は、含有成分として、一般に梅の発酵物(発酵エキス)を含んでおり、例えばクエン酸、リンゴ酸、ピログルタミン酸等を含有している。
【0033】
図2に示すように、梅スピリッツの製造で産生された蒸留粕(蒸留副産物)は、そのまま飲食品又は飼料として用いる方法(符号1)のほか、蒸留粕に少なくとも糖類及び/又は水を加えて発酵(有機酸発酵)をさせることにより、食品(調味料)又は飼料を製造する方法(符号2)である。また、蒸留粕を固液分離した後、固形物をそのまま又は乾燥した後、粉状、粒状等の所望の形状に加工(成形、粉砕等)を行うことにより、梅発酵エキスの濃縮物として飲食品又は飼料を製造する方法(符号3)も採用できる。他方、固液分離した後の液部は、そのままであるいは少なくとも糖類及び/又は有機酸を添加することにより、飲料等とする方法(符号4)も例示できる。
【0034】
第5工程中におけるこれらの各工程は、原料として本発明の蒸留粕を使用するほかは、公知の蒸留粕の飲食物への利用方法、製造条件等に従って実施することができる。
【0035】
本発明の製造方法で得られる飲食品としては、例えば1)ドレッシング、食用酢、その他の調味料、2)ゼリー、ジュース、飴等の菓子・清涼飲料、3)その他魚肉加工品等が挙げられる。また、家畜、養殖用魚介類、ペット等の飼料も好適に製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
<参考例1>
下記の仕込み配合を採用し、下記i)〜iv)の手順にて梅スピリッツを製造した。
【0037】
【表1】

【0038】
i)一次仕込み:米麹2kgに水2.4リットルと、純粋培養した焼酎酵母200mlを加えて5日間発酵させた。
【0039】
ii)二次仕込み:5日間発酵させた一次もろみに、蒸した蒸米を放冷後4kg加えて4日間発酵させた。この時の二次もろみ中のアルコール濃度は5〜13重量%(15重量%以下)であり、pHは3.5〜4.5であった。
【0040】
iii)三次仕込み:前記二次もろみに、冷凍梅を常温まで解凍した梅を4kg加えて8日間発酵させた。
【0041】
iv)蒸留:三次仕込み後に発酵熟成させたもろみを蒸留してアルコール濃度約30重量%の梅スピリッツ原酒を得た。梅の香味豊かな梅スピリッツを得ることができた。
【0042】
<実施例1>
参考例1で得られた蒸留粕を用いて食用酢を製造した。前記の蒸留粕中の主な成分は表7のとおりであり、アルコール濃度は0.35重量%であった。
【0043】
【表2】

【0044】
前記蒸留粕を用い、図2の符号4の工程に従って食用酢を製造した。より具体的には、前記蒸留粕を煮沸した後、フィルター濾過して得られた濾液1kgに対し、蜂蜜を100g又は200g添加し、十分に混合した後、瓶詰めした。その瓶を熱湯に1時間つけて煮沸及び殺菌することによって所定の食用酢を得た。得られた食用酢は、わずかに梅の風味がして酸味があり、まろやかな味であった。食用酢の成分は表3のとおりであり、アルコール濃度は0重量%であった。
【0045】
【表3】

【0046】
表3の結果からも明らかなように、本発明により得られる食用酢は、豊富な種類の有機酸、アミノ酸等を含んでおり、健康食品としての機能も兼ね備えていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】参考例1で梅スピリッツを製造した際の製造工程の概略図である。
【図2】本発明の飲食品又は飼料の製造方法における工程例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梅を発酵させることにより梅スピリッツを製造し、これにより産生される蒸留粕を原料として飲食品又は飼料を製造する方法であって、
(1)水、米麹及び酵母を含む一次原料から一次もろみを調製する第1工程、
(2)穀物類又はそのデンプンを含む二次原料を一次もろみに配合することにより、二次もろみを調製する第2工程、
(3)アルコール濃度が15重量%未満の二次もろみに対して梅を含む三次原料を配合し、二次もろみ中で梅を発酵させることにより三次もろみを調製する第3工程、
(4)三次もろみを蒸留する第4工程
(5)第4工程で得られる蒸留粕を原料として用いることにより、梅の発酵エキスを含有する飲食品又は飼料を得る第5工程、
を含む飲食品又は飼料の製造方法。
【請求項2】
二次もろみのアルコール濃度が5〜13重量%である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第3工程をpH3.5〜4.5の範囲内で実施する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記蒸留粕に糖類、有機酸及び水の少なくとも1種を加える添加工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記蒸留粕の固液分離を行う固液分離工程をさらに含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記蒸留粕がアルコール濃度1重量%未満である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記蒸留粕に少なくとも糖類を添加した上で発酵させる発酵工程をさらに含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−165435(P2009−165435A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9168(P2008−9168)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(506391314)明石酒造株式会社 (2)
【出願人】(597065514)紀南農業協同組合 (2)
【Fターム(参考)】