蒸留装置及び酸素同位体の濃縮方法
【課題】起動時間の短縮が可能な蒸留装置を提供する。
【解決手段】 第1ないし第3塔1、2、3を備え、第1塔蒸発器6の出口と第2塔凝縮器7の入口とが第1の導入経路12で接続され、第2塔蒸発器8の出口と、第3塔凝縮器9の入口とが第2の導入経路13で接続され、かつ第2塔凝縮器7の出口と第1塔蒸発器6の入口とが第1の返送経路14で接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔蒸発器8の入口とが第2の返送経路15で接続されている。
【解決手段】 第1ないし第3塔1、2、3を備え、第1塔蒸発器6の出口と第2塔凝縮器7の入口とが第1の導入経路12で接続され、第2塔蒸発器8の出口と、第3塔凝縮器9の入口とが第2の導入経路13で接続され、かつ第2塔凝縮器7の出口と第1塔蒸発器6の入口とが第1の返送経路14で接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔蒸発器8の入口とが第2の返送経路15で接続されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置及び酸素同位体の濃縮方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同位体の蒸留分離プロセスに代表されるように、蒸気圧比(分離係数)の非常に小さな系における蒸留操作では非常に大きな理論段数が必要となる。このような場合には、蒸留塔の圧力損失を抑えるため一般的に充填塔が用いられているが、それに必要な充填高さは理論上数百mに達することが少なくない。したがって、実際の蒸留装置では、複数の蒸留塔を配管でつなぎ、全体として一つの蒸留塔群を構成する。図18は3つの蒸留塔を備え、各蒸留塔(第1ないし第3塔61、62、63)を接続した蒸留装置の例を示したものである。この装置においては、第1塔61および第2塔62の塔底に溜まった液体が、液ポンプ61a、62aによりそれぞれ第2塔62および第3塔63の塔頂へ還流液として供給される。第2塔62および第3塔63の塔頂から導出されたガスは、それぞれ第1塔61および第2塔62塔底部に上昇ガスとして返送される。このプロセスでは、第1塔61から第2塔62、第2塔62から第3塔63へのプロセス流体の供給は液ポンプ61a、62aで行われるが、第2塔62から第1塔61、第3塔63から第2塔62へのプロセス流体の返送はガスの圧力差で行われるため、蒸留塔内の圧力は第1塔61から第3塔63に向かって順に高くなければならない。一般に分離成分の蒸気圧比(分離係数)は蒸留塔の操作圧力が高いほど小さいため、第1塔61よりも第2塔62、第2塔62よりも第3塔63の方が蒸留性能は低下する。また、一般的に同位体分離プロセスのように分離成分の蒸気圧比が非常に小さく充填高さが非常に大きい場合には、装置を起動してから規定量(仕様通りの採取量、計画値)の製品を採取できるようになるまでの時間(以下、起動時間)が数ヶ月〜数年かかる場合がある。したがって、起動時間の短縮は従来からの課題であった。起動時間は装置内のプロセス流体のホールドアップに大きく依存し、その量が多いほど長くなる。
【0003】
図19は図18に示す装置と同じ機能を有する蒸留プロセスにおいて、各塔71、72、73に凝縮器5、7、9および蒸発器6、8、10を設けたものである。これは複数の蒸留塔から構成されるプロセスにおいて一般的に用いられる装置で、このような装置では、原料がフィードされる塔71から下流側の塔73にかけて蒸留塔の塔径が小さくなる。これにより、装置内のプロセス流体のホールドアップを減少させ、起動時間の短縮を図ることができる。しかし、このような装置を用いた場合でも、第1塔71から第3塔73に向かって蒸留塔内の圧力が高くなるため、図18に示す装置の場合と同様に、第1塔71よりも第2塔72、第2塔72よりも第3塔73の方が蒸留性能が低下する。蒸留性能の低下は蒸留塔の所要充填高さの増大、ひいてはプロセス流体のホールドアップの増大につながるため、起動時間短縮の観点から望ましくない。また従来の同位体蒸留プロセスでは、不規則充填物による充填塔が用いられていた。一般に不規則充填物は規則充填物に比べ、比表面積は大きいが、蒸留塔内の液ホールドアップが塔体積の10〜20%、場合によっては20%を越えることがあり、起動時間を長くする一因となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、複数の蒸留塔から構成される蒸留装置において、従来よりも起動時間が短い装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の蒸留装置は、カスケードに構成した複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)を用いて、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設け、該返送経路に、第(k+1)塔の凝縮器出口からの凝縮液を、凝縮液自身の自重で第k塔へ返送するための弁を設けたことを特徴とする蒸留装置である。
【0006】
本発明の酸素同位体の濃縮方法は、酸素同位体重成分を含む原料酸素を、複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)で構成するカスケードプロセスにより濃縮するに際し、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔塔底部付近に設けた蒸発器出口のガスの少なくとも一部を、第(k+1)塔の塔頂部あるいは塔頂部付近に設けた凝縮器入口あるいは該塔の中間部に供給し、且つ、第(k+1)塔の塔頂部または該塔の凝縮器出口の液体の少なくとも一部を、返送液として凝縮液自身の自重で第k塔の蒸発器入口あるいは塔底部あるいは塔の中間部に返送することにより酸素同位体重成分を含む酸素分子16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18Oのうち少なくとも一種を濃縮することを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【0007】
また本発明方法は、前記濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【0008】
また本発明方法は、前記濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得、該濃縮物をさらに前記濃縮方法によって前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明にあっては、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設けるので、この返送経路を通して第(k+1)塔の凝縮器からの導出液の一部を返送することができる。このため、各塔圧力を従来に比べ低く設定することができ、各塔内における各同位体成分間の蒸気圧比を大きくし、蒸留性能を向上させることができる。従って、各塔の充填高さを低くすることができ、起動時間の短縮を図ることができる。また酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を得ることができる。また、液ホールドアップ量を小さくし、いっそうの装置の起動時間の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の蒸留装置の第1の実施形態例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の蒸留装置に用いられる非自己分配促進型規則充填物の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の蒸留装置に用いられる非自己分配促進型規則充填物の他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明の蒸留装置に用いられる自己分配促進型規則充填物の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の蒸留装置に用いられる自己分配促進型規則充填物の他の例を示す斜視図である。
【図6】本発明の蒸留装置に用いられる自己分配促進型規則充填物のさらに他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の蒸留装置の第2の実施形態例を示す概略構成図である。
【図8】本発明の蒸留装置の第3の実施形態例を示す概略構成図である。
【図9】図8に示す装置の変形例を示す構成図である。
【図10】本発明の蒸留装置の他の実施形態例を示す概略構成図である。
【図11】図10に示す蒸留装置に用いられる熱媒体流体の循環経路を示す概略構成図である。
【図12】本発明の蒸留装置のさらに他の実施形態例を示す概略構成図である。
【図13】図12に示す蒸留装置の水素添加反応装置を示す概略構成図である。
【図14】本発明の蒸留装置のさらに他の実施形態例を示す概略構成図である。
【図15】図14に示す蒸留装置に用いられる同位体スクランブラーの例を示す概略構成図である。
【図16】図14に示す装置を用いた場合を例として、酸素同位体重成分の濃縮をシミュレートした結果を示すグラフであり、各塔内の各同位体成分の濃度分布を示すものである。このグラフにおいて、横軸はトータルの充填高さ、縦軸は各同位体成分の濃度を示す。
【図17】蒸留塔の数が16であること以外は図1に示す装置と同様の構成を採用した蒸留装置を用いた場合を例として、酸素同位体重成分の濃縮をシミュレートした結果を示すグラフであり、各塔内の各同位体成分の濃度分布を示すものである。このグラフにおいて、横軸はトータルの充填高さ、縦軸は各同位体成分の濃度を示す。
【図18】従来の蒸留装置の一例を示す概略構成図である。
【図19】従来の蒸留装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の蒸留装置の第1の実施形態例を示すもので、ここに示す蒸留装置は、カスケードに構成した3つの蒸留塔、すなわち第1塔1、第2塔2、および第3塔3を備えている。なお、蒸留塔をカスケードに構成するとは、一つの蒸留塔で濃縮された製品を、さらに次の蒸留塔で濃縮し、それをさらに次の蒸留塔で濃縮することができるように蒸留塔を接続することをいい、このように構成された蒸留塔全体をカスケードプロセスという。また図中破線で示す経路は本実施形態例の変形例であり、本実施形態例の装置に含まれない。
【0012】
これら第1ないし第3塔1、2、3の塔頂部付近には、それぞれ塔1、2、3の塔頂部から導出されたガスの少なくとも一部を冷却し液化させる第1塔凝縮器5、第2塔凝縮器7、第3塔凝縮器9が設けられている。凝縮器5、7、9は、それぞれ塔1、2、3の塔頂部から導出されたガスが導入される第1流路5a、7a、9aと、熱媒体流体が流通する第2流路5b、7b、9bを有し、上記導出ガスを熱媒体流体と熱交換させることにより冷却し液化させることができるようになっている。凝縮器5、7、9としては、プレートフィン型熱交換器を用いるのが好ましい。なお図示例では凝縮器5、7、9を塔1、2、3の外部に設けたが、塔1、2、3の塔頂部内部に設けてもよい。
【0013】
塔1、2、3の塔底部付近には、それぞれ塔1、2、3の塔底部から導出された液の少なくとも一部を加熱し気化させる第1塔蒸発器6、第2塔蒸発器8、第3塔蒸発器10が設けられている。蒸発器6、8、10は、それぞれ塔1、2、3から導出された液が導入される第1流路6a、8a、10aと、熱媒体流体が流通する第2流路6b、8b、10bを有し、上記導出液を熱媒体流体と熱交換させることにより加熱し気化させることができるようになっている。蒸発器6、8、10としては、プレートフィン型熱交換器を用いるのが好ましい。またこれらの蒸発器の取り付け位置は、液ホールドアップを低減するために各蒸留塔下部の液溜の液量が運転可能な範囲で最小となるような位置とする。なお図示例では蒸発器6、8、10を塔1、2、3の外部に設けたが、塔1、2、3の塔底部内部に設けてもよい。この場合はコイル式熱交換器としても良い。
【0014】
本実施形態例の蒸留装置では、第1塔1の塔底部付近に設けられた第1塔蒸発器6の出口(第1流路6aの出口)と、第2塔2の塔頂部付近に設けられた第2塔凝縮器7の入口(第1流路7aの入口)とが、弁12vを介して第1の導入経路12で接続されている。同様に、第2塔蒸発器8の出口(第1流路8aの出口)と、第3塔凝縮器9の入口(第1流路9aの入口)とは弁13vを介して第2の導入経路13で接続されている。
【0015】
また第2塔凝縮器7の出口(第1流路7aの出口)と、第1塔蒸発器6の入口(第1流路6aの入口)とは、弁14vを介して第1の返送経路14で接続されている。同様に、第3塔凝縮器9の出口(第1流路9aの出口)と、第2塔蒸発器8の入口(第1流路8aの入口)とは、弁15vを介して第2の返送経路15で接続されている。この弁14v、弁15vの取り付け位置は各返送経路14、15の上方部(凝縮器の近く)で、後記する複数塔のカスケード連結における第K塔と第K+1塔の圧力差が、このカスケードシステムが作動するような各塔間の圧力差になるようなヘッド圧が得られる位置に設ける。
【0016】
第1ないし第3塔1、2、3の内部には、規則充填物11が充填されている。規則充填物11としては、非自己分配促進型規則充填物および/または自己分配促進型規則充填物を好適に用いることができる。非自己分配促進型規則充填物は、蒸留塔内を下降する液流と蒸留塔内を上昇するガス流がその表面に沿って対向して流れ、かつ塔軸に垂直な断面方向の液流とガス流の混合が促進されずに気液接触が行われる形状・構造を有する充填物であり、例えばアルミニウム、銅、アルミニウムと銅の合金、ステンレススチール、各種プラスチック等からなる多数の板状物または管等を主流れ方向(塔軸方向)に平行に配置したものを挙げることができる。ここで、主流れとは蒸留塔内で塔軸方向に沿って下降する液流および上昇するガス流を示すもので、充填材表面における液流とガス流の界面(すなわち境界層)で生じる物質移動の流れに対しての塔軸方向の流れを指すものである。
【0017】
典型的な非自己分配促進型規則充填物の例を図2および図3に示す。図2に示す非自己分配促進型規則充填物51は、塔軸方向に平行な板材からなるハニカム状の構造物である。また、図3に示す非自己分配促進型規則充填物52は、互いに平行な複数の板材52aと、これら板材52aに対し垂直な複数の板材52bからなる格子状構造物を塔軸方向に沿って配置したものである。
【0018】
自己分配促進型規則充填物は、蒸留塔内を下降する液流と蒸留塔内を上昇するガス流とを、該規則充填物の主として表面において気液接触させ、この際、液流とガス流が該規則充填物の表面上を塔軸方向に沿う主流れ方向に互いに対向して流れると同時に、該主流れ方向に対し直角方向に液流および/またはガス流の混合が促進されつつ気液接触が行われる形状・構造を有する充填物であり、アルミニウム、銅、アルミニウムと銅の合金、ステンレススチール、各種プラスチック等の薄板を各種規則形状に成形し、これを積層構造のブロック状にしたもので、構造化充填物とも称される。
【0019】
典型的な自己分配促進型規則充填物の例を図4ないし図6に示す。図4に示す自己分配促進型規則充填物53は、波型形状の複数の薄板を、塔軸線に平行に配置し、互いに接触するように積層してブロック状にしたもので、各薄板の波状溝は、塔軸線に対して傾斜し、かつ隣接する波型薄板はそれらの波状溝の形成方向が交差するように配置されている。さらに各薄板が水平面に対し垂直になるように配置された状態で、各薄板には塔軸線に対し直角をなす方向に沿って多数の列を形成して、かつ互いに間隔をおいて多数の孔53aが設けられている。図5は自己分配促進型規則充填物の他の例の構成単位を示すもので、ここに示す自己分配促進型規則充填物54は、薄板を波状に成形して波状溝を形成するとともに、薄板に、波状溝に対し所定の角度をなす方向に形成された微小な波型溝(ひだ)54bを更に設けた点に特徴がある。符号54aは薄板に形成された孔を示す。図6に示す自己分配促進型規則充填物55は、波型薄板上に、波状溝に対し所定の角度をなす方向に形成された微小な波型溝(ひだ)55bが設けられた部分と、これを設けない平滑な部分とが交互に配置された構造を有することを特徴とするものである。符号55aは薄板に形成された孔を示す。
【0020】
以下、本発明の蒸留装置の第1の実施形態例である上記図1の装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体重成分の濃縮方法の第1の実施形態例を詳細に説明する。まず、第1塔1の中間部(高さ方向中間部)に接続されたフィード部である経路20を通して、原料酸素ガスを第1塔フィード101として塔1内に供給する。上記原料酸素ガスとしては、高純度酸素を用いるのが望ましい。高純度酸素としては、予めアルゴン、炭化水素類、クリプトン、キセノン、弗素化合物(パーフルオロカーボン等)などの不純物を除去し、純度を99.999%以上となるまで高めたものを用いることができる。特に炭化水素が除去された原料酸素を用いることが安全上好ましい。
【0021】
第1塔1内に供給された原料酸素ガスは、塔1内を上昇し充填物11を通過する際に、後述の還流液(下降液)と気液接触し蒸留される。原料酸素ガス中、同位体重成分を含む酸素分子(16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18O)は、高沸点であるため凝縮しやすく、気液接触の過程で、下降液中の同位体重成分濃度は増加し、上昇ガス中の同位体重成分濃度は減少する。重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路21を通して塔1から導出された後、二分され、一方は第1塔凝縮器5の第1流路5aに導入され、ここで第2流路5b内を流れる熱媒体流体と熱交換して凝縮し還流液として塔1の上部に戻され、他方は経路22を通して廃ガス103として系外に排出される。
【0022】
第1塔1の塔頂部に戻された還流液は、規則充填物11の表面を下降液となって流下しつつ塔1内を上昇する原料酸素ガス、および後述の上昇ガスと気液接触し、塔1の塔底部に到達する。この気液接触の過程において、下降液中には液化しやすい酸素同位体重成分を含む酸素分子(16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18O)が濃縮される。
【0023】
第1塔1の塔底部に達した下降液(以下、各塔の塔底部に溜まった液を塔底部液という)は、経路23を通して塔1から導出され、上述の第1の返送経路14において後述の第1の返送液107と合流して第1塔蒸発器6の第1流路6aに導入され、ここで第2流路6b内を流れる熱媒体流体と熱交換して気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である第1塔導出ガス102として上述の第1の導入経路12を通して蒸発器6から導出される。
【0024】
蒸発器6から導出された第1塔導出ガス102の一部は、経路24を通して塔1の下部に戻されて塔1内を上昇する上昇ガスとなり、他部は、第2塔フィードガス104として導入経路12を通して後述の第2塔塔頂ガス106と合流し第2塔凝縮器7に導入され、ここで凝縮し返送経路14を通して凝縮器7から導出された後、二分される。二分された凝縮液のうち一方は、第1の返送経路14を通し弁14vを介して第1の返送液107として上記第1塔塔底部液と合流した後、上記第1塔蒸発器6に導入される。返送液107の返送は、凝縮器7を液化して導出し、経路14を流下する凝縮液自身の重量によって行われる。
【0025】
本実施形態例の方法では、第2塔凝縮器7を経た凝縮液のうち一部を第1の返送液107として第1塔蒸発器6に戻し、該返送液は自身の重量(ヘッド圧)で蒸発器6を経由して第1塔1へ導入されるので、第2塔2内の塔頂部の圧力を第1塔1の底部の圧力より低くすることができる。かくして上述の第2塔フィードガス104を経路12、25を通して第2塔2に送ることができる。
【0026】
凝縮器7から導出され二分された凝縮液のうち他方は経路25を通して第2塔還流液104として第2塔2上部に供給され、下降液となって第2塔2内の上昇ガスと気液接触しつつ第2塔2の塔底部に到達する。この気液接触の過程において、上昇ガス中の同位体重成分濃度が減少するとともに、下降液中にはさらに酸素同位体重成分が濃縮される。
【0027】
重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路28を通して塔2から導出され、塔頂ガス106として上記導入経路12で第2塔フィードガス104と合流する。
【0028】
酸素同位体重成分が濃縮された濃縮物である第2塔2の塔底部液は、経路26を通して塔2から導出され、上述の第2の返送経路15において後述の第2の返送液112に合流して第2塔蒸発器8に導入され、ここで気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である第2塔導出ガス105として上述の第2の導入経路13を通して蒸発器8から導出される。
【0029】
蒸発器8から導出された第2塔導出ガス105の一部は経路27を通して塔2の下部に戻されて塔2内を上昇する上昇ガスとなり、他部は、第3塔フィードガス108として導入経路13を通して、後述の第3塔塔頂ガス111と合流し、第3塔凝縮器9に導入され、ここで凝縮し、第2の返送経路15を通して凝縮器9から導出された後、二分される。二分された凝縮液のうち一方は、第2の返送経路15を通し弁15vを介して第2の返送液112として上記第2塔蒸発器8に導入される。返送液112の返送は、凝縮器9を液化して導出し、経路15を流下する凝縮液自身の重量によって行われる。
【0030】
本実施形態例の方法では、第3塔凝縮器9を経た凝縮液のうち一部を第2の返送液112として第2塔蒸発器8に戻し、該返送液は自身の重量(ヘッド圧)で蒸発器8を経由して第2塔2へ導入されるので、第3塔3内の塔頂部の圧力を第2塔2の底部より低くすることができる。かくして、上記の第3塔フィードガス108を経路13、29を通して第3塔3に送ることができる。
【0031】
凝縮器9から導出され二分された凝縮液のうち他方は経路29を通して第3塔還流液108として第3塔3上部に供給され、下降液となって第3塔3内の上昇ガスと気液接触しつつ第3塔3の塔底部に到達する。この気液接触の過程において、上昇ガス中の同位体重成分濃度が減少するとともに、下降液中にはさらに酸素同位体重成分が濃縮される。
【0032】
重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路33を通して塔3から導出され、塔頂ガス111として上記導入経路13で第3塔フィードガス108と合流する。
【0033】
酸素同位体重成分が濃縮された濃縮物である第3塔3の塔底部液は、経路30を通して塔3から導出され、第3塔蒸発器10に導入され、ここで気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である第3塔導出ガス109として蒸発器10から導出される。蒸発器10から導出された第3塔導出ガス109は二分され、一方は経路31を通して塔3の下部に戻されて塔3内を上昇する上昇ガスとなり、他方は、経路32を通して酸素同位体重成分を濃縮した濃縮物である製品ガス110として回収される。
【0034】
ここで、第2塔、第3塔へのフィードガス104、108の量の設定について説明する。第2塔フィードガス104の流量は、第2塔あるいは第3塔から装置外へ回収される製品(本実施形態例の場合は製品ガス110のみ)に同伴される目的成分の流量に対して、第2塔フィードガス104に同伴される目的成分の流量が十分な量になるように設定する。詳しくは、[第2塔あるいはは第3塔から装置外へ回収される製品110中の目的成分の流量]/[第2塔フィードガス104に同伴される目的成分の流量]=[目的成分の収率]とする時、この目的成分の収率が1%〜10%以下になるように設定することが望ましい。第2塔フィードガス104の量を小さくしすぎると(目的成分の収率を大きくしようとしすぎると)、第2塔および第3塔の蒸留性能が低下する。逆に、第2塔フィードガス104の量を大きくしすぎると、第1塔蒸発器6と第2塔凝縮器7の熱交換量の増大に対して蒸留性能はさほど向上しなくなる。
【0035】
また、第3塔フィードガス108の流量は、第3塔から装置外へ回収される製品(本実施形態例の場合は製品ガス110のみ)に同伴される目的成分の流量に対して、第3塔フィードガス108に同伴される目的成分の流量が十分な量になるように設定する。詳しくは、[第3塔から装置外へ回収される製品110に同伴される目的成分の流量]/[第3塔フィードガス108に同伴される目的成分の流量]=[目的成分の収率]が1%〜10%以下になるように設定することが望ましい。第3塔フィードガス108の量を小さくしすぎると(目的成分の収率を大きくしようとしすぎると)、第3塔の蒸留性能が低下する。また、第3塔フィードガス108の量を大きくしすぎると、第2塔蒸発器8と第3塔凝縮器9の熱交換量の増大に対して蒸留性能はさほど向上しなくなる。
【0036】
次に上記各塔の運転制御方法を説明する。ある一つの塔に着目した時、制御可能な部分は以下の4つである。
(1) 第k塔から第k+1塔へ供給されるガス配管にある弁。
(2) 第k+1塔から第k塔へ戻される液配管の弁。
(3) 蒸発器の熱交換量(温流体の流量、圧力)
(4) 凝縮器の熱交換量(冷流体の流量、圧力)
4つを同時に調節するのは困難なので、基本的に各塔について(1)と(3)を固定し、装置の状態を見ながら(2)と(4)を調節する。
【0037】
まず(3)蒸発器の熱交換量(温流体の流量、圧力)の調節は次のように行う。蒸発器の熱交換量は、各塔の蒸気負荷が適当な値(計画値)になるように予め調節し設定して以降、制御はしない。蒸留塔内の密度補正空塔速度は、0.5m/s(kg/m3)0.5以上、3.0m/s(kg/m3)0.5以下、好ましくは0.7m/s(kg/m3)0.5以上、2.2m/s(kg/m3)0.5以下になるように設定するのが好ましい。
【0038】
次に、(1)第k塔から第k+1塔へ供給されるガス配管(経路12、13)にある弁12v、13vを調節する。各塔の塔頂圧力がほぼ等しい場合、第k塔塔底圧力は第k+1塔塔頂圧力よりも、第k塔の圧力損失分だけ高くなる。したがって、配管の途中に弁を設けた上で、第k塔から第k+1塔へ供給されるガスの流量を検出し、規定された流量に制御する。この流量は、厳密なものではないので、一旦丁度良い流量(計画値にほぼ等い値)になったら、弁の開度は調節しない。各塔の圧力が一定であれば、この流量はほとんど変化しない。
【0039】
ついで、(4)凝縮器の熱交換量(冷流体の流量、圧力)を設定する。これは各蒸留塔内の圧力が一定になるように調節する。蒸発器の熱交換量(3)は固定されているので、凝縮器の熱交換量(4)が小さいと、蒸留塔の圧力は上がり続けてしまう。また、逆に凝縮器の熱交換量(4)が大きいと蒸留塔の圧力は下がり続ける。いったん最適値に調節しても、天候によって装置の侵入熱が変化し、圧力は変動する。したがって、各塔の圧力を常に検出しながら凝縮器の熱交換量(4)を制御する必要がある。
【0040】
ついで(2)第k+1塔から第k塔へ戻される液配管(経路14、15)の弁14v、15vを調節する。調節弁14v、15vは、所定の液ヘッドがえられる範囲で比較的塔頂の凝縮器に近い位置に設置する。これは、配管内の液ホールドアップを小さくするためである。この開度は、各蒸留塔の塔底の液面(蒸発器の液面)を検出しながら調節する。この開度が小さすぎて、第k+1塔から第k塔への戻りが小さくなった場合、(1)ガス配管の弁12v、13vが固定されているので、第k+1塔〜第n塔までのプロセス流体のホールドアップがどんどん増えていく。各塔の圧力は(4)凝縮器5、7、9によって一定に保たれているので、ホールドアップの増加は、蒸留塔塔底の液面の上昇につながる。逆に、第k+1塔から第k塔への戻りが大きくなった場合、蒸留塔塔底の液面は低下する。したがって、(2)液配管の弁は各蒸留塔塔底の液面高さが一定になるように制御しなければならない。なお、調節弁14v、15vは、所定の液ヘッドがえられる範囲で比較的塔頂の凝縮器に近い位置に設置するが、制御の容易さ、確実さを考慮すると蒸発器に近い位置に設けるのが良い。
【0041】
本実施形態例の蒸留装置は、第1塔蒸発器6の出口と第2塔凝縮器7の入口とが第1の導入経路12で接続され、第2塔蒸発器8の出口と第3塔凝縮器9の入口とが第2の導入経路13で接続され、かつ第2塔凝縮器7の出口と第1塔蒸発器6の入口とが第1の返送経路14で接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔蒸発器8の入口とが第2の返送経路15で接続されているので、凝縮器7、9を経た凝縮液のうち一部を返送液107、112として蒸発器6、8に戻すことができる。このため、塔2、3内の圧力を従来に比べ低く設定することができ、各塔内における同位体各成分間の蒸気圧比を大きくし、蒸留性能を向上させることができる。これにより、各塔の充填高さを低くすることができ、液のホールドアップ量を少なくでき、起動時間の短縮を図ることができる。また上記理由により、酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を効率良く得ることができる。
【0042】
また、従来の装置(図19)では、前段側の塔から後段側の塔への供給経路の全部が液で満たされているのに対して、本実施形態例の装置では返送経路のうち、これら塔の圧力差に相当する液ヘッド分に応じた部分のみが液で満たされる。即ち、後段側の塔から前段側の塔への返送経路のうち、凝縮器7、9にて液化された返送液107、112を前段側の塔に返送するために必要なこれら塔の圧力差に相当する液ヘッド分に応じた経路部分のみが液で満たされる。このため、液ホールドアップ量が小さくなり、いっそうの装置の起動時間の短縮が可能となる。特に蒸留塔の塔径が小さい場合には、返送経路の配管径が相対的に大きくなるので、本実施形態例の装置と従来装置との間の液ホールドアップの差が大きくなると考えられ、起動時間の点で、本発明装置の優位性がさらに明確となると考えられる。
【0043】
また、塔1、2、3に規則充填物(自己分配促進型充填物あるいは非分配促進型充填物)を用いることによって、塔内の圧力損失を小さくし、塔内圧を低く設定することができる。このため、各成分間の蒸気圧比を大きくし蒸留効率を高めるとともに、液ホールドアップ量を小さくし、起動時間のさらなる短縮を図ることができる。またこれに伴って運転コスト削減が可能となる。さらには、自己分配型規則充填物の使用により、塔内における気液接触効率を高め、同位体濃縮効率を高めることができる。
【0044】
上記実施形態例の蒸留装置では、第2塔凝縮器7の出口と第1塔蒸発器6の入口とが第1の返送経路14で接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔蒸発器8の入口とが第2の返送経路15で接続されているが、本発明の蒸留装置はこれに限らず、第1の返送経路を、符号14a(破線で示す経路)で示すように第2塔凝縮器7の出口と第1塔1の中間部とを接続するものとし、かつ第2の返送経路を、符号15a(破線で示す経路)で示すように第3塔凝縮器9の出口と第2塔2の中間部とを接続するものとしてもよい。また、塔1、2、3としては、上記充填物を用いた充填塔に限らず、濡れ壁塔を用いることもできる。
【0045】
図7は、本発明の蒸留装置の第2の実施形態例を示すもので、ここに示す蒸留装置は、以下の点で図1に示す蒸留装置と異なる。
(1)第1塔蒸発器6の出口と、第2塔2の塔頂部とが、第1の導入経路35によって直接接続され、第1塔蒸発器6を経た第2塔フィードガス104’を、直接、第2塔2の塔頂部に供給できるようになっている。
(2)第2塔蒸発器8の出口と、第3塔3の塔頂部とが、第2の導入経路36によって直接接続され、第2塔蒸発器8を経た第3塔フィードガス108’を、直接、第3塔3の塔頂部に供給できるようになっている。
(3)第2塔凝縮器7の出口と、第1塔1の塔底部とが、第1の返送経路37によって接続され、第2塔凝縮器7からの返送液107’を第1塔1の塔底部に返送することができるようになっている。
(4)第3塔凝縮器9の出口と、第2塔2の塔底部とが、第2の返送経路38によって接続され、第3塔凝縮器9からの返送液112’を第2塔2の塔底部に返送することができるようになっている。なお、図中破線で示す経路は後記するごとく本実施形態例の装置の変形例である。
【0046】
以下、図7の装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体重成分の濃縮方法の第2の実施形態例を説明する。経路20を通して、第1塔フィード101として第1塔1内に供給された原料酸素ガスは、塔1内における気液接触によって蒸留される。第1塔1内で酸素同位体重成分が濃縮された塔底部液は、経路23’を通して第1塔蒸発器6に導入され、ここで気化し第1塔導出ガス102’として蒸発器6から導出される。導出ガス102’の一部は経路39を通して第1塔1の下部に戻され、他部は、第1の導入経路35を通して第2塔フィード104’として第2塔2の塔頂部に直接、導入される。第2塔2内において同位体重成分濃度が減少して塔頂部に達した上昇ガスは、塔頂ガス106として経路28’を通して第2塔2から導出され、第2塔凝縮器7において凝縮した後、二分され、一方は経路25’を通して第2塔2上部に還流液として戻され、他方は第1の返送経路37を通して第1の返送液107’として第1塔1の塔底部に返送される。
【0047】
第2塔2内で酸素同位体重成分が濃縮された塔底部液は、経路26’を通して第2塔蒸発器8に導入され、ここで気化し第2塔導出ガス105’として蒸発器8から導出される。導出ガス105’の一部は経路40を通して第2塔2の下部に戻され、他部は第2の導入経路36を通して第3塔フィード108’として第3塔3の塔頂部に直接、導入される。第3塔3内において同位体重成分濃度が減少して塔頂部に達した上昇ガスは、塔頂ガス111として経路33’を通して第3塔3から導出され、第3塔凝縮器9において凝縮した後、二分され、一方は経路29’を通して第3塔3上部に該塔の還流液として導入され、他方は第2の返送経路38を通して第2の返送液112’として第2塔2の塔底部に返送される。
【0048】
本実施形態例の蒸留装置では、凝縮器7、9を経た凝縮液のうち一部を返送液107’、112’として該凝縮液自身の重量(ヘッド圧)で前段の塔に戻すことができる。このため、液ポンプを使用する従来法に比して液量は少なくて済み、上述の第1の実施形態例の装置と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また塔底部と塔頂部を接続した形とすることにより少ない全塔長により酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を効率良く得ることができる。
【0049】
なお、上記実施形態例の蒸留装置では、第1塔蒸発器6の出口と第2塔2の塔頂部とが第1の導入経路35によって接続され、第2塔蒸発器8の出口と第3塔3の塔頂部とが第2の導入経路36によって接続され、さらに、第2塔凝縮器7の出口と第1塔1の塔底部とが第1の返送経路37によって接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔2の塔底部とが第2の返送経路38によって接続されているが、本発明の蒸留装置はこれに限定されない。例えば、符号35a、36a(破線で示す経路)で示すように、第1および第2の導入経路を、塔2、3の塔頂部でなく中間部に接続することもできるし、符号37a、38aで示すように、第1および第2の返送経路を、塔1、2の塔底部でなく塔1、2の中間部に接続することもできる。
【0050】
図8は、本発明の蒸留装置の第3の実施形態例を示すもので、ここに示す蒸留装置は、以下の点で図7に示す蒸留装置と異なる。
(1)第2塔2の塔頂ガス106を第2塔凝縮器7に導く経路28’と、第1塔1の塔底部とが、第1の返送経路37’によって接続され、第2塔2の塔頂ガス106の一部を、第1塔1の塔底部に返送することができるようになっている。
(2)第3塔3の塔頂ガス111を第3塔凝縮器9に導く経路33’と、第2塔2の塔底部とが、第2の返送経路38’によって接続され、第3塔3の塔頂ガス111の一部を、第2塔2の塔底部に返送することができるようになっている。
(3)第1および第2の返送経路37’、38’にそれぞれブロワ41、42が設けられている。ブロワ41、42としては、常温圧縮機、低温圧縮機を用いることができるが、常温圧縮機を用いる場合は、図9に示すように、返送経路37’、38’に熱交換器41a、42aを介在させる必要がある。
【0051】
以下、図8の装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体重成分の濃縮方法の第3の実施形態例を説明する。第2塔2内において同位体重成分濃度が減少して塔頂部に達した上昇ガスは、塔頂ガス106として経路28’を通して第2塔2から導出された後、二分される。二分された塔頂ガス106のうち一方は第2塔凝縮器7において凝縮した後、第2塔2上部に戻されて該塔の還流液となり、他方は第1の返送経路37’を通してブロワ41に至り、ここで昇圧されて第1の返送液107”として第1塔1塔底部に返送される。同様に、第3塔3の塔頂部から導出された塔頂ガス111は、経路33’を通して第3塔3から導出された後、二分され、一方は第3塔凝縮器9において凝縮した後、第3塔3上部に戻されて該塔の還流液となり、他方は第2の返送経路38’を通してブロワ42に至り、ここで昇圧されて第2の返送液112”として第2塔2塔底部に返送される。
【0052】
本実施形態例の蒸留装置では、各経路ともガス状で供給され液状ではないので上述の第1の実施形態例の装置と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また塔底部と塔頂部、塔頂部と塔底部をそれぞれ連結するので、酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を得ることができる。なお、本実施形態例の蒸留装置では、第1塔蒸発器6の出口と第2塔2の塔頂部とが第1の導入経路35によって接続され、第2塔蒸発器8の出口と第3塔3の塔頂部とが第2の導入経路36によって接続され、さらに、第2塔凝縮器7の入口と第1塔1の塔底部とが第1の返送経路37’によって接続され、第3塔凝縮器9の入口と第2塔2の塔底部とが第2の返送経路38’によって接続されているが、本発明の蒸留装置はこれに限定されない。例えば、符号35a、36a(破線で示す経路)で示すように、第1および第2の導入経路を、塔2、3の塔頂部でなく中間部に接続することもできるし、符号37’a、38’aで示すように、第1および第2の返送経路を、塔1、2の塔底部でなく塔1、2の中間部に接続することもできる。
【0053】
上記各実施形態例では、3つの蒸留塔を有する蒸留装置を示したが、本発明の蒸留装置において、蒸留塔の数はこれに限定されない。図10に示す蒸留装置は、蒸留塔の数がn本とされた蒸留装置である。ここに示す蒸留装置は、n本の蒸留塔A1〜Anと、これら塔A1〜Anの塔頂部付近に設けられた凝縮器B1〜Bnと、塔A1〜Anの塔底部付近に設けられた蒸発器C1〜Cnと、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部付近に設けた第k塔蒸発器Ckの出口と第(k+1)塔の塔頂部とを接続する導入経路D1〜Dn−1と、第(k+1)塔の第(k+1)塔凝縮器Bk+1出口と第k塔の塔底部とを接続する返送経路E1〜En−1を備えている。蒸留塔の数nは、例えば2〜100とすることができる。
【0054】
また上記図10に示す蒸留装置における蒸発器と凝縮器の熱媒体流体の循環系統を図11に示す。図11に示すように、各凝縮器B1〜Bnと、蒸発器C1〜Cnとは、熱媒体流体用の循環経路81によって接続されている。この循環経路81では、貯留槽82内の熱媒体流体が導出され、ポンプ83、過冷却器84の第1流路を経て凝縮器B1〜Bnに導入された後、過冷却器84の第2流路を経て熱交換器85の第1流路に至り、次いでブロア86、熱交換器85の第2流路を経て蒸発器C1〜Cnに導入された後、貯留槽82に戻されるようになっている。なお過冷却器84は、熱媒体流体が凝縮器に達する以前に気化するのを防ぐために熱媒体流体を冷却するためのものである。
【0055】
本発明では、同様に、図1に示す第1の実施形態例の蒸留装置や、図7に示す第2の、そして図8に示す第3の実施形態例の蒸留装置においても、蒸留塔の数は図示例に限定されず、任意に設定することができる。
【0056】
また、上記各実施形態例では、原料酸素を低温蒸留することによって酸素同位体重成分を濃縮する方法を示したが、本発明はこれに限らず、原料として水を用い、これを上記各実施形態例の蒸留装置によって蒸留し、酸素同位体重成分を含む重酸素水H217O、H218O、D217O、D218O、DH17OおよびDH18Oのうち少なくとも一種を濃縮することにより重酸素水を製造することもできる。この場合においても、上述の第1の実施形態例と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また酸素同位体重成分を高濃度で含有する重酸素水製品を得ることができる。
【0057】
図12および図13は、本発明の重酸素水の製造方法の他の実施形態例を実施するために用いられる蒸留装置を示すもので、ここに示す装置は、複数の蒸留塔A1〜Anを備えた酸素蒸留用の酸素蒸留塔ユニットF1と、複数の蒸留塔A’1〜A’nを備えた水蒸留用の水蒸留塔ユニットF2と、これらユニットF1、F2間に設けられた水素添加反応装置300Aを備えている。蒸留塔ユニットF1、F2には、図10に示す蒸留装置の構成を採用することができる。
【0058】
図13に示す水素添加反応装置300Aは、酸素蒸留塔ユニットF1を経た濃縮物(酸素ガス)を一時貯留するバッファタンク341と、バッファタンク341内の酸素ガスを導く経路342と、図示せぬ供給源から供給された水素(または重水素)を導く経路343と、これら経路342、343から供給された酸素と水素を反応させる燃焼室344と、制御器345とを有する燃焼器300を主たる構成要素とするものである。
【0059】
燃焼室344は、燃焼室344内に供給される酸素と水素とを混合し燃焼するバーナ344aと、該酸素・水素混合ガスに着火するヒータ344bと、反応生成物(水蒸気)を冷却する冷却コイル344cを備えている。また符号344dは燃焼室344内の反応生成物(水)を弁を介して取り出す取出口を示す。
【0060】
制御器345は、予め設定された値による信号と、経路342に設けられた酸素流量検出器342aによって検出された酸素ガス流量に基づく信号により流量調節弁342bを調節し、経路342を通して燃焼室344内に供給される酸素ガスの供給量を調節することができるようになっている。また、制御器345は、予め設定された値による信号と、経路343に設けられた水素流量検出器343aによって検出された水素流量に基づく信号により流量調節弁343bを調節し、経路343を通して燃焼室344内に供給される水素の供給量を調節することができるようになっている。なお、符号342c、343cは逆止弁、符号342d、343dは逆火防止器、符号344eは燃焼室344内のごく少量の未反応ガスを弁を介して排出する排出用経路を示す。
【0061】
以下、上記蒸留装置を用いた場合を例として、本発明の重酸素水の製造方法の一実施形態例を説明する。原料酸素を、酸素蒸留塔ユニットF1に供給し、酸素同位体重成分を濃縮した濃縮物である中間製品ガス110’を得る。この中間製品ガス110’(酸素ガス)を、経路44、調節弁44aを通して水素添加反応装置300Aの燃焼器300に導入する。燃焼器300に導入された酸素ガスは、バッファタンク341を経て経路342を通しバーナ344aを介して燃焼室344内に導入される。同時に、図示せぬ供給源から供給された水素を経路343を通しバーナー344aを介して燃焼室344内に供給する。
【0062】
この際、制御器345によって、設定値による信号および酸素流量検出器342aによって検出された酸素ガス流量に基づくフィードバック信号により演算が行われ、その結果の信号により流量調節弁342bが調節されるとともに、同様に、制御器345からの設定値による信号と水素流量検出器343aによって検出された水素流量に基づくフィードバック信号により演算が行われ、その結果の信号により流量調節弁343bが調節され、水の生成のための化学量論量に近い量の上記酸素と水素がバーナー344aを介して燃焼室344内に供給される。
【0063】
燃焼室344に供給される酸素および水素は上記の如くフィードバック制御により常に化学量論量に限りなく近い流量に制御されるが、それでも過剰分として導入されたガスは弁を介して排出用経路344eから定期的に排出し、このガスが燃焼室344内に溜まるのを防ぐ。この排ガス量をさらに減らすために、フィードフォワード制御を併用するなど、より厳密な制御手段を採用することが好ましい。
【0064】
燃焼室344内に供給された上記酸素と水素は、バーナ344aにおいて混合された後、燃焼室344内に噴出され、ヒータ344bにより着火し、これらが反応することにより水が生成する。生成した水は、大部分が冷却コイル344cによる冷却によって凝縮した後、取出口344dを通して燃焼室344外に導出され、生成水113として経路45を経て水蒸留塔ユニットF2に導入される。この生成水113は、酸素同位体重成分の濃縮物である中間製品ガス110’を原料として得られたものであるため、酸素同位体重成分を多く含む重酸素水となる。
【0065】
水蒸留塔ユニットF2は、酸素蒸留塔ユニットF1と同様の構成とされているため、蒸留塔ユニットF2内においては、ユニットF1における酸素同位体重成分の濃縮過程と同様に、生成水113中の重成分、すなわちH217O、H218O、D217O、D218O、DH17O、DH18Oが濃縮され、製品重酸素水114として回収される。
【0066】
本実施形態例の蒸留装置では、上述の第1の実施形態例と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また酸素同位体重成分を高濃度で含有する重酸素水製品を得ることができる。
【0067】
図14は、本発明の蒸留装置の他の実施形態例を示すもので、ここに示す装置は、n本の蒸留塔A1〜Anと、これら塔A1〜Anの塔頂部付近に設けられた凝縮器B1〜Bnと、塔A1〜Anの塔底部付近に設けられた蒸発器C1〜Cnと、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部付近に設けた第k塔蒸発器Ckの出口と第(k+1)塔の塔頂部とを接続する導入経路D1〜Dn−1と、第(k+1)塔の第(k+1)塔凝縮器Bk+1出口と第k塔の塔底部とを接続する返送経路E1〜En−1と、同位体スクランブラー47を備えている。
【0068】
同位体スクランブラー47は、塔A1〜Ahによって濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングによってさらに濃縮するためのもので、入口側が取出経路48を介して第h塔Ah下部に接続され、出口側が、第h塔Ahに対し後段側に隣接する第i塔Ai中間部に返送経路49を介して接続されている。
【0069】
同位体スクランブラー47としては、同位体交換反応触媒を用いるものの他に、酸素分子をいったん別の化合物とし、その後これを分解し酸素分子を得るものがある。同位体スクランブラー47として、前者のものを用いた場合、酸素同位体重成分濃縮物である塔Ahの塔底部ガスを同位体交換反応触媒に接触させることで、濃縮物中において、後述する同位体交換反応を促進し、これにより濃縮物中の重成分酸素分子の濃度をさらに高めることができる。
【0070】
この場合、同位体スクランブラー47は、触媒筒(図示略)と、その内部に充填された同位体交換反応触媒を備えている。この同位体交換反応触媒としては、例えばW、Ta、Pd、Rh、Pt、およびAuからなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することができる。また同位体交換反応触媒としては上記の他、Ti酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Mn酸化物、Fe酸化物、Co酸化物、Ni酸化物、Cu酸化物、Al酸化物、Si酸化物、Sn酸化物、およびV酸化物からなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することもできる。また、上記金属単体の触媒と上記金属酸化物触媒とをそれぞれ1種または複数種混在させたものを用いることも出来る。
【0071】
同位体スクランブラー47として、後者のものを用いた場合は、酸素同位体重成分濃縮物である塔Ahの塔底部ガスをいったん別の化合物(例えば水)に変換し、その後これを分解し酸素分子を得ることによって濃縮物中の重成分酸素分子の濃度をさらに高める。この方法を採用した同位体スクランブラー47の例を図15に示す。
【0072】
図15において、同位体スクランブラ−47は主にアルゴン循環ブロワー87と、酸化反応触媒を充填した触媒筒88と、電気分解装置89と、酸素精製装置90からなる。触媒筒88に充填された酸化反応触媒としては、例えばPd、Pt、Rh、Ru、Ni、CuおよびAuからなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することができる。さらにPd、Pt、Rh、Ru等を、Al酸化物、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、V酸化物、Co酸化物、Mn酸化物等に担持させた触媒からなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することもできる。
【0073】
アルゴン循環ブロワー87は、触媒筒88、冷却器91、チラー92を備えたアルゴン循環系統内のガスを循環させるために設けられている。この循環系統内は酸素および水素が共存するため、この循環系統には、爆発範囲を考慮して、該系統内のガスを希釈するアルゴンを供給するアルゴン補給ライン98が接続されている。なおこの循環系統には、チラー92の出口における水素濃度を約2%程度に保つために水素ガス補給ライン97が設けられている。
【0074】
次に、上記装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体の濃縮方法の一実施形態を説明する。経路20を通してフィード101を第1塔A1に供給し、以下、塔Ahに至る間に上述の過程にしたがって酸素同位体重成分を濃縮し、濃縮物である塔Ahの塔底部液を得る。次いで、この塔底部液を、経路48を通して導出ガス115として同位体スクランブラー47に導入する。
【0075】
経路48からアルゴン循環ブロワー87の吸入側に供給された酸素ガスは、アルゴンおよび水素と混合され、ブロワー87により約80〜100kPa(ゲージ)まで昇圧され触媒筒88へ導入される。また前記ブロワ87の出口で極微量の水素(後記する触媒筒95で反応除去した分)をライン97から補給する。触媒筒88内で水素と酸素が反応(2H2+O2→2H2O)し水が生成し、触媒筒88出口の組成は水素約2%、水蒸気約0.5%、アルゴン約97.5%となる。
【0076】
この混合ガスは冷却器91およびチラー92により冷却され、水が貯槽93に分離される。この水は電気分解装置89内に設けられたポンプにより電解槽94(圧力400kPaゲージ)へ送られて電気分解され、再び、微量の酸素を含んだ水素ガスと、微量の水素を含んだ酸素ガスに分離される。前者の水素ガスは上記アルゴン循環系統に回収される。後者の酸素ガスは触媒筒95、吸着器96を備えた酸素精製装置90により微量の水素、水などが除去され、経路49を通して導出され、酸素蒸留塔へ戻される。吸着器96の再生ガスには、酸素同位体重成分が濃縮された酸素ガスのロスを防ぐため、別途超高純度酸素ガス(蒸留塔第1塔フィードガスと同一仕様のガス)を用いる。なお、同位体スクランブラ−戻り酸素ガス116の流量は、該酸素ガスが戻される蒸留塔内の上昇ガス量に比べて極めて小さいため、常温のまま蒸留塔内に戻しても蒸留性能にはほとんど影響しない。
【0077】
同位体スクランブラ−47の装置全体でみると、ガスの出口は、精製された同位体スクランブラ−戻りガス116のライン49と、吸着器96の再生のために別途供給された超高純度酸素ガスの放出口しかないため、その他のガスは装置内を循環しており、ガスのロスはほとんどない。したがって、水素ガス、アルゴンガス共に補給ラインから補給される量は極微量である。
【0078】
同位体スクランブラー47の触媒筒88内では、酸化反応触媒により水素と酸素が反応し、水が生成される。例えばA、B、C、Dが16O、17O、18Oのうちいずれかの同位体原子であるとすると、
2H2+AB→H2A+H2B
あるいは 2H2+CD→H2C+H2D
あるいは 2H2+AA→2H2A
などの反応により、酸素分子を構成していた原子が水の別々の分子に別れる。ここで得られた反応物(水分子)中の各酸素同位体成分の存在比は、導出ガス115中の各同位体成分の存在比によって決まることになる。さらに同位体スクランブラー47の電気分解装置89内では、電気分解により水分子が酸素分子と水素分子に分解される。同様にA、B、C、Dが16O、17O、18Oのうちいずれかの同位体原子であるとすると、
H2A+H2C→2H2+AC
あるいは H2B+H2D→2H2+BD
あるいは 2H2C→2H2+CC
などの反応により、水分子が酸素分子と水素分子に分解される。ここで得られた酸素分子を構成する酸素原子の組み合わせは、水分子内に存在する酸素同位体成分の存在比によって確率的に決まる。なお、上記のように複数種の同位体分子が存在する時、各分子がその構成する相手の原子をランダムに変えることを同位体スクランブリングと言い、それを行なう装置を同位体スクランブラーという。
【0079】
上記同位体スクランブラー47として同位体交換反応触媒を用いる方法を用いた場合には、同位体スクランブラー47の触媒筒内において、同位体交換反応触媒により同位体交換反応が行われる。同位体交換反応は、十分に加熱された触媒表面上で、2原子分子における相手原子を他の原子と交換する反応である。即ち、同位体交換反応とは、例えばA、B、C、Dが16O、17O、18Oのうちいずれかの同位体原子であるとすると、
AB+CD=AC+BD
あるいは AB+CD=AD+BC
となる反応である。ある同位体原子に着目すると、十分に時間が経過した後では、分子として相手になる同位体原子は、同位体交換反応を始める前の各同位体成分の存在比によって確率的に決まることになる。従って、同位体スクランブラー47による同位体交換反応によって得られた反応物(酸素同位体分子)中の各同位体成分の存在比は、導出ガス115中の各同位体成分の存在比によって決まることになる。
【0080】
すなわち、例えば導出ガス115中に16O16O、16O17O、16O18Oの成分があり、それぞれのモル分率をY11、Y12、Y13、とすると、上記いずれの方法を用いても同位体スクランブラー47により、酸素分子を構成する酸素原子の組み合わせが、各同位体成分の存在確率によりランダムに変化するため、同位体スクランブリング後の各成分の濃度は、
16O16O :(Y11+Y12/2+Y13/2)2 ・・・(i)
16O17O :(Y11+Y12/2+Y13/2)Y12 ・・・(ii)
16O18O :(Y11+Y12/2+Y13/2)Y13 ・・・(iii)
17O17O :Y212/4 ・・・(iv)
17O18O :Y12Y13/2 ・・・(v)
18O18O :Y213/4 ・・・(vi)
となる。
【0081】
この16O17O、16O18Oに含まれる16Oの一部が16O16Oとなるのに伴って、重成分(17Oおよび18O)のみからなる酸素分子(18O18O、17O18O、および17O17O、以下、重成分酸素分子という)の濃度が高められる。
【0082】
同位体スクランブラー47によって重成分酸素分子の濃度が高められた反応物は、同位体スクランブラー戻りガス116として経路49を通して塔Aiに供給され、以下、塔Ai〜Anを経る。重成分酸素分子は高沸点であり濃縮しやすいため、この過程において、酸素同位体重成分の濃度がさらに高められる。
【0083】
上記実施形態例の酸素同位体の濃縮方法では、上述の第1の実施形態例と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また、塔A1〜Ahによって得られた酸素同位体重成分濃縮物を同位体スクランブラー47に供給し、同位体スクランブラー47における同位体スクランブリングによって、濃縮物中の重成分酸素分子(18O18O、17O18O、および17O17O)濃度を高め、この濃縮物を塔Ai〜Anに供給し、酸素同位体重成分の濃度をさらに高めるので、酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を得ることができる。
【0084】
なお、図示例の装置では、同位体スクランブラー47の出口側経路49が、第i塔Aiに接続された構成とした。このように、同位体スクランブラー47の出口側経路49が接続される塔は、入口側経路48が接続される第h塔Ahよりも下流側(後段側)のものであることが望ましいが、本発明ではこれに限らず、出口側経路49が接続される塔が、入口側経路48が接続される塔、またはこの塔よりも上流側(前段側)のものであってもよい。
【0085】
すなわち、同位体スクランブラー47はカスケードに構成した「複数の蒸留塔から構成される装置」のどの部分にも組み込むことが可能である。例えば、第k塔(蒸留塔、コンデンサー、リボイラー、配管などを含む)の任意の場所からガスを抜き出し、同位体スクランブラーで処理し、第j塔(蒸留塔、コンデンサー、リボイラー、配管などを含む)の任意の場所に戻すことも可能である。ここで、kとjの大小関係は自由で、また、k=jの場合もあり得る。ただし、同位体スクランブリングを効果的に行うために、蒸留装置からガスを抜き出す位置は、16O18Oが最も濃縮されている位置が望ましく、また、同位体スクランブリングの後に蒸留塔に戻す位置は、抜き出す位置における18O18Oの濃度よりも、同位体スクランブリング後のガスの18O18Oの濃度の方が大きいので、抜き出した場所よりも後段(18O18Oがより濃縮された位置)であることが望ましい。
【0086】
また、本発明では、上記最終塔Anから導出された酸素を、前記水素添加反応装置300Aに供給して水に変換することによって、重酸素水を得ることもできる。
【0087】
次に、上記各蒸留装置を用いて酸素同位体重成分の濃縮を行う場合についてコンピュータシミュレーションを行った結果について説明する。本発明の蒸留塔の設計に採用した蒸留理論およびこのシミュレーションに採用した蒸留理論は、物質移動に関する速度論的モデルを用いており、いわゆるH.E.T.P(Height Equivalent to a Theoritical Plate)あるいは平衡段モデルは用いていない。
【0088】
この速度論的モデルを用いた蒸留理論において、質量流束Nは、拡散流束Jと対流項ρvを用いて次のように表される。
N = JGS + ρGSvGSωGS
また、物質移動に関する相関式として次のものを掲げることができる。
ShGS(JGS/N) = A1ReGA2・ScGSA3
ここで、Sh、Re、Scは次式でそれぞれ定義される。
ShGS = Nd/(ρGSDGSΔωGS)
ReG = ρGUGd/μG
ScGS = μGS/(ρGSDGS)
N:質量流束[kg/(m2・s)]
J:拡散流束[kg/(m2・s)]
d:相当直径[m]
D:拡散係数[m2/s]
ρ:密度[kg/m3]
v:速度[m/s]
ω:濃度[kg/kg]
Sh:シャーウッド数[−]
Re:レイノルズ数[−]
Sc:シュミット数[−]
添え字G:気相 添え字S:気液界面
【0089】
この速度論的なモデルの良さは、多成分系における中間成分の物質移動を正確に予測できること、平衡段モデルによって計算を行った場合に起こるマーフリー効率やH.E.T.Pが負の値をとるような非現実的な結果とならないことなどにある。上記モデルについては、J.A.Wesselingh: ’Non−equilibrium modelling of distillation’ IChemE Distillation And Absorption ’97, vol.1, pp.1−21 (1997)に詳しく記載されている。
【0090】
[実施例1]
上記モデルを用いて、図1に示す蒸留装置を用いて酸素同位体の濃縮を行う場合のシミュレーションを行った結果を、表2に示す。なお装置仕様を表1に示す。
【0091】
[従来例1]
図19に示す従来の蒸留装置を用いて酸素同位体の濃縮を行う場合のシミュレーションを行った結果を表2に併せて示す。この従来装置は、第1塔ないし第3塔の塔径、充填高さを実施例1の装置と同じ値と想定した。またフィード量、製品量、還流比なども実施例1の場合と同様の値とした。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表2より、図1の装置を用いた実施例1の方法では、従来装置を用いた従来例1の方法に比べ、製品の16O18O濃度を高めることができることがわかる。これは、実施例1の場合には、従来例1に比べ塔内圧力を低くすることができ、このため塔内において各成分間の蒸気圧比が大きくなり蒸留性能が向上するためであると考えられる。
【0095】
また表2より、実施例1では、装置の起動時間の短縮が可能となることがわかる。これは、次の理由によるものであると考えられる。従来例1では、第1塔と第2塔との間、および第2塔と第3塔との間の液体供給経路である配管のほとんどの部分が液で満たされるのに対し、実施例1では、第2塔から第1塔、第3塔から第2塔への液体供給経路である配管(返送経路14、15)内が液で満たされるのが第1塔と第2塔との間、第2塔と第3塔との間の塔底、塔頂の圧力差に相当する液ヘッド分に応じたわずかな部分のみとなる為である。このため、実施例1では、液ホールドアップ量が小さくなり、装置の起動時間の短縮が可能となる。
【0096】
実施例1と従来例1を比較すると、液体供給配管内の16O18O成分の液ホールドアップは、実施例1の方が従来例1に比べ圧倒的に優れた結果が得られた。特に塔径がこれら実施例1、従来例1よりも小さい場合には、液体供給配管径が相対的に大きくなると考えられるため本発明の装置と従来装置との間の装置全体の液ホールドアップの差が大きくなると考えられ、起動時間の点で、本発明装置の優位性がさらに明確となると考えられる。また、酸素同位体の濃縮を、実施例1で用いた規則充填物に代えて不規則充填物を用いた蒸留塔を使用して行う場合には、実施例1に比べ、16O18O成分の液ホールドアップ量は、およそ3倍以上となると考えられる。これは、規則充填物の場合、液ホールドアップ量が充填層の体積の2〜3%となるのに対し、不規則充填物の場合には10〜20%となると考えられるためである。このように、規則充填物を用いた場合には、液ホールドアップ量を小さくできることから、起動時間の大幅な短縮を図ることができる。
【0097】
また、本実施例1の方法は液ポンプを使用していないため、それを運転するための動力が不要である。液ポンプを用いないことによるその他の効果として以下のことがある。
(1)装置・機器コストが低減される。
(2)液ポンプのメンテナンスに伴う、バックアップ用液ポンプとの切り換えなどがないため、装置を連続的に安定運転できる。
(3)液ポンプの運転コストが削減出来る。
(4)液ポンプによる侵入熱を削減することにより、寒冷補給(窒素サイクルなど)のための運転コストが削減出来る。
一方、各塔の凝縮器および蒸発器の熱交換量は、従来例よりも本実施例の方が大きく、運転コストの面では不利である。これは、本発明では、従来装置で第1塔から第2塔、第2塔から第3塔へフィードしていた液体をいったん蒸発器でガス化し、その後、凝縮器で液化しているためであり、また、従来装置で第2塔から第1塔、第3塔から第2塔へ戻していたガスをいったん凝縮器で液化し、その後蒸発器でガス化しているためである。この点が本発明における、液ポンプが不要、蒸留塔塔頂圧力の低下の利点を得るための代償であるが、上記液ポンプを採用した従来法と比較すればこのデメリットはメリットに比較してはるかに小さい。
【0098】
[実施例2]
表4は、図1に示す蒸留装置を使用し、原料として水を用いて重酸素水の製造を行う場合のシミュレーションを行った結果を示すものである。なお装置仕様を表3に示す。
【0099】
[従来例2]
図19に示す従来の蒸留装置を使用し、原料として水を用いて重酸素水の製造を行う場合のシミュレーションを行った結果を表4に併せて示す。この従来例2では、第1塔ないし第3塔の塔径、充填高さ、フィード量、製品量、還流比などを実施例2の場合と同様の値とした。
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
表4より、図1の装置を用いた実施例2の方法では、従来装置を用いた従来例2の方法に比べ、製品のH218O濃度を高めることができることがわかる。また、実施例2では、液ホールドアップ量が小さくなり、装置の起動時間の短縮が可能となることがわかる。
【0103】
[実施例3]
表7は、図12に示す蒸留装置を用いて重酸素水の製造を行う場合のシミュレーションを行った結果を示すものである。酸素蒸留塔ユニットF1は、10本の蒸留塔を有し、水蒸留塔ユニットF2は、5本の蒸留塔を有するものとした。なお酸素蒸留塔ユニットF1の装置仕様を表5に、水蒸留塔ユニットF2の装置仕様を表6に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
表7より、実施例3によれば、酸素同位体重成分(18O)を97%以上に濃縮した重酸素水を得ることができることがわかる。この実施例3では、年間約60kgの生産量が得られ、装置の起動時間は、酸素濃縮用の蒸留塔ユニットF1と、水蒸留用の蒸留塔ユニットF2を併せて約140日となることがわかる。この実施例3のように、水蒸留を利用して酸素同位体重成分(18O)の濃縮を行った例としては、US patent 5057225に記載されているように、Thode, Smith,And Walking: CAnad.J.Res.22,127(1944)に報告されたものがあり、この例では、3本の蒸留塔からなるカスケードプロセスにより、酸素同位体重成分(18O)を1.3%まで濃縮した水150gが得られたことが報告されている。この従来例では、起動に要した時間は120日間とされており、生産性を考慮すると、実施例3では、従来に比べ起動時間の大幅な短縮が可能となることがわかる。
【0108】
[実施例4]
表9は、図14に示す蒸留装置を用いて酸素同位体重成分(18O)の濃縮を行う場合のシミュレーションを行った結果を示すものである。また図16は、各塔内における各同位体成分の濃度分布を示すものである。蒸留塔の数(n)は10とし、同位体スクランブラー47は第6塔と第7塔の間に設置することを想定した。なお装置仕様を表8に示す。表中、同位体スクランブラー供給ガスとは、経路48を通して同位体スクランブラー47に供給される導出ガス115を指し、同位体スクランブラー戻りガスとは、同位体スクランブラー47から導出され、経路49を通して塔Aiに供給される同位体スクランブラー戻りガス116を指す。
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
表9より、実施例4によれば、酸素同位体重成分(18O)を97%以上に濃縮した濃縮物を得ることができることがわかる。この実施例4では、年間約12kgの生産量が得られ、装置の起動時間は、73日となることがわかる。
【0112】
本実施形態例で示した装置では、製品ガスに同伴される18O18Oの流量は、
[製品ガス流量]×[製品ガス中18O18O濃度]=1×10−5(mol/s)×0.941=9.4×10−6(mol/s)
である。一方、フィードガスに同伴され装置内に供給される18O18Oの流量は、
[フィードガス流量]×[フィードガス中18O18O濃度]=0.3(mol/s)×4.2×10−6=1.3×10−6(mol/s)であり、製品ガスに同伴される18O18Oの流量よりもはるかに小さい。本実施形態例において同位体スクランブラーは、上記18O18Oの不足分を補うために設けられている。すなわち、蒸留塔内で16O18Oが高濃度(45%以上であることが望ましい)に濃縮された酸素ガスを同位体スクランブラーで処理することにより、新たに18O18Oを生成させ、それを再び蒸留塔に戻すことによって、フィードガスで供給された18O18Oの量よりも多くの18O18Oを製品として採取することができる。本実施形態例では表9からわかるように、同位体スクランブラ−によって以下の式に示す量の18O18Oが生成されている。
[同位体スクランブラ−処理量]×〔[18O18O出口濃度]−[18O18O入口濃度]〕 =6.0×10−4×[0.177−0.162] =9.0×10−6(mol/s)
【0113】
これを、フィードガスによって供給される18O18O、1.3×10−6(mol/s)と合わせると、蒸留塔に供給されるトータルの18O18Oは10.3×10−6(mol/s)となるため、製品によって上記9.4×10−6(mol/s)の18O18Oを採取することが可能になる。仮に、同位体スクランブラーを設けなかった場合には、フィードガス量を最低でも(9.4×10−6)/(1.3×10−6)=7.2倍以上にしなければならず、それに伴い、塔径の大きな蒸留塔が必要となる。これはホールドアップ、起動時間の観点から好ましくない。すなわち本実施形態例で示した装置では、同位体スクランブラ−を設けることにより、従来よりも塔径の小さな装置で、酸素同位体重成分が濃縮された製品を採取することができる。
【0114】
[実施例5]
表10は図1の装置と全く同じプロセスを採用して蒸留塔の本数を16塔に増やした装置により、酸素安定同位体の蒸留をシミュレーションによって行った結果を示したものである。この蒸留装置の仕様を表11に示す。
【0115】
【表10】
【0116】
【表11】
【0117】
本実施例は中間成分である16O17Oを濃縮した製品を得ることを目的として、蒸留塔のトータルの高さを高くしたケースである。図17は塔内の各酸素同位体の組成分布を示したもので、該実施例では第10塔〜第12塔付近に16O17Oのピークが出現するので、これらの塔の少なくとも1個所から液またはガスを採取することにより16O17O濃縮製品を得ることが出来る。この実施例では第11塔の塔底(リボイラー出口)からガスを製品ガス1として採取した。また第16塔の塔底部から導出されたガスを製品ガス2として採取した。この例では、製品1の16O17Oの濃度は50%程度であるが、さらに蒸留塔のトータルの高さを大きくすれば、より濃縮された16O17Oを得ることが出来る。
【0118】
本実施例においてフィードは99.999%以上に精製した酸素を第1塔に供給する。フィード中の16O17Oは738ppm、16O18Oは4070ppmである。製品ガス1は第11塔塔底から採取する。この製品ガス12を通常の使用形態である水にするために水素添加装置で処理すれば17O濃度が約25%の重酸素水が得られる。製品ガス2は第16塔塔底から採取する。これを水素添加装置で処理すれば18O濃度が約48%の重酸素水が得られる。
【0119】
17O濃縮製品が不要で、16O18O濃縮ガスである製品ガスのみが必要な場合は、蒸留のトータルの高さはこの例よりもはるかに小さくて済む。その場合には、16O17Oのピーク時の組成は1%程度になる。即ち、図17の16O18Oの組成分布に注目すると、第1塔から第6塔付近までは、組成の傾きが小さくなっており、16O17Oを高濃度に濃縮するために、本実施例では16O18O成分にとっては必要以上にトータルの高さを大きくしている。即ち、トータルの充てん高さを大きくすれば、本発明の装置で中間成分の濃縮が可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0120】
1、2、3、A1〜An・・・蒸留塔
5、7、9、・・・凝縮器
6、8、10・・・蒸発器
11・・・規則充填物
12、13、35、36、D1〜Dn−1・・・導入経路
14、15、37、38、37’、38’、E1〜En−1・・・返送経路
41、42・・・ブロワ
47・・・同位体スクランブラー
51、52・・・非自己分配促進型規則充填物
53、54、55・・・自己分配促進型規則充填物
300A…水素添加反応装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置及び酸素同位体の濃縮方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同位体の蒸留分離プロセスに代表されるように、蒸気圧比(分離係数)の非常に小さな系における蒸留操作では非常に大きな理論段数が必要となる。このような場合には、蒸留塔の圧力損失を抑えるため一般的に充填塔が用いられているが、それに必要な充填高さは理論上数百mに達することが少なくない。したがって、実際の蒸留装置では、複数の蒸留塔を配管でつなぎ、全体として一つの蒸留塔群を構成する。図18は3つの蒸留塔を備え、各蒸留塔(第1ないし第3塔61、62、63)を接続した蒸留装置の例を示したものである。この装置においては、第1塔61および第2塔62の塔底に溜まった液体が、液ポンプ61a、62aによりそれぞれ第2塔62および第3塔63の塔頂へ還流液として供給される。第2塔62および第3塔63の塔頂から導出されたガスは、それぞれ第1塔61および第2塔62塔底部に上昇ガスとして返送される。このプロセスでは、第1塔61から第2塔62、第2塔62から第3塔63へのプロセス流体の供給は液ポンプ61a、62aで行われるが、第2塔62から第1塔61、第3塔63から第2塔62へのプロセス流体の返送はガスの圧力差で行われるため、蒸留塔内の圧力は第1塔61から第3塔63に向かって順に高くなければならない。一般に分離成分の蒸気圧比(分離係数)は蒸留塔の操作圧力が高いほど小さいため、第1塔61よりも第2塔62、第2塔62よりも第3塔63の方が蒸留性能は低下する。また、一般的に同位体分離プロセスのように分離成分の蒸気圧比が非常に小さく充填高さが非常に大きい場合には、装置を起動してから規定量(仕様通りの採取量、計画値)の製品を採取できるようになるまでの時間(以下、起動時間)が数ヶ月〜数年かかる場合がある。したがって、起動時間の短縮は従来からの課題であった。起動時間は装置内のプロセス流体のホールドアップに大きく依存し、その量が多いほど長くなる。
【0003】
図19は図18に示す装置と同じ機能を有する蒸留プロセスにおいて、各塔71、72、73に凝縮器5、7、9および蒸発器6、8、10を設けたものである。これは複数の蒸留塔から構成されるプロセスにおいて一般的に用いられる装置で、このような装置では、原料がフィードされる塔71から下流側の塔73にかけて蒸留塔の塔径が小さくなる。これにより、装置内のプロセス流体のホールドアップを減少させ、起動時間の短縮を図ることができる。しかし、このような装置を用いた場合でも、第1塔71から第3塔73に向かって蒸留塔内の圧力が高くなるため、図18に示す装置の場合と同様に、第1塔71よりも第2塔72、第2塔72よりも第3塔73の方が蒸留性能が低下する。蒸留性能の低下は蒸留塔の所要充填高さの増大、ひいてはプロセス流体のホールドアップの増大につながるため、起動時間短縮の観点から望ましくない。また従来の同位体蒸留プロセスでは、不規則充填物による充填塔が用いられていた。一般に不規則充填物は規則充填物に比べ、比表面積は大きいが、蒸留塔内の液ホールドアップが塔体積の10〜20%、場合によっては20%を越えることがあり、起動時間を長くする一因となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、複数の蒸留塔から構成される蒸留装置において、従来よりも起動時間が短い装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明の蒸留装置は、カスケードに構成した複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)を用いて、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設け、該返送経路に、第(k+1)塔の凝縮器出口からの凝縮液を、凝縮液自身の自重で第k塔へ返送するための弁を設けたことを特徴とする蒸留装置である。
【0006】
本発明の酸素同位体の濃縮方法は、酸素同位体重成分を含む原料酸素を、複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)で構成するカスケードプロセスにより濃縮するに際し、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔塔底部付近に設けた蒸発器出口のガスの少なくとも一部を、第(k+1)塔の塔頂部あるいは塔頂部付近に設けた凝縮器入口あるいは該塔の中間部に供給し、且つ、第(k+1)塔の塔頂部または該塔の凝縮器出口の液体の少なくとも一部を、返送液として凝縮液自身の自重で第k塔の蒸発器入口あるいは塔底部あるいは塔の中間部に返送することにより酸素同位体重成分を含む酸素分子16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18Oのうち少なくとも一種を濃縮することを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【0007】
また本発明方法は、前記濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【0008】
また本発明方法は、前記濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得、該濃縮物をさらに前記濃縮方法によって前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明にあっては、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設けるので、この返送経路を通して第(k+1)塔の凝縮器からの導出液の一部を返送することができる。このため、各塔圧力を従来に比べ低く設定することができ、各塔内における各同位体成分間の蒸気圧比を大きくし、蒸留性能を向上させることができる。従って、各塔の充填高さを低くすることができ、起動時間の短縮を図ることができる。また酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を得ることができる。また、液ホールドアップ量を小さくし、いっそうの装置の起動時間の短縮が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の蒸留装置の第1の実施形態例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の蒸留装置に用いられる非自己分配促進型規則充填物の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の蒸留装置に用いられる非自己分配促進型規則充填物の他の例を示す斜視図である。
【図4】本発明の蒸留装置に用いられる自己分配促進型規則充填物の一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の蒸留装置に用いられる自己分配促進型規則充填物の他の例を示す斜視図である。
【図6】本発明の蒸留装置に用いられる自己分配促進型規則充填物のさらに他の例を示す斜視図である。
【図7】本発明の蒸留装置の第2の実施形態例を示す概略構成図である。
【図8】本発明の蒸留装置の第3の実施形態例を示す概略構成図である。
【図9】図8に示す装置の変形例を示す構成図である。
【図10】本発明の蒸留装置の他の実施形態例を示す概略構成図である。
【図11】図10に示す蒸留装置に用いられる熱媒体流体の循環経路を示す概略構成図である。
【図12】本発明の蒸留装置のさらに他の実施形態例を示す概略構成図である。
【図13】図12に示す蒸留装置の水素添加反応装置を示す概略構成図である。
【図14】本発明の蒸留装置のさらに他の実施形態例を示す概略構成図である。
【図15】図14に示す蒸留装置に用いられる同位体スクランブラーの例を示す概略構成図である。
【図16】図14に示す装置を用いた場合を例として、酸素同位体重成分の濃縮をシミュレートした結果を示すグラフであり、各塔内の各同位体成分の濃度分布を示すものである。このグラフにおいて、横軸はトータルの充填高さ、縦軸は各同位体成分の濃度を示す。
【図17】蒸留塔の数が16であること以外は図1に示す装置と同様の構成を採用した蒸留装置を用いた場合を例として、酸素同位体重成分の濃縮をシミュレートした結果を示すグラフであり、各塔内の各同位体成分の濃度分布を示すものである。このグラフにおいて、横軸はトータルの充填高さ、縦軸は各同位体成分の濃度を示す。
【図18】従来の蒸留装置の一例を示す概略構成図である。
【図19】従来の蒸留装置の他の例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の蒸留装置の第1の実施形態例を示すもので、ここに示す蒸留装置は、カスケードに構成した3つの蒸留塔、すなわち第1塔1、第2塔2、および第3塔3を備えている。なお、蒸留塔をカスケードに構成するとは、一つの蒸留塔で濃縮された製品を、さらに次の蒸留塔で濃縮し、それをさらに次の蒸留塔で濃縮することができるように蒸留塔を接続することをいい、このように構成された蒸留塔全体をカスケードプロセスという。また図中破線で示す経路は本実施形態例の変形例であり、本実施形態例の装置に含まれない。
【0012】
これら第1ないし第3塔1、2、3の塔頂部付近には、それぞれ塔1、2、3の塔頂部から導出されたガスの少なくとも一部を冷却し液化させる第1塔凝縮器5、第2塔凝縮器7、第3塔凝縮器9が設けられている。凝縮器5、7、9は、それぞれ塔1、2、3の塔頂部から導出されたガスが導入される第1流路5a、7a、9aと、熱媒体流体が流通する第2流路5b、7b、9bを有し、上記導出ガスを熱媒体流体と熱交換させることにより冷却し液化させることができるようになっている。凝縮器5、7、9としては、プレートフィン型熱交換器を用いるのが好ましい。なお図示例では凝縮器5、7、9を塔1、2、3の外部に設けたが、塔1、2、3の塔頂部内部に設けてもよい。
【0013】
塔1、2、3の塔底部付近には、それぞれ塔1、2、3の塔底部から導出された液の少なくとも一部を加熱し気化させる第1塔蒸発器6、第2塔蒸発器8、第3塔蒸発器10が設けられている。蒸発器6、8、10は、それぞれ塔1、2、3から導出された液が導入される第1流路6a、8a、10aと、熱媒体流体が流通する第2流路6b、8b、10bを有し、上記導出液を熱媒体流体と熱交換させることにより加熱し気化させることができるようになっている。蒸発器6、8、10としては、プレートフィン型熱交換器を用いるのが好ましい。またこれらの蒸発器の取り付け位置は、液ホールドアップを低減するために各蒸留塔下部の液溜の液量が運転可能な範囲で最小となるような位置とする。なお図示例では蒸発器6、8、10を塔1、2、3の外部に設けたが、塔1、2、3の塔底部内部に設けてもよい。この場合はコイル式熱交換器としても良い。
【0014】
本実施形態例の蒸留装置では、第1塔1の塔底部付近に設けられた第1塔蒸発器6の出口(第1流路6aの出口)と、第2塔2の塔頂部付近に設けられた第2塔凝縮器7の入口(第1流路7aの入口)とが、弁12vを介して第1の導入経路12で接続されている。同様に、第2塔蒸発器8の出口(第1流路8aの出口)と、第3塔凝縮器9の入口(第1流路9aの入口)とは弁13vを介して第2の導入経路13で接続されている。
【0015】
また第2塔凝縮器7の出口(第1流路7aの出口)と、第1塔蒸発器6の入口(第1流路6aの入口)とは、弁14vを介して第1の返送経路14で接続されている。同様に、第3塔凝縮器9の出口(第1流路9aの出口)と、第2塔蒸発器8の入口(第1流路8aの入口)とは、弁15vを介して第2の返送経路15で接続されている。この弁14v、弁15vの取り付け位置は各返送経路14、15の上方部(凝縮器の近く)で、後記する複数塔のカスケード連結における第K塔と第K+1塔の圧力差が、このカスケードシステムが作動するような各塔間の圧力差になるようなヘッド圧が得られる位置に設ける。
【0016】
第1ないし第3塔1、2、3の内部には、規則充填物11が充填されている。規則充填物11としては、非自己分配促進型規則充填物および/または自己分配促進型規則充填物を好適に用いることができる。非自己分配促進型規則充填物は、蒸留塔内を下降する液流と蒸留塔内を上昇するガス流がその表面に沿って対向して流れ、かつ塔軸に垂直な断面方向の液流とガス流の混合が促進されずに気液接触が行われる形状・構造を有する充填物であり、例えばアルミニウム、銅、アルミニウムと銅の合金、ステンレススチール、各種プラスチック等からなる多数の板状物または管等を主流れ方向(塔軸方向)に平行に配置したものを挙げることができる。ここで、主流れとは蒸留塔内で塔軸方向に沿って下降する液流および上昇するガス流を示すもので、充填材表面における液流とガス流の界面(すなわち境界層)で生じる物質移動の流れに対しての塔軸方向の流れを指すものである。
【0017】
典型的な非自己分配促進型規則充填物の例を図2および図3に示す。図2に示す非自己分配促進型規則充填物51は、塔軸方向に平行な板材からなるハニカム状の構造物である。また、図3に示す非自己分配促進型規則充填物52は、互いに平行な複数の板材52aと、これら板材52aに対し垂直な複数の板材52bからなる格子状構造物を塔軸方向に沿って配置したものである。
【0018】
自己分配促進型規則充填物は、蒸留塔内を下降する液流と蒸留塔内を上昇するガス流とを、該規則充填物の主として表面において気液接触させ、この際、液流とガス流が該規則充填物の表面上を塔軸方向に沿う主流れ方向に互いに対向して流れると同時に、該主流れ方向に対し直角方向に液流および/またはガス流の混合が促進されつつ気液接触が行われる形状・構造を有する充填物であり、アルミニウム、銅、アルミニウムと銅の合金、ステンレススチール、各種プラスチック等の薄板を各種規則形状に成形し、これを積層構造のブロック状にしたもので、構造化充填物とも称される。
【0019】
典型的な自己分配促進型規則充填物の例を図4ないし図6に示す。図4に示す自己分配促進型規則充填物53は、波型形状の複数の薄板を、塔軸線に平行に配置し、互いに接触するように積層してブロック状にしたもので、各薄板の波状溝は、塔軸線に対して傾斜し、かつ隣接する波型薄板はそれらの波状溝の形成方向が交差するように配置されている。さらに各薄板が水平面に対し垂直になるように配置された状態で、各薄板には塔軸線に対し直角をなす方向に沿って多数の列を形成して、かつ互いに間隔をおいて多数の孔53aが設けられている。図5は自己分配促進型規則充填物の他の例の構成単位を示すもので、ここに示す自己分配促進型規則充填物54は、薄板を波状に成形して波状溝を形成するとともに、薄板に、波状溝に対し所定の角度をなす方向に形成された微小な波型溝(ひだ)54bを更に設けた点に特徴がある。符号54aは薄板に形成された孔を示す。図6に示す自己分配促進型規則充填物55は、波型薄板上に、波状溝に対し所定の角度をなす方向に形成された微小な波型溝(ひだ)55bが設けられた部分と、これを設けない平滑な部分とが交互に配置された構造を有することを特徴とするものである。符号55aは薄板に形成された孔を示す。
【0020】
以下、本発明の蒸留装置の第1の実施形態例である上記図1の装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体重成分の濃縮方法の第1の実施形態例を詳細に説明する。まず、第1塔1の中間部(高さ方向中間部)に接続されたフィード部である経路20を通して、原料酸素ガスを第1塔フィード101として塔1内に供給する。上記原料酸素ガスとしては、高純度酸素を用いるのが望ましい。高純度酸素としては、予めアルゴン、炭化水素類、クリプトン、キセノン、弗素化合物(パーフルオロカーボン等)などの不純物を除去し、純度を99.999%以上となるまで高めたものを用いることができる。特に炭化水素が除去された原料酸素を用いることが安全上好ましい。
【0021】
第1塔1内に供給された原料酸素ガスは、塔1内を上昇し充填物11を通過する際に、後述の還流液(下降液)と気液接触し蒸留される。原料酸素ガス中、同位体重成分を含む酸素分子(16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18O)は、高沸点であるため凝縮しやすく、気液接触の過程で、下降液中の同位体重成分濃度は増加し、上昇ガス中の同位体重成分濃度は減少する。重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路21を通して塔1から導出された後、二分され、一方は第1塔凝縮器5の第1流路5aに導入され、ここで第2流路5b内を流れる熱媒体流体と熱交換して凝縮し還流液として塔1の上部に戻され、他方は経路22を通して廃ガス103として系外に排出される。
【0022】
第1塔1の塔頂部に戻された還流液は、規則充填物11の表面を下降液となって流下しつつ塔1内を上昇する原料酸素ガス、および後述の上昇ガスと気液接触し、塔1の塔底部に到達する。この気液接触の過程において、下降液中には液化しやすい酸素同位体重成分を含む酸素分子(16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18O)が濃縮される。
【0023】
第1塔1の塔底部に達した下降液(以下、各塔の塔底部に溜まった液を塔底部液という)は、経路23を通して塔1から導出され、上述の第1の返送経路14において後述の第1の返送液107と合流して第1塔蒸発器6の第1流路6aに導入され、ここで第2流路6b内を流れる熱媒体流体と熱交換して気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である第1塔導出ガス102として上述の第1の導入経路12を通して蒸発器6から導出される。
【0024】
蒸発器6から導出された第1塔導出ガス102の一部は、経路24を通して塔1の下部に戻されて塔1内を上昇する上昇ガスとなり、他部は、第2塔フィードガス104として導入経路12を通して後述の第2塔塔頂ガス106と合流し第2塔凝縮器7に導入され、ここで凝縮し返送経路14を通して凝縮器7から導出された後、二分される。二分された凝縮液のうち一方は、第1の返送経路14を通し弁14vを介して第1の返送液107として上記第1塔塔底部液と合流した後、上記第1塔蒸発器6に導入される。返送液107の返送は、凝縮器7を液化して導出し、経路14を流下する凝縮液自身の重量によって行われる。
【0025】
本実施形態例の方法では、第2塔凝縮器7を経た凝縮液のうち一部を第1の返送液107として第1塔蒸発器6に戻し、該返送液は自身の重量(ヘッド圧)で蒸発器6を経由して第1塔1へ導入されるので、第2塔2内の塔頂部の圧力を第1塔1の底部の圧力より低くすることができる。かくして上述の第2塔フィードガス104を経路12、25を通して第2塔2に送ることができる。
【0026】
凝縮器7から導出され二分された凝縮液のうち他方は経路25を通して第2塔還流液104として第2塔2上部に供給され、下降液となって第2塔2内の上昇ガスと気液接触しつつ第2塔2の塔底部に到達する。この気液接触の過程において、上昇ガス中の同位体重成分濃度が減少するとともに、下降液中にはさらに酸素同位体重成分が濃縮される。
【0027】
重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路28を通して塔2から導出され、塔頂ガス106として上記導入経路12で第2塔フィードガス104と合流する。
【0028】
酸素同位体重成分が濃縮された濃縮物である第2塔2の塔底部液は、経路26を通して塔2から導出され、上述の第2の返送経路15において後述の第2の返送液112に合流して第2塔蒸発器8に導入され、ここで気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である第2塔導出ガス105として上述の第2の導入経路13を通して蒸発器8から導出される。
【0029】
蒸発器8から導出された第2塔導出ガス105の一部は経路27を通して塔2の下部に戻されて塔2内を上昇する上昇ガスとなり、他部は、第3塔フィードガス108として導入経路13を通して、後述の第3塔塔頂ガス111と合流し、第3塔凝縮器9に導入され、ここで凝縮し、第2の返送経路15を通して凝縮器9から導出された後、二分される。二分された凝縮液のうち一方は、第2の返送経路15を通し弁15vを介して第2の返送液112として上記第2塔蒸発器8に導入される。返送液112の返送は、凝縮器9を液化して導出し、経路15を流下する凝縮液自身の重量によって行われる。
【0030】
本実施形態例の方法では、第3塔凝縮器9を経た凝縮液のうち一部を第2の返送液112として第2塔蒸発器8に戻し、該返送液は自身の重量(ヘッド圧)で蒸発器8を経由して第2塔2へ導入されるので、第3塔3内の塔頂部の圧力を第2塔2の底部より低くすることができる。かくして、上記の第3塔フィードガス108を経路13、29を通して第3塔3に送ることができる。
【0031】
凝縮器9から導出され二分された凝縮液のうち他方は経路29を通して第3塔還流液108として第3塔3上部に供給され、下降液となって第3塔3内の上昇ガスと気液接触しつつ第3塔3の塔底部に到達する。この気液接触の過程において、上昇ガス中の同位体重成分濃度が減少するとともに、下降液中にはさらに酸素同位体重成分が濃縮される。
【0032】
重成分濃度が減少し塔頂部に達した上昇ガスは、経路33を通して塔3から導出され、塔頂ガス111として上記導入経路13で第3塔フィードガス108と合流する。
【0033】
酸素同位体重成分が濃縮された濃縮物である第3塔3の塔底部液は、経路30を通して塔3から導出され、第3塔蒸発器10に導入され、ここで気化した後、酸素同位体重成分が濃縮した濃縮物である第3塔導出ガス109として蒸発器10から導出される。蒸発器10から導出された第3塔導出ガス109は二分され、一方は経路31を通して塔3の下部に戻されて塔3内を上昇する上昇ガスとなり、他方は、経路32を通して酸素同位体重成分を濃縮した濃縮物である製品ガス110として回収される。
【0034】
ここで、第2塔、第3塔へのフィードガス104、108の量の設定について説明する。第2塔フィードガス104の流量は、第2塔あるいは第3塔から装置外へ回収される製品(本実施形態例の場合は製品ガス110のみ)に同伴される目的成分の流量に対して、第2塔フィードガス104に同伴される目的成分の流量が十分な量になるように設定する。詳しくは、[第2塔あるいはは第3塔から装置外へ回収される製品110中の目的成分の流量]/[第2塔フィードガス104に同伴される目的成分の流量]=[目的成分の収率]とする時、この目的成分の収率が1%〜10%以下になるように設定することが望ましい。第2塔フィードガス104の量を小さくしすぎると(目的成分の収率を大きくしようとしすぎると)、第2塔および第3塔の蒸留性能が低下する。逆に、第2塔フィードガス104の量を大きくしすぎると、第1塔蒸発器6と第2塔凝縮器7の熱交換量の増大に対して蒸留性能はさほど向上しなくなる。
【0035】
また、第3塔フィードガス108の流量は、第3塔から装置外へ回収される製品(本実施形態例の場合は製品ガス110のみ)に同伴される目的成分の流量に対して、第3塔フィードガス108に同伴される目的成分の流量が十分な量になるように設定する。詳しくは、[第3塔から装置外へ回収される製品110に同伴される目的成分の流量]/[第3塔フィードガス108に同伴される目的成分の流量]=[目的成分の収率]が1%〜10%以下になるように設定することが望ましい。第3塔フィードガス108の量を小さくしすぎると(目的成分の収率を大きくしようとしすぎると)、第3塔の蒸留性能が低下する。また、第3塔フィードガス108の量を大きくしすぎると、第2塔蒸発器8と第3塔凝縮器9の熱交換量の増大に対して蒸留性能はさほど向上しなくなる。
【0036】
次に上記各塔の運転制御方法を説明する。ある一つの塔に着目した時、制御可能な部分は以下の4つである。
(1) 第k塔から第k+1塔へ供給されるガス配管にある弁。
(2) 第k+1塔から第k塔へ戻される液配管の弁。
(3) 蒸発器の熱交換量(温流体の流量、圧力)
(4) 凝縮器の熱交換量(冷流体の流量、圧力)
4つを同時に調節するのは困難なので、基本的に各塔について(1)と(3)を固定し、装置の状態を見ながら(2)と(4)を調節する。
【0037】
まず(3)蒸発器の熱交換量(温流体の流量、圧力)の調節は次のように行う。蒸発器の熱交換量は、各塔の蒸気負荷が適当な値(計画値)になるように予め調節し設定して以降、制御はしない。蒸留塔内の密度補正空塔速度は、0.5m/s(kg/m3)0.5以上、3.0m/s(kg/m3)0.5以下、好ましくは0.7m/s(kg/m3)0.5以上、2.2m/s(kg/m3)0.5以下になるように設定するのが好ましい。
【0038】
次に、(1)第k塔から第k+1塔へ供給されるガス配管(経路12、13)にある弁12v、13vを調節する。各塔の塔頂圧力がほぼ等しい場合、第k塔塔底圧力は第k+1塔塔頂圧力よりも、第k塔の圧力損失分だけ高くなる。したがって、配管の途中に弁を設けた上で、第k塔から第k+1塔へ供給されるガスの流量を検出し、規定された流量に制御する。この流量は、厳密なものではないので、一旦丁度良い流量(計画値にほぼ等い値)になったら、弁の開度は調節しない。各塔の圧力が一定であれば、この流量はほとんど変化しない。
【0039】
ついで、(4)凝縮器の熱交換量(冷流体の流量、圧力)を設定する。これは各蒸留塔内の圧力が一定になるように調節する。蒸発器の熱交換量(3)は固定されているので、凝縮器の熱交換量(4)が小さいと、蒸留塔の圧力は上がり続けてしまう。また、逆に凝縮器の熱交換量(4)が大きいと蒸留塔の圧力は下がり続ける。いったん最適値に調節しても、天候によって装置の侵入熱が変化し、圧力は変動する。したがって、各塔の圧力を常に検出しながら凝縮器の熱交換量(4)を制御する必要がある。
【0040】
ついで(2)第k+1塔から第k塔へ戻される液配管(経路14、15)の弁14v、15vを調節する。調節弁14v、15vは、所定の液ヘッドがえられる範囲で比較的塔頂の凝縮器に近い位置に設置する。これは、配管内の液ホールドアップを小さくするためである。この開度は、各蒸留塔の塔底の液面(蒸発器の液面)を検出しながら調節する。この開度が小さすぎて、第k+1塔から第k塔への戻りが小さくなった場合、(1)ガス配管の弁12v、13vが固定されているので、第k+1塔〜第n塔までのプロセス流体のホールドアップがどんどん増えていく。各塔の圧力は(4)凝縮器5、7、9によって一定に保たれているので、ホールドアップの増加は、蒸留塔塔底の液面の上昇につながる。逆に、第k+1塔から第k塔への戻りが大きくなった場合、蒸留塔塔底の液面は低下する。したがって、(2)液配管の弁は各蒸留塔塔底の液面高さが一定になるように制御しなければならない。なお、調節弁14v、15vは、所定の液ヘッドがえられる範囲で比較的塔頂の凝縮器に近い位置に設置するが、制御の容易さ、確実さを考慮すると蒸発器に近い位置に設けるのが良い。
【0041】
本実施形態例の蒸留装置は、第1塔蒸発器6の出口と第2塔凝縮器7の入口とが第1の導入経路12で接続され、第2塔蒸発器8の出口と第3塔凝縮器9の入口とが第2の導入経路13で接続され、かつ第2塔凝縮器7の出口と第1塔蒸発器6の入口とが第1の返送経路14で接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔蒸発器8の入口とが第2の返送経路15で接続されているので、凝縮器7、9を経た凝縮液のうち一部を返送液107、112として蒸発器6、8に戻すことができる。このため、塔2、3内の圧力を従来に比べ低く設定することができ、各塔内における同位体各成分間の蒸気圧比を大きくし、蒸留性能を向上させることができる。これにより、各塔の充填高さを低くすることができ、液のホールドアップ量を少なくでき、起動時間の短縮を図ることができる。また上記理由により、酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を効率良く得ることができる。
【0042】
また、従来の装置(図19)では、前段側の塔から後段側の塔への供給経路の全部が液で満たされているのに対して、本実施形態例の装置では返送経路のうち、これら塔の圧力差に相当する液ヘッド分に応じた部分のみが液で満たされる。即ち、後段側の塔から前段側の塔への返送経路のうち、凝縮器7、9にて液化された返送液107、112を前段側の塔に返送するために必要なこれら塔の圧力差に相当する液ヘッド分に応じた経路部分のみが液で満たされる。このため、液ホールドアップ量が小さくなり、いっそうの装置の起動時間の短縮が可能となる。特に蒸留塔の塔径が小さい場合には、返送経路の配管径が相対的に大きくなるので、本実施形態例の装置と従来装置との間の液ホールドアップの差が大きくなると考えられ、起動時間の点で、本発明装置の優位性がさらに明確となると考えられる。
【0043】
また、塔1、2、3に規則充填物(自己分配促進型充填物あるいは非分配促進型充填物)を用いることによって、塔内の圧力損失を小さくし、塔内圧を低く設定することができる。このため、各成分間の蒸気圧比を大きくし蒸留効率を高めるとともに、液ホールドアップ量を小さくし、起動時間のさらなる短縮を図ることができる。またこれに伴って運転コスト削減が可能となる。さらには、自己分配型規則充填物の使用により、塔内における気液接触効率を高め、同位体濃縮効率を高めることができる。
【0044】
上記実施形態例の蒸留装置では、第2塔凝縮器7の出口と第1塔蒸発器6の入口とが第1の返送経路14で接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔蒸発器8の入口とが第2の返送経路15で接続されているが、本発明の蒸留装置はこれに限らず、第1の返送経路を、符号14a(破線で示す経路)で示すように第2塔凝縮器7の出口と第1塔1の中間部とを接続するものとし、かつ第2の返送経路を、符号15a(破線で示す経路)で示すように第3塔凝縮器9の出口と第2塔2の中間部とを接続するものとしてもよい。また、塔1、2、3としては、上記充填物を用いた充填塔に限らず、濡れ壁塔を用いることもできる。
【0045】
図7は、本発明の蒸留装置の第2の実施形態例を示すもので、ここに示す蒸留装置は、以下の点で図1に示す蒸留装置と異なる。
(1)第1塔蒸発器6の出口と、第2塔2の塔頂部とが、第1の導入経路35によって直接接続され、第1塔蒸発器6を経た第2塔フィードガス104’を、直接、第2塔2の塔頂部に供給できるようになっている。
(2)第2塔蒸発器8の出口と、第3塔3の塔頂部とが、第2の導入経路36によって直接接続され、第2塔蒸発器8を経た第3塔フィードガス108’を、直接、第3塔3の塔頂部に供給できるようになっている。
(3)第2塔凝縮器7の出口と、第1塔1の塔底部とが、第1の返送経路37によって接続され、第2塔凝縮器7からの返送液107’を第1塔1の塔底部に返送することができるようになっている。
(4)第3塔凝縮器9の出口と、第2塔2の塔底部とが、第2の返送経路38によって接続され、第3塔凝縮器9からの返送液112’を第2塔2の塔底部に返送することができるようになっている。なお、図中破線で示す経路は後記するごとく本実施形態例の装置の変形例である。
【0046】
以下、図7の装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体重成分の濃縮方法の第2の実施形態例を説明する。経路20を通して、第1塔フィード101として第1塔1内に供給された原料酸素ガスは、塔1内における気液接触によって蒸留される。第1塔1内で酸素同位体重成分が濃縮された塔底部液は、経路23’を通して第1塔蒸発器6に導入され、ここで気化し第1塔導出ガス102’として蒸発器6から導出される。導出ガス102’の一部は経路39を通して第1塔1の下部に戻され、他部は、第1の導入経路35を通して第2塔フィード104’として第2塔2の塔頂部に直接、導入される。第2塔2内において同位体重成分濃度が減少して塔頂部に達した上昇ガスは、塔頂ガス106として経路28’を通して第2塔2から導出され、第2塔凝縮器7において凝縮した後、二分され、一方は経路25’を通して第2塔2上部に還流液として戻され、他方は第1の返送経路37を通して第1の返送液107’として第1塔1の塔底部に返送される。
【0047】
第2塔2内で酸素同位体重成分が濃縮された塔底部液は、経路26’を通して第2塔蒸発器8に導入され、ここで気化し第2塔導出ガス105’として蒸発器8から導出される。導出ガス105’の一部は経路40を通して第2塔2の下部に戻され、他部は第2の導入経路36を通して第3塔フィード108’として第3塔3の塔頂部に直接、導入される。第3塔3内において同位体重成分濃度が減少して塔頂部に達した上昇ガスは、塔頂ガス111として経路33’を通して第3塔3から導出され、第3塔凝縮器9において凝縮した後、二分され、一方は経路29’を通して第3塔3上部に該塔の還流液として導入され、他方は第2の返送経路38を通して第2の返送液112’として第2塔2の塔底部に返送される。
【0048】
本実施形態例の蒸留装置では、凝縮器7、9を経た凝縮液のうち一部を返送液107’、112’として該凝縮液自身の重量(ヘッド圧)で前段の塔に戻すことができる。このため、液ポンプを使用する従来法に比して液量は少なくて済み、上述の第1の実施形態例の装置と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また塔底部と塔頂部を接続した形とすることにより少ない全塔長により酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を効率良く得ることができる。
【0049】
なお、上記実施形態例の蒸留装置では、第1塔蒸発器6の出口と第2塔2の塔頂部とが第1の導入経路35によって接続され、第2塔蒸発器8の出口と第3塔3の塔頂部とが第2の導入経路36によって接続され、さらに、第2塔凝縮器7の出口と第1塔1の塔底部とが第1の返送経路37によって接続され、第3塔凝縮器9の出口と第2塔2の塔底部とが第2の返送経路38によって接続されているが、本発明の蒸留装置はこれに限定されない。例えば、符号35a、36a(破線で示す経路)で示すように、第1および第2の導入経路を、塔2、3の塔頂部でなく中間部に接続することもできるし、符号37a、38aで示すように、第1および第2の返送経路を、塔1、2の塔底部でなく塔1、2の中間部に接続することもできる。
【0050】
図8は、本発明の蒸留装置の第3の実施形態例を示すもので、ここに示す蒸留装置は、以下の点で図7に示す蒸留装置と異なる。
(1)第2塔2の塔頂ガス106を第2塔凝縮器7に導く経路28’と、第1塔1の塔底部とが、第1の返送経路37’によって接続され、第2塔2の塔頂ガス106の一部を、第1塔1の塔底部に返送することができるようになっている。
(2)第3塔3の塔頂ガス111を第3塔凝縮器9に導く経路33’と、第2塔2の塔底部とが、第2の返送経路38’によって接続され、第3塔3の塔頂ガス111の一部を、第2塔2の塔底部に返送することができるようになっている。
(3)第1および第2の返送経路37’、38’にそれぞれブロワ41、42が設けられている。ブロワ41、42としては、常温圧縮機、低温圧縮機を用いることができるが、常温圧縮機を用いる場合は、図9に示すように、返送経路37’、38’に熱交換器41a、42aを介在させる必要がある。
【0051】
以下、図8の装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体重成分の濃縮方法の第3の実施形態例を説明する。第2塔2内において同位体重成分濃度が減少して塔頂部に達した上昇ガスは、塔頂ガス106として経路28’を通して第2塔2から導出された後、二分される。二分された塔頂ガス106のうち一方は第2塔凝縮器7において凝縮した後、第2塔2上部に戻されて該塔の還流液となり、他方は第1の返送経路37’を通してブロワ41に至り、ここで昇圧されて第1の返送液107”として第1塔1塔底部に返送される。同様に、第3塔3の塔頂部から導出された塔頂ガス111は、経路33’を通して第3塔3から導出された後、二分され、一方は第3塔凝縮器9において凝縮した後、第3塔3上部に戻されて該塔の還流液となり、他方は第2の返送経路38’を通してブロワ42に至り、ここで昇圧されて第2の返送液112”として第2塔2塔底部に返送される。
【0052】
本実施形態例の蒸留装置では、各経路ともガス状で供給され液状ではないので上述の第1の実施形態例の装置と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また塔底部と塔頂部、塔頂部と塔底部をそれぞれ連結するので、酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を得ることができる。なお、本実施形態例の蒸留装置では、第1塔蒸発器6の出口と第2塔2の塔頂部とが第1の導入経路35によって接続され、第2塔蒸発器8の出口と第3塔3の塔頂部とが第2の導入経路36によって接続され、さらに、第2塔凝縮器7の入口と第1塔1の塔底部とが第1の返送経路37’によって接続され、第3塔凝縮器9の入口と第2塔2の塔底部とが第2の返送経路38’によって接続されているが、本発明の蒸留装置はこれに限定されない。例えば、符号35a、36a(破線で示す経路)で示すように、第1および第2の導入経路を、塔2、3の塔頂部でなく中間部に接続することもできるし、符号37’a、38’aで示すように、第1および第2の返送経路を、塔1、2の塔底部でなく塔1、2の中間部に接続することもできる。
【0053】
上記各実施形態例では、3つの蒸留塔を有する蒸留装置を示したが、本発明の蒸留装置において、蒸留塔の数はこれに限定されない。図10に示す蒸留装置は、蒸留塔の数がn本とされた蒸留装置である。ここに示す蒸留装置は、n本の蒸留塔A1〜Anと、これら塔A1〜Anの塔頂部付近に設けられた凝縮器B1〜Bnと、塔A1〜Anの塔底部付近に設けられた蒸発器C1〜Cnと、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部付近に設けた第k塔蒸発器Ckの出口と第(k+1)塔の塔頂部とを接続する導入経路D1〜Dn−1と、第(k+1)塔の第(k+1)塔凝縮器Bk+1出口と第k塔の塔底部とを接続する返送経路E1〜En−1を備えている。蒸留塔の数nは、例えば2〜100とすることができる。
【0054】
また上記図10に示す蒸留装置における蒸発器と凝縮器の熱媒体流体の循環系統を図11に示す。図11に示すように、各凝縮器B1〜Bnと、蒸発器C1〜Cnとは、熱媒体流体用の循環経路81によって接続されている。この循環経路81では、貯留槽82内の熱媒体流体が導出され、ポンプ83、過冷却器84の第1流路を経て凝縮器B1〜Bnに導入された後、過冷却器84の第2流路を経て熱交換器85の第1流路に至り、次いでブロア86、熱交換器85の第2流路を経て蒸発器C1〜Cnに導入された後、貯留槽82に戻されるようになっている。なお過冷却器84は、熱媒体流体が凝縮器に達する以前に気化するのを防ぐために熱媒体流体を冷却するためのものである。
【0055】
本発明では、同様に、図1に示す第1の実施形態例の蒸留装置や、図7に示す第2の、そして図8に示す第3の実施形態例の蒸留装置においても、蒸留塔の数は図示例に限定されず、任意に設定することができる。
【0056】
また、上記各実施形態例では、原料酸素を低温蒸留することによって酸素同位体重成分を濃縮する方法を示したが、本発明はこれに限らず、原料として水を用い、これを上記各実施形態例の蒸留装置によって蒸留し、酸素同位体重成分を含む重酸素水H217O、H218O、D217O、D218O、DH17OおよびDH18Oのうち少なくとも一種を濃縮することにより重酸素水を製造することもできる。この場合においても、上述の第1の実施形態例と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また酸素同位体重成分を高濃度で含有する重酸素水製品を得ることができる。
【0057】
図12および図13は、本発明の重酸素水の製造方法の他の実施形態例を実施するために用いられる蒸留装置を示すもので、ここに示す装置は、複数の蒸留塔A1〜Anを備えた酸素蒸留用の酸素蒸留塔ユニットF1と、複数の蒸留塔A’1〜A’nを備えた水蒸留用の水蒸留塔ユニットF2と、これらユニットF1、F2間に設けられた水素添加反応装置300Aを備えている。蒸留塔ユニットF1、F2には、図10に示す蒸留装置の構成を採用することができる。
【0058】
図13に示す水素添加反応装置300Aは、酸素蒸留塔ユニットF1を経た濃縮物(酸素ガス)を一時貯留するバッファタンク341と、バッファタンク341内の酸素ガスを導く経路342と、図示せぬ供給源から供給された水素(または重水素)を導く経路343と、これら経路342、343から供給された酸素と水素を反応させる燃焼室344と、制御器345とを有する燃焼器300を主たる構成要素とするものである。
【0059】
燃焼室344は、燃焼室344内に供給される酸素と水素とを混合し燃焼するバーナ344aと、該酸素・水素混合ガスに着火するヒータ344bと、反応生成物(水蒸気)を冷却する冷却コイル344cを備えている。また符号344dは燃焼室344内の反応生成物(水)を弁を介して取り出す取出口を示す。
【0060】
制御器345は、予め設定された値による信号と、経路342に設けられた酸素流量検出器342aによって検出された酸素ガス流量に基づく信号により流量調節弁342bを調節し、経路342を通して燃焼室344内に供給される酸素ガスの供給量を調節することができるようになっている。また、制御器345は、予め設定された値による信号と、経路343に設けられた水素流量検出器343aによって検出された水素流量に基づく信号により流量調節弁343bを調節し、経路343を通して燃焼室344内に供給される水素の供給量を調節することができるようになっている。なお、符号342c、343cは逆止弁、符号342d、343dは逆火防止器、符号344eは燃焼室344内のごく少量の未反応ガスを弁を介して排出する排出用経路を示す。
【0061】
以下、上記蒸留装置を用いた場合を例として、本発明の重酸素水の製造方法の一実施形態例を説明する。原料酸素を、酸素蒸留塔ユニットF1に供給し、酸素同位体重成分を濃縮した濃縮物である中間製品ガス110’を得る。この中間製品ガス110’(酸素ガス)を、経路44、調節弁44aを通して水素添加反応装置300Aの燃焼器300に導入する。燃焼器300に導入された酸素ガスは、バッファタンク341を経て経路342を通しバーナ344aを介して燃焼室344内に導入される。同時に、図示せぬ供給源から供給された水素を経路343を通しバーナー344aを介して燃焼室344内に供給する。
【0062】
この際、制御器345によって、設定値による信号および酸素流量検出器342aによって検出された酸素ガス流量に基づくフィードバック信号により演算が行われ、その結果の信号により流量調節弁342bが調節されるとともに、同様に、制御器345からの設定値による信号と水素流量検出器343aによって検出された水素流量に基づくフィードバック信号により演算が行われ、その結果の信号により流量調節弁343bが調節され、水の生成のための化学量論量に近い量の上記酸素と水素がバーナー344aを介して燃焼室344内に供給される。
【0063】
燃焼室344に供給される酸素および水素は上記の如くフィードバック制御により常に化学量論量に限りなく近い流量に制御されるが、それでも過剰分として導入されたガスは弁を介して排出用経路344eから定期的に排出し、このガスが燃焼室344内に溜まるのを防ぐ。この排ガス量をさらに減らすために、フィードフォワード制御を併用するなど、より厳密な制御手段を採用することが好ましい。
【0064】
燃焼室344内に供給された上記酸素と水素は、バーナ344aにおいて混合された後、燃焼室344内に噴出され、ヒータ344bにより着火し、これらが反応することにより水が生成する。生成した水は、大部分が冷却コイル344cによる冷却によって凝縮した後、取出口344dを通して燃焼室344外に導出され、生成水113として経路45を経て水蒸留塔ユニットF2に導入される。この生成水113は、酸素同位体重成分の濃縮物である中間製品ガス110’を原料として得られたものであるため、酸素同位体重成分を多く含む重酸素水となる。
【0065】
水蒸留塔ユニットF2は、酸素蒸留塔ユニットF1と同様の構成とされているため、蒸留塔ユニットF2内においては、ユニットF1における酸素同位体重成分の濃縮過程と同様に、生成水113中の重成分、すなわちH217O、H218O、D217O、D218O、DH17O、DH18Oが濃縮され、製品重酸素水114として回収される。
【0066】
本実施形態例の蒸留装置では、上述の第1の実施形態例と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また酸素同位体重成分を高濃度で含有する重酸素水製品を得ることができる。
【0067】
図14は、本発明の蒸留装置の他の実施形態例を示すもので、ここに示す装置は、n本の蒸留塔A1〜Anと、これら塔A1〜Anの塔頂部付近に設けられた凝縮器B1〜Bnと、塔A1〜Anの塔底部付近に設けられた蒸発器C1〜Cnと、第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部付近に設けた第k塔蒸発器Ckの出口と第(k+1)塔の塔頂部とを接続する導入経路D1〜Dn−1と、第(k+1)塔の第(k+1)塔凝縮器Bk+1出口と第k塔の塔底部とを接続する返送経路E1〜En−1と、同位体スクランブラー47を備えている。
【0068】
同位体スクランブラー47は、塔A1〜Ahによって濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングによってさらに濃縮するためのもので、入口側が取出経路48を介して第h塔Ah下部に接続され、出口側が、第h塔Ahに対し後段側に隣接する第i塔Ai中間部に返送経路49を介して接続されている。
【0069】
同位体スクランブラー47としては、同位体交換反応触媒を用いるものの他に、酸素分子をいったん別の化合物とし、その後これを分解し酸素分子を得るものがある。同位体スクランブラー47として、前者のものを用いた場合、酸素同位体重成分濃縮物である塔Ahの塔底部ガスを同位体交換反応触媒に接触させることで、濃縮物中において、後述する同位体交換反応を促進し、これにより濃縮物中の重成分酸素分子の濃度をさらに高めることができる。
【0070】
この場合、同位体スクランブラー47は、触媒筒(図示略)と、その内部に充填された同位体交換反応触媒を備えている。この同位体交換反応触媒としては、例えばW、Ta、Pd、Rh、Pt、およびAuからなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することができる。また同位体交換反応触媒としては上記の他、Ti酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、Mn酸化物、Fe酸化物、Co酸化物、Ni酸化物、Cu酸化物、Al酸化物、Si酸化物、Sn酸化物、およびV酸化物からなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することもできる。また、上記金属単体の触媒と上記金属酸化物触媒とをそれぞれ1種または複数種混在させたものを用いることも出来る。
【0071】
同位体スクランブラー47として、後者のものを用いた場合は、酸素同位体重成分濃縮物である塔Ahの塔底部ガスをいったん別の化合物(例えば水)に変換し、その後これを分解し酸素分子を得ることによって濃縮物中の重成分酸素分子の濃度をさらに高める。この方法を採用した同位体スクランブラー47の例を図15に示す。
【0072】
図15において、同位体スクランブラ−47は主にアルゴン循環ブロワー87と、酸化反応触媒を充填した触媒筒88と、電気分解装置89と、酸素精製装置90からなる。触媒筒88に充填された酸化反応触媒としては、例えばPd、Pt、Rh、Ru、Ni、CuおよびAuからなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することができる。さらにPd、Pt、Rh、Ru等を、Al酸化物、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Cr酸化物、V酸化物、Co酸化物、Mn酸化物等に担持させた触媒からなる群より選択された1種または2種以上を含むものを使用することもできる。
【0073】
アルゴン循環ブロワー87は、触媒筒88、冷却器91、チラー92を備えたアルゴン循環系統内のガスを循環させるために設けられている。この循環系統内は酸素および水素が共存するため、この循環系統には、爆発範囲を考慮して、該系統内のガスを希釈するアルゴンを供給するアルゴン補給ライン98が接続されている。なおこの循環系統には、チラー92の出口における水素濃度を約2%程度に保つために水素ガス補給ライン97が設けられている。
【0074】
次に、上記装置を用いた場合を例として、本発明の酸素同位体の濃縮方法の一実施形態を説明する。経路20を通してフィード101を第1塔A1に供給し、以下、塔Ahに至る間に上述の過程にしたがって酸素同位体重成分を濃縮し、濃縮物である塔Ahの塔底部液を得る。次いで、この塔底部液を、経路48を通して導出ガス115として同位体スクランブラー47に導入する。
【0075】
経路48からアルゴン循環ブロワー87の吸入側に供給された酸素ガスは、アルゴンおよび水素と混合され、ブロワー87により約80〜100kPa(ゲージ)まで昇圧され触媒筒88へ導入される。また前記ブロワ87の出口で極微量の水素(後記する触媒筒95で反応除去した分)をライン97から補給する。触媒筒88内で水素と酸素が反応(2H2+O2→2H2O)し水が生成し、触媒筒88出口の組成は水素約2%、水蒸気約0.5%、アルゴン約97.5%となる。
【0076】
この混合ガスは冷却器91およびチラー92により冷却され、水が貯槽93に分離される。この水は電気分解装置89内に設けられたポンプにより電解槽94(圧力400kPaゲージ)へ送られて電気分解され、再び、微量の酸素を含んだ水素ガスと、微量の水素を含んだ酸素ガスに分離される。前者の水素ガスは上記アルゴン循環系統に回収される。後者の酸素ガスは触媒筒95、吸着器96を備えた酸素精製装置90により微量の水素、水などが除去され、経路49を通して導出され、酸素蒸留塔へ戻される。吸着器96の再生ガスには、酸素同位体重成分が濃縮された酸素ガスのロスを防ぐため、別途超高純度酸素ガス(蒸留塔第1塔フィードガスと同一仕様のガス)を用いる。なお、同位体スクランブラ−戻り酸素ガス116の流量は、該酸素ガスが戻される蒸留塔内の上昇ガス量に比べて極めて小さいため、常温のまま蒸留塔内に戻しても蒸留性能にはほとんど影響しない。
【0077】
同位体スクランブラ−47の装置全体でみると、ガスの出口は、精製された同位体スクランブラ−戻りガス116のライン49と、吸着器96の再生のために別途供給された超高純度酸素ガスの放出口しかないため、その他のガスは装置内を循環しており、ガスのロスはほとんどない。したがって、水素ガス、アルゴンガス共に補給ラインから補給される量は極微量である。
【0078】
同位体スクランブラー47の触媒筒88内では、酸化反応触媒により水素と酸素が反応し、水が生成される。例えばA、B、C、Dが16O、17O、18Oのうちいずれかの同位体原子であるとすると、
2H2+AB→H2A+H2B
あるいは 2H2+CD→H2C+H2D
あるいは 2H2+AA→2H2A
などの反応により、酸素分子を構成していた原子が水の別々の分子に別れる。ここで得られた反応物(水分子)中の各酸素同位体成分の存在比は、導出ガス115中の各同位体成分の存在比によって決まることになる。さらに同位体スクランブラー47の電気分解装置89内では、電気分解により水分子が酸素分子と水素分子に分解される。同様にA、B、C、Dが16O、17O、18Oのうちいずれかの同位体原子であるとすると、
H2A+H2C→2H2+AC
あるいは H2B+H2D→2H2+BD
あるいは 2H2C→2H2+CC
などの反応により、水分子が酸素分子と水素分子に分解される。ここで得られた酸素分子を構成する酸素原子の組み合わせは、水分子内に存在する酸素同位体成分の存在比によって確率的に決まる。なお、上記のように複数種の同位体分子が存在する時、各分子がその構成する相手の原子をランダムに変えることを同位体スクランブリングと言い、それを行なう装置を同位体スクランブラーという。
【0079】
上記同位体スクランブラー47として同位体交換反応触媒を用いる方法を用いた場合には、同位体スクランブラー47の触媒筒内において、同位体交換反応触媒により同位体交換反応が行われる。同位体交換反応は、十分に加熱された触媒表面上で、2原子分子における相手原子を他の原子と交換する反応である。即ち、同位体交換反応とは、例えばA、B、C、Dが16O、17O、18Oのうちいずれかの同位体原子であるとすると、
AB+CD=AC+BD
あるいは AB+CD=AD+BC
となる反応である。ある同位体原子に着目すると、十分に時間が経過した後では、分子として相手になる同位体原子は、同位体交換反応を始める前の各同位体成分の存在比によって確率的に決まることになる。従って、同位体スクランブラー47による同位体交換反応によって得られた反応物(酸素同位体分子)中の各同位体成分の存在比は、導出ガス115中の各同位体成分の存在比によって決まることになる。
【0080】
すなわち、例えば導出ガス115中に16O16O、16O17O、16O18Oの成分があり、それぞれのモル分率をY11、Y12、Y13、とすると、上記いずれの方法を用いても同位体スクランブラー47により、酸素分子を構成する酸素原子の組み合わせが、各同位体成分の存在確率によりランダムに変化するため、同位体スクランブリング後の各成分の濃度は、
16O16O :(Y11+Y12/2+Y13/2)2 ・・・(i)
16O17O :(Y11+Y12/2+Y13/2)Y12 ・・・(ii)
16O18O :(Y11+Y12/2+Y13/2)Y13 ・・・(iii)
17O17O :Y212/4 ・・・(iv)
17O18O :Y12Y13/2 ・・・(v)
18O18O :Y213/4 ・・・(vi)
となる。
【0081】
この16O17O、16O18Oに含まれる16Oの一部が16O16Oとなるのに伴って、重成分(17Oおよび18O)のみからなる酸素分子(18O18O、17O18O、および17O17O、以下、重成分酸素分子という)の濃度が高められる。
【0082】
同位体スクランブラー47によって重成分酸素分子の濃度が高められた反応物は、同位体スクランブラー戻りガス116として経路49を通して塔Aiに供給され、以下、塔Ai〜Anを経る。重成分酸素分子は高沸点であり濃縮しやすいため、この過程において、酸素同位体重成分の濃度がさらに高められる。
【0083】
上記実施形態例の酸素同位体の濃縮方法では、上述の第1の実施形態例と同様に、起動時間の短縮を図ることができる。また、塔A1〜Ahによって得られた酸素同位体重成分濃縮物を同位体スクランブラー47に供給し、同位体スクランブラー47における同位体スクランブリングによって、濃縮物中の重成分酸素分子(18O18O、17O18O、および17O17O)濃度を高め、この濃縮物を塔Ai〜Anに供給し、酸素同位体重成分の濃度をさらに高めるので、酸素同位体重成分を高濃度で含有する製品を得ることができる。
【0084】
なお、図示例の装置では、同位体スクランブラー47の出口側経路49が、第i塔Aiに接続された構成とした。このように、同位体スクランブラー47の出口側経路49が接続される塔は、入口側経路48が接続される第h塔Ahよりも下流側(後段側)のものであることが望ましいが、本発明ではこれに限らず、出口側経路49が接続される塔が、入口側経路48が接続される塔、またはこの塔よりも上流側(前段側)のものであってもよい。
【0085】
すなわち、同位体スクランブラー47はカスケードに構成した「複数の蒸留塔から構成される装置」のどの部分にも組み込むことが可能である。例えば、第k塔(蒸留塔、コンデンサー、リボイラー、配管などを含む)の任意の場所からガスを抜き出し、同位体スクランブラーで処理し、第j塔(蒸留塔、コンデンサー、リボイラー、配管などを含む)の任意の場所に戻すことも可能である。ここで、kとjの大小関係は自由で、また、k=jの場合もあり得る。ただし、同位体スクランブリングを効果的に行うために、蒸留装置からガスを抜き出す位置は、16O18Oが最も濃縮されている位置が望ましく、また、同位体スクランブリングの後に蒸留塔に戻す位置は、抜き出す位置における18O18Oの濃度よりも、同位体スクランブリング後のガスの18O18Oの濃度の方が大きいので、抜き出した場所よりも後段(18O18Oがより濃縮された位置)であることが望ましい。
【0086】
また、本発明では、上記最終塔Anから導出された酸素を、前記水素添加反応装置300Aに供給して水に変換することによって、重酸素水を得ることもできる。
【0087】
次に、上記各蒸留装置を用いて酸素同位体重成分の濃縮を行う場合についてコンピュータシミュレーションを行った結果について説明する。本発明の蒸留塔の設計に採用した蒸留理論およびこのシミュレーションに採用した蒸留理論は、物質移動に関する速度論的モデルを用いており、いわゆるH.E.T.P(Height Equivalent to a Theoritical Plate)あるいは平衡段モデルは用いていない。
【0088】
この速度論的モデルを用いた蒸留理論において、質量流束Nは、拡散流束Jと対流項ρvを用いて次のように表される。
N = JGS + ρGSvGSωGS
また、物質移動に関する相関式として次のものを掲げることができる。
ShGS(JGS/N) = A1ReGA2・ScGSA3
ここで、Sh、Re、Scは次式でそれぞれ定義される。
ShGS = Nd/(ρGSDGSΔωGS)
ReG = ρGUGd/μG
ScGS = μGS/(ρGSDGS)
N:質量流束[kg/(m2・s)]
J:拡散流束[kg/(m2・s)]
d:相当直径[m]
D:拡散係数[m2/s]
ρ:密度[kg/m3]
v:速度[m/s]
ω:濃度[kg/kg]
Sh:シャーウッド数[−]
Re:レイノルズ数[−]
Sc:シュミット数[−]
添え字G:気相 添え字S:気液界面
【0089】
この速度論的なモデルの良さは、多成分系における中間成分の物質移動を正確に予測できること、平衡段モデルによって計算を行った場合に起こるマーフリー効率やH.E.T.Pが負の値をとるような非現実的な結果とならないことなどにある。上記モデルについては、J.A.Wesselingh: ’Non−equilibrium modelling of distillation’ IChemE Distillation And Absorption ’97, vol.1, pp.1−21 (1997)に詳しく記載されている。
【0090】
[実施例1]
上記モデルを用いて、図1に示す蒸留装置を用いて酸素同位体の濃縮を行う場合のシミュレーションを行った結果を、表2に示す。なお装置仕様を表1に示す。
【0091】
[従来例1]
図19に示す従来の蒸留装置を用いて酸素同位体の濃縮を行う場合のシミュレーションを行った結果を表2に併せて示す。この従来装置は、第1塔ないし第3塔の塔径、充填高さを実施例1の装置と同じ値と想定した。またフィード量、製品量、還流比なども実施例1の場合と同様の値とした。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表2より、図1の装置を用いた実施例1の方法では、従来装置を用いた従来例1の方法に比べ、製品の16O18O濃度を高めることができることがわかる。これは、実施例1の場合には、従来例1に比べ塔内圧力を低くすることができ、このため塔内において各成分間の蒸気圧比が大きくなり蒸留性能が向上するためであると考えられる。
【0095】
また表2より、実施例1では、装置の起動時間の短縮が可能となることがわかる。これは、次の理由によるものであると考えられる。従来例1では、第1塔と第2塔との間、および第2塔と第3塔との間の液体供給経路である配管のほとんどの部分が液で満たされるのに対し、実施例1では、第2塔から第1塔、第3塔から第2塔への液体供給経路である配管(返送経路14、15)内が液で満たされるのが第1塔と第2塔との間、第2塔と第3塔との間の塔底、塔頂の圧力差に相当する液ヘッド分に応じたわずかな部分のみとなる為である。このため、実施例1では、液ホールドアップ量が小さくなり、装置の起動時間の短縮が可能となる。
【0096】
実施例1と従来例1を比較すると、液体供給配管内の16O18O成分の液ホールドアップは、実施例1の方が従来例1に比べ圧倒的に優れた結果が得られた。特に塔径がこれら実施例1、従来例1よりも小さい場合には、液体供給配管径が相対的に大きくなると考えられるため本発明の装置と従来装置との間の装置全体の液ホールドアップの差が大きくなると考えられ、起動時間の点で、本発明装置の優位性がさらに明確となると考えられる。また、酸素同位体の濃縮を、実施例1で用いた規則充填物に代えて不規則充填物を用いた蒸留塔を使用して行う場合には、実施例1に比べ、16O18O成分の液ホールドアップ量は、およそ3倍以上となると考えられる。これは、規則充填物の場合、液ホールドアップ量が充填層の体積の2〜3%となるのに対し、不規則充填物の場合には10〜20%となると考えられるためである。このように、規則充填物を用いた場合には、液ホールドアップ量を小さくできることから、起動時間の大幅な短縮を図ることができる。
【0097】
また、本実施例1の方法は液ポンプを使用していないため、それを運転するための動力が不要である。液ポンプを用いないことによるその他の効果として以下のことがある。
(1)装置・機器コストが低減される。
(2)液ポンプのメンテナンスに伴う、バックアップ用液ポンプとの切り換えなどがないため、装置を連続的に安定運転できる。
(3)液ポンプの運転コストが削減出来る。
(4)液ポンプによる侵入熱を削減することにより、寒冷補給(窒素サイクルなど)のための運転コストが削減出来る。
一方、各塔の凝縮器および蒸発器の熱交換量は、従来例よりも本実施例の方が大きく、運転コストの面では不利である。これは、本発明では、従来装置で第1塔から第2塔、第2塔から第3塔へフィードしていた液体をいったん蒸発器でガス化し、その後、凝縮器で液化しているためであり、また、従来装置で第2塔から第1塔、第3塔から第2塔へ戻していたガスをいったん凝縮器で液化し、その後蒸発器でガス化しているためである。この点が本発明における、液ポンプが不要、蒸留塔塔頂圧力の低下の利点を得るための代償であるが、上記液ポンプを採用した従来法と比較すればこのデメリットはメリットに比較してはるかに小さい。
【0098】
[実施例2]
表4は、図1に示す蒸留装置を使用し、原料として水を用いて重酸素水の製造を行う場合のシミュレーションを行った結果を示すものである。なお装置仕様を表3に示す。
【0099】
[従来例2]
図19に示す従来の蒸留装置を使用し、原料として水を用いて重酸素水の製造を行う場合のシミュレーションを行った結果を表4に併せて示す。この従来例2では、第1塔ないし第3塔の塔径、充填高さ、フィード量、製品量、還流比などを実施例2の場合と同様の値とした。
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
表4より、図1の装置を用いた実施例2の方法では、従来装置を用いた従来例2の方法に比べ、製品のH218O濃度を高めることができることがわかる。また、実施例2では、液ホールドアップ量が小さくなり、装置の起動時間の短縮が可能となることがわかる。
【0103】
[実施例3]
表7は、図12に示す蒸留装置を用いて重酸素水の製造を行う場合のシミュレーションを行った結果を示すものである。酸素蒸留塔ユニットF1は、10本の蒸留塔を有し、水蒸留塔ユニットF2は、5本の蒸留塔を有するものとした。なお酸素蒸留塔ユニットF1の装置仕様を表5に、水蒸留塔ユニットF2の装置仕様を表6に示す。
【0104】
【表5】
【0105】
【表6】
【0106】
【表7】
【0107】
表7より、実施例3によれば、酸素同位体重成分(18O)を97%以上に濃縮した重酸素水を得ることができることがわかる。この実施例3では、年間約60kgの生産量が得られ、装置の起動時間は、酸素濃縮用の蒸留塔ユニットF1と、水蒸留用の蒸留塔ユニットF2を併せて約140日となることがわかる。この実施例3のように、水蒸留を利用して酸素同位体重成分(18O)の濃縮を行った例としては、US patent 5057225に記載されているように、Thode, Smith,And Walking: CAnad.J.Res.22,127(1944)に報告されたものがあり、この例では、3本の蒸留塔からなるカスケードプロセスにより、酸素同位体重成分(18O)を1.3%まで濃縮した水150gが得られたことが報告されている。この従来例では、起動に要した時間は120日間とされており、生産性を考慮すると、実施例3では、従来に比べ起動時間の大幅な短縮が可能となることがわかる。
【0108】
[実施例4]
表9は、図14に示す蒸留装置を用いて酸素同位体重成分(18O)の濃縮を行う場合のシミュレーションを行った結果を示すものである。また図16は、各塔内における各同位体成分の濃度分布を示すものである。蒸留塔の数(n)は10とし、同位体スクランブラー47は第6塔と第7塔の間に設置することを想定した。なお装置仕様を表8に示す。表中、同位体スクランブラー供給ガスとは、経路48を通して同位体スクランブラー47に供給される導出ガス115を指し、同位体スクランブラー戻りガスとは、同位体スクランブラー47から導出され、経路49を通して塔Aiに供給される同位体スクランブラー戻りガス116を指す。
【0109】
【表8】
【0110】
【表9】
【0111】
表9より、実施例4によれば、酸素同位体重成分(18O)を97%以上に濃縮した濃縮物を得ることができることがわかる。この実施例4では、年間約12kgの生産量が得られ、装置の起動時間は、73日となることがわかる。
【0112】
本実施形態例で示した装置では、製品ガスに同伴される18O18Oの流量は、
[製品ガス流量]×[製品ガス中18O18O濃度]=1×10−5(mol/s)×0.941=9.4×10−6(mol/s)
である。一方、フィードガスに同伴され装置内に供給される18O18Oの流量は、
[フィードガス流量]×[フィードガス中18O18O濃度]=0.3(mol/s)×4.2×10−6=1.3×10−6(mol/s)であり、製品ガスに同伴される18O18Oの流量よりもはるかに小さい。本実施形態例において同位体スクランブラーは、上記18O18Oの不足分を補うために設けられている。すなわち、蒸留塔内で16O18Oが高濃度(45%以上であることが望ましい)に濃縮された酸素ガスを同位体スクランブラーで処理することにより、新たに18O18Oを生成させ、それを再び蒸留塔に戻すことによって、フィードガスで供給された18O18Oの量よりも多くの18O18Oを製品として採取することができる。本実施形態例では表9からわかるように、同位体スクランブラ−によって以下の式に示す量の18O18Oが生成されている。
[同位体スクランブラ−処理量]×〔[18O18O出口濃度]−[18O18O入口濃度]〕 =6.0×10−4×[0.177−0.162] =9.0×10−6(mol/s)
【0113】
これを、フィードガスによって供給される18O18O、1.3×10−6(mol/s)と合わせると、蒸留塔に供給されるトータルの18O18Oは10.3×10−6(mol/s)となるため、製品によって上記9.4×10−6(mol/s)の18O18Oを採取することが可能になる。仮に、同位体スクランブラーを設けなかった場合には、フィードガス量を最低でも(9.4×10−6)/(1.3×10−6)=7.2倍以上にしなければならず、それに伴い、塔径の大きな蒸留塔が必要となる。これはホールドアップ、起動時間の観点から好ましくない。すなわち本実施形態例で示した装置では、同位体スクランブラ−を設けることにより、従来よりも塔径の小さな装置で、酸素同位体重成分が濃縮された製品を採取することができる。
【0114】
[実施例5]
表10は図1の装置と全く同じプロセスを採用して蒸留塔の本数を16塔に増やした装置により、酸素安定同位体の蒸留をシミュレーションによって行った結果を示したものである。この蒸留装置の仕様を表11に示す。
【0115】
【表10】
【0116】
【表11】
【0117】
本実施例は中間成分である16O17Oを濃縮した製品を得ることを目的として、蒸留塔のトータルの高さを高くしたケースである。図17は塔内の各酸素同位体の組成分布を示したもので、該実施例では第10塔〜第12塔付近に16O17Oのピークが出現するので、これらの塔の少なくとも1個所から液またはガスを採取することにより16O17O濃縮製品を得ることが出来る。この実施例では第11塔の塔底(リボイラー出口)からガスを製品ガス1として採取した。また第16塔の塔底部から導出されたガスを製品ガス2として採取した。この例では、製品1の16O17Oの濃度は50%程度であるが、さらに蒸留塔のトータルの高さを大きくすれば、より濃縮された16O17Oを得ることが出来る。
【0118】
本実施例においてフィードは99.999%以上に精製した酸素を第1塔に供給する。フィード中の16O17Oは738ppm、16O18Oは4070ppmである。製品ガス1は第11塔塔底から採取する。この製品ガス12を通常の使用形態である水にするために水素添加装置で処理すれば17O濃度が約25%の重酸素水が得られる。製品ガス2は第16塔塔底から採取する。これを水素添加装置で処理すれば18O濃度が約48%の重酸素水が得られる。
【0119】
17O濃縮製品が不要で、16O18O濃縮ガスである製品ガスのみが必要な場合は、蒸留のトータルの高さはこの例よりもはるかに小さくて済む。その場合には、16O17Oのピーク時の組成は1%程度になる。即ち、図17の16O18Oの組成分布に注目すると、第1塔から第6塔付近までは、組成の傾きが小さくなっており、16O17Oを高濃度に濃縮するために、本実施例では16O18O成分にとっては必要以上にトータルの高さを大きくしている。即ち、トータルの充てん高さを大きくすれば、本発明の装置で中間成分の濃縮が可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0120】
1、2、3、A1〜An・・・蒸留塔
5、7、9、・・・凝縮器
6、8、10・・・蒸発器
11・・・規則充填物
12、13、35、36、D1〜Dn−1・・・導入経路
14、15、37、38、37’、38’、E1〜En−1・・・返送経路
41、42・・・ブロワ
47・・・同位体スクランブラー
51、52・・・非自己分配促進型規則充填物
53、54、55・・・自己分配促進型規則充填物
300A…水素添加反応装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カスケードに構成した複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)を用いて、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、
第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設け、該返送経路に、第(k+1)塔の凝縮器出口からの凝縮液を、凝縮液自身の自重で第k塔へ返送するための弁を設けたことを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
酸素同位体重成分を含む原料酸素を、複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)で構成するカスケードプロセスにより濃縮するに際し、
第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔塔底部付近に設けた蒸発器出口のガスの少なくとも一部を、第(k+1)塔の塔頂部あるいは塔頂部付近に設けた凝縮器入口あるいは該塔の中間部に供給し、且つ、第(k+1)塔の塔頂部または該塔の凝縮器出口の液体の少なくとも一部を、返送液として凝縮液自身の自重で第k塔の蒸発器入口あるいは塔底部あるいは塔の中間部に返送することにより酸素同位体重成分を含む酸素分子16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18Oのうち少なくとも一種を濃縮することを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項3】
請求項2の濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を更に高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項4】
請求項2の濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得、該濃縮物をさらに請求項2の方法によって前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を更に高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項1】
カスケードに構成した複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)を用いて、複数成分よりなる気体又は液体を蒸留分離する装置であって、
第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔底部付近に設けた蒸発器の出口と、第(k+1)塔の塔頂部あるいは該塔頂部付近に設けた凝縮器の入口または該塔の中間部とを連結する導入経路と、第(k+1)塔の凝縮器出口と、第k塔の塔底部付近に設けた蒸発器の入口あるいは該塔の塔底部または該塔の中間部とを連結する返送経路を設け、該返送経路に、第(k+1)塔の凝縮器出口からの凝縮液を、凝縮液自身の自重で第k塔へ返送するための弁を設けたことを特徴とする蒸留装置。
【請求項2】
酸素同位体重成分を含む原料酸素を、複数の蒸留塔(第1塔〜第n塔)で構成するカスケードプロセスにより濃縮するに際し、
第k塔(1≦k≦(n−1))の塔底部あるいは該塔塔底部付近に設けた蒸発器出口のガスの少なくとも一部を、第(k+1)塔の塔頂部あるいは塔頂部付近に設けた凝縮器入口あるいは該塔の中間部に供給し、且つ、第(k+1)塔の塔頂部または該塔の凝縮器出口の液体の少なくとも一部を、返送液として凝縮液自身の自重で第k塔の蒸発器入口あるいは塔底部あるいは塔の中間部に返送することにより酸素同位体重成分を含む酸素分子16O17O、16O18O、17O17O、17O18O、および18O18Oのうち少なくとも一種を濃縮することを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項3】
請求項2の濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を更に高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【請求項4】
請求項2の濃縮方法により濃縮した酸素同位体濃縮物を、酸素同位体スクランブリングに供し、前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を高めた濃縮物を得、該濃縮物をさらに請求項2の方法によって前記酸素同位体重成分を含む酸素分子の少なくとも一種の濃度を更に高めた濃縮物を得ることを特徴とする酸素同位体の濃縮方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2010−110759(P2010−110759A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298477(P2009−298477)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願平11−290259の分割
【原出願日】平成11年10月12日(1999.10.12)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【分割の表示】特願平11−290259の分割
【原出願日】平成11年10月12日(1999.10.12)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】
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