説明

蒸発燃料処理装置

【課題】蒸発燃料分離手段による蒸発燃料の分離効率を向上し、燃料タンク内への蒸発燃料の回収効率を向上することのできる蒸発燃料処理装置を提供する。
【解決手段】蒸発燃料処理装置は、燃料タンク1内で発生した蒸発燃料を吸着及び脱離するキャニスタ3と、蒸発燃料含有ガスの燃料成分を他の成分より優先的に透過させる蒸発燃料分離膜5dを有する蒸発燃料分離膜モジュール5と、透過室5cに負圧を印加するアスピレータ4とを備える。キャニスタ3内から脱離された蒸発燃料を含むパージガスの空気成分を他の成分より優先的に透過させる空気分離膜19dを有する空気分離膜モジュール19を設ける。透過室19cに分離された空気成分を含む空気濃縮ガスを、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車等の車輌の燃料タンク内で発生した蒸発燃料をキャニスタで吸着するとともに燃料タンク内に効率良く回収する蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蒸発燃料処理装置としては、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着及び脱離するキャニスタと、キャニスタ内から脱離された蒸発燃料を含むパージガス(蒸発燃料含有ガス)の燃料成分を他の成分より優先的に透過させる蒸発燃料分離膜を有する蒸発燃料分離手段と、キャニスタ内に負圧を印加するポンプとを備え、蒸発燃料分離手段の透過側の室に分離された燃料成分を含む蒸発燃料濃縮ガスを、ポンプの負圧により吸引して燃料タンク内に回収するものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−116872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記蒸発燃料分離手段では、パージガスを導入する導入側の室と透過側の室との分圧差が大きいほど、蒸発燃料分離膜による分離効率(単位時間当たりの透過分離量)が高いことが知られている。すなわち、パージガスを導入する導入側の室における燃料成分の濃度に比べて、透過側の室における燃料成分の濃度が低いほど、蒸発燃料分離膜による分離効率が高い。しかしながら、前記従来の蒸発燃料処理装置(特許文献1参照)では、ポンプによって蒸発燃料分離手段の導入側の室に正圧を付加しているのみであり、透過側の室において積極的なガス流動いわゆる掃気が図られていなかった。このため、蒸発燃料分離手段による蒸発燃料の分離効率を向上するには限界があり、燃料タンク内への蒸発燃料の回収効率を向上することが困難であった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、蒸発燃料分離手段による蒸発燃料の分離効率を向上し、燃料タンク内への蒸発燃料の回収効率を向上することのできる蒸発燃料処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、特許請求の範囲に記載された構成を要旨とする蒸発燃料処理装置により解決することができる。
すなわち、請求項1に記載された蒸発燃料処理装置によると、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着及び脱離するキャニスタと、燃料タンク内で発生した蒸発燃料を含む蒸発燃料含有ガスの燃料成分を他の成分より優先的に透過させる蒸発燃料分離膜を有する蒸発燃料分離手段と、蒸発燃料分離手段の透過側の室に負圧を印加する負圧印加手段とを備え、蒸発燃料分離手段の透過側の室に分離された燃料成分を含む蒸発燃料濃縮ガスを、負圧印加手段の負圧により吸引して燃料タンク内に回収する蒸発燃料処理装置であって、キャニスタ内から脱離された蒸発燃料を含むパージガスの空気成分を他の成分より優先的に透過させる空気分離膜を有する空気分離手段を設け、空気分離手段の透過側の室に分離された空気成分を含む空気濃縮ガスを、蒸発燃料分離手段の透過側の室に供給する構成としたものである。したがって、キャニスタ内から脱離された蒸発燃料を含むパージガスの空気成分が、空気分離膜を有する空気分離手段により分離される。その空気分離手段の透過側の室に分離された空気成分を含む空気濃縮ガスは、蒸発燃料分離手段の透過側の室に供給される。これにより、蒸発燃料分離手段の透過側の室が空気濃縮ガスによって掃気されるため、透過側の室における燃料成分の濃度を低下させることができる。これによって、蒸発燃料分離手段による蒸発燃料の分離効率を向上し、燃料タンク内への蒸発燃料の回収効率を向上することができる。このことは、蒸発燃料分離手段や負圧印加手段の小型化にも有効である。
【0007】
また、請求項2に記載された蒸発燃料処理装置によると、空気分離手段の空気分離膜をバイパスするバイパス通路を設けたものである。したがって、パージガス、及び/又は、空気分離手段の空気分離膜を透過しなかった不透過パージガスを、バイパス通路に流すことによって、空気分離手段の空気分離膜をバイパスさせることができる。これにより、空気分離手段のパージガスの導入側における蒸発燃料の滞留を防止することができる。
【0008】
また、請求項3に記載された蒸発燃料処理装置によると、バイパス通路を開閉するバイパス通路開閉手段を設けたものである。したがって、バイパス通路開閉手段により、バイパス通路を流れるガス量を調整することができる。
【0009】
また、請求項4に記載された蒸発燃料処理装置によると、バイパス通路開閉手段を制御する制御手段と、パージガス中の燃料成分の濃度を検知する濃度検知手段とを設け、制御手段は、濃度検知手段によって検知された燃料成分の濃度に応じてバイパス通路開閉手段を制御する。したがって、パージガス中の燃料成分の濃度に応じて制御手段によってバイパス通路開閉手段が制御されることにより、バイパス通路を流れるガス量が調整される。これにともない、蒸発燃料分離手段の透過側の室を掃気する空気濃縮ガスの流量が調整されるため、その透過側の室を効果的に掃気することができる。ひいては、蒸発燃料分離手段による蒸発燃料の分離効率が向上されるとともに、燃料タンク内への蒸発燃料の回収効率が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施形態1にかかる蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
【図2】アスピレータを示す断面図である。
【図3】蒸発燃料分離モジュールを示す模式図である。
【図4】空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度と流量及び蒸発燃料分離モジュールの透過室の負圧との関係を示す特性図である。
【図5】実施形態2にかかる蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
【図6】蒸発燃料分離モジュールを示す模式図である。
【図7】実施形態3にかかる蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
【図8】実施形態4にかかる蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
【図9】蒸発燃料の処理に係る時間と蒸発燃料の濃度との関係を示す特性図である。
【図10】変形例1にかかる蒸発燃料処理装置の要部を示す構成図である。
【図11】変形例2にかかる蒸発燃料処理装置の要部を示す構成図である。
【図12】変形例3にかかる蒸発燃料処理装置の要部を示す構成図である。
【図13】変形例4にかかる蒸発燃料処理装置の要部を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
【0012】
[実施形態1]
本発明の実施形態1を説明する。図1は蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
図1に示すように、蒸発燃料処理装置は、自動車等の車輌に搭載された燃料タンク1内で発生した蒸発燃料をキャニスタ3で吸着するとともに燃料タンク1内に回収するものである。燃料タンク1は、密閉状のタンクで、燃料Fを貯留している。燃料タンク1内には燃料ポンプ2が配置されている。燃料ポンプ2は、燃料Fを燃料供給通路12を介して、図示しない内燃機関すなわちエンジン(詳しくはインジェクタ)に供給する。また、燃料タンク1内にはアスピレータ4が配置されている。アスピレータ4には、燃料供給通路12の途中から分岐された分岐通路14の下流端が接続されている。なお、アスピレータ4については後で説明する。
【0013】
前記燃料タンク1(詳しくは上端部)には、該タンク1内の気層部の圧力である内圧を検知する第1圧力センサ36が設けられている。第1圧力センサ36の検知信号は、エンジン・コントロール・ユニット(「ECU」という)35に入力される。ECU35については後で説明する。なお、第1圧力センサ36は本明細書でいう「タンク内圧検知手段」に相当する。また、図示は省略するが、燃料ポンプ2は、燃料Fをろ過する燃料フィルタ、エンジンへ供給する燃料の圧力を調整するプレッシャレギュレータ等(図示省略)と共に燃料供給装置としてモジュール化されている。
【0014】
前記キャニスタ3は、前記燃料タンク1の外部に配置されている。キャニスタ3内には吸着材Cが充填されている。吸着材Cとしては、本実施形態では、蒸発燃料を吸着及び脱離可能な粒状の活性炭が使用されている。また、吸着材Cとしては、活性炭の他、蒸発燃料を吸着及び脱離可能な通気性を有する多孔質体を使用することもできる。また、吸着材Cは、温度が高いほど特定成分(本発明では蒸発燃料)の吸着量が少なく、温度が低いほど特定成分の吸着量が多くなる特性を有する。したがって、吸着材Cに吸着捕捉されている蒸発燃料を脱離する際は、吸着材Cの温度はできるだけ高い方が好ましい。しかし、蒸発燃料が吸着材Cから脱離されるとき、その気化熱によって吸着材Cの温度は低下する。そこで、キャニスタ3内には、吸着材Cを加熱するヒータ33が設けられている。蒸発燃料の脱離の際に、ヒータ33で吸着材Cを加熱することにより、脱離効率を向上することができる。また、ヒータ33はECU35(後述する)によって通電制御される。なお、ヒータ33は省略することもできる。
【0015】
前記燃料タンク1内と前記キャニスタ3内とは、捕捉ベーパ通路10を介して連通されている。捕捉ベーパ通路10の途中には、該通路10を開閉すなわち連通及び遮断する捕捉ベーパ通路弁20が設けられている。捕捉ベーパ通路弁20は、ECU35(後述する)によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。なお、捕捉ベーパ通路弁20は本明細書でいう「捕捉ベーパ通路開閉手段」に相当する。また、図示は省略するが、捕捉ベーパ通路10の上流端(燃料タンク1側の端部)には、該通路10を開閉する満タン規制バルブ、及び、フューエルカットオフバルブが設けられている。満タン規制バルブは、燃料タンク1内の燃料Fの液面が満タン位置よりも低いときに開弁しており、燃料Fの液面が満タン位置を超えるときに閉弁する。また、フューエルカットオフバルブは、通常は開弁しており、事故等で車輌が横転したとき等に閉弁する。
【0016】
前記キャニスタ3には、大気通路13が連通されている。大気通路13の下流端は、大気に開放されている。また、大気通路13の途中には、該通路13を開閉すなわち連通及び遮断する大気通路弁23が設けられている。大気通路弁23は、ECU35(後述する)によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。なお、大気通路弁23は本明細書でいう「大気通路開閉手段」に相当する。
【0017】
前記燃料タンク1内と前記キャニスタ3内とは、一連状をなす処理ベーパ通路11及び不透過ガス通路16を介して連通されている。処理ベーパ通路11と不透過ガス通路16との間の接続部には、蒸発燃料分離モジュール5が介装されている。蒸発燃料分離膜モジュール5は、燃料タンク1内で発生した蒸発燃料含有ガスの燃料成分を他の成分より優先的に透過させることによって、蒸発燃料含有ガスから蒸発燃料を分離して濃縮するものである。蒸発燃料分離膜モジュール5は、密閉状の容器5aと、該容器5a内を導入側の室(「導入室」という)5bと透過側の室(「透過室」という)5cとに区切る蒸発燃料分離膜5dとからなる。本実施形態では、蒸発燃料分離膜モジュール5において、容器5a内に縦壁状に設けられた蒸発燃料分離膜5dにより、容器5a内が左側の導入室5bと右側の透過室5cとに区画されている。なお、蒸発燃料分離膜モジュール5は本明細書でいう「蒸発燃料分離手段」に相当する。
【0018】
前記蒸発燃料分離膜5dは、燃料成分に対する溶解拡散係数が高く、燃料成分を他の成分より優先的に透過させるように構成されている。すなわち、蒸発燃料分離膜5dは、燃料成分を透過しやすく、空気成分を透過し難い構成の分離膜である。したがって、前記蒸発燃料分離膜モジュール5においては、透過室5c内に蒸発燃料の濃度の高いガス(「蒸発燃料濃縮ガス」という)が精製され、導入側の室5bに蒸発燃料の濃度の低いガス(「不透過ガス」という)が精製される。このため、蒸発燃料分離膜5dは、蒸発燃料濃縮膜、又は、空気希釈膜ということができる。また、蒸発燃料分離膜5dは、主体的機能を果たす非多孔質な薄膜層(機能層)と、当該薄膜層を支持する多孔質支持層とからなる。薄膜層には、例えば架橋されて三次元不溶化されたシリコーンゴム等が使用される。また、多孔質支持層には、例えばポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、又は、ポリビニリデンフルオロライド(PVDE)等の合成樹脂やセラミックが使用される。また、蒸発燃料分離膜5dとしては、平膜型、スパイラル型、中空糸型、ハニカム型等、種々の形状のものを用いることができる。なお、用語の便宜上、例えば、溶解、拡散、脱溶解を経て膜を透過する場合は、溶解拡散係数が透過係数に相当する。透過係数とは、透過機構を問わず透過速度ないし透過量の大きさを意味する。
【0019】
前記導入室5bの一端部(図1において下端部)に、前記処理ベーパ通路11の下流端が接続されている。すなわち、前記燃料タンク1内と導入室5bとが処理ベーパ通路11を介して連通されている。また、処理ベーパ通路11の途中には、該通路11を開閉すなわち連通及び遮断する処理ベーパ通路弁21が設けられている。処理ベーパ通路弁21は、ECU35(後述する)によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。なお、処理ベーパ通路弁21は本明細書でいう「処理ベーパ通路開閉手段」に相当する。
【0020】
前記導入室5bの他端部(図1において上端部)に、前記不透過ガス通路16の上流端が接続されている。すなわち、導入室5bと前記キャニスタ3内とが不透過ガス通路16を介して連通されている。不透過ガス通路16の途中から分岐ガス通路16aが分岐されている。分岐ガス通路16aの下流端は、前記エンジンの吸気通路30に対してスロットルバルブ31の下流側において接続されている。また、分岐ガス通路16aの途中には、該通路16aを開閉すなわち連通及び遮断する分岐ガス通路弁としての圧抜弁26が設けられている。圧抜弁26は、ECU35(後述する)によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。なお、圧抜弁26は本明細書でいう「分岐ガス通路開閉手段」に相当する。
【0021】
前記キャニスタ3内と前記燃料タンク1内(詳しくはアスピレータ4(後述する))とは、一連状をなすパージ通路17、空気濃縮ガス通路18及び回収通路15を介して連通されている。パージ通路17と空気濃縮ガス通路18との間の接続部には、空気分離膜モジュール19が介装されている。また、空気濃縮ガス通路18と回収通路15との間の接続部には、前記蒸発燃料分離膜モジュール5(詳しくは透過室5c)が介装されている。
【0022】
前記空気分離膜モジュール19は、前記キャニスタ3内から脱離された蒸発燃料を含む蒸発燃料含有ガスすなわちパージガスの空気成分を他の成分より優先的に透過させることによって、パージガスから空気を分離して濃縮するものである。空気分離膜モジュール19は、密閉状の容器19aと、該容器19a内を導入側の室(「導入室」という)19bと透過側の室(「透過室」という)19cとに区切る空気分離膜19dとからなる。本実施形態では、空気分離膜モジュール19において、容器19a内に水平状に設けられた空気分離膜19dにより、容器19a内が上側の導入室19bと下側の透過室19cとに区画されている。なお、空気分離膜モジュール19は本明細書でいう「空気分離手段」に相当する。
【0023】
前記空気分離膜19dは、前記蒸発燃料分離膜モジュール5の蒸発燃料分離膜5dとは逆に、燃料成分に対する溶解拡散係数が低く、空気成分を他の成分より優先的に透過させるように構成されている。すなわち、空気分離膜19dは、空気成分を透過しやすく、燃料成分を透過し難い構成の分離膜である。したがって、空気分離膜モジュール19においては、透過室19cに空気の濃度の高いガス(「空気濃縮ガス」という)が精製され、導入室19b内に空気の濃度の低いガス(「空気希釈ガス」という)が精製される。このため、空気分離膜19dは、空気濃縮膜、蒸発燃料希釈膜ということができる。また、空気分離膜19dは、例えばフッ素含有多孔質ポリオレフィン膜、セルローストリアセテート、又はポリイミドなどの高分子中空糸膜からなる窒素富化膜や、ポリジメチルシロキサシン、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチルセルロース、酢酸セルロース、ポリエチレン、又はポリスルホンなどの高分子平膜からなる酸素富化膜を使用することができる。本実施形態では、パージガスから効率良く空気成分を分離させるため、少なくとも空気中の大半を占める窒素を優先的に分離することのできる窒素富化膜が好ましく、酸素と窒素の溶解度が共に高いポリジメチルシロキサシン製酸素富化膜も好適に使用することができる。また、空気分離膜19dとしては、平膜型、スパイラル型、中空糸型、ハニカム型等、種々の形状のものを用いることができる。
【0024】
また、前記蒸発燃料分離膜モジュール5では、前に述べたように、蒸発燃料の濃度を基準とすれば、透過側すなわち透過室5cに相対的に濃度が高いガス(蒸発燃料濃縮ガス)が生じるが、非透過側すなわち導入室5bに相対的に濃度が低いガス(不透過ガス)が生じ、逆に、空気の濃度を基準とすれば、透過室5cに相対的に空気の濃度が低いガスが生じ、導入室5bに相対的に空気の濃度が高いガスが生じることになる。また、空気分離膜モジュール19では、前に述べたように、空気の濃度を基準とすれば、透過室19cに相対的に空気の濃度が高いガス(空気濃縮ガス)が生じ、導入室19bに相対的に空気の濃度が高いガス(空気希釈ガス)が生じるが、蒸発燃料の濃度を基準とすれば、透過側すなわち透過室19cに相対的に濃度が低いガスが生じ、非透過側すなわち導入室19bに相対的に濃度が高いガスが生じることになる。したがって、蒸発燃料分離膜5dを表裏反転することにより空気分離膜として使用したり、空気分離膜19dを表裏反転することにより蒸発燃料分離膜として使用することが可能である。
【0025】
前記空気分離膜モジュール19の導入室19bには、前記パージ通路17の下流端が接続されている。すなわち、前記キャニスタ3内と導入室19bとがパージ通路17を介して連通されている。また、透過室19cには、前記空気濃縮ガス通路18の上流端が接続されている。すなわち、透過室19cと前記蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cとが空気濃縮ガス通路18を介して連通されている。また、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに回収通路15の上流端が接続され、その回収通路15の下流端がアスピレータ4(後述する)に接続されている。すなわち、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cとアスピレータ4とが回収通路15を介して連通されている。
【0026】
前記アスピレータ4を説明する。アスピレータ4は、燃料ポンプ2から吐出された燃料Fの一部を導入し、その燃料Fの流れを利用して負圧を発生させる負圧発生手段である。図2はアスピレータを示す断面図である。
図2に示すように、アスピレータ4は、ベンチュリ部41と、そのベンチュリ部41上に配置されたノズル部45とから構成されている。ベンチュリ部41は、燃料流動方向(図1において上下方向)に延びる有天筒状に形成されている。ベンチュリ部41内には、中央部内に形成された絞り42と、絞り42の燃料流動方向の上流側(上側)に形成されかつ上端から絞り42に向かって先窄まり状をなす減圧室43と、絞り42から下端に向かって末拡がり状をなすディフューザ部44とが同軸状に形成されている。減圧室43の上端部には、内外を連通する吸引ポート41pが形成されている。また、ノズル部45は、中空状のノズル本体部45aと、ノズル本体部45aから下端に向かって先窄まり状をなす中空管状の噴射ノズル46とが同軸状に形成されている。噴射ノズル46は、減圧室43内に同軸状に配置されている。噴射ノズル46の下端部内の噴射口46pは、絞り42内に臨んでいる。また、ノズル本体部45aには、内外を連通する導入ポート45pが形成されている。
【0027】
前記導入ポート45pには前記分岐通路14の下流端が接続され、また、吸引ポート41pには前記回収通路15の下流端が接続されている。したがって、分岐通路14を介してアスピレータ4のノズル部45内に導入された燃料(加圧燃料)は、噴射ノズル46の噴射口46pから噴射され、ベンチュリ部41の絞り42及びディフューザ部44内を軸方向(上下方向)に高速で流動する。このとき、ベンチュリ効果によって減圧室43に負圧が発生し、その負圧が回収通路15に作用する。これにより、前記蒸発燃料分離膜モジュール5(図1参照)の透過室5cの蒸発燃料濃縮ガスが、噴射口46pから噴射された加圧燃料と共にディフューザ部44から噴出(詳しくは燃料タンク1内へ噴出)される。なお、アスピレータ4は本明細書でいう「負圧印加手段」に相当する。
【0028】
図1に示すように、前記分岐通路14の途中には、該通路14を開閉すなわち連通及び遮断する分岐通路弁24が設けられている。分岐通路弁24は、ECU35(後述する)によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。なお、分岐通路弁24は本明細書でいう「分岐通路開閉手段」に相当する。また、分岐通路弁24は、分岐通路14に代えて、アスピレータ4のノズル部45(図2参照)に対して一体的に設けることができる。
【0029】
前記回収通路15の途中には、該通路15を開閉すなわち連通及び遮断する回収通路弁25が設けられている。回収通路弁25は、ECU35(後述する)によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。また、回収通路15には、前記蒸発燃料分離膜モジュール5と回収通路弁25との間において、該通路15内の圧力(負圧)を検知する第2圧力センサ38が設けられている。第2圧力センサ38の検知信号は、ECU35(後述する)に入力される。なお、回収通路弁25は本明細書でいう「回収通路開閉手段」に相当する。また、第2圧力センサ38は本明細書でいう「負圧検知手段」に相当する。
【0030】
前記ECU35を説明する。ECU35は、中央処理装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)などを有する。ROMには所定の制御プログラムが予め記憶されており、CPUが、当該制御プログラムに基づいて、蒸発燃料処理装置の各構成要素(燃料ポンプ2、各通路弁20、21、23〜26及びヒータ33)を所定のタイミングで制御する。なお、ECU35は本明細書でいう「制御手段」に相当する。
【0031】
ここで、前記蒸発燃料分離膜モジュール5について補足説明する。図3は蒸発燃料分離モジュールを示す模式図である。
図3に示すように、蒸発燃料分離膜モジュール5の容器5aには、蒸発燃料含有ガスGを前記処理ベーパ通路11から導入室5bに導入するガス導入ポート5mと、導入室5bから不透過ガスGを前記不透過ガス通路16に導出する不透過ガスポート5nと、空気濃縮ガスGを空気濃縮ガス通路18から透過室5cに導入する掃気ポート5pと、透過室5cから蒸発燃料濃縮ガスGを回収通路15へ導出する回収ポート5fとが形成されている。ガス導入ポート5mは、導入室5bの一端部(下端部)に形成されている。また、不透過ガスポート5nは、導入室5bの他端部(上端部)に形成されている。したがって、ガス導入ポート5mから導入室5bに導入された蒸発燃料含有ガスGは、蒸発燃料分離膜5dに沿って不透過ガスポート5n側(図3において上側)へ流動していく。また、掃気ポート5pは、透過室5cの一端部(例えば上端部)に形成されている。また、回収ポート5fは、透過室5cの他端部(例えば下端部)に形成されている。したがって、導入室5bから蒸発燃料分離膜5dを介して透過室5cに透過した蒸発燃料濃縮ガスGは、蒸発燃料含有ガスGの流動方向(上向き方向)と逆方向(下向き方向)に蒸発燃料分離膜5dに沿って流動し、回収ポート5fから導出される。なお、掃気ポート5pの形成位置は、透過室5cにおける蒸発燃料濃縮ガスG3の流動方向の上流側に相当する位置であればよく、蒸発燃料濃縮ガスGの流動方向に対してできるだけ上流端に設定することが好ましい。これにより、透過室5c内を空気濃縮ガスGによって全体的に掃気することができる。
【0032】
次に、前記蒸発燃料処理装置(図1参照)による蒸発燃料の処理について説明する。
駐車中(オフ時)において、大気通路弁23は開弁されているが、その他の通路弁20、21、24〜26はそれぞれ閉弁されている。なお、以下の説明において、燃料ポンプ2、各通路弁20、21、23〜26及びヒータ33は、ECU35によってそれぞれ制御されるものであるから、その制御についての説明は省略する。
【0033】
次に、給油時においては、捕捉ベーパ通路弁20及び大気通路弁23が開弁され、その他の通路弁21、24〜26は閉弁される。そして、給油に伴って燃料タンク1内の圧力が上昇すると、燃料タンク1内の蒸発燃料含有ガスが捕捉ベーパ通路10を介してキャニスタ3内に流入し、キャニスタ3内の吸着材Cに蒸発燃料が吸着される。その蒸発燃料が除去された残余の空気は、キャニスタ3内から大気通路13を介して大気中に放散される。これにより、蒸発燃料による大気汚染を回避しながら、燃料タンク1の内圧による破損が防止される。
【0034】
また、給油時以外の駐車中(エンジン停止中)においては、全ての通路弁20、21、23〜26が閉弁されることで、燃料タンク1内が密閉空間となる。したがって、燃料タンク1内に蒸発燃料が発生すると、燃料タンク1の内圧は徐々に上昇していく。そして、燃料タンク1の内圧が所定値(例えば5kPa)以上となったことが第1圧力センサ36によって検知されると、捕捉ベーパ通路弁20及び大気通路弁23が開弁される。これにより、前記給油時と同様、燃料タンク1内の蒸発燃料含有ガスが、捕捉ベーパ通路10を介してキャニスタ3内に流入し、キャニスタ3内の吸着材Cに蒸発燃料が吸着される。その蒸発燃料が除去された残余の空気は、キャニスタ3から大気通路13を介して大気中に放散される。また、燃料タンク1の内圧が十分(例えば大気圧程度)に低下したことが第1圧力センサ36によって検知されると、捕捉ベーパ通路弁20及び大気通路弁23が閉弁される。
【0035】
また、エンジン駆動中においては、処理ベーパ通路弁21、分岐通路弁24及び回収通路弁25が開弁され、その他の通路弁20、23、26は閉弁される。また、ヒータ33が通電されることによりキャニスタ3内が加熱される。ヒータ33で吸着材Cが加熱されることで、脱離効率が向上される。また、処理ベーパ通路弁21の開弁にともない、燃料タンク1内の蒸発燃料含有ガスは、処理ベーパ通路11を介して蒸発燃料分離膜モジュール5の導入室5bに導入される。すると、蒸発燃料含有ガスG(図3参照)が、ガス導入ポート5mから不透過ガスポート5nに向けて流動していく間に、蒸発燃料含有ガスG中の燃料成分が蒸発燃料分離膜5dを透過することで、透過室5cに蒸発燃料濃縮ガスGが精製される。また、不透過ガスGは、導入室5bから不透過ガス通路16を介してキャニスタ3内に導入される。これにより、キャニスタ3内の吸着材Cに吸着されている蒸発燃料の脱離が促進される。
【0036】
また、エンジン駆動中には、燃料ポンプ2の駆動により、燃料タンク1内の燃料Fが燃料供給通路12を介してエンジン(詳しくはインジェクタ)に供給される。また、燃料供給通路12を流れる加圧燃料の一部が分岐通路14を介してアスピレータ4に供給される。すると、アスピレータ4によって負圧が発生し、その負圧が回収通路15を介して蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに印加され、透過室5cが減圧される。これにより、蒸発燃料分離膜5dを透過室5cに透過した蒸発燃料濃縮ガスが、回収通路15を介してアスピレータ4に吸引され、そのアスピレータ4に供給された加圧燃料とともに燃料タンク1内に排出(回収)される。
【0037】
また、アスピレータ4による負圧は、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cから空気濃縮ガス通路18を介して空気分離膜モジュール19の透過室19cにも印加され、その透過室19cが減圧される。これにより、不透過ガス通路16を介してキャニスタ3に導入された不透過ガスとともに、キャニスタ3の吸着材Cから蒸発燃料が脱離されることによりパージガスとなって、パージ通路17を介して空気分離膜モジュール19の導入室19bに導入される。すると、パージガス中の空気成分が空気分離膜19dを透過することで、透過室19cに空気濃縮ガスが精製される。なお、空気分離膜19dを透過せずに導入室19bに残存する空気希釈ガス(蒸発燃料濃縮ガス)に含まれる燃料成分は、そのまま滞留することになるが、徐々に蒸発燃料の濃度が薄くなることにより、その滞留した燃料成分も最終的には空気分離膜19dを透過することになる。このため、導入室19bに、パージガスの流量に対応する容積を確保しておくとよい。
【0038】
前記透過室19cに生成された空気濃縮ガスは、空気濃縮ガス通路18を介して蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに導入される。すると、空気濃縮ガスによって透過室5cが掃気される。これにより、透過室5cの燃料成分の濃度すなわち燃料成分の分圧が低減されるため、蒸発燃料分離膜5dによる分離効率が向上される。なお、透過室5cの空気濃縮ガスは、蒸発燃料濃縮ガスと共に回収通路15に排出される。
【0039】
また、エンジン駆動中において、外気温度や燃料ポンプ2の駆動熱等によって燃料タンク1内の燃料Fの温度が上昇する。したがって、エンジン駆動中に蒸発燃料を処理している間にも、燃料タンク1の内圧が上昇する。そこで、エンジン駆動中に燃料タンク1の内圧が所定値(例えば5kPa)以上となったことが第1圧力センサ36によって検知されると、圧抜弁26が開弁されると共に、燃料タンク1の内圧変化に応じて処理ベーパ通路弁21の開弁量が制御される。このときの処理ベーパ通路弁21の開弁量は、開弁時間/(開弁時間+閉弁時間)で定められるデューティ比によって制御される。これにより、不透過ガス中の蒸発燃料の残存濃度が所定濃度Dsで安定化される。そのうえで、不透過ガスが分岐ガス通路16aを介して吸気通路30に導入される。このようにして、燃料タンク1内が圧抜きされる。このため、吸気通路30に導入される不透過ガス中の蒸発燃料の残存濃度が安定化されているので、空燃比が安定し、排気エミッションが悪化することが避けられる。また、燃料タンク1の内圧が充分(例えば大気圧程度)に低下したことが第1圧力センサ36によって検知されると、圧抜弁26が閉弁される。
【0040】
前記蒸発燃料処理装置(図1参照)によると、キャニスタ3内から脱離された蒸発燃料を含むパージガスの空気成分を他の成分より優先的に透過させる空気分離膜19dを有する空気分離膜モジュール19を設け、空気分離膜モジュール19の透過室19cに分離された空気成分を含む空気濃縮ガスを、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに供給する構成としたものである。したがって、キャニスタ3内から脱離された蒸発燃料を含むパージガスの空気成分が、空気分離膜19dを有する空気分離膜モジュール19により分離される。その空気分離膜モジュール19の透過室19cに分離された空気成分を含む空気濃縮ガスは、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに供給される。これにより、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cが空気濃縮ガスによって掃気されるため、透過室5cにおける燃料成分の濃度を低下させることができる。これによって、蒸発燃料分離膜モジュール5による蒸発燃料の分離効率を向上し、燃料タンク1内への蒸発燃料の回収効率を向上することができる。このことは、蒸発燃料分離膜モジュール5やアスピレータ4の小型化にも有効である。また、蒸発燃料分離膜モジュール5による蒸発燃料の分離効率の向上によって、キャニスタ3に流入する不透過ガスに含まれる蒸発燃料量を低減することができる。
【0041】
また、図4は空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度と流量及び蒸発燃料分離モジュールの透過室の負圧との関係を示す特性図である。図4において、横軸は空気濃縮ガスの蒸発燃料(燃料成分)の濃度(%)を示し、左側の縦軸は空気濃縮ガスの流量(L/min)を示し、右側の縦軸は蒸発燃料分離膜モジュール5の透過側の負圧(kPa)を示している。例えば、負圧は−100(kPa)〜−10(kPa)で絶対値は低い。また、特性線Laは空気濃縮ガスの流量の変化を示している。すなわち、空気濃縮ガスは、空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度が薄くなるほど、流量が大きく(多く)なり、逆に、空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度が濃くなるほど、流量が小さく(少なく)なる。また、特性線Lbは蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cの負圧の変化を示している。すなわち、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cにおいて、空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度が薄くなるほど、負圧が小さくなり、逆に、空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度が濃くなるほど、負圧が大きくなる。
【0042】
すなわち、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cを掃気する空気濃縮ガスは、透過室5cにおける蒸発燃料濃度が濃い場合は少なく、蒸発燃料濃度が薄い場合は多い方が、蒸発燃料分離膜5dの分離性能が良い。また、空気分離膜モジュール19は、パージガスにおける空気の濃度が濃い場合(蒸発燃料の濃度が薄い場合)は透過量が多く、逆に、パージガスにおける空気の濃度が薄い場合(蒸発燃料の濃度が濃い場合)は透過量が少ない。したがって、空気分離膜モジュール19の空気分離膜19dが、空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度に応じて流量を自己制御し、蒸発燃料分離膜モジュール5の蒸発燃料分離膜5dの分離性能を良くすることができる。これにより、パージガスの流量をECU35で制御する電磁弁を設ける等の特別な流量制御手段を必要としないため、蒸発燃料処理装置における電力の低減化、低コスト化、小型軽量化等を図ることができる。
【0043】
また、蒸発燃料分離膜モジュール5(図3参照)内において、蒸発燃料含有ガスGと蒸発燃料濃縮ガスGとが、蒸発燃料分離膜5dに沿って相反方向へ流動するように構成されている。したがって、蒸発燃料含有ガスGと蒸発燃料分離膜5dとの累積接触面積や接触時間が増大するので、高い精度で蒸発燃料を分離することができる。すなわち、蒸発燃料の分離残しを避けることができる。
【0044】
[実施形態2]
本発明の実施形態2を説明する。本実施形態は、前記実施形態1に変更を加えたものであるから、その変更部分について説明し、重複する説明は省略する。図5は蒸発燃料処理装置を示す構成図、図6は蒸発燃料分離モジュールを示す模式図である。
図5に示すように、本実施形態は、前記実施形態1(図1参照)における蒸発燃料分離膜モジュール5を、ガスの流れ方向(図5において上下方向)に二分割されたモジュール部51、52を備えた蒸発燃料分離膜モジュール(符号、50を付す)に変更したものである。すなわち、図6に示すように、蒸発燃料分離膜モジュール50は、蒸発燃料含有ガスGの流動方向を基準として、上流側(図6において下側)に位置する第1モジュール部51と、下流側(図6において上側)に位置する第2モジュール部52とから構成されている。また、空気濃縮ガスGの流動方向を基準とすれば、上流側(図6において上側)に第2モジュール部52が位置し、下流側(図6において下側)に第1モジュール部51が位置する。すなわち、両モジュール部51、52は、ガスの流動方向に対して直列状に配置されている。
【0045】
前記第1モジュール部51及び前記第2モジュール部52は、それぞれ容器5a、5aと、導入室5b、5bと、透過室5c、5cと、蒸発燃料分離膜5d、5dとを備えている。導入室5bと導入室5bとは、導入側連結通路53を介して連通されている。また、透過室5cと透過室5cとは、透過側連結通路54を介して連通されている。また、ガス導入ポート5mは、第1モジュール部51の導入室5bの端部すなわち第2モジュール部52と反対側の端部(下端部)に形成されている。また、不透過ガスポート5nは、第2モジュール部52の導入室5bの端部すなわち第1モジュール部51と反対側の端部(上端部)に形成されている。また、掃気ポート5pは、透過室5cと透過室5cとの連結部すなわち透過側連結通路54の途中に形成されている。また、回収ポート5fは、第1モジュール部51の透過室5cの端部すなわち第2モジュール部52と反対側の端部(下端部)に形成されている。
【0046】
蒸発燃料処理の際、空気濃縮ガスGが透過側連結通路54に導入されると、第1モジュール部51の透過室5c内が空気濃縮ガスGによって掃気されることで、該透過室5cの燃料成分の濃度が下げられる。これにより、第1モジュール部51の蒸発燃料の分離効率が向上される。なお、掃気ポート5pは、第2モジュール部52の透過室5cに連通するとよい。この場合、両透過室5c、透過室5c内が空気濃縮ガスGによって掃気されることで、該透過室5c、透過室5cの燃料成分の濃度が下げられる。これにより、両モジュール部51、52の蒸発燃料の分離効率が向上される。なお、蒸発燃料分離膜モジュール50は、本実施形態ではガス流動方向に対して二分割したが、三分割以上に分割してもよい。
【0047】
[実施形態3]
本発明の実施形態3を説明する。本実施形態は、前記実施形態1に変更を加えたものである。図7は蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
図7に示すように、本実施形態は、前記実施形態1(図1参照)における空気分離膜モジュール19の空気分離膜19dをバイパスするバイパス通路60を設けたものである。すなわち、空気分離膜モジュール19の導入室19bと、回収通路15の途中(詳しくは蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cと回収通路弁25との間の通路部分)とがバイパス通路60を介して連通されている。なお、本実施形態では、空気分離膜モジュール19において、容器19a内に縦壁状に設けられた空気分離膜19dにより、容器19a内が右側の導入室19bと左側の透過室19cとに区画されている。そして、導入室19bの一端部(例えば上端部)にパージ通路17の下流端が接続され、また、導入室19bの他端部(例えば下端部)にバイパス通路60の上流端が接続されている。また、透過室19cの端部(例えば下端部)に空気濃縮ガス通路18の上流端が接続されている。
【0048】
前記バイパス通路60の途中には、該通路60を開閉すなわち連通及び遮断する機械式の流量調整弁61が設けられている。流量調整弁61により、バイパス通路60を流れるパージガスの流量が調整されている。なお、流量調整弁61は本明細書でいう「バイパス通路開閉手段」に相当する。また、流量調整弁61は、絞り機構に代えることができる。
【0049】
本実施形態によると、アスピレータ4による負圧の一部は、回収通路15の途中からバイパス通路60を介して空気分離膜モジュール19の導入室19bにも印加される。これにより、パージガス、及び、空気分離膜モジュール19の空気分離膜19dを透過しなかった空気希釈ガス(蒸発燃料濃縮ガス)を、バイパス通路60に流すことによって、空気分離膜19dをバイパスさせることができる。このため、空気分離膜モジュール19のパージガスの導入側(導入室19b側)における蒸発燃料の滞留を防止することができる。また、流量調整弁61により、バイパス通路60を流れるパージガス量を調整することができる。なお、本明細書では、パージガス及び空気希釈ガスを総称して「パージガス」という。
【0050】
[実施形態4]
本発明の実施形態4を説明する。本実施形態は、前記実施形態3に変更を加えたものである。図8は蒸発燃料処理装置を示す構成図である。
図8に示すように、本実施形態では、前記実施形態3(図7参照)における流量調整弁61を、バイパス通路弁63に変更したものである。バイパス通路弁63は、ECU35によって開閉タイミングが制御される電磁弁である。なお、バイパス通路弁63は本明細書でいう「バイパス通路開閉手段」に相当する。
【0051】
前記パージ通路17の途中には、パージガス中の燃料成分(HC)の濃度を検知する濃度センサ64が設けられている。なお、パージガスに含まれる燃料成分としては、炭化水素(HC)と、それ以外の成分が考えられるが、HCが大部分を占めることから、便宜的にHCを燃料成分として説明する。濃度センサ64の検知信号は、ECU35に入力される。なお、濃度センサ64は本明細書でいう「濃度検知手段」に相当する。
【0052】
前記ECU35は、蒸発燃料の処理中において、前記濃度センサ64により検知されるHCの濃度から燃料成分の濃度を算出し、前記バイパス通路弁63の開弁量を制御する。このときのバイパス通路弁63の開弁量は、開弁時間/(開弁時間+閉弁時間)で定められるデューティ比によって制御される。
【0053】
図9は蒸発燃料の処理に係る時間と蒸発燃料の濃度との関係を示す特性図である。図9において、横軸は時間(min)を示し、縦軸は蒸発燃料(燃料成分)の濃度(%)を示している。また、特性線L1はパージガスの蒸発燃料の濃度の変化を示している。また、特性線L2は空気濃縮ガスの蒸発燃料の濃度の変化を示している。両特性線L1、L2から、特性線L2に応じて特性線L1の濃度分布が平滑化されるようにパージガスの流量を調整することが望ましい。
【0054】
したがって、蒸発燃料の処理初期は、パージガス中の燃料成分の濃度が比較的濃いため、両分離膜モジュール5,19の透過室5c、19cの負圧が大きく、空気濃縮ガスの流量が小さくなるように、バイパス通路弁63の開度を調整(例えば10%程度に調整)する。これにより、蒸発燃料分離膜モジュール5による蒸発燃料含有ガスの燃料成分の分離が促進されるとともに、キャニスタ3内の蒸発燃料の脱離が促進される。そして、キャニスタ3の蒸発燃料が徐々に脱離されることで、経時的にパージガス中の燃料成分の濃度が薄くなるため、両分離膜モジュール5,19の透過側負圧が小さく、空気濃縮ガスの流量が大きくなるように、バイパス通路弁63の開度を小さくする(例えば1%程度の極小とするか又は閉じる)。これにより、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cに対する掃気を効果的に行うことができ、キャニスタ3の再生時間を短縮することができる。
【0055】
なお、次の表1は、パージガスの燃料成分の濃度(脱離濃度)と、両透過室5c、19cに対する負圧(透過側負圧)と、空気濃縮ガスの流量と、バイパス通路弁63の開度との関係をまとめたものである。
【表1】

【0056】
したがって、パージガス中の燃料成分の濃度に応じてECU35によってバイパス通路弁63が制御されることにより、バイパス通路60を流れるガス量が調整される。これにともない、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cを掃気する空気濃縮ガスの流量が調整されるため、その透過室5cを効果的に掃気することができる。ひいては、蒸発燃料分離膜モジュール5による蒸発燃料の分離効率が向上されるとともに、燃料タンク1内への蒸発燃料の回収効率が向上される。
【0057】
なお、バイパス通路弁63としては、デューティ比が制御される電磁弁のほか、電磁駆動式のニードル弁やバタフライ弁等を用いることもできる。また、上記実施形態ではパージガス中の燃料成分の濃度に応じてバイパス通路弁63の開弁量を制御したが、蒸発燃料の処理を開始してからの経過時間に基づいて、バイパス通路弁63の開弁量を制御することもできる。
【0058】
前記各実施形態にかかる変形例1〜4を説明する。図10〜図13は蒸発燃料処理装置の要部を示す構成図である。
[変形例1]
変形例1は、図10に示すように、前記不透過ガス通路16における分岐ガス通路16a及び圧抜弁26(図1参照)を省略したものである。また、不透過ガス通路16の途中には、圧力制御弁66が設けられている。圧力制御弁66は、所定圧力が作用することで不透過ガス通路16からキャニスタ3への不透過ガスの流動を許容し、かつ、その逆流を阻止するチェック弁である。
【0059】
[変形例2]
変形例2は、図11に示すように、前記不透過ガス通路16における圧抜弁26(図1参照)に代えて、不透過ガス通路16の分岐ガス通路16aの分岐点に、三方弁68を設けたものである。三方弁68は、不透過ガス通路16をキャニスタ3と連通しかつ分岐ガス通路16aを遮断する状態と、不透過ガス通路16を分岐ガス通路16aと連通しかつキャニスタ3を遮断する状態とに切替えるもので、ECU35によって切替えタイミングが制御される電磁弁である。また、三方弁68は、通常時は、不透過ガス通路16をキャニスタ3と連通しかつ分岐ガス通路16aを遮断する状態とされる。そして、エンジン駆動中に蒸発燃料を処理している間に、燃料タンク1の内圧が所定値(例えば5kPa)以上となったことが第1圧力センサ36によって検知されたときには、三方弁68が不透過ガス通路16を分岐ガス通路16aと連通しかつキャニスタ3を遮断する状態とに切替えられることで、燃料タンク1内が圧抜きされる。また、第1圧力センサ36による検知圧力が所定値より低くなると、三方弁68が不透過ガス通路16をキャニスタ3と連通しかつ分岐ガス通路16aを遮断する状態に切替えられる。
【0060】
[変形例3]
変形例3は、図12に示すように、前記捕捉ベーパ通路10に、捕捉ベーパ通路弁20に対して両方向チェック弁70を並列状に設けたものである。両方向チェック弁70は、正圧弁70aと負圧弁70bとを備えている。すなわち、捕捉ベーパ通路弁20の閉弁状態において、正圧弁70aは、所定圧力が作用することで、燃料タンク1内からキャニスタ3内への蒸発燃料含有ガスの流動を許容し、かつ、その逆流を阻止するチェック弁である。また、負圧弁70bは、所定圧力が作用することで、キャニスタ3内から燃料タンク1内へのガスの流動を許容し、かつ、その逆流を阻止するチェック弁である。また、正圧弁70aは、燃料タンク1内の圧力が所定値(例えば、約+5kPa)以上になったときに開弁する。また、負圧弁70bは、燃料タンク1内の圧力が所定値(例えば、約+5kPa)以下になったときに開弁する。また、燃料タンク1内の圧力Pが、
+5(kPa)>P>−5(kPa)
のときは、正圧弁70a及び負圧弁70bは閉弁している。したがって、駐車時において、捕捉ベーパ通路弁20を制御することなく、燃料タンク1を保護することができる。
【0061】
[変形例4]
変形例3は、図13に示すように、前記バイパス通路60(図7参照)の上流端(図13において上端)を、前記空気分離膜モジュール19の透過室19cに代えて、前記パージ通路17の途中に接続したものである。この場合、パージガスを、空気分離膜モジュール19の導入室19bを介することなく、バイパス通路60へ直接的にバイパスさせることができる。
【0062】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本発明の蒸発燃料処理装置の構成要素であるキャニスタ3、アスピレータ4、蒸発燃料分離膜モジュール5及び空気分離膜モジュール19を備える限り、その他、種々の構成要素を付加することができる。また、蒸発燃料処理装置は、揮発性の高い燃料(例えばガソリンなど)を燃料とする、自動車などの車輌に好適である。また、蒸発燃料分離膜モジュール5は、基本的には蒸発燃料分離膜5dによって導入室5bと透過室5cとに区分けされる構成であれば特に限定されない。また、空気分離膜モジュール19は、基本的には空気分離膜19dによって導入室19bと透過室19cとに区画される構成であれば特に限定されない。また、負圧印加手段として、前記実施形態で例示したアスピレータ4に代えて、真空ポンプ(負圧ポンプ、減圧ポンプ等を含む)を使用することも可能である。また、アスピレータ4に供給する燃料は加圧された燃料であればよく、例えばプレッシャレギュレータから吐出(排出)された余剰燃料をアスピレータ4に供給することも可能である。また、前記実施形態では、アスピレータ4による負圧を、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5cから空気濃縮ガス通路18を介して空気分離膜モジュール19の透過室19cにも印加させたが、空気濃縮ガス通路18に、空気分離膜モジュール19の透過室19cに負圧を印加する負圧印加手段を設けることも考えられる。また、アスピレータ4による負圧を、バイパス通路60を介して空気分離膜モジュール19の透過室19cにも印加させたが、バイパス通路60に、空気分離膜モジュール19の透過室19cに負圧を印加する負圧印加手段を設けることも考えられる。また、バイパス通路60は、空気分離膜モジュール19の空気分離膜19dをバイパスするものであればよく、例えばバイパス通路60の下流端は、回収通路15に代えて、空気分離膜モジュール19の透過室19c、又は、蒸発燃料分離膜モジュール5の透過室5c、又は、燃料タンク1内等に連通させることが可能である。また、不透過ガス通路16において、分岐ガス通路16aの分岐部からキャニスタ3につながる通路部分を省略してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…燃料タンク
3…キャニスタ
4…アスピレータ(負圧印加手段)
5…蒸発燃料分離膜モジュール(蒸発燃料分離手段)
5b…導入室
5c…透過室
5d…蒸発燃料分離膜
11…処理ベーパ通路
15…回収通路
16…不透過ガス通路
17…パージ通路
18…空気濃縮ガス通路
19…空気分離膜モジュール(空気分離手段)
19b…導入室
19c…透過室
19d…空気分離膜
35…ECU(制御手段)
60…バイパス通路
61…流量調整弁(バイパス通路開閉手段)
63…バイパス通路弁(バイパス通路開閉手段)
64…濃度センサ(濃度検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク内で発生した蒸発燃料を吸着及び脱離するキャニスタと、
前記燃料タンク内で発生した蒸発燃料を含む蒸発燃料含有ガスの燃料成分を他の成分より優先的に透過させる蒸発燃料分離膜を有する蒸発燃料分離手段と、
前記蒸発燃料分離手段の透過側の室に負圧を印加する負圧印加手段と
を備え、
前記蒸発燃料分離手段の透過側の室に分離された燃料成分を含む蒸発燃料濃縮ガスを、前記負圧印加手段の負圧により吸引して前記燃料タンク内に回収する蒸発燃料処理装置であって、
前記キャニスタ内から脱離された蒸発燃料を含むパージガスの空気成分を他の成分より優先的に透過させる空気分離膜を有する空気分離手段を設け、
前記空気分離手段の透過側の室に分離された空気成分を含む空気濃縮ガスを、前記蒸発燃料分離手段の透過側の室に供給する構成とした
ことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸発燃料処理装置であって、
前記空気分離手段の空気分離膜をバイパスするバイパス通路を設けたことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蒸発燃料処理装置であって、
前記バイパス通路を開閉するバイパス通路開閉手段を設けたことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の蒸発燃料処理装置であって、
前記バイパス通路開閉手段を制御する制御手段と、
前記パージガス中の燃料成分の濃度を検知する濃度検知手段と
を設け、
前記制御手段は、前記濃度検知手段によって検知された燃料成分の濃度に応じて前記バイパス通路開閉手段を制御する
ことを特徴とする蒸発燃料処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−92716(P2012−92716A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239756(P2010−239756)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】