説明

蒸着坩堝及び蒸着装置

【課題】異物が流出することによる不都合を防止した蒸着坩堝と、これを備えた蒸着装置を提供する。
【解決手段】蒸着材料3を収容する坩堝本体8と、坩堝本体8の開口部8aに着脱可能に被着された、蓋板部12と筒部13とを有する蓋9と、を備えた蒸着坩堝4である。蓋9には、蓋板部12に蒸着材料3の昇華物又は気化物を通過させる流出口12aが設けられている。坩堝本体8の開口部8aと流出口12aとの間には、蒸着材料3の昇華物又は気化物の流路の一部を遮断する邪魔板14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着坩堝及び蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着法は、材料を加熱して昇華もしくは気化させることにより、基板等の被成膜体(被処理体)に成膜する方法であり、真空中で行うことで、基板表面を清浄に保ち、かつ高純度の膜質を生成することができる。したがって、各種半導体装置や電気光学装置の製造では、従来、真空蒸着法による薄膜形成が多くなされている。例えば、電気光学装置として有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)を製造する場合には、マスク蒸着法により、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などとして機能する有機膜(有機機能層)を、基板上に順次成膜している。また、陰極や、これを封止する封止層として、金属膜や無機膜を成膜している。
このような真空蒸着法によって基板に成膜を行う蒸着装置としては、蒸着源として坩堝を備えたものが一般的である。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−114517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、真空蒸着法を用いて成膜を行う場合、蒸着材料に含まれる不純物や、蒸着材料の反応生成物に起因して種々の問題が生じる。
例えば、大気中で材料表面に反応生成物(例えば酸化物)が形成されるような昇華型蒸着材料を用いた場合では、前記反応生成物が異物となり、坩堝内において蒸着材料の昇華物又は気化物の流れに同伴され、坩堝外に流出して基板に付着し、品質低下や歩留まりの低下を招いてしまう。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、異物が流出することによる不都合を防止した蒸着坩堝と、これを備えた蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明の蒸着坩堝は、蒸着材料を収容する坩堝本体と、
前記坩堝本体の開口部に着脱可能に被着された、蓋板部と筒部とを有する蓋と、を備え、
前記蓋には、前記蓋板部に前記蒸着材料の昇華物又は気化物を通過させる流出口が設けられ、
前記坩堝本体の開口部と前記流出口との間に、前記蒸着材料の昇華物又は気化物の流路の一部を遮断する邪魔板を設けたことを特徴としている。
【0007】
この蒸着坩堝によれば、坩堝本体の開口部と蓋板部の流出口との間に、蒸着材料の昇華物又は気化物の流路の一部を遮断する邪魔板を設けたので、蒸着材料中の不純物や反応生成物からなる異物が蒸着材料の昇華物又は気化物に同伴されて流出口に向かっても、邪魔板によって遮られ、流出口から流出するのが抑制される。したがって、異物が坩堝外に流出して被処理体に付着し、品質低下や歩留まりが低下するといった不都合が防止される。
【0008】
また、前記蒸着坩堝において、前記邪魔板は、前記坩堝本体の開口部の内縁と前記流出口の内縁との間を結ぶ領域内を、少なくとも遮断するように配置されているのが好ましい。
このようにすれば、蒸着材料と流出口との間の、昇華物又は気化物の直線的な流路を遮断できるので、昇華物又は気化物に同伴された異物の流出口からの流出がより確実に抑制される。
【0009】
また、前記蒸着坩堝において、前記邪魔板の底面は、凹凸を有する粗面に形成されているのが好ましい。
このようにすれば、異物が邪魔板に衝突した際にこれに付着し易くなるため、邪魔板を回り込んで流出口から流出するのが抑制される。
【0010】
また、前記蒸着坩堝において、前記蓋の内面は、凹凸を有する粗面に形成されているのが好ましい。
邪魔板に流れが遮られた前記昇華物又は気化物は、邪魔板を回り込んで旋回流となり、蓋の筒部内面から蓋板部内面に沿って流出口に向かう。したがって、異物は僅かながらこの流れに同伴されるものの、邪魔板によって流れが止められたことで減速している。これにより、異物は蓋の筒部内面や蓋板部内面に衝突し易くなり、これらに衝突した際に付着し易くなる。
【0011】
また、本発明の蒸着装置は、被処理体に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置であって、
前記蒸着材料を収容した請求項1〜3のいずれか一項に記載の蒸着坩堝と、
前記蒸着坩堝内の蒸着材料を加熱する加熱手段と、を含むことを特徴としている。
【0012】
この蒸着装置によれば、前述したように異物が坩堝外に流出するのが抑制された蒸着坩堝を備えているので、異物が坩堝外に流出して被処理体に付着し、品質低下や歩留まりが低下するといった不都合が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の蒸着装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】本発明の坩堝の一実施形態の概略構成を示す側断面図である。
【図3】有機EL装置を示す図であり、(a)は側断面図、(b)は平面図である。
【図4】本発明の坩堝の他の実施形態の概略構成を示す側断面図である。
【図5】本発明の坩堝の他の実施形態の概略構成を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の蒸着装置の一実施形態を示す図であり、内部を透視した側面図である。図1において符号1は蒸着装置である。なお、この図1では、理解を容易にするため、本発明の特徴部分である坩堝4を、実際の縮尺より大きく記載している。
【0015】
この蒸着装置1は、チャンバー(蒸着室)2と、このチャンバー2内に配置されて蒸着材料3を収容する坩堝4と、坩堝4内の蒸着材料3を加熱する蒸着用加熱装置(加熱手段)5と、を備えて構成されたものである。
チャンバー2には、排気孔2aを介して真空ポンプ6が接続されており、この真空ポンプ6によってチャンバー2内は、成膜処理中やその待機中などの間、常時真空引きされている。
【0016】
また、このチャンバー2内には、その上方に基板搬送部7が設けられている。基板搬送部7は、基板(被処理体)Wを保持する基板ホルダ(図示せず)と、蒸着マスク(図示せず)を保持するマスクホルダ(図示せず)と、これら基板W及び蒸着マスク、マスクホルダを一体にして、チャンバー2外からチャンバー2内に、さらにはその逆に搬送する公知の搬送機構と、を備えて構成されている。なお、チャンバー2には、基板Wを出し入れするための搬送口(図示せず)が、開閉可能に設けられている。
【0017】
坩堝4は、本発明の蒸着坩堝の一実施形態となるもので、その側断面図である図2に示すように、坩堝本体8と、該坩堝本体8に着脱可能に被着された蓋9とを有して構成されたものである。
これら坩堝本体8、蓋9は、本実施形態では同じ材質で形成されており、高融点金属やセラミックス等によって形成されたものである。具体的には、前記蒸着用加熱装置5の加熱方法によっても異なり、例えばこの蒸着用加熱装置5が誘導加熱装置である場合、チタン、白金等の比較的高抵抗の金属(合金を含む)によって形成される。また、抵抗加熱装置である場合には、セラミックスや低抵抗の金属(合金を含む)が好適に用いられる。なお、本実施形態では、蒸着用加熱装置5が誘導加熱装置であるものとし、したがって坩堝本体8、蓋9は、チタンによって形成されているものとする。
【0018】
坩堝本体8は有底円筒状のもので、その内部に蒸着材料3を収容するようになっている。この坩堝本体8の開口部8aには、フィルター10が着脱可能に被着されている。このフィルター10は、貫通孔(図示せず)を多数形成してなる円板状のもので、金属あるいはセラミックスからなるものである。このフィルター10は、金属板あるいはセラミックス板をエッチング加工やレーザー加工することで、貫通孔を形成したものである。また、このフィルター10にはその中心部にネジ11が取り付けられるようになっており、このネジ11により、後述する邪魔板が保持されるようになっている。
【0019】
蓋9は、蓋板部12と円筒部13とを有する有蓋円筒状のもので、円筒部13の内面に、坩堝本体8の上端部に係合する係合部13aを形成したものである。また、蓋板部12には、その中央部に、蓋板部12の直径に比べて十分に小さい内径、例えば数mmから10mm程度の流出口12aが形成されている。このような構成によって蓋10は、蒸着材料3の昇華物(あるいは気化物)である気体を開口10dから容易に流出させるものの、蒸着材料3の不純物や反応生成物からなる異物(固形物)については、坩堝4の外に飛散するのを抑えるようにしている。
【0020】
また、これら坩堝本体8及び蓋9からなる坩堝4の内部には、坩堝本体8の開口部8aと前記流出口12aとの間に、邪魔板14が配設されている。邪魔板14は、坩堝本体8や蓋9と同じ材料(チタン)で形成された円板状のもので、蒸着材料3の昇華物又は気化物の流路の一部を遮断するように配置されたものである。具体的には、図2中二点鎖線で示すように、坩堝本体8の開口部8aの内縁と流出口12aの内縁との間を結ぶ領域R内を、少なくとも遮断するように配置されている。
【0021】
また、この邪魔板14の下面(底面)は、例えばその上面に比べ、凹凸を有する粗面に形成されている。これは、下面をブラスト処理、エッチング処理、あるいは溶射処理などの粗面化処理をすることで、適宜な凹凸形状を付与することによって行っている。
さらに、この邪魔板14にはその中心部に雌ねじ部(図示せず)が形成されており、この雌ねじ部に前記ネジ11が螺合することにより、前述したように邪魔板14がネジ11を介してフィルター10に保持されるようになっている。
【0022】
坩堝本体8内に収容される蒸着材料3としては、例えば有機EL装置を構成する陰極の材料、すなわちマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属や銀など、また、有機EL素子の有機機能層(正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層等)となる有機膜の各形成材料など、さらには酸化ケイ素等の無機封止材料などが用いられる。もちろん、有機EL装置以外の用途においては、その用途に応じた種々の成膜材料が用いられる。本実施形態では、特に有機EL装置の陰極材料である金属(例えばアルカリ土類金属)が用いられ、坩堝本体8内に収容されている。この蒸着材料3は、例えば粒状のもので、坩堝本体8の内部空間の高さより低い高さになるよう充填され、収容されたものである。
【0023】
蒸着用加熱装置5は、前記したように本実施形態では誘導加熱装置からなるもので、この蒸着用加熱装置5上に坩堝4を載置し、坩堝4を加熱することにより、坩堝4内(坩堝本体8内)の蒸着材料3を加熱するものである。すなわち、坩堝4の坩堝本体8は蒸着用加熱装置5によって渦電流が生じさせられ、これによって坩堝本体8は発熱し、蒸着材料3を加熱するようになっている。また、蓋9や邪魔板14についても、蒸着用加熱装置5によって坩堝本体8と同様に発熱するようになっている。
【0024】
次に、このような構成の蒸着装置1による成膜方法について説明する。ここでは、有機EL装置の陰極の成膜を例にして説明する。したがって、以下の説明では、蒸着装置1は有機EL装置(有機エレクトロルミネッセンス装置)の製造装置として機能するようになる。
まず、有機EL装置の概略構成について説明する。
図3(a)、(b)は、有機EL装置の一例であるラインヘッドを示す図であり、(a)は要部側断面図、(b)は平面図である。
【0025】
図3(a)、(b)に示す有機EL装置50は、電子写真方式を利用したプリンタに使用されるラインヘッドであり、複数の有機EL素子(有機エレクトロルミネッセンス素子)53を配列してなる発光素子列(発光部ライン)53Aを1列または複数列、例えば、3列備えている。このようなラインヘッドでは、発光素子列53Aに含まれる有機EL素子53のうち、所定の有機EL素子53を点灯させて感光ドラム上に照射することにより、感光ドラム上に電荷による像(潜像)を形成する。
【0026】
ここで、有機EL装置50は細長い矩形形状を有しており、通常は1枚の大型基板W上に有機EL素子53などを形成した後、単品サイズの複数枚の素子基板に切り出される。また、特にボトムエミッション方式の場合には、素子基板に封止基板が貼られることで、有機EL装置50とされる。
【0027】
すなわち、この有機EL装置50は、図3(a)に示すように発光層57で発光した光を画素電極54側から出射するボトムエミッション方式とされ、素子基板52側から発光光を取り出すようになっている。このため、素子基板52としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラス、石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等が挙げられ、特にガラス基板が好適に用いられる。また、素子基板52上には、画素電極54に電気的に接続された駆動用トランジスタ55a(薄膜トランジスタ)などを含む回路部55が、発光素子列53Aに沿って形成されており、その上層側に有機EL素子53が形成されている。
【0028】
有機EL素子53は、陽極として機能する画素電極54と、この画素電極54からの正孔を注入/輸送する正孔注入層及び正孔輸送層(合わせて正孔注入/輸送層56と記す)と、有機EL物質からなる発光層57と、電子を注入/輸送する電子注入層及び電子輸送層(合わせて電子注入/輸送層58と記す)と、陰極59とがこの順に積層された構造になっている。素子基板52の回路部55には、外部接続端子(図示せず)が接続されており、各有機EL素子53を外部より制御可能となっている。
【0029】
次に、このような構成の有機EL装置50における、陰極59の成膜について説明する。
まず、蒸着材料3(陰極の形成材料)を坩堝本体8の内部に充填し、さらにこの坩堝本体8の開口部8aにフィルター10を被着するとともに、図2に示したようにこのフィルター10上にネジ11を介して邪魔板14を取り付けておく。そして、この邪魔板14を覆って坩堝本体8に蓋9を被着し、さらにこの坩堝4をチャンバー2内に収容して蒸着用加熱装置5上に載置しておく。
【0030】
また、基板Wを、基板搬送部7によってチャンバー2内の上方の所定位置に配置しておく。なお、この基板Wは、図3(a)に示した、画素電極4及び隔壁(図示せず)を形成し、さらに正孔注入/輸送層56、発光層57、電子注入/輸送層58までを形成した個片化する前の素子基板52を、多数含んでなるものとする。
そして、チャンバー2内を真空引きし、所定の真空度に達したら、蒸着用加熱装置5によって坩堝4を所定の温度に加熱する。
【0031】
すると、チャンバー2内は所定の真空度になっているため、坩堝4が加熱されて蒸着材料3が加熱されることにより、蒸着材料3は昇華させられる。この蒸着材料3の昇華物(気体)は、図2中矢印で示すようにフィルター10を通過した後、蓋板部12の流出口12aに向かうべく前記領域R内を流れようとするものの、この領域R内を遮断する前記邪魔板14によって流れが遮られることにより、邪魔板14の外側を回り込んで流出口12aに向かう。
【0032】
したがって、蒸着材料3中の不純物や反応生成物からなる異物が蒸着材料3の昇華物に同伴されてフィルター10を通過し、流出口12aに向かっても、邪魔板14によって遮られる。その結果、気体である前記昇華物とは異なり、異物は邪魔板14に衝突することでその大半が邪魔板14に付着し、あるいは落下して坩堝本体8内に戻る。ここで、邪魔板14は前記したようにその底面が粗面になっているため、この底面に衝突した異物はここに容易に付着し、したがって堆積し易くなっている。
【0033】
よって、邪魔板14の外側を回り込んだ昇華物は、異物をほとんど同伴することなく流出口12aに向かい、該流出口12aを通って出射し、基板Wの被成膜面に向かって飛散する。そして、必要に応じて基板Wに設けられた蒸着マスクによって所定位置に選択的に蒸着し、陰極59を形成する。
【0034】
前記構成の坩堝(蒸着坩堝)4にあっては、蒸着材料3の昇華物の流路の一部を遮断する邪魔板14を設けたので、蒸着材料3中の不純物や反応生成物からなる異物の流出口12aからの流出を抑制することができる。したがって、異物が坩堝4外に流出して基板Wに付着し、品質低下や歩留まりが低下するといった不都合を防止することができる。
また、邪魔板14を、坩堝本体8の開口部8aの内縁と流出口12aの内縁との間を結ぶ領域R内を遮断するように配置したので、昇華物の直線的な流路を遮断することができ、したがって流出口12aからの異物の流出をより確実に抑制することができる。
【0035】
また、邪魔板14の底面を、凹凸を有する粗面に形成したので、異物が邪魔板14に衝突した際にこれを容易に付着するようになる。したがって、邪魔板14を回り込んで異物が流出口12aから流出するのを、より確実に抑制することができる。
また、このような坩堝4を備えた蒸着装置1にあっては、前記坩堝4を備えているので、異物が基板Wに付着し、品質低下や歩留まりが低下することを防止することができる。
【0036】
次に、図4、図5を参照して本発明の坩堝(蒸着坩堝)の他の実施形態を説明する。図4、図5に示した実施形態の坩堝4が図2に示した実施形態の坩堝4と異なるところは、内面が粗面加工された蓋9を用いている点である。
すなわち、本実施形態の坩堝4は、例えばその側断面図である図4に示すように、蓋9の蓋板部12の内面、及び円筒部13の内面に、多数の溝15が形成されている。したがって、このような溝15からなる凹部と、これら凹部に対して相対的に凸部となる溝以外の内面とによって、蓋9はその内面が凹凸を有する粗面に形成されたものとなっている。
【0037】
また、坩堝4の側断面図である図5に示すように、蓋9の蓋板部12の内面、及び円筒部13の内面に、前記邪魔板14の底面と同様に粗面化処理、すなわちブラスト処理、エッチング処理、あるいは溶射処理などがなされたことで、適宜な凹凸形状が付与されてこれら内面が粗面になっている。
【0038】
このように、蓋9の内面が粗面になっていることにより、前記邪魔板14の底面の場合と同様に、蓋9の内面(粗面)に異物を容易に付着させ易くなる。すなわち、図2中矢印で示したように、邪魔板14に流れが遮られた昇華物は、邪魔板14を回り込んで旋回流となり、蓋9の円筒部13の内面から蓋板部12の内面に沿って流出口12aに向かう。したがって、邪魔板14に付着されずに残った僅かな異物はこの流れに同伴されるものの、邪魔板14によって流れが止められたことで減速している。これにより、異物は蓋9の円筒部13の内面や蓋板部12の内面に衝突し易くなる。そして、これらに衝突した際、これら内面が粗面になっていることにより、これに付着し堆積するようになる。
【0039】
よって、図4、図5に示した構成からなる坩堝4にあっては、流出口12aからの異物の流出をより確実に抑制し、異物が基板Wに付着することによる品質低下や歩留まりの低下を一層防止することができる。
【0040】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、ネジ11を用いて邪魔板14をフィルター10上に配設したが、邪魔板14の取り付けについては、このような手法に限定されることなく、種々の構成を採用することができる。すなわち、フィルター10に取り付けるのに代えて、坩堝本体8や蓋9に直接、あるいはネジ等の部材を介して間接的に取り付けることができる。
【0041】
また、前記実施形態では本発明の蒸着装置1を、有機EL装置の陰極の成膜に適用する例について説明したが、本発明の坩堝及び蒸着装置はこれに限定されることなく、種々の蒸着膜の形成に用いることができる。
また、坩堝4については、一つだけでなく複数を用いて、同時に、あるいは順番に蒸着を行うようにしてもよい。これにより、蒸着材料の交換などによるプロセスの中断を、短時間にすることができる。
さらに、複数の坩堝4に対してそれぞれに異なる蒸着材料を収容しておき、例えば蒸着用加熱装置5による加熱を制御することなどにより、所望の蒸着材料のみを昇華させるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…蒸着装置、2…チャンバー(蒸着室)、3…蒸着材料、4…坩堝(蒸着坩堝)、5…蒸着用加熱装置(加熱手段)、8…坩堝本体、8a…開口部、9…蓋、10…フィルター、11…ネジ、12…蓋板部、12a…流出口、13…円筒部(筒部)、14…邪魔板、W…基板(被処理体)、15…溝、R…領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料を収容する坩堝本体と、
前記坩堝本体の開口部に着脱可能に被着された、蓋板部と筒部とを有する蓋と、を備え、
前記蓋には、前記蓋板部に前記蒸着材料の昇華物又は気化物を通過させる流出口が設けられ、
前記坩堝本体の開口部と前記流出口との間に、前記蒸着材料の昇華物又は気化物の流路の一部を遮断する邪魔板を設けたことを特徴とする蒸着坩堝。
【請求項2】
前記邪魔板は、前記坩堝本体の開口部の内縁と前記流出口の内縁との間を結ぶ領域内を、少なくとも遮断するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の蒸着坩堝。
【請求項3】
前記邪魔板の底面は、凹凸を有する粗面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸着坩堝。
【請求項4】
前記蓋の内面は、凹凸を有する粗面に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蒸着坩堝。
【請求項5】
被処理体に蒸着材料を蒸着させる蒸着装置であって、
前記蒸着材料を収容した請求項1〜4のいずれか一項に記載の蒸着坩堝と、
前記蒸着坩堝内の蒸着材料を加熱する加熱手段と、を含むことを特徴とする蒸着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−127137(P2011−127137A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283741(P2009−283741)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】