蒸着方法
【課題】基板が膨張又は収縮した場合においても蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことができる蒸着方法を提供する。
【解決手段】開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法において、前記マスクの開口部を介して前記基板に前記有機物又は前記無機物の蒸着を行う際に、前記基板の前記マスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、前記マスクと前記基板との間との距離を調整することを特徴とする。
【解決手段】開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法において、前記マスクの開口部を介して前記基板に前記有機物又は前記無機物の蒸着を行う際に、前記基板の前記マスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、前記マスクと前記基板との間との距離を調整することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばテレビやパーソナルコンピュータに用いられているディスプレイは、カラー表示を行うために基板に対して、R(Red)、G(Green)、B(Blue)等の塗りわけが行われていた。
【0003】
ここで、基板に対してRGB等を塗り分けるために用いられる方法としては、開口部を有するマスク等が用いられ、その開口部を介して真空蒸着法等の方法によりRGBを塗り分けることが一般的となっている。
【特許文献1】特開1997−115672号公報
【特許文献2】特開2003−151768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで現在では、ディスプレイ全体の重量を軽量化することができる等の理由により、上記基板として用いられてきたガラス基板に代えて樹脂基板が用いられるようになってきた。この樹脂基板に対しても、上記の様に蒸着を行う際には、真空蒸着法が用いられているが、樹脂基板の樹脂の線膨張係数はガラス基板の線膨張係数と比較して大きく、熱的な要因等により蒸着に用いられる基板が膨張し、マスクと基板との位置ずれが生じてしまう。これにより、蒸着すべき部分に精度よく蒸着することができないといった問題が生じていた。
【0005】
本願は、このような問題に鑑みなされたものであり、基板がマスクに対して相対的に膨張又は収縮した場合においても蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことができる蒸着方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本願の蒸着方法は、開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法において、前記マスクの開口部を介して前記基板に前記有機物又は前記無機物の蒸着を行う際に、基板のマスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、マスクと基板との間との距離を調整することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(I)蒸着方法の概要
本願の蒸着方法について図1A〜図1Fを用いて順に説明する。
【0008】
なお、本願の説明をするにあたっては、図1Aに示すように、その表面に絶縁膜2が積層されており、この絶縁膜2により蒸着部4が形成されている基板1に有機物又は無機物(以下、単に「有機物等」という場合がある)の蒸着を行う場合を例に挙げて説明する。
【0009】
図1Aは、蒸着開始前の基板等の状態を示す図である。
【0010】
本願の方法においては、蒸着が行われる基板1の材質は特に限定されることはなく、如何なる基板であっても本願の方法を実施することができる。基板1の材質としては、例えば、ガラス基板、樹脂基板、金属基板、セラミック基板等を挙げることができるが、本願の方法は、蒸着時に基板が膨張したり、収縮したりした場合であっても精度良く蒸着を行うことができる方法であり、当該効果を鑑みると、樹脂基板に対して本願の方法を実施することが好ましい。なお、基板1の厚みは、用途に応じて異なるが、通常のディスプレイ装置に用いられる0.1mm〜1mm程度の基板であれば十分に本願の方法を実施可能である。
【0011】
基板1には絶縁膜2が形成されていてもよく、当該絶縁膜2により、有機物等の蒸着が行われる蒸着部4と、蒸着が行われない非蒸着部5とが形成されていてもよい。この場合、絶縁膜2の材質については、特に限定されることはなく、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、窒素化シリコン、酸化シリコン等を例示できる。なお、絶縁膜2の厚みについても、用途に応じて異なるが、通常のディスプレイ装置用の基板の場合、0.1μm〜10μm程度である。
【0012】
蒸着が行われる蒸着部4の大きさ(幅)についても、特に限定されることはなく、本願の方法を実施することにより最終的に形成したい蒸着部の大きさに合わせて任意に決定すればよい。通常のディスプレイ装置の場合には、30μm〜300μm程度である。
【0013】
本願の方法に用いられるマスク3は、開口部6と遮蔽部7を有している。開口部6は、有機物等8を蒸着する部分である蒸着部4のみに有機物等8を蒸着するために設けられるものである。開口部6を絶縁膜2により形成された蒸着部4に合わせることによって、有機物等8をその蒸着部4にのみ蒸着させることができる。
【0014】
マスク3の開口部6の大きさについては、前述した蒸着部4と同様に考えることができ、本願の方法を実施することにより最終的に形成したい蒸着部の大きさに合わせて任意に決定すればよい。また、マスク3の材質は、特に限定されることはなく、例えば、ステンレス、ニッケルやその合金等であってもよい。なお、マスク3の厚みは、用途に応じて異なるが、通常は20μm〜200μm程度である。
【0015】
図1Bは、蒸着開始時の基板等の状態を示す図である。
【0016】
図1Bに示すように、本願の方法においては、有機物等の蒸着物質を何らかの手段によって気化せしめ、これをターゲットとなる基板の所定の位置(蒸着部4)へ付着せしめることが必要となるが、ここで行われる蒸着物質の気化手段については、特に限定することはなく、従来公知の様々な手段に対し本願の方法を適用可能である。蒸着物質の気化手段としては、真空蒸着法、プラズマ蒸着法、スパッタリング蒸着法、イオンプレーティング蒸着法、レーザーアブレーション法等を挙げることができる。なお、本実施形態においては、有機物等8を加熱蒸発させて蒸発源9から放射させ、マスク3等の開口部6を介して(通過させて)基板1(絶縁膜2の蒸着部4)に蒸着させる真空蒸着法を用いて蒸着する場合を例にあげて以下説明する。
【0017】
蒸着開始時の基板1とマスク3との距離は、特に限定することはなく、有機物等8を基板上に蒸着するに際して適切な距離であればよく、次にあげる基板の膨張・収縮のいずれが発生しやすいかによって適切な初期値を設定するのが好ましい。
【0018】
ここで、本願の発明は基板のマスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、マスクと基板との位置を調整することに特徴を有している。以下に(i)基板がマスクに対して相対的に膨張する場合、(ii)基板がマスクに対して相対的に収縮する場合について説明する。
【0019】
(i)基板がマスクに対して相対的に膨張する場合
図1Cは、基板膨張時の基板等の状態を示す図である。
【0020】
基板1に有機物等8を蒸着していくと、蒸着による熱等の要因によって基板1が膨張する場合がある。このように基板1が何らかの要因によって膨張した場合に、本来有機物等8が蒸着すべき位置である蒸着部4とマスク3の開口部6との位置がずれてしまう。このような場合には、本来有機物等8が蒸着すべき蒸着部4に完全に有機物等8を蒸着させることができない。その一方で、本来有機物等8を蒸着する必要のない部分(いわゆる非蒸着部5)に有機物等8が蒸着されてしまうという不都合が生じてしまう。本願の方法は、このような問題を解決するための発明であり、基板が膨張した場合には、その膨張に合わせて蒸着部4とマスク3の開口部6との位置関係を補正することを特徴とする。
【0021】
なお、基板1が膨張等する要因としては、蒸着時の熱的な要因だけではなく、例えば基板の材質や、基板の固定方法など、様々な要因が考えられる。
【0022】
図1Dは、基板が膨張場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【0023】
図1Dに示すように、基板1が膨張した場合に蒸着部4とマスク3の開口部6とを合わせ直す(マスク位置補正)方法として、基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の基板1とマスク3の距離よりも広くすることが本発明の特徴である。
【0024】
基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の基板1とマスク3の距離よりも広くすることによって、基板1が膨張した後の蒸着部4を蒸発源9とマスク3の開口部6の延長線上に置くことができるため、蒸発源9から放射された有機物等8を目的の蒸着部4(所望の位置)に蒸着することができる。このように、本願の方法は、基板1とマスク3との距離を広げることに特徴を有しているが、この距離を広げすぎると、マスク3の開口部6を通過した有機物等8が発散してしまい、所望の位置に蒸着させることができないことがある。したがって、本願の方法においては、基板1とマスク3との距離は、なるべく200μm以下に保持することが望ましい。
【0025】
(ii)基板がマスクに対して相対的に収縮する場合
図1Eは、基板が収縮した際の基板等の状態を示す図である。
【0026】
基板1に有機物等8を蒸着していくと、上述した場合とは逆に基板1が収縮する場合もある。このように基板1が何らかの要因によって収縮した場合に、本来有機物等8が蒸着すべき位置である蒸着部4とマスク3の開口部6の位置がずれてしまい、上述した基板が膨張する場合と同様の不都合が生じる場合がある。本願の方法は、このような場合においても効果を奏する。
【0027】
図1Fは、基板が収縮した場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【0028】
図1Fに示すように、基板1が収縮した場合に蒸着部4とマスク3の開口部6とを合わせ直す(マスク位置補正)方法として、基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の基板1とマスク3との距離よりも狭くすることが本発明の特徴である。
【0029】
基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の距離よりも狭くすることによって、蒸着部4を蒸発源9とマスク3の開口部6の延長線上に置くことができるため、蒸発源9から放射された有機物等8を目的の蒸着部4(所望の位置)に蒸着することができる。このように、本願の方法は、基板1とマスク3との距離を狭くすることも特徴としているが、この距離を狭くしすぎると、基板1とマスク3とが接触するおそれがあり好ましくない。したがって、基板が相対的に収縮する場合は、あらかじめその収縮が最大でどのくらい生じるかをあらかじめ把握しておき、基板とマスクが接触しない距離に初期値を設定しておくことが望ましい。
【0030】
(II)基板とマスクとの距離の調整の仕方について
上述したように、本願の方法においては、蒸着時の基板変形に応じて適宜基板とマスクとの距離を調整することを特徴としているが、当該距離の具体的な調整の仕方については、限定することはなく、(i)マスクを移動させることにより当該距離を調整する仕方、(ii)基板を移動させることにより当該距離を調整する仕方、さらには(iii)基板とマスクとの両方を移動させることにより当該距離を調整する仕方、の何れをも採用することが可能である。
【0031】
図2A〜C、及び図3は、上記(i)マスクを上下に移動させることにより基板とマスクとの距離を調整する仕方について説明する概略断面図である。
【0032】
図2Aは、蒸着開始時のマスクの位置を示す図である。
【0033】
図示するように、絶縁膜2が形成された基板1は、予め固定されたベース12上に固定されている(つまり、基板1は移動しない。)。一方、マスク3は、その周りをフレーム11によって固定されている。そして、前記フレーム11の四隅には支持棒10が設置されており、当該支持棒10を上下に移動させることによって、マスク3を上下に移動することができ、その結果基板1とマスクとの距離を調整することができる。
【0034】
図2Bは、基板が膨張したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。つまり、基板とマスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも広くした場合の図である。
【0035】
一方、図2Cは、基板が収縮したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。つまり、基板とマスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも狭くした場合の図である。
【0036】
このように、基板膨張後は、基板1とマスク3との距離を蒸着開始時のそれよりも広くし、基板1が収縮した場合には、基板1とマスク3との距離を蒸着開始時のそれよりも狭くすることによって、本来有機物等8を蒸着すべき部分である蒸着部4に精度良く蒸着せしめることができる。なお、マスク3の上下移動に際しては、マスク3に対して無理な応力の負担がかからない様、それぞれの移動距離には注意が必要である。
【0037】
図3に示すように、本願の発明にあっては、マスク3を上下に移動させることに加えて、従来公知の方法の如く、基板1をX軸、Y軸、θ軸方向に移動させることも可能である。このように、マスクと基板との距離を調整することに加え、基板自体を様々な方向へ移動させることにより、蒸着の精度をより向上せしめることができる。なお、図3においては、基板を様々な方向へ移動させているが、これに限定されることはなく、基板自体は完全に固定した状態を保ち、マスクを上下移動のみならず、X軸、Y軸、θ軸方向に移動させるようにしてもよい(図示せず)。
【0038】
ここで、基板1が膨張し、基板1とマスク3との距離を広くした場合(図2B参照)には、図1D、図2Bにおいて点線にて示しているチャンバー内(基板1とマスク3と蒸着源9が設置された領域)の真空度、言い換えれば、基板1とマスク3、および蒸着源9との間の空間の真空度を基板1とマスク3との距離を調整(広く)する前段階よりも高く保つことが望ましい。
【0039】
蒸着部4とマスク3の開口部6の距離を広くすると、マスク3の開口部6を通過した有機物等8が発散してしまい、蒸着の精度が低下するおそれがあるからである。有機物等8が発散する原因の一つとして、基板1とマスク3、および蒸着源9との間(空間)に存在する分子に蒸着すべき有機物等8が衝突し、その進行方向が変化してしまうことが挙げられるが、本願の方法のように基板1とマスク3との距離を広くした後(蒸着時)のチャンバー内の真空度を、基板1とマスク3との距離を広くする前段階よりも高く保ち、基板1とマスク3、および蒸着源9との間に存在する分子の量を減らすことで、当該分子と有機物等8との衝突の確率を低下させることができ、その結果、有機物等8の直進性を向上することができるのである。
【0040】
具体的には、基板1とマスク3との距離を広くする前段階のチャンバー内の真空度は、特に限定することはなく、例えば、10−1Pa以下が望ましい。これに対して、基板1とマスク3との距離を広くした後(蒸着時)のチャンバー内の真空度は、10−2Pa以下とすることが必要であり、好ましくは10−3Pa以下とすることが望ましい。
【0041】
(III)基板に生じた膨張又は収縮を検出する方法について
本願の方法を実施するに際しては、基板1とマスク3との距離を調整するために、何らかの方法により基板に生じた膨張又は収縮を検出する必要がある。本願の方法にあっては、これを検出する方法については特に限定することはない。例えば、(i)基板及びマスクの双方に何らかの印(マーカ)を設けておき、当該マーカのズレを測定することにより、リアルタイムで基板に生じた膨張や収縮を検出する方法、(ii)基板に使用されている材質の熱膨張係数等を予め調べておき、蒸着時の温度等を測定することにより、基板に生じる膨張や収縮を予想する方法、等を挙げることができる。
【0042】
図4A〜Dは、上記(i)つまり、基板及びマスクの少なくとも一方に何らかの印(マーカ)を設けておき、当該マーカのズレを測定することにより、リアルタイムで基板に生じた膨張や収縮を検出する方法を説明するための図である。
【0043】
図4Aは、蒸着開始時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0044】
図示するように、基板1にはマーカ15を合計8箇所設けておき、その一方で、マスク3の基板1に設けられた各マーカ15に対応した位置にはマーカ確認用開口部16が設けられている。基板1が膨張又は収縮していない時、つまり蒸着開始時においては、マスクに設けられたマーカ確認用開口部16から基板1上のマーカが視認できるようになっている。つまり、基板1に設けられたマーカ15をマスク3越しに視認できる場合には、基板1に膨張又は収縮が生じていないことが分かる。
【0045】
図4Bは、基板が膨張した際の時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0046】
図示するように、基板1が熱等の要因により膨張すると、基板1に設けられたマーカ15の位置と、マスク3に設けられたマーカ確認用開口部16の位置がずれてしまい、その結果、8箇所設けたマーカの全部若しくはその中の何れかがマスクに設けられたマーカ確認用開口部16から視認できなくなる。つまり、基板1に設けられたマーカ15をマスク3越しに視認できない場合には、基板1に膨張が生じていることが分かる。
【0047】
本願の方法によれば、基板1に膨張が生じていることが分かった際には、図2Bに示すように、マスク3を基板から離れる方向(図2Bにおいては下方)に移動させることによって、基板1の蒸着部4とマスク3の開口部6を合わせることができる。
【0048】
一方、図4Cは、基板が収縮した際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0049】
図示するように、基板1が収縮した場合にも、上述したように基板1に設けられたマーカ3の位置と、マスク3に設けられたマーカ確認用開口部16の位置がずれてしまい、その結果、8箇所設けたマーカの全部若しくはその中の何れかがマスクに設けられたマーカ確認用開口部16から視認できなくなる。つまり、基板1に設けられたマーカ15をマスク3越しに視認できない場合には、基板1に収縮が生じていることが分かる。
【0050】
本願の方法によれば、基板1に収縮が生じていることが分かった際には、図2Cに示すように、マスク3を基板に近づける方向(図2Cにおいては上方)に移動させることによって、基板1の蒸着部4とマスク3の開口部6を合わせることができる。
【0051】
図4Dは、基板の一部に膨張が生じた際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0052】
基板の材質や固定方法、さらには基板の温度分布等によっては、図4B〜Cに記載したように基板全体が一律に膨張又は収縮するのではなく、図4Dに示すように、基板の所定の部分のみが所定の方向にのみ膨張又は収縮する場合もあり(図4Dは、右上方向にのみ膨張が生じた場合の図である。)、この場合には、基板に設けられた8箇所のマーカの一部のみがマーカ確認用開口部16から視認できなくなる。
【0053】
本願の方法によれば、基板の一部のみに膨張が生じていることが分かった際には、当該部分近傍の基板とマスクとの距離のみを広げるようにすることで基板1の蒸着部4とマスク3の開口部6を合わせることができる。具体的には、例えば図3に示す支持棒10A〜10Dの中、支持棒10Cのみを移動させることで実現できる。この場合、基板とマスクとには傾きが生じることとなる(図示せず)。
【0054】
以上説明したように基板がマスクに対して相対的に膨張又は収縮した場合においても蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことができる。したがって本願の発明は特に、基板に膨張又は収縮が生じ易い線膨張係数の高い基板に対して有用である。
【0055】
また、本願の方法によれば、基板の膨張や収縮自体を防止する必要がないため、特殊な温度管理を行う必要がない。
【0056】
更に、基板の一部分に膨張又は収縮が起こった場合であっても、その部分の基板とマスクの距離を調整することによって、蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1A】蒸着開始前の基板等の状態を示す図である。
【図1B】蒸着開始時の基板等の状態を示す図である。
【図1C】基板膨張時の基板等の状態を示す図である。
【図1D】基板が膨張場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【図1E】基板が収縮した際の基板等の状態を示す図である。
【図1F】基板が収縮した場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【図2A】蒸着開始時のマスクの位置を示す図である。
【図2B】基板が膨張したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。
【図2C】基板が収縮したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。
【図3】マスクを上下に移動させることにより基板とマスクとの距離を調整する仕方について説明する概略断面図である。
【図4A】蒸着開始時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【図4B】基板が膨張した際の時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【図4C】基板が収縮した際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【図4D】基板の一部に膨張が生じた際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・基板
2・・・絶縁膜
3・・・マスク
4・・・蒸着部
5・・・非蒸着部
6・・・開口部
7・・・遮蔽部
8・・・有機物又は無機物(有機物等)
9・・・蒸発源
10、10A、10B、10C、10D・・・支持棒
11・・・フレーム
12・・・ベース
15・・・マーカ
16・・・マーカ確認用開口部
【技術分野】
【0001】
本願は、開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばテレビやパーソナルコンピュータに用いられているディスプレイは、カラー表示を行うために基板に対して、R(Red)、G(Green)、B(Blue)等の塗りわけが行われていた。
【0003】
ここで、基板に対してRGB等を塗り分けるために用いられる方法としては、開口部を有するマスク等が用いられ、その開口部を介して真空蒸着法等の方法によりRGBを塗り分けることが一般的となっている。
【特許文献1】特開1997−115672号公報
【特許文献2】特開2003−151768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで現在では、ディスプレイ全体の重量を軽量化することができる等の理由により、上記基板として用いられてきたガラス基板に代えて樹脂基板が用いられるようになってきた。この樹脂基板に対しても、上記の様に蒸着を行う際には、真空蒸着法が用いられているが、樹脂基板の樹脂の線膨張係数はガラス基板の線膨張係数と比較して大きく、熱的な要因等により蒸着に用いられる基板が膨張し、マスクと基板との位置ずれが生じてしまう。これにより、蒸着すべき部分に精度よく蒸着することができないといった問題が生じていた。
【0005】
本願は、このような問題に鑑みなされたものであり、基板がマスクに対して相対的に膨張又は収縮した場合においても蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことができる蒸着方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本願の蒸着方法は、開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法において、前記マスクの開口部を介して前記基板に前記有機物又は前記無機物の蒸着を行う際に、基板のマスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、マスクと基板との間との距離を調整することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(I)蒸着方法の概要
本願の蒸着方法について図1A〜図1Fを用いて順に説明する。
【0008】
なお、本願の説明をするにあたっては、図1Aに示すように、その表面に絶縁膜2が積層されており、この絶縁膜2により蒸着部4が形成されている基板1に有機物又は無機物(以下、単に「有機物等」という場合がある)の蒸着を行う場合を例に挙げて説明する。
【0009】
図1Aは、蒸着開始前の基板等の状態を示す図である。
【0010】
本願の方法においては、蒸着が行われる基板1の材質は特に限定されることはなく、如何なる基板であっても本願の方法を実施することができる。基板1の材質としては、例えば、ガラス基板、樹脂基板、金属基板、セラミック基板等を挙げることができるが、本願の方法は、蒸着時に基板が膨張したり、収縮したりした場合であっても精度良く蒸着を行うことができる方法であり、当該効果を鑑みると、樹脂基板に対して本願の方法を実施することが好ましい。なお、基板1の厚みは、用途に応じて異なるが、通常のディスプレイ装置に用いられる0.1mm〜1mm程度の基板であれば十分に本願の方法を実施可能である。
【0011】
基板1には絶縁膜2が形成されていてもよく、当該絶縁膜2により、有機物等の蒸着が行われる蒸着部4と、蒸着が行われない非蒸着部5とが形成されていてもよい。この場合、絶縁膜2の材質については、特に限定されることはなく、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、窒素化シリコン、酸化シリコン等を例示できる。なお、絶縁膜2の厚みについても、用途に応じて異なるが、通常のディスプレイ装置用の基板の場合、0.1μm〜10μm程度である。
【0012】
蒸着が行われる蒸着部4の大きさ(幅)についても、特に限定されることはなく、本願の方法を実施することにより最終的に形成したい蒸着部の大きさに合わせて任意に決定すればよい。通常のディスプレイ装置の場合には、30μm〜300μm程度である。
【0013】
本願の方法に用いられるマスク3は、開口部6と遮蔽部7を有している。開口部6は、有機物等8を蒸着する部分である蒸着部4のみに有機物等8を蒸着するために設けられるものである。開口部6を絶縁膜2により形成された蒸着部4に合わせることによって、有機物等8をその蒸着部4にのみ蒸着させることができる。
【0014】
マスク3の開口部6の大きさについては、前述した蒸着部4と同様に考えることができ、本願の方法を実施することにより最終的に形成したい蒸着部の大きさに合わせて任意に決定すればよい。また、マスク3の材質は、特に限定されることはなく、例えば、ステンレス、ニッケルやその合金等であってもよい。なお、マスク3の厚みは、用途に応じて異なるが、通常は20μm〜200μm程度である。
【0015】
図1Bは、蒸着開始時の基板等の状態を示す図である。
【0016】
図1Bに示すように、本願の方法においては、有機物等の蒸着物質を何らかの手段によって気化せしめ、これをターゲットとなる基板の所定の位置(蒸着部4)へ付着せしめることが必要となるが、ここで行われる蒸着物質の気化手段については、特に限定することはなく、従来公知の様々な手段に対し本願の方法を適用可能である。蒸着物質の気化手段としては、真空蒸着法、プラズマ蒸着法、スパッタリング蒸着法、イオンプレーティング蒸着法、レーザーアブレーション法等を挙げることができる。なお、本実施形態においては、有機物等8を加熱蒸発させて蒸発源9から放射させ、マスク3等の開口部6を介して(通過させて)基板1(絶縁膜2の蒸着部4)に蒸着させる真空蒸着法を用いて蒸着する場合を例にあげて以下説明する。
【0017】
蒸着開始時の基板1とマスク3との距離は、特に限定することはなく、有機物等8を基板上に蒸着するに際して適切な距離であればよく、次にあげる基板の膨張・収縮のいずれが発生しやすいかによって適切な初期値を設定するのが好ましい。
【0018】
ここで、本願の発明は基板のマスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、マスクと基板との位置を調整することに特徴を有している。以下に(i)基板がマスクに対して相対的に膨張する場合、(ii)基板がマスクに対して相対的に収縮する場合について説明する。
【0019】
(i)基板がマスクに対して相対的に膨張する場合
図1Cは、基板膨張時の基板等の状態を示す図である。
【0020】
基板1に有機物等8を蒸着していくと、蒸着による熱等の要因によって基板1が膨張する場合がある。このように基板1が何らかの要因によって膨張した場合に、本来有機物等8が蒸着すべき位置である蒸着部4とマスク3の開口部6との位置がずれてしまう。このような場合には、本来有機物等8が蒸着すべき蒸着部4に完全に有機物等8を蒸着させることができない。その一方で、本来有機物等8を蒸着する必要のない部分(いわゆる非蒸着部5)に有機物等8が蒸着されてしまうという不都合が生じてしまう。本願の方法は、このような問題を解決するための発明であり、基板が膨張した場合には、その膨張に合わせて蒸着部4とマスク3の開口部6との位置関係を補正することを特徴とする。
【0021】
なお、基板1が膨張等する要因としては、蒸着時の熱的な要因だけではなく、例えば基板の材質や、基板の固定方法など、様々な要因が考えられる。
【0022】
図1Dは、基板が膨張場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【0023】
図1Dに示すように、基板1が膨張した場合に蒸着部4とマスク3の開口部6とを合わせ直す(マスク位置補正)方法として、基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の基板1とマスク3の距離よりも広くすることが本発明の特徴である。
【0024】
基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の基板1とマスク3の距離よりも広くすることによって、基板1が膨張した後の蒸着部4を蒸発源9とマスク3の開口部6の延長線上に置くことができるため、蒸発源9から放射された有機物等8を目的の蒸着部4(所望の位置)に蒸着することができる。このように、本願の方法は、基板1とマスク3との距離を広げることに特徴を有しているが、この距離を広げすぎると、マスク3の開口部6を通過した有機物等8が発散してしまい、所望の位置に蒸着させることができないことがある。したがって、本願の方法においては、基板1とマスク3との距離は、なるべく200μm以下に保持することが望ましい。
【0025】
(ii)基板がマスクに対して相対的に収縮する場合
図1Eは、基板が収縮した際の基板等の状態を示す図である。
【0026】
基板1に有機物等8を蒸着していくと、上述した場合とは逆に基板1が収縮する場合もある。このように基板1が何らかの要因によって収縮した場合に、本来有機物等8が蒸着すべき位置である蒸着部4とマスク3の開口部6の位置がずれてしまい、上述した基板が膨張する場合と同様の不都合が生じる場合がある。本願の方法は、このような場合においても効果を奏する。
【0027】
図1Fは、基板が収縮した場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【0028】
図1Fに示すように、基板1が収縮した場合に蒸着部4とマスク3の開口部6とを合わせ直す(マスク位置補正)方法として、基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の基板1とマスク3との距離よりも狭くすることが本発明の特徴である。
【0029】
基板1とマスク3の距離を蒸着開始時の距離よりも狭くすることによって、蒸着部4を蒸発源9とマスク3の開口部6の延長線上に置くことができるため、蒸発源9から放射された有機物等8を目的の蒸着部4(所望の位置)に蒸着することができる。このように、本願の方法は、基板1とマスク3との距離を狭くすることも特徴としているが、この距離を狭くしすぎると、基板1とマスク3とが接触するおそれがあり好ましくない。したがって、基板が相対的に収縮する場合は、あらかじめその収縮が最大でどのくらい生じるかをあらかじめ把握しておき、基板とマスクが接触しない距離に初期値を設定しておくことが望ましい。
【0030】
(II)基板とマスクとの距離の調整の仕方について
上述したように、本願の方法においては、蒸着時の基板変形に応じて適宜基板とマスクとの距離を調整することを特徴としているが、当該距離の具体的な調整の仕方については、限定することはなく、(i)マスクを移動させることにより当該距離を調整する仕方、(ii)基板を移動させることにより当該距離を調整する仕方、さらには(iii)基板とマスクとの両方を移動させることにより当該距離を調整する仕方、の何れをも採用することが可能である。
【0031】
図2A〜C、及び図3は、上記(i)マスクを上下に移動させることにより基板とマスクとの距離を調整する仕方について説明する概略断面図である。
【0032】
図2Aは、蒸着開始時のマスクの位置を示す図である。
【0033】
図示するように、絶縁膜2が形成された基板1は、予め固定されたベース12上に固定されている(つまり、基板1は移動しない。)。一方、マスク3は、その周りをフレーム11によって固定されている。そして、前記フレーム11の四隅には支持棒10が設置されており、当該支持棒10を上下に移動させることによって、マスク3を上下に移動することができ、その結果基板1とマスクとの距離を調整することができる。
【0034】
図2Bは、基板が膨張したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。つまり、基板とマスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも広くした場合の図である。
【0035】
一方、図2Cは、基板が収縮したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。つまり、基板とマスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも狭くした場合の図である。
【0036】
このように、基板膨張後は、基板1とマスク3との距離を蒸着開始時のそれよりも広くし、基板1が収縮した場合には、基板1とマスク3との距離を蒸着開始時のそれよりも狭くすることによって、本来有機物等8を蒸着すべき部分である蒸着部4に精度良く蒸着せしめることができる。なお、マスク3の上下移動に際しては、マスク3に対して無理な応力の負担がかからない様、それぞれの移動距離には注意が必要である。
【0037】
図3に示すように、本願の発明にあっては、マスク3を上下に移動させることに加えて、従来公知の方法の如く、基板1をX軸、Y軸、θ軸方向に移動させることも可能である。このように、マスクと基板との距離を調整することに加え、基板自体を様々な方向へ移動させることにより、蒸着の精度をより向上せしめることができる。なお、図3においては、基板を様々な方向へ移動させているが、これに限定されることはなく、基板自体は完全に固定した状態を保ち、マスクを上下移動のみならず、X軸、Y軸、θ軸方向に移動させるようにしてもよい(図示せず)。
【0038】
ここで、基板1が膨張し、基板1とマスク3との距離を広くした場合(図2B参照)には、図1D、図2Bにおいて点線にて示しているチャンバー内(基板1とマスク3と蒸着源9が設置された領域)の真空度、言い換えれば、基板1とマスク3、および蒸着源9との間の空間の真空度を基板1とマスク3との距離を調整(広く)する前段階よりも高く保つことが望ましい。
【0039】
蒸着部4とマスク3の開口部6の距離を広くすると、マスク3の開口部6を通過した有機物等8が発散してしまい、蒸着の精度が低下するおそれがあるからである。有機物等8が発散する原因の一つとして、基板1とマスク3、および蒸着源9との間(空間)に存在する分子に蒸着すべき有機物等8が衝突し、その進行方向が変化してしまうことが挙げられるが、本願の方法のように基板1とマスク3との距離を広くした後(蒸着時)のチャンバー内の真空度を、基板1とマスク3との距離を広くする前段階よりも高く保ち、基板1とマスク3、および蒸着源9との間に存在する分子の量を減らすことで、当該分子と有機物等8との衝突の確率を低下させることができ、その結果、有機物等8の直進性を向上することができるのである。
【0040】
具体的には、基板1とマスク3との距離を広くする前段階のチャンバー内の真空度は、特に限定することはなく、例えば、10−1Pa以下が望ましい。これに対して、基板1とマスク3との距離を広くした後(蒸着時)のチャンバー内の真空度は、10−2Pa以下とすることが必要であり、好ましくは10−3Pa以下とすることが望ましい。
【0041】
(III)基板に生じた膨張又は収縮を検出する方法について
本願の方法を実施するに際しては、基板1とマスク3との距離を調整するために、何らかの方法により基板に生じた膨張又は収縮を検出する必要がある。本願の方法にあっては、これを検出する方法については特に限定することはない。例えば、(i)基板及びマスクの双方に何らかの印(マーカ)を設けておき、当該マーカのズレを測定することにより、リアルタイムで基板に生じた膨張や収縮を検出する方法、(ii)基板に使用されている材質の熱膨張係数等を予め調べておき、蒸着時の温度等を測定することにより、基板に生じる膨張や収縮を予想する方法、等を挙げることができる。
【0042】
図4A〜Dは、上記(i)つまり、基板及びマスクの少なくとも一方に何らかの印(マーカ)を設けておき、当該マーカのズレを測定することにより、リアルタイムで基板に生じた膨張や収縮を検出する方法を説明するための図である。
【0043】
図4Aは、蒸着開始時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0044】
図示するように、基板1にはマーカ15を合計8箇所設けておき、その一方で、マスク3の基板1に設けられた各マーカ15に対応した位置にはマーカ確認用開口部16が設けられている。基板1が膨張又は収縮していない時、つまり蒸着開始時においては、マスクに設けられたマーカ確認用開口部16から基板1上のマーカが視認できるようになっている。つまり、基板1に設けられたマーカ15をマスク3越しに視認できる場合には、基板1に膨張又は収縮が生じていないことが分かる。
【0045】
図4Bは、基板が膨張した際の時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0046】
図示するように、基板1が熱等の要因により膨張すると、基板1に設けられたマーカ15の位置と、マスク3に設けられたマーカ確認用開口部16の位置がずれてしまい、その結果、8箇所設けたマーカの全部若しくはその中の何れかがマスクに設けられたマーカ確認用開口部16から視認できなくなる。つまり、基板1に設けられたマーカ15をマスク3越しに視認できない場合には、基板1に膨張が生じていることが分かる。
【0047】
本願の方法によれば、基板1に膨張が生じていることが分かった際には、図2Bに示すように、マスク3を基板から離れる方向(図2Bにおいては下方)に移動させることによって、基板1の蒸着部4とマスク3の開口部6を合わせることができる。
【0048】
一方、図4Cは、基板が収縮した際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0049】
図示するように、基板1が収縮した場合にも、上述したように基板1に設けられたマーカ3の位置と、マスク3に設けられたマーカ確認用開口部16の位置がずれてしまい、その結果、8箇所設けたマーカの全部若しくはその中の何れかがマスクに設けられたマーカ確認用開口部16から視認できなくなる。つまり、基板1に設けられたマーカ15をマスク3越しに視認できない場合には、基板1に収縮が生じていることが分かる。
【0050】
本願の方法によれば、基板1に収縮が生じていることが分かった際には、図2Cに示すように、マスク3を基板に近づける方向(図2Cにおいては上方)に移動させることによって、基板1の蒸着部4とマスク3の開口部6を合わせることができる。
【0051】
図4Dは、基板の一部に膨張が生じた際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【0052】
基板の材質や固定方法、さらには基板の温度分布等によっては、図4B〜Cに記載したように基板全体が一律に膨張又は収縮するのではなく、図4Dに示すように、基板の所定の部分のみが所定の方向にのみ膨張又は収縮する場合もあり(図4Dは、右上方向にのみ膨張が生じた場合の図である。)、この場合には、基板に設けられた8箇所のマーカの一部のみがマーカ確認用開口部16から視認できなくなる。
【0053】
本願の方法によれば、基板の一部のみに膨張が生じていることが分かった際には、当該部分近傍の基板とマスクとの距離のみを広げるようにすることで基板1の蒸着部4とマスク3の開口部6を合わせることができる。具体的には、例えば図3に示す支持棒10A〜10Dの中、支持棒10Cのみを移動させることで実現できる。この場合、基板とマスクとには傾きが生じることとなる(図示せず)。
【0054】
以上説明したように基板がマスクに対して相対的に膨張又は収縮した場合においても蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことができる。したがって本願の発明は特に、基板に膨張又は収縮が生じ易い線膨張係数の高い基板に対して有用である。
【0055】
また、本願の方法によれば、基板の膨張や収縮自体を防止する必要がないため、特殊な温度管理を行う必要がない。
【0056】
更に、基板の一部分に膨張又は収縮が起こった場合であっても、その部分の基板とマスクの距離を調整することによって、蒸着すべき部分に精度良く蒸着を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1A】蒸着開始前の基板等の状態を示す図である。
【図1B】蒸着開始時の基板等の状態を示す図である。
【図1C】基板膨張時の基板等の状態を示す図である。
【図1D】基板が膨張場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【図1E】基板が収縮した際の基板等の状態を示す図である。
【図1F】基板が収縮した場合に基板とマスクとの位置関係を補正した際の基板等の状態を示す図である。
【図2A】蒸着開始時のマスクの位置を示す図である。
【図2B】基板が膨張したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。
【図2C】基板が収縮したことに応じて基板とマスクとの距離を調整した際のマスクの位置を示す図である。
【図3】マスクを上下に移動させることにより基板とマスクとの距離を調整する仕方について説明する概略断面図である。
【図4A】蒸着開始時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【図4B】基板が膨張した際の時のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【図4C】基板が収縮した際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【図4D】基板の一部に膨張が生じた際のマーカとマーカ確認用開口部の位置を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・基板
2・・・絶縁膜
3・・・マスク
4・・・蒸着部
5・・・非蒸着部
6・・・開口部
7・・・遮蔽部
8・・・有機物又は無機物(有機物等)
9・・・蒸発源
10、10A、10B、10C、10D・・・支持棒
11・・・フレーム
12・・・ベース
15・・・マーカ
16・・・マーカ確認用開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法において、
前記マスクの開口部を介して前記基板に前記有機物又は前記無機物の蒸着を行う際に、前記基板の前記マスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、前記マスクと前記基板との間との距離を調整する蒸着方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着方法において、
前記基板が前記マスクに対して相対的に膨張した場合には、前記基板と前記マスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも広くし、前記基板が前記マスクに対して相対的に収縮した場合には、前記基板と前記マスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも狭くして蒸着を行うことを特徴とする蒸着方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蒸着方法において、
前記基板と前記マスクとの距離を広く、又は狭くするために、前記基板に対して前記マスクを上下に可動させることを特徴とする蒸着方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の蒸着方法において、
前記基板と前記マスクとの距離を広くした場合には、基板とマスクと蒸着源が設置されたチャンバー内の真空度を基板とマスクとの距離を調整する前段階よりも高く保つことを特徴とする蒸着方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸着方法において、
基板とマスクとの距離を調整した後の前記チャンバー内の真空度が、10−2Pa以下であることを特徴とする蒸着方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の蒸着方法において、
前記基板に生じた膨張又は収縮の検出は、
前記基板に設けられたマーカの位置と、前記マーカが見えるように前記マスクに設けられたマスク開口部の位置が、前記マスク開口部から見て一致している場合には、前記基板に膨張又は収縮が生じておらず、
前記マーカの位置と前記マスク開口部の位置が、前記マスク開口部から見て少なくとも一部分が不一致である場合には、前記基板の膨張又は収縮が生じていると検出することを特徴とする蒸着方法。
【請求項1】
開口部を有するマスクを用いて、基板に有機物又は無機物の蒸着を行う蒸着方法において、
前記マスクの開口部を介して前記基板に前記有機物又は前記無機物の蒸着を行う際に、前記基板の前記マスクに対する相対的な膨張・収縮に応じて、前記マスクと前記基板との間との距離を調整する蒸着方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸着方法において、
前記基板が前記マスクに対して相対的に膨張した場合には、前記基板と前記マスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも広くし、前記基板が前記マスクに対して相対的に収縮した場合には、前記基板と前記マスクとの距離を蒸着開始時の基板とマスクとの距離よりも狭くして蒸着を行うことを特徴とする蒸着方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蒸着方法において、
前記基板と前記マスクとの距離を広く、又は狭くするために、前記基板に対して前記マスクを上下に可動させることを特徴とする蒸着方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の蒸着方法において、
前記基板と前記マスクとの距離を広くした場合には、基板とマスクと蒸着源が設置されたチャンバー内の真空度を基板とマスクとの距離を調整する前段階よりも高く保つことを特徴とする蒸着方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蒸着方法において、
基板とマスクとの距離を調整した後の前記チャンバー内の真空度が、10−2Pa以下であることを特徴とする蒸着方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の蒸着方法において、
前記基板に生じた膨張又は収縮の検出は、
前記基板に設けられたマーカの位置と、前記マーカが見えるように前記マスクに設けられたマスク開口部の位置が、前記マスク開口部から見て一致している場合には、前記基板に膨張又は収縮が生じておらず、
前記マーカの位置と前記マスク開口部の位置が、前記マスク開口部から見て少なくとも一部分が不一致である場合には、前記基板の膨張又は収縮が生じていると検出することを特徴とする蒸着方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【公開番号】特開2007−270315(P2007−270315A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100508(P2006−100508)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】
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