説明

蒸着装置

【課題】 蒸発材料の放出濃度が高い蒸発材料の放出口付近であっても蒸発材料の放出量を長期間測定することができる蒸着装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 蒸発材料取出用孔部4c(5c)の縁部に設けられた熱電対21a(21b)と、放出用容器4(5)の加熱設定温度と熱電対21a(21b)により検出された測定温度との温度偏差を算出する監視制御装置11とを具備し、温度偏差に基づき、放出レートすなわち蒸発材料の放出量割合を求めるようにしたので、従来の水晶振動子式のように蒸発材料が堆積する膜厚計を蒸発材料の放出濃度が非常に高い場所に設置して放出量割合を検出する場合とは異なり、蒸発材料が堆積する問題がなく連続して長期間使用することができ、したがって蒸着装置の稼働率が低下することを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被蒸着部材に蒸発させた材料を蒸着させる装置に関し、例えば有機ELディスプレイなどの画像表示部を製造するための蒸着装置などにも適用可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの薄型化が進み、この種のディスプレイとしては、液晶ディスプレイの実用化が非常に進んでいる。この液晶画面については、バックライトを必要とするもので、視野範囲、消費電力などの点で難点があり、最近、自発光性の有機EL方式のディスプレイが注目されている。
【0003】
ところで、有機ELディスプレイの基本構造は、ガラス基板上に、陽極(透明電極)を配置し、この上に、ホール輸送層および発光層が順番に配置され、さらに陰極が配置されたものであり、少なくとも、前記発光層については、有機材料が蒸着により形成されている。
【0004】
そして、基板上に、蒸着により薄膜を形成する場合、真空容器内に有機材料の蒸発源を配置しておき、真空状態で蒸発源を加熱し、その蒸気(以下、蒸発材料という)を同じく真空容器内に配置された基板の表面に付着させることにより薄膜が形成されていた。
【0005】
ところで、上述した蒸着装置には、通常、上記基板に蒸着される蒸着膜の膜厚を検出し監視を行うための膜厚計が基板のそばに備えられており、この膜厚計には、例えば水晶振動子が用いられたものがある。そして、この水晶振動子式の膜厚計により基板に成膜される膜厚の測定を行い、蒸着材料の蒸発量を制御することにより、蒸着膜の品質の向上がはかられていた(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
なお、従来、複数の蒸着材料を基板に蒸着させる際は、蒸発した蒸着材料である蒸発材料の混合比により蒸着膜の品質が変わるため、各蒸発材料を個別に放出してその放出レートを計測し、各蒸発材料の放出量を制御する必要がある。
【特許文献1】特開平7−331421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、各蒸発材料の放出量の検出を行う際、上記特許文献1に示すように水晶振動子式の膜厚計が真空容器の上部に設けられていると、混合後の蒸発材料の放出量しか検出することができないという問題がある。
【0008】
また、各蒸発材料の放出量を検出するために各蒸発材料の放出口付近に前記膜厚計を設けた場合、水晶振動子の表面に蒸発材料が付着し、測定精度が徐々に低下することとなるため、定期的に膜厚計を交換しなければならず、長期間使用することができないという問題がある。なお、前記放出口付近は基板付近よりもはるかに蒸発材料の放出濃度が高いため、前記膜厚計を基板付近に設けた場合に比べて、前記膜厚計の交換頻度はさらに高くなる。
【0009】
また、水晶振動子を交換する際、蒸着装置を停止させなければならないため、装置の稼働率が低下するという問題がある。
そこで本発明は、蒸発材料の放出濃度が高い蒸発材料の放出口付近であっても蒸発材料の放出量を長期間測定することができる蒸着装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、蒸発された蒸着材料である蒸発材料を被蒸着部材に付着させて蒸着を行う蒸着装置であって、前記蒸着材料を加熱する蒸発用加熱手段を有し前記蒸着材料を蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源からの前記蒸発材料が放出される蒸発材料取出用開口部とを有する蒸着手段を備え、且つ前記蒸発材料取出用開口部の縁部に設けられた温度検出手段と、前記蒸発材料の加熱設定温度と前記温度検出手段により検出された測定温度との温度偏差を算出する制御手段とを具備し、前記制御手段は前記温度偏差に基づいて前記蒸発源より蒸発される前記蒸発材料の放出量を制御することを特徴としたものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、蒸発された蒸着材料である蒸発材料を被蒸着部材に付着させて蒸着を行う蒸着装置であって、前記蒸着材料を加熱する蒸発用加熱手段を有し前記蒸着材料を蒸発させる蒸発源と、前記蒸発源で蒸発された蒸発材料を導く蒸発材料誘導路と、蒸発材料取出用開口部が形成され前記蒸発材料誘導路から導かれた前記蒸発材料を放出させる拡散用部材とを有する蒸着手段を備え、且つ前記蒸発材料取出用開口部の縁部に設けられた温度検出手段と、前記拡散用部材の加熱設定温度と前記温度検出手段により検出された測定温度との温度偏差を算出する制御手段とを具備し、前記制御手段は前記温度偏差に基づいて前記蒸発源より蒸発される前記蒸発材料の放出量を制御することを特徴としたものである。
【0012】
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明であって、前記蒸発材料誘導路に前記蒸発材料の放出量の調整を行う放出量調節手段が設けられ、前記制御手段は、前記温度偏差に基づいて前記放出量調節手段を制御することを特徴としたものである。
【0013】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明であって、前記制御手段は、前記温度偏差に基づいて前記蒸発用加熱手段を制御することを特徴としたものである。
【0014】
しかも、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明であって、前記蒸着手段を複数備えたことを特徴としたものである。
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明であって、前記蒸着手段と前記被蒸着部材の間で且つ被蒸着部材へ向かう蒸発材料の放出経路に、高密度な微細孔を有する均等放出手段を配置したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蒸着装置は、蒸発材料取出用開口部の縁部に設けられた温度検出手段により検出された測定温度と拡散用部材の加熱設定温度との温度偏差に基づき、蒸発材料の放出量割合を求めるようにしたので、従来の水晶振動子式のように蒸発材料が堆積する膜厚計を蒸発材料の放出濃度が非常に高い場所に設置して放出量割合を検出する場合とは異なり、蒸発材料が堆積する問題がなく連続して長期間使用することができ、したがって蒸着装置の稼働率が低下することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態に係る蒸着装置について、図面を参照しながら説明する。
本実施の形態においては、有機ELディスプレイの表示部を製造する場合、すなわち有機材料をガラス基板の表面に蒸着させる場合で、且つ異なる2種類の蒸着材料(有機材料である)を蒸着させる場合について説明する。なお、異なる蒸着材料のうち、主成分である材料を第1蒸着材料(以下、ホストという)と称するとともに、微量材料を第2蒸着材料(以下、ドーパントという)と称し、さらに各蒸着材料を加熱して蒸発させたものを第1および第2蒸発材料と称して説明を行う。
【0017】
この蒸着装置は、図1に示すように、ガラス基板(被蒸着部材の一例)1が、その蒸着面が下方となるように水平方向で挿入されるとともに保持具2により保持される蒸着用容器(蒸着室ともいう)3と、この蒸着用容器3内の下部で且つ互いに上下に配置されて第1および第2蒸着材料A,Bが蒸発されてなる蒸発材料を放出させる第1および第2放出用容器(拡散用部材の一例)4,5と、第1放出用容器4の上方に配置されて第1および第2放出用容器4,5から放出される蒸発材料を導入して混合させる混合用部材である第3放出用容器6と、上記蒸着用容器3の外部に配置されて互いに種類が異なる第1および第2蒸着材料を加熱して蒸発させる2個の第1および第2蒸発用容器(蒸発源の一例、蒸発室ともいう)7,8と、これら各蒸発用容器7,8で蒸発された蒸発材料を蒸着用容器3内に配置された各放出用容器4,5に導く第1および第2蒸発材料誘導管(蒸発材料誘導路の一例)9,10と、各放出用容器4,5の第1および第2蒸発材料の放出量を検出するとともに、ガラス基板1の表面に形成される蒸着膜の厚さ(以下、膜厚という)などの蒸着状態を監視する監視制御装置(制御手段の一例)11とから構成されている。なお、第1および第2放出用容器4,5と第1および第2蒸発用容器7,8と、第1および第2蒸発材料誘導管9,10と、第1および第2蒸発材料誘導管9,10の途中に設けられ流路の開度を調整する流量制御弁14,15などにより蒸着手段が形成されている。
【0018】
次に、上記各放出用容器4,5,6について説明する。
これら各放出用容器4,5,6は所定厚さで且つ平面視が矩形状(勿論、円形、多角形などであってもよい)にされるとともに内部にそれぞれ拡散空間(バッファ空間ともいい、蒸発材料の濃度の均一化を図り得る)4a,5a,6aを有する箱形状の容器にされている。
【0019】
そして、ガラス基板1へ第1蒸発材料および第2蒸発材料を放出する第3放出用容器6が上方に配置され、第3放出用容器6へ第1蒸発材料を放出する第1放出用容器4が第3放出用容器6の下方に配置され、第3放出用容器6へ第2蒸発材料を放出する第2放出用容器5が第1放出用容器4の下方に配置されている。
【0020】
また、図1および図2に示すように、第1放出用容器4の上面には、第1蒸発材料の放出ノズル4bが所定間隔おきに例えば縦横に複数列でもって複数個形成されるとともに、第2放出用容器5の上面には、第2蒸発材料の放出ノズル5bが所定間隔おきに例えば縦横に複数列でもって複数個形成されている。なお、第1蒸発材料の放出ノズル4bと第2蒸発材料の放出ノズル5bはそれぞれ交互に配置されており、これら放出ノズル4b,5bは第3放出用容器6の下面に接続されている。
【0021】
図1に示すように、第1および第2蒸発材料が放出される際の各放出用容器4,5の温度を検出(測定)するために、上記各放出用容器4,5の端縁側には蒸発材料取出用孔部(蒸発材料取出用開口部の一例)4c,5cがそれぞれ形成されており、その検出に際し、当該蒸発材料取出用孔部4c,5cから放出される測定用の第1および第2蒸発材料が第3放出用容器6から放出される第1および第2蒸発材料と混ざることを阻止するための隔離板12,13がそれぞれ設けられている。
【0022】
また、図3に示すように、上記第3放出用容器6の上部には、金属部材により形成され高密度な微細孔を有する放出板であるメッシュ板(均等放出手段の一例)19a,19bが複数枚(実施の形態では2枚)設けられており、また第3放出用容器6の外側面には、上下に配置され、第3放出用容器6自体を加熱し所定温度に維持するための温度維持手段であるパイプ20が設けられている。なお、このパイプ20は高周波誘導加熱用電極であり、パイプ20の内部に冷却水供給部(図示せず)から供給された冷却水を循環させることにより第3放出用容器6の冷却が行われる。そして、このパイプ20から流出した冷却水の温度を測定することにより、高周波電源(図示せず)のパワーが調整される。
【0023】
上記第1蒸発材料誘導管9は第1蒸発用容器7内で蒸発された第1蒸発材料を第1放出用容器4に導くためのもので、また第2蒸発材料誘導管10は第2蒸発用容器8内で蒸発された第2蒸発材料を第2放出用容器5に導くためのものであり、さらにそれぞれの途中には、蒸発材料の移送量すなわち放出量の調節および開閉を行い得る流量制御弁(放出量調節手段の一例で、例えば開度の調節機能を有する開閉弁でもよい)14,15が設けられている。
【0024】
また、各放出用容器4,5および各蒸発材料誘導管9,10の表面の略全体に亘って、保温のための放出用加熱手段であるシースヒータ16(保温手段ともいえる)が配置されており、各蒸発材料をそれぞれ最適な温度に保持(維持)するように考慮されている(なお、図2には、放出用容器5に設けた場合についてだけ図示している)。
【0025】
なお、上記各蒸発用容器7,8には、各蒸発用容器7,8を加熱して蒸着材料を蒸発させるための電熱ヒータ(蒸発用加熱手段の一例)17,18が設けられている。
次に、上記監視制御装置11について説明する。
【0026】
この監視制御装置11は、図1に示すように、各放出用容器4(5)が各蒸発材料を放出する際の蒸発材料取出用孔部4c,5cの縁部における温度を検出し得る熱電対(温度検出手段の一例で、温度測定手段ともいう)21a,21bと、ガラス基板1の直ぐ傍の位置に配置されて蒸発材料が付着した膜厚を検出するための膜厚計である膜厚検出用センサ22と、上記熱電対21a(21b)により検出された測定温度と放出用容器4(5)の加熱設定温度とより放出用容器4(5)からの各蒸発材料の放出量割合を示す放出レートX(Y)(単位時間あたりに放出される蒸発材料量)を求めてこの放出レートX(Y)が予め設定された放出レートX´(Y´)(後述する)に維持されるように制御するための放出レート維持手段23と、上記膜厚検出用センサ22からの検出信号を入力してガラス基板1に蒸着された膜厚を求める膜厚検出手段24と、放出レート維持手段23から入力された制御信号(後述する)に基づいて蒸発材料誘導管9(10)に設けられた流量制御弁14(15)の開度調節を行う開度調節手段25と、同じく放出レート維持手段23から入力された制御信号に基づいて電熱ヒータ17(18)の加熱調節を行う加熱調節手段26と、放出レートX(Y)と放出レートX´(Y´)との偏差値および膜厚を表示する表示手段であるモニター(プリンターなどでもよい)27とから構成されている。なお、上記膜厚検出用センサ22としては、水晶振動子からなるものや蒸着膜の厚さを光学的に読み取る光学膜厚計などが用いられる。
【0027】
上記放出レート維持手段23は、熱電対21a(21b)が検出した測定温度を入力して膜形成時における放出レートX(Y)を求める放出レート演算部23aと、各放出用容器4,5での所望の放出レートX´(Y´)を設定する放出レート設定部23bと、放出レート検出部23aで検出された放出レートX(Y)を入力するとともに放出レート設定部23bに設定された放出レートX´(Y´)を入力して放出レートX(Y)と放出レートX´(Y´)との偏差(値)を算出し、この偏差に基づいて生成された制御信号を開度調節手段25と加熱調節手段26へ出力するとともに、上記偏差値をモニター27へ出力する放出レート制御部23cとから構成されている。
【0028】
上記放出レート演算部23aは、放出用容器4(5)の加熱設定温度から熱電対21a(21b)により検出された測定温度を減算することにより求められる温度偏差ΔT(℃)と放出レート(Å/s)との関係を示す基準データ(図4)を有している。そして、膜形成時において上記温度偏差ΔTが算出されることにより、上記基準データから放出用容器4(5)の膜形成中の放出レートX(Y)が求められる。
【0029】
上記基準データは、図5に示す実験装置31により事前に求められており、実験装置31は、蒸着材料を加熱して蒸発させる蒸発用容器32と接続部材33を介して接続され、複数のノズル部34aが形成されている放出用容器34と、いずれか1つのノズル部34aの縁部に設けられ、ノズル部34aの縁部における温度すなわち放出用容器34自体の局部的な温度を検出する熱電対35と、ノズル部34aの上部に配置され、当該ノズル部34aからの放出量を膜厚として測定する膜厚計36を備えている。なお、上記実験装置31は、蒸着用容器内に配置され、蒸着用容器内の空気を排出可能(真空可能)にされている。また、ノズル部34aは蒸発材料との熱交換が行われやすいため、温度を計測する際はノズル部34aの温度を計測する。
【0030】
上記実験装置31による実験に際しては、上記放出用容器34の設定温度を340℃に維持し、熱電対35により蒸発用容器32のノズル部34aの温度を検出するとともに膜厚計36によりノズル部34aから放出される蒸発材料の単位時間あたりの放出量を求め、そして上記設定温度と熱電対35により検出された測定温度との温度偏差ΔTと、上記単位時間あたりの放出量割合である放出レートとの関係を求めることにより、上記基準データが得られる。
【0031】
上記構成において、2種類の蒸着材料すなわちホストおよびドーパントを、ガラス基板1に蒸着させる場合について説明する。
すなわち、第1蒸発用容器7および第2蒸発用容器8を、それぞれ加熱設定温度に加熱して、第1蒸着材料であるホストおよび第2蒸着材料であるドーパントを蒸発させ、それぞれ蒸発材料誘導管9,10を介して第1放出用容器4および第2放出用容器5内の拡散空間4a,5aに導き、そして、第1放出用容器4の各放出ノズル4bおよび第2放出用容器5の各放出ノズル5bを介して第3放出用容器6へ導く。このとき、蒸発材料誘導管9,10および放出用容器4,5はシースヒータ16により、また放出用容器6は誘導加熱によりそれぞれ最適な温度に維持されている。なお、蒸発材料をガラス基板1に蒸着させる蒸着用容器3内および各容器4〜8および各誘導管9,10は所定の真空度にされている。
【0032】
そして、第3放出用容器6の拡散空間6aに導かれたホストおよびドーパントは、両メッシュ板19a,19bの網目から放出され、したがってこれら両蒸発材料は均一な混合状態且つ均一分布でガラス基板1の表面に付着して有機材料の膜が形成される。
【0033】
この膜形成時において、放出レート演算部23aは、熱電対21a(21b)により検出された測定温度を入力して、放出用容器4(5)の加熱設定温度から測定温度を減算することにより温度偏差ΔTを算出し、この温度偏差ΔTと実験装置31により予め求められた基準データから放出用容器4(5)の膜形成中の放出レートX(Y)を求める。そして、この放出レートX(Y)と放出レート設定部23bから入力した放出レートX´(Y´)との偏差を算出し、この偏差を解消するように制御をおこなうための制御信号を開度調節手段25へ出力して、蒸発用容器7(8)から放出される各蒸発材料の放出量を制御する。なお、開度調節手段25のみで蒸発材料の放出量の制御が困難である場合は、上記制御信号を加熱調節手段26にも出力して、開度調節手段25とともに放出量の制御を行う。
【0034】
制御信号を入力した開度調節手段25は各流量制御弁14(15)へ開信号または閉信号を出力し、この開信号または閉信号を入力した流量制御弁14(15)により蒸発材料の放出量が調節され、蒸発用容器7(8)から放出される各蒸発材料の放出量が制御される。
【0035】
また、加熱調節手段26にも同様に制御信号が入力された場合、加熱調節手段26は電熱ヒータ17(18)へ加熱信号または減熱信号を出力し、この加熱信号または減熱信号を入力した電熱ヒータ17(18)により蒸発用容器7,8の加熱調節が行われ、蒸発用容器7(8)から放出される各蒸発材料の放出量が制御される。
【0036】
また、膜厚検出用センサ24からの検出信号が膜厚検出手段24に入力されてガラス基板1の表面に形成された膜厚が求められており、ガラス基板1が所定の膜厚に達した場合、膜厚検出手段24は少なくとも開度調節手段25へ強制停止信号を出力し、この強制停止信号を入力した開度調節手段25は両流量制御弁14,15へ閉鎖信号を出力してホストおよびドーパントの放出を停止させる。
【0037】
勿論、上記膜形成時においては、上記偏差値並びにガラス基板1の表面に形成される膜厚が、モニター27に表示されている。
このように、蒸発材料取出用孔部4c(5c)の縁部に設けられている熱電対21a(21b)により検出された測定温度と放出用容器4(5)の加熱設定温度との温度偏差ΔTが算出され、この温度偏差ΔTと上記基準データから放出用容器4(5)の膜形成中の放出レートX(Y)が求められ、この放出レートX(Y)と放出レート設定部23bに予め設定されている放出レートX´(Y´)との偏差が算出され、この偏差を解消するように制御が行われる制御信号が生成される。そして、この制御信号に基づいて流量制御弁14(15)の開度調節を行い、開度調節手段25のみで蒸発材料の放出量の制御が困難である場合は電熱ヒータ17(18)の加熱調節も行うことにより、蒸発用容器7(8)から放出される各蒸発材料の放出量が制御される。
【0038】
なお、2種類の蒸着材料、すなわちホストとドーパントとの混合比が、例えばホスト:ドーパント=100:1などの場合、上記流量制御弁14,15のみでの制御が困難となるため、事前に、上記第1および第2蒸発材料誘導管9,10の径の大きさを変えることにより、例えば割合の低いドーパントが通過する蒸発材料誘導管の径を小さくすることにより、放出量の制御を容易に行うことができる。
【0039】
以上のように実施の形態によれば、蒸発材料取出用孔部4c(5c)の縁部に設けられた熱電対21a(21b)により検出された測定温度と放出用容器4(5)の加熱設定温度との温度偏差ΔTに基づき、放出レートすなわち蒸発材料の放出量割合を求めるようにしたので、従来の水晶振動子式のように蒸発材料が堆積する膜厚計を蒸発材料の放出濃度が非常に高い場所に設置して放出量割合を検出する場合とは異なり、蒸発材料が堆積する問題がなく連続して長期間使用することができ、したがって蒸着装置の稼働率が低下することを防止することができる。
【0040】
なお、上記実施の形態では、各蒸発材料取出用孔部4c,5cの近傍に、隔離板12,13を配置したが、隔離板12,13の替わりに、各蒸発材料取出用孔部からの蒸発材料だけを導出する管状のガイド部材を配置し、このガイド部材の縁部に熱電対を設けてもよい。なお、これら各蒸発材料取出用孔部から放出される蒸発材料が第3放出用容器から放出される蒸発材料に量的に影響を与えない場合には、隔離板またはガイド部材を設ける必要はない。
【0041】
また、上記実施の形態では、第1および第2蒸発用容器7,8を蒸着用容器3の外方に配置したが、これら蒸発用容器7,8を、蒸発材料誘導管9,10を含めて蒸着用容器3内に配置してもよい。
【0042】
さらに、上記実施の形態では、放出用容器4,5の間に、熱輻射を遮蔽する部材を設けていなかったが、熱輻射を遮蔽するための遮蔽版であるアイソレータ用プレート(波板等を重ねたものであってもよい)を設けてもよい。
【0043】
加えて、上記実施の形態では、監視制御装置11には、蒸発用容器7(8)から放出される第1および第2蒸発材料の放出量を制御するために、流量制御弁14,15を制御するための開度調節手段25と、電熱ヒータ17,18を制御するための加熱調節手段26が設けられていたが、開度調節手段25もしくは加熱調節手段26のいずれか一方を備えるだけでもよい。
【0044】
また、上記実施の形態では、均等放出手段として、第3放出用容器6の上部にメッシュ板19a,19bが2枚設けられていたが、微細孔を均一かつ高密度に配したパンチングメタル板等を1枚または複数枚設けてもよい。
【0045】
さらに、上記実施の形態では、第1放出用容器4および第2放出用容器5の端縁部に形成されている蒸発材料取出用孔部4c,5cの温度を検出していたが、例えば上記第1および第2放出用容器4,5のような容器を持つことがない場合には、蒸発材料との熱交換がよく行われる場所に形成されているノズル部の縁部の温度を測定すればよい。この範ちゅうには、例えば設定温度で加熱(保温)するマニホールド(多岐管ともいう)を平面内に配置し、マニホールドの各管に放出孔を複数設けて二次元的に放出孔を並べた状態において、計測したい放出孔の縁部の温度を計測し、放出量を制御することも含まれる。なお、これらの放出孔上に上記メッシュ板または上記パンチングメタル板等の均等放出手段を備え、これを通過した蒸発材料が基板へ向かうようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の形態に係る蒸着装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】同蒸着装置の第2放出用容器の斜視図である。
【図3】同蒸着装置の第3放出用容器の斜視図である。
【図4】同蒸着装置の放出レートと温度偏差の関係を示すグラフである。
【図5】同蒸着装置の実験装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ガラス基板
4 第1放出用容器
4c 蒸発材料取出用孔部
5 第2放出用容器
5c 蒸発材料取出用孔部
7 第1蒸発用容器
8 第2蒸発用容器
9 第1蒸発材料誘導管
10 第2蒸発材料誘導管
11 監視制御装置
14,15 流量制御弁
17,18 電熱ヒータ
21a 熱電対
21b 熱電対
ΔT 温度偏差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発された蒸着材料である蒸発材料を被蒸着部材に付着させて蒸着を行う蒸着装置であって、
前記蒸着材料を加熱する蒸発用加熱手段を有し前記蒸着材料を蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源からの前記蒸発材料が放出される蒸発材料取出用開口部と
を有する蒸着手段を備え、
且つ前記蒸発材料取出用開口部の縁部に設けられた温度検出手段と、前記蒸発材料の加熱設定温度と前記温度検出手段により検出された測定温度との温度偏差を算出する制御手段とを具備し、前記制御手段は前記温度偏差に基づいて前記蒸発源より蒸発される前記蒸発材料の放出量を制御すること
を特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
蒸発された蒸着材料である蒸発材料を被蒸着部材に付着させて蒸着を行う蒸着装置であって、
前記蒸着材料を加熱する蒸発用加熱手段を有し前記蒸着材料を蒸発させる蒸発源と、
前記蒸発源で蒸発された蒸発材料を導く蒸発材料誘導路と、
蒸発材料取出用開口部が形成され前記蒸発材料誘導路から導かれた前記蒸発材料を放出させる拡散用部材と
を有する蒸着手段を備え、
且つ前記蒸発材料取出用開口部の縁部に設けられた温度検出手段と、前記拡散用部材の加熱設定温度と前記温度検出手段により検出された測定温度との温度偏差を算出する制御手段とを具備し、前記制御手段は前記温度偏差に基づいて前記蒸発源より蒸発される前記蒸発材料の放出量を制御すること
を特徴とする蒸着装置。
【請求項3】
前記蒸発材料誘導路に前記蒸発材料の放出量の調整を行う放出量調節手段が設けられ、
前記制御手段は、前記温度偏差に基づいて前記放出量調節手段を制御すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記温度偏差に基づいて前記蒸発用加熱手段を制御すること
を特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記蒸着手段を複数備えたこと
を特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記蒸着手段と前記被蒸着部材の間で且つ被蒸着部材へ向かう蒸発材料の放出経路に、高密度な微細孔を有する均等放出手段を配置したこと
を特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−111926(P2006−111926A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300838(P2004−300838)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】