説明

蒸着装置

【課題】ライン型蒸発源の設置間隔を狭く設定すると、メンテナンス性が悪くなる。
【解決手段】蒸着装置の構成として、Y方向に並べて設けられた複数のライン型蒸発源3と、複数のライン型蒸発源3を、当該ライン型蒸発源の並び方向Y及び/又は長手方向Xに個別に移動可能に支持する移動支持手段(11〜16)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板への薄膜形成に用いられる蒸着装置に関し、特に、ライン型蒸発源を備える蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平面型の表示装置として、有機電界発光素子(有機EL素子:ELはエレクトロルミネッセンスの略)を用いたものが注目されている。有機電界発光素子を用いた表示装置(以下、「有機ELディスプレイ」とも記す)は、バックライトが不要な自発光型のディスプレイであるため、視野角が広い、消費電力が少ないなどの利点を有している。
【0003】
一般に、有機ELディスプレイに用いられる有機電界発光素子は、有機材料からなる有機層を上下から電極(陽極及び陰極)で挟み込んだ構造になっていて、陽極に正の電圧、陰極に負の電圧をそれぞれ印加することにより、有機層に対して、陽極から正孔を注入する一方、陰極から電子を注入することにより、有機層で正孔と電子が再結合して発光する仕組みになっている。
【0004】
有機電界発光素子の有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電荷注入層等を含む複数の積層構造になっている。各々の層を形成する有機材料は、耐水性が低くてウェットプロセスを利用できない。このため、有機層を形成する場合は、真空薄膜形成技術を利用した真空蒸着法により、有機電界発光素子の素子基板(通常はガラス基板)に各層を順に形成して所望の積層構造を得ている。また、カラー化への対応として、R(赤),G(緑),B(青)の各色成分に対応する3種類の有機材料を、それぞれ異なる画素位置に蒸着して有機層を形成している。
【0005】
有機層の形成には真空蒸着装置が用いられている。真空蒸着装置は、真空槽の床面積が大きくなると装置価格の高騰を招き、更に装置の設置面積が大きくなるために設置コストが増えるなど、コスト的なマイナス要素が大きくなる。また、真空槽の体積が大きくなると真空引きに要する時間が長くなるため、生産効率が低下する傾向にある。
【0006】
また近年では、真空蒸着で成膜対象とする基板(以下、「被処理基板」と記す)の大型化や有機層の多層化への対応として、長尺状のライン型蒸発源を採用するとともに、このライン型蒸発源を真空槽内に複数並べて設けた蒸着装置が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2003−157973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のようにライン型蒸発源を複数並べて設ける場合は、ライン型蒸発源同士の間隔を狭めて設置することにより、真空槽の床面積や設置面積を小さく抑えることができる。しかしながら、ライン型蒸発源の間隔を狭めたり真空槽の床面積を小さくしたりすると、真空槽内で蒸着装置のメンテナンスを行なうための作業スペースが減少するため、作業効率を悪化させる要因となる。蒸着装置のメンテナンス作業としては、例えば、蒸着源への蒸発材料の充填作業や、膜厚センサ(例えば、水晶振動子を利用したもの)の交換作業、さらには蒸発材料が不要な部分に付着することを防止する防着板や蒸着範囲を制限する制限板の洗浄作業などがある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ライン型蒸発源の設置間隔を広く設定しなくても、良好なメンテナンス性が得られる蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る蒸着装置は、所定の方向に並べて設けられた複数のライン型蒸発源と、前記複数のライン型蒸発源を、当該ライン型蒸発源の並び方向及び/又は長手方向に個別に移動可能に支持する移動支持手段とを備えるものである。
【0011】
本発明に係る蒸着装置においては、複数のライン型蒸発源をその並び方向及び長手方向のいずれかに移動させることにより、真空槽内でメンテナンスのためのスペースを広げることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、真空槽内でライン型蒸発源の設置間隔を広く設定しなくても、メンテナンス時に必要に応じて各々のライン型蒸発源を移動させることにより、メンテナンスのためのスペースを広く確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明が適用される蒸着装置の概略構成例を示す模式図である。図示した蒸着装置1は、例えば有機電界発光素子を用いた表示装置の製造において、例えばガラス基板などからなる被処理基板2上に有機層を成膜するために用いられるものである。
【0015】
蒸着装置1は、図示しない真空槽を備えるものである。蒸着装置1の真空槽内には、被処理基板2を搬送する搬送手段(不図示)とともに、複数のライン型蒸発源3が設けられている。搬送手段は、複数のライン型蒸発源3と対向する位置で被処理基板2を水平に支持つつY方向に移動(水平移動)させることにより、被処理基板2と複数のライン型蒸発源3とをY方向で相対的に移動させるものである。
【0016】
複数のライン型蒸発源3は、所定の間隔でY方向に並べて設けられている。Y方向におけるライン型蒸発源3の設置間隔は、真空中で被処理基板2に成膜を行なう場合に適用される間隔である。各々のライン型蒸発源3は長尺状に形成されている。各ライン型蒸発源3の長手方向(ライン方向)は、Y方向に直交するX方向と平行に配置されている。各々のライン型蒸発源3には、蒸発材料の噴き出し口4が設けられている。噴き出し口4は、被処理基板2と対向する位置に、ライン型蒸発源3の長手方向に沿ってスリット形状に形成されている。
【0017】
なお、ライン型蒸発源3の設置個数は、3つに限らず、2つ又は4つ以上であってもよい。また、ライン型蒸発源3の噴き出し口4はスリット形状のものに限らず、例えば、平面視円形の小さな噴き出し口をライン型蒸発源3の長手方向に沿って配列したものでもよい。
【0018】
上記構成からなる蒸着装置1においては、各々のライン型蒸発源3の噴き出し口4から、それぞれ有機材料などの蒸発材料5を噴出させた状態で、被処理基板2を図示しない搬送手段によってY方向に移動させることにより、被処理基板2上に有機膜などの蒸着膜が形成される。この場合、例えば、Y方向に並ぶ3つのライン型蒸発源3から、それぞれ種類の異なる有機材料を噴出させることにより、被処理基板2上に3層の有機膜を形成することができる。
【0019】
図2は本発明の実施形態に係る蒸着装置の主要部を示すもので、(A)はX方向から見た模式図、(B)はY方向から見た模式図である。図2(A),(B)においては、蒸着装置の真空槽の底壁10に一対の支持部材11が固定状態で設けられている。一対の支持部材11は、Y方向に細長い角柱状の部材であって、互いにX方向に所定の距離を隔てて配置されている。
【0020】
各々の支持部材11の上面には、それぞれレール部材12が固定状態で取り付けられている。各々のレール部材12は、Y方向と平行な向きで取り付けられている。また、各々のレール部材12には、複数のスライド部材13が搭載されている。スライド部材13は、レール部材12に沿ってY方向に移動自在に設けられている。スライド部材13は、1つのライン型蒸発源3につき4つずつ設けられ、そのうちの2つが一方のレール部材12に搭載され、他の2つが他方のレール部材12に搭載されている。
【0021】
1つのライン型蒸発源3に対応する4つのスライド部材13は共通のベース部材14の下面に取り付けられている。ベース部材14は、長尺状の平板構造をなすもので、一対の支持部材11の間を掛け渡すかたちでX方向に平行に配置されている。
【0022】
ベース部材14の上面には一対のレール部材15が固定状態で取り付けられている。各々のレール部材15は、X方向と平行な向きで取り付けられている。また、各々のレール部材15には、複数のスライド部材16が搭載されている。スライド部材16は、レール部材15に沿ってX方向に移動自在に設けられている。スライド部材16は、1つのライン型蒸発源3につき2つずつ設けられ、そのうちの1つが一方のレール部材15に搭載され、他の1つが他方のレール部材15に搭載されている。
【0023】
1つのライン型蒸発源3に対応する2つのスライド部材16の上面には共通のライン型蒸発源3が搭載されている。各々のスライド部材16には、ライン型蒸発源3の長手方向(X方向)で片側に寄った位置に取り付けられている。スライド部材16を片側に寄せて配置する理由は、ライン型蒸発源3をX方向に移動させるときの移動可能距離を長く確保するためである。
【0024】
本発明の実施形態に係る蒸着装置1においては、上述した支持部材11、レール部材12、スライド部材13、ベース部材14、レール部材15、スライド部材16を用いて「移動支持手段」が構成されている。このうち、レール部材12及びスライド部材13は、ライン型蒸発源3をY方向に移動させるためのスライド機構となり、レール部材15及びスライド部材16は、ライン型蒸発源3をX方向に移動させるためのスライド機構となる。
【0025】
上記構成からなる移動支持手段においては、各々のライン型蒸発源3ごとに、一対のレール部材12に沿って4つのスライド部材13を移動させるとともに、一対のレール部材15に沿って2つのスライド部材16を移動させることにより、3つのライン型蒸発源3をX方向及びY方向に個別に移動し得るものとなっている。ここで記述する「個別に」という用語は、「1つひとつ独立に」という意味で用いている。
【0026】
このため、例えば、X方向への移動に関しては、3つのライン型蒸発源3のうち、任意の1つのライン型蒸発源3を移動させることもできるし、任意の2つのライン型蒸発源3を移動させることもできるし、3つすべてのライン型蒸発源3を移動させることもできる。また、任意の2つのライン型蒸発源3を順に又は同時(一体)に移動させることもできるし、3つすべてのライン型蒸発源3を順に又は同時(一体)に移動させることもできる。こうした点は、Y方向への移動に関しても同様である。
【0027】
各々のライン型蒸発源3の移動方式は、モータ等を駆動源を用いた自動式でも、人力による手動式でもかまわない。特に、自動式を採用した場合は、簡単な操作(例えば、ボタン操作など)で所望の位置に各々のライン型蒸発源3を移動させることができる。このため、メンテナンス作業に素早く移行することができる。また、手動式を採用した場合は、モータ等の駆動源やモータドライバ等の制御回路などを組み込む必要がないため、蒸着装置1のコストを安く抑えることができる。
【0028】
また、例えば、有機電界発光素子を用いた表示装置の製造において、実際に被処理基板2に蒸発材料を蒸着する場合は、X方向及びY方向で各々のライン型蒸発源3を予め決められた所定の位置に精度良く位置決めする必要がある。
【0029】
このため、図示はしないが、X方向に関しては、例えば、ベース部材14に固定された第1の固定部材と、スライド部材16又はライン型蒸発源3に固定された第2の固定部材に、それぞれ位置決め孔を設けておき、それらの位置決め孔に共通の位置決めピンを挿入することにより、ライン型蒸発源3の位置決めがなされる構成となっている。
【0030】
また、Y方向に関しては、例えば、ベース部材14に固定された第3の固定部材と、支持部材11に固定された第4の固定部材に、それぞれ位置決め孔を設けておき、それらの位置決め孔に共通の位置決めピンを挿入することにより、ライン型蒸発源3の位置決めがなされる構成となっている。
【0031】
このような移動支持手段を備える蒸着装置1を採用した場合は、真空槽内を大気圧に戻して装置のメンテナンス作業を行なうにあたり、上記位置決めピンを適宜引き抜いて、各々のライン型蒸発源3を自由に移動させることができる。
【0032】
例えば、Y方向に関しては、図3に示すように、隣り合う2つのライン型蒸発源3を互いに離間する方向に移動させることにより、それら2つのライン型蒸発源3の間隔を移動前よりも大きく広げることができる。
【0033】
また、3つのライン型蒸発源3のうち、Y方向の一方側に配置された1つのライン型蒸発源3をレール部材12に沿ってY方向の一方端(一方の移動限界位置)まで寄せるように移動させるとともに、残り2つのライン型蒸発源3をレール部材12に沿ってY方向の他方端(他方の移動限界位置)まで寄せるように移動させることにより、隣り合う2つのライン型蒸発源3の間に、より大きな間隔を確保することができる。
【0034】
さらに、3つのライン型蒸発源3をY方向の一方端又は他方端まで寄せるように移動させることにより、移動前に比較して真空槽内にメンテナンスのための作業空間を広く確保することができる。
【0035】
一方、X方向に関しては、図4に示すように、いずれかのライン型蒸発源3をレール部材15に沿って移動させることにより、移動させたライン型蒸発源3の両側が開放された空間となる。このため、例えば、蒸着装置1のメンテナンスを行なう作業者の立ち位置を装置前面側とした場合に、蒸着装置1の前面側に引き出す方向でライン型蒸発源3をX方向に移動させることにより、ライン型蒸発源3の両側に広い作業空間を確保することができる。
【0036】
また、3つすべてのライン型蒸発源3を装置前面側に引き出すように移動させることにより、移動前に比較して真空槽内にメンテナンスのための作業空間を広く確保することができる。
【0037】
以上のことから、各々のライン型蒸発源3をX方向及びY方向のいずれの方向に移動させても、メンテナンスの作業性を向上させることができる。また、各々のライン型蒸発源3の設置間隔を予め広く設定しなくても、ライン型蒸発源3の移動によってメンテナンスのための空間を広く確保することができる。このため、真空槽の床面積が小さくて済み、また真空引きに要する時間も短くなる。したがって、従来よりも低コストで生産効率の高い蒸着装置を実現することができる。特に、ライン型蒸発源3をX方向に移動させてメンテナンスを行なう方式を採用した場合は、Y方向でメンテナンスのための移動を考慮せずにライン型蒸発源3の間隔を自由に設定することができるため、より好ましいものとなる。
【0038】
なお、上記実施形態においては、3つのライン型蒸発源3をX方向及びY方向に移動可能に支持するものとしたが、これに限らず、レール部材12及びスライド部材13の組み合わせからなる第1のスライド機構と、レール部材15及びスライド部材16の組み合わせからなる第2のスライド機構を選択的に用いることにより、3つのライン型蒸発源3をX方向又はY方向に移動可能に支持するものであってもよい。
【0039】
また、上記実施形態においては、各々のライン型蒸発源3を移動させるための移動支持手段を真空槽の底壁10に設置することにより、水平面内で各々のライン型蒸発源3を移動させるものとしているが、本発明はこれに限らず、例えば、図示しない搬送手段によって被処理基板2を垂直に支持しつつY方向に移動させる蒸着装置に適用する場合は、真空槽の側壁に移動支持手段を設置することにより、垂直面内で各々のライン型蒸発源3を移動させる構成としてもよい。
【0040】
一般に、蒸発源は、例えば図5に示すように、蒸発材料5が充填されるルツボ6をノズル本体7に収納し、その外側を冷却用のジャケット8で覆った構造のものが用いられている。ただし、こうした構造の蒸発源を採用すると、ノズル本体7に対してルツボ6を出し入れする場合に、蒸発源の構成部品を分解する必要があるため、作業効率が悪くなる。
【0041】
そこで本発明の実施形態においては、上述したライン型蒸発源3として、図6に示すような構造のものを用いることとした。図6(A)はライン型蒸発源3をX方向から見た模式図であり、図6(B)はライン型蒸発源3をY方向から見た模式図である。
【0042】
図示したライン型蒸発源3の構成においては、ルツボ21とノズル22が分離可能な構造になっている。ルツボ21には円筒部23が設けられ、これに対応してノズル22にも円筒部24が設けられている。また、円筒部23の上端部にはフランジ部25が形成され、これに対応して円筒部24の下端部にもフランジ部26が形成されている。各々のフランジ部25,26は、例えばボルト、ナット等の締結手段を用いて密に連結され、この連結状態で円筒部23,24内の空間が相互につながっている。このため、ルツボ21とノズル22は、フランジ部25,26を境にして切り離し可能となっている。
【0043】
また、ルツボ21とノズル22には、円筒部24を含めて、ヒータ27が巻き付けられている。ヒータ27は、ルツボ21に収容された蒸発材料を加熱するための加熱源となるものである。ヒータ27の加熱方式が、例えば熱伝導を利用した抵抗加熱方式であれば、ルツボ21にヒータ27を密着させて溶接等により固定することになる。ノズル22や円筒部24に巻き付けられたヒータ27は、ルツボ21から蒸発した材料が冷えて凝固しないように、ノズル22や円筒部24を加熱するものである。
【0044】
ヒータ27は配線28を介してヒータ電源29に接続されている。ヒータ電源29は、ヒータ27に電力を供給するものである。また、ルツボ21には熱電対30が取り付けられている。熱電対30は、ルツボ21の温度を検出する温度検出手段となるものである。熱電対30で検出されたルツボ21の温度情報は制御ボックス31に取り込まれる。制御ボックス31は、熱電対30から取得したルツボ21の温度情報に基づいて、ルツボ21の温度が所定の温度になるように、ヒータ電源29からヒータ27に供給される電力を制御するものである。
【0045】
一般に、真空槽内の蒸発源に対しては、温度応答性を向上させてルツボから蒸発する材料の量を精密に制御したり、ヒータ停止後のルツボの温度降下速度を速めたりするために、上記図5にも示したように、ルツボ付近に水等で冷却されたジャケット(以下、「冷却ジャケット」と記す)を設けることが多い。
【0046】
上記ライン型蒸発源3に冷却ジャケットを設置するにあたっては、例えば、第1の設置構造として、図7(A),(B)に示すように、ノズル22の長手方向(X方向に相当)の両端付近を一対の支柱33で支持するとともに、ルツボ21の周囲を冷却ジャケット34で囲んだ構造を採用することが可能である。
【0047】
また、第2の設置構造として、図8(A),(B)に示すように、ルツボ21とノズル22の両方を共通の冷却ジャケット34で囲んだ構造を採用することも可能である。第2の設置構造においては、ライン型蒸発源3の長手方向の側面にルツボ21の出し入れ口Hが設けられている。この出し入れ口Hは、ルツボ21よりも大きな開口寸法をもって形成されている。
【0048】
このようにルツボ21とノズル22を分離可能な構成にすると、例えばルツボ21に蒸発材料を充填する場合に、フランジ部25,26を境にノズル22からルツボ21を切り離すことができる。このため、蒸発材料の充填作業が容易になる。特に、第2の設置構造のようにライン型蒸発源3にルツボ21の出し入れ口Hを設けるようにすれば、蒸発材料の充填作業を行なうにあたって、ライン型蒸発源3からのルツボ21の取り出しやライン型蒸発源3へのルツボ21の取り込み、あるいはルツボ21の交換などが容易になる。また、いずれの設置構造を採用した場合も、各々の支柱33を金属で構成すると、ヒータ27によってノズル22に加えた熱が支柱33に逃げてしまう懸念があるため、ノズル22と支柱33の間に、熱伝導性の低い材料(例えば、セラミック、樹脂等)からなる断熱部材35を介在させることが望ましい。
【0049】
ただし、上記第1の設置構造及び第2の設置構造では、例えば、ルツボ21に巻き付けられたヒータ27部分をルツボ専用の独立したヒータとする一方、ノズル22に巻き付けられたヒータ27部分をノズル専用の独立したヒータとして、ルツボ21とノズル22をそれぞれ異なる温度に制御したい場合に、ルツボ21に巻き付けられたヒータ27部分からの熱輻射と、ノズル22に巻き付けられたヒータ27部分からの熱輻射が互いに干渉し合うため、ルツボ21とノズル22をそれぞれ任意の温度に精度良く制御することが困難になる。
【0050】
そこで、第3の設置構造として、例えば図9(A),(B)に示すように、ルツボ21とノズル22の間に隔壁36を設け、この隔壁36で熱輻射の干渉を防止する構造を採用することも可能である。隔壁36は、水等で冷却されるものであって、冷却ジャケット34の一部として形成されている。さらに詳述すると、冷却ジャケット34は、下部ジャケット34Aと上部ジャケット34Bを組み合わせた構造体になっている。下部ジャケット34Aはルツボ21を囲む状態に設けられ、上部ジャケット34Bはノズル22を囲む状態に設けられている。
【0051】
上部ジャケット34Bは下部ジャケット34Aの上に搭載されている。下部ジャケット34Aの天板部分は隔壁36として形成され、この隔壁36の上面に一対の台座37を用いてノズル22が水平に支持されている。台座37は、例えばセラミックや樹脂などのように熱伝導性の低い材料(いわゆる断熱材料)で構成されている。ノズル22と台座37の接触面積はできるだけ小さい方が望ましい。
【0052】
隔壁36にはノズル22の円筒部24を通す孔が設けられている。また、下部ジャケット34Aの側壁の一部には配線口が設けられ、この配線口を通して、ヒータ27につながる配線28と熱電対30につながる配線38が、それぞれ冷却ジャケット34の外側に引き出されている。各々の配線28,38の端部は冷却ジャケット34の外側で共通の端子台39に接続されている。
【0053】
各々の配線28,38の端部は、いずれも端子台39から切り離せるようになっている。具体的には、例えば、各配線28,38の端部と、これに対応する端子台39の端子部分に、それぞれ雌雄の関係にあるコネクタを設け、このコネクタの抜き差しによって、各々の配線28,38を端子台39から容易に切り離せる構造になっている。
【0054】
上記第3の設置構造を採用した場合は、ルツボ21とノズル22の間に隔壁36を設けたことにより、両者間の輻射熱による熱干渉が軽減される。このため、ルツボ21とノズル22を個別に精度良く温度制御することが可能になる。
【0055】
また、ヒータ27につながる配線28と熱電対30につながる配線38を端子台39から切り離すことができるため、図10に示すように、ルツボ21、ヒータ27、配線28、熱電対30、配線38をひとまとめにしたルツボユニットを、ノズル22から完全に分離することができる。これにより、配線28,38が接続されたまま移動できる範囲内で蒸発材料の充填作業を行なう必要がなくなる。また、蒸発材料の充填作業の繰り返しで配線28,38を痛めたりする懸念もなくなる。また、ライン型蒸発源3の付近で実際にルツボ21に蒸発材料を充填しなくても、予めルツボ21に蒸発材料を充填してある別のルツボユニットとの交換によって蒸発材料の充填作業を済ませることができる。このため、メンテナンス性が向上して生産性の改善が図られる。
【0056】
さらに、ヒータ27の加熱方式として、例えば、高周波誘導加熱方式や輻射加熱方式などを採用した場合は、ルツボ21に直接ヒータ27を巻き付ける必要がなくなる。このため、ヒータ27や配線28なしでルツボユニットを構成することができる。したがって、ルツボユニットの低価格化を実現することができる。
【0057】
また、上述した高周波誘導加熱方式や輻射加熱方式などを採用した場合は、図11(A),(B)に示すように、ルツボ21とこれを加熱するヒータ27を構造的に分離した状態でライン型蒸発源3を構成することができる。これにより、誘導加熱用又は輻射加熱用のヒータ27のコイル部分に対してルツボ21を抜き差しすることができる。このため、冷却ジャケット34(下部ジャケット34A)の底部に出し入れ口40を形成すれば、この出し入れ口40を通してルツボ21を抜き差しすることが可能になる。したがって、蒸発材料を充填するためのメンテナンス作業を大幅に簡易化し、作業時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明が適用される蒸着装置の概略構成例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る蒸着装置の主要部を示す図である。
【図3】ライン型蒸発源の移動形態例を示す図である。
【図4】ライン型蒸発源の他の移動形態例を示す図である。
【図5】一般的な蒸発源の構成例を示す図である。
【図6】ライン型蒸発源の構成例を示す図(その1)である。
【図7】ライン型蒸発源の構成例を示す図(その2)である。
【図8】ライン型蒸発源の構成例を示す図(その3)である。
【図9】ライン型蒸発源の構成例を示す図(その4)である。
【図10】ルツボユニットの構成例を示す図である。
【図11】ライン型蒸発源の構成例を示す図(その5)である。
【符号の説明】
【0059】
1…蒸着装置、2…被処理基板、3…ライン型蒸発源、5…蒸発材料、12,15…レール部材、13,16…スライド部材、21…ルツボ、22…ノズル、25,26…フランジ部、27…ヒータ、30…熱電対、36…隔壁、H…出し入れ口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に並べて設けられた複数のライン型蒸発源と、
前記複数のライン型蒸発源を、当該ライン型蒸発源の並び方向及び/又は長手方向に個別に移動可能に支持する移動支持手段と
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記ライン型蒸発源の移動方式が自動式である
ことを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記ライン型蒸発源は、蒸発材料を収容するルツボと、前記ルツボから蒸発する前記蒸発材料を噴き出すノズルとを含み、前記ルツボと前記ノズルを分離可能に構成してなる
ことを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記ライン型蒸発源の長手方向の側面に前記ルツボの出し入れ口を設けてなる
ことを特徴とする請求項3記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記ルツボと前記ノズルとの間に隔壁を設けてなる
ことを特徴とする請求項3記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記ライン型蒸発源は、前記ルツボに収容された前記蒸発材料を加熱するための加熱源と、前記ルツボの温度を検出する温度検出手段とを有し、前記ルツボ、前記ノズル、前記加熱源及び前記温度検出手段を含むルツボユニットを、前記ノズルから分離可能に構成してなる
ことを特徴とする請求項3記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−274322(P2008−274322A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116370(P2007−116370)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】