説明

蓄電装置用正極活物質の作製方法、蓄電装置用正極の作製方法、及び蓄電装置の作製方法

【課題】簡便な方法で、正極活物質、正極、又は蓄電装置を得られる作製方法を提供する。
【解決手段】出発材料として、3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲットを用いる。3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲットを用い、希ガス(例えばアルゴン)等のイオンでターゲットをスパッタリングすることにより、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜を得る。得られる薄膜を正極活物質として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電装置用正極活物質の作製方法、蓄電装置用正極の作製方法、及び蓄電装置の作製方法に関する。特に、蓄電装置として、リチウムイオン電池(リチウムイオン二次電池)又はリチウムイオンキャパシタ用の正極活物質の作製方法、及び正極の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への関心が高まるなか、ハイブリッド自動車用電源に使用する二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電装置の開発が盛んである。その候補として、エネルギー性能の高いリチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタが注目されている。リチウムイオン電池は、小型でも大容量の電気を蓄えられるため、既に携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなどの携帯情報端末に搭載され、製品の小型化などに一役買っている。
【0003】
二次電池及び電気二重層キャパシタは、正極と負極との間に電解質を介在させた構成を有する。正極及び負極は、それぞれ、集電体と、集電体上に設けられた活物質と、を有する構成が知られている。例えば、リチウムイオン電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出することのできる材料を活物質として正極に用い、電解質を間に介在させて構成する。
【0004】
リチウムイオン電池用の優れた特性を示す正極活物質として、オリビン型のリン酸鉄リチウム(LiFePO)が注目されている(特許文献1、非特許文献1参照)。また、特許文献1にNASICON化合物の例として、ナシコン型のリン酸鉄リチウム(LiFe(PO)の充放電挙動についても記されている。
【0005】
オリビン型のリン酸鉄リチウムを正極活物質とする場合、活物質に含まれる鉄は2価であるため、酸化されやすく、安定な材料であるとは言い難い。また、2価の鉄を含むリン酸鉄リチウムは高価である。
【0006】
また、活物質としては、結晶化されたオリビン型のリン酸鉄リチウムがよく用いられている。しかし、結晶性の高いリン酸鉄リチウムを得るためには、長時間の焼成等が必要とされている。そのため、製造工程が長く、複雑になりやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第1997/040541号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】小久見善八 編著、「リチウム二次電池」、オーム社、平成20年3月20日第1版第1刷発光、第96頁乃至第97頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様は、簡便な方法で、正極活物質、正極、又は蓄電装置を得られる作製方法を提供することを課題の一とする。
【0010】
または、本発明の一態様は、良好な電池特性を有する正極活物質、正極、又は蓄電装置を得られる作製方法を提供することを課題の一とする。
【0011】
または、本発明の一態様は、新規の正極活物質、正極、又は蓄電装置を得られる作製方法を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、スパッタリング法を用いることで、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムを、良好な電池特性を示す正極活物質として提供できることを見出した。
【0013】
出発材料として、3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲットを用いる。このようなターゲットとして、具体的にはナシコン型のリン酸鉄リチウムが挙げられ、その組成は一般式LiFe(PO(x、y、zは正の実数)で表すことができる。また、LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットでもよい。
【0014】
3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲットを用い、希ガス(例えばアルゴン)等のイオンでターゲットをスパッタリングすることにより、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜を得る。本発明の一態様では、得られる薄膜を正極活物質として用いる。ここで、スパッタリング法により得られた薄膜(活物質)は、敢えて結晶化させないことが好ましい。すなわち、スパッタリング法により得られた薄膜(活物質)は、アモルファス構造のままとすることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様は、3価のFeと、Liと、POと、を組成に含むターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成する正極活物質の作製方法である。
【0016】
本発明の一態様は、一般式LiFe(POで表され、3価のFeを組成に含むターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成する正極活物質の作製方法である。
【0017】
本発明の一態様は、ナシコン型リン酸鉄リチウムを含むターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成する正極活物質の作製方法である。
【0018】
本発明の一態様は、LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成する正極活物質の作製方法である。
【0019】
上記構成において、アモルファス構造を有する活物質は3価のFeを含む。
【0020】
また、上記構成において、正極活物質を集電体上に形成することで正極を作製することができる。さらに、正極に対向する負極と、正極及び負極の間に介在する電解質と、を形成することで蓄電装置を作製することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、簡便な方法で、正極活物質、正極、または蓄電装置を提供することが可能となる。または、本発明の一態様によれば、良好な電池特性を有する正極活物質、正極、または蓄電装置を提供することが可能となる。または、本発明の一態様によれば、新規の正極活物質、正極、または蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】蓄電装置用正極の作製方法の一例を示す図。
【図2】蓄電装置の構造の一例を示す図。
【図3】蓄電装置の特性の一例を示す図。
【図4】蓄電装置の特性の一例を示す図。
【図5】蓄電装置の特性の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下の実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
(実施の形態1)
本実施の形態では、蓄電装置用正極活物質について説明する。
【0025】
正極活物質は、スパッタリング法を利用して得られる、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜により作製される。スパッタリング法を利用することで、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムであっても、良好な電池特性を示す又は新規の電池特性を示す正極活物質として提供することができる。
【0026】
スパッタリング用のターゲットとして、3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲットを用いる。このようなターゲットを構成する材料としてリン酸鉄リチウムが挙げられ、好ましくはナシコン型のリン酸鉄リチウムが挙げられ、その組成は一般式LiFe(PO(x、y、zは正の実数)で表すものを適用することができる。また、リン酸鉄リチウムとその他の材料との混合物材料(例えばLiFe(PO及びFeの混合材料等)を用いることができる。
【0027】
3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲットを用い、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜をスパッタリング法で形成する。3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜は、正極活物質として機能させる。ここで、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜(正極活物質)は、スパッタリング法により形成した後、敢えて結晶化させないことが好ましい。すなわち、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムのアモルファス状態である薄膜を、そのまま正極活物質とすることが好ましい。
【0028】
上述のようにスパッタリング法で形成した3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜は、基本的にはターゲットに用いた材料の組成を保存することができる。なお、スパッタリング法の条件等により、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜の組成等を調整することも可能である。3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの組成は、例えば一般式LiFe(PO(x、y、zは正の実数)で表すことができる。具体的には、LiFe(POが挙げられる。
【0029】
上述のようにスパッタリング法で形成した正極活物質は、活物質の薄膜となる。そのため、従来の湿式法により得られる正極活物質よりも、活物質の密度を高めることができ、単位体積当たりに多くの活物質を詰め込むことが可能となる。正極活物質の高密度化は、正極におけるリチウムの吸蔵量及び放出量の増大につながり、正極及び蓄電装置を高容量化させることにつながる。したがって、本形態のように、スパッタリング法で正極活物質を形成することにより、正極及び蓄電装置の高容量化を図ることができ、電池特性の向上を図ることができる。
【0030】
また、ターゲットとして3価のFeを組成に含む材料を用いる。3価のFeは酸化されにくく、安定であるため、成膜時のチャンバー雰囲気等を複雑に制御する必要がなく、原料として容易に用いることができるため好ましい。また、2価のFeよりも3価のFeの方が原料として安価であり、コストの面でも有利である。さらに、3価のFeを含む原料(ターゲット)を用い、スパッタリング法で形成した薄膜をそのまま正極活物質として機能させることができるため、熱処理による結晶化工程などを省くことができ、作製工程が簡便になる。
【0031】
また、本形態に係る正極活物質を適用した蓄電装置は、充放電曲線がプラトー(電位平坦部)を有さず、充放電に伴い電位がなだらかに連続的に変化する特性を有する場合がある。スパッタリング法を利用して、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムを作製することで、このような特性を有する新規の正極活物質として提供することができる。もちろん、本形態に係る正極活物質を適用した蓄電装置は、上記以外の特性もとりうる。
【0032】
なお、本明細書におけるプラトー(電位平坦部)とは、横軸を容量、縦軸を電位とした充放電曲線において、容量の変化に対し、電位が平坦性を維持して変化する部分を指す。
【0033】
以下、本形態に係る正極活物質及び正極の作製方法について、図1を用いて説明する。
【0034】
3価のFeと、Liと、POと、を少なくとも含む組成のターゲット104を用いて、希ガス等のイオンでターゲット104をスパッタリングすることにより(図1(A)参照)、集電体103上に正極活物質105を形成する(図1(B)参照)。
【0035】
集電体103としては、チタン等の導電性の高い材料を用いる。
【0036】
前記ターゲット104を構成する材料の組成としては、一般式としてLiFe(PO(x、y、zは正の実数)が挙げられ、具体的にはLiFe(POが挙げられる。また、前記ターゲット104を構成する材料は混合材料としてもよく、例えばLiFe(PO及びFeの混合が挙げられる。好ましくは、ターゲット104にナシコン型のリン酸鉄リチウムを用いることで、安価で安定なターゲットとすることができ、正極活物質を簡便な方法で、安価に作製することが可能となる。
【0037】
スパッタリング法としては、高周波電源を用いるRFスパッタリング法、直流電源を用いるDCスパッタリング法、又はパルス的に直流バイアスを加えるパルスDCスパッタリング法などを用いることができる。
【0038】
スパッタリング用のガスとしては、希ガス、酸素、又は希ガス及び酸素の混合ガス等を用いることができる。希ガスとしては、アルゴン等が挙げられる。
【0039】
スパッタリング法により、集電体103上に形成される正極活物質105の組成は、基本的にはターゲット材料の組成が保存される。正極活物質105としては3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜が形成され、その一般式としてはLiFe(PO(x、y、zは正の実数)が挙げられ、具体的にはLiFe(POが挙げられる。ここで、正極活物質105である3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜は、アモルファス構造を有する。
【0040】
以上により、正極活物質105として、スパッタリング法で3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜が形成される。そして、集電体103と正極活物質105との積層構造が、正極101を構成する。
【0041】
スパッタリング法を利用することで、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムを正極活物質として用いても、良好な電池特性を示す蓄電装置を提供することができる。また、スパッタリング法を利用することで、正極活物質の高密度化、正極の高容量化を実現でき、良好な電池特性を示す蓄電装置を提供することができる。また、スパッタリング法を利用することで、簡便な方法で正極を作製することができ、良好な電池特性を示す蓄電装置を提供することができる。
【0042】
また、スパッタリング用のターゲットとして、3価のFeを含む材料を用いるため、安価で安定な原料を用いることができる。原料が安価で安定であるため、簡便な方法及び低コストな製造プロセスを提供することができる。
【0043】
本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【0044】
(実施の形態2)
本実施の形態では、上記実施の形態1に示した正極活物質を用いた蓄電装置の一例について説明する。
【0045】
図2(A)に、蓄電装置200の構造の一部を示す。蓄電装置200は、正極201と、正極201と電解質207を間に介して対向して設けられた負極211とを有している。
【0046】
正極201は、集電体203と、集電体203上に設けられた正極活物質205と、で構成される。正極活物質205の作製方法は、上記実施の形態1に準じればよい。集電体203としては上記集電体103を適用できる。正極活物質205としては上記実施の形態1で示した3価のFeを含むリン酸鉄リチウムの薄膜を適用できる。また、正極201は上記正極101を適用できる。
【0047】
負極211は、集電体213と、集電体213上に設けられた負極活物質215と、で構成される。集電体213の材料は、例えば、白金、銅、又はチタン等の導電性の高い材料を用いることができる。負極活物質215の材料は、黒鉛等の炭素材料、リチウム金属、シリコン等を用いることができる。
【0048】
電解質207は、リチウムイオンを伝導する機能を有する。電解質207の材料としては、固体又は液体を用いることができる。
【0049】
電解質207の材料が固体の場合、例えば、LiPO、LiPOに窒素を混ぜたLiPO(x、y、zは正の実数)、LiS−SiS、LiS−P、LiS−B等を用いることができる。また、これらにLiIなどをドープしたものを用いることができる。
【0050】
電解質207の材料が液体の場合、溶媒と、溶媒に溶解される溶質(塩)とを含んでいる。溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート若しくはエチレンカーボネート等の環状カーボネート、又はジメチルカーボネート若しくはジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。溶質(塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、又はLiTFSA等、軽金属塩(リチウム塩等)を1種又は2種以上含んでいるものを用いることができる。
【0051】
なお、電解質207が液体の場合は、セパレータ209を設ける。セパレータ209は、正極201と負極211との接触を防止するとともに、リチウムイオンを通過させる機能を有する。セパレータ209の材料としては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、あるいは、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維であり、ビナロンとも呼ぶ)、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維等を用いることもできる。ただし、電解質207に溶解しない材料を選ぶ必要がある。また、電解質207に固体電解質を適用した場合でも、セパレータ209を設ける構成とすることも可能である。
【0052】
次に、蓄電装置としてリチウムイオン二次電池を用いた場合の充放電の一例を説明する。
【0053】
充電は、図2(B)に示すように、正極201と負極211との間に電源221を接続することで行われる。電源221から電圧が印加されると、正極201のリチウムがイオン化し、リチウムイオン217として正極201から放出されるとともに、電子219が発生する。リチウムイオン217は、電解質207を介して負極211に移動する。電子219は、電源221を介して負極211に移動する。そして、リチウムイオン217は、負極211で電子219を受け取り、リチウムとして負極211に吸蔵される。
【0054】
一方、放電は、図2(C)に示すように、正極201と負極211の間に負荷223を接続することで行われる。負極211のリチウムがイオン化し、リチウムイオン217として負極211から放出されるとともに、電子219が発生する。リチウムイオン217は、電解質207を介して正極201に移動する。電子219は、負荷223を介して正極201に移動する。そして、リチウムイオン217は、正極201で電子219を受け取り、リチウムとして正極201に吸蔵される。
【0055】
このように、リチウムイオンが正極201及び負極211を移動することで、充放電が行われる。蓄電装置200の正極201において、正極活物質205に上記実施の形態1の正極活物質105を適用することで、活物質の高密度化によりリチウムの吸蔵量及び放出量を増加させることが可能となり、高容量な蓄電装置とすることができる。また、3価のFeを含むリン酸鉄リチウムを正極活物質として適用しても、充放電を良好に行うことができ、良好な電池特性を示す蓄電装置として提供できる。
【0056】
本実施の形態は、他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例1】
【0057】
本実施例では、本発明の一態様に係る正極活物質を適用した試料の電池特性について示す。
【0058】
まず、測定した試料について説明する。試料としては、正極と、負極と、正極及び負極の間に電解液を含むセパレータと、を有する2032型コイン形状電池を形成した。負極はリチウムを用いて形成した。セパレータは、ポリプロピレン(PP)を用いた。電解液は、LiPFを溶解させたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液を用いた。
【0059】
正極は、集電体(チタン)上に活物質を形成した構造とした。条件Aにおける試料は、LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用い、スパッタリング法で成膜した厚さ約100nmの膜を活物質として形成した。条件Bにおける試料は、LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用い、スパッタリング法で成膜した厚さ約50nmの膜を活物質として形成した。
【0060】
なお、条件A、Bともに、活物質は、RF電源の電力700W、圧力0.1Pa、ガス組成O:Ar=2.5:50(sccm)として、スパッタリング法により形成した。
【0061】
本実施例における活物質(LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用い、スパッタリング法により成膜した膜)について、考察した結果を示す。まず、活物質密度は、約3.3g/cmであった。
【0062】
また、本実施例における活物質について、X線光電子分光分析(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)の測定及び誘導結合プラズマ質量分析(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:ICP−MS)の測定を行った。XPS及びICP−MSの結果から、上記活物質の組成比は、Li:Fe:P:O:Na:F:S=9.8:11:12:65:1.2:0.6:1.3(Na、F、Sは不純物)と求められた。ここで、上記活物質に含まれるFeの価数は、3価のFeを含む原料から作製され、且つLiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用いてスパッタリング法により形成されるため、3価であると推察された。
【0063】
上記条件Aと同様の条件で成膜した活物質に、さらに熱処理(550℃、6時間)を行ったサンプルのX線回折(XRD:X−ray diffraction)の測定を行ったところ、ナシコン型のLiFe(POのピークが観察された。XPS、ICP−MS、及びXRD分析の結果から、上記活物質(LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用い、スパッタリング法により成膜した膜)は、少なくとも3価のFeを含むリン酸鉄リチウムを有すると推察された。
【0064】
条件Aの試料及び条件Bの試料それぞれについて、充放電試験((株)東洋システム 充放電試験装置 TOSCAT−3100を使用)を行った。測定電圧は2.5V〜4.2Vの範囲に設定し、測定電流は0.001mAの定電流とし、定電流充電→休止2時間→定電流放電→休止2時間の25℃一定温度下における充放電試験を行った。
【0065】
図3に、条件Aの試料について充放電試験を行って得られた充放電曲線を示す。なお、図3には、1サイクル目及び8サイクル目の充放電曲線を示すが、2サイクル目〜7サイクル目もほぼ同様の充放電曲線が得られた。条件Aの試料における放電容量は、76mAh/gであった。図3に示すように、条件Aにおける試料は、サイクル数が増えても充放電曲線がほとんど変化せず、良好なサイクル特性を有することがわかった。また、図3に示すように、条件Aにおける試料は、充放電曲線がプラトー(電位平坦部)を有さず、充放電に伴い電位がなだらかに連続的に変化する特性を有することがわかった。
【0066】
なお、条件Aに対する比較例として、条件Aの活物質と同様の条件で成膜した厚さ約100nmの膜に、550℃で6時間の熱処理を行ったものを活物質として形成した(比較例(A−1)とする)。また、条件Aに対する別の比較例として、条件Aの活物質と同様の条件で成膜した厚さ約100nmの膜に、650℃で6時間の熱処理を行ったものを活物質として形成した(比較例(A−2)とする)。
【0067】
比較例(A−1)の試料及び比較例(A−2)の試料それぞれについて、上記条件Aの試料と同条件で充放電試験を行った。結果は、比較例(A−1)における放電容量が37mAh/g、比較例(A−2)における放電容量が7.8mAh/gであった。充放電試験の結果から、条件Aにおける試料は、熱処理を行った比較例(A−1)及び比較例(A−2)の試料と比較して、高い放電容量を有することがわかった。条件Aの試料は活物質がアモルファス状態であり、熱処理を行った比較例(A−1)及び比較例(A−2)の活物質は結晶状態であると推察される。また、熱処理条件から、比較例(A−2)の試料は比較例(A−1)の試料よりも結晶性が高いと推察される。これらのことから、本実施例における活物質は、アモルファス状態の方が結晶状態よりも良好な電池特性を有すると推察される。
【0068】
また、図4に、条件Bの試料について充放電試験を行って得られた充放電曲線を示す。図4には、1サイクル目及び2サイクル目の充放電曲線を示す。条件Bの試料における放電容量は、60mAh/gであった。図4に示すように、条件Bにおける試料は、充放電曲線がプラトーを有さず、充放電に伴い電位がなだらかに連続的に変化する特性を有することがわかった。
【0069】
なお、条件A及び条件Bの試料について、放電レート特性を測定した。
【0070】
ここで、放電速度は「Cレート」で表すことができる。1時間で電池の全容量を放電させるだけの電流値のことを1Cレートとし、1Cレートの何倍の電流値で放電しているかを「Cレート」で表す。したがって、nCレート(nは正の実数)は、1Cレートのn倍の電流値で放電することを表す。例えば、全容量が2.2[A/h]の電池では、1C=2.2[A]であり、nC(nは正の整数)=2.2n[A]である。本実施例では、放電レート特性を測定しているため、「Cレート」は放電速度を表すことになり、nが大きくなるほど、放電速度が速いことを意味する。ここで、Cレートは、充放電の際の電流値を表すものである。
【0071】
条件Aの試料及び条件Bの試料は、図5の示すようなレート特性を有することがわかった。
【0072】
本実施例は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0073】
101 正極
103 集電体
104 ターゲット
105 正極活物質
200 蓄電装置
201 正極
203 集電体
205 正極活物質
207 電解質
209 セパレータ
211 負極
213 集電体
215 負極活物質
217 リチウムイオン
219 電子
223 負荷
221 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価のFeと、Liと、POと、を組成に含むターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成することを特徴とする蓄電装置用正極活物質の作製方法。
【請求項2】
一般式LiFe(POで表され、3価のFeを組成に含むターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成することを特徴とする蓄電装置用正極活物質の作製方法。
【請求項3】
ナシコン型リン酸鉄リチウムを含むターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成することを特徴とする蓄電装置用正極活物質の作製方法。
【請求項4】
LiFe(PO及びFeが混合されたターゲットを用い、アモルファス構造を有する活物質をスパッタリング法で形成することを特徴とする蓄電装置用正極活物質の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記アモルファス構造を有する活物質は3価のFeを含むことを特徴とする蓄電装置用正極活物質の作製方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一に記載の前記蓄電装置用正極活物質を集電体上に形成することを特徴とする正極の作製方法。
【請求項7】
請求項6に記載の前記正極に対向する負極と、前記正極及び前記負極の間に介在する電解質と、を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−222496(P2011−222496A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61940(P2011−61940)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】