説明

薄膜ガスセンサ

【課題】ガス感応部の酸素吸着量を一定にして、ガス感応部のセンサ抵抗値の経時変化を抑止し、経時安定性の確保を実現するパルス駆動用の薄膜ガスセンサを提供する。
【解決手段】SnO層521と、酸素供給性物質(セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)またはセリア(CeO))による酸素貯蔵層522と、を交互に積層した積層構造によるガス感応層52を搭載することで、ガス感応層52の全域にわたって酸素が行き渡るようにした薄膜ガスセンサ1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池駆動を念頭においた低消費電力型の薄膜ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスセンサは、ガス漏れ警報器などの用途に用いられており、ある特定ガス、例えば、一酸化炭素(CO)、メタンガス(CH)、プロパンガス(C)、エタノール蒸気(COH)等に選択的に感応するデバイスであり、その性格上、高感度、高選択性、高応答性、高信頼性、低消費電力が必要不可欠である。
【0003】
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器には、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガス検知を目的としたもの、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的としたもの、または、両方の機能を合わせ持ったものなどがあるが、いずれもコストや設置性(ガス検知が必要であるが電源供給不能の箇所である点)の問題から普及率はそれほど高くない。そこで、普及率の向上を図るべく、設置性の改善、具体的には、電池駆動によるガス漏れ警報器としてコードレス化することが望まれている。
【0004】
ガス漏れ警報器の電池駆動を実現するためにはガスセンサの低消費電力化が最も重要である。しかしながら、接触燃焼式や半導体式のガスセンサを動作させるためには、ガスセンサのガス感応層を100℃〜500℃の高温に加熱する必要があり、この加熱が電力を消費する要因である。SnOなどの粉体を焼結して作製したガス感応層を有するガスセンサでは、スクリーン印刷等の方法を用いてガス感応層の厚みを可能な限り薄くしてガス感応層の熱容量を小さくしているが、薄膜化には限界があって充分に薄くできない。このため、電池駆動するにはガス感応層の熱容量が大きすぎることとなり、これを高温に加熱するには大きい電力が必要で電池の消耗が大きくなってしまい、ガス感応層を電池駆動するガスセンサは実用化が困難であった。
【0005】
そこで、微細加工プロセスにより高断熱・低熱容量のダイヤフラム構造として、実用上許容しうる低消費電力の薄膜ガスセンサが開発実用化されて現在に至っている。
しかしながら、ダイヤフラム構造などの低熱容量構造とした低消費電力薄膜ガスセンサを適用したガス漏れ警報器においても、電池の交換なしで5年以上の寿命を持たすためには、さらに薄膜ガスセンサのパルス駆動が必須となる。通常、ガス漏れ警報器には30〜150秒の一定周期に一回の検知が必要であり、この周期に合わせガス感応部を室温から100℃〜500℃の高温に加熱する。前記の電池交換なしで5年以上の寿命要請に応えるため、この加熱時間は数100ms以下が目標となる。
【0006】
パルス駆動の薄膜ガスセンサにおいても、低消費電力化のためには、検出温度の低温化、検出時間の短縮、検出サイクルの長期化(通電をオフ(off)する時間を長くする)の実現が重要である。薄膜ガスセンサにおける検出温度はガス種に対する検出感度などからCOセンサでは〜100℃、CHセンサでは〜450℃、検出時間はセンサの応答性から〜500msec、検出サイクルはCHセンサでは30秒、COセンサでは150秒とされる。
また、off時間にセンサ表面に付着する水分その他の吸着物を脱離させSnO表面をクリーニングすることが、電池駆動(パルス駆動)の薄膜ガスセンサの経時安定性を向上する上で重要であり、検出前に一旦センサ温度を400℃〜500℃に加熱(時間〜100msec)し、その直後に、それぞれのガスの検出温度でガス検知を行っている。
【0007】
上記より分かるように、低消費電力化のため薄膜ガスセンサではガス感応部のoff時間がセンシングのための加熱時間に比べ圧倒的に長い。すなわち、ガス感応部は圧倒的に長時間、室温状態にあることになる。検知ガスは、入口側に配置された活性炭を介して流入し、ガス拡散でガス感応部のSnO表面へ到達するようなセンサ構造であり、ガス感応部を劣化させる被毒ガス、検知を阻害するNO,SOあるいは炭化水素系ガスなどは前段の活性炭に吸着し、ガス感応部のSnO表面には到達しないような配慮がなされており、長期に亘る経時安定性を維持するような工夫がなされている。
【0008】
しかしながら、上記のような対策を施した電池駆動(パルス駆動)の薄膜ガスセンサでも高温高湿雰囲気が長時間継続するような極端な雰囲気にガス感応部をさらした場合、ガス感応部のセンサ抵抗値が不安定になり経時安定性が悪くなることがある。
原因は明確ではないが、高湿度に長時間さらされたため、雰囲気の水分が活性炭層を破過し、薄膜ガスセンサのガス感応部であるSnO表面に到達し、SnO表面が高湿度雰囲気にさらされるためと推定される。すなわち、センサのoff時間に、ガス感度を向上するため多孔質にしたSnOの細孔への水分の吸着によりセンサ抵抗値が不安定になったものと推定される。
【0009】
本来、400℃〜500℃に加熱するクリーニングにより吸着物を脱離し、SnO表面を常時リフレッシュすることにより、経時安定性が確保されるはずであるため、クリーニング時間を数倍に延長して試験を行ったが経時安定性が改善できていない。
上記現象は、特に低温でガス検知を行うCOセンサでの経時安定性に顕著に出現する。またCHセンサにおいてCOセンサ程ではないが同様な傾向が認められる。高温高湿下でも経時安定性に優れた電池駆動(パルス駆動)の薄膜ガスセンサが望まれている。
【0010】
このように低熱容量構造とした薄膜ガスセンサであって、高温高湿下でも経時安定性に優れた電池駆動(パルス駆動)を目指す先行技術として例えば特許文献1(特開2005−17182号公報)が開示されている。
特許文献1には、SnO薄膜成膜後、スパッタや含浸法により、SnO薄膜の最表面にPd、Pt、またはPd+Pt混合触媒などの貴金属触媒を分散/担持させた薄膜ガスセンサが開示されている。このようにSnO薄膜に、スパッタや含浸法により貴金属触媒を担持させることで高温高湿下でも経時安定性に優れた電池駆動(パルス駆動)を実現している。特にスパッタ法は乾式触媒担持であり量産性に優れている。
【0011】
また、特許文献2(特開2000−292398号公報)、特許文献3(特開2000−292399号公報)には、SnO薄膜のスパッタ時に貴金属触媒を同時にスパッタ(co-sputtering)する手法が開示されている。
【0012】
【特許文献1】特開2005−17182号公報
【特許文献2】特開2000−292398号公報
【特許文献3】特開2000−292399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1に記載の従来技術では所定の効果を奏しうるものであるが、SnO薄膜の表面側では触媒成分が担持されるものの、SnO薄膜の内部細孔内へは触媒成分が到達せず担持が不十分であるので、ややセンサ特性の安定性において不十分な面がある。
同時に開示されている含浸法においても、SnO薄膜の細孔径が小さいため含浸液のSnO薄膜内部への浸透が容易ではなく、SnO薄膜の内部細孔内での貴金属触媒の担持が不十分であり、スパッタによる貴金属触媒を担持と同様に、センサ特性の安定性において不十分な面がある。
【0014】
更に特許文献1では、SnO薄膜をスパッタ成膜する際、SnO薄膜と貴金属触媒薄膜を交互に成膜した積層構造にして抵抗値の経時変化の安定性を図った事例も開示されている。上記による効果はやはり有効ではあるが、電気伝導性の良いPtを成膜すると局部的導通部ができる場合がありPtを分散担持させる制御性にやや難点がある。
【0015】
特許文献2および特許文献3に記載の薄膜ガスセンサでは、SnO薄膜の表面側だけでなく、SnO薄膜の内部細孔内への貴金属触媒の担持が期待されたが、ほとんどの貴金属触媒成分がSnO結晶格子に取り込まれてアクセプタ的な振る舞いを示し、SnO薄膜の抵抗が顕著に高抵抗化するなどの問題を含むため実用化されていない。
【0016】
長期に亘るセンサ抵抗値の経時安定性はSnO表面に吸着する酸素量の変化と関係するものと推定される。特に高温高湿下では本来吸着酸素が占有していた活性サイトにOHが吸着する確率が増加する。通常、吸着酸素原子には1個当たりSnO中の自由電子が2個トラップ(O⇒O2−)され局在化する。酸素の吸着によりSnO中の自由電子は減少しSnOの抵抗値は増大する。
【0017】
同じ活性サイトの競吸着種であるOHが吸着した場合に関しては現象解明ができていないが、吸着OH1個当たり最大でもSnO中の自由電子が1個しかトラップ(OH⇒OH)されない。上記からみても活性サイトへの吸着種、吸着量でSnOの抵抗値は大幅に変動する。すなわちガスセンサの長期に亘るセンサ抵抗値の経時安定性確保のためには、活性サイトへ常に潤沢に酸素を供給できる構造とし、常に吸着酸素量をコンスタントにすることが重要となる。
【0018】
ガスセンサにおけるPtなどの貴金属触媒の添加効果は、
(1)特定のガス種に対する感度向上、
(2)貴金属触媒上での酸素原子のスピルオーバー効果によるSnOへの酸素供給、
にある。
上記の特許文献1,2,3による従来技術では貴金属触媒をSnOに担持して上記の向上を図るものであり、(1)に関しては充分ではあるが上記(2)に関しては必ずしも充分とはいえなかった。
【0019】
そこで、本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ガス感応部の酸素吸着量を一定にして、ガス感応部のセンサ抵抗値の経時変化を抑止し、経時安定性の確保を実現するパルス駆動用の薄膜ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような本発明の請求項1に係る薄膜ガスセンサは、
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように電気絶縁層上に設けられるガス感応層と、
を備え、
前記ガス感応層は、SnO層と、酸素供給性物質による酸素貯蔵層と、を交互に積層した積層構造による感応層であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項2に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO層は、SnO粒子が相互に粒界を介して接する層であり、層内および層間で電気的に導通する層であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項3に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記酸素貯蔵層は、酸素供給性物質が互いに孤立したアイランド状に形成された層であり、前記酸素貯蔵層の層内及び層間で電気的に不導通な層であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項4に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
一層のSnO層と一層の酸素貯蔵層とにより一層の薄膜積層を形成し、このような薄膜積層をn層(nは自然数)重ねた薄膜積層構造を(SnO層/酸素貯蔵層)と定義した場合に、前記ガス感応層は、nが2以上1000以下の薄膜積層構造であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項5に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO層の一層の膜厚は1nm以上100nm以下であり、かつ前記酸素貯蔵層の一層の膜厚は0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の請求項6に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記酸素貯蔵層の酸素供給性物質は、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の請求項7に係る薄膜ガスセンサは、
請求項6に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記セリア・ジルコニア固溶体は、セリア・ジルコニア固溶体の100mol%に対して、セリアがXmol% 、ジルコニアが(100−X)mol%で表される場合に、セリアが1mol%〜99mol%の固溶体であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の請求項8に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記酸素貯蔵層の酸素供給性物質は、セリア(CeO)であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の請求項9に係る薄膜ガスセンサは、
請求項1〜請求項8の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
ガス感応層を覆うように設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
以上のような本発明によれば、ガス感応部の酸素吸着量を一定にして、ガス感応部のセンサ抵抗値の経時変化を抑止し、経時安定性の確保を実現するパルス駆動用の薄膜ガスセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態の薄膜ガスセンサについて図を参照しつつ説明する。図1は本形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。図2はガス感応層を説明する説明図である。
【0031】
本形態の薄膜ガスセンサ100は、図1で示すように、シリコン基板(以下Si基板)1、熱絶縁支持層2、ヒーター層3、電気絶縁層4、ガス検出層5を備える。熱絶縁支持層2は、詳しくは、SiO層21、CVD−SiN層22、CVD−SiO層23の三層構造となっている。
また、ガス検出層5は、詳しくは、感知電極層51、ガス感応層52、ガス選択燃焼層53を備える。ガス検出層5は、一対の感知電極層51,51にガス感応層52が渡されるように配置され、さらに一対の感知電極層51,51の上面の一部、ガス感応層52の上面全体を、ガス選択燃焼層53が覆う構造としている。
【0032】
続いて各部構成について説明する。
Si基板1は、シリコン(Si)により、貫通孔を有するように形成される。
熱絶縁支持層2は、この貫通孔の開口部に張られてダイアフラム様に形成されており、Si基板1の上に設けられる。
【0033】
熱絶縁支持層2は、詳しくは、下からSiO層21、CVD−SiN層22、CVD−SiO層23の三層構造となっている。
SiO層21は熱絶縁層として形成され、ヒーター層3で発生する熱をSi基板1側へ熱伝導しないようにして熱容量を小さくする機能を有する。また、このSiO層21はプラズマエッチングに対して高い抵抗力を示し、後述するがプラズマエッチングによるSi基板1への貫通孔の形成を容易にする。
CVD−SiN層22は、SiO層21の上側に形成される。
CVD−SiO層23は、ヒーター層3との密着性を向上させるとともに電気的絶縁を確保する。CVD(化学気相成長法)によるSiO層は内部応力が小さい。
【0034】
ヒーター層3は、Ta/PtW/Taヒータであって、熱絶縁支持層2の上面に設けられる。また、図示しない電源供給ラインも形成される。
電気絶縁層4は、電気的に絶縁を確保するSiO絶縁層からなり、熱絶縁支持層2およびヒーター層3を覆うように設けられる。ヒーター層3と感知電極層51との間に電気的な絶縁を確保する。
【0035】
感知電極層51は、電気絶縁層4の上に設けられる、例えば、Pt膜(白金膜)またはAu膜(金膜)であり、ガス感応層52の感知電極となるように左右一対に設けられている。この感知電極層51は、SiO絶縁層である電気絶縁層4との密着性に優れ、しかも、Ptとも密着性のよい膜、例えば、Ta膜(タンタル膜)、Ti膜(チタン膜)、Cr膜(クロム膜)という接合強度を高める機能を有する接合層を感知電極層51と電気絶縁層4との間に介在させるようにしても良い。ここではTa膜による接合層を介在させてPt膜を形成した(Pt/Ta層)による感知電極層51であるとして以下に説明する。
【0036】
ガス感応層52は、図1の円内において図示するように、一層の二酸化スズ層(以下、SnO層)521と、酸素供給性物質による一層の酸素貯蔵層522と、を交互に積層した積層構造による感応層であり、一対の感知電極層51,51の間を渡されるように電気絶縁層4の上に形成される。なお、図1の円内では二層のSnO層521が一層の酸素貯蔵層522により完全に分断されるかのように図示しているが、実際は、酸素貯蔵層522は完全な層ではなく、上下二層の層間のSnO層521が接触するように隙間のある層となっている。
【0037】
このようなガス感応層52は、詳しくは、一層のSnO層521と一層の酸素貯蔵層522とによる一層の薄膜積層とし、このような薄膜積層をn層重ねた薄膜積層構造を(SnO層/酸素貯蔵層)と定義した場合、ガス感応層52はnが2以上1000以下であるような薄膜積層構造である。積層の第1層目(電気絶縁層4との接触層)はSnO層521が好ましく、最上面は酸素貯蔵層522が好ましい。ここで下限をn=2とする理由はnが2以上で充分な酸素供給性能があることが知見されたためである。なお、上限は酸素供給性能の問題というよりは、製造上薄膜積層数を無用に多くするとコスト・製造時間が増大するため、上限を設けたというものである。
【0038】
このように上下二層のSnO層521は間にある酸素貯蔵層522により分断されたものではなく、酸素貯蔵層522を挟む二層のSnO層521の層間で電気的に導通している。さらにSnO層521の層内も電気的に導通している。
このような導通を実現するため、図2で模式的に図示するように、SnO層521は、図2中のSnO粒子が相互に粒界を介して接する層であり、面内および面間で電気的に導通する層とする。ここで、酸素貯蔵層522は、図2中のCeZrO粒子(酸素供給性物質の一例)のように、膜厚を充分薄くすることで酸素供給性物質が互いに孤立したアイランド状に形成された層であり、酸素貯蔵層522の層内及び層間で電気的に不導通な層となっている。このように一層の酸素貯蔵層522がアイランド状であるため、上下二層のSnO層521において、SnO粒子が相互に粒界を介して接して導通する。なお、本形態ではSnO層521、および、酸素貯蔵層522のnの具体的な値や膜厚については、酸素供給性物質を具体化することで決定されるものであり、ガス感応層52における感応機能・酸素供給機能等の説明時に説明する。
【0039】
ガス選択燃焼層53はパラジウム(Pd)または白金(Pt)の少なくとも一つを触媒として担持したアルミナ焼結材(触媒担持Al焼結材)による触媒フィルタである。主成分であるAlは多孔質体であるため、孔を通過する検知ガスが触媒(Pd,Ptの少なくとも一つ)に接触する機会を増加させて燃焼反応を促進させる。
ガス感応層52は、多様なガスの検知が可能である反面、特定のガスを選択的に検知することは困難であった。そこでガス検出層5では、一対の感知電極層51,51、および、ガス感応層52のそれぞれ表面を、触媒担持Al焼結材で構成されたガス選択燃焼層53が覆う構造としている。このような構成としたため、検知する目的ガスよりも酸化活性の強いガスを燃焼させ、検知する目的ガス(特にメタンやプロパン)のみの感度を向上させるとともに、そのセンサ部の大きさや膜厚、ダイヤフラム径との比などを工夫することで、検知したい目的ガスのガス選択性を高め、消費電力の低減化を可能とする。
【0040】
このような薄膜ガスセンサ100はダイアフラム構造により高断熱,低熱容量の構造としている。そしてこのようなダイヤフラム構造などの超低熱容量構造とした低消費電力薄膜ガスセンサを適用したガス漏れ警報器においては、電池の交換無しで5年以上の寿命を持たすためには薄膜ガスセンサのパルス駆動が必須となる。そして、パルス駆動の薄膜ガスセンサにおいても、更なる低消費電力化のためには、検出温度の低温化、検出時間の短縮、検出サイクルの長期化(通常offにする時間を長くする)が重要である。このパルス駆動については従来技術と同じであり、重複する説明を省略する。薄膜ガスセンサ100の構成はこのようなものである。
【0041】
続いて、ガス感応層52の機能について説明する。まず、酸素貯蔵層522を採用した点について説明する。
薄膜ガスセンサ100は、様々な気体成分と接触することによりガス感応層52に含まれる酸化物半導体の電気抵抗(感知層抵抗)が変化する現象を利用している。100℃〜500℃程度に加熱された金属酸化物半導体は導電率がガス濃度により変化する特性を持ち、空気中では酸素を吸着して高抵抗化するが可燃性ガスなどの検出対象ガス雰囲気中では検出対象ガスを吸着して低抵抗化する。
【0042】
詳しくは、SnO層521などのn型金属酸化物半導体が100℃〜500℃程度に加熱されると、このSnO層521は、空気中では粒子表面に酸素などを活性化吸着するが、酸素は電子受容性が強くて負電荷吸着するため、酸化物半導体粒子表面に空間電荷層が形成され導電率が低下して高抵抗化し、また、可燃性ガスなど検出対象ガスの電子供与性の還元性気体が吸着して燃焼反応が起こると表面吸着酸素が消費され、酸素に捕獲されていた電子が半導体内にもどされ、電子密度が増加して導電率が増大して低抵抗化する、というものである。
【0043】
そこで、酸素供給が重要であるが、従来技術ではSnO層521の全域に酸素を供給する点について考慮されていなかった。そこで、本発明ではSnO層521と酸素貯蔵層522とを交互に配置した積層構造として、ガス感応層52の全域で酸素を供給する。酸素貯蔵層522は、空気中(酸素リッチ状態)と、検出対象ガス雰囲気中(酸素リーン状態)と、で挙動を異ならせるものであり、空気中(酸素リッチ状態)では酸素を吸蔵し、検出対象ガス雰囲気(酸素リーン状態)では、吸蔵した酸素を放出する。
【0044】
ガス感応層52全体での挙動を見ると、空気中(酸素リッチ状態)では酸素貯蔵層522での酸素が貯蔵され、また、SnO層521粒子表面に酸素が活性化吸着されて導電率が低下して高抵抗化する。このようにガス感応層52の全域で酸素が貯蔵され、特にSnO層521では酸素の負電荷吸着により電子が少なくなって高抵抗化する。ここで高温湿雰囲気が長時間継続するような場合でも、酸素貯蔵層522で貯蔵された酸素がガス感応層52へ到達する確率が著しく高くなっており、従来技術のようにOHが吸着する確率を著しく低下させている。
そして、可燃性ガスなど検出対象ガス雰囲気(酸素リーン状態)では、検出対象ガスなどの電子供与性の還元性気体が吸着して燃焼反応が起こると表面吸着酸素が消費され、酸素に捕獲されていた電子が半導体内にもどされ、電子密度が増加して導電率が増大して低抵抗化する。この際、酸素貯蔵層522の酸素も消費されるため確実に電子密度が増加して導電率が増大して低抵抗化する。ガス感応層52全体で見ても酸素が消費されて確実に低抵抗化する。
【0045】
続いて、酸素供給性物質を具体的に例示して説明する。酸素供給性物質としてはセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)またはセリア(CeO)が好ましい。
セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)またはセリア(CeO)の酸素供給能は、例えば、マテリアルインテグレーションVol.16, No.4 (2003)のP3〜P14掲載の「特集 排ガス浄化触媒用セリア−ジルコニア固溶体の新展開 自動車触媒用酸素貯蔵材料の歴史−セリア−ジルコニア固溶体(CZ)の進歩」(特にP4〜P5)に詳しく述べられている。
【0046】
まず、酸素供給物質がセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)である場合について説明する。セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)の酸素供給能は、先に説明したように、Ceが多価イオンでありCe4++e⇔Ce3+の反応が容易であり、酸素の放出/吸収を繰り返し行うことが可能である。
ガス感応層52は、一層のSnO層521と、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による一層の酸素貯蔵層522と、による一層の薄膜積層とし、このような薄膜積層をn層重ねた薄膜積層構造を(SnO層/CeZrO層)と定義した場合、ガス感応層52はnが2以上1000以下であるような薄膜積層構造である。
【0047】
具体的には一層のSnO層521の成膜膜厚は1nm以上で100nm以下、好ましくは5nm以上で50nm以下であり、また、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による一層の酸素貯蔵層522の成膜膜厚は0.5nm以上で10nm以下、好ましくは1nm以上で6nm以下であり、少なくとも2層以上繰り返した薄膜積層構造が必要である。詳しくは、SnO層/セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)層で一層の薄膜積層構造としたとき、基板/SnO層/セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)層/SnO層/セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)層が必要である。セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)の酸素貯蔵層522では膜厚が10nm以上ではアイランド状にならず、SnO層の導通を疎外するため不適であり、0.5nm以下では酸素貯蔵層としての機能が弱い。また、SnO層521においては、SnO粒子が相互に粒界を介して接しており、一層の層内及び二層の層間で電気的な導通を有する膜厚になるように成膜することが重要であり、上記のような1nm以上で100nm以下、好ましくは5nm以上で50nm以下の膜厚が良好であることが知見された。
【0048】
このような本形態では酸素貯蔵層522は、例えば図2で示すように、酸素供給性物質が互いに孤立したアイランド状に形成して酸素貯蔵層522の層内及び層間で電気的に無導通な層とし、さらにSnO層521は、SnO粒子が相互に粒界を介して接する層であり、面内および面間で電気的に導通する層とすることで、酸素貯蔵層522を挟む二層のSnO層521の層間で電気的に導通させる、つまり全てのSnO層521の層間で電気的に導通させている。上記積層構造において、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522は粒子が互いに孤立したアイランド状に成膜されているため酸素貯蔵層522そのものはSnO層521の抵抗値になんら影響を及ぼさない。
【0049】
積層数が多いほど、またセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522の膜厚が厚いほど、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)が多く添加されることとなりセンサ特性の安定化に効果がある。セリア・ジルコニア固溶体重量のSnO重量に対する割合(wt%)であるセリア・ジルコニア固溶体添加量は、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522の膜厚と、SnO層521よる膜厚と、の膜厚積層数で任意に決められる。セリア・ジルコニア固溶体膜の添加量は0.1wt%から50wt%好ましくは0.5wt%から10wt%である。
【0050】
積層の第1層目はSnO層521が好ましく、最表面はセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522が好ましい。また各層の積層厚みは膜内で均一である必要はなく、成膜初期と成膜後半でSnO層521の膜厚とセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522の膜厚との割合を変えてもかまわない。例えば、図2のように第1層目はSnO層521をSnO粒子二層分という100nmの膜厚とし、それより上ではSnO粒子一層分という50nmの膜厚として薄くするというものである。
さらに、セリア・ジルコニア固溶体は全率固溶体であり、CeO/(ZrO+CeO)モル比は0.1〜0.99の間が良い。0.1以下の場合酸素供給能が低く適さない。例えばこのモル比は0.5という値が選択される。
【0051】
このような薄膜ガスセンサ100のガス感応部52は、図2に示すように、SnO粒子とCeZrO粒子が帯状に成膜され、CeZrO粒子はアイランド状になる。SnO粒子は3次元的に連結し電気的には互いに導通するが、スパッタでCeZrO粒子を成膜するとそのほとんどはSnO粒子最表面に堆積し、一部はSnO粒子同士が作る細孔の中にも堆積する。SnO粒子同士が作る細孔径は10〜20nmと狭いため細孔の深いところまではCeZrO粒子は入り込まない。このようにしてガス感応素子51を成膜した素子を素子A(後述)とする。
【0052】
このようにセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)を、SnO層の表面に高分散担持するような積層構造としたため、SnO層へ潤沢に酸素の供給を行うことが可能になり常にSnO層の吸着酸素量をコンスタントに保持でき、ガスセンサの長期に亘るセンサ抵抗値の経時安定性を確保できる。
【0053】
続いて、酸素供給物質がセリア(CeO)である場合について説明する。セリア(CeO)の酸素供給能はCeが多価イオンでありCe4++e⇔Ce3+の反応が容易であり、酸素の放出/吸収を繰り返し行うことが可能である。
ガス感応層52は、一層のSnO層521と、セリア(CeO)による一層の酸素貯蔵層522と、による一層の薄膜積層とし、このような薄膜積層をn層重ねた薄膜積層構造を(SnO層/CeO層)と定義した場合、ガス感応層52はnが2以上1000以下であるような薄膜積層構造である。
【0054】
具体的には一層のSnO層521の成膜膜厚は1nm以上で100nm以下、好ましくは5nm以上で50nm以下であり、またセリア(CeO)による一層の酸素貯蔵層522の成膜膜厚は0.5nm以上で10nm以下、好ましくは1nm以上で6nm以下であり、少なくとも2層以上繰り返した薄膜積層構造が必要である。詳しくは、SnO層/セリア(CeO)層で一層の薄膜積層構造としたとき、基板/SnO層/セリア(CeO)層/SnO層/セリア(CeO)層が必要である。セリア(CeO)層の酸素貯蔵層522では膜厚が10nm以上ではアイランド状にならず、SnO層521の導通を疎外するため不適であり、0.5nm以下では酸素貯蔵層522としての機能が弱い。また、SnO層521においては、SnO粒子が相互に粒界を介して接しており、一層の層内及び二層の層間で電気的な導通を有する膜厚になるように成膜することが重要であり、上記のような1nm以上で100nm以下、好ましくは5nm以上で50nm以下の膜厚が良好であることが知見された。
【0055】
このような本形態では酸素貯蔵層522は、酸素供給性物質が互いに孤立したアイランド状に形成して酸素貯蔵層522の層内及び層間で電気的に無導通な層とし、さらにSnO層521は、SnO粒子が相互に粒界を介して接する層であり、面内および面間で電気的に導通する層とすることで、酸素貯蔵層522を挟む二層のSnO層521の層間で電気的に導通させる、つまり全層のSnO層521の層間で電気的に導通させている。上記積層構造において、セリア(CeO)による酸素貯蔵層522は粒子が互いに孤立したアイランド状に成膜されているためセリア(CeO)による酸素貯蔵層522そのものはSnO層521の抵抗値になんら影響しない。
【0056】
積層数が多いほど、またセリア(CeO)による酸素貯蔵層522の膜厚が厚いほど、セリア(CeO)が多く添加されることとなりセンサ特性の安定化に効果がある。セリア重量のSnO重量に対する割合(wt%)であるセリア添加量は、セリアによる酸素貯蔵層522の膜厚と、SnO層521よる膜厚と、の膜厚積層数で任意に決められる。セリア膜の添加量は0.1wt%から50wt%好ましくは0.5wt%から10wt%である。
【0057】
積層の第1層目はSnO層521が好ましく、最表面はセリア(CeO)による酸素貯蔵層522が好ましい。また各層の積層厚みは膜内で均一である必要はなく、成膜初期と成膜後半でSnO層521の膜厚とセリア(CeO)による酸素貯蔵層522の膜厚との割合を変えてもかまわない。
【0058】
このようなセリア(CeO)を、SnO薄膜の表面に高分散担持することで、SnO層へ潤沢に酸素の供給を行うことが可能になり常にSnO層の吸着酸素量をコンスタントに保持でき、ガスセンサの長期に亘るセンサ抵抗値の経時安定性を確保できる。
【0059】
続いてこのような薄膜ガスセンサ100の動作について簡単に説明する。
薄膜ガスセンサ100における検出温度はガス種に対する検出感度などからCOセンサでは〜100℃、CHセンサでは〜450℃、検出時間はセンサの応答性から〜500msec、検出サイクルはCHセンサでは30秒、COセンサでは150秒とされる。
またoff時間にセンサ表面に付着する水分その他の吸着物を脱離させSnO層521の表面をクリーニングしており、検出前に一旦センサ温度を〜450℃に加熱(時間から100msec)し、その直後に、それぞれのガスの検出温度でガス検知を行っている。このような動作は、先に説明した従来技術と同じ動作である。薄膜ガスセンサ100はこのようなものである。
【0060】
続いて、本形態の薄膜ガスセンサ100の製造方法について概略説明する。
まず、板状のシリコンウェハー(図示せず)に対して熱酸化法により表裏両面に熱酸化を施して厚さ0.3μmの熱酸化膜を形成する。一方の面はSiO層21となる。
そして、SiO層21を形成した面にCVD−SiN膜をプラズマCVD法にて堆積して厚さ0.15μmのCVD−SiN層22を形成する。そして、このCVD−SiN層22の上面にCVD−SiO膜をプラズマCVD法にて堆積して厚さ1.0μmのCVD−SiO層23を形成する。これらSiO層21、CVD−SiN層22、CVD−SiO層23は、ダイアフラム構造の支持層となる。
【0061】
さらに、CVD−SiO層23の上面にTa/PtW/Taヒータであるヒーター層3を形成する。
ヒーター層3の形成についてであるが、まず、CVD−SiO層23の上に接合層としてTaを0.05μm形成する。次に、ヒーター層3となるPtW(Pt+4Wt%W)膜を0.5μm形成する。さらに、上側の面にも接合層としてTaを0.05μm形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング方法によって行う。成膜温度100℃、成膜パワー100W、成膜圧力1Paである。このような、Ta/PtW/Ta層に対して微細加工によりヒータパターンを形成することとなる。ヒータパターンの形成では、ウェットエッチングのエッチャントとしてTaには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液を、また、Ptには王水を、それぞれ90℃に加熱して用いた。
【0062】
そして、このCVD−SiO層23とヒーター層3との上面にスパッタSiO膜をスパッタリング法により蒸着して、厚さ1.0μmのスパッタSiO層である電気絶縁層4を形成する。そして、導通の確保とワイヤボンディング性とを向上させるため、微細加工によりヒータの電極パッド部分(図示せず)をHFにてエッチングして窓開け後、導通の確保とワイヤボンディング性を向上するため、上側の接合層であって外界へ露出されているTaを水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液とで除去し、ヒーター層3のPtWを外部へ露出させる。
【0063】
このようにして形成した電気絶縁層4の上に感知電極層51を形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。まず、下地のCVD−SiO層23との密着性向上のための厚さ0.05μm接合層(Ta)を形成し、この接合層の上に、厚さ0.2μmの感知電極層(Pt)を形成する。Pt/Taの成膜条件は共に、Arガス(アルゴンガス)による成膜圧力1Pa、成膜温度100℃、成膜パワー100Wである。
【0064】
さらにヒーター層3と同様の微細加工により感知膜SnOの両側に一対の抵抗測定用感知膜電極パターンを形成する。ウエットエッチングのエッチャントとしてPtには王水をTaには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液、それぞれ90℃に加熱して用いた。
続いて、レジストを全面に塗布する。そして微細加工で一対の感知電極層51,51上およびその一対の感知電極層51,51間のガス感応層52を形成する部分のレジストを除去/開口し、それ以外をレジストで被覆したパターンを形成する。
【0065】
次に、上記のパターニングが施されたウェハーをスパッタチャンバーにセットし、スパッタ成膜でガス感応層52をスパッタ成膜により形成する。本形態ではSnO層と、酸素供給性物質による酸素貯蔵層と、を互に成膜した積層構造である。酸素供給性物質としてはセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)とセリア(CeO)とがあるとして説明したが、この製造方法の説明ではセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)を例に挙げて以下説明する。なお、SnO層とセリア(CeO)とを交互に成膜した積層構造とする場合も諸条件や製法が同じでセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)をセリア(CeO)に置き換えるものであり、SnO層とセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)との積層構造の製法のみ説明し、重複する説明を省略する。
【0066】
ガス感応層52の面積(レジストの除去/開口部の面積でもある)は100μm□である。この開口部内に、膜厚1nm以上100nm以下のSnO層521と、0.5nm以上10nm以下のセリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522と、を交互に成膜した薄膜積層構造がn層(nは自然数)の積層構造(SnO層/CeZrO層)であるガス感応層52を以下の手順でスパッタ成膜して形成する。
【0067】
この際、SnO層521の成膜条件は、成膜パワー50W、成膜圧力1Pa、成膜雰囲気Ar+O中、成膜温度100℃である。また、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)による酸素貯蔵層522の成膜条件は成膜パワー40W、成膜圧力1Pa、成膜雰囲気Ar+O中、成膜温度100℃である。各層の膜厚は成膜時間で制御される。
【0068】
セリア・ジルコニア固溶体はCe/(Ce+Zr)モル比=0.5のターゲットを用いた。上記条件でSnO層521と酸素貯蔵層(CeZrO層)522との成膜レートはそれぞれ5nm/min、2.5nm/minとなる。なお積層構造(SnO層/CeZrO層)のトータル膜厚は〜1μmである。スパッタ装置はSnO、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)の両ターゲットを具備しておりターゲットを切り替えることで、SnO、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)と交互に成膜することが可能である。
【0069】
最初にSnO層を100nm成膜する。その後酸素貯蔵層(CeZrO層)522を2nm成膜し次にSnO層を18nm成膜する。更に酸素貯蔵層(CeZrO層)522を2nm/SnO層を18nmの成膜を45回繰り返し、最表面はガス選択燃焼層であるPt層(図示せず)を成膜して終了する。これにより上下方向におけるトータル膜厚が約1μmのガス感応層(SnO層/CeZrO層)45を得る。Ptの担持量は約15wt%となる。図2に積層構造(SnO層/CeZrO層)45の模式断面図によれば、SnOはPt上にもSnO上と同様な成膜をするためPtの一部はSnOに被覆される。従って気相と接する(表面に出ている)Ptの濃度としては<10%と推定される。
【0070】
図2に示すように、SnO粒子とCeZrO粒子が帯状に成膜され、CeZrO層はアイランド状になる。SnO粒子は3次元的に連結し電気的には互いに導通するが、スパッタでCeZrOを成膜するとそのほとんどはSnO粒子最表面に堆積し、一部はSnO粒子同士が作る細孔の中にも堆積する。SnO粒子同士が作る細孔径は10〜20nmと狭いため細孔の深いところまではCeZrO粒子は入り込まない。ガス感応層の積層構造はこのようにして形成される。
【0071】
上記のガス感応層の積層構造を形成後、次にチャンバーからウェハーを取り出しレジストを剥離液で除去し、レジストのリフトオフを行った。これによりレジストとともにレジスト上に形成された不要なガス感応層が剥離して、電気絶縁層4上に直接成膜されていた箇所のガス感応層のみ残り、これがガス図1で示すように感応層52となる。
【0072】
そして一対の感知電極層51,51およびガス感応層52の表面には、ガス選択燃焼層53が形成される。このガス選択燃焼層53は、触媒(PdまたはPtの少なくとも一つ)を担持したアルミナ粉末、アルミゾルバインダおよび有機溶剤を混合調製した印刷ペーストをスクリーン印刷で印刷し、室温で乾燥後、500℃で1時間焼き付けして約30μm厚の選択燃焼層(触媒フィルター)を形成している。このガス選択燃焼層53の大きさは、ガス感応層52を十分に覆えるようにする。このようにスクリーン印刷により厚みを薄くしている。このガス選択燃焼層53により、ガスセンサの感度、ガス種選択性、信頼性が向上する。
【0073】
最後にシリコンウェハー(図示せず)の裏面から微細加工プロセスとしてドライエッチングによりシリコンを除去して貫通孔を形成してSi基板1とし、400μm径の貫通孔および開口部が形成されたダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサ100を形成する。そして、ヒーター層3および感知電極層51,51は図示しない駆動・処理部と電気的に接続される。
【0074】
ここで、ヒータ層(Ta/PtW/Ta)3と感知電極層(Ta/Pt)51,51のパターニングの際には、きのこかさ状に形成された2種のメタル層をマスクとした一種のリフトオフ法を用いても良い。
薄膜ガスセンサ100の製造方法はこのようになる。
【0075】
続いて本形態の薄膜ガスセンサ100の性能について検証する。本形態の(SnO層/CeZrO層)45のガス感応層52を有する薄膜ガスセンサ100を素子Aとする。更に比較のため本形態の薄膜ガスセンサ100において、ガス感応層のみ異ならせたセンサであって、ガス感応層としてSnOのみを成膜して1μm厚のSnO層によるガス感応層を含む薄膜ガスセンサを素子Bとする。
【0076】
そして素子A,Bを1年間実環境で駆動し、センサ抵抗値(空気中)の経時変化を調べた。ここにパルス駆動条件/測定条件は以下のとおりである。
検出サイクル:60秒
クリーニング温度×時間=450℃×200msec
センサ抵抗値(空気中)測定=クリーニング時の200msecの平均値
素子A(本形態)と素子B(従来技術)の諸特性を比較をする表を次表に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
表1から本発明の素子Aの(SnO層/CeZrO層)45によるガス感応層52のセンサ抵抗値(空気中)が年間を通して安定していることが分かる。それに比べ素子Bの(SnO層)によるガス感応層のセンサ抵抗値(空気中)は、気温が高く湿気が多い高温多湿の夏場において低く、気温が低く湿気が少ない低温少湿の冬場の約5割程度であることが分かる。素子Bにおける夏場のセンサ抵抗値(空気中)の低下の主要因は高湿によるものであり、SnOに対する酸素吸着量の変化と推測される。
【0079】
センサ抵抗値(空気中)の変動は、2000ppmCH/空気のセンサ抵抗値に影響する(センサ抵抗値は同一の方向に動く。夏場は2000ppmCH/空気に対するセンサ抵抗値が低下する)。ガス漏れ警報器においてはセンサ抵抗値により可燃性ガスの濃度を算出し、センサ抵抗値が設定値以下になった場合ガス漏れがあると判断し発報する仕組みになっており、センサ抵抗値の変動は極力抑制することが必要である。
【0080】
本発明の素子A((SnO層/CeZrO層)45によるガス感応層42)では、CeZrOからの潤沢な酸素の供給により常にSnOに対する酸素吸着量が一定になるため、長期に亘るセンサ抵抗値の経時安定性が確保され、抵抗値の経時変化がなく安定したパルス駆動の薄膜ガスセンサが得られた。
【0081】
以上、本発明の薄膜ガスセンサについて説明した。先の説明ではCeZrOを用いたがCeOでも同様な効果が得られるため、上記の固溶体CeZrOに代えてセリア(CeO)とすることもできる。積層数なども同じとすれば良い。
更に先の説明では最初にSnO層を100nm成膜したが、100nmのSnO層を省略し最初からCeZrO層を2nm/SnO層を18nmの繰り返しでも同様の効果が得られる。またCeZrO層/SnO層の膜厚比は一定でなくてもよい。更に成膜の最初はSnO層で最後はCeZrO層になっているがその逆でも良いし、また、成膜の最初と最後が同一であっても良い。また、成膜方法はスパッタで説明してきたが、蒸着、CVD(化学気相成長)法で行っても良い。
【0082】
電池駆動(パルス駆動)の薄膜ガスセンサにおいて、本発明のガス感応層42では、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)やセリア(CeO)という酸素供給性物質による酸素貯蔵層522からの潤沢な酸素の供給により常にSnO層521に対する酸素吸着量が一定になるため、長期に亘るセンサ抵抗値の経時安定性が確保され、抵抗値の経時変化がなく安定したパルス駆動の薄膜ガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図2】ガス感応層を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0084】
100:薄膜ガスセンサ
1:Si基板
2:絶縁支持層
21:SiO
22:CVD−SiN層
23:CVD−SiO
3:ヒーター層(Ta/PtW/Taヒータ)
4:電気絶縁層(SiO絶縁層)
5:ガス検出層
51:感知電極層(Pt/Ta層)
52:ガス感応層
521:SnO
522:酸素貯蔵層
53:ガス選択燃焼層(触媒担持Al焼結材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有するSi基板と、
この貫通孔の開口部に張られるダイアフラム様の熱絶縁支持層と、
熱絶縁支持層上に設けられるヒーター層と、
熱絶縁支持層およびヒーター層を覆うように設けられる電気絶縁層と、
電気絶縁層上に設けられる一対の感知電極層と、
一対の感知電極層を渡されるように電気絶縁層上に設けられるガス感応層と、
を備え、
前記ガス感応層は、SnO層と、酸素供給性物質による酸素貯蔵層と、を交互に積層した積層構造による感応層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO層は、SnO粒子が相互に粒界を介して接する層であり、層内および層間で電気的に導通する層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記酸素貯蔵層は、酸素供給性物質が互いに孤立したアイランド状に形成された層であり、前記酸素貯蔵層の層内及び層間で電気的に不導通な層であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
一層のSnO層と一層の酸素貯蔵層とにより一層の薄膜積層を形成し、このような薄膜積層をn層(nは自然数)重ねた薄膜積層構造を(SnO層/酸素貯蔵層)と定義した場合に、前記ガス感応層は、nが2以上1000以下の薄膜積層構造であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記SnO層の一層の膜厚は1nm以上100nm以下であり、かつ前記酸素貯蔵層の一層の膜厚は0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記酸素貯蔵層の酸素供給性物質は、セリア・ジルコニア固溶体(CeZrO)であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項7】
請求項6に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記セリア・ジルコニア固溶体は、セリア・ジルコニア固溶体の100mol%に対して、セリアがXmol% 、ジルコニアが(100−X)mol%で表される場合に、セリアが1mol%〜99mol%の固溶体であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項8】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
前記酸素貯蔵層の酸素供給性物質は、セリア(CeO)であることを特徴とする薄膜ガスセンサ。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れか一項に記載の薄膜ガスセンサにおいて、
ガス感応層を覆うように設けられ、触媒を担持した焼結材のガス選択燃焼層と、
を備えることを特徴とする薄膜ガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−128773(P2008−128773A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312840(P2006−312840)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(503361927)富士電機機器制御株式会社 (402)
【Fターム(参考)】