説明

薄膜パターンの形成方法及びカラーフィルタ用ブラックマトリックスの形成方法

【課題】レーザー光によるアブレーション加工を行う際、分解物などの洗浄除去を容易に行うことができ、高品質のパターン、特にカラーフィルタ用のブラックマトリックスを形成する方法を提供する。
【解決手段】基材1上に設けられた被加工膜2の表面に、予め水溶性の高分子膜4を形成し、その高分子膜形成面にパターンマスク7を介してレーザー光8を照射してアブレーション加工を行い、その後水洗を行うことにより、樹脂分解物6と残った水溶性高分子膜5を除去し、薄膜パターン10を形成する。この方法は、カラーフィルタ用ブラックマトリックスの形成に好適である。ブラックマトリックスの形成に適用する場合は、被加工膜2を遮光性樹脂膜と、薄膜パターン10をブラックマトリックスと、それぞれ読み替えればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ用ブラックマトリックスに好適な薄膜パターンの形成方法に関するものである。本発明はまた、カラーフィルタ用ブラックマトリックスの形成方法にも関係している。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどの平面ディスプレイの製造、また電子回路の製造など、数μm 〜100μm の精密なパターンを形成することが要求される分野では、フォトマスクや着色感光性樹脂を用いるフォトリソグラフィーが採用されている。フォトリソグラフィーは、感光性樹脂膜(レジスト)の塗布、露光、現像及びエッチングの各工程からなり、パターニングの重ね精度は高いことから2mを超える大型基板への対応も可能とされている。
【0003】
しかしながら、大型基板への露光では、高価な大型露光機や大型の合成石英板からなるフォトマスクが必要となることから、設備コストやランニングコストがかさむ。そこで、このような大型基板への露光における生産性を向上させることを目的に、感光性樹脂の感度を高める材料開発や、マスクを用いない直接描画技術の開発が行われている。
【0004】
一方、レーザー光を用いたアブレーション加工法は、フォトリソグラフィーの問題点である高価なフォトマスクや大型露光機を必要としないカラーフィルタの製造法として注目されている。ここで、アブレーション加工とは、基材上に形成された樹脂薄膜に、パターンマスクを介してレーザー光を照射し、そのレーザー照射された部分を削り取る加工法である。
【0005】
例えば、特開平 8-146408 号公報(特許文献1)には、基板上に形成された不透明被膜に、所定の開口を有するマスクを介してレーザー光を照射して、前記開口を透過したレーザー光による光分解で前記不透明被膜にブラックマトリックスパターンを形成することが記載されている。また特開平 9-80221号公報(特許文献2)には、基板上にポリイミド系高分子有機材料をバインダーとした黒鉛を主成分とする遮光被膜材料を成膜し、そこに所定のパターンを有するマスクを介してレーザー光の照射による光分解現像を施して、遮光マトリックスを形成することが記載されており、遮光マトリックス形成後は、ブラシ水洗やアッシングで洗浄し、分解物を除去するとされている。さらに特開平 11-133226号公報(特許文献3)には、基板上にポリイミド−炭素系の塗膜を形成し、レーザー光によりその塗膜をアブレートして遮光膜パターンを形成することが記載されており、実施例では、レーザー光照射後、純水の高圧スプレーで洗浄し、分解物を除去している。
【0006】
【特許文献1】特開平8−146408号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平9−80221号公報(請求項3、段落0096)
【特許文献3】特開平11−133226号公報(請求項4、段落0031)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アブレーション加工では、発生した樹脂膜の分解物などが残存する問題がある。そこで、上記特許文献3に記載されるような高圧スプレー洗浄などが試みられているものの、完全に除去されるとは限らず、遮光性樹脂の場合には、分解物などがパターン上に溶着し、ムラや突起欠陥となることがあった。
【0008】
そこで本発明の課題は、レーザー光によるアブレーション加工を行う際、分解物などの洗浄除去を容易に行うことができ、高品質のパターン、特にカラーフィルタ用のブラックマトリックスを形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、被加工膜の表面に予め水溶性の高分子膜を形成し、その高分子膜形成面にパターンマスクを介してレーザー光を照射してアブレーション加工を行い、その後水洗を行うことにより、分解物等を除去し、薄膜パターンを形成する方法を提供するものである。
【0010】
この方法は、カラーフィルタ用のブラックマトリックスの形成に有利に使用される。そこで本発明は、基材上に遮光性樹脂膜を形成した後、その表面に水溶性の高分子膜を形成し、その高分子膜形成面にパターンマスクを介してレーザー光を照射してアブレーション加工を行い、その後水洗を行うことにより、分解物等を除去し、カラーフィルタ用ブラックマトリックスを形成する方法をも提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、高価なフォトマスクを用いることなく、薄膜パターンを形成することができ、また被加工膜ないし遮光性樹脂膜の表面に予め水溶性の高分子膜を形成しておくことで、アブレーション加工により発生する樹脂分解物等を後の水洗により容易に除去することができるので、高品質の薄膜パターンないしはブラックマトリックスを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
[薄膜パターンの形成方法]
図1に、本発明の方法により薄膜パターンを得るまでの工程を概略的な断面模式図で示した。本発明による薄膜パターンの形成方法においては、まず図1(A)に示す如く、基材1上に被加工膜2が形成される。次いでこの被加工膜2の表面には、図1の(B)に示す如く、水溶性の高分子膜4が形成される。この状態で、図1(C)に示す如く、水溶性高分子膜4の形成面にマスクパターン7を介してレーザー光8を照射してアブレーション加工を行う。このアブレーション加工により、図1(D)に示す如く、レーザー光が照射された部分の水溶性高分子膜4及び被加工膜2が削り取られ、レーザー照射されていない部分の被加工膜3及び水溶性高分子膜5が基材1上に残った状態となる。ただしこの段階では、アブレーション加工による樹脂分解物6が、削り取られた開口部や水溶性高分子膜5上に残っており、一部はパターンとして残った水溶性高分子膜5に付着していることもある。そこで、その後水洗を行うことで、図1(E)に示す如く、樹脂分解物6を水溶性高分子膜5とともに洗い流して、アブレーション加工後に残った被加工膜3だけが薄膜パターン10として基材1上に形成された状態とする。被加工膜2の表面に予め水溶性の高分子膜4を形成しておき、その状態でアブレーション加工を行うことで、このような樹脂分解物6が水洗だけで除去できるようになった。基材1としては、例えばガラス板などが用いられる。
【0014】
この方法は、カラーフィルタ用ブラックマトリックスの形成に好適に用いることができる。そこで次に、液晶表示に用いられるカラーフィルタの構造と、従来から用いられているカラーフィルタの一般的な形成法について説明する。
【0015】
[液晶表示素子用カラーフィルタの構造]
カラーフィルタは、無アルカリガラスなどからなる透明基板上に、表示単位、すなわち赤(R)、緑(G)及び青(B)の副画素を区画する遮光パターン(ブラックマトリックス)が形成され、それぞれの区画された位置にRGBの透明着色樹脂層が所定の関係で形成された構造になっており、電気信号に応じて駆動される液晶シャッターの表示に合わせて色情報を与えるものである。ブラックマトリックスの形成と同時に、RGBの着色層の重ね合わせや貼り合わせ、品質管理のためのマーク類が、多数形成される。また必要に応じて、透明着色樹脂層上に、平坦化膜(透明保護膜)や液晶駆動のための共通電極となる透明導電膜が形成される。さらに、液晶のセルギャップを規定する柱状スペーサや、液晶パネルの高視野角化のための液晶配向規制構造が形成される。
【0016】
[カラーフィルタの一般的な形成法]
ブラックマトリックスは、カーボンブラックやチタン化合物、フェライト、黒色顔料などの黒色物質を分散した遮光性樹脂からなるものであって、遮光性の樹脂としては、感光性を有し、露光、現像で直接パターン形成が可能なものが一般に用いられている。ブラックマトリックスは、隣接する色画素(副画素)の境界を画し、混色を防止するもので、極めて高い精度と均一性が要求される。ブラックマトリックスの形状は、格子状やストライプが一般的であるが、表示の解像度を高めるために屈曲形状や多角形形状が採用されることもある。
【0017】
RGBの副画素を形成する透明着色樹脂は、透明樹脂に着色剤を分散したものである。透明樹脂として、感光性を有し、露光、現像により透明着色パターンを形成するものが用いられることもあり、また一方で、透明樹脂として非感光性の樹脂を用い、レジストマスクのパターンを積層したのちエッチングすることで透明着色樹脂パターンを形成することもある。透明着色樹脂パターンは、ブラックマトリックスにより形成された所定の開口部を覆う形に形成される。例えば、1画素がRGB三色のストライプで形成される場合、線幅は1画素のピッチの約1/3である。
【0018】
このようにして形成されたカラーフィルタには、必要に応じて、平坦化膜(透明保護膜:Over Coat を略してOCと呼ばれることもある)及び/又は共通電極である透明導電膜が積層される。平坦化膜は、ブラックマトリックス/RGB透明着色樹脂層に重ねて塗布するもので、着色樹脂層とブラックマトリックス層の段差を埋め、液晶セルに適した平滑性を付与するとともに、カラーフィルタから汚染物質が溶出するのを防止する。平坦化膜についても、液晶セル設計の必要性に応じて、微細なパターニングを行うことがある。また、視野角特性を改善するための加工として、液晶の配向方向を分割するためのバンクを透明導電膜上に形成したり、透明導電膜そのものにスリットを形成したりするなどの加工が行われることもある。
【0019】
さらにまた、液晶のセルギャップを調整するための柱状スペーサ(Post Spacer を略してPSと呼ばれることもある)の形成が行われる。柱状スペーサは、上記のブラックマトリックス、RGB透明着色樹脂膜又は透明保護膜のパターンを重ねることでも形成可能であるが、高さ精度や変形特性を極めて厳密に管理することが必要であることから、専用の感光性樹脂層を重ね塗りし、フォトリソグラフィーにより仕上げることが一般に行われている。
【0020】
このように、カラーフィルタの製造では5回から7回のフォトリソグラフィーを必要とする。また近年、フォトマスクを介した露光法に替わって、半導体レーザー光源と光変調素子を用いた直接描画技術が提案されている。
【0021】
[本発明によるブラックマトリックスの形成]
先に述べたように、本発明による薄膜パターンの形成方法は、上で説明したカラーフィルタにおけるブラックマトリックスの形成に有効に使用することができる。この場合は、先に図1を参照して行った説明において、被加工膜2を「遮光性樹脂膜」と、薄膜パターン10を「ブラックマトリックス」と読み替えればよい。
【0022】
このように読み替えたうえで、図1を参照してブラックマトリックスの形成方法を改めて説明すると、まず図1(A)に示す如く、基材1上に遮光性樹脂膜2を形成する。次いでこの遮光性樹脂膜2の表面には、図1(B)に示す如く、水溶性の高分子膜4を形成する。この状態で、図1(C)に示す如く、水溶性高分子膜4の形成面にマスクパターン7を介してレーザー光8を照射してアブレーション加工を行う。このアブレーション加工により、図1(D)に示す如く、レーザー光が照射された部分の水溶性高分子膜4及び遮光性樹脂膜2が削り取られ、レーザー照射されていない部分の遮光性樹脂膜3及び水溶性高分子膜5が基材1上に残った状態となるが、アブレーション加工による樹脂分解物6が残っている。その後水洗を行うことで、図1(E)に示す如く、樹脂分解物6を水溶性高分子膜5とともに洗い流して、アブレーション加工後に残った遮光性樹脂膜3だけがブラックマトリックス10として基材1上に形成された状態とする。カラーフィルタ用のブラックマトリックスを形成する場合、基材1としては、通常ガラス板が用いられる。なかでも無アルカリガラスが好適である。
【0023】
こうしてブラックマトリックスを形成した後は、先にカラーフィルタの一般的な形成法として説明した方法に準じて、RGBの透明着色樹脂パターンなどの必要な層を形成し、カラーフィルタとすることができる。
【0024】
[被加工膜又はブラックマトリックスに用いる樹脂材料]
本発明により薄膜パターンを形成するのに用いる薄膜材料は、レーザー光に対して吸収を示すものであればよく、特に制約されない。用途によっては透明樹脂のままでもよい。また、一般的なフォトリソグラフィーで用いられている感光性樹脂を用いることも可能である。一方、ブラックマトリックスを形成する場合は、遮光性樹脂膜を形成するので、そこには遮光性樹脂を用いる。遮光性樹脂は、例えば、透明樹脂に遮光性の顔料を分散させたものであってよい。
【0025】
薄膜を形成する樹脂材料としては、例えば、スチレンやα−メチルスチレン、ビニルトルエンのような芳香族ビニル化合物、メチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートのような不飽和カルボン酸エステル化合物、アミノエチルアクリレートのような不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル化合物、グリシジル(メタ)アクリレートのような不飽和カルボン酸グリシジルエステル化合物、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニルのようなカルボン酸ビニルエステル化合物、(メタ)アクリロニトリルやα−クロロアクリロニトリルのようなシアン化ビニル化合物、 3−メチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタンや3−エチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン、3−メチル−3−(メタ)アクリロイルオキシエチルオキセタン、3−メチル−3−(メタ)アクリロイルオキシエチルオキセタンのような不飽和カルボン酸オキセタンエステル化合物などの単量体を用いた重合物、メラミンアクリレート樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0026】
樹脂材料として、上に掲げた単量体のそれぞれ単独重合体のほか、2種以上の単量体を組み合わせた共重合体を使用することもできる。共重合体としては、例えば、ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、3−エチル−3−メタクリロイルオキシメチルオキセタン/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、3−エチル−3−メタクリロイルオキシメチルオキセタン/メチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、3−エチル−3−メタクリロイルオキシメチルオキセタン/メチルメタクリレート/メタクリル酸/スチレン共重合体などが挙げられる。
【0027】
これらの樹脂材料は、ポリスチレンを標準としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求められる重量平均分子量が5,000〜400,000の範囲、さらには10,000〜300,000の範囲にあるのが好ましい。
【0028】
ブラックマトリックスを形成する場合の遮光性樹脂膜に用いる遮光性顔料としては、有機及び無機の顔料を用いることができ、具体的には、カラーインデックス(The Society of Dyers and Colourists から出版されている)でピグメント(Pigment )に分類されている化合物をそれぞれ単独で、又は2種以上混合して用いることができる。
【0029】
以上のような樹脂材料を基材1上に塗布し、被加工膜又は遮光性樹脂膜2を形成する。通常は、これらの樹脂材料を有機溶剤に溶解した状態で基材上に塗布し、乾燥することにより、被加工膜又は遮光性樹脂膜2が形成される。この膜の厚みは、通常0.2〜5μm程度である。
【0030】
[水溶性高分子膜]
被加工膜又は遮光性樹脂膜2を形成した後、その表面に水溶性高分子膜4を形成する。通常、水溶性高分子を水に溶かした溶液の形で、被加工膜又は遮光性樹脂膜2の上に塗付し、乾燥することで、この水溶性高分子膜4が形成される。この場合、水溶性高分子の水溶液は、その濃度を 0.1重量%以上、10重量%以下とするのが好ましい。水溶液の濃度が 0.1重量%を下回ると、安定的に膜を形成することが難しくなる傾向にある。また水溶液の濃度が10重量%を超えると粘度が大きくなるため、塗布の効率が低下したり、アブレーションの妨げとなったりするので、好ましくない。
【0031】
水溶性高分子膜4は、後の洗浄の容易さを考慮すると、0.01μm以上、10μm 以下の膜厚で形成するのが好ましい。さらには5μm 以下の膜厚とするのがより好ましい。膜厚が小さすぎると均一な塗布が難しくなる傾向にあり、また膜厚が大きすぎると異物などの欠陥が増加する傾向にあるため、好ましくない。水溶性高分子膜の塗布方法は、目的とする膜厚が得られれば特に制約されないが、例えば、スピンコートや、スリットコート、カーテンコートなどの方法が好適に利用可能である。
【0032】
水溶性高分子膜4を形成するための水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロール、水溶性アクリル樹脂などが例示される。これらの水溶性樹脂には、界面活性剤や可塑剤などが配合されてもよい。なかでもポリビニルアルコールが、水溶性樹脂として好適に用いられる。また、樹脂分解物の除去性の観点から、部分ケン化タイプ、例えば、ケン化度が80〜90モル%程度のポリビニルアルコールがさらに好適である。このようなポリビニルアルコールとして、日本合成化学工業(株)から“ゴーセノール”の冠称を付して販売されているもの、同じく日本合成化学工業(株)から“ゴーセファイマーLWシリーズ”として販売されているもの、(株)クラレから“クラレポバール”の冠称を付して販売されているもの、また他社のこれら相当品を用いることができる。
【0033】
[アブレーション加工]
水溶性高分子膜4を形成した後は、その水溶性高分子膜の形成面に、マスクパターン7を介してレーザー光8を照射し、アブレーション加工を行う。ここで用いるレーザー光源は、アブレーション加工が可能な高出力のパルスを発生できるレーザーであればよく、例えば、CO2 などのガスレーザー、Nd−YAG、Yb−YAG、サファイアなどの固体レーザー、ArF、ArCl、XeCl、XeF、F2 などのエキシマレーザーや、各種の半導体レーザーを用いることができる。とりわけ、高出力のパルスを発生可能なYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)を励起結晶の一つとする固体レーザーや、CO2 などのガスレーザーが好適に用いられる。
【0034】
レーザー光照射の条件は、被加工膜又は遮光性樹脂膜2の種類によっても変動するが、そのエネルギー密度が 0.1〜5J/cm2 程度の範囲となるようにするのが好ましい。また必要に応じて、このようなエネルギー密度で数回、例えば2〜10回ショットすることも可能である。レーザー光の照射により、被加工膜又は遮光性樹脂膜2を効果的に削り取ることができる。
【0035】
こうしてアブレーション加工を施した後は、水洗することで、アブレーション加工により生成した樹脂分解物6を水溶性高分子膜5とともに除去し、薄膜パターン又はブラックマトリックス10を高い精度で得ることができる。水洗は一般に、水を吹き付けるシャワー洗浄によって行われる。その際の圧力や時間などは、アブレーション加工後に残る水溶性高分子膜5及び樹脂分解物6が除去できるような条件とすればよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、濃度を表す%は、特記ないかぎり重量基準である。
【0037】
[実施例1]
370×470mm の無アルカリガラス〔コーニング社から入手した“1737”、0.7mm厚〕基板上に、遮光性感光性樹脂〔新日鐵化学(株)から入手した“V259-BKIS-66”〕を塗布し、ホットプレート上にて90℃で110秒間プリベークして膜厚1.2μmの遮光性樹脂膜を形成した。別途、ポリビニルアルコール〔(株)クラレから入手した“クラレポバール PVA 205”:ケン化度が約86.5〜89.0モル%の部分ケン化タイプ〕を水に溶かして1%水溶液とし、この水溶液を上の遮光性樹脂膜上に、スリット状ノズルを用いて塗布し、乾燥して、膜厚0.05μmの水溶性樹脂膜を形成した。
【0038】
この遮光性樹脂膜/水溶性樹脂膜の積層膜に対し、半導体励起固体レーザー(DPSS:Diode Pumped Solid State)(励起結晶はNd−YAG)を用い、所定のパターンマスクを介してエネルギー密度1.5J/cm2でレーザーを5ショット照射し、アブレーション加工を行って、周期的に開口部が配列されたマトリックス状のパターンを形成した。加工後の基板はシャワー現像を行うことにより水洗し、遮光性樹脂表面を覆っている樹脂分解物を水溶性樹脂膜とともに除去した。
【0039】
洗浄前の遮光性樹脂マトリックス表面の顕微鏡写真を図2に、また洗浄後の遮光性樹脂マトリックス表面の顕微鏡写真を図3に、それぞれ示した。これらの図において、横長の長方形に写っているところが、アブレーション加工により削り取られた開口部であり、その周囲が遮光性樹脂パターンとして残った部分である。これらの写真は反射光で撮影したものであって、洗浄前の図2においては、削り取られた開口部周辺にスス状の残渣が付着しており、遮光性樹脂パターンが黒っぽく写っているが、洗浄後の図3においては、洗浄により残渣がなくなり、その部分の反射が強くなったため、遮光性樹脂パターンも白っぽく写っている。洗浄前の図2において、遮光性樹脂パターン上に白っぽい針状の物体が認められ、白っぽい斑点も散在するところ、これらがアブレーション加工により削り取られた樹脂分解物である。これに対し、洗浄後の図3においては斑点等が認められないので、シャワー洗浄によって遮光性樹脂表面の樹脂分解物が除去できていることがわかる。
【0040】
レーザー照射のエネルギー密度を1.0J/cm2及び0.5J/cm2にそれぞれ変更する以外は、上と同様にしてアブレーション加工及び水洗を行った。結果は図2及び図3と同じ傾向で、シャワー洗浄により遮光性樹脂表面の樹脂分解物が除去できていた。
【0041】
[比較例1]
実施例1において、遮光性樹脂膜上にポリビニルアルコール膜を形成せずにアブレーション加工を行った以外は、実施例1と同じ方法でマトリックス状パターンを形成した。洗浄前の遮光性樹脂マトリックス表面の顕微鏡写真を図4に、また洗浄後の遮光性樹脂マトリックス表面の顕微鏡写真を図5に、それぞれ示した。アブレーション加工により削り取られた開口部と遮光性樹脂パターンの関係は図2及び図3と同様である。洗浄後の図5においても、黒っぽい斑点が残っており、シャワー洗浄によって遮光性樹脂表面の樹脂分解物を完全には除去できないことがわかる。
【0042】
レーザー照射のエネルギー密度を1.0J/cm2及び0.5J/cm2にそれぞれ変更する以外は、上と同様にしてアブレーション加工及び水洗を行った。結果は図4及び図5と同じ傾向で、シャワー洗浄により遮光性樹脂表面の樹脂分解物を完全には除去できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、遮光性樹脂膜上に、水溶性の高分子膜を形成したのち、レーザーアブレーション加工を行うことで、アブレーションに付随して生成する樹脂の分解物などの付着物を容易に除去することができ、高性能のブラックマトリックスを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明により薄膜パターンを得るまでの工程を概略的に示す断面模式図である。
【図2】実施例1における洗浄前の遮光性樹脂マトリックス表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図3】実施例1における洗浄後の遮光性樹脂マトリックス表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図4】比較例1における洗浄前の遮光性樹脂マトリックス表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【図5】比較例1における洗浄後の遮光性樹脂マトリックス表面の状態を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0045】
1……基材、
2……被加工膜(又は遮光性樹脂膜)、
3……アブレーション加工後に残る被加工膜(又は遮光性樹脂膜)、
4……水溶性の高分子膜、
5……アブレーション加工後に残る水溶性の高分子膜、
6……アブレーション加工による樹脂分解物、
7……パターンマスク、
8……レーザー光、
10……薄膜パターン(又はブラックマトリックス)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工膜の表面に予め水溶性の高分子膜を形成し、その高分子膜形成面にパターンマスクを介してレーザー光を照射してアブレーション加工を行い、その後水洗を行うことを特徴とする薄膜パターンの形成方法。
【請求項2】
基材上に遮光性樹脂膜を形成した後、その表面に水溶性の高分子膜を形成し、その高分子膜形成面にパターンマスクを介してレーザー光を照射してアブレーション加工を行い、その後水洗を行うことを特徴とするカラーフィルタ用ブラックマトリックスの形成方法。
【請求項3】
水溶性の高分子膜が0.01μm以上 10μm以下の膜厚で形成される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水溶性の高分子膜がポリビニルアルコールで形成される請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
ポリビニルアルコールが部分ケン化タイプである請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−310266(P2007−310266A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−141246(P2006−141246)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】