説明

薄膜太陽電池およびその製造方法

【課題】簡易な方法にて必要な絶縁耐電圧性を確保した信頼性の高い薄膜太陽電池およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】透光性絶縁基板1の表面に第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4が順次積層されてなる薄膜光電変換素子5が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングS1を形成するストリング形成工程と、透光性絶縁基板1の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分を光ビームによって除去して非導電性表面領域8を全周に形成する膜除去工程と、膜除去工程で発生して非導電性表面領域8に付着した導電性付着物を除去する清浄化工程とを含むことを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁耐電圧性の信頼性が向上する薄膜太陽電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薄膜太陽電池として、例えば特許文献1には、透光性絶縁基板の表面に透明電極層、光電変換層および金属電極層が順次積層されてなる薄膜光電変換素子が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングを備え、ストリングを含む透光性絶縁基板の表面全面を樹脂層および保護フィルムで封止した構造の薄膜太陽電池が開示されている。
【0003】
このような薄膜太陽電池は、外周縁に金属フレームが取り付けられて設置箇所に設置されるため、金属フレームへの落雷によって破壊されないような絶縁耐電圧性が要求されている。
特許文献1の薄膜太陽電池の場合、透光性絶縁基板の外周部端面から内側へ所定寸法離れた位置に、透明電極層、光電変換層および金属電極層(以下、導電膜と称する場合がある)が除去されてなる絶縁分離線が0.5mm〜1cm程度の幅で形成されており、この絶縁分離線によって必要な絶縁耐電圧性を確保している。
絶縁分離線の形成方法としては、レーザ光、研磨機または微粒子の吹付けを用いて導電膜を除去する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2000−261019号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、研磨機を用いる研磨法や微粒子を吹付けるブラスト法によって機械的に絶縁分離線を形成する場合、導電膜を機械的に除去するため、透光性絶縁基板にダメージを与えるため、好ましい加工方法とは言えない。また、加工後に研磨屑、砥粒、微粒子等がストリング表面に付着するため水洗浄する工程が必要であり、さらに、洗浄に使用した水の処理も必要となるため、製造工程およびコストが増加する。また、化学エッチングによって導電膜を除去することも考えられるが、このようなウェットプロセスの場合、洗浄工程の追加に加え、薬液濃度、温度等の管理が必要であるため、加工装置が複雑となり、結果的にコストアップを招くため好ましくない。
【0005】
また、レーザ加工により導電膜を除去する場合、薄膜太陽電池の封止前に、絶縁試験装置で絶縁耐電圧性を評価すると、絶縁不良が生じる場合があることが本発明者らの実験によって明らかとなった。このとき、不良解析を行うと、レーザ加工時に発生する導電性加工粉塵やこの導電性加工粉塵の焼付き物が、絶縁分離線における露出した透光性絶縁基板表面に付着しており、これらが原因となって絶縁不良が発生することが判明した。また、薄膜太陽電池のシステム電圧が高くなるのに伴って、絶縁耐圧試験での印加電圧が高くなる場合は、絶縁不良の問題が顕著になった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の課題を解決し、簡易な方法にて必要な絶縁耐電圧性を確保した信頼性の高い薄膜太陽電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして、本発明によれば、透光性絶縁基板の表面に第1電極層、光電変換層および第2電極層が順次積層されてなる薄膜光電変換素子が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングを形成するストリング形成工程と、前記透光性絶縁基板の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分を光ビームによって除去して非導電性表面領域を全周に形成する膜除去工程と、前記膜除去工程で発生して前記非導電性表面領域に付着した導電性付着物を除去する清浄化工程とを含む薄膜太陽電池の製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、前記薄膜太陽電池の製造方法によって製造された薄膜太陽電池であって、前記透光性絶縁基板の表面に形成された前記ストリングと、透光性絶縁基板の表面の外周部に形成された前記非導電性表面領域とを備え、非導電性表面領域は、透光性絶縁基板の外周部の端面から内側へシステム電圧に応じた幅以上の幅で形成されている薄膜太陽電池が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非導電性表面領域を形成する膜除去工程において、光ビームによって除去された第1電極層、光電変換層および第2電極層が導電性付着物として非導電性表面領域に付着しても、非導電性表面領域を清浄化することにより、確実に付着物を除去することができるため、絶縁耐電圧性の信頼性が向上した薄膜太陽電池を高い歩留まりで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の薄膜太陽電池の製造方法は、透光性絶縁基板の表面に第1電極層、光電変換層および第2電極層が順次積層されてなる薄膜光電変換素子が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングを形成するストリング形成工程と、前記透光性絶縁基板の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分を光ビームによって除去して非導電性表面領域を全周に形成する膜除去工程と、前記膜除去工程で発生して前記非導電性表面領域に付着した導電性付着物を除去する清浄化工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記導電性付着物とは、前記膜除去工程において、光ビームを照射して透光性絶縁基板の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分(第1電極層、光電変換層および第2電極層からなる導電膜)を除去する際に発生して非導電性表面領域に付着した導電性加工粉塵、およびこの導電性加工粉塵が光ビームによって非導電性表面領域に焼き付いた導電性焼付物のうち、少なくとも一方が含まれる。以下、薄膜光電変換素子部分を素子と称し、除去されるべき薄膜光電変換素子部分を導電膜と称する場合がある。
【0012】
導電性付着物が非導電性表面領域に付着していると、薄膜太陽電池に必要な絶縁耐電圧性が得られない場合があり、薄膜太陽電池(主に薄膜太陽電池の外周部に取り付けた金属製フレーム)に落雷した際の故障の原因となる。
本発明は、非導電性表面領域に付着した導電性付着物を除去して清浄化することにより、所望の絶縁耐電圧性を有する薄膜太陽電池を高い歩留まりで製造することができる。特に、光ビーム照射による非導電性表面領域の形成は、光ビーム照射を平行移動させて複数本の溝を形成することにより行われるため、この工程において上述のような付着物の発生を回避することは困難であり、本発明では清浄化工程によって付着物を確実に除去することができる。
【0013】
ここで、絶縁耐電圧性とは、薄膜太陽電池の外周縁に取り付けられたフレームと薄膜太陽電池との間に所定の高電圧を印加しても、フレームと薄膜太陽電池との間で放電しない特性を意味し、例えば、国際規格(IEC:61730および61646)で定められた絶縁耐電圧試験によって所定の絶縁耐電圧性が得られているか調べることができる。システム電圧が1000Vの薄膜太陽電池モジュールの場合、国際規格では雷サージ耐圧6KVに対する絶縁耐電圧性が必要とされている。
【0014】
本発明では、拭取工程後の薄膜太陽電池が所望の絶縁耐電圧性を有しているか調べるための検査工程を含んでいてもよい。この検査工程は、薄膜太陽電池1枚毎に行われ、第2電極層を接地した状態で透光性絶縁基板の外周部端面に所定の電圧を印加し、抵抗値が所定値以上(電流値が所定値以下)であれば合格と判断する。印加電圧は、薄膜太陽電池のシステム電圧に応じた電圧に設定され、例えば、システム電圧1000Vの薄膜太陽電池である場合は6000Vの電圧を印加し、電流値が50μA未満であれば合格と判断する。
【0015】
本発明において、清浄化工程は、作業者(人力)によって行われても機械的に行われてもどちらでもよいが、いずれにしても非導電性表面領域に存在する付着物が除去しきれずに残留し、それによって検査工程で抵抗値が所定値未満となる場合を想定しておくことが望ましい。
そのため、本発明は、最初の検査工程での抵抗値が所定値未満(電流値が所定値超)である場合、前記清浄化工程および検査工程をこの順に1回以上繰り返してもよい。このようにすれば、付着物の残留によって抵抗値が所定値未満となる不具合を皆無に近づけることができ、薄膜太陽電池が必要とする絶縁耐電圧性の信頼性をより高め、かつ歩留まりを100%に近づけることができる。
なお、絶縁不良であった薄膜太陽電池は、導電性焼付物が剥離せず除去が困難であるか、あるいは導電膜が完全に除去されずに残存している可能性があるため、目視検査等をすることによって非導電性表面領域の絶縁不良箇所を特定し、その部分のみを機械的な研磨をして絶縁処理し、再度の絶縁検査によって合格させれば廃棄せずに済む。
【0016】
本発明において、清浄化工程は、薄膜太陽電池を傷付けることなく非導電性表面領域に存在する導電性付着物を除去できれば、その手段は特に限定されるものではない。
具体的には、拭取材を用いて非導電性表面領域の付着物を拭き取る方法、エアーを噴射して非導電性表面領域の付着物を吹き飛ばす、エアーと共に非導電性表面領域の付着物を吸引する等の方法が挙げられ、これらを組み合わせてもよい。これらの中でも、導電性加工粉塵よりも除去し難い導電性焼付物を効果的に除去できる観点から、少なくとも拭取材による除去方法が含まれていることが好ましい。
【0017】
本発明において、拭取材としては、拭取りの際に外部に露出している透光性絶縁基板および第2電極層等を傷付けない拭取基材に有機溶剤を染み込ませてなるものを用いることができる。非導電性表面領域に焼き付いている導電性焼付物(付着物)であっても、拭取基材との摩擦による物理的な作用により非導電性表面領域から剥がされ、かつ有機溶剤によって濡れた拭取基材にて付着物は再付着することなく拭き取られる。
このような拭取基材としては、布、不織布またはスポンジが好適である。
また、有機溶剤としては、拭取後すぐに非導電性表面領域から揮発する揮発性の高いものが好ましく、例えばエタノール、アセトン等が好適である。揮発性の高い有機溶剤を使用することより、拭取り処理した非導電性表面領域に有機溶剤液が残りにくくなり、次の検査工程での検査信頼性をより高めることができる。
【0018】
この製造方法によって得られる薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板の表面に形成されたストリングと、透光性絶縁基板の表面の外周部に形成された非導電性表面領域とを備え、非導電性表面領域は、透光性絶縁基板の外周部の端面から内側へシステム電圧に応じた幅以上の幅で形成されている。
例えば、薄膜太陽電池のシステム電圧が301〜600Vでは6.4mm以上、システム電圧が601〜1000Vでは8.4mm以上必要であると、国際規格(IEC:61730および61646)によって規定されている。
【0019】
ところで、非導電性表面領域を形成する際、非導電性表面領域に隣接する各薄膜光電変換素子の端面部分に付着物が付着したり焼き付き、それらが拭き取られずに残存することで、第1電極層と第2電極層が付着物によって短絡してその素子が発電しなくなるおそれがある。また、拭取り動作によって発電セルを破壊してしまうおそれもある。この場合、複数の素子のうち短絡によって発電しなくなるおそれがある素子は、素子直列接続方向の両端に位置する素子以外の素子である。なお、直列接続方向の両端に位置する素子のうち、電流取り出し側の素子は発電に寄与しない。
【0020】
そこで、本発明においては、複数個の薄膜光電変換素子が直列接続方向と直交する方向に位置する非導電性表面領域とストリングとの境界から内側へ0.5〜10mm離れた位置に、薄膜光電変換素子部分(第1電極層、光電変換層および第2電極層からなる導電膜)が除去されてなる絶縁分離ラインが10〜300μm程度の幅でさらに形成されていてもよい。
絶縁分離ラインを形成することで、直列接続方向の両端に位置する素子以外の各素子の非導電性表面領域に隣接する端面を絶縁分離し、各素子の短絡を防止することができる。
なお、本発明においては、絶縁分離ラインによって切り離された部分を含めてストリングと称している。
以下、図面を参照しながら本発明の薄膜太陽電池およびその製造方法について説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1は本発明の薄膜太陽電池の実施形態1を示す平面図であり、図2は図1のA−A線断面図であり、図3は図1のB−B線断面図である。
この薄膜太陽電池は、長方形の透光性絶縁基板1と、透光性絶縁基板1の表面上に第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4が順次積層されてなる薄膜光電変換素子5が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングS1を備えたスーパーストレート型の薄膜太陽電池である。
【0022】
〔透光性絶縁基板および第1電極層〕
透光性絶縁基板1としては、以降の膜形成プロセスにおける耐熱性および透光性を有するガラス基板、ポリイミド等の樹脂基板等が使用可能である。
また、第1電極層2は、透明導電膜からなり、好ましくは、ZnOまたはSnO2を含む材料からなる透明導電膜からなる。SnO2を含む材料は、SnO2自体であってもよく、SnO2と別の酸化物の混合物(例えば、SnO2とIn23の混合物であるITO)であってもよい。
【0023】
〔光電変換層〕
光電変換層3を構成する各半導体層の材料は、特に限定されず、例えば、シリコン系半導体、CIS(CuInSe2)化合物半導体、CIGS(Cu(In,Ga)Se2)化合物半導体等からなる。以下、各半導体層がシリコン系半導体からなる場合を例にとって説明を進める。「シリコン系半導体」とは、非晶質又は微結晶シリコン、又は非晶質又は微結晶シリコンに炭素やゲルマニウム又はその他の不純物が添加された半導体(シリコンカーバイド、シリコンゲルマニウム等)を意味する。また、「微結晶シリコン」とは、結晶粒径が小さい(数十から千Å程度)結晶シリコンと、非晶質シリコンとの混合相の状態のシリコンを意味する。微結晶シリコンは、例えば、結晶シリコン薄膜をプラズマCVD法などの非平衡プロセスを用いて低温で作製した場合に形成される。
【0024】
光電変換層3は、第1電極2側から順にp型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層が積層されてなる。
p型半導体層には、ボロン、アルミニウム等のp型不純物原子がドープされており、n型半導体層にはリン等のn型不純物原子がドープされている。i型半導体層は、完全にノンドープである半導体層であってもよく、微量の不純物を含む弱p型または弱n型で光電変換機能を十分に備えている半導体層であってもよい。なお、本明細書において、「非晶質層」及び「微結晶層」は、それぞれ、非晶質および微結晶の半導体層を意味する。
また、光電変換層3は、pin構造が複数重ねられたタンデム型でもよく、例えば、第1電極2上にa-Si:Hp層、a-Si:Hi層、a-Si:Hn層をこの順に積層した上部半導体層と、上部半導体層上にμc-Si:Hp層、μc-Si:Hi層、μc-Si:Hn層をこの順に積層した下部半導体層とから構成されてもよい。また、pin構造を上部半導体層、中部半導体層および下部半導体層からなる3層構造の光電変換層3としてもよく、例えば、上部および中部半導体層にアモルファスシリコン(a-Si)、下部半導体層に微結晶シリコン(μc-Si)を用いた3層構造でも構わない。光電変換層3の材料および積層構造の組み合わせは、特に限定されるものではない。なお、本願の実施形態および実施例においては、薄膜太陽電池の光入射側に位置する半導体層を上部半導体層とし、光入射側と反対側に位置する半導体層を下部半導体層とした。
【0025】
〔第2電極層〕
第2電極層4の構成や材料は、特に限定されないが、一例では、第2電極4は、透明導電膜と金属膜とが光電変換層上に積層した積層構造を有する。透明導電膜は、ZnO、ITO、SnO2などからなる。金属膜は、銀、アルミニウム等の金属からなる。なお、第2電極層4はAg、Al等の金属膜のみでも良いが、ZnO、ITO、SnO2等の透明導電膜を光電変換層3側に配置した方が、光電変換層3で吸収されなかった光を裏面電極層4で反射する反射率が向上し、高い変換効率の薄膜太陽電池を得ることができる点で好ましい。
【0026】
〔ストリング〕
ストリングS1は、表面に複数の分離溝7が形成されている。この複数の分離溝7は、一の薄膜光電変換素子5の第2電極4および光電変換層3と、隣接する他の薄膜光電変換素子5の第2電極4および光電変換層3とを電気的に分離するよう、素子直列接続方向と直交する方向(透光性絶縁基板1の長辺方向)に延びて形成されている。また、ストリングS1の素子直列接続方向の一端(図2における左端)の第1電極、光電変換層および第2電極からなる積層膜5aは、直列接続方向の幅が狭く形成されているため実質的に発電に寄与しておらず、そのため、この積層膜5aの第2電極は、隣接する薄膜光電変換層5の第1電極2の引き出し電極4aとして用いられている。また、図3に示すように、上述の付着物が素子端面に付着することによるリークを防ぐために、各素子5における長手方向両端の光電変換層13および第2電極層14を第1電極層12よりも内側へ削っている。
【0027】
また、ストリングS1は、透光性絶縁基板1の外周端面(四辺の端面)よりも内側に形成されている。つまり、透光性絶縁基板111の表面の外周領域は、第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4が付着していない非導電性表面領域8とされている。
この非導電性表面領域8は、ストリングS1の形成途中において基板外周部に存在する第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4を除去することにより形成され、かつ非導電性表面領域8を形成する際に生じた上述の付着物が除去され清浄化された絶縁領域であり、その幅Wは上述のように薄膜太陽電池の出力電圧に応じた寸法範囲に設定されている。
【0028】
〔その他の構成〕
ストリングS1における素子直列接続方向の両端に位置する第2電極4および引き出し電極4aの上には、それらの長手方向に沿ってバスバー10がろう材9(例えば、銀ペースト)にて電気的に接続されている。なお、各バスバー10には図示しない取り出し線(例えば銅線)が電気的に接続されている。
また、透光性絶縁基板1上にはストリングS1および非導電性表面領域8を完全に覆うように裏面封止材18が接着層17を介して積層されている。接着層17としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる封止樹脂シートを用いることができる。裏面封止材18としては、例えば、PET/アルミニウム/PETの積層フィルムを用いることができる。なお、接着層17および裏面封止材18には、各取り出し線の先端を外部へ導出するための小孔が予め形成されている。
また、裏面封止材18上には、各取り出し線と電気的に接続される出力線および端子を有する端子ボックスが取り付けられる。
また、裏面封止材18および接着層17にて封止された薄膜太陽電池の外周部にはフレーム(例えば、アルミニウム製)が取り付けられる。
【0029】
<薄膜太陽電池の製造方法について>
上述の薄膜太陽電池は、透光性絶縁基板1の表面に第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4が順次積層されてなる薄膜光電変換素子5が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングS1を形成するストリング形成工程と、透光性絶縁基板1の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分を光ビームによって除去して非導電性表面領域8を全周に形成する膜除去工程と、膜除去工程で発生して非導電性表面領域8に付着した導電性付着物を除去する清浄化工程とを少なくとも含み、好ましくは清浄化した非導電性表面領域8の絶縁性を検査する検査工程も含む薄膜太陽電池の製造方法により製造することができる。
【0030】
〔ストリング形成工程〕
ストリング形成工程では、まず、透光性絶縁基板1の表面全面に、CVD、スパッタ、蒸着等の方法により膜厚600〜1000nmの透明導電膜を形成し、透明導電膜を部分的に光ビームによって除去して分離ライン2aを形成することにより所定パターンの第1電極層2を形成する。この際、YAGレーザの基本波(波長:1064nm)を透光性絶縁基板1側から照射することにより、透明導電膜は所定幅で短冊状に分離され、分離ライン2aが所定間隔で形成される。なお、図2において、最も左位置の第1電極層2は素子として機能させない部分であるため幅を狭くしている。
【0031】
この後、得られた基板を純水で超音波洗浄し、その後、p-CVDにより分離ライン2aを完全に埋め込むように光電変換膜を第1電極層2上に形成する。例えば、第1電極2上にa-Si:Hp層、a-Si:Hi層(膜厚150nmから300nm程度)、a-Si:Hn層をこの順に積層して上部半導体層を形成し、上部半導体層上にμc-Si:Hp層、μc-Si:Hi層(膜厚1.5μmから3μm程度)、μc-Si:Hn層をこの順に積層して下部半導体層を形成する。
その後、タンデム構造の光電変換膜を部分的に光ビームによって除去してコンタクトライン2aを形成することにより所定パターンの光電変換層3を形成する。この際、YAGレーザの第二高調波(波長:532nm)を透光性絶縁基板1側から照射することにより、光電変換膜は所定幅で短冊状に分離され、第1電極層2と第2電極層4とを電気的に接続するためのコンタクトライン3aが形成される。なお、レーザとしてYAGレーザの第二高調波の代りにYVO4レーザ(波長:532nm)を用いても構わない。
【0032】
次に、CVD、スパッタ、蒸着等の方法によりコンタクトライン3aを完全に埋め込むように導電膜を光電変換層3上に形成し、導電膜および光電変換層3を部分的に光ビームによって除去して分離ライン7を形成することにより所定パターンの第2電極層4を形成する。これにより、透光性絶縁基板1上に複数の薄膜光電変換素子5が直列接続したストリングが形成される。
この際、導電膜を透明導電膜(ZnO、ITO、SnO2等)と金属膜(Ag、Al等)の2層構造にすることができる。透明導電膜の膜厚としては10〜100nm、金属膜の膜厚としては100〜500nmとすることができる。
また、裏面電極層4のパターニングでは、光ビームによる第1電極層2へのダメージを避けるため、第1導電層2に対する透過性が高いYAGレーザの第二高調波またはYVO4レーザの第二高調波を透光性絶縁基板1側から照射することにより、導電膜は所定幅で短冊状に分離され、分離ライン7が形成される。この際、第1電極層2へのダメージを最小限に抑え、かつ、第2電極層4の加工後の銀電極のバリ発生を抑制する加工条件を選択することが好ましい。
【0033】
〔膜除去工程〕
ストリング形成工程後、透光性絶縁基板1の外周端面から内側へ所定幅で、透光性絶縁基板1の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分である第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4をYAGレーザの基本波を用いて除去して非導電性表面領域8を全周に形成する。これによって、非導電性表面領域8に囲まれたストリングS1が形成される。
この際、絶縁分離領域8はレーザ光の幅よりも広いため、レーザ光の加工幅は150〜1500μmであることが好ましく、400〜1000μmがより好ましい。また、加工状態を良好にするために、ビーム分布は加工方向および及び加工幅方向に対してビームプロファイルが矩形分布に近い形にすることが好ましい。ガウス分布のビームプロファイルより、加工性が向上するためビームのオーバーラップが減らせることにより、レーザの加工本数が減少し、装置のタクトアップが可能になる。
【0034】
〔清浄化工程〕
清浄化工程の一例として、拭取基材(例えば不織布)に有機溶剤(例えばエタノール)を染み込ませた拭取材を用いて、ストリングS1の外周4辺である非導電性表面領域8を拭くことにより、非導電性表面領域8に付着した付着物を拭き取って清浄化する。この際、拭取基材に有機溶剤を染み込ませる量は、ここまでの工程で得られた薄膜太陽電池を次の検査工程で使用する絶縁試験装置に設置するまでの間に、非導電性表面領域8に付着した有機溶剤が十分揮発する量であることが好ましい。
この清浄化工程によって、薄膜太陽電池に必要な絶縁耐電圧性が得られることに加え、非導電性表面領域8と前記接着層17との接着力が向上する利点も得られる。
【0035】
〔検査工程〕
清浄化工程後、薄膜太陽電池を絶縁耐圧試験装置にセットし、第2電極層4の取り出し電極の部分を接地した状態で透光性絶縁基板1の外周部端面に所定の電圧を印加し、電流値が所定値(50μA)以下であれば合格と判断する。
検査の結果、合格であれば次工程へ進み、不合格であれば清浄化工程と検査工程を1〜2回繰り返す。なお、不合格であったために清浄化工程と検査工程を2回繰り返しても不合格であった場合は、絶縁不良とし、ライン上からはじき出し、目視等で不良箇所を確認し、不良箇所のみに機械的研磨を行うリぺヤー工程を行う。
【0036】
〔その他の工程〕
検査工程に合格した薄膜太陽電池の素子直列方向両端の第2電極層4上に銀ペースト9を塗布し、バスバー10を加圧接着し、バスバーを電気的に接続して電流の取り出し部を作製する。
次に、薄膜太陽電池の裏面側(非受光面側)に接着層17の材料として透明なEVAシートおよび裏面封止材18を重ね、真空ラミネート装置を用いて接着層17を介して裏面封止材18を薄膜太陽電池に接着して封止する。この時、裏面封止材18として、PET/Al/PETの積層フィルムを用いることが好ましい。
その後、前記取り出し線を前記端子ボックスの出力線と電気的に接続し、端子ボックスを裏面封止材18に接着し、シリコーン樹脂で端子ボックス内を充填する。そして、薄膜太陽電池の外周部にアルミフレームを取り付けて製品化を完了させる。
その後、第2電極層4を接地した状態でアルミフレームに所定電圧を印加し、電流値が所定値以下であることを確認する。
【0037】
(実施形態2)
図4は本発明の薄膜太陽電池の実施形態2を示す平面図であり、図5は図4のC−C線断面図である。なお、図4および図5において、図1および図3中の構成要素と同一の構成要素には、同一の符号を付している。
実施形態2が実施形態1と異なる点は、複数個の薄膜光電変換素子15が直列接続する方向と直交する方向(素子長手方向)に位置する非導電性表面領域8とストリングS2との境界から内側へ所定距離Lだけ離れた位置に、第1電極層12、光電変換層13および第2電極層14が除去されてなる絶縁分離ライン20が100〜300μmの幅で形成されたことである。
実施形態2の薄膜太陽電池は、絶縁分離ライン20を有していること以外は、基本的に実施形態1の薄膜太陽電池と同様の構成である。
なお、
【0038】
前記距離Lは、ストリングS1の発電領域をできるだけ広く残し、かつ光ビームにて絶縁分離ライン20を容易に形成できる寸法が好ましく、具体的には0.5〜10mm程度が好ましい。
絶縁分離ライン20は、第1電極層12部分に形成された細い幅(30〜100μm程度)の第1溝20aと、光電変換層13部分および第2電極層14部分に形成された太い幅(100〜300μm程度)の第2溝20bとからなり、絶縁分離ライン20の幅は、第2溝20bの幅である。
なお、前記距離Lは、非導電性表面領域8とストリングS2との境界から絶縁分離ライン20における第2溝20bまでの距離である。
【0039】
このように、絶縁分離ライン20によってストリングS1の両端部分を切り離すことにより、上述のように、非導電性表面領域8に臨む第1電極層12と第2電極層14とが導電性付着物によって電気的に接続していた場合でも、その部分に対応する素子が短絡によって発電しなくなる不具合を防止することができる。なお、図4に示す実施形態2では、直列接続方向の両端に位置する素子にも絶縁分離ライン20が形成されているが、この両端の素子には絶縁分離ライン20を形成しなくてもよい。
【0040】
実施形態2の製造方法は、実施形態1の膜除去工程において、絶縁分離ライン20を形成する工程が含まれること以外は、実施形態1と同様である。
絶縁分離ライン20を形成するに際しては、第1電極層12、光電変換層13および第2電極層14をYAGレーザの基本波で除去して第1溝20aを形成した後、その両側の光電変換層13および第2電極層14を第二高調波で除去して第2分離溝20bを形成する。あるいは、第二高調波で光電変換層13および第2電極層14を除去して第2分離溝20bを形成した後、その溝内の第1電極層12をYAGレーザの基本波で除去し第1分離溝20aを形成する。
この際、YAGレーザの基本波で同じ溝幅の第1溝20aと第2分離溝20bからなる絶縁分離ライン20を形成すると、第1電極層12の加工屑が第1電極層12と第2電極層14の橋渡しをして短絡が生じたり、レーザのエネルギーにより光電変換層13の端面が結晶化して導電率が上がり第1電極層12と第2電極層14が短絡状態となったりするといった問題がある。そこで、本実施形態のように第1溝20aと第2分離溝20bの溝幅を異ならせて短絡を防止している。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
図1〜図3で説明した実施形態1の構造の薄膜太陽電池をシステム電圧1000Vに対応した条件で10000個作製した。
透光性絶縁基板上1として厚さ1.8mm、サイズ560mm×925mmのガラス基板を使用し、ガラス基板上に熱CVD法で膜厚約800nmのSnO2膜を成膜し、YAGレーザの基本波を用いてパターニングして第1電極2を形成した。
この後、得られた基板を純水で超音波洗浄し、その後、a-Si:Hp層、a-Si:Hi層(膜厚約200nm)、a-Si:Hn層からなる上部半導体層と、μc-Si:Hp層、μc-Si:Hi層(膜厚約2μm)、μc-Si:Hn層からなる下部半導体層を成膜することにより光電変換膜を形成し、次に、YAGレーザの第二高調波を用いて光電変換膜をパターニングすることにより、光電変換層3を形成した。
【0042】
次に、マグネトロンスパッタ法により、ZnO膜(膜厚50nm)およびAg膜(膜厚125nm)を成膜した後、YAGレーザの第二高調波等を用いて分離ライン7を形成することにより、所定パターンの第2電極層4を形成した。
次に、ストリングS1の外周部の第1電極層2、光電変換層3および第2電極層4をYAGレーザの基本波を用いて除去して、幅10mmの非導電性表面領域8を形成した。
次に、不織布にエタノールを滴下した拭取材を用いて非導電性表面領域8を拭取った。
その後、得られた薄膜太陽電池を絶縁試験装置にセットし、第2電極層4を接地した状態で透光性絶縁基板1に6000Vを印可し、電流値を測定した。そして、実施例1の薄膜太陽電池10000個について、電流値50μm以下の合格率を調べ、その結果を表1に示した。
【0043】
(比較例1)
実施例1において、非導電性表面領域を拭取らないこと以外は実施例1と同様に、比較例1として300個の薄膜太陽電池を作製し、各薄膜太陽電池について実施例1と同様に電流値を測定し、電流値50μm以下の合格率を調べ、その結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果から、実施例1では、拭取材を用いて非導電性表面領域を清浄化することにより、ほぼ100%の合格率が得られたが、拭取工程を省略した比較例1では大幅に合格率が低下したことがわかった。このことから、非導電性表面領域を形成する膜除去工程において、光ビームによって除去された第1電極層、光電変換層および第2電極層が導電性付着物として非導電性表面領域に付着しており、この付着物が薄膜太陽電池の絶縁耐電圧性を低下させていること、および、付着物の除去は拭取材による拭き取りが簡単でありながら極めて有効であることが確認できた。
【0046】
(実施例2)
実施例1の10000個の薄膜太陽電池をアルミフレームまで取り付けて製品化し、それらについても、前記絶縁試験装置を用い、第2電極層4を接地した状態でアルミフレームに6000Vを印可し抵抗値を測定した。そして、実施例2の薄膜太陽電池10000個について、電流値50μm以下の合格率を調べたところ、合格率は99.98%であった。
【0047】
(実施例3)
図4および図5で説明した実施形態2の構造の薄膜太陽電池を実施例1に準じて1000個作製した。この際、非導電性表面領域8とストリングS2との境界から内側へ1mm離れた位置に、幅200μmの絶縁分離ライン20を形成した。
そして、実施例3の薄膜太陽電池1000個について、実施例1と同様の条件で絶縁試験を行ったところ、合格率は99.90%であった。
【0048】
(実施例4)
実施例3の1000個の薄膜太陽電池をアルミフレームまで取り付けて製品化し、それらについても、実施例2と同様の条件で絶縁試験を行ったところ、合格率は99.90%であった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の薄膜太陽電池の実施形態1を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のB−B線断面図である。
【図4】本発明の薄膜太陽電池の実施形態2を示す平面図である。
【図5】図4のC−C線断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 透光性絶縁基板
2、12 第1電極層
3、13 光電変換層
4、14 第2電極層
5、15 薄膜光電変換素子
8 非導電性表面領域
9 ろう材
10 バスバー
17 接着層
18 裏面封止材
20 絶縁分離ライン
S1、S2 ストリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性絶縁基板の表面に第1電極層、光電変換層および第2電極層が順次積層されてなる薄膜光電変換素子が複数個互いに電気的に直列接続されたストリングを形成するストリング形成工程と、
前記透光性絶縁基板の表面の外周部に形成されている薄膜光電変換素子部分を光ビームによって除去して非導電性表面領域を全周に形成する膜除去工程と、
前記膜除去工程で発生して前記非導電性表面領域に付着した導電性付着物を除去する清浄化工程とを含むことを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記清浄化工程が、拭取材を用いて前記非導電性表面領域に付着した導電性付着物を拭き取ることにより行われる請求項1に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記清浄化工程の後に、清浄化した前記非導電性表面領域の絶縁性を検査する検査工程をさらに含む請求項1または2に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記検査工程において、前記第2電極層を接地した状態で前記透光性絶縁基板の外周部端面に所定の電圧を印加し、抵抗値が所定値以上であれば合格と判断する請求項3に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記検査工程において、抵抗値が所定値未満である場合、前記清浄化工程および検査工程をこの順に1回以上繰り返す請求項4に記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記拭取材が、布、不織布またはスポンジからなる拭取基材に有機溶剤を染み込ませてなる請求項2〜5のいずれか1つに記載の薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の薄膜太陽電池の製造方法によって製造された薄膜太陽電池であって、
前記透光性絶縁基板の表面に形成された前記ストリングと、透光性絶縁基板の表面の外周部に形成された前記非導電性表面領域とを備え、
非導電性表面領域は、透光性絶縁基板の外周部の端面から平面方向内側へシステム電圧に応じた幅以上の幅で形成されている薄膜太陽電池。
【請求項8】
前記複数個の薄膜光電変換素子が直列接続する方向と直交する方向に位置する前記非導電性表面領域と前記ストリングとの境界から平面方向内側へ0.5〜10mm離れた位置に、薄膜光電変換素子部分が除去されてなる絶縁分離ラインが10〜300μmの幅でさらに形成されている請求項7に記載の薄膜太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−206279(P2009−206279A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46640(P2008−46640)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】