説明

薄膜形成装置及び薄膜形成方法並びに光学薄膜

【課題】 2種類以上の物質から安定した光学性能を有する混合膜を得ることができる薄膜形成装置及び薄膜形成方法並びにこの薄膜形成方法によって成膜された光学薄膜を提供すること。
【解決手段】 成膜される第一基板3に成膜物質を提供する第一スパッタリングターゲット5及び第二スパッタリングターゲット6と、第一基板3が配される第一ヤトイ12及び第二基板13が配される第二ヤトイ15が配される回転保持具16と、回転保持具16を回転移動して第一位置18と第二位置20との間で第一ヤトイ12及び第二ヤトイ15を通過させる回転モータ22と、回転保持具16と第一スパッタリングターゲット5との間に配されて可変する第一開口部を有する第一可変機構25と、回転保持具16と第二スパッタリングターゲット6との間に配されて可変する第二開口部を有する第二可変機構27と、第二基板13の成膜状態を検出する測定器とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜や干渉フィルターなどの光学薄膜を作製する薄膜形成装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、顕微鏡等の光学機器には、反射防止膜や干渉フィルター膜などの光学薄膜が多数用いられている。これらの光学薄膜は、単層から100層以上まで、様々な膜構造を有する。これらの光学薄膜において所望の光学特性を得るためには、各層における薄膜の膜厚と屈折率を、正確に制御することが重要となる。
このような光学薄膜において、一つの薄膜の作製(形成)に用いる物質(材料)の種類を増やすことで、光学薄膜の設計の容易化、及び高性能化を図ることができる。このため、近年、混合膜の利用を検討するメーカーが増えている。
【0003】
ここで、成膜技術としては、大きく分けて真空蒸着法とスパッタリング法があげられる。真空蒸着法は大量生産には適する。一方、大面積基板への成膜、真空装置内における雰囲気や成膜レートの安定性に関しては、スパッタリング法が優れている。こうした背景から、混合膜の作製にあたってはスパッタリング法を採用する傾向にある。なお、ここでは、薄膜の作製に用いる物質(材料)をターゲット物質、またはターゲット材料(以下、単にターゲット物質とする。)と称している。また、ターゲット物質の集合体を、ターゲットと称している。
この混合膜の形成にあたっては、例えば、基板の距離と複数のターゲット間の距離を、混合膜を作製するのに最適な距離となるように設定している。そして、各ターゲット物質への印加電力を制御することで、基板上に所望の混合膜を作製するものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
反射防止膜や干渉フィルター膜といった光学薄膜では、所望の光学特性(例えば、分光透過率特性や分光反射率特性)が要求される。このような光学特性を得るには、1つ1つの薄膜が、所望の膜厚と屈折率を有する必要がある。特許文献1に係る薄膜形成装置でこのような薄膜を作製するには、導入ガスの種類と導入圧力、投入電力の相互作用を考慮して、安定したプラズマをターゲット上に発生させる必要がある。
しかしながら、特許文献1に係る薄膜形成装置では、特に、所望の屈折率を持つ薄膜を精度良く作製することは難しい。
【特許文献1】特開2002−266071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、薄膜、特に、2種類以上のターゲット物質を使って作製される混合膜において、所望の屈折率を有する薄膜を精度良く作製することができる薄膜形成装置及び薄膜形成方法、並びにこの薄膜形成方法によって成膜された光学薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
本発明に係る薄膜形成装置は、第一ターゲットを保持する第一保持部と、第二ターゲットを保持する第二保持部と、第一基板が配される第一基板保持部と、前記第一基板とは別の第二基板が配される第二基板保持部と、前記第一基板保持部及び前記第二基板保持部が設けられ、前記第一保持部及び前記第二保持部と対向して配される基板移動部と、該基板移動部を移動させる移動機構と、前記基板移動部と前記第一保持部との間に配され、第一開口部を有する第一可変機構と、前記基板移動部と前記第二保持部との間に配され、第二開口部を有する第二可変機構と、該測定器の測定結果に基づき、前記第一開口部及び前記第二開口部の少なくとも一方の大きさを変化させる制御部とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の成膜装置によれば、成膜量を規定している第一開口部と第二開口部のうち、少なくとも一方の開口幅を、所定の情報に基づいて調整する(以下、フィードバック制御とする)ことができる。これにより、第一基板に到達するターゲット物質(材料)の量が、適宜、調整される。従って、成膜時に、各ターゲット物質(材料)を好適な割合で混合できるので、所望の屈折率を有する薄膜を、屈折率に関して精度良く作製することができる。
【0008】
また、本発明に係る薄膜形成装置は、前記薄膜形成装置であって、測定器が、前記第二基板保持部と対向可能に配されていることを特徴とする。
本発明の薄膜形成装置によれば、第二基板が測定器の前を通過する際に、測定器により第二基板の光学特性を測定することができる。そのため、光学特性の変化を成膜情報として、第一基板の成膜におけるフィードバック制御に利用することができる。すなわち、制御部にて、第一開口部及び第二開口部の少なくとも一方について、好適な開口幅を規定することができる。よって、所望の屈折率を有する薄膜を、屈折率に関してより精度良く作製することができる。
【0009】
また、本発明に係る薄膜形成装置は、前記薄膜形成装置であって、前記第二基板保持部が、第一、第二、及び第三保持領域を備え、前記第一保持領域及び前記第二保持領域と対向する第一孔と、前記第二保持領域前記第三保持領域と対向する第二孔とを有する仕切り部が配されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の薄膜形成装置によれば、3つの第二基板を、異なる3つの保持領域に配することになる。ここで、第一保持領域に保持した第二基板には、第一孔を通過したターゲット物質のみで成膜することができる。また、第二保持領域に保持した第二基板には、第一孔及び第二孔の両方を通過したターゲット物質で成膜することができる。また、第三保持領域に保持した第二基板には、第二孔を通過したターゲット物質のみで成膜することができる。従って、少なくとも1つの第二基板の光学特性を成膜情報として、第一基板にの成膜におけるフィードバック制御に利用することができる。よって、所望の屈折率を有する薄膜を、屈折率に関して精度良く作製することができる。
【0011】
また、本発明に係る薄膜形成装置は、前記薄膜形成装置であって、前記測定器が、前記第一保持領域及び前記第三保持領域に配されていることを特徴とする。
本発明の薄膜形成装置によれば、第一孔のみを通過するターゲット物質により作製された薄膜と、第二孔のみを通過するターゲット物質により作製された薄膜とを、それぞれ測定することができる。従って、第一基板に成膜される混合膜の構成物質ごとに、成膜量を検出することができる。よって、所望の屈折率を有する薄膜を、屈折率に関してより精度良く作製することができる。
【0012】
本発明に係る薄膜形成方法は、第一基板と対向する位置に複数のターゲットを配置し、前記第一基板と同じ側に前記第一基板とは別の第二基板を配置してスパッタリングを行なって、薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記スパッタリングの際に、前記複数のターゲットから、ターゲット物質を飛散させる工程と、前記第二基板の光学特性を測定する工程と、前記光学特性の変化に基づいて、前記第一基板に到達する前記ターゲット物質の量を変化させる工程とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の薄膜形成方法によれば、第二基板の光学特性を測定することによって、第一基板に到達するターゲット物質の量を把握することができる。そのため、ターゲット物質の到達量を、好適に規定することができる。その結果、2つ以上のターゲット物質が好適な割合で混合されるので、所望の屈折率を有する混合膜を、屈折率に関して精度良く作製することができる。
【0014】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記光学特性の変化が、前記第二基板に成膜される薄膜の膜厚変化に基づくものであることを特徴とする。
本発明の薄膜形成装置によれば、第二基板の光学特性の変化を測定器にて計測することによって、第二基板に形成される薄膜の膜厚変化を検出することができる。
【0015】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記光学特性が、光量或いは分光特性であることを特徴とする。
本発明の薄膜形成方法によれば、光学式の測定器にて光量或いは分光特性の変化を計測することによって、第二基板の成膜量を好適に検出することができる。
【0016】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記ターゲット物質の量を変化させる工程が、前記第一基板に一つの薄膜を作製した後に行われることを特徴とする。
本発明の薄膜形成方法によれば、当該層の成膜条件を見直した結果を、次層以降の成膜条件に反映することができる。よって、次層以降の薄膜について、所望の屈折率を有する薄膜を、屈折率に関して精度良く作製することができる。
【0017】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記ターゲット物質の量を変化させる工程が、前記第一基板に一つの薄膜を製作する中で行われることを特徴とする。
本発明の薄膜形成方法によれば、一つの膜の形成時に成膜条件を見直すことができる。よって、屈折率に関してより精度の高い成膜を行うことができる。
【0018】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記ターゲット物質の量を変化させる工程が、前記第一基板への成膜が終了した後に行われることを特徴とする。
本発明の薄膜形成方法によれば、一つの多層膜を成膜する度に成膜条件を見直すので、複数の基板に成膜を行う場合の時間を短縮することができる。
【0019】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記第一基板上に多層膜を形成する際、前記第一基板上に、前記第一基板と同じ屈折率を有する混合膜を作製する工程と、該混合膜の作製工程の後に、前記多層膜を作製する工程とを備え、前記混合膜の作製工程において、前記混合膜の透過光量又は反射光量が増加あるいは減少しないように、前記ターゲット物質の到達量を変化させることを特徴とする。
【0020】
本発明の薄膜形成方法によれば、第一基板上に多層膜を作製する前に、第一基板と同じ屈折率の混合膜を、第一基板上に作製する。この混合膜の作製の際、第一基板へのターゲット物質の到達量を適切に変化させる。よって、第一基板の屈折率に対して、混合膜の屈折率が上方向あるいは下方向に変化することがない。これによって、好適な屈折率を有する多層膜を形成することができる。
【0021】
また、本発明に係る薄膜形成方法は、前記薄膜形成方法であって、前記第一基板上に、高い屈折率を有する高屈折率膜と、該高屈折率膜よりも相対的に低い屈折率を有する低屈折率膜とを有する多層膜を作製する際に、前記高屈折率膜と前記低屈折率膜の略平均の屈折率を有する混合膜を作製する工程と、前記混合膜の透過光量又は反射光量を測定する工程と、理想値と測定値との乖離を減らす方向に前記ターゲット物質の到達量を変化させて、次層以降を成膜する工程とを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明の薄膜形成方法によれば、混合膜の透過光量又は反射光量を測定することで、理想値と測定値との乖離がある場合には、混合膜の膜厚に乖離があると判断することができる。そこで、この乖離を生じさせないように、基板に到達するターゲット物質量を適切に変化させることによって、二層目以降が好適な屈折率を有する多層膜を形成することができる。
【0023】
本発明に係る光学薄膜は、基板と、該基板に少なくとも二層以上の混合膜が積層された光学薄膜であって、一層目の混合膜が、二種類の金属酸化物からり、かつ、前記基板と略同一の屈折率を有し、二層目の混合膜が、前記二種類の金属酸化物からなり、かつ、前記一層目の混合膜の屈折率とは異なる屈折率を有していることを特徴とする。
【0024】
本発明の光学薄膜によれば、1層目の混合膜を介することによって、基板と2層目以降の膜との間の屈折率の変化を滑らかにすることができ、安定した光学特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、屈折率の異なる二つ以上の物質(材料)を用いて成膜を行なう際に、所望の屈折率を有する薄膜を、屈折率に関して精度良く作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
第1の実施形態について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態に係る薄膜形成装置1を、図1から図3に示す。本実施形態に係る薄膜形成装置1では、第一スパッタリングターゲット(第一ターゲット)5と第二スパッタリングターゲット(第二ターゲット)6が、同一円周上に配置されている。ここで、スパッタリングターゲット5及び6は、いずれも真空チャンバ2の内部に配置されている。また、第一スパッタリングターゲット5、及び第二スパッタリングターゲット6の大きさは、それぞれφ4インチである。なお、薄膜形成装置1では、同一円周上に、第三スパッタリングターゲット7も配設可能となっている。これらのスパッタリングターゲットは、第一基板3に、ターゲット物質、すなわち成膜物質を提供するために用いられる。
第一スパッタリングターゲット5は、第一保持部4aに保持されている。この第一保持部4aは、水冷された第一マグネトロンカソード8上に配置されている。第二スパッタリングターゲット6は、第二保持部4bに保持されている。この第二保持部4bは、水冷された第二マグネトロンカソード10上に配置されている。なお、上述のように、第三スパッタリングターゲット7を用いることもできる。この場合、第三スパッタリングターゲット7は、第三保持部4cに保持される。この第三保持部4cは、水冷可能に第三マグネトロンカソード11上に配置される。
【0027】
第一基板3は、第一ヤトイ(第一基板保持部)12上に保持されている。また、第二ヤトイ(第二基板保持部)15上には、第一基板3とは別の第二基板13が保持されている。そして、第一ヤトイ12は、第二ヤトイ15とともに、回転保持具(基板移動部)16に保持されている。回転保持具16は、第一スパッタリングターゲット5、第二スパッタリングターゲット6及び第三スパッタリングターゲット7と対向する位置に配置されている。なお、本実施形態では、回転保持具16からスパッタリングターゲットまでの間隔は、105mmである。
なお、第一ヤトイ12及び第二ヤトイ15は、いずれも同一円周上に配されている。
【0028】
回転保持具16は円板状に形成されている。この回転保持具16は、モータ(移動機構)22に、回転軸17を介して接続されている。よって、回転保持具16は、回転軸17の回りに回転する。この回転により、所定の4つの位置を、第一ヤトイ12及び第二ヤトイ15が通過する。ここで、第一位置18は、ヤトイが第一マグネトロンカソード8と対向する位置である。また、第二位置20は、ヤトイが第二マグネトロンカソード10と対向する位置である。また、第三位置21は、ヤトイが第三マグネトロンカソード11と対向する位置である。また、第四位置は、ヤトイが光学監視ポート53と対向する位置である。回転保持具16を回転させる時の回転数は、10rpm以上が望ましい。なお、この回転数は、50rpm以上がより望ましい。
【0029】
また、薄膜形成装置1は、図4に示すように、第一可変機構25と、第二可変機構27と、第三可変機構28と、シャッター30と、防着板(仕切り部)31とを備えている。ここで、第一可変機構25は、回転保持具16と第一マグネトロンカソード8との間に配置されている。この第一可変機構25は、第一開口部23を有する。第二可変機構27は、回転保持具16と第二マグネトロンカソード10との間に配置されている。この第二可変機構27は、第二開口部26を有する。また、第三可変機構28は、回転保持具16と第三マグネトロンカソード11との間に配置されている。この第三可変機構28は、第一開口部23及び第二開口部26と同様に、不図示の第三開口部を有する。第一開口部23、第二開口部26及び第三開口部は、いずれも、開口部の大きさを変化させることができる。
また、シャッター30は、第一開口部23と第一スパッタリングターゲット5の間、第二開口部26と第二スパッタリングターゲット6の間、及び不図示の第三開口部と第三スパッタリングターゲット7との間に、それぞれ配置されている。このシャッター30は、不図示の駆動系により駆動される。この駆動により、両者(開口部とスパッタリングターゲット)の間を開閉することによって、成膜の開始と終了とを行う。また、図5に示すように、防着板(仕切り部)31は、各スパッタリングターゲット5、6、7の間を仕切っている。防着板31の高さは、排気を妨げない高さとなっている。
【0030】
各可変機構25、27、28は、何れも同一の構成となっている。よって、ここでは、第一可変機構25を例にして説明する。第一可変機構25は、仕切り板32、33と、ボールネジ35と、ガイド36とサーボモータ37とを備えている。仕切り板32、33は一対となって、開口部を形成する。仕切り板32、33は、ボールネジ35、ガイド36、及びサーボモータ37によって、それぞれ対向する方向に直進運動する。これによって、両者の間に形成される間隙、即ち開口部の大きさを変化させることができる。開口部の原点位置は、仕切り板32、33が互いに接触した状態(閉口して開口部が無くなった状態)になっている位置である。この原点位置において、仕切り板32、33の境界線上に、第一スパッタリングターゲット5の中心が位置する。このような位置関係となるように、第一可変機構25と第一スパッタリングターゲット5が、それぞれ配置されている。
また、第一可変機構25は、位置センサー38、40と、不図示のエンコーダを有している。位置センサー38、40は、原点位置の検出を行うために設けられている。また、開口部の開口幅は、エンコーダで検出される。例えば、本実施形態では、開口部の最大開口幅は70mmである。
【0031】
防着板31は、上部防着板31Aと、下部防着板31Bとを備えている。上部防着板31Aには、第一孔31a、第二孔31b及び第三孔31cが形成されている。第一孔31a、第二孔31b及び第三孔31cの形状は、何れも円形である。第一スパッタリングターゲット5より飛散したターゲット物質は、第一孔31aを通過する。同様に、第二スパッタリングターゲット6より飛散したターゲット物質は、第二孔31bを通過する。また、第三スパッタリングターゲット7より飛散したターゲット物質は、第三孔31cを通過する。それぞれの孔を通過したターゲット物質は、第一基板3及び第二基板13に到達する。また、下部防着板31Bは、各スパッタリングターゲット5、6、7の間を区切るための板状部材を有する。この板状部材と、真空チャンバ2の側壁及び真空チャンバ2の底面とで、各スパッタリングターゲット5、6、7について、個別の空間(44,54,64)を形成している。
【0032】
薄膜形成装置1はさらに、測定器41と、制御部42と、直流電源43と、粗引きポンプ45と高真空ポンプ46とを備えている。測定器41は、第二基板と対向可能な位置に配置されている。よって、測定器41を使って、第二基板13の成膜状態を検出することができる。測定器41による測定結果は、制御部42に送られる。制御部42では、測定器41の測定結果に基づき、第一開口部23、第二開口部26、及び第三開口部の少なくとも1つについて、開口部の大きさを変化させる。直流電源43は、直流電力を供給する。この供給された電力によって、各スパッタリングターゲット5、6、7上に、プラズマを発生させることができる。粗引きポンプ45は、真空チャンバ2内の気体を粗引きする。また、高真空ポンプ46は、真空チャンバ2内を高真空にする。
真空チャンバ2には、各スパッタリングターゲットごとに、ガス導入口と真空計が設けられている。このガス導入口を介して、真空チャンバ2内に、処理のためのガスを導入することができる。また、真空計により、チャンバ内の圧力を検出することができる。
前述のように、各スパッタリングターゲットが配置されている空間は、下部防着板31Bで仕切られている。このうち、第一スパッタリングターゲット5が配置されている空間44には、真空計47、ガス導入口48,49が設けられている。また、第二スパッタリングターゲット6が配置されている空間54には、真空計57、ガス導入口58,59が設けられている。第三スパッタリングターゲット7が配置されている空間64には、真空計67、ガス導入口68,69が設けられている。
【0033】
測定器41は、透過型の光学式測定器である。この測定器41は、被測定物に光を照射し、被測定物から来る光の光量(光強度)を検出するものである。測定器41は、光源50と、伝達部材51と、投光側光学系保持部材52と、出射側光学系保持部材55と、モノクロメータ56と、不図示の受光素子とを備えている。伝達部材51は、光源50より発した光を、投光側光学系保持部材52に導光する。投光側光学系保持部材52は、伝達部材51を通った光を、第二基板13に投光する。出射側光学系保持部材55は、第二基板13を透過した光を受光する。受光は、真空チャンバ2の底面に配された光学監視ポート53を介して行なわれる。モノクロメータ56は、伝達部材51を通った光のうち、任意の波長のみを透過させる。受光素子は、モノクロメータ56からの光を電気信号に変換する。
【0034】
投光側光学系保持部材52は、不図示の光学系を有している。また、真空チャンバ2には、第二ヤトイ15が通過する位置と対向する位置に、不図示のφ10mmの孔が形成されている。この孔を通して、投光側光学系保持部材52からの光が、第二基板13に向かって投光される。
モノクロメータ56は、波長400nmから800nmまでの範囲を、1nmおきに分光する。分光された光は、受光素子によって受光される。モノクロメータ56と受光素子の相対位置が一定の場合、単一波長の光が受光素子に入射する。モノクロメータ56と受光素子の相対位置が可変の場合、1nmおきに、各波長の光量データの取り込みが行なえる。このように、モノクロメータ56と受光素子の組み合わせにより、単一波長での測定や、広範囲における分光特性の測定が可能である。
【0035】
制御部42は、成膜の開始に際して、シャッター開信号をシャッター30に伝達する。成膜が開始されると、測定器41による測定が行なわれる。不図示の受光素子では、入射した光量(光強度)が電気信号に変換される。制御部42は、この電気信号を、光量データとして取り込む。光量データの取り込みは、第二基板13の回転に同期して行う。取り込んだ光量データは、毎回、個別に保存される。また、個別に保存した光量データを、蓄積する(全て加算する)していく。なお、光量データを個別に保存せず、順次、蓄積していっても良い。このようにして得られた光量蓄積データは、第二基板13における光量変化を表している。すなわち、この蓄積データは、第二基板13上に形成される薄膜の、形成時間に対する透過率変化(分光透過率の変化)を表している。
ここで、第二基板13上と第一基板3上に作製される薄膜は、いずれも同じ条件で作製されている。そこで、制御部42は、蓄積データから、第一基板の薄膜が、所定の膜厚になったか否かを判断する。そして、所定の膜厚になったと判断したときには、制御部42は、シャッター閉信号をシャッター30に伝達する。これにより、成膜を完了する。
【0036】
次に、薄膜形成装置1による薄膜形成方法、及び作用・効果について説明する。
この薄膜形成方法は、スパッタリングを行なって、第一基板3上及び第二基板13上に薄膜を形成する薄膜形成方法である。この薄膜形成方法では、スパッタリングの際に、第二基板13の光学特性を測定器41にて測定する工程と、光学特性の変化に基づいて、第一基板3に到達する物質の量を変化させる工程とを備えている。第一基板3に到達する物質は、それぞれ各スパッタリングターゲット5、6(場合により、スパッタリングターゲット7)から飛散したターゲット物質である。
本実施形態では、第一スパッタリングターゲット5としてSi、第二スパッタリングターゲット6としてNbを使用する。そして、第一基板3上の1層目、2層目にSiOとNbとの混合膜、3層目にSiO膜を形成して3層の反射防止膜を作製する。なお、Nb単層の屈折率は2.37、SiO単層の屈折率は1.46である。
【0037】
まず、屈折率1.75の第一基板3を、第一ヤトイ12にセットし、屈折率1.52の第二基板13を第二ヤトイ15にセットする。そして、真空チャンバ2内を、粗引きポンプ45及び高真空ポンプ46にて、例えば、7×10−5Paまで排気する。
その後、各スパッタリングターゲット5、6が配置されている空間44,54に、ガスの導入を行なう。空間44には、Arガスを、ガス導入口48から導入する。その際、真空計47で測定を行いながら、4×10−1PaとなるまでArガスを導入する。続いて、Oガスを、ガス導入口49から導入する。この時も、真空計47で測定を行いながら、5×10−1PaとなるまでOガスを導入する。続いて、直流電源43から300wの電力を印加し、第一スパッタリングターゲット5上に、プラズマを発生させる。これにより、3分後に、SiO膜の成膜が可能となる(成膜の準備が完了する)。
【0038】
同様に、空間54には、Arガスを、ガス導入口58から導入する。その際、真空計57で測定を行いながら、7×10−1PaとなるまでArガスを導入する。続いて、Oガスを、ガス導入口59から導入する。この時も、真空計57で測定を行いながら、1PaとなるまでOガスを導入する。続いて、直流電源43から300wの電力を印加し、第二スパッタリングターゲット6上に、プラズマを発生させる。これにより、3分後に、Nb膜の成膜が可能となる(成膜の準備が完了する)。
なお、本実施形態では、SiO膜の成膜の準備と、Nb膜の成膜の準備を同時に行なっている。
また、本実施形態では、成膜にあたって、第一スパッタリングターゲット5と、第二スパッタリングターゲット6だけを用いている。ただし、第三スパッタリングターゲット7を成膜に用いる場合もある。この場合は、真空計67で測定を行いながら、ガス導入口68,69から所定のガスを導入すればよい。
【0039】
続いて、第一開口部23及び第二開口部26の開口幅を、所定の幅に設定する。所定の幅は、過去の成膜データに基づいて算出した値、あるいは開口部の最大値など、適宜に設定すればよい。ここでは、第一開口部23の開口幅と第二開口部26の開口幅は70mm、すなわち、各開口部の最大値に設定されている。開口幅の設定後、回転モータ22を駆動して、回転保持具16を所定の回転数で回転させる。その後、各シャッター30を同時に開けて、成膜を開始する。
ここでは、以下の表1に示す値を設定して成膜した。
【0040】
【表1】

【0041】
この設定に従って、まず1層目の薄膜について、成膜を開始する。成膜が始まると、第一基板3と第二基板13が、第一位置18、第二位置20、第四位置24を、順に通過していく。そして、第二基板13が第四位置24を通過する際、測定器41による単一波長における測定が行われる。測定器41による測定データは、制御部42に送られる。制御部42では、光量データの収集と光量蓄積データの算出が行なわれる。また、制御部42では、光量蓄積データと理想状態を示すデータ(例えば、設計データ)との比較が行なわれる。
ここで、成膜開始から36秒経過した後に、光量蓄積データにおいて、理想の光量変化に対して+0.2%のずれが検出されたとする。この場合、所望の光量変化に対して乖離が発生したことになる。そこで、制御部42は、第一開口部23と第二開口部26について、それぞれの開口幅を変化させる。すなわち、フィードバック制御が行なわれる。ここで、ずれがあった場合の最初の補正値として2%を選択し、これで補正が大きすぎた場合は0.5%刻みの補正とする。また、補正が小さい場合は、さらに2%、補正が大きすぎた場合は戻し方向に0.5%刻みにて補正する。ここでは、第一開口部23の開口幅を、2%狭める処理が行われる。具体的には、仕切り板32、33のそれぞれを、片側0.7mmずつ、互いが接近する方向に移動させる。この結果、第一開口部23の開口幅は、合計1.4mm狭くなった値、すなわち68.6mmに変更される。
さらに、上記の開口幅の変更後も、光量蓄積データと理想状態を示すデータの比較が行なわれる。そして、乖離が発生するたびに、光量蓄積データに基づいて、第一開口部23の開口幅の調整が行なわれる。本実施形態では、時間の経過とともに開口幅を狭め、最終的に67.2mmまで変更する。
このようにして成膜した結果を、図6に示す。図6では、成膜時の透過光量のグラフは、理想状態を示すグラフに対して、時間軸方向においてずれを生じている。しかしながら、成膜時の透過光量のグラフを時間軸方向にシフトさせると、理想状態を示すグラフとほぼ重なる。これは、最終的に、透過光量が、理想状態をとほぼ等しいことを意味している。よって、1層目には、理想状態に近い混合膜、即ち所望の屈折率を有する混合膜が作製されたことになる。
【0042】
続いて、2層目の薄膜について、成膜を開始する。この成膜に関しては、1層目の薄膜を作製した時の調整結果を、2層目の薄膜の作製に利用する。すなわち、2層目の薄膜の作製にあたっては、1層目の成膜時の調整結果がフィードバックされる。
1層目の薄膜の作製では、第一開口部23の開口幅を合計4%修正している。そこで、2層目の薄膜の作製についても、第一開口部23の開口幅を、表1における数値に対して−4%修正した値に設定する。
なお、本実施形態では、3層目の薄膜の作製に関しても、第一開口部23の開口幅を、表1における数値に対して−4%修正した値に設定している。しかしながら、3層目の薄膜の作製に関しては、2層目の成膜時の調整結果を利用しても良い。
このように、本実施形態では、2層目、3層目について、新たに表2に示す開口幅で成膜を行う。
【0043】
【表2】

【0044】
このようにして、3層からなる反射防止膜の作成が終了する。ここで、1層目の屈折率は、所望の屈折率1.80に対して1.80、2層目の屈折率は、所望の屈折率2.19に対して2.19である。このように、本実施形態では、所望の屈折率を有する薄膜を作成することができる。
最終的に得られた反射防止膜は、図7に示すような光学特性(分光反射率特性)を有する。図7に示すグラフからわかるように、所望の反射率特性(理想)が485nmで0.53%であるのに対して、本実施形態の反射防止膜では、ピーク反射率が、490nmで0.53%となっている。即ち、本実施形態の反射防止膜では、ピーク波長が長波長側にシフトした。しかし、波長範囲400nm〜650nmにおいては、反射率は1%以下であった。このように、本実施形態の反射防止膜は、理想の分光反射率特性とほぼ同じ特性を有する。これは、所望の屈折率を有する薄膜が成膜されていることから、当然の結果といえる。
なお、収集したデータと理想状態を示すデータ(例えば、設計データ)との比較を行う上で、透過光量又は反射光量自体、あるいはその変化が大きいことが望ましい。これらは、薄膜の膜厚に依存する。そのため、特に最初の混合膜は、光学膜厚がλ/4であることが望ましい。ここで、λは監視波長で、本実施形態では450nmである。
【0045】
比較例を示す。比較例は本実施形態に係る薄膜形成方法行わないで、1〜3層目の薄膜を作製した。すなわち、比較例では、測定器41を介して収集したデータを、第一開口部23の開口幅の調整に利用していない(フィードバック制御をしていない)。なお、3層目はSiOのみからなるため、本実施形態に係る薄膜形成方法との違いによる影響はない。比較例では、1層目の屈折率が、所望の屈折率1.80に対して1.76、2層目の屈折率が、所望の屈折率2.19に対して2.15となった。得られた反射防止膜の分光反射率特性を、図8に示す。比較例においても、420nm〜650nmの範囲で、反射率が1%以下となっている。ただし、本実施形態で得られた反射防止膜と比較すると、図8に示すように、波長480nm付近のピークが高くなっている。また、平均反射率も高くなっている。
【0046】
このように、本実施形態の薄膜形成装置1によれば、回転保持具16が1回転する間に、第二基板13が第四位置24(光学監視ポート53と対向する位置)を1回通過する。よって、通過時に、測定器41にて、第二基板13の薄膜に対して光学的な測定を行うことができる。
なお、第一基板3上の薄膜と第二基板13上の薄膜は、ともに同じ条件で成膜されている。よって、第二基板13の成膜状態を調べることによって、「第一基板3上の薄膜の成膜状態が、理想の成膜状態からどの程度乖離しているのか」を推測することができる。そこで、乖離の度合に基づいて、第一開口部23の開口幅を調整することができる。
【0047】
これによって、第一スパッタリングターゲット5及び第二スパッタリングターゲット6のターゲット物質について、それぞれのターゲット物質が第一基板3に到達する量を、調整することができる。従って、2つのターゲット物質を好適な割合で混合できるので、所望の屈折率を有する薄膜を、精度良く作製することができる。
すなわち、屈折率の異なる二つ以上のターゲット物質を用いて薄膜を作製するにあたって、任意の屈折率を有する薄膜を容易に、かつ、精度良く作製することができる。
なお、本実施形態では測定器41を用いたが、測定器41は必ずしも必要ではない。すなわち、同じ薄膜を、同じ成膜条件で作製する場合、過去に収集した光学特性のデータを利用して、第一開口部23の開口幅を調整することも可能である。
【0048】
また、測定器41は透過型に限られない。例えば、図9に示すように、反射型の光学式測定器61であってもよい。
この測定器61は、透過光量ではなく反射光量を測定するものである。そして、投光側光学系保持部材52と出射側光学系保持部材55とが一体となった光学系保持部材62が、真空チャンバ2の不図示の孔に対向して配されている。
このように、反射型の光学式測定器61により、薄膜形成装置60においても、薄膜形成装置1と同様の効果が得られる。その一例を、図10に示す。図10は、この測定器61を用いて、1層目の成膜を行った結果を示している。図10において、成膜時の反射光量のグラフは、理想状態を示すグラフに対して、時間軸方向においてずれを生じている。しかしながら、成膜時の反射光量のグラフを時間軸方向にシフトさせると、理想状態を示すグラフとほぼ一致する。これは、最終的に、反射光量が、理想状態をとほぼ等しいことを意味している。よって、1層目には、理想状態に近い混合膜、即ち所望の屈折率を有する混合膜が作製されたことになる。このように、薄膜形成装置60によっても、薄膜形成装置1と同様の作用・効果を奏することができる。
【0049】
次に、第2の実施形態について図11及び図12を参照しながら説明する。
なお、上述した第1の実施形態と同様の構成要素には、同一符号を付している。また、これらの構成要素については、説明を省略する。
第2の実施形態と第1の実施形態の異なる点は、本実施形態に係る薄膜形成装置70の回転保持具71が、円筒型になっている点である。
【0050】
回転軸17は、回転保持具71の中心軸線C上に設けられている。第一基板3及び第二基板13は、不図示の第一ヤトイ及び第二ヤトイを介して、回転保持具71の側面(外周面)に配置されている。第一スパッタリングターゲット5及び第二スパッタリングターゲット6は、回転保持具71を挟んで対向するように配置されている。よって、両者は、中心軸線Cに対して対称となる位置に配置されていることになる。
防着板72は、スパッタリングターゲットごとに配置されている。なお、測定器は反射型の光学式測定器61である。
【0051】
薄膜形成装置70の使用方法は、第1の実施形態と同様である。
即ち、不図示の排気系により、高真空に排気する。その後、不図示のガス導入系より、Arガス及びOガスを導入する。これらのガスは、各々仕切られた空間に、所定圧力になるまで導入する。続いて、不図示の直流電源から、直流電力が各スパッタリングターゲット5、6に印加される。直流電力の印加に伴って、各スパッタリングターゲット5、6から、ターゲット物質が、それぞれ飛散する。飛散した各々のターゲット物質は、第一開口部23及び第二開口部26に到達する。そして、それぞれの開口幅に応じた量のターゲット物質が、第一開口部23及び第二開口部26を通過する。それぞれの開口部を通過したターゲット物質は、第一基板3及び第二基板13上に交互に堆積する。その結果、基板上に、単一膜あるいは混合膜が作製される。成膜の開始及び終了は、不図示の駆動機構を有するシャッター73の開閉によって行われる。
【0052】
この薄膜形成装置70によれば、薄膜形成装置1と同様の作用・効果を奏することができる。
なお、図11及び図12では、回転軸17が紙面の横方向となるように、回転保持具71が配置されている。このような構成では、第一基板3は、紙面の縦方向に回転する。しかし、回転軸17が紙面の縦方向となるように、回転保持具71配置してもよい。この場合、第一基板は、紙面の横方向に回転する。また、スパッタリングターゲットの形状は、円形でも正方形、長方形でもよい。いずれの形状であっても、本実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、回転保持具71の形状は、円筒形でも、基板保持面に長方形を多面有する多角柱型でもよい。いずれの形状であっても、本実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0053】
次に、第3の実施形態について図13から図17を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付している。また、これらの構成要素については、説明を省略する。
第3の実施形態と第1の実施形態の異なる点は、本実施形態に係る薄膜形成装置80の第二ヤトイ81が、第一保持領域81A、第二保持領域81B、及び第三保持領域81Cを備えている点である。この第一保持領域81A、第二保持領域81B、及び第三保持領域81Cには、それぞれ第二基板13A、13B、13Cが保持される。
【0054】
また、防着板82には、防着板31と同様に、3つの孔が形成されている。ただし、3つの孔のうち、2つの孔の形状が防着板31の孔の形状と異なる。第一孔82a及び第二孔82bの形状は、図14に示すように、円形の一部が覆われた形状になっている。また、第三孔82cの形状は円形である。
第一孔82aは、第一スパッタリングターゲット5側から見たときに、第一保持領域81A及び第二保持領域81Bのみが見える大きさを有している。また、第二孔82bは、第二スパッタリングターゲット6側から見たときに、第二保持領域81B及び第三保持領域81Cのみが見える大きさを有している。
なお、第三孔82cは、本実施形態では使用しない。よって、第三孔82cは、第三スパッタリングターゲット7側から見たときに、第一保持領域81A、第二保持領域81B及び第三保持領域81Cのすべてが見える大きさを有している。
また、それぞれの孔は、保持領域と対向する位置に設けられている。
【0055】
成膜が開始されると、第二ヤトイ81は、第一位置18と第二位置20を、交互に通過する。そこで、まず、第二ヤトイ81が、第一位置18に到達したときについて説明する。
第一位置18では、第二ヤトイ81は、第一スパッタリングターゲット5上に位置する。このとき、第一スパッタリングターゲット5から飛散するターゲット物質(以下、単に、第一ターゲット物質とする。)は、第一孔82aを通過して、第二ヤトイ81に到達する。ここで、第一保持領域81A及び第二保持領域81Bは、いずれも、第一孔82aの孔の内側に位置する。そのため、第一ターゲット物質は、第一保持領域81A及び第二保持領域81Bに到達する。よって、第二基板13A及び第二基板13Bには、第一ターゲット物質が堆積していく。すなわち、第二基板13A及び第二基板13Bでは、第一ターゲット物質による成膜が行われる。
一方、第三保持領域81Cは、第一孔82aの孔の外側に位置する。そのため、第一ターゲット飛散する物質は、第三保持領域81Cには到達しない。よって、第二基板13Cには、第一ターゲット物質が堆積しない。すなわち、第二基板13Cでは、第一ターゲット物質による成膜は行われない。
【0056】
次に、第二ヤトイ81が、第二位置20に到達したときについて説明する。第二位置20では、第二ヤトイ81は、第二スパッタリングターゲット6上に位置する。このとき、第二スパッタリングターゲット6から飛散するターゲット物質(以下、単に第二ターゲット物質とする。)は、第二孔82bを通過して、第二ヤトイ81に到達する。ここで、第二保持領域81B及び第三保持領域81Cは、いずれも、第二孔82bの孔の内側に位置する。そのため、第二ターゲット物質は、第二保持領域81B及び第三保持領域81Cに到達する。よって、第二基板13B及び第二基板13Cには、第二ターゲット物質が堆積していく。すなわち、第二基板13B及び第二基板13Cでは、第二ターゲット物質による成膜が行われる。
一方、第一保持領域81Aは、第二孔82bの孔の外側に位置する。そのため、第二ターゲット物質は、第一保持領域81Aには到達しない。よって、第二基板13Aには、第二ターゲット物質が堆積しない。すなわち、第二基板13Aでは、第二ターゲット物質による成膜は行われない。
【0057】
以上のことから、第二基板13Aでは、第一ターゲット物質のみによる成膜が行われる。また、第二基板13Bでは、第一ターゲット物質と第二ターゲット物質による成膜が行われる。また、第二基板13Cでは、第二ターゲット物質のみによる成膜が行われる。
なお、第一ヤトイ12は、第二保持領域81Bと略同一円周上に配されている。そのため、第一基板3には、第一ターゲット物質と第二ターゲット物質による薄膜が作製される。すなわち、第一基板3には、第二基板13Bと同じ薄膜が作製形成される。
【0058】
本実施形態では、3つの測定器41A〜C(図13では、便宜上、モノクロメータ56A〜Cのみが示されている。)が、第二基板13A、13B、13Cのそれぞれに対して、配置されている。そして、制御部42は、各測定器41A〜Cからの電気信号を、光量データとして取り込む。そして、取り込んだ光量データに基づいて、第一可変機構25の第一開口部23における開口幅と、第二可変機構27の第二開口部26における開口幅を変化させる。
【0059】
次に、薄膜形成装置80による薄膜形成方法、及び作用・効果について説明する。
本実施形態では、第一基板3上に、多層膜を成膜している。ここで、第一基板3の屈折率と第二基板13A、13B、13Cの屈折率は1.52であって、同一の屈折率となっている。この第一基板3上に、SiOとNbとの混合膜、或いはそれぞれの単層膜を積層する。より具体的には、多層膜は、高い屈折率を有する高屈折率膜と、高屈折率膜よりも相対的に低い屈折率を有する低屈折率膜とからなり、合計16層の薄膜で構成されている。
ここで、各層の屈折率は、相対的に高い屈折率(H)を2.19、相対的に低い屈折率(L)を1.46とする。
【0060】
まず、第一の実施形態と同様に成膜準備を行う。続いて、各シャッター30を同時に開けて、成膜を開始する。
ここでは、以下の表3に示す値を設定して成膜した。表3に示すように、第一基板3及び第二基板13Bの奇数層目には、SiOとNbの混合膜を、光学膜厚1(実際の膜厚で規格化した値)で成膜する。また、第一基板3及び第二基板13Bの偶数層目には、SiO膜を、光学膜厚1で成膜する。また、第二基板13Aには、SiO膜のみを成膜する。また、第二基板13Cには、Nb膜のみを成膜する。なお、最外層の薄膜のみ、光学膜厚を0.5とした。
【0061】
【表3】

【0062】
この設定に従って、まず1層目の成膜を開始する。成膜が始まると、第一基板3と第二基板13A〜Cが、第一位置18、第二位置20及び第四位置24を、順に通過する。そして、第二基板13A〜Cが第四位置24を通過する際、測定器41A〜Cによる測定が行われる。測定器41A〜Cによる測定データは、制御部42に送られる。制御部42では、光量データの収集と光量蓄積データの算出が行なわれる。また、制御部42では、光量蓄積データと理想状態を示すデータ(例えば、設計データ)との比較が行なわれる。
具体的には、SiO膜のみが作製される第二基板13Aについて、その光量変化を測定器41Cで測定する。また、同時に、Nb膜のみが作製される第二基板13Cについて、その光量変化を測定器41Cで測定する。ここで、1層目の成膜が終了した時で、第二基板13Cの測定結果から、例えば、Nb膜の膜厚が、所望の膜厚より厚く作製されていることが判明したとする。そして、その影響を受けて、混合膜の屈折率が、理想値の2.19に対して2.23と高くなっていたとする。
屈折率2.19は、Nb膜の2.37とSiO膜1.46よりその比は、
Nb膜:SiO膜=80.2%:19.8%
となる。
この比が成膜する光学膜厚の179nmのうち、それぞれの材料が占める比率である。
一方、屈折率2.23となった場合、Nb膜の2.37とSiO膜1.46よりその比は、
Nb膜:SiO膜=84.6%:15.4%
となる。
これより、差分は84.6%−80.2%=4.4%となる。
この場合、Nbの到達量を、膜厚比分の4.4%だけ抑制しなくてはならない。そのために、2層目のSiO膜の成膜が終了するまでの間に、第二開口部26の開口幅を狭くする。そして、3層目以降の成膜を行う。
【0063】
こうして、混合膜層をフィードバックした開口幅で成膜を行い、表4に示す条件を新たに設定して合計16層の成膜を行った。
【0064】
【表4】

【0065】
ここで、第二基板13Cの透過光量変化、即ちNb膜の透過光量変化を図15に示す。図15に示す状態は、第一基板3において、5層目までの成膜が終了した状態である。よって、第二基板13Cには、第一基板3に成膜された多層膜のうちの1,3,5層目と同じ混合膜が作製されていることになる。一方、第一基板3に作製された多層膜の1〜5層目の混合膜と同じ成膜がされた第二基板13Aの透過光量変化、即ちSiOの透過光量変化を図16に示す。また、所望の特性に対して得られた分光特性を図17に示す。
所望の特性(理想特性)に対して、成膜途中でフィードバック制御を行ったものは、50%透過波長が606nmで理想値と実測値とが同一に重なった。このことから、フィードバック制御によって良好な補正を行うことができ、所望の特性にきわめて近い特性を得ることができた。
【0066】
この薄膜形成装置80によれば、第一基板3に第一スパッタリングターゲット5と第二スパッタリングターゲット6を使った混合膜を成膜する場合でも、第二基板13Aには第一ターゲット物質のみで成膜させ、第二基板13Cには第二ターゲット物質のみで成膜させることができる。
従って、第二基板13A、13Cの透過光量をそれぞれ測定することによって、混合膜における各物質の成膜量を把握することができる。そして、その把握結果に基づいて、第一基板3に到達するターゲット物質の量を制御することができる。よって、屈折率の異なる二つ以上のターゲット物質を用いて薄膜を作製するにあたって、任意の屈折率を有する薄膜を容易に、かつ、精度良く作製することができる。
【0067】
次に、第4の実施形態について図18から図20を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号をしている。また、これらの構成要素については、説明を省略する。
第4の実施形態では、第3の実施形態に係る薄膜形成装置80を使用している。第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る薄膜形成方法が、第二基板13Bについて1層毎に分光特性を測定し、特定の波長についての分光特性に基づいて、開口部の調整を行なっている点である。
【0068】
本実施形態では、例えば、1層目の混合膜の屈折率を2.19として、4層目まで成膜した。そして、400nm〜800nm波長範囲について、それぞれの層について測定器で測定を行なった。その測定した結果を、図18に示す。
ここで、1層目の薄膜の透過率特性より、1層目の屈折率が2.23であったとする。これは、所望の屈折率2.19より高くなっている状態である。そこで、2層目以降の成膜に関しては、Nbが基板に到達する量を調整する必要がある。すなわち、第二開口部26の開口幅の調整を行う必要がある。
【0069】
ここで、フィードバック制御による屈折率の修正方法は、例えば、以下のように行う。
Nb単層膜の屈折率2.37と、SiO単層膜の屈折率1.46から、理想的な1層目の屈折率2.19に対するウェイトは、以下のようになる。
(2.19−1.46)/(2.37−1.46)=80.22%
これに対して、実際の屈折率2.23に対するウェイトは、以下のようになる。
(2.23−1.46)/(2.37−1.46)=84.62%
即ち、理想値に対して4.40%増となる。
そこで、Nbの比率を4.40%下げる必要があることから、第二開口部26の開口幅を各層4.40%減少させた。
こうして新たに表5に示す設定にて3層目以降の成膜を行った。
【0070】
【表5】

【0071】
なお、こうして得られた分光透過率特性を図19に示す。また、第3及び第4の実施形態に対する比較例を図20に示す。図20は、フィードバック制御を行わずに16層の多層膜を形成させた場合の分光透過率特性である。
図19からわかるように、成膜途中でフィードバック制御を行った場合、50%透過波長が、606nmのところで理想値と同一となっている。従って、この薄膜形成方法におけるフィードバック制御により、屈折率に関して良好な補正を行うことができたことがわかる。よって、この薄膜形成方法において、所望の分光透過率特性にきわめて近い特性を得ることができた。
一方、修正を行わなかった比較例では、分光透過率特性からわかるように、50%透過波長が601.5nmとなって短波長側に4.5nmずれている。そのため、この多層膜を光が透過すると、理想状態とは異なる色みが、透過光に現れてしまう。すなわち、比較例の多層膜は、光学特性的に不十分な性能である。
【0072】
次に、第5の実施形態について図21から図24を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付している。また、これらの構成要素については、説明を省略する。
第5の実施形態と第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る薄膜形成装置90では、測定器91を水晶式の測定器とした点である。
【0073】
測定器91を、図21から図23に示す。測定器91は、センサー部92、93と、導通治具95、96と、測定器導通部97とを備えている。センサー部92、93は、不図示の水晶振動子を有する。導通治具95、96は、回転保持具16が1回転する間に、各センサー部92、93と1回、電気的にそれぞれ導通する。測定器導通部97は、導通治具95、96を、真空チャンバ2内で支持する。
制御部98は、センサー部92、93の水晶振動子の周波数変化を検出する。そして、制御部98は、センサー部92、93に作製された個々の薄膜の膜厚を算出する。この算出にあたっては、膜厚の変化量から膜厚を算出することもできる。続いて、制御部98は、この算出結果に基づいて、所望の膜厚からの乖離を算出する。そして、成膜量を規定している開口幅の調整を行なう。
【0074】
本実施形態では、第二基板13A、13Cの代わりに、センサー部92、93が用いられている。よって、センサー部92、93は、それぞれ、第一保持領域81A及び第三保持領域81Cに配置されている。導通治具95、96は、配線99、100と接続されている。配線99、100は真空チャンバ2の外に引き出され、制御部98に接続されている。なお、測定器導通部97は、光学監視ポート53と同様の位置に配置されている。
【0075】
前述のように、第二ターゲット物質は、第一保持領域81Aには到達しない。よって、センサー部92には、第二ターゲット物質は成膜されない。一方、第一ターゲット物質は第一孔82aを通過して、センサー部92に到達する。よって、センサー部92には、第一ターゲット物質のみが成膜される。
【0076】
逆に、第一ターゲット物質は、第三保持領域81Cには到達しない。よって、センサー部93には、第一ターゲット物質は成膜されない。一方、第二ターゲット物質は第二孔82bを通過して、センサー部93に到達する。よって、センサー部93には、第二ターゲット物質のみが成膜される。
【0077】
次に、本実施形態に係る薄膜形成装置90による薄膜形成方法、及び作用・効果について説明する。
本実施形態でも、第3の実施形態と同様に、成膜準備を行う。そして、第一開口部23及び第二開口部26の開口幅を決定する。続いて、各シャッター30を同時に開けて、成膜を開始する。
本実施形態では、例えば、以下の表3に示す値を設定して成膜する。この多層膜では、第一基板3の奇数層目にSiOとNbの混合膜が作製され、偶数層目にはSiO膜が作製されるようにした。また、センサー部92にはSiO膜のみが、センサー部93にはNb膜のみが作製されるようにした。
【0078】
まず1層目の成膜を開始する。
このとき、センサー部92は、SiOのみで成膜が行われ、センサー部93は、Nbのみで成膜が行なわれる。そこで、センサー部92とセンサー部93のそれぞれの膜厚増加量を、測定器91にて検出する。ここで、例えば、Nb膜の膜厚が、所望の膜厚よりも厚く作製されていることが判明したとする。そして、その影響を受けて、混合膜の屈折率が、理想値の2.19に対して2.23と高くなっていたとする。この場合、Nbの到達量を、膜厚比分の4.4%だけ抑制しなくてはならない。そのために、2層目のSiO膜の成膜が終了するまでの間に、第二開口部26の開口幅を狭くする。そして、3層目以降の成膜を行う。
【0079】
こうして得られた分光特性を図24に示す。
この薄膜形成装置90及び薄膜形成方法によっても、上記第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0080】
次に、第6の実施形態について図25及び図26を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号をしている。また、これらの構成要素については、説明を省略する。
第6の実施形態と第3の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る薄膜形成方法が、第一基板3上に多層膜を形成する際に、まず、最初に、第一基板3と同じ屈折率を有する混合膜を作製し、続いて、次層以降(多層膜)を成膜する点、及び、混合膜の作製にあたって、混合膜の透過光量が増加あるいは減少しないように、ターゲット物質の飛散量を変化ている点である。
【0081】
本実施形態に係る方法にて成膜を行なう場合について説明する。本実施形態で作製するのは、IRカットフィルタである。このIRカットフィルタは、第3の実施形態と同様の構成を有し、16層の薄膜からなる。
まず、混合膜を基板上に作製する。この混合膜は、第一基板3と同じ屈折率1.52を有する。成膜にあたっては、監視波長は600nmとする。
【0082】
混合膜の作製にあたって、第一開口部23及び第二開口部26の開口幅を、例えば、それぞれ60mm、10mmとした。成膜準備が完了したら、成膜を行う。
混合膜の作製後に、測定器によって第二基板13Bの透過光量変化を計測する。ここで、上記1.52の屈折率の混合膜が作製された場合には、透過光量は91.8%になる。ところが、図25に示すように、上記開口幅の場合には、屈折率1.57の混合膜が得られた。
この結果をもとにフィードバック制御を行なった。すなわち、第二開口部26の開口幅を、所定の幅に設定した。そして、設定した開口幅で、多層膜を作製した。ここでの開口幅の制御は、第3の実施形態と同様に、理想値と実測値との膜厚比を反映する制御とする。
【0083】
こうして得られた多層膜の分光特性を図26に示す。
図26からわかるように、フィードバック制御を行った場合には、606nmと400nm〜590nmの透過帯域で、50%透過波長が理想値と同一になっている。すなわち、フィードバック制御により、屈折率に関して良好な補正を行うことができたことがわかる。このように、この薄膜形成方法において、所望の特性にきわめて近い特性を得ることができた。
【0084】
この薄膜形成方法によれば、多層膜の1層目を成膜する前に、混合膜を形成している。この成膜した混合膜の屈折率が第一基板3の屈折率と同一であれば、測定器にて計測した透過光量又は反射光量が、上方向あるいは下方向に変化することがない。しかし、第一開口部23及び第二開口部26の開口幅が、第一基板3と同一の屈折率を形成するのに不適切な開口幅であると、形成された屈折率が基板の屈折率と異なる。この場合、屈折率が、上方向あるいは下方向に変化する。この変化を生じさせないように、本実施形態では、開口幅に対してフィードバック制御を施している。すなわち、適切な開口幅を設定して混合膜を作製し、その後に、多層膜を形成する。このようにすることによって、所望の屈折率を有する混合膜、及びこの混合膜を含む多層膜を、屈折率に関して精度良く作製することができる。
なお、混合膜の膜厚及び屈折率は、第一基板3の屈折率に対して屈折率±0.2であるのが望ましい。更に、望ましくは±0.15以内であればよい。この範囲内であれば、分光特性に悪影響を及ぼさない。
【0085】
次に、第7の実施形態について図27を参照しながら説明する。
なお、上述した他の実施形態と同様の構成要素には同一符号を付している。また、これらの構成要素については、説明を省略する。
第7の実施形態と第6の実施形態との異なる点は、本実施形態に係る薄膜形成方法が、第一基板3上に多層膜を形成する際に、最初に、2つの材料の略平均屈折率を有する混合膜を作製した後、高い屈折率を有する高屈折率膜と、該高屈折率膜よりも相対的に低い屈折率を有する低屈折率膜を有する多層膜を作製する点、混合膜が、高屈折率膜及び低屈折率膜の間の屈折率を有する点、混合膜の透過光量を測定し、理想値と測定値との乖離を減らす方向にターゲット物質の到達量を変化させて、次層以降を成膜する点である。
【0086】
本実施形態で製作するのは、第3の実施形態のIRカットフィルタに、別の薄膜を加えたフィルタである。本実施形態では、第1層目成膜前に、屈折率1.92の混合膜を、光学的膜厚で262.5nmで加えている。このフィルタにおいて、混合膜の1層目の屈折率の値は、第3の実施形態における高屈折率膜の屈折率と低屈折率膜の屈折率との平均の値となっている。具体的には、1.92である。そして、2層目(多層膜の第1層目)以降を、第3の実施形態と同様の膜構成とする。
【0087】
このような混合膜を成膜する方法について説明する。
まず、第6の実施形態と同様の方法によって、多層膜の1層目を成膜する前に、屈折率1.92の混合膜を第一基板3上に形成した。この屈折率1.92は、SiO膜の屈折率1.46とNb膜の屈折率2.37の平均の屈折率である。また、混合膜の作製に際しては、第一開口部23及び第二開口部26の開口幅を、例えば、それぞれ36mm、70mmとした。
【0088】
混合膜の作製後に、測定器によって、第二基板13の透過光量変化を計測する。上記開口幅の場合には、屈折率1.97の混合膜が得られた。
この結果をもとに、フィードバック制御を行なった。すなわち、第二開口部26の開口幅を、所定の幅に設定した。そして、設定した開口幅で、多層膜を作製した。ここでの開口幅の制御は、第3の実施形態と同様に、理想値と実測値との膜厚比を反映する制御とする。
【0089】
こうして得られた多層膜の分光特性を図27に示す。
図26からわかるように、フィードバック制御を行った場合には、606nmと400nm〜590nmの透過帯域で、50%透過波長が理想値と同一になっている。この結果から、フィードバック制御により、屈折率に関して良好な補正を行うことができできたことがわかる。このように、この薄膜形成方法において、所望の特性にきわめて近い特性を得ることができた。
【0090】
この薄膜形成方法によれば、混合膜の屈折率を、1.92としている。この屈折率は、SiO膜の屈折率1.46とNb膜の屈折率2.37との平均値である。そして、この混合膜を、最初に基板に作製した後、続いて、多層膜を作製している。このとき、多層膜の屈折率を、混合膜の成膜情報で補正するので、補正にあたっては、混合膜を構成するターゲット物質の平均の屈折率で補正することができる。従って、平均の屈折率からSiO膜に近い屈折率側、平均の屈折率からNb膜に近い屈折率側に対してどちらとも等しい誤差要因で作成できる。このようなことから、第一基板3の屈折率が、平均の値よりSiO膜の屈折率あるいはNb膜の屈折率どちらかに近い屈折率である場合、この第一基板3の屈折率(この場合はNb膜の屈折率に近い屈折率)に対して補正する場合に比べて、次層以降の屈折率における補正効果をより大きくすることができる。
【0091】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、ターゲット物質は、金属、酸化物、フッ化物の何れのものでもよい。また、形状も円形に限らず、正方形、長方形であっても構わない。
【0092】
さらに、スパッタリングを行う際に直流電圧を印加して行っているが、Si、Al,Ta、Ti、Hf、Nb、ITOあるいはその合金や混合物のスパッタリングターゲットの物質から酸化物膜を作製する場合には、直流電圧印加のみならず、高周波電圧を印加しても構わない。
また、SiO、Al,Ta、TiO、HfO、Nb、MgF、或いはその混合物や化合物から、酸化物膜、フッ化物膜を作製する場合には、直流電圧ではなく高周波電圧を印加して行っても構わない。
【0093】
また、第6、7の実施形態にて、第一基板と同じ屈折率の薄膜を成膜しているが、このときの光学特性に影響を及ぼさないための値としては、所望の特性にもよるが、基板の屈折率±0.1、より望ましくは基板の屈折率±0.05、より好ましくは基板の屈折率±0.02の範囲にあることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置のターゲット配置を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線矢視における第1の実施形態の薄膜形成装置を示す断面図である。
【図3】図1のB−B線矢視における第1の実施形態の薄膜形成装置を示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置において第一可変機構及び第二可変機構を示す平面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置において防着板を示す斜視図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置による成膜時の1層目成膜時間とその間の透過光量変化に係る理想値と実際の計測値とを示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置によって得られた混合膜の反射率特性の実測値と理想値とを示すグラフである。
【図8】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置を用いて本実施形態に係る形成方法による場合と従来の形成方法による場合による反射率特性の実測値と理想値との比較を示すグラフである。
【図9】図1のB−B線矢視に相当する方向から見た本発明の第2の実施形態に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
【図10】本発明の第1の実施形態における薄膜形成装置による成膜時の1層目成膜時間とその間の反射光量変化に係る理想値と実際の計測値とを示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施形態における薄膜形成装置を示す側面方向の断面図である。
【図12】図11のC方向から見た図である。
【図13】図1のA−A線矢視に相当する方向から見た本発明の第3の実施形態に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
【図14】本発明の第3の実施形態における薄膜形成装置において防着板を示す斜視図である。
【図15】本発明の第3の実施形態における薄膜形成装置においてNbが成膜された第二基板の透過光量変化を示すグラフである。
【図16】本発明の第3の実施形態における薄膜形成装置においてSiOが成膜された第二基板の透過光量変化を示すグラフである。
【図17】本発明の第3の実施形態における薄膜形成装置において成膜した混合膜の分光特性の実測値と理想値とを示すグラフである。
【図18】本発明の第4の実施形態における薄膜形成方法においてSiOとNbとの混合膜が成膜された第二基板の透過光量変化を示すグラフである。
【図19】本発明の第4の実施形態における薄膜形成方法において成膜した混合膜の分光特性の実測値と理想値とを示すグラフである。
【図20】本発明の第4の実施形態における薄膜形成方法による場合と従来例による場合とによって成膜された混合膜の分光特性の比較を示すグラフである。
【図21】図1のB−B線矢視に相当する方向から見た本発明の第5の実施形態に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
【図22】本発明の第5の実施形態における薄膜形成装置の基板配置を示す平面図である。
【図23】本発明の第5の実施形態における薄膜形成装置の基板配置を示す側面図である。
【図24】本発明の第5の実施形態における薄膜形成方法によって成膜された混合膜の分光特性の実測値と理想値とを示すグラフである。
【図25】本発明の第6の実施形態における薄膜形成方法による成膜時の混合膜を成膜する前に基板に1層成膜したときの透過光量の時間変化を示すグラフである。
【図26】本発明の第6の実施形態における薄膜形成方法によって成膜された混合膜の分光特性の実測値と理想値とを示すグラフである。
【図27】本発明の第7の実施形態における薄膜形成方法によって成膜された混合膜の分光特性の実測値と理想値とを示すグラフである。
【符号の説明】
【0095】
1、60、70、80、90 薄膜形成装置
3 第一基板
4a 第一保持部
4b 第二保持部
4c 第三保持部
5 第一スパッタリングターゲット(第一ターゲット)
6 第二スパッタリングターゲット(第二ターゲット)
12 第一ヤトイ(第一基板保持部)
13、13A、13B、13C 第二基板
15、81 第二ヤトイ(第二基板保持部)
16、71 回転保持具(基板移動部)
18 第一位置
20 第二位置
21 第三位置
22 回転モータ(移動機構)
23 第一開口部
25 第一可変機構
26 第二開口部
27 第二可変機構
31、72、82 防着板(仕切り部)
31a、82a 第一孔
31b、82b 第二孔
41、61、91 測定器
42、98 制御部
81A 第一保持領域
81B 第二保持領域
81C 第三保持領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ターゲットを保持する第一保持部と、
第二ターゲットを保持する第二保持部と、
第一基板が配される第一基板保持部と、
前記第一基板とは別の第二基板が配される第二基板保持部と、
前記第一基板保持部及び前記第二基板保持部が設けられ、前記第一保持部及び前記第二保持部と対向して配される基板移動部と、
該基板移動部を移動させる移動機構と、
前記基板移動部と前記第一保持部との間に配され、第一開口部を有する第一可変機構と、
前記基板移動部と前記第二保持部との間に配され、第二開口部を有する第二可変機構と、
該測定器の測定結果に基づき、前記第一開口部及び前記第二開口部の少なくとも一方の大きさを変化させる制御部とを備えていることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
測定器が、前記第二基板保持部と対向可能に配されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記第二基板保持部が、第一、第二、及び第三保持領域を備え、
前記第一保持領域及び前記第二保持領域と対向する第一孔と、
前記第二保持領域及び前記第三保持領域と対向する第二孔とを有する仕切り部が配されていることを特徴とする請求項2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記測定器が、前記第一保持領域乃至前記第三保持領域と対向可能な位置に配されていることを特徴とする請求項3に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
第一基板と対向する位置に複数のターゲットを配置し、前記第一基板と同じ側に前記第一基板とは別の第二基板を配置してスパッタリングを行なって、薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記スパッタリングの際に、
前記複数のターゲットから、ターゲット物質を飛散させる工程と、
前記第二基板の光学特性を測定する工程と、
前記光学特性の変化に基づいて、前記第一基板に到達する前記ターゲット物質の量を変化させる工程とを備えていることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項6】
前記光学特性の変化が、前記第二基板に成膜される薄膜の膜厚変化に基づくものであることを特徴とする請求項5に記載の薄膜形成方法。
【請求項7】
前記光学特性が、光量或いは分光特性であることを特徴とする請求項5又は6に記載の薄膜形成方法。
【請求項8】
前記ターゲット物質の量を変化させる工程が、前記第一基板に一つの薄膜を作製した後に行われることを特徴とする請求項5から7の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項9】
前記ターゲット物質の量を変化させる工程が、前記第一基板に一つの薄膜を作製する中で行われることを特徴とする請求項5から7の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項10】
前記ターゲット物質の量を変化させる工程が、前記第一基板への成膜が終了した後に行われることを特徴とする請求項5から7の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項11】
前記第一基板上に多層膜を形成する際に、
前記第一基板上に、前記第一基板と同じ屈折率を有する混合膜を作製する工程と、
該混合膜の作製工程の後に、前記多層膜を作製する工程とを備え、
前記混合膜の作製工程において、前記混合膜の透過光量又は反射光量が増加あるいは減少しないように、前記ターゲット物質の到達量を変化させることを特徴とする請求項5に記載の薄膜形成方法。
【請求項12】
前記第一基板上に、高い屈折率を有する高屈折率膜と、該高屈折率膜よりも相対的に低い屈折率を有する低屈折率膜とを有する多層膜を作製する際に、
前記高屈折率膜と前記低屈折率膜の略平均の屈折率を有する混合膜を作製する工程と、
前記混合膜の透過光量又は反射光量を測定する工程と、
理想値と測定値との乖離を減らす方向に前記ターゲット物質の到達量を変化させて、次層以降を成膜する工程とを備えていることを特徴とする請求項5に記載の薄膜形成方法。
【請求項13】
基板と、該基板に少なくとも二層以上の混合膜が積層された光学薄膜であって、
一層目の混合膜が、二種類の金属酸化物からなり、かつ、前記基板と略同一の屈折率を有し、
二層目の混合膜が、前記二種類の金属酸化物からなり、かつ、前記一層目の混合膜の屈折率とは異なる屈折率を有していることを特徴とする光学薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2006−330485(P2006−330485A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155846(P2005−155846)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、民間基盤技術試験研究業務委託、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】