説明

薄膜材料組成物の成分測定方法

【課題】金属含有材料の薄膜を形成するために使用される2成分以上の組成物であり、有効成分として少なくとも1種類の金属化合物及びこれ以外の化合物を含有してなる薄膜材料組成物の有効成分の一部又は全部の成分を測定する方法を提供する。
【解決手段】近赤外分光法によるスペクトル吸収を使用する成分測定方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MOD、CVD、ALD、めっき等の金属又は金属含有材料の薄膜を製造するプロセスにおいて使用される薄膜材料組成物の有効成分を測定する方法に関し、詳しくは、近赤外分光法を用いたスペクトル測定を使用した薄膜材料組成物の有効成分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MOD、CVD、ALD、めっき等により、金属又は金属含有材料の薄膜を製造するプロセスに使用される薄膜材料は、形成される薄膜に金属原子を供給する1種類又は2種類以上の金属化合物、有機溶剤、安定剤等の2成分以上の組成物を使用する場合がある。通常、これらの薄膜材料組成物の成分管理は、薄膜材料の製造時の仕込み量によりコントロールされ、製造後にICP、原子吸光、蛍光X線分析等の成分分析を行ってなされている。
【0003】
薄膜材料組成物を使用する薄膜製造プロセスにおいても薄膜材料組成物の成分測定に有効な手段が求められている。購入した薄膜材料組成物の品質管理、薄膜製造プロセスの不具合の検証や原因究明のためのデータ取得手段として、種々のユースポイントでの薄膜材料組成管理や成分のモニターが必要となっている。
【0004】
一方、特許文献1には、近赤外分光法による気化プロセス用薄膜原料中の不純物である水について測定する方法が開示されている。しかし、これは薄膜材料組成物を製造する場合に行われる不純物水分管理の方法であり、薄膜材料組成物の有効成分を分析するものではなく、薄膜製造プロセス及びそのユースポイントでの分析方法を開示しているものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−9254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、薄膜材料組成物について、薄膜の製造プロセスにおける成分測定に適した方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、近赤外分光法を用いたスペクトル測定が有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
本発明の第1は、金属含有材料の薄膜を形成するために使用される2成分以上の組成物であり、有効成分として少なくとも1種類の金属化合物及びこれ以外の化合物を含有してなる薄膜材料組成物の有効成分の一部又は全部の成分を測定する方法であり、当該測定に近赤外分光法によるスペクトル吸収を使用する成分測定方法である。
【0009】
本発明の第2は、上記薄膜材料組成物がCVD又はALD用材料である第1の発明に記載の成分測定方法である。
【0010】
本発明の第3は、薄膜製造プロセスに組み込まれることを特徴とする第1の発明に記載の成分測定方法である。
【0011】
本発明の第4は、CVDまたはALDプロセスに組み込まれることを特徴とする第2の発明に記載の成分測定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、CVDまたはALD等の薄膜製造プロセス及びそのユースポイントにおける薄膜材料組成物の成分測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の近赤外分光法によるスペクトル吸収を使用する成分測定手段を備える薄膜材料組成物のデリバリ容器を示す概略図である。
【図2】本発明の近赤外分光法によるスペクトル吸収を使用する成分測定手段を備えるCVDまたはALD装置を示す概略図である。
【図3】本発明の近赤外分光法によるスペクトル吸収を使用する成分測定手段を備えるCVDまたはALD装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に関する薄膜材料組成物について説明する。
当該組成物は、金属、合金、金属酸化物、金属窒化物、金属酸化窒化物、金属炭化窒化物、金属炭化酸化窒化物、2種類以上の金属原子を含有する複合セラミックス等の金属含有材料の薄膜を形成するために使用されるものであり、少なくとも1種類の金属化合物およびこれ以外の化合物を含有する2成分以上の組成物である。例えば、薄膜に金属元素を供給する金属化合物が2種類以上混合された組成物でもよく、1種類の金属化合物とこれ以外の2種類以上の化合物との組成物でもよく、2種類以上の金属化合物と1種類以上のこれ以外の化合物との組成物でもよい。また、本発明に係るこれら組成物の各成分は、不純物として含有されるものではなく、有効成分として意図的に配合されるものである。
【0015】
上記の金属化合物としては、CVD、ALDの場合は、揮発性金属化合物が使用される。揮発性金属化合物は、金属原子にハロゲン、水素、アルキル基、シクロペンタジエニル基、ジエン基、有機アミノ基、アルコキシ基、β−ジケトン残基、β−ケトイミン残基またはジケトイミン残基等が結合した化合物が挙げられ、これら金属に結合する結合基は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。また、これらの金属化合物は、任意の位置及び任意の数においてアルキル基、アルコキシ基、アミノ基で置換されてもよい。
【0016】
MODの場合は、有機溶剤に安定に溶解する有機溶剤可溶性の金属化合物が使用される。当該金属化合物は、上記で例示した金属化合物、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩が挙げられる。
【0017】
めっきの場合は、主に水溶性金属塩化合物が使用される。当該金属化合物は、ハロゲン化金属塩、無機酸塩、有機カルボン酸塩、有機スルホン酸塩、水酸化物が挙げられる。
【0018】
本発明にかかる薄膜材料組成物における金属化合物以外の有効成分としては、上記金属化合物を溶解せしめる溶媒の機能を有する化合物、金属化合物または薄膜材料組成物の安定性を向上させる安定剤の機能を有する化合物、各主成分の溶解性を向上させる可溶化剤の機能を有する化合物、金属含有薄膜形成時に薄膜形成を速度や形状をコントロールするために促進剤、抑制剤、平滑剤機能を有する化合物等が挙げられる。
【0019】
本発明の成分測定方法は、薄膜材料組成物の製造プロセスまたは薄膜製造プロセスのラインに組み込むことが可能であり、非破壊の測定方法であるので水、酸素、二酸化炭素等の大気成分にセンシティブな金属化合物を使用するCVDまたはALDに特に好適である。
【0020】
CVDまたはALDにおける金属化合物以外の有効成分としては、有機溶剤が上げられる。当該有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジンが挙げられ、これらは、溶質である金属化合物の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独又は二種類以上混合溶媒として用いられる。これらの有機溶剤を使用する場合、該有機溶剤中におけるプレカーサの合計量が0.01〜2.0モル/リットル、特に0.05〜1.0モル/リットルとなるようにするのが好ましい。
【0021】
また、上記金属化合物の安定性を付与する安定剤として、求核性試薬を含有してもよい。該求核試薬としては、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18−クラウン−6、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−24−クラウン−8、ジベンゾ−24−クラウン−8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N'−テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7−ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸−2−メトキシエチル等のβ−ケトエステル類、金属化合物を形成せしめる配位子化合物である有機アミン、アルコール、β−ジケトン、β−ケトイミン、ジケトイミンが挙げられ、これら安定剤の使用量は、プレカーサ1モルに対して0.1モル〜10モルの範囲で使用され、好ましくは1〜4モルで使用される。
【0022】
次に本発明に係る近赤外分光法によるスペクトル吸収測定について説明する。
本発明における近赤外分光法によるスペクトル吸収測定は、薄膜材料組成物について、特定の波長における吸収について測定してもよく、薄膜材料組成物の各成分に特異的なスペクトル吸収について、それぞれを選んで複数の波長における吸収について測定してもよい。また、各成分が混合されることにより新たに発生するスペクトルについて測定してもよい。測定に使用する波長領域は、700nm〜2500nmである。
【0023】
近赤外分光法による測定結果から各成分の濃度を得るためには、あらかじめ各成分の濃度とスペクトル吸収との相関を確認しておき、実測値について、この相関を使用した適正な演算処理を使用して濃度に変換すればよい。例えば、各成分について標準サンプルを調製し、このスペクトル測定を複数回行い、平均の吸収曲線を標準スペクトルとし、標準スペクトルのなかで、濃度換算に適範囲のスペクトルを切り出し、二次微分を行い、Sabitzky-Golay法等でスムージングを施し、PLS(Partial least squares)法等を用いて検量式を得て、実測の場合には実測値に対してこの検量式を使用して濃度に変換する方法が使用できる。これに限らず、その他の通常知られている多変量解析を適用してスペクトルを濃度に変換してもよい。
【0024】
本発明の成分測定方法は、薄膜供給薄膜材料組成物のデリバリ容器に組み込んでもよく、薄膜材料組成物の製造プロセスまたは薄膜製造プロセスのラインに組み込んでもよく、その方法及び位置は任意である。具体的には、近赤外線の吸収を検知する検知セルをこれらのプロセスライン内に設置してもよく、これらのプロセス外部に設置してもよい。後者の場合、測定に使用する薄膜材料組成物のサンプリングポートを任意の位置に設置し、ここから測定用サンプルを取り出し、検知セルに導入する方法が適用できる。また、測定の位置は、薄膜製造装置中の薄膜材料組成物の供給部でもよく、薄膜製造部分直前でもよく、複数の個所組み込んでもよい。
【実施例】
【0025】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0026】
[実施例1]
図1(a)の装置を使用し、下記化学式で表されるタンタル化合物とニオブ化合物の9.000モル:1.000モル(製造時の仕込み量)の混合物からなる薄膜材料組成物の近赤外分光法によるスペクトル吸収測定を行った。図1の(a)は、容器内に検知セルを装備し、容器内の薄膜材料組成物の測定をするものである。薄膜材料組成物の測定により得られた濃度の比は、タンタル化合物9.000モルに対して、ニオブ化合物1.020モルであった。
【0027】
【化1】

【0028】
[実施例2]
図1(b)の装置を使用し、下記化学式で表されるジルコニウム化合物1とアミン化合物の1.000モル:1.000モル(製造時の仕込み量)の混合物からなる薄膜材料組成物の近赤外分光法によるスペクトル吸収測定を行った。図1の(b)は、薄膜材料組成物の充填または移液管に検知セルを装備するものである。薄膜材料組成物の測定により得られた濃度の比は、ジルコニウム化合物1、1.000モルに対して、アミン化合物1.033モルであった。
【0029】
【化2】

【0030】
[実施例3]
図2の装置を使用し、下記化学式で表されるストロンチウム化合物とチタン化合物1を1.000モル:1.000モル(製造時の仕込み量)の割合で含有し、メタノール含有量が75.00質量%であるストロンチウム化合物とチタン化合物とメタノールとの混合物からなる薄膜材料組成物の近赤外分光法によるスペクトル吸収測定を行った。薄膜材料組成物の測定により得られた濃度の比は、ストロンチウム化合物1.000モルに対してチタン化合物1が1.014モルであった。また、メタノールの含有量は74.60質量%であった。
【0031】
【化3】

【0032】
[実施例3]
図3の装置を使用し、下記化学式で表される鉛化合物とチタン化合物2とジルコニウム化合物2を1.000モル:0.4800モル:0.5200モル(製造時の仕込み量)の割合で含有し、エチルシクロヘキサン含有量が60.00質量%である鉛化合物とチタン化合物2とジルコニウム化合物とエチルシクロヘキサンとの混合物からなる薄膜材料組成物の近赤外分光法によるスペクトル吸収測定を行った。薄膜材料組成物の測定により得られた濃度の比は、鉛化合物1.000モルに対してチタン化合物2が0.4764モル、ジルコニウム化合物2が0.5211モルであった。
【0033】
【化4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有材料の薄膜を形成するために使用される2成分以上の組成物であり、有効成分として少なくとも1種類の金属化合物及びこれ以外の化合物を含有してなる薄膜材料組成物の有効成分の一部又は全部の成分を測定する方法であり、当該測定に近赤外分光法によるスペクトル吸収を使用する成分測定方法。
【請求項2】
上記薄膜材料組成物がCVD又はALD用材料である請求項1に記載の成分測定方法。
【請求項3】
薄膜製造プロセスに組み込まれることを特徴とする請求項1に記載の成分測定方法。
【請求項4】
CVDまたはALDプロセスに組み込まれることを特徴とする請求項2に記載の成分測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−47701(P2011−47701A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194536(P2009−194536)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】