説明

薄膜製造方法および薄膜素子

【課題】低コストで安定した品質の薄膜を製造すること。
【解決手段】薄膜製造方法は、基板20の第1主面20a上に形成させる薄膜の金属酸化物前駆体溶液12中に、基板を配置する配置工程と、光源13からレーザ光14を照射することにより、基板20の第1主面20a上に薄膜を形成する形成工程と、光源13と同一の光源13からレーザ光14を照射して、基板20の第1主面20aと金属酸化物前駆体溶液12の液面の距離73を計測する工程と、計測結果に基づいて、基板20の高さ方向の位置を調整する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜製造方法および薄膜素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子などの薄膜形成方法として、化学溶液堆積法(CSD法)が知られている。CSD法では、基板上に原料溶液を塗布、乾燥させることにより、基板表面に薄膜を形成する。例えば特許文献1には、金属酸化物前駆体と色素を含む金属酸化物前駆体溶液を用いた誘電体薄膜の形成方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、CSD法では、金属酸化物前駆体溶液の塗布乾燥工程において非常に大きな労力を要しコスト高となっていた。さらに、乾燥工程においては、薄膜に亀裂が入りやすいという問題もあった。
【0004】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、低コストで安定した品質の薄膜を製造することができる薄膜製造方法および薄膜素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる薄膜製造方法は、基板の第1主面上に形成させる薄膜の原料溶液中に、前記基板を配置する配置工程と、光源から前記第1主面側に光を照射することにより、前記基板の第1主面上に前記薄膜を形成する形成工程と、前記光源と同一の光源から光を照射して、前記基板の第1主面と原料溶液面の距離を計測する工程と、計測結果に基づいて、前記基板の高さ方向の位置を調整する工程と、を含むことを特徴とする。
【0006】
また、本発明にかかる薄膜製造方法は、基板の第1主面上に形成させる薄膜の原料溶液中に、前記基板を配置する配置工程と、光源から前記第1主面側から光を照射することにより、前記基板の第1主面上に前記薄膜を形成する形成工程と、前記基板の第1主面と原料溶液面の距離を計測する工程と、計測結果に基づいて、前記光源から出射する光の強度を調整する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低コストで安定した品質の薄膜を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、第1の実施の形態にかかる薄膜製造方法を説明するための図である。
【図2】図2は、薄膜パターンを示す図である。
【図3】図3は、基板の第1主面と金属酸化物前駆体溶液の液面の距離(金属酸化物前駆体溶液層厚み73)を計測する方法を示す図である。
【図4】図4は、レーザ光の照射位置を説明するための図である。
【図5】図5は、本実施の形態にかかる薄膜製造方法により形成された薄膜を活性層として用いた圧電素子50を示す図である。
【図6】図6は、第1の実施の形態にかかる薄膜製造方法の第1の変更例を説明するための図である。
【図7】図7は、電極層の第1主面上に形成された薄膜パターンを示す図である。
【図8】図8は、第1の実施の形態の第4の変更例を説明するための図である。
【図9】図9は、第3の実施の形態にかかる薄膜製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる薄膜製造方法および薄膜素子の一実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態にかかる薄膜製造方法を説明するための図である。なお、本実施の形態においては、圧電素子に利用される薄膜にかかる薄膜製造方法を例に説明する。
【0011】
図1に示すように、反応容器10に高さを自動で調整できる機構を持った保持台11を設置し、保持台11上に薄膜を形成させる基板20を配置する。反応容器10には、金属酸化物前駆体溶液12が満たされている。基板20の上方、すなわち、基板20の第1主面20a側には、光源13と受光センサ60が設置されている。光源13は、金属酸化物前駆体溶液12の上方からレーザ光14を照射し、金属酸化物前駆体溶液12の液面上で拡散反射した光の一部61と、基板面上で拡散反射した光の一部62を受光センサ60が受光し、一般的によく知られている三角測量を応用した測定原理に基づいて、基板20上の金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を算出し、この厚み情報を保持台11を駆動制御する装置(不図示)にフィードバックし、金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を一定にし、薄膜を形成する。
【0012】
これにより、図2に示すように、レーザ光の照射位置に応じた、基板20の第1主面20a上の位置に、金属酸化物前駆体から得られた金属酸化物アモルファスまたは金属酸化物結晶の薄膜パターン30、すなわち安定した品質の金属酸化物薄膜が低コストで形成される。スキャン機能を持ったレーザ光源装置を使用することで、基板20の第1主面20a上の所望の位置に、薄膜パターン30を形成することができる。なお、基板20に照射する光としては、金属酸化物前駆体溶液12に応じて薄膜形成に適切な波長の光を選択する。
【0013】
図3は、第1の実施の形態にかかる薄膜製造方法において、一般的によく知られている三角測量を応用した測定原理を説明するための図である。本実施の形態では、薄膜形成の際に用いる光源13と同一光源からレーザ光を出射して、基板20の第1主面20aと金属酸化物前駆体溶液12の液面の距離、すなわち、金属酸化物前駆体溶液層厚み73を算出している。
【0014】
まず、光源13から金属酸化物前駆体溶液12の液面までの距離71の計測について説明する。図3において、符号61は金属酸化物前駆体溶液12の液面上に照射されたレーザ光の拡散反射光である。符号62は基板面上に照射されたレーザ光の拡散反射光である。符号63は光源13からレーザ光を出射する光源点である。符号64は測定対象物上(本実施の形態では、金属酸化物前駆体溶液12の液面上)の測定点である。符号65は受光センサ60へ拡散反射光が入射するスリット通過点である。符号66は受光素子に拡散反射光が照射される受光点である。符号67は受光センサ60の入り口部に設けられたスリットである。符号68は、受光センサ60の受光素子である。符号71は光源点63から金属酸化物前駆体溶液12の液面までの距離である。符号72は光源点63から基板20までの距離である。符号73は金属酸化物前駆体溶液層厚みである。方向に関しては図中に示すXZ座標に基づいて説明をする。
【0015】
光源点63から照射されたレーザ光14は、金属酸化物前駆体溶液12の液面上の測定点64であらゆる方向に拡散反射し、その一部の反射光61が受光センサ60のスリット67にあるスリット通過点65を通過し、受光素子68上に照射され、その点を計測点66として認識する。光源13、受光センサ60等の各装置を固定することにより、光源点63とスリット通過点65を固定し、受光素子68上の計測点66の座標(X,Z)を計測する。この座標(X,Z)を用いることにより、公知の三角測量を応用した測定原理で、光源点63から金属酸化物前駆体溶液12の液面までの距離71を算出することができる。
【0016】
次に、上述した三角測量と同様の手法で、光源13から基板20の第1主面20a上までの距離72を測定する。そして、この距離72から、光源点63から金属酸化物前駆体溶液12の液面までの距離71を差し引くことにより、金属酸化物前駆体溶液層厚み73を算出する。
【0017】
そして、本実施の形態では、この計測結果、すなわち、算出された金属酸化物前駆体溶液層厚み73に基づいて、保持台11を駆動制御する装置により、基板20の高さ方向の位置を調整して、金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を一定にする。
【0018】
光源13からのレーザ光の照射位置としては、図4に示すように、金属酸化物前駆体溶液12の表面12a、金属酸化物前駆体溶液12の溶液中12b、基板20の第1主面20a上、基板20の内部20c、基板20の第1主面20aの裏面である第2主面20bの5通りが可能である。レーザ光14の焦点を調整することにより、各照射位置への光照射を行う。なお、金属酸化物前駆体溶液12を照射位置とした場合に、照射位置と、第1主面20a上の薄膜が形成される位置のずれが生じない程度に、基板20の第1主面20aの位置が金属酸化物前駆体溶液12の比較的浅い位置となるように基板20を配置することとする。各照射位置と、その効果とを表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
ケースAでは、金属酸化物前駆体溶液12の水面を照射位置、すなわち加熱位置とする。この場合、光エネルギーは、金属酸化物前駆体溶液12において数十%吸収され、残りは基板20に到達し、吸収され、もしくは透過する。溶液反応形態としては溶液の直接加熱である。ケースBでは、金属酸化物前駆体溶液12の溶液中を加熱位置とする。この場合の光エネルギーは、金属酸化物前駆体溶液12において吸収される。溶液反応形態は、直接加熱である。
【0021】
ケースCでは、金属酸化物前駆体溶液12と基板20の境界面、すなわち基板20の第1主面20aを加熱位置とする。ケースDでは、基板20の内部20cを加熱位置とする。ケースEでは、基板20の第2主面20bを加熱位置とする。ケースC、D、Eの場合、ほとんどの光エネルギーは、金属酸化物前駆体溶液12を透過し、基板20において数%吸収される。ケースC、D、Eの溶液反応形態は、基板20を加熱することによる金属酸化物前駆体溶液12の間接加熱である。直接加熱の場合には、波長400nm以下の光を照射し、間接加熱の場合には、波長400nm以上の光を照射することとする。
【0022】
不純物の少ない薄膜形成(a)については、直接加熱のケースA、Bが優れている。ケースA、Bでは、光エネルギーが直接、金属酸化物前駆体溶液12内の炭素と酸素の間の結合を切ることができる。このため、残留炭素や煤などが発生し難い。したがって、不純物のない高品質な薄膜を製造することができる。一方、ケースC、D、Eでは、間接加熱のため、金属酸化物前駆体溶液12の不完全な熱分解が起こりやすい。このため、残留炭素や煤の発生が問題となる。
【0023】
基板20へのダメージ(b)についても、ケースA、Bが優れている。ケースA、Bでは、基板20に光エネルギーがほとんど到達しないため、基板20へのダメージを低く抑えることができる。一方、ケースC、D、Eでは、基板20を加熱するため、基板20に熱的なダメージを与える可能性がある。
【0024】
基板薄膜の接着性(c)については、ケースC、D、Eが優れている。ケースC、D、Eでは、基板20の第1主面20a付近において溶液を相変化させるため、基板20と薄膜の密着性を高めることができる。一方、ケースA、Bでは、金属酸化物前駆体溶液12の表面12aまたは金属酸化物前駆体溶液12の溶液の溶液中12bで相変化させるため、基板20と薄膜の接着性は比較的低くなる。
【0025】
高精度・高解像度パターニング(d)については、ケースA、Bが優れている。ケースA、Bでは、光エネルギースポット径に準じた高精度、高解像度のパターニングが可能である。一方、ケースC、D、Eでは、基板20の熱特性により、加熱領域が光エネルギースポット径に比べて広がる可能性があり、ケースA、Bに比べて劣る。
【0026】
基板材料の選択性(e)については、いずれのケースも優れている。基板20としては、例えばシリコン基板を用いることができる。また、光源(f)については、ケースA、Bでは、照射する光は、波長400nm以下と低波長であり、例えばUVレーザなど高価で取り扱いの難易度の高い装置を用いる必要がある。これに対し、ケースC、D、Eで照射する光は、波長400nm以上と長波長なので例えばCOレーザなど比較的安価であり、また一般的に加工用途での利用実績のある装置を用いることができる。
【0027】
なお、基板を金属酸化物前駆体溶液に浸す以外の工程は、従来のゾル−ゲル法による薄膜形成プロセスと同様であり、金属酸化物前駆体溶液も、ゾル−ゲル法において、基板に添付される金属酸化物前駆体溶液と同様である。
【0028】
金属酸化物前駆体溶液12中で薄膜を形成した後、基板20を金属酸化物前駆体溶液12から取り出す際には、溶剤による超音波洗浄またはリンス洗浄を行う。溶剤としては、比較的揮発しやすく液中水分量の少ないものが好ましい。具体的には、アセトン、エタノール、IPAなどを用いることができる。これにより、金属酸化物前駆体溶液12中の金属アルコキシドが基板上に残り残渣を生じるのを防ぐことができる。
【0029】
さらに、上記洗浄後、形成された薄膜の状態(主に結晶形態の違い)によって、適宜、熱処理を施す。薄膜が結晶の場合には、乾燥の意味合いで結晶形に変化を与えない範囲の温度で3〜10分の加熱工程を行う。加熱温度は例えば100〜150℃程度とする。雰囲気は、通常は大気雰囲気である。ただし、薄膜の性質に応じ、適宜、適切な雰囲気を用いる。例えば、薄膜に潮解性がある場合には残留水分の少ない不活性ガス雰囲気とする。また、薄膜が非晶質の場合に、例えばピエゾ材料のように、材料によっては結晶化させないと機能を発現しない材料もある。このような材料の場合には、結晶化のための加熱工程を行う。加熱温度、時間は材料に依存するが、PZTの場合は概ね600〜800℃で時間は1〜10分加熱する。
【0030】
具体的には、金属酸化物前駆体としては、金属酸化物薄膜を形成可能な物質、すなわち金属酸化物アモルファスまたは金属酸化物結晶を形成可能な物質を用いることができる。具体的には、金属アルコキシド、β−ジケトナート錯体、および金属キレートなどの金属錯体、金属カルボンサン塩などがある。溶媒としては、エタノール系の有機溶媒を用いることができる。
【0031】
金属アルコキシドとしては、Si、Ge、Ga、As、Sb、Bi、V、Na、Ba、Sr、Ca、La、Ti、Ta、Zr、Cu、Fe、W、Co、Mg、Zn、Ni、Nb、Pb、Li、K、Sn、Al、Smなどの金属のアルコキシドが挙げられる。さらに、OCH、OC、OC、OC、OCOCHなどのアルコキシル基を有する金属アルコキシドを用いることができる。
【0032】
また、β−ジケトナート錯体としては、例えば、金属とアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ベンゾイルトリフルオロアセトン、ベンゾイルジフルオロアセトン、ベンゾイルフルオロアセトン等を用いることができる。
【0033】
金属カルボン酸塩としては、例えば、酢酸バリウム、酢酸銅(II)、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、酢酸鉛、シュウ酸バリウム、シュウ酸カルシウム、シュウ酸銅(II)、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸スズ(II)等を用いることができる。溶媒としては、アルコール系の有機溶媒を用いることができる。溶液の濃度は、0.1〜1mol/lが望ましく、更に望ましくは0.3〜0.7mol/lである。なお、濃度の上限は、液の安定性の観点より規定される値である。濃度の下限は、薄膜の堆積速度より規定される値である。
【0034】
本実施の形態においては、金属酸化物前駆体溶液12に基板20を浸した状態でレーザ光14を照射するため、レーザ光14が照射された部分にのみ薄膜が形成される。したがって、従来のゾル−ゲル法における、金属酸化物前駆体溶液の添付乾燥の工程、金属酸化物前駆体を取り除くためのドライエッチングまたはウェットエッチングの工程を不要とすることができる。これらの工程は、非常にコストのかかる工程であり、本実施の形態にかかる薄膜製造方法においては、これらの工程を不要とすることにより、大幅なコスト減を実現することができる。
【0035】
さらに、成膜反応が金属酸化物前駆体溶液12中において行われるため、成膜反応の間、金属酸化物前駆体溶液12が常に供給されることとなり、薄膜中に亀裂が生じ難くなる。
【0036】
また、本実施の形態では、薄膜形成の際に用いる光源13と同一光源からレーザ光14を出射して、基板20の第1主面20aと金属酸化物前駆体溶液12の液面の距離、すなわち、金属酸化物前駆体溶液層厚み73を算出し、金属酸化物前駆体溶液層厚み73に基づいて基板20の高さ方向の位置を調整して、金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を一定にしているので、簡易な構成で、かつ低コストで、より安定した品質の薄膜を製造することができる。
【0037】
本実施の形態にかかる薄膜製造方法により形成された薄膜は、例えば、超音波圧電素子、不揮発性メモリ素子、アクチュエータ素子などに利用することができる。アクチュエータ素子は、例えばインクジェットプリンタの記録ヘッドに利用される。
【0038】
図5は、本実施の形態にかかる薄膜製造方法により形成された薄膜を活性層として用いた圧電素子50を示す図である。圧電素子50は、圧電体膜51と、圧電体膜51の第1主面51a上に形成された第1電極52と、圧電体膜51の第2主面51b上に形成された第2電極53とを有している。圧電体膜51は、薄膜製造方法により形成された薄膜である。第1電極52および第2電極53は、例えば白金(Pt)や、光透過性の高いランタンニッケルオキサイド、ストロンチウムルテニウムオキサイドなど導電性を有する材料で構成される。第1電極52および第2電極53は、例えばスパッタ法または真空蒸着法により形成することができる。
【0039】
図6は、第1の実施の形態にかかる薄膜製造方法の第1の変更例を説明するための図である。第1の変更例にかかる薄膜製造方法では、第1主面20aに既に電極層40が形成された基板20を用いる。電極層40は、導電性を有する材料で構成され、スパッタ法等により形成される。なお、電極層40はパターン化された状態で基板20に積層されていてもよい。
【0040】
電極層40が形成された基板20を金属酸化物前駆体溶液12に浸すことにより、図7に示すように電極層40の第1主面40a上に薄膜パターン30が形成される。なお、金属酸化物前駆体溶液層厚み73の測定方法等のこれ以外の工程は、第1の実施の形態にかかる薄膜製造方法と同様である。また、表1を参照しつつ説明した、各照射位置への光照射の効果等も電極層40が積層されていない場合と同様である。なお、ケースCでは、第1主面20aへの照射にかえて、電極層40の第1主面40aにレーザ光が照射される。
【0041】
また、第2の変更例としては、基板20の第1主面20aに電極層40に替えて、光源13から照射される特定の波長のレーザ光14を吸収する光吸収層が形成された基板20を用いてもよい。また、光吸収層は、パターン化された状態で基板20に積層されていてもよい。光吸収層としては、レーザ光14の波長に依存するが、例えば、SiO、SiN、TiO、SiC等の金属酸化物、窒化物、炭化物を用いることができる。
【0042】
光吸収層が形成された基板20を金属酸化物前駆体溶液12に浸すことにより、光吸収層の第1主面上に薄膜パターンが形成される。なお、これ以外の工程は、電極層40の第1主面40a上に薄膜を形成する場合と同様である。光吸収層を設けることにより、基板20の光吸収率を向上させ、より多くのエネルギーを吸収させることができる。
【0043】
また、第3の変更例としては、第1の変更例において説明した電極層40は光吸収層を兼ねるものであってもよい。光吸収層を兼ねる電極層40としては、電極としても機能する材料、すなわちLaNiO、SrRuO、ITO等の酸化物電極を用いることができる。また例えばCSD法による、ランタンニッケルオキサイド溶液を用いた導電膜の形成において、光吸収率を高める材料、例えば色素などを金属酸化物前駆体溶液12内に混ぜて、光吸収層を兼ねた導電膜を形成することができる。
【0044】
また、第4の変更例としては、図8に示すように、基板20の裏面である第2主面20bに光反射層80が形成された状態で、基板20を金属酸化物前駆体溶液12に浸してもよい。これにより、光反射層80により反射された光が再び基板20に入射するので、成膜反応を促進することができる。光反射層80としては、使用するレーザ光の波長に依存するが、Au、Ag、Al、Pt、等の金属を用いることができる。
【0045】
また、本実施の形態においては、圧電素子として利用される薄膜を形成する例について説明したが、形成される薄膜の種類は実施の形態に限定されるものではなく、上記薄膜製造方法により、各種薄膜を形成することができる。なお薄膜製造に際しては、各薄膜の原料となる原料溶液中に、基板を浸せばよく、原料溶液および基板の材料は実施の形態に限定されるものではない。
【0046】
本実施の形態にかかる薄膜製造方法により製造される薄膜の一例としては、透光性および電気光学効果を有する薄膜が挙げられる。透光性および電気光学効果を有する薄膜は、光導波路、光スイッチ、空間変調素子および画像メモリ等に利用することができる。
【0047】
以上、第1の実施の形態において、レーザ光の照射方向および照射位置の異なるケースA〜Eについて説明したが、表中の丸を1点、三角を0.5点、バツを0点として、各項目(a〜f)の評価の合計点により、各ケースを評価することもできる。さらに、重要視する項目に重みを与えた上で、各項目の合計点を算出し、これにより各ケースを評価してもよい。
【0048】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、第1の実施の形態の構成に加えて、基板20の第1主面20aと金属酸化物前駆体溶液12の液面の距離(金属酸化物前駆体溶液層厚み73)に基づいて、光源13のパワーを調整するものである。
【0049】
本実施の形態では、第1の実施の形態と同様の構成および手法で、基板20上の金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を算出する。そして、この金属酸化物前駆体溶液層の厚み73の情報を光源13のレーザ光14の出力を制御する制御装置(不図示)にフィードバックし、金属酸化物前駆体溶液層の厚み73に応じて、レーザ光14の出力を調整し、均一な薄膜を形成する。
【0050】
金属酸化物前駆体溶液層の厚み73とレーザ光の出力の関係は、予め実験データを計測しておく。例えば、金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を0.1umピッチで0.1umから5umまでの膜を形成し、レーザ光14の出力を1%ピッチで1〜100%まで変化させ、薄膜の状態を計測する。
【0051】
一般的にレーザ光の出力が大きすぎるとクラックが起きるか、膜が剥がれてしまう。一方、レーザ光の出力が小さすぎると金属酸化物前駆体溶液12の溶媒が完全に乾燥しないか、もしくは膜の結晶性が低い状態となる。膜の状態を計測する手段としては、一般的にXRD装置やFTIR装置などがある。上記実験データから膜厚さに応じて最適なレーザ光の出力を選択し、最適な出力のレーザ光を照射することで、均一かつ信頼性の高い膜を形成することができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、図9に示すように、反応容器10の内壁面に、ダンパー16を設置する。ここで、ダンパー16は、反応容器10の内壁面の全面に設けられている。ダンパー16としては、例えばスポンジなどポーラスな部材を用いることができる。また衝撃波を分散する観点から、ダンパー16として金属酸化物前駆体溶液12と同等の粘弾性特徴を有する部材を用いることができる。具体的には、ダンパー16として、同程度以上の粘度の溶液が入った樹脂でできた袋等を利用することができる。金属酸化物前駆体溶液12の粘度は、1−30mPasec程度である。
【0053】
金属酸化物前駆体溶液12の表面に波が生じた場合には、光源13から照射されたレーザ光が乱反射し、照射スポットの形状が乱れてしまう。すなわち、高精細なパターニングが困難となる。
【0054】
さらに、波の発生により、金属酸化物前駆体溶液12の高さが局所的に変化する。このため、光エネルギーの光透過深さ、焦点等が変化し、狙いの領域に効率よくエネルギーを与えることができないという問題もある。また、波の発生により、金属酸化物前駆体溶液12の表面積が大きくなるため、金属酸化物前駆体溶液12の蒸発速度が増すこととなる。これにより、金属酸化物前駆体溶液12の物性(特に粘度)が変わり、膜形成特性も変わってしまうという問題がある。
【0055】
これに対し、本実施の形態のように反応容器10の壁面にダンパー16を設けることにより、波を打ち消すことができるので、高品質な薄膜を製造することができる。
【0056】
なお、第3の実施の形態にかかる薄膜製造方法のこれ以外の工程は、他の実施の形態にかかる薄膜製造方法と同様である。
【0057】
また、本実施の形態でも、第1の実施の形態と同様の構成および手法で、基板20上の金属酸化物前駆体溶液層の厚み73を算出する。また、本実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、算出された金属酸化物前駆体溶液層の厚み73に基づいて基板20の高さ方向の位置を調整する。また、本実施の形態では、第2の実施の形態と同様に、算出された金属酸化物前駆体溶液層の厚み73に応じて、光源13から出射するレーザ光14の出力を調整する。
【0058】
また他の例としては、ダンパー16としては、アルミなど剛性の高いものを利用し、金属酸化物前駆体溶液12の波の高さと位相を検知し、波の高さおよび位相に基づいて、逆位相でダンパー16を駆動させ、波を緩和してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 反応容器
11 保持台
12 金属酸化物前駆体溶液
13 光源
14 レーザ光
20 基板
30 薄膜パターン
51 圧電体膜
52 第1電極
53 第2電極
60 受光センサ
61 液面からの拡散反射光
62 基板面からの拡散反射光
63 光源点
64 測定点
65 スリット通過点
66 受光点
67 スリット
68 受光素子
71 光源点から金属酸化物前駆体溶液面までの距離
72 光源点から基板までの距離
73 金属酸化物前駆体溶液層厚み
80 光反射層
【先行技術文献】
【特許文献】
【0060】
【特許文献1】特許第3346214号公報
【特許文献2】特許第4108502号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第1主面上に形成させる薄膜の原料溶液中に、前記基板を配置する配置工程と、
光源から前記第1主面側に光を照射することにより、前記基板の第1主面上に前記薄膜を形成する形成工程と、
前記光源と同一の光源から光を照射して、前記基板の第1主面と原料溶液面の距離を計測する工程と、
計測結果に基づいて、前記基板の高さ方向の位置を調整する工程と、
を含むことを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項2】
基板の第1主面上に形成させる薄膜の原料溶液中に、前記基板を配置する配置工程と、
光源から前記第1主面側から光を照射することにより、前記基板の第1主面上に前記薄膜を形成する形成工程と、
前記基板の第1主面と原料溶液面の距離を計測する工程と、
計測結果に基づいて、前記光源から出射させる光の出力を調整する工程と、
を含むことを特徴とする薄膜製造方法。
【請求項3】
前記原料溶液は、金属酸化物前駆体溶液であり、前記薄膜は、金属酸化物薄膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項4】
前記形成工程は、前記第1主面側から前記原料溶液表面を照射位置として、波長400nm以下の前記光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項5】
前記形成工程は、前記第1主面側から前記原料溶液中を照射位置として、波長400nm以下の前記光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項6】
前記形成工程は、前記第1主面側から前記基板の前記第1主面を照射位置として、波長400nm以上の前記光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項7】
前記形成工程は、前記第1主面側から前記基板内部を照射位置として、波長400nm以上の前記光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項8】
前記形成工程は、前記第1主面側から前記基板の第1主面の裏面である第2主面を照射位置として、波長400nm以上の前記光を照射することを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜製造方法。
【請求項9】
反応溶液を満たす反応容器の内壁には、前記原料溶液に生じた波を緩和するダンパーが設けられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一つに記載の薄膜製造方法。
【請求項10】
前記請求項1から9のいずれか一つに記載の薄膜製造方法により製造された前記薄膜を用いたことを特徴とする薄膜素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−31022(P2012−31022A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173007(P2010−173007)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】