説明

薬剤塗付医療用具

【課題】
経皮的に体内に留置することによって、皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容し、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱できる低侵襲性の薬剤を塗布した医療用具、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容するために、生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマー、界面活性化剤及び/又は溶媒を利用して薬剤が支持体に塗付され、その支持体が経皮的に体内留置され、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱されることを特徴とする低侵襲性の医療用具、それに適した医薬組成物及びその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮的に体内に留置することによって、皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容し、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱できる低侵襲性の医療用具、及びその製造方法に関する。固相又は極めて粘稠な液相ないしは液相と固相の混合状態の医薬組成物を、低侵襲的に皮下、皮内及び/又は筋肉内に投与するための技術に関する。
【背景の技術】
【0002】
従来、低侵襲的に薬剤を皮内、皮下及び/又は筋肉内に投与する際は、薬剤を水性もしくは非水性溶液を用いて溶解、懸濁ないしはエマルジョン状態に調製後、注射用剤形にて投与している。しかし、投与された薬剤の体内濃度を十分な時間にわたって維持できない等、従来の方法は満足のいくものではなかった。薬剤を溶解、懸濁ないしはエマルジョン状態に保ち投与するために薬物動態プロファイルを向上させるための製剤設計に限界があり望ましい薬物動態プロファイルを提供できなかった。
【0003】
薬剤濃度の低下を補うために反復投与、連日投与、隔日投与が行われており、患者のコンプライアンス上も満足のいくものではなかった。望ましい薬物動態プロファイルを提供し、皮下、皮内及び/又は筋肉内に投与でき、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱できる低侵襲性の医療用具及びそれに適した医薬組成物の開発が強く望まれている。
【0004】
特許文献1、特許文献2等にも記載されているが、酢酸リュープロレン、LH−RH誘導体等の生理活性ペプチド類において、生体吸収性ポリマーでペプチド類をマイクロスフィア化し、皮下注射する製剤が開発されている。ゴセレリン製剤は、乳酸グリコール酸共重合体基材に薬剤を分散させた皮下埋込インプラントである。薬剤塗付ステントは、血管内への埋込型である。しかし、これらは低侵襲的に任意のときにすみやかに体内から着脱できるものではなかった。低侵襲的に、皮内、皮下及び/又は筋肉内に薬剤を投与でき、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱できる医療用具は従来なかった。特許文献3にて、徐放性の眼内埋込用製剤が開示されているが、これも任意のときにすみやかに体内から回収できるものではなかった。
【特許文献1】特開平10−273447号公報
【特許文献2】WO99/36099号公報
【特許文献3】特開平5−17370号公報
【0005】
薬剤塗付ステントのように、体内から着脱されることなく患者の血管内に留置される薬剤塗付医療用具、及びその製造方法は、例えば、特許文献4〜22等で開示されているが、本発明の医療用具とは重要な特許構成要件である支持体の構造及び留置される組織臓器が明らかに異なり、また医療用具を体内から着脱さるかどうか等を始め期待される特性等も異なっている。
【特許文献4】特開平6−221号公報
【特許文献5】特開平6−233811号公報
【特許文献6】特開平6−218063号公報
【特許文献7】特開平8−33718号公報
【特許文献8】特開平8−224297号公報
【特許文献9】特開平8−266637号公報
【特許文献10】特開平9−117512号公報
【特許文献11】特開平10−52502号公報
【特許文献12】特開平10−192413号公報
【特許文献13】特開平10−295824号公報
【特許文献14】特開平10−305105号公報
【特許文献15】特開2000−144050号公報
【特許文献16】特開2001−293094号公報
【特許文献17】特開2001−514936号公報
【特許文献18】特開2002−161049号公報
【特許文献19】特開2002−233577号公報
【特許文献20】特開2002−326930号公報
【特許文献21】特開2002−345972号公報
【特許文献22】特開2003−33439号公報
【0006】
鍼灸において、鍼灸針、平軸皮内針、リング軸皮内針、円皮針、および皮膚刺激針が体内留置される場合がある。例えば、セイリン株式会社(静岡県静岡市)のホームページ(www.seirin.tv/sub02.htm)示される非特許文献1、或いは、日本中国温灸株式会社(兵庫県稲美町)が提供する非特許文献2等に示されている。また、特許文献23〜25にて鍼灸目的に適した支持体の構造及びその材質が例示されている。
【非特許文献1】製品一覧
【非特許文献2】ニューラークバン添付文書
【特許文献23】特開2000−51315号公報、、
【特許文献24】特開2001−299873号公報
【特許文献25】特開2001−314018号公報
【0007】
しかし、これらの鍼灸目的の医療用具ないし支持体で薬剤が塗付され実用化されたものはない。また、特許文献23〜25等には、皮下、皮内、及び/又は筋肉内に低侵襲的に薬剤を投与するための支持体ないしは医療用具の構造体として適しているとは記載されていない。薬剤の選択や適した薬物動態プロファイルを得るための薬剤を塗付する方法や医薬組成物の検討などの諸条件についても検討されていない。
【0008】
特許文献26にて、溝をつけることによって医薬品を経皮的に投与可能となった鍼灸針が記載されている。しかし、この鍼灸針は採血のために血管内に刺入することを元々目的としており、皮下、皮内及び/又は筋肉内への薬剤投与には適していないことは明らかである。
【特許文献26】特開2003−116962号公報
【0009】
特許文献26では、薬剤を鍼灸針に保持する方法として、「溝付きの鍼灸針を医薬品の溶液に浸け、表面をぬぐって、溝内にのみ溶液を付着させる。そしてこれを凍結乾燥させることで、医薬品付きの針とする。」とあり、鍼灸針に溝を付けることと薬剤溶液を付着させることの組み合わせを極めて限局して開示している。しかし、開示された鍼灸針は、薬剤の望ましい薬物動態プロファイルを得ること、薬剤放出を任意にコントロールすることの重要性等を考慮していないものであり課題を解決できるものではないことは明らかである。また、課題を解決するための薬剤の塗布方法、課題を解決するために適した医薬組成物に関しても記載されていない。更に、特許文献26では、「医薬品としては、例えば局所麻酔剤などが考えられる。」と極めて限定的に記載されているだけであり他の効能を持つ薬剤に関しては具体的には記載されていない。薬剤が鍼灸効果を増強することも、また、鍼灸効果と相補的に作用することも記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、経皮的に体内に留置することによって、皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容し、かつ任意のときに体内からすみやかに着脱できる低侵襲性で操作性のすぐれた医療用具、及びその製造方法を提供することにある。そのために適した医薬組成物、及びその製造方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的は、経皮的に体内に留置でき、かつ任意のときに体内からすみやかに着脱できる低侵襲性で操作性のすぐれた支持体に、生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマー、界面活性化剤及び/又は溶媒を利用して薬剤を塗付させることによって達成される。個々の薬剤の特性を踏まえ望ましい薬物動態プロファイルが得られるように、薬剤、支持体、薬剤塗付方法、及び医薬組成物等が検討決定される。
【発明の効果】
【0012】
経皮的に体内に留置することによって、皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容し、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱できる低侵襲性の医療用具、及びその製造方法を提供する。本発明の薬剤を塗布された医療用具は、従来の皮下、筋肉内、経口及び/又は外用等の方法で薬剤を投与した場合に比べて、薬効が持続的になる、コンプライアンスが改善される等の優れた効果を示す。また、任意のときにすみやかに着脱できるので、薬剤投与を中断したいときに直ぐに対応できる等、安全性の高い治療方法を提供できることになる。本発明の薬剤塗付医療用具は、新しい薬剤送達システム、及び新しい治療方法をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。本発明は、経皮的に体内に留置され、皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容し、かつ任意のときに体内からすみやかに着脱できる低侵襲性の医療用具、及びその製造方法を提供することにある。そのために適した医薬組成物、及びその製造方法も提供する。本発明の医療用具は、操作性にすぐれ工業的に製造可能である。
【0014】
本発明の医療用具に用いられる薬剤は、患者又は健康増進を望んでいる人に対して有効であるものであれば特に限定されないが、抗炎症剤、血管拡張剤、降圧剤、血管収縮剤、副腎皮質ステロイド剤、ステロイド系剤、女性ホルモン剤、避妊用剤、骨・カルシウム代謝剤、骨粗鬆症剤、抗酸化剤、ビタミン剤、活性型ビタミンD3誘導体、解熱鎮痛剤、睡眠・鎮静剤、片頭痛剤、向精神剤、抗鬱剤、抗不安剤、鎮咳剤、筋弛緩剤、麻酔剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、アトピー性皮膚炎治療剤、皮膚潰瘍治療剤、糖尿病剤、低血糖治療剤、高脂血症剤、抗潰瘍剤、H2受容体阻害剤、プロトンポンプ阻害剤、抗ウイルス剤、禁煙補助剤、鎮痛剤、末梢循環改善剤、排尿障害改善剤、抗狭心症剤、造血剤、抗喘息剤、気管支拡張剤、子宮内膜症剤、成長ホルモン剤、抗パーキンソン剤、抗痴呆剤、制吐剤、制癌剤、抗リューマチ剤、免疫抑制剤、カルシウム拮抗剤、α1受容体阻害剤、β受容体阻害剤、β2受容体刺激剤、ムスカリニック受容体阻害剤、プロスタグランジン系剤、ニトロ系剤、COX−2阻害剤、エリスロポイエチン系剤、生理活性ペプチド剤、生理活性蛋白剤等が挙げられる。非特許文献3を参考に下記の薬剤を例示するが、それに限定されない。薬剤は、薬剤の化学的構造、作用メカニズム、又は、適応疾患によって通常分類される。また、例示した薬剤の医療上許容される塩もしくは溶媒和物も含まれる。薬剤の効能も記載した効能に限定されない。
【非特許文献3】水島裕編、「今日の治療薬2002」、南江堂
【0015】
抗炎症剤としては、インドメタシン、ジクロロフェナックナトリウム、ケトプロフェン、ナプロキセン、ロキソプロフェンナトリウム、ピロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、ラノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、セレコキシブ、ロフェコキシブ等の非ステロイド性抗炎症剤が挙げられる。最近開発されたセレコキシブ、ロフェコキシブ等はCOX−2阻害剤と呼ばれる。血管拡張剤としては、塩酸イソクスプリン等のβ受容体刺激剤、アルプロスタジルアルファデクス、アルプロスタジル、リマプロストアルファデクス、エポプロステノールナトリウム等のプロスタグランジン系剤等が挙げられる。
【0016】
降圧剤としては、塩酸ニカルジピン、ニフェジピン、ベシル酸アムロジピン、塩酸ベニジピン、ニルバジピン等のカルシウム拮抗剤、ピンドロール、フマル酸ビソプロロール、塩酸ブフェトロール、カルベジロール等のβ受容体阻害剤、塩酸プラゾシン、メシル酸ドキサゾシン等のα1受容体阻害剤、メチクロチアジド、トリクロルメチアジド、インダパミド、フロセミド等の利尿剤、カンデサルタンシレキセチル等のアンギオテンシンII受容体阻害剤等が挙げられる。血管収縮剤としては、アドレナリン類、メシル酸ジヒドロエルゴタミン等のエルゴタミン系剤等が挙げられる。
【0017】
ステロイド剤ないしは副腎皮質ステロイド剤としては、酢酸コルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、吉草酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、酢酸パラメタゾン等が挙げられる。女性ホルモン剤としては、結合型エストロゲン、メストラノール、エストラジオール等の卵胞ホルモン剤、酢酸クロルマジノン、アリルエストレノール、ノルエチステロン等の黄体ホルモン剤、酢酸エチノジオール・エチニルエストラジオール、ノルエチステロン・メストラノール等の卵胞・黄体ホルモン剤(避妊目的で使用される低用量剤も含む)等が挙げられる。
【0018】
骨・カルシウム代謝剤ないしは骨粗鬆症剤としては、ラロキシフェン等のSERM剤、エルカトニン、サケカルシトニン、カルシトニン誘導体、エストリオール、アレンドロン酸ナトリウム水和物、リセドロン酸ナトリウム水和物、パミドロン酸二ナトリウム、インカドロン酸二ナトリウム、パラサイロイドホルモン誘導体、エストリオール、メナテトレノン等が挙げられる。抗酸化剤としては、塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。ビタミン剤としては、パルミチン酸レチノール、オール・トランス・レチノイン酸等のビタミンA誘導体、アルファカルシドール、カルシトリオール、ジヒドロタキステロール、マキサカルシトール、ファレカルシトリオール等の活性型ビタミンD3誘導体、メコバラミン等のビタミンB12誘導体等が挙げられる。解熱鎮痛剤としては、メシル酸ジメトチアジン等が挙げられる。睡眠剤・鎮静剤としてはフェノバルビタール、トリアゾラム、ニトラゼム、フルラゼパム、ゾピクロン、酒石酸ゾルピデム、プロチゾラム等が挙げられる。片頭痛剤としては、コハク酸スマトリプタン、ゾルミトリプタン等が挙げられる。
【0019】
向精神剤ないしは抗鬱剤としては、塩酸パロキセチン、マレイン酸フルボキサミン等のSSRI剤、ジュロキセチン等のSNRI剤、塩酸イミプラミン等の三環系剤、リスペリドン、オランザピン等が挙げられる。抗不安剤としては、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、ロコラゼプ酸エチル等のベンゾジアゼピン系剤、エチゾラム、クロチアゼム、クエン酸タンドスピロン等が挙げられる。鎮咳剤としては、リン酸コデイン、オキシメテバノール、メジコン、クロペラスチン等が挙げられる。筋弛緩剤としては、バクロフェン、塩酸エペリゾン、塩酸チザニジン、メシル酸プリジノール等が挙げられる。麻酔剤としては、塩酸リドカイン、塩酸プロカイン等が挙げられる。
【0020】
抗ヒスタミン剤としては、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クレマスチン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、塩酸トリプロジン、ベシル酸ベポタスタチン等が挙げられる。抗アレルギー剤としては、クロモグリク酸ナトリウム、エバスチン、イブジラスト、フマル酸ケトチフェン、テルフェナジン、塩酸アゼラスチン、塩酸エピナスチン、ロラタジン、塩酸セチリジン、モンテルカストナトリウム、ザフィルカスト等が挙げられる。アトピー性皮膚炎治療剤としては、タクロリムス水和物等が挙げられる。皮膚潰瘍治療剤としては、ブラクデシンナトリウム、アルプロスタジルアルファデクス等が挙げられる。
【0021】
糖尿病剤としては、インスリン、グリペンクラミド、グリメピリド、塩酸ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、GLP−1等が挙げられる。低血糖治療剤として、グルカゴンが挙げられる。高脂血症剤としては、プラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチン等のスタチン系剤が挙げられる。抗潰瘍剤としては、ファモチジン、ラフチジン等のH2受容体阻害剤、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム等のプロトンポンプ阻害剤、オルノプロスチル、ミソプロストール等のプロスタグランジン系製剤等が挙げられる。
【0022】
抗ウイルス剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンα2b、インターフェロンα2a、インターフェロンアルファコンー1、PEG化等したインターフェロン誘導体等のインターフェロン系剤、ザナビル水和物、アシクロビル等が挙げられる。禁煙補助剤としては、ニコチン等が挙げられる。鎮痛剤としては、ペンタゾシン、ベンジルアルコール等が挙げられる。末梢循環改善剤としては、カリクレイン等の循環系ホルモン剤、血管拡張作用を持つ薬剤等が挙げられる。
【0023】
排尿障害改善剤としては、塩酸タムスロシン、ウラピジル等のα1受容体阻害剤、塩酸オキシブチニン、トルテロヂン等のムスカリニック受容体阻害剤、塩酸クレンブテロール等のβ受容体刺激剤、塩酸プロピベリン等が挙げられる。排尿障害とは頻尿、尿失禁、神経因性膀胱、排尿困難等を総称したものである。抗狭心症剤としては、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド等のニトロ系剤、ニコランジル、カルシウム拮抗剤等が挙げられる。
【0024】
造血剤としては、エポエチンアルファー、エポエチンベーター、PEG化したエリスロポイエチン誘導体等のエリスロポイエチン系剤、フィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、ミリモスチン、PEG化等したコロニー刺激因子誘導体等のコロニー刺激因子系剤等が挙げられる。気管支拡張剤としては、塩酸オキシプレナリン、硫酸サルブタモール、塩酸プロカテロール、臭化水素酸フェノテロール、フマル酸ホルモテロール等のβ2受容体刺激剤等が挙げられる。抗喘息剤としては、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン等のステロイド剤や気管支拡張剤が挙げられる。子宮内膜症剤としては、酢酸ブセレリン、酢酸リュープロレン、酢酸ゴセレリン等が挙げられる。成長ホルモン剤として、ソマトロピン等が挙げられる。抗パーキンソン剤としては、メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド等が挙げられる。抗痴呆剤として、塩酸ドネペジルが挙げられる。制吐剤として、クエン酸モサプリドが挙げられる。抗リューマチ剤として、タクロリムス水和物、メトトレキセート、シクロスポリン等の免疫抑制剤、及び抗炎症剤が挙げられる。
【0025】
医療用具の支持体の材質としては、純チタン、ニッケルチタニウム等のチタン合金、金・銀等の他の金属をメッキしたチタン含有金属、他の金属にチタンをメッキする等の方法により制作するチタン含有金属、ステンレス鋼、タンタル、金、プラチナ、プラチナイリジウム合金及び他の生体適合性金属、生体適合性セラミックス及び/又は生体適合性有機ポリマーが挙げられる。多孔性処理された金属、セラミックスないしは有機ポリマーを用いることもできる。
【0026】
生体適合性有機ポリマーとしてはポリカーボネート、ポリスルフォン系ポリマー、炭素繊維を始め多くの有機ポリマーが挙げられる。特許文献4〜22に体内留置されることが可能な生体適合性金属が例示されている。
【0027】
本発明の医療用具の支持体は、低侵襲性を高めかつ操作性よく留置着脱を可能にするために種々の構造体が考えられる。支持体の留置部の長さと薬剤を塗布する留置部の場所を調整することによって皮下、皮内及び/又は筋肉等の目的の組織に薬剤をそれぞれ留置投与することができる。低侵襲性をより高めるためには、支持体の留置部は細い棒状が望ましく、また、その先端は針状であることが適している。支持体の体内に留置される針状部の前長は0.1から30mm、望ましくは0.2から15mm、更に望ましくは0.3から7mmであり、且つその針状部の最大径が0.1から3mm、望ましくは0.1から1mm、更に望ましくは0.1から0.5mmである支持体の構造が適している。より多くの薬剤を支持体に塗付し目的の薬剤動態プロファイルを実現するためには、支持体に穴や溝を付けたり多孔性処理をする等の加工が適している場合もある。支持体の破損等による医療事故を避けるために支持体には適度な可塑性とともに剛性や強度も要求される。支持体の材質には生体適合性も要求される。
【0028】
支持体に塗付する薬剤を選定した後、その薬剤の望ましい薬物動態プロファイルを達成するために、支持体の構造、材質、薬剤の前処理方法、薬剤の塗付方法、及び塗付される薬剤量等が検討決定され、目的の医療用具が提供される。塗付される薬剤は、一種の場合もあるが複数種の場合もある。塗付される薬剤ないしは薬剤を含む医薬組成物は、支持体に安定的に保持される必要があるので、固相状態又は極めて粘稠な液相ないしは液相と固相の混合状態が望ましい。極めて粘稠な状態とは、通常の注射用剤形において通常の操作では投与できない程度ないしはそれ以上に粘稠な状態のことを言う。
【0029】
適用される患者の疾患および患者の状態によって、本発明の医療用具を留置する組織、部位、及び留置時間が決定される。その際、本発明の医療用具は、一個だけでなく複数個適応される場合もある。本発明の医療用具は、他の治療方法と組み合わせることでより有用となる場合もある。
【0030】
生体吸収性ポリマーは、生体内で分解吸収され、代謝されるものであれば特に限定されないが、その中でも分解されたものが毒性を示さず、安全性も高いポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ラクチド、ポリカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリアミノ酸、澱粉、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグルタミン酸等が挙げられる。
【0031】
生体適合性ポリマーは、シリコーン、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリオレフインエラストマー、ポリオキシエチレンオキシト、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0032】
界面活性化剤は、安全性の高いものが望ましく、許容される範囲で使用される。ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸等の脂肪酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸のグリセロールエステル類、レシチン類、塩化ベンザトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等が挙げられる。
【0033】
本発明の医療用具は、生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマー、界面活性化剤及び/又は溶媒を利用して薬剤を支持体に塗付することによって提供される。薬剤前処理方法や薬剤塗付方法の選択には、薬剤の安定性をはじめ物理化学的特性が影響する。また、支持体の多孔性の程度や穴あけの有無等によっても薬剤が塗付される方法および薬剤量等が影響を受ける。
【0034】
溶媒は、生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマー、界面活性化剤及び/又は薬剤を溶解することが可能であれば望ましいが特に限定されない。揮発性有機溶媒が好ましい場合があり、例えばクロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサフルオロイソプロパノール等のハロゲン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物、ジメチルホルムアミド、DMAc等のアミド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、又はこれらの混合物が挙げられる。また、これらの揮発性有機溶媒中に、水、エタノール、メタノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、アセトニトリル、イソプロパノール、エーテル、又はヘキサン等を加えてもよい。時には、溶媒として、水、エタノール、メタノール、ブタノール、t−ブチルアルコール、グリセロール、プロピレングリコール、アセトニトリル、イソプロパノール、エーテル、ヘキサン、又はこれらの混合物が用いられてもよい。
【0035】
本発明の医療用具は、目的を達したあとに体内から着脱されることが重要である。特に、医療上の必要性から薬剤投与を中断したい等の任意のときにすみやかに体内から本発明の医療用具を着脱できることは大きなメリットである。た生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマー、界面活性化剤、残存している溶媒のいずれか又はそれらの2種以上の組み合わせと薬剤からなる医療用具の支持体に塗付され医薬組成物には、調製の過程で加えられた塩類等も含まれる。
【0036】
この医薬組成物は、乾燥工程等を経て固相状態になっている場合でも、又は、溶媒が残存している等の理由で極めて粘稠な液相ないしは液相と固相の混合状態の場合でも良いことが特徴である。特許文献27の例のように一部の薬剤ないしは医薬組成物においては、座剤、直腸内投与の目的で用いられることはあったが、固相状態又は極めて粘稠な液相ないしは液相と固相の混合状態の医薬組成物を低侵襲的に皮下、皮内及び/又は筋肉内に投与する有用な方法はこれまでなかった。
【特許文献27】特開平9−255556号公報
【0037】
固相状態又は極めて粘稠な液相ないしは液相と固相の混合状態である医薬組成物の投与を実用可能にしたことによって、望ましい薬剤動態プロファイルを得るための製剤処方を検討することが可能となった。薬剤塗布方法や処方の検討によって、必要あれば、支持体からゆっくり薬剤を放出できるので、本発明の医療用具は徐放性薬剤の提供手段としても優れている。
【0038】
鍼灸で広く用いられている留置型鍼灸針は最大1から2ヶ月体内に留置される場合がある。同様に、本発明の医療用具の支持体を最大1から2ヶ月体内に留置させることは可能である。本発明の医療用具が体内で効果を持続する期間は、塗付される薬剤の薬理作用と塗付された薬剤の薬物動態プロファイル等によって決まる。
【0039】
支持体の構造、塗付する薬剤量、薬剤塗付方法等の検討によって望ましい薬物動態プロファイルを実現し、本発明の医療用具の効果発現期間をコントロールできる。医療上の必要に応じて、体内留置後少なくとも半日から2日後まで、通常は3から10日後まで、更に、最大1から2ヶ月後まで効果が持続するように設計した本発明の医療用具を提供することができる。支持体に塗布される薬剤量が少ないほうが支持体から塗布された薬剤が剥離される危険性が少ないので低用量で活性を示す薬剤が本発明で使用される薬剤として適している。医療用具に塗付される薬剤の量は、薬剤の活性の強弱や医療用具からの放出性能等によって影響を受けるが、1ngから200mg、望ましくは30ngから30mg、更に望ましくは1μgから3mgである。
【0040】
処方の検討によって非常に持続的な薬剤の体内濃度を実現することも可能な本発明の医療用具は、該薬剤を通常の皮下、筋肉内、静脈内、又は経口投与する場合に比べて、投与間隔を長くとることができる等それぞれ優れた効果が期待される。禁煙補助療法としてニコチン類の貼付剤やガムタイプ剤が販売されているが、ニコチン類塗付の本発明の医療用具は、貼付剤やガムタイプ剤よりも長時間ニコチン類の体内濃度を保つことが期待される。ニコチン類塗布の本発明の医療用具にコンプライアンスの改善効果が期待できる。ニコチンの刺激性、或いは禁煙による各種のストレス等に対処する目的で、麻酔用剤、鎮痛剤、睡眠・鎮静剤、抗不安薬等の薬剤をニコチンとともに塗付することでより有用になる場合もある。
【0041】
インドメタシン、ジクロフェナックナトリウム等の抗炎症剤及び/又は鎮痛剤を塗付された本発明の医療用具は、腰痛症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、症候性神経痛、上腕骨上顆炎、筋肉痛等の患者において、愁訴部を中心にして1個ないしは複数個を適応することによってより強い効果が期待される。外用剤よりも持続的な効果と動きやすさの改善等が期待される。
【0042】
更に、本発明の医療用具の支持体自身によって、鍼灸針そのものを適応した際に知られている鍼灸効果が期待される。そのため、塗付された抗炎症剤及び/又は鎮痛剤が、その鍼灸効果を増強ないしは相補的に作用することが期待される。麻酔用剤、筋弛緩剤、末梢循環改善剤、睡眠・鎮静剤、エルカトニン、カルシトニン誘導体、副腎皮質ステロイド剤、女性ホルモン剤、抗うつ剤、抗不安剤及び/又は排尿障害改善剤等を塗付した本発明の医療用具も、支持体自身の鍼灸効果を増強又は相補することが期待される。支持体の鍼灸効果が、これらの薬剤の効果を増強することも期待される。
【0043】
インターフェロン系剤、エリスロポイエチン系剤、コロニー刺激因子系剤、インスリン、エルカトニン、カルシトニン誘導体、パラサイロイドホルモン、成長ホルモン、酢酸リュープロレン等の生理活性ペプチド剤、生理活性蛋白剤は、通常、皮下、筋肉内、或いは静脈内に注射用具を介して投与される。インスリンを以外の生理活性ペプチド剤ないしは生理活性蛋白剤は皮下、筋肉内ないし静脈内への自己投与は日本では認められていない。他の薬剤も同様である。本発明の医療用具は、操作性及び安全性が高いので自己投与が認められる可能性があり、又、投与間隔を長くすることが可能になるので大幅にコンプライアンスが改善すると期待される。
【0044】
鍼灸治療用針と同様の方法で本医療用具を患者の皮膚に貼り固定することができる。例えば、円皮針タイプの支持体であれば平板部の片面の皮膚に接する粘着面に加工し、また、平板部の逆の面には、剥離可能な剥離紙を貼り付けた粘着テープを固定することによって、患者の目的の部位に固定できる。本発明の医療用具を患者に留置した後、皮膚の表面に残った部分をメデカルテープや絆創膏で固定してもよい。本発明の医療用具の製造および患者への適応に際しては、必要な消毒、滅菌等の衛生的な処置をする。これらの技術は,特許文献23〜25、及び非特許文献2で示されている。以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
ポリビニルアルコール(重合度20,000)の濃度10ないし20質量%の水溶液100gに、pH調製して溶解したインドメタシン水溶液を添加することにより、各種の重合体皮膜材料溶液を調製した。一方、鍼灸針および円皮針(セイリン社製)を用意した。上記重合体皮膜材料溶液に円皮針の体内留置部を浸潤させた。この浸潤、凍結乾燥処理を繰り返すことにより、鍼灸針および円皮針に重合体皮膜を形成し、本発明の医療用具を得た。
【0046】
インドメタシンを塗付したそれぞれの医療用具を、4日間実験用イヌの皮膚に貼った後、容易に体内から着脱することができた。医療用具を留置した部位周辺のインドメタシンを定量したところインドメタシンが検出された。イヌの皮膚に問題となる毒性所見は認められなかった。本発明の医療用具が、特に副作用なく留置部位を中心に薬剤を望ましい時間存在させることが可能であることが示された。本発明の医療用具が低侵襲性で操作性に優れていることが示された。
【0047】
pH調整した水で溶解される薬剤は、同様の方法で支持体に塗付され本発明の医療用具を得ることができる。
【実施例2】
【0048】
35%の固形物を含むシリコーン分散液(20グラム)を秤量した。デキサメタゾン(0.5グラム)をテトラヒドロフラン15mlに溶解し、シリコーン分散液に加え充分に攪拌した。薬剤を塗付する皮内針様の支持体の留置部をこの溶液に浸漬した後、回転させながら乾燥した。更に、被覆サンプルをオーブンで1時間処理し、本発明の医療用具を得た。
【0049】
テトラヒドロフランで溶解される薬剤は、同様の方法で支持体に塗付され本発明の医療用具を得ることができる。
【0050】
医療用具からのからのデキサメタゾンの放出速度をポリエチレングリコール(分子量=400)の25/75v/v水溶液に浸漬して調べた。溶液を定期的にサンプリングし、新鮮な溶液と交換した。放出されるデキサメタゾンの量を、254nmの波長でUV検出器を用い高速液体クロマトグラフィーにより定量した。結果を、表1に示す。これらのデータは、本発明の医療用具からデキサメタゾンが持続的に放出されることを示している。
【0051】
【表1】


【実施例3】
【0052】
多孔性処理したチタン金属を鍼灸針タイプに加工した支持体、及び、ポリ乳酸(分子量:200,000)とピロキシカムないしケトプロフェンをジクロロメタン100mlに溶解させた溶液を準備する。支持体の体内留置部を本溶液中に浸漬させ、一定時間をおいて引き上げる。続いてスピンコータの回転数を2000rpmにセットして、支持体を回転処理し、均一な薬剤−ポリマーコーティングが本支持体に形成された。その後、オーブンで乾燥させ、本発明の医療用具を得た。塗付された薬剤量を定量することで、多孔性処理したチタン金属の支持体に剥離されることなく薬剤が塗付されていることが示された。更に、医療用具の支持体部の調製溶液への浸潤、乾燥を繰り返すことで塗布される薬剤量が増加することが示された。
【実施例4】
【0053】
ステンレス鋼(SUS316L)を鍼灸針や円皮針タイプに加工した支持体、ポリブチルメチルアクリレート(分子量:20,000)5gをジクロロメタン100mlに溶解させた溶液、およびオール・トランス・レチノイン酸10gを水100mlに溶解させた溶液を準備する。ポリブチルメチルアクリレート溶液を溶液槽に入れ、その後,それぞれのタイプの支持体を浸漬させ、引き上げた。スピンコータの回転数を2000rpmにて回転させ、均一にポリマーコーティングされた支持体を得た。その後、オーブン中で乾燥させ、本発明の医療用具を得た。本実施例の方法は親油性ないしは難溶性薬剤を支持体に塗布することに適している。
【実施例5】
【0054】
タクロリムス水和物ないしインドメタシンのそれぞれを溶解したアセトン溶液が調製された。溶液は、エアブラシの容器内に置かれた。鍼灸針タイプに加工された支持体を回転させつつ短い噴霧で薬剤溶液がかけられた。オーブンでの乾燥と噴霧を繰り返すことで薬剤を均一に塗付した本発明の医療用具を得た。溶液中の薬剤濃度や噴霧の回数によって塗付する薬剤の量をコントロールできた。得られた医療用具からの薬剤の溶出を、溶出液に支持体を浸し測定した。タクロリムス水和物ないしインドメタシンが、24時間以後も溶出されることが観察された。
【0055】
タクロリムス水和物とインドメタシンの両薬剤を溶解したアセトン溶液を調製し、同様な方法で支持体に噴霧塗付し、本発明の医療用具を得た。2種の薬剤を塗付した本発明の医療用具を製造できることが確認された。アセトンで溶解される薬剤は、同様の方法で支持体に塗付され本発明の医療用具を得ることができる。
【実施例6】
【0056】
インドメタシンを溶解した含水アセトン溶液に図1の支持体10個の針部を浸し、引き上げ乾燥させる工程を3から6回繰り返した。深部の長さが7mmであるこの支持体はステンレス鋼製の円皮針類似の構造物であり、支持体の針部の2ヶ所に小さな穴を貫通させてある。次いで、ポリ乳酸−ポリグリコール酸(1/1)共重合体LGA5005(平均分子量5000、和光純薬工業製)の塩化メチレン溶液(40mg/ml)に浸し、その後取り出し乾燥させることにより本発明の医療用具を得た。また、ポリマー被覆をしない医療用具と薬剤の溶出性能を比較した。
【0057】
塗付されたインドメタシン量を定量した。塗付乾燥工程の回数によるが、塗付されたインドメタシンの量は、0.2mg〜0.4mgであった。また、この医療用具を2週間に渡ってイヌの皮膚に適応したが特に問題となる毒性所見は認められなかった。ポリマー被覆医療用具のほうが、薬剤の溶出が徐放的であった。
含水アセトンで溶解される薬剤は、同様の方法で支持体に塗付され本発明の医療用具を得ることができる。
【実施例7】
【0058】
ステンレス鋼製の鍼灸針様支持体の針部の2箇所に細い溝をつけたものと溝のない通常のものを準備する。インドメタシンを溶解したpH調整された含水アセトン溶液にそれぞれの支持体の針部を浸し、引き上げ乾燥させる工程を繰り返した。次いで、ポリ乳酸−ポリグリコール酸(1/1)共重合体LGA5005(平均分子量5000、和光純薬工業製)の塩化メチレン溶液(40mg/ml)に浸し、その後取り出し、乾燥させることにより本発明の医療用具を得た。溝をつけた医療用具は、溝のないものよりも塗付された薬剤量が多かった。
【実施例8】
【0059】
充分微粉砕した塩酸リドカインを1%(w/w)ヒアルロン酸水溶液100mlに少量ずつ添加し攪拌処理しつつ溶解した。この溶液にチタン製の図1の支持体10個を浸した後、支持体を引き上げ、回転しながら乾燥させた。この塗付工程を2から4回繰り返した。塗付された塩酸リドカインの量は、0.04〜0.08mgであった。
【0060】
1%(W/W)コラーゲン水溶液、1%(W/W)ゼラチン水溶液、1%(W/W)ポリグルタミン酸水溶液、或いは、1%(W/W)キトサン酢酸水溶液においても、前記と同様の工程を実施することによって本発明の塩酸リドカインを塗付した医療用具を得ることができた。pH調整した1%(w/w)ヒアルロン酸水溶液、1%(W/W)コラーゲン水溶液、1%(W/W)ゼラチン水溶液、1%(W/W)ポリグルタミン酸水溶液、或いは、1%(W/W)キトサン酢酸水溶液で溶解される薬剤は、同様の方法で支持体に塗付され本発明の医療用具を得ることができる。
【実施例9】
【0061】
皮下及び/又は筋肉内に薬剤を送達できるように針部の長さを調整した支持体に、実施例1の方法にてエルカトニンを塗付した。その際、皮下ないしは筋肉内に薬剤を送達されるように部位を選択しエルカトニンを塗付した。エルカトニン1〜60μgが塗付された本発明の医療用具を得ることができた。この医療用具を実験用イヌに適応した場合、エルカトニン水溶液を皮下ないしは筋肉内に注射した場合に相当するエルカトニン血中濃度推移が観察された。
【0062】
通常エルカトニンは一回1〜100μgの皮下ないしは筋肉内注射で骨粗鬆症患者において効果が期待されている。臨床適応量に相当するエルカトニンを塗付した本発明の医療用具を得ることが示された。このエルカトニンを塗付した本発明の医療用具を骨粗鬆症の患者に適応した際は、エルカトニンで知られている疼痛改善効果等の骨粗鬆症薬としての効果が期待された。更に、支持体の鍼灸効果が加わり、エルカトニンを注射した場合よりも優れた効果が期待された。
【実施例10】
【0063】
ケトプロフェンの0.1gないしは0.5gを秤量し、ポリアクリル酸、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド及びt−ブチルアルコールを含むポリマー溶液の1mlに加えた。完全に溶解するまで、ケトプロフェン試料とポリマー溶液を充分に混合した。ステンレス鋼製の支持体に、そのケトプロフェンを含有するポリマー溶液を添加し50℃の真空オーブン中にて乾燥固化させることによって本発明の医療用具を得た。ケトプロフェンの放出時間を測定するために、ケトプロフェンを塗付した支持体をPBS(pH=7.4)中に浸漬させた。ケトプロフェンは、300から450分後まで持続的に放出された。ポリマー層を剥離することなくこの医療用具をイヌの皮膚に適応することができた。ポリアクリル酸、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド及びt−ブチルアルコールを含むポリマー溶液で溶解される薬剤は、同様の方法で支持体に塗付され本発明の医療用具を得ることができる。
【実施例11】
【0064】
モノオレイン酸グリセロール20gにオレイン酸10gおよびベンジルアルコール10gを添加し組成液を形成する。この組成液にニコチン10gを添加混合し、適当量の精製水を添加混合しニコチン組成物を得る。ステンレス鋼製の支持体をこの組成物に浸し、回転させながら凍結乾燥を繰り返すことによって本発明の医療用具を得た。塗付されるニコチン量を、0.2〜10mgにコントロールすることができた。
【実施例12】
【0065】
デキサメタゾンないしは酢酸ヒドロコルチゾン1gと平均分子量3200のポリ乳酸1gとを機械的に充分混合した。支持体の針部に小さい穴を複数貫通させ、その小穴に本混合物を塗りこみ、更に、留置部全体に塗付させた。約80℃に加熱しながら加圧成型して本発明の医療用具を得ることができた。本実施例の方法は親油性ないしは難溶性薬剤を支持体に塗布することに適している。
【実施例13】
【0066】
予め窒素ガス置換した精製水にて、エポエチンアルファー、フィルグラスチム、インターフェロンα、エルカトニン、ソマトロピンのそれぞれ25〜500μg量を添加し、それぞれ最終的に重合度約2500のポリビニルアルコール水溶液(20質量%)10gを調製した。調製作業は、適した温度条件下にて実施された。鍼灸針様の支持体をこの調製したポリマー溶液に浸した。ゆっくり引き上げ、温度−20℃の凍結処理と、温度4℃の解凍処理を繰り返すことにより本発明の医療用具を得た。本実施例は、インターフェロンβ、インターフェロンα2b、インターフェロンα2a、インターフェロンアルファコンー1、エポエチンベーター、レノグラスチム、ナルトグラスチム、パラサイロイドホルモン、インスリン、酢酸ブセレリン、酢酸ナファレリン、酢酸リュープロレン、酢酸ゴセレリン等の生理活性ペプチド剤及び生理活性蛋白剤を支持体に塗する方法として適していた。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態に係る円皮針様の支持体の構造を示す図
【符号の説明】
【0068】
a 針部の径
b 平板部の径
c 針部の全長(7mm)
d 針部の同軸部の長さ
e 平板部の厚さ
f 針部の中心を貫通している小穴の径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮的に体内に留置でき、皮内、皮下及び/又は筋肉内で望ましい期間にわたって薬剤の放出を許容し、かつ任意のときにすみやかに体内から着脱できる支持体に薬剤が塗付された医療用具
【請求項2】
生体吸収性ポリマー、生体適合性ポリマー、界面活性化剤及び/又は溶媒を利用することによって薬剤が支持体に塗付される請求項1に記載の医療用具。
【請求項3】
前記支持体の材質が、純チタン、ニッケルチタニウム等のチタン合金、金・銀等の他の金属をメッキしたチタン含有金属、他の金属にチタンをメッキする等の方法により製作するチタン含有金属、ステンレス鋼、タンタル、金、プラチナ、プラチナイリジウム合金、他の生体適合性金属、生体適合性セラミックス及び/又は生体適合性有機ポリマーである請求項1ないし2に記載の医療用具。
【請求項4】
前記支持体が、鍼灸針、平軸皮内針、リング軸皮内針、円皮針,皮膚刺激針、これらに類似の鍼灸用支持体及び/又は経皮的に留置でき任意のときにすみやかに体内から着脱でき先端が針状の生体適合性の支持体である請求項1〜3のいずれかに記載の医療用具。
【請求項5】
前記支持体の体内に留置される針状部の前長が0.1から30mm、望ましくは0.2から15mm、更に望ましくは0.3から7mmであり、且つその針状部の最大径が0.1から3mm、望ましくは0.1から1mm、更に望ましくは0.1から0.5mmである請求項1〜4のいずれかに記載の医療用具。
【請求項6】
前記支持体が、穴あけ、溝付け及び/又は多孔性処理等の加工された請求項1〜5のいずれかに記載の医療用具。
【請求項7】
前記薬剤が、親水性薬剤、親油性薬剤及び/又は難溶性薬剤である請求項1〜6のいずれかに記載の医療用具。
【請求項8】
前記薬剤が、抗炎症剤、血管拡張剤、降圧剤、血管収縮剤、副腎皮質ステロイド剤、ステロイド系剤、女性ホルモン剤、避妊用剤、骨・カルシウム代謝剤、骨粗鬆症剤、抗酸化剤、ビタミン剤、活性型ビタミンD3誘導体、解熱鎮痛剤、睡眠・鎮静剤、片頭痛剤、向精神剤、抗鬱剤、抗不安剤、鎮咳剤、筋弛緩剤、麻酔剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、アトピー性皮膚炎治療剤、皮膚潰瘍治療剤、糖尿病剤、低血糖治療剤、高脂血症剤、抗潰瘍剤、H2受容体阻害剤、プロトンポンプ阻害剤、抗ウイルス剤、禁煙補助剤、鎮痛剤、末梢循環改善剤、排尿障害改善剤、抗狭心症剤、造血剤、抗喘息剤、気管支拡張剤、子宮内膜症剤、成長ホルモン剤、抗パーキンソン剤、抗痴呆剤、制吐剤、制癌剤、抗リューマチ剤、免疫抑制剤、カルシウム拮抗剤、α1受容体阻害剤、β受容体阻害剤、β2受容体刺激剤、ムスカリニック受容体阻害剤、プロスタグランジン系剤、ニトロ系剤、COX−2阻害剤、エリスロポイエチン系剤、生理活性ペプチド剤、生理活性蛋白剤のいずれか、又は2ないし3剤の組み合わせからなる請求項1〜7のいずれかに記載の医療用具。
【請求項9】
前記薬剤が、インドメタシン、ジクロロフェナックナトリウム、ケトプロフェン、ナプロキセン、ロキソプロフェンナトリウム、ピロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、ラノキシカム、ロルノキシカム、メロキシカム、セレコキシブ、ロフェコキシブ、塩酸イソクスプリン、アルプロスタジルアルファデクス、アルプロスタジル、リマプロストアルファデクス、エポプロステノールナトリウム、塩酸ニカルジピン、ニフェジピン、ベシル酸アムロジピン、塩酸ベニジピン、ニルバジピン、ピンドロール、フマル酸ビソプロロール、塩酸ブフェトロール、カルベジロール、塩酸プラゾシン、メシル酸ドキサゾシン、メチクロチアジド、トリクロルメチアジド、インダパミド、フロセミド、カンデサルタンシレキセチル、アドレナリン類、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、酢酸コルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、吉草酸ベタメタゾン、デキサメタゾン、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、酢酸パラメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾン、プロピオン酸フルチカゾン、結合型エストロゲン、メストラノール、エストラジオール、酢酸クロルマジノン、アリルエストレノール、ノルエチステロン、酢酸エチノジオール・エチニルエストラジオール、ノルエチステロン・メストラノール、ラロキシフェン、エルカトニン、サケカルシトニン、カルシトニン誘導体、エストリオール、パミドロン酸二ナトリウム、インカドロン酸二ナトリウム、アレンドロン酸ナトリウム水和物、リセドロン酸ナトリウム水和物、パラサイロイドホルモン誘導体、メナテトレノン、塩化ベンザルコニウム、パルミチン酸レチノール、オール・トランス・レチノイン酸、アルファカルシドール、カルシトリオール、ジヒドロタキステロール、マキサカルシトール、ファレカルシトリオール、メコバラミン、メシル酸ジメトチアジン、フェノバルビタール、トリアゾラム、ニトラゼム、フルラゼパム、ゾピクロン、酒石酸ゾルピデ厶、プロチゾラム、コハク酸スマトリプタン、ゾルミトリプタン、塩酸パロキセチン、ジュロキセチン、塩酸イミプラミン、リスペリドン、オランザピン、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、ロコラゼプ酸エチル、エチゾラム、クロチアゼム、クエン酸タンドスピロン、リン酸コデイン、オキシメテバノール、メジコン、クロペラスチン、バクロフェン、塩酸エペリゾン、塩酸チザニジン、メシル酸プリジノール、塩酸リドカイン、塩酸プロカイン、ジフェンヒドラミン、マレイン酸クレマスチン、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸プロメタジン、塩酸トリプロジン、ベシル酸ベポタスタチン、クロモグリク酸ナトリウ厶、エバスチン、イブジラスト、フマル酸ケトチフェン、テルフェナジン、塩酸アゼラスチン、塩酸エピナスタチン、ロラタジン、塩酸セチリジン、モンテルカストナトリウム、ザフィルカスト、タクロリムス水和物、ブラクデシンナトリウム、インスリン、グリペンクラミド、グリメピリド、塩酸ピオグリタゾン、ロシグリタゾン、グルカゴン、GLP−1、プラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチンカルシウム水和物、ピタバスタチン、ファモチジン、ラフチジン、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールナトリウム、オルノプロスチル、ミソプロストール、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターフェロンα2b、インターフェロンα2a、インターフェロンアルファコンー1、ザナビル水和物、アシクロビル、ニコチン、ペンタゾシン、ベンジルアルコール、カリクレイン、塩酸タムスロシン、ウラピジル、塩酸オキシブチニン、トルテロジン、塩酸クレンブテロール、塩酸プロピベリン、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、ニコランジル、エポエチンアルファー、エポエチンベーター、フィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、ミリモスチン、塩酸オキシプレナリン、硫酸サルブタモール、塩酸プロカテロール、臭化水素酸フェノテロール、フマル酸ホルモテロール、酢酸ブセレリン、酢酸リュープロレン、酢酸ゴセレリン、ソマトロピン、メシル酸ブロモクリプチン、メシル酸ペルゴリド、塩酸ドネペジル、クエン酸モサプリド、メトトレキセート、シクロスポリンのいずれか、又は2ないし3剤の組み合わせである請求項1〜8のいずれかに記載の医療用具。
【請求項10】
前記生体吸収性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸とグリコール酸の共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ラクチド、ポリカプロラクトン、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、ポリアミノ酸、澱粉、ポリエチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリグルタミン酸からなる群より選択される1種以上である請求項1〜9のいずれかに記載の医療用具。
【請求項11】
前記生体適合性ポリマーが、シリコーン、ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリオレフインエラストマー、ポリオキシエチレンオキシト、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドからなる群より選択されるl種以上である請求項1〜10のいずれかに記載の医療用具。
【請求項12】
前記界面活性化剤が、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸のグリセロールエステル類、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸等の脂肪酸類、レシチン、塩化ベンザトニウム、グルコン酸クロルヘキシジンからなる群より選択される1種以上である請求項1〜11のいずれかに記載の医療用具。
【請求項13】
前記薬剤による効果が、体内留置後少なくとも半日から2日後まで、通常3から10日後まで、最大1から2ヶ月後まで持続する請求項1〜12のいずれかに記載の医療用具。
【請求項14】
前記薬剤の塗布される量が1ngから200mg、望ましくは30ngから30mg、更に望ましくは1μgから3mgである請求項1〜13のいずれかに記載の医療用具。
【請求項15】
前記薬剤が、支持体の鍼灸効果を増強ないしは相補する請求項1〜14のいずれかに記載の医療用具。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の医療用具に塗付された医薬組成物。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれかに記載の医療用具及び/又は請求項16の医薬組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれかに記載の医療用具及び/又は請求項16の医薬組成物を用いる治療方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−130028(P2007−130028A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−287196(P2003−287196)
【出願日】平成15年7月1日(2003.7.1)
【出願人】(503265739)
【Fターム(参考)】