説明

薬液供給システム

【課題】薬液の種類の変更などに伴い作動圧力の圧力設定値が相違する場合にも、常に適正に圧力フィードバック制御を行い、ひいては薬液の吐出流量を高精度に制御する。
【解決手段】ポンプ11は、可撓性膜よりなるダイアフラム12で仕切られたポンプ室13と作動室14とを有しており、作動室14内の圧力変化に伴い薬液の吸引及び吐出を実施する。電空レギュレータ32は作動室14に作動エアを供給する。また、本システムには、作動エア圧力を検出する圧力検出手段として圧力検出レンジの異なる複数の圧力センサ51,63が設けられている。コントローラ40は、都度設定される作動エアの圧力設定値に応じて複数の圧力センサ51,63の検出結果のうちいずれかを選択的に用い、圧力フィードバック制御を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液ポンプによって薬液を吸引し、その後定量吐出などを実施するための薬液供給システムに関するものであり、薬液塗布工程など半導体製造装置の薬液使用工程に用いるのに好適な薬液供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置の薬液使用工程においては、薬液を半導体ウエハに所定量ずつ塗布するために薬液ポンプが用いられる。その薬液ポンプとして、薬液を充填したポンプ室と作動エアを導入する作動室とをダイアフラム等の可撓性膜で仕切り、作動室内のエア圧力を可変調整することにより可撓性膜を変形させて薬液の吸引及び吐出を行うようにしたものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記のような薬液ポンプを用いた薬液供給システムでは、作動室内のエア圧力を高精度に制御することで薬液吐出流量の制御精度を高めるようにしており、具体的には、前記エア圧力を圧力センサにより検出するとともに、その検出圧力が目標とする圧力設定値に一致するようにフィードバック制御するようにしている。
【0004】
ところで、薬液供給システムによって供給される薬液には様々な流体粘度のものがあり、薬液の流体粘度が異なることにより吐出流量の制御精度に影響が及ぶと考えられる。つまり、本願発明者らによれば、同じ吐出流量を実現しようとする場合において流体粘度が高い薬液では作動エア圧力が相対的に高く、流体粘度が低い薬液では作動エア圧力が相対的に低くなることが確認されている。この場合、流体粘度が低い薬液では、作動エア圧力の検出がラフになることから吐出流量制御において十分な制御精度が確保できない。薬液の種類等に応じて吐出流量の制御精度が変わると、それにより半導体ウエハなどの製品の品質に影響が及ぶおそれがあった。
【特許文献1】特開平11−343978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、薬液の種類の変更などに伴い作動圧力の圧力設定値が相違する場合にも、常に適正に圧力フィードバック制御を行い、ひいては薬液の吐出流量を高精度に制御することができる薬液供給システムを提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。なお以下では、理解を容易にするため、発明の実施の形態において対応する構成例を括弧書き等で適宜示すが、この括弧書き等で示した具体的構成に限定されるものではない。
【0007】
手段1.可撓性膜部材(ダイアフラム12)にて仕切られたポンプ室(ポンプ室13)と作動室(作動室14)とを有し作動室内の圧力変化に伴うポンプ室の容積変化により薬液の吸引及び吐出を実施する薬液ポンプ(ポンプ11)と、前記作動室に作動気体(作動エア)を供給する作動気体供給装置(電空レギュレータ32)とを備え、
前記作動気体供給装置により供給される作動気体の圧力を検出する圧力検出手段として圧力検出レンジの異なる複数の圧力検出器(圧力センサ51,63)を設け、都度設定される作動気体の圧力設定値に応じて前記複数の圧力検出器の検出結果のうちいずれかを選択的に用い、圧力フィードバック制御を実施することを特徴とする薬液供給システム。
【0008】
手段1の薬液供給システムにおいて、薬液ポンプでは、作動室に作動気体供給装置から作動気体が供給され、その際の作動室内の圧力変化に伴うポンプ室の容積変化により薬液の吸引及び吐出が実施される。このとき特に、作動気体供給装置により供給される作動気体の圧力を検出する圧力検出手段として、圧力検出レンジの異なる複数の圧力検出器が設けられている。そして、都度設定される作動気体の圧力設定値に応じて前記複数の圧力検出器の検出結果のうちいずれかが選択的に用いられ、圧力フィードバック制御が実施される。
【0009】
要するに、薬液供給システムでは、都度使用される薬液の種類やその他条件により作動圧力の圧力設定値が適宜変更される。この場合、圧力設定値が高い場合と同圧力設定値が低い場合とで同じ圧力検出器を用いて圧力フィードバック制御を実施すると、それら両者において制御精度が異なるものとなる。つまり、薬液の吐出流量と作動気体圧力とは薬液ごとに所定の関係を有しており(図3参照)、例えば薬液の吐出流量が同じである場合において、圧力設定値が低い場合には圧力設定値が高い場合に比べて作動気体圧力の操作量が小さくなる。このとき、圧力設定値が低い方が圧力制御の精度がラフになるといった問題が生じる。例えば、低粘度の薬液を使用する際に圧力設定値が低くなる場合にはこうした問題が生じる。
【0010】
この点本手段によれば、都度設定される圧力設定値に応じて圧力検出レンジを切り換えることができるため、作動気体の圧力設定値に応じて圧力検出の分解能を変えることができ、圧力設定値にかかわらず吐出流量の制御を常に精密に行うことができる。以上により、薬液の種類の変更などに伴い作動圧力の圧力設定値が相違する場合にも、常に適正に圧力フィードバック制御を行い、ひいては薬液の吐出流量を高精度に制御することができる。
【0011】
手段2.前記複数の圧力検出器が、圧力検出レンジが広範囲のものと狭範囲のものとを含み、かつそれら各圧力検出器の検出信号がAD変換器(AD変換器41)を介して制御演算部(演算部42)に入力される構成を有し、前記圧力設定値が高い場合には圧力検出レンジが広範囲の圧力検出器の検出結果を前記圧力フィードバック制御に用い、前記圧力設定値が低い場合には圧力検出レンジが狭範囲の圧力検出器の検出結果を前記圧力フィードバック制御に用いることを特徴とする手段1に記載の薬液供給システム。
【0012】
各圧力検出器の検出信号(アナログ信号)がAD変換器によりデジタル値に変換される構成では、圧力検出器の圧力検出レンジが広範囲か狭範囲かで当該デジタル値の分解能(すなわち制御演算部で認識される作動気体圧力の最小単位値)が相違する。この場合、手段2に記載したように、圧力設定値が高い場合には圧力検出レンジが広範囲の圧力検出器の検出結果を用い、圧力設定値が低い場合には圧力検出レンジが狭範囲の圧力検出器の検出結果を用いると良い。これにより、圧力設定値が高い場合及び低い場合のいずれにおいても、好適な圧力フィードバック制御が実現できる。
【0013】
手段3.前記作動気体供給装置に、前記作動気体圧力を調整可能な全範囲で圧力検出を可能とする広範囲圧力検出器(圧力センサ51)を設ける一方、それとは別に前記広範囲圧力検出器よりも圧力検出レンジが狭い狭範囲圧力検出器(圧力センサ63)を設け、これら広範囲圧力検出器と狭範囲圧力検出器とにより前記複数の圧力検出器を構成したことを特徴とする手段1又は2に記載の薬液供給システム。
【0014】
手段3によれば、作動気体供給装置に設けた広範囲圧力検出器とそれ以外の狭範囲圧力検出器により、好適な圧力フィードバック制御が実現できる。なお、狭範囲圧力検出器を、更に圧力検出レンジの異なる複数の圧力検出器により構成することにより、圧力フィードバック制御のより一層の適正化が可能となる。
【0015】
手段4.前記複数の圧力検出器は、0又は0近傍を基準としかつ上限検出値が各々異なる圧力検出レンジで圧力検出を可能とするものであり、都度の圧力設定値を圧力検出レンジ内に含む圧力検出器のうち上限検出値が最も低い圧力検出器の検出結果に基づいて前記圧力フィードバック制御を実施することを特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載の薬液供給システム。
【0016】
手段4によれば、複数の圧力検出器は、0又は0近傍を基準としかつ上限検出値が各々異なる圧力検出レンジで圧力検出が可能となっている。これは、0又は0近傍を基準とする広範囲圧力検出器と狭範囲圧力検出器とを有することを意味する。そして、都度の圧力設定値を圧力検出レンジ内に含む圧力検出器のうち上限検出値が最も低い圧力検出器の検出結果に基づいて圧力フィードバック制御を実施する。本構成においても上記のとおり、圧力設定値が高い場合及び低い場合のいずれでも好適な圧力フィードバック制御が実現できる。
【0017】
手段5.前記圧力設定値に応じて選択される圧力検出器で異常が生じた場合に、他の圧力検出器の検出結果を用いて前記圧力フィードバック制御を実施することを特徴とする手段4に記載の薬液供給システム。
【0018】
上記手段4のように、0又は0近傍を基準としかつ上限検出値が各々異なる圧力検出レンジで圧力検出が可能となるよう複数の圧力検出器を構成する場合、圧力検出レンジの一部が重複する。したがって、複数の圧力検出器のうちいずれかで異常が発生しても、他の圧力検出器を用いるよう圧力検出態様を変更することができる。故に、手段5に記載したように、圧力設定値に応じて選択される圧力検出器で異常が生じた場合に、他の圧力検出器の検出結果を用いて前記圧力フィードバック制御を実施すると良い。これにより、異常発生時の適正な対処を図ることができる。
【0019】
手段6.本システムの圧力検出レンジの全域を複数に区分した各区分レンジをそれぞれ検出するものとして前記複数の圧力検出器を構成し、都度の圧力設定値に応じて各圧力検出器の検出結果を選択的に用いることを特徴とする手段1乃至3のいずれかに記載の薬液供給システム。
【0020】
手段6によれば、複数の圧力検出器が、本システムの圧力検出レンジの全域を複数に区分した各区分レンジを各々検出するものとして構成されている。この場合、圧力検出レンジを細分化し、それら各レンジに別々の圧力検出器を割り当てることにより圧力検出値が高低いずれの値であってもその検出分解能を高めることができ、それに伴い制御精度を高めることができる。
【0021】
手段7.前記作動室と前記作動気体供給装置とを結ぶ作動気体通路(給気通路31)に開閉切換弁(電磁開閉弁62)を介して前記圧力検出器を接続し、前記圧力設定値に応じて前記開閉切換弁を開放しそれに接続された圧力検出器を圧力検出可能状態とすることを特徴とする手段1乃至6のいずれかに記載の薬液供給システム。
【0022】
手段7によれば、作動気体の圧力設定値に応じて開閉切換弁が開放されることにより、作動室と作動気体供給装置とを結ぶ作動気体通路の圧力が圧力検出器に導入され、圧力検出が行われる。この場合、開閉切換弁の開放により、都度適正な圧力検出器を選択的に用いることができるようになる。
【0023】
手段8.前記薬液ポンプを複数設けた薬液供給システムにおいて、
各薬液ポンプの作動室に接続される作動気体通路を集合させてその集合部に前記作動気体供給装置を設けるとともに、同じく集合部に前記複数の圧力検出器を設けたことを特徴とする手段1乃至7のいずれかに記載の薬液供給システム。
【0024】
手段8によれば、薬液ポンプを複数設けた薬液供給システムにおいて、各ポンプの作動室に通じる作動気体通路の集合部に作動気体供給装置と複数の圧力検出器とを設けたことにより、これら作動気体供給装置や複数の圧力検出器を各ポンプで共用することができる。したがって、構成の簡素化を図り、それに伴い本システムにおける省スペース化や低コスト化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図面に従って説明する。本実施の形態における薬液供給システムの概要を図1に基づいて説明する。
【0026】
図1の薬液供給システムでは、薬液の吸引及び吐出を行うための薬液供給ポンプ(以下単にポンプという)11が設けられている。ポンプ11は、可撓性膜よりなるダイアフラム12で仕切られたポンプ室13と作動室14とを有しており、ポンプ室13には吸引配管等よりなる吸引通路15と吐出配管等よりなる吐出通路16とが接続されている。吸引通路15の途中には吸引側開閉弁である吸引弁17が設けられており、吸引弁17は電磁弁18の通電状態に応じて開閉される。また、吐出通路16の途中には吐出側開閉弁である吐出弁19とサックバック用開閉弁であるサックバック弁20とが設けられており、吐出弁19及びサックバック弁20はそれぞれ電磁弁21,22の通電状態に応じて開閉される。例えば、吸引弁17、吐出弁19及びサックバック弁20は、空気圧力により開閉操作されるエアオペレートバルブで構成されており、各電磁弁18,21,22の通電状態に応じて吸引弁17、吐出弁19及びサックバック弁20に作用する空気圧力が調節され、それに伴いこれら各弁が開閉される。図中の符号23は、加圧エアを発生するためのエア供給源である。
【0027】
吸引通路15は、ポンプ室13に向けて薬液を供給するための薬液供給通路を構成するものであり、薬液ボトル(薬液貯留容器)25内に貯留された薬液Rが吸引通路15を通じてポンプ室13に供給される。これにより、ポンプ室13内に薬液が充填される。なお図示は省略するが、薬液ボトル25には加圧装置が付加されており、その加圧装置によりボトル内空間が加圧されることに伴い薬液Rがポンプ室13側に給送されるようになっている。
【0028】
また、吐出通路16は、ポンプ室13内に充填された薬液を排出するための薬液排出通路を構成するものであり、ポンプ室13から排出される薬液が吐出通路16を通じて薬液吐出ノズル26に供給される。そして、薬液吐出ノズル26の先端部からワークWに対して薬液が滴下されるようになっている。
【0029】
作動室14には給気通路31が接続されており、その給気通路31の途中には電空レギュレータ32とポンプ用電磁弁33とが設けられている。電空レギュレータ32は、エア供給源23から作動室14に供給される作動エアの圧力を調整するものであり、作動エア圧力は都度の目標値に一致するようフィードバック制御される。電空レギュレータ32には、圧力センサ51が内蔵されるとともにフィードバック制御回路が設けられている。電空レギュレータ32に内蔵される圧力センサ51は、当該電空レギュレータ32により操作可能な圧力検出レンジの全域で圧力検出が可能なセンサとして構成されており、この意味では広範囲圧力センサであると言える。
【0030】
そして、電空レギュレータ32と作動室14とが連通されるようにポンプ用電磁弁33が切換操作されることにより、電空レギュレータ32で圧力調整された作動エアが作動室14内に導入される。また、給気通路31が図示しない真空源に接続される状態(又は大気開放状態)となるようにポンプ用電磁弁33が切換操作されることにより、作動室14内に導入された作動エアが排出される。このとき、ポンプ用電磁弁33の切換操作により作動室14に対する作動エアの給排が行われ、それに伴いポンプ11の吐出/吸引動作が切り換えられる。
【0031】
つまり、薬液の吐出時には、吸引弁17が閉鎖されかつ吐出弁19が開放された状態で、ポンプ用電磁弁33の動作により作動室14と電空レギュレータ32とが連通される。すると、作動室14内に作動エアが供給され、作動室14内の圧力が上昇するのに伴いダイアフラム12がポンプ室13側に変位する。これにより、ポンプ室13の容積が小さくなり、同ポンプ室13内に充填された薬液が吐出通路16を介して下流側に吐出される。一方、薬液の吸引時には、吸引弁17が開放されかつ吐出弁19が閉鎖された状態で、ポンプ用電磁弁33の動作により作動室14内の作動エアが真空引きされ、それに伴いポンプ室13側に作動していたダイアフラム12が作動室14側に変位する。これにより、ポンプ室13の容積が大きくなり、吸引通路15を介して上流側からポンプ室13内に薬液が吸入される。
【0032】
コントローラ40は、CPUや各種メモリ等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成される電子制御装置であり、ポンプ11による薬液の吸引及び吐出の状態を制御する。ただしその詳細は後述する。
【0033】
ところで、上記のような薬液供給システムにおいて、取り扱われる薬液には様々な種類があり、薬液の種類によって流体粘度が異なる。この場合、吐出レート(単位時間当たりの吐出量)が同じであれば、流体粘度が低い薬液ほど、電空レギュレータ32によって調整される作動室14内の圧力レベルが低くなる。また、低粘度の薬液では、作動室14内の圧力を僅かに変化させただけで吐出レートが大きく変動する。そのため、低粘度の薬液を使用する場合には、高粘度の薬液を使用する場合よりも作動エアの圧力制御精度を高くする必要が生じる。図3は、低粘度の薬液Aと高粘度の薬液Bとについて、吐出レート(単位時間当たりの吐出量)と作動エア圧力との関係を示すグラフである。図3によれば、低粘度の薬液Aでは、作動エア圧力が比較的低く、吐出レートの変化に対する作動エア圧力の変化量が小さいことが分かる。
【0034】
そこで本実施の形態では、薬液の種類(流体粘度)に応じて作動エア圧力の圧力検出域を切り換えることができるよう、圧力検出レンジが異なる複数の圧力センサを設ける。具体的には、図1のシステムにおいて、電空レギュレータ32とポンプ用電磁弁33との間の給気通路31に複数の大気開放通路61を接続し、この大気開放通路61にそれぞれ電磁開閉弁62と圧力センサ63とを設ける。本実施の形態ではn個の圧力センサ63を設ける構成としており、図面や以下の説明では適宜「63_1,63_n」などと表記する。大気開放通路61や電磁開閉弁62についても同様である。
【0035】
この場合、コントローラ40によって電磁開閉弁62が選択的にONされることにより、いずれかの圧力センサ63において作動エア圧力が検出可能状態とされ、その検出信号がコントローラ40に取り込まれる。
【0036】
圧力センサ63は、電空レギュレータ32に内蔵された圧力センサ51よりも狭範囲の圧力検出レンジで圧力検出を可能とするものであり、例えば、電空レギュレータ内蔵の圧力センサ51の圧力検出レンジが0〜200kPaである場合において、各圧力センサ63には以下のような圧力検出レンジが設定されている(ただしここでは、3つの圧力センサ63を使用する場合を例示している)。
・圧力センサ63_1:0〜20kPa
・圧力センサ63_2:0〜50kPa
・圧力センサ63_3:0〜100kPa
つまり、これら各圧力センサ51,63_1〜63_3は、0(又は0近傍でも可)を基準としかつ上限検出値が各々異なる圧力検出レンジで圧力検出を可能とするものとなっている。
【0037】
次に、電空レギュレータ32により供給される作動エアの圧力制御の概要について図2を用いて説明する。
【0038】
図2において、コントローラ40はAD変換器41、演算部42及びDA変換器43を備えており、広範囲検出用の圧力センサ51による圧力検出信号と、狭範囲検出用の圧力センサ63(63_1〜63_n)による圧力検出信号とがそれぞれAD変換器41を介して演算部42に入力される。このとき、AD変換器41では、各圧力センサの圧力検出信号(アナログ信号)がデジタル値に変換され、その際各圧力センサの圧力検出レンジが広範囲か狭範囲かで分解能が異なるデジタル値が求められる。つまり、圧力検出レンジが広範囲の圧力センサでは分解能が比較的大きいデジタル値が求められ、圧力検出レンジが狭範囲の圧力センサでは分解能が比較的小さいデジタル値が求められる。
【0039】
また、演算部42には、作業者(ユーザ)により設定される圧力設定値が入力される。圧力設定値は、都度使用する薬液の種類や薬液の供給条件に応じて設定される値であり、本システムに設置された操作装置の入力操作により設定されるようになっている。
【0040】
そして、演算部42では、圧力設定値に基づいて今回必要とする圧力検出レンジを判断するととともに、その圧力検出レンジ内で圧力検出するのに最適な圧力センサの選択を行う。このとき、演算部42は、都度の圧力設定値を圧力検出レンジ内に含む圧力センサのうち上限検出値が最も低い圧力センサを選択する。例えば、電空レギュレータ内蔵の圧力センサ51とその他3つの圧力センサ63(63_1〜63_3)により、上記のように圧力検出レンジが4通り設定されている場合において、
(1)圧力設定値が0以上、20kPa未満であれば圧力センサ63_1の圧力検出値を、
(2)圧力設定値が20kPa以上、50kPa未満であれば圧力センサ63_2の圧力検出値を、
(3)圧力設定値が50kPa以上、100kPa未満であれば圧力センサ63_3の圧力検出値を、
(4)圧力設定値が100kPa以上200kPa未満であれば圧力センサ51の圧力検出値を、
それぞれ用いるよう圧力センサの選択がなされる。
【0041】
ただしこれは、圧力センサ51,63による有効検出範囲を考慮しない場合の区分けであり、現実には各圧力検出レンジの条件値よりも低圧力値で適用センサが切り換えられる(例えば、上記(1)の場合、圧力設定値が0〜18kPaであれば圧力センサ63_1の圧力検出値を用いることとする)。
【0042】
なお図2では、各センサの全ての圧力検出信号をAD変換器41を介して演算部42に逐次入力する構成としているが、これに代えて、圧力設定値に応じて、都度使用する圧力センサを択一的に選び、該選ばれた圧力センサの圧力検出信号のみをAD変換器41を介して演算部42に入力する構成とすることも可能である。具体的には、AD変換器41の前段にマルチプレクサ等よりなる入力切換部を設け、この入力切換部によって圧力検出信号を選択的にAD変換器41に取り込む構成とすると良い。
【0043】
演算部42では、今回有効とされる圧力センサ63の圧力検出値と圧力設定値との偏差を算出するとともに、例えばPID制御手法を用いて制御用信号を生成する。そして、その制御用信号をDA変換器43を介して出力する。
【0044】
一方、電空レギュレータ32には、直列接続された電磁式の給気弁52と同じく電磁式の排気弁53とが設けられており、給気弁52が開放されることによりエア供給源23から給気通路31に加圧エアが供給されるとともに、排気弁53が開放されることにより給気通路31内の作動エアの排出が行われる。このとき、給気弁52の開度と排気弁53の開度とが各々調整されることにより作動エア圧力が制御され、これが圧力センサ51又は圧力センサ63(61_1〜63_n)により検出される。
【0045】
また、電空レギュレータ32は、フィードバック制御回路部として、偏差算出部55と偏差増幅部56とPWM制御回路部57と電磁弁ドライブ回路部58とを備えている。この場合、偏差算出部55では、コントローラ40から出力される制御用信号と圧力センサ51の検出信号よりなるレギュレータ内部F/B信号との偏差を算出し、次に偏差増幅部56では前記偏差を増幅する。また、PWM制御回路部57では、増幅後の偏差に基づいてPWM出力信号を生成し、電磁弁ドライブ回路部58では、PWM出力信号を出力して給気弁52及び排気弁53の駆動を制御する。
【0046】
次に、本薬液供給システムの作用について説明する。図4は、本システムにおける薬液の吸引及び吐出等の動作を示すタイムチャートである。
【0047】
図4において、まずタイミングt1では、吸引弁17が開弁されて吸引弁17=開かつ吐出弁19=閉の状態とされ、それに伴いポンプ室13内に薬液が吸引される(t1〜t2の期間)。そして吸引弁17が閉弁された後、タイミングt3ではポンプ用電磁弁33がON(開弁)され、それに伴い作動室14内の作動エア圧力が上昇する。ポンプ用電磁弁33がONされる期間(t3〜t6の期間)では、あらかじめ設定された圧力設定値に応じていずれかの圧力センサ(圧力センサ51,63_1〜63_nのいずれか)が選択され、該選択された圧力センサにより作動エア圧力が検出される。そして、圧力検出結果に基づいて電空レギュレータ32の作動状態が制御され、作動エア圧力が目標の圧力設定値となるよう制御される。
【0048】
その後、タイミングt4では、吐出弁19が開弁されて薬液の吐出が開始され、吐出弁19が閉弁されるタイミングt5までの期間において薬液の吐出が行われる。これにより、薬液吐出ノズル26からワークW上に適量の薬液が滴下される。なお、サックバック弁20は、薬液の吐出期間において押し出し状態とされ、吐出終了時において引き込み状態とされる。これにより、薬液吐出ノズル26の先端部からの液垂れが防止されるようになっている。
【0049】
その後、タイミングt6では、ポンプ用電磁弁33がOFF(閉弁)され、一連の吸引及び吐出動作が終了する。
【0050】
薬液供給システムとして複数のポンプ11を設け、各ポンプ11により各々異なる薬液を供給する構成としても良い。図5には、複数のポンプ11を有するマルチポンプシステムの概略構成を示す。図5では便宜上、吸引弁17、吐出弁19及びサックバック弁20やそれらに付随して設けられる電磁弁を簡略化しているが、その構成は前記図1で説明したとおりであり、これら各弁はコントローラ40からの制御信号に基づいて開閉動作する。
【0051】
図5のシステムにおいて、各ポンプ11に接続された給気通路31には、それぞれポンプ用電磁弁33が設けられている。また、各ポンプ11の給気通路31はその上流部が1つに集約されており、その集合部に、電空レギュレータ32が設けられるとともに、n個分の大気開放通路61、電磁開閉弁62及び圧力センサ63が設けられている。これらn個分の圧力センサ63等は、前記図1と同様の構成であり、各ポンプ11で共用される構成となっている。
【0052】
かかる構成では、どの薬液を供給するかに応じて、都度使用するポンプ11が切り換えられる。このとき、使用するポンプ11のポンプ用電磁弁33が択一的にONされるとともに、その他吸引弁17や吐出弁19などが開閉される。複数のポンプ11を設け、各ポンプ11ごとに異なる薬液を割り当てることにより、ポンプやそれに付随する薬液経路において薬液変更の度に薬液の置換などを行う必要が無く、薬液変更にかかる作業性を向上させることができる。
【0053】
図6は、マルチポンプシステムにおける薬液の吸引及び吐出等の動作を示すタイムチャートである。なお図6では、2つのポンプ11についてその吸引及び吐出動作を示しており、識別のため一方をポンプ(A)としてそれに関連する部材名称に(A)を付すとともに、他方をポンプ(B)としてそれに関連する部材名称に(B)を付している。各ポンプの基本動作については前記図4で説明済みであるため、ここでは説明を簡略化する。
【0054】
ここで、ポンプ(A)とポンプ(B)とでは供給する薬液が相違しており、それ故にポンプ(A)では圧力設定値が高圧力値とされ、これに対しポンプ(B)では圧力設定値が低圧力値とされている。薬液の流体粘度で言えば、ポンプ(A)により供給される薬液は高粘度のものであり、ポンプ(B)により供給される薬液は低粘度のものである。
【0055】
図6において、まずはポンプ(A)による薬液の吸引及び吐出が行われ、それにひき続いてポンプ(B)による薬液の吸引及び吐出が行われる。すなわち、先にポンプ(A)側のポンプ用電磁弁33がON(開弁)され、それに伴いポンプ(A)の作動室14内の作動エア圧力が上昇する。このとき、圧力設定値が高圧力値とされており、それに対応する圧力センサ(圧力センサ51,63_1〜63_nのいずれか)により作動エア圧力が検出される。そして、圧力検出結果に基づいて電空レギュレータ32の作動状態が操作され、作動エア圧力が目標の圧力設定値となるよう制御される。
【0056】
また次に、ポンプ(B)側のポンプ用電磁弁33がON(開弁)され、それに伴いポンプ(B)の作動室14内の作動エア圧力が上昇する。このとき、圧力設定値が低圧力値とされており、それに対応する圧力センサ(圧力センサ51,63_1〜63_nのいずれか)により作動エア圧力が検出される。そして、圧力検出結果に基づいて電空レギュレータ32の作動状態が操作され、作動エア圧力が目標の圧力設定値となるよう制御される。
【0057】
以上詳述した本実施の形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0058】
電空レギュレータ32により調整される作動エア圧力を検出するための圧力検出手段として圧力検出レンジの異なる複数の圧力センサ51,63(63_1〜63_n)を設け、都度の圧力設定値に応じて複数の圧力センサの検出結果のうちいずれかを選択的に用い圧力フィードバック制御を実施するようにした。これにより、薬液の種類の変更などに伴い作動エアの圧力設定値が相違する場合にも、常に適正に圧力フィードバック制御を行い、ひいては薬液の吐出流量を高精度に制御することができる。薬液の吐出流量が高精度に制御できることに伴い、半導体ウエハ上に形成される薄膜の出来が均一なものとなり、製品の品質を向上させることができる。
【0059】
この場合特に、圧力設定値が高い場合には圧力検出レンジが広範囲の圧力センサを用い、圧力設定値が低い場合には圧力検出レンジが狭範囲の圧力センサを用いるようにしたため、圧力設定値が高い場合及び低い場合のいずれにおいても、好適な圧力フィードバック制御が実現できる。
【0060】
都度の圧力設定値に応じて電磁開閉弁62を開放しそれに接続された圧力センサ63を圧力検出可能状態とするようにしたため、都度適正な圧力センサを選択的に用いることができるようになる。
【0061】
複数のポンプ11を有するマルチポンプシステムにおいて、ポンプ11ごとの給気通路31を集合させてその集合部に電空レギュレータ32を設けるとともに、同じく集合部に複数の圧力センサ63を設けたため、これら電空レギュレータ32や複数の圧力センサ63を各ポンプ11で共用することができる。したがって、構成の簡素化を図り、それに伴い本システムにおける省スペース化や低コスト化を実現することができる。
【0062】
なお、本発明は上記実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施しても良い。
【0063】
上記のように複数の圧力センサを用いて作動エア圧力を検出する構成において、本来使われるべき圧力センサ(すなわち、圧力設定値に応じて選択される圧力センサ)で異常が発生した場合に、他の圧力センサを用いて圧力フィードバック制御を実施するようにしても良い。この場合、センサ異常発生時にも薬液供給を継続的に実施することができ、適正な対処を図ることができる。
【0064】
上記実施の形態では、作動エア圧力を検出するための複数の圧力センサとして、いずれも0(又は0近傍)を基準とする圧力検出レンジを有するものを適用したが、この構成を以下のように変更する。すなわち、本システムにおける圧力検出レンジの全域を複数に区分し、これら各区分レンジを各々検出するものとして複数の圧力センサを設ける。例えば、全圧力検出レンジが0〜200kPaである場合において、0〜50kPa、50〜100kPa、100〜150kPa、150〜200kPaというように圧力検出レンジを細分化して設定する。このとき、細分化された各圧力検出レンジは、同じ圧力幅であっても良いし、大小異なる圧力幅であっても良い。更に、各圧力検出レンジは、一部重複するように設定されても良い。本構成においても、圧力検出の分解能を高めることができ、それに伴い制御精度を高めることができる。
【0065】
上記実施の形態の薬液ポンプでは、可撓性膜部材としてダイアフラムを用いたが、これを変更し、例えばベローズ等を用いて薬液ポンプを構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】発明の実施の形態における薬液供給システムの概略を示す構成図である。
【図2】電空レギュレータにより供給される作動エアの圧力制御の概要を示す図である。
【図3】吐出レートと作動エア圧力との関係を示すグラフである。
【図4】本システムにおける薬液の吸引及び吐出等の動作を示すタイムチャートである。
【図5】複数のポンプを有するマルチポンプシステムの概略構成を示す図である。
【図6】マルチポンプシステムにおける薬液の吸引及び吐出等の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0067】
11…ポンプ、12…ダイアフラム、13…ポンプ室、14…作動室、31…給気通路、32…電空レギュレータ、40…コントローラ、41…AD変換器、42…演算部、51…圧力センサ、62…電磁開閉弁、63(63_1〜63_n)…圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性膜部材にて仕切られたポンプ室と作動室とを有し作動室内の圧力変化に伴うポンプ室の容積変化により薬液の吸引及び吐出を実施する薬液ポンプと、前記作動室に作動気体を供給する作動気体供給装置とを備え、
前記作動気体供給装置により供給される作動気体の圧力を検出する圧力検出手段として圧力検出レンジの異なる複数の圧力検出器を設け、都度設定される作動気体の圧力設定値に応じて前記複数の圧力検出器の検出結果のうちいずれかを選択的に用い、圧力フィードバック制御を実施することを特徴とする薬液供給システム。
【請求項2】
前記複数の圧力検出器が、圧力検出レンジが広範囲のものと狭範囲のものとを含み、かつそれら各圧力検出器の検出信号がAD変換器を介して制御演算部に入力される構成を有し、前記圧力設定値が高い場合には圧力検出レンジが広範囲の圧力検出器の検出結果を前記圧力フィードバック制御に用い、前記圧力設定値が低い場合には圧力検出レンジが狭範囲の圧力検出器の検出結果を前記圧力フィードバック制御に用いることを特徴とする請求項1に記載の薬液供給システム。
【請求項3】
前記作動気体供給装置に、前記作動気体圧力を調整可能な全範囲で圧力検出を可能とする広範囲圧力検出器を設ける一方、それとは別に前記広範囲圧力検出器よりも圧力検出レンジが狭い狭範囲圧力検出器を設け、これら広範囲圧力検出器と狭範囲圧力検出器とにより前記複数の圧力検出器を構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の薬液供給システム。
【請求項4】
前記複数の圧力検出器は、0又は0近傍を基準としかつ上限検出値が各々異なる圧力検出レンジで圧力検出を可能とするものであり、都度の圧力設定値を圧力検出レンジ内に含む圧力検出器のうち上限検出値が最も低い圧力検出器の検出結果に基づいて前記圧力フィードバック制御を実施することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薬液供給システム。
【請求項5】
前記圧力設定値に応じて選択される圧力検出器で異常が生じた場合に、他の圧力検出器の検出結果を用いて前記圧力フィードバック制御を実施することを特徴とする請求項4に記載の薬液供給システム。
【請求項6】
本システムの圧力検出レンジの全域を複数に区分した各区分レンジをそれぞれ検出するものとして前記複数の圧力検出器を構成し、都度の圧力設定値に応じて各圧力検出器の検出結果を選択的に用いることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薬液供給システム。
【請求項7】
前記作動室と前記作動気体供給装置とを結ぶ作動気体通路に開閉切換弁を介して前記圧力検出器を接続し、前記圧力設定値に応じて前記開閉切換弁を開放しそれに接続された圧力検出器を圧力検出可能状態とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の薬液供給システム。
【請求項8】
前記薬液ポンプを複数設けた薬液供給システムにおいて、
各薬液ポンプの作動室に接続される作動気体通路を集合させてその集合部に前記作動気体供給装置を設けるとともに、同じく集合部に前記複数の圧力検出器を設けたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の薬液供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−110004(P2007−110004A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301439(P2005−301439)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【出願人】(502128800)株式会社オクテック (83)
【Fターム(参考)】