説明

藺草シートの製造方法及び抗菌・消臭性藺草シート

【課題】 緑茶成分による抗菌・消臭機能が拭き取り等によって損なわれることなく長期間有効である藺草シートを提供する。
【解決手段】 藺草を用いて形成されるシートに、緑茶抽出物を静電塗布した後、樹脂を静電塗装する。緑茶抽出物を含有する下地塗装を、樹脂を含有する多孔質塗装で被覆することにより、藺草シートの緑茶成分の保護と機能発現とが両立される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藺草を利用した藺草シートの製造方法及び緑茶成分による抗菌・消臭性を有する抗菌・消臭性藺草シートに関する。より詳細には、畳表、敷物等として利用され、緑茶成分による抗菌・消臭性が汚れの拭き取り等によって損なわれない抗菌・消臭性藺草シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康指向に伴って食品素材に含まれる様々な成分に関する研究が進み、その機能の有効利用について注目が集まっている。カテキン等の緑茶成分の抗菌性、消臭性等の機能が知られると、緑茶や緑茶エキスを用いてその機能を付加した製品の提供が試みられ、例えば、建材やフィルター等に緑茶やそのエキスを配合、塗布する技術が開発されている。
【0003】
床材分野では、泥染め・乾燥した藺草を緑茶染めした後に敷物に加工した茶染め藺草敷物がJAふくおか八女にて製造、JAふくれんにて販売されており、下記特許文献1において、藺草を茶汁に浸漬して染色することにより製造される抗菌・消臭作用を有する藺草製品が開示されている。また、下記特許文献2では、緑茶抽出液を染み込ませたシートを畳床に組み込んだ抗菌性を有する畳を製造している。
【0004】
【特許文献1】特開平11−303367号公報
【特許文献2】特開平9−072072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、緑茶染めした藺草を用いて製造した敷物の場合、藺草の茎内部まで水分が浸透するので、染め及び乾燥が二度に渡って繰り返される[藺草−(染工染め)−乾燥−緑茶染め−乾燥]ことによって藺草の水分率が激しく変動し、膨張・収縮が繰り返されるため、藺草の強度が低下し、加工中に藺草が破損し易くなる。更に、長さ0.8〜1.8mの藺草を茶汁に浸漬し乾燥する工程があることにより、折れや傷等の破損が発生するため、歩留まりが悪く、又、日射、水分等による外部からの影響を直接受けることにより変色も起こり易く、表面の緑茶成分は容易に消失する。
【0006】
他方、特許文献2の畳では、緑茶抽出液を染み込ませたシートは畳表で覆われるので、外部からの影響を直接受けないが、畳表の面上まで抗菌性等の機能が有効に発揮されない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、緑茶成分の抗菌・消臭性が有効に発揮され、且つ、それらの機能が外部からの影響により容易に損なわれることがなく、表面の汚れ等の拭き取りに対しても耐えて長期間維持される藺草シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために検討を行った結果、藺草シートの表面に静電塗装を用いて緑茶成分を塗装し、樹脂を静電塗装によって微粒子の状態で積層することによって通気性を有する保護膜が形成され、シートの緑茶成分を保護しつつ緑茶成分の機能を有効に発揮させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一態様によれば、藺草シートの製造方法は、藺草を用いて形成されるシートに、緑茶抽出物を静電塗布した後、樹脂を静電塗装することを要旨とする。
【0010】
本発明の他の態様によれば、藺草シートの製造方法は、藺草を用いて形成されるシートに、緑茶ポリフェノールを静電塗布した後、樹脂を含有する多孔質薄膜で被覆することを要旨とする。
【0011】
又、本発明の一態様によれば、抗菌・消臭性藺草シートは、藺草を用いて形成されるシートと、前記シートに塗設され緑茶抽出物を含有する下地塗装と、前記下地塗装を被覆し樹脂を含有する多孔質塗装とを有することを要旨とする。藺草シートは、上記の藺草シートの製造方法によって製造される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、緑茶成分による抗菌・消臭機能が拭き取り等によって損なわれることなく長期間に渡って有効に発揮される藺草シートが実現され、抗菌・消臭性の敷物や畳表等として提供することができるので、住環境の快適性の向上に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
緑茶抽出物には、抗菌性や消臭性を発揮するカテキン等の緑茶ポリフェノールが含有されており、これを、藺草を編んだ畳表のような植物繊維で形成されたシートに塗布又は含浸することによって、シートに抗菌性や消臭性が付与される。しかし、このような場合の機能成分(カテキン等の緑茶ポリフェノール)と藺草との結合は弱いので、シート表面の乾拭き等によって機能成分は容易にシートから剥離する。
【0014】
機能成分をシート表面にしっかり定着させるには、例えば、緑茶抽出物に樹脂等を混合してシート表面に塗布して接着することも考えられるが、緑茶抽出物が樹脂により包接されるため、抗菌・消臭機能が封止されて満足に発揮されない。また、藺草と緑茶ポリフェノールとの共存状態が極めて少なくなるため、藺草と緑茶ポリフェノールとによる相乗効果も期待できない。樹脂による包接を解くために樹脂の混合割合を減少させても、機能成分の定着・保護及び機能の発揮の双方が中途半端になる。
【0015】
本発明では、機能成分の定着・保護と機能の発揮とを共に実現するために、機能成分が付加された藺草シートを通気性の保護薄膜で被覆するもので、保護薄膜は、成膜物質を粒子化してシート上に堆積させることによって形成する。これにより、堆積した粒子間に間隙を残した形態で成膜物質が積層し、空孔を有する多孔質の薄膜を形成し、通気性が確保される。機能成分の抗菌性及び消臭性は、薄膜の空孔を通じて外部に発揮され、薄膜の保護によって乾拭き等による機能成分の剥離が防止され、日照等による分解・消失も抑制される。
【0016】
以下、本発明に係る藺草シートの製造方法及び得られる藺草シートについて詳細に説明する。
【0017】
緑茶ポリフェノールの機能を付与する藺草シートは、畳表や茣蓙のように藺草を条材として用いてシート状に加工したもので、藺草を編んだり織じんしたものが挙げられるが、藺草をシート状に並べて他材料で固定・結合したものであってもよい。また、藺草シートは、全てが藺草で構成される必要はなく、他の植物繊維や合成高分子を用いて製造した繊維・紐等の条材を一部に用いてもよい。例えば、このような他材料による条材を縦糸とし、藺草を横糸として織ることができる。又、植物繊維や合成プラスチックを藺草状に成形して、藺草の一部に代えて混織してもよい。条材を構成する植物繊維としては、紙原料であるこうぞ、みつまた、木材パルプ等、布地原料である綿、麻等の植物の繊維のほか、これらの再生材なども使用可能であり、麦藁、稲藁等を利用することも可能である。条材を構成する合成高分子としては、ポリプロピレンのようなポリオレフィン樹脂を始めとする各種ポリマーが許容される。このような条材に、抗菌性や消臭性その他の有用機能を発揮する添加剤を配合してもよく、このような添加剤としては、例えば、金属化合物、セラミックス等の無機素材が挙げられる。又、シートの織り方や織り柄について制限はなく、例えば、引通し織り、中継ぎ織り、引目織り、目積織り、諸目織り、掛川織り、なぎさ織り、平織り等の種々の織り方、織り柄を採用できる。
【0018】
上述のような藺草シートに緑茶ポリフェノールを塗布して、抗菌性、消臭性を付与する。ポリフェノールは消臭機能を有し、ポリフェノールの一種であるカテキンは抗菌性も有する。藺草に含まれる藺草ポリフェノールと緑茶ポリフェノールとが共存する状態では各々の抗菌性、消臭性が相乗的に作用するので、藺草シートに緑茶ポリフェノールを施与することは特に有効である。緑茶ポリフェノールの塗布は、緑茶ポリフェノールを含有する水性液を用いて行い、具体的には、緑茶抽出液、緑茶抽出物を水に添加した水性液、緑茶抽出物から分取したポリフェノール精製物を水に添加した水性液などが使用でき、緑茶ポリフェノールの機能を阻害しない限り他の成分を排除する必要はなく、緑茶抽出物の成分以外のものを含んでいてもよい。このような水性液を藺草シートに静電塗布して乾燥することによって、緑茶ポリフェノールが表面に均一に付着したシートが得られる。抗菌性、消臭性を好適に発揮するためには、緑茶ポリフェノールが0.03g/m以上、カテキンが0.02g/m以上の割合でシート上に分布することが適切であり、好ましくはポリフェノールが0.03〜0.07g/m、カテキンが0.02〜0.05g/mの割合で分布するように塗布する。
【0019】
藺草は、乾燥状態では平均茎径が約1.2mm程度、湿潤状態では平均茎径が1.6mm程度であり、含水により約1.5倍に膨れるため、湿潤/乾燥の繰り返しによって材質が劣化する。又、湿潤状態では表面を損傷し易い。従って、畳表等のように原料植物を実質的にそのまま用いて加工するシートでは、原料藺草の膨潤/収縮による強度低下を防止する点で、水性液を植物内部まで深く含浸しないことが望ましい。この点に関し、藺草シートを水性液に浸漬して塗布する場合では、藺草の切断面からの急速な浸透により藺草内部の膨潤を生じて強度を低下させ易い点で不利である。又、一般的な噴霧塗布の場合は、均一な塗布が難しく、塗着効率が低いため、面積当りの塗布量を多く設定する必要があり、結果として藺草シート上に供給される水分量が多くなり、膨潤による強度低下を招き易い。これらに比べて、静電塗布する場合は、粒子状の水性液をシートに均一に塗布でき、塗着効率が高いので、面積当りの塗布量を少なく設定でき、結果として藺草上の水分量も少なくでき、藺草の膨潤を抑制できるので好ましい。又、緑茶ポリフェノールのシートへの付着を静電吸着により強固にできる点や、藺草表面の凹凸にも対応でき、シートの繊維表面を緑茶ポリフェノールが被覆する割合(歩留り)が高い点でも、静電塗布によって塗着することが好ましい。藺草が含水した際に膨潤による形状変化を生じる含水率は約18.0質量%以上であることが実験結果から判明している。これを考慮して静電塗布の条件を検討すると、効率よく緑茶ポリフェノールを塗布するためには、総ポリフェノールが0.07〜0.35質量%程度、好ましくは0.1〜0.30質量%程度、総カテキンとしては0.06〜0.27質量%程度、好ましくは0.09〜0.21質量%程度の割合で含まれる濃度の水性液を用いて、25〜55ml/m程度の割合で藺草シートに塗布するとが好適である。これらの範囲を外れた場合の問題として、緑茶ポリフェノールの塗布量不足、藺草の膨潤変形による強度低下、霧化における粒子粗大化、光劣化した場合のシミの発生等がある。上記のような好適な水性液は、例えば総ポリフェノール含有量が40質量%前後の緑茶抽出精製物を用いて調製すれば、濃度が約0.2〜0.9質量%程度の緑茶抽出物水性液となる。
【0020】
静電塗布は、アースした藺草シートに陽極を接続し、静電塗装機の霧化器を負電極として高電圧を印加して両極間に電界を発生し、霧化器によって霧化し負に帯電した緑茶ポリフェノール水性液の粒子を電界に沿って移動させて、藺草シートに付着させる。
【0021】
緑茶ポリフェノール水性液を塗布した藺草シートは、即時、乾燥する。シートの乾燥は、風乾又は加熱によって促進される。加熱乾燥の場合、植物繊維の損傷や機能成分の分解を防ぎつつ迅速に乾燥するために、温度を100〜115℃程度とすることが好ましく、このような温度で20〜120秒程度、好ましくは30秒程度で水分を気化することにより藺草シートを好適に乾燥でき、含水率が10質量%程度以下となる。この結果、緑茶ポリフェノールを含有する塗装が藺草シート表面に設けられる。乾燥時間が20秒未満であると、凹部分に未乾燥部分が多くみられ、120秒を越えると、藺草シートの含水率が3質量%以下になり、藺草の過乾燥による品質劣化の原因となる。
【0022】
緑茶ポリフェノールを付した藺草シートは、通気性を有する多孔質の保護薄膜を設けて緑茶ポリフェノール含有塗装を被覆し、これによって緑茶ポリフェノールを外部から保護するが、緑茶ポリフェノールの機能は保護薄膜を通じて外部へ良好に長期間発揮される。保護薄膜を形成する成膜物質は、一般的な塗料で用いられる天然樹脂、合成樹脂等の高分子物質から1種又は2種以上を適宜選択し、成膜物質を含有する液体に調製された塗料を用いて静電塗装によって藺草シートに塗布する。これにより、粒子状の塗料がシート上に堆積して成膜物質により無色の多孔質薄膜が形成される。静電塗装では霧化における作業抵抗の点から粘性の低い液体を使用することが好ましく、この点ではエマルジョン塗料が好適である。しかも、W/O型エマルジョン塗料、O/W型エマルジョン塗料や、官能性成分で溶解性が調節された水系分散塗料は、乾燥中の溶解性、膜形性能の変動によって多孔質膜が形成され易い。又、水性塗料は、塗料の霧化、乾燥における溶剤の気化等に関する環境面でも有利である。このような水性塗料を構成する成膜物質として、例えば、ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリエステル等の熱可塑性樹脂が挙げられ、乳化剤や溶剤等を用いて分散することにより塗料に調製される。成膜強度、成形容易さの点からはアクリル樹脂等の成膜物質が好ましい。塗料には、成膜物質及び媒体に加えて、色素や紫外線吸収剤等を必要に応じて加えても良い。
【0023】
塗料の静電塗布は、前述と同様に、アースした藺草シートに陽極を接続し、静電塗装機の霧化器を負電極として高電圧を印加して行い、霧化器によって霧化し負に帯電した塗料を電界に沿って移動させて藺草シートに付着させる。用いる塗料は、保護薄膜の多孔質成膜及び静電塗装機中の塗料の流動性から、成膜物質の濃度が0.5〜5質量%程度の水性塗料であることが好ましく、藺草シート1m当りの塗布量を15〜40ml程度とすることにより、乾燥後に好適な厚さの多孔質保護薄膜が形成できる。塗布量が上記範囲以外であると、保護薄膜の強度不足により緑茶ポリフェノールが剥離したり、薄膜の厚さ過剰により抗菌性が表面に発揮されない等の問題が生じる。
【0024】
塗料を塗布した藺草シートを乾燥することによって、多孔質の保護薄膜が形成される。保護薄膜の厚さは0.12〜0.33μm程度となり、緑茶ポリフェノールを好適に保護すると共に、抗菌性・消臭性が保護薄膜を通して良好に発揮される。乾燥機等を用いて100〜120℃程度に加熱すると乾燥を促進することができ、塗料の水が膜下の緑茶ポリフェノール及び藺草へ影響を及ぼすのを防止できる。但し、加熱温度が120℃を越えると、藺草及び下層の緑茶ポリフェノールの品質が劣化する。
【0025】
上述した製造方法により緑茶ポリフェノール塗装及び保護薄膜を施した藺草シートは、藺草ポリフェノール及び緑茶ポリフェノールの共存による抗菌性及び消臭性の相乗的発現が多孔質の保護薄膜を通じて好適に発揮され、且つ、塗布された緑茶ポリフェノールが保護薄膜によって保護されて乾拭き等の外部からの作用による剥離が防止され、耐光性も向上する。静電塗布は歩留りが良く、引力による成分付着性の向上で剥離を防止し易くなるので、生産性及び製品寿命の点で有利である。又、静電塗布によって表面の凹凸にも対応して均一に塗布されるため、局所的な過剰塗布による膨潤や膜厚過剰による機能封止が防止されるので、藺草の品質劣化を生じることなくポリフェノールの機能が長期間好適に持続する。しかも、表面形状を制限されないので、様々な織り方や織り柄の藺草シートに適用でき、得られた藺草シートは、畳表や茣座等の床材、マットやクロス等の敷物類の他、インテリア装飾品、小物類の被覆カバー等として幅広く利用できる。
【0026】
上記製造方法は、藺草シート以外に、各種植物の繊維などを用いて作成されるシートに応用することも可能であり、例えば、麦藁、稲藁等や、製紙原料であるこうぞ、みつまた、木材パルプ等、布地原料である綿、麻等の植物、和紙、これらの再生材のほか、ポリオレフィンなどを用いて形成したシートが挙げられる。この場合の抗菌性、消臭性は緑茶ポリフェノール単独のものとなる。また、藺草ポリフェノール及び緑茶ポリフェノールの相乗効果を期待するのであれば、両者を混合し、上述した製造方法によりシートを得ることも可能である。藺草シートのように原料植物を実質的にそのままの形態で条材として用いてシート状に加工したものでも、原料植物から取り出した植物繊維をシート状に加工したものでもよい。原料植物自体又は植物の繊維を撚った糸、紐等の条材を編んだり織じんした布状ののものや、植物繊維を抄造や固着によりシート状に成形した不織布、紙等であってもよい。
【0027】
以下、実施例を参照して本発明を詳述する。本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
<藺草シートの作成>
藺草を引目織りに織って、ヒゲ(藺草シートを織る際にシートの両端に突き出た部分、縫ってない状態の部分)を切断除去して30cm×20cm(内ヒゲ部分8cm)の藺草シートを作成した。
【0029】
<下地用カテキン液の調製>
緑茶カテキン抽出物(総ポリフェノール:38質量%、総カテキン:30質量%[EGC:10質量%、EGCg:14質量%、EC:2質量%、ECg:4質量%])に水に加えて、緑茶カテキン抽出物の濃度が0.1〜3.0質量%のカテキン液を調製した。
【0030】
<上地用塗料の調製>
無色の塗料樹脂(関西ペイント(株)社製アクリルエマルジョン、組成:アクリル樹脂90質量%;助剤(エチレングリコール・ジブチルフタレート)6質量%;水4質量%、商品名:HSS No.1 クリアー、品番:17-249-011)1kgに水100Lを加えて約1質量%の濃度に希釈することにより、塗料を調製した。
【0031】
<試料A1〜A7、Z1〜Z10>
静電塗布装置(ランズバーグ社製)を用いて、表1に記載する濃度及び塗布量でカテキン液を藺草シートに静電塗布し、表1の乾燥温度で30秒間加熱乾燥することによって、緑茶カテキン抽出物の下地塗装をシートに施した。次に、前述の静電塗布装置を用いて表1に記載する塗布量で塗料をシートに静電塗布し、表1の乾燥温度に加熱して30秒間乾燥することによって上地塗装を施し、試料A1〜A7、Z1〜Z10のシートを得た。
【0032】
<試料Z11>
緑茶カテキン抽出物の濃度が0.3質量%のカテキン液に約1mの藺草を浸漬して5分間含浸した後に引き上げ、100℃で30秒間加熱乾燥した。
【0033】
<試料Z12>
緑茶カテキン抽出物の濃度が0.3質量%のカテキン液に藺草シートを浸漬して30秒間含浸した後に引き上げ、100℃で30秒間加熱乾燥することによって、緑茶カテキン抽出物の下地塗装を施した。
【0034】
<試料Z13〜15>
緑茶カテキン抽出物の濃度が表2に示す濃度となるように緑茶カテキン抽出物及び塗料を混合し、この混合液を前述の静電塗布装置を用いて表2の塗布量で藺草シートに静電塗布し、表2の加熱温度に加熱して30秒間乾燥することによって、試料Z13〜Z15のシートを得た。
【0035】
<シートの評価>
上記で得たシートについて、下記に従って、歩留まり、乾燥後の強度、成分有効性、成分剥離性、耐光性、抗菌性及び消臭性を評価した。結果を表3及び表4に示す。
【0036】
(歩留り)
シートを分解して藺草をバラバラにし、藺草の表面を目視により観察し、破損がなく十分に下地が塗布され変色(黒色変化)が無い藺草を合格として、合格した藺草の本数を調べた。試料Z11の場合は、シートに織る前の藺草について観察を行って合格の藺草の本数を調べた。下記式に従って合格した藺草の収率(%)を計算し、収率が90%以上の場合を○、90%未満の場合を×として歩留まりを評価した。
【0037】
収率=100×(合格した藺草の本数)/(全藺草の本数)
尚、試料Z11、12については歩留まりの評価のみで、以下の評価は行っていない。
【0038】
(乾燥後の強度)
塗装・乾燥を施す前後の藺草シートの質量を測定し、ヒゲの脱離に抗して質量が維持される質量維持率を下式により計算した。この値が95%以上の場合を○、95%未満の場合を×として乾燥後の強度を評価した。
意味する。
【0039】
質量維持率(%)=乾燥後藺草敷物重量(g)÷乾燥前藺草敷物重量(g)
(成分有効性)
ポリフェノールが鉄イオンと反応して黒色に変化することを利用して、上地塗装を施したシート上に鉄イオンを含む水溶液3mlを滴下し、シート表面の黒色変化の有無を調べ、黒色変化がある場合を○、変化が無い場合を×として成分の有効性を評価した。尚、無処理の藺草シートでは鉄イオン水溶液に対する反応がないことを確認した。
【0040】
(成分剥離性)
上地塗装を施したシートの表面を白色布を用いて30回乾拭きした後に、シート上に鉄イオンを含む水溶液3mlを滴下して、ポリフェノールと鉄イオンとの反応による黒色変化の有無を調べた。更に、乾拭き後の白色布にも鉄イオンを含む水溶液3mlを滴下して黒色変化の有無を調べた。シート表面に黒色変化があり、白色布に黒色変化が無い場合を○、シート表面に黒色変化がなく、白色布に黒色変化がある場合を×として、成分剥離性を評価した。尚、△は、シート表面及び白色布のいずれにも黒色変化が認められない場合を示す。
【0041】
(耐光性)
フェードメータを用いて、湿度60%、温度40℃の条件で、上地塗装を施したシートに50時間光を照射し、25時間及び50時間光照射した時点のシート表面の変化を調べた。いずれの時点でも変化がみられない場合を○、25時間の時点では変化がなく、50時間の時点で斑点状のシミが見られる場合を△、25時間の時点で斑点状のシミが見られる場合を×として耐光性を評価した。
【0042】
(抗菌性)
藺草シートは表面に凹凸があり、抗菌試験をする際に障害があるため、以下の代用試験を行った。
【0043】
5cm×5cmにカットしたろ紙に藺草抽出液(1Lの沸騰水に50gの乾燥藺草を投入し、30分攪拌した後に濾過したろ液)を1ml含浸させ、105℃にて3時間乾燥した後、表1、2に記載される試料A1〜7、Z1〜10及びZ13〜15の塗装及び乾燥条件でカテキン液及び塗料を静電塗装して下地及び上地塗装を施した抗菌試験用サンプルを得た。1/500普通ブイヨンにサンプルを浸漬した後、抗菌製品技術協議会のフィルム密着法を利用してサンプル上の菌液(MRSA:メスチリン耐性黄色ブドウ球菌)の生菌数(CFU/枚)を測定した。
【0044】
他方、評価基準のために、上記と同じ寸法のろ紙に上記藺草抽出液1mlを含浸して乾燥したもの、及び、ろ紙に緑茶カテキン抽出物濃度が0.3質量%のカテキン液1mlを含浸して乾燥したものをサンプルとして、同様に、1/500普通ブイヨンに浸漬した後、サンプル上の菌液の生菌数(CFU/枚)を測定した。
【0045】
藺草抽出液の場合のサンプルの生菌数が1.0×10(0時間)、3.4×10(24時間後)であり、カテキン液の場合が1.0×10(0時間)、1.1×10(24時間後)であったことを考慮して、24時間後の生菌数が1.0×10未満である場合を○、1.0×10以上である場合を×として各サンプルにおける抗菌性を評価した。
【0046】
(消臭性)
上地塗装を施した後のシートを20mm×30mmにカットし、塗装地露出面積が10mm×20mmとなるようにプラスチックフィルムでシートの裏面及び小口面を覆った。これを試験サンプルとして、悪臭物質(アンモニア160ppm、ホルムアルデヒド70ppm)を含んだエア3Lを詰めたテドラーバックに入れて37℃で3時間保管した後、ガステック製のガス検知管を用いてエア中の各悪臭物質(アンモニア、ホルムアルデヒド)の残存量を測定し、下記計算式に従って、各悪臭物質の初期濃度及び3時間後濃度から消臭率を算出した。
【0047】
消臭率(%)=100×(初期濃度−3時間後濃度)/初期濃度
アンモニアについては、上記消臭率が90%を越える場合を○、90%以下の場合を×として消臭性を評価した。ホルムアルデヒドについては、消臭率が86%を越える場合を○、86%以下の場合を×として消臭性を評価した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】



歩留りについて、静電塗布を用いずにカテキン液に藺草又は藺草シートを浸漬したZ11,12は、下地塗装の歩留りが低く、藺草の損傷が目立った。このため、これらの試料では上地塗装及び他の評価試験を行わなかった。
【0052】
乾燥後強度については、下地塗装の乾燥温度が120℃以上である試料Z5,6の重量減少が大きく、材料強度の低下が明らかであった。このため、製品価値が低いと見なし、これらの試料では他の評価試験を行わなかった。
【0053】
成分有効性について、カテキン液の濃度又は塗布量が小さい試料Z1,2ではカテキンの反応が見られず、下地塗装量が不十分であることを示す。又、上地の塗布量が多い試料Z10においてもカテキンの反応が見られない。これは、上地塗装の厚さが過剰であるために下地が鉄イオン溶液と反応しないと考えられる。また、カテキン抽出物と上地用塗料とを混合した試料Z13,14においてもカテキンの反応が見られないのは、カテキン抽出物が塗料樹脂に包まれるため、塗装表面に機能を発揮しないことによると思われる。これらについては、成分剥離性の評価においてもカテキンの反応は見られず、抗菌性及び消臭性についても評価が低くなる。一方、試料Z15ではカテキンの反応が見られるのは、塗装中のカテキン量が多いためである。
【0054】
成分剥離性について、上地塗装の塗布量が少ない試料Z7〜9では乾拭き後の白色布にカテキンの反応が見られ、上地の厚さ不足による剥離であることが明らかである。このため、これらの試料については耐光性、抗菌性及び消臭性の評価を省略した。
【0055】
耐光性については、下地塗装のカテキン量が多い試料Z3,4において斑点状のシミが生じる。このことから、製品価値を長く維持するためには抗菌性や消臭性などの機能が好適に発揮される範囲で下地のカテキン量を調節することが好ましいと言える。又、カテキン抽出物と塗料とを混合塗布した試料Z15では、カテキン抽出物による機能の発揮と耐光性とを共に確保することが困難であることが解る。これらについては、商品価値の観点から実用性が低いため、抗菌性及び消臭性の評価を省略した。
【0056】
抗菌性及び消臭性について、カテキン液の濃度又は塗布量が小さい試料Z1,2の評価が低いのは、カテキン量の増加に伴ってこれらの機能が強く発揮されることを示している。
【0057】
ホルムアルデヒドの消臭率について、50mm×50mmのろ紙に緑茶カテキン抽出物1質量%水溶液を1ml含浸させ、105℃で3時間乾燥したものをサンプルとして測定したところ、消臭率は89%であった。この結果と試料A1〜A7とを比較すると、藺草シートに塗布した試料では低濃度又は低塗布量であってもホルムアルデヒドの消臭効果が得られることが明らかである。このことから、藺草とカテキンの組み合わせにより相乗効果が起こるものと推測できる。藺草の代わりに和紙をコヨリ状にしたサンプルを用いた場合のホルムアルデヒド消臭率についてもろ紙と同様の結果を得た。
【0058】
また、0.3質量%緑茶カテキン抽出物水溶液を1ml(1ml/25cm=400ml/m)含浸させたろ紙サンプルの生菌数が1.1×10であり、藺草抽出液の場合の生菌数が3.4×10、試料A1(下地静電塗装量:25ml/m)の生菌数が5.4×10、試料A2(下地静電塗装量:25ml/m)の生菌数が4.2×10であることから、緑茶カテキン抽出物量が1/16でも藺草抽出物が共存することにより抗菌力が増すことが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藺草を用いて形成されるシートに、緑茶抽出物を静電塗布した後、樹脂を静電塗装することを特徴とする藺草シートの製造方法。
【請求項2】
前記緑茶抽出物は、緑茶ポリフェノールを含有し、水性液の形態で静電塗布する請求項1記載の藺草シートの製造方法。
【請求項3】
前記水性液は、緑茶ポリフェノールの濃度が0.07〜0.35質量%であり、前記シートに25〜55ml/mの割合で塗布される請求項2記載の藺草シートの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂は無色であり、水性エマルジョン液の形態で静電塗装される請求項1〜3のいずれかに記載の藺草シートの製造方法。
【請求項5】
前記水性エマルジョン液は、前記樹脂の濃度が0.5〜5.0質量%であり、前記シートに15〜45ml/mの割合で塗布される請求項4記載の藺草シートの製造方法。
【請求項6】
前記シートは、藺草を横糸として用い、和紙又はポリオレフィンを用いて形成される条材を縦糸として用いて形成される請求項1〜5のいずれかに記載の藺草シートの製造方法。
【請求項7】
前記シートに静電塗布された前記緑茶抽出物及び前記樹脂は、各々、静電塗布後に100〜115℃で加熱乾燥される請求項2〜5のいずれかに記載の藺草シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の藺草シートの製造方法によって製造される藺草シート。
【請求項9】
藺草を用いて形成されるシートと、前記シートに塗設され緑茶抽出物を含有する下地塗装と、前記下地塗装を被覆し樹脂を含有する多孔質塗装とを有することを特徴とする抗菌・消臭性藺草シート。
【請求項10】
藺草を用いて形成されるシートに、緑茶ポリフェノールを静電塗布した後、樹脂を含有する多孔質薄膜で被覆することを特徴とする藺草シートの製造方法。

【公開番号】特開2006−112013(P2006−112013A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301673(P2004−301673)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(502070819)株式会社北一商店 (1)
【Fターム(参考)】