説明

蛍光体および発光装置

【課題】良好な特性を損なうことなく、発光色を微調整された蛍光体および白色系半導体発光装置の提供。
【解決手段】蛍光体は、希土類元素としてエルビウム(Er)化合物の微粒子が付着していることを特徴としている。エルビウム(Er)化合物が付着していることで蛍光体の発光輝度や温度特性などを損なうことなく、蛍光発光の色度が微調整可能となる。この蛍光体を用いた白色系半導体発光装置は、発光色の色度が微調整可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子からの青色系の光を吸収し、青色系の光との補色光が発光可能な蛍光体に関する。特に、液晶バックライトや照明光源等に利用可能な白色系発光ダイオードに好適に用いられる蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、青色系の光や、紫外線を吸収し、赤色や黄色、緑色等のより長波長の可視光に波長変換する蛍光体を用い、この蛍光体を組み合わせることで白色等の可視光を得ることが知られている。
特に、短波長領域の可視光線または紫外線の光源としては、半導体発光素子、例えば窒化ガリウム(GaN)系青色発光ダイオード等を用いている。そして、波長変換材料としての蛍光体と組み合わせて構成され白色等の可視光を発する半導体発光装置は、消費電力が小さく寿命が長い特徴があり、近年画像表示装置または照明装置の発光源として注目されている。
【0003】
そして、この半導体発光装置は、変換材料としての蛍光体が、GaN系青色発光ダイオードの発する青色領域の可視光を吸収して黄色光を発光し、この蛍光体に吸収されなかった発光ダイオードの青色光との混色によって、白色に発光する(たとえば特許文献1参照。)。
このとき、この白色の発光は、青色と、この青色の補色である黄色とで形成されるため、得られる白色を任意の色度とするためには、発光ダイオードの青色光または、蛍光体からの黄色光かのいずれかを調整する必要がある。
【0004】
近年、白色発光ダイオードを照明器具の光源として用いるニーズが高まっているが、この場合点光源である発光ダイオードを照明器具内に複数個並べる必要がある。このとき、隣り合う白色発光ダイオードに色のバラツキがあると、それがわずかなものであっても目立つため、ユーザーに不良品として認識されかねない。このため、特に照明器具用途の場合、色のバラツキを抑制するために発光色のより細かい微調整が求められている。
しかしながら、発光色を微調整することは容易ではない。
【0005】
例えば、発光ダイオードの青色光は、その製造のバラツキから発光色が微妙に変化してしまうため、その発光色を微調整することは難しい。
発光ダイオードの青色光と、蛍光体の黄色光とのバランスを調整するため、例えば封止樹脂中に配合する蛍光体の含有量を調整する方法がある。しかしながら、蛍光体の含有量を増やすだけでは、発光色を調整できるものの発光輝度が低下する傾向にある。他方、蛍光体の含有量を減らすと輝度を向上させることができるものの発光色を調整することができないという問題がある。また、蛍光体の含有量を調整するだけでは、得られる発光の色度は、例えばCIE1931のxy色度図で表現すると、発光ダイオードの青色光の色度と、蛍光体の黄色光の色度を結んだ直線上に位置する色でしか調整することができない。
【0006】
このほかに、蛍光体の発光色を調整する方法として、例えばセリウム付活のイットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Ce)系蛍光体であれば、この蛍光体の一部を、たとえばイットリウム(Y)の一部をガドリニウム(Gd)に置換すると、発光波長は長波長側にシフトし、またアルミニウム(Al)の一部をガリウム(Ga)に置換すると、発光波長は短波長側にシフトすることが知られている。しかしながら、YAG:Ce系蛍光体の一部をGdやGaに置換すると、発光効率の低下が起こり、また温度特性も悪くなる。すなわち高温時における発光輝度が低下するという問題がある。また、この置換による方法では、色度の微調整をするには難しい。
【0007】
別の方法として、例えば顔料を樹脂中に添加することで発光色を調整する方法もあるが、単に顔料を添加しただけでは例えば発光ダイオードからの青色光も顔料にカットされ、あるいは吸収されてしまい、発光輝度が低下するという問題がある。
この問題を解決するため、例えば雲母などの非不透明フレーク基質上に酸化チタンや酸化ジルコニウムなどの金属酸化物が被膜され、さらにこの金属酸化物に酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化クロム等の酸化物にて被膜された顔料を用いることで、この顔料が蛍光体からの光を透過するとともに発光ダイオードからの光を反射するため、輝度を大きく損なうことなく発光色を調整できる方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、上記の雲母を基質とした特殊な顔料を用いる場合、比較的球形に近い蛍光体と、フレーク状の顔料とを均一に樹脂層の中に分散させることは、技術的にかなり困難である問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平10−242513号公報 (第1−2頁)
【特許文献2】特許第3809760号公報 (第1,3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前述の従来技術に鑑み、高い発光輝度や温度特性といった良好な特性を損なうことなく、発光色が微調整された蛍光体を提供することを目的とし、また発光色が微調整された白色系半導体発光装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく種々の検討や実験を行なった結果、特定の希土類の化合物を例えば500nmから650nmなどの黄色領域にブロード(広帯域)な発光スペクトルを有する蛍光体表面に付着させることにより、その発光スペクトルのうちの一部の波長領域の光を吸収することで、蛍光体から得られる発光色を微妙に調整できることを見出した。
【0011】
請求項1記載の蛍光体は、ブロードな発光スペクトルを有する3価のセリウム(Ce3+)または2価のユウロピウム(Eu2+)で付活された蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していること特徴としているものである。
そして、ブロードな発光スペクトルを有する上記蛍光体にエルビウム(Er)化合物を付着させることにより、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整可能となる。
【0012】
請求項2記載の蛍光体は、ガーネット型構造を有する3価のセリウム(Ce3+)付活蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としているものである。
そして、ガーネット型構造を有する3価のセリウム(Ce3+)付活蛍光体にエルビウム(Er)化合物を付着させることにより、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整可能となる。
【0013】
請求項3記載の蛍光体は、2価のユウロピウム(Eu2+)付活酸窒化物系蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としているものである。
そして、2価のユウロピウム(Eu2+)付活酸窒化物系蛍光体にエルビウム(Er)化合物を付着させることにより、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整可能となる。
【0014】
請求項4記載の蛍光体は、2価のユウロピウム(Eu2+)付活ケイ酸塩系蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としているものである。
そして、2価のユウロピウム(Eu2+)付活ケイ酸塩系蛍光体にエルビウム(Er)化合物を付着させることにより、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整可能となる。
【0015】
請求項5記載の蛍光体は、請求項1ないし4記載の蛍光体において、エルビウム(Er)化合物は、酸化エルビウム(Er)、フッ化エルビウム(ErF)、バナジン酸エルビウム(ErVO)、酸硫化エルビウム(ErS)、アルミン酸エルビウム(ErAl12)、タングステン酸エルビウム(Er12)およびモリブデン酸エルビウム(ErMo12)の少なくとも1つ以上からなることを特徴としているものである。
そして、請求項1ないし4記載の蛍光体にこれらエルビウム(Er)化合物を付着させることにより、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整可能となる。
【0016】
請求項6記載の蛍光体は、請求項1ないし5記載の蛍光体において、エルビウム(Er)化合物は、平均粒径D50が0.05μm以上1μm以下の微粒子であることを特徴としているものである。
そして、請求項1ないし5記載の蛍光体に付着させるエルビウム(Er)化合物の粒度を、平均粒径D50で0.05μm以上1μm以下の微粒子とすることにより、輝度を損なうこと無く、より効果的に蛍光体の発光色が微調整可能となる。
【0017】
請求項7記載の半導体発光装置は、請求項1ないし6記載の蛍光体を具備したことを特徴としている。
そして、請求項1ないし6記載の蛍光体を具備したことで、発光色が微調整された半導体発光装置となる。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の蛍光体によれば、ブロードな発光スペクトルを有する3価のセリウム(Ce3+)または2価のユウロピウム(Eu2+)で付活された蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着したことで、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整された蛍光体を得られる。
【0019】
請求項2記載の蛍光体によれば、ガーネット型構造を有する3価のセリウム(Ce3+)付活蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着したことで、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整された蛍光体を得られる。
【0020】
請求項3記載の蛍光体によれば、2価のユウロピウム(Eu2+)付活酸窒化物系蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着したことで、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整された蛍光体を得られる。
【0021】
請求項4記載の蛍光体によれば、2価のユウロピウム(Eu2+)付活ケイ酸塩系蛍光体に、少なくともエルビウム(Er)化合物が付着したことで、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整された蛍光体を得られる。
【0022】
請求項5記載の蛍光体によれば、請求項1ないし4記載の蛍光体において、エルビウム(Er)化合物を、酸化エルビウム(Er)、フッ化エルビウム(ErF)、バナジン酸エルビウム(ErVO)、酸硫化エルビウム(ErS)、アルミン酸エルビウム(ErAl12)、タングステン酸エルビウム(Er12)およびモリブデン酸エルビウム(ErMo12)の少なくとも1つ以上からなる構成としたことで、輝度を損なうこと無く、蛍光体の発光色が微調整された蛍光体を得られる。
【0023】
請求項6記載の蛍光体によれば、請求項1ないし5記載の蛍光体において、エルビウム(Er)化合物を、平均粒径D50が0.05μm以上1μm以下の微粒子であるとしたことで、輝度を損なうこと無く、より効果的に蛍光体の発光色が微調整された蛍光体を得られる。
【0024】
請求項7記載の半導体発光装置によれば、請求項1ないし6記載の蛍光体を具備したことで、輝度を損なうこと無く、発光色が微調整された半導体発光装置を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明に係る蛍光体は、あらかじめ原料混合、焼成、洗浄、乾燥、篩別等によって得られたブロードな発光スペクトルを有する各種の蛍光体に対して、さらに特定の化合物を付着させることにより得られる。
なお、特定の化合物を付着させる対象となる蛍光体は限定されないが、ここではYAG:Ce蛍光体の例を挙げて説明する。
【0026】
YAG:Ce蛍光体は、YAl12:Ce3+としても表記され、青色の発光ダイオードと組み合わせることで、白色光源を得るために広く用いられている。
このYAG:Ce蛍光体は、3価のセリウムイオン(Ce3+)に特徴的なブロードな発光ピークを有し、青色の光により励起され、約550nm付近にメインピークを有する。
このとき、発光ダイオードからの青色の光と混色され白色系の光となるが、得られた白色光が必ずしも所望の発光色とはならず、発光装置の目的によっては微調整をする必要がある。特に近頃、より細かい発光色制御のニーズが高まっており、発光色を微調整することが望まれている。
【0027】
まず、YAl12:Ce3+蛍光体自体の発光色を変化させる方法を述べる。YAl12:Ce3+蛍光体の発光ピーク波長は、付活するCe3+濃度により変化し、Ce3+濃度が増加すると長波長側、Ce3+濃度が減少すると短波長側にシフトする。この作用により、Ce3+濃度を調整することでYAl12:Ce3+蛍光体の発光ピーク波長を変化させ、得られる黄色発光の色度を変化させることができる。しかしながら、色度調整という観点からすると、変化の幅が大きく、Ce3+濃度を調整することで色度を微調整することは困難である。
【0028】
ここで、エルビウム(Er)化合物として例えば酸化エルビウム(Er)やネオジム(Nd)化合物として例えば酸化ネオジム(Nd)をフィルター材料として用い、上記のYAG:Ce付活蛍光体の表面にこれらのフィルター材料の微粒子を付着させ、フィルター材料微粒子付蛍光体とする。これらフィルター材料微粒子は、例えばEr化合物フィルター材料微粒子は490nm付近、520nm付近等に吸収波長領域を有し、またNd化合物フィルター材料微粒子は510nm〜530nm付近、580nm〜610nm付近等に吸収波長領域を有する。
これらフィルター材料微粒子を上記のYAG:Ce3+蛍光体の表面に付着させることにより、YAG:Ce3+蛍光体の有するブロードな発光ピークは微粒子によりその一部分がフィルター効果により吸収されるため、発光色を微調整することができる。さらに、励起光である発光ダイオードからの青色光の波長領域である440nm〜470nmでは吸収率が低いため、励起光を損なうことがなく、高い発光効率を維持できる。
【0029】
フィルター材料微粒子のフィルター効果は、その粒径に依存する。平均粒径D50として、およそ0.05μmから1μm程度の微粒子が好ましい。1μm以上の場合、蛍光体の発光に対するフィルター効果が小さくなり、0.05μm未満の場合、フィルター材料微粒子自体の体色が極めて薄くなり、やはりフィルター効果が小さくなり、好ましくない。
Er化合物やNd化合物のフィルター材料微粒子は、例えばボールミルやビーズミルなどの手段によりその粒度を小さくする。
【0030】
フィルター材料微粒子の蛍光体表面への付着方法は、さまざまな方法があるが、例えば
フィルター材料微粒子を水等に所定の割合で分散させた懸濁液を作製し、この懸濁液中に
対象となる蛍光体を加えて攪拌混合することによって蛍光体表面にフィルター材料微粒子
を付着させる。
このとき、効果的に付着させるため、例えば水ガラス系のような無機バインダを加えて
も良い。また、代替として、水酸化亜鉛や水酸化アルミニウムのようにコロイド状態とな
る水酸化物を用いても良く、このほかゼラチンやアラビアゴム等の粘着性のある有機物を
用いても良い。
懸濁液中にて蛍光体が充分に攪拌された後、攪拌を停止し蛍光体を沈降させる。上澄み
液を除いた後、洗浄、ろ過、乾燥、篩別を経て、フィルター材料微粒子が表面に付着した
蛍光体を得る。
こうして得られた微粒子が付着した蛍光体は、フィルター材料微粒子等が付着していな
い通常の蛍光体と同様に扱うことができるため、たとえば発光装置の製造において、新たな製造工程を付加することなく利用可能である。
【0031】
このほか、Er化合物としては、フッ化エルビウム(ErF)、バナジン酸エルビウム(ErVO)、酸硫化エルビウム(ErS)、アルミン酸エルビウム(ErAl12)、タングステン酸エルビウム(Er12)およびモリブデン酸エルビウム(ErMo12)等を好適に用いることができる。これらEr化合物は、その化合物の種類により吸収波長領域が少しずつ異なるため、目的の色度に適合したEr化合物を適宜選択できる。
このように、YAG:Ce系蛍光体の高い発光輝度、良好な温度特性といった好ましい性質を保持したまま、発光色を調整可能な蛍光体となる。
【0032】
以上、YAG:Ce系蛍光体にフィルター材料微粒子を付着させた例を述べたが、このほかに、同じくガーネット型構造を有する3価のセリウム(Ce3+)付活蛍光体であるテルビウム・アルミニウム・ガーネット(TAG:Ce)系蛍光体や、LuCaMg(Si,Ge)12:Ce3+、CaScSi12:Ce3+等の式で表されるガーネット型蛍光体にも同様にフィルター材料微粒子を付着させることで、同様の効果が得られる。
さらに、ガーネット型蛍光体以外の蛍光体においても、ブロードな発光スペクトルを有し青色光領域の光で励起される蛍光体に対しても、同様にフィルター材料微粒子を付着させて、同様の効果を得ることができる。
例えば、窒化物系蛍光体や酸窒化物系蛍光体として例えば(Sr,Ba)Si:Eu2+蛍光体α−SrSiAlON蛍光体など、ケイ酸塩系蛍光体として例えばSrSiO:Eu2+蛍光体やSrSiO:Eu3+蛍光体など、硫化物系蛍光体等についても、フィルター材料微粒子を付着させることで、同様の効果が得られる。
【0033】
続いて、本発明の一実施の形態として、上記蛍光体を具備した半導体発光装置の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における半導体発光装置を示した断面図である。
この半導体発光装置は、リードフレーム101の先端に、カップ形状の凹みであるマウント部10を有する。このカップ形状のマウント部10に、近紫外から青色領域の光を放出する半導体発光素子として、例えば絶縁基板を有する半導体発光素子11が例えばエポキシ樹脂等からなる接着剤12で固定されている。上記半導体発光素子11の上面に設けられたP型電極13aが、例えばAu,Al,Cu等からなる金属ワイヤー15aによってリードフレーム101の電極部13bに接続されている。また、上記半導体発光素子11の上面に設けられたN型電極14aが、金属ワイヤー15bによって右側のリードフレーム102の電極部14bに接続されている。
そして、カップ形状のマウント部10内に、蛍光体21が充分に混合されて充填されている。さらに、上記半導体発光素子11およびリードフレーム101,102の上部を、例えば透明なエポキシ樹脂等のモールド樹脂30によって封止して、砲弾形状の半導体発光装置を形成している。
この図1に示した砲弾形状の半導体発光装置は、放射される光が図1の上方に向かう指向性を有しており、半導体発光素子11から放出された光を効率良く集光するために、リードフレーム101のマウント部10がカップ形状に形成されている。
さらに、半導体発光素子11をカップ形状のマウント部10の底に配置すると共に、このマウント部10に蛍光体21を充填して、これら蛍光体21によって、半導体発光素子11から放出された近紫外から青色領域、例えば390nmから470nmの波長の光を波長変換して、蛍光体21から調整された黄色領域の光が放出される。
そして、半導体発光素子11から放出された光と、蛍光体21から放出された光との混色により、図1の半導体発行装置から白色領域の光が放射される。
ここで、蛍光体21をカップ形状のマウント部10に充填することで、半導体発光素子11からの光を効率良く変換させて、半導体発光装置の輝度を高めているのだが、必ずしもマウント部10内全体に蛍光体21を充填する必要はなく、必要に応じて凹状に充填しても、また凸状に充填してもよい。
さらに、蛍光体21をカップ状のマウント部10内に充填するのではなく、封止樹脂30内に分散させてもよい。
【0034】
図2は、本発明の別の一実施の形態における半導体発光装置を示した断面図である。
この半導体発光装置は、例えば耐熱性を有するガラスエポキシからなる直方体形状のプリント配線基板16上に、エポキシ樹脂からなる接着剤12によって、絶縁性基板を有する半導体発光素子11を接着している。この半導体発光素子11の上面に設けられたP型電極13aとN型電極14aは、金属ワイヤー15a,15bによって、プリント配線基板16上面の電極部16a,16bに各々接続されている。これら電極部16a,16bは、プリント配線基板16の上面と下面とを接続する図示しない断面円弧状のスルーホールを介して、実装面としてのプリント配線基板16の下面に引き回されて、この実装面の両端部にまで延びている。なお、上記プリント配線基板16は、絶縁性フィルムを用いてもよい。
そして、上記プリント配線基板16上に、上記半導体発光素子11全体を覆うように、蛍光体21を分散させた封止樹脂としての例えば透光性のエポキシ樹脂等のモールド樹脂32を、図2に示すような台形断面をなすように形成して、チップ部品形状の半導体発光装置を形成している。
【0035】
本願発明の半導体発光装置は、上記の構造に限定されるものではなく、半導体発光素子11から放出された近紫外から青色領域の光が、蛍光体21によって波長変換され、そして、半導体発光素子11から放出された光と、蛍光体21から放出された光との混色により、調整された白色領域の光が放射される半導体発光装置であればよい。
【0036】
次に、上記一実施の形態の実施例として、本発明の微粒子付着蛍光体とその特性について説明する。
【実施例1】
【0037】
はじめに、YAG:Ce系蛍光体として微粒子の付着したYAl12:Ce3+蛍光体の特性について説明する。
まず、YAl12:Ce3+蛍光体を合成する。
原料として、328.5gの酸化イットリウム(Y)(Yとして2.91モル)、15.5gの酸化セリウム(CeO)(Ceとして0.09モル)、152.9gの酸化アルミニウム(Al)(Alとして3モル)、フラックスとして35gのフッ化バリウム(BaF)(0.2モル)とを十分によく混合する。
この混合物をアルミナるつぼに充填して、1500℃で2時間、還元雰囲気中(水素3%、窒素97%)で焼成する。焼成後、残留フラックス除去のために、水洗および酸洗浄工程、乾燥工程、篩別工程を経て、YAl12:Ce3+蛍光体を得た。
このYAl12:Ce3+蛍光体は、(Y0.97,Ce0.03Al12で表される組成を有しており、Ce3+のイットリウム(Y)への置換割合は3モル%である。
【0038】
このYAl12:Ce3+蛍光体に付着させるフィルター材料微粒子として、Er化合物の、酸化エルビウム(Er)を選択した。
このEr微粒子は、市販の酸化エルビウムを24〜48時間程度に充分にボールミル処理行程を経て微粒化して得た。
得られたEr微粒子をレーザー回折式粒度分布測定装置(型式:SALD−2100 株式会社島津製作所製)で粒度分布を測定したところ、平均粒径D50は0.79μm、最大粒径D100は3.61μmであった。
【0039】
次に、フィルター材料微粒子を付着させる行程を説明する。
得られた上記Er微粒子2gを、純水500ml中に加え、攪拌して分散させて懸濁液をつくる。この懸濁液500mlに、YAl12:Ce3+蛍光体(平均粒径D50は19.1μm)100gを加え攪拌混合し、さらに1M−塩化亜鉛(ZnCl)水溶液を10ml加え攪拌混合する。充分に混合された後に、さらに希アンモニア水(約14%)を少しずつ添加してpH9になるように調整する。その後、攪拌を停止し、蛍光体を沈降させる。上澄み液を除去後に、数回純水洗浄を行い、ろ過後、乾燥工程、篩別工程を経て、目的のEr微粒子を2%付着させた蛍光体を得る。この得られたEr微粒子付着蛍光体を試料1−(1)とした。
同様に、Er微粒子を付着させた割合を4%とした蛍光体も作成し、得られたEr微粒子付着蛍光体を試料1−(2)とした。
比較のため、Er微粒子をつけていないYAl12:Ce3+蛍光体を、比較例1とした。さらに、Er微粒子のかわりに、従来、ブラウン管用蛍光体等でコントラスト向上を図るために用いられた顔料として「べんがら」(酸化第二鉄系顔料)を上記Er微粒子と同様の方法で蛍光体に対して0.02質量%の割合で付着させたYAl12:Ce3+蛍光体を用意した。この得られたべんがら付着蛍光体を比較例2とした。
【0040】
次に、試料1−(1)、試料1−(2)、比較例1および比較例2の発光特性を測定した。
発光特性を測定するにあたり、本発明の蛍光体は発光ダイオードに具備されて用いられるため、その特性は一般的な反射光を測定する方法ではなく、蛍光体を透過して得られた光を評価した。
具体的には、まず対象の蛍光体と透明分散剤としてのひまし油とを3:4の割合で混合し試料スラリーを作成したのち、この試料スラリーを透明ガラス板上に充分な量を載せる。この透明ガラス板上の一方の辺に約0.3mm厚のスペーサーを、他方の辺に約0.6mm厚のスペーサーを設け、上から別の透明ガラス板を載せて貼り合わせ、測定試料を得る。この測定試料は2枚の透明ガラス板が傾斜して重ねられているため、この2枚の透明ガラス板の間隙が連続して変化することにより、間に挟まれている試料スラリーの厚さもまた連続して変化する。
この測定試料を水平に設置し、下から青色発光ダイオード、ここでは470nmに発光ピークを有する青色発光ダイオードを面上に複数個並べたものを励起光源として、青色光を照射する。励起光源からの青色光と、この青色光により励起されて蛍光体が発光した黄色光とを混合して得られた発光が、測定試料上より観察されるため、このときの色度(x,y)および発光輝度を色彩輝度計(型式:CS−100 コニカミノルタ製)を用いて測定した。このとき、測定箇所を任意に少なくとも10点以上取ることで、さまざまな試料スラリーの厚み、すなわち蛍光体層の厚みをそれぞれ変え、青色励起光と黄色発光のバランスを変化させた複数の測定結果を得た。
これらの測定結果のうち、色度(x,y)の結果を表1に示す。なお、このときの青色発光ダイオードからの青色光のみの色度は、x=0.135,y=0.074であった。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示す結果を評価するため、それぞれの色度xと色度yの関係を、一次の線形回帰分析により表した。このとき、青色励起光のみの色度(x=0.135,y=0.074)も算入した。その結果を、表2に示す。また、比較例1、比較例2と試料1−(1)の結果を、横軸に色度x、縦軸に色度yをプロットしたグラフを図3に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2に示すように、上記の評価法で得られた色度(x,y)には、直線の相関があることがわかる。すなわち、青色励起光と蛍光体からの黄色発光の混色の色度(x,y)の値は、青色励起光の色度(x,y)の点と、蛍光体からの黄色発光の色度(x,y)の点とを結ぶ直線上の値をほぼとることがわかる。
ここで、例えば色度x=0.30における色度yの値を上記表2の回帰式から算出し、その結果を表3に示す。また、各々の試料の同等の色度xにおける輝度を抜き出し、その比較を、比較例1の輝度を1としたときの相対値として、同じく表3に示す。なおこのとき、色度x=0.281を選択したが、比較例1では2点あったため、この平均値を1とした。同じく試料1−(2)においても近い色度xは2点あったため、これも2点の平均値で評価した。
【0045】
【表3】

【0046】
表3に示すように、フィルター材料微粒子としてErを2%付着させた蛍光体である試料1−(1)は、なにも付着させていない蛍光体である比較例1に比べて、相対輝度をほぼ損なうことなく、色度x=0.3において、色度yの値を0.005小さく変化調整できたことがわかる。同様に、フィルター材料微粒子としてErを4%付着させた蛍光体である試料1−(2)も、なにも付着させていない蛍光体である比較例1に比べて、相対輝度をほぼ損なうことなく、色度x=0.3において、色度yの値を0.005小さく変化調整できたことがわかる。
一方、べんがら微粒子を0.02%付着させた蛍光体である比較例2では、確かにYAG:Ce系蛍光体のブロードな発光ピークのうち短波長側を吸収するため、発光は長波長側にシフトし、色度yの値を0.010小さく変化させている。しかし、相対輝度においては、励起光である青色領域の光もべんがら顔料が吸収してしまうため、その発光効率は低下し、結果として相対輝度0.80と大きく低下していることがわかる。
【0047】
このように、本発明の実施例である試料1−(1)および試料1−(2)では、輝度をほぼ損なうことなく色度調整ができることがわかる。また、このようにフィルター材料微粒子を用いた場合では、蛍光体からの黄色発光の色度を変化させるため、色度調整をしていない比較例1と青色光源との組合せでは実現できなかった色度の組合せが、青色光源を変えずとも実現可能となる。
なお、フィルター材料微粒子としてErを用いた場合では、その付着させた割合が2%の試料1−(1)と、4%の試料1−(2)では、色度yを微調整する効果はほとんど変わらないものの、相対輝度において4%の試料1−(2)のほうが若干ではあるが低下する傾向がみられた。
このほか、フィルター材料微粒子としてErを付着させた割合を変化させて確認したところ、0.5%から4%の範囲において、実用的に効果が得られることがわかった。なお、付着させた割合が0.5%未満では、フィルター材料微粒子を付着させた効果がなく、4%を超えると、輝度が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の微粒子付着蛍光体は、蛍光体の発光ピークを部分的に抑制し、発光色の色度を微調整可能としているため、特に照明の光源などの複数個並べて使用する白色系の発光ダイオード等の半導体発光装置に好適に利用できる。また、この蛍光体を用いた白色系の半導体発光装置は、照明用途等に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態における半導体発光装置を示した断面図である。
【図2】本発明の別の一実施の形態における半導体発光装置を示した断面図である。
【図3】本発明の試料1−(1)と比較例1、比較例2の蛍光体により得られる発光色の色度をプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としたブロードな発光スペクトルを有するセリウム(Ce3+)またはユウロピウム(Eu2+)付活蛍光体。
【請求項2】
少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としたガーネット型構造を有するセリウム(Ce3+)付活蛍光体。
【請求項3】
少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としたユウロピウム(Eu2+)付活酸窒化物系蛍光体。
【請求項4】
少なくともエルビウム(Er)化合物が付着していることを特徴としたユウロピウム(Eu2+)付活ケイ酸塩系蛍光体。
【請求項5】
上記エルビウム(Er)化合物は、酸化エルビウム(Er)、フッ化エルビウム(ErF)、バナジン酸エルビウム(ErVO)、酸硫化エルビウム(ErS)、アルミン酸エルビウム(ErAl12)、タングステン酸エルビウム(Er12)およびモリブデン酸エルビウム(ErMo12)の少なくとも1つ以上からなることを特徴とした請求項1ないし4記載の蛍光体。
【請求項6】
上記エルビウム(Er)化合物は、平均粒径D50が0.05μm以上1μm以下の微粒子であることを特徴とした請求項1ないし5記載の蛍光体。
【請求項7】
少なくとも請求項1ないし6の蛍光体を具備した半導体発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−13608(P2010−13608A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177182(P2008−177182)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(390031808)根本特殊化学株式会社 (21)
【Fターム(参考)】