説明

蛍光変換発光ダイオード

【課題】蛍光体分散層から発光素子側に発光して吸収される蛍光を防止し、発光素子近傍蛍光体の励起光集中による劣化と蛍光体分散層における放射角による色斑を防止する。
【解決手段】発光素子1からの光を受けて蛍光を発光する蛍光体分散膜7は透光樹脂に埋設され、
蛍光体分散近傍を焦点とし、蛍光体分散膜からの蛍光を反射するための蛍光反射凹面鏡3と
発光素子から発光された光を蛍光体分散膜に照射するための発光素子凹面鏡2は
蛍光反射凹面鏡の頂部に設けられた開口部23で一体または分離して設けられた構成からなる。
蛍光反射凹面鏡の頂部開口部により発光素子からの光を前記蛍光体分散膜に照射し、蛍光体分散膜から前方に発せられた蛍光は直接出射し、発光素子周囲凹面鏡の開口部面積は蛍光反射凹面鏡に比べて小さいので発光素子と蛍光反射凹面鏡の側に発せられた蛍光は蛍光反射凹面鏡に照射されて反射・出射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛍光体を用いた半導体発光素子の蛍光体層から発光素子側に発光する蛍光を反射鏡によって前方に反射して効率を改善し、放射角による色斑と発光素子近傍の蛍光体劣化を防止した発光素子およびこの発光素子を使用した照明装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子は小型、高効率、長寿命、低電圧動作、高速応答などの優れた特徴のため各種表示装置・交通信号機などに広く使用されている。
赤、緑、青の3原色発光素子の加法混色による白色光は単体の発光スペクトル幅が狭いために不連続なスペクトル特性を持つが、液晶表示装置は赤、緑、青の3色の発光素子による不連続なスペクトルでも3色の制御信号によりその中間色を表示するため3色の発光素子を用いた3原色白色光を利用可能である。3色の発光素子を円錐内面に設けて後方散乱によって混色する距離を長くする提案(図17、特許文献1)は多重反射に伴って吸収が増えて効率が低下する。3色の発光素子を同一パッケージに収め、発光素子に近い部分の反射鏡の傾斜を急にして各発光素子と反射鏡の距離と角度の差異を緩和する提案があるが(図18、特許文献2)、局部的条件でしか均等な混色が得られない。3色の発光素子を同一パッケージ内で十分に混色するのが難しく、素子の電源電圧が異なるなどの理由で下記の蛍光白色発光ダイオードが多く使用されている。
【0003】
青色発光ダイオードの青色光をイットリウム・アルミニウム酸化物系蛍光体などの黄色蛍光体に照射した補色による蛍光白色発光ダイオードのスペクトルは先鋭な青色となだらかな黄色域の2つのピークから成っている(特許文献3)。赤色域が非常に少なく、緑にも大きなディップを持つ青みの強いスペクトル特性である。しかし、蛍光白色発光ダイオードは3原色の混色に比べて構造が簡単なため携帯電話などの液晶表示装置のバックライトなどとして多く利用されている。
【0004】
半導体発光素子の発光効率の向上に伴って蛍光ランプに比べて小型化が可能な発光ダイオードによる照明への応用が進められ、半導体発光素子が点光源に近い特長を生かして放射角の狭いプロジェクターなどに使用され始めている。発光ダイオードは許容温度上昇が他の光源に比べて小さいため、大きな光束を得るのは多数のチップが必要になり高価である。普及には低価格化する必要があり、効率を重視されて青みの強いスペクトルになっている。
最も比視感度の高い黄緑色付近の蛍光体を青色発光ダイオードで励起して補色による蛍光白色光を一般照明に使用した場合、赤色域やディップ波長域の被照射体は連続スペクトルの白色光に比べて暗くなる。赤色蛍光体などを混合する方法やイットリウムの一部をガドリニウムに置換して長波長側にシフトし、演色性を改善しつつ効率向上する提案がある(特許文献3)。
【0005】
蛍光白色発光ダイオードの蛍光体は透光性樹脂に分散してカップ状凹面鏡の内部または表面実装部品のモールド全体に分散されているが、光軸方向で青色光が多くなり傾斜角方向で黄色光が増大するなどの色斑が生じるため、カップ状凹面鏡を2段に分けて蛍光体分散樹脂の厚さを均一にする下段凹部と封止部材の形状を均一にする上段凹部に分割した提案(特許文献4)、分散状態の均一性を改善するために射出成型機を使用して粒子沈降を防止した提案(特許文献5)などがある。
【0006】
照明は光源の反射光により色を認識するため光源の分光特性が演色性に影響し、波長が欠けていると情報が欠落して正確な色再現が出来なくなる。撮像用光源として線光源に近い3波長冷陰極管が多く使用されているが各色の蛍光材料が線スペクトルのため波長特性の凹凸が大きく、冷陰極管はインバータが必要である。楕円筒反射鏡の線状に形成される焦点に発光ダイオードを配置し、読み取り面を他方の焦線とするスキャナー光源の提案が3原色の発光ダイオードで示されている(特許文献6)。連続スペクトルにするには更に多色の素子が必要になり、発光ダイオードの光度がピークの約半値になる波長幅は20nm〜60nmのため6色〜9色を用いて可視光域をカバーする提案がある(特許文献7)。7種類の発光素子を基板中央付近に並べ、焦点面より浅い位置のレンズ内に封入し、焦点面の散乱材層で混色することにより各色の半値波長で繋げて白色光を形成し、線光源変換素子で変換してスキャナー光源としての応用が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−353506号公報
【特許文献2】特開2004−87935号公報
【特許文献3】特許3246386号公報
【特許文献4】特許3604298号公報
【特許文献5】特許3541709号公報
【特許文献6】特開平8−307610号公報
【特許文献7】特許4114173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カップ状凹面鏡底部に発光素子を設け、内部に蛍光体を分散した従来の蛍光白色発光ダイオードは蛍光体から前方に出射する蛍光を利用しているが、蛍光体から発光する方向は前方の出射方向の他に発光素子に戻る方向、カップ状の凹面鏡に出射する方向がある。発光素子に戻った光は屈折により発光素子内部に入射するか、入射角に応じて出射方向あるいは凹面鏡方向に反射する。多重に屈折・反射する際に吸収が発生する。前方に出射する蛍光の一部は別の蛍光体に当たって吸収が発生するが、発光素子方向に戻る場合も蛍光体粒子に当たり吸収が発生する。蛍光変換された波長が再び蛍光体に当たった場合は励起波長特性が蛍光域まで及んでいないので反射・吸収され、発光素子と蛍光体の間で反射を繰り返すことによって更に吸収が大きくなる。
【0009】
蛍光白色発光ダイオードの蛍光体は透光性樹脂に分散してカップ状凹面鏡の内部または表面実装部品のモールド全体に分散されている。発光素子の近傍にも蛍光体が分散され、発光素子の近傍は距離の2乗に反比例して光束密度が高くなるために発光素子近傍ほど蛍光体が劣化し易くなる。発光素子の発熱が蛍光体に熱伝導し、アレニウス則に従って劣化を促進するため放熱構造が重要になっているが、発光素子近傍に分散されている蛍光体は熱によっても劣化を促進されている。
【0010】
蛍光体の配合比と配合むらによって青の吸収が大きく変わり、指向性による色斑を生じるために均一に分散する提案が多くなされている。光軸上に青色光が多く、周辺光に黄色光が多くなるのを改善するために蛍光体を均一に分散して厚さを均一にする提案がある。しかし、蛍光体を均一に分散して蛍光体層の厚さを均一にしても、発光素子の光軸上と周辺部では蛍光体層の光路長が光軸付近よりも周辺部の方が長く、光軸上の蛍光体層厚tと周辺への光路長rとの比は数1で示される。
【数1】


θが30°では周辺方向に15.5%長くなるために厚さが均一であっても周辺光に黄色蛍光が多くなり、色斑が発生している。
【0011】
青色発光ダイオードの青色光を黄色蛍光体に照射した補色による白色発光ダイオードは尖鋭なスペクトルの青色光となだらかな黄色光のスペクトルを持ち、赤色域と青緑色域が不足している。蛍光が進行方向の蛍光体に当たらずに透過すると黄色光を呈し、別の黄色蛍光体に当たると蛍光体が有色不透明で蛍光波長に対しては蛍光変換率が低いために吸収される。吸収を補って蛍光体配合比率を上げると更に効率が低下するため、蛍光白色発光ダイオードは効率を優先されて青色光スペクトルが大きい青白い光になっている。
【0012】
演色性を改善するために広い波長帯域にわたって蛍光体を混合するとき、変換効率と比視感度に応じた蛍光体の配合比率で混合する必要がある。比視感度・変換効率の低い赤色などでは長波長蛍光体の量が増え、長波長の蛍光体から発せられた光は短波長の蛍光体では吸収だけで蛍光変換されないので更に蛍光体を増やす必要が生じる。黄色蛍光が黄色蛍光体に当たる確率、赤色蛍光が赤色蛍光体に当たる確率も増大して効率が低下する。このため、複数種の蛍光体を混合分散して連続スペクトルの白色光を実現するのは効率が低下する問題がある。
【0013】
発光素子を同一パッケージに配置し、発光素子近傍の反射鏡の傾斜を急にするなどの構造によって混色する提案は各発光素子から反射鏡への距離と角度が異なるのでチップの並びに従った色斑を生じる。正反射による混色が難しいために散乱層を利用して後方散乱させて散乱距離を長く取るなどの混色のため反射光が光源側に戻り、多重反射の際に吸収されて効率が低下する問題がある。外部で効率の良い混色手段がないために、蛍光白色発光ダイオードは蛍光体を混合して混色する方法に帰結している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
蛍光体膜7を焦点とする蛍光反射凹面鏡3に発光素子1からの励起光16を透過する開口部23を設け、前記透過開口部に交差して開口とする発光素子周囲凹面鏡2を設け、その内部に発光素子を設けた構造から成っている。発光素子から開口部を通して蛍光体膜に励起光を照射し、変換された蛍光16を蛍光体膜を焦点とする蛍光反射凹面鏡で反射して出射する。蛍光体膜を焦点とする焦点距離の大きな凹面鏡を蛍光反射凹面鏡と呼び、発光素子の周囲の凹面鏡を発光素子周囲凹面鏡と呼ぶことにする。図1は発光素子周囲凹面鏡を楕円鏡で構成し、蛍光体膜の半径を発光素子チップ寸法にして狭い放射角を実現する構造を示している。発光素子から楕円鏡を経由した励起光は焦点にある蛍光体に集光すると蛍光体は全方向に発光する。蛍光体から発光素子側の半空間に発せられた蛍光は発光素子周囲凹面鏡の開口部面積は蛍光反射凹面鏡に比べて小さいので、蛍光体の後方側に発光した蛍光は蛍光反射凹面鏡に殆どが照射される。蛍光体の前方に発光された蛍光は蛍光体を焦点とするレンズを設けることにより平行光に変換して前方に出射する。蛍光反射凹面鏡を放物面鏡または放物線近似曲率円球面鏡にすると、前方のレンズによる平行光と同様に蛍光を平行光として出射することが出来る。
【0015】
楕円鏡の焦点から発光して他方の焦点に集光するとき、発光素子が各辺約250μmの有限寸法を有するため、発光素子寸法と同等程度に集光する。楕円鏡による反射光は蛍光体に集光するが、発光素子からの直接光は拡散光なので蛍光体径が小さいと焦点の周囲に逸れて蛍光変換されなくなるので周囲に反射鏡を設けて逸れた励起光を蛍光体に反射している。カップ状反射鏡内部に蛍光体を分散している従来の白色発光ダイオードよりも蛍光体の分散密度を高め、蛍光体体積を発光素子と同等程度の蛍光体体積で塊状に密集すると前方に透過し難くなるので蛍光体による円形膜が適している。蛍光体の膜にして被照射面積を拡大すると励起光が逸れるのを削減することが出来る。径の大きな蛍光体膜の場合は発光素子周囲凹面鏡を楕円鏡のみならず円錐鏡、円筒鏡、照明装置形状によっては角錐鏡も使用可能である。
【0016】
発光素子体積と同量の蛍光体体積0.0156mm3を半径0.6mmの円形蛍光体膜にすると14μmの厚さになる。蛍光変換して蛍光のみを利用する場合は平均粒径10μmの蛍光体を断面視で千鳥に配置すると充填率が高いために蛍光体粒子間の透過光を防止しつつ、蛍光体からの蛍光を前方に放射することが出来る。蛍光体膜厚を厚くすると蛍光が前方に透過せずに前方の蛍光体で吸収されるため、稠密に充填せずに蛍光体の体積充填率を制御して励起光と蛍光のスペクトルバランスになるように混合する必要がある。
【0017】
励起光と蛍光のスペクトルバランスをとる場合は、蛍光体膜は前方のみならず蛍光反射凹面鏡方向にも発光するため、蛍光体粒子12の他に白色粒子13を混合して励起光を反射し、前方への励起光透過率に概略一致させる必要がある。蛍光体と白色粒子を透明樹脂に混合してフィルム成形する場合は蛍光体と白色粒子の体積充填率で透過率を設定することが出来る。白色粒子の体積と反射率の積に相当する透明粒子を混合して表面全体に塗布することにより励起光の透過率と反射率を同等にすることも出来る。透過部を透明粒子として扱い、図2に蛍光体粒子・白色粒子・透明粒子混合物を単層の千鳥に並べた模式図を示す。
【0018】
図2において蛍光体・白色粒子混合物と透過部による蛍光体膜を8個の全粒子で模式化し、蛍光体を半数の4個、白色粒子を2個、透明粒子を2個で示している。白色粒子は酸化マグネシウム(反射率0.98)、シリカ、酸化チタンなどの高反射率物質が適し、反射率を1で近似し、透過部または透明粒子の透過率を1で近似すると前方への励起光の透過光量と蛍光反射鏡方向への励起光反射光量を等しくすることが出来る。励起光Iを受けた蛍光体の蛍光変換効率αとして、前方と後方の空間に同量の蛍光を発し、蛍光体が半数のため前方・後方とも蛍光量はI・α/4である。
【0019】
発光素子周囲凹面鏡は蛍光体に効率良く照射するには細長い形状が適し、楕円鏡の場合は数2における楕円鏡の長軸径をa、短軸径をbとするとa/bの比が大きいほど図3のように細長い形状になる。
【数2】


蛍光反射凹面鏡の焦点を楕円鏡の蛍光体側焦点の手前側にずらすと、楕円鏡の蛍光体側焦点に集光する光は蛍光反射凹面鏡の焦点の周囲に図1の場合よりも大きな直径の円環内を透過する。この円の寸法で蛍光体膜を形成すると、図1における焦点付近の蛍光体膜よりも直径が大きいので直接光が蛍光体を逸れるのを削減出来る。蛍光体膜から蛍光体膜の平面方向と斜め前方に発光する成分を遮光しつつ蛍光反射鏡方向に変換するための反射鏡を設けている。
発光素子周囲凹面鏡を楕円鏡にして焦点に絞りを設けて焦点通過後の拡散光を蛍光体に照射する構造も可能だが、直接光を絞りに集光して効率低下を防ぐ必要がある。
【0020】
図4では放物面鏡焦点にある蛍光体から発せられて平行光に変換された状態を示しているが、蛍光体円形膜の径が大きくなるほど蛍光反射凹面鏡の点に入射する焦点と外周部でずれが大きくなり、蛍光反射凹面鏡の反射光は拡散光成分を持つ。蛍光体膜からの光を平行光に変換する場合、蛍光体膜の外周部における平行光からの誤差角度θは、蛍光体膜の半径r、放物面鏡の座標(x,y)、蛍光反射放物面鏡の焦点距離pにより図6、数3で示される。
【数3】


蛍光体膜の径による平行光からの誤差は図4と図6に示すように蛍光反射鏡の頂部に近いほど放射角度が広くなり、周辺では放射角が狭くなる。このため、図1のような径の小さな蛍光体膜では放射角の狭い用途に適し、図2のような発光素子周囲凹面鏡の開口径以上ある蛍光体膜の場合は放射角の広い用途に適している。
【0021】
発光素子周囲凹面鏡の開口径を小さくすると、蛍光体膜から発光素子周囲凹面鏡開口部に戻る光量の比率を下げることが出来る。発光素子周囲凹面鏡開口部に戻る光量の比率は図7のように蛍光体から開口部までの半径rとした全球面の面積に占める楕円鏡開口部面積の比である。全放射光量に対する発光素子周囲凹面鏡開口部への放射比率は、光軸と開口部境界を結ぶ線が光軸となす角度αとし、数4のように球全体の表面積Tに対する開口部面積Sとの比で表すことが出来る。
【数4】


蛍光反射凹面鏡の半径を5mm、発光素子周囲凹面鏡の開口半径1mmとすると、
α=11.5°よりS/T=0.01で、発光素子周囲凹面鏡に戻る光量は無視出来る。
【0022】
蛍光反射凹面鏡は目的放射角に応じて蛍光体面積と凹面鏡曲線を選択することが出来、製造の容易な球面鏡、拡散光を形成する双曲線鏡など目的に応じて採用出来る。図4と図10は光軸を開いた形状の回転放物面鏡で外周方向に平行光を反射し、屈折面で方向変換して径全体から出射している。図8は楕円鏡を使用して焦点に向かう光を凹屈折面で平行光に変換することにより薄型化した例を示している。図8における蛍光体前方の凸面鏡は前方への拡散光を後方の蛍光反射凹面鏡に反射して放物面鏡の周辺部の光束密度が低いのを補う効果を持たせている。図9は図2の構成による表面実装部品を示す分解斜視図である。図10は回転放物面鏡を砲弾型発光ダイオードの一方のリードに設け、もう一方のリードに発光素子周囲凹面鏡を設けて反射鏡を分割してボンディングワイヤを短縮する例を示している。
【0023】
蛍光体膜から前方に発光する蛍光は拡散光のため、蛍光反射凹面鏡の出射光と整合するように放射角度を狭めるため凸レンズを設けた状態を図1、図4、図10などに示す。凸レンズだけでなく反射鏡も使用することが出来、蛍光体膜から前方に拡散する蛍光を放物面鏡で平行光に変換する状態を図11に示す。鉛直方向に出射するために平面鏡で方向変換している。図11の構造は発光素子周囲凹面鏡が横向きのため薄型化が可能である。
【0024】
蛍光体膜を形成するには蛍光体粒子にバインダーを付着させて透明フィルムに塗布する方法、バインダーを付着させた透明フィルムに蛍光体粒子を吹き付ける方法、蛍光体と樹脂を混練した後にフィルム成形する方法などにより蛍光体膜を形成することが出来る。励起光が紫外線の場合は未充填部分があると紫外線が透過するので蛍光体粒子を稠密に充填する必要がある。励起光を透過させて使用する場合は透明部分を設けて透過率を設定するが、蛍光体・白色粒子・透明粒子混合物をバインダーを塗布した透明フィルムに付着させると被覆率を制御するよりも容易である。
蛍光体・白色粒子・透明粒子混合物膜を所定形状に裁断して蛍光反射鏡の焦点に設置して更に樹脂で被覆することにより光学系の形成と同時に保護機能を兼ねることが出来る。
発光ダイオードの楕円鏡焦点付近まで樹脂モールドしている過程で、モールド表面に蛍光体粒子・白色粒子・透光粒子を適切な比率で混合した分散体を付着させた後に更に樹脂モールドする方法にすると予め蛍光体膜を形成する工程を省くことも出来る。
蛍光体膜から蛍光体膜の平面方向と斜め前方に発光する成分を蛍光反射鏡方向に変換するための反射鏡を設けるには反射膜を被覆したフィルムに蛍光体粒子・白色粒子・透明粒子混合物を塗布する、または反射膜を後工程で設ける製法などで形成することが出来る。
【0025】
従来の蛍光粒子分散体では空間に存在する他の蛍光体に多重反射して吸収されるが、蛍光体膜の場合は空間の多重反射・吸収は存在しないので複数種の蛍光体の蛍光変換効率で補正した成分比率で白色光あるいは多色光のスペクトルを設計し、実現することが出来る。
励起光から変換された蛍光のスペクトルは蛍光体の表面積比率と変換効率によるため、蛍光体分散層を透過する長さに由来する色の放射角依存性を解決することが出来る。
【0026】
照明装置では複数の発光素子を使用して大きな光束を得るが、多成分蛍光体を単一の励起光で可視光帯域をカバーすると全て蛍光変換効率が掛かり、蛍光が他の蛍光体に当たるため効率が低下する。このため、複数の発光素子を使用する場合は複数励起光を採用して外部で混色した方が高効率である。光源部の発光素子は単一素子に限らず、励起波長特性が広い蛍光体を複数で構成して複数の励起光を含めた広帯域特性を実現可能だが、光源部に複数素子を設けると発光素子周囲凹面鏡の開口が大きくなり拡散光成分が増えるので放射角度が大きい用途に適している。
【0027】
照明装置は大きな光束を得るため発光素子を多数並べる必要から放熱が重要なため、放熱板を兼ねた三角波状反射格子に照射して混色する構造を図12、図13に示す。蛍光体を多成分で混合して白色光スペクトルを実現する方法に比べて効率が改善され、光源部反射鏡の内部に複数素子を設けるよりも狭い放射角を得ることが出来る。図12の光源部は図2などの構造を半分に分割し、発光素子の発光方向を楕円鏡に向けた構造である。図13の光源部は蛍光反射凹面鏡を楕円鏡にして前方の凸反射面により平行光に変換し、三角波状反射格子に照射している。これは図8の凹屈折面で平行光に変換する構造を凸面鏡に変形して方向変換させている。蛍光体前方は拡散光のため凸面鏡により後方の蛍光反射楕円鏡に反射している。
【発明の効果】
【0028】
蛍光体から発光素子側の半空間に発せられた蛍光を蛍光反射凹面鏡に照射して前方に反射して出射することにより、蛍光体から発光素子とその周辺に戻されて吸収されていた発光素子側の半空間の蛍光利用効率が向上する。
蛍光体膜は前方と後方に発光するため他の蛍光体粒子に吸収されることなく後方の蛍光反射凹面鏡と前方に出射することが出来る。
蛍光体膜の場合は空間の多重反射・吸収は存在しないので複数種の蛍光体の蛍光変換効率で補正した成分比率のスペクトルで出射する。このため、蛍光体分散層を透過する長さに由来する色の放射角依存性を解決することが出来る。
蛍光体膜は発光素子周囲凹面鏡の前方に設けられ、凹面鏡の反射光と発光素子からの直接光が照射されるために蛍光体の局部に集中することを避けることが出来る。このため、発光素子近傍に集中による蛍光体の劣化を防止することが出来る。
多成分系で混合して白色光スペクトルを実現する方法よりも外部で混色した方が効率を改善出来、発光素子を多数並べる照明用途では放熱板を兼ねた三角波状反射格子に照射して混色する構造により、蛍光体を励起する波長を最適化出来る。光源部反射鏡の内部に複数素子を設けるよりも狭い放射角を得ることが出来る。
蛍光体から発光素子方向に発せられた蛍光を蛍光反射凹面鏡により有効に出射することにより照明装置における発光素子の使用数量を削減し、損失の低減により放熱構造が簡単になる。このため、照明装置の製造コスト削減を行なうことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
説明の都合上、要部を拡大して表示するため必ずしも相似関係にはなっていない。
【図1】発光素子周囲楕円鏡の焦点近傍の蛍光体層から蛍光反射凹面鏡に反射する断面図
【図2】蛍光体・白色粒子・透明粒子混合物による蛍光体膜を蛍光反射凹面鏡の焦点に設けた白色発光ダイオードの断面図
【図3】発光素子周囲楕円鏡と蛍光反射放物面鏡のグラフ
【図4】発光素子周囲楕円鏡の焦点手前の蛍光体膜から蛍光反射凹面鏡に反射する断面図
【図5】蛍光反射放物面鏡における蛍光体膜寸法による拡散光成分が発生する原理図
【図6】蛍光体膜の寸法による放物面鏡で拡散光成分の分布状態
【図7】発光素子周囲凹面鏡開口部面積が放射角に占める比率の全空間積分
【図8】蛍光反射楕円鏡と凹屈折面を組み合わせて平行光出射する断面図
【図9】発光素子周囲楕円鏡・蛍光体膜・蛍光反射凹面鏡の構造を示す分解斜視図
【図10】発光素子周囲凹面鏡と蛍光反射凹面鏡を分離した砲弾型白色発光ダイオード
【図11】蛍光体前方の蛍光を放物面鏡で平行光に変換する表面実装部品の断面図
【図12】2種類の蛍光白色光を三角波状格子とレンズ形光源による混色装置の断面図
【図13】2種類の蛍光白色光を三角波状格子と反射形光源による混色装置の断面図
【図14】凸面格子ユニットの断面図
【図15】車両用前照灯の正面図
【図16】2種類の擬似白色発光素子の混色による合成スペクトル
【図17】円錐型散乱面による従来の混色装置における前方散乱光のみを示した模式図
【図18】チップ近傍の反射鏡を急傾斜にして色斑を緩和して混色する従来のパッケージ
【図19】蛍光体を分散する従来の蛍光白色発光ダイオード
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施例1
蛍光体・白色粒子・透明粒子混合物による蛍光体膜を蛍光反射凹面鏡の焦点に設けた白色発光ダイオードの表面実装部品への実施例を説明する。図2、図4の断面図、図9の分解斜視図に示した構造である。蛍光体は膜状にして複数の混合物を用いることにより波長帯域を広く取ることが出来、他の粒子に当たって吸収を最小限に出来る。白色粒子と透明粒子は蛍光の総光量を変換効率で割った数値に対する励起光の比率で混合することにより目的の分光特性を得ることが出来る。白色粒子は酸化マグネシウム(反射率0.98)、シリカ、酸化チタンなどの高反射率物質が適している。透明物質は透過率が高く、軟化温度の高いガラス、透明高分子が適している。前方への励起光の透過光量と蛍光反射鏡方向への励起光反射光量を等しくすると色バランスを良くすることが出来る。
【0031】
実施例2
発光素子周囲凹面鏡を一方のリードに設け、蛍光反射凹面鏡をもう一方のリードに設けた砲弾型白色発光ダイオードの実施例を説明する。砲弾型発光ダイオードは発光素子を載せるリードと電流を供給するリードに分割されるが、発光素子を載せるリードに発光素子周囲凹面鏡を設け、電流供給リードは蛍光反射凹面鏡を設けてボンディングワイヤを発光素子に接続している。発光素子周囲凹面鏡と蛍光反射凹面鏡を一体化すると深い凹面鏡のためボンディングワイヤが長くなるが、分割することにより長さを短縮出来る。
蛍光反射凹面鏡は光軸を開いた形状の放物面鏡にして前方の凸レンズを避け、外周方向に向かった光を屈折面で方向変換して蛍光体前方の凸レンズの指向性に一致させている。蛍光体の斜め上方に出射すると円錐形の屈折面に入射するので遮光を兼ねた反射鏡を設けて蛍光反射凹面鏡に反射している。
【0032】
実施例3
蛍光体膜から前方に拡散する蛍光を放物面鏡で平行光に変換し、蛍光反射凹面鏡を放物面鏡にして平行光に変換した後に更に平面鏡で鉛直方向に出射する表面実装素子の実施例を説明する。光源部は楕円鏡を縦半分に分割し、発光素子の発光方向を楕円鏡に向けて楕円鏡を横方向にして薄型化した構造である。蛍光反射放物面鏡は上半分を利用した半円形で、蛍光を平行光に変換した後に45°傾斜の平面鏡により鉛直方向に出射する構造である。蛍光体前方の蛍光は放物面鏡で鉛直方向に出射して平面鏡出射光に一致させている。発光素子を載せる放熱基板に前方放物面鏡と平面鏡を設けることが出来、透明樹脂を成型する際に蛍光体を設置した後に全体を成型し、楕円鏡と放物面鏡を蒸着、無電解メッキなどにより形成して平行光を出射する表面実装素子を製造することが出来る。
【0033】
実施例4
青色発光ダイオードに黄色を中心とする蛍光体を用いた蛍光白色発光ダイオードと青緑色発光ダイオードに橙色を中心とする蛍光体を用いた蛍光白色発光ダイオードを混色して可視光域をカバーする白色光源装置の実施例として車両用前照灯について説明する。放射角などを変更すればスポットライトなどにも応用することが出来る。
左右の光源部の一方は青色発光ダイオードに黄色蛍光体を用いた蛍光白色発光ダイオード、他方は青緑色発光ダイオードに橙色蛍光体を用いた蛍光白色発光ダイオードである。
楕円鏡の一方の焦点に発光素子と他方の焦点に蛍光体を設け、励起光を受けた蛍光体から後方の楕円鏡に蛍光を発し、凸面鏡で平行光に変換して反射格子方向に照射している。
車両用前照灯の上下方向の放射角を10°とすると、蛍光体膜の寸法による誤差角度4°を引いて反射格子に直行方向の放射角γを6°とする。このため反射格子を凸反射面にして、放射角γを決定するための頂部傾斜αと入射光の傾斜αは等しく、谷部傾斜βの関係を数5に示す。
【数5】


数5より傾斜光と頂部の傾斜αは28°、谷部の傾斜βは34°である。反射格子に平行方向の放射角を20°とし、反射格子短冊の長さを14mmとすると、数4より曲率半径は40mmである。
波数4の凸反射面格子を並べた構成の側面図を図14、車両用前照灯の正面図を図15に示す。
発光素子に40mAの順電流を流すと2光源で構成される1ユニットで0.28Wになり、このユニットを横に11列、縦に8列の計88ユニット使用して変換効率60lm/Wで1480lmの光束を得られる。寸法は横160mm、縦170mmである。混色したスペクトルを図16に示す。すれ違いビームのときは下5列を点灯すると920lmになり、図15のようにユニットの配置にカットオフラインを設けて対向車への防眩効果を増すことが出来る。カットオフラインの斜めの反射格子は楕円鏡と双曲線鏡を組み合わせて台形状の反射格子にしたものである。図15は左側走行車両の場合を正面視したもので、上3段を消灯してすれ違いビームの状態を示したものである。
反射格子はアルミニウムなどの金属鏡面を利用すると放熱板を兼用することが出来る。上記構成による走行ビームのときの全損失は24.6Wである。反射格子ユニットのその周囲に30mm幅の取り付けスペースを設けたときの放熱板寸法は横220mm、縦230mmである。
この放熱板の後方にダクトを設け、風速u=10m/s(36km/h)以上の走行風または強制対流で冷却すると、数6により温度上昇は約25℃である。放熱板からダクトの壁面全体に熱伝導して放熱に利用出来るので温度上昇を約25℃よりも低下させることが出来る。数6は放熱板温度における空気の物性値を用いるので繰り返し計算が必要だが、収束条件付近の50℃における物性値
プラントル数Pr:0.71
熱伝導率λ:0.0241[W/m℃]
動粘性係数ν:1.86×10−5[m2/s]
を用いてレイノルズ数Re、ヌセルト数Nu、平均熱伝達率α、温度上昇Tは数6より求められる。放熱板の縦寸法L、横寸法Wとし、外気温度は20℃とする。
【数6】

【符号の説明】
【0034】
1:発光素子 2:発光素子周囲凹面鏡
3:蛍光反射凹面鏡 4:三角波状反射格子
5:凸面反射格子 6:放物面鏡
7:蛍光体膜 8:楕円鏡
10:凸屈折面 11:凹屈折面
12:蛍光粒子 13:白色粒子
14:透明粒子 15:屈折格子
16:励起光 17:蛍光
18:透光物質 19:平行光
20:拡散光 21:凹面鏡
22:凸面鏡 23:開口部
25:平面反射面 26:遮光体
29:基板 33:楕円
35:端子 36:ボンディングワイヤ
40:焦点 44:カットオフライン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体膜を焦点とする蛍光反射凹面鏡に透過部を設け、前記透過部を開口とする別の凹面鏡である発光素子周囲凹面鏡の内部に発光素子を設けた構造から成り、発光素子から蛍光体膜に照射して変換された蛍光を、蛍光体膜を焦点とする蛍光反射凹面鏡で反射して出射することを特徴とする蛍光変換発光素子。
【請求項2】
発光素子からの励起光を照射する前記蛍光体膜が蛍光体と白色粒子を含む混合物で構成することにより、蛍光体膜を焦点とする蛍光反射凹面鏡に蛍光の照射と励起光の反射を行なうことを特徴とする請求項1に記載の蛍光変換発光素子。
【請求項3】
前記蛍光体膜が蛍光体と白色粒子を含む混合物と透過部を持つ構成により、蛍光量に対する白色粒子による反射比率と前方に透過する励起光の比率を同等にして色斑を防止して出射することを特徴とする請求項1に記載の蛍光変換発光素子。
【請求項4】
発光素子から発光素子周囲凹面鏡前方の蛍光体膜に照射する際に、蛍光体膜周囲に逸れた励起光を蛍光体に反射することを特徴とする請求項1に記載の蛍光変換発光素子。
【請求項5】
発光素子を設けた発光素子周囲凹面鏡のリードと、蛍光体を焦点とする蛍光反射凹面鏡をもう一方のリードに分離して設けることによりボンディングワイヤを短縮することを特徴とする請求項1に記載の蛍光変換発光素子。
【請求項6】
蛍光を反射する蛍光反射凹面鏡を光軸の開いた回転放物面鏡にして外径方向に光束を拡げた後に前方屈折面から出射することを特徴とする請求項1に記載の蛍光変換発光素子。
【請求項7】
発光素子を設けた発光素子周囲凹面鏡を楕円鏡で構成し、楕円鏡の一方の焦点に発光素子を設け、楕円鏡の他方の焦点に蛍光体膜を設け、蛍光体を設けた側の焦点を共通の焦点とする別の凹面鏡を発光素子周囲楕円鏡の開口部に繋げて構成することにより狭い放射角で出射することを特徴とする請求項1に記載の蛍光変換発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−186886(P2010−186886A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30346(P2009−30346)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(306030862)
【Fターム(参考)】