説明

血中中性脂肪濃度上昇抑制作用を有する薬剤及び飲食物

【課題】食習慣を変えることなく手軽かつ安全に摂取でき、血中中性脂肪濃度の上昇を抑制し、ひいては肥満症や動脈硬化症等の生活習慣病の予防できる薬剤及び飲食物を提供する。
【解決手段】エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg を、合計で全カテキン合計含有量の70質量%以上含有するカテキン組成物を有効成分とする血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中中性脂肪濃度の上昇を抑制する作用を有する薬剤及び飲食物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日本人の食生活において高カロリー化が進み、脂肪摂取割合が高くなっていることが問題視されている。脂肪の過剰摂取は、肥満ばかりでなく、動脈硬化症、高脂血症、糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞などの疾病を引き起こすおそれもある。
【0003】
食事中の脂肪(トリグリセリド、中性脂肪)はそのままでは消化管から吸収されず、消化酵素の一つである膵リパーゼによって2−モノアシルグリセロールと脂肪酸に分解されてはじめて消化管から吸収される。吸収された2−モノアシルグリセロールは小腸上皮細胞で中性脂肪であるトリグリセリドに再合成され、カイロミクロンに取り込まれリンパを経て血中に放出される。血中に放出された中性脂肪は、リポタンパクリパーゼによって脂肪酸とグリセリンに分解され、脂肪組織に取り込まれ、トリグリセリドに再合成される。一方、ホルモン感受性リパーゼは脂肪組織中のトリグリセリドを分解して血中に脂肪酸を放出させる。
【0004】
血中中性脂肪濃度は食事の影響を受けやすく、食後は食事由来の中性脂肪が流入し、血中中性脂肪濃度は上昇する。一方、空腹時血中中性脂肪濃度が上昇する要因には、脂肪や糖質の過剰摂取、過食等による肝臓でのVLDLの合成の増加等がある。しかしながら肥満や動脈硬化症、高脂血症等の疾病を抑制するためには、食後や空腹時を問わず血中中性脂肪濃度を上昇させないことが有効である。
【0005】
近年、カテキンの機能性を期待して、カテキンと他の天然物由来物質とを組み合わせた、血中中性脂肪濃度の上昇を抑制させる医薬、組成物、及びそれらを含む食品が開示されている。
【0006】
特許文献1には、松樹皮抽出物のOPC(oligomeric proanthocyanidin)を20重量%以上含有し、かつ、カテキン(catechin)類を5.0重量%以上含有し、この松樹皮抽出物とアスコルビン酸またはその塩とを含有する、優れた高脂血症改善効果を有し、中性脂肪等を低下させると同時に、HDLコレステロールを上昇させることができる高脂血症改善剤およびこれを含有する健康食品が開示されている。
【0007】
特許文献2には、ブドウ種子抽出物、ブルーベリーエキス、パッションフラワーエキス、ルチン及び緑茶カテキンから選ばれた1種又は2種以上からなるポリフェノール含有素材と、ニンニク由来のニンニク素材及び/又は無臭ニンニク由来の無臭ニンニク素材とを含む、血中総コレステロール値、血中中性脂肪値及び血液流動性を総合的に改善する、循環器疾患予防用組成物、または、これを含む健康食品が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−146898号公報
【特許文献2】特開2003−095968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、食習慣を変えることなく手軽かつ安全に摂取でき、血中中性脂肪濃度の上昇を抑制し、ひいては肥満症や動脈硬化症等の生活習慣病の予防できる薬剤及び飲食物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、従来、エステル型カテキンが膵リパーゼ阻害作用を有し、中でも(−)EGCg、(−)ECgよりもそれらのエピマーである(−)GCg、(−)Cgが強い膵リパーゼ阻害作用を有することを見出し、リパーゼ阻害剤及びリパーゼ阻害飲食物の発明を完成させ特許出願(特願2004−60160号、平成16年3月4日出願、未公開)を行った。
本発明者は、上記の中性脂肪吸収メカニズム及び該発明であるカテキンの膵リパーゼの阻害作用に基き、カテキンの食事中の脂肪吸収を阻害又は遅延しうる可能性についてさらに研究を進めた結果、エステル型カテキン(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cgが、食事中の脂肪吸収を阻害又は遅延することができ、食後の血中中性脂肪濃度の上昇を抑制することができる強い効果を見出した。さらにはエステル型カテキンを長期的かつ継続的に摂取しつづけることで、空腹時の血中中性脂肪濃度を抑制する効果も併せ持つことも見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg を、合計で全カテキン合計含有量の70質量%以上含有するカテキン組成物を有効成分とする血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を提供する。
【0012】
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤は、食事由来の血中中性脂肪の吸収阻害効果を有し、食後の血中中性脂肪濃度の上昇を抑制することができる。さらに、本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤は、長期的かつ継続的に摂取することで、空腹時の血中中性脂肪濃度も抑制することができ、肥満症や動脈硬化症などの生活習慣病の予防につながる効果を有する。また、本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤は、食習慣を変えることなく、副作用を気にせず安全かつ有効的に摂取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(血中中性脂肪濃度上昇抑制剤)
本発明は、エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg を、合計で全カテキン合計含有量の70質量%以上含有するカテキン組成物を有効成分とする血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を提供する。
【0015】
本発明でいうカテキンとは、(−)-エピガロカテキンガレート;EGCg、(−)-ガロカテキンガレート;GCg、(−)-エピカテキンガレート;ECg、(−)-カテキンガレート;Cg、(−)-エピガロカテキン;EGC、(−)-ガロカテキン;GC、(−)-エピカテキン;EC、(−)-カテキン;C、(+)-カテキン;(+)Cである。カテキンは紫外部波長で検出する高速液体クロマトグラフィーを用いた方法によって定性及び定量することができる。
【0016】
「カテキン組成物を有効成分とする」の「有効成分とする」には、カテキンの血中中性脂肪濃度上昇抑制作用を備えていれば、カテキンのうち一種類以上の成分を任意の割合で含んでいればよいことが包含される。
【0017】
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤の有効成分であるカテキン組成物は、エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg を、合計で全カテキン合計含有量の70質量%以上含有するカテキン組成物であればよく、90質量%以上含有するのがより好ましい。
【0018】
ここで、エステル型カテキンは、(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg、(−)Cgを意味し、それぞれのカテキン骨格と没食子酸とがエステル結合した化合物の総称であり、従来公知の方法或いは今後公知となる方法によって得ることができる。
具体的には、エステル型カテキンは、茶葉を含めて天然植物中に存在することから、天然植物から水乃至熱湯やエタノール等の水溶性の有機溶媒又はこれらの混合物により抽出できる。さらにエステル型カテキンの含有量を高めるように精製するとより好ましい。
【0019】
また、後述する茶の抽出液或いは浸出液などの(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg、(−)Cgを含有するカテキン溶液、又は、市販の茶抽出物も使用することができる。また、エステル型カテキン量が所望組成になるように、精製したエステル型カテキンのうち一種類以上添加して、配合することができる。
【0020】
(エピ体/非エピ体の比率)
また、本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤は、エステル型カテキンのうち、非エピ体である(−)GCg 及び (−)Cg を40質量%以上含有すると好ましく、40質量%〜60質量%含有するとさらに好ましい。
【0021】
ここで、非エピ体カテキンである(−)GCg 及び (−)Cgは、茶葉を含めて天然植物中にほとんど存在しない。しかし、例えば(−)EGCg、(−)ECg又はこれらの混合物を約80℃以上で加熱処理して熱異性化(エピマ−化)を促すことにより得ることができる。
従って、非エピ体カテキンは、例えば精製した(−)EGCg、(−)ECg、或いはこれらの混合物、又は、茶の抽出液或いは浸出液などの(−)EGCg、(−)ECgを含有するカテキン溶液を、約80℃以上で加熱処理してカテキンの熱異性化を促すことにより、(−)Cg及び(−)GCgの含有濃度を高めることができ、この加熱処理物から(−)Cg及び(−)GCg或いはこれらの混合物、或いはこれらを高濃度で含有する混合物を分離・精製することができる。
【0022】
また、後述する茶の抽出液或いは浸出液などのカテキン溶液、又は、市販の茶抽出物も使用することができる。このとき必要に応じて、上記のように加熱処理することで非エピ体カテキンの所望組成になるように質量比率を調整することができる。また、非エピ体カテキンの所望組成になるように、精製した非エピ体カテキンのうち一種類以上添加して、配合することができる。
【0023】
(茶抽出物)
また、本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤の有効成分であるカテキン組成物として、所望のエステル型カテキン比率の茶抽出物を用いることができる。以下に茶抽出物について説明する。
【0024】
この際、原料とし得る茶は、カテキンを含有していれば特に種類、部位などには制限されず、例えば茶生葉、紅茶やプアール茶等の発酵茶、ウーロン茶や包種茶等の半発酵茶、緑茶や釜煎り緑茶、ほうじ茶等の不発酵茶のいずれか(単独)、又は、これらの2種類以上の混合物を抽出して得られるもの、或いはそれぞれを抽出して得られたものの混合物を用いることができる。
【0025】
茶の抽出は、茶を水、温水または熱水、好ましくは40℃〜100℃の温熱水、中でも60〜100℃の温熱水、或いは人体に無害なエタノール水溶液またはエタノールなどの有機溶媒で抽出して茶抽出物を得、更にこの茶抽出物を溶媒抽出法、樹脂吸着法、限外濾過・逆浸透濾過等の濾過などの精製手段によってエステル型カテキンの含有量を高める方向に精製して茶抽出物を得る。さらに、精製して得られたカテキン溶液をさらに濃縮・乾燥し、固形物として得ることができる。この際の濃縮・乾燥工程は、減圧濃縮や凍結乾燥など通常の濃縮・乾燥方法により行うことができる。
【0026】
また、市販の茶抽出物を用いて上記の如くエステル型カテキン比率を高める方向に処理するようにしてもよい。例えば、テアフラン30A(商品名;伊藤園社製)は、緑茶を熱水抽出処理し、この抽出物を乾燥させてカテキン濃度を約30%とした緑茶抽出物であり、テアフラン90S(商品名;伊藤園社製)は、緑茶を熱水抽出処理して得た抽出物を、水と低・高濃度アルコールを使って吸着カラムにて分離し乾燥させ、茶ポリフェノール濃度を約85〜99.5%とした緑茶抽出物である。その他、市販の茶抽出物として三井農林(株)製「ポリフェノン」、太陽化学(株)製「サンフェノン」、サントリー(株)製「サンウーロン」等も用いることができる。
【0027】
さらに、茶抽出物又は市販の茶抽出物は、適宜加熱処理することによりエピ体カテキン量又は非エピ体カテキン量の質量比率を調整することができる。また、上記の加熱処理に加え、茶抽出物又は市販の茶抽出物に精製したカテキンのうち一種類以上添加して、カテキンの所望組成を調製することができる。
【0028】
(カフェイン比率)
さらに、血中中性脂肪濃度上昇抑制剤の有効成分として用いる茶抽出物に含有するカフェイン含有量は質量比率で、エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg の合計含有量に対して、0.2以下であれば好ましく、0.15以下であればさらに好ましい。
【0029】
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤に含まれるカフェイン量は、必要に応じて茶抽出物中に含まれるカフェインの一部を樹脂吸着法等の公知技術によって除去したり、精製したカフェインを所望量添加したりして、所定の比率に調整することができる。また、カフェインもエステル型カテキンと遊離型カテキンの測定法で同時定量が可能である。
【0030】
カフェイン含量の質量比率が0.2以下であれば、摂取する際にカフェインに由来する苦味・エグ味を低減することができるだけでなく、多量摂取によるカフェインの毒性を回避しうる。
【0031】
なお、本発明の血中中性脂肪濃度抑制剤は、カフェインを含まなくてもよい。茶抽出物中に含まれるすべてのカフェインは、上述の公知技術を用い、さらに適宜条件を変更することで完全に除去することができる。また、カフェインを含まない市販の茶抽出物を用いることもできる。カフェインを含まない場合、多量摂取によるカフェインの毒性を考える必要はない。
【0032】
(血中中性脂肪濃度上昇抑制剤の剤型、製造)
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤は、経口投与剤または非経口投与剤(筋肉注射、静脈注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、経鼻投与など)として使用することができ、それぞれの投与に適した配合及び剤型とするのが好ましい。
剤型について言えば、例えば経口投与剤用としては液剤、錠剤、散剤、顆粒、糖衣錠、カプセル、懸濁液、乳剤、丸剤などの形態に調製することができ、非経口投与剤用としては注射剤、アンプル剤、直腸投与剤、油脂性坐剤、水溶性坐剤などの形態に調製することができる。
配合(製剤)について言えば、通常用いられている賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、潤滑剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などを用いて常法により製造することができる。また、例えば乳糖、果糖、ブドウ糖、でん粉、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ソーダ、リン酸ナトリウムなどの無毒性の添加剤を配合することも可能である。
【0033】
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤は、医薬品のほか、医薬部外品、薬理効果を備えた健康食品・健康飲料・特定保健用食品・機能性食品、食品添加剤、その他ヒト以外の動物に対する薬剤や餌、餌用添加剤などとして提供することもできる。
例えば、医薬部外品として調製し、これを瓶ドリンク飲料等の飲用形態、或いはタブレット、カプセル、顆粒等の形態とすることにより、より一層摂取し易くすることができる。
【0034】
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤には、酸化防止剤、乳化剤、保存料、pH調整剤、香料、調味料、甘味料、酸味料、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合しても良い。例えば、酸化防止剤としてはビタミンC、ビタミンE、システインなどを用いることができ、特にビタミンCを0.005〜0.05重量%含有するのがよい。また、例えば甘味料としてはぶどう糖、果糖、異性化液糖、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖、大豆オリゴ糖、サイクロデキストリン、アスパルテーム、ラカンカエキスなどを用いることができる。
【0035】
(血中中性脂肪濃度上昇抑制効果を備えた飲食物)
次に、本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制効果を備えた飲食物(すなわち、血中中性脂肪濃度上昇抑制食品及び飲料を含む。)について詳しく説明する。
【0036】
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を有効成分として、飲食物に添加し、血中中性脂肪濃度上昇抑制効果を備えた飲食物とすることができる。本発明では食品及び飲料をまとめて「飲食物」という。よって、飲食物には食品及び飲料が含まれる。
【0037】
通常の茶系飲料(本発明において、茶葉等抽出成分を含有する飲料の総称として茶系飲料という)に含まれるエステル型カテキンは、全カテキン量に対して50%程度(残りは遊離型カテキンである)である。
従って、茶葉等を抽出して得られるカテキン溶液を作製し、これを上述した加熱処理や加水分解処理を適宜行うことにより、非エピ体カテキン質量比率又は/及び遊離型カテキン質量比率を所望量、中でもエステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg を、合計で全カテキン合計含有量の70質量%以上であって、かつエステル型カテキンのうち、非エピ体である(−)GCg 及び (−)Cg を40質量%以上含有する茶系飲料由来の血中中性脂肪濃度上昇抑制効果を備えた飲料を製造することができる。また、非エピ体カテキン又は/及びエステル型カテキンの所望組成になるように、精製したカテキンのうち一種類以上添加して、配合することができる。
【0038】
さらに本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制効果を備えた飲食物は、上記のようにして得られたカテキン溶液の加熱処理液や加水分解処理液をそのまま或いは風味改善のため適宜茶抽出物やその他の物質を添加して調製すればよい。
【0039】
なお、本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤及び血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を含有する飲食物は、上記のようにして得られたカテキン溶液の加熱処理液や加水分解処理液をさらに濃縮・乾燥し、得られた固形物を配合して製造することができる。この際の濃縮・乾燥工程は、減圧濃縮や凍結乾燥など通常の濃縮・乾燥方法により行うことができる。
【0040】
血中中性脂肪濃度上昇抑制効果を備えた健康食品・健康飲料・特定保健用食品・機能性食品としては、例えば、カテキン溶液を、炭酸、賦形剤(造粒剤含む)、希釈剤、或いは更に甘味剤、フレーバー、小麦粉、でんぷん、糖、油脂類等の各種タンパク質、糖質原料やビタミン、ミネラルなどの飲食品材料群から選ばれた一種或いは二種以上と混合したり、或いは、現在公知の飲食品、例えばスポーツ飲料、果実飲料、乳飲料、茶飲料、野菜ジュース、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー、ゼリー飲料、炭酸飲料、チューインガム、チョコレート、キャンディ、ビスケット、スナック、パン、乳製品、魚肉練り製品、畜肉製品、冷菓、乾燥食品、サプリメントなどに添加して製造することができる。
【0041】
(投与量)
本発明の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤及び血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を含有する飲食物におけるカテキンの必要摂取量は、一般成人で1日当たり200〜2100mg程度であると考えられる。摂取量は使用方法によって適宜選ぶことができ、中でも乾燥重量換算でエステル型カテキンを140mg〜1470mg程度(そのうち(−)GCg及び(−)Cgは、合計量で60〜590mg程度含まれる)摂取するのが好ましい。特に乾燥重量換算でエステル型カテキンを200mg〜700mg程度(そのうち(−)GCg及び(−)Cgは、合計量で70〜300mg程度含まれる)摂取するのが好ましい。
【0042】
上記の必要摂取量から考えると、固形形態の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤及び血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を含有する飲食物の場合、エステル型カテキン類を約0.1〜100質量%含有させるようにするのが好ましく、中でも(−)GCg、(−)Cg或いはこれらの混合物を、約0.04〜100質量%、特に約0.1〜60質量%配合するのが好ましい。
エステル型カテキン類約0.1質量%未満では、摂取すべき固形物の量が1日当たり約2kgを超えることがあるため好ましくない。
【0043】
他方、液状の形態の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤及び血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を含有する飲食物の場合、エステル型カテキン類を約500〜6000mg/L程度の濃度で含有させるのが好ましく、中でも(−)GCg、(−)Cg或いはこれらの混合物を約200mg/L、以上、特に約200〜3600mg/L程度の濃度で含有させるのが好ましい。
エステル型カテキン類濃度が500mg/L未満では、摂取すべき飲料の体積が1日当たり4Lを超えることがあるため好ましくない。6000mg/Lを超えると、カテキン類が高濃度となり渋味が強すぎるため好ましくない。より好ましくは、エステル型カテキン類濃度750〜3750mg/L程度である。
【0044】
(効果)
このようにして得られた血中中性脂肪濃度上昇抑制剤及び血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を含有する飲食物は、主原料として天然物、特に日常多量に飲用している茶から得た成分を用いるので、安心して日常的に摂取することができる保健用飲食物として提供することができる。また、食習慣を変えることなく摂取でき、安全かつ有効的な薬剤及び飲食物である。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示す。なお、実施例における各測定値は平均値±標準偏差で示し、有意差検定は分散分析にて行い、p<0.05を有意差とした。
【0046】
(実施例1)ラットにおける中性脂肪のリンパ吸収におよぼすカテキンサンプルの影響の検討
【0047】
(サンプル調製)
タウロコール酸ナトリウム200mg、脂肪酸を含まないウシアルブミン分画V50mg、トリオレイルグリセロール200mg及び37kBqの14C−トリオレイルグリセロールを含有させ超音波処理により作製した、14C-トリオレイルグリセロール含有エマルション3mLを調製し、これをコントロール1とした。
また、カテキンサンプルは、サンプルAはカテキン製剤(テアフラン90S、(株)伊藤園製)、サンプルBは熱異性化(123℃、7分間)したカテキン製剤(テアフラン90S,(株)伊藤園製)を用いた。コントロール1(該エマルション3mL)にそれぞれ100mgずつ添加し、サンプルA含有エマルション及びサンプルB含有エマルションを調整した。カテキンサンプルA及びBのカテキン組成を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
予備飼育として、手術する1週間前より市販の固形食(NMF、日本オリエンタル酵母製)を与えた8週齢SDラットを準備した。
次に該8週齢SDラットに、ソムノペンチル麻酔薬(0.08ml/100g体重、共立商事(株))を投与後、これらのラットの頭部くも膜下槽乳糜(にゅうび)への左胸部リンパ管に、カテーテル(SV35、夏目製作所(株))を挿入し、胃には後述するサンプルを投与するためのカテーテル(SP55、夏目製作所(株))を挿入固定する手術を行った。
手術後、139mM グルコース−85mM NaCl溶液を自由摂取させた。また、手術後から実験終了まで、カテーテルを介して139mMグルコース−85mM NaCl溶液を3.4ml/hour/ratとなるように持続的に胃に注入した。
翌朝、手術したSDラットを平均リンパ流速が等しくなるように3群に分けた(対照群、サンプルA群、サンプルB群、それぞれn=7)。対照群にはコントロール1を、サンプルA群にはサンプルA含有エマルションを、サンプルB群にはサンプルB含有エマルションをそれぞれ投与した。
サンプル投与後1、2、3、4、5、6、8および24時間後のリンパ液を、EDTAを含む氷冷管で捕集して、リンパ液中の14C−放射活性を測定した。
【0050】
図1に示すように、カテキンサンプルA及びBにより、試験エマルション投与後2時間まで有意に中性脂肪のリンパ吸収が阻害されており、その傾向は投与後8時間まで続いた。
【0051】
(実施例2) ラットにおける脂肪負荷後の血中中性脂肪濃度におよぼすカテキンサンプルの影響
予備飼育として、3日前より市販の固形食(CE−2、日本クレア製)を与え、次いで一晩絶食させた8週齢Wister系雄ラットを準備した。
次いで該ラットから、頸静脈採血を行った。このときを0時間とした。
このラットを3群に分け(対照群(n=8)、サンプルA群(n=7)、サンプルB群(n=8))、対照群には脱イオン水を、サンプルA群には脱イオン水に溶解したカテキンサンプルAを、サンプルB群には脱イオン水に溶解したカテキンサンプルBをそれぞれ5mL/kg−body weight(100mgサンプル/kg−body weight)経口投与した。なお、カテキンサンプルA及びBは前述したように調整し、それぞれのカテキン組成を表1に示す。
その直後、脂質エマルション(Soybean oil 10g, Egg yolk lecithin 0.6g, Glycerol 1.125g / 50 ml脱イオン水、J. Nutr, 133, 1887-1891, 2003)を10ml/kg−body weightそれぞれ経口投与した。脂質エマルション投与後、1、2、3、4、6、および8時間後に頸静脈採血を行った。
採血後、血漿を分離し、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬工業製)を用い、血中中性脂肪濃度を測定した。
【0052】
図2に示すように、サンプルA及びサンプルB は、脂肪負荷後の血中中性脂肪濃度の上昇を有意に抑制した。
実施例1及び実施例2より、カテキンによる食後血中中性脂肪濃度の上昇抑制作用機構は、エステル型カテキンの膵リパーゼ阻害作用による中性脂肪の吸収の遅延によるものと示唆される。
【0053】
(実施例3) ヒトにおける脂肪負荷後の血中中性脂肪濃度におよぼすカテキンサンプルの影響
【0054】
(サンプル調製)
湯(70℃)60mLに1.5gの日本産緑茶葉を加え、5分間攪拌抽出して緑茶抽出液を得、さらに合成吸着樹脂(PVPP)1gを投入し、10分間攪拌した後、ろ過により、該茶葉、該合成吸着樹脂を除去した。この抽出液に環状オリゴ糖(日本食品加工(株)製)0.5g、茶抽出物(テアフラン90S、(株)伊藤園製、組成は表2を参照)をそれぞれ0(サンプルC)、0.345g(サンプルD)、1.035g(サンプルE)及びビタミンC適量加え、炭酸水素ナトリウムでpHを調整した後、純水を加え全量250mLとした。この液を微細ろ過、さらに加熱殺菌(135℃、30秒)を行い、飲料を調製した。茶抽出物の添加量ごとにサンプルC、サンプルD、サンプルEとし、それぞれのカテキン組成を表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
被験者9名にトリプルクロスオーバー、二重盲検で脂肪分を18.8g含む高脂肪負荷食を摂取させ、食事中にサンプルC、サンプルD、サンプルEのいずれか250ml摂取させた。
高脂肪負荷食を食べる直前を0時間とし、0、1、2、3、4、6時間後に採血を行い、血中中性脂肪濃度を測定した。
なお、被験者には医師より試験の目的、方法などについて十分に説明し、ヘルシンキ宣言の趣旨に従い本人の文書による同意を得た上で実施した。
【0058】
図3に示すように、摂取後2時間まではサンプルD及びサンプルEは血中中性脂肪濃度の変化量が対照であるサンプルCと比較して有意に低かった。また、図4に示すように、中性脂肪ΔAUCはサンプルD及びサンプルEは、サンプルCと比較して有意に低かった。エステル型カテキンの割合の多いカテキン組成物の摂取は、有効に食後血中中性脂肪濃度の上昇抑制すると示唆される。
【0059】
(実施例4)ヒトにおける血中中性脂肪濃度におよぼすカテキンサンプル長期摂取の影響
【0060】
(サンプル調製)
湯(70℃)60mLに1.5gの日本産緑茶葉を加え、5分間攪拌抽出して緑茶抽出液を得、さらに合成吸着樹脂(PVPP)1gを投入し、10分間攪拌した後、ろ過により、該茶葉、該合成吸着樹脂を除去した。この抽出液に環状オリゴ糖(日本食品加工(株)製)0.5g、茶抽出物(テアフラン90S、(株)伊藤園製、組成は表2を参照)をそれぞれ0(サンプルF)、0.345g(サンプルG)及びビタミンC適量加え、炭酸水素ナトリウムでpHを調整した後、純水を加え全量250mLとした。この液を微細ろ過、さらに加熱殺菌(135℃、30秒)を行い、飲料を調製した。茶抽出物の添加量ごとにサンプルF、サンプルGとし、それぞれのカテキン組成を表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
BMI22.5〜30の20〜50代の男女の被験者195名を3群にわけた(サンプルF3本/日群、サンプルG2本/日群、サンプルG3本/日群、それぞれn=66、65、64)。サンプルF3本/日群にはサンプルF3本/日を、サンプルG2本/日群にはサンプルG2本/日とサンプルF1本/日を、サンプルG3本/日群にはサンプルG3本/日を、普段の食生活を変えることなく12週間摂取させた。
なお、被験者には医師より試験の目的、方法などについて十分に説明し、ヘルシンキ宣言の趣旨に従い本人の文書による同意を得た上で実施した。
【0063】
図5に示すように、摂取開始4〜12週、さらに後観察20週目まで、対照であるサンプルF3本/日群の血中中性脂肪濃度と比較して、サンプルG3本/日群の血中中性脂肪濃度は減少する傾向にあった。特に後観察期間の16週目には有意であった。また、後観察期間の16〜20週目において、対照であるサンプルF3本/日群の血中中性脂肪濃度と比較して、サンプルG2本/日群の血中中性脂肪濃度は減少する傾向にあった。
実施例4より、エステル型カテキンの割合の多いカテキン組成物を長期的・継続的に摂取することで空腹時の血中中性脂肪濃度をも低下させることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】ラットにおける中性脂肪のリンパ吸収率の経時変化を示す図である。
【図2】ラットにおける脂肪負荷後の血中中性脂肪濃度の経時変化を示す図である。
【図3】ヒトにおける脂肪負荷後の血中中性脂肪濃度の経時変化を示す図である。
【図4】ヒトにおける脂肪負荷後の血中中性脂肪濃度のΔAUCへのカテキンサンプルの影響を示す図である。
【図5】ヒトにおけるカテキンサンプルの長期摂取による空腹時血中中性脂肪濃度の経週変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg を、合計で全カテキン合計含有量の70質量%以上含有するカテキン組成物を有効成分とする血中中性脂肪濃度上昇抑制剤。
【請求項2】
エステル型カテキンのうち、非エピ体である(−)GCg 及び (−)Cg を40質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤。
【請求項3】
カテキン組成物が茶抽出物であり、かつ、該茶抽出物中のカフェイン含有量が質量比率で、エステル型カテキンである(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg 及び (−)Cg の合計含有量に対して、0.2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤。
【請求項4】
エステル型カテキン類である(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg及び(−)Cgを合計で、0.1〜100質量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤。
【請求項5】
エステル型カテキン類である(−)EGCg、(−)ECg、(−)GCg及び(−)Cgを合計で、500〜6000mg/L含有する請求項1〜3のいずれかに記載の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の血中中性脂肪濃度上昇抑制剤を含有する飲食物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−83106(P2006−83106A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−270363(P2004−270363)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】