説明

血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤並びにこれを含有する医薬組成物、医薬部外品、化粧品、可食性組成物及び動物用飼料

【課題】安全性の高いプロアントシアニジンを利用し、より有効な血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤及びLDLコレステロール低化剤等を提供する。
【解決手段】ブドウ種子、果皮又は果実の搾汁液より得られる抽出物等に含まれるプロアントシアニジンを有効成分として含有する血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤、該血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を含有する医薬組成物、医薬部外品、化粧品、可食性組成物又は動物用飼料等に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロアントシアニジンを有効成分とする血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤並びにこれを含有する医薬組成物、医薬部外品、化粧品、可食性組成物及び動物用飼料等に関する。
【背景技術】
【0002】
プロアントシアニジンは、各種植物体中に存在する縮合型タンニンであり、フラバン−3−オール又はフラバン−3,4−ジオールを構成単位として縮合若しくは重合により結合した化合物群であり、これらは酸処理によりシアニジン、デルフィニジン、ペラルゴニジン等のアントシアニジンを生成するところから、この名称が与えられている。
【0003】
一方、ドコサヘキサエン酸(以下「DHA」という)やエイコサペンタエン酸(以下「EPA」という)などに代表される、多価不飽和脂肪酸(以下「PUFA」という)は、近年、記憶学習能の改善、血中中性脂質、LDLコレステロールの低下作用、抗血栓作用及びアレルギー改善作用等の様々な生理機能があることが明らかとなり注目を集めている。
しかしながら、不飽和脂肪酸は、その不飽和度が高いほど酸化が進行しやすく、生体に有害な過酸化脂質の生成源となることも知られている。以上のことから、PUFAを摂取する場合、酸化防止の手段を講じる必要がある。
【0004】
これまで、PUFAの酸化を防止する方法として、酸化防止剤の添加、脂肪酸あるいは油脂のコーティング、粉末化などが試みられている。その中でも抗酸化剤を使用する方法は広く実施されてきており、トコフェロール、アスコルビン酸脂肪酸エステル、レシチンを使用してPUFAを多く含む油脂の酸化を抑制する方法などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、保存状態におけるPUFAの安定化には効果を発揮するものの、生体内におけるPUFAの酸化安定性に関する検討はなされていない。
また、非特許文献1では、消化管モデルでの不飽和脂肪酸の酸化、エピカテキンなどのフラボノイドを用いた酸化抑制効果についての検討がなされているがプロアントシアニジンを用いた検討はなされていない(例えば、非特許文献1参照)。
さらに、特許文献2には、プロアントシアニジンを有効成分とする血中アディポネクチン量増加剤に関する発明が開示されている。
【特許文献1】特開平5−140584号公報
【特許文献2】特開2006−182706号公報
【非特許文献1】Kerem Z,J.Agric.Food Chem.2006 Dec;54(26):10288−10293
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、安全性の高いプロアントシアニジンを利用し、より有効な血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤及びLDLコレステロール低化剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記した課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、プロアントシアニジンを含有したウーロン茶を摂取することにより血中の総脂肪酸濃度に占める総多価不飽和脂肪酸(PUFA)の濃度が増加することを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)プロアントシアニジンを有効成分として含有する血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤。
(2)プロアントシアニジンが没食子酸エステル型である上記(1)記載の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤。
(3)プロアントシアニジンがブドウ種子、果皮又は果実の搾汁液より得られる抽出物に含まれるものである上記(1)〜(2)記載の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を含有する医薬組成物、医薬部外品、化粧品、可食性組成物又は動物用飼料。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<本発明におけるプロアントシアニジンについて>
本発明における有効成分であるプロアントシアニジンは、その構成単位であるフラバン−3−オール又はフラバン−3,4−ジオールの2量体、3量体、4量体さらに10〜100量体以上の高分子のプロシアニジン、プロデルフィニジン、プロペラルゴニジン等のプロアントシアニジン及びそれらの立体異性体、それらの没食子酸エステル等を含むものであり、分子量にして約600〜500,000と非常に幅広い分子量分布を持った化合物群である。本発明においては、その有効性の観点から、分子量3,000以上、さらに、分子量3,000以上10,000以下の分画に含まれるプロアントシアニジンが好ましい。
【0009】
なお、プロアントシアニジンは、植物体や微生物体から、当業者に公知の任意の抽出法、発酵法、化学的もしくは酵素的合成法等により得ることができる。
例えば、各種植物体、例えば、ブドウ種子、ブドウ果実、ブドウ果実の搾汁液、グランベリー果実、リンゴ果実、小豆、杉、松、檜の樹皮等から水若しくはエタノール、アセトン若しくは酢酸等の水溶性有機溶媒、又はそれらの混合溶媒で抽出して得ることができる。さらに、そのようにして得られたプロアントシアニジンを含有する抽出物の濃縮液、あるいは濃縮液を乾燥、粉末化した粉体等であって少なくとも10%以上のプロアントシアニジンを含有するものを本発明の「プロアントシアニジン」として使用することが好ましい。
なお、ブドウ原料の抽出に際しては、還流させながら抽出を行うことが好ましい。抽出時間は、溶媒量、溶媒の種類、温度等の抽出条件に左右されるが、通常10分〜24時間であり、好ましくは30分〜2時間程度である。
また、このように得られたブドウ抽出物をそのまま本発明に使用することもできるが、さらに、セファデックス、ポリアミド、シリカゲル、ODS等を用いたカラムクロマトグラフ、セルロース膜等を用いた膜分離、酢酸エチル−水等を用いた液液分離、酵母等の微生物の添加による不純物の分解など精製・分離・脱色操作を行うことにより、より高純度に有効成分を含有する抽出物を得ることができる。
【0010】
プロアントシアニジン、特に、上記の分子量分画に含まれるプロアントシアニジンを多く含む原料としては、ブドウ果実の搾汁粕又は種子が挙げられる。このため、ブドウ抽出物は、最も経済的なプロアントシアニジン源であり、かつ本発明の有効成分として非常に有用であると言うことができる。また、ブドウを起源としたプロアントシアニジンはその没食子酸エステルが多く含まれている。
【0011】
これらの分子量分画を含有するプロアントシアニジンは当業者に公知の任意の方法により得ることができる。例えば、各種植物原料を上記のように水−エタノールの混合溶媒を用いることにより高純度のプロアントシアニジン製剤を得ることができる(例えば、特開平3−200781号公報、特開平11−80148号公報参照)。また、この様にして得たプロアントシアニジン製剤をさらに精製し、分子量3,000以上、さらに言えば分子量3,000以上10,000以下のプロアントシアニジン分画を多く含む製剤を得る目的で、例えば、HP20等の合成樹脂を用いたクロマトグラフ法 [J.Sci.Food Agric.,25 1537〜1545(1974)参照]、酢酸エチル等の有機溶媒にて不要な分画を除く溶媒抽出除去法(例えば、特開平11−335369号公報参照)、分子量分画膜を用いた膜分離法(例えば、特開平6−31208号公報参照)等を用いることにより、効率的に目的の分子量分画を有するプロアントシアニジンを得ることができる。
【0012】
この様なプロアントシアニジンとしては、上記の方法にて調製したものの他、市販品を使用しても良い。プロアントシアニジンを主成分とし且つ分子量3,000以上10,000以下のプロアントシアニジン分画を多く含む市販品としては、例えば、キッコーマン社製「グラヴィノール(商標)」、「グラヴィノール スーパー(商標)」等が挙げられる。
【0013】
また、プロアントシアニジンの渋味低減方法(例えば、特開2001−46037号公報参照)等を用いることにより、渋味を低減した服用し易いプロアントシアニジン製剤を得ることができる。
【0014】
本明細書において、「多価不飽和脂肪酸相対量」とは、実施例で示す血清中脂肪酸分確定量法を用いて測定して得られる血中の全脂肪酸に対する、表2に挙げた各多価不飽和脂肪酸の総量の割合(%)を意味する。
【0015】
<本発明の各製剤及び組成物の製剤法及び投与法について>
本発明の製剤及び組成物の形状、形態、及びその他の含有成分等に特に制約にはなく、当業者に公知の任意の各種方法で容易に調製することができる。従って、該製剤及び組成物は、例えば、プロアントシアニジンを含有する植物を由来とする溶液状又は粉末状の粗精製物・精製物であればよい。
例えば、医薬組成物である場合には、薬剤としての操作性、あるいは生体に投与された際の吸収性等を向上させるためには、上記のプロアントシアニジンを、常法に従って適当な医薬品用担体と組合せて製剤化することが好ましい。
本発明の医薬組成物は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤、ドライシロップ剤等が例示される。また、非経口投与剤としては、軟膏、経皮吸収性テープ等の経皮吸収剤、注射剤、坐薬、膣坐薬、噴霧剤等の経鼻投与剤、が例示できる。
上記の剤の人に対する投与量は、患者の年齢、症状等により適宜増減すればよい。例えば、有効成分であるプロアントシアニジンの合計として、通常成人1日当たり50〜1,000mg、好ましくは100〜400mgを1〜3回に分けて経口又は非経口で投与すればよい。
なお、上記医薬組成物の配合原料として、他の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を併用することもできる。
【0016】
<本発明の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を含有する可食性組成物について>
本発明の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤は可食性組成物に添加して使用することができる。
また、該プロアントシアニジンを添加した可食性組成物は、健康食品として、血中の脂肪酸組成を改善するために摂食することもできる。従ってこのような場合には、本発明の可食性組成物に、プロアントシアニジン又はブドウ抽出物を含有し、血中多価不飽和脂肪酸の相対量の増加、あるいは血中LDLコレステロール低下のために用いられるものである旨の表示を付すことができる。
上記可食性組成物を製造する場合は、例えば、プロアントシアニジンの粗精製物あるいは精製物を、任意の可食性組成物、例えば、菓子、パン、牛乳、各種飲料、うどん、そば、パスタ、米飯、調味料、香辛料、惣菜、油脂含有食品、酒類、清涼飲料に添加すればよい。
従って、本発明の可食性組成物の形態としては、例えば、粉末状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、カプセル型、又は、液体状に任意に成形することができる。これらには、食品中に含有することが認められている当業者に公知の各種物質、例えば、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤やpH調製剤などの賦形剤を適宜含有させることができる。
そのような可食性組成物としては、市販品、例えば、キッコーマン社製「ヴィノパワー(商標)」、「ヴィノプロテイン(商標)」、「はつらつ物語(商標)」が挙げられる。
なお、上記可食性組成物の配合原料として、他の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を併用することもできる。
【0017】
<本発明の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を含有する動物用飼料について>
本発明の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤は、人以外の動物、例えば、哺乳動物や鳥類に使用することも可能である。特に、家畜、養殖魚や愛玩動物(ペット)において、血中多価不飽和脂肪酸濃度を増加させることは、産業上重要な課題である。本発明のプロアントシアニジンをヒト以外の動物に使用する際は、上記の可食性組成物と同様の方法で製剤化して投与するか、飼料に添加して摂食させればよい。
なお、上記可食性組成物の配合原料として、他の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を併用することもできる。
【0018】
本発明の化粧品の場合も、例えば、液体状、ペースト状、又は、ゲル状の任意の形態とすることができる。これらの中にも、化粧品中に含有することが認められている、当業者に公知の各種物質を適宜含有させることができる。
【0019】
本発明の可食性組成物、動物用飼料又は化粧品などの各種組成物中に含まれる有効成分の含有量は、それらの種類、目的、形態、利用方法などに応じて、適宜決めることができ、例えば、数重量%〜数十重量%程度とすることができる。特に、健康食品等として利用する場合には、本発明の有効成分を所定の効果が十分発揮されるような量で含有させることが好ましい。
【0020】
以下に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
なお、実施例におけるプロアントシアニジンの定量は、下記のR.Jambunathanらの方法[J.Agric.Food Chem.,34,425〜429(1986)]により行った。すなわちプロアントシアニジン含有試料を希塩酸存在下で加熱処理してプロアントシアニジンを赤色のアントシアニジンに変換し、この波長550nmにおける吸光度の測定値と、A.G.H.Leaの方法[J. Sci.Food Agric.,26,471〜477(1978)]を用いてりんご酒より分離精製してプロシアニジン4量体を標準品として作成した検量線とからプロアントシアニジンを定量した。また、抽出液の固形分重量は、プロアントシアニジン含有抽出液の全液量を凍結乾燥して秤量するか、全液量を正確に測定した後、一定量の抽出液(通常5mL)を量りとり、これを加熱乾固(通常88℃−1.5hr及び110℃−2.0hr)した後、デシケーター中で1hr室温に放置してから秤量し、全液量換算して算出した。
【実施例1】
【0021】
本発明のプロアントシアニジンとして、プロアントシアニジンを含有するウーロン茶を以下の方法により調製した。得られたGSE含有ウーロン茶を使用して、実施例2以下の試験を行った。
90℃の熱水1Lに烏龍茶葉10gを添加し、5分間抽出を行い、烏龍茶抽出液を得た。烏龍茶抽出液1Lあたりのプロアントシアニジン量が900mgとなるように、以下の表1に示した組成を有するブドウ種子抽出物(キッコーマン社製「グラヴィノール」:プロアントシアニジン含量約80%)を添加した。比較のためプロアントシアニジン無添加のウーロン茶も併せて調整した。
【0022】
【表1】

【実施例2】
【0023】
5週齢のZucker fatty ratを個体ごとに金網ケージ内で12時間の明暗サイクル(7時〜19時:明期、19時〜7時:暗期)で飼育した。ラットは、ウーロン茶を自由摂取させる対照群とプロアントシアニジン含有ウーロン茶を自由摂取させる試験群の2群(n=8)に分けた。飼料は、MF固形粉末(オリエンタル製)とした。試験を開始してから12週目に頚静脈より採血を行った。血液は30−60分放置後、10,000rpmで10分間遠心し血清を得た。血清中総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロールをそれぞれ、比色法を用いて定量した。また、血清中脂肪酸分確定量は、Ozawaらの方法[Bunseki Kagaku.,31,87〜91(1982)]を用い測定した。
【0024】
血清中脂肪酸組成を表2に示す。血中リノール酸(LA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、総多価不飽和脂肪酸(Total PUFA)の相対量が試験群で有意に増加していた。また、血清中の各種コレステロール測定結果より、試験群においてLDLコレステロール量の低下を伴う、血中総コレステロールの低下が観察された(表3)。以上のことからプロアントシアニジンには血中の多価不飽和脂肪酸相対量の増加効果、血中LDLコレステロールの低下効果があることが示された。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジンを有効成分として含有する血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤。
【請求項2】
プロアントシアニジンが没食子酸エステル型である請求項1記載の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤。
【請求項3】
プロアントシアニジンがブドウ種子、果皮又は果実の搾汁液より得られる抽出物に含まれるものである請求項1〜2記載の血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれかの血中多価不飽和脂肪酸相対量増加剤を含有する医薬組成物、医薬部外品、化粧品、可食性組成物又は動物用飼料。

【公開番号】特開2009−196967(P2009−196967A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43534(P2008−43534)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】