説明

血流改善剤

【課題】血管にできる血栓や虚血性による疾患を予防、および治療できる血流改善剤及び、その作用機序(血栓溶解作用、酸化LDLの抑制作用)が明らかにされた素材で、且つ食歴のある安全性の高い食品、およびそれを含有する機能性食品の提供。
【解決手段】甘藷茎葉による食品とその食品組成、およびその活性成分の葉酸と補助ビタミンB類(BとB12)を有効成分とする食品および食品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甘藷茎葉もしくはその活性成分の葉酸と補助ビタミンBとB12の添加
食品組成物による血液さらさら効果による血流改善剤で、血液の詰まりにより引き
起こされる脳や心臓などの虚血や梗塞の予防と治療に関する。また、本素材及びそ
の活性成分を用いた生活習慣によって引き起こされる梗塞の予防と治療を目的とし
た食品加工物による。
【背景技術】
【0002】
生活水準の向上に伴う高栄養化食生活への変化と日常の運動不足による体内脂肪
の蓄積により引き起こされるメタボッリクは、糖尿病、高血圧、癌になるリスクを
高める。これらの疾患では血管が脆くなっている上に、血管内壁にコレステロール
や酸化LDLなどが蓄積され、血管が細くなり血流が悪くなっている。血栓や塞栓が冠
動脈にできれば虚血性心疾患、脳動脈にできれば脳梗塞、肺動脈にできれば肺塞栓症を発症する。発症は血管壁及び血流の異常、血液凝固性の亢進が挙げられる。その結果、脳血管障害(脳出血、脳梗塞、一過性脳虚血発作、クモ膜下出血、高血圧症性脳症など)、心臓病(心肥大、狭心症、心筋梗塞など)、腎疾患(腎不全など)、高血圧などを併発する。日本人の死因は第1位にガン、第2位が脳血管障害、第3位が心臓疾患で、このうち後2者では脳梗塞と心筋梗塞で過半数を占めている。このため、血流を改善することは、これらの疾患を予防でき、また進行の遅延効果および治療にまで至る。
【0003】
これまでに血液の詰まり、即ち血栓の治療剤には、血栓溶解剤、へパリン製剤、
血小板凝集抑制剤、高トロンビン剤などの医薬品が使用されている。しかしなが
ら、これらの薬剤は、アナフィラキシーショックによる呼吸不全・循環不全などに
陥る副作用が併発するため、しばしば問題となる。そのため、血流改善作用の可能
性がある食品組成物が提供されてきた。しかしながら、その効果の作用機序および安全性という点で明確に示されていなかった。
【特許文献1】特開 2001-316256号
【特許文献2】特開 2003-88332号
【特許文献3】特開 2007-228963号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、新規の血流改善による血管の詰まりの予防、または治療できる
作用機序が明確で、且つ食歴のある安全性の高い食素材とそれを含有する食品および食品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、このような食素材について鋭意検討したところ、甘藷茎葉に血流改
善作用を見出した。発明者は甘藷茎葉に葉酸含量やポリフェノール含量の高いこと
を明らかにした(ニッポン ショクヒン カガク コウガクカイシ(ニホン)、2007
年、54巻、p.215-221)。この機能性成分の葉酸と補助ビタミンB類の添加物につい
ても血流改善作用を見出し、甘藷茎葉の主作用成分の1つであることを示した。ま
た、甘藷茎葉の加工物及び葉酸とビタミンB類添加の食品加工物に血流改善効果を
発揮し得ること見出した。さらに、甘藷茎葉および、葉酸と補助成分のビタミンB
類が血栓溶解作用を有すること、および酸化LDLを抑制することで血管内膜の肥厚
を防ぐことで、動脈硬化の予防と治療効果のあることを見出し、本発明を完成させ
た。
【0006】
本発明で取り扱う甘藷茎葉とは、甘藷の栽培時における地上部の茎、葉柄及び葉
をいう。甘藷茎葉は葉、葉柄および茎の部分が、柔らかい緑色豊かなものがより好
ましい。また、予め、目的とする食材に応じて葉(葉柄を含む)と茎部とにわけて
使用してもよい。甘藷は多品種あるが、沖縄産甘藷茎葉がより本発明の効果を発揮
するのに好ましい。
【0007】
本発明の血流改善の効果を発揮するためには、甘藷茎葉に含まれる効果成分を濃
縮した搾汁もしくは乾燥(凍結乾燥および温風乾燥)粉末、およびその抽出物が、
より好ましい。
【0008】
本発明で明らかにされた機能性成分の葉酸とその補助ビタミンのB6とB12を甘藷
および、他の食素材に添加した食品組成物にしてもよい。
【0009】
本発明はこれらの素材形態を含有する食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、血管の詰まりによりおこる高血圧、脳梗塞や心筋梗塞などを、
甘藷茎葉の血流改善作用によって予防及び治療ができる。また、甘藷茎葉に含まれ
る葉酸はその主要活性成分であり、葉酸とその補助ビタミンBとB12を含む食品加工
物も十分にその効果を発揮する。従って、機能性食品や医薬品、医薬部外品として
利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の甘藷茎葉は、そのまま野菜として経口摂取しても、同様な効果を得る。
しかしながら、本発明の効果をより発揮させるには、少なくとも100gの生葉を摂取
しなければならない。従って、血流改善効果を最大に発揮させるためには、その搾
汁もしくは乾燥(凍結乾燥および温風乾燥)粉末および、その抽出物を加工品体に
して使用することがより効果を発揮する。
【0012】
甘藷茎葉は、通常、まず、加熱処理を行う。加熱処理としては、ブランチング処
理(湯通し)、乾熱処理、マイクロウェーブ処理、赤外線や遠赤外線処理、水蒸気
処理などが挙げられる。
【0013】
処理された甘藷茎葉は、ペースト状、液状、粉末状などの種々の形態に処理され、
食品原料として利用でき、食品組成物とすることができる。
【0014】
ペーストは、フードプロセッサ、マスコロイダーなどの通常用いる破砕手段を行
うことによって得られる。最終食品形態は破砕手段を組み合わせて調製することで
その用途が広がる。
【0015】
液状物は、例えば、上記の加熱処理した甘藷茎葉を圧搾機などで搾汁するか、あ
るいは上記ペーストの固形分を濾過などの分離手段によって除去することによって
得られる。この液状物はそのまま飲料などとして利用できる。
【0016】
粉末は、例えば、上記加熱処理した甘藷茎葉を乾燥し、粉砕することにより、あ
るいはそのペーストまたはその液状物を乾燥し、必要に応じて、さらに粉砕するこ
とによって、得られる。
【0017】
粉末化する場合、乾燥手段は、上記加熱処理した甘藷茎葉を、温風乾燥機、高圧
蒸気乾燥機、電磁波乾燥機、凍結乾燥機などの通常用いる乾燥手段で得ることが
できる。温風乾燥によって調製する場合には、風味が良く、色鮮やかな甘藷茎葉粉
末及び活性成分の活性を失わない60℃以下での処理が好ましい。甘藷茎葉加工物は、
そのまま経口摂取しても、同様な効果を得ることができる。
【0018】
甘藷茎葉加工物は、サプルメントあるいは種々の食品形態(お茶、菓子類、ゼリ
ー、麺類、飲料など)に利用できる。例えば、粉末はお茶、菓子類の自然粉末パウ
ダーや生地の素材、また麺に練りこむなどして利用できる。ペースト状や液状は、
ゼリーやジュースの成分として利用できる。
【0019】
上記の甘藷の食品形態および、他の食品素材を同様に加工処理した食材に、活性
成分の葉酸と補助ビタミンB6とB12を添加した食品組成物にしても利用できる。
【実施例1】
【0020】
甘藷茎葉粉末の調製は甘藷茎葉を洗浄した後に、温風乾燥、あるいは凍結乾燥を
行い、ミルで粉末にした。甘藷の品種や栽培土壌、季節によっても異なるが、数百
μg/100 g(新鮮重量)、多いものでは1mgの葉酸を含んでいる品種もある(ニッ
ポン ショクヒン カガク コウガクカイシ(ニホン)、2007年、54巻、
p.215-221)。
【実施例2】
【0021】
血流改善試験は実施例1にて調製した甘藷茎葉微粉末を用いて以下のようにして、 血流改善効果について検討した。まず、13週齢の雄性の高血圧自然発症ラット
(SHRSP)は、継代飼育(室温23±1℃、湿度55±5%、12時間明暗サイクル(明期7〜19時))をして使用した。飼料、飲料水(水道水)は自由摂取させた。各5匹ずつを次の3群に分けた。1.コントロール群:アビセル5%/標準飼料(船橋SP飼料)、2.甘藷投与群:5%甘藷粉末/標準飼料(船橋SP飼料)及び3.ビタミン投与群:葉酸2.43mgにその補助ビタミン類としてB6(17.0 mg)とB12(0.02 mg)+5%/アビセル標準飼料(船橋SP飼料)/kgを与えた。飼料投与後7週間後にMC-FAN(日立原町電子工業製)を用いて血液通過時間の測定をした。毛細血管ないし微小循環モデル(シリコン単結晶基盤表面に微細流路(マイクロアレイ)を加工)には、流路幅5ml(Bloody6-5日立原町電子工業製)の疑似毛細管チップを用いた。測定前に、予め生理食塩水100mlを一定差圧下(20cm水中圧)のマイクロアレイ内を通過させ、通過時間を測定した。その後、各試料血100mlの通過時間を通過量10ml毎に測定した。全血通過時間は生理食塩液の通過時間12秒に換算する補正を、以下の式により求めた。測定は2回行い、その値の平均値を求めた。
通過時間=(試料血流時間(sec)/生理食塩通過時間(sec))×12(sec)
【0022】
図1から、通過量10ml毎の測定結果および、全血通過時間の結果とも、対照群
の疾患動物が成育に伴い血流が悪化しているのに対して、甘藷茎葉を摂取した試験群は、血流を改善した。このことから、甘藷茎葉が優れた血流改善効果のあることが示された。また、甘藷茎葉には葉酸が多く含まれる。葉酸および、その補助ビタミン成分のBとB12を含む飼料投与群についても、甘藷投与群と同程度の血流改善効果が示された。従って、甘藷に含まれる葉酸および、その補助成分のBとB12が作用成分の一つであることが示された。脳血管障害の要因である動脈硬化の危険因子として、血漿ホモシステイン濃度の上昇が要因であることが明らかになった。ホモシステインは、葉酸から5-メチルテトラヒドロ葉酸を介してメチオニン生成に続く代謝経路を介して生成し、最終的にシステインに代謝される。本実験の結果は、甘藷に含まれる葉酸がホモシステインを減少させることで、血管機能障害を減少させている機構が示された。また、葉酸及びその補助ビタミン成分のBとB12を添加した甘藷茎葉加工物、またその他の食品素材に添加しても血流改善効果が、同様な機構で効果が発揮できる。
【実施例3】
【0023】
溶血試験は甘藷茎葉の凍結乾燥粉末1gに10 mlの蒸留水を加えて抽出後、遠心上清
画分を実験に用いた。フィブリンプレートは、0.15 %フィブリノーゲン(4.5ml)、
50mM CaCl2溶液(4.5ml)、10U/mlトロンビン溶液200 mlを入れて混合し、室温で2 時間放置した。検量線は、フィブリノーゲンアクチベーター(u-PA)のウロキナー
ゼ溶液(0.3125、0.625、1.25、2.5、5.0、10U/ml)で検量線を作成した。甘藷茎葉
抽出物の各濃度を(原液、2倍希釈、4倍希釈)をフィブリンプレートに20ml滴下し
て、37℃で18時間インキュベーション後に、溶解面積を計測した。
【0024】
図2から、検量線より求めた試料のu-PA換算単位は抽出液原液で20U、2倍希釈で
13U、4倍希釈で7Uと濃度依存で血栓溶解作用が示された。従って、甘藷茎葉の血栓
溶解作用が明らかになり、甘藷茎葉の血栓治療効果が示された。
【実施例4】
【0025】
酸化LDL(低密度リポタンパク質)抑制試験は甘藷茎葉の凍結乾燥粉末1gに20ml
のエタノールを加えて1日間抽出後に、ろ紙で濾過を行い遠心濃縮した。濃縮した試
料に1mLのエタノールを加えて溶解後に、さらにフィルター(0.45mM)濾過した
調製試料を実験に用いた。酸化LDL抑制試験は、ヒトLDL(5mg/mlタンパク量)10ml
を、酸素飽和したリン酸緩衝液(pH7.2、0.1mM、2.5mMEDTA含有)460mlに溶解し
た溶液に、2,2'-azobis(4-methoxy-2,4-dimetylvaleronitorile(アゾビス、
20mM)10mlを添加して、37 ℃で60分間インキュベーションを行い、酸化LDLを生成
させた後に、234nmの吸光度を測定した。この溶液にアゾビスを添加前に、代表甘藷
として3品種の沖縄産甘藷(名護まさり、春こがね、こがねゆたか)を、400倍に希釈調製した抽出液、および対照試料としてホウレンソウ抽出20mlを添加して、LDLの酸化抑制を評価した。コントロール溶液には、試料の代わりに、同量のリン酸緩衝液を添加して、同様な操作をした。ブランクには、試料添加溶液からアゾビスの代わりにリン酸緩衝液を同量添加した溶液を調製した。LDL酸化抑制率(%)は、60分間のインキュベーション後の酸化LDL生成量に対する試料添加による酸化LDL抑制率とした。
酸化LDL抑制率(%)={(1-((試料添加溶液-ブランク)/コントロール溶液)}
×100
【0026】
図3から、甘藷茎葉による明確な酸化LDLの抑制が示された。比較対照のホウレン
ソウに比べて、何れの甘藷の品種においても、およそ3倍も高いLDL抑制作用を示し
た。また、その他の品種の甘藷茎葉にも活性の差はあるものの、酸化LDL抑制作用
を示した。血管内で活性酸素によって生成した酸化LDLは、マクロファージに異物と
して認識され、際限なく取り込まれて、マクロファージは泡沫化する。その結果、
血管内膜を肥厚し、動脈硬化の原因となる。甘藷茎葉を摂取することにより、血管
内膜の肥厚を抑制することができ、動脈硬化が予防、治癒することが示された。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例2における甘藷茎葉の高血圧自然発症ラット(SHRSP)の血流改善試験 の結果を示すグラフである。
【図2】実施例3における甘藷茎葉の血栓溶解作用を示すグラフである。
【図3】実施例4による甘藷茎葉の酸化LDL抑制作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘藷茎葉及びその食品組成物からなる血流改善剤。
【請求項2】
葉酸と補助ビタミンのビタミンBとB12の添加食品組成物の摂取による血流改善。
【請求項3】
甘藷茎葉及びその食品組成物の摂取により血栓を溶解することによる血流改善。
【請求項4】
甘藷茎葉及びその食品組成物の摂取により酸化LDLを抑制することによる血流改善。
【請求項5】
請求項1、2、3、4による血管の詰まりおよび虚血の予防と治療。
【請求項6】
請求項1、3および4を目的とする食品と食品組成物。
【請求項7】
請求項2、3および4を目的とする食品と食品組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−111600(P2010−111600A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283735(P2008−283735)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(308033870)
【Fターム(参考)】