説明

血液分析装置、血液分析方法及びコンピュータプログラム

【課題】試薬のコストを含む測定コスト全体を低く抑えつつ、異常血球の存在又は白血球の分布の異常を検知することが可能な血液分析装置、血液分析方法及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】白血球数を測定項目として含むCBC測定項目を測定する第一の測定モードと、該CBC測定項目に加えてCBC測定項目以外の他の測定項目を測定する第二の測定モードとを含む複数の測定モードから一の測定モードの選択を受け付ける。第一の測定モードの選択を受け付けた場合、試料調製部に、白血球数を測定するための測定試料を調製させ、取得した白血球の分布データに基づいて、検体に含まれる異常血球又は検体に含まれる白血球の分布の異常を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体を測定して異常血球を検知することができる血液分析装置、血液分析方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液中の有形成分を赤血球、白血球、血小板等に分類して計数する血液分析装置であって、測定項目ごとに測定モードを設定することが可能な血液分析装置が知られている。例えば特許文献1では、赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、血小板数(PLT)、ヘモグロビン濃度(HGB)、ヘマトクリット値(HCT)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球血色素量(MCH)、及び平均赤血球血色素濃度(MCHC)からなるCBC測定項目を測定する全血球計数モード、いわゆるCBC(Complete Blood Count)モード、及びCBC測定項目に加えて白血球をサブクラスに分類する、いわゆるDIFF測定項目を測定するCBC+DIFFモードの2つから、使用者が任意の測定モードに設定することができる検体分析装置が開示されている。
【0003】
CBCモードでは、上記のような血液中の有形成分に関する基本的な情報を取得することができ、CBC+DIFFモードでは、CBCモードによって取得した基本的な情報に加え、白血球をサブクラスに分類して計数することで、白血球に関してより詳細な情報を取得することができる。さらにCBC+DIFFモードでは、特許文献2に開示されているように、健常人の末梢血中には出現しない幼若白血球のような異常血球を検知することができる。
【0004】
このように測定モードによって取得することができる情報が異なることから、使用者は、異常血球の存在又は白血球の分布の異常を検知する必要がある場合には、CBC+DIFFモードのようなCBCモード以外の測定モードを選択する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−209383号公報
【特許文献2】特開2006−091024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されているような従来の検体分析装置によって異常血球の存在の有無を検知するためには、使用者はCBC+DIFFモードで測定を行う必要がある。しかし、CBC+DIFFモードで測定を行うためには、CBC測定項目を測定するための試薬に加えて、特許文献2に開示されているような白血球をサブクラスに分類するための専用の試薬を用いる必要がある。したがって、CBCモードで測定を行う場合に比べて試薬のコストが高くなり、測定コストが増大するという問題点があった。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、試薬のコストを含む測定コスト全体を低く抑えつつ、異常血球の存在を検知することが可能な血液分析装置、血液分析方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために第1発明に係る血液分析装置は、被験者から得られた検体に基づいて、CBC測定項目のうちの白血球数を測定するための測定試料を調製する試料調製部と、該試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、試料中の血球から少なくとも2種の光学情報を取得する測定部と、該測定部で取得した2種の光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得する分布データ取得手段と、前記白血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる白血球数を計数する白血球数計数手段と、前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知する異常検知手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、第2発明に係る血液分析装置は、第1発明において、前記異常検知手段は、前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球数を計数する異常血球計数手段と、計数された異常血球数が所定数以上であるか否かを判断する判断手段とを備え、該判断手段で所定数以上であると判断した場合、前記異常血球の存在を検知したと判断することを特徴とする。
【0010】
また、第3発明に係る血液分析装置は、第2発明において、前記異常血球の分布データは、白血球系異常血球の分布データ、血小板系異常血球の分布データ、及び赤血球系異常血球の分布データを含むことを特徴とする。
【0011】
また、第4発明に係る血液分析装置は、第3発明において、前記判断手段は、計数された白血球系異常血球数、血小板系異常血球数、又は赤血球系異常血球数が所定数以上であるか否かを判断することを特徴とする。
【0012】
また、第5発明に係る血液分析装置は、第4発明において、前記白血球の分布データの分布状態を取得する分布状態取得手段を備え、前記異常検知手段は、白血球の分布データの分布状態に基づいて前記異常血球の存在を検知することを特徴とする。
【0013】
また、第6発明に係る血液分析装置は、第5発明において、前記分布状態取得手段は、前記白血球の分布データの平均座標を算出する手段を備え、前記異常検知手段は、算出した平均座標が所定範囲内に属するか否かを判断する手段を備え、該手段で所定範囲内に属さないと判断した場合、前記異常血球の存在を検知したと判断することを特徴とする。
【0014】
また、第7発明に係る血液分析装置は、第1乃至第6発明のいずれか1つにおいて、前記白血球の分布データ及び異常血球の分布データをグラフィカルに表示する結果表示手段をさらに備えることを特徴とする。
【0015】
また、第8発明に係る血液分析装置は、第1乃至第7発明のいずれか1つにおいて、少なくとも白血球数と、赤血球数と、血小板数とを含むCBC測定項目を測定する第一の測定モードと、CBC測定項目以外の他の測定項目を測定する第二の測定モードとを含む複数の測定モードから一の測定モードの選択を受け付ける測定モード選択受付手段と、該測定モード選択受付手段にて前記第一の測定モードの選択を受け付けた場合、前記異常検知手段によって異常血球の存在が検知されたときには、前記第二の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、第9発明に係る血液分析装置は、第8発明において、前記測定モード選択受付手段は、前記第一の測定モード及び第二の測定モードと異なる第三の測定モード及び第四の測定モードの選択も受け付けることが可能に構成されており、前記第二の測定モードは、白血球に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、前記第三の測定モードは、血小板に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、前記第四の測定モードが、赤血球に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、前記異常検知手段は、前記異常血球として白血球系異常血球、血小板系異常血球、及び赤血球系異常血球を検知するように構成されており、前記出力手段は、前記異常検知手段によって白血球系異常血球の存在が検知された場合、前記第二の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力し、前記異常検知手段によって血小板系異常血球の存在が検知された場合、前記第三の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力し、前記異常検知手段によって赤血球系異常血球の存在が検知された場合、前記第四の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力することを特徴とする。
【0017】
また、第10発明に係る血液分析装置は、第1乃至第9発明のいずれか1つにおいて、前記測定部は、前記2種の光学情報として散乱光強度及び蛍光強度を取得することを特徴とする。
【0018】
次に、上記目的を達成するために第11発明に係る血液分析方法は、被験者から得られた検体に基づいて、CBC測定項目のうちの白血球数を測定するための測定試料を調製する試料調製部と、該試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、試料中の血球から少なくとも2種の光学情報を取得する測定部とを有する血液分析装置で実行することが可能な血液分析方法において、前記測定部で取得した2種の光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得し、前記白血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる白血球数を計数し、前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知することを特徴とする。
【0019】
次に、上記目的を達成するために第12発明に係るコンピュータプログラムは、被験者から得られた検体に基づいて、CBC測定項目のうちの白血球数を測定するための測定試料を調製する試料調製部と、該試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、試料中の血球から少なくとも2種の光学情報を取得する測定部とを有し、前記測定部で得られた光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球の分布データを取得する血液分析装置で実行することが可能なコンピュータプログラムにおいて、前記血液分析装置を、該測定部で取得した2種の光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得する分布データ取得手段、前記白血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる白血球数を計数する白血球数計数手段、及び前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知する異常検知手段として機能させることを特徴とする。
【0020】
第1発明、第11発明及び第12発明では、測定部で取得した2種の光学情報に基づいて検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得する。取得した白血球の分布データに基づいて、検体に含まれる白血球数を計数し、取得した異常血球の分布データに基づいて、検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知する。白血球数は、血液検査における基本的な測定項目であるCBC測定項目の一つであり、血球計数を行う限り必ず測定される項目である。上記の構成を備えることにより、白血球数の測定と同時に異常血球を検知することができ、試薬コストを含む測定コスト全体を低く抑えることができる。また、基本的な測定項目であるCBC測定項目を測定することにより異常血球を検知することができ、CBC測定項目しか測定されない検体についても異常血球の出現を検知することができ、該検体に関してより詳細な測定項目の測定を促すことが可能となる。
【0021】
第2発明では、異常血球の分布データに基づいて、検体に含まれる異常血球数を計数し、計数された異常血球数が所定数以上であると判断した場合、異常血球の存在を検知したと判断することにより、異常血球の存在を、高価な試薬を用いて詳細な測定項目を測定する第二の測定モードを選択することなく検知することが可能となる。
【0022】
第3発明では、異常血球の分布データは、白血球系異常血球の分布データ、血小板系異常血球の分布データ、及び赤血球系異常血球の分布データを含むことにより、これらの異常血球の存在を、高価な試薬を用いて詳細な測定項目を測定する第二の測定モードを選択することなく検知することが可能となる。
【0023】
第4発明では、計数された白血球系異常血球数、血小板系異常血球数、又は赤血球系異常血球数が所定数以上であるか否かを判断することにより、これらの異常血球の存在を、高価な試薬を用いて詳細な測定項目を測定する第二の測定モードを選択することなく検知することが可能となる。
【0024】
第5発明では、白血球の分布データの分布状態を取得し、取得した白血球の分布データの分布状態に基づいて異常血球の存在を検知することにより、異常血球の存在を、高価な試薬を用いて詳細な測定項目を測定する第二の測定モードを選択することなく検知することが可能となる。
【0025】
第6発明では、白血球の分布データの平均座標を算出し、算出した平均座標が所定範囲内に属さないと判断した場合、異常血球の存在を検知したと判断することにより、異常血球の存在を、高価な試薬を用いて詳細な測定項目を測定する第二の測定モードを選択することなく検知することが可能となる。
【0026】
第7発明では、白血球の分布データ及び異常血球の分布データをグラフィカルに表示することにより、白血球及び異常血球の分布状態を目視で確認することができ、白血球以外の異常血球の存在を容易に確認することが可能となる。
【0027】
第8発明では、少なくとも白血球数と、赤血球数と、血小板数とを含むCBC測定項目を測定する第一の測定モードと、CBC測定項目以外の他の測定項目を測定する第二の測定モードとを含む複数の測定モードから一の測定モードの選択を受け付ける。第一の測定モードの選択を受け付けた場合、異常血球の存在が検知されたときには、第二の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力する。これにより、存在が検知された異常血球の種類に応じて、より詳細な情報の取得を期待することができる第二の測定モードでの測定を促すことができ、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことが可能となる。
【0028】
第9発明では、第一の測定モード及び第二の測定モードと異なる第三の測定モード及び第四の測定モードの選択も受け付けることができる。第二の測定モードは、白血球に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、第三の測定モードは、血小板に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、第四の測定モードが、赤血球に関する情報を取得することが可能な測定モードである。異常血球として白血球系異常血球、血小板系異常血球、及び赤血球系異常血球を検知し、白血球系異常血球の存在が検知された場合、第二の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力し、血小板系異常血球の存在が検知された場合、第三の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力し、赤血球系異常血球の存在が検知された場合、第四の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力する。これにより、存在が検知された異常血球の種類に応じて、より詳細な情報の取得を期待することができる第二の測定モードでの測定を促すことができ、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
上記構成によれば、基本的な測定項目である白血球数の測定と同時に異常血球を検知することができ、DIFF項目の測定に用いられるような専用の試薬を使用することなく、試薬コストを抑えて異常血球を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態に係る血液分析装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る血液分析装置の測定装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る試料調製部の構成を模式的に説明するブロック図である。
【図4】WBC染色用試薬に含まれる蛍光色素の化学式を示す図表である。
【図5】本発明の実施の形態に係る検出部及びアナログ処理部の構成を模式的に説明するブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る血液分析装置の演算表示装置の構成を示すブロック図である。
【図7】CBCモードにて白血球数を計数する場合のスキャッタグラムの例示図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る測定装置の制御基板部の制御部及び演算表示装置のCPUの処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態に係る演算表示装置のCPUの解析処理手順を示すフローチャートである。
【図10】白血球領域、白血球系異常血球領域、血小板系異常血球領域及び赤血球系異常血球領域が設定(ゲーティング)されたスキャッタグラムの例示図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る演算表示装置のCPUの白血球領域の平均座標に基づく解析処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本実施の形態では、血液中の有形成分を赤血球(RBC)、白血球(WBC)、血小板(PLT)等に分類して計数する血液分析装置を一例とし、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本明細書中で白血球数又はWBCと記載している場合、DIFF項目のようにサブクラスに分類された白血球を計数して求められる白血球数でなく、白血球をサブクラスに分類することなく計数される総白血球数を意味する。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に係る血液分析装置の構成を模式的に示す斜視図である。図1に示すように、本実施の形態に係る血液分析装置は、測定装置(測定部)1と、測定装置1とデータ通信することが可能に接続されている演算表示装置2とで構成されている。
【0033】
測定装置1と演算表示装置2とは、図示しない通信線を介して接続されており、相互にデータ通信することにより、演算表示装置2が測定装置1の動作を制御し、測定装置1で取得した測定データを演算表示装置2で処理して分析結果を取得する。測定装置1と演算表示装置2とは、ネットワーク網を介して接続されていても良いし、一体として一つの装置を構成し、プロセス間通信等でデータの授受を行っても良い。
【0034】
測定装置1は、フローサイトメトリー法を用いて、血液中の白血球、網状赤血球等の特徴情報を検出して、検出結果を測定データとして演算表示装置2へ送信する。ここで、フローサイトメトリー法とは、測定試料を含む試料流を形成し、該試料流にレーザ光を照射することによって、測定試料中の粒子(血球)が発する前方散乱光、側方散乱光、側方蛍光等の光を検出し、これにより、測定試料中の粒子(血球)を検出する方法である。
【0035】
図2は、本発明の実施の形態に係る血液分析装置の測定装置1の構成を示すブロック図である。測定装置1は、装置機構部4と、測定試料の測定を実行する検出部5と、検出部5の出力をアナログ化するアナログ処理部6と、表示・操作部7と、上述のハードウェア各部の動作を制御する制御基板部9とを備えている。
【0036】
制御基板部9は、制御用プロセッサ及び制御用プロセッサを動作させるためのメモリを有する制御部91と、アナログ処理部6から出力された信号をデジタル信号に変換する12ビットのA/D変換部92と、A/D変換部92から出力されたデジタル信号を記憶するとともに、制御部91に出力するデータを選択する処理を実行する演算部93とを有している。制御部91は、バス94a及びインタフェース95bを介して表示・操作部7と接続され、バス94b及びインタフェース95cを介して演算表示装置2と接続されている。また、演算部93は、演算結果をインタフェース95d及びバス94aを介して制御部91に出力する。さらに制御部91は、演算結果(測定データ)を演算表示装置2へ送信する。
【0037】
装置機構部4には、試薬と血液とから測定試料を調製する試料調製部41が設けられている。試料調製部41は、取得した検体と試薬とを調製することにより、白血球測定用試料、網状赤血球測定用試料、血小板測定用試料等を調製する。
【0038】
図3は、本発明の実施の形態に係る試料調製部41の構成を模式的に説明するブロック図である。試料調製部41は、血液が吸引されるサンプリングバルブ41bと、選択された測定モード毎に異なる測定試料を調製するための複数の反応ブロックA〜Dとを備えている。
【0039】
サンプリングバルブ41bは、採血管41aから図示しない吸引ピペットにより吸引された血液を定量することが可能に構成されている。
【0040】
試料調製部41は、CBC測定項目を測定するための試料を調製するCBC測定用反応ブロックAと、DIFF項目を測定するための試料を調製するDIFF測定用反応ブロックBと、PLT項目を測定するための試料を調製するPLT測定用反応ブロックCと、RET項目を測定するための試料を調製するRET測定用反応ブロックDとを備えている。
【0041】
CBC測定用反応ブロックAは、WBC、RBC、及びPLTを測定するための測定試料を調製することが可能に構成されている。具体的には、CBC測定用反応ブロックAは、白血球数(WBC)を測定するための測定試料を調製する機構として、WBC染色用試薬と、WBC測定用反応チャンバa1とを備えている。さらに、CBC測定用反応ブロックAは、赤血球数(RBC)及び血小板数(PLT)を測定するための測定試料を調製する機構として、RBC/PLT測定用反応チャンバa2を備えている。
【0042】
DIFF測定用反応ブロックBは、DIFF項目を測定するための測定試料を調製する機構として、DIFF染色用試薬と、DIFF測定用反応チャンバb1とを備えている。
【0043】
PLT測定用反応ブロックCは、PLT項目を測定するための測定試料を調製する機構として、PLT染色用試薬と、PLT測定用反応チャンバc1とを備えている。
【0044】
RET測定用反応ブロックDは、RET項目を測定するための測定試料を調製する機構として、RET染色用試薬と、RET測定用反応チャンバd1とを備えている。
【0045】
RBC/PLT測定用反応チャンバa2は、サンプリングバルブ41bに接続されており、サンプリングバルブ41bにより定量された血液と試薬とを混合するように構成されている。RBC/PLT測定用反応チャンバa2は、電気抵抗式検出部に接続されており、RBC/PLT測定用反応チャンバa2において調製された測定試料を電気抵抗式検出部に供給するように構成されている。これにより、試料調製部41は、全血が希釈された測定試料を調製することができる。なお、本実施の形態では、CBC測定項目のうちWBCを測定するための構成について詳細に説明し、RBC及びPLTを測定するための構成については、詳細な説明を省略する。
【0046】
各反応チャンバa1〜d1は、サンプリングバルブ41bに接続されており、サンプリングバルブ41bにより定量された血液と試薬との混合物に所定量の染色液を混合することが可能となるように構成されている。また、各反応チャンバa1〜d1は、光学検出部5に接続されており、反応チャンバa1〜d1において所定の試薬及び染色液が混合されて調製された測定試料を検出部5に供給するように構成されている。
【0047】
これにより、試料調製部41は、CBC測定用反応ブロックAのWBC測定用反応チャンバa1によって試料を調製することにより、白血球測定用試料として、白血球が染色されるとともに赤血球が溶血された測定試料を調製することができる。また、試料調製部41は、DIFF測定用反応ブロックBのDIFF測定用反応チャンバb1によって試料を調製することにより、DIFF測定用試料として、白血球のサブクラスがその種類に応じて蛍光の差を生じるように染色されるとともに赤血球が溶血された測定試料を調製することができる。また、試料調製部41は、RET測定用反応ブロックDのRET測定用反応チャンバd1によって試料を調製することにより、網状赤血球測定用試料として、網状赤血球が染色された測定試料を調製することができる。また、試料調製部41は、PLT測定用反応ブロックCのPLT測定用反応チャンバc1によって試料を調製することにより、血小板測定用試料として、血小板が染色された測定試料を調製することもできる。調製された測定試料は、シース液とともに後述する(光学)検出部5のシースフローセルに供給される。
【0048】
本発明の実施の形態に係る血液分析装置1は、後述するように、複数の測定モードを設定することが可能に構成されている。そして、血液分析装置1は、設定された測定モードに応じた測定試料を調製し、測定を行うことができるように構成されている。測定モードには、単一の測定項目又は測定項目を複数組み合わせた複数の測定モードが含まれる。本実施の形態では測定項目としてCBC、DIFF、RET、及びPLTが含まれ、血液分析装置1は、単一の測定項目を測定するための測定モードとして(1)CBCモード、(2)DIFFモード、(3)RETモード、(4)PLTモードの4種の測定モードを設定することができる。
【0049】
血液分析装置1は、複数の測定項目を組み合わせた測定モードとして、さらに下記6種の測定モードを設定することができる。
(5)CBC+DIFFモード
(6)CBC+RETモード
(7)CBC+PLTモード
(8)CBC+DIFF+RETモード
(9)CBC+DIFF+PLTモード
(10)CBC+DIFF+RET+PLTモード
【0050】
本実施の形態に係る血液分析装置1は、上述した10種の測定モードから一つの測定モードを選択して測定を行うことができる。具体的には、演算表示装置2において測定モードが設定された場合、演算表示装置2は、設定された測定モードにおいて測定すべき項目を測定するための測定試料を調製し、調製された測定試料を測定する指示信号を測定装置1の制御部91に送信する。制御部91が指示信号を受信した場合、制御部91は、指示された測定試料を調製するための各反応ブロックA〜Dを用いて測定試料を調製するよう試料調製部41を制御する。
【0051】
例えば、CBC測定モードが選択された場合、制御部91は、CBC測定項目を測定するための測定試料をCBC測定用反応ブロックAを用いて調製するように試料調製部41を制御する。より詳しくは、CBC測定項目のうちWBCを測定するための測定試料をWBC測定用反応チャンバa1を用いて調製するとともに、CBC測定項目のうちRBC及びPLTを測定するための測定試料をRBC/PLT測定用反応チャンバa2を用いて調製するように試料調製部41を制御する。
【0052】
あるいはDIFF測定モードが選択された場合、制御基板部9は、DIFF測定項目を測定するための試料を、DIFF測定用反応ブロックBを用いて調製するように試料調製部41を制御する。
【0053】
さらにCBC+DIFF測定モードが選択された場合には、制御基板部9は、CBCを測定するための測定試料をCBC測定用反応ブロックAを用いて調製するとともに、DIFF測定項目を測定するための試料をDIFF測定用反応ブロックBを用いて調製するように試料調製部41を制御する。
【0054】
なお、CBC測定用反応ブロックAのWBC染色用試薬には、白血球を血液中の他の粒子と区別することが可能に染色するための蛍光色素が含まれる。斯かる蛍光色素は、一般式(I):
【0055】
【化1】

【0056】
の蛍光色素、及び一般式(II):
【0057】
【化2】

【0058】
の蛍光色素からなる群から選択される少なくともいずれか一方の蛍光色素である。一般式(I)及び(II)で表される特定の蛍光色素の化学構造、及び該化学構造を備える色素名を図4に示す。
【0059】
図4は、WBC染色用試薬に含まれる蛍光色素の化学式を示す図表である。図4に示すように、具体的には、NK−529、NK−2670、NK−3750、NK−3383、NK−1840、NK−9001、NK−9003、NK−2929、NK−3375、NK−5056、NK−3266、NK−3620等の蛍光色素が用いられ、いずれも株式会社林原生物化学研究所から購入することができる。
【0060】
DIFF染色用試薬には、白血球のサブクラスがその種類に応じて蛍光の差を生じるように染色するための蛍光色素が含まれる。斯かる蛍光色素は、例えば特開2006−091024号公報に記載の試薬を用いることができる。
【0061】
PLT染色用試薬には、血小板を血液中の他の粒子と区別することが可能に染色するための蛍光色素が含まれる。斯かる蛍光色素は、例えば特開2008−111718号公報に記載の試薬を用いることができる。
【0062】
RET染色用試薬には、網状赤血球を血液中の他の粒子と区別することが可能に染色するための蛍光色素が含まれる。斯かる蛍光色素は、例えば特開2008−111717号公報に記載の試薬を用いることができる。
【0063】
図5は、本発明の実施の形態に係る検出部5及びアナログ処理部6の構成を模式的に説明するブロック図である。図5に示すように、検出部5は、レーザ光を出射する発光部501と、照射レンズユニット502と、レーザ光が照射されるシースフローセル503と、発光部501から出射されるレーザ光が進む方向の延長線上に配置されている集光レンズ504、ピンホール505、及びPD(フォトダイオード)506と(シースフローセル503と集光レンズ504との間には図示しないビームストッパが配置されている)、発光部501から出射されるレーザ光が進む方向と交差する方向に配置されている集光レンズ507、ダイクロイックミラー508、光学フィルタ509、ピンホール510及びAPD(アバランシェフォトダイオード)511と、ダイクロイックミラー508の側方に配置されているPD(フォトダイオード)512とを備えている。
【0064】
発光部501は、シースフローセル503の内部を通過する測定試料を含む試料流に対して光を出射するために設けられている。照射レンズユニット502は、発光部501から出射された光を試料流に照射するために設けられている。また、PD506は、シースフローセル503から出射された前方散乱光を受光するために設けられている。なお、シースフローセル503から出射された前方散乱光により、測定試料中の粒子(血球)の大きさに関する情報を得ることができる。
【0065】
ダイクロイックミラー508は、シースフローセル503から出射された側方散乱光及び側方蛍光を分離するために設けられている。具体的には、ダイクロイックミラー508は、シースフローセル503から出射された側方散乱光をPD512に入射させるとともに、シースフローセル503から出射された側方蛍光をAPD511に入射させるために設けられている。また、PD512は、側方散乱光を受光するために設けられている。シースフローセル503から出射された側方散乱光により、測定試料中の粒子(血球)の核の大きさ等の内部情報を得ることができる。
【0066】
また、APD511は、側方蛍光を受光するために設けられている。染色された血球のような蛍光物質に光を照射すると、照射した光の波長より長い波長の光が発せられる。側方蛍光強度は染色度合いが高いほど強くなる。そのため、シースフローセル503から出射された側方蛍光強度を測定することによって血球の染色度合いに関する特徴情報を得ることができる。したがって、白血球を特異的に染色可能な蛍光色素を使用するCBCモードにおいては、側方蛍光強度の差によって、白血球を血液中の他の血球と区別し、計数することができる。PD506、512及びAPD511は、それぞれ受光した光信号を電気信号に変換して、増幅器61、63、及び62にて増幅して制御基板部9へ出力する。
【0067】
図6は、本発明の実施の形態に係る血液分析装置の演算表示装置2の構成を示すブロック図である。図6に示すように、演算表示装置2は、CPU(中央演算装置)21、RAM22、記憶装置23、入力装置24、表示装置25、出力装置26、通信インタフェース27、可搬型ディスクドライブ28、及び上述したハードウェアを接続する内部バス29で構成されている。CPU21は、内部バス29を介して演算表示装置2の上述したようなハードウェア各部と接続されており、記憶装置23に記憶されているコンピュータプログラム100に従って、種々のソフトウェア的機能を実行する。RAM22は、SRAM、SDRAM等の揮発性メモリで構成され、コンピュータプログラム100の実行時にロードモジュールが展開され、コンピュータプログラム100の実行時に発生する一時的なデータ等を記憶する。
【0068】
記憶装置23は、内蔵される固定型記憶装置(ハードディスク)、SRAM等の揮発性メモリ、ROM等の不揮発性メモリ等で構成されている。記憶装置23に記憶されているコンピュータプログラム100は、プログラム及びデータ等の情報を記録したDVD、CD−ROM等の可搬型記録媒体90から、可搬型ディスクドライブ28によりダウンロードされ、実行時には記憶装置23からRAM22へ展開して実行される。もちろん、通信インタフェース27を介してネットワークに接続されている外部のコンピュータからダウンロードされたコンピュータプログラムであっても良い。
【0069】
記憶装置23は、測定装置1で取得した測定データに基づいて作成される分布データを記憶する分布データ記憶部231、測定モードに応じて使用する試薬の種類及び量を記憶してある試薬テーブル232、及び測定オーダを記憶した測定オーダ記憶部233を備えている。
【0070】
測定オーダ記憶部233は、測定オーダを検体番号と対応付けて記憶している。測定オーダは、検体について測定すべき測定項目の情報と、その検体が採取された被験者の年齢、既往歴等の被験者情報を含んでいる。測定オーダは、演算表示装置2の入力装置24を介して使用者によって入力され、測定オーダ記憶部233に記憶される。
【0071】
CPU21は、後述のフローチャートに例示される処理を実行して、分布データ記憶部231に記憶してある分布データを分析することにより、二次元のスキャッタグラムを作成し、分布データに基づいて異常血球を検知する。なお、分布データ記憶部231、試薬テーブル232、及び測定オーダ記憶部233は記憶装置23に備えることに限定されるものではなく、外部のコンピュータに記憶しておき、通信インタフェース27を介して照会する構成であっても良い。
【0072】
通信インタフェース27は内部バス29に接続されており、測定装置1と通信線を介して接続されることにより、データの送受信を行うことが可能となっている。すなわち、測定の開始を示す指示情報等を測定装置1へ送信し、測定データ等を受信する。また、ネットワークを介して接続されている他の装置3ともデータの送受信を行うことができる。したがって、複数の測定装置1、1、・・・での測定データを集約して分析することも可能となる。
【0073】
入力装置24は、キーボード及びマウス等のデータ入力媒体である。表示装置25は、CRTモニタ、LCD等の表示装置であり、分析結果をグラフィカルに表示する。出力装置26は、レーザプリンタ、インクジェットプリンタ等の印刷装置等である。
【0074】
図7は、上述した試薬を用いたCBCモードにて白血球を計数する場合のスキャッタグラムの例示図である。図7において、縦軸は前方散乱光強度を、横軸は側方蛍光強度を、それぞれ示している。
【0075】
図7に示すように、CBCモードにて白血球を計数した場合に作成されるスキャッタグラムには、主として、ハウエルジョリー小体71、白血球72、有核赤血球73、白血球系異常血球74、血小板系異常血球75、及び溶血した赤血球を含むデブリ76が出現する。有核赤血球73、白血球系異常血球74、及び血小板系異常血球75は、健常人の末梢血を測定した場合には出現しない。なお、白血球系異常血球74には例えば幼若白血球が含まれ、血小板系異常血球75には例えば網血小板、巨大血小板、血小板凝集塊等が含まれる。
【0076】
本実施の形態では、図7に示すようなスキャッタグラムに対して複数の領域を設定し、各領域に出現した粒子を計数する。具体的には、スキャッタグラム上には、白血球72が出現する領域A、白血球系異常血球74を検知するための領域B、有核赤血球73が出現する領域C、及び血小板系異常血球75を検知するための領域Dが設定されている。そして、CBCモードにて白血球数を計数する際には、領域Aに出現した粒子を計数し、計数結果を白血球数とする。
【0077】
一方、本来粒子が分布しない領域に多くの粒子が分布している場合、異常血球が存在すると考えることができる。そこで本実施の形態では、スキャッタグラム上で、本来粒子が分布しない領域に領域B、領域C、及び領域Dを設定し、これらの領域にそれぞれ所定数以上の粒子が存在するか否かを判断する。
【0078】
領域B、領域C、領域Dそれぞれの領域にて粒子が所定数以上存在すると判断した場合、異常血球の存在を検知したと判断することができるので、さらに詳細な測定項目について分析するべく、例えばCBC+DIFFモードの選択を受け付けることにより、測定試料を調製する試薬を変更して、より詳細な分析データを取得することができる。さらに、領域B、領域C、領域Dを区別して設定することにより、異常血球が検知された場合に、血液中のいずれの種類の成分に関与する異常血球が出現しているかを知ることができる。すなわち、どの領域にて異常血球が検知されたかによって、いずれの測定項目を詳細に分析すべきかを決定する手掛かりを使用者に提供することができる。
【0079】
本発明者らは、従来の検体分析装置では、CBCモードによる光学検出では、検体に含まれる異常血球を検知することが困難であったところ、上述の蛍光色素を含む染色用試薬を用いてCBCモードで血液に含まれる血球を光学的に検出することで異常血球を検知することが可能となることを発見した。したがって、測定項目について詳細に分析する必要があると判断するまで、使用者はCBC+DIFFモード、CBC+RETモード等のCBCモード以外の測定モードを意識的に選択して測定を行う必要がなく、特許文献2に開示されているような白血球を5分類するための専用の試薬を用いる必要性が減少する。よって、使用する試薬のコストを低減することができ、ひいては測定コスト全体を抑えることが可能となる。
【0080】
図8は、本発明の実施の形態に係る測定装置1の制御基板部9の制御部91及び演算表示装置2のCPU21の処理手順を示すフローチャートである。
【0081】
図8において、測定装置1の制御基板部9の制御部91は、測定装置1が起動されたことを検知した場合、初期化を実行し(ステップS813)、測定装置1各部の動作チェックを行う。また、演算表示装置2のCPU21も、演算表示装置2が起動されたことを検知した場合、初期化(プログラムの初期化)を実行し(ステップS801)、表示装置25にメニュー画面を表示する(ステップS802)。メニュー画面では、測定オーダの入力、CBCモード、CBC+DIFFモード、RETモード等の測定モードの選択を受け付けること、測定開始指示及びシャットダウン指示を受け付けること等が可能である。
【0082】
演算表示装置2のCPU21は、測定開始指示を受け付けたか否かを判断し(ステップS803)、CPU21が、測定開始指示を受け付けていないと判断した場合(ステップS803:NO)、CPU21は、ステップS804乃至ステップS810をスキップする。CPU21が、測定開始指示を受け付けたと判断した場合(ステップS803:YES)、CPU21は、測定開始を示す指示情報を測定装置1へ送信する(ステップS804)。測定装置1の制御基板部9の制御部91は、測定開始を示す指示情報を受信したか否かを判断し(ステップS814)、制御部91が、測定開始を示す指示情報を受信したと判断した場合(ステップS814:YES)、制御部91は、血液を収容している容器に貼付されているバーコードラベル(図示せず)をバーコードリーダ(図示せず)に読み取らせ、血液の識別情報(試料ID)を取得する(ステップS815)。制御部91が、測定開始を示す指示情報を受信していないと判断した場合(ステップS814:NO)、制御部91は、ステップS815乃至ステップS820をスキップする。
【0083】
制御部91は、取得した識別情報(試料ID)を演算表示装置2へ送信し(ステップS816)、演算表示装置2のCPU21は、識別情報(試料ID)を受信したか否かを判断する(ステップS805)。CPU21が、識別情報(試料ID)を受信していないと判断した場合(ステップS805:NO)、CPU21は、受信待ち状態となる。CPU21が、識別情報(試料ID)を受信したと判断した場合(ステップS805:YES)、CPU21は、識別情報(試料ID)に基づいて記憶装置23の測定オーダ記憶部233を照会して、識別情報(試料ID)と対応付けて記憶してある測定オーダに含まれる測定項目を読み出し(ステップS806)、読み出された測定項目に基づいて測定モードを設定し(ステップS807)、設定された測定モードに応じた測定試料の調製と測定試料の測定を指示する信号を測定装置1へ送信する(ステップS808)。
【0084】
上記の処理を詳細に説明する。演算表示装置2の記憶部23には、測定モードに応じた測定試料の調製に使用される試薬が記憶された試薬テーブル232が記憶されている。ステップS807において測定モードが設定された場合、CPU21は、設定された測定モードをキー情報として試薬テーブル232を照会し、いずれの試薬(反応ブロック)を用いて測定試料を調製するかを決定する。CPU21は、決定された反応ブロックを用いて測定試料を調製し、調製された測定試料を検出部5によって測定するよう指示する信号を、測定装置1の制御部91に送信する。なお、設定された測定モードは、演算表示装置2の記憶装置23に記憶される。
【0085】
次に、測定装置1の制御基板部9の制御部91は、指示信号を受信したか否かを判断し(ステップS817)、制御部91が、受信していないと判断した場合(ステップS817:NO)、制御部91は、受信待ち状態となる。制御部91が、受信したと判断した場合(ステップS817:YES)、制御部91は、受信した測定モードに応じた測定試料を調製するよう試料調製部41を制御し(ステップS818)、測定試料の測定処理を開始する(ステップS819)。
【0086】
具体的には、制御部91がCBC測定用反応ブロックAで測定試料を調製して測定する指示信号を受信した場合には、制御部91は、サンプリングバルブ41bにおいて定量された血液と試薬(溶血剤)とをCBC測定用反応ブロックAのWBC測定用チャンバa1に導入し、さらにWBC測定用チャンバa1にWBC染色用試薬を導入するように試料調製部41の動作を制御する。これにより、WBC測定用試料が調製される。制御部91は、調製されたWBC測定用試料を検出部5に導入する処理を実行し、検出部5及びアナログ処理部6を介して側方散乱光、側方蛍光、及び前方散乱光の受光強度に相当する電気信号が制御基板部9へ出力される。制御基板部9のA/D変換部92は、取得したアナログ信号を例えば12ビットのデジタル信号に変換し、演算部93は、A/D変換部92から出力されたデジタル信号に所定の処理を施して制御部91へ渡す。制御部91は、受け取った整数列情報を測定データとして、演算表示装置2へ送信する(ステップS820)。
【0087】
CPU21は、測定データを受信したか否かを判断し(ステップS809)、CPU21が、測定データを受信したと判断した場合(ステップS809:YES)、CPU21は、受信した測定データに基づいて解析処理を実行する(ステップS810)。CPU21が、測定データを受信していないと判断した場合(ステップS809:NO)、CPU21は、受信待ち状態となる。
【0088】
図9は、本発明の実施の形態に係る演算表示装置2のCPU21の図8のステップS810で実行する解析処理手順を示すフローチャートである。図9において、演算表示装置2のCPU21は、受信した測定データに基づいて、該測定データに関する検体について測定が行われた測定モードを記憶装置23から読み出し、測定モードがCBCモードであるか否かを判断する(ステップS901)。
【0089】
CPU21が、測定モードがCBCモードであると判断した場合(ステップS901:YES)、CPU21は、検体に含まれる個々の粒子について、粒子ごとに得られた前方散乱光強度及び側方蛍光強度の2つのパラメータを含む分布データを作成し、作成した分布データを被験者情報に対応付けて記憶装置23の分布データ記憶部231に記憶する(ステップS902)。CPU21は、前方散乱光強度及び側方蛍光強度に基づいて分布データがプロットされた、図7に示すようなスキャッタグラムを作成する(ステップS903)。
【0090】
CPU21は、スキャッタグラム上に、白血球を計数するための白血球領域、白血球系異常血球を検出するための白血球系異常血球領域、有核赤血球を検出するための赤血球系異常血球領域、及び血小板系異常血球を検出するための血小板系異常血球領域を設定する(ステップS904)。図10は、白血球領域、白血球系異常血球領域、血小板系異常血球領域及び赤血球系異常血球領域が設定(ゲーティング)されたスキャッタグラムの例示図である。
【0091】
図10(a)から図10(d)は、複数の患者から採取された血液を測定して得られたスキャッタグラムである。これらのスキャッタグラムでは、前方散乱光強度を縦軸、側方蛍光強度を横軸として、白血球領域101、白血球系異常血球領域102、血小板系異常血球領域103及び赤血球系異常血球領域104とともに示している。
【0092】
図10(a)は、健常者から採取された血液を測定して得られたスキャッタグラムである。
【0093】
図10(b)は、白血病患者から採取された血液を測定して得られたスキャッタグラムである。この患者の血液を、血液中の赤血球を溶血させて塗沫標本を作製し、作製された塗沫標本に含まれる幼若顆粒球を目視で計数する実験を行ったところ、健常者の血液には観察されない幼若顆粒球が総白血球数に対して8%の割合で観察された。
【0094】
図10(c)は、血小板減少疾患患者から採取された血液を測定して得られたスキャッタグラムを示している。この患者の血液を、血球計数装置XE−2100(シスメックス株式会社製)によって血液中の網血小板数を計数する実験を行ったところ、健常者の血液からは10000個以下しか計数されない網血小板が、約20000個計数された。
【0095】
図10(d)は、骨髄異形性疾患患者から採取された血液を測定して得られたスキャッタグラムを示している。この患者の血液を、血液中の赤血球を溶血させて塗沫標本を作製し、作製された塗沫標本に含まれる有核赤血球を目視で計数する実験を行ったところ、健常者の末梢血中には観察されない有核赤血球が、白血球100個あたり17個の割合で観測された。
【0096】
健常者の血液を分析して得られたスキャッタグラム(図10(a))と、対照法によって異常血球が確認された各患者の血液を分析して得られたスキャッタグラム(図10(b)〜(d))とを対比して、スキャッタグラム上のいずれの位置にいずれの種類の異常血球が出現するかを確認した。
【0097】
図10(a)と図10(b)とを対比した場合、図10(a)の白血球異常血球領域102にはわずかに粒子が存在しているのみであるのに対し、図10(b)の白血球異常血球領域102には非常に多くの粒子が存在している。図10(a)のスキャッタグラムの白血球異常血球領域102に出現した粒子数を計数したところ、粒子数は7個であった。一方、図10(b)の白血球異常血球領域102に出現した粒子数を計数したところ、粒子数は205個であった。幼若顆粒球は健常者の末梢血液には出現しないことから、白血球異常血球領域102に出現した粒子は幼若顆粒球であることが確認された。
【0098】
図10(a)と図10(c)とを対比した場合、図10(a)の血小板異常血球領域103にはわずかに粒子が存在しているのみであるのに対し、図10(c)の血小板異常血球領域103には非常に多くの粒子が存在している。図10(a)のスキャッタグラムの血小板異常血球領域103に出現した粒子数を計数したところ、粒子数は13個であった。一方、図10(c)の血小板異常血球領域103に出現した粒子数を計数したところ、粒子数は623個であった。これらの粒子数の差から、血小板異常血球領域103に出現した粒子は網血小板であることが確認された。
【0099】
図10(a)と図10(d)とを対比した場合、図10(a)の赤血球異常血球領域104にはわずかに粒子が存在しているのみであるのに対し、図10(d)の赤血球異常血球領域104には非常に多くの粒子が存在している。図10(a)のスキャッタグラムの赤血球異常血球領域104に出現した粒子数を計数したところ、粒子数は8個であった。一方、図10(d)の赤血球異常血球領域104に出現した粒子数を計数したところ、粒子数は1576個であった。有核赤血球は健常者の血液には出現しないことから、赤血球異常血球領域104に出現した粒子は有核赤血球であることが確認された。
【0100】
そこで、本実施の形態においては、スキャッタグラム上に白血球系異常血球領域102、血小板系異常血球領域103、及び赤血球系異常血球領域104を設定し、検体に含まれる白血球系異常血球数として、白血球系異常血球領域102に出現した粒子を計数するように構成してある。また、検体に含まれる血小板系異常血球数として、血小板系異常血球領域103に出現した粒子数を計数するように構成してある。さらに、検体に含まれる赤血球系異常血球数として、赤血球系異常血球領域104に出現した粒子数を計数するように構成してある。
【0101】
図9に戻って、演算表示装置2のCPU21は、設定された白血球領域101、白血球系異常血球領域102、赤血球系異常血球領域104、及び血小板系異常血球領域103の粒子数をそれぞれ計数する(ステップS905)。計数された結果は記憶装置25に記憶される。
【0102】
CPU21は、各領域にて計数した粒子数の正常/異常を判断する(ステップS906)。計数した粒子数が正常であるか否かの判断方法は、白血球領域101と他の異常血球領域102、103、104とで相違する。
【0103】
白血球領域101の粒子数が正常であるか否かの判断は、計数された粒子数が、正常な白血球数とされる数値範囲内であるか否かに基づいて行われる。白血球数については、過剰に少ない場合と過剰に多い場合のいずれの場合においても、その検体について疾患が疑われるからである。
【0104】
一方、異常血球領域102、103、104の粒子数が正常であるか否かの判断は、粒子数が所定数以上であるか否かに基づいて行われる。既述のとおり、各異常血球領域102、103、104は、疾患に関与する粒子のみが出現する領域であって、健常者の血液には粒子が出現しない領域であるため、所定数以上の粒子が出現した場合にのみ疾患が疑われるからである。なお、所定数は、異常血球領域102、103、104ごとに設定される値であって、夾雑物、不明粒子等の出現による影響を排除しうる値が用いられる。
【0105】
以下、ステップS906の処理について具体的に説明する。CPU21は、白血球領域101の粒子数が所定の数値範囲内であるか否かを判断する。CPU21が、白血球領域101の粒子数が所定の数値範囲内であると判断した場合、CPU21は、白血球領域101の粒子数が正常であると判断する。CPU21が、白血球領域101の粒子数が所定の数値範囲外であると判断した場合、CPU21は、白血球領域101の粒子数は正常でない(異常である)と判断する。
【0106】
次にCPU21は、白血球系異常血球領域102の粒子数が所定数以上であるか否かを判断する。CPU21が、白血球系異常血球領域102の粒子数が所定数未満であると判断した場合、CPU21は、白血球系異常血球領域102の粒子数は正常であると判断する。CPU21が、白血球系異常血球領域102の粒子数が所定数以上であると判断した場合、CPU21は、白血球系異常血球領域102の粒子数は正常でない(異常である)と判断する。
【0107】
次にCPU21は、血小板系異常血球領域103の粒子数が所定数以上であるか否かを判断する。CPU21が、血小板系異常血球領域103の粒子数が所定数未満であると判断した場合、CPU21は、血小板系異常血球領域103の粒子数は正常であると判断する。CPU21が、血小板系異常血球領域103の粒子数が所定数以上であると判断した場合には、CPU21は、血小板系異常血球領域103の粒子数は正常でない(異常である)と判断する。
【0108】
次にCPU21は、赤血球系異常血球領域104の粒子数が所定数以上であるか否かを判断する。CPU21が、赤血球系異常血球領域104の粒子数が所定数未満であると判断した場合、CPU21は、赤血球系異常血球領域104の粒子数は正常であると判断する。CPU21が、赤血球系異常血球領域104の粒子数が所定数以上であると判断した場合、CPU21は、赤血球系異常血球領域104の粒子数は正常でない(異常である)と判断する。
【0109】
CPU21は、結果表示画面を表示装置25に表示する(ステップS907)。結果表示画面には、ステップS903にて作成され、ステップS904にて領域設定されたスキャッタグラム、及びCBC測定項目の測定結果が含まれる。ステップS905において計数された白血球領域の粒子数は、白血球数(WBC)の測定結果として表示される。
【0110】
結果表示画面には、ステップS906における粒子数の正常/異常判定の結果に応じて、別の測定モードへの変更を促すメッセージが含まれる。この処理について以下説明する。
【0111】
ステップS906にてCPU21が、白血球数が異常値であると判断した場合、CPU21は、DIFFモードへの測定モードの変更を促すメッセージを表示する。白血球数が異常値である検体は白血球に関する疾患が疑われ、白血球についてより詳細な情報を得ることが望まれるからである。したがって、白血球をサブクラスに分類して測定するDIFFモードでの測定を促すことにより、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことができる。
【0112】
ステップS906にてCPU21が、白血球系異常血球領域に存在する粒子数が異常であると判断した場合、CPU21は、白血球系異常血球の存在を検知したとして、DIFFモードへの測定モードの変更を促すメッセージを表示する。白血球系異常血球領域に所定数以上の粒子が存在する検体は白血球に関する疾患が疑われ、白血球についてより詳細な情報を得ることが望まれるからである。したがって、白血球をサブクラスに分類して測定するDIFFモードでの測定を促すことにより、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことができる。
【0113】
ステップS906にてCPU21が、血小板系異常血球領域に存在する粒子数が異常であると判断された場合、CPU21は、血小板系異常血球の存在を検知したとして、PLTモードへの測定モードの変更を促すメッセージを表示する。血小板系異常血球領域に所定数以上の粒子が存在する検体は、血小板に関する疾患が疑われ、血小板についてより詳細な情報を得ることが望まれるからである。したがって、血小板を染色して測定するPLTモードでの測定を促すことにより、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことができる。
【0114】
ステップS906にてCPU21が、赤血球系異常血球領域に存在する粒子数が異常であると判断した場合、CPU21は、赤血球系異常血球の存在を検知したとして、RETモードへの測定モードの変更を促すメッセージを表示する。赤血球系異常血球領域に所定数以上の粒子が存在する検体は、赤血球に関する疾患が疑われ、赤血球についてより詳細な情報を得ることが望まれるからである。したがって、網状赤血球を染色して測定するRETモードでの測定を促すことにより、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことができる。
【0115】
CPU21は、別の測定モードへの変更指示を受け付けたか否かを判断する(ステップS908)。CPU21が、別の測定モードへの変更指示を受け付けていないと判断した場合(ステップS908:NO)、CPU21は、処理を図8のステップS811へ戻して上述した処理を繰り返す。CPU21が、別の測定モードへの変更指示を受け付けたと判断した場合(ステップS908:YES)、CPU21は、測定モードの変更の指示信号を測定装置1へ送信し(ステップS909)、処理を図8のステップS817へ戻し、上述した処理を繰り返す。
【0116】
ステップS901において、CPU21が、測定モードがCBCモードではないと判断した場合(ステップS901:NO)、CPU21は、測定モードに応じた処理を実行して(ステップS910)、処理を図8のステップS811へ戻して上述した処理を繰り返す。測定モードに応じた処理とは次のとおりである。
【0117】
例えば、測定モードがDIFFモードであった場合には、ステップS902、S903と同様にして分布データの作成及びスキャッタグラムの作成を行い、スキャッタグラム上の白血球のサブクラス(好中球、好酸球、好塩基球、単球、及びリンパ球)の出現領域を設定(ゲーティング)し、各領域に出現した粒子数を計数する。計数した結果は、白血球のサブクラスの計数値として表示装置25に表示される。
【0118】
また、測定モードがRETモードであった場合には、ステップS902、S903と同様にして分布データの作成及びスキャッタグラムの作成を行い、スキャッタグラム上の網状赤血球の出現する領域を設定(ゲーティング)し、領域内の粒子数を計数する。計数した結果は、網状赤血球の計数値として表示装置25に表示される。
【0119】
さらに、測定モードがPLTモードであった場合には、ステップS902、S903と同様にして分布データの作成及びスキャッタグラムの作成を行い、スキャッタグラム上の血小板の出現する領域を設定(ゲーティング)し、領域内の粒子数を計数する。計数した結果は、赤血球の計数値として表示装置25に表示される。
【0120】
図8に戻って、演算表示装置2のCPU21は、シャットダウン指示を受け付けたか否かを判断し(ステップS811)、CPU21が、シャットダウン指示を受け付けていないと判断した場合(ステップS811:NO)、CPU21は、処理をステップS803へ戻し、上述した処理を繰り返す。CPU21が、シャットダウン指示を受け付けたと判断した場合(ステップS811:YES)、CPU21は、シャットダウンの指示情報を測定装置1へ送信する(ステップS812)。
【0121】
測定装置1の制御基板部9の制御部91は、シャットダウンの指示情報を受信したか否かを判断し(ステップS821)、制御部91が、シャットダウンの指示情報を受信していないと判断した場合(ステップS821:NO)、制御部91は、処理をステップS814へ戻し、上述した処理を繰り返す。制御部91が、シャットダウンの指示情報を受信したと判断した場合(ステップS821:YES)、制御部91は、シャットダウンを実行して(ステップS822)、処理を終了する。
【0122】
なお、上述した実施の形態においては、異常血球が出現する領域を設定し、設定された領域に出現した粒子の数を計数することにより異常血球の存否を判断するように構成した例を示しているが、白血球が分布している領域に出現した粒子の平均座標により、異常血球の存否を判断することもできる。図11は、本発明の実施の形態に係る演算表示装置2のCPU21の図8のステップS810で実行する、白血球領域の平均座標に基づく解析処理の手順を示すフローチャートである。
【0123】
図11において、演算表示装置2のCPU21は、受信した測定データに基づいて、その測定データに関する検体について測定が行われた測定モードを記憶装置23から読み出し、測定モードがCBCモードであるか否かを判断する(ステップS1101)。
【0124】
CPU21が、CBCモードであると判断した場合(ステップS1101:YES)、CPU21は、検体に含まれる個々の粒子について、粒子ごとに得られた前方散乱光強度及び側方蛍光強度の2つのパラメータを含む分布データを作成し、作成した分布データを被験者情報に対応付けて記憶装置23の分布データ記憶部231に記憶する(ステップS1102)。CPU21は、前方散乱光強度及び側方蛍光強度に基づいて分布データがプロットされた、図7に示すようなスキャッタグラムを作成する(ステップS1103)。
【0125】
CPU21は、スキャッタグラム上に、白血球を計数するための白血球領域、白血球系異常血球を検出するための白血球系異常血球領域、有核赤血球を検出するための赤血球系異常血球領域、及び血小板系異常血球を検出するための血小板系異常血球領域を設定(ゲーティング)する(ステップS1104)。
【0126】
CPU21は、設定された白血球領域の粒子数(白血球数)を計数する(ステップS1105)。CPU21は、ステップS1105において計数された白血球数が正常であるか否かを判断する(ステップS1106)。白血球数が正常であるか否かの判断方法は、図9のステップS906において説明した方法と同様であることから、詳細な説明は省略する。
【0127】
CPU21は、白血球領域に存在する粒子の平均座標を算出する(ステップS1107)。すなわち、白血球領域に存在する粒子のX座標である側方蛍光強度の平均値、及びY座標である前方散乱光強度の平均値を算出する。幼若顆粒球のような異常血球が増加すると、側方蛍光強度及び前方散乱光強度が強くなる傾向にあるので、白血球領域に存在する粒子の平均座標はスキャッタグラムの右上方へシフトする。したがって、シフト量が所定範囲内であるか否かを判断することにより、異常血球を検知することができる。
【0128】
CPU21は、算出した平均座標が所定範囲内であるか否かを判断し(ステップS1108)、結果表示画面を表示装置25に表示する(ステップ1109)。結果表示画面の内容については、図9のステップS907にて説明した内容と同様であることから、詳細な説明は省略する。
【0129】
また、結果表示画面には、ステップS1106での白血球数の正常/異常の判断結果、及びステップS1108での平均座標が所定範囲内であるか否かの判断結果に応じて、別の測定モードでの測定を促すメッセージが含まれる。
【0130】
CPU21が、ステップS1106にて白血球数が異常値であると判断した場合、又はステップS1108にて平均座標が所定範囲外であると判断した場合、CPU21は、DIFFモードでの測定を促すメッセージを表示する。白血球数が異常値である場合、又は幼若顆粒球のような異常血球の出現により白血球領域の粒子がシフトした場合、いずれも白血球に関する疾患が疑われ、白血球についてより詳細な情報を得ることが望まれるからである。したがって、白血球数が異常値である場合、及び白血球領域に存在する粒子の平均座標が所定範囲外に存在している場合には、白血球をサブクラスに分類して測定するDIFFモードでの測定を促すことにより、その検体にとって最適な測定モードへの変更を促すことができる。
【0131】
CPU21は、別の測定モードへの変更指示を受け付けたか否かを判断する(ステップS1110)。CPU21が、別の測定モードへの変更指示を受け付けていないと判断した場合(ステップS1110:NO)、CPU21は、処理を図8のステップS811へ戻して上述した処理を繰り返す。CPU21が、別の測定モードへの変更指示を受け付けたと判断した場合(ステップS1110:YES)、CPU21は、測定モードの変更の指示信号を測定装置1へ送信し(ステップS1111)、処理を図8のステップS817へ戻し、上述した処理を繰り返す。ステップS1101において、CPU21が、測定モードがCBCモードではないと判断した場合(ステップS1101:NO)、CPU21は、測定モードに応じた処理を実行して(ステップS1112)、処理を図8のステップS811へ戻して上述した処理を繰り返す。測定モードに応じた処理も、図9において説明した処理と同様であることから詳細な説明は省略する。
【0132】
以上のように本実施の形態によれば、試薬コストが比較的低いCBCモードで測定した分布データに基づいて異常血球を検知することができ、試薬コストを含む測定コスト全体を低く抑えつつ、さらに詳細な測定項目を測定することが可能なDIFFモード、RETモード又はPLTモードへの測定モードの変更を促すことが可能となる。
【0133】
また、図9及び図11のフローチャートに示したように、異常血球が検知された場合に加えて白血球数が異常値である場合にも測定モードの変更を促すメッセージを表示することができ、異常血球の出現による検体の異常だけでなく、異常血球の出現によらない白血球の数的異常も使用者に知らせることが可能となる。
【0134】
なお、上述の実施の形態では、分析結果を演算表示装置2の表示装置25で表示しているが、特にこれに限定されるものではなく、ネットワークを介して接続されている他のコンピュータが有している表示装置に表示させるものであっても良いし、測定装置1にLCD等の表示部を設けて表示可能としても良い。
【0135】
また、上述の実施の形態では、スキャッタグラム上に、白血球系異常血球領域と血小板系異常血球領域とを区別して設定する構成としているが、異常血球の存在を検知する領域は斯かる構成に限定されるものではない。例えば、白血球系異常血球と血小板系異常血球との区別をせず、異常血球の存在を検知するための単一の領域をスキャッタグラム上に設定しても良いことは言うまでもない。
【0136】
また、上述の実施の形態では、測定モードとしてCBCモードとその他の測定モードとの選択を受付可能に構成された血液分析装置を例示しているが、斯かる構成に限定されるものではない。例えば、血液分析装置はCBC測定項目のみを測定するように構成され、すべての検体についてCBC測定項目の測定と異常血球の検知とを行うように構成されていても良い。この場合、例えばCBC測定項目のみを測定する第1の血液分析装置と、CBC測定項目以外の測定項目を測定する第2の血液分析装置とを含む血液分析システムを構成し、第1の血液分析装置によって異常血球が検知された場合に、第2の血液分析装置によってCBC測定項目以外の測定項目を測定するように構成しても良い。
【0137】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変形、置換等が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0138】
1 測定装置(測定部)
2 演算表示装置
4 装置機構部
5 検出部
6 アナログ処理部
9 制御基板部
21 CPU
22 RAM
23 記憶装置
24 入力装置
25 表示装置
26 出力装置
27 通信インタフェース
28 可搬型ディスクドライブ
29 内部バス
41 試料調製部
90 可搬型記録媒体
91 制御部
92 A/D変換部
93 演算部
100 コンピュータプログラム
231 分布データ記憶部
232 試薬テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から得られた検体に基づいて、CBC測定項目のうちの白血球数を測定するための測定試料を調製する試料調製部と、
該試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、試料中の血球から少なくとも2種の光学情報を取得する測定部と、
該測定部で取得した2種の光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得する分布データ取得手段と、
前記白血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる白血球数を計数する白血球数計数手段と、
前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知する異常検知手段と
を備えることを特徴とする血液分析装置。
【請求項2】
前記異常検知手段は、
前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球数を計数する異常血球計数手段と、
計数された異常血球数が所定数以上であるか否かを判断する判断手段と
を備え、
該判断手段で所定数以上であると判断した場合、前記異常血球の存在を検知したと判断することを特徴とする請求項1記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記異常血球の分布データは、白血球系異常血球の分布データ、血小板系異常血球の分布データ、及び赤血球系異常血球の分布データを含むことを特徴とする請求項2記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記判断手段は、計数された白血球系異常血球数、血小板系異常血球数、又は赤血球系異常血球数が所定数以上であるか否かを判断することを特徴とする請求項3記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記白血球の分布データの分布状態を取得する分布状態取得手段を備え、
前記異常検知手段は、白血球の分布データの分布状態に基づいて前記異常血球の存在を検知することを特徴とする請求項4記載の血液分析装置。
【請求項6】
前記分布状態取得手段は、
前記白血球の分布データの平均座標を算出する手段を備え、
前記異常検知手段は、
算出した平均座標が所定範囲内に属するか否かを判断する手段を備え、
該手段で所定範囲内に属さないと判断した場合、前記異常血球の存在を検知したと判断することを特徴とする請求項5記載の血液分析装置。
【請求項7】
前記白血球の分布データ及び異常血球の分布データをグラフィカルに表示する結果表示手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の血液分析装置。
【請求項8】
少なくとも白血球数と、赤血球数と、血小板数とを含むCBC測定項目を測定する第一の測定モードと、CBC測定項目以外の他の測定項目を測定する第二の測定モードとを含む複数の測定モードから一の測定モードの選択を受け付ける測定モード選択受付手段と、
該測定モード選択受付手段にて前記第一の測定モードの選択を受け付けた場合、前記異常検知手段によって異常血球の存在が検知されたときには、前記第二の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の血液分析装置。
【請求項9】
前記測定モード選択受付手段は、前記第一の測定モード及び第二の測定モードと異なる第三の測定モード及び第四の測定モードの選択も受け付けることが可能に構成されており、
前記第二の測定モードは、白血球に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、
前記第三の測定モードは、血小板に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、
前記第四の測定モードが、赤血球に関する情報を取得することが可能な測定モードであり、
前記異常検知手段は、前記異常血球として白血球系異常血球、血小板系異常血球、及び赤血球系異常血球を検知するように構成されており、
前記出力手段は、
前記異常検知手段によって白血球系異常血球の存在が検知された場合、前記第二の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力し、
前記異常検知手段によって血小板系異常血球の存在が検知された場合、前記第三の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力し、
前記異常検知手段によって赤血球系異常血球の存在が検知された場合、前記第四の測定モードによる検体の測定を促す表示を出力することを特徴とする請求項8に記載の血液分析装置。
【請求項10】
前記測定部は、前記2種の光学情報として散乱光強度及び蛍光強度を取得することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の血液分析装置。
【請求項11】
被験者から得られた検体に基づいて、CBC測定項目のうちの白血球数を測定するための測定試料を調製する試料調製部と、
該試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、試料中の血球から少なくとも2種の光学情報を取得する測定部とを有する血液分析装置で実行することが可能な血液分析方法において、
前記測定部で取得した2種の光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得し、
前記白血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる白血球数を計数し、
前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知することを特徴とする血液分析方法。
【請求項12】
被験者から得られた検体に基づいて、CBC測定項目のうちの白血球数を測定するための測定試料を調製する試料調製部と、
該試料調製部によって調製された測定試料に光を照射して、試料中の血球から少なくとも2種の光学情報を取得する測定部と
を有し、
前記測定部で得られた光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球の分布データを取得する血液分析装置で実行することが可能なコンピュータプログラムにおいて、
前記血液分析装置を、
該測定部で取得した2種の光学情報に基づいて前記検体に含まれる白血球と異常血球とを分類し、それぞれの分布データを取得する分布データ取得手段、
前記白血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる白血球数を計数する白血球数計数手段、及び
前記異常血球の分布データに基づいて、前記検体に含まれる異常血球の存在の有無を検知する異常検知手段
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−249796(P2010−249796A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294442(P2009−294442)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】