説明

血液脳関門輸送用融合タンパク質

本発明は、血液脳関門を通過する薬剤の輸送を増加させ、一旦関門を通過した活性が実質的に完全に維持されるのを可能にするための組成物、方法およびキットを提供する。この薬剤は、1種または複数の内在性受容体媒介輸送系を介して血液脳関門を通過して輸送される。いくつかの実施形態では、この薬剤は、治療薬、診断薬または研究薬である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究の記載
本発明は、国立衛生研究所の助成金番号R44−NS−44654によって合衆国政府の資金提供を受けた。合衆国政府は、本発明に一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0002】
神経障害は、世界中の死亡および身体障害の主要な原因となっている。大きな進歩があったものの、いくつかの側面では、現在の治療の選択肢は未だ限られている。この限界の主な理由の1つは、分子に選択された接近のみ許可するという脳の特殊さである。これは有用な防御機構ではあるが、多くの有益であり得る分子体が中枢神経系(CNS)に接近できず、したがって、多くの神経障害またはその他のCNSの症状に治療効果を発揮できないことを意味している。本発明は、血液脳関門を通過する能力が限られている分子体がCNSに接近しやすくするための進歩を示す。
【発明の開示】
【0003】
一態様では、本発明は組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した神経治療薬を含有する組成物を提供し、この組成物は、末梢投与後、脳内の神経治療薬の濃度を平均して少なくとも約5ng/グラム上昇させることができる。いくつかの実施形態では、この神経治療薬は、分子量が約400を上回っている。いくつかの実施形態では、神経治療薬単独では、末梢投与後、治療有効量でBBBを通過しない。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送系でBBBを通過する構造である。いくつかの実施形態では、この内在性BBB受容体媒介輸送系は、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体またはIGF受容体である。いくつかの実施形態では、この内在性BBB受容体媒介輸送系は、インシュリンBBB受容体媒介輸送系である。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、抗体、例えば、キメラMAbなどのモノクローナル抗体(MAb)である。いくつかの実施形態では、このキメラ抗体は、ヒトに投与された場合に顕著な免疫原反応を回避するのに十分なヒト配列を含有している。いくつかの実施形態では、この神経治療薬は、ニューロトロフィンである。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)である。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)である。いくつかの実施形態では、BDNFは、天然BDNFの変種、例えば、2アミノ酸カルボキシル切断型変種である。いくつかの実施形態では、BDNFは、ヒトBDNFである。いくつかの実施形態では、BDNFは、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、神経治療薬は、ニューロトロフィン、例えば、BDNFであり、血液脳関門(BBB)を通過できる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送系に対するMAb、例えば、インシュリンBBB受容体媒介輸送系に対する抗体である。BDNFを含有するこれらの実施形態のいくつかでは、BDNFは、2アミノ酸カルボキシ切断型BDNFである。MAbを含有するこれらの実施形態のいくつかでは、MAbはキメラMAb、例えば、ヒトに投与された場合に顕著な免疫原反応を回避するのに十分なヒト配列を含有しているキメラ抗体である。
【0004】
いくつかの実施形態では、本発明は、ヒトに投与された場合に顕著な免疫原反応を回避するのに十分なヒト配列を含有している、ヒトインシュリンBBB受容体媒介輸送系に対するキメラ抗体に共有結合した2アミノ酸カルボキシ切断型ヒトBDNFを含有する組成物を提供し、この組成物は、末梢投与後、脳内のニューロトロフィンの濃度を平均して少なくとも約5ng/グラム上昇させることができ、このBDNFは、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、BDNFはそのアミノ末端でMAbの重鎖のカルボキシ末端に共有結合している。いくつかの実施形態では、BDNFはそのアミノ末端でMAbの軽鎖のカルボキシ末端に共有結合している。いくつかの実施形態では、MAbの重鎖は、配列番号24のアミノ酸20〜462と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、この組成物は、MAbの重鎖とBDNFとの間にリンカー、例えば、S−S−Mをさらに含有する。いくつかの実施形態では、この組成物は、MAbの軽鎖をさらに含む。いくつかの実施形態では、この軽鎖は、配列番号36のアミノ酸21〜234と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、MAbはグリコシル化されている。
【0005】
いくつかの実施形態では、本発明は、前記の組成物のいずれかおよび薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態では、本発明は、血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した神経治療薬を含む組成物であって、末梢投与後、脳内の神経治療薬の濃度を平均して少なくとも約5ng/グラムに平均して上昇させることができる組成物を含有し、血液脳関門(BBB)を通過できる第2の構造に共有結合した第2の神経治療薬を含有する第2の組成物をさらに含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、第1および第2の神経治療薬は異なっており、BBBを通過できる第1および第2の構造は同じ構造である。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、第1の重鎖および第2の重鎖を含有する抗体である。いくつかの実施形態では、第1の神経治療薬は、抗体の第1の重鎖に共有結合しており、第2の神経治療薬は抗体の第2の重鎖に共有結合している。
【0007】
いくつかの実施形態では、本発明は、ヒトBBBインシュリン受容体に対するキメラMAbに共有結合した薬剤を含有する組成物であって、このMAbが重鎖および軽鎖を含有する組成物を提供する。いくつかの実施形態では、この薬剤は治療薬である。いくつかの実施形態では、この治療薬は、ニューロトロフィン、例えば、BDNFである。いくつかの実施形態では、この薬剤は、2アミノ酸カルボキシル末端切断型BDNFである。いくつかの実施形態では、MAbの重鎖は、BDNFに共有結合して融合タンパク質を形成しており、この融合タンパク質の配列は、配列番号24のアミノ酸20〜462を含む配列と少なくとも約80%同一である第1の配列を含有し、配列番号24のアミノ酸466〜582を含む配列と少なくとも約80%同一である第2の配列をさらに含有し、所望により、第1の配列のカルボキシル末端と第2の配列のアミノ末端との間にペプチドリンカー、例えば、S−S−Mが存在してもよい。いくつかの実施形態では、MAbの軽鎖は、配列番号36のアミノ酸21〜234を含む配列と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、MAbはグリコシル化されている。
【0008】
いくつかの実施形態では、本発明は、血液脳関門を通過できるイムノグロブリンに共有結合したBDNFを含有し、神経障害を治療するのに有効な量でBBBを通過することができる、神経障害を治療するための組成物を提供する。
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明は、(i)BBBを通過することができる構造に共有結合した(所望により、ペプチドリンカーを介して)(ii)中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドを含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のあるペプチドはそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約40%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、血液脳関門を通過できる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送体上でBBBを通過する。いくつかの実施形態では、この内在性BBB受容体媒介輸送系は、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体またはIGF受容体である。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介輸送体は、インシュリン輸送体またはトランスフェリン輸送体である。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介輸送体は、インシュリン輸送体、例えば、ヒトインシュリン輸送体である。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、抗体、例えば、キメラMAbなどのMAbである。いくつかの実施形態では、抗体は、内在性BBB受容体媒介輸送体、例えば、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、もしくはIGF受容体、または、例えば、インシュリン輸送体もしくはトランスフェリン輸送体、または、例えば、インシュリン輸送体、例えば、ヒトインシュリン輸送体に対する抗体である。いくつかの実施形態では、CNSで活性のあるペプチドは、神経治療薬である。いくつかの実施形態では、この神経治療薬は、ニューロトロフィンである。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)である。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンはBDNFである。いくつかの実施形態では、このBDNFは、切断型DNF、例えば、カルボキシル切断型BDNF、例えば、2個のカルボキシル末端アミノ酸が欠如したBDNFである。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含有する組成物であって、この組成物中の陽イオン治療用ペプチドの血清半減期が、陽イオン治療用ペプチド単独の血清半減期よりも平均して少なくとも約5倍長い組成物を提供する。いくつかの実施形態では、この陽イオン治療用ペプチドは、神経治療薬を含有する。いくつかの実施形態では、この神経治療薬は、ニューロトロフィンである。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)である。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンはBDNFである。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンは、内在性BBB受容体媒介輸送系に対する抗体である。
【0011】
別の態様では、本発明は方法を提供する。一実施形態では、本発明は、BBBを通過する構造に共有結合した薬剤が有効量でBBBを通過して輸送される条件下で、BBBを通過する構造に共有結合した薬剤を個体に末梢から投与することによって、CNSで活性のある薬剤を末梢循環からBBBを通過して有効量で輸送する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この薬剤は神経治療薬である。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明は、BBBを通過することができる構造に共有結合した神経治療薬を含有する組成物の有効量を個体に末梢から投与することによって、個体、例えばヒトにおけるCNS障害を治療するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、インシュリン受容体に対する抗体を含有し、治療薬はBDNFを含む。いくつかの実施形態では、投与は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、直腸、頬膜貫通(trausbuccal)、鼻腔内、経皮または吸入投与である。いくつかの実施形態では、投与は、静脈内、筋肉内または皮下である。いくつかの実施形態では、CNS障害は、急性CNS障害、例えば、脊髄損傷、局所脳虚血および全脳虚血である。障害が急性障害である実施形態では、いくつかの実施形態において、組成物を1回だけ投与する。障害が急性障害である実施形態では、いくつかの実施形態において、組成物を1週間に約1回以下の頻度で投与する。いくつかの実施形態では、CNS障害は慢性障害である。いくつかの実施形態では、この慢性障害は、慢性神経変性疾患、網膜虚血またはうつ病からなる群から選択される。障害が慢性神経変性疾患であるいくつかの実施形態では、この慢性神経変性疾患は、プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、多発硬化症、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、ピック病、結節性硬化症、リソソーム蓄積症、カナバン病、レット症候群、脊髄小脳失調症、フリードライヒ失調症、視神経萎縮または網膜変性症である。いくつかの実施形態では、例えば、個体がヒトである場合、個体に、約1から約100mgの用量の組成物を投与する。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンの軽鎖をコードする第1の配列およびイムノグロブリンの重鎖をコードする第2の配列を含有する単一の核酸配列であって、前記第1の配列がさらに、軽鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードするか、または前記第2の配列がさらに、重鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする核酸配列を提供する。いくつかの実施形態では、第1の配列は、軽鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする。いくつかの実施形態では、第2の配列は、重鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする。いくつかの実施形態では、このペプチドは治療用ペプチドである。いくつかの実施形態では、この治療用ペプチドは神経治療用ペプチドである。いくつかの実施形態では、この神経治療用ペプチドは、ニューロトロフィン、例えば、BDNFである。ニューロトロフィンがBDNFであるいくつかの実施形態では、第2の配列は、BDNFをコードする核酸をコードする。ニューロトロフィンがBDNFであるいくつかの実施形態では、BDNFは、2アミノ酸カルボキシ切断型BDNFである。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンはIgG、例えば、キメラMAbなどのMAbである。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンは、輸送系に対する抗体である。いくつかの実施形態では、この輸送系は、内在性BBB受容体媒介輸送系である。いくつかの実施形態では、この内在性BBB受容体媒介輸送系は、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体またはIGF受容体である。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介輸送系は、内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系である。いくつかの実施形態では、この内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系は、ヒト内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系であり、イムノグロブリン重鎖が共有結合したペプチドは、ヒトBDNFである。いくつかの実施形態では、BDNFは、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約80%同一である配列を含む。いくつかの実施形態では、このBDNFはアミノ末端がMAbの重鎖のカルボキシ末端に結合している。いくつかの実施形態では、MAbの重鎖は、配列番号24のアミノ酸20〜462と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、この軽鎖は、配列番号36のアミノ酸21〜234と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、この配列はさらにMAbの重鎖とBDNFとの間のペプチドリンカー、例えば、S−S−Mをコードする核酸配列を含有する。いくつかの実施形態では、この配列はさらに、シグナルペプチドをコードする核酸配列を含有し、このシグナルペプチドは重鎖に結合している。いくつかの実施形態では、このシグナルペプチドは、配列番号24のアミノ酸1〜19と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、この配列はさらに、別のシグナルペプチドをコードする核酸配列を含有し、この別のシグナルペプチドは軽鎖に結合している。いくつかの実施形態では、軽鎖に結合したこのシグナルペプチドは、配列番号36のアミノ酸1〜20と少なくとも約80%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、この配列はさらに、選択可能なマーカーをコードする核酸配列を含有している。いくつかの実施形態では、この選択可能なマーカーは、DHFRであり、DHFRの配列は、配列番号38のアミノ酸1〜187と少なくとも約80%同一である。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号33のヌクレオチド58〜1386と少なくとも約80%同一である第1の配列および配列番号33のヌクレオチド1396〜1746と少なくとも80%同一である第2の配列を含む核酸を提供する。いくつかの実施形態では、この核酸はさらに、配列番号35のヌクレオチド61〜702と少なくとも約80%同一である第3の配列を含有する。いくつかの実施形態では、この核酸はさらに、第1のシグナルペプチドをコードする第4の配列および第2のシグナルペプチドをコードする第5の配列を含有する。いくつかの実施形態では、この第4の配列は、配列番号33のヌクレオチド1〜57と少なくとも約80%同一であり、この第5の配列は配列番号35のヌクレオチド1〜60と少なくとも80%同一である。いくつかの実施形態では、この核酸はさらに、選択可能なマーカーをコードする配列を含有している。いくつかの実施形態では、この選択可能なマーカーはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)である。いくつかの実施形態では、DHFRをコードする配列は、配列番号37のヌクレオチド1〜561と少なくとも約80%同一である。
【0015】
本発明はまた、前述の核酸のいずれかを含有するベクターを提供する。いくつかの実施形態では、本発明はベクターを含有する細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞などの真核細胞を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本発明は、真核細胞に1本のタンデム発現ベクターを永久的に組み込むことによって、治療薬と融合したイムノグロブリン重鎖または治療薬と融合したイムノグロブリン軽鎖を含有するイムノグロブリン融合タンパク質の製造方法であって、融合タンパク質の遺伝子およびイムノグロブリン軽鎖の遺伝子もしくはイムノグロブリン重鎖の遺伝子を含有する別の遺伝子の両方が、DNAの1片に組み込まれている方法を提供する。いくつかの実施形態では、この融合タンパク質は治療薬に融合したイムノグロブリン重鎖を含有し、融合タンパク質の遺伝子およびイムノグロブリン軽鎖の遺伝子の両方はDNAの1片に組み込まれている。いくつかの実施形態では、この融合タンパク質は治療薬に融合したイムノグロブリン軽鎖を含有し、融合タンパク質の遺伝子およびイムノグロブリン重鎖の遺伝子の両方はDNAの1片に組み込まれている。いくつかの実施形態では、永久的導入は、タンデムベクターを真核細胞に永久的に統合することによって実現される。いくつかの実施形態では、永久的導入は、タンデムベクターを含有し複製するエピソーム遺伝因子を真核細胞に導入することによって実現する。いくつかの実施形態では、この治療薬は神経治療薬である。いくつかの実施形態では、この方法にはさらに、DNAの1片に選択可能なマーカーの1種または複数の遺伝子を組み込むことが含まれる。いくつかの実施形態では、この方法にはさらに、DNAの1片に1種または複数の増幅遺伝子を組み込むことが含まれる。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンはIgGである。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンはMAbである。いくつかの実施形態では、MAbはキメラMAbである。いくつかの実施形態では、この方法にはさらに、イムノグロブリン融合タンパク質を発現させることを含む。いくつかの実施形態では、この方法にはさらに、イムノグロブリン融合タンパク質を精製することを含む。
【0017】
本明細書で記載した出版物および特許出願は全て、個々の出版物または特許出願がそれぞれ明確に個別に、参考として援用されることが示されるのと同じ範囲で本明細書に参考として援用される。
【0018】
図の簡単な説明
本発明の新たな特性は、添付した特許請求の範囲に詳細にわたって記載されている。本発明の特性および利点のよりよい理解は、本発明の原理を利用した、例示的実施形態を説明した以下の詳細な説明および添付した図面を参考にすることによって得られるだろう。
【0019】
図1は、キメラHIRMAbの重鎖(VH)の可変領域、4領域(CH、ヒンジ、CH2およびCH3)からなるヒトIgG1の定常領域をコードするゲノム断片およびBDNF変種(vBDNF)のcDNAからなる融合遺伝子をコードする真核発現ベクターの遺伝子操作を示した図である。遺伝子の転写は、ヒトIgG1プロモーター(PRO)によって行われる。このベクターは、融合タンパク質の重鎖(HC)を生成する。
図2は、修飾された5’−および3’−リンカーを備えたvBDNFcDNAをコードする細菌発現プラスミドの遺伝子操作を示した図である。
図3は、融合タンパク質を生成するタンデムベクター構築における中間体である様々な構造物の大きさを示した臭化エチジウム染色アガロースゲルを示した図である。(A)列1〜2:NruIで消化した図2のプラスミドで、0.4kbのvBDNFおよび3.5kbのベクター主鎖を示している。列3:1.4〜0.1kbの範囲の大きさのMW標準物。列4:23〜0.6kbの範囲の大きさのMW標準物。(B)列1:0.4kbのvBDNFcDNAは、ポリA+ヒトU87神経膠腫細胞から単離されたRNAから逆転写されたcDNAを使用した、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成される。PCRプライマー配列を表2に示す。列2および3:パネルAに示したのと同じ大きさのMW標準物。(C)列1:NheIおよびBamHIで消化した後のクローン416。列2:陰性クローン。列3:NheIおよびBamHIで消化した後のクローン400。列4および5:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(D)融合タンパク質HC(列1)およびLC(列2)をコードするDNAの特性のPCR断片。列3〜4:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(E)列1〜4:NheIで消化した後のクローン422aの4種の、異なるが一致しているコピーで、0.4kbの融合タンパク質HC可変領域(VH)cDNAの遊離が示されている。列5〜6:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(F)列1〜4:EcoRVおよびBamHIで消化した後のクローン423aの5種の、異なるが一致しているコピーで、0.7kbの完全なLCcDNAの遊離が示されている。列5〜6:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(G)PvuI(列1)およびEcoRI−HindIII(列2)によるタンデムベクター(図12)の制限エンドヌクレアーゼ地図。PvuI(切断1回)によって、約11kbの予測直線状DNAバンドが生成した。EcoRIおよびHindIIIによる消化によって、融合タンパク質軽鎖(すなわち、1.8kb)およびDHFR(すなわち、1.5kb)発現カセットの両方が遊離する。約8kbのバンドは、融合タンパク質重鎖発現カセットを含む主鎖ベクターを表す。列3〜4:順番は逆であるが、パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。
図4は、融合タンパク質HCのカルボキシル末端とvBDNFのアミノ末端との間の融合部位のヌクレオチド(配列番号21)およびアミノ酸(配列番号22)を示した図である。HIRMAb HCとvBDNFとの間の3−アミノ酸リンカーならびにvBDNFのカルボキシル末端の新たな終止コドンを示す。
図5は、プラスミド416にクローニングされた融合タンパク質HC遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号23)を示した図である。イタリック体:ヒトIgG1定常領域イントロン。太字:ヒトIgG1エキソン配列。下線部:vBDNF。
図6は、融合タンパク質HCのアミノ酸配列(配列番号24)を示した図である。CH3領域とvBDNFとの間の3−アミノ酸リンカーのように、アミノ酸19個のシグナルペプチドに下線を引いてある。CH2内のN−結合グリコシル化コンセンサス配列に下線を引いてある。
図7は、融合タンパク質HCの様々なドメインのアミノ酸配列(配列番号25)を示した図である。
図8は、融合タンパク質HCをコードする、イントロンのない真核発現ベクター、クローン422aの生成を示した図である。融合タンパク質HC cDNAは、クローン416を形質移入した骨髄腫細胞から単離されたRNAの逆転写酵素によって生じたcDNAをPCRすることによって生成した。
図9は、(A)クローン422aに挿入された融合タンパク質HC cDNAのヌクレオチド配列(配列番号26)を示した図である。(B)(配列番号27および28)図Aに示したヌクレオチド配列から推定される融合タンパク質HCのアミノ酸配列を示した図である。シグナルペプチドの配列には下線が引いてある。
図10は、融合タンパク質LCをコードする、イントロンのない真核発現ベクター、クローン423aの生成を示した図である。融合タンパク質LC cDNAは、キメラHIRMAb LCのVLを含むヒトカッパLC遺伝子のイントロン/エキソン配列をコードする染色体断片由来のLC遺伝子を生成する発現ベクターを形質移入された骨髄腫細胞から単離されたRNAの逆転写酵素によって生成したcDNAをPCRすることによって生成した。
図11は、(A)クローン423aに挿入された融合タンパク質LC cDNAのヌクレオチド配列(配列番号29)を示した図である。(B)(配列番号30および31)図Aに示したヌクレオチド配列から推定される融合タンパク質LCのアミノ酸配列を示した図である。シグナルペプチドの配列には下線が引いてある。
図12は、融合タンパク質のHCおよびLC遺伝子をコードするタンデムベクターの構造物を示した図である。TVは、cDNA発現ベクター、HCについてはクローン422aおよびLCについては423a、ならびにマウスDHFRの発現カセットをコードする細菌発現プラスミドから操作された。
図13Aおよび図13Bは、融合タンパク質HC遺伝子およびLC遺伝子ならびにタンデムベクターに組み込まれたDHFR遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号32)を示した図である。
図14は、タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいて融合タンパク質HCの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号33および34)。シグナルペプチド配列には下線が引いてある。
図15は、タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいて融合タンパク質LCの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号35および36)。シグナルペプチド配列には下線が引いてある。
図16は、タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいてDHFRの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号37および38)。
図17は、バイオリアクターで50日間一定に維持したCHO細胞の生細胞および全細胞密度を示した図で、CHO細胞は、融合タンパク質をコードするタンデムベクターを永久的に形質移入された。
図18は、融合タンパク質、(a)血液からBBBを通過する輸送を可能にするヒトBBBヒトインシュリン受容体(HIR)に結合し、(b)神経保護を導くニューロン上のtrkBに結合する2機能性分子の構造を示した図である。
図19は、2次抗体がヒトIgG1のFc領域(x軸)またはヒトBDNF(y軸)のいずれかに特異的である、2種類の異なる「サンドイッチ」免疫測定法の相関を示した図である。どちらの測定法でも1次抗体はヒトカッパ軽鎖に特異的である。CHO細胞調整培地中の融合タンパク質の測定レベルは、抗Fcを使用しても、抗BDNF抗体を使用しても同一である。
図20は、キメラHIRMAbおよび融合タンパク質の還元(左)および非還元(右)ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を示した図である。還元条件下では、軽鎖の大きさ、30kDaは、キメラHIRMAbおよび融合タンパク質と同一であり、融合タンパク質の重鎖の大きさは、BDNFが存在するため、キメラHIRMAb重鎖より約15kDa大きい。非還元条件下では、キメラHIRMAbおよび融合タンパク質はそれぞれ、分子量180および200kDaの単一な異種四量体種として移動する。
図21は、(左図)抗ヒトIgG1次抗体のウェスタンブロットを示した図である。融合タンパク質およびHIRMAbの重鎖の大きさはそれぞれ、64kDaおよび50kDaであり、融合タンパク質またはキメラHIRMAbの軽鎖の大きさは25kDaである。(右図)融合タンパク質またはBDNFには反応するが、キメラHIRMAbには反応しない抗ヒトBDNF抗体によるウェスタンブロットを示した図である。MW標準物(STDS)は、右側に示してある。
図22は、等電点(pI)標準物(列1)、キメラHIRMAb(列2および4)、BDNF(列3)および融合タンパク質(列5)の等電点電気泳動(IEF)を示した図である。BDNFは、pI>10で強い陽イオンである一方、融合タンパク質のpIはキメラHIRMAbのpIに近似しており、約8.5で、融合タンパク質の理論的pIに近い。
図23は、(A)ヒトインシュリン受容体(HIR)競合リガンド結合測定法(CLBA)の概略を示した図である。HIR細胞外ドメイン(ECD)に[125I]標識マウスHIRMAbを結合させ、図Bに示したように、この結合をキメラHIRMAbまたは融合タンパク質のいずれかと競合的に置換させる。(B)キメラIHRMAbまたは融合タンパク質のいずれかによる、HIR ECDに対する[125I]標識マウスHIRMAbの結合の置換を示した図である。HIR ECDに対するキメラHIRMAbの親和性は高く、HIR ECDに対する融合タンパク質の親和性は、キメラHIRMAbの親和性と有意差があるとはいえない。これらの結果は、キメラHIRMAb重鎖のカルボキシル末端にvBDNFを融合しても、HIRに対する融合タンパク質の結合を損なわないことを示している。
図24は、(A)trkB競合リガンド結合測定(CLBA)の設計。PEGリンカーの利点は、それによる修飾でELISAウェルに対する陽イオンBDNFの非特異的結合(NSB)が排除され、それによってシグナル/ノイズ比の高い測定が得られることである。trkB ECDへのBDNF−PEG2000−ビオチンの結合は、アビジンおよびビオチンペルオキシダーゼを使用したペルオキシダーゼ系によって検出された。(B)trkB ECDへのBDNF−PEG2000−ビオチンの結合は、組換えBDNFによって競合的に置換される。この結合データは、非線形回帰分析によって分析したところ、BDNF結合のKI、3.5±1.3pmol/ウェルおよびNSBパラメータが得られた。(C)trkB ECDへのBDNF−PEG2000−ビオチンの結合は、融合タンパク質によって競合的に置換される。この結合データは、非線形回帰分析によって分析したところ、融合タンパク質結合のKIは2.2±1.2pmol/ウェルで、天然BDNFのKIと有意差があるとはいえない。これらのデータは、trkB受容体に対する融合タンパク質の親和性が天然BDNFの親和性と等しいことを示している。
図25は、(A)ヒト神経SH−SY5Y細胞における低酸素症−再酸素負荷神経保護測定法の設計を示した図である。細胞をレチノイン酸に7日間曝露して、trkB、BDNF受容体の遺伝子発現の上方制御を引き起こす。(B)3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド(MTT)によるミトコンドリア呼吸の測定に基づいた神経保護測定法。最大の神経保護は、BDNF4nMによって確立され、融合タンパク質4nMは、ヒト神経細胞において、同程度の神経保護レベルを生じる。MTTレベルは、細胞の約50%のみがレチノイン酸に応答してtrkBを誘導するので、低酸素症ではない細胞のレベルにはもどらない。
図26は、(A)ヒトBBBのin vitroモデル系として使用した、ヒト脳から単離された毛細血管の光学顕微鏡写真である。(B)ヒトBBB上のHIRに対する[3H]−融合タンパク質の結合の放射線−受容体測定法。結合は非標識融合タンパク質によって自己阻害される。非線形回帰分析によって飽和データをスキャッチャードプロットに当てはめると、結合パラメータ、KD=0.55±0.07nM、Bmax=1.35±0.10pmol/mgpが得られる。
図27は、成体アカゲザルにおける融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込み。(A)麻酔した成体アカゲザルに[3H]−融合タンパク質または[125I]マウスHIRMAbのいずれかのタンパク質を1回静脈注射した後、[3H]−融合タンパク質または[125I]マウスHIRMAbの血清濃度を時間に対してプロットする。(B)麻酔した成体アカゲザルに[3H]融合タンパク質を、または麻酔した成体ラットの[3H]−BDNFを1回静脈注射した後、トリクロロ酢酸(TCA)によって沈殿可能な血清放射活性を時間に対してプロットする。(C)麻酔した成体アカゲザルに、[3H]融合タンパク質または[3H]マウスIgG2aのいずれかを1回静脈注射してから180分後の脳分布の毛細血管欠乏分析。(D)融合タンパク質373μgを静脈注射してから180分後の融合タンパク質の霊長類脳における濃度を、霊長類脳の内在性BDNF濃度と比較して示した図である。
【0020】
発明の詳細な説明
I.導入
II.定義
III.血液脳関門
A.輸送系
B.血液脳関門受容体媒介輸送系に結合する構造
IV.血液脳関門を通過して輸送するための薬剤
A.ニューロトロフィン
B.脳由来神経栄養因子
V.組成物
VI.核酸、ベクター、細胞および製造
A.核酸
B.ベクター
C.細胞
D.製造
VII.方法
VIII.キット
略語
ALS 筋萎縮性側索硬化症
BBB 脳血液関門
BDNF 脳由来神経栄養因子
BRB 脳網膜関門
CDR 相補性決定領域
CED 対流増強送達
CH1 IgG定常領域の第1部
CH2 IgG定常領域の第2部
CH3 IgG定常領域の第3部
CHO チャイニーズハムスター卵巣細胞
CHOP CHO細胞宿主タンパク質
CLBA 競合リガンド結合測定法
CMV サイトメガロウイルス
CNS 中枢神経系
DHFR ジヒドロ葉酸レダクターゼ
ECD 細胞外ドメイン
FR フレームワーク領域
FWD フォワード
HIR ヒトインシュリン受容体
HIRMAb ヒトインシュリン受容体に対するモノクローナル抗体
HIV ヒト免疫不全ウイルス
IC 脳内
ICC 免疫細胞化学
ICV 側脳室内
ID 注射用量
IEF 等電点電気泳動
IGF インシュリン様成長因子
IgG イムノグロブリンG
LDL 低密度リポタンパク質
MAb モノクローナル抗体
MRT 平均滞留時間
MTH 分子版トロイの木馬
MTX メトトレキセート
MW 分子量
NSB 非特異的結合
NT−3 ニューロトロフィン−3
NT−4/5 ニューロトロフィン−4/5
ODN オリゴデオキシヌクレオチド
PEG ポリエチレングリコール
PRO プロモーター
REV リバース
RMT 受容体媒介輸送
SDM 部位特異的変異誘発
SDS−PAGE ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリル
アミドゲル電気泳動
SFM 無血清培地
SNP 一塩基多形
TCA トリクロロ酢酸
TFF タンジェンシャルフロー濾過
TFI 一過性前脳虚血
TfR トランスフェリン受容体
TrkB BDNF受容体
TV タンデムベクター
vBDNF BDNF変種
分布量
VH 重鎖の可変領域
VL 軽鎖の可変領域
【0021】
I.導入
血液脳関門は、多くの末梢投与薬を中枢神経系に輸送するのを制限する因子である。本発明は、BBBを通過してCNSに薬剤を輸送するのに重要な3つの要素、1)薬剤がBBBと十分に接触してBBBを横断するために、十分な時間末梢循環中にあることが可能な薬剤の薬物動態プロファイル、2)BBBを通過させるための薬剤の修飾、および3)一旦BBBを通過した薬剤の活性の保持に取り組む。本発明の様々な態様は、BBBを通過して輸送されるために、および/または構造に結合していながら、脳においてその活性のいくらか、もしくは全てを保持するために、薬剤の血清半減期の延長をもたらす構造に共有結合した薬剤(例えば、治療薬)の融合構造(例えば、融合タンパク質)を提供することによって、これらの要素に取り組む。
【0022】
したがって、一態様では、本発明は、血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した薬剤を利用する組成物および方法を提供する。この組成物および方法は、薬剤、例えば、神経治療薬などの治療薬を末梢血から、BBBを通過してCNSに輸送するのに有用である。本発明に有用な神経治療薬には、ニューロトロフィン、例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)が含まれる。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送系でBBBに結合し、BBBを通過することができる。いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造は、抗体、例えば、キメラMAbなどのモノクローナル抗体(MAb)ある。
【0023】
いくつかの実施形態では、本発明は、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドに共有結合した、BBBを通過できる構造を含む融合タンパク質であって、血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のあるペプチドがそれぞれ、別々の実体としてのそれらの活性(または、それぞれの受容体に対する結合親和性)と比較して、それらの活性(または、それぞれの受容滞日する結合親和性)の一部(例えば、10〜100%)を保持している融合タンパク質を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含有する組成物であって、この組成物中の陽イオン治療用ペプチドが、陽イオン治療用ペプチド単独の血清半減期よりも平均して少なくとも約5倍長い血清半減期を有する組成物を提供する。
【0025】
本発明はまた、ペプチドおよびタンパク質をコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンの軽鎖をコードする遺伝子およびペプチドに共有結合したイムノグロブリンの重鎖から形成された融合タンパク質をコードする遺伝子を含有する単一の核酸配列を提供する。いくつかの実施形態では、この融合タンパク質のペプチドは、治療用ペプチド、例えば、ニューロトロフィンなどの神経治療用ペプチドである。本発明はまた、本発明の核酸を含有するベクターおよびこのベクターを含有する細胞を提供する。イムノグロブリン融合タンパク質の製造方法であって、前記融合タンパク質が、治療薬と融合したイムノグロブリン重鎖を含有し、イムノグロブリン軽鎖遺伝子および治療薬に融合したイムノグロブリン重鎖の遺伝子の両方がDNAの1片に永久的に組み込まれている1本のタンデムベクターを真核細胞に永久的に組み込むことを含む方法をさらに提供する。
【0026】
本発明はさらに、治療用組成物、例えば、血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した薬剤および薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、血液脳関門を通過できるイムノグロブリンに共有結合したBDNFを含み、神経障害を治療するのに有効な量でBBBを通過することができる、神経障害を治療するための組成物を提供する。
【0027】
本発明はまた、1種または複数の本発明の組成物の有効量を、所望により障害のその他の治療と併用して、個体に末梢投与することを含む、個体における神経障害を治療する方法を提供する。
【0028】
II.定義
本明細書で使用したように、「薬剤」には、生物における生理学的または生化学的効果を含む効果を生じるのに有用ないかなる物質も含まれる。「治療薬」とは、治療効果、すなわち、障害の改善、予防、および/または完全な、もしくは部分的な治癒を導く効果を生じさせる、または生じさせるようにする物質である。「治療効果」はまた、本明細書で使用したように、障害に罹患していない個体における平均的または正常な状態よりも良好な状態を作り出すこと、すなわち、正常または平均的な状態と比較して、認知、記憶、気分またはCNSの機能の少なくとも一部に起因すると考えられるその他の特性の改善などの平均以上の効果を含む。「神経治療薬」は、CNSにおいて治療効果をもたらす薬剤である。「治療用ペプチド」には、ペプチドからなる治療薬が含まれる。「陽イオン治療用ペプチド」には、等電点が約7.4を上回る、いくつかの実施形態では、約8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12、または約12.5を上回る治療用ペプチドが包含される。陽イオン治療用ペプチドの下位区分は陽イオン神経治療用ペプチドである。
【0029】
本明細書で使用したように、「中枢神経系(CNS)において活性のあるペプチド」には、CNSに投与された場合に効果を有するペプチドが含まれる。この効果は、治療効果または非治療効果、例えば、診断効果または研究に有用な効果であってよい。この効果が治療効果である場合、そのペプチドはまた、治療用ペプチドである。CNSにおいて活性のあるペプチドでもある治療用ペプチドは、本明細書で使用したような用語「神経治療用ペプチド」に包含される。
【0030】
本明細書で使用したような「治療」または「治療すること」には、治療的有益および/または予防的有益を実現することが含まれる。治療的有益とは、根底にある治療すべき障害または症状の根絶または改善を意味する。例えば、神経障害を有する個体において、治療的有益には、障害の進行の部分的もしくは完全な停止、または障害の部分的もしくは完全な回復が含まれる。また、治療的有益は、患者がまだ症状に冒されている可能性があるという事実に関わりなく、患者において改善が認められるように、根底にある症状に関連した生理学的もしくは心理学的徴候の1種または複数の根絶または改善によって実現する。治療の予防的有益には、症状の予防、症状の進行の遅延(例えば、神経障害の進行の緩徐化)、または症状発症の可能性の減少が含まれる。本明細書で使用したように、「治療すること」または「治療」には、予防が含まれる。
【0031】
本明細書で使用したように、「有効量」という用語は、有益な、もしくは所望する結果、例えば、有益な、もしくは所望する臨床結果、または増強された認知、記憶、気分もしくはその他の所望するCNSの結果を実施するために十分な量であることができる。有効量はまた、予防効果をもたらす量、例えば、病理学的または望ましくない症状の出現を遅延、低下または除去する量である。CNSのこのような症状には、認知症、本明細書で記載したような神経変性疾患、最適以下の記憶または認知、気分障害、一般的なCNS加齢またはその他の望ましくない症状が含まれる。有効量は、1回または複数回の投与で投与することができる。治療に関して、本発明の組成物の「有効量」は、障害、例えば、神経障害の進行を緩和、改善、安定化、逆行または遅延させるのに十分な量である。「有効量」は、単独で使用した、または疾患もしくは障害を治療するために使用される1種または複数の薬剤と併用した本発明の組成物のいずれかのものであってよい。本発明の意味における治療薬の「有効量」は、患者の担当医または獣医によって決定される。このような量は、当業者によって容易に確認され、本発明に従って投与された場合に治療効果を生じる。治療有効量に影響を及ぼす要素には、使用した治療薬の比活性、障害の種類(例えば、急性対慢性神経障害)、障害開始から経過した時間ならびに治療する個体の年齢、身体的状態、その他の疾患状態の存在および栄養状態が含まれる。さらに、患者に投与してよいその他の薬物も、投与する治療薬の治療有効量の決定に影響を及ぼす。
【0032】
本明細書で使用したような「対象」または「個体」は、動物、例えば、哺乳類である。いくつかの実施形態では、「対象」または「個体」はヒトである。いくつかの実施形態では、対象は神経障害を罹患している。
【0033】
いくつかの実施形態では、薬剤は「末梢投与される」または「末梢から投与される」。本明細書で使用したように、これらの用語は、CNSに直接投与しない、すなわち、血液脳関門の脳ではない側に薬剤を接触させる、薬剤、例えば、治療薬の個体への任意の投与形態を意味する。本明細書で使用したように、「末梢投与」には、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、吸入、頬膜貫通、鼻腔内、直腸および経口投与が含まれる。
【0034】
本明細書では、「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」とは、それ自体組成物を投与されている個体に有害な抗体の産生を引き起こさない任意の担体のことである。このような担体は、当業者には周知である。薬学的に許容される担体/賦形剤の十分な検討は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro、AR編、第20版、2000:Williams and Wilkins PA、USAに見いだすことができる。薬学的に許容される担体の例には、塩、例えば、無機酸塩、例えば、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など、および有機酸の塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などが含まれる。例えば、本発明の組成物は、液状で提供することができ、pHを変化させた(5〜8)水性溶液をベースにした生理食塩水中で、ポリソルベート−80などの界面活性剤0.01〜1%、またはマンニトール、ソルビトールもしくはトレハロースなどの炭水化物添加物を含めるか、または含めないで、製剤化することができる。通常使用する緩衝液には、ヒスチジン、酢酸塩、リン酸塩またはクエン酸塩が含まれる。
【0035】
「組換え宿主細胞」または「宿主細胞」とは、挿入のために使用した方法、例えば、直接的取り込み、形質導入、f−交配または組換え宿主細胞を創出するための当業界で公知のその他の方法にかかわらず、外来ポリヌクレオチドを含む細胞のことである。外来ポリペプチドは、非組み込みベクター、例えば、プラスミドとして維持することができ、あるいは、宿主ゲノム中に組み込むことができる。
【0036】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書ではアミノ酸残基のポリマーを意味するために同義に使用される。すなわち、ポリペプチドを指す説明は、ペプチドの説明およびタンパク質の説明に同様に適用され、逆の場合も同じである。この用語は、天然に生じるアミノ酸ポリマーならびに1個または複数のアミノ酸残基が天然には生じないアミノ酸、例えば、アミノ酸類似体であるアミノ酸ポリマーに適用される。本明細書で使用したように、この用語は、完全長タンパク質(すなわち、抗原)を含む任意の長さのアミノ酸鎖であって、アミノ酸残基がペプチド共有結合によって結合しているアミノ酸鎖を包含する。
【0037】
「アミノ酸」という用語は、天然に生じる、および天然には生じないアミノ酸、ならびに天然に生じるアミノ酸と類似の方法で機能を果たすアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物を意味する。天然にコードされたアミノ酸には、20個の共通のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシンおよびバリン)およびピロリシンおよびセレノシステインがある。アミノ酸類似体は、天然に生じるアミノ酸と同様の基本的化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素を有する化合物、例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムのことである。このような類似体は、修飾されたR基(例えば、ノルロイシン)または修飾されたペプチド主鎖を有するが、天然に生じるアミノ酸と同様の基本的化学構造を保持している。
【0038】
アミノ酸とは、一般的に知られている3文字表記またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨された1文字表記によって本明細書では表すことができる。ヌクレオチドは、同様に、通常受け入れられている1文字コードによって表すことができる。
【0039】
「核酸」という用語は、デオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシドまたはリボヌクレオチドおよび1本鎖または2本鎖の形態のそれらのポリマーを意味する。特に限定しなければ、この用語は、参照とする核酸と類似の結合特性を有し、天然に生じるヌクレオチドと類似の方法で代謝される天然のヌクレオチドの公知の類似体を含有する核酸を包含する。特に他に限定しなければ、この用語はまた、PNA(ペプチド核酸)、アンチセンス技術で使用したDNAの類似体(ホスホロチオエート、ホスホロアミデートなど)を含むオリゴヌクレオチド類似体を意味する。特に指示しなければ、特定の核酸配列はまた、保存的に修飾されたそれらの変種(限定はしないが、縮重コドン置換)および相補配列ならびに明確に指示された配列を非明示的に包含する。具体的に、縮重コドン置換は、1個または複数の選択された(または全ての)コドンの第3の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を作製することによって実現することができる(Batzer他、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka他、J.Biol.Chem.260:2605〜2608(1985);およびCassol他、(1992);Rossolini他、Mol.Cell.Probes 8:91〜98(1994))。
【0040】
「単離された」および「精製された」という用語は、天然の環境から実質的または本質的に取り出された、あるいは濃縮された物質を意味する。例えば、単離された核酸は、通常それに隣接した核酸または試料中のその他の核酸もしくは成分(タンパク質、脂質など)から分離された核酸であってよい。別の例では、ポリペプチドが天然の環境から実質的に取り出された、または濃縮された場合、そのポリペプチドは精製されている。核酸およびペプチドの精製および単離の方法は、当業界では周知である。
【0041】
III.血液脳関門
一態様では、本発明は、血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した薬剤を利用する組成物および方法を提供する。この組成物および方法は、薬剤、例えば、神経治療薬などの治療薬を末梢血から、血液脳関門を通過してCNSに輸送するのに有用である。本明細書で使用したように、「血液脳関門」とは、脳毛細血管内皮原形質膜内で緊密な結合によって形成される末梢循環と脳および脊髄との間の関門のことであり、分子量60Daの尿素と同じくらい小さい分子であっても、脳内への分子の輸送を制限する極めて厳重な関門を形成する。脳内の血液脳関門、脊髄内の血液脊髄関門、網膜内の血液網膜関門は、中枢神経系(CNS)内の近接した毛細血管関門であり、集合的に血液脳関門またはBBBと称される。
【0042】
BBBは、新たな神経治療薬、診断薬ならびに脳およびCNSのための研究手段の開発において制約となる段階である。高分子治療薬、例えば、組換えタンパク質、アンチセンス剤、遺伝子薬、モノクローナル抗体、またはRNA干渉(RNAi)をベースにした薬剤の本質的に100%が、薬理学的に有意な量ではBBBを通過しない。低分子薬はBBBを通過できると一般的に考えられているが、実際には、BBBを通過して輸送されないので、低分子全体の2%未満しか脳内で活性を有さない。薬理学的に有意な量でBBBを通過するためには、分子は液体に可溶性で、分子量が400ダルトン(Da)未満でなければならず、低分子の大部分がこれらの2つの分子的特性を備えていない。したがって、ほとんどの有望な治療的、診断的または研究用分子は、薬理学的に活性のある量でBBBを通過しない。BBBを迂回するために、側脳室内(ICV)注入、脳内(IC)投与および対流増強送達(CED)などの侵襲的経頭蓋送達戦略を使用する。脳への経頭蓋薬剤送達は、高価で、侵襲的で、ほとんど効果がない。ICV経路では、BDNFは脳の脳室上皮にのみ輸送され、脳の実質内へは輸送されず、ICV経路によって投与される薬剤ではこれが一般的である。ニューロトロフィン、例えば、神経成長因子(NGF)のIC投与は、脳内の薬剤拡散の効率が低いため、薬剤を局所的に注射部位に輸送するのみである。ニューロトロフィンのCEDは、脳の白質路から優先的な流体の流れを生じ、脱髄および星細胞腫の原因となる。
【0043】
本発明は、BBBを迂回し、薬剤、例えば、神経保護因子を末梢血からBBBを通過させるために、これらの侵襲性の高い、一般的に満足のいかない方法の代替法を提案する。末梢血からCNSに所望する物質を輸送するための機構の提供は、BBBに存在する内在性輸送経を使用することを基にしている。
【0044】
A.輸送系
いくつかの実施形態では、本発明は、BBBを通過して輸送することが望ましい薬剤、例えば、神経治療薬を結合させた、BBB受容体媒介輸送系に結合する構造を含む組成物を提供する。本発明の組成物および方法は、選択された内在性BBB受容体媒介輸送系によって輸送でき、所望する薬剤に結合させることもできる任意の適切な構造を利用することができる。いくつかの実施形態では、この構造は、抗体である。いくつかの実施形態では、この抗体はモノクローナル抗体(MAb)、例えば、キメラMAbである。
【0045】
内在性BBB受容体媒介輸送系。BBBは、いくつかの高分子の血液から脳への輸送を可能にする特異的な受容体を有することが示されており、これらの輸送体は、本発明の組成物の輸送体として適している。本発明に有用な内在性BBB受容体媒介輸送系には、インシュリン、トランスフェリン、インシュリン様成長因子1および2(IGF1およびIGF2)、レプチンおよびリポタンパク質を輸送する輸送系が含まれる。いくつかの実施形態では、本発明は、内在性インシュリンBBB受容体媒介輸送系、例えば、ヒト内在性インシュリンBBB受容体媒介輸送系によってBBBを通過できる構造を利用する。
【0046】
B.BBB受容体媒介輸送系に結合する構造
CNSに対する薬剤を送達するための非侵襲的な1取り組みは、BBB上の受容体と結合する構造、例えば、分子に関心のある薬剤を結合させることである。次に、この構造は、BBBを通過して薬剤を輸送するための媒介物として役立つ。このような構造は、本明細書では「分子版トロイの木馬(MTH)」と称する。一般的に、必ずしも必要ではないけれども、MTHは、内在性BBB受容体媒介輸送系でBBBを横断する内在性BBB受容体媒介輸送系に結合することができる外来ペプチドまたはペプチド様部分(例えば、MAb)である。ある実施形態では、MTHは、輸送系の受容体、例えば、インシュリン受容体に対する抗体であることができる。いくつかの実施形態では、この抗体はモノクローナル抗体(MAb)である。いくつかの実施形態では、このMAbはキメラMAbである。したがって、Abは通常脳から排除されるという事実があるにもかかわらず、それらがBBB上の受容体に特異性を有するならば、分子を脳実質に送達するための効果的な媒体であることができる。
【0047】
したがって、抗体、とりわけMAbは、本発明の実施形態に特に有用である。ある種の受容体特異的MAbは、内在性リガンドを模倣して、MTHとして機能し、特異的受容体系での輸送を介して原形質膜関門を横断することができる。ある種の実施形態では、MTHはヒトBBB上のヒトインシュリン受容体(HIR)に対するMAbである。HIR MAbは、ヒトBBB HIR上の細胞外表面エピトープに結合し、この結合によって、MAbは、ヒトBBBインシュリン受容体によって媒介される輸送反応を介してBBBを横断することができる。
【0048】
「抗体」という用語は、本明細書で使用したように、天然に生じたもの、人工的に誘導されたもの、または組換えのいずれにしても、特異的な免疫反応活性を有する任意の分子を関連して含む。一般的に、必ずしも必要ではないけれども、抗体は2種類の分子を含むタンパク質であり、それぞれの分子が2種類の異なるポリペプチドを有し、短い方が抗体の軽鎖として機能し、長い方のポリペプチドが抗体の重鎖として機能する。通常、本明細書で使用したように、抗体は、重鎖または軽鎖の少なくとも1個の可変領域を含む。さらに、抗体は可変領域の組み合わせを含むことができる。この組み合わせは、1個の軽鎖または1個の重鎖の複数の可変領域を含むことができる。抗体はまた、1個または複数の重鎖の可変領域と組み合わさった1個または複数の軽鎖の可変領域を含むことができる。抗体は、in vitroにおいて、またはin vivoでの体液性応答の発生によって得られるイムノグロブリン分子であることができ、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を含む。さらに、本発明は、本明細書で記載した抗体の抗原結合断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab)2およびFv断片、1個または複数のCDRを含む断片、1本鎖抗体(例えば、1本鎖Fv断片(scFv))、ジスルフィド安定化(dsFv)Fv断片、異種結合抗体(例えば、二特異的抗体)、pFv断片、重鎖単量体もしくは二量体、軽鎖単量体もしくは二量体、および1個の重鎖および1個の軽鎖からなる二量体を含む。このような抗体断片は、化学的方法によって、例えば、プロテアーゼ、例えば、ペプシンもしくはパパインによる完全な抗体の切断、または組換えDNAの特性技術によって、例えば、切断型重鎖および/または軽鎖遺伝子で形質転換した宿主細胞を使用して、作製することができる。このような断片を製する合成方法も企図される。重鎖および軽鎖単量体は、完全な抗体を還元剤、例えば、ジチオスレイトールもしくはベータ−メルカプトエタノールで処理することによって、または所望する重鎖もしくは軽鎖またはその両方をコードするDNAで形質転換された宿主細胞を使用することによって、同様に作製することができる。免疫学的に特定の抗原と反応する抗体は、in vivoにおいて、あるいはファージまたは類似のベクターにおける組換え抗体のライブラリーの選択などの組換え方法によって作製することができる。
【0049】
「キメラ」抗体には、異なる哺乳類の組み合わせから得られた抗体が含まれる。哺乳類は、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヤギまたはヒトであってよい。異なる哺乳類の組み合わせには、ヒトおよびマウスを原料とする断片の組み合わせが含まれる。
【0050】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、モノクローナル抗体(MAb)、一般的にヒトモノクローナル抗体である。このような抗体は、抗原曝露に応答して特異的ヒト抗体を産生するように「操作」されたトランスジェニックマウスから得られる。これらの技術では、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子座の因子を、内在性重鎖および軽鎖遺伝子座を標的とした破壊を含有する胚性幹細胞系由来のマウス種に導入する。トランスジェニックマウスは、ヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、このマウスは、ヒト抗体分泌ハイブリドーマを作製するために使用することができる。
【0051】
ヒトにおいて使用するために、ヒトに投与された場合に著しい免疫原性を有さないのに十分なヒト配列を含有するキメラMAb、例えば、約80%ヒトおよび約20%マウス、または約85%ヒトおよび約15%マウス、または約90%ヒトおよび約10%マウス、または約95%ヒトおよび5%マウス、または約95%超ヒトおよび約5%未満マウスが好ましい。本発明で使用するために十分なヒト配列を備えたヒトBBBインシュリン受容体に対するキメラ抗体は、例えば、本明細書に全体を参考として援用したColoma他(2000)Pharm.Res.17:266〜274に記載されている。HIR MAbのより高度にヒト化された形態も操作することができ、ヒト化HIRMAbは、マウスHIRMAbと同程度の活性を有し、本発明の実施形態で使用することができる。本明細書に全体を参考として援用した2002年11月27日出願の米国特許出願公開第2004101904号を参照のこと。
【0052】
本発明で使用する抗体は、グリコシル化されていても、されていなくてもよい。抗体をグリコシル化する場合、抗体の機能に著しい影響を及ぼさないグリコシル化のパターンを使用することができる。グリコシル化は、抗体が生成される細胞に典型的な様式で行うことができ、細胞の種類に応じて変化させることができる。例えば、マウス骨髄腫細胞によって産生されたモノクローナル抗体のグリコシル化パターンは、形質移入されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されたモノクローナル抗体のグリコシル化パターンとは異なっていてよい。いくつかの実施形態では、抗体は、形質移入されたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されたパターンでグリコシル化される。
【0053】
したがって、いくつかの実施形態では、所望するレベルのヒト配列を備えた遺伝子的に操作されたHIR MAbを、BBBを通過する輸送が所望される薬剤、例えば、神経治療薬、例えば、ヒトBDNFなどのニューロトロフィンと融合して、二機能分子である組換え融合タンパク質を作製する。この組換え治療用神経保護因子/HIRMAbは、(i)BBB HIR上の輸送によって、ヒトBBBを通過し、(ii)末梢投与後、脳の内側に一旦入ったら神経治療効果を引き起こすために因子の標的、例えば、ニューロンBDNF受容体、trkBを活性化することができる。
【0054】
IV.BBBを通過して輸送するための薬剤
BBBを通過して輸送することが所望される薬剤は、CNSに導入するための任意の適切な物質であってよい。一般的に、この薬剤は、BBBを通過して輸送することが所望され、天然の形態では、有意な量でBBBを通過しない物質である。この薬剤は、例えば、治療薬、診断薬、または研究薬であってよい。診断薬には、ペプチド放射線医薬品、例えば、脳癌を画像診断するための上皮成長因子(EGF)(Kurihara and Pardridge(1999)Canc.Res.54:6159〜6163)、およびアルツハイマーなど脳アミロイドを画像診断するためのアミロイドペプチド(Lee他(2002)J.Cereb.Blood Flow Metabol.22:223〜231)が含まれる。いくつかの実施形態では、この薬剤は、治療薬、例えば神経治療薬である。ニューロトロフィンの他に、潜在的に有用な治療用タンパク質剤には、リソソーム蓄積症のための組換え酵素(例えば、本明細書に全体を参考として援用した2005年2月17日出願の米国特許出願公開第20050142141号)、内在性ペプチドを模倣しているか、または脳障害のために内在性ペプチド、ポリペプチド、例えば、自閉症のためにセクレチンの作用を遮断するモノクローナル抗体(Ratliff−Schaub他(2005)Autism9:256〜265)、薬物またはアルコール中毒のためのオピオイドペプチド(Cowen他(2004)、J.Neurochem.89:273〜285)、あるいは食欲制御のための神経ペプチド(Jethwa他(2005)Am.J.Physiol.289:E301〜305)が含まれる。いくつかの実施形態では、この薬剤は、本明細書では「ニューロトロフィン」とも呼ばれる神経栄養因子である。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、ニューロトロフィンを利用する組成物および方法を提供する。いくつかの実施形態では、単一のニューロトロフィンを使用できる。その他では、ニューロトロフィンの組み合わせを使用する。いくつかの実施形態では、本発明は、脳由来神経栄養因子(BDNF)を利用する。
【0055】
A.ニューロトロフィン
多くの神経栄養因子は、脳において神経を保護するが、血液脳関門を通過できない。これらの因子は、本発明の組成物および方法で使用するために適しており、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成蛋白質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンおよび幹細胞因子(SCF)が含まれる。BBBを通過する融合タンパク質の前駆体として使用されるニューロトロフィンを利用した本発明のいくつかの実施形態で特に有用なのは、BDNFと同様に自然に二量体構造を形成するものである。BDNFまたはNT−3などのある種のニューロトロフィンは、異種二量体構造を形成することができ、いくつかの実施形態では、本発明は、抗体、例えば、HIRMAbの1本目の鎖(例えば、軽鎖または重鎖)に融合した1個のニューロトロフィン単量体および抗体の2本目の鎖(例えば、軽鎖または重鎖)に融合した別のニューロトロフィン単量体から構成された融合タンパク質を提供する。一般的に、分子版トロイの木馬に融合させることができる組換えタンパク質の分子量範囲は、1000ダルトンから500000ダルトンである。
【0056】
B.脳由来神経栄養因子
本発明の実施形態で特に有用な1ニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子(BDNF)である。BDNFは、多くの急性および慢性脳疾患において神経保護薬として使用できる強力な神経治療薬である。しかし、BBBを通過してBDNFを輸送できないことは、脳および脊髄のための神経治療薬としてこの分子を開発することの妨げとなってきた。
【0057】
BDNFは、急性および慢性脳疾患の治療に有用な神経治療薬である。実験的脳卒中では、BDNFを脳内投与すると、神経保護作用がある。全脳虚血では、例えばその後心停止が起こる可能性があり、BDNFを脳内に直接投与すると神経保護作用がある。プリオン病、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)または筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの慢性神経変性疾患の実験モデルでは、BDNFを直接脳内に注射すると神経保護作用がある。
【0058】
実験的に脳疾患においてBDNFの薬理学的効果を示す研究では、脳内薬剤送達方法に従ってニューロトロフィンを直接脳に投与することが必要である。この脳内薬剤送達は、BDNFが、in vivoにおいて血液脳関門(BBB)を形成する脳の毛細血管壁を通過しないので必要である。BBBを通過してBDNFを輸送することができないので、BBBを実験的に破壊しなければ、末梢投与後ニューロトロフィンを脳または脊髄を含むCNSに移行させることは不可能である。臨床試験では、BDNFの皮下投与が慢性神経変性症状の治療に効果がないのは、BBBを通過してBDNFを輸送することができないためであることが示された。末梢投与した後、CNS治療薬としてBDNFを利用できないことは予測通りで、神経治療薬、特にBDNFなどの高分子薬の開発では、BBBが担う制限的役割の結果である。BDNFは、BBBを通過せず、BBBを通過してニューロトロフィンを輸送することができないため、末梢投与した後、分子が脳で薬理学的な活性を生じることができない。BBBを通過してBDNFを輸送することができないことは、CNSで薬理学的に活性を生じるためには、頭蓋骨を通過して、脳内に直接ニューロトロフィンを注入しなければならないことを意味する。しかし、BDNFをHIR MAbなどのトロイの木馬に融合させると、このニューロトロフィンは、非侵襲的な末梢投与経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、または経口投与によっても、血液から脳に移行させることができる。この新種の分子がBBBを通過する特性のおかげで、頭蓋骨または脊柱管の貫通を必要とする侵襲性の送達方法によってBDNFを直接CNSに投与することは必要ない。BDNF変種およびHIR MAbを再調製した融合タンパク質は、血液から脳にBDNFを移行することができ、ヒト疾患の神経治療薬としてBDNFの開発を可能にする。
【0059】
本明細書で使用したように、「BDNF」という用語には、薬学的に許容される塩およびプロドラッグ、ならびに塩のプロドラッグ、天然に生じるBDNFの多形、水和物、溶媒和物、生物学的に活性のある断片、生物学的に活性のある変種および立体異性体、ならびに天然に生じるBDNFのアゴニスト、模倣物およびアンタゴニスト変種およびそれらのポリペプチド融合物が含まれる。BDNFの天然の配列に1個または複数の欠失、置換または挿入を含む変種、特にアミノ末端、カルボキシ末端またはその両方に1個または複数のアミノ酸の欠失を含む天然のBDNFの切断型変種は、「BDNF」という用語によって包含される。いくつかの実施形態では、本発明は、天然BDNFのカルボキシ切断型変種、例えば、BDNFのカルボキシ末端の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または10個を上回るアミノ酸が欠如した変種を使用する。BDNF変種には、融合タンパク質変種が高い親和性で脳神経保護受容体にまだ結合する限り、アミノ酸119個の完全なBDNF、カルボキシル末端が切断されたアミノ酸117または118個の変種、アミノ末端が切断された変種、またはアミノ酸組成の約20、30もしくは40%までが変化している変種が含まれる。Ab、例えば、HIRMAbなどのMAbを使用する場合、融合タンパク質が内在性受容体、例えば、HIRに高親和性で結合して、ヒトBBBを通過する輸送を促進する限り、Ab、例えば、HIRMAbの軽鎖もしくは重鎖のいずれかのフレームワーク領域(FR)または相補性決定領域(CDR)内のアミノ酸が置換された他の融合タンパク質変種を作製することができる。他の融合タンパク質変種は、組成物またはHIRMAbから融合タンパク質を分離するリンカーペプチドの長さを変化させることによって作製することができる。
【0060】
いくつかの実施形態では、BDNFの完全長アミノ酸119個配列(配列番号39)が利用される。いくつかの実施形態では、BDNFのカルボキシの1個のアミノ酸が切断された変種(配列番号39のアミノ酸1〜118)が利用される。いくつかの実施形態では、BDNFのカルボキシの2個のアミノ酸が切断された変種(配列番号39のアミノ酸1〜117)が利用される。いくつかの実施形態では、BDNFのカルボキシの3個のアミノ酸が切断された変種(配列番号39のアミノ酸1〜116)が利用される。いくつかの実施形態では、BDNFのカルボキシの4個のアミノ酸が切断された変種(配列番号39のアミノ酸1〜115)が利用される。いくつかの実施形態では、BDNFのカルボキシの5個のアミノ酸が切断された変種(配列番号39のアミノ酸1〜114)が利用される。
【0061】
ヒトBDNFの配列を配列番号39に示す。いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号39の配列と約60、70、80、90、95、99または100%同一であるBDNF、またはそれらの切断型変種、例えば、1個または2個のアミノ酸が切断されたカルボキシル末端を有するアミノ酸117個もしくは118個の変種、あるいは切断されたアミノ末端を有する変種を利用する。いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一な配列を備えた、アミノ酸2個が切断されたカルボキシ切断型のアミノ酸117個のヒトBDNF変種を利用する。いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号24のアミノ酸466〜582を含む配列を備えた、アミノ酸が2個切断されたカルボキシル切断型のアミノ酸117個のヒトBDNFを利用する。
【0062】
したがって、本発明に有用なBDNFには、本明細書で開示したアミノ酸配列と、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%または95%超または99%超、例えば、100%の配列同一性を有するペプチドが含まれる。
【0063】
パーセント配列同一性は、従来の方法によって測定される。例えば、Altschul他、Bull.Math.Bio.48:603(1986)、およびHenikoff and Henikoff、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915(1992)を参照のこと。簡単に説明すると、ギャップ開始ペナルティ10、ギャップ伸長ペナルティ1およびHenikoff and Henikoff(前述)の「BLOSUM62」スコアリングマトリクスを使用して、アラインメントスコアを最適化するために、2個のアミノ酸配列を整列される。次に、パーセント同一性は、([同一マッチの総数]/[長い配列の長さおよび2個の配列を整列されるために長い配列に導入されたギャップの数])(100)として算出する。
【0064】
当業者であれば、2個のアミノ酸配列を整列されるために利用できる多くの確立されたアルゴリズムがあることは理解している。Pearson and Lipmanの「FASTA」類似性検索アルゴリズムは、本明細書で開示したアミノ酸配列および別のペプチドのアミノ酸配列によって共有される同一性のレベルを調べるために適切なタンパク質アラインメント法である。FASTAアルゴリズムは、Pearson and Lipman、Proc Nat’l Acad.Sci.USA 85:2444(1988)およびPearson、Meth.Enzymol.183:63(1990)によって記載されている。簡単に説明すると、FASTAは最初に、保存的アミノ酸置換、挿入または欠失を考慮せずに、検索配列(例えば、配列番号24または配列番号39)および最高密度の一致(ktup値が1の場合)または対の一致(ktup=2の場合)のいずれかを有する試験配列によって共有される領域を同定することによって配列類似性を特徴付ける。次に、10個の最高密度の一致領域を、アミノ酸置換マトリクスを使用して全対のアミノ酸の類似性を比較することによって再評価し、領域の末端を「整える」ことによって最高スコアに関与する残基のみを含むようにする。「カットオフ」値(配列の長さおよびktup値をベースにした予め決定した式によって計算)を上回るスコアを有するいくつかの領域がある場合、ギャップを有する近似アラインメントを形成するためにこれらの領域を結合させることができるかどうかを決定するために、整えた最初の領域を調べる。最後に、2個のアミノ酸配列のスコアが最高の領域を、アミノ酸の挿入および欠失が可能なNeedleman−Wunsch−Sellersアルゴリズム(Needleman and Wunsch、J.Mol.Biol.48:444(1970)、Sellers、SIAM J.Appl.Math.26:787(1974))の変法を使用して整列させる。FASTA分析のパラメータの例は、ktup=1、ギャップ開放ペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=1および置換マトリクス=BLOSUM62である。これらのパラメータは、Pearson、Meth.Enzymol.183:63(1990)の付録2に説明されているように、スコアリングマトリクスファイル(「SMATRIX」)を変更することによってFASTAプログラムに導入することができる。
【0065】
本発明はまた、本明細書で開示したアミノ酸配列と比較して、保存的アミノ酸変化を有するペプチドを含む。多くのこのような変化は具体的に記載されてきた。より一般的には、例えば、配列番号33の1個または複数のアミノ酸置換を含有する変種、またはその切断型変種、例えば、配列番号24のアミノ酸466〜582を得ることができる。これらの変種では、例えば、アルキルアミノ酸は、BDNFペプチドアミノ酸配列のアルキルアミノ酸と置換され、芳香族アミノ酸は、BDNFペプチドアミノ酸配列の芳香族アミノ酸と置換され、硫黄含有アミノ酸は、BDNFペプチドアミノ酸配列の硫黄含有アミノ酸と置換され、ヒドロキシ含有アミノ酸は、BDNFペプチドアミノ酸配列のヒドロキシ含有アミノ酸と置換され、酸性アミノ酸は、BDNFペプチドアミノ酸配列の酸性アミノ酸と置換され、塩基性アミノ酸はBDNFペプチドアミノ酸配列の塩基性アミノ酸と置換され、または二塩基性モノカルボキシリックアミノ酸は、BDNFペプチドアミノ酸配列の二塩基性モノカルボキシリックアミノ酸と置換される。共通アミノ酸の中でも、例えば、「保存的アミノ酸置換」は、以下の群、(1)グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン、(3)セリンおよびトレオニン、(4)アスパラギン酸およびグルタミン酸、(5)グルタミンおよびアスパラギン、および(6)リシン、アルギニンおよびヒスチジンのそれぞれの中のアミノ酸間の置換によって例示される。BLOSUM2表は、タンパク質配列部分の約2000個の局所マルチプルアラインメントから得られたアミノ酸置換マトリクスであり、500個を上回る関連タンパク質群の保存性の高い領域を表している(Henikoff and Henikoff、Proc. Nat’l Acad.Sci.USA 89:10915(1992))。したがって、BLOSUM62置換頻度は、本発明のアミノ酸配列に導入することができる保存的アミノ酸置換を限定するために使用することができる。化学特性だけに基づいてアミノ酸置換を設計することは可能であるが(前述の通り)、「保存的アミノ酸置換」という用語は、−1を上回るBLOSUM62値によって表される置換を意味することが好ましい。例えば、アミノ酸置換は、その置換がBLOSUM62値0、1、2または3を特徴とするならば、保存的である。このシステムに従って、好ましい保存的アミノ酸置換の特徴は、BLOSUM62値が少なくとも1(例えば、1、2または3)であり、より好ましい保存的アミノ酸置換の特徴は、BLOSUM62値が少なくとも2(例えば、2または3)である。
【0066】
アミノ酸配列は、他の残基、例えば、追加的N−またはC−末端アミノ酸を含んでいてよく、配列が本発明の組成物および方法において機能を果たすために十分な生物学的タンパク質活性を保持する限り、まだ本質的に本明細書で開示した配列の1つで記載した通りであることも理解されたい。
【0067】
V.組成物
本発明の組成物は、陽イオン化合物の血清半減期の延長、BBBを通過する薬剤の輸送、および/またはBBBを通過して一旦輸送された薬剤の活性の保持の1種または複数において有用である。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した神経治療薬を含有する組成物であって、末梢投与後、脳内の神経治療薬の濃度を平均して少なくとも約1、2、3、4、5、10、20、30、40または50ng/グラム脳上昇させることができる組成物を提供する。本発明はまた、ヒトBBBインシュリン受容体に対するキメラMAbに共有結合した薬剤を含有する組成物を提供する。本発明はさらに、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドに共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のあるペプチドはそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99または100%を保持している融合タンパク質を提供する。ある種の実施形態では、本発明はさらに、陽イオン物質の血清半減期を延長する組成物を提供する。本発明はまた、本発明の1個または複数の組成物および薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物を提供する。
【0068】
いくつかの実施形態では、本発明は、血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した神経治療薬を含有する組成物であって、末梢投与後、脳内の神経治療薬の濃度を平均して少なくとも約1、2、3、4、5、10、20、30、40または50ng/グラム脳上昇させることができる組成物を提供する。
【0069】
薬剤の「上昇」とは、単独で投与された(すなわち、BBBを通過することができる構造に共有結合していない)薬剤の濃度と比較した薬剤の脳内での濃度の増加である。薬剤単独の少量のみが通常BBBを通過する薬剤の場合、「上昇」は、一定の脳レベルと比較して、薬剤の増加であってよい。「平均」とは、好ましくは異なる個体における少なくとも3、4、5または5個を上回る測定の平均のことである。上昇を測定する個体は、哺乳類、例えば、ラット、または、好ましくは、霊長類、例えば、サルである。神経治療薬(BDNF)のレベルの上昇の測定の一例を実施例7に示す。
【0070】
いくつかの実施形態では、BBBを通過することができる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送系、例えば、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、LDL受容体またはIGF受容体を利用する系を利用する。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介輸送系は、インシュリンBBB受容体媒介輸送系である。いくつかの実施形態では、BBBを通過することができる構造は、抗体、例えば、キメラMAbなどのモノクローナル抗体(MAb)である。この抗体は、ヒトへの投与に適した十分なヒト配列を備えたキメラ抗体であってよい。抗体は、グリコシル化または非グリコシル化されていてよく、いくつかの実施形態では、抗体は、例えば、CHO細胞においてその合成によって形成されたグリコシル化パターンで、グリコシル化されている。この構造が抗体である実施形態では、抗体と神経治療薬との間の共有結合は、抗体−薬剤融合物が血液脳関門を通過するのを可能にして、神経治療薬がCNS内においてその活性の治療上有用な部分を保持している限り、抗体の任意の適切な部分と神経治療薬との間の結合であってよい。ある実施形態では、共有結合は、抗体の1本または複数の軽鎖と神経治療薬との間である。ペプチド神経治療薬(例えば、BDNFなどのニューロトロフィン)の場合、ペプチドは、そのカルボキシまたはアミノ末端によって抗体の軽鎖(LC)または重鎖(HC)のカルボキシまたはアミノ末端に共有結合させることができる。任意の適切な結合、例えば、軽鎖のカルボキシ末端からペプチドのアミノ末端、重鎖のカルボキシ末端からペプチドのアミノ末端、軽鎖のアミノ末端からペプチドのアミノ末端、重鎖のアミノ末端からペプチドのアミノ末端、軽鎖のカルボキシ末端からペプチドのカルボキシ末端、重鎖のカルボキシ末端からペプチドのカルボキシ末端、軽鎖のアミノ末端からペプチドのカルボキシ末端、または重鎖のアミノ末端からペプチドのカルボキシ末端を使用することができる。いくつかの実施形態では、この結合は、HCのカルボキシ末端からペプチドのアミノ末端である。末端アミノ酸の間の結合は必要ではなく、本発明の必要性に合致する任意の結合を使用でき、ペプチドの非末端アミノ酸の間のこのような結合は、当業者によって容易に実施されることを理解されたい。
【0071】
いくつかの実施形態では、本発明は、天然型または切断変種のいずれかのBDNFを利用する。すばらしいことに、BDNFのこれらの型の融合タンパク質は完全な輸送および活性を保持していることが発見された。ニューロトロフィンは細胞内でin vivoにおいてプレプロ型として翻訳され、プレプロ−BDNFは次に、BDNFのアミノ末端からプレプロペプチドが切断されてから成熟BDNFに変換されるので、これは驚くべきことである。BDNFのプレプロ型およびプレプロペプチドのその後の切断の可能性を保存するために、プレプロBDNFを標的MAbのHCまたはLCのいずれかのアミノ末端に融合させることが必要と思われる。MAbの抗原結合部位を含むMAb分子の重鎖または軽鎖の相補性決定領域(CDR)は、抗体の重鎖または軽鎖のアミノ末端近くに配置されているので、これによって、標的抗原にMAbが結合するのを阻害することができた。したがって、抗体鎖のアミノ末端へのプレプロニューロトロフィンの融合は、抗体活性を弱めるだけでなく、翻訳後の抗体の折りたたみを損なうことも予測される。本発明は、ニューロトロフィン、例えば、BDNF変種(vBDNF)の成熟型をHIR MAbの重鎖のカルボキシル末端に融合させることができるという予期せぬ発見を示している。この新たな遺伝子操作融合タンパク質の産生によって、HIRおよびtrkB受容体の両方に高い親和性で結合する二機能性分子が創出される。
【0072】
いくつかの実施形態では、同じ神経治療薬の複数の分子がBBBを通過する構造に結合している。例えば、1個のニューロトロフィンが抗体に結合している本発明の組成物では、ニューロトロフィンの1個の分子が各重鎖に結合しており、ホモ二量体形成に理想的な構造が自然に生成される。これは、BDNFを含有する組成物の場合である。BDNFなどのニューロトロフィンは、生物学的活性があり、コグネイト受容体、例えば、trkBに高い親和性で結合するホモ二量体構造を強制的に形成することが必要である。図18に例示したように、2個のBDNF分子の間で天然に生じるホモ二量体構造は、ニューロトロフィンがIgG分子のCH3領域のカルボキシル末端に融合された場合に形成される。理論に結びつけはしないが、IgGに結合した場合、BDNFの活性の本質的に100%が予期せず見いだされたことは、これによって説明することができると考えられる(例えば、図24参照)。
【0073】
いくつかの実施形態では、神経治療薬の複数の種類を、血液脳関門を通過できる構造に結合させることができる。いくつかの実施形態では、2、3、4、5、6、7、8、9、10個または10個を上回る様々な神経治療薬を、血液脳関門を通過できる構造に結合させることができる。ある実施形態では、2種の異なるニューロトロフィンを、内在性BBB受容体媒介輸送系に対する抗体に結合させる。ニューロトロフィンの組み合わせを使用することができる。本発明のいくつかの実施形態で特に有用なのは、BBBを通過する融合タンパク質の前駆体として使用されるニューロトロフィンで、BDNFと同様に自然に二量体構造を形成するものである。BDNFまたはNT−3などのある種のニューロトロフィンは、異種二量体構造を形成することができ、いくつかの実施形態では、本発明は抗体、例えば、HIRMAbの1本目の鎖(例えば、重鎖)に融合した1個のニューロトロフィン単量体および抗体の2本目の鎖に融合した別のニューロトロフィン単量体から構成された融合タンパク質を提供する。一般的に、分子版トロイの木馬に融合させることができる組換えタンパク質の分子量範囲は、1000ダルトンから500000ダルトンである。
【0074】
いくつかの実施形態では、BBBを通過できる構造の複数の種類、例えば、分子版トロイの木馬を使用できる。様々な構造は、単一の神経治療薬、例えば、BDNFなどの単一のニューロトロフィン、または複数の神経治療薬、例えば、複数のニューロトロフィン、またはそれらの任意の組み合わせに共有結合させることができる。したがって、例えば、いくつかの実施形態では、各MTHに同一のニューロトロフィンを結合させるか、または様々なニューロトロフィンを結合させるか、またはニューロトロフィンの組み合わせを結合させる。したがって、神経保護組換えタンパク質は、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、インシュリン様成長因子(IGF)受容体、または低密度リポタンパク質(LDL)受容体に対するモノクローナル抗体あるいはインシュリン、トランスフェリン、IGFまたはLDLを含む内在性リガンドを含む、血液脳関門を通過して受容体媒介輸送される複数の分子版トロイの木馬に融合させることができる。吸収性媒介輸送によって血液脳関門を横断するリガンドはまた、陽イオンタンパク質、または膜レクチンに結合する炭水化物を備えたタンパク質を含む分子版トロイの木馬として使用できる。分子版トロイの木馬の分子量範囲は、1000ダルトンから500000ダルトンである。
【0075】
BBBを通過できる構造と神経治療薬との間の共有結合は、直接的(例えば、1ペプチドの末端アミノ酸と、それが結合したその他のペプチドの末端アミノ酸との間のペプチド結合)であるか、またはリンカーを介して間接的であってよい。リンカーを使用する場合、任意の適切なリンカー、例えば、ペプチドリンカーであってよい。ペプチドリンカーを使用する場合、アミノ酸長は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または10を上回ってよい。いくつかの実施形態では、3個のアミノ酸リンカーを使用する。いくつかの実施形態では、リンカーは、配列ser−ser−metである。共有結合は切断可能であってよいが、いくつかの実施形態では、切断はその系の活性には必要ではなく、実際に、本発明のこれらの実施形態の利点は、融合タンパク質は、切断されなくても、BBBを一旦通過すると、輸送と活性の両方について部分的に、または完全に活性を有することである。
【0076】
いくつかの実施形態では、非共有結合を使用できる。MTH、例えば、MAbの高分子治療用神経保護因子への非共有的結合の一例は、アビジン/ストレプトビオチン結合である。このような取り組みはさらに、本明細書に全体を参考として援用した、2005年4月21日出願の米国特許出願第10/858729号、表題「薬剤送達用汎用ベクターとしての抗成長因子受容体アビジン融合タンパク質」に記載されている。
【0077】
神経治療薬は、任意の適切な神経治療薬、例えば、ニューロトロフィンであってよい。いくつかの実施形態では、神経治療薬は、ニューロトロフィン、例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)である。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンはBDNFである。BDNFは、天然BDNFまたはBDNF変種であってよい。いくつかの実施形態では、2アミノ酸カルボキシル切断型BDNFを利用する。BDNFは、ヒトBDNFであってよい。いくつかの実施形態では、BDNFは、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含有する。
【0078】
いくつかの実施形態では、本発明はBBBを通過できる構造に共有結合した神経治療薬を含有する組成物であって、末梢投与後、脳内の神経治療薬の濃度を平均して少なくとも約1、2、3、4、5、10、20、30、40または50ng/グラム上昇させることができ、神経治療薬がニューロトロフィンであり、BBBを通過できる構造が内在性BBB受容体媒介輸送系に対するMAbである組成物を提供する。抗体は、グリコシル化または非グリコシル化されていてよく、いくつかの実施形態では、抗体は、例えば、CHO細胞においてその合成によって形成されたグリコシル化パターンで、グリコシル化されている。ある種の実施形態では、ニューロトロフィンは、BDNF、例えば、2アミノ酸カルボキシ切断型BDNFである。MAbは、インシュリンBBB受容体媒介輸送系に対する抗体、例えば、キメラMAbであってよい。この抗体は、ヒトへの投与に適した十分なヒト配列を備えたキメラ抗体であってよい。いくつかの実施形態では、インシュリン受容体は、ヒトインシュリン受容体であり、BDNFはヒトBDNFである。いくつかの実施形態では、BDNFは、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含有する。BDNFは、そのアミノ末端で重鎖のカルボキシ末端に、所望により、末端間にリンカー、例えば、アミノ酸3個のリンカーser−ser−metをはさんで共有結合することができる。いくつかの実施形態では、MAbの重鎖は、配列番号24のアミノ酸20〜462と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、MAbの軽鎖は、配列番号36のアミノ酸21〜234と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含有する。
【0079】
いくつかの実施形態では、本発明は、融合MAbを含有する組成物であって、この融合MAbが2アミノ酸カルボキシ切断型ヒトBDNFに結合したヒトインシュリンBBB受容体媒介輸送系に対する抗体である組成物を提供する。BDNFは、そのアミノ末端を介して、抗体の重鎖のカルボキシ末端にser−ser−metリンカーによって結合している。この抗体は、ヒトへの投与に適した十分なヒト配列を備えたキメラ抗体である。いくつかの実施形態では、本発明は、重鎖−BDNF融合物を備えた融合MAbを含有する組成物であって、前記融合MAb軽鎖が、配列番号36のアミノ酸配列21〜234に少なくとも約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%または約99%同一であるか、または実質的に100%同一であり、前記重鎖−BDNF融合物が、配列番号24のアミノ酸20〜582に少なくとも約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%または約99%同一であるか、または実質的に100%同一である組成物を提供する。
【0080】
本発明はまた、ヒトBBBインシュリン受容体に対するキメラMAbに共有結合した薬剤を含有する組成物を提供する。いくつかの実施形態では、融合タンパク質を形成するために、MAbの重鎖を薬剤に共有結合させる。薬剤は、本明細書で記載した任意の薬剤であってよく、すなわち、BBBを通過して輸送するための任意の薬剤が望ましい。いくつかの実施形態では、この薬剤は、治療薬、例えば、本明細書で記載した神経治療薬、例えばBDNFなどのニューロトロフィンである。ある実施形態では、BDNFは、2アミノ酸カルボキシル末端切断型BDNFである。
【0081】
驚くべきことに、本発明の多機能融合タンパク質、例えば、2機能性融合タンパク質は、別々の部分、例えば、BBBを通過できる部分およびCNSで活性のある部分の活性を高い割合で保持していることが発見された。したがって、本発明はさらに、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドと共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のある前記ペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99または100%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドと共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のある前記ペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約50%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドと共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のある前記ペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約60%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドと共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のある前記ペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約70%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドと共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のある前記ペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約80%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチドと共有結合した、BBBを通過することができる構造を含有する融合タンパク質であって、前記血液脳関門を通過できる構造および中枢神経系で活性のある前記ペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約90%を保持している融合タンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、血液脳関門を通過できる構造は、別々の実体としての活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持しており、中枢神経系において活性のあるペプチドは、別々の実体としての活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している。
【0082】
本明細書で使用したように、「活性」には、生理学的活性(例えば、BBBを通過する能力および/または治療活性)が含まれ、構造のそれぞれの受容体に対する結合親和性も含まれる。
【0083】
BBBを通過できる構造のBBBを通過する輸送は、標準的方法によって、単独の構造および本発明の融合構造の一部としての構造と比較することができる。例えば、モデル動物、例えば、霊長類などの哺乳類による融合構造、例えば、融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込みを使用することができる。このような技術は、薬物動態および成体アカゲザルによる本発明の融合タンパク質の脳への取り込みを示した実施例7に例示されている。同様に、薬剤単独の機能と本発明の融合構造の一部としての薬剤の機能とを比較するために、薬剤の機能、例えば、治療薬の治療機能または予防機能の標準的モデルも使用することができる。例えば、ニューロトロフィン単独および融合タンパク質に結合させた同じニューロトロフィンの活性をモデル系(ヒト神経細胞における低酸素症−再酸素化)において示した実施例5を参照のこと。実施例5および実施例7の両方では、本発明の融合タンパク質は、個々の成分、すなわち、BBBを通過できる構造(ヒトインシュリン受容体に対するMAb)および治療薬(BDNF)の輸送能力および治療機能の約100%保持していた。
【0084】
あるいは、受容体に対する結合親和性を、活性のマーカーとして使用することができる。受容体に対する結合親和性を、構造単独の場合と、融合タンパク質の一部の場合の構造の場合とを比較する。結合親和性測定法の適切な種類は、競合リガンド結合測定法(CLBA)である。例えば、ニューロトロフィンに融合した内在性BBB受容体媒介輸送系に対するMAbを含有する融合タンパク質では、CLBAは、融合タンパク質の一部として、または別々の実体として、MAbのその受容体に対する親和性およびニューロトロフィンのその受容体に対する親和性の両方を測定するために使用することができ、親和性の割合を算出する。いくつかの実施形態におけるように、CNSで活性のあるペプチドのイオン性、例えば、陽イオン性が強く、程度の強い非特異的結合を引き起こす場合、非特異的結合を排除するために適切な測定法を採用すべきである。例えば、実施例4を参照のこと。「平均」測定値は、少なくとも3つの別々の測定値の平均である。
【0085】
前記の融合タンパク質のいくつかの実施形態では、血液脳関門を通過することができる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送体、例えば、インシュリン輸送体、トランスフェリン輸送体、レプチン輸送体、LDL輸送体およびIGF受容体からなる群から選択された輸送体上でBBBを通過する。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介輸送体は、インシュリン輸送体またはトランスフェリン輸送体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介輸送体は、インシュリン輸送体、例えば、ヒトインシュリン輸送体である。BBBを通過できる構造は、抗体、例えば、キメラMAbなどのMAbである。抗体は、本明細書で記載したように、内在性BBB受容体媒介輸送体に対する抗体である。CNSで活性のあるペプチドは、神経治療薬、例えば、ニューロトロフィンであってよい。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンは、脳由来神経栄養因子、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンは、切断型BDNFなどのBDNF、例えば、カルボキシ切断型BDNFである。カルボキシル切断型BDNFは、いくつかの実施形態では2個のカルボキシル末端アミノ酸を欠如している。BBBを通過できる構造および神経治療薬は、いくつかの実施形態では、ペプチドリンカーによって共有結合している。
【0086】
ある種の実施形態では、本発明は、陽イオン物質の血清半減期を延長する組成物を提供する。現在の多くの治療薬、特に陽イオン治療用ペプチド(例えば、BDNF)の1つの限界は、循環系から速やかに排泄されることである。陽イオン物質、例えば、陽イオンペプチドの正電荷は、細胞膜の負電荷と迅速に相互作用し、細胞内、特に肝臓および脾臓への吸収性媒介エンドサイトーシスの引き金となる。これは、神経治療薬だけでなく(迅速な排泄がBBBとの接触のみを制限し、そうしてBBBを通過する能力を制限することを意味する)、その他の薬剤、例えば、tatペプチドなどの陽イオン性の移入ペプチド、または核酸に結合する陽イオンタンパク質(例えば、プロタミン、ポリリシン、ポリアルギニン)またはビオチン化薬剤に結合するアビジンなどの陽イオンタンパク質にとっても事実である。驚くべきことに、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含む本発明の融合組成物は、融合イムノグロブリンの共有部分とはなっていない同様のペプチドと比較して血清半減期を非常に増強させることが示されている。強い陽イオン性のタンパク質、例えば、BDNFのイムノグロブリン、例えば、HIRMAbへの融合は、2つの重要で、予期できない効果、1)陽イオンタンパク質の血清半減期を非常に増強する効果、2)結合したイムノグロブリンの血液クリアランスを加速しないことを有する効果を有することが示されたので、これは重要な発見である。予備研究によって、BDNFの陽イオン性によって、陽イオン治療用ペプチド、例えば、陽イオンBDNFのモノクローナル抗体への非共有結合が、抗体の血液クリアランスを非常に加速し、肝臓での取り込みの非常に促進することが示されている。図27Aおよび実施例7の実験は、陽イオン治療用ペプチド、例えば、BDNFはIgG融合タンパク質として再度操作されると、血漿での薬物動態がIgG部分によって支配され、BDNFの血液レベルが長期間高く維持され、実際に、融合タンパク質中のBDNFの血清半減期がBDNF単独の場合の少なくとも約100倍となることを示している。
【0087】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含む組成物であって、この組成物中の陽イオン治療用ペプチドの血清半減期が、陽イオン治療用ペプチド単独の血清半減期の、平均して少なくとも約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100であるか、または約100倍を上回る組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含む組成物であって、この組成物中の陽イオン治療用ペプチドの血清中の平均滞留時間(MRT)が、陽イオン治療用ペプチド単独の血清半減期よりも平均して少なくとも約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100倍であるか、または約100倍を上回る組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含む組成物であって、この組成物中の陽イオン治療用ペプチドの全身クリアランス速度が、陽イオン治療用ペプチド単独の全身クリアランス速度よりも平均して少なくとも約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100倍であるか、または約100倍を上回る組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含む組成物であって、この組成物中の陽イオン治療用ペプチドの末梢投与後の平均血液レベルが、陽イオン治療用ペプチド単独を末梢投与後の平均血液レベルの、平均して少なくとも約1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、50、60、70、80、90、100倍であるか、または約100倍を上回る組成物を提供する。
【0088】
いくつかの実施形態では、この陽イオン治療用ペプチドは、神経治療薬を含む。陽イオンペプチドである神経治療薬の例は、インターフェロン、インターロイキン、サイトカイン、または等電点(pI)が8を上回る成長因子である。いくつかの実施形態では、この神経治療薬は、ニューロトロフィンである。陽イオンペプチドニューロトロフィンには、BDNF、NT−3、NT−4/5、NGFおよびFGF−2が含まれる。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンはBDNFである。
【0089】
いくつかの実施形態では、イムノグロブリンは、内在性BBB受容体媒介輸送系に対する抗体である。いくつかの実施形態では、この内在性BBB受容体媒介輸送系は、インシュリンBBB輸送系、BBBトランスフェリン受容体、BBBレプチン受容体、BBB IGF受容体、またはBBBリポタンパク質受容体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、抗体は、内在性インシュリンBBB受容体媒介輸送系に対する抗体である。抗体は、本明細書で記載したような任意の適切な抗体であってよい。
【0090】
医薬組成物。本発明はまた、本発明の1個または複数の組成物および薬学的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物を提供する。薬学的に許容される担体/賦形剤の十分な検討は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro、AR編、第20版、2000:Williams and Wilkins PA、USAに見いだすことができる。本発明の医薬組成物には、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内注射、経口、直腸、頬膜貫通、肺、経皮、鼻腔内および末梢投与に適したその他の経路を含む任意の末梢経路によって投与するために適した組成物が含まれる。
【0091】
本発明の組成物は、注射、例えば、静脈内、皮下、筋肉内または腹腔内投与のための医薬組成物として特に適している。本発明の水性組成物には、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散させることができる本発明の組成物の有効量が含まれる。「薬学的に、または薬理学的に許容できる」という用語は、適切であれば、動物、例えば、ヒトに投与された場合に有害な、アレルギー性またはその他の望ましくない反応を生じない分子体および組成物のことである。本明細書で使用したように、「薬学的に許容される担体」には、溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張薬および吸収遅延剤などのいずれかまたは全てが含まれる。薬学的に活性のある物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当業界では周知である。任意の従来の媒体または薬剤が活性成分に不適合である場合を除いて、治療組成物中におけるその使用は企図される。補助的な活性成分も組成物に組み入れることができる。
【0092】
注射可能な組成物のための薬学的に許容される担体の例には、例えば、無機酸塩、例えば、塩化水素酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など、および有機酸の塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などが含まれる。例えば、本発明の組成物は、液体の形態で提供することができ、pHを変化させた(5〜8)生理的食塩水をベースにした水性溶液中で、ポリソルベート−80などの界面活性剤0.01〜1%、またはマンニトール、ソルビトールもしくはトレハロースなどの炭水化物添加物を含めるか、または含めないで、製剤化することができる。通常使用する緩衝液には、ヒスチジン、酢酸塩、リン酸塩またはクエン酸塩が含まれる。通常の保存および使用の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防御するために保存剤を含有することができる。微生物作用の防御は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能組成物の持続吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に使用することによってもたらすことができる。
【0093】
ヒト投与の場合、調製物は、FDAおよびその他の管理機関の基準によって必要とされる無菌性、発熱原性、一般的安全性および純度基準を満たす。活性化合物は一般的に、非経口投与用に製剤化され、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、病巣内または腹腔内経路によって注射するために製剤化される。活性成分または要素を含有する水性組成物の調製は、本発明の開示に照らし合わせれば当業者にはわかるであろう。一般的に、このような組成物は、液体の溶液または懸濁液のいずれかの注入物質として調製することができ、注射前に液体を添加することによって溶液または懸濁液を調製して使用するために適した固形にも調製することができ、調製物は乳化することもできる。
【0094】
滅菌注射溶液は、上記に列挙した様々なその他の成分を含む適切な溶媒に活性化合物を必要な量で取り入れ、必要であれば、その後濾過滅菌することによって調製する。一般的に、分散物は、様々な滅菌活性成分を、基礎分散培地および上記に列挙したものの必要なその他の成分を含有する滅菌媒体に取り入れることによって調製する。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、調製方法には、既に濾過滅菌したそれらの溶液から活性成分および任意の他の所望する成分の粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥技術が含まれる。
【0095】
製剤化されてから、溶液は、投与製剤に適合した方法で、治療上有効であるような量で投与される。製剤は、様々な剤形で、例えば、前述の注射溶液の形式で容易に投与されるが、薬剤放出カプセルなども使用することができる。
【0096】
「単位用量」という用語は、対象に使用するために適した単位を物理的に分離された単位を意味し、各単位は、投与、すなわち、適切な経路および治療計画に関連して、前述した所望する応答を生じるために計算された医薬組成物の予め決定された量を含有する。投与する量は、治療の数および単位用量の両方に従って、治療する対象、対象の状態および所望する防御に左右される。いずれにしても、投与に関与する人が、個々の対象のために適切な用量を決定する。
【0097】
活性のある治療薬は、用量当たり約0.0001から1.0ミリグラム、または約0.001から0.1ミリグラム、または約1.0から100ミリグラムまたは約0.01から1.0グラムなども含むように混合物中に処方することができる。複数用量も投与することができる。いくつかの実施形態では、本発明の融合タンパク質の約2.5から約25mg、例えば、BDNFおよびHIRMAbの融合タンパク質の約2.5から約25mgの投与量をヒトに対して投与するための単位用量として使用する。
【0098】
非経口投与、例えば、静脈内または筋肉内注射のために製剤化した化合物に加えて、限定はしないが、皮内投与(米国特許第5997501号、第5848991号および第5527288号を参照)、肺投与(米国特許第6361760号、第6060069号および第6041775号参照)、頬投与(米国特許第6375975号および第6284262号参照)、経皮投与(米国特許第6348210号および第6322808号参照)および経粘膜投与(米国特許第5656284号参照)を含む本発明のその他の代替投与法も使用できる。このような投与法は全て、当業界では周知である。鼻用溶液またはスプレー、エアロゾルまたは吸入剤などの本発明の鼻腔内投与も使用することができる。鼻用溶液は通常、滴剤またはスプレーで鼻腔に投与するように設計された水性溶液である。鼻用溶液は、鼻分泌物と多くの観点で類似するように調製される。したがって、水性鼻用溶液は通常等張で、pH5.5から6.5に維持されるように少し緩衝化されている。さらに、眼科用調製物で使用されるものと類似の抗菌保存液および適切な薬剤安定化剤は、必要であれば製剤に含めることができる。様々な市販の鼻用調製物が知られており、例えば、抗生物質が含まれ、抗ヒスタミン薬が喘息予防のために使用されている。
【0099】
その他の投与様式に適切な他の製剤には、座薬および膣座薬が含まれる。直腸座薬および座薬も使用できる。座薬は様々な重量および形状の固形剤形をしており、通常、直腸または尿道に挿入するために投薬される。挿入後、座剤は軟化し、腔内液体に溶融または溶解する。座薬では、従来の結合剤および担体には一般的に、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが含まれ、このような座薬は、任意の適切な範囲、例えば、0.5%から10%、好ましくは1%〜2%の範囲の活性成分を含有する混合物から形成することができる。
【0100】
経口用製剤には、例えば、医薬品等級のマンニトール、乳糖、澱粉、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの通常使用される賦形剤が含まれる。これらの組成物は、液体、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放製剤または粉末の形態をとる。ある種の限定された実施形態では、経口用医薬組成物は、不活性希釈剤または吸収可能な食用担体を含むか、または硬ゼラチンカプセルもしくは軟ゼラチンカプセルに封入してよく、または錠剤に圧縮してよく、または食事療法用の食品に直接組み入れてよい。経口治療用投与では、活性化合物は賦形剤と共に組み入れてよく、消化可能な錠剤、頬側錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、懸濁液、シロップ、カシェ剤などの形態で使用してよい。このような組成物および調製物は、活性化合物を少なくとも0.1%含有することができる。組成物および調製物の割合はもちろん変化させてよく、単位の重量の約2と約75%の間、または約25〜60%の間であると都合よくなり得る。このような治療上有用な組成物における活性化合物の量は、適切な投薬量が得られるようにする。
【0101】
錠剤、トローチ、丸剤、カプセルなどはまた、以下のもの、結合剤、例えば、トラガカントゴム、アカシアゴム、コーンスターチまたはゼラチン、賦形剤、例えば、リン酸2カルシウム、崩壊剤、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、アルギン酸など、光沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、および甘味剤、例えば、スクロース、乳糖またはサッカリンを含有することができ、矯味矯臭剤、例えば、ペパーミント、ウィンターグリーン油、またはチェリーフレーバを添加することができる。投与単位形態がカプセルの場合、前記の種類の物質に加えて、液体担体を含有することができる。様々なその他の物質は、コーティング剤として、またはその他の場合は、投与単位の物理的形態を変更するために存在させることができる。例えば、錠剤、丸剤またはカプセルは、シェラック、糖またはその両方でコーティングしてよい。エリキシルのシロップは、甘味剤として活性化合物スクロース、保存剤としてメチレンおよびプロピルパラベン、顔料および矯味矯臭剤、例えば、チェリーまたはオレンジフレーバを含有してよい。いくつかの実施形態では、経口用医薬組成物は、活性化合物を胃の環境から防御するために、腸溶コーティングしてよく、腸溶コーティング法および製剤は、当業界では周知である。
【0102】
VI.核酸、ベクター、細胞および製造法
本発明はまた、核酸、ベクター、細胞および製造法を提供する。
【0103】
A.核酸
いくつかの実施形態では、本発明は本発明のタンパク質またはペプチドをコードする核酸を提供する。ある種の実施形態では、本発明はイムノグロブリンの軽鎖をコードする第1の配列およびイムノグロブリンの重鎖をコードする第2の配列を含有する単一の核酸配列であって、前記第1の配列はまた、軽鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードするか、または前記第2の配列はまた、重鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする核酸配列を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、核酸配列を提供し、いくつかの実施形態では、本発明は、特定のヌクレオチド配列と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一な核酸配列を提供する。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、配列番号33のヌクレオチド58〜1386と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である第1の配列および配列番号33のヌクレオチド1396〜1746と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である第2の配列を含有する核酸を提供する。
【0104】
2種類の核酸の配列比較では、一般的に、1種の配列は、試験配列と比較される参照配列として用いられる。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列をコンピュータに入力し、その後位置を指定し、必要であれば、配列アルゴリズムプログラムのパラメータを指定する。初期設定のプログラムパラメータを使用することができ、あるいは他のパラメータを指定することもできる。次に、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータをベースにして、参照配列に対して試験配列のパーセント配列同一性を算出する。
【0105】
本明細書で使用したように、「比較ウインドウ」には、20から600、通常約50から約200、より通常には約100から約150からなる群から選択された隣接した位置の数の任意の1つの区域に対する参照を含み、2種の配列を最適に整列させた後、1配列を隣接した位置の同数の参照配列と比較することができる。比較する配列の整列方法は、当業界では周知である。比較する配列の最適なアラインメントは、限定はしないが、Smith and Waterman(1970)Adv.Appl.Math.2:482c、の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch(1970)J.Mol.Biol.48:443の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson and Lipman(1988)Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444の類似性検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、Madison,WIのGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)のコンピュータ手法によって、または手動アラインメントおよび視覚的検証によって(例えば、Ausubel他、Current Protocols in Molecular Biology(1995追補)を参照)実施することができる。
【0106】
パーセント配列同一性および配列類似性を決定するために適したアルゴリズムの一例は、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムであり、Altschul他(1977)Nuc.Acids Res.25:3389〜3402、およびAltschul他(1990)J.Mol.Biol.215:403〜410にそれぞれ記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センターで公的に利用できる。BLASTアルゴリズムパラメータW、TおよびXは、アルゴリズムの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列用)は、初期設定としてワード長(W)11、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を使用する。BLASTアルゴリズムは、一般的に「低複雑」フィルターを無効にして実施する。BLASTアルゴリズムは、2種の配列の類似性の統計学的分析も実施する(例えば、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5787を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによってもたらされる類似性の1測定値は、最小合計確率(P(N))であり、2種のヌクレオチドまたはアミノ酸配列の間の一致が偶然生じる確率の指標となる。例えば、参照核酸に対して試験核酸を比較して、最小合計確率が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合、この核酸は、参照配列と類似であると考えられる。
【0107】
本発明は本発明のペプチドのいずれかをコードする核酸を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、イムノグロブリンの軽鎖をコードする遺伝子および融合タンパク質をコードする遺伝子を含有する単一の核酸配列であって、この融合タンパク質がペプチドに共有結合したイムノグロブリンの重鎖を含む拡散配列を提供する。いくつかの実施形態では、このペプチドは治療用ペプチドである。いくつかの実施形態では、このペプチドは神経治療用ペプチド、例えば、BDNFなどのニューロトロフィンである。いくつかの実施形態では、このBDNFは、2アミノ酸カルボキシル切断型BDNFである。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンはMAbである。いくつかの実施形態では、IgGはMAb、例えばキメラMAbである。抗体は、輸送系、例えば、内在性BBB受容体媒介輸送系、例えば、内在性BBB受容体インシュリン輸送系に対する抗体であってよい。いくつかの実施形態では、内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系は、ヒト内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系であり、イムノグロブリン重鎖が共有結合しているペプチドはヒトBDNFである。任意の適切なペプチド、神経治療用ペプチド、ニューロトロフィン、BDNF、抗体、モノクローナル抗体またはキメラ抗体は、本明細書で記載したように、融合タンパク質として一緒にされて、核酸によってコードされ、単一の核酸配列でコードされていてよい。当業界で周知のように、遺伝子コードの縮重のため、適切なコドンの任意の組み合わせを、所望する融合タンパク質のコードに使用することができる。さらに、組換え技術に有用なその他の因子、例えば、プロモーター、終止シグナルなどを核酸配列に含めることができる。このような因子は当業界では周知である。さらに、記載した、および本明細書で特許請求した核酸配列は全て、配列の相補体を含む。
【0108】
融合タンパク質の成分として、BDNF、例えば、BDNF変種をコードするいくつかの実施形態では、BDNFは、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含有する。いくつかの実施形態では、BDNFはアミノ末端でイムノグロブリン、例えば、MAbの重鎖のカルボキシ末端に結合する。MAbの重鎖は、配列番号24のアミノ酸20〜462と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含むことができる。いくつかの実施形態では、イムノグロブリン、例えば、MAbの軽鎖は、配列番号36のアミノ酸21〜234と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含む。この核酸はさらにMAbの重鎖とBDNFとの間のペプチドリンカーをコードする核酸配列を含有することができる。いくつかの実施形態では、リンカーは、S−S−Mである。この核酸はさらに、シグナルペプチドをコードする核酸配列であって、このシグナルペプチドが重鎖に結合している核酸配列を含有する。当業界で公知であるか、またはその後開発された任意の適切なシグナルペプチドを使用することができる。いくつかの実施形態では、重鎖に結合したシグナルペプチドは、配列番号24のアミノ酸1〜19と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含む。いくつかの実施形態では、この核酸は、別のシグナルペプチドをコードする核酸配列であって、この別のシグナルペプチドが軽鎖に結合している核酸配列を含有する。軽鎖に結合したシグナルペプチドは、配列番号36のアミノ酸1〜20と約60、70、80、90、95、99または100%同一である配列を含むことができる。この核酸は、選択可能なマーカーをコードする核酸配列を含有できる。いくつかの実施形態では、この選択可能なマーカーはDHFRである。DHFRの配列は、配列番号38のアミノ酸1〜187と約60、70、80、90、95、99または100%同一であることができる。
【0109】
ある種の実施形態では、本発明は、イムノグロブリン成分をコードする第2の配列と同一のオープンリーディングフレーム内に、神経治療用ペプチド、例えば、BDNFなどのニューロトロフィンをコードする第1の配列を含む核酸を提供する。イムノグロブリン成分は、例えば、配列番号33のヌクレオチド58〜1386と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である軽鎖または重鎖、および配列番号33のヌクレオチド1396〜1746と少なくとも約、60、70、80、90、95、99または100%同一である第2の配列であることができる。いくつかの実施形態では、この核酸はまた、配列番号35のヌクレオチド61〜702と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である第3の配列を含有する。いくつかの実施形態では、この核酸はさらに、第1のシグナルペプチドをコードする第4の配列および第2のシグナルペプチドをコードする第5の配列を含有する。いくつかの実施形態では、第4の配列は、配列番号33のヌクレオチド1〜57と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一であり、第5の配列は配列番号35のヌクレオチド1〜60と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である。いくつかの実施形態では、この核酸はさらに、選択可能なマーカー、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする配列を含有している。いくつかの実施形態では、DHFRをコードする配列は、配列番号37のヌクレオチド1〜561と少なくとも約60、70、80、90、95、99または100%同一である。
【0110】
B.ベクター
本発明はまた、ベクターを提供する。このベクターは、本明細書で記載した核酸配列のいずれかを含有することができる。いくつかの実施形態では、本発明は、ペプチド、例えば、ニューロトロフィンなどの治療用ペプチドに融合した抗体重鎖をコードする核酸、および抗体の軽鎖をコードする核酸を含有する、いずれもが核酸の1片、例えば、DNAの1片に組み込まれている1本のタンデム発現ベクターを提供する。この1本のタンデムベクターは、1種または複数の選択および/または増幅遺伝子も含むことができる。本発明の例示的ベクターの作製方法は、実施例に挙げてある。しかし、当業界で知られているような任意の適切な技術をベクターの構築に使用することができる。
【0111】
1本のタンデムベクターを使用すると、従来の技術よりもいくつかの利点がある。イムノグロブリンG(IgG)遺伝子の真核細胞系への形質移入には一般的に、IgGを構成する重鎖(HC)および軽鎖(LC)をコードする別々のプラスミドを細胞系に同時形質移入することが必要である。IgG融合タンパク質の場合、組換え治療用タンパク質をコードする遺伝子は、HCまたはLC遺伝子のいずれかに融合させることができる。しかし、この同時形質移入の取り組みでは、HCおよびLC融合遺伝子の両方またはHC融合物およびLC遺伝子を同等に高く取り込んだ細胞系を選択することが困難である。本発明のある種の実施形態で使用する融合タンパク質の製造の取り組みは、DNAの1本鎖上に、HC融合タンパク質遺伝子、LC遺伝子、選択遺伝子、例えば、ネオ、および増幅遺伝子、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を含む必要な遺伝子全てを含有する1本のプラスミドDNAで永久的に形質移入された細胞系を作製することである。図12の融合タンパク質タンデムベクターの図に示したように、HC融合遺伝子、LC遺伝子、ネオ遺伝子およびDHFR遺伝子は全て、別々ではあるがタンデムなプロモーターおよび別々ではあるがタンデムな転写終止配列の制御下にある。したがって、治療用タンパク質の融合遺伝子およびHCまたはLC IgG遺伝子を含む遺伝子は全て、宿主ゲノムに等しく組み入れられる。
【0112】
C.細胞
本発明はさらに、本発明の1種または複数のベクターを組み込んだ細胞を提供する。この細胞は、原核細胞または真核細胞であってよい。いくつかの実施形態では、この細胞は真核細胞である。いくつかの実施形態では、この細胞はマウス骨髄腫細胞である。いくつかの実施形態では、この細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。ベクターを細胞に組み込む例示的方法を実施例に挙げる。しかし、当業界で知られているように、任意の適切な技術を、ベクターの細胞への組み込みに使用することができる。いくつかの実施形態では、本発明はイムノグロブリン融合タンパク質を発現できる細胞であって、永久的に1本のタンデム発現ベクターを導入した細胞であり、イムノグロブリン軽鎖遺伝子および治療薬に融合させたイムノグロブリン重鎖の遺伝子の両方が、核酸、例えば、DNAの1片に組み込まれている細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本発明はイムノグロブリン融合タンパク質を発現できる細胞であって、永久的に1本のタンデム発現ベクターを導入した細胞であり、イムノグロブリン重鎖遺伝子および治療薬に融合させたイムノグロブリン軽鎖の遺伝子の両方が、核酸、例えば、DNAの1片に組み込まれている細胞を提供する。タンデムベクターの導入は、例えば、染色体核酸への永久的組み込みによって、または、例えば、エピソーム遺伝子因子の導入によることができる。
【0113】
D.製造方法
さらに、本発明は製造方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明はイムノグロブリン融合タンパク質の製造方法であって、真核細胞に1本のタンデム発現ベクターを永久的に導入することによって、前記融合タンパク質が、治療薬と融合したイムノグロブリン重鎖を含有しており、イムノグロブリン軽鎖遺伝子および治療薬に融合したイムノグロブリン重鎖の遺伝子の両方が核酸、例えば、DNAの1片に永久的に組み込まれている製造方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明はイムノグロブリン融合タンパク質の製造方法であって、真核細胞に1本のタンデム発現ベクターを永久的に導入することによって、前記融合タンパク質が、治療薬と融合したイムノグロブリン軽鎖を含有しており、イムノグロブリン重鎖遺伝子および治療薬に融合したイムノグロブリン軽鎖の遺伝子の両方が核酸、例えば、DNAの1片に永久的に組み込まれている製造方法を提供する。いくつかの実施形態では、ベクターの導入は、宿主細胞ゲノムに永久的に統合することによって実現される。いくつかの実施形態では、ベクターの導入は、エピソームの遺伝的因子を含有するベクターを宿主細胞に導入することによって実現される。エピソームの遺伝的因子は当業界では周知である。いくつかの実施形態では、この治療薬は神経治療薬である。いくつかの実施形態では、この核酸の一片はさらに、1個または複数の選択可能なマーカーの遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、この核酸の一片はさらに、1個または複数の増幅遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、イムノグロブリンはIgG,例えば、キメラMAbなどのMAbである。この方法にはさらに、イムノグロブリン融合タンパク質を発現し、および/またはイムノグロブリン融合タンパク質を精製することを含んでよい。発現および精製を含む例示的製造方法を実施例に挙げる。
【0114】
しかし、当業界で知られているような任意の適切な技術を製造、所望によりタンパク質の発現および精製に使用することができる。これらには、タンパク質合成の非組換え技術、例えば、Merrifieldによって最初に開発され、Stewart他の「Solid Phase Peptide Synthesis」(1984)に記載された、手動または自動の固相合成が含まれる。化学合成では、C末端から開始して予め決定された配列にアミノ酸を結合させる。基本的な固相合成法には、C末端を保護したαアミノ酸を適切な不溶性樹脂支持体に結合させることが必要である。合成用のアミノ酸は、前の残基(または樹脂支持体)と適切なペプチド結合を確実に形成するために、αアミノ基を保護する必要がある。カルボキシル末端における縮合反応を完了した後、次の残基の添加を可能にするためにαアミノ保護基を除去する。α保護基のいくつかの種類は記載されており、Stewart他の「Solid Phase Peptide Synthesis」(1984)を参照し、酸に不安定な場合は、ウレタンをベースにした3級ブチルオキシカルボニル(Boc)が歴史的に好まれている。塩基に不安定な9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)を含むその他の保護基および関連する化学的戦略を使用することができる。また、反応性アミノ酸側鎖官能基は、合成が完了するまで保護する必要がある。複雑に列挙された官能基保護基は、戦略およびその用途の限界と共に、Bodanskyの「Peptide Synthesis」(1976)およびStewart他の「Solid Phase Peptide Synthesis」(1984)に概説されている。
【0115】
固相合成は、記載したC末端α保護アミノ酸残基の結合によって開始される。結合には、1−ヒドロキシベンゾ−チアゾール(HOBT)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIIPC)またはエチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド(EDC)の存在下または非存在下で、薬剤、例えば、ジシクロへキシカルボジイミド(DCC)を活性化する必要がある。C末端残基を結合させた後、酸に不安定な3級ブチルオキシカルボニル(Boc)基の場合、αアミノ保護基をジクロロメタン中でトリフルオロ酢酸(25%以上)によって除去する。ジクロロ−メタン中においてトリエチルアミン(10%)による中和段階によって、遊離アミン(塩に対して)を回収する。C末端残基を樹脂に添加した後、脱保護、中和および結合の周期を、中間の洗浄段階と共に、保護ペプチド鎖を伸長するために繰り返す。保護アミノ酸それぞれを過剰に(3から5倍)、等モル量の結合試薬と共に適切な溶媒中に導入する。最後に、完全にブロックしたペプチドを樹脂支持体上に組み立てた後、樹脂からペプチドを切断し、側鎖保護基を除去するために試薬を適用する。無水フッ化水素(HF)は、酸に不安定な3級ブチルオキシカルボニル(Boc)基を切断する。特に側鎖官能基の副反応を回避するために、ジメチルスルフィドおよびアニソールなどのいくつかの求核捕捉剤を含める。
【0116】
VII.方法
本発明はまた、方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明はCNSで活性のある薬剤を有効量でBBBを通過して輸送する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は治療法、診断法または研究法を提供する。診断法には、BBBを通過して輸送することができるペプチド放射性医薬品、例えば、ペプチドリガンドの融合物または脳内の内在性受容体のペプチド様MAbの開発、その後の融合タンパク質の放射標識、その後の全身投与およびペプチド放射性医薬品の脳内における局在の外部画像診断が含まれる。
【0117】
ニューロトロフィン薬剤の開発は、CNSで活性のある薬剤の送達の開発、例えば、CNS薬開発が、BBBを通過する送達、例えば、CNS薬剤送達を並列して計画することなく行われる場合に直面する問題を例示している。1990年代の「脳の10年」の間の分子神経科学の進歩は、BDNF、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)を含む30種を上回る様々な神経栄養因子のクローニング、発現および精製をもたらした。これらの天然の物質は、脳における強力な回復性の薬剤であり、タンパク質を脳に直接注射すると神経保護をもたらす。さらに、BDNFを脳に直接注射すると、新たな脳細胞形成および神経発生の刺激因子となる可能性がある。
【0118】
ニューロトロフィンはBBBを通過しないので、BDNFなどのニューロトロフィンは、治療効果を実現するために脳に直接注射しなければならない。したがって、神経栄養因子を末梢(静脈内、皮下)投与した後、これらの分子が脳障害に有益な効果を有することは期待できない。1990年代に、慢性神経変性障害、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療のために、神経栄養因子の開発が試みられた。臨床方法では、神経変性疾患を治療するためにはニューロトロフィンはBBBを通過しなくてはならなくても、神経栄養因子を皮下投与によって投与した。臨床試験は進められ、ALSのためのニューロトロフィン第III相臨床試験は全て失敗した。その後、側脳室内(ICV)注入または対流増強送達(CED)によってニューロトロフィンを投与することが試みられたが、これらの侵襲的送達様式は効果がないか、毒性があった。ニューロトロフィン分子、それ自体が神経治療薬として不十分であるならば、ごく最近の理論では、ニューロトロフィン低分子模倣物、ニューロトロフィン遺伝子治療、またはニューロトロフィン幹細胞治療の開発を提唱している。
【0119】
しかし、神経治療薬がBBBを通過できないならば、末梢投与経路のための薬剤として神経治療薬を開発することができる。神経治療薬、例えば、BDNFなどのニューロトロフィンをMTH、例えば、キメラHIRMAbに結合させると、動物、例えば、ヒトなどの哺乳類において、急性の脳および脊髄の症状、例えば、局所脳虚血、全脳虚血および脊髄損傷の治療のため、ならびにプリオン病、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、ALS、多発硬化症、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、ピック病、結節性硬化症、リソソーム蓄積症、カナバン病、レット症候群、脊髄小脳失調症、フリードライヒ失調症、視神経萎縮および網膜変性症を含む神経変性疾患の慢性的治療のために、CNSに神経治療薬を非侵襲的に送達するための新たな取り組みを提案する。
【0120】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、CNSで活性のある薬剤を有効量で末梢循環からBBBを通過して輸送する方法であって、この薬剤がBBBを通過する構造に共有結合しており、薬剤単独では有効量でBBBを通過しない方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、神経治療薬を治療有効量で末梢循環からBBBを通過して輸送する方法であって、この神経治療薬がBBBを通過する構造に共有結合しており、神経治療薬単独では治療有効量でBBBを通過しない方法を提供する。
【0121】
本発明はまた、いくつかの実施形態では、治療有効量の治療薬、例えば、BBBを通過できる構造に共有結合した神経治療薬を末梢投与することによってCNSの障害を治療する方法であって、この薬剤単独では末梢投与された場合有効量でBBBを通過できない方法を提供する。いくつかの実施形態では、CNS障害は、急性障害であり、いくつかの場合では、薬剤を1回投与することのみが必要であってよい。いくつかの実施形態では、CNS障害は、慢性障害であり、いくつかの場合では、薬剤を複数回投与することが必要であってよい。
【0122】
いくつかの実施形態では、有効量、例えば、治療有効量とは、脳内の濃度が、少なくとも約0.001、0.01、0.1、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100または100ng/グラム脳を上回るようにする。いくつかの実施形態では、例えば、BDNFなどのニューロトロフィンの治療有効量は、脳のレベルが約0.1から1000、または約1〜100、または約5〜50ng/g脳を実現するようにする。いくつかの実施形態では、この神経治療薬は、ニューロトロフィンである。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンは、BDNF、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンは、切断型BDNFなどのBDNF、例えば、本明細書で記載したカルボキシル切断型BDNFである。
【0123】
いくつかの実施形態では、本発明は、CNSの障害の治療を必要とする個体にニューロトロフィンの有効量を末梢投与することによってCNSの障害を治療する方法であって、前記ニューロトロフィンが、前記末梢投与後、脳内のニューロトロフィン濃度の平均的上昇が少なくとも約0.1、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、100または100ng/グラム脳を上回るようにBBBを通過することができ、1回投与してから約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10または10日間を過ぎてもニューロトロフィンのレベルが上昇したまま維持される方法を提供する。いくつかの実施形態では、1回投与してから約2、3、4、5、6、7、8、9、10または10日間を過ぎてもニューロトロフィンのレベルは約1ng/g脳、または約2ng/g脳、または約5ng/g脳を上回ったまま維持される。いくつかの実施形態では、ニューロトロフィンは、切断型変種を含むBDNFである。
【0124】
いくつかの実施形態では、本発明は、CNSの障害の治療を必要とする個体に本発明の組成物の有効量を末梢投与することによって、CNSの障害を治療する方法を提供する。本明細書で使用した「末梢投与」という用語には、CNSに直接投与しない、すなわち、物理的貫通またはBBBの破壊が関与しない任意の投与方法が含まれる。「末梢投与」には、限定はしないが、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、鼻腔内、頬膜貫通、経皮、直腸、経肺胞(吸入)または経口投与が含まれる。本明細書で記載したように、本発明の任意の適切な組成物を使用することができる。いくつかの実施形態では、この組成物は、キメラHIR−MAbに共有結合したニューロトロフィンである。いくつかの実施形態では、このニューロトロフィンはBDNFである。いくつかの実施形態では、このBDNFは、本明細書で記載した変種、例えば、カルボキシル末端切断変種である。
【0125】
本明細書で使用したように、「CNSの障害」または「CNS障害」には、脳および/または脊髄に影響を及ぼし、不十分な機能をもたらす任意の症状が包含される。いくつかの実施形態では、この障害は急性障害である。CNSの急性障害には、局所脳虚血、全脳虚血、頭部外傷、脊髄損傷、急性感染、てんかん重積、片頭痛、急性精神病、自殺願望うつ病および急性の不安/恐怖症が含まれる。いくつかの実施形態では、この障害は慢性障害である。CNSの慢性障害には、慢性神経変性、網膜変性症、うつ病、慢性感情障害、リソソーム蓄積症、脳の慢性感染、脳癌、脳卒中リハビリテーション、先天的代謝異常、自閉症、精神遅滞が含まれる。慢性神経変性には、プリオン病、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、多発硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、ピック病、結節性硬化症、リソソーム蓄積症、カナバン病、レット症候群、脊髄小脳失調症、フリードライヒ失調症、視神経萎縮および網膜変性症などの神経変性疾患ならびにCNSの加齢が含まれる。
【0126】
いくつかの実施形態では、本発明は網膜の治療法、あるいは失明の治療または予防法を提供する。網膜は、脳のように、血液網膜関門(BRB)によって血液から保護されている。インシュリン受容体は、BBBおよびBRBの両方の上で発現し、HIRMAbは、RMTを介してBRBを通過して網膜まで治療薬を輸送することが示された。BDNFは、網膜変性において神経保護的であるが、BDNFはBRBを通過しないので、眼球に直接ニューロトロフィンを注射する必要がある。いくつかの実施形態では、HIRMAbはBRBを通過してBDNFを輸送し、したがって、ニューロトロフィンは血液区画から網膜神経細胞に曝露されるので、本発明の融合タンパク質は、静脈注射または皮下注射と同程度の非侵襲的な投与経路で、網膜変性および失明を治療するために使用される。
【0127】
いくつかの実施形態では、本発明はうつ病の治療法を提供する。うつ病患者の小集団は、BDNFが脳で欠乏している可能性があり、一塩基多形(SNP)と感情障害との関連が報告されている。BDNFを脳に直接注射すると、齧歯類モデルでは持続性のある抗うつ効果がある。ニューロトロフィンはBBBを通過しないので、BDNFは、脳に直接注射しなければならない。いくつかの実施形態では、本発明は本発明の融合タンパク質を慢性的に投与することによって、したがって、BDNFの脳レベルを上昇させ、うつ病および脳BDNFの産生が減少した患者で治療効果をもたらして、うつ病を治療する方法を提供する。
【0128】
製剤化および投与。任意の適切な製剤、投与経路および本発明の組成物の用量を使用することができる。製剤、用量、投与経路は、通常の実験を行うだけで当業者によって決定される。本発明の組成物、例えば、融合タンパク質は通常、約0.01〜1000mg、または約0.05〜500mg、または約0.1〜100mg、または約1〜100mg、または約0.5〜50mg、または約5mg〜50mg、または約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、15、20、25、30、25、40、45、50、60、70、80、90または100mgの単回投与で、例えば、静脈投与で投与される。一般的に、急性脳疾患、例えば、脳卒中、心停止、脊髄損傷または頭部外傷の治療のためには高用量を使用することができるが、一方、慢性症状、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、MS、ALS、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、ピック病、結節性硬化症、リソソーム蓄積症、カナバン病、レット症候群、脊髄小脳失調症、フリードライヒ失調症、視神経萎縮および網膜変性症ならびに加齢の治療のためには、低用量の慢性的投与を使用することができる。経口投与には、当業界で知られているように、吸収効率およびタンパク質の可能性のある代謝に応じて、静脈内または皮下投与よりも高用量が必要となることがあり、通常の実験をベースにして前述の事項から調節することができる。
【0129】
静脈または皮下投与では、本発明の製剤は、液体の形態で提供することができ、pHを変化させた(5〜8)生理食塩水をベースにした水性溶液で、ポリソルベート−80などの界面活性剤0.01〜1%、またはマンニトール、ソルビトールもしくはトレハロースなどの炭水化物添加物を含めるか、または含めないで、製剤化することができる。通常使用する緩衝液には、ヒスチジン、酢酸塩、リン酸塩またはクエン酸塩が含まれる。
【0130】
ヒトへの投薬量は、適切な動物のデータから計算することができる。例えば、BDNF−MAB結合体のヒト用量は、前臨床薬物動態研究をベースにしており、これらの測定値は2種、ラットおよびアカゲザルで実施された。3匹のラット脳虚血モデルでの予備実験によって、BDNF−MAb結合体の有効用量の範囲は、BDNF−MAb結合体の形態でBDNFが5〜50μg/ラットから20〜200μg/kgであることが示された。融合タンパク質分子のBDNF成分は16%で、HIRMAb成分は84%であるので、融合タンパク質の用量は同等のBDNF用量よりも6倍高い。ラットにおける薬物動態研究では、これらの用量では、結合体形態のBDNFの濃度が血漿中では50〜500ng/mL、脳内では5〜50ng/gになることが示されている。成体アカゲザルのHIRMAbによる薬物動態研究では、最初の1時間の平均血漿濃度は0.1%注射用量(ID)/mLで、脳濃度は0.02%ID/gであることが示されている。融合タンパク質の脳濃度は、約0.01%ID/gである(図27)。種間のスケーリング効果およびアカゲザルと比較してヒトの体重および脳の大きさは10倍を上回るため、ヒトで計画された血漿濃度は0.01%ID/mLであり、脳濃度は0.001%ID/gである。ヒトの脳は1200グラムなので、注射した用量の1%超がヒト脳に送達し、これは小分子と同程度の脳取り込みレベルである。ヒトにおける融合タンパク質の注射用量が2.5〜25mgと仮定すると、60分後に予測される血漿濃度は250〜2500ng/ml融合タンパク質、60分後に予測される脳濃度は25〜250ng/g融合タンパク質であり、これはBDNF4〜40ng/グラム脳に相当する。ヒトにおける融合タンパク質用量5mgおよび25mgは、全脳虚血および局所的脳虚血のどちらでも神経保護的なBDNFの脳濃度を生じる。このBDNFは、融合タンパク質を16%含むので、ヒトに投与されたBDNFの有効な用量は、融合タンパク質の用量2.5mgでは0.4mg、25mgでは4.0mgである。
【0131】
融合タンパク質はまた、慢性CNS障害、例えば、神経変性疾患、脳卒中または脳/脊髄損傷リハビリテーション、あるいはうつ病の治療のために慢性的に使用するように製剤化することができる。慢性的治療には、本発明の組成物、例えば、融合タンパク質を静脈内、筋肉内、または皮下から、急性治療で使用したものと同様の製剤で、毎日、毎週、隔週投与することが必要になることがあり得る。あるいは、この組成物、例えば、融合タンパク質は、生分解可能なポリマーの一部として製剤化され、月1回の計画で投与することができる。
【0132】
併用治療。本発明の組成物、例えば、融合タンパク質は、併用治療の一部として投与することができる。併用治療には、治療するCNS障害のための別の治療と組み合わせて本発明の組成物を投与することが必要である。本発明の組成物を別のCNS障害法または組成物と併用するならば、本発明の組成物と別の方法または組成物の任意の組み合わせを使用してよい。したがって、例えば、本発明の組成物の使用は、別のCNS障害治療薬と併用するならば、その2種類は、同時に、連続的に、重複した期間中に、類似の、同一の、または異なる頻度などで投与してよい。いくつかの場合、1種または複数のその他のCNS障害治療薬と組み合わせて本発明の組成物を含有する組成物を使用する。
【0133】
本発明の方法で使用できるその他のCNS障害治療薬には、限定はしないが、脳卒中用の血栓溶解療法、アルツハイマー病用のアミロイド特異的療法、パーキンソン用のドーパミン回復療法、遺伝子障害、癌、もしくは感染用のRNA干渉療法、およびてんかん用の抗けいれん治療が含まれる。これらの薬剤の投薬量、投与経路、投与計などは、当業界で周知である。
【0134】
いくつかの実施形態では、組成物、例えば、融合タンパク質は、別の医薬品と共に、同一の製剤内または別々の組成物として、患者に同時投与される。例えば、融合タンパク質は、BDNF以外の組換えタンパク質を、ヒト血液脳関門を通過して輸送するようにも設計された別の融合タンパク質と共に製剤化することができた。融合タンパク質は、その他の高分子または小分子と組み合わせて製剤化することができる。
【0135】
VII.キット
本発明の組成物、例えば、融合タンパク質は、容器または適切な包装内に製剤、例えば、融合タンパク質を含むキットとして提供することができる。組成物は、乾燥粉末形態、固形(すなわち、凍結乾燥)、溶液、または懸濁液で提供することができる。組成物がタンパク質の場合、このタンパク質に、乳化剤、塩、保存剤、その他のタンパク質、核酸、プロテアーゼ阻害剤、抗生物質、香料、多糖類、接着剤、ポリマー、ミクロフィブリル、油などを添加することができる。輸送、保存および/または消費者が使用するために組成物を包装する。輸送、保存および使用のための治療用組成物のこのような包装は、当業界で周知である。包装された組成物には、組成物を分配および保存するための成分をさらに含めることができ、例えば、製剤、例えば、融合タンパク質を患者に投与する前に溶解するための滅菌水または適切な緩衝液からなる別々に包装された希釈剤も含めることができる。本発明のキットには、使用指示書、臨床研究の結果、治療の所望される予後および予測経過、予防措置および副作用の情報などの文書を含めることもできる。このキットは、所望によりさらに、その他の成分、例えば、手袋、はさみ、テープ、使用済みバイアルおよびその他の廃棄物を処分するための器具、マスク、殺菌剤、抗生物質などを含有することができる。
【実施例】
【0136】
実施例1
IgG−神経治療薬融合物の完全な遺伝子を含有する1本のタンデムベクターの構築
融合タンパク質の重鎖(HC)をコードする真核発現ベクターの遺伝子操作を図1に概略する。最終的な融合タンパク質HC発現ベクターは、pHIRMAb−BDNF、またはクローン416と示される。このベクターは、HIRMAbのHCに融合したBDNF変種から構成される融合タンパク質を産生するように設計された。BDNFまたはBDNFの変種(vBDNF)のいずれかをHIRMAbに融合させることができる。vBDNFは、ある種のアミノ酸が置換していることによって天然のヒトBDNFとは異なっており、例えば、vBDNFではBDNFのカルボキシル末端の2アミノ酸が存在しない。クローン416プラスミドは、HIRMAbのキメラ型のHCを産生するクローン400およびは図2に記載した通りに作製された成熟ヒトvBDNFをコードするcDNAから得られた。クローン400は、ヒトIgG1定常領域をコードする染色体断片から得られ、イントロンおよびエキソン配列の両方から構成されるキメラヒトIgG1をコードする。クローン400におけるキメラHIRMAbのHC遺伝子を、部位特異的変異誘発(SDM)によるCH3領域の3’末端に位置する終止コドンの操作を容易にするために、pCRIIプラスミドのBamHI部位にサブクローニングした。CH3領域の末端に位置する終止コドンの操作は、SspI部位を創出する部位特異的変異誘発によって実施した。SspI部位は、クローン415を作製するために、クローン400への平滑末端連結によるvBDNFcDNAの挿入を可能にする(図3)。SDMは、QuickChange SDMキット(Stratagene、CA)を使用して実施した。センスおよび相補的変異誘発プライマーは、CH3終止コドン(aaTGAg)がSspI部位(aaTATt)に変異するように設計した。さらに、プライマーは、終止コドン5’−および3’−周囲領域の15個のヌクレオチドを含有しており、SDM−SspIフォワード(FWD)およびリバース(REV)と称されるこれらのプライマーの配列を表1に挙げる。
【0137】
【表1】

【0138】
IgGプロモーター領域のDNA配列分析によって、この領域に付加されたSspI部位の存在が明らかになった。したがって、まず、クローン404をXhoIおよびNheIで消化することによってHCプロモーター領域(PRO−VH)を遊離することが必要で、クローン404は、XhoI−NheIリンカーで再クローニングされ、クローン405が作製された(−Pro−VH)。XhoI−NheIリンカーを作製するために使用されるフォワードおよびリバースODNの配列を表1に挙げる。このプラスミドクローン405(−Pro−VH)は、SDMによって導入された1個のSspI部位を有する。ヒトcBDNFcDNAをSspIでサブクローニングして、クローン414と称される中間体プラスミド(示さず)を作製した。次に、完全な融合タンパク質HC発現カセットを、以前に除去したPRO−VH断片をサブクローニングすることによって再構築し、クローン415を作製した。次に、融合タンパク質HC遺伝子を真核発現ベクター、クローン400にBamHI部位でサブクローニングして、クローン416を作製した。
【0139】
vBDNFcDNAは、PCRによって、2つの同等の取り組みのいずれかによって作製された。1つの取り組みでは、発現配列tag(EST)として単離され、ヒトBDNFをコードする原核発現プラスミド、pHTBS01をBamHIおよびBpIIで消化して、ゲル精製して、T4リガーゼおよび5’末端リンカーで再連結し、クローン412を生じた(図2)。5’末端リンカーを生じるために使用されるフォワードおよびリバースODNの配列を表2に挙げる。
【0140】
【表2】

【0141】
【表3】

【0142】
次に、クローン412をXhoIおよびBsiWIで消化して、ゲル精製して、T4リガーゼおよび3’末端リンカーで再連結し、クローン413を作製した(図2)。3’末端リンカーを作製するために使用されるフォワードおよびリバースODNの配列を表2に挙げる。再構築された終止コドンを有するvBDNFをコードするvBDNFcDNAをNruIによってクローン413から遊離し、ゲル精製して、このアガロースゲルの臭化エチジウム染色を図3Aに示す。このゲルは、vBDNFcDNAの予測された大きさ、0.4kbおよびベクター主鎖、3.5kbを示す。あるいは、BDNFcDNAは、ニューロトロフィンを産生するヒトU87神経膠腫細胞から単離されたポリA+RNAの逆転写によって得られたcDNAからPCRによって作製した。U87由来cDNAからPCRによってvBDNFを作製するために使用するプライマーを表2に挙げる。このPCRは、vBDNFcDNAの予測値0.4kbを生じた(図3B)。次に、この0.4kbvBDNF断片をNruIで消化し、図1に記載したようにクローン415にサブクローニングし、完全融合タンパク質HC発現カセットを作製し、BamHIによって遊離させ、元の真核発現プラスミドにサブクローニングして、クローン416、融合タンパク質HC用の最終発現プラスミドを作製した(図1)。クローン416をNheIおよびBamHIによって2重に消化して分析し、vBDNFを欠如した元のクローン400の場合と比較した。アガロースゲル分離生成物を図3Cに示し、列1および3は、それぞれクローン416およびクローン400から生じた断片を示す。いずれのプラスミドも、6kbのベクター主鎖(列1および列3の3本のバンドの一番上)および2.5kbのプロモーター領域(列1および列3の3本のバンドの一番下)を生じる。しかし、中央のバンドの大きさは、クローン400と比較してクローン416では0.4kb大きい(列1および3の中央のバンド)。陰性クローンを図3Cの列2に示す。
【0143】
HIRMAb HCのCH3領域の再構築されたカルボキシル末端、3−アミノ酸リンカー(Ser−Ser−Met)、vBDNF配列、その後の終止コドンのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を図4に示す。クローン416の融合タンパク質HC遺伝子を含む完全な2711ヌクレオチド(nt)を図5に示す。ATG開始コドンおよびTGA終止コドン終止コドンに下線を引いてある。ヒトIgG1定常領域のイントロンおよびエキソン配列をそれぞれ、図5にイタリックおよび太字で示す。クローン416ベクターのvBDNFnt配列は、図5で下線を引いてある。これらのデータは、イントロン配列がヒトIgG1定量領域のCH1とヒンジ領域との間、ヒンジ領域とCH2との間、およびCH2とCH3領域との間に見いだされることを示している。融合タンパク質HC遺伝子のオープンリーディングフレーム(orf)は、19個のアミノ酸のシグナルペプチドが切断された後、563個のアミノ酸のタンパク質をコードしており、融合タンパク質HCのアミノ酸配列を図6に示す。シグナルペプチドに下線を引いてある。鎖内および鎖間ジスルフィド結合を形成する定常領域内のシステイン残基(C)は太字で示してあり、IgGのCH3領域とvBDNFの間のセリンーセリンーメチオニン(SSM)リンカーには下線が引いてあり、CH2内アスパラギン残基にある1個のN結合グリコシル化部位は、下線を引いた太字で示してある(図6)。融合タンパク質HCタンパク質の個々のドメインのアミノ酸配列を図7に示す。融合タンパク質のvBDNFドメインは、117個のアミノ酸から構成される。
【0144】
クローン416プラスミドDNAを、キメラHIRMAbの軽鎖(LC)をコードする発現ブラスミドを既に形質移入してあるマウス骨髄腫細胞にエレクトロポレートした。vBDNFはHCにのみ融合するので、キメラHIRMAbのLCは変更されない。形質移入された細胞系を選択後、96ウェルプレートの培地を、2種類の抗ヒトIgG抗体(1種類の抗体はヒトIgG1の重鎖に特異的で、他方の抗体はヒトカッパ軽鎖に特異的である)からなるELISAでスクリーニングした。完全な融合タンパク質をコードする骨髄腫クローンを単離し、10Lバイオリアクターで繁殖させた。しかし、融合タンパク質の産生レベルは低かった。この産生の低さは、(i)重鎖遺伝子、軽鎖遺伝子および抗生物質耐性遺伝子をコードする3種類の別個の発現プラスミドで骨髄腫細胞系を形質移入したこと、および(ii)大きなイントロン配列を有する重鎖および軽鎖遺伝子のゲノム断片を使用したことを含むいくつかの要因が原因であった。したがって、融合タンパク質発現プラスミドを、以下の要点を踏まえて再度遺伝子操作した。
【0145】
(1)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して、融合タンパク質HCおよびLC遺伝子のゲノム断片を2種類の遺伝子の「イントロンを含まない」cDNA型に変換した。
【0146】
(2)融合タンパク質HCおよびLC遺伝子のcDNA型を、2種類の遺伝子が別々に配置され、タンデム発現が別個のプロモーターで作動する1本の「タンデムベクター」に配置した。
【0147】
(3)チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの非骨髄腫細胞の形質移入を可能にするために、融合タンパク質HCおよびLC遺伝子の発現を進めるプロモーターを、ヒトIgGプロモーターからサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターに変えた。
【0148】
(4)融合タンパク質をコードするタンデムベクターは、発現ベクターの挿入領域にゲノムの増幅を含有するCHO細胞系のメソトレキセート(MTX)選択を可能にするために、別個のSV40プロモーター下にジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子をコードする遺伝子を含有する。
【0149】
融合タンパク質タンデムベクターを作製するために、まず、融合タンパク質HCおよびLC遺伝子のcDNA型を別々にコードする中間体プラスミドを作製する必要があった。図8に示したように、CMVプロモーターおよびウシ成長ホルモン(BGH)ポリA−(pA)転写末端配列を有し、pCDと称する真核発現プラスミドをNheIおよびXhoIで消化し、T4リガーゼおよびNheI−EcoRV−KpnI−ScaI−BamHI−XhoIリンカーで再連結した。このリンカーを作製するために使用されるフォワードおよびリバースODNの配列を表3に挙げる。
【0150】
【表4】

【0151】
pCD−リンカー(図8)と称する得られたプラスミドをEcoRVおよびBamHIで消化して、T4リガーゼおよびPCRによって融合タンパク質HCcDNAで再度閉環した。PCR反応のために、融合タンパク質HCのゲノム構築物(クローン416)およびLC遺伝子で2重に形質移入された前記の骨髄腫細胞系を消化して、骨髄腫由来ポリA+RNAを生成した(図8のA部)。オリゴデオキシチミジン(ODT)プライマーを使用して、骨髄腫ポリA+RNA0.5μgから逆転写酵素で骨髄腫cDNAを生成し、次いで、最終的にRNアーゼで消化した。このcDNAから、融合タンパク質HC遺伝子のcDNA型を生成するために、表3に示したフォワードおよびリバースプライマーおよび忠実度の高いPfuDNAポリメラーゼを用いたPCRを使用した。同様に、融合タンパク質LCcDNAは、骨髄腫由来のcDNAからPCRによって生成し、融合タンパク質LCcDNAの増幅に使用したフォワードおよびリバースPCRプライマーの配列を表3に挙げる。PCRの後で、このcDNAを0.8%アガロースゲルに添加したところ、増幅すると全て、単一の産物、1.8kb融合タンパク質HCcDNA(図3D、列1)および0.7kb融合タンパク質LCcDNA(図3D、列2)が生じた。融合タンパク質HCPCR産物を、SspIおよびBamHIで消化し、CD−リンカーにサブクローニングして、融合タンパク質HCcDNAをコードするイントロンを含まない真核発現プラスミドであるクローン422a(図8)を作製した。クローン422aを、NheIを用いて制限エンドヌクレアーゼによって分析した。pCDベクターの新たなマルチクローニング領域に部位を有するこの酵素で消化すると、融合タンパク質重鎖可変領域(VH)cDNAに対応する予測0.4kb断片が生じた(図3E、列1〜4)。クローン422aによってコードされる融合タンパク質HCcDNAのヌクレオチド配列を図9Aに示すが、これはクローン416(図5)に存在するイントロン配列が加工された骨髄腫RNAのPCRによって除去されたことを示している。融合タンパク質HCcDNAによってコードされるアミノ酸配列を図9Bに示し、このアミノ酸配列は、クローン416のゲノム断片によって生じたものと同一である(図6)。
【0152】
融合タンパク質LCPCR産物を、EcoRVおよびXhoIで消化し、CD−リンカーにサブクローニングして、融合タンパク質LCcDNAをコードするイントロンを含まない真核発現プラスミドであるクローン423a(図10)を作製した。クローン423aをEcoRVおよびBamHIを用いた制限エンドヌクレアーゼによって分析した。pCDベクターの新たなマルチクローニング領域に部位を有するこれらの酵素で消化すると、融合タンパク質LCcDNAに対応する予測0.7kb断片を生じた(図3F、列1〜5)。クローン423aによってコードされる融合タンパク質LCcDNAのヌクレオチド配列を図11Aに示すが、これはイントロン配列が加工された骨髄腫RNAのPCRによって除去されたことを示している。融合タンパク質LCcDNAによってコードされるアミノ酸配列を図11Bに示す。
【0153】
クローン422aおよび423aは、図12に概略したように、融合タンパク質タンデムベクターの前駆体である。ステップ2では、融合タンパク質HC発現カセットの3’末端にEcoRI部位を導入するために、クローン422aにSDMを行った。フォワードおよびリバースSDMプライマーの配列を表4に挙げる。
【0154】
【表5】

【0155】
ステップ2では、変異したクローン422aをEcoRIで消化し、平滑末端にして、EcoRI−HindIII−NotI−XcaIリンカーに再連結して、クローン422a−Iを作製した(図12)。このEcoRIリンカーを作製するために使用するODNの配列を表4に挙げる。クローン422a−IをEcoRIおよびHindIIIで消化して、融合タンパク質LC発現カセットの存在下で、T4リガーゼによって閉環して、クローン422a−IIを作製した(図12)。この融合タンパク質LC発現カセットは、EcoRIおよびHindIIIでクローンpBS−LC−1を消化することによって生成した。クローンpBS−LC−1は、EcoRV消化pBS(Bluescript)、T4リガーゼおよびクローン423aをSspIで消化することによって生成した融合タンパク質LC発現カセットから作製した(図12)。同時に、SV40プロモーターおよびC型肝炎ウイルスポリA領域を含有するマウスDHFR発現カセットを、pFR400プラスミド(pDHFRと称する)から、このプラスミドをSmaIおよびSalIで消化することによって作製した(図12)。最終的な融合タンパク質タンデムベクターは、DHFR発現カセットをXcaI消化クローン422a−IIにサブクローニングし、その後T4リガーゼで閉環することによって作製した(図12)。この融合タンパク質タンデムベクターを制限エンドヌクレアーゼによって分析し、11kbプラスミドをPvuIによって直線化した(図3G、列1)。1.8kb融合タンパク質LCおよび1.5kbDHFR発現カセット、および融合タンパク質HC発現カセットを含む8kbベクター主鎖は、EcoRIおよびHindIIIで消化することによって遊離した(図3G、列2)。タンデムベクターは、両方向からDNAの配列決定を行い、融合タンパク質HC、融合タンパク質LC、およびDHFR遺伝子のヌクレオチド配列および推定アミノ酸配列をそれぞれ図14、15および16に示す。融合タンパク質HCおよびLCの計算されたMWは、それぞれ62220および25760Daで、融合タンパク質HCの任意の炭水化物含量は計算に入れていない。
【0156】
実施例2
融合タンパク質タンデムベクターによるCHO細胞のエレクトロポレーションおよびバイオリアクターでの培養。融合タンパク質タンデムベクター(図12)をPvuIで直線化して、CHO−K1細胞にエレクトロポレーションし、その後G418(375μg/ml)で3週間選択した。96ウェルプレートにおいて、ヒトIgG1 HCおよびヒトカッパLCの両方に対する2種類の1次抗体を使用するヒトIgG ELISAによって、陽性クローンを検出した。導入遺伝子のコピー数が多い細胞系を、MTXを600nMまで段階的に増加させることによって選択した。MTX選択細胞系をT175フラスコ中で増殖させ、次にCHO細胞無血清培地(SFM)の10L量を有する20Lバイオリアクターに移した。図17に示したように、CHO細胞をバイオリアクター中において1000万生細胞/mLを超える高密度で潅流様式によって約50日間維持した。融合タンパク質のこれらの細胞による分泌は、ヒトIgGまたはヒトBDNFのいずれかに対する抗体を使用したELISAによって検出した。図18に示したように、融合タンパク質は、HIRMAb重鎖のカルボキシル末端に対してvBDNFが1:1で融合したものであり、融合タンパク質重鎖が形成される。図18に示したように、重鎖は軽鎖と結合する。したがって、融合タンパク質は、(i)ヒトIgG1 HC、(ii)ヒトカッパLC、または(iii)ヒトBDNFの3種類の抗体と同等によく反応するはずである。図19に示したように、抗ヒトIgG抗体または抗ヒトBDNF抗体のいずれかをELISAで使用することによって、CHO細胞培地における融合タンパク質の測定値は比例している。これらのELISAの結果は、免疫細胞化学(ICC)によって確かめられており、TV−120で形質移入したCHO細胞がヒトIgGまたはヒトBDNFに対する抗体と免疫応答し、BDNF免疫シグナルは組換えBDNFによる抗BDNF抗体の吸収によって除去されることが示された。
【0157】
実施例3
バイオリアクターによって生成した融合タンパク質の精製および特徴付け。潅流様式でバイオリアクターから得られた調整培地を1μmフィルターに通過させて、培地を滅菌条件下で200LBioprocess容器に収集し、バイオリアクターに隣接したガラス製扉の冷蔵庫内で4℃に維持した。次に、細胞残渣を除去するために、調整培地200Lのバッチを1μmおよび0.4μmの予備フィルターに通過させた。次いで、この培地をタンジェンシャルフロー濾過(TFF)で濃縮した。TFFシステムは、Millipore社製Pellicon2モデルで、分子量のカットオフ値が30kDaで、総表面積が2.5cmである0.5m濾過カセットから構成される。膜間に15PSIの勾配が生じ、2時間以内に200Lから2Lに体積が減少する。濃縮した培地を、ProsepA(Millipore)組換えプロテインAアフィニティーカラム100mLで溶出する前に、0.22μフィルターに通過させた。試料添加後、カラムを緩衝液A(NaCl 0.025M、Tris 0.025M、pH=7.4、EDTA 3mM)で洗浄した。CHO細胞宿主タンパク質(CHOP)の溶出は、Shimadzu検出器でA280でモニターした。融合タンパク質は、クエン酸0.1M(pH3)で溶出し、すぐにpH7まで中和するためにTris塩基を含有した試験管に入れた。中和した酸溶出収集物を、電気伝導率が<7mSになるまで、2回蒸留水で希釈し、この物質をTris、0.02M、pH=7.5で平衡化したセファロースSP陽イオン交換カラム(Amersham)50mLに添加した。Tris緩衝液で洗浄後、残存するCHOPを、NaCl、0から1MのNaCl直線勾配で融合タンパク質から分離した。融合タンパク質ピークを収集し、緩衝液を交換し、分子量カットオフ値30kDaのMilliporeダイアフィルトレーションで濃縮した。最終濃度の抗体溶液を滅菌濾過(0.22μm)し、4℃で保存した。融合タンパク質は、図20に示したように、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で均一になるまで精製した。融合タンパク質重鎖の大きさは、54kDaであるHIRMAb重鎖の大きさと比較して68kDaであった。融合タンパク質とHIRMAb重鎖の大きさの違いは、融合タンパク質の各重鎖に融合した付加vBDNF単量体(14kDa)を反映している。この融合タンパク質は、ウェスタンブロッティング上で抗ヒトIgG抗体と抗ヒトBDNF抗体の両方と、予測した免疫反応バンドの分子量の大きさで反応する(図21)。等電点電気泳動(IEF)は、組換えBDNFの導電点(pI)がPI>10で強い陽イオンであることを示している(図22)。融合タンパク質で観察されたpIは8.5で、HIRMAbのpIと近似している(図22)。融合タンパク質で観察されたpI、8.5は、融合タンパク質HCが9.04で、LCが5.27である算出されたpIと矛盾しなかった(http:scansite.mit.edu/)。
【0158】
実施例4
融合タンパク質は、2機能性であり、ヒトインシュリン受容体およびヒトtrkB受容体の両方に高い親和性で結合する。融合タンパク質のHIR細胞外ドメイン(ECD)への親和性は、レクチンアフィニティー精製HIR ECDを使用した競合的リガンド結合測定法(CLBA)で測定した。HIR ECDを永久的に形質移入したCHO細胞を無血清培地(SFM)中で増殖させ、HIR ECDをコムギ胚芽凝集素アフィニティーカラムで精製した。HIR ECDをNunc−Maxisorb96ウェル皿に播種し、マウスHIRMAbのHIR ECDに対する結合は、結合測定法のリガンドとして[125I]マウスHIRMAbを添加した後、放射活性測定法によって検出した(図23A)。[125I]マウスHIRMAbのHIR ECDへの結合は、図23Bに示したように、非標識融合タンパク質またはHIRMAbを添加することによって置換された。CLBAは、HIRMAbまたは融合タンパク質と同程度の結合を示す。高親和性および低親和性結合部位モデルを使用したスキャッチャード分析および非線形回帰分析を実施して、融合タンパク質のHIRへの結合の親和定数を決定した。融合タンパク質およびHIRMAbは両方とも、高い親和結合定数、Ki=0.63±0.07nMでHIRに等しく十分に結合する(図23B)。
【0159】
trkB CLBAは、融合タンパク質の組換えヒトtrkB ECDへの親和性を測定するために設計された。trkB CLBAの設計は、測定中の非特異的結合の程度を高める原因となり、測定の感度を低くしてしまうBDNFの陽イオン特性のために困難であった。BDNFの非特異的結合は、タンパク質に2000Daポリエチレングリコール(PEG)を結合することによって排除することができた。2機能PEG分子、ビオチン−PEG2000−ヒドラジド(Hz)は、商業的に入手し、図24Aに概略したように、BDNFに結合させて、BDNF−PEG2000−ビオチンを作製した。この分子は、CLBAの「トレーサー」として使用した。trkB ECDは、ELISAプレートに吸収され、BDNF−PEG2000−ビオチンのtrkBに対する結合は、アビジンおよびビオチンペルオキシダーゼによって比色測定によって検出した(図24A)。予備研究によって、ELISAシグナル(A490)はウェルに添加したtrkBの量に正比例した。さらに、この測定法のブランクは非常に低く、trkBをプレートに入れない場合のA490は<0.04であった。BDNF−PEG2000−ビオチンのtrkB ECDへの結合は、組換えBDNF(図24B)または融合タンパク質(図24C)によって競合的に置換された。非線形回帰分析を使用した結合データのスキャッチャード分析は、図24Bおよび24Cにそれぞれ示したように、BDNFまたは融合タンパク質のtrkBへの結合のKiの算出を可能にした。融合タンパク質のtrkBへの親和性は、組換えBDNFの親和性と統計学的な差はなかった(図19、B、C)。この測定法の非特異的結合(NSB)は、BDNFまたは融合タンパク質と同程度であった。NSBはおそらく、ニューロトロフィンのtrkB細胞外ドメインへの非直線的な協同的結合を表している。図24に示したtrkB CLBAの結果は、融合タンパク質のtrkB受容体に対する親和性が、vBDNFのHIRMAb重鎖のカルボキシル末端に融合した後も変化しないことを示している。
【0160】
BDNFなどのニューロトロフィンは、生物学的活性があり、コグネイト受容体、例えば、trkBに高い親和性で結合するホモ二量体構造を強制的に形成することが必要である。図18に例示したように、2個のBDNF分子の間に天然に生じるホモ二量体構造は、ニューロトロフィンがIgG分子のCH3領域のカルボキシル末端に融合した場合に形成された。HIRMAb重鎖に融合したにもかかわらず(図18)、BDNFのtrkBに対する親和性の高い結合が維持されるという驚くべき所見(図24)は、BDNFは通常trkBに二量体として結合するという事実と一致する。
【0161】
実施例5
低酸素症に罹ったヒト神経細胞は、組換えBDNFと同等の活性を備えた融合タンパク質によって神経保護される。ヒトSH−SY5Y神経細胞をレチノイン酸10μMに7日間曝露して、trkB、BDNF受容体の遺伝子発現を誘導した。次に、この細胞を、酸素センサーを備えた密封した容器内で16時間酸素遮断した。その後、興奮毒性の神経損傷を4時間再度酸素添加することによって誘導した(図25A)。この4時間の再酸素添加の間に、細胞は何も処理しないか、等モル濃度のヒト組換えBDNFまたは融合タンパク質に曝露した。図25Bに示したように、この融合タンパク質は、興奮毒性虚血再酸素添加に曝露したヒト神経細胞における神経保護の誘導に関して、天然のヒトBDNFと効力が等しかった。
【0162】
実施例6
融合タンパク質の、単離されたヒト脳毛細血管内のヒト血液脳関門インシュリン受容体に対する高い結合親和性。単離されたヒト脳毛細血管は、ヒトBBBのin vitroモデル系として使用されている(図26A)。この融合タンパク質は、3H−N−スクシニミジルプロピオネートで放射標識され、ヒトBBBのHIRに結合する融合タンパク質の放射性受容体測定法(RRA)を確立するためにヒト脳に添加された。[3H]−融合タンパク質は、非標識融合タンパク質によって結合が自己阻害されるので、BBBに特異的に結合している(図26B)。マウスHIRMAb(mHIRMAb)はまた、ヒトBBBに対する[3H]−融合タンパク質の結合を阻害するので、この融合タンパク質は、ヒトBBBのインシュリン受容体に結合される。図26Bの結合データを非線形回折分析でスキャッチャードプロットに当てはめると、結合定数:KD=0.55±0.07nM、Bmax=1.35×0.10pmol/mgp、およびNSB=0.39±0.02pmol/mgpが得られ、KDは解離定数であり、Bmaxは最大結合であり、NSBは不飽和結合である。KDは<1nMで、融合タンパク質がヒトBBB上のHIRに非常に高い親和性で結合することを示している。
【0163】
実施例7
成体アカゲザルによる融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込み。融合タンパク質を、比活性が2.0μCi/μgになるまで[3H]−N−スクシニミジルプロピオネートでトリチウム標識した。5歳のメスアカゲザル、体重5.2kgに、746μCi(373μg)の用量を1回静脈注射することによって投与し、180分間かけて複数の時点で血清を採取した。麻酔し、一晩絶食させた霊長類の血清グルコースは、実験期間180分の間ずっと一定で、平均72±2mg%で、このことは、HIRMAbをベースにした融合タンパク質の投与が内在性インシュリン受容体の妨害を引き起こさず、糖血症の制御に影響を及ぼさないことを示している。
【0164】
麻酔したアカゲザルから取り出した血清の総放射活性(図27A)、およびトリクロロ酢酸(TCA)によって沈殿可能な放射活性(図27B)を分析した。薬剤を注射してから180分後、動物を安楽死させ、脳の放射活性は、アカゲザルにおける[125I]標識マウスHIRMAbの脳への取り込みに関する予備実験と同様の毛細血管欠乏法(capillary depletion method)(図27C)で分析した。[3H]融合タンパク質の比活性をベースにして、図27Dに示したように、脳放射活性を脳グラム(g)当たりngに変換し、このレベルを成体霊長類脳で報告されたBDNF内在濃度と比較した。
【0165】
血漿薬物動態分析(図27A)は、遺伝子操作されたHIRMAbおよびBDNFの融合タンパク質は、元のマウスHIRMAbと同じ速度で血液から除去されることを示している。これは、BDNF、陽イオン性の高いタンパク質のHIRMAbへの融合は、HIRMAbの血液クリアランスを加速しないことを示しているので、重要な発見である。予備研究によって、陽イオン性BDNFをモノクローナル抗体に結合すると、BDNFの陽イオン性によって、抗体の血液クリアランスを大いに加速し、肝臓での取り込みを大いに促進することが示されている。図27Aの実験は、陽イオン性BDNFをIgG融合タンパク質として再度操作すると、血漿での薬物動態がIgG部分によって支配され、BDNFの血液レベルが長期間高く維持されることを示している。
【0166】
図27Bのデータは、BDNFがIgG融合タンパク質として再調製されると、血中のニューロトロフィンの代謝安定性が天然BDNFと比較して大いに増強されることを示している。その陽イオン性のため、天然BDNFは迅速に血液から除去され、TCA可溶性放射活性代謝物に迅速に分解された(図27B)。しかし、標識融合タンパク質のTCA不溶性型は、霊長類において、静脈注射後3時間高く維持される(図27B)。図27A、Bのデータは、融合タンパク質としてニューロトロフィン医薬品を再遺伝子操作することの利点を示している。天然のニューロトロフィンは、血液から迅速に除去され、迅速に分解された。しかし、IgG−ニューロトロフィン融合タンパク質を作製した場合、ニューロトロフィンの血漿薬物動態プロファイルおよび代謝安定性プロファイルは、IgG分子と類似している。
【0167】
天然BDNFはBBBを通過して輸送されない。同様に、静脈注射して180分後のIgGの脳の量分布(VD)は血漿量、18μL/gと等しかったので、[3H]−マウスIgG2aアイソタイプ制御抗体は、成体アカゲザルにおいてBBBを通過して輸送されなかった(図27C、白い棒)。反対に、[3H]融合タンパク質の脳VDは、140μl/g脳を上回った(図27C、黒い棒)。毛細血管欠乏分析は、脳の脈管構造を脈管後上清(post−vascular supernatant)から分離し、脳脈管構造による薬剤の単純な隔離とは対照的に、BBBを通過した脳内への薬剤の輸送の検出を可能にする。[3H]融合タンパク質の脈管後上清の脳VDは、脳ホモジェネートのVDと等しく(図27C)、融合タンパク質がBBBを通過し、脳実質に輸送されることを示している。
【0168】
融合タンパク質の脳VDは、[3H]−融合タンパク質の比活性をベースにして、脳1グラム当たりの融合タンパク質ngに変換し、図27Dに示したように24±1ng/gで、これによって脳内の融合タンパク質の総重量の計算が可能になった。この値は、成体霊長類のBDNFの内在性脳濃度よりも>10倍高い(45)。したがって、アカゲザル5.2kgに対して373μgの用量の投与は、融合タンパク質72μg/kgの標準化用量と等しく、BDNFの脳濃度の著しい上昇をもたらす。静脈内投与後のこのような脳BDNFの上昇は、天然BDNFはBBBを通過しないので天然BDNFでは起こり得ない。しかし、BDNFを融合タンパク質の形態に再度遺伝子操作すると、脳内のニューロトロフィンの薬理学的活性レベルが実現する(図27D)。
【0169】
このデータは、(1)融合タンパク質の血漿平均滞留時間(MRT)、312分は、天然BDNFのMRTの3.0分よりも100倍長く、(2)融合タンパク質の全身クリアランス、0.94mL/分/kgは、37mL/分/kgであるBDNFの全身クリアランスよりも39倍遅かったことを示している。言い換えると、組換えタンパク質の平均血液濃度は、組換えタンパク質をIgG融合タンパク質として再調製した場合、100倍超に達した。したがって、BDNFの分子版トロイの木馬への融合は2つの利点を有する。(1)BDNF単独ではBBBを通過できないが、分子版トロイの木馬は、血液脳関門(BBB)を通過してBDNFを運搬し、(2)BDNF自体は血液中で約3分しか持続しないが、分子版トロイの木馬はニューロトロフィンの血液からの迅速な消失を防御した。これらの特性はいずれも、血流中に投与した後、脳内のBDNFの薬理学的効果を増強するのに役立つ。例えば、表5参照のこと。
【0170】
【表6】

【0171】
実施例8
BNDFおよびBBB分子版トロイの木馬の結合による局所的脳虚血の神経保護。急性脳卒中を治療する神経保護薬を開発するために、数多くの試みが開発されてきた。神経保護薬は、特定の小分子の場合、毒性が強いか、または、薬剤がBBBを通過できないために効力がないので、今までのところ成功していない。BDNFは、齧歯類の実験的脳卒中および局所的脳虚血と同時に脳に直接注射すると、神経保護的である。高分子はBBBを通過しないので、BDNFは、頭蓋骨を貫通して脳に直接注射しなければならない。BBBは、局所脳虚血後早い時間に元通りになり、BDNFはBBBを通過しないので、BDNFのみを静脈内投与しても、虚血した脳において神経保護効果は表れない。BBBを通過してBDNFを輸送するために、ニューロトロフィンをラットトランスフェリン受容体(TfR)に対するマウスMAbに結合させた。このペプチド様MAbはBBBを通過してBDNFを運搬し、結合したBDNF−MAb結合体は、このBDNFはBBBを通過し、脳から血液に入ることができるので、実験的脳卒中に遅延的に静脈内投与した後でも神経保護効果が高い。一旦、脳の内側、BBBの向こう側に入ると、BDNFはそのコグネイト受容体、trkBを活性化し、その後虚血したニューロンにおいて神経保護効果を誘発し、一連のアポトーシス死を停止させる。BDNF−MAb結合体の神経保護効果は、用量応答効果、時間応答効果を示し、7日目の神経保護効果は、BDNF−MAb結合体を1回静脈内投与して1日目の神経保護効果と同一であるので、長期間持続する。例えば、本明細書に全体を参考として援用した、Zhang and Pardridge(2001)Brain Res.889:49〜56、およびZhang and Pardridge(2001)Stroke 32:1378〜1374を参照のこと。BDNFはHIRに対するMAbに融合され、in vitroで両方のヒトBBBに迅速に結合し、in vivoにおいて霊長類BBBを通過して迅速に輸送されるので、この融合タンパク質は、ヒト脳卒中においても神経保護的である。
【0172】
実施例9

BNDFおよびBBB分子版トロイの木馬の結合体の全脳虚血における神経保護効果。脳にBDNFを直接注射するとまた、心停止後に生じ得るような一過性前脳虚血(TFI)において神経保護的である。しかし、BDNFはBBBを通過せず、TFI後の早い時間ではBBBは完全であるので、神経保護が可能である場合でも、静脈内BDNFはTFIに神経保護的ではない。反対に、BDNFをラットトランスフェリン受容体(TfR)に対するマウスMAbに結合させると、BBBを通過してBDNFを脳内まで運ぶ分子版トロイの木馬として作用し、静脈内BDNFはTFIにおいて神経保護的であった。成体ラットを脳電図(EEG)が約10分間平坦線を生じるTFIに罹患させた。動物を蘇生し、その後、4種類の異なる治療薬、(a)緩衝液、(b)未結合BDNF、(c)BDNFが結合していない受容体特異的MAb、および(d)BDNF−MAb結合体のうち1種類を静脈内投与した。生理食塩水、未結合BDNFまたはMAb単独で治療した動物の場合、海馬のCA1部分の錐体ニューロンは神経保護されなかった。しかし、BDNF−MAb結合体の場合、遅延型静脈内投与後、CA1錐体ニューロン密度は完全に正常化される。本明細書に全体を参考として援用したWu and Pardridge(199)、PNAS(USA)96:254〜259を参照のこと。これは、BDNFをBBB分子版トロイの木馬に結合させるならば、BDNFを遅延して静脈内投与した後、全脳虚血で強力な神経保護効果があることを示している。BDNFの組換え融合タンパク質および受容体特異的MAbは、脳障害を永久的に防御するために心停止後投与することができた。
【0173】
実施例10
ニューロトロフィンが脳細胞を通過できるならば、BDNFは脳および脊髄損傷において神経保護的である。BDNFはBBBを通過しないので、頭蓋骨を貫通してニューロトロフィンを直接注射するならば、BDNFは脳損傷に神経保護的である。BDNFはまた、神経毒による興奮毒性損傷に罹患した脳において神経保護的であり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)−1に感染した脳において神経保護的である。BDNFは急性脊髄損傷においても神経保護的であるが、前脳のBBBと同じように、BDNFは血液脊髄関門を通過しないので、BDNFは脊椎管に直接注入することによって投与しなければならない。これらの場合全てにおいて、BDNFはBBBを通過せず、BBBは損傷後早い時間では脳損傷内において完全であるので、神経保護効果がまだある場合でも、BDNFの静脈投与は神経保護的ではない。反対に、BDNF融合タンパク質は、BDNFをBBB分子版トロイの木馬に融合させ、末梢投与後に血液から脳および脊髄に浸透できるので、静脈投与後のこれらの症状において神経保護的である。
【0174】
実施例11
ニューロトロフィンが脳細胞を通過できるならば、BDNFは慢性神経変性症状において神経保護的である。ニューロトロフィンがBBBを通過できないならば、BDNFなどのニューロトロフィンは末梢投与経路のための薬剤として開発することができる。BDNFのキメラHIRMAbへの融合は、プリオン病、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、ハンチントン病(HD)、ALS、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、ピック病、結節性硬化症、リソソーム蓄積症、カナバン病、レット症候群、脊髄小脳失調症、フリードライヒ失調症、視神経萎縮および網膜変性症を含む神経変性疾患ならびに脳加齢の慢性的治療のためにヒトの脳にBDNFの非侵襲的に輸送する新たな取り組みを提案する。
【0175】
実施例12
網膜変性および失明における治療薬としてのBDNF。網膜は、脳のように、血液網膜関門(BRB)によって血液から保護されている。インシュリン受容体は、BBBおよびBRBの両方の上で発現し、HIRMAbは、RMTを介してBRBを通過して網膜まで治療薬を輸送することが示された(Zhang他、(2003)Mol.Ther.7:11〜18)。BDNFはBRBを通過しないので、BDNFは、網膜変性において神経保護的であるが、眼球に直接ニューロトロフィンを注射する必要がある。HIRMAbはBRBを通過してBDNFを輸送し、したがって、ニューロトロフィンは血液区画から網膜神経細胞に曝露されるので、融合タンパク質は、静脈注射または皮下注射と同程度の非侵襲的な投与経路で、網膜変性および失明を治療するために使用することができた。
【0176】
実施例13
うつ病の治療薬としてのBDNF。うつ病患者の小集団は、BDNFが脳で欠乏している可能性があり、一塩基多形(SNP)と感情障害との関連が報告されている。BDNFを脳に直接注射すると、齧歯類モデルでは持続性のある抗うつ効果がある。ニューロトロフィンはBBBを通過しないので、BDNFは、脳に直接注射しなければならない。融合タンパク質を慢性的に投与することによって、BDNFの脳レベルを上昇させる手段を提供し、うつ病患者および脳BDNFの産生が減少した患者において治療効果があり得る。
【0177】
実施例14
IgG融合タンパク質の製造方法。イムノグロブリンG(IgG)遺伝子の真核細胞系への形質移入には一般的に、IgGを構成する重鎖(HC)および軽鎖(LC)をコードする別々のプラスミドを細胞系に同時形質移入することが必要である。IgG融合タンパク質の場合、組換え治療用タンパク質をコードする遺伝子は、HCまたはLC遺伝子のいずれかに融合させることができる。しかし、この同時形質移入の取り組みでは、HCおよびLC両方の融合遺伝子またはHC融合物およびLC遺伝子を平等に高く取り込む細胞系を選択することが困難である。融合タンパク質の製造の好ましい取り組みは、DNAの1本鎖上に、HC融合タンパク質遺伝子、LC遺伝子、選択遺伝子、例えば、ネオ、および増幅遺伝子、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を含む必要な遺伝子全てを含有する1本のプラスミドDNAを永久的に形質移入された細胞系を作製することである。図12の融合タンパク質タンデムベクターの図に示したように、HC融合遺伝子、LC遺伝子、ネオ遺伝子およびDHFR遺伝子は全て、別々の、しかしタンデムなプロモーターおよび別々の、しかしタンデムな転写終止配列の制御下にある。したがって、治療用タンパク質およびHCまたはLC IgG遺伝子のいずれかの融合遺伝子を含む遺伝子は全て、宿主細胞ゲノムに平等に組み入れられる。
【0178】
本発明の好ましい実施形態は本明細書に示して説明しているが、このような実施形態を例示のためのみに提供していることは当業者には明らかであろう。本発明を逸脱することのない多くの変種、変更および置換が当業者によって考えられるだろう。本明細書で説明した本発明の実施形態の様々な変更が、本発明の実施において使用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲は、本発明の範囲を限定し、これらの特許請求の範囲内の方法および構造およびそれらの同等物はそれらによって網羅されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0179】
【図1】キメラHIRMAbの重鎖(VH)の可変領域、4領域(CH、ヒンジ、CH2およびCH3)からなるヒトIgG1の定常領域をコードするゲノム断片およびBDNF変種(vBDNF)のcDNAからなる融合遺伝子をコードする真核発現ベクターの遺伝子操作を示した図である。遺伝子の転写は、ヒトIgG1プロモーター(PRO)によって行われる。このベクターは、融合タンパク質の重鎖(HC)を生成する。
【図2】修飾された5’−および3’−リンカーを備えたvBDNFcDNAをコードする細菌発現プラスミドの遺伝子操作を示した図である。
【図3】融合タンパク質を生成するタンデムベクター構築における中間体である様々な構造物の大きさを示した臭化エチジウム染色アガロースゲルを示した図である。(A)列1〜2:NruIで消化した図2のプラスミドで、0.4kbのvBDNFおよび3.5kbのベクター主鎖を示している。列3:1.4〜0.1kbの範囲の大きさのMW標準物。列4:23〜0.6kbの範囲の大きさのMW標準物。(B)列1:0.4kbのvBDNFcDNAは、ポリA+ヒトU87神経膠腫細胞から単離されたRNAから逆転写されたcDNAを使用した、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって生成される。PCRプライマー配列を表2に示す。列2および3:パネルAに示したのと同じ大きさのMW標準物。(C)列1:NheIおよびBamHIで消化した後のクローン416。列2:陰性クローン。列3:NheIおよびBamHIで消化した後のクローン400。列4および5:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(D)融合タンパク質HC(列1)およびLC(列2)をコードするDNAの特性のPCR断片。列3〜4:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(E)列1〜4:NheIで消化した後のクローン422aの4種の、異なるが一致しているコピーで、0.4kbの融合タンパク質HC可変領域(VH)cDNAの遊離が示されている。列5〜6:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(F)列1〜4:EcoRVおよびBamHIで消化した後のクローン423aの5種の、異なるが一致しているコピーで、0.7kbの完全なLCcDNAの遊離が示されている。列5〜6:パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。(G)PvuI(列1)およびEcoRI−HindIII(列2)によるタンデムベクター(図12)の制限エンドヌクレアーゼ地図。PvuI(切断1回)によって、約11kbの予測直線状DNAバンドが生成した。EcoRIおよびHindIIIによる消化によって、融合タンパク質軽鎖(すなわち、1.8kb)およびDHFR(すなわち、1.5kb)発現カセットの両方が遊離する。約8kbのバンドは、融合タンパク質重鎖発現カセットを含む主鎖ベクターを表す。列3〜4:順番は逆であるが、パネルAで示したのと同じ大きさのMW標準物。
【図4】融合タンパク質HCのカルボキシル末端とvBDNFのアミノ末端との間の融合部位のヌクレオチド(配列番号21)およびアミノ酸(配列番号22)を示した図である。HIRMAb HCとvBDNFとの間の3−アミノ酸リンカーならびにvBDNFのカルボキシル末端の新たな終止コドンを示す。
【図5】プラスミド416にクローニングされた融合タンパク質HC遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号23)を示した図である。イタリック体:ヒトIgG1定常領域イントロン。太字:ヒトIgG1エキソン配列。下線部:vBDNF。
【図6】融合タンパク質HCのアミノ酸配列(配列番号24)を示した図である。CH3領域とvBDNFとの間の3−アミノ酸リンカーのように、アミノ酸19個のシグナルペプチドに下線を引いてある。CH2内のN−結合グリコシル化コンセンサス配列に下線を引いてある。
【図7】融合タンパク質HCの様々なドメインのアミノ酸配列(配列番号25)を示した図である。
【図8】融合タンパク質HCをコードする、イントロンのない真核発現ベクター、クローン422aの生成を示した図である。融合タンパク質HC cDNAは、クローン416を形質移入した骨髄腫細胞から単離されたRNAの逆転写酵素によって生じたcDNAをPCRすることによって生成した。
【図9A】(A)クローン422aに挿入された融合タンパク質HC cDNAのヌクレオチド配列(配列番号26)を示した図である。
【図9B−1】(B)(配列番号27および28)図Aに示したヌクレオチド配列から推定される融合タンパク質HCのアミノ酸配列を示した図である。シグナルペプチドの配列には下線が引いてある。
【図9B−2】(B)(配列番号27および28)図Aに示したヌクレオチド配列から推定される融合タンパク質HCのアミノ酸配列を示した図である。シグナルペプチドの配列には下線が引いてある。
【図10】融合タンパク質LCをコードする、イントロンのない真核発現ベクター、クローン423aの生成を示した図である。融合タンパク質LC cDNAは、キメラHIRMAb LCのVLを含むヒトカッパLC遺伝子のイントロン/エキソン配列をコードする染色体断片由来のLC遺伝子を生成する発現ベクターを形質移入された骨髄腫細胞から単離されたRNAの逆転写酵素によって生成したcDNAをPCRすることによって生成した。
【図11A】(A)クローン423aに挿入された融合タンパク質LC cDNAのヌクレオチド配列(配列番号29)を示した図である。
【図11B】(B)(配列番号30および31)図Aに示したヌクレオチド配列から推定される融合タンパク質LCのアミノ酸配列を示した図である。シグナルペプチドの配列には下線が引いてある。
【図12】融合タンパク質のHCおよびLC遺伝子をコードするタンデムベクターの構造物を示した図である。TVは、cDNA発現ベクター、HCについてはクローン422aおよびLCについては423a、ならびにマウスDHFRの発現カセットをコードする細菌発現プラスミドから操作された。
【図13−1】融合タンパク質HC遺伝子およびLC遺伝子ならびにタンデムベクターに組み込まれたDHFR遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号32)を示した図である。
【図13−2】融合タンパク質HC遺伝子およびLC遺伝子ならびにタンデムベクターに組み込まれたDHFR遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号32)を示した図である。
【図13−3】融合タンパク質HC遺伝子およびLC遺伝子ならびにタンデムベクターに組み込まれたDHFR遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号32)を示した図である。
【図14−1】タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいて融合タンパク質HCの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号33および34)。シグナルペプチド配列には下線が引いてある。
【図14−2】タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいて融合タンパク質HCの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号33および34)。シグナルペプチド配列には下線が引いてある。
【図15】タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいて融合タンパク質LCの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号35および36)。シグナルペプチド配列には下線が引いてある。
【図16】タンデムベクターヌクレオチド配列分析に基づいてDHFRの推定アミノ酸配列を示した図である(配列番号37および38)。
【図17】バイオリアクターで50日間一定に維持したCHO細胞の生細胞および全細胞密度を示した図で、CHO細胞は、融合タンパク質をコードするタンデムベクターを永久的に形質移入された。
【図18】融合タンパク質、(a)血液からBBBを通過する輸送を可能にするヒトBBBヒトインシュリン受容体(HIR)に結合し、(b)神経保護を導くニューロン上のtrkBに結合する2機能性分子の構造を示した図である。
【図19】2次抗体がヒトIgG1のFc領域(x軸)またはヒトBDNF(y軸)のいずれかに特異的である、2種類の異なる「サンドイッチ」免疫測定法の相関を示した図である。どちらの測定法でも1次抗体はヒトカッパ軽鎖に特異的である。CHO細胞調整培地中の融合タンパク質の測定レベルは、抗Fcを使用しても、抗BDNF抗体を使用しても同一である。
【図20】キメラHIRMAbおよび融合タンパク質の還元(左)および非還元(右)ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)を示した図である。還元条件下では、軽鎖の大きさ、30kDaは、キメラHIRMAbおよび融合タンパク質と同一であり、融合タンパク質の重鎖の大きさは、BDNFが存在するため、キメラHIRMAb重鎖より約15kDa大きい。非還元条件下では、キメラHIRMAbおよび融合タンパク質はそれぞれ、分子量180および200kDaの単一な異種四量体種として移動する。
【図21】(左図)抗ヒトIgG1次抗体のウェスタンブロットを示した図である。融合タンパク質およびHIRMAbの重鎖の大きさはそれぞれ、64kDaおよび50kDaであり、融合タンパク質またはキメラHIRMAbの軽鎖の大きさは25kDaである。(右図)融合タンパク質またはBDNFには反応するが、キメラHIRMAbには反応しない抗ヒトBDNF抗体によるウェスタンブロットを示した図である。MW標準物(STDS)は、右側に示してある。
【図22】等電点(pI)標準物(列1)、キメラHIRMAb(列2および4)、BDNF(列3)および融合タンパク質(列5)の等電点電気泳動(IEF)を示した図である。BDNFは、pI>10で強い陽イオンである一方、融合タンパク質のpIはキメラHIRMAbのpIに近似しており、約8.5で、融合タンパク質の理論的pIに近い。
【図23】(A)ヒトインシュリン受容体(HIR)競合リガンド結合測定法(CLBA)の概略を示した図である。HIR細胞外ドメイン(ECD)に[125I]標識マウスHIRMAbを結合させ、図Bに示したように、この結合をキメラHIRMAbまたは融合タンパク質のいずれかと競合的に置換させる。(B)キメラIHRMAbまたは融合タンパク質のいずれかによる、HIR ECDに対する[125I]標識マウスHIRMAbの結合の置換を示した図である。HIR ECDに対するキメラHIRMAbの親和性は高く、HIR ECDに対する融合タンパク質の親和性は、キメラHIRMAbの親和性と有意差があるとはいえない。これらの結果は、キメラHIRMAb重鎖のカルボキシル末端にvBDNFを融合しても、HIRに対する融合タンパク質の結合を損なわないことを示している。
【図24】(A)trkB競合リガンド結合測定(CLBA)の設計。PEGリンカーの利点は、それによる修飾でELISAウェルに対する陽イオンBDNFの非特異的結合(NSB)が排除され、それによってシグナル/ノイズ比の高い測定が得られることである。trkB ECDへのBDNF−PEG2000−ビオチンの結合は、アビジンおよびビオチンペルオキシダーゼを使用したペルオキシダーゼ系によって検出された。(B)trkB ECDへのBDNF−PEG2000−ビオチンの結合は、組換えBDNFによって競合的に置換される。この結合データは、非線形回帰分析によって分析したところ、BDNF結合のKI、3.5±1.3pmol/ウェルおよびNSBパラメータが得られた。(C)trkB ECDへのBDNF−PEG2000−ビオチンの結合は、融合タンパク質によって競合的に置換される。この結合データは、非線形回帰分析によって分析したところ、融合タンパク質結合のKIは2.2±1.2pmol/ウェルで、天然BDNFのKIと有意差があるとはいえない。これらのデータは、trkB受容体に対する融合タンパク質の親和性が天然BDNFの親和性と等しいことを示している。
【図25】(A)ヒト神経SH−SY5Y細胞における低酸素症−再酸素負荷神経保護測定法の設計を示した図である。細胞をレチノイン酸に7日間曝露して、trkB、BDNF受容体の遺伝子発現の上方制御を引き起こす。(B)3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド(MTT)によるミトコンドリア呼吸の測定に基づいた神経保護測定法。最大の神経保護は、BDNF4nMによって確立され、融合タンパク質4nMは、ヒト神経細胞において、同程度の神経保護レベルを生じる。MTTレベルは、細胞の約50%のみがレチノイン酸に応答してtrkBを誘導するので、低酸素症ではない細胞のレベルにはもどらない。
【図26】(A)ヒトBBBのin vitroモデル系として使用した、ヒト脳から単離された毛細血管の光学顕微鏡写真である。(B)ヒトBBB上のHIRに対する[3H]−融合タンパク質の結合の放射線−受容体測定法。結合は非標識融合タンパク質によって自己阻害される。非線形回帰分析によって飽和データをスキャッチャードプロットに当てはめると、結合パラメータ、KD=0.55±0.07nM、Bmax=1.35±0.10pmol/mgpが得られる。
【図27】成体アカゲザルにおける融合タンパク質の薬物動態および脳への取り込み。(A)麻酔した成体アカゲザルに[3H]−融合タンパク質または[125I]マウスHIRMAbのいずれかのタンパク質を1回静脈注射した後、[3H]−融合タンパク質または[125I]マウスHIRMAbの血清濃度を時間に対してプロットする。(B)麻酔した成体アカゲザルに[3H]融合タンパク質を、または麻酔した成体ラットの[3H]−BDNFを1回静脈注射した後、トリクロロ酢酸(TCA)によって沈殿可能な血清放射活性を時間に対してプロットする。(C)麻酔した成体アカゲザルに、[3H]融合タンパク質または[3H]マウスIgG2aのいずれかを1回静脈注射してから180分後の脳分布の毛細血管欠乏分析。(D)融合タンパク質373μgを静脈注射してから180分後の融合タンパク質の霊長類脳における濃度を、霊長類脳の内在性BDNF濃度と比較して示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液脳関門(BBB)を通過できる構造に共有結合した神経治療薬を含み、末梢投与後、脳内の神経治療薬の濃度を平均して少なくとも約5ng/グラム脳上昇させることができる組成物。
【請求項2】
前記神経治療薬の分子量が約400ダルトンを上回っている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記神経治療薬が単独では、末梢投与後治療有効量でBBBを通過しない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記BBBを通過できる構造が、内在性BBB受容体媒介輸送系上でBBBを通過する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系が、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体およびIGF受容体からなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系がインシュリンBBB受容体媒介輸送系である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記BBBを通過できる構造が抗体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記抗体がモノクローナル抗体(MAb)である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記MAbがキメラMAbである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記キメラ抗体が、ヒトに投与された場合に顕著な免疫原反応を回避するのに十分なヒト配列を含有している、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系上でBBBを通過する構造が抗体である、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記MAbがキメラMAbである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記キメラ抗体が、ヒトに投与された場合に顕著な免疫原反応を回避するのに十分なヒト配列を含有している、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記神経治療薬がニューロトロフィンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記ニューロトロフィンが、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンおよび幹細胞因子(SCF)からなる群から選択される、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記ニューロトロフィンが脳由来神経栄養因子(BDNF)を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記BDNFが天然BDNFの変種である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記BDNFが2アミノ酸カルボキシル切断型変種である、請求項17に記載の組成物。
【請求項20】
前記BDNFがヒトBDNFである、請求項17または19に記載の組成物。
【請求項21】
前記BDNFが、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記神経治療薬がニューロトロフィンであり、前記血液脳関門(BBB)を通過できる構造が内在性BBB受容体媒介輸送系に対するMAbである、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
前記ニューロトロフィンがBDNFである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記MAbがインシュリンBBB受容体媒介輸送系に対する抗体である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記BDNFが2アミノ酸カルボキシ切断型BDNFである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記MAbがキメラMAbである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記キメラ抗体が、ヒトに投与された場合に顕著な免疫原反応を回避するのに十分なヒト配列を含有している、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記インシュリン受容体がヒトインシュリン受容体であり、前記BDNFがヒトBDNFである、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記BDNFが、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記BDNFが、そのアミノ末端でMAbの重鎖のカルボキシ末端に共有結合している、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記BDNFが、そのアミノ末端でMAbの軽鎖のカルボキシ末端に共有結合している、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記MAbの重鎖が、配列番号24のアミノ酸20〜462と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項33】
前記MAbの重鎖と前記BDNFとの間にリンカーをさらに含む、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記リンカーがS−S−Mである、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
MAbの軽鎖をさらに含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記軽鎖が、配列番号36のアミノ酸21〜234と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記MAbがグリコシル化されている、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
請求項1、18、21、30または31に記載の組成物および薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項39】
請求項1に記載の組成物と、血液脳関門(BBB)を通過できる第2の構造に共有結合した第2の神経治療薬を含む第2の組成物とを含む組成物。
【請求項40】
前記第1および第2の神経治療薬が異なっており、前記BBBを通過できる第1および第2の構造が同じ構造である、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
前記BBBを通過できる構造が、第1の重鎖および第2の重鎖を含む抗体である、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
前記第1の神経治療薬が抗体の第1の重鎖に共有結合しており、前記第2の神経治療薬が抗体の第2の重鎖に共有結合している、請求項40に記載の組成物。
【請求項43】
ヒトBBBインシュリン受容体に対するキメラMAbに共有結合した薬剤を含み、前記MAbが重鎖および軽鎖を含む組成物。
【請求項44】
前記薬剤が治療薬である、請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
前記治療薬がニューロトロフィンである、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
前記ニューロトロフィンがBDNFである、請求項45に記載の組成物。
【請求項47】
前記薬剤が2アミノ酸カルボキシル末端切断型BDNFである、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
前記MAbの重鎖が、BDNFに共有結合して融合タンパク質を形成しており、前記融合タンパク質の配列が、配列番号24のアミノ酸20〜462を含む配列と少なくとも約80%同一である第1の配列を含み、配列番号24のアミノ酸466〜582を含む配列と少なくとも約80%同一である第2の配列をさらに含む、請求項46に記載の組成物。
【請求項49】
前記MAbの軽鎖が、配列番号36のアミノ酸21〜234を含む配列と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項48に記載の組成物。
【請求項50】
前記MAbがグリコシル化されている、請求項48に記載の組成物。
【請求項51】
前記第1の配列のカルボキシル末端と前記第2の配列のアミノ末端との間にペプチドリンカーをさらに含む、請求項49に記載の組成物。
【請求項52】
前記リンカーがS−S−Mを含む、請求項51に記載の組成物。
【請求項53】
前記MAbがグリコシル化されている、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
血液脳関門を通過できるイムノグロブリンに共有結合したBDNFを含み、神経障害を治療するために有効な量でBBBを通過できる、神経障害を治療するための組成物。
【請求項55】
(i)BBBを通過することができる構造に共有結合した
(ii)中枢神経系(CNS)で活性のあるペプチド
を含む融合タンパク質であって、
前記血液脳関門を通過できる構造および前記中枢神経系で活性のあるペプチドがそれぞれ、別々の実体としての活性と比較して、平均してそれらの活性の少なくとも約40%を保持している融合タンパク質。
【請求項56】
前記血液脳関門を通過できる構造が、内在性BBB受容体媒介輸送体上でBBBを通過する、請求項55に記載の融合タンパク質。
【請求項57】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系が、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体およびIGF受容体からなる群から選択される、請求項56に記載の融合タンパク質。
【請求項58】
前記内在性BBB受容体媒介輸送体が、インシュリン輸送体およびトランスフェリン輸送体からなる群から選択される、請求項57に記載の融合タンパク質。
【請求項59】
前記内在性BBB受容体媒介輸送体がインシュリン輸送体である、請求項58に記載の融合タンパク質。
【請求項60】
前記インシュリン輸送体がヒトインシュリン輸送体である、請求項59に記載の融合タンパク質。
【請求項61】
前記BBBを通過できる構造が抗体である、請求項55に記載の融合タンパク質。
【請求項62】
前記抗体がMAbである、請求項61に記載の融合タンパク質。
【請求項63】
前記MAbがキメラMAbである、請求項62に記載の融合タンパク質。
【請求項64】
前記抗体が内在性BBB受容体媒介輸送体に対する抗体である、請求項61に記載の融合タンパク質。
【請求項65】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系が、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体およびIGF受容体からなる群から選択される、請求項64に記載の融合タンパク質。
【請求項66】
前記内在性BBB受容体媒介輸送体が、インシュリン輸送体およびトランスフェリン輸送体からなる群から選択される、請求項65に記載の融合タンパク質。
【請求項67】
前記内在性BBB受容体媒介輸送体がインシュリン輸送体である、請求項66に記載の融合タンパク質。
【請求項68】
前記インシュリン輸送体がヒトインシュリン輸送体である、請求項67に記載の融合タンパク質。
【請求項69】
前記CNSで活性のあるペプチドが神経治療薬である、請求項55に記載の融合タンパク質。
【請求項70】
前記神経治療薬がニューロトロフィンである、請求項69に記載の融合タンパク質。
【請求項71】
前記ニューロトロフィンが、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンまたは幹細胞因子(SCF)からなる群から選択される、請求項70に記載の融合タンパク質。
【請求項72】
前記ニューロトロフィンがBDNFである、請求項71に記載の融合タンパク質。
【請求項73】
前記BDNFが切断型BDNFである、請求項72に記載の融合タンパク質。
【請求項74】
前記切断型BDNFがカルボキシル切断型BDNFである、請求項73に記載の融合タンパク質。
【請求項75】
前記カルボキシル切断型BDNFが2個のカルボキシル末端アミノ酸を欠如している、請求項74に記載の融合タンパク質。
【請求項76】
前記BBBを通過できる構造および前記神経治療薬は、ペプチドリンカーによって共有結合している、請求項55に記載の融合タンパク質。
【請求項77】
CNSで活性のある薬剤を末梢循環からBBBを通過して有効量で輸送する方法であって、BBBを通過する構造に共有結合した前記薬剤が有効量でBBBを通過して輸送される条件下で、BBBを通過する構造に共有結合した前記薬剤を個体に末梢から投与することを含む方法。
【請求項78】
前記薬剤が神経治療薬である、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
BBBを通過することができる構造に共有結合した神経治療薬を含む組成物の有効量を個体に末梢から投与することを含む、個体におけるCNS障害を治療するための方法。
【請求項80】
前記BBBを通過できる構造がインシュリン受容体に対する抗体を含み、前記治療薬がBDNFを含む、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記投与が、経口、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、直腸、頬膜貫通(transbuccal)、鼻腔内、経皮および吸入投与からなる群から選択される、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記投与が、静脈内、筋肉内または皮下である、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記CNS障害が急性CNS障害である、請求項79に記載の方法。
【請求項84】
前記急性CNS障害が、脊髄損傷、脳損傷局所脳虚血および全脳虚血からなる群から選択される、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記組成物が1回のみ投与される、請求項83に記載の方法。
【請求項86】
前記組成物が1週間に約1回以下の頻度で投与される、請求項83に記載の方法。
【請求項87】
前記CNS障害が慢性障害である、請求項79に記載の方法。
【請求項88】
前記慢性障害が、慢性神経変性疾患、網膜虚血およびうつ病からなる群から選択される、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記慢性神経変性疾患が、プリオン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、多発硬化症、横断性脊髄炎、運動ニューロン疾患、ピック病、結節性硬化症、リソソーム蓄積症、カナバン病、レット症候群、脊髄小脳失調症、フリードライヒ失調症、視神経萎縮および網膜変性症からなる群から選択される、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記個体がヒトである、請求項79に記載の方法。
【請求項91】
前記個体に、約1から約100mgの前記組成物の用量を投与する、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
イムノグロブリンに共有結合した陽イオン治療用ペプチドを含む組成物であって、前記組成物中の前記陽イオン治療用ペプチドが、前記陽イオン治療用ペプチド単独の血清半減期よりも平均して少なくとも約5倍長い血清半減期を有する組成物。
【請求項93】
前記陽イオン治療用ペプチドが神経治療薬を含む、請求項92に記載の組成物。
【請求項94】
前記神経治療薬がニューロトロフィンである、請求項93に記載の組成物。
【請求項95】
前記ニューロトロフィンが、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン−4/5、繊維芽細胞増殖因子(FGF)−2およびその他のFGF、ニューロトロフィン(NT)−3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞増殖因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)−α、TGF−β、血管内皮増殖因子(VEGF)、インターロイキン−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)、繊毛様神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、ペルセフィン、インターロイキン類、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージCSF、ネトリン、カルジオトロフィン−1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミッドカイン、プレイオトロフィン、骨形態形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリンおよび幹細胞因子(SCF)からなる群から選択される、請求項94に記載の組成物。
【請求項96】
前記ニューロトロフィンがBDNFである、請求項95に記載の組成物。
【請求項97】
前記イムノグロブリンが内在性BBB受容体媒介輸送系に対する抗体である、請求項92に記載の組成物。
【請求項98】
イムノグロブリンの軽鎖をコードする第1の配列およびイムノグロブリンの重鎖をコードする第2の配列を含む単一の核酸配列であって、前記第1の配列がさらに、軽鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードするか、または前記第2の配列がさらに、重鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする核酸配列。
【請求項99】
前記第1の配列が、軽鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする、請求項98に記載の核酸。
【請求項100】
前記第2の配列が、重鎖に共有結合したペプチドの融合タンパク質として発現されるペプチドをコードする、請求項98に記載の核酸。
【請求項101】
前記ペプチドが治療用ペプチドである、請求項98に記載の核酸。
【請求項102】
前記治療用ペプチドが神経治療用ペプチドである、請求項101に記載の核酸。
【請求項103】
前記神経治療用ペプチドがニューロトロフィンである、請求項102に記載の核酸。
【請求項104】
前記ニューロトロフィンがBDNFである、請求項103に記載の核酸。
【請求項105】
前記第2の配列が、BDNFをコードする核酸をコードする、請求項104に記載の核酸。
【請求項106】
前記BDNFが2アミノ酸カルボキシ切断型BDNFである、請求項105に記載の核酸。
【請求項107】
前記イムノグロブリンがIgGである、請求項98に記載の核酸。
【請求項108】
前記イムノグロブリンがMAbである、請求項98に記載の核酸。
【請求項109】
前記MAbがキメラである、請求項108に記載の核酸。
【請求項110】
前記イムノグロブリンが輸送系に対する抗体である、請求項98に記載の核酸。
【請求項111】
前記輸送系が内在性BBB受容体媒介輸送系である、請求項110に記載の核酸。
【請求項112】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系が、インシュリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体およびIGF受容体からなる群から選択される、請求項111に記載の核酸。
【請求項113】
前記内在性BBB受容体媒介輸送系が内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系である、請求項111に記載の核酸。
【請求項114】
前記内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系がヒト内在性BBB受容体媒介インシュリン輸送系であり、前記イムノグロブリン重鎖が共有結合したペプチドがヒトBDNFである、請求項113に記載の組成物。
【請求項115】
前記BDNFが、配列番号24のアミノ酸466〜582の配列と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項114に記載の組成物。
【請求項116】
前記BDNFが、そのアミノ末端で前記MAbの重鎖のカルボキシ末端に共有結合している、請求項115に記載の組成物。
【請求項117】
前記MAbの重鎖が、配列番号24のアミノ酸20〜462と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項116に記載の組成物。
【請求項118】
前記軽鎖が、配列番号36のアミノ酸21〜234と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項117に記載の組成物。
【請求項119】
前記MAbの重鎖と前記BDNFの間にペプチドリンカーをコードする核酸配列をさらに含む、請求項118に記載の組成物。
【請求項120】
前記リンカーがS−S−Mである、請求項119に記載の組成物。
【請求項121】
シグナルペプチドをコードする核酸配列をさらに含み、前記シグナルペプチドが前記重鎖に結合している、請求項120に記載の組成物。
【請求項122】
前記シグナルペプチドが、配列番号24のアミノ酸1〜19と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項121に記載の組成物。
【請求項123】
別のシグナルペプチドをコードする核酸配列をさらに含み、前記別のシグナルペプチドが前記軽鎖に結合している、請求項122に記載の組成物。
【請求項124】
前記軽鎖に結合した前記シグナルペプチドが、配列番号36のアミノ酸1〜20と少なくとも約80%同一である配列を含む、請求項123に記載の組成物。
【請求項125】
選択可能なマーカーをコードする核酸配列をさらに含む、請求項124に記載の組成物。
【請求項126】
前記選択可能なマーカーがDHFRであり、DHFRの配列が、配列番号38のアミノ酸1〜187と少なくとも約80%同一である、請求項125に記載の組成物。
【請求項127】
配列番号33のヌクレオチド58〜1386と少なくとも約80%同一である第1の配列および配列番号33のヌクレオチド1396〜1746と少なくとも80%同一である第2の配列を含む核酸。
【請求項128】
配列番号35のヌクレオチド61〜702と少なくとも約80%同一である第3の配列をさらに含む、請求項127に記載の核酸。
【請求項129】
第1のシグナルペプチドをコードする第4の配列および第2のシグナルペプチドをコードする第5の配列をさらに含む、請求項127に記載の核酸。
【請求項130】
前記第4の配列が配列番号33のヌクレオチド1〜57と少なくとも約80%同一であり、前記第5の配列が配列番号35のヌクレオチド1〜60と少なくとも約80%同一である、請求項129に記載の核酸。
【請求項131】
選択可能なマーカーをコードする配列をさらに含む、請求項127または130に記載の核酸。
【請求項132】
前記選択可能なマーカーがジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)である、請求項131に記載の核酸。
【請求項133】
DHFRをコードする配列が、配列番号37のヌクレオチド1〜561と少なくとも約80%同一である、請求項132に記載の核酸。
【請求項134】
請求項98、114、127または133に記載の核酸を含むベクター。
【請求項135】
請求項134に記載のベクターを含む細胞。
【請求項136】
真核細胞である、請求項135に記載の細胞。
【請求項137】
チャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項136に記載の細胞。
【請求項138】
治療薬と融合したイムノグロブリン重鎖または治療薬と融合したイムノグロブリン軽鎖を含むイムノグロブリン融合タンパク質の製造方法であって、真核細胞に1本のタンデム発現ベクターを永久的に組み込むことを含み、前記融合タンパク質の遺伝子と、イムノグロブリン軽鎖の遺伝子またはイムノグロブリン重鎖の遺伝子を含む別の遺伝子の両方が、DNAの1片に組み込まれる方法。
【請求項139】
前記融合タンパク質が、治療薬に融合したイムノグロブリン重鎖を含み、前記融合タンパク質の遺伝子およびイムノグロブリン軽鎖の遺伝子の両方がDNAの1片に組み込まれる、請求項138に記載の方法。
【請求項140】
前記融合タンパク質が、治療薬に融合したイムノグロブリン軽鎖を含み、前記融合タンパク質の遺伝子およびイムノグロブリン重鎖の遺伝子の両方がDNAの1片に組み込まれる、請求項138に記載の方法。
【請求項141】
前記永久的導入が、タンデムベクターを真核細胞に永久的に組み込むことによって実現される、請求項138に記載の方法。
【請求項142】
前記永久的導入が、タンデムベクターを含有するエピソームの複製遺伝子因子を真核細胞に導入することによって実現される、請求項138に記載の方法。
【請求項143】
前記治療薬が神経治療薬である、請求項138に記載の方法。
【請求項144】
前記DNAの1片に選択可能なマーカーの1種または複数の遺伝子を組み込むことをさらに含む、請求項138の方法。
【請求項145】
前記DNAの1片に1種または複数の増幅遺伝子を組み込むことをさらに含む、請求項138の方法。
【請求項146】
前記イムノグロブリンがIgGである、請求項138に記載の方法。
【請求項147】
前記イムノグロブリンがMAbである、請求項138に記載の方法。
【請求項148】
前記MAbがキメラMAbである、請求項145に記載の方法。
【請求項149】
前記イムノグロブリン融合タンパク質を発現させることをさらに含む、請求項138に記載の方法。
【請求項150】
前記イムノグロブリン融合タンパク質を精製することをさらに含む、請求項147に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B−1】
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【図9B−2】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2009−515819(P2009−515819A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−534618(P2008−534618)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/038587
【国際公開番号】WO2007/044323
【国際公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(508105751)アーメイゲン・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】ARMAGEN TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】