説明

血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体、それを含有する食品製剤及び化粧品

【課題】 副作用が弱く、優れた血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体を提供する。また、エステル結合体を副作用が弱く、優れた食品製剤及び化粧品を提供する。
【解決手段】 血管弛緩作用を呈するエステル結合体は、クロロゲン酸又はクロロゲン酸誘導体とアルギニンからなるものであり、また、ガンマ−アミノ酪酸、アミノ酸、ポリアミン、アミノ糖、グルコサミンから選択されるいずれかを含有するものである。さらに、
キク科ヤーコンの葉又は塊根にアルギニンを添加した後、抽出された抽出液をアルカリ還元化して得られるものである。さらに、食品製剤及び化粧品は、血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血管弛緩作用、血圧降下作用、抗動脈硬化作用を有するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体、それを含有する食品製剤及び化粧品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高血圧症は生活習慣病の一つであり、平成14年の厚生労働省の統計データによると、推計患者数として入院と外来を合わせた患者数のうち、高血圧症が一番多くを占めていることが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
東京大学が作成した1999年の疾患別年間医療費の推計によると、日本人の疾患として高血圧性の疾患が最大であり、その治療費は2兆円に迫っている(例えば、非特許文献2参照。)。国民健康保険の財源問題や患者の医療費負担の増加が課題となっている現状から考え、高血圧症の発症を予防する生活習慣や食生活が望まれている。
【0004】
また、高血圧症を改善する薬剤として、利尿剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、カルシウム拮抗剤、交感神経遮断薬など、種々の機序を介して作用する薬剤が開発されているものの、これらの化学的に合成された薬剤には副作用が認められ、長期間の使用が不適切であるという問題点がある。たとえば、利尿剤では腎臓障害や聴覚障害、アンジオテンシン変換酵素阻害剤では空咳、カルシウム拮抗剤では筋肉障害、交感神経遮断薬では悪心や嘔吐などが副作用として認められている。
【0005】
一方、天然物由来の高血圧に対する物質としては、コーヒー抽出物、ポリフェノール、アミノ酸、ペプチドなどが知られているものの、いずれも効果が軽度であるという問題点がある。たとえば、コーヒー抽出物にはクロロゲン酸、クマル酸などのカフェ酸誘導体が存在しているものの、それぞれのアンジオテンシン変換酵素阻害作用は非常に軽度であり、一過性である。
【0006】
また、血管拡張作用を示す物質としてアミノ酸の一種であるアルギニンから生成される一酸化窒素が知られており、血管中膜の平滑筋細胞に作用し、その平滑筋細胞のカルシウム取込みを阻害して、血管を拡張させる。特に、一酸化窒素の血管拡張作用は細動脈に強く発現し、一酸化窒素は冠状動脈や脳底動脈などを拡張し、心筋梗塞や脳出血を改善すると期待されている。
【0007】
クロロゲン酸を含有する医薬品化合物(例えば、特許文献1参照。)や高血圧症予防・治療剤(例えば、特許文献2参照。)が発明されているものの、クロロゲン酸とアルギニンとのエステル結合体及びその作用については、言及されていない。
【0008】
さらに、アルギニンを含有する食品が発明されているものの、高血圧症を標的としたクロロゲン酸誘導体には至っていない(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特表2002−541233
【特許文献2】特開2002−53464
【特許文献3】特開2004−147630
【非特許文献1】厚生労働省作成、性・年齢階級別にみた主な傷病、平成14年。
【非特許文献2】東京大学大学院薬学系研究科 医薬経済学講座 作成、1999年の疾患別年間医療費の推計、2000。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように化学合成された高血圧治療剤は、腎臓、神経、呼吸器などに対し、悪影響を及ぼすという副作用の問題がある。また、化学合成された物質の血管拡張作用は長期間持続しにくいという問題点がある。
【0010】
一方、天然由来の物質は効果が軽度であるという問題がある。そこで、副作用が弱く、効果の優れた血管拡張作用を呈する天然物由来の物質が望まれている。
【0011】
この発明は上記のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、副作用が弱く、優れた血管拡張作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体を提供することにある。また、血管拡張作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体を含有する副作用が弱く、優れた食品製剤及び化粧品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、下記の式(1)で示される血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体に関するものである。
【0013】
【化1】

Xは、水素、ガンマ−アミノ酪酸、アミノ酸、ポリアミン、アミノ糖、グルコサミンから選択されるいずれか。
【0014】
請求項2に記載の発明は、Xが水素である下記の式(2)で示される請求項1に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体に関するものである。
【0015】
【化2】

請求項3に記載の発明は、Xがガンマ−アミノ酪酸である下記の式(3)で示される請求項1に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体に関するものである。
【0016】
【化3】

請求項4に記載の発明は、キク科ヤーコンの葉又は塊根を刈取り、アルギニン溶液に浸した後、5%〜45%エタノール溶液により抽出した抽出液をアルカリ還元化して得られる請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体に関するものである。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなる食品製剤に関するものである。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなる化粧品製剤に関するものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
請求項1から請求項4に記載のクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体によれば、副作用が弱く、優れた血管拡張作用が発揮される。
【0020】
請求項5に記載の食品製剤によれば、副作用が弱く、優れた血管拡張作用が発揮される。
【0021】
請求項6に記載の化粧品製剤によれば、副作用が弱く、優れた血管拡張作用が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
【0023】
まず、下記の式(1)で示される血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体について説明する。
【0024】
【化4】

Xは、水素、ガンマ−アミノ酪酸、アミノ酸、ポリアミン、アミノ糖、グルコサミンから選択されるいずれか。
【0025】
ここでいうクロロゲン酸誘導体とは、クロロゲン酸、すなわち、3−カフェオイルキナ酸も含む他に、クロロゲン酸誘導体には、クロロゲン酸のキナ酸の側鎖水酸基にメソキシ基が導入された誘導体、キナ酸にカフェ酸が結合したイソクロロゲン酸及びネオクロロゲン酸、キナ酸の3位にフェルラ酸が結合した化合物も含む。
【0026】
ここでいうクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体とは、クロロゲン酸の中のキナ酸のカルボキシル基とアルギニンのアルファ位のアミノ基がエステル結合した化合物である。Xとは、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基側に結合した物質である。
Xは、水素、ガンマ−アミノ酪酸、アミノ酸、ポリアミン、アミノ糖、グルコサミンから選択されるいずれかから構成される。
【0027】
ここでいうエステル結合体は、エステル体であるため、脂溶性が増す。腸上皮細胞は脂肪層からできているため、この腸上皮細胞膜に浸透しやすく、なじみやすく、吸収され、持続される。
【0028】
腸上皮細胞内で、この取り込まれたエステル結合体は、血液内に移行し、血管平滑筋細胞に浸潤し、作用し、血管拡張作用を発揮する。
【0029】
血管平滑筋細胞内で、このエステル結合体は、クロロゲン酸誘導体の部分が収縮に関わる細胞膜上のL型カルシウムチャネルを阻害し、また、神経性のN型カルシウムチャネルを抑制する。カルシウムチャネルの抑制により、過剰な血管平滑筋の収縮が抑制され、血管は弛緩する。さらに、前記のエステル結合体のアルギニン側鎖中のグアニジル基が代謝されて一酸化窒素を生成し、血管平滑筋を弛緩させる。前記のクロロゲン酸誘導体によるカルシウムチャネル抑制及びアルギニン側鎖中のグアニジル基による一酸化窒素の産生を介する二つのメカニズムが主体である。
【0030】
加えて、このエステル結合体は、アンジオテンシン変換酵素を阻害し、また、末梢の交感神経のアドレナリン受容体を阻害することから、異なる作用機序により血管を弛緩させる。
【0031】
前記のように、カルシウムチャネル阻害、一酸化窒素産生系、アンジオテンシン変換酵素阻害及びアドレナリン受容体を抑制するという機序が存在し、血管平滑筋が最終的に弛緩するという互いに補い合い、助け合う作用が認められる。
【0032】
Xが水素の場合、前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとのエステル結合体である。このように構成することにより、アルギニンから一酸化窒素の生成が亢進され、血管拡張作用を呈することから、好ましい。
【0033】
Xがガンマ−アミノ酪酸の場合、前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとガンマ−アミノ酪酸からなるエステル結合体である。この場合、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基とガンマ−アミノ酪酸のガンマ位のアミノ基がエステル結合する。このように構成することにより、前記の血管弛緩機序に加えて、ガンマ−アミノ酪酸が中枢神経の神経伝達物質として作用し、血圧を降下させることから好ましい。
【0034】
Xがアミノ酸の場合、前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとアミノ酸からなるエステル結合体である。この場合、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基とアミノ酸のアルファ位のアミノ基がエステル結合する。アミノ酸としては、すべてのL型アミノ酸である。このうち、アルギニンであることは、一酸化窒素の生成が亢進され、血管拡張作用を呈することから、好ましい。
【0035】
Xがポリアミンの場合、前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとポリアミンからなるエステル結合体である。この場合、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基とポリアミンのアルファ位のアミノ基がエステル結合する。ポリアミンとしては、プトレシン、スペルミジン、スペルミンなどである。このように構成することにより、ポリアミンのアミノ基から一酸化窒素が生成され、血管拡張作用を呈することから、より好ましい。
【0036】
Xがアミノ糖の場合、前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとアミノ糖からなるエステル結合体である。この場合、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基とアミノ糖のアミノ基がエステル結合する。アミノ糖としては、ガラクトサミン、フルクトサミン、グルコサミンなどである。このように構成することにより、ガラクトサミンのアミノ基から一酸化窒素の生成が亢進され、血管拡張作用を呈することから、好ましい。
【0037】
Xがグルコサミンの場合、前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとアミノ糖からなるエステル結合体である。この場合、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基とアミノ糖のアミノ基がエステル結合する。アミノ糖としては、ガラクトサミン、フルクトサミン、グルコサミンなどである。このように構成することにより、ガラクトサミンのアミノ基から一酸化窒素の生成が亢進され、血管拡張作用を呈することから、好ましい。
【0038】
前記の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体は、天然の素材から抽出により得られ、化学的に合成しても良く、発酵法によっても得られる。
天然の素材としては、コーヒー、緑茶葉、カカオ、ヤーコン、キクイモ、などがある。これらの素材に、食品添加物であるアルギニン溶液、グルコサミン、アミノ酸を添加し、放置した後、抽出して得られる。
【0039】
化学的に合成する場合、クロロゲン酸誘導体及びアルギニンを原料として触媒下で化学的にエステル結合させることにより得られる。
【0040】
発酵法により得る場合、クロロゲン酸誘導体及びアルギニンを原料として、これらを発酵タンクに入れ、乳酸菌、納豆菌又はビール酵母などを添加して加熱又は通気しながら、攪拌後、抽出して得られる。
【0041】
この抽出には、含水エタノールが用いられ、この溶液の濃度は、5〜15%が好ましい。抽出された後、ろ過され、得られたろ過液を加温して溶液として、又は、これを凍結乾燥されて粉末として得られる。得られたエステル結合体は、医薬品原料、食品原料、化粧品原料、動物用飼料として利用される。
【0042】
次に、下記の式(2)で示される血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体について説明する。
【0043】
【化5】

このエステル結合体は、前記の構造体のうち、Xが水素になったものである。
ここでいうクロロゲン酸誘導体とは、クロロゲン酸、すなわち、3−カフェオイルキナ酸を含む。さらに、クロロゲン酸誘導体とは、クロロゲン酸のキナ酸の側鎖水酸基にメソキシ基が導入された誘導体、キナ酸にカフェ酸が結合したイソクロロゲン酸及びネオクロロゲン酸、キナ酸の3位にフェルラ酸が結合した誘導体である。
【0044】
ここでいうエステル結合体とは、クロロゲン酸の中のキナ酸のカルボキシル基とアルギニンのアルファ位のアミノ基がエステル結合した化合物である。
【0045】
ここでいうエステル結合体は、エステル体であるため、脂溶性が増す。腸上皮細胞は脂肪層でできているため、この腸上皮細胞膜に浸透しやすく、なじみ、吸収される。
【0046】
腸上皮細胞内で、この取り込まれたエステル結合体は、血液内に移行し、血管平滑筋細胞に浸潤する。血管平滑筋細胞内で、このエステル結合体は、クロロゲン酸誘導体の部分が収縮に関わる細胞膜上のL型カルシウムチャネルを阻害し、また、神経性のN型カルシウムチャネルを抑制する。カルシウムチャネルの抑制により、過剰な血管平滑筋の収縮が抑制され、血管は弛緩する。さらに、前記のエステル結合体のアルギニン側鎖中のグアニジル基が代謝されて一酸化窒素を生成し、血管平滑筋を弛緩させる。前記のクロロゲン酸誘導体によるカルシウムチャネル抑制及びアルギニン側鎖中のグアニジル基による一酸化窒素の産生を介する二つのメカニズムが主体である。
【0047】
加えて、このエステル結合体は、アンジオテンシン変換酵素を阻害し、また、末梢の交感神経のアドレナリン受容体を阻害することから、異なる作用機序により血管を弛緩させる。
【0048】
前記のように、カルシウムチャネル阻害、一酸化窒素産生系、アンジオテンシン変換酵素阻害及びアドレナリン受容体を抑制するという機序が存在し、血管平滑筋が最終的に弛緩するという互いに補い合い、助け合う作用が認められる。
【0049】
前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとのエステル結合体である。このように構成することにより、アルギニンから一酸化窒素の生成が亢進され、血管拡張作用を呈することから、好ましい。
【0050】
前記の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体は、天然の素材から抽出により得られ、化学的に合成しても良く、発酵法によっても得られる。
天然の素材としては、コーヒー、緑茶葉、カカオ、ヤーコン、キクイモ、などがある。これらの素材に、食品添加物であるアルギニン溶液、グルコサミン、アミノ酸を添加し、放置した後、抽出して得られる。
【0051】
化学的に合成する場合、クロロゲン酸誘導体及びアルギニンを原料として触媒下で化学的にエステル結合させることにより得られる。
【0052】
発酵法により得る場合、クロロゲン酸誘導体及びアルギニンを原料として、これらを発酵タンクに入れ、乳酸菌、納豆菌又はビール酵母などを添加して加熱しながら、攪拌後、抽出して得られる。
【0053】
この抽出には、含水エタノールが用いられ、この溶液の濃度は、5〜15%が好ましい。抽出された後、ろ過され、得られたろ過液を加温して溶液として、又は、これを凍結乾燥されて粉末として得られる。得られたエステル結合体は、医薬品原料、食品原料、化粧品原料、動物用飼料として利用される。
【0054】
次に、下記の式(3)で示される血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとガンマ−アミノ酪酸とのエステル結合体について説明する。
【0055】
【化6】

このエステル結合体は、前記の構造体のうち、Xがガンマ−アミノ酪酸になったものである。
【0056】
ここでいうクロロゲン酸誘導体とは、クロロゲン酸、すなわち、3−カフェオイルキナ酸を含む。さらに、クロロゲン酸誘導体とは、クロロゲン酸のキナ酸の側鎖水酸基にメソキシ基が導入された誘導体、キナ酸にカフェ酸が結合したイソクロロゲン酸及びネオクロロゲン酸、キナ酸の3位にフェルラ酸が結合した誘導体である。
【0057】
ここでいうエステル結合体とは、クロロゲン酸の中のキナ酸のカルボキシル基とアルギニンのアルファ位のアミノ基がエステル結合した化合物である。
【0058】
さらに、アルギニンのアルファ位のカルボキシル基にガンマ−アミノ酪酸のアミノ基が結合したものである。
【0059】
ここでいうエステル結合体は、エステル体であるため、脂溶性が増す。腸上皮細胞は脂肪層でできているため、この腸上皮細胞膜に浸透しやすく、なじみ、吸収される。
【0060】
腸上皮細胞内で、この取り込まれたエステル結合体は、血液内に移行し、血管平滑筋細胞に浸潤する。血管平滑筋細胞内で、このエステル結合体は、クロロゲン酸誘導体の部分が収縮に関わる細胞膜上のL型カルシウムチャネルを阻害し、また、神経性のN型カルシウムチャネルを抑制する。カルシウムチャネルの抑制により、過剰な血管平滑筋の収縮が抑制され、血管は弛緩する。さらに、前記のエステル結合体のアルギニン側鎖中のグアニジル基が代謝されて一酸化窒素を生成し、血管平滑筋を弛緩させる。前記のクロロゲン酸誘導体によるカルシウムチャネル抑制及びアルギニン側鎖中のグアニジル基による一酸化窒素の産生を介する二つのメカニズムが主体である。
【0061】
加えて、このエステル結合体は、アンジオテンシン変換酵素を阻害し、また、末梢の交感神経のアドレナリン受容体を阻害することから、異なる作用機序により血管を弛緩させる。
【0062】
前記のように、カルシウムチャネル阻害、一酸化窒素産生系、アンジオテンシン変換酵素阻害及びアドレナリン受容体を抑制するという機序が存在し、血管平滑筋が最終的に弛緩するという互いに補い合い、助け合う作用が認められる。
【0063】
前記のエステル結合体は、クロロゲン酸とアルギニンとガンマ−アミノ酪酸からなるエステル結合体である。この場合、前記の血管弛緩機序に加えて、ガンマ−アミノ酪酸が中枢神経の神経伝達物質として作用し、血圧を降下させることから好ましい。
【0064】
前記のエステル結合体は、天然の素材から抽出により得られ、化学的に合成しても良く、発酵法によっても得られる。天然の素材としては、コーヒー、緑茶葉、カカオ、ヤーコン、キクイモ、などがある。これらの素材に、食品添加物であるアルギニン溶液、ガンマ−アミノ酪酸溶液を添加し、放置した後、抽出して得られる。
【0065】
化学的に合成する場合、クロロゲン酸誘導体、アルギニン及びガンマ−アミノ酪酸を原料として触媒下で化学的にエステル結合させることにより得られる。
【0066】
発酵法により得る場合、クロロゲン酸誘導体、アルギニン及びガンマ−アミノ酪酸を原料として、これらを発酵タンクに入れ、乳酸菌、納豆菌又はビール酵母などを添加して加熱しながら、攪拌後、抽出して得られる。
【0067】
この抽出には、含水エタノールが用いられ、この溶液の濃度は、5〜15%が好ましい。抽出された後、ろ過され、得られたろ過液を加温して溶液として、又は、これを凍結乾燥されて粉末として得られる。得られたエステル結合体は、医薬品原料、食品原料、化粧品原料、動物用飼料として利用される。
【0068】
次に、キク科ヤーコンの葉又は塊根を刈取り、アルギニン溶液に浸した後、5%〜45%エタノール溶液により抽出した抽出液をアルカリ還元化して得られる血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体について説明する。
【0069】
得られる血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体は、前記のエステル結合体である。
【0070】
用いるキク科ヤーコンは、キク科の植物であり、学名スマランタス ソンシフォリウスで、南米、中国、日本、北米、オーストラリア、ヨーロッパで栽培されたものが用いられる。
【0071】
このヤーコンの葉又は塊根は刈り取られ、アルギニン溶液に浸される。アルギニン溶液の濃度は、1〜10%が好ましく、3〜8%がより好ましい。浸される時間は、6〜48時間が好ましく、12〜24時間がより好ましい。浸される温度は、5〜30℃が好ましく、10〜20℃がより好ましい。
【0072】
抽出液は、エタノール溶液であり、エタノールを水で希釈した溶液であり、その濃度は5%〜45%である。このエタノール濃度が5%を下回る場合、目的とするエステル体が溶解して得られないおそれがある。また、この濃度が45%を上回る場合、抽出されたエステル体が不安定となり、分解されるおそれがある。
【0073】
得られた抽出液は、珪藻土やカオリン、シリカ、タルクなどの層でろ過されることが好ましい。得られた抽出液は、アルカリ還元化される。アルカリ還元化は、プラチナ電極を備えた電気分解装置、たとえば、トリムイオンTI−8000、パールウォーターDX−7000などにより、電気分解されて陰極側から目的とする血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体が溶液として得られる。得られたエステル結合体は、凍結乾燥することにより粉末化され、用いられる。
【0074】
得られたエステル結合体は、医薬品原料、医薬部外品原料、食品、化粧などの様々な加工品として用いられる。
【0075】
次に、前記の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなる食品製剤について説明する。ここでいう食品製剤とは、ヒトが摂取する一般食品、健康食品に加えて、動物のための飼料やペット用の餌やサプリメントとして利用されるものである。
【0076】
この食品製剤は、前記の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体を有効成分としている。食品製剤中の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体の割合は0.1〜30重量%であり、0.3〜20重量%が好ましく、0.5〜15重量%がより好ましい。
【0077】
この割合が0.1重量%を下回る場合、十分な作用が発現されない可能性がある。また、この割合が30重量%を上回る場合、食品製剤として形態を維持できない可能性がある。
その場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤、液状(ドリンク剤等)、カプセル状等の形状の食品製剤とすることができる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。
【0078】
前記の食品製剤は、1日数回に分けて経口摂取される。1日の摂取量は0.1〜10gが好ましく、0.3〜5gがより好ましく、0.5〜3gがさらに好ましい。1日の摂取量が、0.1gを下回る場合、十分な効果が発揮されないおそれがある。1日の摂取量が、10gを越える場合、コストが高くなるおそれがある。上記の他に、飴、せんべい、クッキー、飲料、粉末等の形態で使用することができる。
【0079】
この食品製剤は、前記のエステル結合体の脂溶性が高いことから、消化管からの吸収性に優れ、かつ、吸収された場合、細胞膜に結合して持続性が高い特長を有する。また、体内のエステラーゼなどの酵素により分解されることから、安全性が高い。
【0080】
得られた食品製剤は、保健機能食品として、栄養機能商品や特定保健用食品として利用されることは好ましい。
【0081】
得られた食品製剤をペットに利用する場合、クロロゲン酸に消臭作用があることから、家庭内で飼育している動物の糞便対策にも好ましい。前記のエステル結合体には血管を拡張することから、動脈硬化や糖尿病などの血圧の高い状態を抑制し、高血圧を抑制する働きがある。
【0082】
次に、血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなる化粧品について説明する。ここでいう化粧品は、ヒトのために用いられる化粧品に加えて、ペットや動物に用いてその形態を改善するものをいう。この化粧品は、皮膚の血管の血流を改善し、皮膚細胞のターンオーバーの活性化にも利用される。
【0083】
化粧品として常法に従って界面活性化剤、溶剤、増粘剤、賦形剤等とともに用いることができる。例えば、油溶性クリーム、毛髪用ジェル、洗顔剤、美容液、化粧水等の形態とすることができる。化粧品の形態は任意であり、溶液状、クリーム状、ペースト状、ゲル状、ジェル状、固形状又は粉末状として用いることができる。
【0084】
化粧品として1日数回に分けて塗布、清拭又は噴霧される。1日の使用量は0.01〜5gが好ましく、0.05〜3gがより好ましく、0.1〜1gがさらに好ましい。1日の使用量が、0.01gを下回る場合、十分な効果が発揮されないおそれがある。1日の使用量が、5gを越える場合、コストが高くなるおそれがある。
【0085】
得られた化粧品は、皮膚の血管を拡張させることから、真皮及び皮下組織の線維芽細胞を活性化し、コラーゲン産生を亢進させることを目的として化粧品に利用される。また、医薬部外品としても利用される。
【0086】
以下、前記実施形態を実施例及び試験例を用いて具体的に説明する。
【実施例1】
【0087】
日本産ヤーコンの葉1kgを刈取り、15℃の室内で、5%のアルギニン溶液に24時間浸漬した。これを抽出タンクに移し、25%エタノール溶液10Lを添加し、ミキサーにより攪拌し、粉砕した。15℃で12時間攪拌後、珪藻土とカオリンを敷いたろ過器に供してろ過液を得た。得られたろ過液を、パールウォーターDX−7000に供し、電気分解し、陰極側から溶液を得た。この溶液を50℃に加温し、1時間、エタノールを蒸発させた後、凍結乾燥機(RLE−21、日精工業製)にて凍結乾燥させて粉末65gを得た。
(試験例1)
【0088】
得られた粉末を質量分析器付き高速液体クロマトグラフィ(HPLC、島津製作所)で分析し、核磁気共鳴装置(NMR、ブルカー製、AC−250)で解析した結果、クロロゲン酸アルギニンエステルが同定された。
【実施例2】
【0089】
日本産ヤーコンの葉1kgを刈取り、13℃の室内で、4%のアルギニン溶液及び1%ガンマ−アミノ酪酸溶液に20時間浸漬した。これを抽出タンクに移し、20%エタノール溶液15Lを添加し、ミキサーにより攪拌し、粉砕した。13℃で10時間攪拌後、珪藻土とカオリンを敷いたろ過器に供してろ過液を得た。得られたろ過液を、パールウォーターDX−7000に供し、電気分解し、陰極側から溶液を得た。この溶液を50℃に加温し、1時間、エタノールを蒸発させた後、凍結乾燥機(RLE−21、日精工業製)にて凍結乾燥させて粉末34gを得た。
(試験例2)
【0090】
得られた粉末を質量分析器付きHPLCで分析し、NMRで解析した結果、クロロゲン酸アルギニン−ガンマ−アミノ酪酸エステルが同定された。
【0091】
以下に、ヒト皮膚由来血管平滑筋細胞を用いた細胞内カルシウム試験について説明する。この試験は、カルシウムチャネルの働きの変化を指標とした血管弛緩反応を観察する方法として普及している。
(試験例3)
【0092】
正常ヒト由来血管平滑筋細胞(冠状動脈血管平滑筋細胞培養製品、三光純薬株式会社製)を専用培養液にて培養した。これに、実施例1及び実施例2で得られたエステル体、クロロゲン酸、アルギニンのそれぞれ0.1mg、0.3mg及び1mgを添加し、37℃で、1時間培養した。これにフルオロ−3AM(ナカライテスク製)0.01%溶液を添加し、さらに、0.01mM イソプロテレノールを添加して共焦点レーザー蛍光顕微鏡で、細胞内カルシウム濃度を測定した。溶媒対照に対するカルシウム濃度の変化を求めた。
【0093】
その結果、実施例1のエステル結合体の0.1mg、0.3mg及び1mgでは溶媒対照群に対する細胞内カルシウム濃度は、それぞれ89%、82%及び69%であり、対照群に比して有意な減少が認められた。さらに、実施例2のエステル結合体の溶媒対照群に対する細胞内カルシウム濃度は、0.1mg、0.3mg及び1mgで、それぞれ86%、78%及び70%であり、対照群に比して有意な減少が認められた。なお、クロロゲン酸及びアルギニンの1mgでは、溶媒対照群の値に比して、それぞれ97%及び98%となった。なお、生細胞数に変化はなく、細胞に対する毒性は認められなかった。
【0094】
以下に、自然発症高血圧ラット(SHR)を用いた血圧に対する試験について説明する。このSHRラットは、ヒトの血管収縮型高血圧のモデルとして汎用され、試験例も豊富であり、ヒトの結果を反映している。
(試験例4)
【0095】
日本チャールスリバー株式会社より購入した7週齢の雄性SHRラットを1週間予備飼育後、実施例1及び実施例2で得られたエステル結合体、クロロゲン酸、アルギニン、ガンマ−アミノ酪酸のそれぞれ1mg/kgを28日間経口投与した。投与後に、尾の血圧をソフトロン製BP−38Aを用いて測定し、溶媒対照群との比較を実施した。
その結果、実施例1及び実施例2で得られたエステル結合体、クロロゲン酸、アルギニン、ガンマ−アミノ酪酸の収縮期血圧は、溶媒対照群の値に比して、それぞれ、85%、82%、95%、99%、97%となり、実施例1及び実施例2のエステル結合体は、明らかに血圧降下作用を示した。
【0096】
以下に、エステル結合体からなる食品製剤の実施例について説明する。
【実施例3】
【0097】
実施例1又は実施例2で得られたエステル結合体0.2g、プロポリス抽出物0.2g、異性化糖3g、食用セルロース1.8g、アスコルビン酸0.01g及び食用香料0.1gの比率で混合した。これを常法により打錠し、直径10mm、重量0.3gの三角型錠剤を得た。
【0098】
以下に、エステル結合体からなる化粧品の実施例について説明する。
【実施例4】
【0099】
モノステアリン酸ポリエチレングリコール1g、親油型モノステアリン酸グリセリン1g、馬油エステル2g及びオレイン酸3gを加熱し、溶解した。得られた溶液に、実施例1又は実施例2で得られたエステル結合体0.2g、プロピレングリコール2g、グリチルリチン酸ジカリウム0.1g、α−トコフェロール0.1g及び精製水70gを添加した。これらを溶解した後、冷却して乳液を化粧品として得た。
【0100】
以下に、高血圧症に対する食品製剤の効果及び副作用について評価した。
(試験例5)
【0101】
収縮期血圧150〜160mmHgの高血圧症患者12人に、実施例3で得られた食品製剤3錠を一日3回食後に、28日間摂取した。血圧計(オムロン製、HEM−1000)にて、摂取前及び摂取28日間後の血圧及び心拍数を測定した。その結果、実施例1で得られた実施例3の食品製剤では、摂取前に比して収縮期血圧は、平均15mmHg低下した。心拍数は、101%であった。また、実施例2で得られた実施例3の食品製剤では、摂取前に比して収縮期血圧は、平均17mmHg低下した。心拍数は98%であった。なお、食品製剤摂取による体調の変化はなく、血液検査、血液生化学検査、尿検査の検査値にも、いずれも、副作用は認められなかった。
【0102】
以下に、化粧品の効果及び副作用について評価した試験例を示す。
(試験例6)
【0103】
23〜56才の健常女性のそれぞれ10人に、実施例4で得られた乳液10mLを顔面右半分に、14日間塗布した。塗布前及び塗布14日に、顔面左右それぞれの水分保持力(インテグラル製、CM825)及び皮膚弾性力(インテグラル製、衝撃波測定装置、RVM600)を測定した。
【0104】
その結果、実施例1からなる実施例4の化粧品では、塗布前に比し、水分保持力及び皮膚弾性力は、それぞれ112%及び134%といずれの値も改善された。また、実施例2からなる実施例4の化粧品では、塗布前に比し、水分保持力及び皮膚弾性力は、それぞれ115%及び139%となり、いずれの値も改善された。
【0105】
なお、いずれの化粧品の塗布によっても、体調、肌の状態に副作用は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明で得られる副作用が弱い、優れた血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体は、血管平滑筋のカルシウムチャネルの抑制及び一酸化窒素による血管弛緩などの異なる機序に起因した血管弛緩反応を生じることから、発症原因が異なる種々の高血圧症に対しても治療効果が期待される。また、日本人で最も発症率の高い疾病である高血圧症の治療又は予防に寄与でき、QOLを改善できる。医療のみならず、食品、化粧品としても、血圧の予防医療に貢献できる化合物であり、これを含有する食品製剤及び化粧品である。また、天然のヤーコンの市場性を高め、素材の流通を拡大できると期待している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(1)で示される血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体。
【化1】

Xは、水素、ガンマ−アミノ酪酸、アミノ酸、ポリアミン、アミノ糖、グルコサミンから選択されるいずれか。
【請求項2】
Xが水素である下記の式(2)で示される請求項1に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体。
【化2】

【請求項3】
Xがガンマ−アミノ酪酸である下記の式(3)で示される請求項1に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体。
【化3】

【請求項4】
キク科ヤーコンの葉又は塊根を刈取り、アルギニン溶液に浸した後、5%〜45%エタノール溶液により抽出した抽出液をアルカリ還元化して得られる請求項1又は請求項2又は請求項3に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体。
【請求項5】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなる食品製剤。
【請求項6】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載の血管弛緩作用を呈するクロロゲン酸誘導体とアルギニンとのエステル結合体からなる化粧品。

【公開番号】特開2006−298802(P2006−298802A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120754(P2005−120754)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(504447198)
【Fターム(参考)】