説明

血管新生およびがん細胞増殖の調節方法

20-HETEの活性を調節することによって血管新生を制御する方法が開示される。更に、がん及び腫瘍細胞を20-HETE阻害剤に接触させることによってがん及び腫瘍細胞増殖を阻止する方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、米国仮出願60/520,172(2003年11月14日出願)の利益を主張するが、参考までに述べると、その基礎出願のすべての内容は、本出願に含まれている。
【連邦政府により援助を受けた研究又は開発に関する記述】
【0002】
この発明は、次の政府機関:NIH EY014385及びHL036279により裁定され、米国政府の援助のもとで行われた。米国政府は、この発明についてある権利を有している。
【発明の背景】
【0003】
アラキドン酸の代謝に由来する産物は、血管及び細胞増殖の調節に関係している。アラキドン酸の代謝がシトクロムP450により触媒されているとすれば、それらの主要代謝産物は、位置的−及び立体的に特異性を有する、エポキシエイコサトリエン酸(EETs)、それらの対応するジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs)、及び20-ヒドロキシエイコサトリエン酸(20-HETE)である。シトクロムP450は、同様にアラキドン酸を16-、17-、18-及び19-HETEに代謝させ得る。CYP450のすべてのアイソマーの中では、アラキドン酸のω−水酸化による20-HETEへの移行に関与する主たる酵素は、CYP450 4A(CYP4A)及びCYP450 4F(CYP4F)ファミリーである(Roman RJ.,Physiol.Rev 82:131-185,2002)。
【0004】
生理的状態における血管新生は、細胞間の相互作用、細胞間質分子、細胞移動を最大にする液性因子、分裂及び内皮細胞の分化等の相互作用が関与する複雑な過程をたどる。血管新生の経過は、先在する血管が関与するが、その先在する血管は、新しい血管を伸長させるために毛細血管をおくり出している(Hanahan Dら、Sciene 277:48-50,1997)。血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、基本的な繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、表皮細胞増殖因子(EGF)のような数種のサイトカインと成長因子により、インビトロ及びインビボで血管新生を調節する系が確立されており、これらの増殖因子の中で、VEGFが最も効果の高い有効な誘導剤であると考えられている(Ferrara N,Am J Physiol Cell Physiol 280:C1358-C1366,2001)。最近の研究は、骨格筋における血管新生の重要な調節因子として、VEGFの役割が更に支持しているが、これは、VEGF-中和抗体が電気的刺激及び運動に反応する血管新生を阻止したからである(Amaral SLら、Microcirculation 8:57-67,2001;Amaral SLら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 281:H1163-H1169,2001)。
【0005】
アラキドン酸のエポキシゲナーゼ代謝物は内皮細胞の遊走及び培養細胞の管形成に関係するとされている(Natarajan Rら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 273:H2224-H2231,1997:Natarajan R.ら、Proc Natl Acad Sci USA 90:4947-4951,1993;及びRieder MJら、MicrovaSC Res 49:180-189,1995)。最近の研究は、骨格筋細胞及びラットの精巣挙筋動脈において、ω−水酸化酵素であるチトクロムP450A(CYP4A)が発現する証拠が提供された。20-HETEが、脳及び腎の循環の小動脈においてミオシンの活性化において役割を演ずることが示された(Harder DRら、J VaSC Res 34:237-243,1997;Harder DRら,Acta Physiol Scand 168:543-549,2000;及びMa YHら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 280:H1066-H1074,2001)。Frisbeeら(Am J Physiol Heart Circ Physiol 280:H1066-H1074,2001)及びKunertら(Microcirculation 8:435-443,2001)は、20-HETEが壁を越えて血管収縮神経の反応を高め骨格筋の抵抗性動脈に酸素分圧(PO2)を上昇させることを示した。
【0006】
最近の研究は、ノルエピネフリンとアンギオテンシンII(ANG II)が、平滑筋細胞の血管内で20-HETEの合成と放出を促進することを示唆した(Muthalif MMら、J Bil Chem 271:30149-30157,1996)そしてシトクロムP450阻害剤は、MAPK系活性化、及び培養血管平滑筋細胞(VSM)に対してノルエピネフリンとANG IIの効果を阻止した。20-HETEが、ANG IIの血管収縮作用のセカンド メッセンジャーとして働くこと(Alosnso-Garcia Mら、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 283:R60-R68,2002)、そして、局所のレニン−アンギオテンシン系は、電気刺激により誘導される血管形成における臨界的な役割を演ずる(Amaral SLら、Microcirculation 8:57-67,2001)。しかしながら、筋肉の電気刺激に続いて起こるANG IIの血管形成効果を仲介する20-HETEの役割は明らかではない。
【0007】
20-HETEは、培地中で増殖した腫腫のタイプの正常な細胞増殖を促進する役割を演ずると考えられている。例えば、20-HETEは、VSM細胞において(Muthalifら、Hypertension 36:606-609,2000;及びUddinら、Hypertension 31:242-247,1998)及び、中心に近い細尿管上皮細胞において(Linら、Am.J.Physiol.269:F806-F816,1995)、チミジンの取り込みを促進した。これらの細胞の両方において、インビトロでのEGFのマイトジェン活性は、20-HETEの産生増加を伴った(Muthalif MMら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 1998,95:12701-12706;及びLinら、Am J Physiol 1995,269:F806-16)。20-HETEの産生を阻止すると、血清、ノルエピネフリン、及びEGFへの増殖反応が弱められた(Linら、Am J Physiol 1995,269:F806-16;Roman RJ,Physiol Rev 2002,82:131-85;Sacerditu Dら、Prostaglandins Other Lipid Mediat 2003,72:51-71;Zhao X及びImig JD,Curr Drug Metab 2003,4:73-84)。種々のタイプの細胞において20-HETEによる細胞増殖の刺激には、数種のシグナルトランスダクション経路の関与があるかもしれない(Muthalif MMら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 1998,95:12701-12706;Uddinら、Hypertension 31:242-247,1998;Harder DRら、J VaSC Res 34:237-243,1997;Langeら、Biol.Chem 272:27345-27352,1997;Linら,Am J Physiol Renal Physiol 269:F806-F816,1995;Sunら、Hypertension 33:414-418,1999)。ムタリフ(Muthalif)らは、血管内平滑筋細胞におけるNEとアンギオテンシンIIによるMAPKの活性化は、20-HETEの形成に依存するものであると報告している、それは、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIによりcPLA2の刺激を引き続いて生じさせる。20-HETEによるRas/MAPK経路の活性化は、cPLA2活性を増強し、そして、ポジティブフィードバック機構によりアラキドン酸の更なる放出をもたらす。ムタリフ(Muthalif)らは、この機構は、細胞分裂と増殖に関与する別の細胞性シグナル分子を調節する役割を演じているかもしれないと提唱した(Muthalif MMら、Proc Natl.Acad.Sci.USA 1998,95:12701-12706)。
【0008】
アラキドン酸代謝物の産生が血管新生を刺激する成長因子により影響を受けることや、20-HETEがインビトロにおいて正常細胞のある種のタイプの増殖促進における役割を演ずるという証拠は存在したにもかかわらず、この出願に記述した研究の以前には、20-HETEがインビボで血管新生に直接的に関与する証拠はなく、また、20-HETEが、がん細胞の分裂や腫瘍性のがん細胞増殖における役割を演ずるという証拠はなかった。
【本発明の要約】
【0009】
ある見方において、本願発明は、20-HETE合成阻害剤又は20-HETEアンタゴニストを組織中で血管新生を減少させるに十分な量を、ヒト又は非ヒト哺乳類に投与することにより、ヒト及び非ヒト哺乳類組織の血管新生を減少させる方法に関するものである。
【0010】
別の見地では、本発明は、血管新生が誘導され、促進される組織において、20-HETE活性の十分な増加によりヒト又は非ヒト哺乳類組織における血管新生を誘導し促進する方法に関するものである。
【0011】
更に、別の観点からは、本発明は、がん又は腫瘍細胞の分裂を阻止するのに十分な量の20-HETE合成阻害剤又は20-HETEアンタゴニストから選ばれた薬剤にがん又は腫瘍細胞を接触(exposing)させることによりがん又は腫瘍細胞の分裂を阻止する方法に関するものである。
【発明の詳細な説明】
【0012】
血管新生は、20-HETEの活性を修飾することにより、調節できることを開示した。がん及び腫瘍細胞の増殖は、20-HETE及びそのアゴニストにより刺激され、20-HETEの合成阻害剤、及びそのアンタゴニストにより阻止されることを開示した。
【0013】
ラット骨格筋及びラット角膜を例に用いて、少なくとも3種の化学的に又は作用面から異なった20-HETE合成阻害剤による、20-HETEの合成阻害が、種々の成長因子による刺激で誘導された血管の成長を弱めたことを、本発明者らは示した。この観察は、本発明者らが、20-HETEアゴニストの投与が、新生血管の成長を促進する成長因子の効果に似るものであると示したことと、一致する。これらの発見は、異常で過剰な血管成長を伴う疾病や状態を治療し又は予防するための血管新生を阻止する戦略を提供するものであり、また、不十分な血管の発達や血管の退化に伴う疾病や状態を治療し予防するための血管新生を誘導し促進する戦略を提供するものである。
【0014】
ヒトグリオーマ(神経膠腫)及びラットグリオサルコーマ(神経膠肉腫)がん細胞を例に用いて、本発明者らは、化学的に又は作用機作面で異なるタイプの20-HETE合成阻害剤が、インビトロ及びインビボでがん細胞の増殖を阻止し、そしてこの阻害が20-HETEアゴニストで逆転することを示した。本発明者らは、さらに、20-HETE合成阻害剤が、正常細胞の基礎的な増殖には、影響を与えないことを見出した。しかし、20-HETE合成阻害剤は、これらの細胞の増殖が種々の成長因子(EGF、bFGF、及びVEGF)を用いて異常に刺激された後の正常なヒト血管内皮細胞の異常な増殖を阻止した。これらの発見は、がん治療(付属した治療を含む)及び予防にとって新しい戦略を提供する。
【0015】
20-HETEの活性と合成は、哺乳動物によく保存されている。例えば、CYP4AとCYP4Fファミリーの酵素が発現し、20-HETEが、現在まで研究されたすべての哺乳動物種において、白血球と血管内で産生される(Roman RJ,Physiol Rev 82:131-85,2002)。それゆえ、ラット動物、ラット細胞、ヒト細胞を用いて実施例において示した観察は、ヒト、犬、ラット、マウス、及びウサギのようなすべての哺乳類動物に適用される。
【0016】
ある見方からすれば、本発明は、血管が退行するような組織において20-HETE活性を十分な阻止により、ヒト又は非ヒト哺乳動物の組織において血管新生を退行させる方法に関するものである。
【0017】
一つの態様では、本発明の方法は、成長因子によって誘導された血管新生を弱めるために使用できる。当業者は、このような成長因子をよく知っている。実施例には、含まれているが、VEGF、bFGF、EGF、インシュリン、インシュリン様成長因子(IGF-1)、及びPDGFのようなチロシンキナーゼ依存性成長因子や、アドレナリン作働性、コリン作働性、オキシトシン、エンドセリン、アンギオテンシン、ブラジキニン、ヒスタミン、トロンビン、及びその他多くのGタンパク質結合受容体に限定されるものではない。
【0018】
別の態様では、本発明の方法は、腫瘍又はがん細胞による成長因子から分泌され誘導される、アンギオテンシンを減少させるために用いることができる。さらに、別の態様では、本発明の方法は、眼における非筋肉組織(例えば、新生児への高酸素の暴露により続くもの、傷害、炎症、糖尿に続くもの)のような非筋肉組織でのアンギオテンシンの減少に用いることができる。さらに、別の態様では、本発明の方法は、喘息、リウマチ性関節炎、骨関節症、皮膚感染、及び肺線維芽症、における非筋肉組織での血管新生を減少させることに用いることができる。
【0019】
ヒト又は非ヒト哺乳類の組織中の20-HETE活性を阻害する一つの適当な手段は、ヒト又は非ヒト哺乳動物で血管新生を減少させるに十分な量の20-HETE合成阻害剤を投与するために用いることができる。「20-HETE合成阻害剤」とは、本発明者らによればアラキドン酸から20-HETEへの転換に関与する酵素阻害剤を意味する。このような酵素としては、CYP4A11、CYP4F2及びCYP4F3のようなCYP4及びCYP4Fファミリーの酵素群を含むものが知られている(Christmas Pら、J.Biol.Cliem.,276:38166-38172,2001)。
【0020】
20-HETE合成阻害剤の多くの種類が当業者に知られており、そのすべてが本発明の方法に用いられている。これらの阻害剤は、U.S.20040110830;WO02/36108;WO01/32164;Nakamura Tら、Bioorg Med Cliem.12:6209-6219,2004;Nakamura Tら、Bioorg Med Cliem Lett.14:5305-5308,2004;Nakamura Tら、Bioorg Med Chem Lett.14:333-336,2004;Nakamura Tら、J Med Chez.46:5416-5427,2003;Sato Mら、Bioorg Med Che7n Lett.11:2993-2995,2001;Miyata Nら、Br J Pharmacol.133:325-329,2001;Xu Fら、J Pharmacol Exp Ther.308:887-895,2004;Xu Fら、Am J Physiol Regul Integr Comp Physol 28:R710-720,2002;Roman RJ.,Physiol Rev.82:131-185,2002、の開示に含まれており、これらのすべてが、ここで完全に参考として取り込まれている。
【0021】
これらの阻害剤の例としては、N-ヒドロキシ-N-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジン(HET0016)、N-(3-クロロ-4-モルホリン4-イル)フェニル-N'-ヒドロキシイミドホルムアミド(TS-011)、ジブロモドデセニル メチルスルホンイミド(DDMS)、1-アミノベンゾトリアゾール(ABT、Sigma Chemical Corp.(St.Louis,MO))から入手できる。)、17-オクタデシン酸(17-ODYA)、ミコナゾール(Sigma Chemical Corp.(St.Louis,MO)から入手できる。)、ケトコナゾール、フルキオナゾール及び10 ウンデシニルサルフェート(10-SUYS)。HET-0016、TS-011及びDDMSは、20-HETEの特異的阻害剤であり、17-ODYA、1-ABT及びミコナゾールは、やや特異性の低い阻害剤である(WO02/36108)。HET0016、1-ABT、及び17-ODYAは、インビボで20-HETEのレベル(濃度)を低下させることが示されている(WO02/36108;Dos Santos EAら、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol.287:R58-68,2004;Hoagland KMら、Hypertension 42:669-673,2003;Cambj-Sapunar Lら、Stroke 34:1269-1275,2003;及びHoagland KMら、Hypertension 41:697-702,2003)。HET0016を合成する方法は、WO01/32164に記載されている。20-HETEを合成阻害する類似した性質をもつHET0016の数多くのアナログの合成が、既に記述されている(Nakamura Tら、Bioorg Med Chem.12巻:6209-6219頁,2004年;Nakamura Tら.,Bioorg Med Chem Lett.14:5305-5308,2004年;Nakamura Tら、Bioorg Med Chem Lett.14巻:333-336頁,2004年;Nakamura Tら、J Med Chem.46巻:5416-5427頁,2003年;及びSato Mら.,Bioorg Med Chem Lett.11巻:2993-2995頁,2001年)。17-ODYA、ABT及びミコナゾールは、Sigma Chemical Corp.(St.Louis,MO)から入手できる。本発明の目的のための好ましい阻害剤は、HET0016、TS-011及びDDMSである。
【0022】
U.S.20040110830は、アラキドン酸から20-HETE合成を阻害することができるヒドロキシホルムアミジン誘導体を開示しており、そして、これらのすべての誘導体は、本発明において用いることができる。
【0023】
抗体は、動物体内に投与したときに標的タンパク質の機能を阻害すると一般には示されているので、20-HETE合成酵素に対する(モノクローナル又はポリクローナル)抗体は、同じように、20-HETEの合成阻害剤として用いることができる(Dahly,A.J.,FASEB J.14:A133,2000;Dahly,A.J.,J.Am.Soc.Nephrology 11巻:332A,2000年)。CYP4AとCYP4Fファミリーの全ての既知のメンバーのDNAとタンパクアミノ酸配列は、公表されており、利用できる。当業者は、20-HETE合成酵素に対するヒト化抗体を含む抗体をこのように作製することができる。例えば、CYP4A1とCYP4A10に対する抗体は、既に作製されており、CYP4A1とCYP4A10の酵素活性を阻害できることが明らかにされている(Amet,Y.et al.,Biochem Pharmacol.54(8):947-952,1997;Amet,Y.et al.,Biochem.Pharmacol.53(6):765-771,1997;Amet,Y.et al.,Alcohol Clin.Exp.Res.22(2):455-462,1998)。
【0024】
ヒト又は非ヒト哺乳動物の組織において20-HETE活性を阻害する別の適切な方法は、組織中で血管新生を減少させるに十分な量の20-HETEアンタゴニストを投与することである。既知のすべての20-HETEアンタゴニストを用いることができる。これらは、米国特許第6,395,781号;Yu Mら、Eur J Pharmacol.486:297-306,2004;Yu Mら、Bioorg Med Chem.11:2803-2821,2003;及びAlonso-Galicia Mら、Am J Physiol.277:F790-796,1999に開示されているものを含んでおり、すべてのものが、ここで、すべてを参照できるように取りあげてある。例には、19 ヒドロキシノナデカノイン酸、20 ヒドロキシエイコサ-5(Z),14(Z)-ジエン酸、及びN-メチルスルホニル-20-ヒドロキシ-5(Z),14(Z)-ジエンアミド。
【0025】
異常な又は過剰な血管の発達を伴う病気及び状態は、本発明の方法により、処置して防ぐことができる。疾病を治療することにより、疾病が進んだ後は、疾患の重篤さを弱め、又は疾患の症状を消し去ることを意図している。疾病を予防することにより、疾病の進行を防ぎ、その始まりにおいてその重篤度を減少させることを意図している。治療又は予防し得る病気や症状の例は、がん(例えば、脳腫瘍、固形腫瘍)に限られず、高酸素圧下におかれた新生児の角膜の血管新生、又は傷害や感染後の眼、皮膚、他の器官の血管新生が含まれる。傷害や感染の結果としてもたらされる血管新生に付け加えて、調節できない血管形成により引き起こされた新生血管性の眼病のような他の眼病は、同様に治療し、予防し得る。この場合、網膜性の、そして、脈絡膜の循環からの病的な血管新生が、多くの眼病において重篤な結果となっていることが注目されている。網膜の新生血管形成は、糖尿病性網膜症、鎌状赤血球網膜症、網膜静脈閉鎖(retinal vein occulusion(ROP))、中心網膜静脈閉鎖、又はその枝静脈閉鎖は、網膜性新生血管形成の後遺症を伴う、視力の急速な低下に導かれる。脈絡膜系に由来する、視神経への血管の供給は、前方(腹側)の眼の虚血性末梢神経障害において、閉ざされている。脈絡膜の毛細血管に由来する新しい血管形成は、加齢に関連する黄斑変性及び数種の斑点病(macular disease)を引き起こす脈絡膜性の新しい血管新生へと導かれる。
【0026】
不適当な血管新生は、同じように、アテローマ性動脈硬化症、再狭窄、特発性肺線維芽症、急性成人性呼吸窮迫症候群及び喘息の再造形に関連している。付け加えると、新しい血管新生は、リウマチ性関節炎等の関節炎にも関連するとされていた。これらの疾病のすべてが、本発明の方法により、治療又は予防することができる。上述の疾病又は症状に付け加えて、治療又は予防し得る他の疾病又は症状は、表1に掲げたそれらを含むものであるが、これらに限定されるものではない(Carmeliet P,Nature Medicine 9:653-660,2003;及びCarmeliet P,J.Intern.Med.255:538-561,2004,both are incorporated by reference in their entirety)。疾病に関する他の情報が、Storgard CM,et al.,J Clin Invest.103:47-54(1999)およびGreene AS and Amaral SL,Curr Hypertens Rep.4:56-62(2002)において見出し得たが、それらのすべてを参考のために、ここに掲載する。
【0027】
【表1】

【0028】
別の局面からは、本発明は、HET0016又はDDMSを哺乳類動物に組織の血管新生を減退させるに十分な量を投与することにより、ヒト又は非ヒト哺乳動物の組織中の血管新生を減少させる方法に関連している。
【0029】
別の局面においては、本発明は、TS-011を組織中の血管新生を減少させるに十分な量を哺乳動物に投与することによりヒト又は非ヒト哺乳動物の組織中の血管新生を減少させる方法に関するものである。
【0030】
別の局面においては、本発明は、血管新生が誘導され、促進される組織中で20-HETE活性を十分に増強することによりヒト及び非ヒト哺乳類の組織中で血管新生を誘導し促進するための方法に関するものである。一つの態様においては、その方法は、非筋肉組織において血管新生を促進するために用いることができる。
【0031】
ヒト又は非ヒト哺乳動物の組織中における20-HETE活性を上昇させるために適した方法は、組織中で血管新生を誘導し、促進させるに十分な量の20-HETE又はそのアゴニストの一つをヒト又は非ヒト哺乳動物に投与することである。公知になっているすべての20-HETEのアゴニストを用いることができる。これらには、米国特許第6,395,781号;Yu Mら、Eur J Pharmacol.486:297-306,2004;Yu Mら、Bioorg Med Chem.11:2803-2821,2003;及びAlonso-Galicia Mら、Am J Physiol.277:F790-796,1999において開示されているものが含まれる。実施例には、20-ヒドロキシエイコサン酸、20-ヒドロキシ-6(Z),15(Z)-ジエン酸(WIT0003)、及びN-メチルスルホニル-20-ヒドロキシエイコサ-6(Z),15(Z)-ジエンアミドを含む。
【0032】
不十分な血管新生や血管の退行を伴う疾病や症状は、ここに提案した方法により予防し、治療することができる。例えば、糖尿病、虚血性心疾患を伴う末梢血管病は、予防や治療をすることができる。化学療法による血管形成は、末梢血管病を伴う患者の肢の切断の必要性や、心臓血管の再建する場合を減らすのに役立つに違いない、また、この治療は心臓発作後の生存を増加させバイバス手術後の生存を増加させるか、バイバス手術に代わるものとなるに違いない。同様に、血管形成を増加させるための20-HETE又はそのアゴニストの投与は、脳の領域の血管形成減少を伴う状態(例えば、アルツハイマー病)や、虚血性発作に続く細胞死や神経の欠損を軽減するに違いない。予防、治療できる他の病気や症状には、表2に掲げたものが含まれるが、それらに限定されるものではない(Carmeliet P,J.Intern.Med.255:538-561,2004)。
【0033】
【表2】

【0034】
別の観点からは、本発明は、20-ヒドロキシエイコサ-6(Z),15(Z)-ジエン酸を哺乳類に血管新生を組織中で誘導と促進させるに十分な量を投与することによりヒト又は非ヒト哺乳動物の組織中で血管新生を促進させる方法に関する。
【0035】
別の観点からは、本発明は、腫瘍細胞又はがん細胞の増殖を阻止するのに十分な量の20-HETE合成阻害剤又は20-HETEアンタゴニストから選ばれた阻害剤に、腫瘍又はがん細胞を接触させ、腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止する方法に関する。一つの態様は、がん細胞又は腫瘍をもつヒト又は非ヒト哺乳動物に薬剤を投与する。別の態様では、その薬剤を、がん又は腫瘍の成長を防ぐために投与する。
【0036】
がん細胞は、その異常な増殖に貢献する自己が分泌する成長因子を産生する能力をもつことが知られている。下記の実施例では、発明者らは、20-HETEが成長因子に対して細胞性のマイトジェン活性を仲介する役割を演じていることを示した。理論に制限されるという意図はなく、発明者らは、20-HETE合成阻害剤及び20-HETEアンタゴニストが、成長因子のシグナルトランスダクション経路を阻害することにより、がん細胞又は腫瘍の増殖を抑制することを信じている。付け加えると、上記のがん細胞又は腫瘍の増殖は、同様に、血管新生を刺激し、腫瘍への血液の供給をまかなう成長因子の分泌に依存している。今回の開示は、20-HETEの合成及び作用の阻害剤が、少なくとも2つの異なるインビボのモデルシステムにおいて、成長因子に誘導される血管新生を防止することを示している。それゆえに、そのことは、20-HETE合成阻害剤及びそのアンタゴニストによって腫瘍が誘導する血管新生を阻止することがインビボでの抗癌活性にも同様に貢献することをさらに理論づけるものである。より好ましい態様では、20-HETE合成阻害剤及び20-HETEアンタゴニストは、ある種のタイプの腸管がん、乳がん(例えば、管性の乳がん)、皮膚がん、肺がん、胃がん、前立性がん、甲状腺がん、肝臓がん、すい臓がん、腎がん、大腸がん、子宮がん、のごとき上皮組織のがん(カルシノーマ)と同様に、グリア細胞由来(グリオーマ)、アストロサイト由来(アストロサイトーマ)等の脳腫瘍の予防及び治療に用いることができる。より好ましい態様では、乳がん、前立腺がん、大腸がん、皮膚がん、すい臓がん、という、グリオーマやカルシノーマが、予防又は治療し得る。適切な及び好ましい20-HETE合成阻害剤と20-HETEアンタゴニストは、上述したごときものである。
【0037】
別の観点では、本発明は、腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止するのに十分な量のHET0016又はDDMSに腫瘍又はがん細胞を接触させることにより腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止する方法に関する。一つの態様では、HET0016は又はDDMSは、がん又は腫瘍の治療のためにがん又は腫瘍をもつヒト又は非ヒト哺乳動物に投与される。別の態様では、HET0016又はDDMSは、がん又は腫瘍の成長を防ぐために投与される。
【0038】
別の態様では、本発明は、腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止するために十分な量のTS-011に腫瘍又はがん細胞を接触させることにより、腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止する方法に関する。一つの態様では、がん又は腫瘍をもつヒト又は非ヒト哺乳動物にTS-011を投与する。別の態様では、がん又は腫瘍の成長を防止するためにTS-011を投与する。
【0039】
特定の疾病や症状の予防又は治療として本発明の特定の適用としては、20-HETE合成阻害剤、20-HETEアゴニスト又はアンタゴニストの特定の至適用量は、特定の投与経路において、当業者により容易に決定される。本発明は、特別な投与経路により制限されるものではない。投与の適した経路は含まれるが、経口、静脈内、皮下、筋肉内、及び特定の器官又は組織への注射には、限定されるものではない。
【0040】
その発明は、これより後に続く実施例に限定されないことを考慮することを、十分に理解されるべきである。
【実施例1】
【0041】
20-HETEによる骨格筋血管新生の調整
20-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(20-HETE)が骨格筋における電気刺激により誘導される血管新生にとって重要であることをこの実施例は示している。ラットの頚骨腹側の長指伸筋を7日間刺激した。電気刺激は、筋肉中の20-HETEの産生と血管新生を有意に増加させ、その増加は、N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェニル)ホルムアミド(HET0016)又は1-アミノベンゾトリアゾール(ABT)による長期にわたる治療により阻止された。HET-0016又はABTのいずれの長期治療でも、両方の筋肉内でVEGFタンパク質の発現の増加を阻止しなかった。20-HETE産生に対するVEGFの役割を分析するために、追加したラットにVEGF中和抗体(VEGF Ab)を処置した。VEGF Abは、刺激により誘導される20-HETEの産生増加を阻止した。これらの結果は、血管新生のためのシグナル経路の下流に20-HETEが置かれている(VEGF下流)。
【0042】
材料と方法
動物の手術: すべてのプロトコル(計画書(protocol))は、ウイスコンシン医科大学の動物施設使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee of Medical College of Wisconsin)により承認された。ラットは、ウイスコンシン医科大学のアニマル・リソース・センター(Animal Resource Center of the Medical College of Wisconsin)で飼育され、飼料と水は、無制限に与えた。32匹のスプラグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)ラット、7週齢を、ケタミン(100mg/kg)及びアセプロマジン(2mg/kg)の混合液の筋肉内注射により麻酔させた。胸腰部を皮膚切開し、小型バッテリーで出力される刺激器(miniature battery-powered stimulator)、これは予め計画していたもので、長期試験に有用なものであるが、それを埋め込み、適所におき安全にした。別の切開は、右後肢の膝関節(通常の腓骨神経の領域の上)の外側を包む皮膚と筋膜に行った。一組の電極は、前記刺激器から皮下に導き、通常の腓骨神経近接した膝の周囲の筋肉に固定した(Ma YHら、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 267:R579-R589,1994)。電極は、生体に適合するアクリルセメントを用いて局所に固定し(Loctite;Rocky Hill,CT)、精密な縫合により末端で固めた(size 5-0,Ethicon;Somerville,NJ)。両切開部にかぶせた皮膚は、縫合により閉じ、そして、ラットは、その後に続いて刺激する期間が始まるまでは、回復にまかせた。
【0043】
実験プロトコルと組織標本: 24時間の回復期間後、埋め込められた刺激器は、小さな手で持てる磁石を用いた磁石性のリードスイッチの瞬時に閉じることにより活性化される。その刺激器は、0.3msの持続期間に10Hzの振動数で、そして3Vの電圧で矩形波により、総腓骨神経を刺激することにより、下肢筋肉において電気的に誘導された筋収縮をもたらす(Linderman JRら、Microcirculation 7:119-128,2000)。長指伸筋(EDL)と前脛骨筋(TA)の収縮は、自動的に毎日午前9時に始まり、一日8時間、連続して7日間続けた。刺激した期間の終わりに、ペントバルビタールナトリウムの過剰量(100mg/kg、腹腔内)により安楽死させ、EDLとTA筋を前述の方法により解剖により採取した(Greene ASら、Hypertension 15:779-783,1990;及びParmentier JHら、Hypertension 37:623-629,2001)。
【0044】
ラットを4つのグループに分けた。VEGFタンパク質の発現と骨格筋での血管新生の貢献における20-HETEの役割を評価するために、第一群の9匹のラットにCYP4A酵素の有効な選択的阻害剤である、[N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェノール)ホルムアミド(HET0016)、大正製薬(ミヤタ N.ら、Br J Pharmacol 133:925-929,2001)]を電気刺激期間中、各注射につき、1mg/kgを毎日2回投与した。この投与量は、本発明者らの以前の結果に基づいて選択した(Kehl Fら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 282:H1556-H1565,2002)。その試験においては、10mg/kgの静脈内投与は、長時間血漿中でHET0016の有効な阻害濃度をはるかに超える(10倍高い)血漿中濃度をもたらした。
【0045】
より普通に用いられているが、特異性の低い阻害剤とHET0016の効果を比較するために、4匹のラットを1-アミノベンゾトリアゾール(ABT;第2群)を、50mg/kg/day腹腔内電気刺激の期間中投与した。
【0046】
電気刺激により誘導される血管新生へのVEGFの貢献を検討するため、6匹のラット(第3群)にVEGF中和モノクローナル抗体を3mg/kg腹腔内注射により電気刺激の期間中投与した(Texas Biotechnology;Houston,TX)。VEGF中和抗体の投与プロトコルは、ゼング(Zheng W)ら(Circ Res 85:192-198,1999)の方法を修正し、本発明者らの以前の結果に基づき、この用量を基本とした(Amaral SLら、Microcirculation 8:57-67,2001)。刺激を始めた後、第3、5、及び7日に(0.6mg/g)を腹腔内投与した。
【0047】
第4群には、HET0016用のヴィークル(溶液)、レシチン(n=9)、又はVEGF抗体用の生理食塩水、PBS(n=4)を投与した。いずれのヴィークル処理でも結果に有意差はなかったので、これらの群からの結果は合わせた。
【0048】
尿中排泄の20-HETEの測定: 電気刺激最後の日に、食餌から尿をうまく分離できる代謝ケージに入れた。尿を採取し始める前に、尿との混入を避けるために、食餌は取り除いた。24時間対照尿と処理尿のサンプルを、氷を詰めたガラス瓶中に採取した。尿サンプル中のHET0016の濃度を、前述した方法により蛍光HPLCにて測定した(Maier KGら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 279:H863-H871,2000)。25ngの内部標準[20-5(Z),12(Z)-ヒドロキシ-エイコサジエン酸(WIT-002);大正製薬、埼玉、日本]を添加した後、サンプルを蟻酸でpH4に酸性化し、エチルアセテート(酢酸エチル)で抽出し、有機層をアルゴンガスを用いて乾燥した。サンプルを20%アセトニトリル1mlに再溶解させ、カラム(Sep-Pak Vac column(Waters;Milford,MA))に載せた。カラムは、30%アセトニトリルで2度洗浄し、HETE及びEETを含む画分を90%アセトニトリル400μlで溶出した。サンプル(複数)は水で希釈し、カラム(Sep-Pak Vac column)に適用し、酢酸エチル500μlで溶出し、次いで乾燥させた。脂質画分は、2-(2,3-ナフタルイミノ)エチルトリフルオロメタンスルホネイト36.4mMを含むアセトニトリル20μlで標識した。反応を触媒するために、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(10μl)を加えた。過剰の色素は、Sep-Pak Vac抽出(Sep-Pak Vac extraction(Maier KGら、Am J Physiol Heart Circ Physiol 279:H863-H871,2000))により分離し、サンプルは、アルゴンガスで乾燥させ、100μlのメタノールに再懸濁させ、逆相HPLC(Waters)により、蛍光検出器(model number L-7480;Hitachi,Naperville,IL)を用いて分析した。サンプル中の20-HETEの量は、20-HETEのピークの面積と内部標準のそれとを比較して求めた。
【0049】
組織の採取と容器の密度の形態学的な分析: 刺激した側の筋肉とその対側の筋肉を分離し、秤量し、生理食塩水で濯いだ。TA筋の吻側(頭側)から300mgのサンプルを得て、VEGFタンパク発現の測定と20-HETE産生の測定の分析のため、ウエスタンブロット(100mg)、HPLC(200mg)用に、液体窒素に凍結保存した。残りのTAとEDL筋は、0.25%ホルマリンで軽く固定した。その筋肉は、腱を固定し、筋線維の長軸方向に平行にスライスすることで、約100μmの厚さに手動ミクロトームにより切片にした。すべての動物から、EDL筋の2切片、と各TA筋肉の3切片を作製した。切片は、ローダミン標識したグリフォニア シンプリシフォリアI(Griffonia simplicifolia I;GS-I)レクチンの25μg/ml溶液に2時間、浸した(Sigma;St.Louis,MO(Greene ASら、Hypertension 15:779-783,1990))。このGS-Iレクチンに2時間接触させた直後、その筋肉を生理食塩水で洗った。洗浄の方法は、15分後と30分後に繰り返し、そして、その筋肉は、生理食塩水溶液で12時間(一晩、4℃)洗浄した。次の日、切片は顕微鏡用のスライドに、トルエンとアクリル樹脂からなる水溶性マウント用液で封入した(SP ACCU-MOUNT 280,Baxter Scientific)。
【0050】
標識した切片は、ビデオ蛍光顕微鏡システム(Olympus ULWD CD Plan,×20objective,1.6cm作動距離および0.4開口値)、を用いて、エピ−イルミネーションにより、前述のように可視化した(Parmentier JHら、Hypertension 37:623-629,2001)。本研究では、10〜15、及び20〜25の代表的な視野を、EDLとTA筋のそれぞれの切片の試験ために選んだ。各視野は、デジタル化したイメージに変換し(DT2801 Data Translation;Marlboro,MA)、512×512ピクセルの解像度をもつ8ビット/ピクセル イメージとして保存した。走査検討した組織化学的断面の体型測定分析を前述の方法で行った(Parmentier JHら、Hypertension 37:623-629,2001)。血管−格子交差(vessel-grid intersection)は、血管密度の正確で、定量的な見積もりを提示できることを前述した(Parmentier JHら、Hypertension 37:623-629,2001)。
【0051】
VEGFタンパクの存在を検出するためのウエスタンブロット: 100mgのTA筋肉片をホモジナイズし、そのタンパク質をリン酸緩衝液(10mM)に懸濁した。VEGFを過剰発現することが知られているTA及び既知の腫瘍細胞(C6,American Type Culture Collection,107-CCL)から、タンパク質5μg(Bio-Rad;Hercules,CA、のタンパク定量キットにより測定した)を、変性させ得る12%のポリアクリルアミド ゲル上で分離した。ゲルをニトロセルロース膜に移し、0.08% Tween 20(Bio-Rad)を含有するトリス緩衝液(50mM Tris、750mM NaCl,pH 8)中で希釈した脱脂乳5%中で一晩ブロックした。ブロットは、ヒトVEGF配列由来のペプチドに対するポリクローナル抗体(1:1000希釈、clone G143-850、Pharmingen)で2時間室温でインキューべションした。洗浄したブロットは山羊抗マウス2次抗体とともに、希釈率1:1000で室温で1時間インキュベーションし、その次は、スーパーシグナル・ウエスト・デュラ化学発光基質(SuperSignal West Dura chemiluminescence substrate)(Pierce;Rockford,IL)検出系に従った。膜は、X線フィルム(Fuji Medical;Stamford,CT)で15〜30秒被爆させ、現像は、Kodak M35 X-Omat processorで行った。VEGFの定量的な分析のために、全部のシグナルがフィルム検出の直線的な範囲内であることを確認できた期間内でフィルムを常に被爆させた。VEGFのバンドの強さは、モルホメトリー画像系(Metamorph,Universal Imaging;West Chester,PA)を用いて定量し、そして値は、標準化されたC6腫瘍細胞の百分率であらわした。
【0052】
20-HETEの測定のための筋肉標本: 100-200mgの凍結したTA筋肉を1mlの酸性化した水と50μlの内部標準WIT-002、これは、大正製薬の好意で提供されたものである、を含む溶液でホモジナイズした。酢酸エチル(3ml,Fisher Scientific;Pittsburgh,PA)を加えて、ゆっくり渦を巻いて混ぜた。ホモジナイズした組織は、次に3000回転/分で遠心を2分間行った。ガラス製のパスツールピペットで、上層を分離し、滅菌したガラス製バイアルに移し、サンプルは窒素ガス下で乾燥させ、-80℃で保存した。
【0053】
サンプルの標識化と20-HETEの蛍光検出: 20-HETEの検出は、前述した方法により行った(Ma YHら、Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol 267:R579-R589,1994)。サンプルは、抽出され、アルゴンガスで乾燥させたものであるが、36.4mMの2-(2,3-ナフタルイミノ)エチルトリフルオロメタンスロホネイトの20μl及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(10μl)を触媒として加えた。サンプルは、30分室温で反応させ、アルゴンで乾燥し、40%アセトニトリル水1mlで再懸濁し、そしてカラム(Sep-Pak Vac column)に適用した。カラムは、反応していない染料を分離するために6mlの50%アセトニトリル水で洗浄し、500μlの酢酸エチルで溶出し、アルゴンで乾燥させ、再び100 μl of the HPLC移動層[メタノール、水、酢酸の、82:18:0.1(vol/vol)]に再懸濁させた。サンプルの一部25μlをとり、カラム(4.6×250mm Symmetry C18 reverse-phase HPLC column(Waters))に1.3ml/分の速度で、移動層としてメタノール−水−酢酸(82:18:0.1(vol/vol))を用い、アイソクラチックに(isocratically)、一定条件下で適用した。蛍光強度は、蛍光検出器(model number L-7480,Hitachi;Naperville,IL)を用いて、媒体獲得感度(medium gain sensitivity)で測定した。サンプル中の20-HETE量は、20-HETEのピーク面積を内部標準(WIT-002)のそれとを比較して決定した。
【0054】
データ分析と統計処理: 各筋肉において、選択した視野(各EDL筋につき10-15スキャン、x2切片; 各TA筋につき、20-25スキャンx3切片)を、単一の血管密度に平均化した。血管密度は、顕微鏡視野(0.224mm2)毎に血管−格子交差の数の平均により表した。各々の試験群にとって、刺激した筋肉での測定した血管密度と20-HETE産生は、無刺激の対応と週齢で対応させて比較した。すべての値は、平均値±SEで表した。同じ動物において測定した値の有意差は、一要因(刺激)に対して繰り返し測定した2要因ANOVA(薬剤x刺激)を用いて評価した。有意差は、さらに、ポストホックテスト(Tukey’s)を用いて検討した。
【0055】
結果
CYP4A酵素の阻害効果を評価するために、本発明者らは、HET0016処理7日間の20-HETEの尿中排泄を測定した。20-HETEの分離を示す代表的なHPLCクロマトグラムは、図1に表した。図1に示すように、20-HETEに極めて近接した他のピークが存在する。標準物質との共存移動に基づいて、クロマトグラフ中の前のピークを19-HETEとして、20-HETEの後のピークを18-HETEとして同定した。次のピークは16-HETEであり、15-HETEが後に続く。各ピークの面積を分析するために、「材料と方法」に記載したように、逆重畳積分(deconvolution)法(Hitachi software)を用いてショルダーピーク(shouldering peak)を差し引いた。
【0056】
図2に示すように、HET0016の長期治療は、レシチンのみの対象群に比べ、20-HETEの24時間尿中への排泄は、有意に減少(36%)した(P<0.05)。
【0057】
7日間の電気刺激は、図3に示すように、骨格筋中での20-HETEの産生は、有意に増加させた(69.52±31.3〜177.58±54.4ng/g、各々、非刺激筋肉及び刺激した筋肉、P<0.05)。7日間のHET0016の治療は、骨格筋での20-HETEの基礎的な産生に影響を与えなかった(110.26±28.36及び69.52±31.3ng/g、各々筋肉内処置及び対照、P>0.05;図3);しかし、HET0016の長期投与は、骨格筋で電気刺激により増加した20-HETE量を完全に阻止した(110.26±28.3〜102.1±22.3ng/g、各々、非刺激及び刺激側の筋肉;図3)。
【0058】
前に示したように、電気刺激は、レシチン投与の対照群では、血管密度に増加をもたらした(107.0±1.6〜121.0±4.5及び100.4±8.4〜132.0±9.9、EDL及びTAの各投与における血管の交差数、P<0.05)。図4に示すように、HET0016の長期投与は、骨格筋での7日間の電気刺激で誘導された血管密度の増加を完全に阻止した(116.0±1.0〜118.0±10.1及び105.7±4.9〜110.5±1.1、各々、EDL及びTA処理における血管交差(vessel intersection)の数)。ABTを用いた20-HETE産生の長期阻害は、骨格筋で電気刺激により誘導された血管密度の増加を同様に減弱させた(111±7.4〜121±4.35及び99.7±4.72〜119.5±4.51、各々、EDL及びTAにおける血管交差数)。
【0059】
VEGFが、骨格筋での血管形成に重要な役割を演ずることを示すことができたので、本発明者らは、VEGFタンパクの発現に対するHET0016又はABTの効果を実証するために、ウエスタンブロット分析を行った。図5は、HET0016投与動物又は対照動物の全てについて電気刺激7日後のVEGFのタンパク発現の反応を比較するために用いたウエスタンブロット分析の定量的デンシトメトリーを示す。図5に示すように、VEGFタンパク量は、対照動物で刺激により有意に増加した(P<0.05)。HET0016と別のCYP4A阻害剤の効果を比較するために、本発明者らは、電気刺激期間中の7日間、一群にABTを投与し、結果は図5に表した。HET0016及びABTのいずれにおいても、VEGF発現の基礎的な量に影響を与えなかった。電気刺激によるVEGFタンパク発現の増加は、HET0016又はABTにより阻止されなかった。
【0060】
補足的な試験において、20-HETEの産生に対するVEGFの役割を分析するために、VEGF中和抗体又はPBS(対照)をラットに投与した。図6に示すように、VEGF抗体は、完全に電気刺激7日間で誘導された20-HETE産生の増加を阻止した。
【実施例2】
【0061】
ラット角膜における20-HETEによる成長因子誘導による血管新生の調節
CYP4A酵素は、アラキドン酸を20-HETEに代謝する。この実施例では、本発明者らは、インビトロ内皮細胞で20-HETEがマイトジェニック(分裂誘発性)であること、また、インビボで血管新生能があることを示すものである。本発明者らは、さらに、高度にCYP4Aの選択的阻害剤であるHET0016が、内皮細胞でVEGFによるマイトジェン(分裂誘発)活性を阻止することを示した。DDMSは、CYP4Aの別の選択的な阻害剤である。本発明者は、HET0016及びDDMSが、インビボでVEGFの血管新生反応を阻止することを示した。本発明者らは、また、ヒトグリオーマ細胞株である、U251により誘導された血管新生を減弱させることを示す。
【0062】
材料と方法
試薬:
HET0016[N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェニル)ホルムアミジン]は、Miyataら(Br J Pharmacol 2001,133:325-9)、及びサトー Mら(Bioorg Med Chem Lett 2001,11:2993-5)による記述に従って合成し、両者は、それらの内容の全てが参照できるように含まれており、それらは、大正製薬(埼玉、日本)により提供された。CYP4A阻害剤であるDDMS及びその安定な20-HETEアゴニストである、WIT003[20-ヒドロキシ-6(Z),15(Z)-ジエン酸]は、テキサス大学 サザンウエスタン メディカルセンターのJR ファルック博士により合成された(Capdevila JH and Falck JR,Prostaglandins Other Lipid Mediat 2002,68-69:325-44)、そして以前に用いられている(Alonso-Galicia Mら、Am J Physiol 1999,277:F790-6;Wang MHら、J Pharmacol Exp Ther 1998,284:966-73;及びYu Mら、Eur J Pharmacol 2004,486:297-306)。VEGF、bFGF及びEGFは、R&Dシステム(Minneapolis,MN)から購入し、ハイドロン(Hydon)タイプNCCは、インターフェロン社(New Brunswick,NJ)から得た。PCRのプライマーは、クイアゲン社(Valencia,CA)で合成した。ヒト臍の静脈内皮細胞(HUVEC)及び関連培養試薬は、キャンブレックス(Walkerville,MD)から購入した。その他の全ての培養試薬は、インビトロゲンから購入した(Carlsbad,CA)。パルミチン酸と他の全ての試薬は、シグマ ケミキャル(Sigma Chemical Corp(St.Louis,MO))から購入した。
【0063】
動物:
実験は、7〜8週齢のスプラグ-ダウレイ(Sprague-Dawley)雄ラット、体重200-250g(Charles River Laboratories,Wilmington,MA)で行った。ラットは、12時間/12時間の明/暗の周期の環境に収容し、餌と水は無制限に与えた。全ての方法は、眼と視野についての動物の使用におけるARVO声明(statement)に従った。動物使用の認可は、ヘンリー・フォード・ヘルス・システム(Detroit,MI)の施設の動物の飼育と使用に関する委員会(Institutional Animal Care and Use Committee(IACUC))の承認を得た。
【0064】
HUVECsの増殖試験
HUVECs(細胞)は、1×104cells/wellの密度で96穴プレートに播種し、培養を一晩行い、次に10μMのHET0016、1μMのWIT003又は250ng/mlのVEGF、単独又はHET-0016又はWIT003のいずれかとの併用、のいずれかと接触させた。HET0016又はWIT0013の両者は、エタノールに溶解させた。有機溶媒濃度は、全培地量の0.1%を決して超えないこととした。細胞増殖は、増殖中の生細胞数を測定に信頼できる比色法である、セルタイター96アクエス ワン リージェント(CellTiter96 Aqueous One reagent;Promega,Madison,WI)を用いて24時間後に測定した。各穴に100μlの培養液に20μlのアクエス ワン リージェント(Aqueous One reagent)を添加した。プレートを湿潤したインキュベータ中37℃、2時間インキュベートした。96穴バイオ・カイネティックス・リーダーEL340(96-well Bio Kinetics Reader EL340)(Bio-TEK,Winooski,VT)を用いて490nmで吸光度を測定した。データは、対照細胞と比較した処理培養の吸光度を百分率での変化を表している。3回の異なる試験を行い、そして、各値は、3回重複により決定した。
【0065】
角膜ポケット血管新生試験
(i)ポリマーの持続放出物: ポリマーの持続放出ペレットは、ポリマー(ポリヒドロキシエチルメタアクリレート ハイドロン(Hyron))の12%エタノール溶液と成長因子を含む生理食塩水液の混合(1:1)により調製した。成長因子、bFGF、VEGF及びEGFは125ng/μlの濃度で溶解した。HET0016及びWIT003(Yu Mら、Eur J Pharmacol 2004,486:297-306)は、10μg/mlの濃度でエタノールに溶解し、DDMSは、5ng/μlの濃度でエタノールに溶解した。これらの溶液2μlを各ペレットに加えた。このように、単一の成長因子250ngを含むペレットは、ランダムに右又は左の眼に移植した。他方の眼には、成長因子の同量とHET0016を含むペレットを注入した。あるラットでは、ペレットは、VEGF単独、及びVEGFとDDMSを含むものとした。20μgの安定なHETEアゴニストアナログであるWIT003は、血管新生を誘導するか否かを調べるために眼に注入した。エタノールをHET0016、DDMS及びWIT003のヴィークルとして用いたので、他のすべてのペレットにもエタノールを添加した。9μlの1:1ハイドロン/処置剤混合物が、1.5cmの棒の端に付けた。各ペレットは、それぞれの成長因子25ngを含ませた。bFGFを安定化させるためにスクラルファートを用い、この成長因子の持続放出をさせた(Volkin DBら、Biochim Biophys Acta 1993,1203:18-26)。ペレットを1時間乾燥させて、それらは、ラット角膜に移植用とした。
【0066】
(ii)ペレットの移植: ラットは、ケタミン(80mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の筋肉内注射により麻酔させた。眼は、局所的に0.5%プロパラカイン(Ophthetic,Alcon,TX)で麻酔した、眼球は、鉗子を用いて突出した。顕微鏡を操作しながら、器官(眼)内の直線的な角膜切開が、約1.5mmの長さで、外科用刀(Bard-Parker #11;Becton Dickinson,Franklin Lake,NY)で、外側直筋の着点へ平行に行った。曲がった、虹彩ヘラ(No.10093-13,Fine Science Tools(Belmont,CA))幅約1.5mm長さ5mmを、切開した片の下に挿入し、間質を通して、眼の側頭縁の方向へゆっくりと押した。ポケットのベースと(眼の)縁の距離は、1.0±0.1mmに保った。ペレットは、ポケットの側頭の端へ進んだ。抗生物質の軟膏(エリスロマイシン)を眼の前方表面に適用した。
【0067】
(iii)U251ヒトグリオーマ細胞、楕円形状: U251ヒトグリオーマ細胞は、ステファン ブラウン博士(Dept.of Radiation Oncology,ヘンリー・フォード・ヘルス・システム(Detroit,MI))から好意で提供された。細胞は、加熱不活性化した10%牛胎児血清、ペニシリン(10 IU/ml)、ストレプトマイシン(10μg/ml)、非必須アミノ酸を添加したDMEM(Invitrogen)で維持し、37℃、5%炭酸ガスを含む湿潤下のインキュベータで培養した。U251楕円細胞は、カールソン及びユーハス(Carlsson and Yuhas)の改良方法により得た(Carlsson J and Yuhas JM,Recent Results Cancer Res 1984,95:1-23)。手短にいえば、楕円形がん細胞をシングルセルの懸濁液(5x106)として,播種により調製し、0.8%寒天(Noble agar;Difco,Livonia,MI)に置いた。細胞は、楕円形が形成されるまで、2,3日間培養した。直径が同程度の楕円形細胞を選んで、細胞培養器に移し、PBSで洗浄し、微量の血清を除去した。定規付の解剖顕微鏡で楕円形細胞の直径を測定した。各々直径約200μmの5〜8の楕円形細胞が、シリンジに取り付けた鈍角の27ゲージ針に吸い込み、角膜ポケットに挿入した。この試験では、一方の眼には、楕円形細胞とエタノール(HET0016の溶媒)入りペレットを含有させ、他方の眼には、楕円形細胞と20μgのHET0016入りペレットを含ませた。
【0068】
(iv)角膜内での新生血管新生の定量: ペレット移植7日後、ラットを前述のようにケタミンとキシラジンで深く麻酔した。左心室にカニューレを入れ、20-25mlの生理食塩水で潅流し、続いて、20-25mlのインデアンインク(waterproof drawing ink,Sanford,Bellwood,IL)で行った。眼は、定位置を決めるため印を付け、摘出し、4%ホルマリン中に24時間放置した。角膜は、それを取り巻く眼球から解剖で分離し、虹彩の下に置き、2分割して、ゆるやかに2枚のガラススライドの間にマウント(抱埋)し、このように、角膜をゆっくり平板化した。このような平板化したマウントを、CCDビデオカメラ付のニコン ダイアフォートエピフルオール2顕微鏡(Nikon Diaphot Epi-fluor 2 microscope)を用いて顕微鏡的に検査した。画像はデジタル化し、コンピュータに保存した。
【0069】
新生血管は、対照と試験眼の全血管長を比較することにより求めた。血管の長さは、縁(眼の角膜と結膜の連接部)からペレットまで各血管をトレースすることにより決定した。全長は、ピクセルにおけるこれらの値の合計であり、簡易画像解析ソフトウエア(Sigma Scan Pro,SPSS,Chicago,IL)を用いて決めた。
【0070】
群:
すべての場合において、ペレットは、両方の眼に移植した。一方の眼を対照とし、他方を試験群とした。以下の分を試験した。
【0071】
第1群. 対照
2μlのエタノールを含むペレットをラットの角膜に移植した。ある試験では、本発明者らは、ペレット中の脂肪酸の単なる存在により引き起こされる非特異的な影響を試験した。これらの試験では、ペレットには、40μgまでのパルミチン酸を含ませた(n=4)。エタノール単独に対して、パルミチン酸を含むエタノール処理の眼では、VEGFへの血管新生の反応には、差が見られなかった。
【0072】
第2群. CYP4A阻害剤HET0016の効果
対照に対して、20μgのHET0016又は10μgのDDMS。これらの用量は、下記の用量反応試験(n=4)に基づいて選んだ。この群は、阻害剤が、明らかに毒性があるか、又は血管新生効果があるかを決定するために含めている。あるラット(複数)では、DDMS(10μl/ペレット)の効果を試験した。
【0073】
第3群. VEGFの血管新生反応のHET0016阻害の用量反応性
a.VEGF対VEGF+5μgHET0016(n=4)
b.VEGF対VEGF+20μgHET0016(n=4)
c.VEGF対VEGF+40μgHET0016(n=4)
【0074】
第4群. HET0016の抗血管新生効果
これらのラットでは、本発明者らは、VEGF、bFGF、及びEGFに対する血管新生におけるHET0016の効果を試験した。
a.VEGF対VEGF+20μgHET0016(n=6)
b.bFGF対bFDF+20μgHET0016(n=6)
c.EGF対EGF+20μgHET0016(n=8)
【0075】
第5群. 第二のCYP4A阻害剤の抗血管新生効果
これらのラットでは、本発明者らは、VEGFの血管新生効果に対するDDMSの効果を試験した。
VEGF対VEGF+10μgDDMS(n=7)。この用量は、20μgのHET0016で効果が得られたパイロット試験の後、選択した。
【0076】
第6群. 20-HETEのプロ(pro)血管新生効果
これらのラットでは、本発明らは、安定な20-HETEのアナログである、WIT003が血管新生能を有するか否かを試験した。
対照対20μgWIT003(n=7)
【0077】
第7群. HET0016の抗血管新生効果
これらのラットでは、本発明者らは、がん細胞誘導の血管新生反応に対するHET0016の効果を試験した。これらの試験では、本発明者らは、がん細胞のグリオブラストーマ(グリア芽細胞腫)U2561株を用いた、これは、血管新生性のものであることが知られている(Hsu SCら、Cancer Res 1996,56:5684-91)。楕円形細胞及びHET0016を含むペレットは、同じ角膜ポケットに注入した。血管新生反応は、楕円形細胞スフェロイド移植後14日後に評価した。
U251楕円形細胞対U251楕円形細胞+20μgのHET0016(n=8)。
【0078】
角膜CYP4mRNAの発現:
(i)mRNAの抽出とcDNA合成: 血管新生中における角膜内でのCYP4A1 mRNAの発現をRT-PCRにより測定した。角膜は、分離して、液体窒素中で急速凍結した。角膜は、後に解凍し、トライゾル(TRIzol)中でホモジナイズした。総RNAは、操作手順書(Invitorgen)に従い、TRIzolから抽出した。RNAの品質は、260/280nm吸光度率により評価した。1.8〜2.0の範囲内のサンプルのみを使用した。全1〜3μg mRNAをファーストスタンダード合成キット(FirstStrand synthesis kit;Invitrogen)を用いて逆転写に用いた。1μgのDNAをPCRにより増複した。
【0079】
(ii)PCR分析: 本発明者らは、次の特別な、CYP4A1 mRNAプライマーを用いて、CYP4A1mRNAを増複した:センス(Sense):TTCCAGGTTTGCACCAGACTCT(SEQ ID NO:1)及びアンチセンス(antisense):TTCCTCGCTCCTCCTGAGAAG(SEQ ID NO:2)。内部標準の対照としてβ−アクチンの増複を用いた。プライマーは、アプライドバイオシステム社(Applied Biosystems;Foster City,CA)のソフトウエアを用いてデザインした。CYP4A1のmRNA配列は、アクセス番号NM_175837及びラットβアクチンのアクセス番号NM_031144によりGeneBankから得た。
【0080】
CYP4A及びβアクチンを増複するために用いたPCRの条件は、95℃3分のプレサイクルを行い、次に95℃45秒、57℃1分、72℃1分の周期で35サイクルを回し、そして最終伸長として72℃10分を行った。PCR産物は、10%アクリルアミドゲル電気泳動を行い、エチジウムウムブロマイドで可視化した。適当な対照を用いて、ゲノムDNAを含まないサンプルを増複して確認を行った。
【0081】
統計分析: 対照のラットの眼と試験したラットの眼の統計上の有意差は、2群比較t-検定により行った。各群間の反応の差は、ポストホック検定に従ったアノーバにより行った。Ap<0.05は、有意差と考えた。
【0082】
結果
HUVECsの増殖に対するVEGFの効果を図7に表した。VEGFはこれらの細胞で増殖を刺激し、この反応は、HET0016との培養での同時処理により失われた。HET0016は、HUVECsの基礎的な増殖の速度を変えることはなかった(データを示さず)。
【0083】
本発明者らは、次にインビボでのラット角膜の血管新生試験を用いてVEGFに対する血管新生反応に対するHET0016の効果を検討した。HET0016についてもDDMSについても、生理食塩水との差は見られなかった(図8B及び図11B)。HET0016の至適用量を求めるために、本発明者らは、VEGFとHET0016の異なった用量を含むペレットを角膜に移植した用量反応試験を行った。20μg及び40μgのHET0016は、VEGFの血管新生反応を殆ど完全に失わせた。5μgのHET0016は、VEGFの血管新生反応を約50%減少させた。本発明者らは、比較できる分子量と溶解性をもつので、それゆえ、HET0016又は関連物質についてのペレットあたりで20μgの用量を選択した。脂肪酸の非特異的効果のための対照として、本発明者らは、ある試験でパルミチン酸を用いた。パルミチン酸は、それ自身では効果がなく、VEGF又は試験に用いた他の血管新生因子のいずれに対する血管新生反応に対しても影響する力をもたなかった(データ示さず)。
【0084】
ペレットにVEGFを含有させると顕著な血管新生反応をもたらした、その反応はHET0016により末梢された。図8Aは、VEGF単独及びVEGF+HET0016で処理した角膜の代表的な写真を示し、図8Bは、グラフ化した血管を示す。他の実験では、本発明者らは、他の成長因子の血管新生反応に対するCYP4A活性阻止効果の影響を試験した。本発明者らは、HET0016による血管新生が、VEGFを抑制しているのか、又はそれともbVGF及びEGFの反応をも同様に抑制しているのかを検討した。HET0016を含んだペレットは、劇的にbFGF(図9A及び9B)及びEGF(図10A及び10B)の両反応に対する血管新生反応を減少させた。
【0085】
これらのデータは、血管新生反応を引き起こす血管新生成長因子にとっては、CYP4A活性が必要であることを示唆している。この考えを補足するために、本発明者らは、CYP4Aの化学的に似ていない阻害剤であるDDMSが、ラット角膜ポケット血管新生試験でVEGFの血管新生反応を同様に抑制するかどうかを試験した。これらの試験の結果は、図11A及び図11Bに示すが、そして、DDMSは同様に、完全にVEGFの血管新生反応を阻害することを示した。
【0086】
CYP4Aが、アラキドン酸から20-HETEを合成するω−ヒドロキシラーゼであるため、HET0016は、20-HETEの合成を阻害として働くと思われる。20-HETEがCYP4A阻害剤の抗血管新生作用に貢献することを検討するために、本発明者らは、安定な20-HETEアナログであるWIT003の効果を、HUVECs細胞の増殖に対する効果をインビトロで、及び、新しい血管の発達(成長)に対してインビボで、試験した。WIT003は、HUVECsの増殖速度を上昇させた(図12)、そして、ラット角膜ポケット血管新生試験で血管新生反応を誘導した(図13A及び13B)。
【0087】
本発明者らは、HET0016が腫瘍細胞により誘導される血管新生を阻害するかどうかを同様に試験した。角膜ポケットに移植したヒトグリオブラストーマ(グリア芽細胞腫)U251株、の立体的な楕円形細胞は、2週間後には、著しい血管新生をもたらした。角膜の新生血管形成は、HET0016の存在により有意に阻害された(p<0.001)(図14A及び14B)。
【0088】
ラット角膜のCYP4A mRNAの発現を調べるための試験の結果は、対照の角膜において予期したサイズのバンドが検出された。VEGF処理角膜では、変化はみられなかった。
【0089】
要約すれば、本研究は、VEGFに対するHUVECs細胞のマイトジェン(細胞分裂)反応に対する、及び、インビボでの角膜での成長因子が誘導する血管新生におけるCYP4A阻害剤の効果を試験したものである。その結果は、HET0016によりCYP4A活性の妨害が、HUVECs細胞でのVEGFに対する既に知られている分裂反応を阻止したことを示した(Kurzen Hら、Inhibition of angiogenesis by non-toxic doses of temozolomide,Anticancer Drugs 2003,14:515-22)。アラキドン酸代謝物が、VEGF誘導細胞分裂において、役割を演じているというさらなる証拠は、安定な20-HETEアナログWIT003を用いた試験により示唆された。WIT003処理によるHUVECsの処理は、VEGFで内皮細胞を処理で得られたと同様な変化をもって、細胞の分裂を上昇させた。
【0090】
インビボでの血管新生反応は、内皮細胞増殖よりも多くのことが関与しているが、それは、細胞遊走、マトリックス(隔壁)の崩壊、内皮細胞の分裂、及び血管壁周辺からの細胞の補充(recruitment of perimural cells)など他の経過過程を含むからである。血管新生過程の複雑さのために、血管新生のなんらかの有用な阻害剤が、インビボで、十分に形成された血管の生成に影響を与えることを示すことが必要とされている。CYP4Aの阻害がインビボで血管新生に影響するであろうと本発明者らは仮説を立てたので、本発明者らは、この仮説をラット角膜ポケット血管新生試験である、血管新生のインビボモデルで試験した。この評価は、血管新生誘導剤(本発明者らのケースでは、血管の又はがん細胞の成長因子)を含むペレットを角膜の間質の中に切開したポケットの中に入れることに関するものである。ペレットは、ゆっくり、持続的に、血管新生因子を放出し、濃度勾配にしたがって、これが順次、末梢に局在する末端の血管系からペレットへ向けての成長を刺激する。他のインビボ評価系と比較しても、角膜は当初無血管であり、透明だから、新生血管のみを測定する便利な方法である(Kenyon BMら、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.1996,37:1625-1632)。
【0091】
VEGF、bFGF又はEGFがラット角膜に移植されたときに、活発な血管新生反応が観察された。これらすべての成長因子に対する血管新生反応は、HET0016の存在により抹消された。CYP4Aの有効な阻害剤が存在すると、事実上、血管新生反応が消失するので、CYP4Aが血管新生の決定的な調節因子であることをこのことは、示唆している。オレフィン系物質DDMSは、構造と作用機作がHET0016のそれとは関連していないCYP4Aの有効な阻害剤であると報告されている(Wang MHら、J Pharmacol Exp Ther 1998,284:966-73)。角膜の新生血管形成に対するVEGFの効果は、同様にDDMSにより消失する。このように、2つの異なった阻害剤が、VEGFにより誘導される血管新生反応を消失させたが、このことは、結果的には、これらの阻害剤が血管形成過程における必須なステップに影響を与えているという考えを強めるものである。CYP4Aの阻害は、HET0016とDDMSの間で明らかに共通したつながりであるので、本発明者らは、CYP4Aの酵素活性の一つの産物は、メディエーターであるか、又は血管形成が進むために必須な成分のいずれかであると結論した。
【0092】
血管新生は、創傷の治癒、女性の再生産周期のような生理的状況において、また、糖尿病網膜症、黄斑変性、慢性の炎症病等のような病的な状況においても同様に、決定的な現象である。特に、1〜2mm以上のがんの成長には、決定的な要因である血管新生に、腫瘍の拡大は依存しているのである。その結果、新しい血管を生成する能力を抑えることは、治療標的として興味を引くものである。
【0093】
それゆえ、本発明者らは、HET0016が、腫瘍誘導の血管新生に影響を与えるか否かを探求した。このために、本発明者らは、高い血管新生で知られている悪性のグリオーマ(神経膠腫)細胞モデル、グリア芽細胞腫U251株を選んだ。これは、グリア芽細胞腫の多形は真性の血管新生とは区別されるため、臨床的には適切なものである(Hsu SCら、Cancer Res 1996,56:5684-91)。本発明者らは、HET0016又は対照(パルミチン酸又は生理食塩水)のどちらかを含むペレットと一緒にラット角膜の間質にU251楕円形細胞を移植した。すべての対照の眼は、顕著な角膜の新生血管形成を示した;しかし、HET0016は有意に約70%血管新生を抑制した。
【実施例3】
【0094】
HET0016は、ヒトグリオーマがん細胞の細胞分裂を抑制する
この実施例は、20-HETEがヒトがん細胞の成長に重要であることを示している。安定な20-HETEアゴニスト、20-ヒドロキシエイコサ-5(Z),14(Z)-ジエン酸、1μMは、ヒトグリオーマU251細胞分裂を約20%上昇させた。用量反応試験は、10μMのHET0016の48時間処理は、U251の細胞分裂を約60%阻止し、それに伴い、[3H]-チミジンの取り込みで65%を減少させた。ジブロモドデセニル メチルスルホンイミド(DDMS,同様に、N-メチルスルホニル-12,12-ジブロモドデセニル-11-エナミド)、CYP4Aの構造上異なる阻害剤は、同様に約60%の細胞分裂を阻止した。DDMS又はHET0016のどちらも正常なヒト血管内皮細胞や角化細胞の基礎的な成長に影響を与えなかった。フローサイトメトリーの研究は、HET0016が、細胞周期のG0/G1期を拘束することによりヒトU251がん細胞の分裂を特異的に阻害することを示した。20-HETEアゴニスト(1μM)の添加は、HET0016の約70%細胞分裂阻止を取り消した。ウエスタンブロットの試験は、HET0016処理24時間から48時間でみられる阻害をもたらしているU251がん細胞において、HET0016がチロシンりん酸化に影響することを示している。さらなる研究は、HET0016の添加がp42/p44MAPK及びSAPK/JNKのりん酸化を特異的に阻害することを示している。
【0095】
材料と方法
細胞株と試薬: U251ヒトグリオーマ細胞は、ステファンL.ブラウン博士(Dr.Stephen L.Brown,Dept.of Radiation Oncology,ヘンリー・フォード・ヘルス・システム,Detroit,MI)から得た。ヒト臍静脈内皮細胞(HUVECs)は、キャンブレックス(Cambrex(East Rutherford,NJ))から購入した。初代の角化細胞は、ジョージ ムラカワ博士(Dr.George Murakawa,Dept.of Dermatology,Wayne State University,Detroit,MI)から得た。HET0016[N-ヒドロキシ-N-(4-ブチル-2-メチルフェニル)ホルムアミジン]は、大正製薬(日本)から贈られた。DDMS、パルミチン酸、及びEGFは、シグマ社(Sigma(St.Louis,MO)から購入した。WIT003[20-ヒドロキシエイコサ-6(Z),15(Z)-ジエン酸]は、ジョンR.ファルク博士(Dr.John R.Falck,Department of Biochemistry,University of Texas Southwestern Medical Center,Dallas,Texas)らが合成した。他のすべての細胞培養試薬は、インビトロゲン社(Invitrogen(Carlsbad,CA))から購入した。
【0096】
培養条件: 細胞は、日常の型にはまった手順で、10%加熱非働化した牛胎児血清、ペニシリン(10 IU/ml)、ストレプトマイシン(10μg/ml)及び10%非必須アミノ酸(全ては、インビトロゲン社から購入)添加したDMEM(インビトロゲン社)で維持した。細胞は、5%炭酸ガスを含む湿潤した培養器で37℃で維持した。それらは、10%FBSを含む培地で培養した、それは、U251細胞を対数期に培養するときは、無血清培地に置き換えた。処置は、血清を除去した後第一日に始めた。
【0097】
細胞分裂試験: 細胞分裂試験は、供与された物質の種々の濃度をとり、少なくとも5日間の培養で対数増殖の密度になるような培養で行った。培養に供した培地は、24時間培養後、通常は、無血清培地に置き換えた。細胞は、「方法」で記載したように24時間又は48時間、供与された物質の種々の濃度で処理した。HET0016、DDMS及びWIT003は、全て溶解し、エタノール(ETOH)で希釈した。有機溶媒は、全培地容量に対し0.1%を超えていない。細胞は、0.05%トリプシン/EDTA処理により採取し、血球測定器を用いて計測した。
【0098】
[3H]チミジンの取り込み試験: チミジンの取り込み試験は、35mm培養皿中で培養した細胞で行った。培養は、HET0016で処理1時間後、[メチル-3H]チミジン(1μCi/ml培養液)を種々の時間でパルスした。パルミチン酸とエタノール(EtOH)を各々脂肪酸及びヴィークル対照とした。パルスの終わりに、培地を吸引し、細胞は、2度、冷却したりん酸緩衝生理食塩水(PBS)にすすぎ洗った。すすいだ培養物は、一晩、4℃、5%トリクロロ酢酸の処理により固定し、固定した細胞は、前述した方法による抽出に供した(Schollerら、Mol.Pharmacol.45:944-954,1994)。固定処理をしていない第2番目の一組の培養皿は、0.05%トリプシン/EDTA処理して、細胞数計測に供した。[3H]チミジンは、シンチレーションカウンターで検出し、dpm/103で表した。
【0099】
フローサイトメトリー: 細胞は、採取時に対数増殖期が確認される密度になるまで100mm培養皿で培養した。ヨウ化プロピジウム(PI)を用いたフローサイトメーターによるDNA検出に用いた採取及び操作プロトコルは、前述した(Reinersら、Carcinogenesis 20:1561-1566,1999)。細胞は、べクトン デッキンソン(Becton Dickinson FACScan in the Wayne State University Flow Cytometry Core Facility,Detroit,MI)を用いて分析した。細胞周期のG0/G1、S、及びG2/M期の細胞数の百分率(%)は、DNAヒストグラム用プログラムにより行った(DNA histogram-fitting program(MODFIT;Verity Software,Topsham,ME))。最低、サンプル当たり、104(件/サンプル)、を集めた。
【0100】
DNAの分画とTUNEL試験: HET0016処理培養物を1xPBSで2度洗浄し、溶解緩衝液(20mMトリス塩酸、10mMEDTA、0.3%トライトンX-100)でインキュベーションした。染色体DNAが抽出され、2%アガロースゲル上で分離した。分離したDNAは、エチジウムブロミド(ETBr)でゲル染色により可視化した。同時に、U251培養物は、カバースリップ上に播種し、TUNEL試験のためにHET0016で処理した。カバースリップは、PBSで3度洗浄し、空気乾燥させた。サンプルは、次に、TUNEL試験のために、用事新しく調製した固定液(4%PBS中パラホルムアルデヒド、pH 7.4)で室温で1時間固定し、新鮮な浸透液(0.1%クエン酸ナトリウム中0.1%トライトンX-100)で氷中2分間インキュベーションした。最後に、サンプルは、製造業者の勧めに従い、インサイチュウ(細胞のままの状態での)細胞死検出キット(in situ Cell Death Detection Kit,AP (Roche Diagnostics,Indianapolis,IN)を用いて操作した。
【0101】
RNAの単離と、逆転写−ポリメラーゼ鎖反応(RT-PCR): 培養物は、10μMのHET0016又は100μMのDDMSのどちらかで24時間又は48時間、各々処理した。要するに、全RNAは、トライゾル(Trizol)試薬(Invitrogen社)で単離し、1-2μgRNAを、ファースト ストランド合成キット(First Strand synthesis kit;Invitrogen)を用いて、cDNAの合成に供した。本発明者らは、特異的にCYP4Aを認識するPCRプライマー、及びβ−アクチン特異的なプライマーを用いた。サンプル当たり1μCiの32PをプラチナムPCRスーパーミックス(Platinum PCR Supermix;Invitrogen)に添加した。CYP4A及びβアクチンを増複するために用いたPCRの条件は、95℃3分のプレサイクルの後に、95℃45秒、52℃30秒、72℃2分からなる35サイクルを回し、最終伸長として72℃10分間行った。用いたプライマーは、:β−アクチン フォワードプライマーは、5'-TGC GTG ACA TTA AGG AGA AG-3'(SEQ ID NO:3); β−アクチン リバースプライマーは、5'-GCT CGT AGC TCT TCT CCA -3'(SEQ ID NO:4); CYP4A11 フォワードプライマーは、5'-CCA CCT GGA CCA GAG GCC CTA CAC CAC C-3'(SEQ ID NO:5); CYP4A11 リバースプライマーは、5'-AGG ATA TGG GCA GAC AGG AA-3'(SEQ ID NO:6)。PCR産物は、5%ビス−アクリルアミド ゲルで電気泳動し、オートラジオグラフィーで可視化した。
【0102】
核抽出標本とウエスタンブロット: 細胞は、10μMのHET0016で種々の時間処理し、氷冷1xPBSで2度洗浄した。それらは4℃5分間1000gで遠心によりペレットにした。細胞は、RIPA緩衝液[20mM HEPES(pH 7.4),100mM NaCl,1%ノニデット P-40,0.1% SDS,1%デオキシコール酸,10%グリセロール,1mM EDTA,1mM NaVO3,50mM NaF,及びプロテアーゼ阻害剤セット1(Set 1、Calbiochem,La Jolla,CA)]を添加し溶解した。培養プレートは、1.5ml遠心管に集め、その後30分間冷却下でインキュベーションした。細胞懸濁液のホモジネートは、4℃、14000g、10分間遠心し;ペレットは捨て、上清中のタンパク質濃度をビシンコニン酸(BCA)によりタンパク質定量を行った。
【0103】
代表的には、20μgのタンパク質が、14%トリス−グリシンゲル(インビトロゲン社)で分離され、PVDF膜上(Biotrace,Bothell,WA)でエレクトロブロットにより行った。膜は、停止緩衝液中の一次抗体で(4℃一晩)インキュベーションする前に、停止液[0.2% I-Block reagent (Tropix,Bedford,MA),0.1% ツイーン-20 in 1x PBS]を用いて、室温で1時間、停止させた。リン酸チロシン(Y102),リン酸化セリン/スレオニン−プロMPM2、リン酸化-p42/p44 MAPK(T202/Y204)(20G11)、及びリン酸化−SAPK/JNK(T183/Y185)(98F2)モノクローナル抗体は、アップステイト(Upstate,Waltham,MA)から購入した。付け加えて、CYP4Aポリクローナル抗体は、CYP4Aタンパク質を検出するために、リサーチ ディアグノシスック社(Research Diagnostics (Flanders,NJ))とケミコン社(Chemicon (Ternecula,CA))の両社から購入した。リン酸タイロシン(Y102)とリン酸セリン−スレオニン−プロMPM2は、対応の抗体の1:20000倍希釈で検出したが、リン酸-p44/p42MAPK及びリン酸-SAPK/JNKは、抗体の1:1000倍希釈で検出した。CYP4A抗体は、1:100倍の希釈で用いた。洗浄緩衝液[1xTBS及び0.1%ツィーン80]で三度洗浄した後、膜は、パーオキシダーゼ結合山羊抗マウス又は抗ウサギ抗体(1:4000倍に停止緩衝液で希釈)(Upstate,Waltham,MA)で、室温で1時間インキュベーションした。膜は、次いで、洗浄緩衝液で3度洗浄し、化学蛍光の検出を操作手順書に従い増強化学蛍光キット(enhanced chemiluminescence kit;Upstate)により行った。アクチンを積載対照として用いた。
【0104】
統計分析: データは、ターキーHSDテストにより分析した。これらの計算を行うために、スタチスチカ5.0ソフトウエア(Statistica 5.0 software package (StaSoft,Tulsa,OK)を用いた。
【0105】
結果
細胞増殖に対するCYP4A阻害の効果: U251細胞増殖の調節における20-HETEの役割を検討するため、本発明者らは、インビトロでのヒトU251グリオーマ(神経膠腫)がん細胞の分裂と増殖に対するCYP4A阻害剤であるHET0016の効果を試験した。本発明者らは、種々の濃度のHET0016で培養物を2日間処理し、次いで細胞を計測した。U251の基礎的な増殖は、HET0016により濃度依存的に抑制された(図15A)。トリパンブルー排泄では、細胞の活性はHET0016により影響受けていないことを示したので、これは静細胞的な効果であると考えられた。さらに、EGFにより誘導された細胞増殖は、同様にHET0016により抑制された(図16)。用量反応試験は、10μMのHET0016が、U251細胞の増殖を約60%阻害し、この濃度を以下の全ての試験に処理濃度として用いた。HET0016がこれらの細胞内でアポトーシスを誘導しているか否かを調べるために、DNA分画とチューネル(TUNEL)試験を行った。これらは、否定的な結果であったので(データは示さず)、本発明者らは、HET0016がこれらの細胞でアポトーシスを誘導しないと結論した。U251がん細胞に対して示したような効果を正常細胞に対してもHET0016が示すか否かを検討するために、本発明者らは、HUVECs細胞とヒト初代の角化細胞を10μMのHET0016で処理した。HET0016は、これらの正常な細胞のタイプのいずれに対しても基礎的な分裂及び増殖に効果はなかった(図17)。
【0106】
[3H-チミジン]の取り込み試験は、培地中へのHET0016の添加後、約24時間及び48時間で、DNA合成の50%及び66%を阻害を示した(図15B)。20-HETE合成の構造上異なる阻害剤であるDDMSは、用量依存的にU251がん細胞の増殖を同様に阻害し(図18)、それはHET0016と同様であった。
【0107】
フローサイトメトリー: HET0016の細胞増殖抑制効果が細胞周期の特定の時点で停止をもたらしているか否かを調べるために、細胞中のDNA量のフローサイトメトリー試験を行った(図15C)。G0/G1DNAを含む細胞がHET0016の24時間及び48時間処理で蓄積し、S及びG2/M期の両細胞の消失を伴った。
【0108】
mRNAとタンパク質レベルでのCYP4Aの発現: 本発明者らは、U251細胞でCYP4Aが、発現しているかを確認するために、RT-PCRとウエスタンブロットの試験を行った。対照のU251細胞でCYP4A11 mRNAの発現が、DNAシークエンシングにより確認された。10μMのHET0016処理24時間後では、転写レベルは減少したが、一方、100μMのDDMS処理した培養では影響を受けなかった。このように、CYP4A11遺伝子は転写され、その(転写された)メッセージが、U251細胞で発現した。付け加えると、2つの商業的な出所から得た、2つの異なるCYP4Aポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットの試験は、両方の抗体が、約55kDaに免疫的に反応するタンパク質を検出したが、それは、CYP4Aとして期待する分子量と一致するものであった。このように、ヒトU251がん細胞は、mRNAとタンパク質の両レベルでCYP4Aを発現する。
【0109】
U251がん細胞の増殖に及ぼすアゴニストの活性をもつ20-HETEアナログの影響: 本発明者らは、培地で増殖したU251がん細胞の増殖に対して、アゴニストの性質をもつ安定な20-HETEアナログWIT003の効果を試験した。無血清培養は、20-HETEアゴニストの0.1及び1.0μMで48時間処理し、細胞数を続いて計測した。EGFはU251細胞にとって最大の増殖をもたらすことがわかっているので、陽性対照としてEGFを用いた。0.1μMの濃度のWIT003はEGF50ng/mlよりもU251の増殖に刺激を与えなかったが、一方、WIT003の1.0μMはU251がん細胞の増殖を20%増強させた。この効果の程度は、EGF200ng/mlにより誘導される刺激効果と比較できるものである(図19)。
【0110】
HET0016の抗増殖効果の20-HETEアゴニストによる逆転: 本発明者らは、HET0016による20-HETEの内因的合成阻害をもたらされたU251の増殖阻害が、20-HETEのアゴニストWIT003の外からの投与で逆転するか否かを試験した。この試験では、U251の培養は、1μMのWIT003、10μMのHET0016又はこの両物質で同時に処理した。細胞は、処理2日後に細胞数を計測した。WIT003とHET0016の両物質の存在下では、U251の増殖は、HET0016単独処理培地に比較して約70%増加した(図20)。これらの発見は、U251がん細胞のHET0016による増殖阻害効果を安定な20-HETEアゴニストの添加が逆転したことを示す。
【0111】
U251s細胞におけるシグナルトランスダクションの蛋白質のリン酸化に対するCYP4A阻害の効果: U251細胞でHET0016処理による20-HETE産生阻害に伴う下流のシグナル伝達の影響を解明するために、種々の時間でHET0016処理したU251細胞から蛋白質抽出物を単離した。U251細胞におけるタンパク質のチロシン及びセリン/スレオニン蛋白リン酸化状態におけるHET0016で誘導された変化を検討するために、フォスフォチロシン(Y102)抗体及びリン酸化セリン/スレオニン−プロリンMPM2抗体を用いてウエスタンブロットを行った。本発明者らは、HET0016がU251細胞におけるチロシンリン酸化に影響を与え、HET0016処理24時間又は48時間で有意な減少を導くことを見出した。しかしながら、セリン/スレオニン蛋白質リン酸化には有意な変化を与えないことをHET0016処理U251細胞において見いたした。P42/p44MARK及びSARK/JNKのリン酸化にHET0016がどのように影響するかを検討するために二つの更なる抗体を用いた。HET0016は、24時間後及び48時間後に、P42/p44MARK及びSARK/JNKの両方のリン酸化を阻害した。このようにMAPR及びSARK/JNK経路が、CYP4A阻害に起因するシグナルトランスダクションにおいて重要な役割を演じているにちがいない。
【実施例4】
【0112】
インビトロ及びインビボにおいて20-HETE阻害によるラットグリオサルコーマの細胞分裂の阻害
この実施例は、インビトロでの9L及びインビボで9Lによりラット脳腫瘍をもたらす細胞増殖に対するCYP4A阻害剤HET0016の効果を示す。CYP4A遺伝子は、RT-PCRによる検出では、9L細胞において高度に発現している。高度な選択的阻害剤HET0016でのCYP4A活性阻害は、用量に関連して9L細胞の増殖を低下させた。10μMのHET0016の添加は、48時間後で60%の9L細胞の増殖を減少させた。CYP4Aの構造上異なる阻害剤であるDDMSは、同様に9L細胞の増殖を60%阻害した。20-HETEの安定なアゴニスト、WIT003は1μMで約70%細胞増殖阻害を救済した。EGF(200ng/ml)は9L細胞のインビトロでの増殖を30%増加させた。同様な程度の刺激が、1μMのWIT003でも得られた。HET0016は、EGFにより誘導された9Lの増殖をほとんど破棄させた。ウエスタンブロット分析では、HET0016がP42/p44MARK及びSARK/JNKのリン酸化を減少させたことを示した。ラットにおけるインビボ脳腫瘍は、前脳への直接的な9L細胞の注入により誘導された。HET0016(1mg/kg/日/腹腔内)で約2週間のラットの治療は、脳腫瘍の容積を80%だけ減少させた。これは、増強されたアポトーシスと同様に、注入された9L細胞の有糸分裂の減少に起因するものである。
【0113】
材料と方法
培養条件: 9Lラット神経膠肉腫(グリオサルコーマ)細胞は、ATC(ゲッティスバーク、Gaithersburg,MD)から購入し、10%加熱非働化した牛胎児血清(FBS)、ペニシリン(10 IU/ml)、ストレプトプトマイシン(10μg/ml)及び10%非必須アミノ酸(全てインビトロゲン社から購入)を添加したDMEM(インビトロゲン社、Invitrogen)で維持した。細胞は、37℃、湿潤化した5%炭酸ガスインキューベータで維持した。それらは、10%FBS含有培地で増殖させたが、9L細胞が対数的に増殖した時点で、無血清培地(供与されたタイプ及び原料)に置き換えて増殖させた。
【0114】
細胞増殖試験: 増殖試験は、少なくとも5日間対数増殖したことが確認された細胞密度で、播種した培養培地で行った。増殖用培地は、播種24時間後にゆっくりと無血清培地に置き換えた。細胞は、HET0016(大正製薬、日本)、DDMS、パルミチン酸(非特異的脂肪酸 対照)、EGF(シグマ、セントルイス、MO)、又はWIT003(20-HETEアゴニスト)のいずれかで24時間又は48時間処理した。HET0016、DDMS、及びWIT003は全てエタノール(EtOH)に溶解した。培地へ添加したエタノールの濃度は、0.1%を超えることは無かった。細胞は、0.05%トリプシン/EDTAの溶液に接触させて採取し、血球計算器を用いてカウントした。
【0115】
[3H]-チミジンの取り込み試験: チミジンの取り込み試験は、35mmディシュで培養した細胞で行った。培養物は、HET0016処理1時間後、種々の時間で[メチル3H]-チミジン(1μCu/ml培養培地)パルスした。パルミチン酸、エタノール、を非特異的脂肪酸及びヴィークル(溶媒)対照として、各々を用いた。パルスの終末に、培地を吸引し、細胞を1xリン酸緩衝液生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。洗浄した培養物は、5%トリクロロ酢酸で4℃一晩接触させて固定し、固定した細胞は、前述にしたがって抽出に供した(スコラーら、Mol.Pharmacol.45:944-954,1994)。第2番目の未固定の培養物は、細胞数を計測するために0.05%トリプシン/EDTAで処理した。[3H]-チミジンの取り込みは、シンチレーションカウンターで検出し、dpm/103細胞で表した。
【0116】
DNA断裂とチューネル(TUNEL)試験: HET0016処理9L培養物は、1xPBSで2度洗浄し、溶解緩衝液[20mMトリス-塩酸、10mMEDTA、0.3%トライトンX]でインキューべートした。染色体DNAを抽出し、2%アガロースゲルで分離した。分離したDNAは、エチジウムブロマイド(EtBr)でゲルを染色して可視化した。同時に9L培養物は、カバースリップ上に播種し、チューネル(TUNNEL)試験用にHET0016で処理した。カバースリップはPBSで3度洗浄し、空気乾燥させた。サンプルは、次いで新しく調製した固定液(PBS中4%パラホルムアルデヒド、pH7.4)1時間室温で固定し、次いで、新しく調製した浸透液(0.1%クエン酸ナトリウム液中0.1%トライトンX)で、氷冷中2分間インキューべーションした。最後に、サンプルは、インサイチュウ細胞死検出キット(In situ Cell Death Detection Kit,AP (ロッシュ ディアグノスティクス、インジアナポリス、IN)を用いて、製造元の推奨に従って操作を進めた。
【0117】
RNAの単離と逆転写-ポリメラーゼ鎖反応(RT-PCR): 培養物は、10μMのHET0016又は100μMのDDMSのいずれかで48時間処理した。エタノール処理培養物は、溶媒対照として用いた。次に、全RNAをトライゾル試薬(Trizol reagent;インビトロゲン社)で単離し、1〜2μgRNAをファースト ストランド シンセシス キット(First Strand Synthesis Kit;Invitrogen)により、cDNA合成に用いた。本発明者らは、特異的にCYP4A1を認識し、また、β-アクチン特異的なプライマーを用いた。プラチナムPCRスーパーミックス(Invitorgen)を反応混液として用いた。CYP4A1/2/3及びβアクチンの増複に用いたPCRの条件は、95℃3分間のプレサイクルの後、95℃45秒、52℃30秒を35サイクルを行い、最後に、72℃10分間の伸長を行った。用いたプライマーは、βアクチン フォワードプライマー、5'-TTC AAC ACC CCA GCC ATG T-3'(SEQ ID NO:3); β-アクチン リバースプライマー、5'-GTG GTA CGA CCA GAG GCA TAC A-3'(SEQ ID NO:4); CYP4A1/2/3 フォワードプライマー,5'-TTC CAG GTT TGC ACC AGA CTC T -3'(SEQ ID NO:5); CYP4A1/2/3 リバースプライマー,5'-TTC CTC GCT CCT CCT GAG AAG-3'(SEQ ID NO:6)。PCR産物は、5%ビスーアクリルアミド ゲル電気泳動に供し、オートラジオグラフィーで可視化した。
【0118】
核抽出物標品及びウエスタンブロット操作: 9L細胞は、10μMのHET0016で種々の時間処理し、氷冷PBSで2度洗浄した。それらは、1000g4℃5分間の遠心によりペレットにした。細胞は、RIPA緩衝液[20mM HEPES (pH 7.4)、100mM食塩、1%ノニデットP-40、0.1%SDS、1%デオキシコール酸、10%グリセロール、1mM EDTA、1mM NaVO3、50mMフッ化ナトリウム、及びプロテアーゼ阻害剤セット1(Calbiochem,La Jolla,CA)]。培養器から掻き集めて、細胞は1.5mlの遠心管に集め、冷却下30分間インキュベートした。細胞ホモジネートを14000gで10分間4℃で遠心した。ペレットは捨て、上清の蛋白濃度をビシンコニン酸蛋白定量により測定した。
【0119】
代表的な例では、細胞ホモジネートから得た20μgの蛋白をトリス−グリシン ゲル(インビトロゲン)上に分離し、PVDFメンブラン(バイオトレース社、ボテル、MA)上に移した。そのメンブランは、停止緩衝液[0.2%のI−停止試薬(Tropix,Bedford,MA),0.1%ツイーン20、1xPBS中]を用いて室温にて1時間で(反応を)停止させ、4℃一晩、停止緩衝液中で一次抗体でインキュベートした。リン酸化-p42/p44 MAPK(T202/Y204)(20G11)及びリン酸化-SAPK/JNK(T183/Y185)(98F2)モノクローナル抗体は、リサーチ ディアグノシス(フランダース、NJ)から購入し、ケミコン(テルネクラ、CA)をCYP4Aタンパク質の検出に用いた。リン酸化-p42/p44 MAPK(T202/Y204)(20G11)及びリン酸化-SAPK/JNK(T183/Y185)(98F2)の両方は、1:1000の抗体希釈率で検出した。CYP4A抗体は1:100の抗体希釈率を用いた。洗浄緩衝液(1xTBS及び0.1%ツイーン20)で3度メンブランを洗浄した後、メンブランは、パーオキシダーゼ結合山羊抗マウス又は抗ウサギ抗体(アップステイト)(停止緩衝液で1:4000倍に希釈した。)で、室温で1時間インキュベートした。そのメンブランは、次に、3度洗浄し、増強化学蛍光キット(アップステイト)を用いて現像した。そのメンブランは、次いで剥ぎ取り、積載対照(ローディング コントロール)として供したβアクチン一次抗体で再度検査した。
【0120】
腫瘍移植: 移植前に、90%コンフルエントの9L細胞はトリプシン処理後、遠心した。細胞ペレットは、DMEM+10%FBSに再懸濁し、血球計算器を用いて計測した。9L細胞の濃度は、1×104細胞/5μl培地に調整した。
【0121】
脳腫瘍は、9L細胞懸濁液を、チャールスリバー ラボラトリー(ウイルミントン、MA)から購入したフィッシャー344ラットの前頭大脳皮質に注入することにより、以下に示すように植えつけた。ラットは、ケタミン(80mg/kg、筋肉内)及びキシラジン(13mg/kg)で麻酔させ、頭は定位置に固定し(ダビッド、コップインストルメント、ツジュンガ、CA)、頭骨を露出させた。小孔を、頭骨2mm側方、前頂の腹側2.5mmにあけ、9Lグリオサルコーマ懸濁液5μlを、25ゲージ針を付けた10μlハミルトンシリンジ(#2701)を用いて5分間をかけて大脳皮質上3.5mmの部位に注射した。孔は、ボーンワックスで塞ぎ、切開部位は閉じた。腫瘍を増殖させ、2日間で確立し、次いで、ラットは、一日2回HET0016又は10mg/Kg/日の量のヴィークル レシチンを皮下注射した。HET0016又はヴィークル処置15日後に、ラットを80mg/Kgで麻酔し、心臓穿刺により脳を250mlの滅菌生理食塩水で潅水洗浄し、次いで、生理的塩溶液中10ホルマリン250mlで潅流固定した。脳を取り外して10%ホルマリン液で保存した。
【0122】
腫瘍容積の評価: ホルマリン固定脳を冠状ラット脳マトリックス(脳の冠状切片を作製する装置)に置き、3mmブロックにスライスした。これらのブロックは、パラフィンで包埋し、6μMの厚さの切片を作製した。H&E染色用の切片は、コーティングしていないスライド上に置いた。免疫組織化学試験用の切片は、陽性に荷電した超凍結スライド上に置いた。連続切片は、腫瘍の大きさを評価するためのH&E染色か、又は、増殖の程度を評価するためのKi-67抗原用免疫組織化学的操作のいずれかであった。
【0123】
腫瘍を含むH&E染色の画像は、2倍の対物レンズを用いたソニーCCDカメラを用いて捉えた。AISイメージ アナリシス システム(Imaging Research,St.Catherine,ON,Canada)ソフトウエアを用いて、各切片における腫瘍面積を手動で大まかに捉え、そして平方ミリメートルで面積を測定した。切片の容積を計算するためにその面積に切片の厚さを乗じた。
【0124】
免疫組織化学試験用の切片は、クエン酸緩衝液(pH 6.0)中で切片を10分間ホットプレートで煮沸することにより脱パラフィンした。切片は、室温に冷やし、停止緩衝液[2%正常血清、1%BSA、PBS中]に1時間入れ、洗浄緩衝液[0.05ツイーン-20、PBS中]中で2度洗浄し、過酸化水素の10分間処理で停止させ、洗浄緩衝液で洗浄した。切片は、次に、ウサギポリクローナル抗Ki-67抗体(Abcam Inc.,Cambridge,MA;1.0%BSAをPBSで1:200に希釈)で30分間インキュベートした。その切片は、洗浄緩衝液で洗浄し、ビオチン化した抗ウサギ-山羊IgG(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA;1:500 PBS中)で30分間、インキュベートし、そして洗浄した。DAB基質(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA;2滴の基質緩衝液、4滴のDAB、2滴の過酸化水、5mlの蒸留水)は、切片に8分間、適用された。切片は、次に、洗浄し、5秒間メイヤーのヘマトキシリンで対比染色し、アンモニア水で青色にし、水で洗浄し、乾燥し、透明化し、包埋した。
【0125】
インサイチュウ アポトーシス試験: 他の切片は、前述した方法で脱パラフィン化し、アポプタグ パーオキシダーゼ検出キット(ApopTag peroxidase detection kit;Chemicon International Inc.,Temecula,CA)を用いてアポトーシスを分析した。要するに、再度脱水乾燥した切片を、プロテインキナーゼK(20μg/ml)15分間室温で消化させた、次いで、3%の過酸化水素水で5分間クエンチングし、洗浄した。それから、切片は、37℃湿潤化したチャンバー中で1時間、TdT酵素で標識し、抗ジゴキシゲニン抱合体で室温で30分間処理した。切片は洗浄し、過酸化水素の気質で現像し、0.5%メチルグリーンで10分間対染色し、脱水乾燥し、光学顕微鏡用に包埋した。
【0126】
統計分析: データは、アノーバ(ANOVA)を用いて分析し、次いでターキーのt-テストを行った。差は、P<0.05で統計的な有意差と判断した。
【0127】
結果
CYP4AのRT-PCR: HET0016が、CYP4Aと4F酵素が触媒する20-HETE合成の高度な選択的阻害剤であると報告されて以来、本発明者らは、CYP4AのmRNAが9Lグリオサルコーマ細胞で発現されるか否かをRT-PCRにより検討した。
【0128】
インビトロでの9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)細胞の増殖に及ぼすCYP4A阻害の影響: 9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)細胞増殖に及ぼすHET0016の種々の濃度の影響を図21に表した。細胞数計測による直接的評価した場合、培地中に増殖した9L細胞の増殖にHET0016は用量依存的な阻害をもたらした(図21A)。CYP4Aのある種のアイソフォームの阻害として、報告のあるこの物質のIC50値に近い10nMという大変低い濃度においてさえ、対照との差は有意ではなかったが(P=0.056)、細胞増殖のある程度を阻害したことは明白であった。1又は10μM濃度のHET0016は、24時間と48時間の両時点で30〜40%に細胞数を明らかに減少させた。
【0129】
追加試験では、本発明者らは、9L細胞増殖に対するHET0016の高濃度(100μM)の効果を試験した。これは、細胞数に劇的な減少をもたらした。しかしながら、引き続いて起こる細胞の剥離と培地中への死細胞の浮遊を本発明者らは観察したが、このことは、この濃度ではHET0016は、直接的な細胞毒性効果をもつかも知れないことを示唆した。したがって、本発明者らは、以下の全ての試験では10μMのHET0016を用いることに決めた。図21Bで表したように、HET0016(10μM)は、9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)細胞培養において、チミジンの取り込みを60%減少させた。図21Bに示す増殖曲線の試験は、HET0016がこの関係の曲線をもたらすことは、細胞集団を殺して、その関係で期待基準値の変動をもたらすというよりは、細胞の増殖に影響することを示している。
【0130】
インビトロでの9L細胞増殖に及ぼすDDMSの効果: DDMSは、CYP4Aの高度に選択的な自殺基質阻害剤であるが、化学構造と作用機作がHET0016とは大変異なっている。インビトロでの9L細胞増殖率に及ぼす種々の濃度のDDMSの効果を図22に表した。10μMの濃度、これは、CYP4A酵素活性阻害のIC50値に近いのであるが、DDMSは、細胞数に有意な減少をもたらした。高濃度(100μM)では、DDMSは、これらの細胞の増殖を減少するというHET0016(10μM)と類似した効果を示した。
【0131】
インビトロでの9L細胞のEGFにより刺激された増殖に対するHET0016の効果: 9L細胞のEGF(200ng/ml)への処理は、24及び48時間の両時点での細胞数を増加させた(図23)。HET0016(10μM)の添加は24時間での細胞増殖に対するEGFの効果を妨げ、48時間における細胞数を減少させた(図23)。増殖曲線の勾配を比較すると、HET0016の阻害効果は、24時間と48時間の間で小さくなった。
【0132】
HET0016の増殖阻害効果に対する20-HETEアナログの効果: 9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)細胞の増殖の抗増殖効果が20-HETEの合成阻害に関連するか否かを決定するために、本発明者らは、WIT003という安定な20-HETEアゴニストの外的添加が、HET0016の抗増殖作用を妨げるか否かを試験した。図24に示した結果は、培養培地へのWIT003(1μM)の添加は、HET0016の阻害作用から部分的に9L細胞を救済したことを示している。HET0016単独処理でもたらされた阻害を100%とした場合、HET0016+WIT003で処理した細胞は増殖においてわずか60%の改善を示している。
【0133】
MAPK及びJNKのチロシンリン酸化に及ぼすHET0016の効果: HET0016が9L細胞の増殖を阻害するという機構の理解を深めるために、本発明者らは、9L細胞の分裂と増殖の調節に重要な役割を演じていることで知られている、マイトジェンで活性化されるプロテインキナーゼ(MAPK)のリン酸化及び活性化に対してHET0016の効果を検討した。HET0016(10μM)での9L細胞の4時間処理は、p42/p44 MAPK及びSAPK/JNKの両者のリン酸化を有意に減少させた。p42/p44 MAPKのリン酸化の減少は、HET0016処理24時間後においてさえ大きかった。HET0016の24時間処理よりもむしろ48処理で、その阻害ピークがみられたにもかかわらず、同様な傾向がJNKのリン酸化においても観察された。
【0134】
インビボでのラット9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)脳腫瘍の増殖に対するCYP4A及び4F阻害剤の効果: 正常な、免疫応答の正常なラットの前脳に9L細胞を移植した後、定めた境界まで急速な腫瘍の成長が形成された。本実験条件下では、もし何の治療せず放置すれば、2及び3週間で通常動物は死亡する。本試験では、腫瘍移植後17日に、HET0016処理ラットは、健康そうに見え、無処理対照ラットで見られるよりも剖検ではより小さな腫瘍が診られた(図25)。腫瘍容積の比較に並べて対照及びHET0016処理ラットにおける腫瘍の中央面を切った代表的な切片を図26に示した。
【0135】
インサイチュウ アポトーシス分析: 9L腫瘍の切片を、細胞増殖とアポトーシスの面積を決めるために、抗体を用いて免疫染色した。HET0016の長期間の投与は、Ki67抗体で陽性に染色される9L腫瘍の分裂期の細胞数を著しく減少させた。対照的に、ヴィークル又はHET0016投与ラットで陽性に染色された9L腫瘍中のアポトーシスの死細胞数において、有意な差はなかった。これらの結果は、HET0016での20-HETE合成阻害は、アポトーシスやがん細胞のプログラムされた細胞死を刺激するよりもむしろ、細胞分裂の停止による腫瘍増殖を制限していることを示している。
【0136】
本発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、むしろ、添付した請求の範囲の範囲内に入るものとしてこのような改良やバリエーションを包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】図1は、前脛骨筋(TA)から採取した、蛍光標識した20-ヒドロキシエイコサテトラエン酸(20-HETE)の分離を代表的な逆相HPLCクロマトグラムで示している。WIT-002、20-5(Z),14(Z)-ヒドロキシエイコサジエン酸を内部標準として用いた。
【0138】
【図2】図2は、ラット尿中の20-HETE濃度に対する選択的チトクロムP450阻害剤[N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェニル)-ホルムアミジン(HET-0016)]処理の影響を示す。値は、ヴィークル(レシチン)処理の5匹のラット及びHET0016処理5匹のラットの平均値(±SE)である。*P<0.05vsレシチン。
【0139】
【図3】図3は、刺激プロトコルの7日後のラット筋中における20-HETE生成に対する選択的シトクロムP450(CYP4A)処理の効果を示す。PBS、リン酸緩衝生理食塩水。値は、レシチン処理ラット5匹及びHET0016処理ラット5匹の各々の平均値(±SE)である。*P<0.05 対 非刺激側部位。
【0140】
【図4】図4は、長指伸筋(EDL)及びTA筋の血管密度の変化を、対照ラット(n=4)、選択的CYP4A阻害剤(HET0016、2mg/kg/dayレシチン中、n=4)、及びCYP4Aの非選択的阻害剤[1-アミノベンゾトリアゾール(ABT)、50mg/kg/day、PBS中、n=4] 電気刺激プロトコルの7日後に投与したラットについて示す。値は、平均値(±SE)である。*P<0.05 vs 非刺激側。
【0141】
【図5】図5は、電気刺激プロトコルで7日後の、レシチン処理又はHET0016(2mgkg-1、dayレシチン中)及びABT(50mgkg-1、day-1 PBS中、n=4)処理ラットから電気刺激(S)及び無刺激(U)のTA筋肉中の血管内VEGFの発現を示す。各々のサンプルで、総タンパク質の50mgを積載した。VEGFを貪欲に発現するためC6腫瘍細胞を陽性対照に用いた。電気刺激プロトコル7日後における対照群(n=5)と選択的CYP4A阻害剤HET0016(n=7)処理のVEGFタンパク質の定量的濃度計測を示す。値は、平均値(±SE)である。P<0.05対非刺激側部位。
【0142】
【図6】図6は、刺激試験手順の7日後、ラット筋肉内に生成される20-HETEに対するVEGF-中和抗体(VEGF抗体;0.6mg/100g体重、腹腔内PBS)処理の効果を示す。値は、PBS処理(対照)5匹ラットとVEGF抗体投与の4匹ラットの、各平均値(±SE)を示す。値は、C6腫瘍細胞でみられるVEGFの発現のパーセントとして表わした。*P<0.05対非刺激側部位。
【0143】
【図7】図7は、培養ヒト血管内皮細胞(HUVECs)でのVEGFの細胞分裂反応に対するHET0016の効果を示す。HUVECs細胞が、VEGF250ng/ml単独で及び10μMのHET0016存在下でインキュべーションし、細胞分裂を24時間後に調べた。HET0016は、VEGF(n=3、各々3回重複)への細胞分裂の反応性を放棄したが、しかし、HUVECs細胞の基礎的な細胞分裂には影響しなかった(示さず)。*P<0.05、対照対VEGF; P<0.05、VEGF対VEGF+HET0016。
【0144】
【図8】図8A及び8Bは、インビボでのVEGFによって引き起こされた血管形成反応に対するHET0016の効果を示す。血管新生の変化をラットポケット角膜法血管形成法を用いて測定した。VEGF単独(250ng/ペレット)又はVEGFとHET0016(20μg)を含むペレットをラット角膜の間質中に埋め込んだ。そのラットは、7日後犠牲死させ、インデア インクを用いて、新生血管を可視化させた。血管の全長である、新生血管反応の定量的測定値を、血管をトレースすることにより測定し、そして、その視野における全血管の長さの数値を得るために、画像解析ソフトウエアを用いて測定した。図8Aは、ペレットを移植した代表的な角膜フラットマウント(平坦な盛り上がり)である。図8Bは、全部の試験の平均値(±SE)として血管の全長を示す。(n=6、P<0.01、bFGF対bFGF+HET0016)。
【0145】
【図9】図9A及び9Bは、インビボでbFGFにより引き起こされる血管新生反応に対するHET0016の効果を示す。bFGF単独(250ng/ペレット)又はbFGF及びHET0016(20μg)を含むペレットをラット角膜の間質に注入した。図9Aは、代表的な角膜フラットマウント(平坦な盛り上がり)を示す。図9Bは、図8で示したと同様に、血管新生反応における変化を示す(n=6、p<0.001、EGF対EGF+HET0016)。
【0146】
【図10】図10A及び10Bは、インビボでのEGFによって引き起こされた血管新生反応に対するHET0016の効果を示す。EGF単独(250ng/ペレット)及びEGF及びHET0016(20μg)を含むペレットをラット角膜の間質に注入した。図10Aは、代表的な角膜フラットマウント(平坦な盛り上がり)を示す。図10Bは、血管新生反応における変化を示す(n=7、p<0.001、EGF対EGF+HET0016)。
【0147】
【図11】図11A及び11Bは、20-HETEの生成の化学的に機械的に似ていない阻害剤であるジブロモドデシルメチルスルホンイミド(DDMS,同様に、N-メチルスルホニル-12、12-ジブロモドデシル-11-エナミド)のインビボでVEGFに対する血管新生の反応に対する効果を示す。VEGF単独(250ng/ペレット)又はVEGF及びDDMS(10μg)を含むペレットをラット角膜の間質に移植した。図11Aは、代表的な例示を示す。図11Bは、血管新生反応における相違を示す(n=6;p<0.001、VEGF対VEGF+DDMS)。
【0148】
【図12】図12は、20-HETEのより安定したアナログである、20-ヒドロキシエイコサ-6(Z)、15(Z)-ジエン酸(WIT003)の培養HUVECs細胞増殖に対する効果を示す。HUVECs細胞を40μMのパルミチン酸(不活性脂肪酸、対照)又はエタノールアミン(ヴィークル対照)のいずれかと培養した。これらに差は認められなかったので、両グループのデータを併せた。実験グループは、1μMのWIT003と共に48時間培養し、増殖を試験した。WIT003は、HUVECs細胞において増殖を増強した(n=3、各3回重複;*p<0.05及び#p<0.01、対照対WIT003)。
【0149】
【図13】図13Aと13Bは、インビボでのラット角膜ポケットアッセイ法での血管新生に対する20-HETEのアナログWIT003の効果を示す。WIT003の20μgを含むペレットをラット角膜間質に注入した。ラットは、その7日後に犠牲死させ血管新生を測定した。図13Aは、フラットマウント(平坦な盛り上がり)を示す。図13Bは、WIT003に対する血管新生の反応を示す(n=6、p<0.01、対照対WIT003)。
【0150】
【図14】図14Aと14Bは、インビボでのU251がん細胞の血管新生反応に対するHET0016の効果を示す。ヒト グリオブラストーマ(グリア芽細胞腫)細胞株U251の細胞塊が、0.8%寒天層上に低い密度の単一の細胞懸濁液にして播種した。約200μm長の5〜8細胞塊が両方の眼の角膜ポケット切開されて埋め込んだ。20μgのHET0016又はヴィークル(エタノール)を含むペレットを細胞塊に隣接して置いた。ラットは、がん細胞移植2週間後に犠牲死させ、新生血管反応を測定した。図14Aは、このシリーズでのすべてのラットの細胞塊/ペレット移植部位における角膜を示す。図14Bは、血管新生反応の変化を示す(n=8;p<0.01、対照細胞塊対細胞塊+HET0016)。
【0151】
【図15】図15は、20-HETEの合成阻害剤であるHET0016の、増殖パターンに及ぼす影響と、インビトロでのヒトU251グリオブラストーマがん細胞の細胞周期プロフィールへの影響を示す。パネルAは、等しい数のU251細胞(0.75x104)を播種し、種々の濃度のHET0016に接触させる1日前から無血清とし、24時間毎に細胞数を計測した。パネルBは、[3H]チミジンのDNAへの取り込みを対照培地と10μMのHET0016処理培地において計測した。[3H]の取り込みデータは、d.p.m./103細胞、で計算し、そしてエタノールを対照として標準化した。パネルCは、U251細胞を播種し、エタノール中10μMのHET0016又はエタノール単独(対照)処理した。細胞は、プロピジウムヨード(細胞増殖の指標)で染色し、そして細胞周期の分布は、FACSにより染色された細胞の全DNA含量の分析により定めた。細胞周期の種々のステージのおける細胞の比率は各図に示した。3回重復(トリプリケート)での別々の3回から4回の試験の平均値±SEを各パネルに示した。パネルCは、3回の別々に行った代表例を示す。矢印は、培地へのHET0016添加時を時間ゼロとして示した。
【0152】
【図16】図16は、HET0016が、培養U251がん細胞の増殖と分裂を刺激するEGFの効果を阻止することを示している。U251は、血清を枯渇させ、次いで、EGF200ng/ml、10μM HET0016又はその両方で処理した。細胞増殖は48時間後に測定した。
【0153】
【図17】図17は、HUVECs細胞、初代の角化細胞、U251細胞の増殖に対するHET0016の効果の比較を示す。HUVECs細胞、初代ヒト角化細胞、ヒトU251細胞、グリオブラストーマ(グリア芽細胞腫)がん細胞を96穴プレートに播種し、HET0016で48時間処理した。HET0016は、正常HUVECs細胞又は角化細胞の増殖に対し効果がなかったが、U251のがん細胞の増殖を約50%阻止した。3回の別々の実験の平均値±SEを表した。***は、p<0.001 各々の対照群に対する比較。
【0154】
【図18】図18は、ヒト251がんグリオーマ(神経節腫)の培地培養における増殖に対するDDMSの効果を示した。化学的にも、作用的にもHET0016とは異なるDDMSという第二のCYP4Aと20-HETE合成阻害剤をU251細胞の処理に用いた。DDMSは、濃度依存的にU251の増殖を阻止した。各回を3回重複で行った3回の別々の試験からの平均値±SEを表した。
【0155】
【図19】図19は、インビトロでのヒト神経節腫がん細胞の増殖に対する20-HETEの安定なアナログで、アゴニストの性質をもつWIT003の効果を示す。U251細胞は、0.1μM又は1μMのWIT003の添加又は比較のためのこれらの細胞の増殖に最大の刺激をもたらすものとされているEGFの種々の濃度を添加1日前から血清を枯渇して培養した。結果は、WIT003の1μMはEGF200ng/mlと同程度にU251細胞の増殖を増強した。細胞数は、48時間後に計測し、ヴィークル(エタノール)単独処理した対照で得られた値で標準化した。各試験を3回重複して行った、3回の実験の平均値±SEを表した。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001。
【0156】
【図20】図20は、20-HETEアゴニストであるWIT003が、20-HETEの合成阻害剤、HET0016による抗増殖効果から細胞を救助できることを示す。その培養では、血清を枯渇させ、10μMのHET0016単独又は1μMのWIT003を併用処理した。細胞増殖は、処理48時間後に細胞数の計測により評価した。各試験は3回重複して行った、各々別の3回の実験から求めた平均値±SEを表した。
【0157】
【図21】図21は、インビトロでの9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)の増殖に対するHET0016の効果を示す。パネルAは、9L細胞(0.75x104)の等しい数を播種し、種々の濃度のHET0016で接触させる1日前から血清を枯渇させ、細胞数計測は、24時間毎に行い;パネルBは、[3H]チミジンのDNAへの取り込みを10μMのHET0016処理培地で評価した。[3H]チミジンの取り込みデータは、103細胞あたりのd.p.m.として計算し、エタノール対照で標準化した。A−Bパネルのデータは、各試験を3回重複操作による。別々の3回の実験の平均値±SEで表した。
【0158】
【図22】図22は、9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)細胞のインビトロでの増殖に対するDDMSの効果を示す。9L細胞(0.75x104)の等しい細胞数を播種し、種々の濃度のDDMS又はヴィークルに接触させる1日前から血清を枯渇させ、細胞数の計測は、24時間及び48時間後に行った。各3回重複した操作の試験を別々に3回実験を行って求めた平均値±SEを表した。
【0159】
【図23】図23は、EGFで刺激された9L細胞の増殖に対するHET0016の効果を示す。9L細胞培養は、EGF200ng/ml単独又はEGFと10μMのHET0016で処理した。細胞増殖は、24時間後と48時間後に測定した。
【0160】
【図24】図24は、HET0016のインビトロでの9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)の増殖阻止効果に対する20-HETEのアゴニストWIT003の効果を示す。パネルA:血清を枯渇した培養において、0.1μM又は1μMのWIT003で処理した。細胞数は、48時間後に測定した。データは対照に対する百分率として示した。パネルB:9L細胞は、10μMのHET0016単独又は1μMのWIT003との併用処理をした。細胞増殖は、処理後24時間、48時間で細胞計測により評価した。阻止率(%)で示したデータ。3回重複して行った別々の3回の実験の平均値±SEを表した。
【0161】
【図25】図25は、9Lグリオサルコーマ(神経膠肉腫)のインビボでの増殖に対するHET0016の効果を示す。9L細胞(1x104)をラットの脳内に注射した。ラットに腫瘍が確立する、注射2日後のラットにHET0016(10mg/kg/日)又はレシチン(ヴィークル)を15日間処理した。パネルA:レシチン(ヴィークル)を注射した対照のラットの脳組織を示す。パネルB:HET0016で15日間処理したラットの脳組織を示す。写真は、対照5匹、HET0016で5匹処置動物の代表的な画像を示す。
【0162】
【図26】図26は、インビボでの9L腫瘍の増殖に対するHET0016の長期間投与の効果を示す。パネルAは、ヴィークル又はHET0016処理ラットの腫瘍の中点からのHE切片を表す。パネルBは、AIS画像解析ソフトウエアを用いて連続切片において測定した対照又はHET0016処理ラットにおける腫瘍の容積比較を示す。各群につき5匹のラットからの平均値±SEを表した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20-HETE合成阻害剤又は20-HETEアンタゴニストから選ばれる薬剤を、組織中における血管新生を減少させるのに十分な量、ヒト又は非ヒト哺乳類に投与する工程
を含む、ヒト又は非ヒト哺乳類の組織中の血管新生を減少させる方法。
【請求項2】
前記薬剤が20-HETE合成阻害剤である、請求項1の方法。
【請求項3】
前記20-HETE合成阻害剤が、N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェノール)-ホルムアミジン(HET0016)、ジブロモドデセニル メチルスルホンイミド(DDMS)、N-(3-クロロ-4-モルホリン-4-イル)フェニル-N'-ヒドロキシイミドホルムアミド(TS-011)、1-アミノベンゾトリアゾール(ABT)、17-オクタデシン酸(17-ODYA)、ケトコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、又は10 ウンデシニルサルフェート(10-SUYS)から選ばれる、請求項2の方法。
【請求項4】
前記20-HETE合成阻害剤がHET0016又はTS-011である、請求項3の方法。
【請求項5】
前記薬剤が20-HETEアンタゴニストである請求項1の方法。
【請求項6】
前記方法が、成長因子によって誘導される血管新生を減少させるために用いられる、請求項1の方法。
【請求項7】
前記成長因子が、血管内皮成長因子(VEGF)、基本線維芽細胞成長因子(bFGF)、及び上皮細胞成長因子(EGF)から選ばれる、請求項6の方法。
【請求項8】
前記方法が、がん又は腫瘍細胞によって誘導される血管新生を減少させるために用いられる、請求項1の方法。
【請求項9】
前記方法が、非筋肉組織中における血管新生を減少させるために用いられる、請求項1の方法。
【請求項10】
前記方法が、ヒト又は非ヒト哺乳類における異常かつ過剰な血管の発達を伴う疾病又は症状を、治療又は予防するために用いられる、請求項1の方法。
【請求項11】
前記疾病ががんである、請求項10の方法。
【請求項12】
前記疾病が異常かつ過剰な血管の発達を伴う眼病である、請求項10の方法。
【請求項13】
組織中での血管新生を減少させるのに十分な量で、N-(3-クロロ-4-モルホリン-4-イル)フェニル-N'-ヒドロキシイミドホルムアミド(TS-011)、N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェノール)-ホルムアミジン(HET0016)、又はジブロモドデセニル メチルスルホンイミド(DDMS)を哺乳類に投与する工程
を含む、ヒト又は非ヒト哺乳類の組織中での血管新生を減少させる方法。
【請求項14】
20-HETE又は20-HETEアゴニストから選ばれる薬剤を、組織中で血管新生を促進するのに十分な量でヒト又は非ヒト哺乳類に投与する工程
を含む、ヒト又は非ヒト哺乳類の組織中における血管新生を誘導又は促進する方法。
【請求項15】
前記薬剤が20-HETEアゴニストである、請求項14の方法。
【請求項16】
前記方法が、非筋肉組織中における血管新生を促進するために用いられる、請求項14の方法。
【請求項17】
前記方法が、ヒト又は非ヒト哺乳類における不十分な血管の発達又は血管の退行を伴う疾病又は症状を、治療又は予防するために用いられる、請求項14の方法。
【請求項18】
組織中で血管新生を誘導又は促進するのに十分な量で、20 ヒドロキシエイコサ-6(Z)、15(Z)-ジエン酸を哺乳類に投与する工程
を含む、ヒト又は非ヒト哺乳類の組織中における血管新生を誘導又は促進する方法。
【請求項19】
がん又は腫瘍細胞の増殖を阻止するのに十分な量の、20-HETE合成阻害剤又は20-HETEアンタゴニストから選ばれた薬剤にがん又は腫瘍細胞を接触させる工程
を含む、がん又は腫瘍細胞の増殖を阻害する方法。
【請求項20】
前記薬剤が20-HETE合成阻害剤である、請求項19の方法。
【請求項21】
前記20-HETE合成阻害剤が、N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェノール)-ホルムアミジン(HET0016)、ジブロモドデセニル メチルスルホンイミド(DDMS)、N-(3-クロロ-4-モルホリン-4-イル)フェニル-N'-ヒドロキシイミドホルムアミド(TS-011)、1-アミノベンゾトリアゾール(ABT)、17-オクタデシン酸(17-ODYA)、ケトコナゾール、ミコナゾール、フルコナゾール、又は10 ウンデシニルサルフェート(10-SUYS)から選ばれる、請求項20の方法。
【請求項22】
前記20-HETE合成阻害剤がHET0016又はTS-011である、請求項21の方法。
【請求項23】
前記薬剤が20-HETEアンタゴニストである、請求項19の方法。
【請求項24】
前記がん又は腫瘍細胞がヒト又はラットのグリオーマ細胞である、請求項19の方法。
【請求項25】
前記方法が、ヒト又は非ヒト哺乳類に薬剤を投与することにより、ヒト又は非ヒト哺乳類におけるがん又は腫瘍を治療又は予防するために用いられる、請求項19の方法。
【請求項26】
前記がんが、グリオーマ(神経膠腫)、アストロサイトーマ、腸がん、乳がん、皮膚がん、肺がん、胃がん、前立腺がん、甲状腺がん、肝がん、膵臓がん、腎がん、大腸がん、又は卵巣がんから選ばれる、請求項25の方法。
【請求項27】
前記がんが、グリオーマ(神経膠腫)、乳がん、皮膚がん、前立腺がん、膵臓がん、又は大腸がんから選ばれる、請求項26の方法。
【請求項28】
腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止するのに十分な量の、N-(3-クロロ-4-モルホリン-4-イル)フェニル-N'-ヒドロキシイミドホルムアミド(TS-011)、N-ヒドロキシ-N'-(4-ブチル-2-メチルフェノール)-ホルムアミジン(HET0016)、又はジブロモドデセニル メチルスルホンイミド(DDMS)に、腫瘍又はがん細胞を接触させる工程
を含む、腫瘍又はがん細胞の増殖を阻止する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公表番号】特表2007−511522(P2007−511522A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539885(P2006−539885)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2004/037754
【国際公開番号】WO2005/046658
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500345401)エムシーダブリユー リサーチ フオンデーシヨン インコーポレーテツド (6)
【Fターム(参考)】