血管新生抑制剤
【課題】効果的に作用し、比較的安価で新規な血管新生抑制剤を提供する。
【解決手段】5,8,11−エイコサトリエン酸(n−9)、及び11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)のうちの、少なくとも一方を主たる有効成分とする血管新生抑制剤である。形態は、液剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、または湿布剤である。点眼剤、眼注剤、化粧料として用いても良い。
【解決手段】5,8,11−エイコサトリエン酸(n−9)、及び11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)のうちの、少なくとも一方を主たる有効成分とする血管新生抑制剤である。形態は、液剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、または湿布剤である。点眼剤、眼注剤、化粧料として用いても良い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒトの体内での血管の新生を抑制し、血管新生による各種疾患の治療薬として用いることができる血管新生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血管新生は、生理的な現象であり、ヒトの生体では胎生期の血管形成や組織の構築、黄体形成や卵胞、子宮内膜の形成など限られた部位で生じる。さらに、創傷や炎症などの修復過程において見られるものである。
【0003】
一方血管新生が病的状況と関連することもある。毛細血管が急激に増殖、増大し、組織に対して損傷やその他の弊害をもたらす病的状態としては、眼科領域では、トラコーマやヘルペス角膜感染、角膜移植における手術侵襲と炎症、アルカリなどの薬品による角膜損傷などの角膜障害、あるいは糖尿病性網膜症、緑内障、眼腫瘍が挙げられる。特に角膜においては、角膜新生血管は角膜の障害治癒を促進させるという点では生体にとって有益な反応であるが、新生した血管はその役割が終わっても増殖を続ける可能性があり、このように新生血管が増殖すると、角膜の透明性が保たれなくなり、視力障害などの原因となる角膜障害を引き起こすおそれがある。また、癌については代謝が早く多量の栄養を要求するため、癌の増殖や転移には血管新生が不可欠である。
【0004】
その他、血管新生による疾患例としては、皮膚科領域において、乾せんおよび化膿性肉芽腫、小児科領域では血管腫などがある。外科領域については、肥大性はん痕および肉芽などがある。内科領域については、リューマチ性関節炎および浮腫性硬化症、心臓疾患であるアテローム性動脈硬化症などが挙げられる。
【0005】
そこで、このような血管新生の異常増殖を伴う疾患の治療、予防薬として有用な化合物の開発が進められており、特許文献1〜3に開示されたものがある。さらに、血管新生抑制剤として、抗血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial
Growth Factor)抗体、シグナルトランスダクション能を消失した部分変異VEGF、可溶化VEGFレセプター、微生物代謝産物フマギリン類縁体、コラゲナーゼ活性を阻害する作用を有するテトラサイクリン系抗生物質、ヘパリン結合性血管新生因子の受容体への結合抑制作用を有する微生物由来D−グルコ−ガラクタン硫酸等の薬剤が知られている。その他、スラミン、硫酸カルボキシメチルキチン、多硫酸化ペントサン等の多硫酸化物やインターフェロンなども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201138号公報
【特許文献2】特表2003−238441号公報
【特許文献3】特開2010−90036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来知られている血管形成抑制剤は、副作用を有するものや、安定性に問題があるものであった。また、抗VEGF抗体などは、非常に高価であると言う問題がある。
【0008】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みて成されたもので、効果的に作用し副作用がなく、比較的安価な血管新生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の不飽和脂肪酸の研究を行い、特に5,8,11−シス−エイコサトリエン酸(ミード酸)等の不飽和脂肪酸が血管新生を抑制することを見いだしたものである。
【0010】
この発明は、5,8,11−エイコサトリエン酸(n−9)及び11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)のうちの少なくとも一方を主たる有効成分とする血管新生抑制剤である。
【0011】
さらに、癌組織の毛細血管の新生を抑制するものや、目の角膜内や網膜の毛細血管の新生を抑制するものである。さらに、体表面の皮膚組織の毛細血管の新生を抑制するものや、体内の筋肉組織の毛細血管の新生を抑制するものである。
【0012】
薬剤としての形態は、液剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、または湿布剤である。また、投与時の形態としては、液剤をカプセル化したもの、注射用にアンプルに封入したもの、飲用に瓶に詰めたもの、その他、点眼剤、眼注剤としても良い。さらに、血管新生の抑制機能を有する化粧料として用いることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
この発明の血管新生抑制剤は、体内への摂取が容易で副作用がなく、効果的に血管新生を抑制することが出来るものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、血管内皮細胞成長因子(VEGF−A)を添加あるいは無添加の条件で、各濃度でミード酸を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図2】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系にVEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でミード酸を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図3】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でミード酸を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【図4】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、何も加えずに培養したもの(Control)を示す写真である。
【図5】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-5mole/L)を加えた培養液で培養したものを示す写真である。
【図6】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸を含まずVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図7】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-7mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図8】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-6mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図9】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-5mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図10】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図11】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でDGLAを加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図12】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でDGLAを加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【図13】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、何も加えずに培養したもの(Control)を示す写真である。
【図14】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-5mole/L)を加えて培養したものを示す写真である。
【図15】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLAを含まずVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図16】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-7mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図17】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-6mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図18】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-5mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図19】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加し、何も加えずに同様に培養したもの(Control)と、スラミンを添加したもの、各濃度でミード酸を加えて培養したものの撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図20】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加し、何も加えずに同様に培養したもの(Control)と、スラミンを添加したもの、各濃度でミード酸を加えて培養したものの血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図21】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加し、何も加えずに同様に培養したもの(Control)と、スラミンを添加したもの、各濃度でミード酸を加えて培養したものの血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【図22】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、血管内皮細胞成長因子(VEGF−A)を添加あるいは無添加の条件で、各濃度で11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図23】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系にVEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度で11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図24】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度で11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の有効成分である5,8,11−シス−エイコサトリエン酸(ミード酸)は、オメガ9系(あるいはn−9系)不飽和脂肪酸である。オメガ9系不飽和脂肪酸とは、脂肪酸のメチル端に最も近い二重結合が、メチル基から数えて第9番目の炭素と第10番目の炭素の間にあり、2つ以上の二重結合を有しているものをいう。血管新生抑制機能については、好ましくは炭素数18〜22を有するものである。天然に存在するオメガ9系不飽和脂肪酸は、全てシス型であるため、本発明においてもシス型のオメガ9系不飽和脂肪酸であるミード酸を使用することが好ましい。その他、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)も同様の機能を有することが分かった。
【0016】
また、本発明のミード酸や11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)(以下、ミード酸等という。)は、遊離脂肪酸の形態で用いることができるが、薬剤として許容され得る塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、又は他のアルカリ金属塩、亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のような他の金属の塩の形態や、モノ、ジ、トリグリセライド、低級アルコールのエステル、リン脂質、糖脂質、アミド等の種々の形態で使用してもよく、とくにエチルエステルやトリグリセリドが好ましい。
【0017】
本発明に使用するミード酸等の供給源は、何であっても構わない。ミード酸等を生成することができる微生物や、必須脂肪酸欠乏に陥った動物組織、必須脂肪酸欠乏に陥った動物培養細胞によって産生されたものであっても良く、化学的又は酵素的に合成されたものや、天然物、例えば動物の軟骨から抽出・分離・精製されたものであってもよい。ミード酸等を生成することができる微生物とは、具体的にはΔ5不飽和化酵素活性及びΔ6不飽和化酵素活性を有し、かつΔ12不飽和化酵素活性の低下または欠失した微生物、例えばモルティエレラ・アルピナSAM1861(FERM BP−3590)を使用することができる。
【0018】
これらの微生物から遊離のミード酸等又はそのエステルの抽出・分離精製は、先ず常法通り、菌体から例えばn−ヘキサンなどによる有機溶媒抽出や超臨界炭酸ガス抽出処理により得られた油脂に、加水分解及びエステル化操作を行い、遊離脂肪酸混合物、又は脂肪酸エステル混合物とする。この後、尿素分画法、液々分配クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー等により、目的とするオメガ9系不飽和脂肪酸である、5,8,11−シス−エイコサトリエン酸の遊離脂肪酸又は脂肪酸エステルを、純度80%以上で得ることができる。
【0019】
また、本発明の有効成分であるミード酸等は、必ずしも高純度精製品に限ったことはなく、ミード酸等を含有する油脂(該油脂中にはミード酸等のトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、糖脂質や、遊離のミード酸等が存在する)や、ミード酸等を含有する遊離脂肪酸混合物又は脂肪酸エステル混合物を使用することができる。ミード酸等を含有する油脂は、上述のように、ミード酸等を生成することができる微生物の培養菌体から、菌体を破壊し得ることができる。また該油脂に加水分解及びエステル化操作を行うことにより、ミード酸等を含有する遊離脂肪酸混合物又は脂肪酸エステル混合物を得ることができる。
【0020】
本発明のミード酸等を医薬品として用いる場合、投与形態は、経口投与または非経口投与等、どのような剤形のものであってもよい。例えば、所望患部に注入する液体としての注射液、輸液、点眼剤、眼注剤の形態がある。また、皮膚に用いる場合は、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、湿布剤として用いる。内服する場合は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、シロップ剤等にして用いることができ、これらを症状に応じてそれぞれ単独で、または組み合わせて使用する。さらに、化粧料に配合して用いることも可能である。
【0021】
これら各種製剤は、常法に従って目的に応じて主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。またその投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重等)により異なるが、通常、成人に対して経口投与の場合、1日あたり1〜3000mg、好ましくは1〜2000mgの範囲で、また非経口投与の場合、1日あたり0.1〜2000mg、好ましくは0.1〜1000mgの範囲で適宜調節して投与することができる。本発明の有効成分であるミード酸等は、生体内でも常時、極微量ながら合成されており、必須脂肪酸欠乏状態時には、他の多価不飽和脂肪酸と同程度に生合成されることが知られている。また、7週令のIRC雄性マウスに対し、2g/day/Kgを2週間連投(経口投与)した実験によっても、何ら異常な症状は認められなかったという結果があり、安全性の面で優れている。
【0022】
本発明のミード酸等を飲食品の形態で使用する場合には、上記製剤の形態でもよいが、所要量のミード酸等を飲食品原料、特に本発明のミード酸等を本来実質的に含有しない飲食品原料に加えて、一般の製造法により加工製造することができる。その配合量は剤形、食品の形態性状により異なるが、一般には食品全量に対して0.001〜50質量%が好ましいが特に限定されるものではない。
【0023】
特に健康食品、機能性食品としての摂取は、例えば蛋白質(蛋白質源としてはアミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミン等の蛋白質が最も広く使用されるが、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物等の他、アミノ酸単体の混合物も使用される)、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等に本発明のミード酸等が配合された自然流動食、半消化態栄養食および成分栄養食や、ドリンク剤等の加工形態が挙げられる。また医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に任意の食品に本発明の脂肪酸を加え、その場で調整した機能性食品の形態で患者に与えることもできる。
【0024】
また飲食品の形態としては、固形、あるいは液状の食品ないしは嗜好品、例えばパン、めん類、ごはん、菓子類(ビスケット、ケーキ、キャンデー、チョコレート、和菓子)、豆腐およびその加工品などの農産食品、清酒、薬用酒、みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング、などの発酵食品、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなどの畜農食品、かまぼこ、揚げ天、はんぺんなどの水産食品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶などの飲料等を挙げることができる。
【0025】
この発明の血管新生抑制剤は、上記実施形態に限定されることなく、体内への摂取が容易で副作用がなく、効果的に血管新生を抑制することが出来るミード酸等の不飽和脂肪酸であれば良く、分子の配列が同様のものであればよい。また、11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)についても、上述のミード酸と同様のことが言える。
【実施例1】
【0026】
この発明のミード酸の血管新生の抑制効果に関する実験結果を以下に示す。この実験では、血管新生測定用キット(倉敷紡績株式会社)を用いた。このキットは、ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系で、これに何も加えないものをControlとして、血管内皮細胞成長因子:VEGF−A(10ng/ml)を添加したものと無添加でミード酸を(10-5mole/L)含むもので、10日間培養した。VEGF−A(10ng/ml)を含みミード酸を添加したものは、ミード酸が(10-7mole/L)、(10-6mole/L)、(10-5mole/L)の3種類である。サンプル数は、各々4個である。
【0027】
細胞培養終了後、細胞群を70%エタノールで固定した。1次抗体(マウス抗ヒトCD−31)、2次抗体(ヤギ抗マウスIgGアルカリフォスファタゼ結合)で、それぞれ37℃1時間免疫反応させた。
【0028】
免疫反応終了後、5-buromo-4-chloro-3-indolyl
phosphate/nitro-blue-tetrazolium溶液で染色した。染色後、顕微鏡にデジタルカメラを装着し、画像撮影した。得られた画像を血管新生定量ソフトウエアVer. 2(倉敷紡績株式会社)で画像解析し、染色部位を定量した。
【0029】
定量項目は、面積(area)、長さ(length)、分岐数(joint)である。ミード酸の対照としては、同炭素数で同二重結合数(二重結合の位置のみが違う)のジホモ-γ-リノレン酸Dihomo-γ-linolenic acid(DGLA), 20:3(n-6) を使用した。
【0030】
この結果を、図1〜図18に示す。ます、図1〜図3に示すように、Controlに対してミード酸(10-5mole/L)を加えた培養液で培養した細胞は、血管の新生に差はなく、図4、図5の血管画像を示す顕微鏡写真でも大きな差は見られず、ミード酸を添加したものは若干血管新生が抑制されている。これに対して、ミード酸を含まず血管内皮細胞成長因子:VEGF−A(10ng/ml)が添加されたものは、Controlと比較して血管面積、血管の長さ、血管の分岐数ともに、血管新生により2倍〜4倍の値を示している。さらに、血管内皮細胞成長因子を含む培養液で、ミード酸を添加したものは、ミード酸を添加しないものと比較して血管面積、血管の長さ、血管の分岐数とも増加が抑えらら、さらに、ミード酸の濃度が濃いものほど新生血管の増殖が抑えられていることが分かる。このことは、図6〜図9の顕微鏡写真を見ても、黒く線状見える血管の数がミード酸の濃度が濃いものほど抑えられ、明らかに差異が出ている。
【0031】
従って、ヒトさい帯静脈血管内皮細胞と繊維芽細胞の混合培養系において、血管内皮細胞成長因子を加えることにより血管新生は活性化されるが、これにミード酸を添加すると、その濃度依存的に血管新生が抑制されることが明らかとなった。
【0032】
これに対して、ジホモ-γ-リノレン酸(Dihomo-γ-linolenic acid(DGLA))では、図10〜図18に示すように、上記と同様の条件で、ミード酸の代わりにジホモ-γ-リノレン酸を加えた培養試験では、Controlと比較して、ジホモ-γ-リノレン酸のみ加えたものでも、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数とも値は増加した。さらに、血管内皮細胞成長因子に対しては、図10〜図12に示すように、抑制効果が認められなかった。このことは、図13〜図18に示す顕微鏡写真でも、黒く線状見える血管の数が抑制されていないことから明らかである。
【0033】
次に、ミード酸の血管新生抑制機能を、既存の血管新生抑制剤であるスラミンと比較した実験例を示す。図19〜図21に示すように、ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、血管内皮細胞成長因子:VEGF−A(10ng/ml)を添加し、何も添加しないControlと、スラミン(2.5×10-5mole/L)を添加したもの、ミード酸を添加しないもの、ミード酸を(10-7mole/L)、(10-6mole/L)添加したものを比較した。この結果、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数ともに、ミード酸(10-6mole/L)を添加したものは、25倍量のスラミンと同等の血管新生抑制効果を示した。
【実施例2】
【0034】
次に、ミード酸と同様の効果が期待できると推測された、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)について、上記と同様の実験を行った。図22〜図24に示すように、ミード酸の代わりに11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えた培養試験では、Controlと比較してミード酸のみ添加されものは、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数とも値が若干小さくなっており、血管新生が僅かに抑制されている。さらに、血管内皮細胞成長因子を添加したものに対しても、図22〜図24に示すように、ミード酸を添加した場合と同様に、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数ともに、血管新生の抑制効果が認められた。
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒトの体内での血管の新生を抑制し、血管新生による各種疾患の治療薬として用いることができる血管新生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの血管新生は、生理的な現象であり、ヒトの生体では胎生期の血管形成や組織の構築、黄体形成や卵胞、子宮内膜の形成など限られた部位で生じる。さらに、創傷や炎症などの修復過程において見られるものである。
【0003】
一方血管新生が病的状況と関連することもある。毛細血管が急激に増殖、増大し、組織に対して損傷やその他の弊害をもたらす病的状態としては、眼科領域では、トラコーマやヘルペス角膜感染、角膜移植における手術侵襲と炎症、アルカリなどの薬品による角膜損傷などの角膜障害、あるいは糖尿病性網膜症、緑内障、眼腫瘍が挙げられる。特に角膜においては、角膜新生血管は角膜の障害治癒を促進させるという点では生体にとって有益な反応であるが、新生した血管はその役割が終わっても増殖を続ける可能性があり、このように新生血管が増殖すると、角膜の透明性が保たれなくなり、視力障害などの原因となる角膜障害を引き起こすおそれがある。また、癌については代謝が早く多量の栄養を要求するため、癌の増殖や転移には血管新生が不可欠である。
【0004】
その他、血管新生による疾患例としては、皮膚科領域において、乾せんおよび化膿性肉芽腫、小児科領域では血管腫などがある。外科領域については、肥大性はん痕および肉芽などがある。内科領域については、リューマチ性関節炎および浮腫性硬化症、心臓疾患であるアテローム性動脈硬化症などが挙げられる。
【0005】
そこで、このような血管新生の異常増殖を伴う疾患の治療、予防薬として有用な化合物の開発が進められており、特許文献1〜3に開示されたものがある。さらに、血管新生抑制剤として、抗血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial
Growth Factor)抗体、シグナルトランスダクション能を消失した部分変異VEGF、可溶化VEGFレセプター、微生物代謝産物フマギリン類縁体、コラゲナーゼ活性を阻害する作用を有するテトラサイクリン系抗生物質、ヘパリン結合性血管新生因子の受容体への結合抑制作用を有する微生物由来D−グルコ−ガラクタン硫酸等の薬剤が知られている。その他、スラミン、硫酸カルボキシメチルキチン、多硫酸化ペントサン等の多硫酸化物やインターフェロンなども知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−201138号公報
【特許文献2】特表2003−238441号公報
【特許文献3】特開2010−90036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これら従来知られている血管形成抑制剤は、副作用を有するものや、安定性に問題があるものであった。また、抗VEGF抗体などは、非常に高価であると言う問題がある。
【0008】
この発明は、上記背景技術の問題点に鑑みて成されたもので、効果的に作用し副作用がなく、比較的安価な血管新生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の不飽和脂肪酸の研究を行い、特に5,8,11−シス−エイコサトリエン酸(ミード酸)等の不飽和脂肪酸が血管新生を抑制することを見いだしたものである。
【0010】
この発明は、5,8,11−エイコサトリエン酸(n−9)及び11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)のうちの少なくとも一方を主たる有効成分とする血管新生抑制剤である。
【0011】
さらに、癌組織の毛細血管の新生を抑制するものや、目の角膜内や網膜の毛細血管の新生を抑制するものである。さらに、体表面の皮膚組織の毛細血管の新生を抑制するものや、体内の筋肉組織の毛細血管の新生を抑制するものである。
【0012】
薬剤としての形態は、液剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、または湿布剤である。また、投与時の形態としては、液剤をカプセル化したもの、注射用にアンプルに封入したもの、飲用に瓶に詰めたもの、その他、点眼剤、眼注剤としても良い。さらに、血管新生の抑制機能を有する化粧料として用いることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
この発明の血管新生抑制剤は、体内への摂取が容易で副作用がなく、効果的に血管新生を抑制することが出来るものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、血管内皮細胞成長因子(VEGF−A)を添加あるいは無添加の条件で、各濃度でミード酸を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図2】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系にVEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でミード酸を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図3】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でミード酸を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【図4】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、何も加えずに培養したもの(Control)を示す写真である。
【図5】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-5mole/L)を加えた培養液で培養したものを示す写真である。
【図6】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸を含まずVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図7】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-7mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図8】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-6mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図9】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、ミード酸(10-5mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図10】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図11】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でDGLAを加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図12】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度でDGLAを加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【図13】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、何も加えずに培養したもの(Control)を示す写真である。
【図14】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-5mole/L)を加えて培養したものを示す写真である。
【図15】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLAを含まずVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図16】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-7mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図17】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-6mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図18】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、DGLA (10-5mole/L)とVEGF−Aを添加して培養したものを示す写真である。
【図19】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加し、何も加えずに同様に培養したもの(Control)と、スラミンを添加したもの、各濃度でミード酸を加えて培養したものの撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図20】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加し、何も加えずに同様に培養したもの(Control)と、スラミンを添加したもの、各濃度でミード酸を加えて培養したものの血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図21】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加し、何も加えずに同様に培養したもの(Control)と、スラミンを添加したもの、各濃度でミード酸を加えて培養したものの血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【図22】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、血管内皮細胞成長因子(VEGF−A)を添加あるいは無添加の条件で、各濃度で11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の撮影画像の血管面積について、Controlを1として示すグラフである。
【図23】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系にVEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度で11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管長さについて、Controlを1として示すグラフである。
【図24】ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、VEGF−Aを添加あるいは無添加の条件で、各濃度で11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えて培養したものと、何も加えずに同様に培養したもの(Control)の血管分岐数について、Controlを1として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の有効成分である5,8,11−シス−エイコサトリエン酸(ミード酸)は、オメガ9系(あるいはn−9系)不飽和脂肪酸である。オメガ9系不飽和脂肪酸とは、脂肪酸のメチル端に最も近い二重結合が、メチル基から数えて第9番目の炭素と第10番目の炭素の間にあり、2つ以上の二重結合を有しているものをいう。血管新生抑制機能については、好ましくは炭素数18〜22を有するものである。天然に存在するオメガ9系不飽和脂肪酸は、全てシス型であるため、本発明においてもシス型のオメガ9系不飽和脂肪酸であるミード酸を使用することが好ましい。その他、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)も同様の機能を有することが分かった。
【0016】
また、本発明のミード酸や11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)(以下、ミード酸等という。)は、遊離脂肪酸の形態で用いることができるが、薬剤として許容され得る塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、又は他のアルカリ金属塩、亜鉛塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のような他の金属の塩の形態や、モノ、ジ、トリグリセライド、低級アルコールのエステル、リン脂質、糖脂質、アミド等の種々の形態で使用してもよく、とくにエチルエステルやトリグリセリドが好ましい。
【0017】
本発明に使用するミード酸等の供給源は、何であっても構わない。ミード酸等を生成することができる微生物や、必須脂肪酸欠乏に陥った動物組織、必須脂肪酸欠乏に陥った動物培養細胞によって産生されたものであっても良く、化学的又は酵素的に合成されたものや、天然物、例えば動物の軟骨から抽出・分離・精製されたものであってもよい。ミード酸等を生成することができる微生物とは、具体的にはΔ5不飽和化酵素活性及びΔ6不飽和化酵素活性を有し、かつΔ12不飽和化酵素活性の低下または欠失した微生物、例えばモルティエレラ・アルピナSAM1861(FERM BP−3590)を使用することができる。
【0018】
これらの微生物から遊離のミード酸等又はそのエステルの抽出・分離精製は、先ず常法通り、菌体から例えばn−ヘキサンなどによる有機溶媒抽出や超臨界炭酸ガス抽出処理により得られた油脂に、加水分解及びエステル化操作を行い、遊離脂肪酸混合物、又は脂肪酸エステル混合物とする。この後、尿素分画法、液々分配クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー等により、目的とするオメガ9系不飽和脂肪酸である、5,8,11−シス−エイコサトリエン酸の遊離脂肪酸又は脂肪酸エステルを、純度80%以上で得ることができる。
【0019】
また、本発明の有効成分であるミード酸等は、必ずしも高純度精製品に限ったことはなく、ミード酸等を含有する油脂(該油脂中にはミード酸等のトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、糖脂質や、遊離のミード酸等が存在する)や、ミード酸等を含有する遊離脂肪酸混合物又は脂肪酸エステル混合物を使用することができる。ミード酸等を含有する油脂は、上述のように、ミード酸等を生成することができる微生物の培養菌体から、菌体を破壊し得ることができる。また該油脂に加水分解及びエステル化操作を行うことにより、ミード酸等を含有する遊離脂肪酸混合物又は脂肪酸エステル混合物を得ることができる。
【0020】
本発明のミード酸等を医薬品として用いる場合、投与形態は、経口投与または非経口投与等、どのような剤形のものであってもよい。例えば、所望患部に注入する液体としての注射液、輸液、点眼剤、眼注剤の形態がある。また、皮膚に用いる場合は、懸濁剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、湿布剤として用いる。内服する場合は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、シロップ剤等にして用いることができ、これらを症状に応じてそれぞれ単独で、または組み合わせて使用する。さらに、化粧料に配合して用いることも可能である。
【0021】
これら各種製剤は、常法に従って目的に応じて主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。またその投与量は、投与の目的や投与対象者の状況(性別、年齢、体重等)により異なるが、通常、成人に対して経口投与の場合、1日あたり1〜3000mg、好ましくは1〜2000mgの範囲で、また非経口投与の場合、1日あたり0.1〜2000mg、好ましくは0.1〜1000mgの範囲で適宜調節して投与することができる。本発明の有効成分であるミード酸等は、生体内でも常時、極微量ながら合成されており、必須脂肪酸欠乏状態時には、他の多価不飽和脂肪酸と同程度に生合成されることが知られている。また、7週令のIRC雄性マウスに対し、2g/day/Kgを2週間連投(経口投与)した実験によっても、何ら異常な症状は認められなかったという結果があり、安全性の面で優れている。
【0022】
本発明のミード酸等を飲食品の形態で使用する場合には、上記製剤の形態でもよいが、所要量のミード酸等を飲食品原料、特に本発明のミード酸等を本来実質的に含有しない飲食品原料に加えて、一般の製造法により加工製造することができる。その配合量は剤形、食品の形態性状により異なるが、一般には食品全量に対して0.001〜50質量%が好ましいが特に限定されるものではない。
【0023】
特に健康食品、機能性食品としての摂取は、例えば蛋白質(蛋白質源としてはアミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミン等の蛋白質が最も広く使用されるが、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物等の他、アミノ酸単体の混合物も使用される)、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等に本発明のミード酸等が配合された自然流動食、半消化態栄養食および成分栄養食や、ドリンク剤等の加工形態が挙げられる。また医師の食事箋に基づく栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に任意の食品に本発明の脂肪酸を加え、その場で調整した機能性食品の形態で患者に与えることもできる。
【0024】
また飲食品の形態としては、固形、あるいは液状の食品ないしは嗜好品、例えばパン、めん類、ごはん、菓子類(ビスケット、ケーキ、キャンデー、チョコレート、和菓子)、豆腐およびその加工品などの農産食品、清酒、薬用酒、みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング、などの発酵食品、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーセージ、マヨネーズなどの畜農食品、かまぼこ、揚げ天、はんぺんなどの水産食品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶などの飲料等を挙げることができる。
【0025】
この発明の血管新生抑制剤は、上記実施形態に限定されることなく、体内への摂取が容易で副作用がなく、効果的に血管新生を抑制することが出来るミード酸等の不飽和脂肪酸であれば良く、分子の配列が同様のものであればよい。また、11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)についても、上述のミード酸と同様のことが言える。
【実施例1】
【0026】
この発明のミード酸の血管新生の抑制効果に関する実験結果を以下に示す。この実験では、血管新生測定用キット(倉敷紡績株式会社)を用いた。このキットは、ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系で、これに何も加えないものをControlとして、血管内皮細胞成長因子:VEGF−A(10ng/ml)を添加したものと無添加でミード酸を(10-5mole/L)含むもので、10日間培養した。VEGF−A(10ng/ml)を含みミード酸を添加したものは、ミード酸が(10-7mole/L)、(10-6mole/L)、(10-5mole/L)の3種類である。サンプル数は、各々4個である。
【0027】
細胞培養終了後、細胞群を70%エタノールで固定した。1次抗体(マウス抗ヒトCD−31)、2次抗体(ヤギ抗マウスIgGアルカリフォスファタゼ結合)で、それぞれ37℃1時間免疫反応させた。
【0028】
免疫反応終了後、5-buromo-4-chloro-3-indolyl
phosphate/nitro-blue-tetrazolium溶液で染色した。染色後、顕微鏡にデジタルカメラを装着し、画像撮影した。得られた画像を血管新生定量ソフトウエアVer. 2(倉敷紡績株式会社)で画像解析し、染色部位を定量した。
【0029】
定量項目は、面積(area)、長さ(length)、分岐数(joint)である。ミード酸の対照としては、同炭素数で同二重結合数(二重結合の位置のみが違う)のジホモ-γ-リノレン酸Dihomo-γ-linolenic acid(DGLA), 20:3(n-6) を使用した。
【0030】
この結果を、図1〜図18に示す。ます、図1〜図3に示すように、Controlに対してミード酸(10-5mole/L)を加えた培養液で培養した細胞は、血管の新生に差はなく、図4、図5の血管画像を示す顕微鏡写真でも大きな差は見られず、ミード酸を添加したものは若干血管新生が抑制されている。これに対して、ミード酸を含まず血管内皮細胞成長因子:VEGF−A(10ng/ml)が添加されたものは、Controlと比較して血管面積、血管の長さ、血管の分岐数ともに、血管新生により2倍〜4倍の値を示している。さらに、血管内皮細胞成長因子を含む培養液で、ミード酸を添加したものは、ミード酸を添加しないものと比較して血管面積、血管の長さ、血管の分岐数とも増加が抑えらら、さらに、ミード酸の濃度が濃いものほど新生血管の増殖が抑えられていることが分かる。このことは、図6〜図9の顕微鏡写真を見ても、黒く線状見える血管の数がミード酸の濃度が濃いものほど抑えられ、明らかに差異が出ている。
【0031】
従って、ヒトさい帯静脈血管内皮細胞と繊維芽細胞の混合培養系において、血管内皮細胞成長因子を加えることにより血管新生は活性化されるが、これにミード酸を添加すると、その濃度依存的に血管新生が抑制されることが明らかとなった。
【0032】
これに対して、ジホモ-γ-リノレン酸(Dihomo-γ-linolenic acid(DGLA))では、図10〜図18に示すように、上記と同様の条件で、ミード酸の代わりにジホモ-γ-リノレン酸を加えた培養試験では、Controlと比較して、ジホモ-γ-リノレン酸のみ加えたものでも、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数とも値は増加した。さらに、血管内皮細胞成長因子に対しては、図10〜図12に示すように、抑制効果が認められなかった。このことは、図13〜図18に示す顕微鏡写真でも、黒く線状見える血管の数が抑制されていないことから明らかである。
【0033】
次に、ミード酸の血管新生抑制機能を、既存の血管新生抑制剤であるスラミンと比較した実験例を示す。図19〜図21に示すように、ヒトさい帯静脈血管内皮細胞(HUVECs)と繊維芽細胞の混合培養系に、血管内皮細胞成長因子:VEGF−A(10ng/ml)を添加し、何も添加しないControlと、スラミン(2.5×10-5mole/L)を添加したもの、ミード酸を添加しないもの、ミード酸を(10-7mole/L)、(10-6mole/L)添加したものを比較した。この結果、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数ともに、ミード酸(10-6mole/L)を添加したものは、25倍量のスラミンと同等の血管新生抑制効果を示した。
【実施例2】
【0034】
次に、ミード酸と同様の効果が期待できると推測された、オメガ3系多価不飽和脂肪酸の11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)について、上記と同様の実験を行った。図22〜図24に示すように、ミード酸の代わりに11、14,17−エイコサトリエン酸(n−3)を加えた培養試験では、Controlと比較してミード酸のみ添加されものは、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数とも値が若干小さくなっており、血管新生が僅かに抑制されている。さらに、血管内皮細胞成長因子を添加したものに対しても、図22〜図24に示すように、ミード酸を添加した場合と同様に、血管面積、血管の長さ、血管の分岐数ともに、血管新生の抑制効果が認められた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5,8,11−エイコサトリエン酸(n−9)、及び11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)のうちの少なくとも一方を主たる有効成分とすることを特徴とする血管新生抑制剤。
【請求項2】
癌組織の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項3】
目の角膜内の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項4】
目の網膜の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項5】
体表面の皮膚組織の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項6】
体内の筋肉組織の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項7】
形態が、液剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、または湿布剤である請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項8】
点眼剤、眼注剤である請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項9】
請求項1または7記載の血管新生抑制剤を含有し、血管新生の抑制機能を有することを特徴とする化粧料。
【請求項1】
5,8,11−エイコサトリエン酸(n−9)、及び11,14,17−エイコサトリエン酸(n−3)のうちの少なくとも一方を主たる有効成分とすることを特徴とする血管新生抑制剤。
【請求項2】
癌組織の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項3】
目の角膜内の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項4】
目の網膜の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項5】
体表面の皮膚組織の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項6】
体内の筋肉組織の毛細血管の新生を抑制する請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項7】
形態が、液剤、乳剤、軟膏剤、ローション剤、または湿布剤である請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項8】
点眼剤、眼注剤である請求項1記載の血管新生抑制剤。
【請求項9】
請求項1または7記載の血管新生抑制剤を含有し、血管新生の抑制機能を有することを特徴とする化粧料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図12】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図10】
【図11】
【図12】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−41283(P2012−41283A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182244(P2010−182244)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月29日 Maastricht University発行の「ISSFAL 2010 MAY29−JUNE2,2010」に発表
【出願人】(503134387)ポリエン・プロジェクト有限会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年5月29日 Maastricht University発行の「ISSFAL 2010 MAY29−JUNE2,2010」に発表
【出願人】(503134387)ポリエン・プロジェクト有限会社 (2)
【Fターム(参考)】
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