説明

表示素子およびその製造方法

【課題】視野角の均一性および歩留まりを向上した表示デバイスを提供する。
【解決手段】第1透明基板15上に視差バリア層21を設ける。第1透明基板15の視差バリア層21側に第2透明基板24を貼り合わせる。第1透明基板15の視差バリア層21と反対側を研磨する。研磨した第1透明基板15に各種機能性膜を形成して対向基板6を構成する。視差バリア層21と画素13との位置ずれを抑制し、視野角の均一性および歩留まりを向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる方向から観測したときに、各方向で異なる画像を表示できる表示素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の表示素子すなわち表示デバイスであるディスプレイは、長年、複数のユーザが同時に見ることができるように設計されており、その表示特性は、複数の観測者が、ディスプレイに対して異なった角度から同じ良質なイメージを見ることができるようにされていた。これは、複数のユーザが、例えば、空港および駅での出発情報の表示などのディスプレイから同じ情報を必要とする場合に使用すると効果的である。
【0003】
しかしながら、個々のユーザが同じディスプレイから異なった情報を見得ることが所望される複数の用途がある。例えば、自動車の場合、ドライバが衛星ナビゲーションデータを見ることを所望する一方で、同乗者は、映画を見ることを所望し得る。この対立する要求は、2つの別個のディスプレイを提供することによって満たされ得るが、これは、余分な空間を占有し、かつ、コストを高くする。さらに、この例で2つの別個のディスプレイが用いられた場合、ドライバは、頭部を動かして同乗者のディスプレイを見ることができるが、ドライバの気を散らせることになる。
【0004】
さらなる例として、2人以上のプレーヤ向けのコンピュータゲームをする各プレーヤは、自分の視点(パースペクティブ)からゲームを見ることを所望し得る。これは、現在、各プレーヤが別個のディスプレイ画面上でゲームを見ることによって行われ、これにより、各プレーヤは、別個の画面上で自分だけの固有の視点を有する。しかしながら、プレーヤごとに別個のディスプレイ画面を提供することによって、多くの空間が占有され、コストがかかり、ポータブルゲームのためには実用的でない。
【0005】
これらの問題を解決するために、マルチプルビュー指向性ディスプレイが開発されている。マルチプルビュー指向性ディスプレイの応用例として、例えばデュアルビューディスプレイがある。これは、2つ以上の異なったイメージを同時に表示し得、各イメージは、特定の方向にのみ見え、すなわち、1つの方向から表示デバイスを見る観察者は1つのイメージを見るのに対して、別の異なった方向から表示デバイスを見る観察者は異なったイメージを見る。2人以上のユーザに異なったイメージを示し得るディスプレイは、2つ以上の別個のディスプレイを使用する場合と比べて空間およびコストの節約が可能となる。
【0006】
また、マルチプルビュー指向性ディスプレイの他の応用例としては、例えば飛行機内で用いて、各乗客に個別の機内娯楽プログラムを提供するものがある。現在、各乗客に、典型的には、前方列シートの背面に個別のディスプレイが提供されているものの、マルチプルビュー指向性ディスプレイを用いることによって、1つのディスプレイで2人以上の乗客にサービス提供することが可能である一方で、各乗客が好みに応じて固有の映画の選択をすることがさらに可能になることから、コスト、空間および重量の節約が可能になる。
【0007】
さらに、マルチプルビュー指向性ディスプレイの有利な点は、ユーザ間で互いの画面表示を見ることを不可能にする能力である。これは、例えば、現金自動預払機(ATM)を用いる銀行または売買取引等のセキュリティを必要とする用途、ならびに、上述の例のコンピュータゲームにおいて所望される。
【0008】
そして、従来、このようなマルチプルビュー指向性ディスプレイの製造プロセスでは、液晶を封入したパネルのカラーフィルタ側基板を20〜100μmの厚さに適宜研磨した後、視差バリア層が形成された基板を液晶パネルのそれぞれ対向する画素に合わせて張り合わせる処理を施すのが一般的であった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−78094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の場合、貼り合わせ時のアライメント精度や、接着層の厚み精度などの要因により、個々のパネルで視野角が異なるなどの問題、すなわち視野角の均一性が良好でないという問題が生じていた。
【0010】
また、予め視差バリア層が形成された基板のバリア層上に厚さ20〜100μmの透明層を直接形成するなどの方法も考えられるものの、薄い透明フィルムやガラス基板を扱う上でのハンドリングの問題や、液晶層を基板間に挟んでいることから透明層の厚さを20〜100±5μmの精度で制御することが容易でないなどの問題があり、実用化には至っていないのが現状である。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、視野角の均一性および歩留まりを向上した表示素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、アレイ基板と、このアレイ基板に対向配置される対向基板と、これらアレイ基板と対向基板との間に介在された光変調層とを有し、複数の画素が形成され、これら画素のうち交互に位置する複数の画素で構成される複数の画素群で異なる画像を表示可能とする表示素子本体と、前記対向基板の前記光変調層と反対側の面に設けられ、前記表示素子本体の各画素群で表示する画像を視差により分離して表示させる視差バリア層とを具備したものである。
【0013】
そして、対向基板の光変調層と反対側の面に、表示素子本体の各画素群で表示する画像を視差により分離して表示させる視差バリア層を設ける。
【0014】
また、アレイ基板と、このアレイ基板に対向配置される対向基板と、これらアレイ基板と対向基板との間に介在された光変調層とを有し、複数の画素が形成され、これら画素のうち交互に位置する複数の画素で構成される複数の画素群で異なる画像を表示可能とする表示素子本体と、前記表示素子本体の各画素群で表示する画像を視差により分離して表示させる視差バリア層とを具備した表示素子の製造方法であって、第1透明基板の一主面に前記視差バリア層を形成し、この第1透明基板の一主面側を第2透明基板と貼り合わせ、前記第1透明基板の他主面側を研磨してこの第1透明基板を所定厚みとし、この研磨された第1透明基板の他主面上に前記機能性膜を形成して前記対向基板とするものである。
【0015】
そして、第1透明基板の視差バリア層を形成した一主面を第2透明基板と貼り合わせ、第1透明基板の他主面側を研磨してこの第1透明基板を所定厚みとし、この研磨された第1透明基板の他主面上に機能性膜を形成して対向基板とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、視差バリア層と画素との位置ずれを抑制し、視野角の均一性および歩留まりを向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態の表示素子の構成を、図面を参照して説明する。
【0018】
図1において、1は表示素子としての液晶表示素子である液晶セルを示し、この液晶セル1は、図示しない面状光源装置であるバックライトにより背面側から照明されることで、異なる方向から観測したときに、各方向で異なる画像を表示可能な表示装置としてのマルチプルビュー指向性ディスプレイに用いられるものである。
【0019】
そして、液晶セル1は、同時に複数の画像を表示する表示素子本体としての表示デバイス2、および異なる所定の視角方向から表示デバイス2で表示する画像が個別に視認されるように画像分離するための光学素子としての光学デバイス3を備えている。
【0020】
表示デバイス2には、一般的なRGBストライプ構造のアクティブマトリクス型TFT液晶表示素子が用いられる。すなわち、この表示デバイス2は、図示しないスペーサにより一定の間隔で保持されたアレイ基板5と対向基板6との間に光変調層としての液晶層7を介在した構造である。
【0021】
アレイ基板5には、透明基板11上に、図示しないスイッチング素子であるTFTおよび画素電極12などが形成されて、複数の画素13がマトリクス状に形成されている。また、対向基板6には、透明な第1透明基板15の液晶層7側の主面に、RGB各色のストライプ状のカラーフィルタ層16(カラーフィルタ層16r,16g,16b)、および、対向電極としての透明電極であるITO電極17などが積層されている。そして、これらアレイ基板5と対向基板6とを合わせて複数の画素13を有する画素部である画素ピクセルが構成されている。
【0022】
この表示デバイス2は、図示しない駆動回路により所定の画像を表示可能としており、さらに、複数の異なる画像も表示可能としている。すなわち、複数の画素13のうち、例えば左右方向等の視差により画像を分離する方向に1列ずつ交互に位置する複数の画素13aで構成される画素群と複数の画素13bで構成される画素群とで2つの画素群を構成し、各画素群によって個別の画像を表示可能としている。
【0023】
中間層である第1透明基板15は、液晶セル1の画素サイズにもよるが、通常20〜100μmの厚みに設定されることが好ましい。また、この第1透明基板15は、光の利用効率を考慮すると、ガラス、アクリルなど透過率が高い材料が好ましく、かつ、カラー表示のためのカラーフィルタ層16を付与するためには、100〜200℃程度の耐熱性がある材料が好ましい。
【0024】
一方、光学デバイス3は、第1透明基板15の液晶層7と反対側の主面に、視差により画像を分離する方向に沿って、遮光部である視差バリア層21と透明部であるスリット部22とが交互に形成され、これら視差バリア層21が透明な接着層23および第2透明基板24により覆われている。これら視差バリア層21およびスリット部22によって画像分離部25が形成されている。
【0025】
視差バリア層21は、例えば、光の反射の少ない黒色の樹脂レジスト材料にて形成され、あるいは視差バリア層21の表面に光の反射防止処理が施されている。また、視差バリア層21は、表示デバイス2の視差により画像を分離する方向の隣接する2つの画素13間の位置でかつ2つの画素13毎のピッチで形成されている。
【0026】
スリット部22は、接着層23により透明な状態となっている。
【0027】
第2透明基板24は、視差バリア層21を保護する透明層であり、液晶セル対向基板となるものである。
【0028】
そして、光学デバイス3が表示デバイス2の正面側に配設され、視差バリア層21が表示デバイス2に連続して形成されている。表示デバイス2の背面および光学デバイス3の正面には、図示しない偏光層がそれぞれ設けられている。
【0029】
また、バックライトは、図示しない光源、およびこの光源の光を入射して液晶セル1の背面側に対向する面から出射する導光板を備えている。
【0030】
そして、上記液晶セル1は、図1および図2に示すように、複数の画素13のうち、視差により画像を分離する方向(図中左右方向)に1列ずつ交互に位置する複数の画素13aで構成される画素群と複数の画素13bで構成される画素群とで異なる画像を表示することで、所定の視角方向Lから見た場合には、複数の画素13aの画素群で表示される画像が視差バリア層21で遮断され、複数の画素13bの画素群で表示される画像がスリット部22を通じて視認され、一方、所定の視角方向Rから見た場合には、複数の画素13bの画素群で表示される画像が視差バリア層21で遮断され、複数の画素13aの画素群で表示される画像がスリット部22を通じて視認される。このとき、各視角方向L,Rにおいて、カラーフィルタ層16r,16g,16bを通過した光LR,LG,LBおよび光RR,RG,RBが各スリット部22から視認されることで、これらの色の画像が混合され、カラーの画像として視認される。
【0031】
次に、上記一実施の形態の製造方法を説明する。
【0032】
まず、対向基板6の製造時には、図3に示すように、従来の製造ラインで使用している例えば厚さ0.5〜0.7mmのガラス基板などの第1透明基板15上に、金属膜や黒色レジスト材料などを用いて視差バリア層21を形成する(第1工程)。
【0033】
次いで、図4に示すように、上記視差バリア層21を形成した第1透明基板15上に、視差バリア層21の保護層となる第2透明基板24を、接着層23を介して貼り合わせる(第2工程)。
【0034】
さらに、各透明基板15,24を貼り合わせた後、図5に示すように、視差バリア層21が形成されている第1透明基板15の視差バリア層21と反対側を研磨して、第1透明基板15を20〜100μmの厚さとし、視差バリア層21付きの対向基板6を形成する(第3工程)。
【0035】
そして、研磨が完了した対向基板6には、図6に示すように、必要に応じて視差バリア層21が直接形成されている側と反対側の面に、視差バリア層21を基準としてブラックマトリクスやカラーフィルタ層16、ITO電極17などの、画素13を構成するマトリクス型表示素子を構成する機能性膜を適宜形成する(第4工程)。
【0036】
この後、この対向基板6を、予め形成したアレイ基板5に対して、所定のスペーサを介して図示しないシール材などにより貼り合わせ、これら基板5,6間に液晶層7を注入して液晶セル1が完成する(第5工程)。
【0037】
上述したように、上記一実施の形態では、第1透明基板15上に視差バリア層21を設け、この視差バリア層21側に第2透明基板24を貼り合わせるとともに、第1透明基板15の視差バリア層21と反対側を研磨し、この研磨した第1透明基板15に各種機能性膜を形成して対向基板6を構成した。
【0038】
すなわち、第2透明基板に視差バリア層を形成して、機能性膜を予め形成してアレイ基板側と貼り合わせた第1透明基板に貼り合わせる従来の場合では、各画素13と視差バリア層との位置合わせが容易でなかったのに対して、本実施の形態では、マルチプルビュー方向の視野角を左右する画素13と反対側に、第2透明基板24を貼り合わせるため、接着層23の厚みは殆ど制御する必要がないので、従来マルチプルビュー指向性ディスプレイの製造プロセスで問題となっていた視差バリア層とカラーフィルタやブラックマトリクス層との貼り合わせ時の位置ずれによる視野角のばらつきが改善され、従来の液晶セル1の製造プロセスにおいて歩留まりを低下させていた貼り合わせ工程での歩留まりが向上する。
【0039】
また、第2透明基板24と接着層23で固定された第1透明基板15を研磨するので、従来の液晶セル研磨プロセスで問題となっていた研磨圧力がセル中央部と周辺部とで異なることによって生じる研磨むらなどが殆ど生じることがなく、研磨プロセスの歩留まりが向上する。
【0040】
さらに、視差バリア層21を形成した第1透明基板15を研磨するため、完成した液晶セル1を研磨する場合と比較して、万一不良品が発生した場合の損益も大幅に削減できる。
【0041】
そして、以上のプロセスによって形成された視差バリア層21付きの対向基板6を用いることで、従来液晶セル工程と全く同じプロセスで視野角均一性に優れたマルチプルビュー指向性ディスプレイを容易に提供できる。
【0042】
また、視差バリア層21を覆って透明層である第2透明基板24を設けることで、視差バリア層21を物理的および化学的に保護できる。
【0043】
なお、上記一実施の形態において、カラーフィルタ層16を設けずに、白黒の画像としても同様の作用効果を奏することができる。
【0044】
また、表示デバイス2としては、アクティブマトリクス型TFT液晶表示素子に限らず、他の表示素子を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態の表示素子を示す説明断面図である。
【図2】同上表示素子の作用を示す拡大説明図である。
【図3】同上表示素子の製造方法の第1工程を示す説明断面図である。
【図4】同上表示素子の製造方法の第2工程を示す説明断面図である。
【図5】同上表示素子の製造方法の第3工程を示す説明断面図である。
【図6】同上表示素子の製造方法の第4工程を示す説明断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 表示素子としての液晶セル
2 表示素子本体としての表示デバイス
5 アレイ基板
6 対向基板
7 光変調層としての液晶層
13 画素
15 第1透明基板
21 視差バリア層
24 透明層である第2透明基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ基板と、このアレイ基板に対向配置される対向基板と、これらアレイ基板と対向基板との間に介在された光変調層とを有し、複数の画素が形成され、これら画素のうち交互に位置する複数の画素で構成される複数の画素群で異なる画像を表示可能とする表示素子本体と、
前記対向基板の前記光変調層と反対側の面に設けられ、前記表示素子本体の各画素群で表示する画像を視差により分離して表示させる視差バリア層と
を具備したことを特徴とした表示素子。
【請求項2】
前記視差バリア層を覆う透明層を具備した
ことを特徴とした請求項1記載の表示素子。
【請求項3】
アレイ基板と、このアレイ基板に対向配置される対向基板と、これらアレイ基板と対向基板との間に介在された光変調層とを有し、複数の画素が形成され、これら画素のうち交互に位置する複数の画素で構成される複数の画素群で異なる画像を表示可能とする表示素子本体と、前記表示素子本体の各画素群で表示する画像を視差により分離して表示させる視差バリア層とを具備した表示素子の製造方法であって、
第1透明基板の一主面に前記視差バリア層を形成し、
この第1透明基板の一主面側を第2透明基板と貼り合わせ、
前記第1透明基板の他主面側を研磨してこの第1透明基板を所定厚みとし、
この研磨された第1透明基板の他主面上に前記機能性膜を形成して前記対向基板とする
ことを特徴とした表示素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−164702(P2008−164702A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351383(P2006−351383)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(302020207)東芝松下ディスプレイテクノロジー株式会社 (2,170)
【Fターム(参考)】