説明

表示部材の製造方法および表示部材用成形品

【課題】ランナーの切残し部分およびその近傍部分からの光漏洩を防止する。
【解決手段】ゲートを有する金型内に光拡散層6が入った状態で透明層5を、ゲートからの樹脂注入により形成するとともに、ゲートに対応して透明層5の後面5aから側方に延出するように形成されるランナー10が後面5aに繋がった部分の周辺に、その部分の外側よりも内側を後側に突出していてランナー10の延出方向Dに対する傾斜角度θが45゜以上である傾斜面5c、6cを形成する成形工程と、表示部材本体2を金型から取り出してランナー10を、傾斜面5c等に沿いかつ接近する状態で、共通軸の回りを揺動する一対の切刃を有する切断手段を用いて切断する切断工程と、表示部材本体2の前側とランナー10の切残し部分10dの側方とから遮光材料を吹き付けることにより、切残し部分10dとそれよりも内側の透明層後面5aとに遮光層を形成する遮光層形成工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のインストゥルメントパネルや、オーディオユニット等の各種機器等に備わった操作ボタン等の表示部材を製造する方法、および金型を用いて成形された表示部材用成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のインストゥルメントパネルや、オーディオユニット等の各種機器等に設けられる表示パネルには、夜間における視認性を確保するために文字・図形等の表示部分に照明機能が付加されることが多い。
【0003】
このような照明機能をもつ表示部材として、特許文献1に記載されたものが知られている。同文献記載の表示部材(同文献では「照光キー5」)は、その本体が光透過性を有する樹脂等からなり、当該本体の表面に遮光性の塗料からなる塗装膜が施されるとともに、この塗装膜の一部が適当な形状に剥がされている。
【0004】
このような表示部材に対してその裏側から光を照射すると、前記塗装膜が剥がされた非塗装部分においてのみ当該表示部材の本体を通じて表側への透光がなされるので、その非塗装部分の形状を夜間において明瞭に確認することが可能になる。
【0005】
前記特許文献1に記載される表示部材において、表示部材本体を完全な透明色にすると、光源に近い部分と遠い部分との輝度差が顕著となり、また、視野角によっては照明範囲外の部分が透けて見えて影となるおそれもある。従って、前記非塗装部分すなわち表示部分において視野角による輝度ムラを抑えた均一な照明を行うためには、その表示部材本体の材質として光拡散機能を有するものを選定するのが好ましく、具体的には、乳白色に混濁したアクリル樹脂やABS樹脂等が好適となる。
【0006】
その一方、前記非塗装部分では表示部材本体の表面がそのまま露出するので、照明が行われない昼間時では、前記非塗装部分の色は表示部材本体の色そのものとなる。この非照明時の照明対象部分の色は、前記塗装膜の色と明瞭に区別できる色であることが好ましく、例えば塗装膜の色が比較的淡色である場合には前記表示部材本体の色を黒っぽい色に選定することが望まれる。また、デザイン上、当該非塗装部分の色を特定の色に選定したいという要求が生ずる場合もある。
【0007】
ところが、前記のように表示部材本体に光拡散機能を持たせるためには、この表示部材本体の材質に限りがあり、このような関係から当該表示部材本体の色すなわち前記非塗装部分の非照明時の色も著しい制約を受けることになる。例えば、表示部材本体に前記のような乳白色に混濁したアクリル樹脂やABS樹脂等を用いる場合には、当該表示部材本体の色は自ずと白っぽい色に限られることになる。
【0008】
すなわち、従来の表示部材では、均一な照明を行おうとすると、表示部材に光拡散機能が求められるために非照明時における非塗装部分すなわち表示部分の色の選定が著しく制約されるという難点がある。
【0009】
かかる難点を解消するために、本願出願人は、図9(正面図)及び図10(背面図)に示すように、透光性を有する表示部材本体101と、この表示部材本体101の表側面のうち特定の表示部分102を除く部分を覆うように形成された遮光層103とを備え、前記表示部材本体101の裏側から光が照射されることにより前記遮光層103が存在しない領域が表側に照らし出される表示部材100において、前記表示部材本体101は、光拡散効果を有する光拡散層106と、この光拡散層106の表側に位置し、当該光拡散層106よりも透明度が高くかつ特定色に着色された透明層105とが積層されたものであり、かつ、前記光拡散層106は少なくとも前記特定部分102を裏側から覆う位置に形成されている構成のものを提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
この表示部材によれば、その表示部材本体の裏側から光を照らすことにより、当該光が表示部材本体の光拡散層及び透明層を通過し、さらにこの表示部材本体の表面において遮光層が存在しない表示部分のみを通過して表側に透光するため、当該表示部分の形状が明瞭に照らし出されるとともに、前記光拡散層の光拡散効果によって輝度ムラの少ない均一な照明を行うことができる。しかも、この光拡散層の色に制約があっても(例えば光拡散層が乳白色に混濁したものであっても)、その表側に積層される透明層の着色によって、非照明時における表示部材本体の色、すなわち、前記遮光層が存在していない部分の色を所望の色もしくはそれに近い色に設定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開平6−38127号CD−ROM
【特許文献2】特開2005−338499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、上述した表示部材は、以下のようにして製造される。即ち、図11に示すように、金型(図示せず)を用いて光拡散層106を一次成形し、続いて透明層105を二次成形して、両層が一体化された表示部材本体101を作製する。その後、表示部材本体101を金型から取り出し、透明層105に繋がっているランナー104を切断し、表示部材本体101の前面側(透明層105側)と、これにほぼ直交する側面側(少なくとも前記ランナー104があった部分の外側)とから、遮光材料を吹き付けて遮光層を塗装により形成することで製造される。
【0013】
上記ランナー104は、例えば図11及び図12に示すように表示部材本体101における外側の透明層105の後面に繋がる基端部104aを有し、その先端104b側が基端部104aから透明層105の底面105aにほぼ垂直となるように外方に向かって延びており、基端部104aの下側から先端104bまでがほぼ同一断面積となっている。
【0014】
このようなランナー104は、例えばニッパーといった切断手段により切断され、図13に示すようにランナー104の基端部104aの一部が、形成されたままの状態で残る。そのランナー104の切断は、前記底面105aに沿ってランナー104と直交する方向に行われる。そして、遮光層103を塗装により形成する際に、基端部104aのカットされずに残った切残し部分104cが後側に大きく突出し塗装の邪魔をするので、切残し部分104cの内奥側の面(上面)Aや更にその内奥側の透明層105の後面部分Bに遮光層103が非形成状態となった部分が残るという難点があった。つまり、遮光層103を形成する際の塗装は、切残し部分104cの外側から塗料を吹き付けることにより行うためである。
【0015】
したがって、上述したように切残し部分104cや透明層105の部分に遮光層103の非形成状態となった部分が残ると、ランナー104および透明層105が光を導く材料により構成されているため、前記特定の表示部分102とは異なる部分であって、遮光層103が形成されていない切残し部分104cや透明層105の部分から、本来漏洩すべきではないにも拘わらず、光が漏洩するという難点があった。
【0016】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、ランナーの切残し部分およびその近傍部分からの光漏洩を抑制することができる表示部材の製造方法および表示部材用成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1に係る本発明方法は、前側を表示側として用いられる透明層とその後側に形成される光拡散層とを有する表示部材本体の前側に、表示窓を残して遮光層が設けられた表示部材の製造方法であって、ゲートを有する金型内に前記光拡散層を構成する部材が入った状態で前記透明層を、前記ゲートからの樹脂注入により形成するとともに、前記ゲートに対応して前記透明層の後面から側方に延出するように形成されるランナーが前記透明層の後面に繋がった部分の周辺に、その部分の外側よりも内側を後側に突出していて前記ランナーの延出方向に対する傾斜角度が45゜以上である傾斜面を形成する成形工程と、前記表示部材本体を前記金型から取り出して前記ランナーを、前記傾斜面に沿いかつ接近する状態で、共通軸の回りを揺動する一対の切刃を有する切断手段を用いて切断する切断工程と、少なくとも前記表示部材本体の前側と前記ランナーの延出方向と平行な方向とから遮光材料を吹き付けることにより、前記表示窓を残し、かつ前記表示部材本体の前面と前記切残し部分とその切残し部分よりも内側の前記透明層の後面とに前記遮光層を形成する遮光層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
請求項2に係る本発明方法は、請求項1に記載の表示部材の製造方法において、前記傾斜面として、前記ランナーが繋がった部分の左右両外側に前記切断手段の切刃のそれぞれを側方から内側に向けて差し込みできる切刃差込み用傾斜面を形成することを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る本発明方法は、請求項2に記載の表示部材の製造方法において、前記傾斜面として、前記ランナーが繋がった部分よりも内側に、前記切断手段の先端部の進入を許容する進入許容傾斜面を更に形成することを特徴とする。
【0020】
請求項4に係る本発明方法は、請求項3に記載の表示部材の製造方法において、前記透明層の前記ランナーが繋がった部分よりも内側に前記光拡散層の一部を配設するとともに、その光拡散層の一部に前記切刃差込み用傾斜面に繋がる側面を有する凹部を形成し、その凹部の前記切刃差込み用傾斜面に繋がる側面により、前記進入許容傾斜面を形成することを特徴とする。
【0021】
請求項5に係る本発明の表示部材用成形品は、樹脂注入用ゲートを有する金型を用いて成形され、前側を表示側として用いられる透明層とその後側に形成される光拡散層とを有する表示部材用成形品であって、前記ゲートに対応して形成され前記透明層の後面から側方に延出するランナーと、前記透明層の後面における前記ランナーが繋がっている部分の周辺に形成され、その繋がっている部分の外側よりも内側が後側に突出していて前記ランナーの延出方向に対する傾斜角度が45゜以上となった傾斜面とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明方法による場合には、成形工程において、ゲートを有する金型を用いて表示部材本体を成形するとともに、ゲートに対応して形成されるランナーが透明層の後面に繋がった部分の周辺に、傾斜角度が45゜以上である傾斜面を形成する。そして、次の切断工程において、金型から取り出した表示部材本体に付いているランナーを、傾斜面に沿いかつ接近する状態で、共通軸の回りを揺動する一対の切刃を有する切断手段を用いて切断する。これにより、ランナーの切残し部分が発生しても、後側に突出する長さは短いものとなる。続いて遮光層形成工程において、切残し部分の切断面が切断前のランナーの延出方向に対して45゜以上で傾斜しており、当該延出方向から見た切断面の投影面積が後方から見た切断面の投影面積より大きいので、そのランナーの延出方向に対して直交する方向へランナーの切断面を寝た状態またはそれに近い状態となし得、ランナーの延出方向と平行な方向から遮光材料を吹き付けても、ランナーの切断面に対して厚みムラが無い状態または厚みムラが極めて少ない状態に遮光層を形成することができる。また、ランナー切残し部分の後側への突出長さが短いので、遮光層の非形成領域を無くしたり、非形成領域が残っても極めて小さいものにすることができる。よって、ランナーの切残し部分およびその近傍部分からの光漏洩を抑制することができる。なお、表示部材本体の前面の遮光層は、表示部材本体の前側からの遮光材料の吹き付けにより厚みムラが無い状態または厚みムラが極めて少ない状態となる。
【0023】
請求項2の発明による場合には、ランナーが透明層の後面に繋がった部分の左右両外側に、切断手段の切刃のそれぞれを側方から内側に向けて差し込みできる切刃差込み用傾斜面を形成しているので、その切刃差込み用傾斜面に沿った切断手段の各切刃の差し込みが可能となり、各切刃を傾斜面に沿って傾けることが実質的に可能になる。
【0024】
請求項3の発明による場合には、ランナーが繋がった部分よりも内側に進入許容傾斜面を形成しているので、その進入許容傾斜面に切断手段の先端部を進入させることが可能となり、これにより切刃の長手方向の中央部や基端側の切り易い部分を切断に用いることができ、切断を容易かつ確実に行わせることが可能になる。
【0025】
請求項4の発明による場合には、透明層よりも内側の光拡散層の一部に進入許容傾斜面を形成するので、透明層の後面に進入許容傾斜面の形成スペースが無くても、進入許容傾斜面を設けることが可能になる。
【0026】
請求項5の発明による場合には、金型に設けられたゲートに対応して透明層の後面から側方に延出するようにランナーが形成されるとともに、透明層の後面におけるランナーの繋がった部分の周辺には、傾斜角度が45゜以上である傾斜面が形成されている。よって、この傾斜面を利用することにより、傾斜面に沿いかつ接近する状態で切断手段による切断が可能になり、これによりランナーの切残し部分が発生しても、後側に突出する長さを短いものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る表示部材の正面図である。
【図2】図1の表示部材の背面図である。
【図3】図1のIII−III線による断面図である。
【図4】図3の一部を拡大して示す断面図である。
【図5】ランナーの切断前の状態を示す断面図である。
【図6】ランナーの切断前の状態を斜め下方から見た図である。
【図7】本発明方法において金型を用いて表示部材本体を成形するときの説明図である。
【図8】本発明方法における遮光層形成工程の説明図である。
【図9】従来の表示部材の正面図である。
【図10】図9の表示部材の背面図である。
【図11】従来の表示部材におけるランナーを切断する前の状態を示す断面図である。
【図12】ランナーの切断前の状態を斜め下方から見た図である。
【図13】従来の表示部材におけるランナーを切断した後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態につき具体的に説明する。
【0029】
図1は本実施形態に係る表示部材の正面図、図2は図1の背面図、図3は図1のIII−III線による断面図、図4は図3の一部Cを拡大して示す断面図、図5はランナーの切断前の状態を示す断面図、図6はランナーの切断前の状態を斜め下方から見た図である。
【0030】
この表示部材1は、例えば車載オーディオの操作ボタンであり、透光性を有する表示部材本体2と、この表示部材本体2の前面のうち特定の表示部分3を除く部分を覆うように形成された遮光層4とを備え、表示部材本体2が後側に押されると、前記表示部材本体2の後側から光が照射されることにより前記特定の表示部分3が前側に照らし出されて、オン操作が行われたことを表示するように構成されている。遮光層4は、遮光性を有する塗料からなる。
【0031】
表示部材本体2は、遮光層4側(前側)の透明層5と、透明層5の遮光層4とは反対側(後側)に形成された光拡散層6とを有する。
【0032】
透明層5は、例えばアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の透明樹脂により構成され、かつ、これに適当な色(例えば黒色)の粒子を混ぜることにより適当な濃度に着色されたものであり、光拡散層6よりも透光性の高いものとなっている。光拡散層6は、表示部材1の全体に光を拡散させる光拡散効果を有するものであり、その材質としては、例えばアクリル樹脂やポリカーボネート樹脂等の透明樹脂に拡散材粒子を混入させて乳白色に混濁させたものや、ABS樹脂のように本来的に乳白色に混濁したもの等が好適である。
【0033】
上記透明層5は、下端部5bを後側に突出した断面L字状にして形成されており、その後側に突出し、左右方向に長い下端部5bの後面5aには、下端部5bの幅方向の中央部にランナー形成部5dと切刃差込み用傾斜面5cが形成されている。切刃差込み用傾斜面5cは、ランナー形成部5dを挟んで左右両外側に設けられていて、後述するニッパーの一対の切刃を表示部材本体2の側方から内側に向けて差し込むために形成されている。各切刃差込み用傾斜面5cの幅寸法W1はニッパーの1つの切刃の幅寸法よりも大きい寸法に設定され、各切刃差込み用傾斜面5cの外側の辺5c−1どうしの間の距離L1は所定値として形成されている。また、切刃差込み用傾斜面5cはその外縁側(下側)よりも切刃差込み用傾斜面5cの内奥側(上側)が後側に突出するように形成されている。なお、切刃差込み用傾斜面5cの傾斜方向は、後で詳述する。
【0034】
また、各切刃差込み用傾斜面5cの外側には、それぞれ角部を斜めに落とした三角形状の凹部5eが形成されている。これらの凹部5eは、その一辺が各切刃差込み用傾斜面5cの外側の辺5c−1に一致している。更に、これらの切刃差込み用傾斜面5cの間には樹脂注入用ランナー10が延出方向Dに延びるように形成される。このランナー10は、表示部材1としては不要なものであり、後面5aに繋がった基端部10aで切断されるが、その一部は切り取られずに切残し部分10dとして残る。
【0035】
光拡散層6は、上述した透明層5の断面L字状に形成された下端部5bの上側(内側)に、同様の断面L字状をした下端部6aが形成されており、その下端部6aは透明層5の下端部5bよりも後側に突出している。この下端部6aは、基端部10aよりも上側(内側)に配設されている。上記下端部6aの下面側には、左右方向の中央部に上向きに窪んだ凹部6bが形成されている。この凹部6bは、前記距離L1と同一長さの幅寸法W3を有する。また、凹部6bの後端は光拡散層6の後端に一致していて、凹部6bの後側には側面が存在しない状態となっている。一方、凹部6bの前側側面は、幅寸法W3の幅を有するとともに、透明層5の切刃差込み用傾斜面5cと同じ角度で傾斜していて、後述するニッパーの先端部(把持部とは反対側)の進入を許容する進入許容傾斜面6cとして機能する。そして、上記切刃差込み用傾斜面5cおよび進入許容傾斜面6cは、前記ランナー10の延出方向Dに対して45゜以上の角度θで傾斜している(図5参照)。その傾斜方向は、矩形状をした切刃差込み用傾斜面5cの下辺(外側の辺)よりも上辺(内側の辺)が後側に突出し、同じく矩形状をした進入許容傾斜面6cの下辺(凹部6bの下側の辺)よりも上辺(凹部6bの底側の辺)が後側に突出するような方向である。
【0036】
このように構成された表示部材本体2の前面に対し、特定の表示部分3を除いて遮光層4が形成されるとともに、その前面に繋がる側面にも遮光層4が形成されている。つまり、本実施形態では、ランナー10の切残し部分10d、切刃差込み用傾斜面5cおよび進入許容傾斜面6cにおいて、遮光層4の非形成部分が存在しない。なお、透明層5の前面(表示部分3を除く)及び側面の外部露出面、光拡散層6の下端部6aの外部露出面においても、遮光層4の非形成部分が存在しない。
【0037】
次に、本実施形態における表示部材1の製造方法につき説明する。
【0038】
(1)まず、金型を用いて表示部材用成形品を成形する。
【0039】
図7に示すように、例えば金型11を用いた二色成形によって透明層5及び光拡散層6を一体成型して表示部材用成形品を得る。詳細には、まず光拡散層6を一次成形し、続いて透明層5を二次成形して表示部材用成形品を得る。前記表示部材用成形品は、表示部材本体2にランナー10が付いたものである。なお、金型11には、透明層5の下端部5bの後面5aに切刃差込み用傾斜面5cを形成でき、また光拡散層6の下端部6aの凹部6bに、前記切刃差込み用傾斜面5cに繋がる進入許容傾斜面6cを形成できるように、内部空洞11aを作製しておく。また、金型11には、切刃差込み用傾斜面5cにランナー10を形成できるようにゲート11bを作製しておく。上記ゲート11bは内部空洞11aに樹脂を注入するためのものである。図7においては、金型11内に一次成形した後の光拡散層6が入っていて、内部空洞11aと光拡散層6との間の空間に透明層5を二次成形する前の状態を表している。
【0040】
このような金型11により成形された表示部材用成形品における上記ランナー10は、左右の切刃差込み用傾斜面5cの間に基端部10aを有する。基端部10aの下端は透明層5の外縁に一致させ、基端部10aの上端10cは透明層5の後面5aの内側の端に位置するように設定されている。ランナー10の先端10b側は表示部材本体2の外方に突出する状態で前記延出方向Dに延出形成している。
【0041】
ランナー10の断面に関しては、この実施形態では一定の幅寸法W2とし、厚み寸法tに関しては、基端部10aでは上側になる程に小さく、下側になる程に大きくなっており、この基端部10aよりも下側ではほぼ一定に形成されている。なお、幅寸法W2は、2つの切刃差込み用傾斜面5cの距離L1よりも短く設定されていて、切刃差込み用傾斜面5cの幅寸法W1、ニッパーの切刃が差し込みできるような値に設定されている。
【0042】
また、ランナー10の上方(内奥側)には、光拡散層6の下部に上向きに窪む凹部6bが形成されている。つまり、前記下面5b−1に沿う方向と直交する方向であって、基端部10aの内側(図示例では上側)における進入許容傾斜面6cの端(図示例では上端)を基端部10aから所定距離離している。
【0043】
なお、上述した表示部材用成形品の作製は、二色成形により行っているが、光拡散層6を構成する部材を予め作製しておき、これを金型の内部に入れてセットし、その状態で透明層5を樹脂注入により成形してもよい。
【0044】
(2)次に、ランナー10を切断する。
【0045】
このランナー10の切断には、切断手段として、例えば共通軸の回りを揺動する一対の切刃を有するニッパー(図示せず)を用いる。このとき、ランナー10の基端部10aは、延出方向Dに対して角度θで傾いている切刃差込み用傾斜面5cに繋がっているので、図5に示すようにニッパーの先端部を切刃差込み用傾斜面5cに沿った方向に傾けることができ、その結果として切刃差込み用傾斜面5cに沿いかつ切刃差込み用傾斜面5cに接近した位置(一点鎖線にて示す)Eでランナー10の基端部10aを切断することが可能になる。これによりランナー10の切残し部分10dが、切刃差込み用傾斜面5cから後方に向かって僅かしか存在しない状態となる。図4に示す例では、ランナー10が下面5b−1から直接下方に延びているので、切残し部分10dはその外側端(下端)の厚みをほぼ0にして、下面5b−1より下側に切残し部分10dが突出しないようにしている。なお、内側端(上端)の厚みは小さくした状態となっている。
【0046】
また、切刃差込み用傾斜面5cの内奥側には、更に進入許容傾斜面6cを有する凹部6bが形成されているので、ランナー10の基端部10aと凹部6bの天井面との間に隙間が存在する。そして、その隙間を形成する部分は、ニッパーの先端部の進入を許容するスペースとして利用できるので、ニッパーにおける切刃の長手方向の中間部分またはそれより共通軸側の部分を、つまり切り易い部分をランナー10の切断に用いることが可能となって、切断を容易かつ確実に行わせることが可能になる。上記進入許容傾斜面6cを光拡散層6に設けた理由は、透明層5の下端部5bが薄肉に形成されていて、透明層5に進入許容傾斜面を設けることが不可能な場合であっても、進入許容傾斜面を設けることを可能とするためである。
【0047】
なお、切刃差込み用傾斜面5c及び進入許容傾斜面6cを傾斜させる角度θは、上述したように共に矩形状の切刃差込み用傾斜面5c及び進入許容傾斜面6cの下辺よりも上辺が後側に突出する傾斜方向において、ランナー10の延出方向Dに対して45゜以上にするのが好ましい。その理由は、遮光材料を吹き付ける切残し部分10dの側方に対して直交する方向へランナー10の切断面を寝た状態またはそれに近い状態となし得、換言すると延出方向Dから見た切断面の投影面積を、後側から見た切断面の投影面積よりも大きくなし得、これによりランナー10の切断面に対して厚みムラが無い状態または厚みムラが極めて少ない状態に遮光層4を形成することができるからである。
【0048】
また、上記切刃差込み用傾斜面5c等の幅寸法W1は、ニッパーの切刃の幅寸法よりも著しく大きい値に設定するのが好ましい。その理由は、基端部10aの両側にニッパーの各切刃を差し込み易くし得るからである。
【0049】
(3)次に、遮光層を形成する。
【0050】
この遮光層4の形成は、図8に示すように表示部材本体2の前側F及び側面側Gから遮光材料を吹き付けることにより行う。なお、側面側Gからの吹き付けは、例えば表示部材本体2の上下左右の4方向から行う。この吹き付けに際し、前述したようにランナー10の切残し部分10dの斜め下向きに傾いている面(下面)10eが延出方向Dに対して45゜以上で水平方向寄りに寝ているので、切残し部分10dの下面10eには塗装ムラがない又は少ない状態で遮光層4が形成される。また、切残し部分10dの内側端部分(上端部分)が切刃差込み用傾斜面5cから後方に向かって僅かしか存在しないので、つまり切残し部分10dの後方への突出長さが短いので、切残し部分10dの内奥側には、遮光層4の非形成領域を無くしたり、非形成領域が残っても極めて小さいものにすることができる。
【0051】
したがって、本実施形態による場合には、切残し部分10dおよびその近傍部分からの光漏洩を抑制することができる。
【0052】
なお、上述した実施形態では、切刃差込み用傾斜面5c及び進入許容傾斜面6cを同じ角度で傾斜させる構成としているが、本発明はこれに限らない。ニッパー先端部を逃すためのスペースとして形成している進入許容傾斜面6cについては、ニッパー先端部を逃すことができ、かつ遮光層の形成も可能な条件下で、異なる角度としてもよい。
【0053】
また、上述した実施形態では、透明層5の下端部5bが薄肉であるため、透明層5に切刃差込み用傾斜面5cを、光拡散層6に進入許容傾斜面6cをそれぞれ形成しているが、透明層5の下端部5bが厚肉の場合には透明層5のみに刃差込み用傾斜面と進入許容傾斜面の両方を形成してもよい。この場合、ランナーの基端部はその切刃差込み用傾斜面5cの上端部から少し下側に下げた位置に形成することが好ましい。
【0054】
更に、上述した実施形態では、ランナーの切断にニッパーを用いているが、本発明はこれに限らない。例えば、共通軸の回りを揺動する一対の切刃を有する挟み等の切断手段を用いることができる。
【0055】
更にまた、上述した実施形態では、車載オーディオの操作ボタンの製造に適用しているが、本発明はこれに限らず、自動車のインストゥルメントパネルや、オーディオユニット等の各種機器等に備わった操作ボタン等の表示部材の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 表示部材
2 表示部材本体
4 遮光層
5 透明層
5c 切刃差込み用傾斜面
6 光拡散層
6c 進入許容傾斜面
10 ランナー
10a 基端部
D 延出方向
θ 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前側を表示側として用いられる透明層とその後側に形成される光拡散層とを有する表示部材本体の前側に、表示窓を残して遮光層が設けられた表示部材の製造方法であって、
ゲートを有する金型内に前記光拡散層を構成する部材が入った状態で前記透明層を、前記ゲートからの樹脂注入により形成するとともに、前記ゲートに対応して前記透明層の後面から側方に延出するように形成されるランナーが前記透明層の後面に繋がった部分の周辺に、その部分の外側よりも内側を後側に突出していて前記ランナーの延出方向に対する傾斜角度が45゜以上である傾斜面を形成する成形工程と、
前記表示部材本体を前記金型から取り出して前記ランナーを、前記傾斜面に沿いかつ接近する状態で、共通軸の回りを揺動する一対の切刃を有する切断手段を用いて切断する切断工程と、
少なくとも前記表示部材本体の前側と前記ランナーの延出方向と平行な方向とから遮光材料を吹き付けることにより、前記表示窓を残し、かつ前記表示部材本体の前面と前記切残し部分とその切残し部分よりも内側の前記透明層の後面とに前記遮光層を形成する遮光層形成工程とを含むことを特徴とする表示部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表示部材の製造方法において、
前記傾斜面として、前記ランナーが繋がった部分の左右両外側に前記切断手段の切刃のそれぞれを側方から内側に向けて差し込みできる切刃差込み用傾斜面を形成することを特徴とする表示部材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の表示部材の製造方法において、
前記傾斜面として、前記ランナーが繋がった部分よりも内側に、前記切断手段の先端部の進入を許容する進入許容傾斜面を更に形成することを特徴とする表示部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の表示部材の製造方法において、
前記透明層の前記ランナーが繋がった部分よりも内側に前記光拡散層の一部を配設するとともに、その光拡散層の一部に前記切刃差込み用傾斜面に繋がる側面を有する凹部を形成し、その凹部の前記切刃差込み用傾斜面に繋がる側面により、前記進入許容傾斜面を形成することを特徴とする表示部材の製造方法。
【請求項5】
樹脂注入用ゲートを有する金型を用いて成形され、前側を表示側として用いられる透明層とその後側に形成される光拡散層とを有する表示部材用成形品であって、
前記ゲートに対応して形成され前記透明層の後面から側方に延出するランナーと、
前記透明層の後面における前記ランナーが繋がっている部分の周辺に形成され、その繋がっている部分の外側よりも内側が後側に突出していて前記ランナーの延出方向に対する傾斜角度が45゜以上となった傾斜面とを具備することを特徴とする表示部材用成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−228336(P2010−228336A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79448(P2009−79448)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】