説明

表裏面の偏心及び傾きの測定方法及びその装置

【課題】 レンズ等の表裏面の偏心及び傾きを高精度に測定する表裏面の偏心及び傾きの測定方法及びその装置を提供する。
【解決手段】 レンズ202と真球203a,203b,203cの形状を表面側及び裏面側から測定可能な被測定物保持治具201を用いてレンズ202の三次元形状データと真球203a,203b,203cの中心点座標を測定し、真球203a,203b,203cの中心点座標を基準にレンズ202の表裏面の三次元形状データを合成し、レンズ表裏面合成データからレンズの表面と裏面との間の偏心及び傾きを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ等の被測定物の表裏面上をプローブでX−Y軸方向に走査して各XY座標位置でのZ座標データを測定し、採取された3次元形状データから被測定物の表裏面の偏心及び傾きを求める測定方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レンズを表面用及び裏面用の金型から転写して製造する場合、金型の転写面の加工精度が許容範囲内であったとしても、金型の転写面に傾き又は偏心があると、2つの金型の位置関係にずれが生じ、それによって製造されたレンズの表面と裏面との光軸にずれができるため、レンズとして所要の光学特性が得られない場合が生じる。このレンズの表面と裏面との相対的傾き又は偏心を測定するための形状測定方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
上記形状測定方法は、測定対象物が保持された測定面上をプローブによりXY座標方向に走査し、プローブの各XY座標位置でのZ座標のデータ列を求め、このデータ列から測定対象物の三次元形状を測定できるようにした三次元形状測定機を用いるもので、前記測定手順により測定された測定対象物の表面側形状データと設計形状データとから、位置情報が既知な3点から求めた基準点からの表面形状のずれ量を算出し、同様の測定手順により測定された測定対象物の裏面側形状データと設計形状データとから、位置情報が既知な3点から求めた基準点からの裏面形状のずれ量を算出し、表面側形状のずれ量と裏面側形状のずれ量から表面側と裏面側との間の相対位置関係を算出している。
【0004】
また、測定対象物の外形と密着させた形状が既知な3個の位置決め体をプローブをXY座標方向に走査してZ座標方向のデータ列を求めて位置決め体の形状を測定し、測定された形状データと既知形状データとから3個の位置決め体の特徴点の座標を算出し、この特徴点から形成される平面と測定対象物の外形の中心点とを算出し、測定対象物をXY座標方向に走査して求めたZ座標方向のデータ列から得られる測定対象物の形状データと設計形状データとから、先に算出された測定対象物の外形中心点からのずれ量を算出している。
【特許文献1】特開2002−071344号公報(第3〜5頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、三次元測定機の測定誤差あるいは経時変化等の影響により各位置決め体の特徴点を誤差なく測定することは困難であり、表面側の位置決め体から求められる基準平面と、裏面側の位置決め体から求められる基準平面との相対位置関係を一致させることは非常に困難である。従って、上記従来技術によるレンズ表裏面の偏心及び傾きの測定方法では、測定誤差による位置決め体の各特徴点間の相対位置関係のずれ量あるいは基準点とレンズとの間の相対位置関係のずれ量がレンズ表面側と裏面側との傾き及び偏心に対する評価結果の精度を低下させる課題があった。また、経時変化が測定誤差に与える影響は不規則であるため、レンズの傾き及び偏心を高精度に測定することができない課題があった。
【0006】
本発明が目的とするところは、レンズ等の被測定物の表裏面三次元形状測定データから被測定物の表面と裏面の傾き及び偏心を高精度に測定する表裏面の偏心及び傾きの測定方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本願第1発明に係る表裏面の偏心及び傾きの測定方法は、板状体の表裏両面にX−Y平面が形成された被測定物保持治具の表裏両面から表裏面が露出するようにして1個以上の被測定物と3個以上の真球とを保持し、前記被測定物保持治具の表裏両面でプローブをX−Y軸方向に走査し、プローブのXY座標位置でのZ軸方向のデータ列を検出することにより、前記被測定物の三次元形状及び真球の中心点座標を測定し、測定された被測定物の表面側形状測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換し、測定された被測定物の裏面側形状測定データと真球の裏面側中心点座標とを被測定物の裏面側設計座標に変換し、表面側の真球中心点座標と裏面側の真球中心点座標との距離を最小にする座標変換量を算出し、前記座標変換量を用いて被測定物の裏面側形状測定データを被測定物の表面側設計座標系に座標変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、三次元形状合成データから被測定物の表面側に対する裏面側の偏心及び傾きを算出することを特徴とする。
【0008】
上記測定方法における被測定物の表面側に対する裏面側の偏心及び傾きの算出は、測定された被測定物の表面側形状測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換する処理工程において、真球の表面側中心点座標から任意の2個の真球の中心点を選択し、一方の真球中心点を始点とし他方の真球中心点を終点とするベクトルを算出し、前記ベクトルを被測定物の表面側設計座標系のX軸又はY軸と平行になるような座標変換量を算出し、この座標変換量を用いて被測定物の三次元形状データと真球の中心点座標とを座標変換し、被測定物の裏面側の三次元形状データを被測定物の表面側設計座標系に変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、この表裏面形状合成データから前記ベクトルを基準とした偏心及び傾きの方向を算出することが好適なものとなる。
【0009】
また、本願第2発明に係る表裏面の偏心及び傾きの測定装置は、表裏両面にX−Y平面が形成された板状体の表裏両面から表裏面が露出するようにして1個以上の被測定物と3個以上の真球とを保持する被測定物保持治具と、前記被測定物保持治具の表裏両面をX−Y軸方向に走査してX−Y平面と直交するZ軸方向のデータ列を検出することにより、前記被測定物の三次元形状及び真球の中心点座標を測定するプローブと、測定された被測定物の表面側形状測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換し、測定された被測定物の裏面側形状測定データと真球の裏面側中心点座標とを被測定物の裏面側設計座標に変換し、表面側の真球中心点座標と裏面側の真球中心点座標との距離を最小にする座標変換量を算出し、前記座標変換量を用いて被測定物の裏面側測定データを被測定物の表面側設計座標系に座標変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、前記三次元形状データから被測定物の表面側に対する裏面側の偏心及び傾きを算出する偏心傾き算出手段とを備えてなることを特徴とする。
【0010】
上記構成における偏心傾き算出手段は、測定された被測定物の表面側測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換する処理工程において、真球の表面側中心点座標から任意の2個の真球の中心点を選択し、一方の真球中心点を始点とし他方の真球中心点を終点とするベクトルを算出し、前記ベクトルを被測定物の表面側設計座標系のX軸又はY軸と平行になるような座標変換量を算出し、前記座標変換量を用いて被測定物の三次元形状データと真球の中心点座標とを座標変換し、被測定物の裏面側の三次元形状データを被測定物の表面側設計座標系に変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、この表裏面形状合成データから前記ベクトルを基準とした偏心及び傾きの方向を算出する構成が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レンズ等の表裏面で光軸が一致するように製造されるべき被測定物の表裏面の偏心及び傾きを高精度に評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態は、樹脂成形によって製造されるレンズを被測定物として、その表裏面の偏心及び傾きの測定に本発明に係る測定方法を適用した例について示すものである。
【0013】
図1は、レンズ表裏面の偏心及び傾きの測定方法を実施するために適用した3次元形状測定機100の構成を示すものである。この三次元形状測定機100は、レーザ測長光学系102及びプローブ103を搭載した移動体104をXステージ106及びYステージ107によってX−Y軸方向に自在移動できるように構成され、前記プローブ103は定盤105上に固定された被測定物101の測定面101aに沿ってZ軸方向に自在移動できるように構成されている。前記レーザ測長光学系102は、周知の光干渉法などによりプローブ103のZ軸方向の移動量を測定することができるので、被測定物101の測定面101a上をプローブ103がX−Y軸方向に走査するようにXステージ106及びYステージ107により移動体104を移動制御し、各XY座標位置におけるZ座標データを求めることにより、Z座標データの列に基づいて測定面101aの形状測定を実施することができる。
【0014】
上記構成になる三次元形状測定機100を用いてレンズ表裏面の偏心及び傾きを測定するために、図2(a)(b)に示すように構成された被測定物保持治具201にレンズ202を取り付け、この被測定物保持治具201を定盤105上に配置する。被測定物保持治具201は、板状のホルダ211のホルダ表面211a及びホルダ裏面211bからその一部が飛び出すように3箇所に真球203a,203b,203cが取り付けられ、ホルダ表面211a及びホルダ裏面211bから所定高さに突出させて3箇所に支持体205を設けて構成されている。この被測定物保持治具201及び三次元形状測定機100を用いた測定手順について、図3に示すフローチャート及び図4〜図7を参照してS1,S2…で示す手順に沿って説明する。
【0015】
(S1)被測定物保持治具201にレンズ202を固定する。このときレンズ202の偏心及び傾きの方向を評価するために、レンズ202の任意位置にマーク204を付け、このマーク204が真球203bと真球203cとを結ぶ直線に対して直交する方向になるようにレンズ202を固定する。ここでは、ホルダ211にレンズ202の凸側である表面202aがホルダ表面211a側に、レンズ202の凹側である裏面202bがホルダ裏面211b側になるように固定している。
【0016】
(S2)まず、レンズ表面202a側の測定データを得るために、被測定物保持治具201をそのホルダ211のホルダ表面211aが上向きとなるようにして三次元形状測定機100の定盤105上に配置する。このとき、真球203bと真球203cとを結ぶ直線が三次元形状測定機100の座標系205のY軸方向と平行になるようにする。
【0017】
(S3)ホルダ表面211aから露出した真球203aの表面をプローブ103によってX−Y軸方向に走査してZ軸方向のデータ列を求めることにより、真球203aの三次元形状データを得る。
【0018】
(S4)得られた真球203aの三次元形状データを三次元形状測定機100に備えた記録媒体に保存する。
【0019】
(S5)他の真球203b、203cについても同様にステップS3及びステップS4の手順を繰り返し行う。
【0020】
(S6)次に、レンズ表面202aをプローブ103によってX−Y軸方向に走査してZ軸方向のデータ列を求めることにより、レンズ表面202aの三次元形状データを得る。
【0021】
(S7)得られたレンズ表面202aの三次元形状データを三次元形状測定機100に備えた記録媒体に保存する。
【0022】
(S8)次いで、被測定物保持治具201をX軸回りに回動させてホルダ211の表裏面を反転させ、レンズ裏面202bの形状測定ができるようにする。このとき、被測定物保持治具201のホルダ表面211aにおける真球203b、203cの位置関係と、ホルダ裏面211bにおける真球203b’、203c’の位置関係が反転することに注意を要する。これは被測定物保持治具201のホルダ表面211aにおける真球203a,203b,203cと、ホルダ裏面211bにおける真球203a’,203b’,203c’との位置を対応づけていることによる。
【0023】
(S9)被測定物保持治具201のホルダ裏面211b側についてもS3〜S7の手順と同様に、真球203a’、203b’、203c’及びレンズ裏面202bの三次元形状データを取得し、それを記録媒体に保存する。
【0024】
(S10)記録媒体に記録されたホルダ表面211a側の真球203a〜203cの三次元形状測定データ(X,Y,Z)を読み出し、測定データと同一のXY座標における真球203a〜203cの設計データ(X,Y,Z’)と比較することにより、[数1]に示す二乗平均値RMS(Root Mean Square)を算出する。このRMSを小さくするように、測定データ(X,Y,Z)に対して平行移動及び回転移動に関する座標変換を行い、RMSの変化量が所定範囲内に収束するまで座標変換を行う。以下、この処理をアライメント処理と呼ぶ。このアライメント処理をホルダ表面211a側及びホルダ裏面211b側に対して実行することにより、真球203a,203b,203cの中心点の座標を算出する。
【0025】
【数1】

(S11)三次元形状測定機100の記録媒体に記録されたレンズ表面202a側の三次元形状測定データを読み出し、レンズ表面202a側の設計データと比較してアライメント処理を実行し、アライメント処理によって求められた座標変換量を用いてレンズ表面202a側の測定データを設計座標系に座標変換する。
【0026】
(S12)レンズ表面202a側のアライメント処理による座標変換量を用いてステップS10において求めたホルダ表面211a側の真球203a,203b,203cの中心点の座標データをレンズ表面202a側の設計座標系に座標変換する。図4(a)(b)は、座標変換を説明するもので、図4(a)は三次元形状測定機100の測定機座標系205におけるレンズ表面202a側の測定データ301と真球203a,203b,203cの中心点座標を表している。座標変換を行うことにより、レンズ表面202a側の測定データ301と真球203a,203b,203cの中心点座標との間の相対位置関係を保ったままで、図4(b)に示すように、レンズ表面202aの測定機座標系測定データ301を設計座標系304の測定データ302に座標変換する。
【0027】
(S13)レンズ裏面202b側についても同様に、三次元形状測定機100の記録媒体に記録されたレンズ裏面202b側の三次元形状測定データを読み出し、レンズ裏面202b側の設計データと比較してアライメント処理を実行し、アライメント処理によって求められた座標変換量を用いてレンズ裏面202b側の測定データを設計座標系に座標変換する。
【0028】
(S14)レンズ裏面202b側のアライメント処理による座標変換量を用いてステップS10において求めたホルダ裏面211b側の真球203a’,203b’,203c’の中心点の座標データをレンズ裏面202b側の設計座標系に座標変換する。図5(a)(b)は、座標変換を説明するもので、図5(a)は三次元形状測定機100の座標系205におけるレンズ裏面202b側の測定データ401と真球203a’,203b’,203c’の中心点の座標を表している。座標変換を行うことにより、レンズ裏面202b側の測定データ401と真球203a’,203b’,203c’の中心点座標との間の相対位置関係を保ったままで、図5(b)に示すレンズ表面202aの測定機座標系205の測定データ401を設計座標系404の測定データ402に座標変換する。
【0029】
(S15)図4に示す設計座標系304で表現されている真球303bの中心点を開始点とし、真球303cの中心点を終了点とする三次元ベクトルを考え、この三次元ベクトルがレンズ表面302の設計座標系404のY軸と平行になるようなZ軸回りの回転移動に関する座標変換量を算出し、この座標変換量を用いてステップS11でレンズ表面202aの設計座標系304で表現されているレンズ表面202aの測定データ302と、各真球203a,203b,203cの中心点の座標データ303a,303b,303cを座標変換する。
【0030】
レンズ202の偏心及び傾きを求める過程において複数の座標変換を必要とし、座標変換によりレンズ形状データの向きが複雑に変化する。また、レンズ202に付与したマーク204の位置情報はレンズ形状データに含まれない。これらの理由から偏心と傾きの方向を評価できないという問題が発生する。この問題に対し、レンズ202及び真球203a,203b,203cが被測定物保持治具201に固定されている状態において、レンズ202に付与したマーク204と真球203a,203b,203cとの間の位置関係が既知となることを利用することにより、偏心と傾きの方向とを評価することが可能となる。図4(b)において、設計座標系304で表現されている真球303bの中心点を開始点とし、真球303cの中心点を終了点とする三次元ベクトルを考え、この三次元ベクトルがレンズ表面302の設計座標系404のY軸と平行になるようなZ軸回りの回転移動に関する座標変換量を算出し、この座標変換量を用いてステップS11でレンズ表面202aの設計座標系304で表現されているレンズ表面202aの測定データ302と、各真球203a,203b,203cの中心点の座標データ303a,303b,303cを座標変換する。図6は、この座標変換を表したもので、図6(a)は設計座標系304のY軸に対して真球303bと真球303cとを結ぶベクトルが平行になっていない様子を示している。この配置のままではレンズ202に付与したマーク204の方向がわからないため、レンズ表面202aの偏心と傾きの方向を評価することができないので、真球303b及び真球303cの中心点を結ぶベクトルをレンズ表面202aの設計座標系304のY軸と平行になるように座標変換する。図6(b)は、座標変換後のレンズ表面の測定データ502と真球の中心座標データ503a,503b,503cとを表しており、真球中心座標503bと真球503cとを結ぶベクトル504の向きがレンズ表面設計座標系304のY軸に対して平行になることを表している。
【0031】
(S16)表面側の各真球の中心点座標503a,503b,503cに、裏面側の対応する各真球の中心点座標403a,403b,403cが最も近づくようにアライメント処理を行い、このアライメント処理によって求められた最適な座標変換量を用いてステップS11において求めたレンズ裏面側の設計座標系404において表現されるレンズ裏面側の測定データ402を座標変換することにより、レンズ表面側の設計座標系304におけるレンズ表裏面の三次元形状データを合成する。
【0032】
図7(a)は、座標変換前のレンズ裏面側の設計座標系404におけるレンズ裏面の測定データと各真球中心点座標403a,403b,403cとを示しており、図7(b)は、レンズ裏面側の測定データ402と各真球中心点座標403a,403b,403cをX軸回りに回転させる座標変換を行う過程を示し、図7(c)は、表面側の各真球中心点503a,503b,503cに裏面側の各真球中心点403a,403b,403cを最も接近させた状態を示しており、レンズ表面側の設計座標系304においてレンズ表裏面形状合成データ305,601が表現される。
【0033】
(S17)レンズ表裏面の偏心量と傾き量とを算出する。レンズ表裏面一体の設計形状データとレンズ表裏面一体の測定形状データとを比較すると、ステップS15において算出されたレンズ表裏面形状合成データはレンズ表面側設計座標系で表現されているため、レンズ表面側の形状データには偏心と傾きは存在しない。もし、レンズ202が偏心及び傾きを持つと仮定するならば、レンズ裏面側測定データが設計形状データ上に存在しないことになる。よって、レンズ裏面側の設計形状データと測定形状データとを比較し、アライメント処理を実行することによって得られる座標変換量からレンズ202の偏心量と傾き量とを算出することが可能となる。このアライメント処理で求められるレンズ202の偏心量と傾き量は、レンズ表面側に対するレンズ裏面側のずれ量を表す。また、アライメント処理によって得られる座標変換量には平行移動及び回転移動に関する量が含まれており、両者は符合により偏心及び傾きの方向が示される。ステップS1においてレンズ202に付与したマーク204が真球203bと真球203cとを結ぶ直線と直交した位置になるようにレンズ202を被測定物保持治具201に固定し、ステップS14において真球503bと真球503cとを結ぶベクトル504をレンズ表面側設計座標系304のY軸と平行になるように座標変換しているため、アライメント処理によって得られる偏心及び傾きの方向をレンズ202の評価結果として適用することができる。
【0034】
以上説明した測定手順は、被測定物保持治具201に1個のレンズ202を保持した場合であるが、複数のレンズ202を保持した場合には、ステップS6、S7の処理手順及びステップS11〜S17の処理手順を繰り返し実行する。
【0035】
また、上記測定手順において、真球及びレンズに対する測定手順は任意に決定することができ、レンズ表面側とレンズ裏面側の測定順序は任意に決定することができる。
【0036】
また、本実施形態においてレンズの凸側を表面側、凹側を裏面側としているが、レンズの形状に応じて何れの側を表面側とするかは任意に決定できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上の説明の通り本発明によれば、レンズ等の表裏面で光軸が一致するように製造されるべき被測定物の表裏面の偏心及び傾きを高精度に評価することが可能となる。この測定方法は、表面側を転写する金型と裏面側を転写する金型との同軸度を調整する際にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】被測定物の三次元形状を測定する三次元形状測定機の概略構成を示す斜視図。
【図2】実施形態に係る被測定物保持治具の構成を示す斜視図。
【図3】実施形態に係る表裏面の偏心及び傾き測定の手順を示すフローチャート。
【図4】レンズ表面側測定データの座標変換を説明する模式図。
【図5】レンズ裏面側測定データの座標変換を説明する模式図。
【図6】Z軸回りの回転移動に関する座標変換を説明する模式図。
【図7】レンズ表裏面形状データを合成するための座標変換を説明する模式図。
【符号の説明】
【0039】
101 被測定物
103 プローブ
106 Xステージ
107 Yステージ
201 被測定物保持治具
202 レンズ(被測定物)
202a レンズ表面側
202b レンズ裏面側
203a,203b,203c 真球
204 マーク
205 測定機座標系
301 測定機座標系でのレンズ表面側測定形状データ
302 設計座標系でのレンズ表面側測定形状データ
303a 設計座標系での表面側真球aの中心点座標
303b 設計座標系での表面側真球bの中心点座標
303c 設計座標系での表面側真球cの中心点座標
304 レンズ表面側の設計座標系
401 測定機座標系でのレンズ表面側形状測定データ
402 設計座標系でのレンズ裏面側測定形状データ
403a 設計座標系での裏面側真球aの中心点座標
403b 設計座標系での裏面側真球bの中心点座標
403c 設計座標系での裏面側真球cの中心点座標
404 レンズ裏面側の設計座標系
501 真球中心点を結ぶベクトル
502 座標変換後のレンズ表面側設計座標系でのレンズ表面側測定形状データ
503a 真球aの中心点座標
503b 真球bの中心点座標
503c 真球cの中心点座標
504 真球中心点を結ぶベクトル
505 座標変換後のマーク
601 レンズ表面側の設計座標系でのレンズ裏面側の測定形状データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状体の表裏両面にX−Y平面が形成された被測定物保持治具の表裏両面から表裏面が露出するようにして1個以上の被測定物と3個以上の真球とを保持し、前記被測定物保持治具の表裏両面でプローブをX−Y軸方向に走査し、プローブのXY座標位置でのZ軸方向のデータ列を検出することにより、前記被測定物の三次元形状及び真球の中心点座標を測定し、測定された被測定物の表面側形状測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換し、測定された被測定物の裏面側形状測定データと真球の裏面側中心点座標とを被測定物の裏面側設計座標に変換し、表面側の真球中心点座標と裏面側の真球中心点座標との距離を最小にする座標変換量を算出し、前記座標変換量を用いて被測定物の裏面側形状測定データを被測定物の表面側設計座標系に座標変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、三次元形状合成データから被測定物の表面側に対する裏面側の偏心及び傾きを算出することを特徴とする表裏面の偏心及び傾きの測定方法。
【請求項2】
測定された被測定物の表面側形状測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換する処理工程において、真球の表面側中心点座標から任意の2個の真球の中心点を選択し、一方の真球中心点を始点とし他方の真球中心点を終点とするベクトルを算出し、前記ベクトルを被測定物の表面側設計座標系のX軸又はY軸と平行になるような座標変換量を算出し、この座標変換量を用いて被測定物の三次元形状データと真球の中心点座標とを座標変換し、被測定物の裏面側の三次元形状データを被測定物の表面側設計座標系に変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、この表裏面形状合成データから前記ベクトルを基準とした偏心及び傾きの方向を算出する請求項1に記載の表裏面の偏心及び傾きの測定方法。
【請求項3】
表裏両面にX−Y平面が形成された板状体の表裏両面から表裏面が露出するようにして1個以上の被測定物と3個以上の真球とを保持する被測定物保持治具と、前記被測定物保持治具の表裏両面をX−Y軸方向に走査してX−Y平面と直交するZ軸方向のデータ列を検出することにより、前記被測定物の三次元形状及び真球の中心点座標を測定するプローブと、測定された被測定物の表面側形状測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換し、測定された被測定物の裏面側形状測定データと真球の裏面側中心点座標とを被測定物の裏面側設計座標に変換し、表面側の真球中心点座標と裏面側の真球中心点座標との距離を最小にする座標変換量を算出し、前記座標変換量を用いて被測定物の裏面側測定データを被測定物の表面側設計座標系に座標変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、前記三次元形状データから被測定物の表面側に対する裏面側の偏心及び傾きを算出する偏心傾き算出手段とを備えてなることを特徴とする表裏面の偏心及び傾きの測定装置。
【請求項4】
偏心傾き算出手段は、測定された被測定物の表面側測定データと真球の表面側中心点座標とを被測定物の表面側設計座標系に変換する処理工程において、真球の表面側中心点座標から任意の2個の真球の中心点を選択し、一方の真球中心点を始点とし他方の真球中心点を終点とするベクトルを算出し、前記ベクトルを被測定物の表面側設計座標系のX軸又はY軸と平行になるような座標変換量を算出し、前記座標変換量を用いて被測定物の三次元形状データと真球の中心点座標とを座標変換し、被測定物の裏面側の三次元形状データを被測定物の表面側設計座標系に変換して被測定物の表面側及び裏面側の三次元形状データを合成し、この表裏面形状合成データから前記ベクトルを基準とした偏心及び傾きの方向を算出する請求項3に記載の表裏面の偏心及び傾きの測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−78398(P2006−78398A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264100(P2004−264100)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】