説明

表面層加熱処理装置、表面層加熱・急冷処理装置

【課題】連続的に加熱処理ができる、エネルギーとスペースに無駄がない、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置を提供する。
【解決手段】円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する加熱処理装置であって、
加熱処理の対象の被処理物を保持する保持手段、被処理物を回転するように保持手段を回転させる回転駆動手段、前記表面層を加熱処理する加熱手段を備えた加熱処理、被処理物を加熱処理室外部から加熱処理室入口、加熱処理室、加熱処理室出口を通り加熱処理室外部へ導く被処理物搬送路、及び、被処理物を被処理物搬送路上で移動させて、加熱処理室内に搬入し、熱処理終了後の該被処理物を加熱処理室外へ搬出する被処理物搬送手段を備えた表面層加熱処理装置において、加熱手段が赤外線加熱源である表面層加熱処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒形の被処理物の外側面に配された樹脂などからなる表面層を加熱処理後に冷却処理を行う表面層加熱処理装置に関し、特に、電子写真方式等の、画像、文字等を定着させる定着装置に用いられる定着ベルト、なかでも表面がフッ素樹脂で被覆された定着ベルトの製造に好適に用いられ、形状精度の高い樹脂被覆無端状ベルトの表面樹脂を非晶質化する技術に応用することができる。
【背景技術】
【0002】
電子写真を用いた画像形成装置の定着部に用いられるベルトやローラには、柔軟性を有する基材表面に熱可塑性樹脂を被覆した構成を備えている(特許文献1)。
【0003】
ここで被覆される熱可塑性樹脂の材質としては、トナーに対する離型性、およびトナー定着温度(通常180〜200℃)での連続耐久性などが要求されるため、例えば、フッ素樹脂等の離型性樹脂が用いられることが多い。フッ素樹脂としてポリテトラフルオロエチレン共重合(PTFE)が用いられてきたが、最近では、テトラフルオロエチレン−ポリエチレンフルオロビニルエーテル共重合体(PFA)の方が加工性がよいので、PFAが主に定着用の離型層の材料として使用されている。
【0004】
ここで、トナーに対する充分な離型性を得るため、前記樹脂面は、粗さRz:1〜3μm、うねり:2〜4μm程度の平滑性が要求される。
【0005】
このような平滑性を得る方法として、樹脂被覆表面温度を、被覆された樹脂の軟化または溶融温度より高い温度に加熱し、溶融状態から急冷凝固させる(加熱・急速冷却処理)ことによって液体金属に類似した非晶質面を得る方法がある。
【0006】
ここで、フッ素樹脂からなる層を成膜する際には、巨大なオーブンに被処理物を投入し、焼成する方式が一般的であった(バッチ焼成)。この際の問題点としては、とりわけこの定着ベルトの場合は先述のように離型層の下にシリコーンゴム層が存在するので、そのシリコーンゴムに熱的ダメージを与えてしまうことがあげられる。
【0007】
シリコーンゴムは耐熱性を向上したものであっても、340〜350℃の加熱温度が限界であり、これより高い温度履歴を受けるとその柔軟性が損なわれ、ゴムとしての機能が低下する傾向にある。一方、フッ素樹脂は、融点が310〜320℃程度であり、溶融後その表面の凹凸が平滑化(レベリング)して平滑な面とするためには、加熱処理による被処理物の温度を320±10℃の範囲で均一に保つ必要がある。これを一般的なオーブン(加熱炉)で実施しようとすると、上述の2つの温度条件を満たす均熱帯はオーブンの中央部にしか形成できず、その他の部分、すなわち、炉内の中央部以外は無駄な空間となってしまい、この無駄な空間を加熱するのにもエネルギーが使われてしまうために、熱効率が非常に悪かった。
【特許文献1】特開2002−361729公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の問題を解決すべく、連続的に加熱処理ができる、エネルギーおよびスペースに無駄がない、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置を提供することを課題とする。
【0009】
また、本発明は、連続的に加熱処理ができる、エネルギーとスペースに無駄がない、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置を備えた表面層加熱・急冷処理装置を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表面層加熱処理装置は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する加熱処理装置であって、加熱処理の対象の被処理物を、その円筒の軸が垂直方向になるように保持する保持手段、前記被処理物を、その円筒の軸を中心に回転するように前記保持手段を回転させる回転駆動手段、前記表面層を加熱処理する加熱手段を備えた加熱処理室、前記被処理物を前記加熱処理室外部から加熱処理室入口、加熱処理室、加熱処理室出口を順次通り、該加熱処理室外部へ導く被処理物搬送路、及び、前記保持手段で保持された前記被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させて、前記加熱処理室内に搬入するとともに、熱処理終了後の該被処理物を該加熱処理室外へ搬出する被処理物搬送手段を備えた表面層加熱処理装置において、上記加熱手段が、前記加熱処理室の被処理物搬送路の両側面に設けられた赤外線ヒータであることを特徴とする。
【0011】
本発明の表面層加熱処理装置は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載の表面層加熱処理装置において、前記赤外線ヒータは被処理物の搬送方向に対して複数の加熱ユニットにユニット化されているとともに、各加熱ユニットは高さ方向に対して、それぞれ線状の赤外線ヒータ1つずつを備えた複数の加熱ゾーンに分割されており、各加熱ゾーンには、線状の赤外線ヒータが、水平に配された複数の水平配線部と、該水平配線部の端部から上下に隣接する他の水平配線部の端部を略垂直に繋ぐ連絡配線部とを形成するように一筆書き状に配置されて、かつ、各加熱ユニットの複数の水平配線部が等間隔に配置されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の表面層加熱処理装置は、請求項3に記載の通り、請求項2に記載の表面層加熱処理装置において、前記赤外線ヒータの加熱ユニットにおける線状の赤外線ヒータの水平配線部の各等間隔のピッチが、隣接するの赤外線ヒータの加熱ユニットの線状の赤外線ヒータの各水平配線部のピッチと、1/2ピッチずらして配されていることを特徴とする。
【0013】
本発明の表面層加熱処理装置は、請求項4記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の表面層加熱処理装置において、前記保持手段が、前記被処理物のそれぞれ上下の両端付近を被処理物の内側面から支持する2つの円形板と、該2つの円形板を固定する軸とを備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の表面層加熱処理装置は、請求項5に記載の通り、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の表面層加熱処理装置において、前記被処理物搬送手段が、前記被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させ、前記加熱処理室内に搬入する被処理物搬入手段と該加熱処理室内の、加熱処理済みの該被処理物を該加熱処理室から搬出させる被処理物搬出手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の表面層加熱処理装置は、請求項6に記載の通り、請求項5に記載の表面層加熱処理装置において、前記被処理物搬送手段が、前記加熱処理室内の前記被処理物を、前記加熱処理室出口に向かって搬送する被処理物加熱処理室内搬送手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は上記課題を解決するため、請求項7に記載の通り、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の表面層加熱処理装置を備え、かつ、該表面層加熱処理装置の加熱処理室出口外側に該表面層加熱処理装置により加熱処理された表面層に対して急速冷却処理を行う急速冷却処理手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は請求項8に記載の通り、請求項7に記載の表面層加熱・急冷処理装置において、前記急速冷却処理手段での急速冷却処理中に前記加熱処理時での前記被処理物の回転とは異なった回転速度で該被処理物を回転させる冷却処理時回転駆動手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は請求項9に記載の通り、請求項7または請求項8に記載の表面層加熱・急冷処理装置において、前記急冷処理後の保持手段を前記加熱処理室の入口付近へ循環可能とする循環搬送路を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は請求項10に記載の通り、請求項7ないし請求項10の何れかに記載の表面層加熱・急冷処理装置において、前記冷却手段が、冷却液を加熱処理後の被処理物に噴射するものであることを特徴とする。
【0020】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は請求項11に記載の通り、前記回転駆動手段による被処理物の回転数を検知する回転検知手段、前記加熱手段の加熱温度を測定する加熱処理温度測定手段、及び、前記冷却手段による被処理物の冷却速度を監視する冷却速度測定手段とを備えるとともに、これらにより測定される、被処理物の回転数、加熱手段の加熱温度、及び、冷却速度を所定の基準範囲と比較し、該基準範囲から外れる異常発生を検知する異常発生検知手段を備えていることを特徴とする。
【0021】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は請求項12に記載の通り、請求項7ないし請求項11の何れかに記載の表面層加熱・急冷処理装置において、前記被処理物が定着ベルトであることを特徴とする。
【0022】
本発明の加熱処理装置は請求項13に記載の通り、円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する加熱処理装置であって、該表面層を320℃±10℃に加熱する赤外線ヒータを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の表面層加熱処理装置によれば、連続的に加熱処理ができる上、赤外線加熱によりエネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置とすることができ、例えば、従来、エネルギーとスペースとの無駄が多かった表面がフッ素樹脂で被覆された定着ベルトの製造に好適に用いることができる。
【0024】
また、請求項2に記載の表面層加熱処理装置によれば、被処理物の加熱開始初期の温度上昇勾配を調整することができ、無理のない加熱処理が可能となるとともに、縦方向の温度分布も調整することができるので、通常であれば被処理物の上部の温度が高くなる現象を抑制して、均一な加熱が可能となる。
【0025】
また、請求項3に記載の表面層加熱処理装置によれば、被処理物の加熱処理における温度斑がより低減される。
【0026】
また、請求項4に記載の表面層加熱処理装置によれば、保持手段の熱容量を極めて小さくすることができるので、加熱処理での熱効率が良好となると共に、後工程で急速冷却処理を行う場合には、高い急速冷却処理効果が得られる。
【0027】
また、請求項5に記載の表面層加熱処理装置は、被処理物搬送手段が、前記被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させ、前記加熱処理室内に搬入する被処理物搬入手段と該加熱処理室内の、加熱処理済みの該被処理物を該加熱処理室から搬出させる被処理物搬出手段とを備えていることにより、後工程で急速冷却処理を行う場合に、加熱処理室内への搬入速度に束縛されずに加熱処理室から迅速に被処理物を外部に搬出することができるうえ、温度が低くなりやすい加熱処理室の出口付近の滞在時間を短くすることができるので、搬出過程での温度低下が少ないため、非常に高い急速冷却処理効果が得られる。
【0028】
また、請求項6に記載の表面層加熱処理装置が、被処理物搬送手段が、前記加熱処理室内の前記被処理物を、前記加熱処理室出口に向かって搬送する被処理物加熱処理室内搬送手段を備えているので、所定の昇温速度で被処理物を昇温させることができる。
【0029】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置によれば、連続的に加熱処理ができる上、赤外線加熱によりエネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置を備えた表面層加熱・急冷処理装置とすることができる。
【0030】
また、請求項8に記載の表面層加熱・急冷処理装置によれば、急速冷却処理中に加熱処理処理での回転速度より高い回転速度で回転させることにより、冷却時の温度勾配の斑の発生を防止することができ、均一な急速冷却処理ができるので、冷却材の無駄が無くなると共に、急速冷却処理効果が確実に得られる。なお、加熱処理時では高速回転は急速冷却処理に比べ遅い回転であってもよく、不必要な早い速度での回転はエネルギーの無駄となると共に故障の原因となる可能性がある。
【0031】
また、請求項9に記載の表面層加熱・急冷処理装置によれば、前記急冷処理後の保持手段を前記加熱処理室の入口付近へ循環可能とする循環搬送路を有するので、作業効率の高い表面層加熱・急冷処理が可能となる。
【0032】
また、請求項10に記載の表面層加熱・急冷処理装置によれば、冷却液を加熱処理後の被処理物に噴射するので、空冷処理に比べ、遙かに迅速な冷却が可能となり、急速冷却処理の効果が確実に得られる。
【0033】
また、請求項11に記載の表面層加熱・急冷処理装置によれば、装置上の不都合を検出することができるので、異常発生時の不良品が、良品(良好な加熱・急冷処理がなされたもの)に混じることがなく、製品の信頼性が向上する。
【0034】
また、請求項12に記載の本発明の表面層加熱・急冷処理装置によって処理された定着ベルトはトナーに対する離型性、およびトナー定着温度での連続耐久性良好な表面状態が得られる。
【0035】
また請求項13に記載の表面層加熱処理装置によれば、赤外線加熱によりエネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置とすることができ、従来、エネルギーとスペースとの無駄が多かった表面がフッ素樹脂で被覆された定着ベルトをシリコーンゴム層を損なうことなく、効果的に加熱・急速冷却処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明における被処理物搬送手段は、ベルトコンベア、各種アクチュエータ等を用いることができる。ここで被処理物搬送手段を複数の部分に分割し、複数のベルトコンベアや、複数のアクチュエータから構成することにより、加熱処理室内に搬入する被処理物搬入手段、加熱処理室内の前記被処理物を加熱処理室出口に向かって搬送する被処理物加熱処理室内搬送手段、および、加熱処理済みの該被処理物を該加熱処理室から搬出させる被処理物搬出手段等に分割することが可能となり、それぞれ最適な速度で被処理物を搬送することが可能となる。
【0037】
本発明における加熱処理室は、安定した、確実な加熱処理を得るためにその入口、及び、出口に扉を有することが望ましく、被処理物の搬入、搬出時に開扉され、それ以外は閉扉されることが望ましい。このとき、上記被処理物搬送手段に連動して自動的に開閉されるようになっていることが望ましい。
【0038】
表面層加熱処理装置と表面層加熱処理装置により加熱処理された表面層に対して急速冷却処理を行う急速冷却処理手段とを備えた表面層加熱・急冷処理装置としては、急速冷却処理手段は加熱処理室出口外側、加熱処理室に隣接して設けてあることが確実に急冷処理効果が得られる点で望ましい。
【0039】
急速冷却処理手段としては、水等の冷却液やその他の冷媒を用いる場合、回りに飛び散るなどの影響を避けるため、必要に応じて壁、天井、および、扉等で周囲から隔離されていることが望ましい。また、排気ダクト等の排気設備を設けてもよい。
【0040】
本発明において、赤外線ヒータを加熱手段として用いることが必要である。赤外線ヒータにより、温度斑が少ない、効率的でコンパクトな表面層加熱処理装置とすることが可能となる。このような赤外線ヒータとしては、遠赤外線による遠赤外線ヒータであっても当然良く、その場合も本発明に含まれる。また、通電により直接赤外線を輻射するヒータであっても、セラミック等を加熱させることにより赤外線を輻射させるヒータであっても、あるいは、これら両者を組み合わせたものを用いても良い。
【0041】
ここで、シリコーンゴムを損なうことなく、フッ素樹脂からなる表面層に対して充分な加熱・急速冷却処理効果が得られるような温度にすることができる、すなわち、被処理物の表面層を320℃±10℃に加熱可能な赤外線ヒータとしては例えば坂口電熱社からゼラコンヒータとして入手可能である。
【0042】
このような赤外線ヒータを加熱源として用いる場合、温度斑の発生を防止するため、加熱処理では被処理物を、その円筒の軸を中心に回転させることが必要である。
回転速度しては、温度斑が発生しない速度とするが、通常10〜60rpmと比較的低速の回転速度で充分である。
【0043】
回転駆動手段としてはモータなどによる直接駆動も可能であるが、330℃付近の温度を勘案すると、加熱処理室外にモータを設置し、チェーン、ギア等により加熱処理室内の保持手段にその動きを伝えるようにすることが望ましい。
【0044】
なお、この被処理物の回転は、例えば保持手段の回転軸の一部を削ったり、あるいは、回転軸にフィン状のものを取り付けた上、電球、発光ダイオードなどの光源と、光センサとを組み合わせることにより、回転の有無、あるいは、回転数の異常を検出することができる。
【0045】
以下に、本発明の表面層加熱処理装置を有する表面層加熱・急冷処理装置において、外側面に塗布された表面層を有する円筒形の被処理物として、定着装置に用いられる定着ベルトとして用いられる樹脂被覆無端状ベルトの表面の熱可塑性樹脂の非晶質化の例を、図1〜図10を用いて説明する。
【0046】
図1には、加熱・急速冷却処理を行う対象の、定着ベルト(樹脂被覆無端状ベルト)の一例6のモデル断面図を示す。図2には本発明に係る表面層加熱処理装置を有する表面層加熱・急冷処理装置全体の正面図を、図3には同装置を上方からモデル的に見た説明図を示す。
【0047】
また、図4にはマンドレルとパレットとが組合せされた状態の側面を示す。また、図5はパレット、ガードレール、及び、アクチュエータの関係を説明するモデル説明図である。図6(a)は上記装置の表面層加熱処理装置の加熱処理室の上面図、図6(b)は同加熱処理室の図6(a)のLLにおける断面図、図7(a)は赤外線ヒータの2つの加熱ユニットをその正面からみた図であり、図7(b)はその加熱ユニットの断面図であって、熱電対設置位置を示すモデル図である。
【0048】
図1に今回の被処理物である定着ベルトの断面図を示す。1は定着ベルト(被焼成物)の基体であり、その材質は樹脂(この例ではポリイミド)で無端状ベルト形状をしている。その上に2の弾性層としてのシリコーンゴム層、3の表面層(離型層)としてのフッ素樹脂層がそれぞれのプライマ層4(接着性向上層)を介して積層されている。
【0049】
本例では、基体1を樹脂からなる単層構造としたが、強度を向上させるために、基体1を金属担体、あるいは金属と樹脂とからなる複層構造とすることもできる。ここで、基材1に用いる樹脂として、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等が挙げられる。
【0050】
本発明に係る表面層加熱処理装置を有する表面層加熱・急冷処理装置は図2及び図3に示すように、加熱処理室αと急速冷却処理装置βを備え、これら装置を通る環状の2本のガードレール14を有している。
【0051】
このガードレール14に沿って被処理物(定着ベルト中間製品)6を、その円筒の軸が垂直方向になるように保持する保持手段であるマンドレルとパレット5とが循環して移動するようになっている。
【0052】
ここで、ガードレール14の下にはパレット5をガードレール14に沿って搬送するためのアクチュエータ15〜20が設けられている。
【0053】
ここで、図4に、加熱処理の対象の被処理物(定着ベルト中間製品)6を、その円筒の軸が垂直方向になるように保持する保持手段であるマンドレルと、パレット5が組み合わされた状態を示す。
【0054】
マンドレルは、被処理物6のそれぞれ上下の両端付近を被処理物の内側面から支持する2つの円形板7と、これら2つの円形板7を固定する軸8とを備えている。このようなマンドレルによって保持されるため、被処理物6は円筒形状を保った状態で保持される。
【0055】
一方、符号5はパレットを示しており、パレット5は回転軸9を回転させるためのスプロケット10、軸受(ベアリング)11、回転軸9下端部に設けられたクラッチ12(回転軸9の回転を1方向のみに規定する)、これらを支えるベース13から構成されいる。
【0056】
ベース13は断面が「コの字」状の2本のガードレール14により、その両端の、側面及び上下が挟持されて水平を保ったまま搬送されるようになっている(図5参照)。ベース13には係合穴13aが設けられており、この係合穴13aはガードレール14下に設けられたアクチュエータ15〜20のそれぞれのガイド付きシリンダ34の係合ピン35が、下方から上昇することにより係合し、ベース13(従って、マンドレルと、パレット5及びマンドレルによって保持される被処理物6も)はガードレール14に沿ってアクチュエータ15〜20のガイド付きシリンダ34の動作によって、図3中矢印A〜Eの方向に搬送されるようになっている。
【0057】
加熱処理室αには図3に示すようにガードレール14の両側面に加熱手段として赤外線ヒータ21が向かい合わせに設けられており、加熱処理室αの内部と外部とは断熱板22により仕切られている。被処理物6が搬入され、及び、搬出される加熱処理室αの入口と出口とにはそれぞれシャッタ23a及び23bが設けられ、被処理物6の搬入時、及び、搬出時のみ開けられるようにアクチュエータ15及びC16とそれぞれ連動して制御されている。
【0058】
ここでで用いられている赤外線ヒータは被処理物の表面層を320℃±10℃に加熱可能な赤外線ヒータであり、坂口電熱社製である。
【0059】
加熱処理室α内部ではパレット5のスプロケット10と係合してパレット5の回転軸(とマンドレルにより保持される被処理物6)を回転させるための無端チェーンZZが図示しないモータによって駆動されている。
【0060】
この例では、図6(b)に示すように加熱処理室α内部の赤外線ヒータ21はガードレール14の長さ方向(被処理物6の搬送方向に対して)に16分割されており、それぞれユニット化された加熱ユニット40となっている前記赤外線加熱源は複数の加熱ユニット、この例では16個の加熱ユニット40にユニット化されているとともに、各加熱ユニット40は図7(a)に示すように、高さ方向に対して、それぞれ線状の赤外線を輻射する電熱線51を1本ずつを備えた複数(この例では6つ)の加熱ゾーン(セラミックファイバーヒータ)50に分割されている。
【0061】
ここで線状の赤外線加熱源である電熱線51は、水平に配された複数の水平配線部51aと、その水平配線部51aの端部から上下に隣接する他の水平配線部51aの端部を垂直に繋ぐ連絡配線部51bとを形成するように一筆書き状に配置されていて、これら、各加熱ユニット40の複数の水平配線部51aが等間隔に配置されている(この例ではピッチPは一定)。
【0062】
さらに赤外線加熱源の加熱ユニット40における線状の赤外線加熱源51の水平配線部51aの各等間隔のピッチは、隣接するの赤外線加熱源の加熱ユニット40の線状の赤外線加熱源51の各水平配線部51aのピッチと、1/2ピッチ(P/2)ずらして配されている。
【0063】
それぞれの加熱ユニット40の各加熱ゾーン(本例では6つ)には図6(b)に示すようにその中央部の温度を測定する熱電対温度計(シース型のK熱電対)52が設けられている。
【0064】
本例では、16個の加熱ユニット40の内、入り口側の1番目から3番目の3つの加熱ユニットは、他の加熱ユニットに比べ温度が低く設定されており、加熱処理室に導入された被処理物6の加熱開始初期の昇温勾配をゆるやかなものとすることができるようになっている。急速な加熱による障害発生を防止することができる。
【0065】
また、各加熱ユニットの6つのゾーンの高さ方向の長さの和は被処理物6の高さ方向の長さよりも充分長く、かつ、各加熱ユニット40のゾーン50は被処理物6全体を均一に加熱するように温度設定されており、具体的には、下部のゾーン50は上部のゾーン50に比べ高い温度に設定されている。
【0066】
加熱処理室αの上部には被処理物6を加熱処理する際に発生するガスを排出する排気ダクト42が設けられている。
【0067】
このような加熱処理室αの出口側外には加熱処理室αに隣接して急速冷却処理装置βが設けられている。
【0068】
この例では、急速冷却処理装置βは冷却液、例えば水などを加熱処理室αから搬出された加熱処理済みの被処理物6に対してノズル24から噴射、噴霧することにより急速に冷却する装置であり、冷却液は被処理物6に吹き付けられて蒸発し、被処理物6に達しなかったミスト、細かい水滴とともに急速冷却処理装置βの上部に設けられたダクト25から排出される。ここで、急速冷却処理装置βの前後には放射温度計26a及び26bが設置されており、急冷処理の前後で温度を測定することができる。
【0069】
なお、この急冷処理によってもマンドレルの円形板7は比較的温度が高いので、円形板7を冷却するための冷却用ファン27が放射温度計26bの被処理物6の移動の下流側のコーナーJ付近に設置されている。
【0070】
次にこの表面層加熱・急冷処理装置の動作について説明する。
【0071】
フッ素樹脂層3が塗布された被処理物6をマンドレルに保持させ、パレット5にセットする。セットは図3中点線で示したHゾーンでおこなう。
【0072】
待機場所Mのパレット5はコーナーNに運ばれ、アクチュエータ20によりコーナーIに向かって矢印A方向に送られる。このときパレット5が一つ前のパレット5を押し、それがもう一個前のパレット5を押す、いわゆる「玉突き方式」で、順次、被処理物6を保持するマンドレルをパレット5にセットしながらコーナーIへ前進されていく。
【0073】
パレット5がコーナーIに到着すると、アクチュエータ15により矢印Bの方向に駆動され、加熱処理室αへ搬入される。このとき、アクチュエータ15に連動して加熱処理室α入口のシャッタ23が開閉される。
【0074】
加熱処理室αに搬入されたパレット5はアクチュエータ15からアクチュエータ16へと引き継がれ、加熱処理室α内を搬送される。
【0075】
加熱処理室αの入り口の3つの加熱ユニットは上述のようにそれより下流側の加熱ユニットに比べ低い温度に設定されているので、被処理物6の加熱開始初期の昇温勾配は緩やかなものとすることが可能であるが、さらにアクチュエータ16によるパレット5の動き(早さ)を制御することにより被処理物6はより適切な昇温速度で加熱される。
【0076】
アクチュエータ16による搬送範囲以降の加熱処理室α内での移動は、上述と同じ「玉突き方式」で、新たなパレット5が加熱処理室αに搬入されるたびに加熱処理室αのパレット5が順次パレット1枚分の距離を進む。このように、焼成ゾーン内はパレットが1列に並んでおり、アクチュエータ16で加熱処理室α入口から投入されたパレット5を次々搬送することにより焼成ゾーン内のパレッット全体が1パレット1つ分前進する構造となっている。
【0077】
加熱処理室αでは、内部に備えられたチェーンZZとの各パレットのスプロケット10とが噛合し、図示されていないモータにより、加熱処理室α内で加熱処理される被処理物6を回転(10〜60rpm)させるので、温度斑の少ない加熱処理が可能となっている。
【0078】
アクチュエータ17は加熱処理室αの出口付近に搬送されたパレット5を加熱処理室α出口から加熱処理室α外部へ搬出し、かつ、急冷処理装置βを経てコーナーJへ搬送するためのアクチュエータであり、上述のチェーンZZとは別にパレット5の回転軸9を高速(300〜700rpm)で回転駆動させるモータ(図示しない)が設けられている。この機構により急速急冷処理時でのパレットの回転軸9は高速回転される。
【0079】
このように、加熱処理室α内部の被加熱物6を加熱処理室α内部での搬送速度に束縛されずに加熱処理室αから迅速に外部に搬出することができるアクチュエータ17を設けることにより、加熱処理室αからの搬出過程での温度低下が少ない状態で、急冷処理装置βへ被加熱物6を供給することができ、また、温度が低くなりやすい加熱処理室の出口付近の滞在時間を短くすることができるので、非常に高い急速冷却処理効果が得られる。
【0080】
このように、加熱処理済みの被処理物6は回転しながら急冷処理装置βに搬送されるが、その搬送の途中で被処理物6の表面温度が放射温度計(表面温度計)26aにより測定される。
【0081】
急冷処理装置βでは水などの冷却液が被処理物6表面にノズル24に噴射されることにより、急冷処理装置βを搬送される被処理物6の表面は急速冷却処理される。
【0082】
急速冷却処理済みの被処理物6がセットされたパレットは続いてアクチュエータ17によりコーナーJへ搬送されるが、この搬送時に被処理物6の表面温度が放射温度計26bにより測定される。
【0083】
上記急速冷却処理によっても、マンドレルの円形板7はかなりの余熱を持っており、そのためコーナーJ付近に設けられた冷却用ファン27により取り扱いが容易な温度に冷却される。
【0084】
なお、コーナーJからコーナーKへはアクチュエータ18により搬送されるが、その搬送の途中で、パレット5から、被処理物6(この場合には加熱・急速冷却処理済みの処理済み品)を保持したマンドレルが外される。パレット5はコーナーKからアクチュエータ19により環状のガイドレール14における待機場所Mへ搬送され、再度の加熱・急速冷却処理に用いられるまで待機する。
【0085】
ここで、上記の加熱・急速冷却処理装置によって所定の加熱・急速冷却処理を行うことができるが、例えば、加熱処理室の加熱手段の断線や、加熱処理室内での回転不良による加熱処理不良、あるいは、急速冷却処理において、冷却液量が不足するなどの原因による急速冷却処理の失敗などにより不良品が生じる可能性がある。
【0086】
このようなとき、いち早く察知して、良品への不良品の混入と、不良品のさらなる増加を防止する必要がある。
【0087】
ここで、回転駆動手段による被処理物の回転数を検知する回転検知手段、加熱手段の加熱温度を測定する加熱処理温度測定手段、及び、冷却手段による被処理物の冷却速度を監視する冷却速度測定手段とを備えるとともに、これらにより測定される、被処理物の回転数、加熱手段の加熱温度、及び、冷却速度を所定の基準範囲と比較し、基準範囲から外れる異常発生を検知する異常発生検知手段を備え、かつ、異常発生時に警告表示、通報(アラーム)、あるいは、装置停止などを行うようにすれば、装置上の不都合を検出することができるので、異常発生時の不良品が、良品(良好な加熱・急冷処理がなされたもの)に混じることがなく、製品の信頼性が向上するとともに、不良品の発生を最小限に抑えることが可能である。
【0088】
図8にはこのような回転検知手段、加熱処理温度測定手段及び冷却速度測定手段からの出力値により異常発生を検知する異常発生検知手段と異常発生検知手段の出力により異常発生を通知する異常発生通知手段を備えた加熱・急速冷却処理装置における制御ブロック図を示した。
【0089】
図9(a)に制御に関するモデル回路図を示した。なお、上述した加熱・急速冷却処理装置においてはアクチュエータ動作、各加熱温度制御、シャッタの開閉等の装置制御も図示するMPUで行っているが、以降においては異常発生検知に関する事項のみについて説明する。
【0090】
演算回路CPU、タイマや各種変数が格納されるRAM(図9(b)参照)、所定温度範囲値や各種定数が格納されたROM(図9(c)参照)、入力ポート(必要に応じて各種の信号コンバータを有する)I1〜I4、及び出力ポート(必要に応じて各種の信号コンバータを有する)O1及びO2を備えたMPUの入力ポートI1には光センサ63が接続され、図9(a)中の部分拡大図に示したように、光センサ63によって、無端チェーンZZを駆動するプーリ60の軸61の切り欠き部61aによる光センサ63への光源(電球)62の到達光量変化の測定値(図9(d)参照)をMPU内に入力することが可能となっている。
【0091】
入力ポートI2は、加熱処理室αの複数(以下”N個”とする)の熱電対温度計52に接続され、出力ポートO1からの熱電対選択信号(1〜Nの整数(Nは熱電対温度計52の数))出力により複数の熱電対温度計52の中から1つの出力信号を選択してその信号を出力する、信号選択手段(この例ではマルチプレクサ64)に接続され、入力ポートO1とともにMPUに制御されて選択された熱電対温度計52による計測温度をMPU内に入力する。
【0092】
入力ポートI3は、加熱処理室αの出口付近に搬送されたパレット5を加熱処理室α出口から加熱処理室α外部へ搬出し、かつ、急冷処理装置βを経てコーナーJへ搬送するためのアクチュエータに接続され、パレット5の位置情報をMPU内に入力する。
【0093】
入力ポートI4及びI5はそれぞれ放射温度計26a及び26bに接続され、これらにより測定される被処理物6の加熱処理直後、及び、急速冷却処理直後の表面温度をMPU内に入力する。
【0094】
出力ポートO2は異常発生時に信号”On”を液晶表示装置LCDに出力して、その表示により異常発生を知らせる。
【0095】
以下にこのMPUの働きについて図10のフローチャートにて説明する。
【0096】
スタート直後、まず加熱処理室内の被処理物6の回転をチェックする。ステップS1で、インポートI1から入力される光センサ63の出力が変数vに代入される。
【0097】
ステップS2で、インポートI1から入力される光センサ63の出力が変数v1に代入され、ステップS3で変数vと変数v1とが比較され、変数vが変数v1より小さいときにはS4に進み、変数vが変数v1以上であったときには再度ステップS1に戻る。
【0098】
ステップS4では変数v1の値を変数vに代入し、ステップS5で、インポートI1から入力される光センサ63の出力が変数v1に代入され、ステップS6で変数vと変数v1とが比較され、変数vが変数v1以下であるときには再度ステップS4に戻り、変数vが変数v1より大きくなったときには、光センサ63に到達した光の量が最大となった、すなわち、プーリ60の軸61の切り欠き部61aの状態が図9(d)の左側に示された状態になったことを検出して、ステップS7に進む。
【0099】
ステップS7ではタイマーt1をリセット後スタートさせる。ステップS8では、
変数v1の値を変数vに代入し、以下、ステップS9〜ステップS13では上記ステップS2〜ステップS6と同様にして、プーリ60の軸61の切り欠き部61aの状態が再度図7(d)の左側に示された状態になるまで待機し、光量が再度最大になったときステップS14に進み、プーリ60の軸61が1回転するのにかかった時間であるタイマーt1の値を変数fに代入、ステップS15で、この変数fが予めROM内に書き込まれた値(所定回転数の逆数)F1とF2との間にあるか判断され、この範囲にないときには回転異常が生じたとしてステップS16に進んで出力ポートO2に信号Onを出力した後プログラムを終了する。LCDはこの信号Onを受け、異常が発生したことを表示する。
【0100】
一方、回転異常がなかったときにはステップS17以降の加熱処理室の加熱手段の温度チェックに進む。すなわちステップ17では変数nに1を代入(初期化)し、その変数n(初期値は1)の値をマルチプレクサ64に出力する。マルチプレクサは接続されたn番目の熱電対で測定される温度をMPUの入力ポートI2に送信する。
【0101】
ステップS19ではこのn番目の熱電対で測定される温度値を変数xに代入し、その値が予めROMに書き込まれたXn1の値とXn2の値との間の所定の範囲にあるかをステップS20で調べ、この範囲にないときには、温度異常が生じたとしてステップS23に進んで出力ポートO2に信号Onを出力した後プログラムを終了する。LCDはこの信号Onを受け、異常が発生したことを表示する。
【0102】
一方、xが所定の範囲にないときにはステップS21に進んで変数nをインクリメントし、ステップS22で変数nを調べ、調べた熱電対温度計の数が総数N以下の時にはステップS18に戻り、すべての熱電対温度計の温度をチェックしたときにはステップS1に戻り、ステップS1〜S22を繰り返す。
【0103】
なお、上記プログラムではステップS1〜S22を繰り返し行っている間に加熱処理済みの被処理物に対して急速冷却処理が行なわれる場合、そのことをアクチュエータ17からの位置信号が入力される入力ポートI3を常時チェックし、加熱処理済みの被処理物6が放射温度計26aの温度測定位置に到達したときには図10中右下の割り込み処理に進む。
【0104】
ステップS24ではタイマt2をリセット後スタートさせる。ステップS25では表面温度計26aで測定される温度が入力される入力ポートI4の入力値(急速冷却処理直前の被処理物6の表面温度)を変数taに代入する。
【0105】
ステップS26で加熱処理済みの被処理物6が急速冷却処理を終えて搬送され、放射温度計26bで測定される位置に達したことを示すアクチュエータ17からの位置信号が入力ポートI3に入力されるまで待機し、急速冷却処理済みの被処理物6が表面温度計26bで測定される位置に達したならばステップS27に進んで、被処理物6の急速冷却処理済みの表面処理温度を変数tbに代入すると共に、これら温度情報taおよびtbとその間に要した時間を示すタイマt2の値から、急速冷却処理での冷却速度を演算し、変数sに代入する(ステップS28)。ステップS29で、実際の冷却速度sとROMに格納された所定の冷却速度Sと比較し、実際の冷却速度sが所定の冷却速度Sより以上であればステップS1に進みステップS1〜S22を繰り返す。
実際の冷却速度sが所定の冷却速度Sよりも遅ければ、急速冷却処理に失敗したとしてステップS30に進んで出力ポートO2に信号Onを出力した後プログラムを終了する。LCDはこの信号Onを受け、異常が発生したことを表示する。
【0106】
このような表面層加熱・急冷処理装置において、上記説明から次の事項が理解される。
【0107】
すなわち、加熱処理の対象の被処理物6を、その円筒の軸が垂直方向になるように保持する保持手段は、マンドレル及びパレット5により構成される。また被処理物6を、その円筒の軸を中心に回転するように保持手段を回転させる回転駆動手段は無端チェーンZZと図示しないモータにより構成される。
【0108】
被処理物6を加熱処理室α外部から加熱処理室入口、加熱処理室、加熱処理室出口を順次通り、該加熱処理室外部へ導く被処理物搬送路はガイドレール14であり、保持手段で保持された被処理物6を被処理物搬送路上で移動させて、加熱処理室α内に搬入するとともに、熱処理終了後の被処理物6を加熱処理室α外へ搬出する被処理物搬送手段は、アクチュエータ15及び17で構成される。
【0109】
また、被処理物6を被処理物搬送路上で移動させ、加熱処理室α内に搬入する被処理物搬入手段はアクチュエータ15で構成され、加熱処理室α内の、加熱処理済みの被処理物6を加熱処理室αから搬出させる被処理物搬出手段はアクチュエータ17で構成される。
【0110】
また、加熱処理室α内の被処理物6を、加熱処理室α出口に向かって搬送する被処理物加熱処理室内搬送手段は、アクチュエータ16により構成される。
【0111】
また、急速冷却処理手段での急速冷却処理中に加熱処理時での被処理物6の回転とは異なった回転速度で被処理物6を回転させる冷却処理時回転駆動手段は、アクチュエータ17に設けられた図示しないモータによって構成される。
【0112】
急冷処理後の保持手段を前記加熱処理室の入口付近へ循環可能とする循環搬送路は環状のガイドレール14によって構成される。また、回転駆動手段による被処理物6の回転数を検知する回転検知手段は、加熱処理室αに設けられた無端チェーンZZのプーリ60、その軸61と切り欠き部61a、光源62及びMPUにより構成される。
【0113】
また、加熱手段の加熱温度を測定する加熱処理温度測定手段は、熱電対温度計52、信号選択手段(この例ではマルチプレクサ)、及び、MPUにより構成され、冷却手段による被処理物の冷却速度を監視する冷却速度測定手段は、アクチュエータ17、放射温度計26aおよび26b、及びMPUにより構成される。また、被処理物6の回転数、加熱手段の加熱温度、及び、冷却速度を所定の基準範囲と比較し、これら基準範囲から外れる異常発生を検知する異常発生検知手段はMPUにより構成される。
【0114】
なお、上記は、LCDに異常発生を表示するものであったが、異常箇所を示したり、異常状況(回転数、温度、冷却速度の値)を示すものとしても良く、その他の手段、例えば、赤色灯、ブザー、ベルで異常発生をするものとしても良く、これらも本発明に含まれる。
【0115】
本発明の表面層加熱処理装置は円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する加熱処理装置であって、加熱処理の対象の被処理物を、その円筒の軸が垂直方向になるように保持する保持手段、前記被処理物を、その円筒の軸を中心に回転するように前記保持手段を回転させる回転駆動手段、前記表面層を加熱処理する加熱手段を備えた加熱処理室、前記被処理物を前記加熱処理室外部から加熱処理室入口、加熱処理室、加熱処理室出口を順次通り、該加熱処理室外部へ導く被処理物搬送路、及び、前記保持手段で保持された前記被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させて、前記加熱処理室内に搬入するとともに、熱処理終了後の該被処理物を該加熱処理室外へ搬出する被処理物搬送手段を備えた表面層加熱処理装置において、上記加熱手段が、前記加熱処理室の被処理物搬送路の両側面に設けられた赤外線加熱源であり、この構成により、連続的に加熱処理ができる上、赤外線加熱によりエネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置とすることができ、従来、エネルギーとスペースとの無駄が多かった表面がフッ素樹脂で被覆された定着ベルトの製造に好適に用いることができる。
【0116】
また、上記の表面層加熱処理装置において、前記赤外線加熱源は被処理物の搬送方向に対して複数の加熱ユニットにユニット化されているとともに、各加熱ユニットは高さ方向に対して、それぞれ線状の赤外線加熱源1つずつを備えた複数の加熱ゾーンに分割されており、各加熱ゾーンには、線状の赤外線加熱源が、水平に配された複数の水平配線部と、該水平配線部の端部から上下に隣接する他の水平配線部の端部を略垂直に繋ぐ連絡配線部とを形成するように一筆書き状に配置されて、かつ、各加熱ユニットの複数の水平配線部が等間隔に配置されている構成により、被処理物の加熱開始初期の温度上昇勾配を調整することができ、無理のない加熱処理が可能となるとともに、縦方向の温度分布も調整することができるので、通常であれば被処理物の上部の温度が高くなる現象を抑制して、均一な加熱が可能となる。
【0117】
また、上記の表面層加熱処理装置において、前記赤外線加熱源の加熱ユニットにおける線状の赤外線加熱源の水平配線部の各等間隔のピッチが、隣接するの赤外線加熱源の加熱ユニットの線状の赤外線加熱源の各水平配線部のピッチと、1/2ピッチずらして配されている構成により、被処理物の加熱処理における温度斑がより低減される。
【0118】
また、上記の表面層加熱処理装置において、前記保持手段が、前記被処理物のそれぞれ上下の両端付近を被処理物の内側面から支持する2つの円形板と、該2つの円形板を固定する軸とを備えている構成により、保持手段の熱容量を極めて小さくすることができるので、加熱処理での熱効率が良好となると共に、後工程で急速冷却処理を行う場合には、高い急速冷却処理効果が得られる。
【0119】
また、上記の表面層加熱処理装置において、被処理物搬送手段が、被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させ、加熱処理室内に搬入する被処理物搬入手段と該加熱処理室内の、加熱処理済みの被処理物を該加熱処理室から搬出させる被処理物搬出手段とを備えた構成により、後工程で急速冷却処理を行う場合に、加熱処理室内への搬入速度に束縛されずに加熱処理室から迅速に被処理物を外部に搬出することができるうえ、温度が低くなりやすい加熱処理室の出口付近の滞在時間を短くすることができるので、搬出過程での温度低下が少ないため、非常に高い急速冷却処理効果が得られる。
【0120】
また、上記の表面層加熱処理装置において、前記被処理物搬送手段が、前記加熱処理室内の前記被処理物を、前記加熱処理室出口に向かって搬送する被処理物加熱処理室内搬送手段を備えているので、所定の昇温速度で被処理物を昇温させることができる。
【0121】
本発明の表面層加熱・急冷処理装置は上記の表面層加熱処理装置を備え、かつ、該表面層加熱処理装置の加熱処理室出口外側に該表面層加熱処理装置により加熱処理された表面層に対して急速冷却処理を行う急速冷却処理手段を備えているので、連続的に加熱処理ができる上、赤外線加熱によりエネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能である。
【0122】
また、上記の表面層加熱・急冷処理装置において、急速冷却処理手段での急速冷却処理中に加熱処理時での被処理物の回転とは異なった回転速度で被処理物を回転させる冷却処理時回転駆動手段を備えているので、冷却時の温度勾配の斑の発生を防止することができ、均一な急速冷却処理ができるので、冷却材の無駄が無くなると共に、急速冷却処理効果が確実に得られる。
【0123】
また、上記の表面層加熱・急冷処理装置において、急冷処理後の保持手段を前記加熱処理室の入口付近へ循環可能とする循環搬送路を有することにより、作業効率の高い表面層加熱・急冷処理が可能となる。
【0124】
また、上記の表面層加熱・急冷処理装置において、冷却手段が、冷却液を加熱処理後の被処理物に噴射するものであることにより、冷却液を加熱処理後の被処理物に噴射するので、空冷処理に比べ、遙かに迅速な冷却が可能となり、急速冷却処理の効果が確実に得られる。
【0125】
また、上記の表面層加熱・急冷処理装置において、回転駆動手段による被処理物の回転数を検知する回転検知手段、加熱手段の加熱温度を測定する加熱処理温度測定手段、及び、冷却手段による被処理物の冷却速度を監視する冷却速度測定手段とを備えるとともに、これらにより測定される、被処理物の回転数、加熱手段の加熱温度、及び、冷却速度を所定の基準範囲と比較し、基準範囲から外れる異常発生を検知する異常発生検知手段を備えていることにより、装置上の不都合を検出することができるので、異常発生時の不良品が、良品(良好な加熱・急冷処理がなされたもの)に混じることがなく、製品の信頼性が向上する。
【0126】
また、本発明の表面層加熱処理装置は円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する表面層加熱処理装置であって、表面層を320℃±10℃に加熱する赤外線ヒータを備えていることにより、エネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置とすることができ、従来、エネルギーとスペースとの無駄が多かった表面がフッ素樹脂で被覆された定着ベルトをシリコーンゴム層を損なうことなく、効果的に加熱・急速冷却処理を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明の表面層加熱処理装置によれば、エネルギーとスペースの無駄がない、均一な加熱処理が可能で、効率的でコンパクト化が可能な表面層加熱処理装置とすることができるので、加熱・急速冷却処理の加熱手段として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】加熱・急速冷却処理を行う対象の、定着ベルト(樹脂被覆無端状ベルト)の一例6のモデル断面図である。
【図2】本発明に係る表面層加熱処理装置を有する表面層加熱・急冷処理装置全体の正面図である。
【図3】本発明に係る表面層加熱処理装置を有する表面層加熱・急冷処理装置全体を上方から見たモデル図である。
【図4】マンドレルとパレットとが組合せされた状態の側面を示す図である。
【図5】パレット、ガードレール、及び、アクチュエータの関係を説明するモデル説明図である。
【図6】(a)上記装置の表面層加熱処理装置の加熱処理室の上面図、(b)同加熱処理室の図6(a)のLLにおける断面図である。
【図7】(a)赤外線加熱源の2つの加熱ユニットをその正面からみた図であり、(b)はその加熱ユニットの断面図であって、熱電対設置位置を示すモデル図である。
【図8】制御に関するブロック図である。
【図9】(a)制御に関するモデル回路図、(b)RAM内容を示すモデル図、(c)ROM内容を示すモデル図、(d)チェーンZZ駆動プーリの軸の説明図である。
【図10】MPUの動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0129】
1 ベルト基体
2 弾性層(シリコーンゴム)
3 表面層(離型層(フッ素樹脂))
4 プライマ(接着性向上層)
5 パレット
6 被処理物(定着ベルト及びその中間製品)
7 円形板
8 軸
9 回転軸
10 スプロケット
11 軸受
12 クラッチ
13 ベース
14 ガイドレール
15〜20 アクチュエータ
21 赤外線ヒータ
22 断熱板
23a、23b シャッタ
24 ノズル
25 ダクト
26a、26b 放射温度計
27 冷却用ファン
34 ガイド付シリンダ
35 係合ピン
40 加熱ユニット
42 排気ダクト
50 ゾーン
51 電熱線
52 熱電対温度計



【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する加熱処理装置であって、
加熱処理の対象の被処理物を、その円筒の軸が垂直方向になるように保持する保持手段、
前記被処理物を、その円筒の軸を中心に回転するように前記保持手段を回転させる回転駆動手段、
前記表面層を加熱処理する加熱手段を備えた加熱処理室、
前記被処理物を前記加熱処理室外部から加熱処理室入口、加熱処理室、加熱処理室出口を順次通り、該加熱処理室外部へ導く被処理物搬送路、及び、
前記保持手段で保持された前記被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させて、前記加熱処理室内に搬入するとともに、熱処理終了後の該被処理物を該加熱処理室外へ搬出する被処理物搬送手段を
備えた表面層加熱処理装置において、
上記加熱手段が、赤外線ヒータであり、かつ、
前記加熱処理室の被処理物搬送路の両側面に設けられた
ことを特徴とする表面層加熱処理装置。
【請求項2】
前記赤外線ヒータは被処理物の搬送方向に対して複数の加熱ユニットにユニット化されているとともに、
各加熱ユニットは高さ方向に対して、それぞれ線状の赤外線ヒータ1つずつを備えた複数の加熱ゾーンに分割されており、
各加熱ゾーンには、線状の赤外線ヒータが、水平に配された複数の水平配線部と、該水平配線部の端部から上下に隣接する他の水平配線部の端部を略垂直に繋ぐ連絡配線部とを形成するように一筆書き状に配置されて、かつ、
各加熱ユニットの複数の水平配線部が等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の表面層加熱処理装置。
【請求項3】
前記赤外線ヒータの加熱ユニットにおける線状の赤外線ヒータの水平配線部の各等間隔のピッチが、隣接するの赤外線ヒータの加熱ユニットの線状の赤外線ヒータの各水平配線部のピッチと、1/2ピッチずらして配されていることを特徴とする請求項2に記載の表面層加熱処理装置。
【請求項4】
前記保持手段が、前記被処理物のそれぞれ上下の両端付近を被処理物の内側面から支持する2つの円形板と、該2つの円形板を固定する軸とを備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の表面層加熱処理装置。
【請求項5】
前記被処理物搬送手段が、
前記被処理物を前記被処理物搬送路上で移動させ、前記加熱処理室内に搬入する被処理物搬入手段と
該加熱処理室内の、加熱処理済みの該被処理物を該加熱処理室から搬出させる被処理物搬出手段とを
備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の表面層加熱処理装置。
【請求項6】
前記被処理物搬送手段が、前記加熱処理室内の前記被処理物を、前記加熱処理室出口に向かって搬送する被処理物加熱処理室内搬送手段を備えたことを特徴とする請求項5に記載の表面層加熱処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の表面層加熱処理装置を備え、かつ、該表面層加熱処理装置の加熱処理室出口外側に該表面層加熱処理装置により加熱処理された表面層に対して急速冷却処理を行う急速冷却処理手段を備えたことを特徴とする表面層加熱・急冷処理装置。
【請求項8】
前記急速冷却処理手段での急速冷却処理中に前記加熱処理時での前記被処理物の回転とは異なった回転速度で該被処理物を回転させる冷却処理時回転駆動手段を備えたことを特徴とする請求項7に記載の表面層加熱・急冷処理装置。
【請求項9】
前記急冷処理後の保持手段を前記加熱処理室の入口付近へ循環可能とする循環搬送路を有することを特徴とする請求項7または請求項8に記載の表面層加熱・急冷処理装置。
【請求項10】
前記冷却手段が、冷却液を加熱処理後の被処理物に噴射するものであることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれかに記載の表面層加熱・急冷処理装置。
【請求項11】
前記回転駆動手段による被処理物の回転数を検知する回転検知手段、前記加熱手段の加熱温度を測定する加熱処理温度測定手段、及び、前記冷却手段による被処理物の冷却速度を監視する冷却速度測定手段とを備えるとともに、
これらにより測定される、被処理物の回転数、加熱手段の加熱温度、及び、冷却速度を所定の基準範囲と比較し、該基準範囲から外れる異常発生を検知する異常発生検知手段を備えていることを特徴とする請求項7ないし請求項10の何れかに記載の表面層加熱・急冷処理装置。
【請求項12】
前記被処理物が定着ベルトであることを特徴とする請求項7ないし請求項11の何れかに記載の表面層加熱・急冷処理装置。
【請求項13】
円筒形体の外側面の表面層を加熱処理する表面層加熱処理装置であって、該表面層を320℃±10℃に加熱する赤外線ヒータを備えていることを特徴とする表面層加熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−212519(P2007−212519A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29577(P2006−29577)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】