説明

表面接着力を向上したブチルアイオノマー

【課題】極性官能基を有するステンレス鋼、ガラス、マイラー又はテフロン表面との接着力を向上したブチルゴム重合体を提供。
【解決手段】イソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、マルチオレフィンから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、及びアイオノマー部分0.5モル%以上を含有するブチルゴムアイオノマー。該アイオノマーは、非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも25%以上大きい基体表面に対する接着力を有し、特定基体の表面に対しては、150%を超える接着力を有する。該接着力はマルチオレフィンの含有量増大と共に向上し、マルチオレフィンモノマー3.5モル%以上のような高マルチオレフィン含有量のブチルゴムアイオノマーで最大となる。このようなブチルゴムアイオノマーと基体間の高接着力を利用して、複合物品が形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は表面接着力を向上したブチルゴムアイオノマーに関する。更に特に本発明は、ガラス、ステンレス鋼及びマイラーのような極性表面官能価を有する表面に対する接着力を向上したブチルゴムアイオノマー、特に高水準のイソプレン(3.0モル%を超える)を有するブチルゴムアイオノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ポリ(イソブチレン−コ(co)−イソプレン)又はIIRは、1940年代からイソブチレンと少量(1〜2モル%)のイソプレンとのランダムカチオン重合により製造されている、一般にブチルゴムとして公知の合成エラストマーである。IIRは、その分子構造のため、優れた空気不透過性、高い損失弾性率、酸化安定性及び長い耐疲労性を有する。
【0003】
ブチルゴムは、イソオレフィンと、コモノマーとして1種以上の、好ましくは共役した、マルチオレフィンとの共重合体であると理解されている。市販のブチルは、多量のイソオレフィンと、2.5モル%以下の少量の共役マルチオレフィンとを含有する。ブチルゴム又はブチル重合体は、一般に、ビヒクルとして塩化メチル、重合開始剤の一部としてフリーデル−クラフト触媒を用いるスラリー法で製造される。この方法は、USP 2,356,128及びUllmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry,A23巻,1993年,288〜295頁に記載されている。
【0004】
過酸化物硬化性ブチルゴムコンパウンドは、従来の硫黄硬化性システムに比べて幾つかの利点を与える。通常、これらのコンパウンドは、硬化速度が非常に速く、また得られる硬化物品は、優れた耐熱性を示す傾向がある。更に、過酸化物硬化性配合物は、抽出可能な無機不純物(例えば硫黄)を全く含有しないので、“クリーン”であるとみなされる。したがって、このようなクリーンなゴム物品は、例えば冷却器のキャップ、生物医学装置、薬学装置(薬用小瓶、注射器のプランジャー)、及び恐らく燃料電池用シールに使用可能である。
【0005】
ポリイソブチレン及びブチルゴムが有機過酸化物の作用で分解することは、よく認識されている。更にUSP 3,862,265及び同4,749,505は、C〜 Cイソモノオレフィンとイソプレン10重量%以下又はp−アルキルスチレン20重量%以下との共重合体に対し、高せん断混合を行うと、分子量低下を受けることを教示している。この効果は、フリーラジカル開始剤の存在下で促進される。
【0006】
これとは別に、CA 2,418,884及び同2,458,741には、マルチオレフィンを多量に含有するブチル系過酸化物硬化性コンパウンドの製造について述べている。詳しくは CA 2,418,884は、イソプレン水準が3〜8モル%のIIRの連続製造法が記載されている。このような高マルチオレフィンブチルゴムをハロゲン化すると、エラストマー内に反応性ハロゲン化アリル官能価を生成する。現在、入手可能なこれら高水準のイソプレンにより、原理的には、3〜8モル%の範囲の臭化アリル官能価を有するBIIR同族体を生成することは可能である。要するに、イソプレンと臭化アリルとの相対水準はこの範囲内で調整可能である。従来のブチルゴムハロゲン化方法は、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry(第5完全改定版,A231巻、Elvers等編)及び/又はMaurice Mortonによる“Rubber Technology”(第3版),第10章(Van Nostrand Reinhold Company版権1987),特に297〜300頁に記載されている。
【0007】
ハロゲン化アリル官能価が存在すると、ハロブチルゴムと他の汎用ゴムとの共加硫が可能になる他、求核性アルキル化反応が可能となる。最近、臭素化ブチルゴム(BIIR)を窒素系及び/又は燐系求核剤により固体状態で処理すると、興味のある物理的化学的特性を有するIIR系アイオノマーを生成することが示された(Parent,J.S.;Liskova,A.;Whitney,R.A.;Resendes,R.,Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry 43,5671−5679,2005;Parent,J.S.;Liskova,A.;Resendes,R.,Polymer 45,80911−8096,2004;Parent,J.S.;Penciu A.;Guillen−Castellanos,S.A.;Liskova,A.;Whitney,R.A.Macromolecules 37,7477−7483,2004参照)。
【0008】
現存のブチルエラストマーグレードは、固有ガス透過率が低いことが非常に重要である各種用途に使用されている。ブチルゴムの固体表面に対する接着力は、複合材料の形成を可能にする重要な物性である。例えば多数枠(multi pane)ガス充填ガラス窓シールでは、ブチルエラストマーの低透過性により、窓の寿命中、低熱伝導率の特殊なガスを保持することが可能である。エネルギー効率の向上が常にますます要求されていることから、窓の設計改良が求められるので、窓シールには一層良好な接着特性が要求される。しかし、現存のブチルゴム重合体は、ガラス表面に対し適度な接着力しか示さず、その結果、ガラス−重合体複合用途に使用する場合は欠点となる。
【0009】
Bayer−ゴム工業用マニュアル(Manual for the Rubber Industry)第2版第512頁D10−1表、第514頁D10−2表の他、第515頁D10−4表は、ブチルエラストマーの鋼、レーヨン、ポリアミド及びポリエステルに対する接着力が劣ることを強調している。熱硬化性ゴムコンパウンドでは、ブチルゴムの低接着力は、織布/鋼にレゾルシノール、ホルムアルデヒド、ラテックス及びイソシアネートのRFL結合系を塗布するという厄介な方法により部分的には克服される。更に、この熱硬化性ゴムコンパウンドには、レゾルシノール、ホルムアルデヒド及びシリカのRFS結合系を導入している。以上のような努力にも拘わらず、レーヨン、ポリアミド及び通常の仕上げポリエステルに対し期待できる接着力は、それぞれ3、2、0等級(5が優れているとして、0〜5段階)が全てである。
【特許文献1】USP 2,356,128
【特許文献2】USP 3,862,265
【特許文献3】USP 4,749,505
【特許文献4】CA 2,418,884
【特許文献5】CA 2,458,741
【非特許文献1】Ullmanns Encyclopedia of Industrial Chemistry,A23巻,1993年,288〜295頁
【非特許文献2】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry(第5完全改定版,A231巻、Elvers等編)
【非特許文献3】Maurice Mortonによる“Rubber Technology”(第3版),第10章(Van Nostrand Reinhold Company版権1987),特に297〜300頁
【非特許文献4】Parent,J.S.;Liskova,A.;Whitney,R.A.;Resendes,R.,Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry 43,5671−5679,2005
【非特許文献5】Parent,J.S.;Liskova,A.;Resendes,R.,Polymer 45,80911−8096,2004
【非特許文献6】Parent,J.S.;Penciu A.;Guillen−Castellanos,S.A.;Liskova,A.;Whitney,R.A.Macromolecules 37,7477−7483,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、ブチルゴムとガラス、金属及び/又はプラスチック表面との接着力を改良する必要がある。
従来、ブチルゴム重合体の接着強度は、ステンレス鋼に対しては15psi未満、ガラスに対しては10psi未満、マイラーに対しては5psi未満であった。これら接着強度の改良が常に求められている。現在まで、ブチルゴムアイオノマーとガラス、金属又はプラスチック表面との接着力を特徴化する試みはなされていない。
したがって、表面接着特性を向上したブチル重合体及び該重合体から作製した複合物品がなお要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明によれば、 少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、ハロゲン化アリル(allylic halide)から誘導された繰返し単位0.5モル%以上、及びアイオノマー部分0.5モル%以上を含有すると共に、非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも25%大きい基体表面接着力を有するブチルゴムアイオノマーが提供される。
【0012】
本発明の他の局面では、前記ブチルゴムアイオノマーから作製した過酸化物硬化複合物品が提供される。
本発明の更に他の局面では、 少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、及びアイオノマー部分0.5モル%以上を含有するブチルゴムアイオノマーと、ステンレス鋼材料、ガラス材料又はマイラー材料を含む基体とを含有すると共に、ブチルゴムアイオノマーの該基体表面に対する接着力が、非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも25%大きいことを特徴とする複合物品が提供される。
【0013】
本発明は、ゴムと基体表面との高接着力が要求されるような用途、例えばタイヤのスチールベルト、窓での振動隔離、帆船用帆材料の改良等に有利である。
本発明の更なる特徴を以下の詳細な説明で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
好ましい実施態様の詳細な説明
ブチルゴムアイオノマーは、ハロゲン化ブチルゴム重合体から製造される。ブチルゴム重合体は、一般に少なくとも1種のイソオレフィンモノマー、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー及び任意に更に共重合性モノマーから誘導される。
ブチルゴム重合体は特定のイソオレフィンに限定されない。しかし、炭素原子数4〜16、好ましくは4〜7の範囲のイソオレフィン、例えばイソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン及びそれらの混合物が好ましい。更に好ましくはイソブテンである。
【0015】
ブチルゴム重合体は特定のマルチオレフィンに限定されない。イソオレフィンと共重合可能な、当業者に公知のいずれのマルチオレフィンも使用できる。しかし、炭素原子数4〜14の範囲のマルチオレフィン、例えばイソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリリン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニルシクロヘキサジエン及びそれらの混合物、好ましくは共役ジエンが使用される。イソプレンが更に好ましく使用される。
【0016】
任意のモノマーとして、イソオレフィン及び/又はジエンと共重合可能な、当業者に公知のいずれのモノマーも使用できる。α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンが好ましく使用される。インデン及びその他のスチレン誘導体も使用してよい。β−ピネンもイソオレフィン用のコモノマーとして使用できる。
【0017】
一実施態様では、ブチルゴムアイオノマーは、高マルチオレフィン(マルチオレフィン含有量が多い)ブチルゴム重合体から製造される。好適な高マルチオレフィンブチルゴム重合体の製造法は、同時係属出願CA 2,418,884(本特許はここに援用する)に記載されている。この高マルチオレフィン含有ブチル重合体の製造に使用される反応混合物は、マルチオレフィン架橋剤を含有する。架橋剤という用語は、当業者に公知で、重合体鎖に付加するモノマーに対し所定位置の重合体鎖間に化学的架橋を起こさせる化合物を示すものと理解されている。或る化合物がモノマーとして作用するか或いは架橋剤として作用するかは幾つかの簡単な予備試験で明かとなる。架橋剤の選択は特に制約されない。好ましくは架橋剤は、マルチオレフィン系炭化水素化合物を含む。これらの例は、ノルボルナジエン、2−イソプロペニルノルボルネン、2−ビニルノルボルネン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及びそれらのC〜C20アルキル置換誘導体、及び又はそれら化合物の混合物である。更に好ましくはマルチオレフィン架橋剤は、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及びそれらのC〜C20アルキル置換誘導体、及び又はそれら化合物の混合物である。最も好ましくはマルチオレフィン架橋剤はジビニルベンゼン及びジイソプロペニルベンゼンを含む。
【0018】
好ましくは高マルチオレフィンブチル重合体の製造に使用されるモノマー混合物は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーを80〜96重量%の範囲及び少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー及び/又はβ−ピネンを3.0〜20重量%の範囲、並びに少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を0.01〜1重量%の範囲で含有する。更に好ましくはモノマー混合物は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーを83〜94重量%の範囲及び少なくとも1種のマルチオレフィンモノマー又はβ−ピネンを5.0〜17重量%の範囲及び少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を0.01〜1重量%の範囲で含有する。最も好ましくはモノマー混合物は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーを85〜93重量%の範囲及びβ−ピネンを含む少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーを6.0〜15重量%の範囲含有し、更に少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤を0.01〜1重量%の範囲で含有する。
【0019】
高マルチオレフィンブチル重合体の重量平均分子量Mwは、好ましくは240kg/モルを超え、更に好ましくは300kg/モルを超え、なお更に好ましくは500kg/モルを超え、なおまた更に好ましくは600kg/モルを超える。
高マルチオレフィンブチル重合体のゲル含有量は、好ましくは5重量%未満、更に好ましくは3重量%未満、なお更に好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.5重量%未満である。本発明に関連して、用語“ゲル”とは、環流下、沸騰するシクロヘキサン中、60分間不溶の重合体のフラクションを示すものと理解される。
【0020】
通常のブチル重合体は、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を0.5モル%以上、好ましくは0.75モル%以上、更に好ましくは1.0モル%以上、なお更に好ましくは1.5モル%以上、なお更に好ましくは2.0モル%以上、なお更に好ましくは2.5モル%以上含有する。高マルチオレフィンブチル重合体は、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を3.0モル%以上、好ましくは4.0モル%以上、更に好ましくは5.0モル%以上、なお更に好ましくは6.0モル%以上、なお更に好ましくは7.0モル%以上含有する。
【0021】
次に、通常のブチル重合体又は高マルチオレフィンブチル重合体は、ハロブチル重合体を製造するため、ハロゲン化処理できる。塩素化又は臭素化は、当業者に公知の方法、例えばMaurice Mortonによる“Rubber Technology”第3版,297〜300頁(Kluwer Academic Publishers)及びそこで引用された文献に記載されている。他の例は、Resendes等による“Method of Halogenating Butyl Rubber Without Acid Neutralization Agents”と題する同時係属出願(ここに援用する)がある。
【0022】
ハロゲン化中、ブチル重合体のマルチオレフィンの若干量又は全量は、ハロゲン化アリルに転化する。したがって、ハロブチル重合体中のハロゲン化アリルは、ブチル重合体中にもともと存在するマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位である。勿論、ハロブチル重合体中に残留マルチオレフィン含有し、したがって、同じ重合体中にハロゲン化アリル及び非ハロゲン化マルチオレフィンの両方が存在してもよい。しかし、ハロブチル重合体中のハロゲン化アリルの合計含有量は、親ブチル重合体の出発マルチオレフィン含有量を超えることはできない。例えばハロゲン化アリル含有量が0.5重量%のハロブチル重合体は、当然、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を0.5重量%以上含有し、特にハロブチル重合体の出発原料として高マルチオレフィンブチル重合体を使用した場合、残留マルチオレフィンを極めて十分に含有できる。したがって、本発明ではハロブチル重合体は、ハロゲン化アリル及び/又はハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位を0.5モル%以上、更に好ましくは0.75モル%以上、なお更に好ましくは1.0モル%以上なお更に好ましくは1.5モル%以上含有し、また残留マルチオレフィンを含有してよい。
【0023】
更にハロブチル重合体は、下記式
【化1】


で示される少なくとも1つの窒素及び/又は燐を含有する求核剤と反応できる。式中、Aは窒素又は燐であり、R、R、Rは、直鎖又は分岐鎖のC〜C18アルキル置換基、単環式か又はC〜C縮合環で構成されるいずれかのアリール置換基、及び/又は例えばB、N、O、Si、P及びSから選ばれたヘテロ原子よりなる群から選ばれる。
【0024】
一般に適切な求核剤は、求核置換反応に関与するのに電子的にも立体的にも適用可能な孤立電子対を持った少なくとも1つの中性の窒素又は燐センターを有する。好適な求核剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン及びトリフェニルホスフィンが挙げられる。
【0025】
ブチルゴムと反応させる求核剤の量は、ハロブチル重合体中に存在するハロゲン化アリルの合計モル量を基準として、1〜5モル当量、更に好ましくは1.5〜4モル当量、なお更に好ましくは2〜3モル当量の範囲であってよい。
ハロブチル重合体及び求核剤は、80〜200℃、好ましくは90〜160℃、更に好ましくは100〜140℃の範囲の温度で約10〜90分、好ましくは15〜60分、更に好ましくは20〜30分間反応できる。
【0026】
求核剤は、ハロブチル重合体のハロゲン化アリル官能価と反応するので、得られるアイオノマー部分は、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位である。ハロブチルアイオノマー中のアイオノマー部分の合計含有量は、ハロブチル重合体中のハロゲン化アリルの出発量を超えることはできないが、残留ハロゲン化アリル及び/又は残留マルチオレフィンは存在してよい。得られるハロブチルベースのアイオノマーは、アイオノマー部分を好ましくは0.5モル%以上、好ましくは0.75モル%以上、更に好ましくは1.0モル%以上、なお更に好ましくは1.5モル%以上有する。残留ハロゲン化アリルは、0.1モル%から、ブチルアイオノマーの製造に用いたハロブチル重合体中の元のハロゲン化アリル含有量を超えない量以下の量で存在してよい。アイオノマー中の残留ハロゲン化アリル含有量は、特にブチルアイオノマーが高マルチオレフィンブチル重合体をベースとする場合、通常、0.1〜6モル%、好ましくは0.2〜5モル%、更に好ましくは0.3〜4モル%、なお更に好ましくは0.4〜3モル%、なお更に好ましくは0.5〜2モル%、なお更に好ましくは0.7〜1.5モル%である。
【0027】
ブチルゴムアイオノマーは、極性官能基を有する表面に対し優れた接着力を示す。ブチルゴムアイオノマーは、非アイオノマーブチルゴムの所定の同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも25%大きい、好ましくは少なくとも50%大きい、更に好ましくは少なくとも100%大きい、なお更に好ましくは少なくとも150%大きい、なお更に好ましくは少なくとも200%大きい所定基体表面接着力を示す。アイオノマー中のアイオノマー部分の含有量が多いと、接着力を一層向上できる。アイオノマーは、他の表面に比べて幾つかの表面に対し接着力を一層向上できる。特にアイオノマーは、ステンレス鋼に対しては25psi以上、ガラスに対しては20psi以上、マイラーに対しては10psi以上の接着力を示す。
【0028】
高マルチオレフィン含有量のハロブチルゴムをブチルゴムアイオノマーの製造に使用する場合、アイオノマーは、残留マルチオレフィン、好ましくはイソプレンを1.5モル%以上含有してよい。高マルチオレフィンハロブチルゴムから製造したブチルゴムアイオノマーは、好ましくは残留1,4イソプレンを3.5モル%以上含有する。高マルチオレフィンハロブチルゴムから作製したブチルゴムアイオノマーは、極性基を有する表面に対する接着力がなお一層向上する。高マルチオレフィンハロブチルゴムから作製したブチルゴムアイオノマーは、非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも150%大きい、好ましくは少なくとも200%大きい接着力を示す。詳しくは、高マルチオレフィンハロブチルゴムから作製したブチルゴムアイオノマーは、ステンレス鋼に対しては35psi以上、ガラスに対しては30psi以上、マイラーに対しては15psi以上の接着力を示す。マイラーに対しての接着力は、更に好ましくは20psi以上、なお更に好ましくは25psi以上である。
【0029】
ブチルアイオノマーと非アイオノマーブチルゴム間の接着力の向上を測定する場合、対照基準として使用するブチルゴムは、アイオノマー部分の含有量以外はブチルアイオノマーとほぼ同等でなければならない。例えばブチルアイオノマーの残留不飽和度は、接着力対照材料として使用するブチルゴムの不飽和度とほぼ同等でなければならない。アイオノマー及びブチルゴム対照材料の試験に使用する試験方法も同じでなければならない。アイオノマーとブチルゴム対照材料との唯一の痕跡差は透過性である。この方法では、接着力の改良は、単にアイオノマー中のアイオノマー官能価の存在による可能性はあるが、アイオノマー又は対照材料の幾つかの他の特性による可能性はない。
【0030】
好ましい実施態様ではアイオノマーは、有機脂肪酸、好ましくは分子中に1個以上の炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸、更に好ましくは分子中に共役炭素−炭素二重結合を有する共役ジエン酸を10重量%以上有する不飽和脂肪酸を0.1〜20phrの範囲で含有してよい。これら脂肪酸の炭素原子数は、好ましくは8〜22、更に好ましくは12〜18の範囲である。具体例としては、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びそれらのカルシウム、亜鉛、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及びアンモニウム塩である。複合物品は、前記ブチルゴムアイオノマーのいずれかから、表面を有する基体材料として、ステンレス鋼材料、ガラス材料又はマイラー材料を用いて作製できる。
【0031】
硬化物品も、ブチルゴムアイオノマー及び/又は複合材料から作製できる。これらの物品は過酸化物で硬化させることが好ましい。アイオノマーの硬化には、好適な多数の過酸化物硬化剤、例えばジクミルパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、2,2’−ビスtert−ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン(Vulcup(登録商標)40KE)、ベンゾイルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、(2,5−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン等が使用できる。最良の好適硬化剤は、二、三の予備実験により容易に確かめられる。ジクミルパーオキシドを含む好ましい過酸化物硬化剤は、DiCup(登録商標)40Cの商標で市販されている。過酸化物硬化剤は、好適にはゴム100重量部当たり0.2〜10部(phr)、好ましくは1〜6phr、更に好ましくは約4phrの量で使用される。
【0032】
当業者に好適なものとして知られている加硫助剤(co−agent)も使用できる。DuPontからDIAK 7の商標で市販されているトリアリルイソシアヌレート(TAIAC)又は HVA-2(商標)(DuPont Dow)として知られるN,N’−m−フェニレンジマレイミド、トリアリルシアヌレート(TAC)又はRicon(商標)D 153として知られる液体ポリブタジエン(Ricon Resinsにより供給される)が挙げられる。使用量は、過酸化物硬化剤と同等又はそれ以下であってよい。
【0033】
アイオノマーには、酸化防止剤も好適には約4phr、好ましくは約2phrの量で含有してよい。好適な酸化防止剤の例としては、p−ジクミルジフェニルアミン(Naugard(登録商標)445)、Vulkanox(登録商標)DDA(ジフェニルアミン誘導体)、Vulkanox(登録商標)ZMB2(メチルメルカプトベンゾイミダゾールの亜鉛塩)、Vulkanox(登録商標)HS(重合化1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン)及びIrganox(登録商標)1035(チオジエチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナメート又はチオジエチレンビス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(Ciba−Geigyにより供給される)が挙げられる。VulkanoxはLanxess Inc.の商標である。
【0034】
硬化物品は、更にゴム工業界で公知のゴム用補助製品、例えば反応促進剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、酸化防止剤、泡立て剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、可塑剤、増粘剤、発泡剤、染料、顔料、ワックス、エキステンダー、有機酸、禁止剤、金属酸化物及び活性化剤(トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール、ヘキサントリオール等)を含有してよい。これらのゴム助剤は、特に意図する用途に応じて従来量で使用される。硬化物品は、無機及び/又は非無機の充填剤を含有してもよい。従来量は、ゴムに対し0.1〜50重量%である。
【0035】
本発明による無機充填剤は、無機物の粒子で構成される。好適な充填剤としては、シリカ、シリケート、粘土(ベントナイト及びモンモリロナイトのナノ粘土等)、親有機的に改質した粘土、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク等、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0036】
好適な無機充填剤の他の例としては、以下のものが挙げられる。
・例えばシリケート溶液の沈殿、又はハロゲン化珪素の火炎加水分解により製造した高分散シリカで、比表面積(BET比表面積)は5〜1000m/g、好ましくは20〜400m/gで、主な粒度は、10〜400nmである。これらのシリカは、任意に、Al、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr及びTiのような他の金属の酸化物との混合酸化物として存在してもよい。
・珪酸アルミニウム、及びアルカリ土類金属シリケートのような合成シリケートで、BET比表面積は20〜400m/g、主な粒度は10〜400nmである。
・カオリン及びその他の天然産シリカのような天然シリケート。
・ガラスファイバー及びガラスファイバー製品(マット、押出品)又は微小ガラス球。
・酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムのような金属酸化物。
・炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛のような金属炭酸塩。
・金属水酸化物、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又はそれらの組合わせ。
【0037】
これらの無機粒子は表面に水酸基を有し、親水性兼疎油性にするので、充填剤粒子とブチルエラストマーとの良好な相互作用を達成するのは困難である。所望ならば、充填剤粒子と重合体との相互作用は、シリカ改質剤の導入により高めることができる。このような改質剤の非限定的例としては、ビス−[−(トリエトキシシリル)−プロピル]−テトラスルフィド、ビス−[−(トリエトキシシリル)−プロピル]−ジスルフィド、N,N−ジメチルエタノールアミン、エタノールアミン、トリエトキシシリル−プロピル−チオール及びトリエトキシビニルシランが挙げられる。
多くの目的に好ましい無機物はシリカ、特に珪酸ナトリウムの二酸化炭素沈殿により製造したシリカである。
【0038】
本発明で使用するのに好適な乾燥非晶質シリカ粒子の平均凝集物粒度は、1〜100μ、好ましくは10〜50μの範囲、最も好ましくは10〜25μの範囲である。凝集物粒子の10容量%未満は、5μ未満か、或いは50μを超える粒度が好ましい。好適な非晶質乾燥シリカは、更に通常、DIN(ドイツ工業規格)66131に従って測定したBET表面積が50〜450m/gの範囲であり、DIN 53601に従って測定したDBP吸収量が、150〜400g/100gシリカの範囲であり、またDIN ISO 787/11に従って測定した乾燥減量が、0〜10重量%の範囲である。好適なシリカ充填剤は、PPG Industries Inc.から商品名HiSil(登録商標)210、HiSil 233及びHiSil 243で得られる。またLanxess Inc.から得られるVulkasil S(商標)、Vulkasil N(商標)も好適である。
【0039】
これらの無機充填剤は、以下のような公知の非無機充填剤と組合わせ使用できる。
・カーボンブラック。好適なカーボンブラックは、ランプブラック法、ファーネスブラック法又はガスブラック法で製造され、BET比表面積は20〜200m/gで、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF又はGPFカーボンブラックである。及び/又は
・ゴムゲル、好ましくはポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体及びポリクロロプレンをベースとするゴムゲル。
【0040】
幾つかの実施態様では非無機充填剤は、40phr以下の量で存在してよい。無機充填剤は、充填剤全量に対し、好ましくは55重量%以上を構成しなければならない。
配合及び加硫は、当業者に既知の方法、例えばEncyclopedia of Polymer Science and Engineering、第4巻,S.66以下(配合)及び第17巻,S.666以下(加硫)に開示される方法で行ってよい。
【0041】
本発明は、エラストマー及び基体材料を含む複合物品の製造に好適である。これらの物品は、各種の用途、特にブチルゴムの振動減衰特性又はガス透過特性を必要とする用途に特に有用である。
以下に本発明を実施例により更に説明する。
【実施例】
【0042】
装置
Bruker DRX500分光分析計(500.13MHz H)を用いテトラメチルシランを参照した化学シフトにより、CDCl中でH NMRスペクトルを記録した。Monsanto Tel−TakモデルTT−1を用い、未硬化ゴムサンプルについて、ステンレス鋼、ガラス、マイラー及びテフロン(商標)のような材料を含む各種基体表面に対する接着力を測定した。
【0043】
方法
接着試験法はASTM D−429方法Aによる。この試験は、固体基体からエラストマーの平面分離に要した力を測定する。試験するコンパウンドは、まず、2本ロールミルでシート状にし、厚さを変えて(0.020〜0.130”)5”×3”のサンプルシートに切断した。次に、このサンプルシートを100℃で5分間、15ポンドの重量で、四角い織布を含む5”×3”成形品に加圧した。サンプル表面の一体性(integrity)を保持するため、成形品の片面にマイラーを、また反対面にアルミニウムを裏打ちした。成形試料の厚さは、1/16”〜1/2”の範囲である。ステンレス鋼及びガラスの表面を清浄にしてから、試験前にマイラーを直接、エタノールできれいに拭いた。全ての表面は、大きさ1/4”×2”×1/16”の試験片に切断した。試験片の調製後、16時間以内に試験を行った。全ての試験片表面の一体性を作って保持するのに注意した。
【0044】
接着試験を行う際、ゴム試験片を仰向けにしてTel−Tak装置のサンプルホルダーの底部に置き、保護マイラー層を除去した。基体の選択面をエタノールで磨き、試験片上の頂部サンプルホルダーに置いた。次いで両サンプルホルダーを装置に入れた。これらの表面を動かして互いに接触させ、60秒にセットした組込みタイマーを自動的に活性化させた。この装置を用いて32psiの接触圧を加えた。接触時間60秒後、試験片及び基体の表面を常に平行関係に維持しながら、これら表面を1分当たり1インチの速度で互いに分離した。試験片を表面から分離するのに要した力を、容量80オンスの較正済み接着力計及び最大値用の組込み指示計を用いて測定した。1/4”のサンプルでは、最大接着力値は、接着力計から1平方インチ当たりポンド(psi)で直接読取ることができた。試験は3回行い、平均値をとった。
【0045】
材料
特に規定しない限り、全ての試剤はSigma−Aldrich(Oakville,Ontario)から受領したものを使用した。BIIR(BB2030)は、LANXESS Inc.により供給されたものを使用した。
【0046】
例1:イソプレン6.5モル%含有IIRの製造
本例は、イソプレン含有量が8.0モル%以下でムーニー粘度(ML 1+8@125℃)が35〜40MUの新等級IIRの連続製造について説明する。
【0047】
モノマー原料組成物は、イソプレン(IP又はIC5)4.40重量%、イソブテン(IP又はIC4)25.7重量%で構成される。この混合原料を5900kg/hrの割合で連続重合反応器に導入した。更に反応器にDVBを5.4〜6kg/hrの割合で導入した。AlCl/MeCl溶液(MeCl中AlCl0.23重量%)を204〜227kg/hrの割合で導入して、重合を開始した。連続反応器の内部温度は、蒸発冷却法を用いて−95〜−100℃に維持した。反応器内に十分な時間滞留させた後、水性フラッシュタンクを使用してMeCl希釈剤から新たに生成した重合体クラム(crumb)を分離した。この時点で、ステアリン酸約1重量%を重合体クラムに導入した。乾燥前の重合体に安定剤Irganox(登録商標)1010を加えた。得られた材料の乾燥は、コンベアオーブンを使用して行った。得られた材料は、H NMR分析により、イソプレンを6.5モル%含有することが判った。
【0048】
例2:高イソプレンBIIRの製造
ヘキサン31.8kg及び水2.31kgに例1を7kg溶解した溶液を入れた95リットル反応器に、急速撹拌しながら、元素状臭素を110ml加えた。5分後、NaOH76gの水1リットル溶液からなる苛性アルカリ溶液を添加することにより反応を停止した。更に10分撹拌後、反応混合物に、エポキシ化大豆油21.0g及びIrganox 1076 0.25gのヘキサン500ml溶液からなる安定化剤溶液及びエポキシ化大豆油47.0g及びステアリン酸カルシウム105gのヘキサン500ml溶液を加えた。更に1時間撹拌後、水蒸気凝固により高IP BIIRを単離した。最終材料は、100℃で操作する10”×20”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造を第1表に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
例3:IIRアイオノマーの製造
BB2030 48g及びトリフェニルホスフィン4.7g(例1の臭化アリル含有量に対し3モル当量)を、100℃、ローター回転速度60rpmで操作するBrabender密閉式ミキサー(容量75g)に入れた。混合は、合計60分間行った。最終生成物のH NMR分析により、例2の臭化アリルが全て相当するアイオノマー種に完全に転化したことが確認された。得られた材料は、残留1,4−IPを0.4モル%有することも判った。
【0051】
例4:高イソプレンIIRアイオノマー
例2を48g及びトリフェニルホスフィン4.7g(例1の臭化アリル含有量に対し3モル当量)を、100℃、ローター回転速度60rpmで操作するBrabender密閉式ミキサー(容量75g)に入れた。混合は、合計60分間行った。最終生成物のH NMR分析により、例2の臭化アリルが全て相当するアイオノマー種に完全に転化したことが確認された。得られた材料は、残留1,4−IPを4.20モル%有することも判った。
【0052】
結果及び検討
第2表に示すデータから判るように、BB2030(例3)及び例2(例4)から誘導したアイオノマーは、Tel−Tak測定法で測定したように、顕著な驚くべき接着力の増大が観察された。この観察結果から、例3及び例4の両方とも重合体主鎖と並行して見られるアイオノマー部分は、問題の塊状IIR母材と表面間の表面エネルギー差を仲介する助けとなることが示唆される。更に、これら極性アイオノマー基は、ステンレス鋼表面及びガラス表面の両方に存在する極性官能価と好ましく相互作用する能力を持っている。興味のあることは、例4(例3参照)で見られた高水準の残留イソプレンの存在により、この材料の接着力がプラスに影響されることである。
【0053】
【表2】

【0054】
以上の例から判るように、BIIRの高イソプレン同族体(例2)を中性燐系求核剤で処理すると、相当する高IP IIRアイオノマー(例4)が生成する。更に、BB2030を中性燐系求核剤で処理すると、相当するIIR系アイオノマー(例3)が生成する。興味のあることは、BB2030及び例2の両方のアイオノマー同族体に接着力の著しい増大(Tel−Tak分析で測定)が観察されたことである。重要なことは、例4(例3参照)で見られた高水準の残留イソプレンが、この特定材料の接着力を更に高めるものと思われる。マイラーに対する接着力は、テフロンに対する接着力より大きかった。したがって、極性表面特性を有する基体に対する接着力は、非極性表面に対する接着力より大きいことが予想される。一般に市販のBIIR(例えばBB2030)又は高水準のイソプレンを含むBIIR(例えば例2)が、相当するアイオノマー種に転化すると各種表面に対する接着力が著しく向上する。前述のように、高水準の残留イソプレンが存在すると、更に接着力が高まる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施態様を説明したが、当業者ならば、本発明の他の特徴及び実施態様は明らかであろう。添付の特許請求の範囲は、以上の説明を参照して、広く解釈すべきものであり、本発明者は、明確には請求していない他の変化及び下位の組合わせを含むことを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、及びアイオノマー部分0.5モル%以上を含有すると共に、b)非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも25%大きい基体表面接着力を有するブチルゴムアイオノマー。
【請求項2】
更に残留マルチオレフィンを0.3モル%以上含む請求項1に記載のブチルゴムアイオノマー。
【請求項3】
少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位を3.5モル%以上含む請求項1又は2に記載のブチルゴムアイオノマー。
【請求項4】
ステンレス鋼に対する接着力が35psi以上であり、ガラスに対する接着力が30psi以上であり、マイラーに対する接着力が15psi以上であり、テフロン(商標)に対する接着力が3.75psi以上である請求項3に記載のブチルゴムアイオノマー。
【請求項5】
ブチルゴムアイオノマーの基体表面に対する接着力が、非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも150%大きい請求項3に記載のブチルゴムアイオノマー。
【請求項6】
a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、ハロゲン化アリルから誘導された繰返し単位0.5モル%以上、及びアイオノマー部分0.5モル%以上を含有するブチルゴムアイオノマー、及びb)ステンレス鋼材料、ガラス材料又はマイラー材料を含む基体を含有すると共に、c)ブチルゴムアイオノマーの該基体表面に対する接着力が、非アイオノマーブチルゴムの同一基体表面に対する接着力よりも少なくとも25%大きいことを特徴とする複合物品。
【請求項7】
該物品が過酸化物硬化される請求項6に記載の複合物品。

【公開番号】特開2007−246903(P2007−246903A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47123(P2007−47123)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(506183100)ランクセス・インク. (13)
【Fターム(参考)】