説明

被加工物の加工方法及びその装置

【課題】レーザ光の集光照射によって高脆性非金属材料に熱応力を付与してスクライブを形成する際に、材料が変位してレーザ光フォーカスのズレによる加熱エネルギーの変動を防止する。
【解決手段】被加工物(ガラス1)を保持する保持部(ステージ2)と、被加工物に加熱領域10を付与するレーザ光4aを出力するレーザ光源4と、レーザ光4aを被加工物の加工予定線1Aに誘導して照射する光学系3と、加熱領域10が加工予定線1Aに沿って相対的に移動するように保持部を移動する移動装置と、加熱領域10の相対的な移動方向の後方で被加工物に冷却領域11を付与するべく被加工物に冷却用ガスを吹き付ける冷却用ノズル5と、加熱領域10の両側で、被加工物表面に向けてガスを吹き付ける押圧用ノズル6を備える。被加工物の変位が抑制されて、レーザ光のフォーカスのズレが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガラスなどの高脆性非金属材料製などの被加工物にレーザ光を集光照射して熱応力を利用して被加工物表面にスクライブを形成する加工方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラスなどの高脆性非金属材料では、需要に応じて所定の形状や寸法に切断して使用される。この切断では、前記材料に溝状のスクライブを形成し、前記材料に機械的な応力や熱応力を加えることで前記スクライブに沿って切断する方法が採用されている。スクライブ形成には、ダイアモンドホイールや熱応力を利用する方法が用いられる。後者の熱応力を利用する方法は、ガラスの加工予定線に沿って局部加熱と局部冷却を順次加え、加工予定線上にスクライブを形成するものである。
【0003】
この種の装置としては、特許文献1で提案されているものが知られている。
図3は、特許文献1で開示されているガラス材の切断装置の構成を示す。図中において、符号20は被加工物であるガラス材、21はレーザ光照射を行う光学系、22はレーザ照射による被加工物上の加熱領域、23は被加工物に対してθ2の角度で備えられた冷却媒体噴射ノズル、24は冷却媒体による冷却領域、25はスクライブ線を示している。
【0004】
特許文献1で提案されているガラスの加工装置によれば、矢印の方向に移動するガラス材20によって光学系21で誘導されるレーザ光がガラス材20に相対移動しながら集光照射されて加熱領域22を形成する。加熱領域22のガラス材には、熱膨張により内部圧縮応力が生じる。次に、ガラス材20の移動に伴いノズル23、23から吹き付けられる冷媒によって冷却領域24が与えられて急冷される。局部加熱されたあと急冷される部位には、引張り応力が生じ、スクライブ線25が形成される。その後、機械的な応力や熱応力をさらに加えることでガラス材20を切断することができる。
【特許文献1】特開2000−233936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のレーザを使った切断装置は、レーザで熱膨張率が大きいガラスを局部的に加熱すると熱膨張して変位し、レーザビームのフォーカスにズレが生じ、過熱もしくは低熱となるために加工に適切なレーザ強度が与えられない。特に厚さが1mmに達しないような薄いガラス(例えば0.5mm程度)では変位が顕著になる。ガラスの変位を防止するために、ガラスをステージに強く吸着することでフォーカスのズレが生じなくなるすることも可能であるが、ガラスが強く拘束されるために、切断のための引張応力が弱くなってしまう問題がある。吸着圧力を下げていくと引張応力を強くすることができるが、一般的にガラスサイズが大きくなると弱い吸着圧力でも拘束力が強くなってしまうため、ガラスサイズに応じて吸着圧力を変える必要があるなど制御が難しくなる。
【0006】
この発明は上記のような従来のものの課題を解決するためになされたもので、加熱領域の両側にガスを吹き付けることで被加工材の加熱時の変位を防止して、フォーカスがずれることなく被加工材の加工を行うことができる方法および装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の被加工物の加工方法のうち、第1の本発明は、被加工物にレーザ光照射による加熱領域を加工予定線に沿って相対的に移動させつつ付与し、該加熱領域の相対的移動方向の後方で該被加工物に冷却領域を付与してスクライブ線を形成する際に、前記加熱領域の相対的な移動に伴って該加熱領域の両側で前記被加工物表面に向けてガスを吹き付けて該被加工物にガス吹き付けによる押圧力を付与することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、加熱領域の両側からガスによる吹き付けで押圧力を付与することができ、被加工物の汚染や損傷などを招くことなく被加工材の熱膨張による変位を低減または解消することができる。レーザ光は予め適切なレーザ光強度に制御されており、上記変位が極力防止されることで被加工物の表面に良好に集光照射されて適切なレーザ光強度が被加工物に与えられ、効果的に加熱領域を付与することができる。
【0009】
なお、本発明としては上記ガスの種類が特定のものに限定されるものではないが、被加工物との接触によって被加工物が汚染するものは望ましくない。例えば、エアーや不活性ガスを好適に用いることができる。ガスの吹きつけは、前記加熱領域の両側で行うものであればよく、片側での吹き付け数や吹き付けの形状が特に限定されるものではない。例えば、片側で複数箇所で吹き付けを行ってもよく、吹き付けの形状もスポット状の他、線状など適宜の形状を選択することができる。吹き付け箇所は加熱領域の両側であればよく、加熱領域の両側となるエリア内で、被加工物の変位を効果的に抑えることができる箇所を選定すればよい。
【0010】
第2の本発明の被加工物の加工方法は、前記第1の本発明において、前記冷却領域が、冷却用ミストを含む冷却用ガスを前記被加工物表面に吹き付けて付与されるものであることを特徴とする。
【0011】
第2の本発明によれば、冷却用ミストを含む冷却用ガスによって、前記加熱領域で昇温している加熱領域を効果的に冷却してスクライブを形成することができる。冷却用ガスとしては、前記した押圧力を与えるガスと同種のものを用いることができ、また、当然に所望により異種のものを用いることができる。ミストにも被加工物の汚染を招かないものが望ましく、水、好適には純水が用いられる。
【0012】
第3の本発明の被加工物の加工方法は、前記第2の本発明において、前記押圧力を付与するガスの片側の吹き付け力が、前記冷却用ガスの吹き付け力よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
上記本発明によれば、冷却用ガスの吹き付け力を押圧力を付与するガスの片側の吹き付け力よりも小さくすることで、冷却用ガスの吹き付けによってミストが飛散して被加工物を汚染するのを回避し、被加工物の押圧は専ら押圧力を付与するガスの吹き付けによって行うようにすることができる。
【0014】
第4の本発明の被加工物の加工装置は、被加工物を保持する保持部と、前記被加工物に加熱領域を付与するレーザ光を出力するレーザ光源と、前記レーザ光を前記被加工物の加工予定線に誘導して照射する光学系と、前記加熱領域が前記被加工物の加工予定線に沿って相対的に移動するように前記保持部を移動する移動装置と、前記加熱領域の相対的な移動方向の後方で前記被加工物に冷却領域を付与するべく該被加工物に冷却用ガスを吹き付ける冷却用ノズルと、前記加熱領域の両側で、前記被加工物表面に向けてガスを吹き付ける押圧用ノズルとを備えることを特徴とする。
【0015】
第4の本発明によれば、被加工物にレーザ光によって加熱領域が付与される際に、両側の押圧用ノズルからガスが被加工物に吹き付けられて被加工物の変位が低減または防止される。上記装置では、適切なレーザ光強度に制御されて被加工物にレーザ光が集光照射される。該レーザ光強度は、レーザ光源での出力調整や光学系でのエネルギー調整などによって制御することができる。このレーザ光は、変位が抑制された被加工物において適切なエネルギー強度で集光照射され、加熱領域を効果的に付与する。該加熱領域は、次いで冷却領域が付与されて急冷され、スクライブ線が効果的に形成される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の被加工物の加工方法によれば、被加工物にレーザ光照射による加熱領域を加工予定線に沿って相対的に移動させつつ付与し、該加熱領域の相対的移動方向の後方で該被加工物に冷却領域を付与してスクライブ線を形成する際に、前記加熱領域の相対的な移動に伴って該加熱領域の両側で前記被加工物表面に向けてガスを吹き付けて該被加工物にガス吹き付けによる押圧力を付与するので、スクライブ線の形成に際し、被加工物の変位が抑制されて、レーザ光のフォーカスにズレが生じることがなく、効果的に被加工物へのスクライブ線形成を行うことができる。
またガスの吹き付けで押圧力を付与するため被加工物に接触することがなく、被加工物の表面に不用意な傷・クラックが発生することがない。ステージで吸着するのに比べ、拘束力も弱くすることができるために熱応力でのスクライブ線の形成、割断も容易となる。
【0017】
また、本発明の被加工物の加工装置によれば、被加工物を保持する保持部と、前記被加工物に加熱領域を付与するレーザ光を出力するレーザ光源と、前記レーザ光を前記被加工物の加工予定線に誘導して照射する光学系と、前記加熱領域が前記被加工物の加工予定線に沿って相対的に移動するように前記保持部を移動する移動装置と、前記加熱領域の相対的な移動方向の後方で前記被加工物に冷却領域を付与するべく該被加工物に冷却用ガスを吹き付ける冷却用ノズルと、前記加熱領域の両側で、前記被加工物表面に向けてガスを吹き付ける押圧用ノズルとを備えるので、上記方法を実行して効果的に被加工物へのスクライブ線形成を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態を図1、2に基づいて説明する。
加工装置は、図1に示すように、被加工物としてのガラス1を処理対象としており、該ガラス1は、ガラス1を載置するステージ2と、該ステージを水平方向にリニア移動させる図示しない移動装置を備えている。前記ステージ2は、被加工物を保持する本発明の保持部に相当する。
【0019】
ステージ2の上方には、ミラー3a、3bなどを有する光学系3が位置しており、該光学系3の出射方向に、ステージ2に載置されたガラス1の加工予定線1Aが位置するように位置付けられている。なお、光学系3には、その他に、ホモジナイザやシリンドリカルレンズなどの適宜の光学系部材を含むことができ、本発明としては、その構成が特定のものに限定されるものではない。
【0020】
上記光学系3の入射側には、レーザ光源4から出力されるレーザ光4aが入力するように構成されている。なお、この実施形態では、レーザ光源4は、COを出力源に用いており、レーザ光4aとして赤外線域の波長を有するものが好適なものとして使用されている。
【0021】
また、レーザ光4aが前記加工予定線1Aに照射される位置の相対的な移動方向の後方には、ガラス1に向けて冷却用ミストを含む冷却用エアをスポット状に吹き付ける冷却用ノズル5が配置されている。
【0022】
さらに、上記レーザ光4aがガラス1に照射される箇所の両側には、ステージ2に載置されたガラス1に向けてエアをスポット状に吹き付ける押圧用ノズル6がそれぞれ配置されている。
図2は、上記冷却用ノズル5、押圧用ノズル6におけるラインを示すものである。冷却用ノズル5には、冷却用配管5aが接続され、該冷却用配管5aに外部からエアを取り入れて圧送するポンプ5bが接続されている。ポンプ5bの下流側では該冷却用配管5aにミスト混合部5cが介設されており、圧送されるエアに冷却用ミストが所定量で混合されて下流側に供給される。該ミストは水により生成される。
押圧用ノズル6には、押圧用配管6aが接続され、該押圧用配管6aに外部からエアを取り入れて圧送するポンプ6bが接続されている。ポンプ6bの上流側では、エアの取り入れ前にエア中の湿度を低減するドライフィルタ6cが配置されており、除湿されたエアが押圧用ノズル6に供給されるように構成されている。なお、上記冷却用配管5a、押圧用配管6aには、それぞれ圧力調整弁などを介設してもよい。
【0023】
なお、上記実施形態では、ガラス1を水平に配置し、その上方に光学系3を配置したものとして説明しているが、本発明としてはその配置方向や配置位置関係が特に限定されるものではない。例えばガラスを縦や斜めに設置するようにしたものであってもよく、光学系も設置されたガラスの加工予定線にレーザ光を照射できるよう配置されているものであればよい。
【0024】
次に、上記加工装置を用いた加工方法について説明する。
ステージ2上に、加工予定線1Aが光学系3のレーザ光出射方向に位置するようにガラス1を載置する。
レーザ光源4では、赤外線域の波長を有するレーザ光4aが出力される。レーザ光源4から出力されたレーザ光4aは、光学系3に入射され、適宜のビーム整形やミラー3a、3bなどによる偏向やエネルギー調整を経て、光学系3から出射され、ガラス1の加工予定線1Aの表面に照射され、ガラス1に加熱領域10が与えられる。そのときに加熱レーザ光4aがガラス1に照射される際のビーム形状は前記光学系3によって整形されて、図1の加熱領域10に示すように、ガラス1が移動する方向と平行に長手の形状にして、加工予定線1Aの部分が急加熱されることなく熱量を有効に与えるような形状にする。
該ビーム形状としては、スクライブを形成する部分の大きさに相応して加熱できる幅を有するものであればよく、また、長さは、加熱を効果的に行えるように設定されたものであればよい。例えば、幅と長さの比では数倍から数十倍に設定することができる。該加熱領域10によってガラス1は、ガラス歪み点温度以下の温度に予備加熱される。
【0025】
この際に、ガラス1の加熱領域10では、加熱による熱膨張が生じ、部分的に変形が生じる。これに対しては、加熱領域10の両側で、ポンプ6bによって押圧用配管6aを経て圧送されるエアが押圧用ノズル6、6からガラス1に吹き付けられ、ガラス1に押圧力が付与され、ガラス1の変形が低減または防止される。これにより、適切なエネルギー強度を有するレーザ光4aのフォーカスが大きくずれることなくガラス1に集光照射されて所望の熱エネルギーを与えることができる。これにより、後の冷却によって安定してスクライブ線が生成される。
【0026】
上記加熱領域10が与えられた加工予定線部分は、移動装置で移動されるステージ2によって移動し、冷却用ノズル5が臨む位置へと向かう。冷却用ノズル5では、冷却用ポンプ5bによって冷却用配管5aを経て圧送され、ミスト混合部5cで冷却用ミストが混合されたエアが供給される。すなわち、加熱領域10が与えられた部分は、直後には、さらに冷却用ノズル5から冷却用エアが吹き付けられて冷却領域11が与えられる。加熱領域10によって加熱された部分は加熱状態にあり、冷却領域11が与えられることで引張応力が加わり、亀裂が生じて深さ方向に進展する。加工予定線1Aに沿って上記加熱領域10、冷却領域11が走査されることでスクライブ線1Bが安定して形成される。
【0027】
さらに、本発明では、上記実施形態における冷却領域に後続させて再加熱領域を設けることで、スクライブを深さ方向にさらに進展させて、所望によりフルカットに至らせるようにしてもよい。
【0028】
なお、上記各説明では、処理対象をガラスに限定して説明をしている。ただし、本発明としては処理対象がガラスに限定されるものではなく、セラミック、半導体などの高脆性非金属材料に適用することができ、さらにはこれに限定されず、上記作用が得られる限りは種々の材料に適用することが可能である。
【0029】
以上、本発明について上記各実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない限りは当然に適宜の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態における加工装置を示す概略斜視図である。
【図2】同じく、冷却用ノズルおよび押圧用ノズルのラインを示す図である。
【図3】従来のガラス加工方法の概略を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ガラス
1A 加工予定線
1B スクライブ線
2 ステージ
3 光学系
4 レーザ光源
4a レーザ光
10 加熱領域
11 冷却領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザ光照射による加熱領域を加工予定線に沿って相対的に移動させつつ付与し、該加熱領域の相対的移動方向の後方で該被加工物に冷却領域を付与してスクライブ線を形成する際に、前記加熱領域の相対的な移動に伴って該加熱領域の両側で前記被加工物表面に向けてガスを吹き付けて該被加工物にガス吹き付けによる押圧力を付与することを特徴とする被加工物の加工方法。
【請求項2】
前記冷却領域が、冷却用ミストを含む冷却用ガスを前記被加工物表面に吹き付けて付与されるものであることを特徴とする請求項1記載の被加工物の加工方法。
【請求項3】
前記押圧力を付与するガスの片側の吹き付け力が、前記冷却用ガスの吹き付け力よりも大きいことを特徴とする請求項2記載の被加工物の加工方法。
【請求項4】
被加工物を保持する保持部と、前記被加工物に加熱領域を付与するレーザ光を出力するレーザ光源と、前記レーザ光を前記被加工物の加工予定線に誘導して照射する光学系と、前記加熱領域が前記被加工物の加工予定線に沿って相対的に移動するように前記保持部を移動する移動装置と、前記加熱領域の相対的な移動方向の後方で前記被加工物に冷却領域を付与するべく該被加工物に冷却用ガスを吹き付ける冷却用ノズルと、前記加熱領域の両側で、前記被加工物表面に向けてガスを吹き付ける押圧用ノズルとを備えることを特徴とする被加工物の加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−150071(P2010−150071A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−329063(P2008−329063)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【出願人】(399041561)常陽工学株式会社 (36)
【Fターム(参考)】