説明

被膜形成装置

【課題】複数の真空処理室を直線的に配置した従来の装置にあっては、全体構造が大型化して、製造コストの低減やタクトタイムの短縮が難しいという問題点があった。
【解決手段】プレート状のワークWの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置であって、所定間隔で配列した複数の真空チャンバー1A〜1Pと、これらの真空チャンバーを移動させるターンテーブル4と、ワークWを収容した真空チャンバーの内部を真空引きする真空ポンプ3を備え、各真空チャンバー1A〜1Pが、ワークWを保持するワーク治具4と、スパッタリング用のターゲット5と、不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段14と、ターゲット5に高電圧を印加する電圧印加手段16を備えた構成とし、製造コストの低減やタクトタイムの短縮化を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレート状のワークに非晶質炭素膜などの被膜を形成するのに用いられる被膜形成装置に関し、とくに、被膜を有するワークの量産化に好適な被膜形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の被膜形成装置としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがあった。この特許文献1に記載の装置は、基板の片面を連続的に真空処理するインライン式の装置であって、直線的に連接された複数の真空処理室と、基板を保持して複数の真空処理室に順次搬送される複数のキャリアなどを備え、各真空処理室に対して基板を二列で順次搬送して真空処理を行うものである。特許文献1には、真空処理として、基板の表面にスパッタリングによる成膜を行うことが記載されている。また、上記の装置は、各真空処理室での処理時間を調整するために、真空処理室の間に予備室を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4417734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の装置を使用して基板にスパッタリングによる被膜を形成するには、少なくとも、基板を収容した真空処理室を真空引きして室内の不純物を除去する工程と、真空処理室を加熱して室内の水分を除去する工程と、不活性ガスをイオン化してターゲットに衝突させることでターゲットの原子・分子を弾き飛ばし、基板に被膜を形成する工程と、基板の冷却を行う工程を経る必要があり、当然のことながら各工程の処理時間が異なるものとなっている。
【0005】
ところが、上記したような従来の装置にあっては、複数の真空処理室を直線的に配置し、その複数の真空処理室(工程)に基板を順次搬送する構造であり、全ての基板を一斉に同速度で搬送することができないので、予備室を設けて処理時間の差を調整することが不可欠である。これにより、従来の装置は、全体構造が大型化して、製造コストの低減やタクトタイムの短縮が難しいという問題点があり、このような問題点を解決することが課題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の課題に着目して成されたもので、製造コストの低減やタクトタイムの短縮化を実現することができる被膜形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の被膜形成装置は、プレート状のワークの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置である。この被膜形成装置は、所定間隔で配列した複数の真空チャンバーと、これらの真空チャンバーをその配列方向に移動させるチャンバー移送手段と、ワークを収容した真空チャンバーの内部を真空引きする真空排気手段を備えている。
【0008】
そして、被膜形成装置は、各真空チャンバーが、その内部でワークを保持するワーク治具と、スパッタリング用のターゲットと、不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段と、ターゲットに高電圧を印加する電圧印加手段を備えている構成としており、その構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【0009】
上記の構成では、不活性ガスを導入した真空雰囲気において、ターゲットを陰極として高電圧を印加することでグロー放電が発生し、不活性ガスをイオン化してターゲットに衝突させることでターゲットの原子・分子を弾き飛ばし、ワークに被膜を形成する。この際、弾き飛ばすターゲットの原子・分子のエネルギー量を増すために、ターゲットの裏面に、外側磁極の磁力を内側より強くして磁力のバランスを意図的に崩した非平衡磁場を形成する磁気回路を備えている。また、被膜形成中にワークに印加されるバイアス電圧によってエネルギーを制御した不活性ガスのイオンをワークに照射することができ、ターゲットの原子・分子のエネルギー量を増大することができ、これにより被膜特性を制御することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の被膜形成装置によれば、プレート状のワークの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置において、製造コストの低減やタクトタイムの短縮化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の被膜形成装置の一実施形態を説明する平面図(A)及び真空チャンバーの断面図(B)である。
【図2】本発明の被膜形成装置の他の実施形態における真空チャンバーを説明する断面図である。
【図3】本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバーを説明する断面図である。
【図4】本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバーを説明するブロック図である。
【図5】本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバーを説明する断面図である。
【図6】本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバーを説明する各々断面図(A)(B)である。
【図7】本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバーを説明する断面図である。
【図8】本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態を説明する平面図である。
【図9】本発明の導電部材を説明する要部の断面部である。
【図10】導電部材の導電性炭素層における炭素膜構造と水素量による3元状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の被膜形成装置の一実施形態を説明する図である。
図1(A)に示す被膜形成装置は、プレート状のワークWの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置である。ワークWは、その平面形状や材料がとくに限定されるものではないが、例えば金属製の矩形のプレートであって、その表面にスパッタリングにより導電性被膜を形成することで、導電部材として用いられる。この場合、ワークWは導電部材の基材である。
【0013】
被膜形成装置は、所定間隔で配列した複数の真空チャンバー1A〜1Pと、これらの真空チャンバー1A〜1Pをその配列方向に移動させるチャンバー移送手段と、ワークWを収容した真空チャンバー1A〜1Pの内部を真空引きする真空排気手段を備えている。この実施形態では、16個の真空チャンバー1A〜1Pを例示しており、チャンバー移送手段がロータリテーブル2であり、真空排気手段が真空ポンプ3である。
【0014】
図示例の被膜形成装置は、基台50上に、回転駆動されるロータリテーブル2を備えており、このロータリテーブル2上に、各真空チャンバー1A〜1Pを等間隔で放射状に配列している。これにより、各真空チャンバー1A〜1Pは、円形の周回経路上に配置され、その配列方向に一斉に移動する。
【0015】
各真空チャンバー1A〜1Pは、図1(B)にも示すように、1枚のワークWを収容して処理するのに足りる大きさであり、多数枚のワークを処理する真空処理室に比べて明らかに小型である。各真空チャンバー1A〜1Pは、その内部でワークWを保持するワーク治具4と、スパッタリング用のターゲット5と、不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段14と、ターゲット5を陰極として高電圧を印加する電圧印加手段16を備えている。また、各真空チャンバー1A〜1Pは、弾き飛ばすターゲット5の原子・分子のエネルギー量を増すための磁気回路6をターゲット5の裏面に備えており、このほか、内部を加熱するための加熱手段7を備えている。
【0016】
図1(B)に示す真空チャンバー1A〜1Pでは、ワークWの片側に、ターゲット5及び磁気回路6が配置してある。したがって、この実施形態では、ワークWの片面に被膜を形成する。なお、ワークWの両面に被膜を形成する場合には、後述する実施形態のようにワークWの両側にターゲット5及び磁気回路6を配置すればよい。
【0017】
ワーク治具4は、プレート状のワークWの両端部を保持し、この際、ターゲット5の表面とワークWの表面とが平行となる状態に前記ワークWを保持する。また、図示例のワーク治具4は、固定式のものであるが、後述する可動式の場合には、ワークの移動距離を短縮するために、矩形状のワークWの長辺を保持して短辺に沿う方向に移動する構成にするのが望ましい。
【0018】
被膜形成装置におけるスパッタリングとしては、弾き飛ばすターゲット5の原子・分子のエネルギー量を増すため、外側磁極の磁力を内側よりも強くして磁力のバランスを意図的に崩した非平衡磁場を形成する磁気回路6をターゲット6の裏面に備えたアンバランスドマグネトロンスパッタ(UBMS)法としても良い。また、被膜形成中にワークWに印加されるバイアス電圧によってエネルギーを制御した不活性ガスのイオンをワークWに照射するようにし、被膜特性を制御する方式にするのがより望ましい。
【0019】
上記の真空チャンバー1A〜1Pは、図1(A)に一部を示すように、ロータリテーブル4の外周側となる先端部に、その内部を開閉する蓋体Cを備えると共に、ロータリテーブル4の中心となる基端部に、配管8が連結してある。
【0020】
これに対して、被膜形成装置は、先述の真空ポンプ3のほか、不活性ガス供給装置9及び主電源10を備えている。そして、被膜形成装置は、ロータリテーブル4の中心に、流体経路や電気配線を含む分岐体11を備え、分岐体11及び各配管(一部を示す)8を介して、各真空チャンバー1A〜1Pの真空引きや、不活性ガス及び電力の供給を行うようにしてある。このため、各配管7には、真空チャンバー内の減圧状態を維持するためのバルブや、不活性ガスの流量調整を行うためのバルブが設けてある。
【0021】
また、被膜形成装置は、図1(A)に示すように、円形の周回経路において、準備領域A1と、真空引き領域A2と、加熱領域A3と、ボンバード領域A4と、成膜領域A5を図中矢印で示す一方向に順に備えている。
【0022】
準備領域A1は、当該領域における真空チャンバー(1O〜1C)に対してワークWを出し入れするための領域である。真空引き領域A2は、ワークWを収容した真空チャンバー(1D,1E)内を真空引きして不純物を除去するための領域である。加熱領域A3は、真空チャンバー(1F,1G)内を加熱して水分を除去するための領域である。ボンバード領域A4は、真空チャンバー(1H,1I)内に不活性ガスを供給してワーク表面の酸化被膜を除去するための領域である。そして、成膜領域A5は、当該領域における真空チャンバー(1J〜1N)内のワークWの表面に被膜を形成するための領域である。
【0023】
上記の成膜領域A5では、不活性ガスを導入した真空雰囲気において、ターゲット5を陰極として高電圧を印加することでグロー放電が発生し、不活性ガス(例えばアルゴンガス)をイオン化してターゲットに衝突させることでターゲットの原子・分子を弾き飛ばし、ワークWに被膜を形成する。すなわち、スパッタリングによる被膜形成が行われることとなる。
【0024】
ここで、ワーク(基板)にスパッタリングによる被膜を形成する場合には、先述したように様々な工程を経ることになるが、この際、各工程における処理時間は様々である。これに対して、本発明の被膜形成装置は、各真空チャンバー1A〜1Pが一斉に等速度で移動するので、各工程の処理時間を真空チャンバー1A〜1Pの移動距離に換算して、各領域A1〜A5の長さを設定する。
【0025】
上記構成を備えた被膜形成装置は、ロータリテーブル4により、各真空チャンバー1A〜1Pをその配列方向に一斉に移動させて、夫々の領域A1〜A5に順次移動させる。これにより、個々の真空チャンバー1A〜1Pにおいて、真空引き、加熱、ボンバード処理及びスパッタリングによる被膜形成が順に行われる。すなわち、一つの真空チャンバー内で全工程が完了する。そして、とくに準備領域Aにおいては、蓋体Cを開放して、被膜形成後のワークWを取り出し、同真空チャンバー内の検査や清掃等を適宜実施し、同真空チャンバーに次のワークWを収容する。
【0026】
このようにして、被膜形成装置は、複数の真空チャンバー1A〜1Pを用いて、連続的にワークWに被膜形成を行うことができ、処理後のワークWの取り出しや新たなワークWの供給も順次行うことができる。したがって、当該被膜形成装置によれば、プレート状のワークWの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置において、製造コストの低減やタクトタイムの短縮化を実現することができる。
【0027】
また、上記の被膜形成装置は、ワーク治具4が、ターゲット5の表面とワークWの表面とが平行となる状態に前記ワークWを保持することから、ターゲット5とワークWとの位置関係が一定に保たれる。これにより、ワークWの両面に被膜を均一に形成することができるほか、膜厚調整などの制御性を高めることもできる。
【0028】
さらに、上記の被膜形成装置は、複数の真空チャンバー1A〜1Pを周回経路上に配置し、これらを一斉に移動させて、準備領域A1、真空引き領域A2、加熱領域A3、ボンバード領域A4、及び成膜領域A5に順次移動させるので、従来の装置のような予備室が一切不要である。これにより、被膜形成装置は、装置構造が小型になり、製造コストの低減やタクトタイムの短縮化をさらに促進させることができると共に、被膜を有するワークWの量産化に極めて有用なものとなる。
【0029】
図2は、本発明の被膜形成装置の他の実施形態における真空チャンバー1Aを説明する図である。なお、以下の各実施形態においては、先の実施形態と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0030】
図示の真空チャンバー1Aは、その内部に、ターゲット5、不活性ガを導入手段14、電圧印加手段16、及び磁気回路6で構成した処理ステージを一方向に複数配列してある。この実施形態では、二つの処理ステージS1,S2を備えている。この場合、ワーク治具4は、個々の処理ステージS1,S2に対してワークWを順次搬送する可動式のワーク治具である。
【0031】
上記真空チャンバー1Aを備えた被膜形成装置は、最初の処理ステージS1で、ワークWの片面にスパッタリングにより被膜を形成し、次に、ワーク治具4を次の処理ステージS2に移動させ、先に形成した被膜の上に、第2の被膜を形成する。この場合、成膜領域A5は、図1(A)中に示すように、第1及び第2の成膜領域A5a,A5bとなる。
【0032】
上記の被膜形成装置は、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができるうえに、ワークWの片面に、複数層(二層)の被膜を形成することができ、このようなワークWの生産性を高めることができる。
【0033】
図3は、本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバー1Aを説明する図である。図示の真空チャンバー1Aは、先の実施形態と同様に、複数(二つ)の処理ステージS1,S2を備えている。そして、両処理ステージS1,S2が、ワーク治具4に保持されたワークWを間にして、一対のターゲット5及び磁気回路6を対称的に備えたものとなっている。ワーク治具4は、個々の処理ステージS1,S2に対してワークWを順次搬送する可動式のワーク治具である。
【0034】
上記真空チャンバー1Aを備えた被膜形成装置は、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができるうえに、ワークWの両面に、複数層(二層)の被膜を形成することができ、このようなワークWの生産性を高めることができる。
【0035】
また、上記の真空チャンバー1Aは、一方の処理ステージS1のターゲット5と、他方の処理ステージS2のターゲット5との間に、遮蔽板12が設けてある。これにより、ターゲット5の材料(原子・分子)の飛散範囲を抑制することができ、夫々の処理ステージS1,S2において良好な被膜形成を行うことができる。
【0036】
図4は、本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバー1Aを説明するブロック図である。図示の真空チャンバー1Aは、真空ポンプ(真空排気手段)3及び不活性ガス供給装置9等のほか、先の図2及び図3に示すように、各処理ステージS1,S2におけるターゲット5とワークWとの間にバイアス電圧Bを印加する電源13,13を備えている。
【0037】
上記の真空チャンバー1Aを備えた被膜形成装置は、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができるうえに、被膜形成中にワークに印加されるバイアス電圧によってエネルギーを制御した不活性ガスのイオンをワークに照射することができ、ターゲット5の原子・分子のエネルギー量を増大することができ、成膜時間の短縮化に伴ってタクトタイムのさらなる短縮化を実現する。また、被膜特性の制御を行うことが可能になり、被膜構造や膜厚の調整などの制御性を高めることができる。
【0038】
図5は、本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバー1Aを説明する図である。図示の真空チャンバー1Aは、二枚のワークW,Wを重ねて保持すルワーク治具4を備えている。この場合、各処理ステージS1,S2には、一対のターゲット5及び磁気回路6が対称的に配置してある。
【0039】
上記の真空チャンバー1Aを備えた被膜形成装置は、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができるうえに、ワークWの片面に複数層の被膜を形成することができ、このようなワークWの生産性をより一層高めることができる。
【0040】
図6は、本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバー1Aを説明する図である。図示の真空チャンバー1Aは、ワーク治具4が、一枚のワークWを夫々保持する第1及び第2の治具4A,4Bから成っている。第1及び第2の治具4A,4Bは、個々の処理ステージS1,S2に対してワークWを順次搬送する可動式のワーク治具である。各処理ステージS1,S2には、一対のターゲット5及び磁気回路6が対称的に配置してある。
【0041】
上記の真空チャンバー1Aを備えた被膜形成装置は、先の実施形態と同様の作用効果を得ることができるうえに、ワークWの片面又は両面に、単層又は複数層の被膜を形成することができる。すなわち、図6(A)に示すように第1及び第2の処理ステージS1、S2に夫々のワークW,Wを停止させたり、図6(B)に示すように第1処理ステージS1に両方のワークW,Wを停止させたり、ワークWの位置を入れ替えたりすることで、ワークWに対する被膜形成を選択的に行うことができる。
【0042】
図7は、本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態における真空チャンバー1Aを説明する図である。図示の真空チャンバー1Aは、ワーク治具4が固定式であって、ターゲット5が移動可能な構造になっている。このような構成であっても、先の実施形態と同様に良好な被膜を形成することが可能である。
【0043】
図8は、本発明の被膜形成装置のさらに他の実施形態を説明する図である。
図示の被膜形成装置は、複数の真空チャンバー1A〜1Lを直線的に配列したものである。この被膜形成装置は、リニア駆動式のチャンバー移送手段15により、真空チャンバー1A〜1Lをその配列方向(図中において右方向)に一斉に移動させる。そして、搬送経路上に、ワークWの収容領域A11、真空引き領域A12、加熱領域A13、ボンバード領域A14、成膜領域A15及びワークWの取り出し領域A16を順に設定している。
【0044】
上記の被膜形成装置にあっても、先の実施形態と同様に、プレート状のワークWの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置において、製造コストの低減やタクトタイムの短縮化を実現することができる。
【0045】
また、上記のように真空チャンバー1A〜1Lを直線的に配列した構成では、これらの下側に復路を設け、無限軌道状の周回経路にすることもできる。さらに、上記の被膜形成装置では、装置の一方側からワークを搬入して、装置の他方側からワークを搬出することとなり、図1に示す先の被膜形成装置では、装置の片側でワークの搬入及び搬出を行うこととなる。したがって、生産ラインのレイアウトなどに応じて、真空チャンバーの配列が異なる被膜形成装置を選択すればよい。
【0046】
ここで、上記の被膜形成装置により被膜形成されたワークの具体例としては、プレート状の導電部材が挙げられる。この導電部材には、例えば、膜電極構造体とともに燃料電池を構成するセパレータとして用いられるものがある。
【0047】
図9に示す導電部材Eは、例えば、図4に示す真空チャンバー1Aを備えた被膜形成装置により製造したものである。導電部材Eは、前記セパレータとして用いるものであって、基材としてのワークWがステンレス製である。そして、ワークWの表面に、図4中の最初の処理ステージS1及び図1(A)中の第1成膜領域A5aにおいて一層目の被膜を形成し、次に、図4中の次の処理ステージS2及び図1(A)中の第2成膜領域A5bにおいて二層目の被膜を形成する。
【0048】
このとき、導電部材Eは、一層目の被膜が、クロムの中間層L1であって、二層目の被膜が、導電性炭素を含む導電性炭素層L2である。導電性炭素層L2は、非昌質炭素膜であって、代表的にはDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)である。
【0049】
また、上記の導電部材Eにおける導電性炭素層L2は、図10に示すように、炭素と水素との結合がSP3である場合に比べて、同結合がSP2である方が電気伝導性が大きくなり、且つ水素は少ない方が望ましい。したがって、上記導電部材Eを製造する際には、図1に示す実施形態で説明したように、真空チャンバー内を加熱して水分を除去する工程(加熱領域A3)と、真空チャンバー内に不活性ガスを供給してワーク表面の酸化被膜を除去する工程(ボンバード領域A4)が必須である。
【0050】
そして、導電部材Eは、より望ましくは、導電性炭素層L2において、ラマン散乱分光分析により測定されたDバンドピーク強度(ID)と、Gバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)を1.3以上としている。この強度比Rが高くなるほどSP2結合に近くなり、電気伝導性が大きくなる。また、中間層L2は、柱状構造を有しており、さらに中間層L1の表面上に、導電性炭素層L2を構成する突起状粒子が存在しているものとしている。
【0051】
上記の導電性炭素層L2は、中間層L1上に配置され、導電性炭素を含む層である。この層の存在によって、導電部材(セパレータ)Eの導電性を確保しつつ、ワーク(基材)Wのみの場合と比較して耐食性が改善されうる。
【0052】
導電性炭素として使用可能な炭素材料は、導電部材(セパレータ)Eとしての接触抵抗を増大させない限りにおいて、とくに限定されることはない。炭素材料の結晶性や結晶性組成については、例えば、ラマン散乱分光分析により算出される、Gバンドピークと強度とDバンドピーク強度との比(強度比R値:ID/IG)を用いることができる。
【0053】
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1350cm−1付近及び1584cm−1付近にピークが生じる。結晶性の高いグラファイトは、1584cm−1付近にシングルピークを有し、このピークは通常『Gバンド』と称される。一方、結晶性が低くなる(結晶構造欠陥が増す)につれて、1350cm−1付近のピークが現れてくる。このピークは通常『Dバンド』と称される(なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm−1)であり、上記のDバンドとは区別される)。Dバンドピーク強度(ID)とGバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)は、炭素材料のグラファイトクラスターサイズやグラファイト構造の乱れ具合(結晶構造欠陥性)、SP2結合比率どの指標として用いられる。すなわち、本発明においては、導電性炭素層L2の接触抵抗の指標とすることができ、導電性炭素層L2の導電性を制御する膜質パラメータとして用いることができる。
【0054】
R(ID/IG)値は、顕微ラマン分光器を用いて、炭素材料のラマンスペクトルを計測することにより算出される。具体的には、Dバンドと呼ばれる1300〜1400cm−1のピーク強度(ID)と、Gバンドと呼ばれる1500〜1600cm−1のピーク強度(IG)との相対的強度比(ピーク面積比(ID/IG))を算出することにより求められる。
【0055】
ここで、導電性炭素層L2の強度比(R値)が所定の範囲にある場合、接触抵抗の増大を顕著に抑制させることができる。よって、導電性炭素として用いる炭素材料は、導電性短資層L2がかかる所定の強度比を有するように選択することが好ましい。具体的には、導電性炭素層L2の強度比(R値)に関する所定の範囲は、以下に限定されることはないが、好ましくは先述したように1.3以上であり、より好ましくは1.4〜2.0であり、さらに好ましくは1.4〜1.9であり、とくに好ましくは1.5〜1.8である。この値が1.3以上であれば、積層方向の導電性が充分に確保された導電性炭素層L2が得られる。また、R値が2.0以下であれば、グラファイト成分の減少を抑制することができる。さらに、導電性炭素層L2自体の内部応力の増大をも抑制でき、下地である中間層L1との密着性を一層向上させることができる。
【0056】
このようにして、導電部材Eは、導電性炭素層L2により、高い導電性及び耐食性が得られると共に、クロム製の中間層L1により導電性炭素層L2の密着性が高くなり、長期にわたって良好な性能を維持し得るものとなる。
【0057】
本発明の被膜形成装置は、その構成が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、構成の細部を適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1A〜1P 真空チャンバー
2 ロータリテーブル(チャンバー移送手段)
3 真空ポンプ(真空排気手段)
4 ワーク治具
4A 第1の治具
4B 第2の治具
5 ターゲット
6 磁気回路
13 (バイアス電圧の)電源
14 不活性ガス導入手段
15 チャンバー移送手段
16 電圧印加手段
A1 準備領域
A2 A12 真空引き領域
A3 A13 加熱領域
A4 A14 ボンバード領域
A5 A15 第1成膜領域
A5a 第1成膜領域
A5b 第2成膜領域
A11 収容領域
A16 取り出し領域
E 導電部材
L1 中間層
L2 導電性炭素層
S1 S2 処理ステージ
W ワーク(基材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート状のワークの表面にスパッタリングにより被膜を形成する装置であって、
所定間隔で配列した複数の真空チャンバーと、
これらの真空チャンバーをその配列方向に移動させるチャンバー移送手段と、
ワークを収容した真空チャンバーの内部を真空引きする真空排気手段を備え、
各真空チャンバーが、その内部でワークを保持するワーク治具と、スパッタリング用のターゲットと、不活性ガスを導入する不活性ガス導入手段と、ターゲットに高電圧を印加する電圧印加手段を備えていることを特徴とする被膜形成装置。
【請求項2】
前記ワーク治具が、ターゲットの表面とワークの表面とが平行となる状態に前記ワークを保持することを特徴とする請求項1に記載の被膜形成装置。
【請求項3】
前記真空チャンバーの内部に、ターゲット及びこのターゲットの裏面に磁場を形成する磁気回路で構成した処理ステージを一方向に複数配列し、
前記ワーク治具が、個々の処理ステージに対してワークを順次搬送する可動式のワーク治具であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被膜形成装置。
【請求項4】
前記処理ステージが、ワーク治具に保持されたワークを間にして、一対のターゲット及び磁気回路を対称的に備えていることを特徴とする請求項3に記載の被膜形成装置。
【請求項5】
前記真空チャンバーが、ワークにバイアス電圧を印加する電源を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の被膜形成装置。
【請求項6】
前記ワーク治具が、二枚のワークを重ねて保持するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の被膜形成装置。
【請求項7】
前記ワーク治具が、一枚のワークを夫々保持する第1及び第2の治具から成り、第1及び第2の治具が、個々の処理ステージに対してワークを順次搬送する可動式のワーク治具であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の被膜形成装置。
【請求項8】
複数の真空チャンバーが、周回経路に沿って配列してあることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の被膜形成装置。
【請求項9】
前記周回経路上に、真空チャンバーに対してワークを出し入れする準備領域と、ワークを収容した真空チャンバー内を真空引きして不純物を除去する真空引き領域と、真空チャンバー内を加熱して水分を除去する加熱領域と、真空チャンバー内に不活性ガスを供給してワーク表面の酸化被膜を除去するボンバード領域と、最初の処理ステージにおいてワークの表面に被膜を形成する成膜領域を順に備え、
チャンバー移送手段により、各真空チャンバーを配列方向に移動させて、夫々の領域に順次移動させることを特徴とする請求項8に記載の被膜形成装置。
【請求項10】
前記真空チャンバー内に二つの処理ステージを備え、
前記周回経路上に、真空チャンバーに対してワークを出し入れする準備領域と、ワークを収容した真空チャンバー内を真空引きして不純物を除去する真空引き領域と、真空チャンバー内を加熱して水分を除去する加熱領域と、真空チャンバー内に不活性ガスを供給してワーク表面の酸化被膜を除去するボンバード領域と、最初の処理ステージにおいてワークの表面に被膜を形成する第1成膜領域と、次のステージに移動させたワークの表面に被膜を形成する第2成膜領域を順に備え、
チャンバー移送手段により、各真空チャンバーを配列方向に移動させて、夫々の領域に順次移動させることを特徴とする請求項8に記載の被膜形成装置。
【請求項11】
請求項10に記載の被膜形成装置によって製造した導電部材であって、
基材としてのワークがステンレス製であり、
第1成膜領域で形成した被膜が、クロムの中間層であり、
第2成膜領域で形成した被膜が、導電性炭素を含む導電性炭素層であることを特徴とする導電部材。
【請求項12】
前記導電性炭素層において、ラマン散乱分光分析により測定されたDバンドピーク強度(ID)と、Gバンドピーク強度(IG)との強度比R(ID/IG)が1.3以上であり、
前記中間層は、柱状構造を有しており、さらに前記中間層の表面上に、前記導電性炭素層を構成する突起状粒子が存在していることを特徴とする請求項11に記載の導電部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−184490(P2012−184490A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50033(P2011−50033)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】