説明

補助ブレーキ制御装置

【課題】 簡単且つ安価な構成としながら、車両の減速度を所定に維持しつつ、多様化する細かな要求に応えることができる補助ブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】 S2で補助ブレーキを選択する際に、S60で使用を制限された補助ブレーキを考慮して、実際の車両減速度を目標減速度に近づけることができる最適な補助ブレーキを、補助ブレーキ装置3(エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6、或いはこれらの組み合わせ)の中から選択する。S3では静穏性の要求が低いためS2で選択された補助ブレーキAを作動させ、S4では静穏性の要求が比較的高いためS2で選択された補助ブレーキBを作動させ、S5では静穏性の要求が高いため補助ブレーキを作動させることなく本フローチャートを終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサービスブレーキ(常用ブレーキ)と組み合わされて使用される補助ブレーキの作動を制御する補助ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、補助ブレーキの作動を制御する補助ブレーキ制御装置は、種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、少なくとも2種類の補助ブレーキ(駆動系に配設されるリターダ、エキゾーストブレーキ及びエンジンコンプレッションブレーキ(圧縮圧開放式エンジンブレーキ)等)を備え、これら補助ブレーキと、サービスブレーキである主ブレーキ(フットブレーキ)とを併用する場合において、運転状態(例えば、ブレーキペダルの踏み込み量)に基づいて補助ブレーキを所定の順番で作動させるようにして、運転者の要求に応じた制動が得られるようにした制御装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、ブレーキ操作レバー(補助ブレーキの作動を操作するためのレバー)の操作状況及びペダルセンサで検出されるブレーキペダルの踏込み状況に基づいて、実際の減速度が予め設定された目標減速度となるように、ドラムブレーキ(サービスブレーキ)及び複数の補助ブレーキ(排気ブレーキ、圧縮圧開放式エンジンブレーキ、駆動系に配設されるリターダ等)が選択されて作動され、車両の状況等に係わらずブレーキ操作レバーの操作状況及びブレーキペダルの踏込み速度や踏込み量に対して、常に一定の減速状態を得るようにし、単純な操作によって運転者の意思に応じた減速度合いで車両の制動を行えるようにした制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開平8−91188号公報
【特許文献2】特開平9−2225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示されているものでは十分でない場合も想定され、例えば、車両の減速度を所定に維持することができると共に、多様化する細かな要求に応えることができるようにしたい、といった要請がある。
【0006】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単且つ安価な構成としながら、車両の減速度を所定に維持しつつ、多様化する細かな要求に応えることができる補助ブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係る補助ブレーキ制御装置は、サービスブレーキが作動している際に、所定の車両減速度を達成するように補助ブレーキの作動を制御する補助ブレーキ制御装置であって、
所定の車両減速度が車両走行路面の勾配に基づいて設定されることを特徴とする。
また、本発明に係る補助ブレーキ制御装置は、図1に示すように、
サービスブレーキが作動している際に、所定の車両減速度を達成するように補助ブレーキの作動を制御する補助ブレーキ制御装置であって、
所定の車両減速度を達成する以外の要求を満たすように、補助ブレーキの作動を制限する補助ブレーキ作動制限手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
前記補助ブレーキとして、エンジン・リターダ、排気ブレーキ、ドライブトレイン・リターダのうちの少なくとも一つが備えられることができる。
【0009】
前記所定の減速度を達成する以外の要求は、例えば、静穏性(車両制動時において外部で観測される騒音が小さく穏やかであること)とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車両走行路面の勾配に応じてより一層きめ細かく目標減速度を設定することができるため、サービスブレーキの消耗品の消耗を抑制しつつ、よりきめ細かな要求に応じた制動特性が得られることになる。
また、本発明によれば、所定の車両減速度を達成する以外の要求を満たすように、補助ブレーキの作動を制限するようにしたので、多様化する細かな要求に応えることができることになる。
従って、本発明によれば、簡単且つ安価な構成としながら、車両の減速度を所定に維持しつつ、多様化する細かな要求に応えることができる補助ブレーキ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る補助ブレーキ制御装置の一実施の形態について、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0012】
本実施の形態に係る補助ブレーキ制御装置は、図2に示すように、ブレーキペダル1の操作入力にしたがって制御される主ブレーキ(サービスブレーキ)装置2と、この主ブレーキ装置2とは別系統で設けられ走行中の車両を減速させるために利用される補助ブレーキ装置3(例えば、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6など)と、を備えた車両に適用され、所定の車両減速度を達成することができるように、主ブレーキ装置2の作動状態等に従って前記補助ブレーキ装置3を連動させるように制御する補助ブレーキ制御部7を含んで構成されている。
【0013】
この補助ブレーキ制御部7は、CPU、ROM、RAM、各種I/F、A/D変換器、D/A変換器等を含んで構成されている。なお、補助ブレーキ制御部7には、図示しない車速センサからの検出信号、エンジン回転速度等に関する情報や、GPSからの位置情報等の各種の信号が入力されると共に、ブレーキペダル1が所定に踏み込まれたときにONするブレーキペダルスイッチ8の検出信号が入力されている。
【0014】
なお、補助ブレーキ制御部7は、車両重量(積荷積載量)、ブレーキペダルスイッチ8のON信号、補助ブレーキ自動作動スイッチ9の状態、車速、エンジン回転速度、走行路面の勾配などに基づいて、当該補助ブレーキ制御部7内のROM等に記憶されているマップ(テーブル)等を参照し、車両を制動させる際に目標減速度を達成することできるように、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6或いはこれらの組み合わせの中から作動させるべき補助ブレーキを選択してその作動を制御する。
【0015】
ここで、エンジン・リターダ4は、圧縮上死点付近で排気弁を一旦開き再び閉じることによりエンジンブレーキ力を高める補助ブレーキ(圧縮圧開放式エンジンブレーキ、デコンプレッションブレーキ)であり、排気ブレーキ5は排気通路を絞ることにより排気抵抗を高めてエンジンブレーキ力を高める補助ブレーキであり、ドライブライン・リターダ6は駆動経路に介装され駆動系回転部に回転抵抗を与えることで制動力を高める補助ブレーキ(流体式、渦電流式、永久磁石式等の一段又は複数段のリターダとすることができる)である。
【0016】
このように、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブトレイン・リターダ6は、それぞれに異なるメカニズムに基づく補助ブレーキであり、それぞれ異なる特性を有している。したがって、これらの異なる特性に配慮して、よりきめ細かな補助ブレーキ制御を行うことが望まれる。
【0017】
本実施の形態に係る補助ブレーキ制御部7では、図3に示すようなフローチャートに従って補助ブレーキ装置3(例えば、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6)の作動を制御するようになっている。当該フローチャートは、補助ブレーキ自動作動スイッチ9がONされているオートリターダモードにおける運転中に実行される。
【0018】
すなわち、
ステップ(以下、単にSとも言う)1では、ブレーキペダルスイッチ8からの検出信号がONであるか否かを判断する。YESであればステップ2へ進む。NOであればステップ5へ進み、ブレーキペダル1は踏まれていないとして、補助ブレーキ装置3を作動させることなく本フローチャートを終了する。
【0019】
S2では、ブレーキペダル1が所定に踏まれているので、例えば補助ブレーキ制御部7内に予め記憶してある目標減速度マップを参照して、目標減速度を達成できる補助ブレーキとして、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6、或いはこれらの組み合わせの中から選択する。
【0020】
ここで、本実施の形態では、目標減速度を達成するために、更にはS2において補助ブレーキを多様化する要求に応じて選択できるようにするために、本フローチャートと並行して、S10、S20、S30、S40、S50、S60が実行されている。
【0021】
S10では、目標減速度を車両重量に応じて設定するために(例えば、S2で利用されるマップを車両重量に応じて選択する或いは目標減速度を車両重量に応じて補正するなどのため)、車両の重量推定が行われる。
車両重量推定方法については、例えば、特開2002−13620号公報等で提示されている方法を利用することができる。
【0022】
S20では、目標減速度を走行路面の勾配に応じて設定するために(例えば、S2で利用されるマップを走行路面の勾配に応じて選択する或いは目標減速度を走行路面の勾配に応じて補正するなどのため)、走行路面の勾配推定が行われる。
勾配の推定方法については、例えば、特開2002−13620号公報等で提示されている方法を利用することができる。
【0023】
S30では、各補助ブレーキにより発生可能なトルクが算出される。例えば、実際の車両の走行状態(車速、変速段位置など)に基づいて予め設定されているマップ(車両重量、勾配などに応じて複数マップを準備することもできるし、マップデータを車両重量、勾配などに応じて補正するようにしてもよい)を参照して、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6、或いはこれらの組み合わせにより発生可能なトルク(制動トルク)を算出する。
【0024】
S40では、図示しない車速センサ等から取得される車速データに基づいて実際の車両の減速度を算出する。加速度センサを備えている場合には、加速度センサにより検出される加速度データに基づいて実際の車両の減速度を求めることもできる。
【0025】
更に、S50では、静穏性要否判定が実行される。静穏性は、車両制動時において外部で観測される騒音の小ささに代表される特性とすることができる。
例えば、S51において、現在が夜であるのか昼であるのかなどが昼夜判定が行われ、その判定結果がS50における静穏性要否判定に提供される。昼夜判定は、時刻データやライトスイッチ信号のON・OFF状態等に基づき行われる。
【0026】
また、S52では、GPS等から車両位置情報を取得し、現在の車両走行位置が市街地であるか否かなど、静穏性が要求される地域を走行中であるか否か等を判定する。
【0027】
そして、S50では、S51、S52の判定結果に基づいて、静穏性が要求されるか否かを判定する。例えば、夜間である場合には静穏性が必要と判定したり、市街地を走行中であれば静穏性が必要であると判定する。なお、昼夜と走行地域との組み合わせにより、要求される静穏性の度合いも異なる場合もあるため、静穏性の要求度合いを求めるようにS50を構成することもできる。
【0028】
S60では、S50における判定結果に基づいて、要求される静穏性を満たさない補助ブレーキを、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6、或いはこれらの組み合わせの中から選択して、その使用を制限するよう判定する。
【0029】
そして、S2では補助ブレーキを選択する際に、車速、S20で推定された車両重量、S30で推定された走行路面の勾配等に基いて予め設定されているマップ等を参照して目標減速度を取得すると共に、S60で使用を制限された補助ブレーキを考慮して、S40で取得された実際の車両減速度を、目標減速度に近づけることができる最適な補助ブレーキを、補助ブレーキ装置3(エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6、或いはこれらの組み合わせ)の中から選択する。
【0030】
ここで、前記S50、前記S60、前記S2における処理が、本発明に係る補助ブレーキ作動制限手段として機能する。
【0031】
なお、静穏性の要求が比較的高く、騒音の小さい補助ブレーキだけでは、目標減速度を達成できない場合には、目標減速度に最も近づけることができる補助ブレーキを選択するよう構成したりすることができる。
【0032】
S3は、静穏性の要求が低い場合であり、かかる場合は、S2で選択された補助ブレーキA(例えば、エンジン・リターダ4(或いは排気ブレーキ5))を作動させて、本フローチャートを終了する。
なお、これに限定されるものではなく、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6を組み合わせて、制動力を優先させるように補助ブレーキ装置3を作動させるようにすることができる。
【0033】
S4は、静穏性の要求が比較的高い場合であり、かかる場合は、S2で選択された補助ブレーキB(騒音の小さい補助ブレーキ、例えば、ドライブライン・リターダ6)を作動させて、本フローチャートを終了する。
なお、これに限定されるものではなく、例えば、静穏性の要求に見合う範囲で、エンジン・リターダ4(或いは排気ブレーキ5)の効きを弱めつつ、ドライブライン・リターダ6を同時に動作させるようにすることもできる。また、ドライブライン・リターダ4の段数等を騒音の小さい側に変更するよう制御することなども可能である。
【0034】
S5は、静穏性の要求がより高い場合であり、かかる場合は、静穏性に対するより高い要求を満たすために、補助ブレーキ装置3を作動させることなく、本フローチャートを終了する。
【0035】
このように、本実施の形態によれば、車両走行路面の勾配に応じてより一層きめ細かく目標減速度を設定することができるため、サービスブレーキの消耗品の消耗を抑制しつつ、よりきめ細かな要求に応じた制動特性が得られることになる。
また、本実施の形態によれば、運転者がブレーキペダル1を所定に踏み込み主ブレーキ装置2を作動させた際に、目標減速度が得られるように、補助ブレーキ装置3(例えば、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6など)を動作させるが、その際に、例えば、周囲の環境等を考慮して、要求される周囲の環境等にマッチングさせることができるように補助ブレーキ装置3の作動に制限を加えることができる構成したので、比較的簡単かつ安価な構成でありながら、制動特性を所定に維持しつつ、多様化する細かな要求にも応えることができる補助ブレーキ制御装置を提供することができる。
【0036】
上記実施の形態では、補助ブレーキ装置3として、エンジン・リターダ4、排気ブレーキ5、ドライブライン・リターダ6等を例示しているが、本発明は、これらに限定されるものではなく、他の補助ブレーキ装置にも適用可能である。
【0037】
また、本発明は、本実施の形態のように複数種の補助ブレーキを備える場合に限定されるものではなく、一の補助ブレーキ装置を備える場合においても適用可能である。
すなわち、一の補助ブレーキ装置を備える場合に、制動特性を所定に維持しながら、周囲の環境等を考慮して、要求される周囲の環境等にマッチングさせることができるように当該一の補助ブレーキ装置の作動状態に制限を加えつつ制御するようにする場合も本発明の範囲に属するものである。
【0038】
なお、S20において行われる車両走行路面の勾配推定の方法は、例示した方法に限定されるものではなく、本発明は、他の方法により推定する場合にも適用可能である。
【0039】
以上で説明した本実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る補助ブレーキ制御装置を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明に係る補助ブレーキ制御装置の一実施の形態を概略的に示す全体構成図である。
【図3】同上実施の形態に係る補助ブレーキ制御装置において行われる補助ブレーキ制御の一例を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
1 ブレーキペダル
2 主ブレーキ(サービスブレーキ)装置
3 補助ブレーキ装置
4 エンジン・リターダ
5 排気ブレーキ
6 ドライブライン・リターダ
7 補助ブレーキ制御部
8 ブレーキペダルスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サービスブレーキが作動している際に、所定の車両減速度を達成するように補助ブレーキの作動を制御する補助ブレーキ制御装置であって、
所定の車両減速度が車両走行路面の勾配に基づいて設定されることを特徴とする補助ブレーキ制御装置。
【請求項2】
サービスブレーキが作動している際に、所定の車両減速度を達成するように補助ブレーキの作動を制御する補助ブレーキ制御装置であって、
所定の車両減速度を達成する以外の要求を満たすように、補助ブレーキの作動を制限する補助ブレーキ作動制限手段を備えたことを特徴とする補助ブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記補助ブレーキとして、エンジン・リターダ、排気ブレーキ、ドライブトレイン・リターダのうちの少なくとも一つが備えられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の補助ブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記所定の減速度を達成する以外の要求が、静穏性であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の補助ブレーキ制御装置。
【請求項5】
所定の車両減速度が車両走行路面の勾配に基づいて設定されることを特徴とする請求項2〜請求項4の何れか1つに記載の補助ブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−279924(P2008−279924A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126694(P2007−126694)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】