説明

補正係数取得方法およびインピーダンス測定装置

【課題】ベクトル比を検出するためにアナログ・ディジタル変換器を備えるインピーダンス測定装置において、従来よりも高い精度で測定する。
【解決手段】被測定物への印加電圧を表す信号および被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するためのアナログ・ディジタル変換器(430)を備えるインピーダンス測定装置(10)において、補正係数Gを格納する記憶手段(520)と、記憶手段に格納された補正係数Gを用いてアナログ・ディジタル変換器の出力データを補正する手段(510)を備える。補正係数Gは、インピーダンス測定装置(10)を用いて、測定の事前に取得される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インピーダンス測定装置の測定誤差を補正するための技術に係り、特に、アナログ・ディジタル変換器の直線性に起因して生じる測定誤差を補正するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の測定器には、アナログ・ディジタル変換器が多用されている。例えば、インピーダンス測定装置は、測定信号を被測定物に印加し、被測定物を流れる電流と被測定物に印加される電圧を測定し、それらの測定結果に基づいて被測定物のインピーダンスを求めることにより、被測定物のインピーダンスを測定する。インピーダンス測定装置において、電圧は、ベクトル比検出器(VRD;Vector Ratio Detector)内のアナログ・ディジタル変換器によってディジタル化され、電流は、電流電圧変換器によって電圧に変換された後に同アナログ・ディジタル変換器によってディジタル化される。
【0003】
【特許文献1】特開平成10−108041号公報(第2〜4頁、図1)
【特許文献2】特開平成11−346153号公報(第2〜4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アナログ・ディジタル変換器が有する直線性誤差は、測定誤差の要因の1つである。例えば、14ビット・アナログ・ディジタル変換器は、性能が良いものでも、そのSFDR(スプリアス−フリー・ダイナミック・レンジ)が90〜100dB程度である。仮に、そのようなアナログ・ディジタル変換器にフル・スケールの1/5の信号が入力される場合、50〜150ppm程度の誤差を生じる。この値は、現在のインピーダンス測定装置では、許容できない値である。この誤差を軽減するためには、より高分解能で直線性特性が優れたアナログ・ディジタル変換器を用いる必要がある。一般に、アナログ・ディジタル変換器の分解能が高くなるにつれて、アナログ・ディジタル変換器の変換速度は遅くなる。そのような低速のアナログ・ディジタル変換器で、より高速すなわち高周波の信号を測定する場合、周波数変換(ダウン・コンバージョン)のためのミキサや局部信号源を要する。これらの追加の部品は、回路規模やコストの増大を招く。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、周波数に応じてインピーダンスが変化する素子に、インピーダンス測定装置が生成する被測定信号を素子に印加し、素子に印加される電圧または素子を流れる電流または素子のインピーダンスをインピーダンス測定装置で測定する。これらの測定値は、素子のインピーダンスに応じて変化する。素子のインピーダンスは、上記測定中に、測定信号の周波数を変更することにより、制御される。インピーダンス測定装置に具備されるアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数は、電圧もしくは電流もしくはインピーダンスの測定値および真値から求められる。そして、補正係数Gは、インピーダンス測定装置で利用可能なように、記憶手段に格納される。一方、インピーダンス測定装置は、その格納された補正係数Gを用いて、インピーダンス測定装置内のアナログ・ディジタル変換器の出力データを補正する。
【0006】
要するに本第一の発明は、インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子を流れる電流を、前記素子に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、前記第一のステップにおける測定値、ならびに、前記素子のインピーダンスの真値または前記素子を流れる電流の真値を用いて、前記補正係数を求める第二のステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0007】
また、本第二の発明は、インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子を流れる電流を、前記素子に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、抵抗値が既知であり且つ前記測定装置に被測定物として接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される抵抗器のインピーダンスまたは前記抵抗器を流れる電流を、前記抵抗器に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第二のステップと、前記第一および前記第二のステップにおける測定値、ならびに、前記素子および前記抵抗器のインピーダンスの真値もしくは前記素子および前記抵抗器を流れる電流の真値を用いて、前記補正係数を求める第三のステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0008】
さらに、本第三の発明は、インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子に印加される電圧を、前記素子を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、前記第一のステップにおける測定値、ならびに、前記素子のインピーダンスの真値または前記素子に印加される電圧の真値を用いて、前記補正係数を導出する第二のステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0009】
またさらに、本第四の発明は、インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子に印加される電圧を、前記素子を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、抵抗値が既知であり且つ前記測定装置に被測定物として接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される抵抗器のインピーダンスまたは前記抵抗器に印加される電圧を、前記抵抗器を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第二のステップと、前記第一および前記第二のステップにおける測定値、ならびに、前記素子および前記抵抗器のインピーダンスの真値または前記素子および前記抵抗器に印加される電圧の真値を用いて、前記補正係数を求める第三のステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本第五の発明は、本第一乃至本第四のいずれかの発明方法において、前記素子が、キャパシタまたはインダクタであることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本第六の発明は、本第一乃至本第五のいずれかの発明方法において、前記補正係数が、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データに対する乗数または除数であることを特徴とするものである。
【0012】
またさらに、本第七の発明は、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器を備えるインピーダンス測定装置において、本第一乃至本第六のいずれかの方法により得られる補正係数が格納された記憶手段と、前記記憶手段に格納された補正係数を用いて、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データを補正する演算手段と、を備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本八の発明は、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器を備えるインピーダンス測定装置において、前記アナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数であって、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データに対する乗数または除数である補正係数が格納された記憶手段と、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データに前記補正係数を乗ずる演算手段と、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高精度電圧源を別に用意することなく、アナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を得ることができる。また、その補正係数Gは、測定信号の周波数の制御精度に依存した精度で取得される。そして、インピーダンス測定装置は、その補正係数Gを利用することにより、アナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正することができる。これにより、インピーダンス測定装置において、測定精度を損なうことなく、より高速なアナログ・ディジタル変換器が利用できるようになる。
【0015】
なお、本発明には、アナログ・ディジタル変換器の直線性誤差のみならず、アナログ・ディジタル変換器の前置回路の直線性誤差を低減する効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を添付の図面に示す好適実施形態に基づいて説明する。本発明の第一の実施形態は、インピーダンス測定装置10である。まず、インピーダンス測定装置10の構成と動作について説明する。そして、その後に、インピーダンス測定装置10で用いられる補正係数の取得について説明する。
【0017】
(インピーダンス測定装置10の構成)
ここで、図1を参照する。図1は、インピーダンス測定装置10の構成を示す図である。図1において、インピーダンス測定装置10は、自動平衡ブリッジ法により、被測定物100のインピーダンスを測定する装置である。インピーダンス測定装置10は、信号源200と、電流電圧変換器300と、ベクトル比検出器400と、補正装置500とを備える。
【0018】
被測定物100は、少なくとも2つの端子を有する被測定物である。被測定物100が3以上の端子を有する場合、それらの端子のうち2つが測定に用いられる。被測定物100は、4つの端子(Hpot、Hcur、Lpot、Lcur)を介して、インピーダンス測定装置10と接続されている。
【0019】
信号源200は、被測定物100に印加するための測定信号Sを発生する信号発生器である。測定信号Sは、正弦波信号である。測定信号Sの周波数fは、PLL(Phase Locked Loop)技術またはDDS(Direct Digital Synthesizer)技術により可変である。従って、周波数fは、50ppmの絶対精度もしくは10ppmの相対精度で制御される。以下、測定信号Sの周波数fは、測定周波数fと称する。信号源200は、Hcur端子を介して被測定物100に接続される。また、信号源200は、Hcur端子およびHpot端子を介して、ベクトル比検出器400にも接続される。素子210は、信号源200の出力インピーダンスを表し、周波数に依らずほぼ一定の50オームのインピーダンスZoを呈する。
【0020】
電流電圧変換器300は、被測定物100を流れる電流を電圧に変換する装置である。従って、電流電圧変換器300の出力端には、被測定物100を流れる電流を表す電圧信号が現れる。電流電圧変換器300は、ヌルアンプ310と、レンジ抵抗器320とを備える。ヌルアンプ310およびレンジ抵抗器320は、帰還ループ330を形成している。帰還ループ330は、ヌルループとも称される。
【0021】
ヌルアンプ310は、レンジ抵抗器320を流れる電流と被測定物100を流れる電流とを平衡させることにより、ヌルアンプ310の入力端に流れ込む電流を零にするような信号を出力する装置である。レンジ抵抗器320を流れる電流と被測定物100を流れる電流とが平衡する時、Lpot端子は仮想接地される。ヌルアンプ310は、図示しないが、一般に、零位検出器、ベクトル検波器、狭帯域増幅器、および、ベクトル変調器で構成される。
【0022】
レンジ抵抗器320は、図中に詳しく示していないが、1つの抵抗器、または、抵抗値が異なる複数の抵抗器から構成されている。それら複数の抵抗器は、測定するインピーダンスに応じて選択される。
【0023】
ベクトル比検出器400は、バッファ410と、バッファ411と、スイッチ420と、アナログ・ディジタル変換器430とを備える。バッファ410には、Hpot端子における信号、すなわち、被測定物100に印加される信号が入力される。バッファ411には、電流電圧変換器300の出力信号が入力される。スイッチ420は、バッファ410の出力端、または、バッファ411の出力端のいずれか一方を、アナログ・ディジタル変換器430の入力端に、選択的に接続する。なお、図において、Edutは、被測定物100に印加される信号の電圧を表す。また、Errは、電流電圧変換器300の出力信号の電圧を表す。アナログ・ディジタル変換器430から出力されるデータは、補正装置500へ供給される。なお、アナログ・ディジタル変換器430がホールド回路を要する場合には、サンプル・アンド・ホールド回路(不図示)などがアナログ・ディジタル変換器430の前段に適宜備えられるものとする。
【0024】
補正装置500は、アナログ・ディジタル変換器430から出力されるデータを補正する装置である。補正装置500は、プロセッサ510と、記憶装置520とを備える。プロセッサ510は、データ処理機能を有する装置である。プロセッサ510は、例えば、CPU、MPU、DSP、RISC、または、それらの少なくとも1つを含むFPGAもしくはASICである。本実施形態において、プロセッサ510は、インピーダンス測定装置10内の他の構成要素を制御する。なお、プロセッサ510は、インピーダンス測定装置10内の他の構成要素を制御する装置と別々であっても良い。また、プロセッサ510または補正装置500は、インピーダンス測定装置10の内部に備えられるコンピュータ、または、有線通信手段または無線通信手段によりインピーダンス測定装置10に接続される外部コンピュータと置き換えることができる。記憶装置520は、少なくとも1つの補正係数Gが格納される記憶装置である。補正係数Gとは、アナログ・ディジタル変換器430から出力されるデータを補正するために必要な値(データ)である。また、補正係数Gは、加数、減数、乗数、除数、または、多項式の各項の係数などである。記憶装置520は、補正係数Gを格納する機能を有する装置であれば良く、例えば、フラッシュメモリなどで構成される。
【0025】
(インピーダンス測定装置10の動作)
次に、インピーダンス測定装置10の測定動作を、以下に説明する。ここで、図1に加えて図2を参照する。図2は、インピーダンス測定装置10を用いて、被測定物のインピーダンスを測定する手順を示すフローチャートである。
【0026】
まず、ステップS10において、被測定物100がインピーダンス測定装置10に接続される。被測定物100の一端がHpot端子およびHcur端子に、被測定物100の他の一端がLpot端子およびLcur端子に、それぞれ接続される。
【0027】
次に、ステップS11において、信号源200から測定信号Sが出力され、被測定物100に印加される電圧が測定され、被測定物100を流れる電流が測定される。スイッチ420が端子aを選択しているとき、アナログ・ディジタル変換器430は、被測定物100に印加される電圧を表す信号をディジタル変換する。また、スイッチ420が端子bを選択しているとき、アナログ・ディジタル変換器430は、被測定物100を流れる電流を表す信号をディジタル変換する。スイッチ420の選択状態は、一回の電流または電圧の測定毎、所定回数の電流または電圧の測定毎、あるいは、所定時間毎に切り替わる。
【0028】
次に、ステップS12において、アナログ・ディジタル変換器430から出力される変換結果を補正する。プロセッサ510が、記憶装置520に格納される補正係数Gを用いて補正を実施する。ここで、アナログ・ディジタル変換器430の出力データをXとする。また、補正係数Gは、データに対する乗数の配列G(i)とする。なお、iは、要素番号である。さて、例えば、アナログ・ディジタル変換器430の出力データX1に対応する補正係数G(1)が記憶装置520に存在する場合、X1は次式のように補正され、補正後のデータY1が得られる。
【0029】
Y1=X1・G(1)
【0030】
また、対応する補正係数Gが存在しない場合、記憶装置520に存在する補正係数Gを用いて線形補間により、対応する補正係数Gが算出される。例えば、アナログ・ディジタル変換器430の出力データX6に対応する補正係数Gが存在せず、その代わりに、出力データX4に対応する補正係数G(2)、および、出力データX8に対応する補正係数G(3)が存在し、出力データX6がX4とX8との間の値である場合、X6は次式のように補正され、補正後のデータY6が得られる。
【0031】
Y6=X6・(G(2)・(X8−X6)+G(3)・(X6−X4))/(X8−X4)
【0032】
最後に、ステップS13において、被測定物100のインピーダンスが求められる。具体的には、ステップS12において得られる補正後の電流測定データおよび電圧測定データから、インピーダンスが計算により求められる。言うまでもないが、インピーダンスは、電圧測定値(データ)を電流測定値(データ)で除することにより導出される。なお、詳細には述べないが、本ステップにおいて、予め校正により得られた校正係数による補正も実施される。また、本ステップにおいて得られたインピーダンスは、被測定物100のインピーダンス測定値として、図示しない表示装置、通信装置または記憶装置などの出力装置に出力される。
【0033】
(補正係数Gの取得方法と手順)
さて、記憶装置520に格納されている補正係数Gは、インピーダンス測定装置10により、被測定物100を測定する前に取得される。補正係数Gの取得は、周波数に応じてインピーダンスが変化する素子をインピーダンス測定装置10で測定することにより実施される。以下、周波数に応じてインピーダンスが変化する素子を、リアクタンス性素子とも称する。まず、測定周波数fを制御して、リアクタンス性素子のインピーダンスを変えることにより、同素子に印加される電圧または同素子を流れる電流を変化させる。そして、その変化する電圧もしくは電流の測定値、または、そのリアクタンス性素子のインピーダンス測定値と、その電圧または電流またはインピーダンスの真値とに基づいて、補正係数Gが求められる。
【0034】
なお、測定中は、リアクタンス性素子に印加される電圧または同素子を流れる電流が実質的に一定に保たれる。より詳しく言えば、リアクタンス性素子に印加される電圧の変動に起因して、その電圧の測定値に含まれるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差の変動が所定値よりも小さくなるように、その電圧が維持される。または、リアクタンス性素子を流れる電流の変動に起因して、その電流の測定値に含まれるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差の変動が所定値よりも小さくなるように、その電流が維持される。これは、電圧Edutの測定に起因する生じるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差と、電圧Errの測定に起因して生じるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差とを分離して扱えるようにするためである。なお、所定値は、アナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差を補正するための係数を求める精度に応じて決定される。
【0035】
また、上記の方法によれば、補正係数に周波数依存性が含まれる場合がある。この周波数依存性は、アナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差とは関係ない。補正係数から周波数依存性を除去するために、上記リアクタンス性素子に代えて、さらに抵抗器を測定する。そして、リアクタンス性素子および抵抗器についての、電圧または電流またはインピーダンスの測定値および真値に基づき、周波数依存性が除去された補正係数Gが求められる。
【0036】
補正係数Gを求める方法は、大きく分けて4種類ある。すなわち、(1)リアクタンス性素子に印加される電圧を実質的に一定にしたときの同素子のインピーダンス測定値とそのインピーダンスの真値を用いる方法、または、(2)同素子を流れる電流を実質的に一定にしたときの同素子のインピーダンス測定値とそのインピーダンスの真値を用いる方法、(3)同素子を流れる電流の測定値とその電流の真値を用いる方法、もしくは、(4)同素子に印加される電圧の測定値とその電圧の真値を用いる方法、がある。
【0037】
<方法1>
まず、方法(1)により補正係数Gを取得する具体的態様について、以下に説明する。以下、図1と図3を参照する。図3は、インピーダンス測定装置10を用いて、補正係数Gを取得する手順を示すフローチャートである。
【0038】
まず、ステップS20において、周波数に応じてインピーダンスが変化する素子110を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。本実施形態では、素子110を、アジレント社製品の標準コンデンサ(製品型番:16386A)とする。キャパシタ標準の周波数−インピーダンス特性は、仕様として提供される既知の容量値C(=100ピコファラッド)を用いて計算により導出でき、すなわち、既知である。
【0039】
次に、ステップS21において、素子110に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、素子110のインピーダンスを測定する。素子110に印加される電圧の測定値に含まれるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差の変化量を所定値よりも小さくするためである。所定値は、素子110を流れる電流の測定値に含まれるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差を所望の精度で検出できる程度に、小さく設定される。
【0040】
さて、本ステップS21では、素子110に印加される電圧を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。また、素子110のインピーダンスを素子210のインピーダンスよりも十分に大きくなるように、測定周波数fの可変範囲が選択される。信号源200の出力電圧を、ほとんど減衰させることなく、素子110に印加させるためである。例えば、本実施形態において、素子110のインピーダンスを素子210のインピーダンスの200倍以上にする場合、測定周波数fは約159kHz以下に設定される。また、信号源200の出力電圧レベルの設定値、素子110の特性、または、測定周波数fの可変範囲は、アナログ・ディジタル変換器430に入力される信号の電圧の最大値がアナログ・ディジタル変換器430のフル・スケール近傍になるように設定される。
【0041】
次に、ステップS22において、抵抗器120を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。抵抗器120の抵抗値は既知である。本実施形態では、抵抗器120を、アジレント社製品の標準抵抗器(製品型番:42038A)とする。この標準抵抗器は、10キロオームの抵抗値Rを有する。
【0042】
次に、ステップS23において、抵抗器120に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、抵抗器120のインピーダンスを測定する。なお、本ステップにおける測定周波数fは、ステップS21における測定周波数fと同様に変化する。抵抗器120に印加される電圧を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。また、出力電圧レベルの設定値、または、抵抗器120の特性は、アナログ・ディジタル変換器430に入力される信号の電圧の最大値がアナログ・ディジタル変換器430のフル・スケール近傍になるように設定される。
【0043】
次に、ステップS24において、補正係数Gを求める。補正係数Gは、ステップS21およびステップS23において得られる測定値と、素子110および抵抗器120の各インピーダンスの真値とを用いて求められる。具体的には、測定点iにおける補正係数G(i)は、次式により求められる。
【0044】
G(i)=Gk(i)/Gn
Gk(i)=(Zc(i)/Zct(i))/(Zr(i)/Zrt(i))
Zct(i)=−j/(2π・f(i)・C)
Zrt(i)=R/(1+2π・f(i)・Cp・R)
【0045】
なお、iは、各測定点を区別するための番号であり、また、各測定点に対応する数値配列の各要素を区別するための要素番号である。f(i)は、測定点iにおける測定周波数fである。Zc(i)は、測定点iにおける素子110のインピーダンス測定値である。Zr(i)は、測定点iにおける抵抗器120のインピーダンス測定値である。Zct(i)は、Zc(i)に対する理論的真値であり、測定点iにおける素子110のインピーダンスの真値である。Zrt(i)は、Zr(i)に対する理論的真値であり、測定点iにおける抵抗器120のインピーダンスの真値である。Cpは、抵抗器120の既知の寄生容量である。Gnは、最大測定周波数におけるGk(i)である。
【0046】
念のため、上式の導出過程を以下に示す。まず、インピーダンスの測定値Zaは、以下の一般式で表現することができる。
【0047】
Za=Va/Ia
Va=Vo・(1+efv)(1+eav)
Ia=Io・(1+efi)(1+eai)
【0048】
ただし、Vaは、被測定物に印加される電圧の測定値である。Iaは、被測定物を流れる電流の測定値である。Voは、被測定物に印加される電圧である。Ioは、被測定物を流れる電流である。efvは、被測定物に印加される電圧を測定する際に生じる周波数誤差である。efiは、被測定物を流れる電流を測定する際に生じる周波数誤差である。eavは、被測定物に印加される電圧を測定する際に生じる直線性誤差である。eaiは、被測定物を流れる電流を測定する際に生じる直線性誤差である。
【0049】
被測定物のインピーダンスZoは、Zo=Vo/Io、である。また、素子110および抵抗器120に印加される電圧がそれぞれ実質的に一定に保たれているので、周波数誤差efvおよびefiならびに直線性誤差eavは、測定信号Sの周波数に依らず、変化しない。従って、ZcとZctとの関係、および、ZrとZrtとの関係は、次式のように表される。
【0050】
Zc=Zct・((1+e1)/(1+e2))・((1+e3)/(1+eaic))
Zr=Zrt・((1+e1)/(1+e2))・((1+e3)/(1+eair))
【0051】
ただし、e1は、測定周波数f(i)における周波数誤差efvである。e2は、測定周波数f(i)における周波数誤差efiである。e3は、測定周波数f(i)における直線性誤差eavである。eaicは、測定周波数f(i)において素子110を流れる電流を測定する際に生じる直線性誤差eaiである。eairは、測定周波数f(i)において抵抗器120を流れる電流を測定する際に生じる直線性誤差eaiである。
【0052】
上記2式のうち一方を、もう一方に代入して、さらに変形すると、以下の式が得られる。そして、その式をGkとする。
【0053】
(1+eair)/(1+eaic)
=(Zc/Zct)/(Zr/Zrt)
=Gk
【0054】
Gkには、直線性誤差eairが含まれている。しかし、抵抗器120に印加される電圧がそれぞれ実質的に一定に保たれているので、直線性誤差eairもまた一定である。ここで、測定点iにおけるGkをGk(i)とする。そして、全てのGk(i)の中から1つを選択してGnとし、そのGnによって全てのGk(i)を正規化する。そして、その正規化されたGk(i)を補正係数G(i)とする。
【0055】
Gk(i)/Gn=G(i)
【0056】
G(i)は、直線性誤差eaicの相対的変化を表している。この正規化により、直線性誤差eairを無視できるようになる。また、被測定物の定義値(既知の特性値)の誤差、すなわち、容量値Cや抵抗値Rの誤差をも無視できるようになる。そして、補正係数G(i)は、インピーダンス測定装置10が利用可能なように保存される。例えば、補正係数G(i)は、記憶装置520に格納される。
【0057】
さて、方法1による補正係数の取得において、Gkを求める式中のインピーダンスの真値Zct(i)およびZrt(i)は、素子110および抵抗器120のそれぞれを流れる電流の真値に置き換えることもできる。
【0058】
<方法2>
次に、方法(2)により補正係数Gを取得する具体的態様について、以下に説明する。以下、図1と図4を参照する。図4は、インピーダンス測定装置10を用いて、補正係数Gを取得する手順を示すフローチャートである。
【0059】
次に、ステップS30において、素子130を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。本実施形態では、素子130を、インダクタとする。インダクタの周波数−インピーダンス特性は、既知のインダクタンス値L(=100ミリヘンリー)を用いて計算により導出でき、すなわち、既知である。
【0060】
次に、ステップS31において、素子130を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、素子130のインピーダンスを測定する。素子130を流れる電流の測定値に含まれるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差の変化量を所定値よりも小さくするためである。所定値は、素子130に印加される電圧の測定値に含まれるアナログ・ディジタル変換器430の直線性誤差を所望の精度で検出できる程度に、小さく設定される。
【0061】
さて、本ステップS31では、素子130を流れる電流を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。また、素子130のインピーダンスが素子210のインピーダンスよりも十分に小さくなるように、測定周波数fの可変範囲が選択される。信号源200の出力電流が、測定周波数fに依らずほとんど変化しないようにするためである。例えば、本実施形態において、素子130のインピーダンスを素子210のインピーダンスの1/200以下にする場合、測定周波数fは約15.9kHz以下に設定される。また、信号源200の出力電圧レベルの設定値、素子130の特性、または、測定周波数fの可変範囲は、アナログ・ディジタル変換器430に入力される信号の電圧の最大値がアナログ・ディジタル変換器430のフル・スケール近傍になるように設定される。
【0062】
次に、ステップS32において、抵抗器120を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。
【0063】
次に、ステップS33において、抵抗器120を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、抵抗器120のインピーダンスを測定する。なお、本ステップにおける測定周波数fは、ステップS31における測定周波数fと同様に変化する。抵抗器120を流れる電流を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。また、出力電圧レベルの設定値、または、抵抗器120の特性は、アナログ・ディジタル変換器430に入力される信号の電圧の最大値がアナログ・ディジタル変換器430のフル・スケール近傍になるように設定される。
【0064】
次に、ステップS34において、補正係数Gを求める。補正係数Gは、ステップS31およびステップS33において得られる測定値と、素子130および抵抗器120の各インピーダンスの真値とを用いて求められる。具体的には、測定点iにおける補正係数G(i)は、次式により求められる。
【0065】
G(i)=Gk(i)/Gn
Gk(i)=(Zr(i)/Zrt(i))/(Zd(i)/Zdt(i))
Zdt(i)=j・2π・f(i)・L
【0066】
なお、Zd(i)は、測定点iにおける素子130のインピーダンス測定値である。Zdt(i)は、Zd(i)に対する理論的真値であり、測定点iにおける素子130のインピーダンスの真値である。
【0067】
G(i)は、直線性誤差eavcの相対的変化を表している。この正規化により、直線性誤差eavrを無視できるようになる。また、被測定物の定義値の誤差をも無視できるようになる。そして、補正係数G(i)は、インピーダンス測定装置10が利用可能なように保存される。例えば、補正係数G(i)は、記憶装置520に格納される。
【0068】
さて、方法2による補正係数の取得において、Gkを求める式中のインピーダンスの真値Zdt(i)およびZrt(i)は、素子110および抵抗器120のそれぞれに印加される電圧の真値Vdt(i)およびVrt(i)に置き換えることもできる。
【0069】
<方法3>
次に、方法(3)により補正係数Gを取得する具体的態様について、以下に説明する。以下、図1と図5を参照する。図5は、インピーダンス測定装置10を用いて、補正係数Gを取得する手順を示すフローチャートである。
【0070】
まず、ステップS40において、素子110を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。
【0071】
次に、ステップS41において、素子110に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、素子110を流れる電流を測定する。
【0072】
さて、本ステップS41では、素子110に印加される電圧を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。また、素子110のインピーダンスが素子210のインピーダンスよりも十分に大きくなるように、測定周波数fの可変範囲が選択される。信号源200の出力電圧を、ほとんど減衰することなく、素子110に印加させるためである。例えば、本実施形態において、素子110のインピーダンスを素子210のインピーダンスの200倍以上にする場合、測定周波数fは約159kHz以下に設定される。また、信号源200の出力電圧レベルの設定値、素子110の特性、または、測定周波数fの可変範囲は、アナログ・ディジタル変換器430に入力される信号の電圧の最大値がアナログ・ディジタル変換器430のフル・スケール近傍になるように設定される。
【0073】
次に、ステップS42において、抵抗器120を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。
【0074】
次に、ステップS43において、抵抗器120に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、抵抗器120を流れる電流を測定する。なお、本ステップにおける測定周波数fは、ステップS41における測定周波数fと同様に変化する。また、抵抗器120に印加される電圧を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。
【0075】
次に、ステップS44において、補正係数Gを求める。補正係数Gは、ステップS41およびステップS43において得られる測定値と、素子110および抵抗器120のそれぞれを流れる電流の真値とを用いて求められる。具体的には、測定点iにおける補正係数G(i)は、次式により求められる。
【0076】
G(i)=Gk(i)/Gn
Gk(i)=(Ir(i)/Irt(i))/(Ic(i)/Ict(i))
Ict(i)=E/(Zo+Zct(i))≒E/Zct(i)
Irt(i)=E/(Zo+Zrt(i))≒E/Zrt(i)
【0077】
ここで、Ic(i)は、測定点iにおいて素子110を流れる電流の測定値である。Ict(i)は、Ic(i)に対する理論的真値である。Ir(i)は、測定点iにおいて抵抗器120を流れる電流の測定値である。Irt(i)は、Ir(i)に対する理論的真値であり、測定点iにおいて抵抗器120を流れる電流の真値である。Eは、信号源200の出力電圧レベルである。Zoは、素子210の既知のインピーダンス値(50オーム)である。
【0078】
G(i)は、直線性誤差eaicの相対的変化を表している。この正規化により、被測定物の定義値の誤差を無視できるようになる。そして、補正係数G(i)は、インピーダンス測定装置10が利用可能なように保存される。例えば、補正係数G(i)は、記憶装置520に格納される。
【0079】
さて、方法3による補正係数の取得において、Gkを求める式中の電流の真値Ict(i)およびIrt(i)は、素子110および抵抗器120の各インピーダンスの真値Zct(i)およびZrt(i)に置き換えることもできる。
【0080】
<方法4>
次に、方法(4)により補正係数Gを取得する具体的態様について、以下に説明する。以下、図1と図6を参照する。図6は、インピーダンス測定装置10を用いて、補正係数Gを取得する手順を示すフローチャートである。
【0081】
まず、ステップS50において、素子130を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。
【0082】
次に、ステップS51において、素子130を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、素子130に印加される電圧を測定する。
【0083】
さて、本ステップでは、素子130を流れる電流を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。また、素子130のインピーダンスが素子210のインピーダンスよりも十分に小さくなるように、測定周波数fの可変範囲が選択される。信号源200の出力電流が、測定周波数fに依らず、ほとんど変化しないようにするためである。例えば、本実施形態において、素子130のインピーダンスを素子210のインピーダンスの1/200以下にする場合、測定周波数fは約15.9kHz以下に設定される。また、信号源200の出力電圧レベルの設定値、素子130の特性、または、測定周波数fの可変範囲は、アナログ・ディジタル変換器430に入力される信号の電圧の最大値がアナログ・ディジタル変換器430のフル・スケール近傍になるように設定される。
【0084】
次に、ステップS52において、抵抗器120を、被測定物として、インピーダンス測定装置10に接続する。
【0085】
次に、ステップS53において、抵抗器120を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、測定周波数fを変化させながら、抵抗器120に印加される電圧を測定する。なお、本ステップにおける測定周波数fは、ステップS51における測定周波数fと同様に変化する。また、抵抗器120を流れる電流を実質的に一定に保つため、信号源200の出力電圧レベルの設定値が固定される。
【0086】
次に、ステップS54において、補正係数Gを求める。補正係数Gは、ステップS51およびステップS53において得られる測定値と、素子130および抵抗器120のそれぞれに印加される電圧の真値とを用いて求められる。具体的には、測定点iにおける補正係数G(i)は、次式により求められる。
【0087】
G(i)=Gk(i)/Gn
Gk(i)=(Vr(i)/Vrt(i))/(Vd(i)/Vdt(i))
Vdt(i)=E・Zdt(i)/(Zo+Zdt(i))
≒E・Zdt(i)/Zo
Vrt(i)=E・Zrt(i)/(Zo+Zrt(i))
≒E・Zrt(i)/Zo
【0088】
ここで、Vd(i)は、測定点iにおいて素子130に印加される電圧の測定値である。Vdt(i)は、Vd(i)に対する理論的真値であり、測定点iにおいて素子130に印加される電圧の真値である。
【0089】
G(i)は、直線性誤差eavcの相対的変化を表している。この正規化により、被測定物の定義値の誤差を無視できるようになる。そして、補正係数G(i)は、インピーダンス測定装置10が利用可能なように保存される。例えば、補正係数G(i)は、記憶装置520に格納される。
【0090】
さて、方法4による補正係数の取得において、Gkを求める式中の電圧の真値Vdt(i)およびVrt(i)は、素子110および抵抗器120の各インピーダンスの真値Zdt(i)およびZrt(i)に置き換えることもできる。
【0091】
なお、補正係数がアナログ・ディジタル変換器430の出力データに対する除数として与えられる場合には、上記の方法で求められるG(i)の逆数Gd(i)を求めれば良い。そして、ステップS12における補正は、Y1=X1/Gd(1)、に従う。補正係数が、アナログ・ディジタル変換器430の出力データに対する加数や減数である場合にも、G(i)から求めることができるであろう。
【0092】
また、図3〜図6のそれぞれにおける各ステップは、インピーダンス測定装置10に内蔵されるプロセッサなどの制御装置が、予め用意されたプログラムを実行することにより、インピーダンス測定装置10を制御して為されるものである。または、インピーダンス測定装置10に外部接続されるコンピュータなどの制御装置が、予め用意されたプログラムを実行することにより、インピーダンス測定装置10を制御して為されるものである。
【0093】
また、本実施形態において、素子110は素子130に置き換えることができる。また、その逆に、素子130は素子110に置き換えることができる。それらの置き換えが施された場合、測定周波数fの可変範囲が変わるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明のインピーダンス測定装置10の構成を示す図である。
【図2】インピーダンス測定装置10の動作を示すフローチャートである。
【図3】補正係数を取得するための手順を示すフローチャートである。
【図4】補正係数を取得するための手順を示すフローチャートである。
【図5】補正係数を取得するための手順を示すフローチャートである。
【図6】補正係数を取得するための手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0095】
10 インピーダンス測定装置
100 被測定物
110,130,210 素子
120 抵抗器
200 信号源
300 電流電圧変換器
310 ヌルアンプ
320 レンジ抵抗器
330 帰還ループ
400 ベクトル比検出器
410,411 バッファ
420 スイッチ
430 アナログ・ディジタル変換器
500 補正装置
510 プロセッサ
520 記憶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、
インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子を流れる電流を、前記素子に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、
前記第一のステップにおける測定値、ならびに、前記素子のインピーダンスの真値または前記素子を流れる電流の真値を用いて、前記補正係数を求める第二のステップと、
を含むことを特徴とする補正係数取得方法。
【請求項2】
インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、
インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子を流れる電流を、前記素子に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、
抵抗値が既知であり且つ前記測定装置に被測定物として接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される抵抗器のインピーダンスまたは前記抵抗器を流れる電流を、前記抵抗器に印加される電圧を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第二のステップと、
前記第一および前記第二のステップにおける測定値、ならびに、前記素子および前記抵抗器のインピーダンスの真値もしくは前記素子および前記抵抗器を流れる電流の真値を用いて、前記補正係数を求める第三のステップと、
を含むことを特徴とする補正係数取得方法。
【請求項3】
インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、
インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子に印加される電圧を、前記素子を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、
前記第一のステップにおける測定値、ならびに、前記素子のインピーダンスの真値または前記素子に印加される電圧の真値を用いて、前記補正係数を導出する第二のステップと、
を含むことを特徴とする補正係数取得方法。
【請求項4】
インピーダンス測定装置に備えられるアナログ・ディジタル変換器であって、被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数を取得する方法であって、
インピーダンスが周波数に応じて変化し且つ周波数−インピーダンス特性が既知であり且つ被測定物として前記測定装置に接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される素子のインピーダンスまたは前記素子に印加される電圧を、前記素子を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第一のステップと、
抵抗値が既知であり且つ前記測定装置に被測定物として接続され且つ前記測定装置が生成する測定信号が印加される抵抗器のインピーダンスまたは前記抵抗器に印加される電圧を、前記抵抗器を流れる電流を実質的に一定に保ちつつ、前記測定信号の周波数を変化させながら、前記測定装置で測定する第二のステップと、
前記第一および前記第二のステップにおける測定値、ならびに、前記素子および前記抵抗器のインピーダンスの真値または前記素子および前記抵抗器に印加される電圧の真値を用いて、前記補正係数を求める第三のステップと、
を含むことを特徴とする補正係数取得方法。
【請求項5】
前記素子が、キャパシタまたはインダクタであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の補正係数取得方法。
【請求項6】
前記補正係数が、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データに対する乗数または除数であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の補正係数取得方法。
【請求項7】
被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器を備えるインピーダンス測定装置において、
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の方法により得られる補正係数が格納された記憶手段と、
前記記憶手段に格納された補正係数を用いて、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データを補正する演算手段と、
を備えることを特徴とするインピーダンス測定装置。
【請求項8】
被測定物に印加される電圧を表す信号および前記被測定物を流れる電流を表す信号をディジタル変換するアナログ・ディジタル変換器を備えるインピーダンス測定装置において、
前記アナログ・ディジタル変換器の直線性誤差を補正するための係数であって、前記アナログ・ディジタル変換器の出力データに対する乗数または除数である補正係数が格納された記憶手段と、
前記アナログ・ディジタル変換器の出力データに前記補正係数を乗ずる演算手段と、
を備えることを特徴とするインピーダンス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−85745(P2008−85745A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264187(P2006−264187)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(399117121)アジレント・テクノロジーズ・インク (710)
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】