説明

補正値取得方法、及び補正値取得装置

【課題】濃度補正のための補正値を精度良く求めることができる補正値取得方法の提供。
【解決手段】テストパターンの画像データの変換前階調値を、印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換するハーフトーン処理ステップと、変換後階調値に基づいて、複数のテストパターンを媒体に印刷する印刷ステップと、印刷された複数のテストパターンをスキャナに読み取らせ、各テストパターンの読取階調値を取得する読取値取得ステップと、変換前階調値の大きさが第1階調値である一のテストパターンを含む所定個のテストパターンの各読取階調値を平均した平均読取階調値を、一のテストパターンの修正読取階調値として取得する修正値取得ステップと、取得された一のテストパターンの修正読取階調値に基づいて、印刷画像の画像データの第1階調値を補正するための補正値を取得する補正値取得ステップと、を有する補正値取得方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補正値取得方法、及び補正値取得装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の印刷装置は、液体を吐出するノズルを有し、コンピュータ等の外部装置から受信した印刷データに基づいて、媒体に液体を吐出して印刷画像を印刷する。ここで、印刷データとは、印刷画像の基となる画像データに、ハーフトーン処理等の画像処理を施したものである。なお、ハーフトーン処理とは、画像データの変換前階調値を、印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理(いわゆる2値化処理)である。
【0003】
ところで、ノズルの加工精度のバラツキ(例えば、ノズルの直径が異なるノズルが製造される)等に起因して、媒体に形成されるドットの大きさがばらつくことがある。また、ノズルの加工精度のバラツキに起因して、媒体上のドットの形成位置がばらつくことがある。そして、ドットの大きさのばらつきやドットの形成位置のばらつきが発生する場合には、印刷画像中に縞状の濃淡ムラが生じる。
【0004】
そこで、このような濃度ムラを抑制し、印刷画像の画質を向上させる技術が提案されている(特許文献1)。特許文献1の濃度ムラ補正方法では、濃度ムラ検出用のテストパターンを印刷し、印刷されたテストパターンをスキャナに読み取らせ、読み取った濃度値(階調値)に基づいて補正値を求める。そして、求められた補正値に基づいて濃度補正が行われる。
【特許文献1】特開2005−205691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1においては、画像データの多階調値(256階調)のうちの一部の離散した入力階調値に対するテストパターンを印刷し、これらの入力階調値に対する補正値を離散的に求めている。そして、離散的な補正値を用いて線形補間することにより、他の階調値に対する補正値を求めている。しかし、線形補間で求められた補正値は、見込み値であるので、不正確なものとなる恐れがある。
【0006】
一方で、全ての階調値に対するテストパターンを印刷する場合には、媒体のスペースの制約上、各テストパターンの幅等が小さくなる。かかる場合には、入力階調値の大きさが近いテストパターンの間において、入力階調値が大きいテストパターンの濃度値が、入力階調値が小さいテストパターンの濃度値よりも小さくなる現象が発生することがある。そして、このような現象が発生したときの補正値を適用すると、濃度補正が不正確なものとなる。
【0007】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、目的とするところは、濃度補正のための補正値を精度良く求めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、主たる本発明は、
テストパターンの画像データの変換前階調値を、印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理を、前記変換前階調値が互いに異なる複数のテストパターンの各々に対して実行するハーフトーン処理ステップと、
前記変換後階調値に基づいて、前記複数のテストパターンを媒体に印刷する印刷ステップと、
印刷された前記複数のテストパターンをスキャナに読み取らせ、各テストパターンの読取階調値を取得する読取値取得ステップと、
前記変換前階調値の大きさが第1階調値である一のテストパターンを含む所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得する修正値取得ステップと、
取得された前記一のテストパターンの前記修正読取階調値に基づいて、印刷画像の画像データの前記第1階調値を補正するための補正値を取得する補正値取得ステップと、
を有することを特徴とする補正値取得方法である。
【0009】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により少なくとも次のことが明らかにされる。
【0011】
テストパターンの画像データの変換前階調値を、印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理を、前記変換前階調値が互いに異なる複数のテストパターンの各々に対して実行するハーフトーン処理ステップと、
前記変換後階調値に基づいて、前記複数のテストパターンを媒体に印刷する印刷ステップと、
印刷された前記複数のテストパターンをスキャナに読み取らせ、各テストパターンの読取階調値を取得する読取値取得ステップと、
前記変換前階調値の大きさが第1階調値である一のテストパターンを含む所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得する修正値取得ステップと、
取得された前記一のテストパターンの前記修正読取階調値に基づいて、印刷画像の画像データの前記第1階調値を補正するための補正値を取得する補正値取得ステップと、
を有することを特徴とする補正値取得方法。
このような補正値取得方法によれば、平均読取階調値を一のテストパターンの修正読取階調値として取得することによって、濃度補正のための補正値を精度良く求めることが可能となる。
【0012】
また、かかる補正値取得方法であって、
前記第1階調値が大きいときの前記平均読取階調値が、前記第1階調値が小さいときの前記平均読取階調値よりも小さくならないように、前記所定個の数を設定する数設定ステップを有し、
前記修正値取得ステップにおいては、
前記一のテストパターンを含む、前記数設定ステップにおいて数が設定された前記所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得することが望ましい。
かかる場合には、入力階調値が大きいテストパターンの濃度値が、入力階調値が小さいテストパターンの濃度値よりも小さくなる現象、を確実に解消できる。
【0013】
また、かかる補正値取得方法であって、
前記一のテストパターンは、前記第1階調値が前記所定個のテストパターンの各変換前階調値の中央値であるテストパターンであり、
前記第1階調値は、
前記複数のテストパターンの各変換前階調値のうちの、最小値から所定番目に大きい最小側変換前階調値よりも更に大きい変換前階調値で、かつ、
前記複数のテストパターンの各変換前階調値のうちの、最大値から所定番目に小さい最大側変換前階調値よりも更に小さい変換前階調値であることが望ましい。
かかる場合には、第1階調値の平均読取階調値を取得できないことを防止できる。
【0014】
また、かかる補正値取得方法であって、
前記修正値取得ステップにおいては、
前記変換前階調値が前記最小側変換前階調値の次に大きいテストパターン、の前記修正読取階調値である前記平均読取階調値を、前記最小値から前記最小側変換前階調値までの各変換前階調値のテストパターンの修正読取階調値として、取得し、
前記変換前階調値が前記最大側変換前階調値の次に小さいテストパターン、の前記修正読取階調値である前記平均読取階調値を、前記最大値から前記最大側変換前階調値までの各変換前階調値のテストパターンの修正読取階調値として、取得することが望ましい。
かかる場合には、平均読取階調値を取得できない変換前階調値に対して、簡易に、かつ、補正の精度低下を抑制できる補正値を取得できる。
【0015】
また、(a)媒体にドットを形成することによりテストパターンを印刷する印刷装置と、
(b)印刷された前記テストパターンを読み取るスキャナと、
(c)前記テストパターンの画像データの変換前階調値を、前記印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理を、前記変換前階調値が互いに異なる複数のテストパターンの各々に対して実行し、
前記変換後階調値に基づいて、前記複数のテストパターンを媒体に印刷し、
印刷された前記複数のテストパターンを前記スキャナに読み取らせ、各テストパターンの読取階調値を取得し、
前記変換前階調値の大きさが第1階調値である一のテストパターンを含む所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得し、
取得された前記一のテストパターンの前記修正読取階調値に基づいて、印刷画像の画像データの前記第1階調値を補正するための補正値を取得する制御部と、
(d)を備えることを特徴とする印刷システム。
このような印刷システムによれば、平均読取階調値を一のテストパターンの修正読取階調値として取得することによって、濃度補正のための補正値を精度良く求めることが可能となる。
【0016】
===印刷システムの概要===
図1は、印刷システムの外観構成を示した説明図である。この印刷システム100は、印刷装置の一例であるプリンタ1と、コンピュータ110と、表示装置120と、入力装置130と、記録再生装置140と、スキャナ150とを備えている。プリンタ1は、紙、布、フィルム等の媒体に画像を印刷する印刷装置である。コンピュータ110は、プリンタ1と通信可能に接続されており、プリンタ1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンタ1に出力する。
【0017】
コンピュータ110にはプリンタドライバがインストールされている。プリンタドライバは、表示装置120にユーザインタフェースを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタドライバは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピュータが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。または、このプリンタドライバは、インターネットを介してコンピュータ110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
【0018】
===プリンタドライバ===
図2は、プリンタドライバによる画像処理の説明図である。
プリンタドライバは、ユーザからの印刷命令を受けると、解像度変換処理、色変換処理、濃度ムラ補正処理、ハーフトーン処理、ラスタライズ処理を行う。以下、これらの処理について説明する。
【0019】
解像度変換処理は、アプリケーションプログラムから出力された画像データ(テキストデータ、イメージデータなど)を、紙に印刷する際の解像度に変換する処理である。例えば、紙に画像を印刷する際の解像度が360×360dpiに指定されている場合、アプリケーションプログラムから受け取った画像データを360×360dpiの解像度の画像データに変換する。なお、解像度変換処理後の画像データは、RGB色空間により表される256階調のデータ(RGBデータ)である。
【0020】
ここで、画像データとは、画素データの集まりである。そして、画素とは画像を構成する単位要素であり、この画素が2次元的に並ぶことにより画像が構成される。画像データが256階調のデータということは、1つの画素が256階調で表現されることであり、1つの画素データは8ビットのデータである(2の8乗=256)。
【0021】
色変換処理は、RGBデータをCMYK色空間により表されるCMYKデータに変換する処理である。この色変換処理により、各画素についてのRGBデータが、インク色に対応するCMYKデータに変換される。なお、色変換処理後のデータは、CMYK色空間により表される256階調のCMYKデータである。
【0022】
濃度ムラ補正処理は、印刷画像中の濃度ムラを抑制すべく、画像データを構成する各画素データ(256階調のCMYKデータ)の階調値(入力階調値)を、補正値(後述するBRS補正値)に基づいて補正する処理である。
【0023】
ハーフトーン処理は、高階調数のデータを、プリンタが形成可能な階調数のデータに変換する処理である。例えば、ハーフトーン処理により、256階調を示すデータが、2階調を示す1ビットデータや4階調を示す2ビットデータに変換される。なお、ハーフトーン処理の詳細については、後述する。
【0024】
ラスタライズ処理は、マトリクス状の画像データを、プリンタに転送すべきデータ順に変更する処理である。ラスタライズ処理されたデータは、印刷データに含まれる画素データとして、プリンタに出力される。
【0025】
===プリンタの構成===
<<インクジェットプリンタの構成>>
図3は、プリンタ1の全体構成のブロック図である。また、図4Aは、プリンタ1の断面図である。また、図4Bは、プリンタ1の搬送処理とドット形成処理を説明するための斜視図である。以下、本実施形態のプリンタであるラインプリンタの基本的な構成について説明する。
【0026】
プリンタ1は、搬送ユニット20、ヘッドユニット40、検出器群50、コントローラ60、駆動信号生成ユニット70を有する。外部装置であるコンピュータ110から印刷データを受信したプリンタ1は、コントローラ60によって各ユニット(搬送ユニット20、ヘッドユニット40、駆動信号生成ユニット70)を制御する。コントローラ60は、コンピュータ110から受信した印刷データに基づいて、各ユニットを制御し、紙に画像を印刷する。プリンタ1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラ60に出力する。コントローラ60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0027】
搬送ユニット20は、媒体(例えば、紙Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、給紙ローラ21と、搬送モータ(不図示)と、上流側搬送ローラ23A及び下流側搬送ローラ23Bと、ベルト24とを有する。給紙ローラ21は、紙挿入口に挿入された紙をプリンタ内に給紙するためのローラである。不図示の搬送モータが回転すると、上流側搬送ローラ23A及び下流側搬送ローラ23Bが回転し、ベルト24が回転する。給紙ローラ21によって給紙された紙Sは、ベルト24によって、印刷可能な領域(ヘッドと対向する領域)まで搬送される。ベルト24が紙Sを搬送することによって、紙Sがヘッドユニット40に対して搬送方向に移動する。印刷可能な領域を通過した紙Sは、ベルト24によって外部へ排紙される。なお、搬送中の紙Sは、ベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されている。
【0028】
ヘッドユニット40は、紙Sに液体の一例であるインクを吐出するためのものである。ヘッドユニット40は、搬送中の紙Sに対してインクを吐出することによって、紙Sにドットを形成し、画像を紙Sに印刷する。本実施形態のプリンタはラインプリンタであり、ヘッドユニット40は紙幅分のドットを一度に形成することができる。このヘッドユニット40の構成については、後で説明する。
【0029】
検出器群50には、ロータリー式エンコーダ(不図示)、紙検出センサ53などが含まれる。ロータリー式エンコーダは、上流側搬送ローラ23Aや下流側搬送ローラ23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダの検出結果に基づいて、紙Sの搬送量を検出することができる。紙検出センサ53は、給紙中の紙の先端の位置を検出する。
【0030】
コントローラ60は、プリンタの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラ60は、インターフェース部61と、CPU62と、メモリ63と、ユニット制御回路64とを有する。インターフェース部61は、外部装置であるコンピュータ110とプリンタ1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンタ全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリ63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU62は、メモリ63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
【0031】
駆動信号生成ユニット70は、ヘッドユニット40を駆動する駆動信号COMを生成するためのものである。駆動信号生成ユニット70は、複数の駆動信号生成部71を有する。コントローラ60が各駆動信号生成部71にそれぞれ波形データを設定すると、各駆動信号生成部71は、波形データに応じた波形の駆動信号COMをそれぞれ生成する。そして、この駆動信号COMに応じた、ドットなし、小ドット形成、中ドット形成、大ドット形成が実現される。
【0032】
<<ヘッドユニット40の構成>>
図5Aは、ヘッドユニット40の下面における複数のヘッドの配列を示す説明図である。図5Bは、各ヘッドの位置関係の説明図である。ヘッドユニットの下面は、ベルト24で搬送される紙Sと対向する。
【0033】
ヘッドユニット40の下面では、複数のヘッドが千鳥列配置で並んでいる。以下の説明では、図中の左から順に、第1ヘッド41A、第2ヘッド41B、第3ヘッド41C、第4ヘッド41D、・・・、第nヘッド41Nと呼ぶことにする。搬送方向上流側には、奇数番号の第1ヘッド41A、第3ヘッド41C、第5ヘッド41E、・・・が紙幅方向に並んでいる。また、搬送方向下流側には、偶数番号の第2ヘッド41B、第4ヘッド41D、第6ヘッド41F、・・・が紙幅方向に並んでいる。
【0034】
各ヘッドには、ブラックインクノズル列K、シアンインクノズル列C、マゼンタインクノズル列M及びイエローインクノズル列Yが形成されている。各ノズル列は、インクを吐出するための吐出口であるノズルを複数個(本実施形態では360個)備えている。各ノズル列の複数のノズルは、図5Bの配列方向(紙幅方向)に沿って、一定のノズルピッチで並んでいる。ここでは、ノズルピッチは1/360インチである。各ヘッドのノズルには、図中の左から順に番号が付されている(♯1〜♯360)。また、各ノズルには、インクが入った圧力室(不図示)と、圧力室の容量を変化させてインクを吐出させるための駆動素子(ピエゾ素子)が設けられている。
【0035】
搬送方向上流側の奇数番号のヘッド(例えば第3ヘッド41C)の左端のノズル♯1と、搬送方向下流側の偶数番号のヘッド(例えば第2ヘッド41B)の右端のノズル♯360との紙幅方向の間隔は、ノズルピッチと同じ1/360インチである。また、搬送方向上流側の奇数番号のヘッド(例えば第3ヘッド41C)の右端のノズル♯360と、搬送方向下流側の偶数番号のヘッド(例えば第4ヘッド41D)の左端のノズル♯1との紙幅方向の間隔は、ノズルピッチと同じ1/360インチである。
【0036】
このようにヘッドを配置することによって、印刷される紙の紙幅分の長さにわたって、配列方向(紙幅方向)に1/360インチの間隔でノズルを配置することができる。そして、このようにヘッドを配置することによって、ヘッドユニット40は、紙幅方向に1/360インチの間隔で並ぶドット(ドット列)を紙幅分の長さにわたって形成することができる。なお、ヘッド41Aのノズル#1とヘッド41Nのノズル#360の間の長さは、印刷される紙の幅よりも小さく、画像が紙幅内に印刷される。
【0037】
===ハーフトーン処理===
図6Aは、ドット生成率テーブルの説明図である。グラフの横軸は階調値(0〜255)であり、縦軸の左側がドット生成率(0〜100%)、右側がレベルデータである。図中の太い点線が小ドットの生成率SDを示し、細い実線が中ドットの生成率MDを示し、太い実線が大ドットの生成率LDを示している。ここで、ドットの生成率とは、ある単位領域の階調値が一定である場合、その単位領域内の画素にドットが形成される割合のことである。例えば、単位領域が16×16画素から構成され、単位領域内の全ての画素データの階調値が一定値であり、単位領域内にn個のドットが形成される場合、その階調値におけるドット生成率は、{n/(16×16)}×100(%)となる。また、レベルデータとは、ドットの生成率を値0〜255の256階調で表したデータをいう。
【0038】
図6Bは、ディザ法によるドットのオン・オフ判定の様子を示す図である。プリンタドライバは、まず、大ドットレベルデータLVLが閾値より大きいか否かを判定する。閾値は、ディザマトリクスの各画素に対して異なる値が設定されている。説明の簡略のため、図中では4×4画素のディザマトリクスを用いているが、実際には16×16画素など広い範囲に対応するディザマトリクスを使用している。
【0039】
ハーフトーン処理前の画像データは、CMYK色空間により表される256階調のCMYKの画素データの集合である。以下、ブラックの画素データ(以下、K画素データとする)を例に説明する。まず、プリンタドライバは、CMYKの画像データの中からのK画素データを順に取り出す。プリンタドライバは、取り出したK画素データの階調値(データ階調値)に応じて、大ドットレベルデータLVLを設定する。例えば、あるK画素データの階調値がgrであれば、K画素データの大ドットレベルデータLVLは3dに設定される。
【0040】
そして、K画素データが図6Bに示す一番左上の画素であり、大ドットレベルデータLVLが「3d=180」であったとする。この場合、この画素に対応するディザマトリクス上の閾値は「1」であり、プリンタドライバは大ドットレベルデータの方が閾値よりも大きいと判定する。そうすると、その画素の画素データを「11」(2ビットデータ)に変換し、その画素データに対する処理を終了する。そして、一番左上の画素には大ドットが形成されることになる。
【0041】
もし、一番左上の画素の大ドットレベルデータLVLが閾値以下であると判定された場合、次に、プリンタドライバは、中ドットレベルデータLVMを設定する。あるK画素データの階調値がgrであれば、中ドットレベルデータLVMは2dに設定される。そして、プリンタドライバは中ドットレベルデータLVMの方が閾値よりも大きいと判定した場合、その画素の画素データを「10」に変換し、その画素データに対する処理を終了する。その画素には中ドットが形成される。
【0042】
また、中ドットレベルデータLVMが閾値以下であると判定された場合、小ドットレベルデータLVSを設定する。あるK画素データの階調値がgrであれば、小ドットレベルデータLVSは1dに設定される。そして、プリンタドライバは、小ドットレベルデータLVSの方が閾値よりも大きいと判定した場合、その画素の画素データを「01」に変換し、その画素データに対する処理を終了する。その画素には小ドットが形成される。小ドットレベルデータLVSが閾値以下の場合は、その画素の画素データを「00」に変換し、その画素データに対する処理を終了する。その画素にドットは形成されない。
【0043】
このようにして、CMYKの画像データの中から256階調(この256階調の値が、変換前階調値に相当する)を示すK画素データが取り出され、4階調(この4階調の値が、変換後階調値に相当する)を示す2ビットデータに変換される。同様に、256階調の他の色の画素データも4階調のデータに変換される。
【0044】
上記では、ディザ法によるハーフトーン処理を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、誤差拡散法を利用して、プリンタ1がドットを分散して形成できるように画素データを作成することとしてもよい。
【0045】
===濃度ムラ===
プリンタが印刷を行うとき、画像中に濃度ムラが生じる。ここでは、説明の簡略化のため、単色印刷された画像中に生じる濃度ムラの発生原因について説明する。なお、多色印刷の場合、以下に説明する濃度ムラの発生原因が色毎に生じている。
【0046】
以下の説明において、「単位領域」とは、紙等の媒体上に仮想的に定められた矩形状の領域を指し、印刷解像度に応じて大きさや形が定められる。例えば、印刷解像度が360dpi(配列方向)×360dpi(搬送方向)の場合、単位領域は、約70.56μm×70.56μm(≒1/360インチ×1/360インチ)の大きさの正方形状の領域になる。理想的にインク滴が吐出されると、この単位領域の中心位置にインク滴が着弾し、その後インク滴が媒体上で広がって、単位領域にドットが形成される。なお、一つの単位領域には、画像データを構成する一つの画素が対応している。また、各単位領域に画素が対応付けられるので、各画素の画素データも、各単位領域に対応付けられることになる。
【0047】
また、以下の説明において、「列領域」とは、紙の搬送方向に並ぶ複数の単位領域によって構成される領域をいう。例えば印刷解像度が360dpi×360dpiの場合、列領域は、配列方向に70.56μm(≒1/360インチ)の幅の帯状の領域になる。搬送方向に搬送中の紙に対してノズルから理想的にインク滴が断続的に吐出されると、この列領域にラスタラインが形成される。すなわち、各ラスタラインは、それぞれ一つのノズルのみから吐出されたインクによって、形成される。なお、列領域には、搬送方向に並ぶ複数の画素が対応付けられることになる。
【0048】
図7Aは、理想的にドットが形成されたときの様子の説明図である。同図では、理想的にドットが形成されているので、各ドットは単位領域に正確に形成され、ラスタラインは列領域に正確に形成される。図中、各列領域には、その領域の着色に応じた濃度の画像片が形成されている。ここでは、説明の簡略化のため、ドット生成率が50%となるような一定濃度の画像を印刷するものとする。
【0049】
図7Bは、濃度ムラの説明図である。ここでは、3番目の列領域に向かってインク滴を吐出するノズルの直径が、他の列領域に向かってインク滴を吐出するノズルの直径よりも大きいものとする。これにより、3番目の列領域に向かって吐出されたインク滴のインク量が多くなり、3番目の列領域に形成されるドットが大きくなる。この結果、3番目の列領域の画像片(ラスタライン)は、他の列領域の画像片(ラスタライン)よりも濃くなる。すなわち、本来であれば同じ濃度の画像片が各列領域に形成されるべきであるにもかかわらず、列領域に応じて画像片に濃淡が発生する。そして、このようなラスタラインからなる印刷画像を巨視的に見ると、搬送方向に沿う縞状の濃度ムラが視認される。この濃度ムラは、印刷画像の画質を低下させる原因となる。
このように、ラインプリンタの場合には、ノズル特性に応じた濃度ムラが発生する。
【0050】
そこで、本実施形態においては、上述したノズル特性に応じた濃度ムラを抑制すべく、補正値(BRS補正値)を取得する補正値の取得処理が実行される。そして、取得された補正値に基づいて、画素データの階調値が補正される。すなわち、濃く視認されやすい列領域に対しては、淡く画像片が形成されるように、その列領域に対応する画素の画素データ(CMYK画素データ)の階調値を補正する。また、淡く視認されやすい列領域に対しては、濃く画像片が形成されるように、その列領域に対応する画素の画素データの階調値を補正する。例えば、図7Bに示す3番目の列領域のドットの生成率が低くなるように、3番目の列領域に対応する画素の画素データの入力階調値が補正される。これにより、各列領域のラスタラインのドット生成率が変更され、列領域の画像片の濃度が補正されて、印刷画像全体の濃度ムラが抑制される。
【0051】
===BRS補正値の取得処理===
図8は、BRS補正値の取得処理のフロー図である。なお、BRS補正値とは、濃度ムラを補正するための補正値である。各処理は、制御部であるコンピュータ110にインストールされたBRS補正用プログラムによって実現される。
【0052】
<<ステップS11:画像データの画像処理>>
まず、コンピュータ110は、プリンタドライバにより、BRS補正用パターン(このパターンは、複数のテストパターン等から構成される)の画像データの画像処理を行う。例えば、プリンタドライバは、テストパターンの256階調であるCMYKの画像データの入力階調値(変換前階調値とも呼ぶ)を、プリンタ1が紙に形成するドットに対応する4階調の階調値(変換後階調値とも呼ぶ)に変換するハーフトーン処理を、入力階調値が互いに異なるテストパターン(各テストパターンの入力階調値は、一定である)の各々に対して実行する。
このようにして、プリンタドライバは、テストパターン(BRS補正用パターン)の印刷データを生成する。
【0053】
<<ステップS12:テストパターンの印刷>>
コンピュータ110は、BRS補正用パターンの印刷データをプリンタ1に送信する。すると、プリンタ1は、印刷データに基づいて、BRS補正用パターンをテストシートTSに印刷する。すなわち、プリンタ1は、変換後階調値に基づいて、複数のテストパターンをテストシートTSに印刷する。
【0054】
図9は、BRS補正用パターンの説明図である。図10は、帯状パターンの説明図である。なお、図10には、説明の都合上3つの帯状パターンのみが示されているが、実際には256個の帯状パターンが印刷されている。
【0055】
テストシートTSには、BRS補正用パターンが印刷される。このBRS補正用パターンには、図9に示すように、色別の4つの矩形状パターンと、上罫線と、下罫線と、左罫線と、右罫線とが含まれる。各矩形状パターンは、それぞれ濃度が異なる(入力階調値0〜255)テストパターンである帯状パターンにより構成されている。各帯状パターンは、各ヘッド41の全てのノズルからインクが吐出されて、形成されている。そして、各矩形状パターンにおいては、一番上の帯状パターンP0は入力階調値0(濃度0%)のテストパターンであり、一番下の帯状パターンP255は入力階調値255(濃度100%)のテストパターンである。そして、この2つの帯状パターンの間の帯状パターンについては、下側ほど入力階調値が大きい(濃度が濃い)。
【0056】
<<ステップS13:テストパターンの読み取り>>
次に、検査者はBRS補正用パターンが印刷されたテストシートTSをスキャナ150にセットする。そして、コンピュータ110は、印刷されたBRS補正用パターン(複数の帯状パターン)をスキャナ150に読み取らせ、BRS補正用パターンの読取画像のデータ(以下、読取データとも呼ぶ)を取得する。
【0057】
<<ステップS14:読取画像のデータ修正>>
次に、コンピュータ110は、テストパターンの読取データを修正する。例えば、コンピュータ110は、スキャナ150の読み取り位置の誤差に起因して生じるテストパターンの傾き等を、修正する。これにより、読取画像の歪み等が補正される。
【0058】
<<ステップS15:各列領域の濃度を測定>>
コンピュータ110は、各帯状パターンの列領域毎に、パターンの濃度の測定値を検出する。これにより、コンピュータ110は、各帯状パターンの読取階調値(単に、読取値と呼ぶ)を取得できる。
【0059】
<<ステップS16:読取値の修正>>
本実施形態におけるコンピュータ110は、後述する階調反転の影響を排除すべく、いわゆる移動平均を用いて読取値の修正処理を実行する(ステップS16)。以下においては、階調反転について説明した後に、読取値の修正処理について説明する。
【0060】
<階調反転>
図11は、入力階調値と読取値の関係を示すグラフである。
上述したように、入力階調値0、1、2〜255の256個の帯状パターンについて、読取値を求めた。図11に示すグラフを巨視的に見ると、帯状パターンの入力階調値が大きいと、帯状パターンの読取値も大きくなる傾向にある。一方で、微視的に見ると、例えば、入力階調値51の帯状パターンP51の読取値が、入力階調値50の帯状パターンP50の読取値よりも小さくなっている。このような現象は、階調反転と呼ばれる。特に、本実施例のように、帯状パターン間の入力階調値の差(階調値1)が小さいと、階調反転が生じやすい。
【0061】
ここで、階調反転の原因について、詳しく説明する。
図12は、帯状パターンのドット形成を説明するための模式図である。前述したように、ハーフトーン処理におけるディザマトリックスは、16×16画素である。そして、入力階調値が大きくなると、ドットが形成される画素数が増える(図6A、6B参照)。このため、16×16画素から構成される帯状パターン(1つの列領域が16画素から構成されている)であれば、入力階調値が大きくなるとドットの形成面積が増えるため、読取値の階調反転が生じない。
【0062】
これに対して、一枚のテストシートTSに256個の帯状パターンを印刷するために、各帯状パターンの1つの列領域は、16画素よりも小さい画素(ここでは、4画素とする)で形成される。すなわち、256階調を適切に表現できる16×16画素の一部の画素のみを適用しているため、入力階調値の大きさが近いもの同士では、ドットの形成数が逆転することがある。
【0063】
図12においては、入力階調値50の帯状パターンP50の画像データ(例えば、列領域i)におけるドットの形成画素数が2であるのに対して、入力階調値51の帯状パターンP51の列領域iにおけるドットの形成画素数が1である。このため、列領域iにおいて、帯状パターンP51の読取値が、帯状パターンP50の読取値よりも小さくなる。すなわち、入力階調値に対する読取値の階調反転が、発生することとなる。
【0064】
そして、このような階調反転が発生した状態の読取値をそのまま使って、BRS補正値を算出した場合には、大きさが近い入力階調値間で不適切な補正が行われることとなる。そこで、上記の階調反転の影響を排除すべく、以下に説明する読取値の修正処理が実行される。
【0065】
<読取値の修正処理(ステップS161〜166)>
図13は、読取値の修正処理を説明するためのフローチャートである。
まず、コンピュータ110は、初期値である個数(ここでは、5個とする)の帯状パターンの読取値の、移動平均を行う(ステップS161)。これにより、5個の帯状パターンの読取値を平均した移動平均値(平均読取値)が求まる。ここで、各移動平均値を結んだ線を、移動平均線と呼ぶ。この移動平均線は、入力階調値の大きさに対する読取値の大きさの傾向を示すものである。
【0066】
図14Aと図14Bは、移動平均を説明するための模式図である。各入力階調値に対する移動平均値の算出方法は同じであるので、ここでは、入力階調値50と入力階調値51に対する移動平均値の算出方法を例に挙げて説明する。
【0067】
コンピュータ110は、入力階調値48の帯状パターンから入力階調値52の帯状パターンまでの5個の帯状パターンの読取値を平均することにより、入力階調値50の帯状パターンP50の移動平均値(平均読取値)を算出する。すなわち、算出した平均読取値は、5個の帯状パターンのうちの真ん中の帯状パターンP50の移動平均値となる。同様に、コンピュータ110は、入力階調値49の帯状パターンから入力階調値53の帯状パターンまでの5個の帯状パターンの読取値を平均することにより、入力階調値51の帯状パターンP51の移動平均値(平均読取値)を算出する。
【0068】
このようにして、入力階調値5〜250の各帯状パターンの移動平均値が、5個の帯状パターンの周期で順次算出される。なお、入力階調値0〜4の帯状パターンと、入力階調値251〜255の帯状パターンとの移動平均値が算出されない理由は、これらの帯状パターンの左右の帯状パターンの数が少ないことで移動平均値が算出できないことを防止するためである。例えば、所定個の数が5個である場合には、入力階調値0、1、254、255の帯状パターンの移動平均値を、算出できない。
【0069】
次に、コンピュータ110は、入力階調値5〜250の各帯状パターンの移動平均値の中で、前述した階調反転が発生しているか否かを判断する(ステップS162)。そして、階調反転が発生している場合には(ステップS162:Yes)、コンピュータ110は、所定個の数を「+1」して、再度移動平均する。例えば、コンピュータ110は、入力階調値50の帯状パターンの移動平均値として、6個の帯状パターン(ここでは、入力階調値47の帯状パターンから入力階調値52の帯状パターン)の読取値を平均して算出する(ステップS163)。そして、コンピュータ110は、再度、階調反転が発生しているか否かを判断する(ステップS162)。
【0070】
このような処理(S162とS163)を繰り返して、階調反転が発生しなくなるときの、移動平均に用いた帯状パターンの数を設定する(ステップS164)。なお、階調反転が発生しない前記数は、列領域によって異なることがある。かかる場合には、最も大きい値を、前記数として設定する。これにより、全ての列領域において階調反転が発生しなくなる。
ここでは、仮に、7個の帯状パターンで移動平均すると、階調反転が発生しないものとする。なお、所定個の数が7個である場合には、入力階調値50の移動平均値は、入力階調値47〜入力階調値53の帯状パターンの読取値を平均して、算出される。
【0071】
次に、コンピュータ110は、ステップS164で設定された数(7個)の時の移動平均値を、最終的に、各帯状パターンの移動平均値として設定する(ステップS165)。これにより、入力階調値が大きい移動平均値が、入力階調値が小さい移動平均値よりも小さくなること(すなわち、階調反転)を防止できる。
次に、コンピュータ110は、算出した各帯状パターンの移動平均値に基づいて、各帯状パターンの読取値の修正値である修正読取値を取得する(ステップS166)。
【0072】
図15は、修正前と修正後の読取値を示した図である。なお、修正前の読取値が読取値線で示され、修正後の読取値が移動平均線で示されている。ここでは、移動平均値が算出された入力階調値5〜250の帯状パターンの各移動平均値が、各帯状パターンの修正読取値として取得される。
【0073】
例えば、コンピュータ110は、入力階調値50の帯状パターンP50の移動平均値を、当該帯状パターンP50の修正読取値として取得する。一方で、コンピュータ110は、移動平均値が算出されなかった入力階調値0〜4までの帯状パターンの修正読取値として、移動平均値が算出された入力階調値5の帯状パターンP5の移動平均値が、適用される。同様に、移動平均値が算出されなかった入力階調値251〜255までの帯状パターンの修正読取値として、移動平均値が算出された入力階調値250の帯状パターンP250の移動平均値が、適用される。このように、全ての入力階調値に対して修正読取値が算出されることとなる。この結果、入力階調値0〜255に対する読取値の階調反転を防止できる。
そして、各帯状パターンの修正読取値が設定されると、読取値の修正処理(ステップS16)が終了する。
【0074】
<<ステップS17:目標値の算出>>
図16は、シアンの濃度25%、濃度50%及び濃度75%の各帯状パターンにおける、列領域毎の修正読取値を示すグラフである。なお、図16の横軸は、図15等とは異なり列領域の位置を示す。各帯状パターンは、それぞれ入力階調値で一様に形成されたにも関わらず、列領域毎に濃淡が生じている。この列領域の濃淡差が、印刷画像の濃度ムラの原因である。
【0075】
そこで、コンピュータ110は、全ての列領域の修正読取値(移動平均値)に基づいて、入力階調値に対する目標の濃度値(目標値)を算出する。例えば、コンピュータ110は、入力階調値128の帯状パターンの、全ての列領域の移動平均値を平均した値を、目標値とする。他の入力階調値の帯状パターンについても、同様な方法で目標値を算出する。このように、移動平均値を平均した値を目標値とすることによって、精度の高い目標値を取得できる。
【0076】
<<ステップS18:BRS補正値の算出>>
BRS補正値は、各列領域の修正読取値が、目標値になるように補正するためのものである。すなわち、目標値よりも修正読取値が淡い場合には、入力階調値を大きくする(濃度を濃くする)方へ補正すれば良い。一方、目標値よりも修正読取値が濃い場合には、入力階調値を小さく(濃度を淡くする)方へ補正すれば良い。すなわち、目標値と修正読取値の差だけ、BRS補正値で補正する必要がある。
そこで、コンピュータ110は、列領域毎にBRS補正値を算出する。なお、1つの列領域に対して、入力階調値0〜255に対する補正値を、それぞれ取得する。これにより、きめ細かい補正値を取得できる。
また、目標値は修正読取値を平均したものである。このため、コンピュータ110は、取得された帯状パターンの修正読取値に基づいて、印刷画像の画像データの入力階調値を補正するためのBRS補正値を取得することになる。
【0077】
<<ステップS19:BRS補正値の記憶>>
コンピュータ110は、補正データをプリンタ1に送信し、プリンタ1のメモリ63にBRS補正値を記憶させる。
【0078】
図17は、シアンの補正値テーブルの説明図である。補正値テーブルには、各入力階調値に対応するBRS補正値H0〜H255が、列領域毎に対応付けられている。これらのBRS補正値は、個々のプリンタの濃度ムラ特性を反映したものになる。なお、他の色の補正値テーブルも同様である。
【0079】
BRS補正値を記憶したプリンタは、梱包されてユーザの下に届けられる。ユーザがプリンタで画像を印刷する際に、プリンタは、印刷すべき画像の画像データをBRS補正値に基づいて補正し(すなわち、入力階調値を補正し)、補正後の画像データに基づいて印刷を行う。これにより、各列領域のラスタラインのドット生成率が変更され、列領域の画像片の濃度が補正されて、印刷画像全体のノズル特性に応じた濃度ムラが抑制される。
【0080】
なお、本実施例においては、ステップS11の画像データの画像処理がハーフトーン処理ステップに相当し、ステップS12のテストパターンの印刷が印刷ステップに相当し、ステップS15の各列領域の濃度を測定が読取値取得ステップに相当し、ステップS16の読取値の修正が数設定ステップと修正値取得ステップに相当し、ステップS18のBRS補正値の算出が補正値取得ステップに相当する。
【0081】
また、上記の実施例においては、移動平均値が算出されなかった帯状パターンP0〜4の修正読取値として、帯状パターンP5の移動平均値を適用したが、帯状パターンP0〜4については、読取値を修正しないこととしても良い(帯状パターンP251〜255についても同様)。すなわち、これらの帯状パターンについては、読取値と目標値の差を、BRS補正値としても良い。かかる場合には、処理スピードを速くできる。
【0082】
また、上記の実施例においては、各帯状パターンの読取値を取得(ステップS15)した後に、ステップS16において移動平均値を求めることとしたが、これに限定されるものではない。例えば、ステップS15において、複数個(仮に5個とする)の帯状パターンを平均したもの(すなわち、移動平均値)を、読取値とすることとしてもよい。かかる場合には、ステップS161の処理を簡素化できる。
【0083】
===本実施形態に係る印刷システム100の有効性について===
上述したBRS補正値の取得処理(図8)においては、まず、帯状パターンの画像データの入力階調値(変換前階調値)を、プリンタ1が紙に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理を、入力階調値が互いに異なる256個の帯状パターンの各々に対して実行する(ハーフトーン処理ステップ)。次に、前記変換後階調値に基づいて、前記複数の帯状パターンをテストシートに印刷する(印刷ステップ)。次に、印刷された256個の帯状パターンをスキャナ150に読み取らせ、各帯状パターンの読取値を取得する(読取値取得ステップ)。次に、入力階調値の大きさが第1階調値(階調値5〜250のうちのいずれかの階調値)である一の帯状パターン(帯状パターンP6〜P250のうちのいずれかの帯状パターン)を含む所定個の帯状パターン、の各読取値を平均した平均読取値(移動平均値)を、前記一の帯状パターンの修正読取値として取得する(修正値取得ステップ)。そして、取得された前記一の帯状パターンの修正読取値に基づいて、印刷画像の画像データの前記第1階調値を補正するためのBRS補正値を取得する(補正値取得ステップ)。これにより、以下に説明するように、BRS補正値を精度良く求めることが可能となる。
【0084】
すなわち、上記の修正値取得ステップで取得した平均読取値(移動平均値)は、入力階調値の大きさに比例して、大きくなる傾向を示す。このため、階調値の大きい入力階調値に対する平均読取値が、階調値が小さい入力階調に対する平均読取値よりも小さくなることを抑制できる。これにより、平均読取値である修正読取値を、帯状パターンの読取値として使う場合には、階調反転が解消される。特に、本実施例のように256階調の全ての階調値について帯状パターンを印刷する場合には、階調反転を抑制する効果がより有効である。これにより、この修正読取階調値に基づいて取得された補正値は、精度良いものとなる。また、多階調の帯状パターンを印刷しているので、補正値がきめ細かいものとなる。以上から、本実施形態によれば、BRS補正値を精度良く求めることができる。
【0085】
さらに、BRS補正値の取得処理においては、前記第1階調値が大きいときの平均読取値が、前記第1階調値が小さいときの平均読取値よりも小さくならないように、移動平均する帯状パターンの所定個の数を設定する(数設定ステップ)。そして、修正値取得ステップにおいては、前記一の帯状パターンを含む、前記数設定ステップにおいて数が設定された前記所定個の帯状パターン、の各読取値を平均した平均読取値を、前記一の帯状パターンの修正読取値として取得する。
かかる場合には、階調反転が生じないように、移動平均する帯状パターンの数を設定しているので、設定後の数で移動平均した修正読取値を使うことにより、階調反転を確実に解消できる。
【0086】
さらに、BRS補正値の取得処理においては、前記一の帯状パターンは、前記第1階調値が前記所定個の帯状パターンの各入力階調値の中央値であるテストパターンである。そして、前記第1階調値は、256個の帯状パターンの各入力階調値のうちの、最小値(階調値0)から所定番目に大きい最小側変換前階調値(階調値4)よりも更に大きい入力階調値で、かつ、256個の帯状パターンの各入力階調値のうちの、最大値(階調値255)から所定番目に小さい最大側変換前階調値(階調値251)よりも更に小さい入力階調値である(別言すれば、第1階調値は、入力階調値5〜250のうちのいずれかの入力階調値である)。
かかる場合には、移動平均する入力階調値の幅を決める(移動平均する帯状パターンの数を前もって予測して入力階調値の幅を決める)ことによって、移動平均に用いる所定個の帯状パターンの数が増えた際に、第1階調値の平均読取値(修正読取値)を算出できないことを防止できる。
【0087】
さらに、BRS補正値の取得処理の修正値取得ステップにおいては、入力階調値が前記最小側変換前階調値(階調値4)の次に大きい帯状パターンP5、の修正読取値である平均読取値を、前記最小値(階調値0)から前記最小側変換前階調値(階調値4)までの各入力階調値の帯状パターンP0〜4の修正読取値として、取得する。また、入力階調値が前記最大側変換前階調値(階調値251)の次に小さい帯状パターンP250、の修正読取値である平均読取値を、前記最大値(階調値255)から前記最大側変換前階調値(階調値251)までの各入力階調値の帯状パターンP251〜255の修正読取値として、取得する。
かかる場合には、移動平均値が算出できない帯状パターンの修正読取値として、入力階調値の大きさが最も近い帯状パターンの移動平均値を適用しているので、移動平均値が算出できない帯状パターンの入力階調値に対して、簡易に、かつ、補正の精度低下を抑制できる補正値を取得できる。
【0088】
===第2実施形態===
上記の実施形態においては、階調反転を解消すべく、移動平均により各帯状パターンの修正読取値を算出したが、これに限定されるものではない。
【0089】
以下においては、多項式近似手法を用いた読取値の修正について説明する。
ここでは、以下の式1の、変数x及びyについての3次多項式を用いる。

ここで、式1中のa、b、c、dは係数である。これらの係数を導くための連立方程式は、以下の4つの式である。

【0090】
そして、既知のGauss-Jordan法を用いて、a、b、c、dを求める。なお、式2〜式5の変数xには入力階調値(例えば、階調値0〜255)を代入し、変数yには、各入力階調値に対する読取値を代入する。これにより、係数a、b、c、dの値が求まる。そして、各係数の値を代入することによって、式1の近似式が完成する。
【0091】
このように完成した式1に対して、修正読取値を求めたい入力階調値を変数xに代入すると、当該入力階調値に対する近似値yが求まる。この近似値yが修正読取値となる。この手法によって定まった読取値も、階調反転を解消するものとなる。
【0092】
===その他の実施の形態===
上記では印刷システム等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0093】
また、前述の実施形態では、プリンタが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体吐出装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。
【0094】
また、前述の実施形態のプリンタ1は、駆動素子(ピエゾ素子)に電圧をかけて、インク室を膨張・収縮させることによりインクを吐出しているが、これに限らない。例えば、発熱体を用いてノズル内に泡を発生させ、その泡によってインクを吐出させるプリンタでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】印刷システムの外観構成を示した説明図である。
【図2】プリンタドライバによる画像処理の説明図である。
【図3】プリンタ1の全体構成のブロック図である。
【図4】図4Aは、プリンタ1の断面図である。また、図4Bは、プリンタ1の搬送処理とドット形成処理を説明するための斜視図である。
【図5】図5Aは、ヘッドユニット40の下面における複数のヘッドの配列を示す説明図である。図5Bは、各ヘッドの位置関係の説明図である。
【図6】図6Aは、ドット生成率テーブルの説明図である。図6Bは、ディザ法によるドットのオン・オフ判定の様子を示す図である。
【図7】図7Aは、理想的にドットが形成されたときの様子の説明図である。図7Bは、濃度ムラの説明図である。
【図8】BRS補正値の取得処理のフロー図である。
【図9】BRS補正用パターンの説明図である。
【図10】帯状パターンの説明図である。
【図11】入力階調値と読取値の関係を示すグラフである。
【図12】帯状パターンのドット形成を説明するための模式図である。
【図13】読取値の修正処理を説明するためのフローチャートである。
【図14】図14Aと図14Bは、移動平均を説明するための模式図である。
【図15】修正前と修正後の読取値を示した図である。
【図16】シアンの濃度25%、濃度50%及び濃度75%の各帯状パターンにおける、列領域毎の修正読取値を示すグラフである。
【図17】シアンの補正値テーブルの説明図である。
【符号の説明】
【0096】
1 プリンタ、
20 搬送ユニット、21 給紙ローラ、
23A 上流側搬送ローラ、23B 下流側搬送ローラ、24 ベルト、
40 ヘッドユニット、41 ヘッド、
50 検出器群、53 紙検出センサ、
60 コントローラ、61 インターフェース部、62 CPU、
63 メモリ、64 ユニット制御回路、
70 駆動信号生成ユニット、71 駆動信号生成部、
100 印刷システム、110 コンピュータ、120 表示装置、
130 入力装置、140 記録再生装置、150 スキャナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テストパターンの画像データの変換前階調値を、印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理を、前記変換前階調値が互いに異なる複数のテストパターンの各々に対して実行するハーフトーン処理ステップと、
前記変換後階調値に基づいて、前記複数のテストパターンを媒体に印刷する印刷ステップと、
印刷された前記複数のテストパターンをスキャナに読み取らせ、各テストパターンの読取階調値を取得する読取値取得ステップと、
前記変換前階調値の大きさが第1階調値である一のテストパターンを含む所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得する修正値取得ステップと、
取得された前記一のテストパターンの前記修正読取階調値に基づいて、印刷画像の画像データの前記第1階調値を補正するための補正値を取得する補正値取得ステップと、
を有することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補正値取得方法であって、
前記第1階調値が大きいときの前記平均読取階調値が、前記第1階調値が小さいときの前記平均読取階調値よりも小さくならないように、前記所定個の数を設定する数設定ステップを有し、
前記修正値取得ステップにおいては、
前記一のテストパターンを含む、前記数設定ステップにおいて数が設定された前記所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の補正値取得方法であって、
前記一のテストパターンは、前記第1階調値が前記所定個のテストパターンの各変換前階調値の中央値であるテストパターンであり、
前記第1階調値は、
前記複数のテストパターンの各変換前階調値のうちの、最小値から所定番目に大きい最小側変換前階調値よりも更に大きい変換前階調値で、かつ、
前記複数のテストパターンの各変換前階調値のうちの、最大値から所定番目に小さい最大側変換前階調値よりも更に小さい変換前階調値であることを特徴とする補正値取得方法。
【請求項4】
請求項3に記載の補正値取得方法であって、
前記修正値取得ステップにおいては、
前記変換前階調値が前記最小側変換前階調値の次に大きいテストパターン、の前記修正読取階調値である前記平均読取階調値を、前記最小値から前記最小側変換前階調値までの各変換前階調値のテストパターンの修正読取階調値として、取得し、
前記変換前階調値が前記最大側変換前階調値の次に小さいテストパターン、の前記修正読取階調値である前記平均読取階調値を、前記最大値から前記最大側変換前階調値までの各変換前階調値のテストパターンの修正読取階調値として、取得することを特徴とする補正値取得方法。
【請求項5】
(a)媒体にドットを形成することによりテストパターンを印刷する印刷装置と、
(b)印刷された前記テストパターンを読み取るスキャナと、
(c)前記テストパターンの画像データの変換前階調値を、前記印刷装置が媒体に形成するドットに対応する階調値である変換後階調値に変換する処理を、前記変換前階調値が互いに異なる複数のテストパターンの各々に対して実行し、
前記変換後階調値に基づいて、前記複数のテストパターンを媒体に印刷し、
印刷された前記複数のテストパターンを前記スキャナに読み取らせ、各テストパターンの読取階調値を取得し、
前記変換前階調値の大きさが第1階調値である一のテストパターンを含む所定個のテストパターン、の各読取階調値を平均した平均読取階調値を、前記一のテストパターンの修正読取階調値として取得し、
取得された前記一のテストパターンの前記修正読取階調値に基づいて、印刷画像の画像データの前記第1階調値を補正するための補正値を取得する制御部と、
(d)を備えることを特徴とする印刷システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−226801(P2009−226801A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−76441(P2008−76441)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】