説明

複合型光学素子および光学系

【課題】ガラスレンズ等のガラス基体に樹脂層を設けて形成される複合型光学素子において、ガラス基体と樹脂層の屈折率の差から生じる両者の界面による反射を防止もしくは軽減することを課題とする。
【解決手段】
ガラス基体に樹脂層を積層してなる複合型光学素子の、ガラス基体20と樹脂層30との界面の少なくとも一部に、反射防止機能を持つ周期的な微細構造40を有することで、ガラスと樹脂の界面における反射を軽減あるいは防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
複合型光学素子および光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基体の表面に樹脂層を積層してなる光学素子が知られている。例えば、ガラス基体としての球面ガラスレンズのレンズ面に樹脂層を積層し、樹脂層の表面に非球面形状を形成してなる樹脂接合型非球面レンズ(所謂ハイブリッドレンズ)等である(特許文献1、2)。このようなハイブリッドレンズは、カメラレンズ、レーザプリンタや光プロッタ等の画像形成装置における走査レンズ、液晶プロジェクタにおける投影レンズ、CD/DVD光ディスクのピックアップ等の光ピックアップレンズ等として広く用いられている。
【0003】
ハイブリッドレンズは「バルクとして使用するガラス」が熱的安定性や複屈折に優れ、樹脂表面層は非球面形状の形成が容易であるので、ガラスレンズの持つ耐環境性と非球面の持つ高い光学特性とを供えた非球面レンズを低コストで製造できる。
【0004】
しかし反面、バルクとして使用するガラスと樹脂とでは、樹脂の屈折率がガラスの屈折率よりも10%以上も異なることが多く、このような屈折率差に起因して、ガラス表面と樹脂層との境界面での反射が問題となる。
【0005】
例えば、レーザプリンタで用いられる走査レンズにハイブリッドレンズを用いた場合、樹脂層とガラスレンズ表面の境界面で反射が生じると、反射光が回転多面鏡で再度反射されてハイブリッドレンズを介して感光体上に到達し、静止ゴーストと呼ばれるスジ状の異常画像を発生する不具合がある。液晶プロジェクタにハイブリッドレンズを用いた場合にも、上記境界面での反射は投影画像に対するノイズ成分となって投影画像を劣化させるし、光ピックアップレンズにハイブリッドレンズを用いた場合には上記境界面での反射が再生信号や制御信号のS/N比を低下させる原因となる。
【0006】
単独のガラスレンズのガラス表面における反射(空気とガラスとの境界面での反射)を防止する方法としては、従来から多層膜による反射防止層を形成する方法や、ガラス表面に微小な錐体による凹凸形状を設ける構成が知られている(特許文献3)。
【0007】
反射防止構造を必要とする光学素子は、上記ハイブリッドレンズのほかにも平行平板ガラスの表面に樹脂層を積相した導光板なども考えられ、これらにおいても、ガラス表面と樹脂層との境界面における反射の防止が重要な意義を持つ。
【0008】
【特許文献1】特開2000−180602
【特許文献2】特開2005−1319
【特許文献3】特開2004−279705
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、ガラスレンズ等のガラス基体に樹脂層を設けて形成される複合型光学素子において、ガラス基体と樹脂層の屈折率の差から生じる両者の界面による反射を防止もしくは軽減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の複合型光学素子は、ガラス基体に樹脂層を積層して形成される複合型光学素子において、ガラス基体と樹脂層の界面の少なくとも一部に、反射防止機能を持つ微細な周期構造を有することを特徴とする。
【0011】
一般に、光学素子表面に周期的な凹凸形状を設けると、凹凸形状部分を光が透過するときに回折が発生し、透過光の直進成分が大幅に減少するが、凹凸形状のピッチが透過する光の波長より短いサブ波長オーダーになると回折は発生しない。複合型光学素子のガラス基体と樹脂層との界面に「サブ波長オーダーの微細な周期構造」を設けることで、ガラスと樹脂の界面における反射を軽減あるいは防止でき、屈折率差に拘わらずガラス基体材料と樹脂材料の組合せの自由度を大きくすることができる。反射防止機能を有することで、高透過率な複合型光学素子となるので、特に、フレアなどの課題がある光学装置に使用できる。
【0012】
微細な周期構造は、光入射箇所などのような反射機能防止が必要な箇所に単独に形成されてもよいし、複数箇所に形成されてもよい。
【0013】
請求項1に記載の複合型光学素子において、微細な周期構造はサブ波長オーダーの格子型凹凸形状とすることができる(請求項2)。ガラスと樹脂の界面にサブ波長オーダーの格子型凹凸形状を有することで、広い波長域を有する光に対しても反射防止機能を有する低反射・高透過率の複合型光学素子となる。微細な周期構造を矩形波形状とすると、矩形波状の凹凸形状のピッチや凸部高さ等に対応する単一波長の光に対して反射防止効果を得ることができる。
【0014】
請求項1に記載の複合型光学素子において、微細な周期構造はサブ波長オーダーの錐体形状の周期的配列であることもできる(請求項3)。錐体形状の周期的配列では、ガラスと樹脂の界面に微細な周期構造における「凹部と凸部の体積比」が錐体の高さ方向へ連続的に変化するので、広い波長域の光に対しても反射防止機能を有する低反射・高透過率な光学特性を得ることが可能である。
【0015】
請求項4記載の複合型光学素子は、請求項1に記載の複合型光学素子において、微細な周期構造がサブ波長オーダーの「ラインアンドスペースの凹凸形状」であることを特徴とする。ラインアンドスペースの凹凸形状は、線状の凹部と凸部が交互に平行に並んだ形状であるため製造が容易であり、低コストで反射防止機能を有する低反射・高透過率な複合型光学素子を製造できる。
【0016】
請求項5記載の複合型光学素子は、請求項1〜4の任意の1に記載の複合型光学素子において、微細な周期構造が屈折率を連続的に変化させていることを特徴とする。屈折率を連続的に変化させる微細な周期構造とすることで、広い波長領域の光に対して反射防止機能を有する低反射・高透過率な複合型光学素子を実現できる。
【0017】
請求項6記載の複合型光学素子は、請求項1〜5の任意の1に記載の複合型光学素子において、微細な周期構造のピッチをP、高さをH、複合型光学素子の使用波長をλ、複合型光学素子材料の屈折率をnとして、
λ>nP
λ<2.5H
を満たすことを特徴とする。請求項6に記載の複合型光学素子は、広い波長域を有する光に対して反射防止効果を持つ。
【0018】
請求項1〜6の任意の1に記載の複合型光学素子において、ガラス基体は、例えば前述の導光板のような光学素子を構成する場合には平行平板状でよいが、ガラス基体をレンズとすることにより、前述の樹脂接合型非球面レンズ(ハイブリッドレンズ)を実現することができる(請求項7)。
【0019】
請求項8記載の複合型光学素子は、請求項1〜7の任意の1に記載の複合型光学素子において、樹脂層が光硬化性樹脂からなることを特徴とする。樹脂層を光硬化性樹脂とすることにより、簡易な製造装置及び製造方法により反射防止機能を有する低反射・高透過率な複合型光学素子を製造できる。
【0020】
光硬化性樹脂は、光照射による硬化が行われない状態では液状であるので、金駒が有する面形状と周期的なサブ波長オーダーの凹凸形状とを高精度に忠実に転写することができ、形状精度に優れた複合型光学素子を実現できる。
【0021】
請求項9記載の走査光学系は、請求項1〜8の任意の1に記載の複合型光学素子を使用したことを特徴とする。反射防止効果のある請求項1〜8の何れかに記載の複合型光学素子を光プリンタ等の走査レンズ等として使用することで、ゴーストなどの問題がなく、省電力な光学系を実現でき、優れた走査光学系が可能となる。
【0022】
請求項10記載の投射光学系は、請求項1〜8の任意の1に記載の複合型光学素子を使用したことを特徴とする。反射防止効果のある請求項1〜8の任意の1に記載の複合型光学素子を液晶プロジェクタなどの投射光学系に使用することで、ゴーストなどの問題がなく、省電力な光学系を実現でき、優れた投射光学系が可能となる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、ガラス基体に樹脂を積層して形成される複合型光学素子において、ガラス基体と樹脂との屈折率差に起因する両者境界面での反射を有効に軽減・防止し、光学特性を劣化させない複合型光学素子と光学系を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、実施の形態を説明する。
図1(a)に示すレンズ10は、ガラス基体であるガラス部20と樹脂部30とを積層した複合型光学素子である。説明をわかりやすくするため、微細構造40は実際よりも大きく描かれている。図1(b)は、ガラス部20と樹脂部30の界面の微細形状40を拡大して示している。
【0025】
ガラス部20と樹脂部30の界面における微細形状40は、光の波長オーダー以下(サブ波長オーダー)の周期的な微細凹凸矩形形状を有しており、凹凸形状のピッチや凸部高さ等に対応する単一波長の光に対して反射防止効果を得ることができる。
【0026】
微細形状40がない場合には、ガラス部20と樹脂部30とで屈折率が異なるため、入射した光が界面で反射し、プリンターなどの走査光学系に用いた場合には「静止ゴースト」を発生することがあるが、ガラス部20と樹脂部30との境界面での反射防止機能を持つレンズ10を走査光学系として用いればこれを防止できる。
【0027】
微細な周期構造は、図1の微細形状40のような「格子状の矩形パターン」のほか、三角錘、四角錘、円錐などの錐体形状の周期的配列や、屈折率を連続的に変化させる「凹半球形状、凸半球形状、円筒面形状等の周期的配列」も可能であり、微細な周期構造を利用して屈折率を連続的に変化させることが可能な形状や、ガラス基体と樹脂層の界面における反射を防止できる形状であればどのような形状であってもよい。
【0028】
図6は、微細な周期構造の例(平面図)を示しており、例えば(a)に示す「三角錐形状」、(b)に示す「四角錐形状」、(c)に示す格子状の矩形パターン、(d)に示す「ラインアンドスペース形状」、(e)に示す円錐もしくは半球形状等が可能である。
【0029】
図9は、微細構造の断面形状であり、(a)は三角波形状、(b)は矩形波形状、(c)、(d)は「半円の連続形状」である。
【0030】
図3に示すように、樹脂表面側にも微細形状70を形成することにより、さらに低反射な複合型光学素子とすることができる。この図においても、説明をわかりやすくするため、微細形状40および微細形状70は大きく描かれている。
【0031】
レンズ10の製造工程を説明する。
【0032】
ガラス部20はSK2(屈折率:nd=1.607)からなるガラス球面レンズであり、予めレンズ面を研磨して作製する。
ガラス部20と樹脂部30とが接する界面に有する波長オーダー以下の微細形状40は、研磨皿をガラス部20に押し当て、所定サイズの砥粒を研磨皿とガラス部20の隙間に供給し、こすり合わせる方法で製造する。
ガラス部に微細形状40を形成する方法は、光リソグラフィ加工やレーザ光化学加工、強酸水溶液あるいはプラズマを用いたエッチングなどでもよい。レーザ光化学加工としては、紫外レーザをよく吸収する色素溶液を加工対象に接触させた状態で、紫外レーザを照射し、色素溶液のアブレーションによって間接的にガラス表面を微細加工する方法が考えられる。
【0033】
樹脂部30の形成に使用する樹脂材料としては、熱可塑、熱硬化、光硬化性樹脂など任意のプラスチックでよく、ガラス部20と樹脂部30の界面に微細形状40を有することで、低反射・高透過率な複合型光学素子とすることができるすべての光学材料から任意に選択することができる。
【0034】
樹脂部30として使用できる光硬化性樹脂としては、3次元網目構造を持つ高分子に光照射することで、高分子鎖間に架橋結合が形成される光2量子化できる有機残基や、光重合開始剤によって重合付加する官能基などを有する高分子となるが、耐環境性の問題などがあり、樹脂自体で所望の屈折率(ガラス部20の屈折率に近い屈折率)を得ることは困難であるが、ガラス部20との境界面に反射防止機能を持つ微細形状40を構成することにより、ガラス部20との屈折率差に拘わらず、境界面での反射を有効に軽減もしくは防止することができる。
【0035】
図2を参照して、ガラス部と樹脂部を接合する工程を説明する。
樹脂部に対する下型50は凹の非球面形状と微細形状とを有する。
図2(a)に示すように、下型50の上にポリスチレン樹脂をベースとする光硬化性樹脂(屈折率:nd=1.53)51を滴下する。次いで、図2(b)に示すように、光硬化性樹脂51の上からガラス部20を降下させ、ガラス部20と下型50との間隔を一定に保持する。この時、光硬化性樹脂51は、ガラス部20と下型50の間で拡がり、下型50の凹の非球面形状を転写されて「凸の状非球面形状」が形成され、同時に微細形状も転写される。
続いて、図2(c)に示すように、高圧水銀ランプを光源とした、g線を主成分とする紫外線60をガラス部20を介して1分間照射して光硬化性樹脂51を硬化させる。
【0036】
樹脂部30に微細形状40を転写することで、ガラス部20と樹脂部30の界面において連続的に屈折率が変化するため、複合型光学素子は低反射・高透過率となり、省電力な光学系を実現することができる。また、表面層の樹脂化により非球面形状を有する複合型光学素子とすることができる。成形により製造することにより、生産性が高く、低コストでハイブリッドレンズを製造できる。
【0037】
成形方法は上記のものに限らず、トランスファ成形、熱プレス成形、熱インプリント成形、光インプリント成形など、所望の形状を形成できる成形法ならばいずれの製造方法でもよい。
【0038】
微細な凹凸形状を形成するガラスの表面形状は、平面、球面、非球面、自由曲面、あらゆる形状とすることができる。曲面形状にも対応することが可能であるため、反射防止機能を有した大口径複合型光学素子とすることもできる。
【0039】
本発明の複合型光学素子は、走査レンズ、回折複合型光学素子(フレネルレンズ)、マイクロレンズアレイ、液晶プロジェクタ用投射レンズ、光ディスク読み取り及び書き込み装置に用いられるピックアップレンズなど、複合型光学素子形状には依らず、反射防止機能を必要とするすべての複合型光学素子として実施できる。
【0040】
複合型光学素子に使用するガラスと樹脂に関して説明すると、樹脂は加工が容易であるが、屈折率がガラスと比較して小さく熱的安定性に劣る。一方、高屈折率ガラスには、例えば屈折率:ndが1.70〜2.0、アッベ数:νdが20〜28.5のリン酸塩系光学ガラスが知られている。高屈折率の光学ガラスを用いれば、中心肉厚が薄く曲率半径の大きい形状を有していても、従来の肉厚を有する光学レンズと同等の屈折力を得ることができる。このガラスと樹脂の組み合わせにより、使用温度域において所望の光学特性を得ることができる。
【実施例1】
【0041】
実施例1の複合型光学素子は光プリンタ等に用いられる走査レンズである。
【0042】
走査レンズの形状は以下のとおりである。
中央部レンズ厚さ Ha:14mm
端部レンズ厚さ Hu:7mm
副走査方向の幅 D:14mm
光学面の副走査方向有効領域幅 d:8mm
光学面の主走査方向有効領域長 l:180mm
主走査方向の長さ L:220mm 。
【0043】
図1を参照すると、実施例1ではレンズ10は走査レンズであり、ガラス部20と樹脂部30を有し、ガラス部20と樹脂部30の界面に有する微細構造40は、円錐形状の周期的構造であり、ピッチ:Pが200〜250nmで、樹脂部の屈折率:nは1.525である。波長をλとすると、条件「λ>nP」から波長:300nm以上の波長に対して反射防止機能を有する。
【0044】
また、微細構造40の高さHが200nmであるため、条件「λ<2.5H」から、波長:λ=750nm程度までの波長に対して反射防止機能を有する。従って、微細構造40は波長:300〜750nmの波長範囲に対して反射防止機能を持つ。
【0045】
ガラス部20はSK2(屈折率:nd=1.607)からなるガラスレンズであり、樹脂部30はポリスチレン樹脂をベースとする光硬化性樹脂(屈折率:nd=1.525)である。
【0046】
図4に、実施例1の走査レンズを使用した光学システム80を示す。光学システム80は、レーザプリンタやデジタル複写機などに搭載される。
【0047】
この光学システムは光源としての半導体レーザ90と、半導体レーザ90が放射した光を所定角度範囲で等角速度的に偏向する偏向手段としての回転多面鏡100と、回転多面鏡100により偏向された光を等速度的な光に変換するレーザ走査光学系110と、レーザ走査光学系110からの光の方向を変更する反射ミラー120等を有し、レーザ走査光学系110には、実施例1の走査レンズ10が使用される。
【0048】
光学システム80において、半導体レーザ90から放射された光は、回転多面鏡100の偏向面近傍に主走査方向に長い線像として一旦結像される。回転多面鏡100は一定の角速度で図中の矢印C方向に回転しており、偏向面近傍に結像された光は回転多面鏡100の回転に伴って等角速度的に偏向される。偏向された光は、走査レンズを順次透過することで等速度的な光に変換され、反射ミラー120で反射されて走査対象である感光体130表面を走査する。
【0049】
光学システム80がデジタル複写機に使用された場合、半導体レーザ90の光は複写画像に対応する画像情報によって光強度が変調されており、この光が感光体130表面に結像することによって、感光体表面に静電潜像が形成される。
【0050】
以上のように、レーザ走査光学系110として用いられる走査レンズ10は、光学システムにおける実使用状態で、ガラスと樹脂の界面での反射を低減させた設計時の光学的機能を有しており、高画質の画像を形成することができる。微細構造をなす円錐形状の円錐軸方向を光源入射方向に合わせるように形成することにより、反射防止効果を高め、フレア、ゴーストなどの問題のない、透過特性が高く省電力な光学系を形成することが可能となる。
【0051】
なお、樹脂部30の両面に反射防止機能を持つ凹凸構造を形成することもできる。
【0052】
樹脂部の自由表面は、例えば、図3に示すようなフレネルレンズ形状とすることもでき、このフレネルレンズ形状に反射防止機能を持つ微細周期構造を形成することもできる。
【実施例2】
【0053】
実施例2の複合型光学素子はマイクロレンズアレイである。
図5(a)はマイクロレンズアレイ140を横から見た図、図5(b)は上から見た図である。図5(c)はマイクロレンズアレイ140の個々のマイクロレンズ141の拡大図である。マイクロレンズ141は樹脂で形成され、ガラス基板との境界部には、ピッチ:Pが300nm程度、高さ:Hが200nm程度の「半球形状の微細な凹凸構造」を形成され、「広い波長領域の光」に対して反射防止機能を持つ。
【0054】
マイクロレンズアレイ140は、ガラス部と樹脂部の界面における反射を防止することができるため、フレア、ゴーストなどの問題がなく、透過特性の高い省電力な光学系を形成することができる。
【0055】
レンズアレイの母材(ガラス基体)がガラスであるため、環境温度が変動しても熱膨張によるレンズピッチ変動が少なく、環境変化によるレンズ位置誤差の生じない高精度な複合型光学素子となる。微細な凹凸構造は、半球状の周期的配列に限らず、三角錐、四角錐、円錐、凹半球、格子状の矩形パターン等種々の形態のものが可能である。
【0056】
凹凸構造の形成は、実施例1のものと同様種々の方法が可能である。
【実施例3】
【0057】
実施例3の複合型光学素子はCDやDVDなどの光ディスクを用いる光ディスクシステム用の光ピックアップレンズである。
図7は、光ピックアップレンズ150の概略図である。図の下面が光の入射面、上面が出射面であり、下面から上面に向かってレーザビームが透過する。
【0058】
光ピックアップレンズ150は、図7に示すように、ガラスレンズの両面に樹脂部を有し、それぞれのガラス部と樹脂部の界面に円錐体の周期構造による微細構造を設けている。微細構造の円錐体の周期的配列は、幅:200nm、ピッチ:300nm、高さ:400nmの配列である。
【0059】
実施例3は、ガラス球面にプラズマ処理によりサブ波長オーダーの微細凹凸構造を形成し、樹脂層を光硬化させることで非球面形状にして、ホルダー160と一体化させることで製造できる。
【0060】
ガラス部20の入射面及び射出面に微細周期構造を有することで、ガラスの入射面・射出面と樹脂部のそれぞれの界面における反射を防止することができ、図3のように樹脂部表面にも微細構造を形成することにより、さらに反射を軽減することができる。
【実施例4】
【0061】
実施例4について説明する。
【0062】
図8は、液晶プロジェクタ用投射光学系に使用される投射レンズ170である。図のように、ガラス部20と樹脂部30の界面に微細形状40を有している。
【0063】
製造工程は、ガラス球面にレーザ光化学加工によりサブ波長オーダーの凹凸(円錐状の周期的配列)を設け、この面の上に非球面形状の型を用い光硬化型樹脂の層を光硬化させることで非球面形状を形成している。
【0064】
本発明による液晶プロジェクタ用投射光学系では、光学システムにおける実使用状態で、ガラスレンズと樹脂層の界面での反射を低減させた設計時の光学的機能を有しており、フレア、ゴーストなどの問題のない高画質の画像を形成することができ、透過特性の高い省電力な投射光学系を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】微細周期構造を有する複合型光学素子を説明する図である。
【図2】微細周期構造を有する複合型光学素子の製造方法の例を説明する図である。
【図3】樹脂表面側にも微細な凹凸形状を形成した複合型光学素子を説明する図である。
【図4】実施例1の光学システムを説明する図である。
【図5】実施例2のマイクロレンズアレイを説明する図である。
【図6】微細周期構造の例を上からみた図である。
【図7】実施例3の光ピックアップレンズを説明する図である。
【図8】実施例4の投射レンズを説明する図である。
【図9】微細周期構造の例を横からみた図である。
【符号の説明】
【0066】
10 レンズ
20 ガラス部
30 樹脂部
40 微細形状
110 レーザ走査光学系
140 マイクロレンズアレイ
150 ピックアップレンズ
170 投射レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基体に樹脂層を積層して形成される複合型光学素子において、
ガラス基体と樹脂層との界面の少なくとも一部に、反射防止機能を有する微細な周期構造を有することを特徴とする複合型光学素子。
【請求項2】
請求項1記載の複合型光学素子において、
微細な周期構造が、サブ波長オーダーの格子型凹凸形状であることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項3】
請求項1記載の複合型光学素子において、
上記微細な周期構造がサブ波長オーダーの錐体形状の周期的配列であることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項4】
請求項1記載の複合型光学素子において、
上記微細な周期構造がサブ波長オーダーのラインアンドスペースの凹凸形状であることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項5】
請求項1〜4の任意の1に記載の複合型光学素子において、
微細な周期構造が屈折率を連続的に変化させていることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項6】
請求項1〜5の任意の1に記載の複合型光学素子において、
微細な周期構造の凹凸のピッチをP、高さをH、入射光の波長をλ、光学素子材料の屈折率をnとして、
λ>nP
λ<2.5H
を満たすことを特徴とする複合型光学素子。
【請求項7】
請求項1〜6の任意の1に記載の複合型光学素子において、
樹脂層が光硬化性樹脂からなることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項8】
請求項1〜7記載の複合型光学素子において、
ガラス基体がガラスレンズであることを特徴とする複合型光学素子。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の複合型光学素子を使用したことを特徴とする走査光学系。
【請求項10】
請求項1〜8の任意の1に記載の複合型光学素子を使用したことを特徴とする投射光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−206490(P2007−206490A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26731(P2006−26731)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】