説明

複合基板の製造方法及び複合基板

【課題】圧電基板と支持基板とを接着層を介して貼り合わせた複合基板につき、内部に気泡が生じるのを防止する。
【解決手段】(a)裏面11aに微小な凹凸が形成された圧電基板21と、圧電基板21に比べて熱膨張係数が小さい支持基板12とを用意し、(b)微小な凹凸を埋めるように裏面11aに充填剤を塗布して充填層23を形成し、(c)算術平均粗さRaが(a)における裏面11aの算術平均粗さRaよりも小さくなるように充填層23の表面を鏡面研磨し、(d)充填層13の表面13aと支持基板12の表面とを接着層14を介して貼り合わせて複合基板20を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板の製造方法及び複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合基板を用い、圧電基板の表面に弾性表面波を励振可能な櫛形電極を設けた弾性表面波素子が知られている。ここで、圧電基板よりも小さな熱膨張係数を持つ支持基板を圧電基板に貼り付けることにより、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化を抑制し、弾性表面波素子としての周波数特性の変化を抑制することが行われている。例えば、特許文献1に記載の弾性表面波素子は、圧電基板と支持基板とを接着層によって貼り合わせた構造を有している。この弾性表面波素子は、更に、圧電基板の支持基板と貼り合わせる側の面(裏面)に微小な凹凸を設けることで、スプリアスの発生を抑制している。即ち、櫛形電極付近で弾性表面波と共に発生した弾性波の一種であるバルク波はこの圧電基板の裏面に到達するが、この裏面に凹凸があるために散乱される。このようにして、バルク波が圧電基板の裏面で反射して櫛形電極へ到達するのを抑制し、スプリアスの発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−53579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の弾性表面波素子では、圧電基板の裏面に凹凸があるため、圧電基板と支持基板とを貼り合わせる際に空気が巻き込まれて複合基板内に気泡が生じることがあった。例えば、圧電基板の裏面のみに接着剤を塗布して圧電基板と支持基板とを接着層を介して接着する場合、圧電基板の裏面の凹凸の影響が接着剤の表面に現れるため、接着層と支持基板との境界に気泡が生じることがあった。また、圧電基板の裏面と支持基板の表面の両方に接着剤を塗布した場合、やはり圧電基板の裏面の凹凸の影響が圧電基板側の接着剤の表面に現れるため、両方の接着剤を合わせたときに空気が入り込み、接着層の中に気泡が生じることがあった。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、圧電基板と支持基板とを接着層を介して貼り合わせた複合基板につき、内部に気泡が生じるのを防止することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の複合基板の製造方法は、
(a)片方の面に微小な凹凸が形成された圧電基板と、該圧電基板に比べて熱膨張係数が小さい支持基板とを用意する工程と、
(b)前記微小な凹凸を埋めるように前記片方の面に充填剤を塗布して充填層を形成する工程と、
(c)算術平均粗さRaが前記工程(a)における前記片方の面の算術平均粗さRaよりも小さくなるように前記充填層の表面を鏡面研磨する工程と、
(d)前記充填層の表面と支持基板の表面とを接着層を介して貼り合わせて複合基板を形成する工程と、
を含むものである。
【0008】
本発明の複合基板の製造方法によれば、複合基板の内部、具体的には、接着層と充填層との境界、接着層の中、及び接着層と支持基板との境界に気泡が生じるのを防止できる。すなわち、圧電基板の片方の面のみに接着剤を塗布して接着する場合、圧電基板の片方の面には表面が平坦な充填層が形成され、その充填層の表面に接着剤を塗布することになる。その結果、接着剤の表面に圧電基板の片方の面の凹凸の影響が現れることがなく、充填層と接着層との境界や接着層と支持基板との境界に気泡が生じるのを防止できる。また、圧電基板の片方の面と支持基板の表面の両方に接着剤を塗布して接着する場合、同様の理由で接着剤の表面に圧電基板の片方の面の凹凸の影響が現れることがないため、両方の接着剤を合わせたときに空気が入り込みにくく、接着層の中に気泡が生じるのを防止できる。
【0009】
本発明の複合基板の製造方法において、前記工程(c)では、前記圧電基板に対する研磨レートが前記充填層に対する研磨レートよりも低いスラリーを用いて前記充填層の表面を鏡面研磨してもよい。言い換えると、前記工程(c)では、スラリーを用いて前記充填層の表面を鏡面研磨し、該スラリーの前記圧電基板に対する研磨レートは、該スラリーの前記充填層に対する研磨レートよりも低いものとしてもよい。こうすれば、充填層の表面を鏡面研磨する際、充填層の表面に圧電基板の片方の面の一部が露出したあとは研磨レートが低下する。このため、露出後も鏡面研磨を続けた場合に圧電基板の片方の面の算術平均粗さRaの値が小さくなりにくくなる。
【0010】
本発明の複合基板の製造方法において、前記工程(c)では、圧電基板の前記片方の面の一部が露出するまで前記鏡面研磨を行うものとしてもよい。こうすれば、充填層の厚さを薄くできるため、充填層と接着層の合計の厚さを薄くすることができる。温度変化による圧電基板の大きさの変化を支持基板が抑制する効果は充填層と接着層の合計の厚さが厚すぎると得られにくくなるが、ここではその厚さを薄くできるため十分な効果が得られる。
【0011】
本発明の複合基板の製造方法において、前記工程(d)では、前記工程(b)で形成された充填層と同一の材料により形成された接着層を介して前記貼り合わせを行うものとしてもよい。こうすれば、充填層と接着層とで別の材料を用意する必要がなくなる。
【0012】
本発明の複合基板の製造方法において、前記工程(d)による貼り合わせ後における前記充填層と前記接着層との合計の厚さは0.1μm以上1.0μm以下としてもよい。こうすれば、温度変化に対する圧電基板の大きさの変化を支持基板が抑制する効果が十分得られる。
【0013】
本発明の複合基板は、
片方の面に微小な凹凸が形成された圧電基板と、
前記圧電基板に比べて熱膨張係数が小さい支持基板と、
前記微小な凹凸を埋めるように形成され、前記圧電基板とは反対側の接合面の算術平均粗さRaが前記圧電基板の片方の面の算術平均粗さRaよりも小さい充填層と、
前記接合面と前記支持基板とを接着する接着層と、
を備え、
前記接着層と前記充填層との境界、前記接着層の中、及び前記接着層と前記支持基板との境界には気泡が存在しない、
ものである。
【0014】
本発明の複合基板は、上述した本発明の複合基板の製造方法によって得られるようになったものである。この複合基板では、前記接着層と前記充填層との境界、前記接着層の中、及び前記接着層と前記支持基板との境界には気泡が存在しないため、充填層を形成せずに圧電基板と支持基板とを接着層を介して貼り合わせた複合基板と比べて圧電基板と支持基板との接着力が高いものとなっている。なお、「気泡が存在しない」とは、複合基板を積層方向に切断した断面を1万倍に拡大して観察したときに気泡が見られないことを意味する。なお、「前記微小な凹凸を埋めるように形成され、前記圧電基板とは反対側の接合面の算術平均粗さRaが前記圧電基板の片方の面の算術平均粗さRaよりも小さい充填層」とは、言い換えると、前記微小な凹凸を埋めるように形成された充填層であって、該充填層は前記圧電基板とは反対側に接合面を有し、該接合面の算術平均粗さRaは前記圧電基板の片方の面の算術平均粗さRaよりも小さくなっている、ことを意味する。
【0015】
本発明の複合基板において、前記接合面には、前記圧電基板の前記片方の面が露出しているものとしてもよい。こうすれば、接合面に圧電基板の片方の面が露出していない複合基板に比べて充填層の厚さが薄くなる、すなわち充填層と接着層の合計の厚さが薄くなる。温度変化による圧電基板の大きさの変化を支持基板が抑制する効果は充填層と接着層の合計の厚さが厚すぎると得られにくくなるが、ここではその厚さが薄いため十分な効果が得られる。
【0016】
本発明の複合基板において、前記接着層は、前記充填層と同一の材料により形成されているものとしてもよい。こうすれば、充填層と接着層とで別の材料を用いてこれらを形成する必要がなくなる。
【0017】
本発明の複合基板において、前記充填層と前記接着層との合計の厚さは0.1μm以上1.0μm以下としてもよい。こうすれば、温度変化に対する圧電基板の大きさの変化を支持基板が抑制する効果が十分得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の複合基板10の断面図である。
【図2】本発明の複合基板10の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図3】実施例1及び比較例2の弾性表面波素子の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の複合基板10を模式的に示す断面図である。この複合基板10は、圧電基板11と、支持基板12と、圧電基板11の裏面11aに形成された充填層13と、充填層13の表面13aと支持基板12の表面とを接着する接着層14とから構成されている。なお、本実施形態の複合基板10は、圧電基板11の表面に櫛形電極を設けて弾性表面波素子として用いるものである。
【0020】
圧電基板11は、弾性表面波を伝搬可能なものである。この圧電基板11の材質としては、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶などが挙げられる。また、圧電基板11の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが10〜50μmである。この圧電基板11は、裏面11aに微小な凹凸が形成されており、裏面11aの算術平均粗さRaは、例えば0.1μmである。なお、圧電基板11の裏面11aの算術平均粗さRaはこの値に限定されるものではなく、複合基板10を弾性表面波素子として用いた場合におけるバルク波を散乱してスプリアスの発生を抑制できる値にすればよい。例えば、算術平均粗さRaを使用弾性表面波の波長程度としてもよい。
【0021】
支持基板12は、充填層13及び接着層14を介して圧電基板11と貼り合わせられ、この圧電基板11よりも熱膨張係数が小さいものである。支持基板12を圧電基板11よりも熱膨張係数が小さいものとすることで、温度が変化したときの圧電基板11の大きさの変化を抑制し、複合基板10を弾性表面波素子として用いた場合における周波数特性の温度変化を抑制することができる。この支持基板12の材質としては、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、アルミナ、ホウ珪酸ガラス、石英ガラスなどが挙げられる。また、支持基板12の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが100〜500μmである。
【0022】
充填層13は、圧電基板11の裏面11aの微小な凹凸を埋めるように形成された層である。この充填層13のうち、圧電基板11とは反対側の面である表面13aは接着層14と接合されている。この表面13aは、圧電基板11の裏面11aよりも算術平均粗さRaが小さくなっている。特に限定するものではないが、例えば表面13aの算術平均粗さRaは3nm〜7nmである。また、表面13aには圧電基板11の裏面11aの一部が露出している。すなわち、圧電基板11の裏面11aの凹凸の最高部11bと表面13aとが略一致している。充填層13の材質としては、特に限定されないが、耐熱性を有する有機接着剤が好ましく、例えば、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤などが挙げられる。また、充填層13となる充填剤は、硬化後のヤング率が2〜90GPaの範囲となるように選ぶことが好ましい。ヤング率がこの範囲にある場合、充填層13がバルク波抑制効果を示すため、複合基板10を弾性表面波素子として用いた場合におけるスプリアスの抑制効果が高まる。
【0023】
接着層14は、充填層13の表面13aと支持基板12の表面とを接着する層である。接着層14の材質としては、特に限定されないが、充填層13と同様に耐熱性を有する有機接着剤が好ましく、例えば、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤などが挙げられる。接着層14と充填層13とは材質が同じであっても異なっていてもよい。接着層14が充填層13と同一の材料により形成されていることとすれば、充填層13と接着層14とで別の材料を用いてこれらを形成する必要がなくなる。
【0024】
接着層14と充填層13との合計の厚さは、特に限定するものではないが、例えば0.1μm以上1.0μm以下とするのが好ましい。接着層14と充填層13との合計の厚さを1.0μm以下とすることで、上述した温度変化に対する圧電基板11の大きさの変化を支持基板12が抑制する効果が十分得られる。なお、接着層14と充填層13との合計の厚さは、圧電基板11の裏面11aの凹凸の最高部11bから支持基板12までの距離と定義してもよい。また、接着層14と充填層13との境界,接着層14の中,及び接着層14と支持基板12との境界には気泡が存在しない。すなわち、複合基板10を積層方向に切断した断面を1万倍に拡大して観察したときにこれらに気泡が見られない。これにより、気泡があるものと比較して圧電基板11と支持基板12との接着力が高いものとなっている。
【0025】
次に、こうした複合基板10の製造方法について、図2を用いて以下に説明する。図2は、複合基板10の製造工程を模式的に示す断面図である。複合基板10の製造方法は(a)裏面11aに微小な凹凸が形成された圧電基板21と、圧電基板21に比べて熱膨張係数が小さい支持基板12とを用意する工程と、(b)微小な凹凸を埋めるように裏面11aに充填剤を塗布して充填層23を形成する工程と、(c)算術平均粗さRaが工程(a)における裏面11aの算術平均粗さRaよりも小さくなるように充填層23の表面を鏡面研磨する工程と、(d)充填層13の表面13aと支持基板12の表面とを接着層14を介して貼り合わせて複合基板20を形成する工程と、を含む。
【0026】
工程(a)では、圧電基板11となる圧電基板21と支持基板12とを用意する(図2(a))。圧電基板21及び支持基板12としては、上述した材質のものを用いることができる。圧電基板21の大きさは、特に限定するものではなが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが150〜500μmとすることができる。支持基板12の大きさは、特に限定するものではなが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが100〜500μmとすることができる。圧電基板21及び支持基板12の厚さは、250〜500μmとしてもよい。なお、圧電基板21の裏面11aは、算術平均粗さRaが所定の値(本実施形態では0.1μm)となるようにラッピングマシーン又はサンドブラストで予め荒らしておく。
【0027】
工程(b)では、圧電基板21の裏面11aの微小な凹凸を埋めるように充填剤を塗布して硬化させ充填層23を形成する(図2(b))。充填剤としては上述した材質のものを用いることができる。充填剤を塗布する方法としては、例えばスピンコートが挙げられる。
【0028】
工程(c)では、算術平均粗さRaが工程(a)における裏面11aの算術平均粗さRaよりも小さくなるように充填層23の表面を鏡面研磨する(図2(c))。鏡面研磨する方法としては、例えばスラリーを用いたCMP研磨が挙げられる。鏡面研磨は、圧電基板21の裏面11aの凹凸の最高部11bが充填層23の表面13aに露出するまで行う。圧電基板21の最高部11bが露出したか否かは、例えば充填層23の表面13aを一定時間研磨する毎に観察することによって判定することができる。また、圧電基板21の最高部11bが露出するまでに要する研磨時間は、塗布する充填剤の量及び圧電基板21の裏面11aの算術平均粗さRaによって定まるため、予め実験によって求めた研磨時間だけ研磨することによって圧電基板21の裏面11aを露出させることもできる。なお、鏡面研磨では、スラリーは圧電基板21に対する研磨レートが充填層23に対する研磨レートよりも低いスラリーを用いる。こうすれば、充填層23の表面を鏡面研磨する際、充填層23の表面に圧電基板21の裏面11aの一部が露出したあとは研磨レートが低下する。このため、露出後も鏡面研磨を続けた場合に圧電基板21の裏面11aの算術平均粗さRaの値が小さくなりにくくなる。この工程(c)により、充填層23は図1に示した充填層13となる。
【0029】
工程(d)では、充填層13の表面13aと支持基板12の表面とを接着層を介して貼り合わせて複合基板20を形成する。例えば、充填層13の表面13aと支持基板12の表面に接着剤24を均一に塗布し、両者を貼り合わせた状態で接着剤24を硬化させて接着層14とすることにより複合基板20を形成する(図2(d))。接着剤としては上述した材質のものを用いることができる。接着剤は、工程(b)で用いた充填剤と同一の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。同一の材料とすれば、充填剤と接着剤とで別の材料を用意する必要がなくなる。接着剤を塗布する方法としては、例えばスピンコートが挙げられる。なお、硬化後の接着層14と充填層13の合計の厚さが上述したように0.1μm以上1.0μm以下となるように接着剤を塗布するのが好ましい。また、接着剤を充填層13の表面13aと支持基板12の表面とのいずれか一方に塗布して貼り合わせるものとしてもよい。
【0030】
複合基板20を形成すると、工程(e)として、圧電基板21の表面(上面)を研削して厚みを薄くするとともに鏡面研磨する(図2(e))。これにより、圧電基板21は図1に示した圧電基板11となり、複合基板10が得られる。
【0031】
ここで、上述した工程(b)及び工程(c)を行わずに圧電基板21の裏面11aのみに接着剤を塗布して圧電基板21と支持基板12とを接着層14を介して接着しようとすると、圧電基板21の裏面11aの微小な凹凸により接着層14と支持基板12との境界に気泡が生じてしまうことがある。また、圧電基板21の裏面11aと支持基板12の表面の両方に接着剤を塗布した場合には、圧電基板21側の接着剤の表面に裏面11aの凹凸の影響が現れるため、両方の接着剤を合わせたときに空気が入り込み、接着層14の中に気泡が生じてしまうことがある。これに対して本実施形態の複合基板の製造方法では、接着層14と充填層13との境界、接着層14の中、及び接着層14と支持基板12との境界に気泡が生じるのを防止できる。すなわち、本実施形態では、圧電基板21の微小な凹凸は充填層13によって平坦になっている。このため、圧電基板21の裏面11aのみに接着剤を塗布する場合、平坦な充填層13に接着剤を塗布することになるため、接着層14と充填層13との境界や接着層14と支持基板12との境界に気泡が生じるのを防止できる。また、圧電基板21の裏面11aと支持基板12の表面の両方に接着剤を塗布した場合には、圧電基板21側の接着剤の表面に裏面11aの凹凸の影響が現れることがないため、両方の接着剤を合わせたときに空気が入り込みにくく、接着層14の中に気泡が生じるのを防止できる。
【0032】
以上説明した実施形態の複合基板10の製造方法によれば、充填層13を形成せず圧電基板21と支持基板12とを接着層14を介して貼り合わせる場合と比較して、複合基板10の内部、具体的には、接着層14と充填層13との境界、接着層14の中、及び接着層14と支持基板12との境界に気泡が生じるのを防止できる。これにより、充填層13を形成せずに圧電基板11と支持基板12とを接着層を介して貼り合わせた複合基板と比べて圧電基板11と支持基板12との接着力が高い複合基板10が得られる。
【0033】
また、工程(c)では、圧電基板21に対する研磨レートが充填層23に対する研磨レートよりも低いスラリーを用いて充填層23の表面を鏡面研磨するため、圧電基板21の裏面11aの一部が充填層23の表面に露出した後も鏡面研磨を続けた場合に圧電基板21の裏面11aの算術平均粗さRaの値が小さくなりにくくなる。
【0034】
さらに、工程(c)では、圧電基板21の裏面11aの一部が露出するまで鏡面研磨を行うため、充填層13の厚さを薄くして充填層13と接着層14の合計の厚さを薄くすることができる。これにより、温度変化による圧電基板11の大きさの変化を支持基板12が抑制する効果が十分得られる。
【0035】
さらにまた、工程(d)による貼り合わせ後における充填層13と接着層14との合計の厚さは0.1μm以上1.0μm以下としているため、温度変化に対する圧電基板11の大きさの変化を支持基板12が抑制する効果が十分得られる。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施しうることは言うまでもない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
実施例1として、図2を用いて説明した製造方法により図1に示した複合基板10を作製し、これを用いた弾性表面波素子を作製した。まず、工程(a)では、圧電基板21として、オリエンテーションフラット部(OF部)を有し、直径が4インチ,厚さが250μmのタンタル酸リチウム基板(LT基板)を用意した。また、支持基板12として、OF部を有し、直径が4インチ,厚さが230μmのシリコン基板を用意した。LT基板は、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である46°YカットX伝搬LT基板を用いた。なお、LT基板の裏面は、算術平均粗さRaが0.1μmとなるようにラッピングマシーンで荒らしておいた。シリコン基板の表面は、算術平均粗さRaが10nmとなるように鏡面研磨しておいた。
【0038】
次に、工程(b)では、LT基板の裏面の微小な凹凸を埋めるようにスピンコーターで均一に充填剤を塗布した。充填剤には、エポキシ樹脂系紫外線硬化樹脂であり硬化後のヤング率が5GPaとなるものを用いた。そして塗布した充填剤に2000mJの紫外線を照射して硬化させ、平均厚み5μmの充填層を形成した。なお、この時点における充填層の表面は算術平均粗さRaが38nmであった。
【0039】
続いて、工程(c)では、硬化した充填層の表面をCMP研磨した。このときスラリーとしてはコロイダルアルミナを用いた。なお、コロイダルアルミナを用いることでLT基板と充填層との研磨レートの比率はおよそ1:80となった。CMP研磨は、LT基板の裏面が露出するまで行った。LT基板の裏面が露出したか否かは充填層の表面を一定時間毎に観察することによって判定した。CMP研磨後の充填層の表面の算術平均粗さRaは3〜7nmであった。
【0040】
工程(d)では、スピンコーターを用いて、充填層の表面とシリコン基板の表面にそれぞれ4000Åの厚みで接着剤を均一に塗布した。接着剤には充填剤と同じ材質のものを用いた。そして、接着剤を塗布した充填層の表面とシリコン基板の表面とを貼り合わせ、LT基板側から2000mJの紫外線を照射して硬化させ複合基板とした。硬化後の接着層の厚さは0.8μmであった。
【0041】
工程(e)では、複合基板のうちLT基板の表面を厚みが当初の250μmから40μmになるように研削及び研磨した。これにより図1に示した実施例1の複合基板10を作製した。
【0042】
作製した実施例1の複合基板について、複合基板を積層方向に切断して断面を1万倍に拡大して観察したところ、充填層13及び接着層14には気泡は見られなかった。
【0043】
[実施例2]
工程(d)において接着剤を充填剤と異なる材料のエポキシ樹脂系紫外線硬化樹脂とした点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、実施例2とした。
【0044】
作製した実施例2の複合基板について、複合基板を積層方向に切断して断面を1万倍に拡大して観察したところ、充填層13及び接着層14には気泡は見られなかった。
【0045】
[実施例3〜5]
工程(a)で用意する支持基板12の材質をホウ珪酸ガラスとした点以外は、実施例2と同様にして複合基板10を作製し、実施例3とした。工程(a)で用意する支持基板12の材質をサファイアとした点以外は、実施例2と同様にして複合基板10を作製し、実施例4とした。工程(a)で用意する支持基板12の材質を窒化アルミニウムとした点以外は、実施例2と同様にして複合基板10を作製し、実施例5とした。
【0046】
作製した実施例3〜5の複合基板について、複合基板を積層方向に切断して断面を1万倍に拡大して観察したところ、充填層13及び接着層14には気泡は見られなかった。
【0047】
[実施例6]
工程(a)で用意する圧電基板21として、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である42°YカットX伝搬LT基板を用いた点以外は、実施例2と同様にして複合基板10を作製し、実施例6とした。
【0048】
作製した実施例6の複合基板について、複合基板を積層方向に切断して断面を1万倍に拡大して観察したところ、充填層13及び接着層14には気泡は見られなかった。
【0049】
[比較例1]
工程(b)の充填剤の塗布及び工程(c)のCMP研磨を行わない点以外は、実施例1と同様にして複合基板を作製し、比較例1とした。なお、工程(b)及び工程(c)を行わないため充填層はなく、工程(d)では圧電基板の裏面と支持基板の表面とが直接接着層を介して接合されることになる。比較例1の複合基板では、複合基板を積層方向に切断して断面を1万倍に拡大して観察したところ、接着層とシリコン基板との境界や、接着層の中、すなわち接着層のうちLT基板側に塗布したものとシリコン基板側に塗布したものとの境界に気泡が多数見られた。また、シリコン基板の表面にも多数の穴が発生しておりこれによるLT基板の剥離も見られた。これは、接着層を熱硬化させる際に気泡が破裂したためと考えられる。このため、比較例1の複合基板は、弾性表面波素子としては利用できない品質であった。
【0050】
[比較例2]
裏面が鏡面研磨されている点、具体的には算術平均粗さRaが10nmのLT基板である点以外は実施例1と同様のLT基板と、実施例1と同様のシリコン基板とを用意した。次に、スピンコーターを用いて、LT基板の裏面とシリコン基板の表面とに実施例1における接着層14と同じ材質の接着剤をそれぞれ4000Åの厚みで均一に塗布した。続いて、接着剤を塗布したLT基板の裏面とシリコン基板の表面とを貼り合わせ、LT基板側から2000mJの紫外線を照射して硬化させ複合基板とした。こうして得られた複合基板のうちLT基板の表面を厚みが当初の250μmから40μmになるように研削及び研磨し、比較例2の複合基板を得た。なお、硬化後の接着層の厚み(LT基板の裏面の微小な凹凸の最高部から支持基板までの距離)は0.8μmであった。比較例2の複合基板では、実施例1及び比較例1と異なりLT基板の裏面が鏡面研磨されているため、複合基板を積層方向に切断して断面を1万倍に拡大して観察しても接着層には気泡は見られなかった。
【0051】
[評価試験1]
実施例1の複合基板10と比較例1の複合基板とについて、LT基板とシリコン基板との接着強度を比較した。まず、実施例1及び比較例1の複合基板から、縦の長さが1mm、横の長さが2mmのチップをダイシングによりそれぞれ切り出した。そして、切り出したチップについてせん断試験を実施した。実施例1の複合基板から切り出したチップは、せん断試験において接着層14や充填層13は剥がれずシリコン基板に割れが発生し、LT基板とシリコン基板との接着強度は十分であることが確認できた。一方、比較例1の複合基板から切り出したチップは、せん断試験において接着層とLT基板との界面で剥がれが生じた。
【0052】
実施例1及び比較例1と同様に、実施例2〜6の複合基板10について、LT基板と支持基板12との接着強度を評価した。まず、実施例2〜6の複合基板から、縦の長さが1mm、横の長さが2mmのチップをダイシングによりそれぞれ切り出した。そして、切り出したチップについてせん断試験を実施した。実施例2,3,6の複合基板から切り出したチップは、せん断試験において接着層14や充填層13は剥がれず支持基板に割れが発生した。実施例4,5の複合基板から切り出したチップは、せん断試験において接着層14や充填層13は剥がれずLT基板に割れが発生した。実施例2〜6についての結果から、充填層と接着層とを異なる材料としても、LT基板と支持基板との接着強度は実施例1と同様に十分であることが確認できた。実施例3〜5についての結果から、支持基板の材質を実施例1と異なるものとしても、LT基板と支持基板との接着強度は実施例1と同様に十分であることが確認できた。また、実施例6についての結果から、LT基板のカット角を実施例1と異なるものとしても、LT基板と支持基板との接着強度は実施例1と同様に十分であることが確認できた。なお、実施例4,5では実施例1と異なりLT基板に割れが発生したが、これは実施例4,5で用いた支持基板がLT基板よりも強度の高い材質であるためと考えられる。
【0053】
[評価試験2]
実施例1,2,6の複合基板10と比較例2の複合基板とから、それぞれ弾性表面波素子を作製し、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化すなわち周波数温度特性(TCF)とスプリアスの発生具合とを測定した。
【0054】
弾性表面波素子の作製は、以下のように行った。まず、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて、材質がアルミニウムで、最終的に作製した弾性表面波素子が常温で中心周波数720MHzの1ポートSAW共振器として機能する形状で、厚さが0.12μm,周期が6μmの櫛形電極をLT基板の表面に複数形成した。また、各櫛形電極につき、櫛形電極を挟むように2つの反射器を形成した。続いて、ダイシングにより、1つ1つの弾性表面波素子の形状に切り出した。1つ1つの弾性表面波素子は、縦の長さが1mm、横の長さが2mmとなるように切り出した。こうして得られた弾性表面波素子の平面図を図3に示す。なお、図3は、得られた弾性表面波素子をLT基板の表面側からみた平面図である。この弾性表面波素子は、図示するように、LT基板の表面30に櫛形電極36,37及び反射器38を有している。
【0055】
実施例1,2,6及び比較例2の弾性表面波素子の周波数温度特性(TCF)とスプリアスの発生具合とを測定した。測定した周波数温度特性は、実施例1の弾性表面波素子が−27.0ppm/Kであり、実施例2の弾性表面波素子が−27.0ppm/Kであり、実施例6の弾性表面波素子が−26.3ppm/Kであり、比較例2の弾性表面波素子は−26.0ppm/Kであった。また、実施例1の複合基板から切り出した他の弾性表面波素子についても周波数温度特性を測定したところ、−26.5ppm/Kであった。なお、シリコン基板を用いずLT基板に櫛形電極を設けた弾性表面波素子の周波数温度特性は−40.0ppm/Kである。また、スプリアスの発生については、実施例1,2,6の弾性表面波素子は共振周波数より高周波部分で測定されたリップルが1dBであり、比較例2の弾性表面波素子は共振周波数より高周波部分で測定されたリップルが4dBであった。
【0056】
以上のことから、実施例1の複合基板は、比較例2と比べてLT基板の裏面が荒れていることにより、リップルの発生が少ない、すなわちスプリアスの発生が抑制されており、なおかつ比較例2と同等の周波数温度特性を持つことが確認できた。実施例2,6についての結果から、充填層と接着層とを異なる材料としても、実施例1と同様にスプリアスの発生が抑制されなおかつ比較例2と同等の周波数温度特性を持つことが確認できた。実施例6についての結果から、LT基板のカット角を実施例1と異なるものとしても、実施例1と同様にスプリアスの発生が抑制されなおかつ比較例2と同等の周波数温度特性を持つことが確認できた。また、LT基板の裏面が実施例1〜6と同様に荒れている比較例1と比較して、実施例1〜6のいずれの複合基板も充填層及び接着層に気泡がなく、LT基板と支持基板との接着強度が高いことが確認できた。
【符号の説明】
【0057】
10 複合基板、11,21 圧電基板、11a 裏面、11b 最高部、12 支持基板、13,23 充填層、13a 表面、14,24 接着層、30 表面、36,37 櫛形電極、38 反射器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)片方の面に微小な凹凸が形成された圧電基板と、該圧電基板に比べて熱膨張係数が小さい支持基板とを用意する工程と、
(b)前記微小な凹凸を埋めるように前記片方の面に充填剤を塗布して充填層を形成する工程と、
(c)算術平均粗さRaが前記工程(a)における前記片方の面の算術平均粗さRaよりも小さくなるように前記充填層の表面を鏡面研磨する工程と、
(d)前記充填層の表面と支持基板の表面とを接着層を介して貼り合わせて複合基板を形成する工程と、
を含む複合基板の製造方法。
【請求項2】
前記工程(c)では、前記圧電基板に対する研磨レートが前記充填層に対する研磨レートよりも低いスラリーを用いて前記充填層の表面を鏡面研磨する、
請求項1に記載の複合基板の製造方法。
【請求項3】
前記工程(c)では、圧電基板の前記片方の面の一部が露出するまで前記鏡面研磨を行う、
請求項1又は2に記載の複合基板の製造方法。
【請求項4】
前記工程(d)では、前記工程(b)で形成された充填層と同一の材料により形成された接着層を介して前記貼り合わせを行う、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合基板の製造方法。
【請求項5】
片方の面に微小な凹凸が形成された圧電基板と、
前記圧電基板に比べて熱膨張係数が小さい支持基板と、
前記微小な凹凸を埋めるように形成され、前記圧電基板とは反対側の接合面の算術平均粗さRaが前記圧電基板の片方の面の算術平均粗さRaよりも小さい充填層と、
前記接合面と前記支持基板とを接着する接着層と、
を備え、
前記接着層と前記充填層との境界、前記接着層の中、及び前記接着層と前記支持基板との境界には気泡が存在しない、
複合基板。
【請求項6】
前記接合面には、前記圧電基板の前記片方の面の一部が露出している、
請求項5に記載の複合基板。
【請求項7】
前記接着層は、前記充填層と同一の材料により形成されている、
請求項5又は6に記載の複合基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−85286(P2012−85286A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220316(P2011−220316)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】