説明

複合材料及びその製造方法、複合金属材料及びその製造方法

【課題】 表面の濡れ性が改善された炭素系材料を含む複合材料及びその製造方法を提供することにある。また、炭素材料が均一に分散された複合金属材料およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 炭素系材料と、金属材料Zと、からなる複合材料の製造方法は、工程(a)〜(c)を有する。工程(a)は、エラストマーと、少なくとも第1の炭素材料と、該第1の炭素材料よりも融点が低い粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る。工程(b)は、複合エラストマーを熱処理し、エラストマーを気化させて第2の炭素材料と金属材料Zからなる中間複合材料を得る。工程(c)は、中間複合材料を、金属材料Zよりも融点の低い元素Yを有する物質と共に熱処理し、元素Yを有する物質を気化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びその製造方法、複合金属材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノファイバーなどの炭素材料を用いた複合材料が注目されている(例えば、特許文献1参照)。このような複合材料は、カーボンナノファイバーなどの炭素材料を含むことで、導電性、伝熱性、機械的強度などの向上が期待されている。
【0003】
しかしながら、一般に炭素材料は、複合材料のマトリクス材料との濡れ性(親和性)が低く、マトリクス材料中への分散性も低かった。また、特にカーボンナノファイバーは相互に強い凝集性を有するため、複合材料の基材にカーボンナノファイバーを均一に分散させることが非常に困難とされている。そのため、現状では、所望の特性を有するカーボンナノファイバーの複合材料を得ることが難しく、また、高価なカーボンナノファイバーを効率よく利用することができない。
【特許文献1】特開平5−78110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の目的は、表面の濡れ性が改善された炭素系材料を含む複合材料及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、炭素材料が均一に分散された複合金属材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる炭素系材料と前記金属材料Zからなる複合材料の製造方法は、
エラストマーと、少なくとも第1の炭素材料と、該第1の炭素材料よりも融点が低い粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて第2の炭素材料と前記金属材料Zからなる中間複合材料を得る工程(b)と、
前記中間複合材料を、前記金属材料Zよりも融点が低い元素Yを有する物質と共に熱処理し、元素Yを有する物質を気化させる工程(c)と、
を含む。
【0006】
本発明の製造方法の工程(a)によれば、剪断力によって剪断されたエラストマーに形成されたフリーラジカルが、第1の炭素材料の表面を攻撃することで、第1の炭素材料の表面は活性化され、したがって、エラストマーにおける第1の炭素材料の分散性が向上する。また、第1の炭素材料としてカーボンナノファイバーを用いた場合には、エラストマーの不飽和結合または基が、カーボンナノファイバーの活性な部分、特に末端のラジカルと結合することにより、カーボンナノファイバーの凝集力を弱め、その分散性を高めることができる。
【0007】
そして、本発明の製造方法の工程(b)によれば、熱処理によってエラストマーが気化することで、表面が活性化された第2の炭素材料が得られる。さらに、本発明の製造方法の工程(c)によれば、熱処理によって元素Yを有する物質が気化して第2の炭素材料の表面に付着することで、マトリクス材料との濡れ性が向上した炭素系材料が得られる。しかも、粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと共に熱処理されるため、金属材料Zと炭素系材料とからなる複合材料が得られる。したがって、本発明の製造方法によって得られた複合材料は、一般的な金属加工、例えば鋳造などの加工に容易に利用することができる。その際、金属材料Zと炭素系材料との配合量を調整することで、望ましい機械的特性を有する複合金属材料を得ることができる。また、工程(b),(C)において、金属材料Zが存在することで、炭素材料の最凝集を防止することができる。
【0008】
本発明におけるエラストマーは、ゴム系エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーのいずれであってもよい。また、ゴム系エラストマーの場合、エラストマーは架橋体あるいは未架橋体のいずれであってもよい。原料エラストマーとしては、ゴム系エラストマーの場合、未架橋体が用いられる。
【0009】
前記エラストマーに炭素材料を剪断力によって分散させる工程(a)は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法、などを用いて行うことができる。
【0010】
本発明における複合材料は、炭素系材料と、粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、からなり、
前記炭素系材料は、炭素材料の表面に、第1の結合構造と、第2の結合構造と、を有し、
前記第1の結合構造は、前記炭素材料を構成する炭素に、元素Xが結合した構造であり、
前記第2の結合構造は、元素Xに、元素Yが結合した構造であって、
前記元素Xは、ホウ素、窒素、酸素、リンから選ばれた少なくとも一つを含み、
前記元素Yは、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つを含み、
前記金属材料Zは、アルミニウムまたはマグネシウムとすることができる。
【0011】
本発明における複合材料の前記第1の結合構造は、前記炭素材料を構成する炭素に、酸素が結合した構造であり、前記第2の結合構造は、酸素に、マグネシウムが結合した構造とすることができる。
【0012】
本発明にかかる複合金属材料の製造方法は、本発明によって得られた前記複合材料を焼結する工程(d−1)、前記複合材料を鋳造する工程(d−2)、または前記複合材料に溶融したマトリクス金属材料を浸透させる工程(d−3)を有することができる。
【0013】
本発明によって得られた複合材料の炭素系材料の表面は、元素Yが付着しているため、複合金属材料のマトリクスとなる金属材料Zとの濡れ性が良好である。また、炭素系材料の濡れ性の改善によって、炭素系材料をマトリクスとなる金属材料Z中に良好に分散させた複合金属材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態にかかる複合材料は、炭素系材料と、金属材料Zと、からなり、その複合材料の製造方法は、エラストマーと、少なくとも第1の炭素材料と、該第1の炭素材料よりも融点が低い粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて第2の炭素材料と前記金属材料Zからなる中間複合材料を得る工程(b)と、前記中間複合材料を、前記金属材料Zよりも融点が低い元素Yを有する物質と共に熱処理し、元素Yを有する物質を気化させる工程(c)と、を含む。
【0016】
本発明にかかる複合金属材料の製造方法は、前記複合材料を粉末成形する工程(d−1)、前記複合材料を鋳造する工程(d−2)、または前記複合材料に溶融したマトリクス金属材料を浸透させる工程(d−3)を有することができる。
【0017】
(A)まず、エラストマーについて説明する。
【0018】
エラストマーは、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。エラストマーの分子量がこの範囲であると、エラストマー分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エラストマーは、凝集した第1の炭素材料、例えばカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。エラストマーの分子量が5000より小さいと、エラストマー分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけても第1の炭素材料を分散させる効果が小さくなる。また、エラストマーの分子量が500万より大きいと、エラストマーが固くなりすぎて加工が困難となる。
【0019】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100ないし3000μ秒、より好ましくは200ないし1000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができる。このことにより、エラストマーと第1の炭素材料とを混合したときに、エラストマーは高い分子運動により第1の炭素材料相互の隙間に容易に侵入することができる。スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が100μ秒より短いと、エラストマーが充分な分子運動性を有することができない。また、スピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が3000μ秒より長いと、エラストマーが液体のように流れやすくなり、第1の炭素材料を分散させることが困難となる。
【0020】
また、エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒であることが好ましい。その理由は、上述した未架橋体と同様である。すなわち、上記の条件を有する未架橋体を本発明の製造方法によって架橋化すると、得られる架橋体のT2nはおおよそ上記範囲に含まれる。
【0021】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0022】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0023】
エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、第1の炭素材料、特にカーボンナノファイバーの末端のラジカルに対して親和性を有する不飽和結合または基を有するか、もしくは、このようなラジカルまたは基を生成しやすい性質を有する。かかる不飽和結合または基としては、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択される少なくともひとつであることができる。
【0024】
カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっている。本実施の形態では、エラストマーの主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、カーボンナノファイバーのラジカルと親和性(反応性または極性)が高い不飽和結合や基を有することにより、エラストマーとカーボンナノファイバーとを結合することができる。このことにより、カーボンナノファイバーの凝集力にうち勝ってその分散を容易にすることができる。そして、エラストマーと、第1の炭素材料例えばカーボンナノファイバーと、を混練する際に、エラストマーの分子鎖が切断されて生成したフリーラジカルは、カーボンナノファイバーの欠陥を攻撃し、カーボンナノファイバーの表面にラジカルを生成すると推測できる。
【0025】
エラストマーとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPR,EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロブチルゴム(CIIR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、ブタジエンゴム(BR)、エポキシ化ブタジエンゴム(EBR)、エピクロルヒドリンゴム(CO,CEO)、ウレタンゴム(U)、ポリスルフィドゴム(T)などのエラストマー類;オレフィン系(TPO)、ポリ塩化ビニル系(TPVC)、ポリエステル系(TPEE)、ポリウレタン系(TPU)、ポリアミド系(TPEA)、スチレン系(SBS)、などの熱可塑性エラストマー;およびこれらの混合物を用いることができる。特に、エラストマーの混練の際にフリーラジカルを生成しやすい極性の高いエラストマー、例えば、天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)などが好ましい。また、極性の低いエラストマー、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)であっても、混練の温度を比較的高温(例えばEPDMの場合、50℃〜150℃)とすることで、フリーラジカルを生成するので本発明に用いることができる。
【0026】
本実施の形態の複合エラストマーは、架橋体エラストマー、未架橋体エラストマーあるいは熱可塑性ポリマーをそのままエラストマー系材料として用いることができる。
【0027】
(B)次に、第1の炭素材料について説明する。
【0028】
第1の炭素材料は、炭素同素体の炭素材料を用いることができ、例えば炭素繊維、カーボンブラック、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンド及びフラーレンなどから選択することができる。ここでいう炭素繊維には、カーボンナノファイバーが含まれる。カーボンブラックの場合、安価で多くのグレードが市場に流通しているため、比較的容易に利用可能である。また、微小物質の炭素材料、例えばカーボンナノファイバーやフラーレンのようなナノマテリアルであれば、少ない配合量であっても高い補強効果などを得ることができる。
【0029】
第1の炭素材料の配合量は、複合材料または複合金属材料の種類や用途に応じて設定できる。
【0030】
本発明におけるカーボンブラックは、種々の原材料を用いた種々のグレードのカーボンブラックを用いることができる。その基本構成粒子(いわゆる一次粒子)単体もしくはそれらが融着して連結したアグリゲート(いわゆる二次凝集体)と呼ばれる状態でもよいが、アグリゲートが発達した比較的高いストラクチャーを有するものが補強用充填剤として用いる場合には好ましい。
【0031】
本発明に用いられるカーボンブラックは、基本構成粒子の平均粒径が100nm以下、さらに好ましくは50nm以下とすることがさらに好ましい。カーボンブラックの粒子が小さいほど体積効果や補強効果が大きくなるが、実用上、平均粒径が10nm〜30nmが好ましい。
【0032】
また、カーボンブラックの粒子の大きさは、窒素吸着比表面積によっても表されるが、その場合は、JIS:K6217−2(2001)「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」の窒素吸着比表面積(m/g)で測定して、10m/g以上、好ましくは40m/g以上である。
【0033】
また、本発明に用いられるカーボンブラックは、その基本構成粒子が融着したアグリゲートが発達したストラクチャーの高低によって補強効果が影響を受けるため、DBP吸収量が50cm/100g以上、好ましくは100cm/100g以上とすると補強効果が大きい。これは、DBP吸収量が多いと、アグリゲートがより発達したストラクチャーを構成するためである。
【0034】
本発明に用いられるカーボンブラックは、例えばSAF-HS(N134,N121)、SAF(N110,N115)、ISAF-HS(N234)、ISAF(N220,N220M)、ISAF-LS(N219、N231)、ISAF-HS(N285、N229)、HAF-HS(N339,N347)、HAF(N330)、HAF−LS(N326)、T−HS(N351,N299)、T−NS(N330T)、MAF(N550M)、FEF(N550)、GPF(N660,N630,N650,N683)、SRF−HS−HM(N762,N774)、SRF−LM(N760M,N754,N772,N762)、FT、HCC、HCF、MCC、MCF、LEF、MFF、RCF、RCCなどのグレードの他、トーカブラック、HS−500、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを用いることができる。
【0035】
第1の炭素材料が炭素繊維、特にカーボンナノファイバーの場合、本実施の形態の複合エラストマーは、カーボンナノファイバーを0.01〜50重量%の割合で含むことが好ましい。
【0036】
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmであることが好ましいく、複合エラストマーの強度を向上させるためには0.5ないし30nmであることがさらに好ましい。さらに、カーボンナノファイバーは、ストレート繊維状であっても、湾曲繊維状であってもよい。
【0037】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラフェンシートが円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する。すなわち、カーボンナノチューブは、単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0038】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。
【0039】
アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。
【0040】
レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。
【0041】
気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。
【0042】
第1の炭素材料は、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0043】
(C)次に、元素Yについて説明する。
【0044】
元素Yは、第2の炭素材料の表面に結合して炭素系材料とマトリクス金属材料との濡れ性を改善させるものである。通常、炭素材料は、金属材料例えばアルミニウムやマグネシウムとの濡れ性がよくないが、元素Yを表面に有する炭素系材料を用いることで濡れ性が改善される。また、工程(a)において、粒子状の元素Yを有する物質をエラストマー中に混合し、あらかじめ分散させておいて、第1の炭素材料をエラストマーに混合させるときに第1の炭素材料をさらに良好に分散させるものとして用いることができる。その場合、工程(a)において、元素Yを有する物質は、第1の炭素材料より前にエラストマーに混合させてもよいし、第1の炭素材料と同時でもよい。
【0045】
元素Yを有する物質は、使用する第1の炭素材料の平均直径よりも大きい平均粒径であることが好ましい。また、元素Yを有する物質の平均粒径は500μm以下、好ましくは1〜300μmである。また、元素Yを有する物質の形状は、球形粒状に限らず、混合時に元素Yを有する物質のまわりに乱流状の流動が発生する形状であれば平板状、りん片状であってもよい。
【0046】
元素Yを有する物質としては、第1の炭素材料より融点が低く、かつ金属材料Zよりも融点が低いことが好ましい。元素Yを有する物質の融点が上記の条件を満たせば、工程(c)における熱処理によって第1の炭素材料及び金属材料Zに損傷を与えることなく元素Yを有する物質を気化させることができる。このような元素Yとしては、マトリクス金属となる金属材料Zがアルミニウムもしくはマグネシウムからなる場合、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つを含む、ことが好ましい。したがって、元素Yを有する物質としては、これらの元素から選ばれた少なくとも一つの元素Yを含むことができる。これらの元素は、いわゆるアルミニウム合金もしくはマグネシウム合金を構成する元素として用いられるものであり、アルミニウムやマグネシウムに対して結合し易く、アルミニウムやマグネシウムと結合した状態で安定して存在することができるため好ましい。特に、元素Yとしては、マトリクス金属材料となるマグネシウムやアルミニウムとの結合性が特に良好な、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどを用いることができる。
【0047】
特に、第1の炭素材料の表面に元素Xとして酸素が結合した場合には、酸素と結びつきやすいマグネシウムを元素Yとすることが好ましい。したがって、このようにして得られた炭素系材料は、炭素材料の表面に、第1の結合構造と、第2の結合構造と、を有し、第1の結合構造は、炭素材料を構成する炭素に、元素Xが結合した構造であり、第2の結合構造は、元素Xに、元素Yが結合した構造である。特に、第1の結合構造が炭素材料を構成する炭素に酸素が結合した構造である場合には、前記第2の結合構造は酸素にマグネシウムが結合した構造であることが好ましい。
【0048】
なお、ここでは、元素Yを有する物質を工程(a)でエラストマーと混練する場合について述べたが、これに限らず、元素Yを有する物質が工程(c)において、第2の炭素材料と共に熱処理される状態にあればよい。例えば、工程(c)において、第2の炭素材料と共に、元素Yを有する物質を熱処理炉内に配置させ、熱処理によって気化させてもよい。このような場合には、元素Yを有する物質は粒子状でなくてもよい。
【0049】
また、ここでマトリクス材料となるアルミニウムやマグネシウムは、主成分がアルミニウムやマグネシウムの合金を含むものである。
【0050】
(D)次に、金属材料Zについて説明する。
【0051】
金属材料Zは、炭素系材料と共に複合材料を構成するものであり、炭素系材料の凝集を防止するものである。また、複合金属材料を製造するマトリクスとなる金属材料として用いることができる。
【0052】
金属材料Zは、粒子状もしくは繊維状であって、粒子状の場合には、工程(a)において、金属材料Zをエラストマーと混合させておくことで、第1の炭素材料をエラストマーに混合させるときに第1の炭素材料をさらに良好に分散させるものとして用いることができる。その場合、工程(a)において、金属材料Zは、第1の炭素材料より前にエラストマーに混合させてもよいし、第1の炭素材料と同時でもよい。
【0053】
工程(a)でエラストマーと混合される粒子状の金属材料Zは、使用する第1の炭素材料の平均直径よりも大きい平均粒径であることが好ましい。また、金属材料Zの平均粒径は500μm以下、好ましくは1〜300μmである。また、金属材料Zの形状は、球形粒状に限らず、混合時に金属材料Zのまわりに乱流状の流動が発生する形状であれば平板状、りん片状であってもよい。
【0054】
金属材料Zとしては、第1の炭素材料より融点の低い金属であり、かつ元素Yを有する物質よりも融点の高い金属であることが好ましい。金属材料Zは、より好ましくは融点が800℃以下であり、原子量が100以下のいわゆる軽金属が好ましい。このような金属材料Zとしては、マグネシウム、アルミニウムなどがある。なお、ここで金属材料Zとなるアルミニウムやマグネシウムは、主成分がアルミニウムやマグネシウムの合金を含むものである。
【0055】
(E)次に、エラストマーに炭素材料を混合させ、かつ剪断力によって分散させる工程(a)について説明する。
【0056】
前記エラストマーに炭素材料を剪断力によって分散させる工程(a)は、オープンロール法、密閉式混練法、多軸押出し混練法、などを用いて行うことができる。
【0057】
本実施の形態では、エラストマーに元素Yを有する物質、金属材料Z及び第1の炭素材料を混合させる工程として、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いた例について述べる。
【0058】
図1は、2本のロールを用いたオープンロール法を模式的に示す図である。図1において、符号10は第1のロールを示し、符号20は第2のロールを示す。第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.1ないし0.5mmの間隔で配置されている。第1および第2のロールは、正転あるいは逆転で回転する。図示の例では、第1のロール10および第2のロール20は、矢印で示す方向に回転している。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。まず、第1,第2のロール10,20が回転した状態で、第2のロール20に、エラストマー30を巻き付けると、ロール10,20間にエラストマーがたまった、いわゆるバンク32が形成される。このバンク32内に元素Yを有する物質41及び金属材料Z42を加えて、さらに第1,第2のロール10,20を回転させることにより、エラストマー30と、元素Yを有する物質と、金属材料Z42と、を混合する工程が行われる。ついで、このエラストマー30と元素Yを有する物質41及び金属材料Z42とが混合されたバンク32内に第1の炭素材料40を加えて、第1、第2のロール10,20を回転させる。さらに、第1,第2ロール10,20の間隔を狭めて前述した間隔dとし、この状態で第1,第2ロール10,20を所定の表面速度比で回転させる。これにより、エラストマー30に高い剪断力が作用し、この剪断力によって凝集していた第1の炭素材料が1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30に分散される。さらに、元素Yを有する物質41及び金属材料Z42が粒子状であると、ロールによる剪断力はエラストマー内に分散された元素Yを有する物質41及び金属材料Z42のまわりに乱流状の流動を発生させる。この複雑な流動によって炭素材料はさらにエラストマー30に分散される。なお、元素Yを有する物質41及び金属材料Z42の混合前に、エラストマー30と第1の炭素材料40とを先に混合すると、第1の炭素材料40にエラストマー30の動きが拘束されてしまうため、元素Yを有する物質を混合することが難しくなる。したがって、エラストマー30に第1の炭素材料40を加える前に元素Yを有する物質41及び金属材料Z42を混合する工程を行うことが好ましい。
【0059】
また、この工程(a)では、剪断力によって剪断されたエラストマーにフリーラジカルが生成され、そのフリーラジカルが第1の炭素材料の表面を攻撃することで、第1の炭素材料の表面は活性化される。例えば、エラストマーに天然ゴム(NR)を用いた場合には、各天然ゴム(NR)分子はロールによって混練される間に切断され、オープンロールへ投入する前よりも小さな分子量になる。このように切断された天然ゴム(NR)分子にはラジカルが生成しており、混練の間にラジカルが第1の炭素材料の表面を攻撃するので、第1の炭素材料の表面が活性化する。
【0060】
さらに、この工程(a)では、できるだけ高い剪断力を得るために、エラストマーと第1の炭素材料との混合は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度で行われる。オープンロール法を用いた場合には、ロールの温度を上記の温度に設定することが望ましい。第1,第2ロール10,20の間隔dは、もっとも狭めた状態においても元素Yを有する物質41及び金属材料Z42の平均粒径よりも広く設定することで、エラストマー30中の第1の炭素材料40の分散を良好に行うことができる。
【0061】
このとき、本実施の形態のエラストマーは、上述した特徴、すなわち、エラストマーの分子形態(分子長)、分子運動、第1の炭素材料との化学的相互作用などの特徴を有することによって第1の炭素材料の分散を容易にするので、分散性および分散安定性(第1の炭素材料が再凝集しにくいこと)に優れた複合エラストマーを得ることができる。より具体的には、エラストマーと第1の炭素材料とを混合すると、分子長が適度に長く、分子運動性の高いエラストマーが炭素材料の相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によって第1の炭素材料の活性の高い部分と結合する。この状態で、エラストマーと第1の炭素材料との混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの移動に伴って第1の炭素材料も移動し、凝集していた第1の炭素材料が分離されて、エラストマー中に分散されることになる。そして、一旦分散した第1の炭素材料は、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0062】
また、エラストマー中に所定量の元素Yを有する物質及び金属材料Zが含まれていることで、元素Yを有する物質及び金属材料Zのまわりに発生するエラストマーの乱流のような幾通りもの複雑な流動によって、個々の第1の炭素材料同士を引き離す方向にも剪断力が働くことになる。したがって、直径が約30nm以下のカーボンナノファイバーや湾曲繊維状のカーボンナノファイバーであっても、個々に化学的相互作用によって結合したエラストマー分子のそれぞれの流動方向へ移動するため、エラストマー中に均一に分散されることになる。
【0063】
エラストマーに第1の炭素材料を剪断力によって分散させる工程は、上記オープンロール法に限定されず、既に述べた密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集した第1の炭素材料を分離できる剪断力をエラストマーに与え、エラストマー分子にラジカルを生成させることができればよい。
【0064】
上述したエラストマーに元素Yを有する物質及び金属材料Zと第1の炭素材料とを分散させて両者を混合させる工程(混合・分散工程)によって得られた複合エラストマーは、架橋剤によって架橋させて成形するか、もしくは架橋させずに成形することができる。このときの成形方法は、例えば圧縮成形工程や押出成形工程などを採用することができる。圧縮成形工程は、例えば元素Yを有する物質及び金属材料Zと第1の炭素材料とが分散した複合エラストマーを、所定温度(例えば175℃)に設定された所望形状を有する成形金型内で所定時間(例えば20分)加圧状態で成形する工程を有する。
【0065】
エラストマーと第1の炭素材料との混合・分散工程において、あるいは続いて、通常、ゴムなどのエラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。
【0066】
(F)次に、上記方法によって得られた複合エラストマーについて述べる。
【0067】
本実施の形態の複合エラストマーは、基材であるエラストマーに第1の炭素材料が均一に分散されている。このことは、エラストマーが第1の炭素材料によって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、第1の炭素材料によって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、第1の炭素材料の拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかる複合エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、第1の炭素材料を含まないエラストマー単体の場合より短くなる。特に、元素Yを有する物質及び金属材料Zを含むエラストマーに第1の炭素材料を混合した場合には、第1の炭素材料を含むエラストマーの場合より、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)が短くなる。なお、架橋体におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、第1の炭素材料の混合量に比例して変化する。
【0068】
また、エラストマー分子が第1の炭素材料によって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、第1の炭素材料によってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、第1の炭素材料の活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は、第1の炭素材料を含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。特に、元素Yを有する物質を含むエラストマーに第1の炭素材料を混合した場合には、第1の炭素材料を含むエラストマーの場合より、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は小さくなる。
【0069】
以上のことから、本実施の形態にかかる複合エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が以下の範囲にあることが望ましい。
【0070】
すなわち、未架橋体において、150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)は存在しないか、あるいは1000ないし10000μ秒であり、さらに第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0071】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0072】
本実施の形態にかかる複合エラストマーは、動的粘弾性の温度依存性測定における流動温度が、原料エラストマー単体の流動温度より20℃以上高温であることが好ましい。本実施の形態の複合エラストマーは、エラストマーに元素Yを有する物質及び金属材料Zと第1の炭素材料とが良好に分散されている。このことは、上述したように、エラストマーが第1の炭素材料によって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、エラストマーは、第1の炭素材料を含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、流動性が低下する。このような流動温度特性を有することにより、本実施の形態の複合エラストマーは、動的粘弾性の温度依存性が小さくなり、その結果、優れた耐熱性を有する。
【0073】
(G)次に、複合エラストマーを熱処理し、第2の炭素材料と金属材料Zとからなる中間複合材料を製造する工程(b)について説明する。
【0074】
複合エラストマーを熱処理することで、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させる工程(b)によって、金属材料Zの周りに第2の炭素材料が分散した、中間複合材料を製造することができる。
【0075】
このような熱処理は、使用されるエラストマーの種類によって種々の条件を選択することができるが、少なくとも熱処理温度は、エラストマーの気化する温度以上であって、かつ第1の炭素材料及び金属材料Zが気化する温度よりも低い温度に設定される。また、工程(a)で元素Yを有する物質をあらかじめ混合した場合には、熱処理温度は元素Yを有する物質が気化する温度よりも低い温度に設定される。
【0076】
工程(b)は、元素Xを有する物質の存在下で行なうことができ、第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合した第2の炭素材料を得ることができる。例えば、複合エラストマーは、元素Xを有する物質を含み、工程(b)の熱処理によって、第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xを結合させてもよい。また、例えば、工程(b)は、元素Xを有する物質を含む雰囲気中で行なわれ、第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xを結合させてもよい。
【0077】
元素Xは、炭素と共有結合によって結びつきやすい元素であり、また軽い元素であって、2価以上が好ましく、例えばホウ素、窒素、酸素、リンから選ばれた少なくとも一つを含むことができる。特に、元素Xは、酸素であることが好ましい。酸素は、空気中に存在するため、工程(b)の熱処理において容易に用いることができ、活性化した第1の炭素材料、例えばカーボンナノファイバーのラジカルと反応し易いため、元素Xとして用いることが好ましい。また、酸素は他の金属材料や半金属材料例えばマグネシウムなどと結合し易く、酸素の結合した第2の炭素材料は元素Yと容易に結合することができる。
【0078】
元素Xとして酸素を用いる場合には、工程(b)の熱処理の際の雰囲気中に酸素を含ませておけばよく、元素Xとして窒素を用いる場合には、元素Xを有する物質としてアンモニウムガス雰囲気で工程(b)を行なえばよい。また、ホウ素、リンなどを元素Xとする場合には、エラストマーに工程(b)に先立ってこれらの元素またはその化合物混合させておけばよい。その場合、例えば、工程(a)の混練時に元素Xを有する物質を一緒に混合することができる。
【0079】
本実施の形態にかかる工程(b)は、熱処理炉に工程(a)で得られた複合エラストマーを配置し、炉内をエラストマーの気化する温度、例えば500℃に加熱する。この加熱によって、エラストマーは気化し、工程(a)で活性化された第1の炭素材料の表面は炉内の雰囲気もしくはエラストマー中に含まれる元素Xと結びついて、表面処理された第2の炭素材料が製造される。第2の炭素材料の表面は、工程(a)によってせん断されたエラストマー分子のフリーラジカルによって活性化されており、例えば炉内雰囲気中に存在する酸素と容易に結びつくことができる。このようにして得られた第2の炭素材料の表面は酸化され、活性化されているため、第2の炭素材料は元素Yと結合し易い。また、元素Xを用いなくても、第2の炭素材料の表面は、エラストマーのラジカルとの反応によって活性化しており、元素Yと結合し易い。
【0080】
(H)次に、中間複合材料を、元素Yを有する物質と共に熱処理し、該元素Yを有する物質を気化させる工程(c)について説明する。
【0081】
工程(b)によって得られた中間複合材料を、第1の炭素材料よりも融点が低い粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、金属材料Zよりも融点の低い元素Yを有する物質と共に熱処理し、該元素Yを有する物質を気化させる工程(c)によって、本発明にかかる炭素系材料と、金属材料Zと、からなる複合材料を製造することができる。
【0082】
工程(c)の熱処理温度は、工程(b)の熱処理温度よりも高く、元素Yを有する物質を気化することのできる温度以上であって、かつ金属材料Z及び第1の炭素材料が気化する温度よりも低い温度に設定される。また、工程(c)の熱処理は、工程(b)の熱処理温度を元素Yを有する物質の気化する温度以上に設定することで同時に行なってもよく、または室温から工程(c)の熱処理温度まで昇温する過程で工程(b)を連続して行なってもよい。
【0083】
前記工程(b)によって得られた第2の炭素材料と元素Yを有する物質は、熱処理炉内の温度を元素Yを有する物質の気化する温度以上に加熱されると、元素Yを有する物質が気化し、第2の炭素材料の表面に元素Yが結合し、あるいは第2の炭素材料の表面に結合した元素Xと元素Yとが結合し、本発明にかかる炭素系材料が得られる。
【0084】
なお、元素Yを有する物質は、上記のように工程(a)においてエラストマーと共に混練して複合エラストマー中にあらかじめ混合してもよいし、複合エラストマーに混合しなくてもよい。複合エラストマー中にあらかじめ元素Yを有する物質を混合しない場合、工程(c)における熱処理炉内に第2の炭素材料とは別に元素Yを有する物質を配置もしくは気化させて供給すればよい。熱処理によって気化した元素Yを有する物質は、第2の炭素材料の表面に結合した元素Xと結合する。いずれにしろ、工程(c)においては、気化した元素Yを有する物質の存在下に第2の炭素材料を配置することで、所望の炭素系材料を得ることができる。
【0085】
また、金属材料Zは、上記のように工程(a)においてエラストマーと混練した場合には、複合エラストマー中に第1の炭素材料と共に金属材料Zが分散しており、工程(b)及び(c)によって熱処理して得られた複合材料も金属材料Zと炭素系材料が均一に分散したものとなるので好ましい。また、このようにして得られた複合材料は、金属材料Zの存在によって、炭素系材料の再凝集を防止することができる。
【0086】
また、このようにして気化した元素Yを有する物質は、第2の炭素材料の表面に存在する元素Xと容易に結合し、元素Xと元素Yとの化合物が生成される。ここで、元素Xは、元素Yと第1の炭素材料との直接的な結合を防止することができる。例えば元素Yがアルミニウムであるような場合には、第1の炭素材料とアルミニウムが直接結合すると、Alのような水と反応し易い物質が生成されることなり、好ましくない。したがって、元素Yを有する物質を気化させる工程(c)よりも前に、元素Xを第1の炭素材料の表面に結合させる工程(b)を行なうことが望ましい。
【0087】
こうして得られた炭素系材料は、第1の炭素材料例えばカーボンナノファイバーの表面が、カーボンナノファイバーを構成する炭素原子と元素Xとが結合し、さらに元素Xと元素Yとが結合した構造を有している。したがって、炭素系材料は、第1の炭素材料例えばカーボンナノファイバーの表面は、炭素と元素Xとの化合物層(例えば酸化物層)に覆われ、さらに元素Xと元素Y(例えばマグネシウム)との反応物層に覆われた構造を有している。このような炭素系材料の表面構造については、X線分光分析(XPS)やEDS分析(Energy Dispersive Spectrum)によっても解析することができる。
【0088】
(I)最後に、複合材料を用いて複合金属材料を得る工程(d)について説明する。
【0089】
本実施の形態における工程(d)は、前記複合材料を粉末成形する工程(d−1)、前記複合材料を鋳造する工程(d−2)、または前記複合材料に溶融したマトリクス金属材料を浸透させる工程(d−3)を採用することができる。
【0090】
(d−1:粉末成形方法)
本実施の形態における複合材料の粉末成形工程は、上記工程(c)で得られた複合材料を粉末成形する工程によって実施することができる。具体的には、例えば上記実施の形態で得られた複合材料をそのままもしくは金属材料Zと同じ金属のマトリクス金属材料とさらに混合した後、型内で圧縮し、金属材料Zの焼結温度(金属材料Zがアルミニウムの場合550℃)で焼成して複合金属材料を得ることができる。
【0091】
本実施の形態における粉末成形は、金属の成形加工における粉末成形と同様であり、いわゆる粉末冶金を含み、また粉末原料を用いた場合のみならず、複合材料をあらかじめ予備圧縮成形してブロック状とした原料をも含む。なお、粉末成形法としては、一般的な焼結法の他、プラズマ焼結装置を用いた放電プラズマ焼結法(SPS)などを採用することができる。
【0092】
また、複合材料とマトリクス金属材料の粒子との混合は、ドライブレンド、湿式混合などを採用できる。湿式混合の場合、溶剤中の複合材料の粉末に対して、マトリクス金属材料を混ぜる(湿式混合)ことが望ましい。複合材料は、ドライブレンドや湿式混合する際には、粉砕されて粉末、例えば粒子状や繊維状になった複合材料を用いることができるので、金属加工に利用しやすい。
【0093】
このような粉末成形によって製造された複合金属材料は、炭素系材料をマトリクス金属材料(金属材料Z)中に分散させた状態で得られる。特に、金属材料Zと炭素系材料とは、複合材料の状態ですでに良好に分散しており、複合材料をそのまま粉末成形することで全体に均質な複合金属材料を得ることができる。また、複合材料にマトリクス金属材料をさらに加える場合には、複合材料とマトリクス金属材料との配合割合を調整することで、望ましい物性を有する複合金属材料を製造することができる。
【0094】
(d−2:鋳造方法)
複合材料の鋳造工程は、上記実施の形態で得られた複合材料を、そのまま、もしくはマトリクス金属材料(金属材料Z)の溶湯に混入して、所望の形状を有する鋳型内で鋳造する工程によって実施することができる。このような鋳造工程は、例えば鋼製の鋳型内に金属溶湯を注湯して行う金型鋳造法、ダイカスト法、低圧鋳造法を採用することができる。またその他特殊鋳造法に分類される、高圧化で凝固させる高圧鋳造法、溶湯を攪拌するチクソカスティング、遠心力で溶湯を鋳型内へ鋳込む遠心鋳造法などを採用することができる。これらの鋳造法においては、マトリクス金属材料の溶湯の中に炭素系材料を混合させたまま鋳型内で凝固させ、複合金属材料を成形する。
【0095】
鋳造工程に用いるマトリクス金属材料の溶湯は、金属材料Zと同一の金属とすることで、金属材料Zとの濡れ性を向上させ、製品である複合金属材料における強度を向上させることができる。
【0096】
(d−3:浸透法)
本実施の形態では、複合材料に溶湯を浸透させるいわゆる非加圧浸透法を用いて鋳造する工程について、図2及び図3を用いて詳細に説明する。
【0097】
図2及び図3は、非加圧浸透法によって複合金属材料を製造する装置の概略構成図である。上記実施の形態で得られた複合材料は、例えば還元剤としてのマグネシウム粒子44とさらに混合され、最終製品の形状を有する成形金型内で予備圧縮成形された複合材料4を使用することができる。図2において、密閉された容器1内には、あらかじめ成形された複合材料4(例えば第1の炭素材料40としてカーボンナノファイバーを用いた複合材料)が入れられる。その複合材料4の上方に金属材料Zと同じマトリクス金属材料の塊例えばアルミニウム塊5を配置される。次に、容器1に内蔵された図示せぬ加熱手段によって、容器1内に配置された複合材料4及びアルミニウム塊5をアルミニウムの融点以上に加熱する。加熱されたアルミニウム塊5は、溶融してアルミニウム溶湯(金属溶湯)となる。また、アルミニウム溶湯は、複合材料4中の空所に浸透する。
【0098】
本実施の態様の複合材料4としては、予備圧縮成形する際に空所が毛細管現象によってアルミニウム溶湯をより早く全体に浸透させることができる程度の空所を有するように成形されている。また、複合材料4がある程度の形状を保っていれば、予備圧縮成形しなくてもよい。また、本実施の態様のように予備圧縮成形に先立って、粒子状の混合粉4に少量のマグネシウム粒子44を加えて混合させておくことで、容器1内を還元雰囲気としてもよい。アルミニウム溶湯は、還元されることで濡れ性の改善されたアルミニウム粒子42間に毛細管現象によって浸透し混合粉4の内部まで完全にアルミニウム溶湯が満たされる。そして、容器1の加熱手段による加熱を停止させ、複合材料4中に浸透した金属溶湯を冷却・凝固させ、図3に示すような炭素系材料が均一に分散された複合金属材料6を製造することができる。なお、複合材料4の金属材料Zは、マトリクスとなる金属溶湯と同じ材質であり、結合し易いため、得られた複合金属材料は全体に均質である。
【0099】
また、容器1を加熱する前に、容器1の室内を容器1に接続された減圧手段2例えば真空ポンプによって脱気してもよい。さらに、容器1に接続された不活性ガス注入手段3例えば窒素ガスボンベから窒素ガスを容器1内に導入してもよい。
【0100】
なお、本実施の形態においては、複合材料をあらかじめ所望の形状に予備圧縮成形したものを用いたが、これに限らず、所望形状の型内に粉砕され粒子状となった複合材料を収容し、その上に他の複合材料の塊を載せて浸透法を実施しても良い。
【0101】
また、上記実施の形態においては非加圧浸透法について説明したが、浸透法であればこれに限らず例えば不活性ガスなどの雰囲気の圧によって加圧する加圧浸透法を用いることもできる。
【0102】
上述したように、複合材料中の炭素系材料の表面は元素Yが結合しているため、マトリクス金属材料(金属材料Z)との濡れ性が向上しており、マトリクス金属材料(金属材料Z)の溶湯に対しても十分な濡れ性を有しているため、全体に機械的性質のばらつきが低減され、均質な複合金属材料が得られる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
(実施例1〜3、比較例1、2)
(1)サンプルの作製
(a)未架橋サンプル(複合エラストマー)の作製
第1の工程:ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、表1に示す所定量(100g)の高分子物質(100重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせた。
【0105】
第2の工程:高分子物質に対して表1に示す量(重量部)の元素Yを有する物質及び金属材料Zを高分子物質に投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。なお、投入した元素Yを有する物質及び金属材料Zの種類については後述する。
【0106】
第3の工程:次に、元素Yを有する物質及び金属材料Zを含む高分子物質に対して表1に示す量(重量部)の第1の炭素材料(表1では「CNT」と記載する)を高分子物質に投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
【0107】
第4の工程:第1の炭素材料を投入し終わったら、高分子物質と第1の炭素材料との混合物をロールから取り出した。
【0108】
第5の工程:ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
【0109】
第6の工程:ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
【0110】
このようにして、実施例1〜3の複合エラストマーの未架橋サンプルを得た。
【0111】
なお、実施例1〜3の高分子物質としては、平均分子量300万の天然ゴム(NR)を用いた。実施例1〜3の元素Yを有する物質としては、マグネシウム粒子(平均粒径:50μm)を用い、また金属材料Zとしては、純アルミニウム(99.17%アルミニウム)の粒子(平均粒径:50μm)を用いた。また、実施例1〜3の第1の炭素材料及び比較例2の炭素材料は、直径(繊維径)が約10〜20nmのカーボンナノファイバー(CNT)を用いた。
【0112】
(b)中間複合材料及び複合材料の作製
上記(a)の実施例1〜3で得られた未架橋サンプル(複合エラストマー)を元素Xを有する物質として酸素を少量含む窒素雰囲気の熱処理炉内でエラストマーの気化温度以上であって、元素Yを有する物質(マグネシウム)の気化温度以上(500℃)で2時間熱処理して、エラストマーを気化させると同時に酸化させて第2の炭素材料とアルミニウム粒子からなる中間複合材料を得て、さらに元素Yを有する物質(マグネシウム)を気化させ、複合材料を得た。なお、この酸化反応は、炉内の窒素雰囲気中に含まれる微量の酸素及び水蒸気や、エラストマー中に含まれる微量の酸素及び水分などから得られた酸素分子を用いて行なわれた。また、気化した元素Yを有する物質は、第2の炭素材料の表面の酸素と結びついた。
【0113】
(c)複合金属材料の作製
上記(b)の実施例1〜3で得られた複合材料をマグネシウム粒子と乾式混合させ、その混合物を30×40×20mmの大きさに圧縮成形し、その上にアルミニウム塊(地金)を置き、不活性ガス(窒素)雰囲気の容器(炉)内に配置させ、750℃まで加熱した。マグネシウム粒子は気化し、さらにアルミニウム塊は溶融し、アルミニウム溶湯となり、圧縮成形された複合材料の空隙に金属溶湯が浸透した。アルミニウムの溶湯を浸透させた後、これを自然放冷して凝固させ、複合金属材料を得た。
【0114】
なお、比較例1として、純アルミニウム(99.17%がアルミニウム)インゴットを用いた。また、比較例2として、純アルミニウム(99.17%がアルミニウム)に直径(繊維径)が約10〜20nmのカーボンナノファイバー(表面処理されていない)を乾式混合した後、焼結した複合金属材料を用いた。複合金属材料の作製に際して混合したマグネシウム粒子はアルミニウム溶湯の先端部における還元剤として作用させた。
【0115】
また、実施例1、2、3の複合金属材料におけるカーボンナノファイバーの含有量は、それぞれ0.4vol%、1.6vol%、3.2vol%である。
【0116】
(2)XPS分析による複合材料の解析
上記(c)で得られた実施例1〜3の複合材料中における炭素系材料をXPS分析した結果を表1に示す。表1において、炭素系材料における第1の炭素材料の表面に、炭素と酸素の結合が存在することが確認された場合には「表面酸化」と記載し、炭素と酸素の結合が確認されなかった場合には「無し」と記載した。また、実施例2における炭素系材料のXPSデータの概略図を図4に示す。第1の線分50はC=Oの二重結合を示し、第2の線分60はC−Oの単結合を示し、第3の線分70は炭素同士の結合を示す。
【0117】
(3)EDS分析による炭素系材料の解析
上記(d)で得られた実施例1〜3の複合金属材料をEDS分析した結果を表1に示す。表1において、炭素系材料の周囲にマグネシウムの存在が確認された場合には「Mg有り」と記載し、マグネシウムが確認されなかった場合には「無し」と記載した。また、実施例2における炭素系材料のEDSデータを図5、図6、図7に示す。図5〜7は、EDS分析した画像データであり、白黒画像では判別しにくいため、ネガポジ反転処理を行うなどした。図5における黒い部分は炭素、つまり第1の炭素材料であるカーボンナノファイバーの存在を示す。図6における黒い部分は、酸素の存在を示す。図7における黒い(色の濃い)部分は、マグネシウムの存在を示す。
【0118】
(4)圧縮耐力の測定
上記(c)で得られた実施例1〜3及び比較例2の複合金属材料、比較例1のアルミニウムについて、厚さ5mmの10×10mmの試験片を、0.01mm/minで圧縮したときの0.2%耐力(σ0.2)を測定した。圧縮耐力は、最大値、最小値及び平均値(MPa)を測定した。その結果を表1に示す。
【0119】
【表1】

【0120】
表1から、本発明の実施例1〜3によれば、以下のことが確認された。
【0121】
実施例1〜3の炭素系材料のXPS分析の結果から、炭素系材料の表面は酸化され、カーボンナノファイバーを構成する炭素に酸素が結合した構造を有することがわかった。
【0122】
実施例1〜3の複合金属材料の圧縮耐力が、比較例1、2より大きくなっていた。特に、マトリクス金属(アルミニウム)中のカーボンナノファイバー含有量が1.6vol%と同じ実施例2と比較例2とを比較すると圧縮耐力が大きく向上したことがわかる。また、比較例2の複合金属材料の圧縮耐力のばらつきがおよそ上下30%であるのに対し、実施例1〜3の複合金属材料の圧縮耐力のばらつきがおよそ上下10%であることから、全体に機械的性質のばらつきが低減された均質な複合材料が得られたことがわかった。なお、実施例1〜3及び比較例2の複合金属材料の走査型電子顕微鏡観察の結果、実施例1〜3の複合金属材料におけるカーボンナノファイバーの分散性は良好であり、比較例2におけるカーボンナノファイバーは凝集塊が多数あり分散不良であった。
【0123】
以上のことから、本発明によれば、一般に基材への分散が難しいカーボンナノファイバーが全体に分散した均質な機械的性質を有する複合金属材料が得られることがわかった。また、本発明によれば、炭素系材料とマトリクス金属であるアルミニウムとの濡れ性が向上することによって、高い機械的性質を有する複合金属材料を得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本実施の形態で用いたオープンロール法によるエラストマーと炭素材料との混練法を模式的に示す図である。
【図2】非加圧浸透法によって複合材料を製造する装置の概略構成図である。
【図3】非加圧浸透法によって複合材料を製造する装置の概略構成図である。
【図4】本実施例で得られた炭素系材料のXPSデータを示す概略図である。
【図5】本実施例で得られた複合材料のEDSデータ(炭素)を示す図である。
【図6】本実施例で得られた複合材料のEDSデータ(酸素)を示す図である。
【図7】本実施例で得られた複合材料のEDSデータ(マグネシウム)を示す図である。
【符号の説明】
【0125】
1 容器
2 減圧手段
3 注入手段
4 複合材料
5 アルミニウム塊
6 複合金属材料
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
40 第1の炭素材料
41 元素Yを有する物質
42 金属材料Z
44 マグネシウム粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーと、少なくとも第1の炭素材料と、該第1の炭素材料よりも融点が低い粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて第2の炭素材料と前記金属材料Zからなる中間複合材料を得る工程(b)と、
前記中間複合材料を、前記金属材料Zよりも融点が低い元素Yを有する物質と共に熱処理し、元素Yを有する物質を気化させる工程(c)と、
を含む、炭素系材料と、前記金属材料Zと、からなる複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(b)は、元素Xを有する物質の存在下で行なわれ、前記第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合し、
前記元素Xは、ホウ素、窒素、酸素、リン、から選ばれた少なくとも一つを含む、複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記複合エラストマーは、元素Xを有する物質を含み、
前記工程(b)の熱処理によって、前記第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合する、複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記工程(b)は、元素Xを有する物質を含む雰囲気中で行なわれ、前記第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合する、複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかにおいて、
前記元素Xは、酸素または窒素である、複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記元素Yを有する物質は、前記工程(a)において、前記エラストマーと混合される、複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記元素Yを有する物質は、前記工程(c)において、前記第2の炭素材料とともに、熱処理炉内に配置され、熱処理することで気化される、複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記金属材料Zは、アルミニウムであって、
前記元素Yを有する物質は、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つの元素Yを含む、複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記金属材料Zは、マグネシウムであって、
前記元素Yを有する物質は、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つの元素Yを含む、複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記第1の炭素材料は、カーボンブラックである、複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記第1の炭素材料は、炭素繊維である、複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記炭素繊維は、カーボンナノファイバーである、複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、複合材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、分子量が5000ないし500万である、複合材料の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択されるカーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を少なくともひとつ有する、複合材料の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、複合材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒である、複合材料の製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、天然ゴムもしくはニトリルブタジエンゴムである、複合材料の製造方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いて行われる、複合材料の製造方法。
【請求項20】
請求項19において、
前記オープンロール法は、2本のロールの表面速度比が1.05ないし3.00である、複合材料の製造方法。
【請求項21】
請求項1ないし18のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、密閉式混練法によって行われる、複合材料の製造方法。
【請求項22】
請求項1ないし18のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、多軸押出し混練法によって行われる、複合材料の製造方法。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、0ないし50℃で行われる、複合材料の製造方法。
【請求項24】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた複合材料。
【請求項25】
炭素系材料と、粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、からなる複合材料であって、
前記炭素系材料は、炭素材料の表面に、第1の結合構造と、第2の結合構造と、を有し、
前記第1の結合構造は、前記炭素材料を構成する炭素に、元素Xが結合した構造であり、
前記第2の結合構造は、元素Xに、元素Yが結合した構造であって、
前記元素Xは、ホウ素、窒素、酸素、リンから選ばれた少なくとも一つを含み、
前記元素Yは、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つを含み、
前記金属材料Zは、アルミニウムまたはマグネシウムである、複合材料。
【請求項26】
請求項25において、
前記第1の結合構造は、前記炭素材料を構成する炭素に、酸素が結合した構造であり、
前記第2の結合構造は、酸素に、マグネシウムが結合した構造である、複合材料。
【請求項27】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた前記複合材料を粉末成形する工程(d−1)を有する、複合金属材料の製造方法。
【請求項28】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた前記複合材料を鋳造する工程(d−2)を有する、複合金属材料の製造方法。
【請求項29】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた前記複合材料に溶融したマトリクス金属材料を浸透させる工程(d−3)を有し、
前記マトリクス金属材料は、前記金属材料Zと同じ材質である、複合金属材料の製造方法。
【請求項30】
請求項27ないし29のいずれかに記載の製造方法によって得られた複合金属材料。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー、少なくとも第1の炭素材料と、該第1の炭素材料よりも融点が低い粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、を混合し、かつ剪断力によって分散させて複合エラストマーを得る工程(a)と、
前記複合エラストマーを熱処理し、該複合エラストマー中に含まれるエラストマーを気化させて第2の炭素材料と前記金属材料Zからなる中間複合材料を得る工程(b)と、
前記中間複合材料を、前記金属材料Zよりも融点が低い元素Yを有する物質と共に熱処理し、元素Yを有する物質を気化させる工程(c)と、
を含む、炭素系材料と、前記金属材料Zと、からなる複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記工程(b)は、元素Xを有する物質の存在下で行なわれ、前記第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合し、
前記元素Xは、ホウ素、窒素、酸素、リン、から選ばれた少なくとも一つである、複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記複合エラストマーは、元素Xを有する物質を含み、
前記工程(b)の熱処理によって、前記第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合する、複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記工程(b)は、元素Xを有する物質を含む雰囲気中で行なわれ、前記第1の炭素材料を構成する炭素原子に該元素Xが結合する、複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれかにおいて、
前記元素Xは、酸素または窒素である、複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記元素Yを有する物質は、前記工程(a)において、前記エラストマーと混合される、複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記元素Yを有する物質は、前記工程(c)において、前記第2の炭素材料とともに、熱処理炉内に配置され、熱処理することで気化される、複合材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記金属材料Zは、アルミニウムであって、
前記元素Yは、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つである、複合材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記金属材料Zは、マグネシウムであって、
前記元素Yは、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つである、複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記第1の炭素材料は、カーボンブラックである、複合材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記第1の炭素材料は、炭素繊維である、複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記炭素繊維は、カーボンナノファイバーである、複合材料の製造方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5ないし500nmである、複合材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、分子量が5000ないし500万である、複合材料の製造方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、主鎖、側鎖および末端鎖の少なくともひとつに、二重結合、三重結合、α水素、カルボニル基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、ニトリル基、ケトン基、アミド基、エポキシ基、エステル基、ビニル基、ハロゲン基、ウレタン基、ビューレット基、アロファネート基および尿素基などの官能基から選択されるカーボンナノファイバーに対して親和性を有する不飽和結合または基を少なくともひとつ有する、複合材料の製造方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、複合材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし2000μ秒である、複合材料の製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれかにおいて、
前記エラストマーは、天然ゴムもしくはニトリルブタジエンゴムである、複合材料の製造方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、ロール間隔が0.5mm以下のオープンロール法を用いて行われる、複合材料の製造方法。
【請求項20】
請求項19において、
前記オープンロール法は、2本のロールの表面速度比が1.05ないし3.00である、複合材料の製造方法。
【請求項21】
請求項1ないし18のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、密閉式混練法によって行われる、複合材料の製造方法。
【請求項22】
請求項1ないし18のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、多軸押出し混練法によって行われる、複合材料の製造方法。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれかにおいて、
前記工程(a)は、0ないし50℃で行われる、複合材料の製造方法。
【請求項24】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた複合材料。
【請求項25】
炭素系材料と、粒子状もしくは繊維状の金属材料Zと、からなる複合材料であって、
前記炭素系材料は、炭素材料の表面に、第1の結合構造と、第2の結合構造と、を有し、
前記第1の結合構造は、前記炭素材料を構成する炭素原子に、元素Xが結合した構造であり、
前記第2の結合構造は、元素Xに、元素Yが結合した構造であって、
前記元素Xは、ホウ素、窒素、酸素、リンから選ばれた少なくとも一つであり
前記元素Yは、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、カルシウム、チタン、バナジウム、クロミウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、ジルコニウムから選ばれた少なくとも一つであり
前記金属材料Zは、アルミニウムまたはマグネシウムである、複合材料。
【請求項26】
請求項25において、
前記第1の結合構造は、前記炭素材料を構成する炭素原子に、酸素が結合した構造であり、
前記第2の結合構造は、酸素に、マグネシウムが結合した構造である、複合材料。
【請求項27】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた前記複合材料を粉末成形する工程(d−1)を有する、複合金属材料の製造方法。
【請求項28】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた前記複合材料を鋳造する工程(d−2)を有する、複合金属材料の製造方法。
【請求項29】
請求項1ないし23のいずれかに記載の製造方法によって得られた前記複合材料に溶融したマトリクス金属材料を浸透させる工程(d−3)を有し、
前記マトリクス金属材料は、前記金属材料Zと同じ材質である、複合金属材料の製造方法。
【請求項30】
請求項27ないし29のいずれかに記載の製造方法によって得られた複合金属材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−77293(P2006−77293A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262391(P2004−262391)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】